説明

フラットパネルディスプレイ用ガラス基板

【課題】R面取りが施されたガラス基板の端面部の面性状を好適に評価した上で適正化して、熱処理工程を実行する際における端面部を起点とするガラス基板の破損の発生確率を可及的に低減させる。
【解決手段】端面部にR面取りが施されたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板であって、輪郭曲線の算術平均高さをRa、輪郭曲線要素の平均長さをRSmとした場合に、R面取りが施された端面部を、RSm/Raが80以上となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板に関し、特に端面部にR面取りが施されたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)などのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板は、矩形状をなし、その端面部に仕上げ処理として面取りが施される。
【0003】
この種のガラス基板を用いてFPDを製作するに際し、当該ガラス基板に対して種々の熱処理工程が実行されるのが通例とされている。具体的には、例えばPDP用のガラス基板には、その表面に電極や誘電体等を形成するに際して、焼成や乾燥等を行うべくガラス基板を加熱及び冷却する熱処理工程が実行される。
【0004】
しかしながら、このような熱処理工程において、ガラス基板の端面部に微小クラックや微小傷が存在していると、加熱時または冷却時に発生する熱応力により微小クラック等の存在部位に応力集中が生じ、端面部を起点としてガラス基板が破損するという事態を招き得る。
【0005】
詳述すると、ガラス基板が加熱処理または冷却処理を受けると、当該ガラス基板の周縁部(端面部を含む)から熱が放熱されやすいため、ガラス基板の中央部とガラス基板の周縁部との間に温度差が生じる。そのため、この温度差に起因してガラス基板の端面に引張応力が作用する。このとき、ガラス基板の端面部に相当程度の大きさの微小クラック等が存在していると、それを引き裂くように引張応力が作用して、その微小クラック等に応力が集中するため、当該微小クラック等が拡大してガラス基板が破損するに至る。
【0006】
そのため、従来においては、この問題を緩和するために、ガラス基板の端面部にR面取りを施すようにするのが通例とされているが、この場合にもR面取りを施した後の端面部の面性状が不適正であれば、依然として端面部を起点とする破損が生じてしまう。
【0007】
そこで、例えば、下記の特許文献1,2には、R面取りが施されたガラス基板の端面部の面性状を、輪郭曲線の算術平均高さ(算術平均粗さ)Raにより評価し、これを管理することにより端面部を起点とする破損の低減を図ろうとしている。
【特許文献1】特開2003−303556号公報
【特許文献2】特開2003−308792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記の特許文献1,2に開示されているように、ガラス基板の端面部の面性状をRaのみで評価した場合には、R面取りされた端面部の凹凸のうち、その深さ方向の度合のみが管理される結果となる。そのため、この場合には、R面取りされた端面部の長手方向等に現われる凹凸の周期については何ら配慮がなされないことになる。
【0009】
しかしながら、R面取りが施された端面部に短い周期で凹凸が現われた場合には、端面部を起点とする破損に至らしめるような鋭い谷部(微小クラックや微小傷)が多く現われることになるため、この場合には、仮にRaが所期の範囲に管理されていたとしても、端面部を起点とするガラス基板の破損が起こり得る。したがって、Raのみでは、R面取りが施された端面部を起点とするガラス基板の破損を防止し得るような端面部の面性状を正確に評価することは困難となる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、R面取りが施されたガラス基板の端面部の面性状を好適に評価した上で適正化して、熱処理工程を実行する際における端面部を起点とするガラス基板の破損の発生確率を可及的に低減させることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために創案された本発明は、端面部にR面取りが施されたFPD用ガラス基板において、前記R面取りが施された端面部は、輪郭曲線の算術平均高さをRa、輪郭曲線要素の平均長さをRSmとした場合に、RSm/Raが80以上となることに特徴づけられる。ここで、輪郭曲線の算術平均高さRa、および輪郭曲線要素の平均長さRSmは、それぞれJIS B0601:2001に準拠するものとする。
【0012】
このような構成によれば、R面取りが施されたガラス基板の端面部における面性状の評価設定要素として、輪郭曲線の算術平均高さRaに加えて、輪郭曲線要素の平均長さRSmが使用されるようになる。そして、RSmは凹凸の平均周期を表すものであるので、RSmとRaとの比であるRSm/Raが小さくなるに連れて、凹凸の平均周期が短く且つその凹凸の谷部の平均深さが深くなる。すなわち、この場合には、端面部を起点とする破損に至らしめるような鋭く且つ深い谷部(微小クラックや微小傷)が多くなる。これに対して、RSm/Raが大きくなるに連れて、凹凸の平均周期が長く且つその凹凸の谷部の平均深さが浅くなるので、そのような破損に至らしめるような谷部が少なくなる。
【0013】
そして、本願発明者等は鋭意研究を重ねた結果、このRSm/RaでR面取りが施されたガラス基板の端面部を評価した場合に、その値が80以上であれば、当該端面部を起点とするガラス基板の破損の発生確率が極めて低くなることを見出した。換言すれば、RSm/Raが、上記の数値範囲内にある場合に限って、当該破損の発生確率が極めて小さくなるのであって、上記の数値範囲を逸脱すればこのような利点を得ることができない。これは、R面取りが施されたガラス基板の端面部に微小クラックや微小傷が存在し、それらに熱応力が集中するような事態となっても、端面部におけるRSm/Raが上記の数値範囲内にあれば、その微小クラック等が伸展する程度の応力集中には至らないことから、ガラス基板の破損を阻止できるものと考えられることによる。
【0014】
上記の構成において、前記R面取りが施された端面部は、RSm/Raが500以下であることが好ましい。
【0015】
すなわち、RSm/Raは、80以上の範囲でその値が大きくなればなるほど、端面部を起点とする破損を防止する観点からは好ましいものの、その値を必要以上に大きくしようとすれば、それだけ加工時間が長くなってしまう。したがって、加工時間との関係からは、RSm/Raは500以下とすることが好ましく、この範囲であればガラス基板の端面部にR面取りを施す際の加工時間を実用上問題とならない範囲に抑えることができる。換言すれば、この数値範囲を満たすようにすれば、オバーフローダウンドロー法やフロート法等の公知の手法によって短時間に大量生産されるガラス基板の端面部に対しても、その生産効率を不当に低下させることなく、適正なR面取りを施すことが可能となる。
【0016】
そして、以上の構成を備えたガラス基板は、PDP用のガラス基板として使用すれば、上述の有用な利点を的確に得ることができる
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明によれば、FPD用のガラス基板におけるR面取りが施された端面部の面性状が、RSmとRaとの比であるRSm/Raとからなる最適な評価設定要素を用いて適正化されることから、この種のパネルを製造する上で必要不可欠となる焼成工程や乾燥工程などの熱処理工程において、R面取りが施された端面部を起点とするガラス基板の破損の発生確率を確実に低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係るガラス基板について説明する。
【0019】
本発明の一実施形態に係るFPD用のガラス基板は、短辺寸法が300〜3000mm及び長辺寸法が300〜5000mmの矩形をなし、板厚が1.3〜3.0mmとされている。これは、板厚が1.3mmよりも薄いガラス基板は、例えばPDP等からなるパネルに使用した場合の強度上の問題があるためであり、板厚が3.0mmよりも厚いガラス基板は、不当な重量増を招き当該パネルの軽量化の要請に応じることができないためである。
【0020】
さらに、本実施形態に係るガラス基板には、四辺全ての端面部にR面取りが施されている。そして、このR面取りが施された端面部の面性状は、FPDの製造工程に含まれる焼成工程や乾燥工程などの熱処理工程において、端面部を起点とするガラス基板の破損の有無を左右するため、当該端面部の面性状は次のような特性を示すようになっている。すなわち、R面取りが施された端面部の面性状は、輪郭曲線の算術平均高さをRa、輪郭曲線要素の平均長さをRSmとした場合に、RSm/Raが80以上となるようになっている。このように、R面取りが施された端面部の面性状を設定すれば、その表面が、不当に深い微小クラックや微小傷のない平滑面となり、熱処理工程において破損原因にならない程度の面性状となる。なお、このような観点からは、RSm/Raが80以上となる範囲において、Raが0.5μm未満で、且つ、RSmが40μm以上であることが好ましく、この場合にはR面取りが施された端面部の面性状がより好ましい状態となって、熱処理工程における破損をより確実に防止することができる。
【0021】
一方、RSm/Raは、80以上の範囲でその値が大きくなればなるほど、端面部を起点とする破損を防止する観点からは好ましいものの、その値を必要以上に大きくしようとすればそれだけ加工時間が長くなってしまう。そこで、本実施形態に係るガラス基板のR面取りが施された端面部は、RSm/Raが500以下に抑えられている。これにより、加工時間との関係からRSm/Raの値が適正化され、端面部にR面取りを施す際の加工時間が実用上問題とならない範囲となる。
【0022】
以上のように、本実施形態に係るFPD用のガラス基板によれば、そのR面取りが施された端面部の面性状が、算術平均高さRaと平均長さRSmとの比であるRSm/Raを評価要素として適正化されることから、FPDを製造する上で必要不可欠となる焼成工程や乾燥工程などの熱処理工程において、端面部を起点としてガラス基板に割れやひび等の破損が生じる確率を確実に低減させることが可能となる。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例1〜7として、R面取りが施された端面部におけるRSm/Raが80以上の範囲内でその値を異ならせたPDP用のガラス基板をそれぞれ50枚作製し、比較例1〜2として、R面取りが施された端面部におけるRSm/Raが上記の数値範囲を逸脱した範囲内でその値を異ならせたPDP用のガラス基板をそれぞれ50枚作製した。
【0024】
以上の本発明の実施例1〜7及び比較例1〜2に係るガラス基板は、以下に示す条件で製作し且つ測定を行った。すなわち、フロート法により、長辺寸法600mm、短辺寸法500mm、板厚1.8mmのPDP用のガラス基板を、各実施例及び各比較例についてそれぞれ50枚用意し、各ガラス基板の四辺全てに対して、側面が凹曲面をなす回転砥石を相対移動させてR面取りを施した。そして、この場合に回転砥石の回転速度は、各実施例及び各比較例の全てについて同一とし、Raについては、回転砥石の側面に固着されたダイヤモンド砥粒の平均粒径を各実施例及び各比較例で異ならせることを主たる要因として調整し、RSmについては、回転砥石のガラス基板の端面に対する相対的な移動速度を異ならせて研磨時間を変えることを主たる要因として調整した。
【0025】
このようにして端面部にR面取りが施された各実施例及び各比較例に係る50枚のガラス基板のうち、それぞれの25枚のガラス基板についてはR面取りが施された端面部のRa及びRSmを、JIS B 0601:2001に準拠して測定し、その平均値を算出した。
【0026】
また、それぞれの残り25枚のガラス基板については、ガラス基板の端面部から平面部の中央側に向かって26mm離間した位置にラバーヒーターを貼り付け、この状態で20±5℃/分の昇温速度で端面部に破損が生じるまで加熱し、その破損したガラス基板の破断面の破面解析およびワイブルプロット処理を行い、そのワイブルプロットの近似直線から破損確率10%に対応した破損強度を算出した。
【0027】
詳述すると、破面解析は、ASTM C1256−93に準拠して行った。すなわち、強制的に破損させたガラス基板の破断面に観測される破壊の起点から、この破壊の起点の周囲に形成される滑らかな鏡面域とその外側に形成されるやや粗いミスト域との境界までの距離(ミラー半径r)に基づいて、破損強度σを算出することによって行った。この破損強度σは以下の式により求められる。
σ=K/r1/2[kgf/cm2]・・・・(1)
【0028】
ここで、上記の式(1)中のKは、対象物の物性で決定されるミラー定数と呼ばれるものであり、各実施例及び各比較例に係るガラス基板では220となる。
【0029】
この破面解析から求められる破損強度σの値は、同一の実施例及び同一の比較例の中でもガラス基板毎にばらつきが大きいので、その求められた複数の破損強度σをワイブルプロット処理することでガラス基板の破損強度を定量的に評価した。
【0030】
このワイブルプロット処理は、次のようにして行われる。すなわち、各実施例及び各比較例毎に、求められた複数の破損強度σを、値が小さいものから順に配列し、先頭から順にデータ番号(1,2,3・・・)を付す。そして、求められた破損強度σから求められるlnσを横軸に、破損確率F(=m/(n+1);mはデータ番号,nはデータ総数)から求められるln{ln[1/(1−F)]}を縦軸として、ワイブルプロットを行う。そして、このワイブルプロットを最小二乗法により直線近似し、破損確率10%に対応した破損強度を近似直線から逆算することにより求める。なお、このようにして求められた破損確率10%の破損強度は、実際のPDPやその他のFPDの製造工程に含まれる焼成工程や乾燥工程などの熱処理工程において端面部を起点とした破損を確実に低減する上では、50MPa以上であることが必要であり、特に65MPa以上であることが好ましい。以上の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1からも明らかなように、RSm/Raが80未満となる比較例1,2に係るPDP用のガラス基板では、破損確率10%に対応した破損強度が50MPa未満となり、PDPの製造工程における熱処理工程で端面部を起点とした破損が生じ得る。これに対して、RSm/Raが80以上となる実施例1〜7に係るPDP用のガラス基板では、破損確率10%に対応した破損強度が50MPa以上となり、PDPの製造工程における熱処理工程で端面部を起点とした破損の発生確率を可及的に低減することが可能となることが認識できる。
【0033】
この観点からは、破損確率10%に対応した破損確率が65MPa以上であることが好ましく、したがって実施例3〜7に係るガラス基板のように、RSm/Raが200以上であることが好ましい。具体的には、RSm/Raが80以上となる範囲において、RSmが40μm以上であり且つRaが0.5μm未満であることが好ましい。
【0034】
また、表1から、RSm/Raの値が大きくなるに連れて、ガラス基板の端面部のR面取りに要する加工時間が長くなることが分かる。したがって、加工時間の観点からは、RSm/Raは、500以下であることが好ましく、この範囲であれば、短時間に大量生産されるPDP用のガラス基板の生産効率を低減させることなく、ガラス基板の端面部に適正なR面取りを施すことができる。
【0035】
そして、以上の結果によれば、比較例1のように、RSmが比較的大きな値を示してもRaの値が大きければ、RSmとRaとの関係が不適正となり、十分な破損強度が得られないことが認識できる。これと同様に、比較例2のように、Raが比較的小さな値を示してもRSmの値が小さければ、RSmとRaとの関係が不適正になり、十分な破損強度が得られないことが認識できる。したがって、RSmとRaとの相対的なバランスがガラス基板の端面部を起点とした破損の発生確率を低減する上では重要となることが認識でき、その意味でRSm/Raをガラス基板の端面部の評価設定要素として選択することは非常に有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面部にR面取りが施されたフラットパネルディスプレイ用ガラス基板において、
前記R面取りが施された端面部は、輪郭曲線の算術平均高さをRa、輪郭曲線要素の平均長さをRSmとした場合に、RSm/Raが80以上となることを特徴とするフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項2】
前記R面取りが施された端面部は、RSm/Raが500以下である請求項1に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。
【請求項3】
プラズマディスプレイの基板に用いられる請求項1又は2に記載のフラットパネルディスプレイ用ガラス基板。

【公開番号】特開2009−157092(P2009−157092A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334987(P2007−334987)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】