説明

フルオレン骨格を有するケイ素化合物およびその重合性組成物

【課題】高屈折率などの優れた特性を有し、ゾルゲル反応により厚膜を形成しても、クラックを生成しない新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物を提供する。
【解決手段】下記式で表される化合物。


{式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Yは基−(XR−SiR[式中、Xは硫黄原子又はイミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、R、RおよびRは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又は炭化水素基を示し、pは整数を示す。ただし、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORである。]を示し、m、n1、n2は整数である。}

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物、その製造方法、このケイ素化合物を含む重合組成物、およびこの重合性組成物が硬化した硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を利用した光学材料において、様々な特性、例えば、高屈折率、低複屈折率、高透過率、耐水性、耐衝撃性などが要求される。例えば、屈折率は、材料に使用される樹脂に依存することが知られているが、高屈折率を有する典型的な樹脂としては、フルオレン骨格を有するポリマー(フルオレンポリマー)、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートなどが挙げられる。中でもフルオレンモノマーをモノマーとするフルオレンポリマーは、高い屈折率を有するとともに、複屈折率も低く、透明度も高いため、理想的な光学材料といえる。
【0003】
こうした高い性能をフルオレンポリマーに発現するために、フルオレンポリマー原料であるフルオレンモノマーの開発が精力的に行われている。例えば、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格などの9,9−ビスアリールフルオレン骨格)を有する化合物は、屈折率、耐熱性などにおいて優れた機能を有することが知られている。そして、このようなフルオレン骨格の優れた機能を樹脂に発現する方法としては、反応性基(ヒドロキシル基、アミノ基など)を有するフルオレン化合物、例えば、ビスフェノールフルオレン(BPF)、ビスクレゾールフルオレン(BCF)、ビスアミノフェニルフルオレン(BAFL)、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)などを樹脂の構成成分として利用し、樹脂の骨格構造の一部にフルオレン骨格を導入する方法が一般的である。
【0004】
また、フルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格)を有する化合物(モノマー)やフルオレンポリマーを用いて成膜化する技術も知られている。
【0005】
例えば、特開2005−314692号公報(特許文献1)には、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂[例えば、9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類のジグリシジルエーテル、9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類のC2−4アルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルなど]、アルコキシシラン類および光酸発生剤で構成された光重合性樹脂組成物を、基板上に塗布して塗膜を形成したのち、光照射し、前記光重合性樹脂組成物の硬化物(硬化膜)を製造する方法が開示されている。この文献には、前記光重合性組成物が、さらに、チタンアルコキシドなどの非ケイ素系アルコキシドを含んでいてもよいことも記載されている。
【0006】
また、特開2007−91870号公報(特許文献2)には、フルオレン骨格を有する多官能性(メタ)アクリレート、重合性基[例えば、(メタ)アクリロイル基など]を有する加水分解縮合性有機ケイ素化合物、および光酸発生剤で構成された重合性組成物を、基板上に塗布して塗膜を形成したのち、光照射し、前記重合性樹脂組成物の硬化物(硬化膜)を製造する方法が開示されている。この文献には、前記重合性組成物が、さらに、チタンアルコキシドなどの非ケイ素系アルコキシドを含んでいてもよいことも記載されている。
【0007】
これらの文献に記載の方法では、高耐熱性、高屈折率、高硬度などの優れた特性を有する硬化膜を得ることができる。しかし、得られる膜は、厚みを大きくすると、クラックが生じたり、表面が荒れ、表面平滑性が損なわれるなど十分でない点もあった。
【0008】
こうした背景から、高屈折率などの優れた特性を有する厚膜を形成可能な新規なフルオレンモノマーが求められている。
【特許文献1】特開2005−314692号公報(特許請求の範囲、段落番号[0057]〜[0059])
【特許文献2】特開2007−91870号公報(特許請求の範囲、段落番号[0083]〜[0084])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、高屈折率、高透明性などの優れた特性を有する新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物、その製造方法および前記ケイ素化合物を含む重合性組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、比較的大きな厚みの硬化膜を形成しても、クラックを生成しない新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物、その製造方法および前記ケイ素化合物を含む重合性組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、高屈折率などの優れた特性を有し、厚膜であっても、表面にクラックのない表面平滑性に優れた硬化膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビスアリールフルオレン骨格(9,9−ビスフェニルフルオレン骨格など)と、このフルオレン骨格のアリール基に特定の連結基を介して結合し、ケイ素原子に直接結合した反応性基(アルコキシ基など)を有する新規なフルオレン化合物が、高屈折率、高透明性などの優れた特性を有し、透明性や柔軟性に優れた膜を形成するのに有用であること、さらにはこのフルオレン化合物と、加水分解縮合性有機金属化合物とを用いると、厚膜であっても、クラックを生成することなく高屈折率などの優れた特性を有する硬化膜を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明のフルオレン骨格を有するケイ素化合物は、下記式(1)
【0014】
【化1】

【0015】
{式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Yは基−(XR−SiR[式中、Xは硫黄原子又はイミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、R、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、基−OR(式中、Rは、炭化水素基を示す)、又は炭化水素基を示し、pは1以上の整数を示す。ただし、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORである。]を示し、mは0以上の整数、n1は1以上の整数、n2は0以上の整数である。}
で表される。
【0016】
前記式(1)において、環Zは、例えば、ベンゼン環又はナフタレン環であってもよく、Rは、例えば、C2−4アルキレン基であってもよい、mは1〜4程度であってもよく、RはC2−4アルキレン基であってもよい。また、前記式(1)において、基−SiRは、アルコキシシリル基、例えば、ジC1−4アルキルC1−4アルコキシシリル基、C1−4アルキルジC1−4アルコキシシリル基、又はトリC1−4アルコキシシリル基であってもよい。
【0017】
また、前記式(1)において、Xは硫黄原子であってもよい。このようなXが硫黄原子である化合物は、高い屈折率を有しており、重合性組成物やその硬化物に高屈折率を付与するという点で好ましい。このようはXが硫黄原子である化合物は、代表的には、前記式(1)において、Xが硫黄原子であり、pが1であり、n1が1〜2程度であり、n2が1〜2程度であってもよい。
【0018】
本発明には、下記式(2)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Z、R、R、m、n1、n2は前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
Si−(RX)−H (3)
(式中、R、R、R、R、Xおよびpは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、前記ケイ素化合物を製造する方法も含まれる。
【0021】
この方法では、前記式(3)で表される化合物や反応型に応じて適宜触媒を使用でき、例えば、塩基触媒の存在下、式(2)で表される化合物と、Xが硫黄原子である式(3)で表される化合物とを反応させてもよい。この反応系では、マイケル付加型の反応により、前記式(2)で表される化合物に、前記式(3)で表される化合物が付加し、前記ケイ素化合物が得られる。
【0022】
本発明には、前記ケイ素化合物で構成された重合性組成物も含まれる。このような重合性組成物は、例えば、前記ケイ素化合物と、加水分解縮合性有機チタン化合物および加水分解縮合性有機ジルコニウム化合物から選択された少なくとも1種の加水分解縮合性有機非ケイ素系金属化合物とで構成してもよい。このような重合性組成物では、高屈折率の硬化物を得ることができる。前記重合性組成物では、特に、加水分解縮合性有機非ケイ素系金属化合物が、少なくともチタンアルコキシド類のオリゴマーで構成されていてもよい。
【0023】
また、前記重合性組成物において、前記加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物の割合は、前記ケイ素化合物1重量部に対して、0.3〜5重量部程度であってもよい。
【0024】
前記重合性組成物は、さらに、光酸発生剤で構成された酸触媒を含んでいてもよい。このような光酸発生剤で重合性組成物を構成すると、光照射により硬化(加水分解縮合)させることができ、ハンドリング性の点で有利である。
【0025】
さらに、本発明には、前記重合性組成物が硬化した硬化物も含まれる。このような硬化物は、特に、厚み300nm以上の硬化膜であってもよい。本発明では、このような厚膜であっても、クラックのない硬化膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物は、9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格を有しており、高屈折率、高透明性などの優れた特性を有している。特に、本発明のケイ素化合物(又はその重合性組成物)は、加水分解縮合に供し、比較的大きな厚みの硬化膜を形成しても、クラックを生成しない。そのため、本発明では、高屈折率などの優れた特性を有し、表面にクラックのない表面平滑性に優れた厚膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のフルオレン骨格を有するケイ素化合物は、下記式(1)で表される。
【0028】
【化3】

【0029】
{式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Yは基−(XR−SiR[式中、Xは硫黄原子又はイミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、R、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、基−OR(式中、Rは、炭化水素基を示す)、又は炭化水素基を示し、pは1以上の整数を示す。ただし、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORである。]を示し、mは0以上の整数、n1は1以上の整数、n2は0以上の整数である。}
式(1)において、フルオレン骨格は、フルオレンであってもよく、置換基(詳細にはフルオレンの9位以外に置換基)を有するフルオレンであってもよい。置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などの非反応性置換基が挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、置換基の置換数は、0〜4の整数であればよく、好ましくは0〜2、さらに好ましくは0であってもよい。置換数が複数(2以上)である場合、置換基は互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する置換基は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する置換基の結合位置(置換位置)は、特に限定されない。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0030】
また、前記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、縮合多環式芳香族炭化水素環(詳細には、少なくともベンゼン環を含む縮合多環式炭化水素環)などが挙げられる。縮合多環式芳香族炭化水素環に対応する縮合多環式芳香族炭化水素としては、縮合二環式炭化水素(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素)、縮合三環式炭化水素(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素などが挙げられる。好ましい縮合多環式芳香族炭化水素としては、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられ、特にナフタレンが好ましい。なお、2つの環Zは同一の又は異なる環であってもよく、通常、同一の環であってもよい。
【0031】
好ましい環Zには、ベンゼン環およびナフタレン環(特にベンゼン環)が含まれる。
【0032】
環Zは、置換基を有していてもよい。置換基としては、通常、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基(置換ヒドロキシル基);アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基(置換メルカプト基);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ヒドロキシル基;メルカプト基; カルボキシル基;ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基[例えば、ヒドロキシアルコキシ基(例えば、2−ヒドロキシエトキシ基などのヒドロキシC2−10アルコキシ基、好ましくはヒドロキシC2−6アルコキシ基、さらに好ましくはヒドロキシC2−4アルコキシ基)、ヒドロキシポリアルコキシ基(例えば、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ基などのヒドロキシジ乃至テトラC2−10アルコキシ基、好ましくはヒドロキシジ乃至テトラC2−4アルコキシ基など)など];メチロール基;ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子など);ニトロ基;シアノ基;アミノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0033】
これらのうち、好ましい置換基としては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などの非反応性置換基が挙げられる。特に、環Zに置換する置換基は、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などの炭化水素基であってもよい。
【0034】
なお、同一の環Zにおいて、置換基の置換数が複数(2以上)である場合、置換基は互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つの環Zにおいて、置換基は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、環Zに置換する置換基の好ましい置換数は、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、1〜3)、さらに好ましくは0〜2、特に0〜1(例えば、0)であってもよい。なお、複数の環Zにおいて、置換基の置換数は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0035】
前記式(1)において基Rで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2−プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2−ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC1−10アルキレン基、好ましくはC2−6アルキレン基、さらに好ましくはC2−4アルキレン基、特にC2−3アルキレン基が挙げられる。なお、mが2以上であるとき、アルキレン基は異なるアルキレン基で構成されていてもよく、通常、同一のアルキレン基で構成されていてもよい。また、2つの芳香族炭化水素環において、基Rは同一であっても、異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0036】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、0〜12(例えば、1〜12)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8、好ましくは0〜4、さらに好ましくは0〜2、特に1〜2であってもよい。なお、置換数mは、異なる環Zに対して、同一であっても、異なっていてもよい。
【0037】
前記式(1)の基Yにおいて、Xは硫黄原子(−S−)又はイミノ基(−NH−)である。特に、屈折率を向上させるという点では、Xが硫黄原子である前記式(1)で表される化合物が有利である。また、基Yにおいて、Rはアルキレン基である。アルキレン基としては、前記基Rで例示の基、例えば、エチレン基、トリメチレン基(1,3−プロパンジイル基)、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基、好ましくはC2−4アルキレン基、さらに好ましくはC2−3アルキレン基などが挙げられる。また、基Yにおいて、基−XRの繰り返し数pは1以上であればよく、例えば、1〜10、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2であってもよい。なお、基Xが硫黄原子であるとき、pは1である場合が多い。
【0038】
また、前記式(1)の基Yにおいて、R、RおよびRは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、基−OR(式中、Rは、炭化水素基を示す)、又は炭化水素基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。これらのハロゲン原子のうち、塩素原子又は臭素原子が好ましく、特に塩素原子が好ましい。
【0039】
また、基−ORにおいて、炭化水素基Rとしては、例えば、飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−6アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基、さらに好ましくはC1−2アルキル基など)など]、不飽和脂肪族炭化水素基[例えば、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基などのC2−6アルケニル基、好ましくはC2−4アルケニル基など)など]、芳香族炭化水素基[例えば、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基など)など]などが挙げられる。これらの炭化水素基Rのうち、アルキル基などが好ましく、特に低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのC1−4アルキル基、特にC1−2アルキル基)が好ましい。
【0040】
また、R、RおよびRにおいて、炭化水素基としては、上記と同様の炭化水素基などが挙げられる。これらの炭化水素基のうち、アルキル基、アリール基などが好ましく、特に、アルキル基(例えば、メチル基などのC1−4アルキル基など)などが好ましい。
【0041】
なお、前記のように、R、RおよびRのうち、少なくとも1つは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORである。このような基は、ケイ素原子に直接結合し、前記式(1)で表される化合物に重合性(加水分解縮合性)又は反応性を付与する点で重要である。これらのうち、R、RおよびRの少なくとも1つは、塩素原子、アルコキシ基(すなわち、Rがアルキル基である基、例えば、メトキシ基、エトキシ基などのC1−4アルコキシ基など)、又はアリールオキシ基(すなわち、Rがアリール基である基、例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)であるのが好ましく、特にアルコキシ基(例えば、C1−4アルコキシ基、好ましくはC1−2アルコキシ基)であるのが好ましい。
【0042】
前記式(1)において、代表的な基−SiRとしては、例えば、ジアルキルアルコキシシリル基(例えば、ジメチルメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基などのジC1−4アルキル−C1−4アルコキシシリル基)、ジアリールアルコキシシリル基(例えば、ジフェニルメトキシシリル基、ジフェニルエトキシシリル基などのジC6−10アリール−C1−4アルコキシシリル基)、アルキルアリールアルコキシシリル基(例えば、メチルフェニルメトキシシリル基などのC1−4アルキル−C6−10アリール−C1−4アルコキシシリル基)などのR、RおよびRのうち1つが、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORであるシリル基;アルキルジアルコキシシリル基(例えば、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基などのC1−4アルキル−ジC1−4アルコキシシリル基)、アリールジアルコキシシリル基(例えば、フェニルジメトキシシリル基、フェニルジエトキシシリル基などのC6−10アリール−ジC1−4アルコキシシリル基)などのR、RおよびRのうち2つが、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORであるシリル基;トリアルコキシシリル基(例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメシリル基、エチルジエトキシシリル基などのトリC1−4アルコキシシリル基)、ジアルコキシアリールオキシシリル基(例えば、ジメトキシフェノキシシリル基などのジC1−4アルコキシ−C6−10アリールオキシシリル基)、トリアリールオキシシリル基(例えば、トリフェノキシシリル基などのトリC6−10アリールオキシシリル基)、トリハロシリル基(例えば、トリクロロシリル基など)などのR、RおよびRの全てが、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORであるシリル基などが含まれる。
【0043】
これらのなかでも、R、RおよびRのうち1つがアルコキシ基であるシリル基、例えば、ジアルキルアルコキシシリル基(例えば、ジC1−4アルキル−C1−4アルコキシシリル基、特にジC1−4アルキル−C1−2アルコキシシリル基)、アルキルジアルコキシシリル基(例えば、C1−4アルキル−ジC1−4アルコキシシリル基、特にC1−4アルキル−ジC1−2アルコキシシリル基)、トリアルコキシシリル基(例えば、トリC1−4アルコキシシリル基、特にトリC1−2アルコキシシリル基)が好ましい。
【0044】
また、前記式(1)において、n1は1以上であればよく、例えば、1〜8(例えば、1〜6)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。また、n2は0以上であればよく、例えば、0〜8(例えば、0〜6)、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。n1およびn2は同一であっても、異なっていてもよい。通常、n1およびn2は同一[例えば、1以上(例えば、1〜2)]であってもよい。また、n1およびn2の合計は、例えば、1〜15(例えば、1〜12)、好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜8(例えば、2〜6)、特に2〜4(例えば、2)であってもよい。
【0045】
上記のような本発明のケイ素化合物は、アルコキシシリル基などの重合性(又は縮合性)のケイ素含有基を有しているとともに、このケイ素含有基と9,9−ビスアリールフルオレン骨格とが、エチレン基又はプロピレン基を含む特定の連結基で連結された構造を有しているためか、比較的柔軟性が高く、加水分解処理に供しても、硬化収縮を抑制できる。このような硬化収縮は、後述するように、重合性組成物において組み合わせる加水分解縮合性有機金属化合物の種類にも関係するようである。
【0046】
(製造方法)
本発明のケイ素化合物は、特に制限されず、9,9−ビスアリールフルオレン骨格に導入できる限り特に限定されないが、通常、下記式(2)で表される化合物[式(1)において、基Yを除く骨格に対応する化合物]と、下記式(3)で表される化合物(前記式(1)において、基−Yに対応する化合物)とを反応させることにより製造できる。すなわち、下記式(2)で表される化合物に、下記式(3)で表される化合物を付加(特に、マイケル付加型の反応により付加)することにより、前記式(1)で表される化合物を効率よく得ることができる。このような方法は、簡便であり、また、原料としてのケイ素化合物なども入手しやすい場合が多く、有利に本発明のケイ素化合物を製造する方法である。
【0047】
【化4】

【0048】
(式中、Z、R、R、m、n1、n2は前記と同じ。)
Si−(RX)−H (3)
(式中、R、R、R、R、Xおよびpは前記と同じ。)
前記式(2)において、Z、R、R、m、n1、n2は前記と同じであり、好ましい態様もまた前記と同じである。
【0049】
代表的な前記式(2)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアリール)フルオレン類、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類が含まれる。
【0050】
9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ−モノ又はジC1−4アルキルフェニル)フルオレン]、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ−アリールフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ−モノ又はジC6−10アリールフェニル)フルオレン]、9,9−ビス(ジ乃至テトラ(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(3,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレンなど]などの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシナフチル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(6−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなど]などの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0051】
また、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン類としては、前記9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアリール)フルオレン類に対応し、前記式(2)においてmが1以上である化合物、例えば、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシジ乃至テトラアルコキシフェニル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{4−[2−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシジC2−4アルコキシフェニル)フルオレン}などの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシフェニル)フルオレン類;9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス[6−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}、9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシジ乃至テトラアルコキシナフチル)フルオレン{例えば、9,9−ビス{6−[2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ]−2−ナフチル}フルオレンなどの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシジC2−4アルコキシナフチル)フルオレン}などの9,9−ビス((メタ)アクリロイルオキシ(ポリ)アルコキシナフチル)フルオレン類などが含まれる。
【0052】
また、前記式(3)において、R、R、R、R、Xおよびpは前記と同じであり、好ましい態様もまた前記と同じである。
【0053】
代表的な前記式(3)で表される化合物としては、例えば、メルカプト基を有するモノ乃至トリアルコキシシラン類[例えば、メルカプトアルキルアルキルジアルコキシシラン(例えば、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプトC2−4アルキルC1−4アルキルジC1−4アルコキシシラン)、メルカプトアルキルトリアルコキシシラン(例えば、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン)などのメルカプトアルキルモノ乃至トリアルコキシシラン]などのメルカプト基を有するアルコキシシラン類;アミノ基を有するモノ乃至トリアルコキシシラン類{例えば、アミノアルキルアルキルジアルコキシシラン(例えば、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシランなどのアミノC2−4アルキルC1−4アルキルジC1−4アルコキシシラン)、アミノアルキルトリアルコキシシラン(例えば、2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン)などのアミノアルキルモノ乃至トリアルコキシシラン;(アミノアルキルアミノ)アルキル−アルキルジアルコキシシラン[例えば、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシランなどの(アミノC2−4アルキルアミノ)C1−4アルキル−C1−4アルキルジC1−4アルコキシシランなど]、(アミノアルキルアミノ)アルキル−トリアルコキシシラン[例えば、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシランなどのN−(アミノC2−4アルキル)アミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなど]など}などのアミノ基を有するアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0054】
反応において、前記式(3)で表される化合物の使用割合は、前記式(1)におけるn1およびn2の数に応じて適宜選択でき、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、1モル以上(例えば、1〜20モル)、好ましくは1.2〜15モル(例えば、1.5〜10モル)、さらに好ましくは2〜8モル(例えば、2.2〜5モル)程度であってもよい。特に、前記式(1)においてn1およびn2が1である化合物を得る場合には、前記式(3)で表される化合物の使用割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、2モル以上(例えば、2〜20モル)、好ましくは2.1〜15モル(例えば、2.2〜10モル)、さらに好ましくは2.3〜5モル程度であってもよい。
【0055】
なお、反応は、溶媒中で行ってもよい。溶媒としては、前記式(2)で表される化合物および前記式(3)で表される化合物に対して不活性な又は非反応性の溶媒であれば特に限定されず、例えば、エーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテルなどのジアルキルエーテル、1,4−ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類)、ニトリル類(アセトニトリルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0056】
また、反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、前記式(3)で表される化合物の官能基の種類(メルカプト基又はアミノ基)、さらには前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物との反応型の種類などに応じて適宜選択できる。例えば、前記式(3)で表される化合物のうち、Xが硫黄原子である化合物(メルカプト基を有する化合物)を用い、前記式(2)で表される化合物にマイケル付加型の反応により付加させる場合、触媒としては、第3級アミン類[例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン、ベンジルジメチルアミンなどの鎖状第3級アミン;ピリジン、メチルピリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミンなどの環状第3級アミンなど]などの塩基触媒を使用してもよい。これらの触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0057】
触媒の使用割合もまた、反応型などに応じて適宜選択できるが、例えば、前記式(3)で表される化合物1モルに対して、0.0001〜2モル、好ましくは0.0005〜1モル、さらに好ましくは0.001〜0.5モル、特に0.01〜0.1モル程度であってもよい。
【0058】
反応は、冷却下又は常温下で行ってもよく、加温下(例えば、40〜150℃、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは60〜100℃程度)で行ってもよい。なお、反応は、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧、加圧下又は減圧下で行ってもよい。
【0059】
このようにして前記式(1)で表される化合物が得られる。反応生成物(前記式(1)で表される化合物)は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、反応混合物から分離精製してもよい。
【0060】
(用途)
本発明のケイ素化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格およびケイ素骨格を有し、高耐熱性、高透明性、高屈折率などの優れた特性を有しているため、種々の用途に適用できる。例えば、本発明のケイ素化合物は、ケイ素原子に結合した重合性基(加水分解縮合性基)を有し、ポリマー化できるため、樹脂成分として利用することができる。
【0061】
特に、本発明のケイ素化合物は、重合性基(加水分解縮合性基)を有しているため、重合性組成物を構成することができる。以下に重合性組成物について詳述する。
【0062】
(重合性組成物)
重合性組成物において、重合成分(加水分解縮合性成分)は、前記ケイ素化合物のみで構成してもよく、前記ケイ素化合物と、加水分解縮合性有機金属化合物(詳細には、前記ケイ素化合物の範疇に属さない加水分解縮合性有機金属化合物、他の加水分解縮合性有機金属化合物)とで構成してもよい。
【0063】
加水分解縮合性有機金属化合物としては、加水分解縮合性有機ケイ素化合物{例えば、ビニルジメチルエトキシシランなどのモノアルコキシシラン類;ジアルキルジアルコキシシラン(例えば、ジメチルジメトキシシランなどのジC1−4アルキルジC1−4アルコキシシランなど)、官能基[エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ハロゲン原子(塩素原子など)、重合性不飽和基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基)など]を有するジアルコキシシラン{例えば、3−グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランなど)などのジアルコキシシラン類;トリアルコキシシラン(例えば、トリメトキシシランなどのトリC1−4アルコキシシランなど)、アルキルトリアルコキシシラン(例えば、メチルトリメトキシシランなどのC1−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなど)、アリールトリアルコキシシラン(例えば、フェニルトリメトキシシランなど)、官能基[エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ハロゲン原子(塩素原子など)、重合性不飽和基(例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基)など]を有するトリアルコキシシラン{例えば、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなど)などのトリアルコキシシラン類;テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラC1−4アルコキシシランなど)などのテトラアルコキシシラン類;これらのモノ乃至テトラアルコキシシラン類のオリゴマー(又は部分縮合物)など}、加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物などが挙げられる。これらの加水分解縮合性有機金属化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0064】
重合性組成物(又はその硬化物)の特性を改善又は向上させる場合には、加水分解縮合性有機金属化合物を、少なくとも加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物で構成するのが好ましい。例えば、重合性組成物(又はその硬化物)の屈折率をさらに改善又は向上させる場合には、加水分解縮合性有機金属化合物を、加水分解縮合性有機チタン化合物、加水分解縮合性有機ジルコニウム化合物など(特に、加水分解縮合性有機チタン化合物)で少なくとも構成してもよい。
【0065】
加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物(以下、単に非ケイ素系金属化合物ということがある)としては、例えば、非ケイ素系金属アルコキシド又はその部分縮合物などが挙げられる。非ケイ素系金属アルコキシドとしては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、および亜鉛から選択された非ケイ素系金属の金属アルコキシド、例えば、下記式(4)で表される金属アルコキシドなどが挙げられる。
M(OR11(R12 (4)
[式中、Mはチタン、ジルコニウム、アルミニウム又は亜鉛を表す。R11は、アルキル基又は基−[(R13O)−R14](式中、R13は、アルキレン基であり、R14はアルキル基であり、sは1以上の整数を示す)、R12は、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、qは1以上の整数、rは0又は1以上の整数を表す。]
前記式(4)において、基R11(および基R14)で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのC1−18アルキル基、好ましくはC1−10アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基)などが例示できる。基R12で表されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが例示できる。また、基−O−[(R13O)−R14]で表されるポリアルコキシ基において、基R13で表されるアルキレン基としては、限定されないが、例えば、C2−4アルキレン基(エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基など)などが例示でき、特に、C2−3アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基)が好ましい。アルキレンオキシ(R13O)単位の付加数sは、1以上であればよく、例えば、1〜4、好ましくは1〜2、さらに好ましくは1であってもよい。好ましいポリアルコキシ基には、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基などのC1−4アルコキシC2−4アルコキシ基(特に、C1−2アルコキシエトキシ基)などが含まれる。
【0066】
また、好ましい置換数qは、金属原子Mの種類に応じて、例えば、2〜4程度である。なお、置換数qが複数である場合、複数の基R11は、同一又は異なっていてもよい。
【0067】
基R12で表される炭化水素基としては、前記と同様の炭化水素基、例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基など)、アリール基(例えば、C6−10アリール基など)などが含まれる。また、基R12で表される炭化水素基は、置換基{例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子など、特に、塩素原子)、アミノ基又はN−置換アミノ基[例えば、アミノアルキルアミノ基(2−アミノエチルアミノ基などのアミノC2−4アルキルアミノ基など)、アルケニルアミノ基(アリルアミノ基などのC2−4アルケニルアミノ基など)、アルケニルアミノアルキル基(アリルアミノプロピル基など)など]、メルカプト基(又は置換メルカプト基)、エポキシ基含有基[エポキシシクロアルキル基(3,4−エポキシシクロヘキシル基などのエポキシC3−8シクロヘキシル基、好ましくはエポキシC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはエポキシC5−6シクロアルキル基)、グリシジルオキシ基など]、(メタ)アクリロイルオキシ基など}を有していてもよい。これらの置換基は単独で又は2種以上組み合わせて置換していてもよい。なお、好ましい置換数rは、0〜2である。また、置換数rが複数である場合、複数の基R12は、同一又は異なっていてもよい。
【0068】
代表的な非ケイ素系金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド類[例えば、トリアルコキシアルミニウム(トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリプロポキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム、トリs−ブトキシアルミニウム、トリt−ブトキシアルミニウムなどのトリC1−4アルコキシアルミニウムなど)など]、チタンアルコキシド類[例えば、ジアルキルジアルコキシチタン(ジエチルジエトキシチタンなどのジC1−4アルキルジC1−4アルコキシチタン)などのジアルコキシチタン;トリアルコキシチタン(例えば、トリメトキシチタンなどのトリC1−4アルコキシチタン)、アルキルトリアルコキシチタン(例えば、メチルトリメトキシチタン、エチルトリメトキシチタンなどのアルキルトリC1−4アルコキシチタン)、アリールトリアルコキシチタン(例えば、フェニルトリメトキシチタンなどのアリールトリC1−4アルコキシチタン)などのトリアルコキシチタン;テトラアルコキシチタン(例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラt−ブトキシチタン、テトラノニルオキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラキス(メトキシプロポキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、テトライソステアリルオキシチタンなどのテトラC1−18アルコキシチタン、好ましくはテトラC1−10アルコキシチタン、さらに好ましくテトラC1−6アルコキシチタンなど)など]、ジルコニウムアルコキシド類[例えば、テトラアルコキシジルコニウム(例えば、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトライソブトキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラt−ブトキシジルコニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)ジルコニウム、テトラキス(2−メチル−2−ブトキシ)ジルコニウムなどのテトラC1−18アルコキシジルコニウム、好ましくはテトラC1−10アルコキシジルコニウム、さらに好ましくはテトラC1−6アルコキシジルコニウムなど)など]、亜鉛アルコキシド類(例えば、ビスメトキシエトキシ亜鉛など)などが挙げられる。
【0069】
なお、非ケイ素系金属アルコキシドは、錯体(金属錯体)を形成していていもよい。錯体において、配位子(又は配位子を形成する化合物)としては、特に制限されないが、例えば、有機化合物[キレート形成性有機化合物(例えば、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのβ−ジケトン構造を有する化合物など)など]などが挙げられる。
【0070】
また、非ケイ素系金属アルコキシドの部分縮合物(又はオリゴマー)としては、前記式(4)で表される金属アルコキシド(例えば、テトラアルコキシチタンなど)のオリゴマー(又は縮合物)などが挙げられる。このようなオリゴマーは、単一の非ケイ素系金属アルコキシドのオリゴマーであってもよく、複数の非ケイ素系金属アルコキシドの縮合物(例えば、トリアルコキシチタンとテトラアルコキシチタンとのオリゴマー、異種のテトラアルコキシチタンのオリゴマーなど)であってもよい。
【0071】
前記オリゴマーの数平均重合度は、例えば、2〜10、好ましくは2〜8、さらに好ましくは3〜6程度であってもよい。なお、前記オリゴマーは、通常、鎖状(又は直鎖状)の縮合物(又は部分縮合物)であってもよい。
【0072】
代表的なオリゴマーとしては、3以上のアルコキシ基を有する非ケイ素系金属アルコキシド(例えば、トリアルコキシチタン、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシジルコニウムなど)のオリゴマー(部分縮合物)などが挙げられる。例えば、テトラアルコキシチタンのオリゴマーには、下記式(5)で表される直鎖状のアルコキシチタンオリゴマーなどが含まれる。
【0073】
【化5】

【0074】
(式中、tは2以上の整数を示し、R11は、前記と同じ。)
上記式(5)において、基R11は前記と同じである。好ましい基R11には、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、などのC1−10アルキル基、好ましくはC1−4アルキル基)が含まれる。なお、前記のように、複数の基R11は、同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。また、tは、2以上であればよく、例えば、2〜15、好ましくは2〜10、さらに好ましくは3〜6程度であってもよい。
【0075】
好ましい加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物は、前記のように、屈折率を大きくするという観点からは、チタンアルコキシド類、ジルコニウムアルコキシド類、これらのオリゴマー(特に、チタンアルコキシド類又はそのオリゴマー)などが好ましい。特に、反応性の点では、チタンアルコキシド類のオリゴマーが好ましい。また、比較的大きな炭化水素基を有するチタンアルコキシド類(例えば、テトラC2−10アルコキシチタン、好ましくはテトラC3−6アルコキシチタン)およびそのオリゴマーも好ましい。
【0076】
加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0077】
重合性組成物において、加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物(例えば、加水分解縮合性有機チタン化合物)の割合は、例えば、前記式(1)で表される化合物(又は前記ケイ素化合物)1重量部に対して、0.01〜20重量部(例えば、0.05〜10重量部)、好ましくは0.1〜8重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部、特に0.5〜4重量部(例えば、0.6〜3.5重量部)程度であってもよい。
【0078】
また、加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物(例えば、加水分解縮合性有機チタン化合物)の割合は、例えば、前記式(1)で表される化合物のケイ素原子1モルに対して、金属原子(例えば、チタン原子)換算で、0.01〜20モル(例えば、0.05〜10モル)、好ましくは0.1〜8モル、さらに好ましくは0.3〜5モル、特に0.5〜4モル(例えば、0.6〜3.5モル)程度であってもよい。
【0079】
前記重合性組成物は、前記ケイ素化合物(および加水分解縮合性有機金属化合物)のゾルゲル反応のため、さらに、酸触媒を含んでいてもよい。酸触媒としては、無機酸(例えば、硫酸、塩化水素、塩酸、リン酸など)、有機酸[スルホン酸(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸など)など]、固体酸などが挙げられる。なお、このような酸触媒は、前記ケイ素化合物(および加水分解縮合性有機金属化合物)との混合により、ゾルゲル反応が進行するため、使用直前(硬化直前)に混合し、重合性組成物を構成してもよい。
【0080】
また、酸触媒には、光酸発生剤も含まれる。このような光酸発生剤は、非露光下では酸を発生しないため、使用前に重合性組成物を構成してもゾルゲル反応を進行させることがなく、ハンドリング性の点で有利である。光酸発生剤としては、光の作用により酸を発生する化合物(成分)であれば特に限定されず、慣用の化合物を用いることができ、例えば、オニウム塩、メタロセン錯体などを好適に使用できる。オニウム塩としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩などが例示でき、これらの対イオンとしては、CFSO、BF、B(C、PF、AsFおよびSbFなどのアニオンが用いられる。
【0081】
代表的な光酸発生剤としては、スルホニウム塩{例えば、トリアリールスルホニウム塩[トリフェニルスルホニウムトリフレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートなどのトリフェニルスルホニウム塩など]、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロホスフェート、(4−メトキシフェニル)ジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート)など}、ジアゾニウム塩(4−クロロベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェートなど)、ヨードニウム塩{例えば、ビス(アリール)ヨードニウム塩[例えば、ビス(4−t−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなど]、アルコキシカルボニルアルコキシアリール−トリアルキルアリールヨードニウム塩[例えば、4−[(1−エトキシカルボニル−エトキシ)フェニル]−(2,4,6−トリメチルフェニル)−ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートなど]、ビス(アルコキシアリール)ヨードニウム塩[例えば、(4−メトキシフェニル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネートなどのビス(アルコキシフェニル)ヨードニウム塩など]など}、ホスホニウム塩(ベンジルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネートなど)、セレニウム塩(トリフェニルセレニウムヘキサフルオロホスフェートなど)、メタロセン錯体[例えば、(η5又はη6−イソプロピルベンゼン)(η5−シクロペンタジエニル)鉄(II)ヘキサフルオロホスフェートなど]などが挙げられる。
【0082】
これらの光酸発生剤のうち、オニウム塩[特に、スルホニウム塩(トリアリールスルホニウム塩など)、ヨードニウム塩(ビス(アリール)ヨードニウム塩など)]などが好ましい。光酸発生剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0083】
酸触媒(例えば、光酸発生剤)の割合は、前記式(1)で表される化合物100重量部に対して、0.1〜10重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.5〜10重量部(例えば、1〜10重量部)、好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは1〜5重量部(例えば、1〜3重量部)程度であってもよい。また、重合性組成物が、加水分解縮合性有機金属化合物を含む場合、光酸発生剤の割合は、前記式(1)で表される化合物および加水分解縮合性有機金属化合物の総量100重量部に対して、例えば、0.1〜8重量部(例えば、0.2〜7重量部)、好ましくは0.2〜5重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部(例えば、0.5〜2重量部)程度であってもよい。
【0084】
なお、本発明の組成物は、必要に応じて、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、顔料、着色剤、増粘剤、増感剤、消泡剤、レベリング剤、塗布性改良剤、滑剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、耐光安定剤、光安定剤など)、紫外線吸収剤、可塑剤、界面活性剤、溶解促進剤、充填剤、帯電防止剤、硬化剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0085】
また、前記組成物は、溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒を含む組成物は、例えば、基材上に膜(硬化膜)を形成するための塗布液(コーティング液)として好適に用いることができる。このような塗布液を構成する溶媒としては、特に限定されず、慣用の溶媒、例えば、炭化水素類(ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロアルカン、クロロベンゼンなどのハロアレーンなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルカノール類など)、ジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコールなどの(ポリ)アルキレングリコールなど)、エーテル類(ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、オキソランなどの環状エーテル類など)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酢酸エステル)、ケトン類(アセトン、エチルメチルケトンなどのジアルキルケトン類、シクロヘキサノンなど)、グリコールエーテルエステル類(エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブアセテートなど)、グリコールエーテル類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジグライムなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。なお、溶媒を含む前記組成物において、各固形成分は、溶媒に溶解又は分散していてもよい。また、重合性組成物は、加水分解を促進するため、水を含んでいてもよい。
【0086】
また、溶媒を含む重合性組成物において、前記式(1)で表される化合物および加水分解縮合性有機金属化合物の総量の割合は、塗布液の粘度などに応じて適宜調整できるが、例えば、溶媒1重量部に対して0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.15〜3重量部、特に0.2〜1重量部程度であってもよい。
【0087】
なお、本発明の重合性組成物は、慣用の方法、例えば、前記式(1)で表される化合物と、前記加水分解縮合性有機金属化合物と、前記酸触媒(光酸発生剤など)と、必要に応じて他の成分(溶媒など)とを混合することにより調製できる。
【0088】
また、加水分解縮合性有機金属化合物を部分縮合物として使用する場合、部分縮合物は、市販品として入手したものを使用してもよく、部分縮合物に対応するモノマー及び/又はオリゴマーを、適当な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルなどの前記例示の溶媒)に分散又は溶解させ、酸触媒(塩酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、シュウ酸などの有機酸)の存在下で、加熱(加熱処理)することにより調製できる。このような部分縮合物の調製においては、必要に応じて、水などを混合して加水分解縮合を促進させてもよい。
【0089】
このような本発明の重合性組成物は、重合性(加水分解縮合性)を有しており、硬化物(有機無機ハイブリッド硬化物)を形成するための組成物として使用できる。特に、このような本発明の重合性組成物は、高屈折率などの特性を有し、基板に対する高密着性、ハードコート性、透明性(又は可視光に対する透明性)などの特性もバランスよく備えた高性能の硬化物(ハイブリッド硬化物)を得るのに有用である。
【0090】
(硬化物)
本発明の硬化物(前記重合性樹脂組成物が硬化(又は架橋)した硬化物)は、前記組成物を、加水分解縮合(硬化又は架橋)させることにより製造又は調製できる。特に、酸触媒が光酸発生剤で構成されている重合性組成物は、この重合性組成物に光を照射し、加水分解縮合させることにより製造又は調製できる。すなわち、この重合性組成物では、光照射により発生した酸により、加水分解縮合が進行する。
【0091】
硬化物(有機無機ハイブリッド硬化物)は、特に限定されず、三次元的硬化物、硬化膜や硬化パターンなどの一次元又は二次元的硬化物、点又はドット状硬化物などであってもよい。このような本発明の硬化物(特に、硬化膜)は、高屈折率、可視光に対する高透明性などの優れた特性を有し、基材に対する密着性にも優れている。前記重合性組成物は、硬化収縮が小さく、基材上での薄膜を製造するのに適しているため、本発明の硬化物は、特に、硬化膜の形態であってもよい。以下、硬化膜について詳述する。
【0092】
硬化膜は、前記重合性組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成したのち、酸触媒の種類などに応じた適当な方法により、加水分解縮合させる(硬化処理する)ことにより製造できる。
【0093】
基材の材質は、用途に応じて選択でき、例えば、シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、炭化シリコンなどの半導体;アルミニウム、銅などの金属;酸化ジルコニウム、酸化チタン、PZTなどのセラミック;透明無機材料(ガラス、石英、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなど);透明樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレンなど)などが挙げられる。
【0094】
塗布方法としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法などを挙げることができる。
【0095】
塗膜(又は硬化膜)の厚みは、硬化膜の用途によって応じて、0.01μm〜10mm程度の範囲から選択でき、例えば、光学用途の薄膜(反射防止膜など)の場合、硬化膜の厚みは、0.1〜100μm(好ましくは0.3〜50μm)程度であってもよい。特に、本発明の硬化膜は、柔軟性に優れ、比較的大きな厚みであっても、クラックの生成がなく、表面が平滑である。そのため、本発明の硬化膜(光学用途の薄膜など)の厚み(又は平均厚み)は、例えば、300nm以上(例えば、300nm〜10μm)、好ましくは400nm以上(例えば、500nm〜5μm)、さらに好ましくは500nm以上(例えば、600nm〜3μm、特に650nm以上(例えば、700nm〜2μm)程度であってもよい。
【0096】
塗膜の加水分解縮合処理(硬化処理)は、酸触媒の種類などに応じて、加熱(処理)、光照射(処理)などが挙げられ、これらを組み合わせてもよい。加熱と光照射とを組み合わせる場合、加熱と光照射を併行して行ってもよく、加熱後、光照射してもよく、光照射後、加熱してもよい。加熱処理する場合、加熱温度は、例えば、60〜250℃、好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは100〜160℃程度であってもよい。
【0097】
また、光照射する場合、照射又は露光する光は、例えば、ガンマ線、X線、紫外線、可視光線などであってもよく、通常、可視光又は紫外線、特に紫外線である場合が多い。光の波長は、例えば、150〜800nm、好ましくは150〜600nm、さらに好ましくは200〜400nm(特に300〜400nm)程度である。照射光量は、塗膜の厚みにより異なるが、例えば、2〜5000mJ/cm2、好ましくは5〜3000mJ/cm2程度であってもよい。光源としては、露光する光線の種類に応じて選択でき、例えば、紫外線の場合は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光(ヘリウム−カドミウムレーザー、エキシマレーザーなど)などを用いることができる。
【0098】
酸触媒を光酸発生剤で構成する場合には、前記のように、光照射に加えて、さらに塗膜を加熱することにより、硬化又は架橋反応(およびゾルゲル反応)が促進され、高度の三次元架橋が起こり、より一層高硬度の硬化物(硬化塗膜)を得ることができる。塗膜の加熱は、通常、光照射後、又は光照射とともに行われ、通常、光照射後(アフターキュア)に行われる場合が多い。加熱温度は、前記と同様の範囲から選択できる。また、加熱(アフターキュア)時間は、3秒以上(例えば、3秒〜5時間程度)の範囲から選択でき、例えば、5秒〜2時間、好ましくは20秒〜30分程度であってもよく、通常、1分〜3時間(例えば、5分〜2.5時間)程度であってもよい。
【0099】
なお、パターンや画像を形成する場合(例えば、プリント配線基板などを製造する場合)、基材上に形成した塗膜をパターン露光してもよく、このパターン露光は、レーザ光の走査により行ってもよく、フォトマスクを介して光照射することにより行ってもよい。このようなパターン露光により生成した非照射領域(未露光部)を現像剤で現像(又は溶解)することによりパターン又は画像を形成できる。現像剤としては、水、アルカリ水溶液、親水性溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類など)や、これらの混合液などを用いることができる。
【0100】
光学薄膜を形成する場合には、前記重合性樹脂組成物を、基材上に複数層形成してもよい。例えば、反射防止膜は、高屈折率薄膜と低屈折率薄膜とを幾層も積層することにより製造されているが、本発明の硬化膜は、この高屈折率薄膜として好適である。しかも、本発明の硬化膜は、前記のように、厚みを厚くしてもクラックの生成がないため、比較的厚みのある高屈折率薄膜を作成することができ、反射防止膜の製造プロセスおよびコスト的に非常に有利である。
【0101】
なお、上記の例では、基材上に直接的に硬化膜を形成しているが、基材上に他の機能層などを形成した後、その機能層の上に、前記硬化膜を形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の新規なフルオレン骨格を有するケイ素化合物は、高透明性、高屈折率などの優れた特性を有し、種々の用途に適当できる。例えば、ケイ素に結合した重合性基(加水分解縮合性基)を有しているため、この重合性基をゾルゲル反応などにより重合させてポリマー化することもでき、また、他のモノマーと反応させて高い光学特性を有する樹脂成分の一つとして利用できる。さらに、ケイ素に結合した重合性基を利用して、新たなフルオレン骨格を有する化合物を製造するための原料とすることもできる。
【0103】
また、本発明のケイ素化合物は、加水分解縮合性を有しており、重合性組成物を構成するのに有利である。このような重合性組成物は、塗料、電気機器の絶縁材、電線被覆材、電子機器の封止材、プリント配線基板、保護膜、フォトレジスト、印刷製版材、インキ、接着剤、粘着材、液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層、反射板などの広範な用途に用いることができる。特に、本発明の硬化膜は、厚膜であってもクラックを生成せず、高屈折率などの優れた光学的特性を有しているため、光学薄膜(例えば、反射防止膜の高屈折率層)などとして非常に有用性が高い。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0105】
なお、実施例において、各種特性は以下のようにして測定した。
【0106】
(赤外スペクトル)
フーリエ変換赤外分光光度計(サーモニコレー製 「Niclet4700」)及びダイヤモンドATR装置(Smiths製 「DuraSamplIR II」)を用いて測定した。透過スペクトルは、シリコンウェハ上に塗布し、そのまま測定した。
【0107】
HーNMRスペクトル)
核磁気共鳴装置(日本電子製 「AL−300」)を用いて測定した。
【0108】
(屈折率、膜厚)
反射分光膜厚計(大塚電子(株)製、「FE−3000」)を用いて、波長633nmでの屈折率、および膜厚を測定した。測定は、各実施例において10回ずつ行い、その平均値を屈折率、膜厚とした。
【0109】
(ヘイズ)
紫外可視分光光度計(日本分光製 「V−560」)に付属の積分球及びヘイズ測定ソフトウエアを使用して、測定した。
【0110】
(実施例1)ビスフェニルフルオレン誘導体の合成
ナス型フラスコに、トリエチルアミン(以下、TEAという)20mlと水酸化カリウム60粒程度を加え、TEAの蒸留を行った。蒸留したTEAにマイクロウェーブで乾燥させたモレキュラーシーブスを加え、脱水した。次に、二口ナス型フラスコに、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(以下、MPTMSという)1.79g(BPEFAに対し2.5mol)を量り入れ、テトラヒドロフラン(THF)2.0mlに溶かした9,9−ビス[4−(2−アクリロイルエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製、以下、BPEFAという)2.00gを加えた。触媒として蒸留したTEA63.4μl(MPTMSに対し5mol%)存在下において攪拌しながら、70℃で加熱した。
【0111】
加熱時間が0時間、1時間、2時間、3時間のときの液を用いて、フーリエ変換赤外分光光度計により反応を追跡し、両末端にアルコキシシラン基を有するビスフェニルフルオレン誘導体が生成されているかを確認した。エバポレーターにより濃縮した液1滴と重クロロホルム1mlを加え攪拌した液を用いて、核磁気共鳴装置により、H−NMRスペクトルを測定し、下記式で表される両末端にアルコキシシラン基を有するビスフェニルフルオレン誘導体の生成を確認した。
【0112】
【化6】

【0113】
H−NMRの測定結果を以下に示す。
【0114】
H−NMR δ(ppm):7.73(d,2H,芳香族プロトン),7.25−7.37(m,6H,芳香族プロトン),7.09(d,4H,芳香族プロトン),6.73(d,4H,芳香族プロトン),4.40(t,4H,−OCHCHO−),4.10(m,4H,−OCHCHO−),3.55(s,18H,SiO−CH),2.73(t,4H,COCH),2.59(t,4H,CH−S−CH),2.50(t,4H,CH−S−CH),1.69(quint,4H,S−CH“CH”CH−Si),0.73(t,4H,S−CHCH“CH”−Si)
(実施例2)チタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜の作製
褐色のビンに、チタン酸テトラブトキシド(テトラn−ブトキシチタン)のテトラマー(和光純薬工業(株)製、以下TBXTという)0.20gを量り入れ、実施例1で得られたビスフェニルフルオレン誘導体を20重量%の濃度で溶解させたプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)溶液1.00gを加え、常温で3時間攪拌した。さらに、PGMEA0.80gと、光酸発生剤であるジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(「シリコリースCATA211」、荒川化学工業(株)製)1滴を加え、常温で1時間攪拌した。その後、メンブランフィルター付注射器にて濾過した。
【0115】
濾過後、得られた塗布液を、15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。120℃のオーブンで1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにより20秒間UV光を照射することによって、膜内に酸を発生させ、ゾル−ゲル反応によるチタニアとのハイブリッド化を行った。さらに、120℃のオーブンで30分間加熱硬化することでゲル化させ、平滑性に優れクラックのない透明なチタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜の屈折率は1.638、膜厚は849nm、ヘイズ値は0.3%であった。なお、ハイブリッド化については、UV照射前後の液を用いて、フーリエ変換赤外分光光度計により、Si−O−Ti結合、Ti−O−Ti結合,Si−O−Si結合の存在を確認した。
【0116】
また、密着性はクロスカッティング試験で評価した。ハイブリッド膜の上に、スーパーカッターガイドで、一辺1mmのマス目を100個作り、それらのセロハンテープによる剥離を行ったが、全く剥がれがなかった。このことにより、ハイブリッド膜はガラス基板に対する密着性に優れていることもわかった。
【0117】
(実施例3)チタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜の作製
褐色のビンに、TBXT0.30gを量り入れ、実施例1で得られたビスフェニルフルオレン誘導体を20重量%の濃度で溶解させたPGMEA溶液1.00gを加え、常温で3時間攪拌した。さらにPGMEA0.80gと光酸発生剤であるジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(「シリコリースCATA211」、荒川化学工業(株)製)1滴を加え、常温で1時間攪拌した。その後、メンブランフィルター付注射器にて濾過した。
【0118】
濾過後、得られた塗布液を15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。120℃のオーブンで1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにより20秒間UV光を照射することによって、膜内に酸を発生させ、ゾル−ゲル反応によるチタニアとのハイブリッド化を行った。さらに、120℃のオーブンで30分間加熱硬化することでゲル化させ、平滑性に優れクラックのない透明なチタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜の屈折率は1.665、膜厚は868nm、ヘイズ値は0.4%であった。
【0119】
(実施例4)チタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜の作製
褐色のビンに、TBXT0.40gを量り入れ、実施例1で得られたビスフェニルフルオレン誘導体を20重量%の濃度で溶解させたPGMEA溶液1.00gを加え、常温で3時間攪拌した。さらにPGMEA0.80gと光酸発生剤であるジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(「シリコリースCATA211」、荒川化学工業(株)製)1滴を加え、常温で1時間攪拌した。その後、メンブランフィルター付注射器にて濾過した。
【0120】
濾過後、得られた塗布液を15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。120℃のオーブンで1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにより20秒間UV光を照射することによって、膜内に酸を発生させ、ゾル−ゲル反応によるチタニアとのハイブリッド化を行った。さらに120℃のオーブンで30分間加熱硬化することでゲル化させ、平滑性に優れクラックのない透明なチタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜の屈折率は1.678、膜厚は1038nm、ヘイズ値は0.2%であった。
【0121】
(実施例5)チタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜の作製
褐色のビンに、TBXT0.50gを量り入れ、実施例1で得られたビスフェニルフルオレン誘導体を20重量%の濃度で溶解させたPGMEA溶液1.00gを加え、常温で3時間攪拌した。さらにPGMEA0.80gと光酸発生剤であるジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(「シリコリースCATA211」、荒川化学工業(株)製)1滴を加え、常温で1時間攪拌した。その後、メンブランフィルター付注射器にて濾過した。
【0122】
濾過後、得られた塗布液を15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。120℃のオーブンで1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにより20秒間UV光を照射することによって、膜内に酸を発生させ、ゾル‐ゲル反応によるチタニアとのハイブリッド化を行った。さらに120℃のオーブンで30分間加熱硬化することでゲル化させ、平滑性に優れクラックのない透明なチタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜の屈折率は1.638、膜厚は1054nm、ヘイズ値は0.4%であった。
【0123】
(実施例6)チタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜の作製
褐色のビンに、TBXT0.60gを量り入れ、実施例1で得られたビスフェニルフルオレン誘導体を20重量%の濃度で溶解させたPGMEA溶液1.00gを加え、常温で3時間攪拌した。さらにPGMEA0.80gと光酸発生剤であるジアリールヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(「シリコリースCATA211」、荒川化学工業(株)製)1滴を加え、常温で1時間攪拌した。その後、メンブランフィルター付注射器にて濾過した。
【0124】
濾過後、得られた塗布液を15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。120℃のオーブンで1分間乾燥させた後、高圧水銀ランプにより20秒間UV光を照射することによって、膜内に酸を発生させ、ゾル−ゲル反応によるチタニアとのハイブリッド化を行った。さらに120℃のオーブンで30分間加熱硬化することでゲル化させ、平滑性に優れクラックのない透明なチタニア−フルオレン系有機無機ハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜の屈折率は1.700、膜厚は1213nm、ヘイズ値は0.2%であった。
【0125】
(比較例1)
特開2007−91870号公報の実施例7に準じて、以下のように厚膜のハイブリッド膜を作成した。
【0126】
3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(APTMS)2g、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)2gおよびテトライソプロポキシチタン20gをテトラヒドロフラン(THF)10mlに溶解し、ギ酸60mgを加えた後、60℃で2時間攪拌し、冷却後、部分縮合したゾルを調製した(固形分約17%)。
【0127】
そして、得られた部分縮合ゾル1.0g、BPEFA0.2g、およびPGMEA4g、光ラジカル開始剤(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名「ダロキュア1173」)2mg、および光酸発生剤[4−(1−エトキシカルボニルエトキシ)フェニル−2’,4’,6’−トリメチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、日本曹達(株)製]2mgを加えて調製した塗布液を、15滴程、ガラス基板の上へ滴下し、スピンコーターにより500rpmで、30秒間回転させて、膜を作製した。
【0128】
得られた塗膜に、紫外線を照射(1300mJ/cm)し、アクリレートの硬化ならびにゾル−ゲル反応でハイブリッド膜を作製した。得られたハイブリッド膜を、150℃で1.5時間アフターキュアすることで、膜(膜厚950nm)が得られたが、膜表面の荒れがひどく、透明性も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

{式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、Yは基−(XR−SiR[式中、Xは硫黄原子又はイミノ基を示し、Rはアルキレン基を示し、R、RおよびRは、同一又は異なって、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、基−OR(式中、Rは、炭化水素基を示す)、又は炭化水素基を示し、pは1以上の整数を示す。ただし、R、RおよびRのうち少なくとも1つは、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、又は基−ORである。]を示し、mは0以上の整数、n1は1以上の整数、n2は0以上の整数である。}
で表されるフルオレン骨格を有するケイ素化合物。
【請求項2】
環Zがベンゼン環又はナフタレン環であり、RがC2−4アルキレン基であり、mが1〜4であり、RがC2−4アルキレン基であり、基−SiRが、ジC1−4アルキルC1−4アルコキシシリル基、C1−4アルキルジC1−4アルコキシシリル基、又はトリC1−4アルコキシシリル基である請求項1記載のケイ素化合物。
【請求項3】
Xが硫黄原子である請求項1又は2に記載のケイ素化合物。
【請求項4】
Xが硫黄原子であり、pが1であり、n1が1〜2であり、n2が1〜2である請求項1〜3のいずれかに記載のケイ素化合物。
【請求項5】
下記式(2)
【化2】

(式中、Z、R、R、m、n1、n2は前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
Si−(RX)−H (3)
(式中、R、R、R、R、Xおよびpは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、請求項1〜4のいずれかに記載のケイ素化合物を製造する方法。
【請求項6】
塩基触媒の存在下、式(2)で表される化合物と、Xが硫黄原子である式(3)で表される化合物とを反応させる請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のケイ素化合物と、加水分解縮合性有機チタン化合物および加水分解縮合性有機ジルコニウム化合物から選択された少なくとも1種の加水分解縮合性有機非ケイ素系金属化合物とで構成された重合性組成物。
【請求項8】
加水分解縮合性有機非ケイ素系金属化合物が、少なくともチタンアルコキシド類のオリゴマーで構成されている請求項7記載の重合性組成物。
【請求項9】
加水分解縮合性非ケイ素系有機金属化合物の割合が、請求項1〜4のいずれかに記載のケイ素化合物1重量部に対して、0.3〜5重量部である請求項7又は8に記載の重合性組成物。
【請求項10】
さらに、光酸発生剤で構成された酸触媒を含む請求項7〜9のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の重合性組成物が硬化した硬化物。
【請求項12】
厚み300nm以上の硬化膜である請求項11記載の硬化物。

【公開番号】特開2009−269854(P2009−269854A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121537(P2008−121537)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】