説明

フレキシブルディスプレイ用基板

【課題】
線膨張率が小さいフレキシブルディスプレイ用基板を提供することにある。
【解決手段】
無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板。可視光の透過率が80%以上である前記フレキシブルディスプレイ用基板。無機層状化合物としては、単位結晶層が互いに積み重なった層状構造を有している無機化合物をいい、そのような無機層状化合物としては、粘土鉱物が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブルディスプレイ用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイの中でも、可撓性があり機器の筐体上の曲面に配置することができるフレキシブルディスプレイが検討されており、それに用いるフレキシブルディスプレイ用基板として、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホン(いずれも、20℃〜150℃における線膨張率は30〜100ppm/℃)からなる基板が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−17244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのフレキシブルディスプレイ用基板は、線膨張率が大きく、これらを用いてフレキシブルディスプレイを製造すると、フレキシブルディスプレイ用基板とその上に設けた透明電極との熱膨張差のため、周囲の温度変化により透明電極に亀裂が入って抵抗が大きくなったり、さらに断線が生じたりすることがあるので、線膨張率の小さなフレキシブルディスプレイ用基板が求められていた。本発明の目的は、線膨張率が小さいフレキシブルディスプレイ用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく、線膨張率が小さなフレキシブルディスプレイ用基板について鋭意検討した結果、フレキシブルディスプレイ用基板が、無機層状化合物が特定量含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなることにより、線膨張率が小さく、かつフレキシブルディスプレイ用に用いることができる可撓性を有するフレキシブルディスプレイ用基板となることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のフレキシブルディスプレイ用基板およびその製造方法を提供するものである。
<1>無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板。
<2>樹脂層を構成する樹脂がエチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂および液晶樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である前記のフレキシブルディスプレイ用基板。
<3>樹脂層を構成する樹脂のガラス転移点(Tg)が150℃以上である前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<4>無機層状化合物がスメクタイト、カオリナイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライトおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機層状化合物である前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<5>無機層状化合物の数平均粒径が300nm以下である前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<6>無機層状化合物が実質的にフレキシブルディスプレイ用基板の面方向に配向している前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<7>可視光の透過率が80%以上である前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<8>20℃から150℃までの平均線膨張率が25ppm/℃以下−10ppm/℃以上の範囲である前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<9>無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有する前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
<10>以下のA層およびB層を少なくとも1層ずつ有することを特徴とする前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
A層:無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層。
B層:無機層状化合物が0.1重量%以上10重量%未満含有されてなる樹脂層。
<11>A層、B層、A層がこの順に積層されてなる積層体を有することを特徴とする前記のフレキシブルディスプレイ用基板。
<12>無機層状化合物と樹脂と溶剤の混合物を塗布板の上に塗布し、乾燥し、得られた膜を剥離することを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板の製造方法。
<13>前記のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板を有することを特徴とするフレキシブルディスプレイ。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホンからなるフレキシブルディスプレイ用基板より線膨張率が小さく、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板を用いてなるフレキシブルディスプレイにおいては、フレキシブルディスプレイ用基板とその上に設けた透明電極との熱膨張差のため、周囲の温度変化により透明電極に亀裂が入って抵抗が大きくなったり、さらに断線が生じたりすることことなく、耐久性の高いフレキシブルディスプレイとなるので、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は、無機層状化合物が特定量含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなる。無機層状化合物が特定量含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有することにより、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板の線膨張率は小さくなる。本発明のフレキシブルディスプレイ用基板の線膨張率としては、20℃から150℃までの平均線膨張率が25ppm/℃以下であり−10ppm/℃以上である場合が好ましく、0ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲がさらに好ましい。無機層状化合物の含有量は、10重量%以上70重量%以下の範囲であり、20重量%以上60重量%以下が好ましい。10重量%未満であるとフレキシブルディスプレイ用基板の20℃から150℃までの平均線膨張率が大きくなり、25ppm/℃を超える傾向がある。また、70重量%を超えると、層状無機化合物を樹脂中に均一に分散させることが困難となる傾向がある。
ここで、20℃から150℃までの平均線膨張率は、JIS K−7197に従って測定することができる。
また、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は、無機層状化合物が25重量%以上35重量%以下含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有することが、線膨張率が小さく、さらに可撓性にも優れるため、より好ましい。
【0009】
さらに、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板としては、可視光線の透過率が80%以上であれば、フレキシブルディスプレイの背面側基板としてのみならず、前面側(視認される表示側)基板として用いることができるので、好ましい。
【0010】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板で用いられる無機層状化合物としては、単位結晶層が互いに積み重なった層状構造を有している無機化合物をいい、溶媒に膨潤・へき開する無機層状化合物が好ましく用いられる。溶媒に膨潤・へき開する無機層状化合物としては、溶媒に膨潤・へき開性を有する粘土鉱物が好ましく、具体的には、モンモリロナイト、ヘクトライト、スティブンサイト、サポナイト、バイデライト等のスメクタイト、あるいは、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石を挙げることができる。
これらの中でも、好ましくは、分散性、サイズの点でスメクタイト、カオリナイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライトおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機層状化合物であり、さらに好ましくは、スメクタイトである。
【0011】
これらの無機層状化合物は、実質的にフレキシブルディスプレイ用基板の面方向に配向していることが好ましい。すなわち、無機層状化合物のそれぞれの粒子の多くが、その最大の面をフレキシブルディスプレイ用基板の面と略平行になるように配向(これを「面方向に配向」という。)していることが好ましい。無機層状化合物が配向している場合には、フレキシブルディスプレイ用基板の面方向の線膨張率を効果的に抑制することができ、線膨張率が特に低くなる。また、無機層状化合物が面方向に配向することにより、無機層状化合物の含有量が多い場合でも、フレキシブルディスプレイの可視光線の透過率が高くなる。
【0012】
これらの無機層状化合物は、後述する方法により測定したアスペクト比が50以上300以下で数平均粒径が可視光の波長より十分小さいものが通常用いられ、面方向に配向しやすい点からは、アスペクト比50以上であることが好ましい。上記アスペクト比が50未満では、線膨張率が所定の範囲とならないおそれがある。一方アスペクト比が300を越える無機層状化合物は透明性を低下させるおそれがある。アスペクト比は100〜200の範囲がさらに好ましい。無機層状化合物の数平均粒径、すなわち後述する方法により測定した数平均粒径が可視光の波長より十分小さいものであれば、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板の可視光線透過率が80%以上となるので、無機層状化合物の数平均粒径は300nm以下が好ましく300nm以下50nm以上の範囲がより好ましく、さらに好ましくは200nm以下100nm以上の範囲である。無機層状化合物の数平均粒径が50nm以下であると、フレキシブルディスプレイ用基板の線膨張率が前記範囲とならない傾向がある。なお、ここでいう可視光とは、波長が400〜800nmの範囲の光をいう。
【0013】
ここで、上記の無機層状化合物の数平均粒径は、溶媒中に分散させながら、動的光散乱法により求めた数平均粒径である。動的光散乱法による数平均粒径は、例えば「粒子径計測技術」(1994年、粉体工学会編)の第169頁〜第179頁を参照することで求めることができ、具体的な測定装置としては、動的光散乱式粒径分布測定装置(例えば、堀場製作所製、LB−550型)を挙げることができる。上記の動的光散乱法により求めた無機層状化合物の数平均粒径と、本発明における樹脂層に含有される無機層状化合物の数平均粒径とは実質的に同じと考えることができる。
【0014】
また、本発明で用いられる無機層状化合物のアスペクト比(Z)は、Z=L/aなる関係で示される。Lは、溶媒中、動的光散乱法により求めた数平均粒径であり、aは、無機層状化合物の単位厚みである。単位厚みaは、粉末X線回折法によって無機層状化合物の回折ピークを測定して算出することができる値である。
【0015】
次に、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板で用いられる樹脂としては、熱可塑性樹脂が無機層状化合物と混合しやすいので好ましく、透明なものがさらに好ましく、具体的には、ポリエチレン(低密度、高密度)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリサルホン樹脂;ポリエーテルサルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリフェニレンオキシド樹脂;ポリメチレンオキシド樹脂;液晶樹脂が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、耐熱性の観点で、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂および液晶樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。特に好ましくは、耐熱性の観点で、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体およびポリエーテルサルホン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である。
【0016】
この本発明のフレキシブルディスプレイ用基板に用いることができる樹脂のガラス転移点(Tg)は、150℃以上が好ましく、より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは200℃以上である。
【0017】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は、無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなるものであればよく、さらに樹脂からなる層を有していてもよい。ただし、樹脂からなる層の厚さは、無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層の厚さより小さいことが好ましい。
【0018】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板としては、無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有してなるものが好ましい。各層の樹脂は、上記の樹脂の中から同じものの組合せでも、異なるものの組合せでもよいが、密着性の観点より同じものの組合せが好ましい。
【0019】
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板が、無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有してなる場合は、2層以上のうち少なくとも1層のA層は無機層状化合物を10重量%以上70重量%以下の範囲で含有し、好ましくは20重量%以上60重量%以下である。このA層の無機層状化合物の含有率が20重量%未満であると、20℃から150℃までの平均線膨張率が大きくなり、25ppm/℃を超える傾向がある。2層以上のうちのA層ではない層のB層は無機層状化合物を0.1重量%以上10重量%未満含有することが好ましく、より好ましくは0.3〜5重量%である。また、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板が、無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有してなる場合の中でも、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板が上記A層、B層、A層がこの順に積層されてなる積層体を有することがさらにより好ましい。
【0020】
フレキシブルディスプレイ用基板の厚みは、通常は1〜500μmであり、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜250μmの範囲である。1μmよりも薄いと、基板としての機械的強度が得られないおそれがある。また500μmよりも厚いと可撓性と透明性が低下するおそれがある。
【0021】
また、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板が、無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有してなる場合は、各層の厚みは0.5〜200μmが好ましい。より好ましくは1〜150μm、さらに好ましくは1.5〜100μmである。ただし、A層の厚さの合計はB層の厚さの合計よりも大きいことが好ましい。
【0022】
なお、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板には、その効果を損なわない範囲で、紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤等のさまざまな添加剤が含有されていてもよい。
【0023】
次に、本発明のフレキシブルディスプレイ用基板の製造方法について説明する。
本発明のフレキシブルディスプレイ用基板は無機層状化合物と樹脂と溶剤の混合物を塗布板の上に塗布し、乾燥し、得られた膜を剥離して製造することができる。
【0024】
無機層状化合物と樹脂と溶剤との混合物は、無機層状化合物および樹脂としては前記のものを用いて、例えば、樹脂を溶媒に溶解させた液と、無機層状化合物を溶媒に膨潤・へき開させた分散液とを混合する方法、無機層状化合物を溶媒に膨潤・へき開させた分散液に樹脂を添加して溶解させる方法、樹脂を溶媒に溶解させた液に無機層状化合物を加えて膨潤・へき開させる方法、また樹脂と無機層状化合物を加熱混練して得られた混練物を溶媒に溶解および分散させる方法により製造することができ、前三者が好ましい。無機層状化合物の分散性の観点で、特に好ましくは、樹脂を溶媒に溶解させた液と、無機層状化合物を溶媒に膨潤・へき開させた分散液とを混合する方法である。
【0025】
溶媒は、無機層状化合物を膨潤させることができるものが好ましく、例えば、水、メタノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、アセトン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。好ましくは、操作性の観点で、水、メタノール等のアルコール類、トルエン、N−メチルピロリドンである。
【0026】
無機層状化合物と樹脂とを合せた固形物の溶剤に対する比率は、得られた混合物の粘度に大きく依存するが、5〜50重量%であり、より好ましくは10〜35重量%である。固形分の濃度が5重量%よりも少ないと、所望の厚みの膜厚が作製しにくく、50重量%よりも多いと、混合物の液の粘度が高く、塗工しにくくなる。
【0027】
なお、無機層状化合物を予め膨潤・へき開させた分散液を調整するために、無機層状化合物の分散性を向上するために、無機層状化合物の表面処理を行うことが好ましい。表面処理剤としては、4級アンモニウム塩などが用いられる。
【0028】
次に、無機層状化合物と樹脂と溶剤との混合物を塗布板の上に塗布し、乾燥して無機層状化合物が分散した樹脂の膜を得て、塗布板から剥離してフィルムとする。ただし、可撓性のある樹脂板を塗布板とし、塗布板の上に形成した膜を剥離せずに、塗布板も合わせてフレキシブルディスプレイ用基板としてもよい。
【0029】
塗布は、該混合物を塗工液として、ガラス、金属、樹脂フィルム等を塗布板として、ダイレクトグラビア法やリバースグラビア法及びマイクログラビア法、2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法等のロールコーティング法、及びドクターナイフ法やダイコート法、ディップコート法、バーコーティング法やこれらを組み合わせたコーティング法などの通常工業的に用いられている方法により行うことができる。そして、乾燥は、減圧乾燥、熱風乾燥、赤外線乾燥等の通常工業的に用いられる方法により行うことができる。
【0030】
塗布は、無機層状化合物の粒子を面方向に配向させるよう、フレキシブルディスプレイ用基板の面と平行方向に働く力(シェア)をかける方法であるロールコーティング法およびドクターナイフ法が好ましい。
【0031】
剥離して得られたフィルムはそのまま本発明のフレキシブルディスプレイ基板として用いることができるが、得られたフィルムを延伸装置により1軸延伸または2軸延伸し、フレキシブルディスプレイ基板としてもよい。延伸を行うことにより、無機層状化合物を面方向に配向させることができ、このように配向させることにより、フレキシブルディスプレイ用基板の面方向の線膨張率を効果的に低減させることができるとともに、フィルムの透明性を向上させることができる。
【0032】
2層以上からなるフレキシブルディスプレイ基板は、最初に1層を塗布板に塗布し、乾燥した後に、得られた膜の上に他の層を塗布し、これを繰り返し、乾燥した後に塗布板から剥離する方法、2枚以上のフィルムを製造し、該2枚以上のフィルムをラミネートする方法により製造することができる。なお、2枚以上のフィルムをラミネートする場合は、2枚の界面はコロナ処理やアンカーコート剤などの処理を施してもよい。
【0033】
このような本発明のフレキシブルディスプレイ用基板を有するフレキシブルディスプレイの例として、フレキシブル有機ELディスプレイの製造方法を説明する。フレキシブル有機EL素子は、少なくとも一方が透明である一対の陽極および陰極からなる電極間に発光層を有する。陰極と発光層との間に、電子輸送層を設けた有機EL素子(陽極/発光層/電子輸送層/陰極)(ここで、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す)、陽極と発光層との間に、正孔輸送層を設けた有機EL素子(陽極/正孔輸送層/発光層/陰極)、陰極と発光層との間に、電子輸送層を設け、かつ陽極と発光層との間に、正孔輸送層を設けた有機EL素子(陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)等が挙げられる。例えば、(陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極)で表される層構造を有するフレキシブルディスプレイは、透明または不透明のフレキシブルディスプレイ用基板上に陽極を、透明または不透明のフレキシブルディスプレイ用基板に陰極を形成し(ただしいずれか一方は透明)、陽極を形成したフレキシブルディスプレイ用基板上に、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を順次成膜し、最後に陰極を形成したフレキシブルディスプレイ用基板を上記各層を挟むように電極が上記各側に向くようにして重ね、端部を封止して製造することができる。
【0034】
発光層に用いる有機EL材料としては、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、低分子化合物では、例えば特開昭57−51781号公報、同59−194393号公報に記載されているように、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセンもしくはその誘導体、ペリレンもしくはその誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系などの色素類、8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエンもしくはその誘導体、またはテトラフェニルブタジエンもしくはその誘導体などが用いられ、発光層は、粉末からの真空蒸着法により、または溶液を塗布して成膜する。
【0035】
高分子化合物では、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリフルオレン(ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Jpn.J.Appl.Phys.)第30巻、L1941頁(1991年))、ポリパラフェニレン誘導体(アドバンスト・マテリアルズ(Adv.Mater.)第4巻、36頁(1992年))などが提案されている。
【0036】
正孔輸送層に用いる正孔輸送材料として、ポリビニルカルバゾールもしくはその誘導体、ポリシランもしくはその誘導体、側鎖もしくは主鎖に芳香族アミン化合物基を有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)もしくはその誘導体、またはポリ(2,5−チエニレンビニレン)もしくはその誘導体等が用いられ、正孔輸送層の成膜は、高分子バインダーとの混合溶液を塗布して成膜する。
【0037】
電子輸送層に用いる電子輸送材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタンもしくはその誘導体、ベンゾキノンもしくはその誘導体、ナフトキノンもしくはその誘導体、アントラキノンもしくはその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタンもしくはその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレンもしくはその誘導体、ジフェノキノン誘導体、または8−ヒドロキシキノリンもしくはその誘導体の金属錯体、ポリキノリンもしくはその誘導体、ポリキノキサリンもしくはその誘導体、ポリフルオレンもしくはその誘導体等が用いられ、電子輸送層は、粉末からの真空蒸着法により、または溶液を塗布して成膜する。
【0038】
さらに陽極と陰極が必要であり、陽極の材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が用いられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド、金、白金、銀、銅等が用いられ、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法により電極膜を作製する。また、該陽極として、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。
【0039】
陰極の材料としては、仕事関数の小さい材料が好ましい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、およびそれらのうち2つ以上の合金、あるいはそれらのうち1つ以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうち1つ以上との合金、グラファイトまたはグラファイト層間化合物等が用いられ、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法により陰極膜を作製することができる。
【0040】
これらの陽極と陰極の配置により、発光層をさまざまなパターンで発光させることができる。面状の発光を得るためには、面状の陽極と陰極が重なり合うように配置すればよい。また、特定のパターン状の発光を得るためには、前記面状の発光素子の表面にその特定のパターン状の窓を設けたマスクを設置する方法、非発光部の有機物層を極端に厚く形成し実質的に非発光とする方法、陽極または陰極のいずれか一方または両方の電極を特定のパターン状に形成する方法がある。これらのいずれかの方法でパターンを形成し、いくつかの電極を独立にOn/OFFできるように配置することにより、数字、文字および記号などを表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。さらに、ドットマトリックス素子とするためには、陽極と陰極をともにストライプ状に形成して直交するように配置すればよい。複数の種類の発光色の異なる蛍光体を塗り分ける方法や、カラーフィルターまたは蛍光変換フィルターを用いる方法により、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動も可能であるし、TFTなどと組み合わせてアクティブ駆動しても良い。
【0041】
こうして製造されるフレキシブルディスプレイは、コンピュータ、テレビ、携帯端末、携帯電話、カーナビゲーション、ビデオカメラのビューファインダーなどの表示装置として用いることができる。さらに、このようなフレキシブルディスプレイは、自発光型で薄いので、液晶表示装置のバックライト用の面状光源、あるいは面状の照明用光源として好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1
100mL三口フラスコの側管に三方コックおよびジムロートを取り付け、主管にフッ素樹脂製攪拌翼を装着した。この三口フラスコに、ポリエーテルサルホン(以下、「PES」という。)(住友化学工業製、PES7600p(商品名)、Tgは230℃)を15gと、N−メチルピロリドン(以下、「NMP」という。)45gとを入れ、80℃にて3時間攪拌し、PESの25重量%NMP溶液であるA溶液を調製した。
【0044】
また、100mL三角フラスコに、有機修飾されたスメクタイト(コープケミカル製、合成スメクタイトSTN(商品名)、有機修飾成分23重量%、数平均粒径140nm)15g(有機修飾成分3.45gを含む。)と、NMP45gとを入れ、高速回転ホモジナイザーを用いて予備分散させた後、超音波分散装置を用いて分散させた。こうしてスメクタイト(有機修飾成分含む。)の25重量%NMP溶液であるB溶液を調製した。
【0045】
次いで、30mL蓋つきサンプル瓶にA溶液を10gと、B溶液を6.67gとを秤取し、PESおよびスメクタイト(有機修飾成分含む)の合計の含有量が20重量%となるようにNMPを追加し、高速回転ホモジナイザーを用いて攪拌混合した。こうしてPESとスメクタイトの合計の含有量20重量%のNMP溶液であり、PESとスメクタイトの合計量に対するスメクタイトの量が30.8重量%であるC溶液を調製した。
【0046】
そして、30mL蓋つきサンプル瓶にA溶液を10gと、B溶液を0.65gとを秤取し、PESおよびスメクタイト(有機修飾成分含む)の合計の含有量が20重量%となるようにNMPを追加し、高速回転ホモジナイザーを用いて攪拌混合した。こうしてPESとスメクタイトの合計の含有量20重量%のNMP溶液であり、PESとスメクタイトの合計量に対するスメクタイトの量が4.7重量%であるD溶液を調製した。
【0047】
表面を洗浄したガラス板上に、ドクターブレードを用い、塗工ギャップ0.24mm、幅約8cmにてC溶液を塗工し、これを190℃で10分間減圧乾燥して溶媒を除いた後、乾燥機から取り出し、室温で1分間放冷した。こうして得られたフィルムの上に、塗工ギャップ0.48mm、幅約9cmにて、さらにD溶液を塗工し、これを190℃で10分間減圧乾燥して溶媒を除いた後、乾燥機から取り出し、室温で1分間放冷した。こうして得られたフィルム上に、塗工ギャップ0.72mm、幅約10cmにて、さらにまたC溶液を塗工し、これを190℃で10時間以上減圧乾燥して完全に溶媒を除いた後、乾燥機から取り出した。
【0048】
こうして得られ3層が積層されてなる膜の厚みは12μm(C溶液の塗布層の厚さの合計は約8μmでD溶液の塗布層の厚さは約4μm)で透明であり、この3層が積層されてなる膜はガラス板から容易に剥がすことができ、十分な可撓性を有していた。得られたフィルムのハロゲンランプを用いて測定した全光線透過率は95%であった。セイコーインスツルメント製熱分析システムSSC5000型を用い、昇温速度を10℃/分として線膨張率を測定したところ、20℃〜150℃の平均線膨張率は19.7ppm/℃(19.7×10-6/℃)であった。該フィルムを、島津製作所製ストログラフを用い、200℃にて10mm/分で2倍に延伸した後、同温度で5分熱固定を行った。こうして得られたフィルムの中央部について線膨張率を測定したところ、20℃〜150℃の平均線膨張率はMDで8ppm/℃、TDで12ppm/℃であり、該フィルムは透明であり、かつ十分なフレキシビリティを有していた。このフィルムをフレキシブルディスプレイ用基板としてフレキシブルディスプレイを作製すると、耐久性に優れたディスプレイを得ることができる。
【0049】
比較例1
実施例1と同様にして調製したA溶液を、表面を洗浄したガラス板上に、ドクターブレードを用い、塗工ギャップ0.24mm、幅約8cmにて塗工し、これを190℃で10分間減圧乾燥して溶媒を除いた後、乾燥機から取り出し、室温で1分間放冷した。こうして得られたフィルムの上に、塗工ギャップ0.48mm、幅約9cmにて、さらにA溶液を塗工し、これを190℃で10分間減圧乾燥して溶媒を除いた後、乾燥機から取り出し、室温で1分間放冷した。こうして得られたフィルム上に、塗工ギャップ0.72mm、幅約10cmにて、さらにまたA溶液を塗工し、これを190℃で10時間以上減圧乾燥して完全に溶媒を除いた後、乾燥機から取り出した。
【0050】
こうして得られたフィルムの3層積層部分の厚みは約12μmで透明であり、ガラス板から容易に剥がすことができ、十分なフレキシビリティを有していたが、実施例1と同様にして線膨張率を測定したところ、20℃〜150℃の平均線膨張率は、60ppm/℃と大きかった。
【0051】
比較例2
実施例1と同様にして調製したD溶液を、表面を洗浄したガラス板上に、ドクターブレードを用い、塗工ギャップ0.72mm、幅約8cmにて塗工し、これを190℃で10分間減圧乾燥して溶媒を除いた後、乾燥機から取り出し、室温で1分間放冷した。
【0052】
こうして得られたフィルムの厚みは約12μmで透明であり、ガラス板から容易に剥がすことができ、十分なフレキシビリティを有していたが、実施例1と同様にして線膨張率を測定したところ、20℃〜150℃の平均線膨張率は、57.5ppm/℃と大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層を少なくとも1層有してなることを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項2】
樹脂層を構成する樹脂がエチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロース、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂および液晶樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項3】
樹脂層を構成する樹脂のガラス転移点(Tg)が150℃以上である請求項1または2に記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項4】
無機層状化合物がスメクタイト、カオリナイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライトおよびタルクからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機層状化合物である請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項5】
無機層状化合物の数平均粒径が300nm以下である請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項6】
無機層状化合物が実質的にフレキシブルディスプレイ用基板の面方向に配向している請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項7】
可視光の透過率が80%以上である請求項1〜6のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項8】
20℃から150℃までの平均線膨張率が25ppm/℃以下−10ppm/℃以上の範囲である請求項1〜7のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項9】
無機層状化合物が含有されてなる樹脂層を2層以上有する請求項1〜8のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項10】
以下のA層およびB層を少なくとも1層ずつ有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
A層:無機層状化合物が10重量%以上70重量%以下含有されてなる樹脂層。
B層:無機層状化合物が0.1重量%以上10重量%未満含有されてなる樹脂層。
【請求項11】
A層、B層、A層がこの順に積層されてなる積層体を有することを特徴とする請求項10記載のフレキシブルディスプレイ用基板。
【請求項12】
無機層状化合物と樹脂と溶剤の混合物を塗布板の上に塗布し、乾燥し、得られた膜を剥離することを特徴とするフレキシブルディスプレイ用基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載のフレキシブルディスプレイ用基板を有することを特徴とするフレキシブルディスプレイ。

【公開番号】特開2006−39530(P2006−39530A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184627(P2005−184627)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】