説明

フレキシブル積層板の製造方法

【課題】フレキシブル積層板の製造におけるポリイミド樹脂層の形成方法において、ポリイミド前駆体樹脂溶液を加熱処理する時間を短縮させ、しかも寸法安定性に優れたポリイミド樹脂層を形成する方法を提供する。
【解決手段】導電性金属層とポリイミド樹脂層からなるフレキシブル積層板の製造方法において、導電性金属層の表面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行い、導電性金属層と接するポリイミド樹脂層Aと、熱線膨張係数が14〜20ppm/Kで、引張り弾性率が3〜6GPaのポリイミド樹脂層Bとを含む少なくとも2層のポリイミド樹脂層を形成し、且つポリイミド樹脂層Bが、水溶液中でのプロトン錯体の酸解離指数(pKa)が5.5〜7.8の範囲にある硬化促進剤を含有するポリイミド前駆体樹脂溶液から形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔上にポリイミド樹脂層を設けたフレキシブル積層板の製造方法に関し、より詳しくは、硬化促進剤を使用したフレキシブル積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板の主要材料である銅張積層板は、導電性金属箔(以下、単に金属箔という)と絶縁層から構成され、可とう性を有することから、柔軟性や屈曲性が要求される部分の配線基板に用いられ、電子機器の小型化、軽量化に貢献している。銅張積層板の中でも、絶縁層にポリイミド樹脂を用いたものは、耐熱性や寸法安定性に優れることから、携帯電話やデジタルカメラなどの情報端末機等の配線基板に広く使用されている。これらのデジタル情報端末の需要は年々拡大を続けており、今後もさらに増加することが予想されるために、銅張積層板の生産数量を増加させることが製品供給上重要となる。
【0003】
銅張積層板を製造する方法の一つとして、ポリイミド前駆体樹脂溶液を金属箔上に塗工し、硬化するキャスト法が挙げられる。このキャスト法は、樹脂溶液を金属箔上に塗工する工程、樹脂中の溶剤を除去する乾燥工程とポリイミド前駆体樹脂からポリイミドに変換するイミド化工程(硬化工程ともいう)で構成される。ポリイミド前駆体樹脂を閉環してポリイミド樹脂を製造する方法としては熱的閉環法と化学閉環法が知られている。化学閉環法は、熱的閉環法では困難な低い温度領域で閉環する方法として提案がなされている。例えば、特開昭59−223727号公報(特許文献1)、特開昭60−15426号公報(特許文献2)が挙げられる。しかしながら、これらの製造方法では、低温領域で閉環を行うため、処理時間を長くしなければならないという問題があった。
【0004】
また、熱的閉環法と化学閉環法を併用した方法も提案されている。例えば、特開昭61−181833号公報(特許文献3)及び特開平7−278298号公報(特許文献4)が挙げられる。これらの製造方法では、熱線膨張係数の小さいポリイミド樹脂を製造する方法を開示しているが、250℃以下の温度制御を必要とし、また加熱処理時間を長くしなければならないという問題があった。また、低温で有効とされる硬化促進剤も提案されている。例えば、特開2004−115813号公報(特許文献5)が挙げられる。しかしながら、このような製造方法では、200℃以上の加熱閉環処理において、寸法安定性のあるポリイミド樹脂を製造するためには、十分に注意を払う必要があり、加熱処理時間の短縮に困難を要した。また、特開2004−359868号公報(特許文献6)では、硬化促進剤を用いた熱可塑性ポリイミド樹脂の製造方法について開示している。しかしながら、このような熱可塑性ポリイミド樹脂は、熱線膨張係数が高いため、寸法安定性の制御が困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭59−223727号公報
【特許文献2】特開昭60−15426号公報
【特許文献3】特開昭61−181833号公報
【特許文献4】特開平7−278298号公報
【特許文献5】特開2004−115813号公報
【特許文献6】特開2004−359868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱線膨張係数の小さいポリイミド樹脂を形成する場合、従来はポリイミド前駆体樹脂をイミド化させるために、加熱処理時間を長くしなければならず、生産性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、係る問題点を解決すべく検討した結果なされたものであり、ポリイミド樹脂層の形成方法において、ポリイミド前駆体樹脂溶液を加熱処理する時間を短縮させ、しかも寸法安定性に優れたポリイミド樹脂層を有する積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、ポリイミド前駆体樹脂を特定の構造とし、高温で有効な硬化促進剤を併用することで、熱的閉環法と化学閉環法を有効に利用できる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、導電性金属層の表面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行い、導電性金属層とポリイミド樹脂層からなるフレキシブル積層板の製造方法において、ポリイミド樹脂層が導電性金属層と接するポリイミド樹脂層Aと、熱線膨張係数14〜20ppm/K、且つ引張り弾性率3〜6GPaのポリイミド樹脂層Bと、を含む少なくとも2層のポリイミド樹脂層であって、ポリイミド樹脂層Bが、水溶液中でのプロトン錯体の酸解離指数(pKa)が5.5〜7.8の範囲にある硬化促進剤を含有するポリイミド前駆体樹脂溶液から形成されることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法である。
【0010】
ここで、硬化促進剤が、置換もしくは非置換のイミダゾール、2−ピコリン、N−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール及び2,6−ルチジンから選択された少なくとも1種の含窒素複素環化合物であること、又はポリイミド樹脂層Aの熱線膨張係数が30〜100ppm/Kの範囲内にあること、又はポリイミド樹脂層の熱膨張係数が15〜30ppm/Kの範囲内にあること、又はポリイミド樹脂層全体の厚みが5〜40μmの範囲内にあり、且つポリイミド樹脂層Bの厚みがポリイミド樹脂層全体の厚みに対して、0.5〜0.99であることのいずれか1以上を満足することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、ポリイミド樹脂層Bを構成するポリイミド樹脂bが下記式(1)で表される構造単位を有することを特徴とするフレキシブル積層体の製造方法である。
【0012】
【化1】

【化2】

【化3】

【0013】
式(1)中、Ar1は式(2)〜式(5)からなる群より選ばれた2価の芳香族基を示し、Ar2は式(6)〜式(13)からなる群より選ばれた4価の芳香族基を示す。式(2)〜式(5)及び式(13)において、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。式(3)〜式(7)において、Xは独立に単結合又は-C(CH3)2-、-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基(Y)を示す。そして、Ar11モルに対して、式(3)〜式(5)において、X及びOとして表される基であって、-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-及び-CONH-から選ばれる2価の基が合計で0.2〜0.6モル含まれる。mは1〜5の整数を示す。式(11)〜式(12)において、Zは独立に-CH2-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-又は-CONH-から選ばれる2価の基を示す。
【0014】
有利には、式(1)において、Ar1は式(2)又は下記式(3a)で表される2価の芳香族基であり、Ar2は式(6)又は式(7)で表される4価の芳香族基であることである。
【化4】

(但し、R1及びnは式(3)と同じである。)
【0015】
別の観点から有利には、式(1)において、Ar1は式(3)〜式(5)で表される2価の基からなる群より選ばれた2価の芳香族基であり、Ar2は下記式(6a)及び式(8)〜式(12)で表される4価の基からなる群より選ばれた4価の芳香族基であることである。
【化5】

【0016】
なお、式(3a)は式(3)のXが単結合である場合に該当し、式(6a)は式(6)のXが単結合である場合に該当にする。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明で製造されるフレキシブル積層板は導電性金属層(以下、金属箔ともいう)上にポリイミド樹脂層を有する。そして、金属箔上へのポリイミド樹脂層の形成は、金属箔上にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、乾燥、硬化の加熱処理を行うことで、前記ポリイミド前駆体をポリイミドに変換することで行われる。そして、製造されたフレキシブル積層板のポリイミド樹脂層は、導電性金属層と接するポリイミド樹脂層Aと、少なくとも1層の熱線膨張係数14〜20ppm/K、且つ引張り弾性率3〜6Gpaのポリイミド樹脂層Bを含むものである。なお、本発明でいうポリイミド樹脂とは、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂をいう。
【0019】
本発明で使用される導電性金属箔には、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、タングステン又はこれらの合金を構成元素とする金属箔を挙げることができる。金属箔の中でも、銅箔又は合金銅箔が好ましい。金属箔の厚みは、5〜35μmの範囲が好ましく、9〜18μmの範囲がより好ましい。金属箔が35μmより厚いと、積層板が硬くなり屈曲性や折り曲げ性が悪くなる。金属箔が5μmより薄いと、積層板の製造工程において、張力等の調整が困難となり、皺等の不良が発生し易くなる。また、これらの金属箔は、接着力等の向上を目的として、その表面に化学的あるいは機械的な表面処理を施しても良い。
【0020】
本発明においては、ポリイミド樹脂層は金属箔との接着性を良好なものとするために、金属箔と接するポリイミド樹脂層Aは高膨張性のポリイミド樹脂層を選択することが好ましい。具体的には、ポリイミド樹脂層Aは、熱線膨張係数が30〜100ppm/Kの高熱膨係数ポリイミド樹脂層とすることが好ましい。高熱膨張係数ポリイミド樹脂層Aを構成するポリイミド樹脂aとしては、例えば下記式(1a)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0021】
【化6】

式中、Ar1は下記式(14)及び(15)で表される基から選択される少なくとも1種の基であり、Ar2は下記(16)及び(17)で表される基から選択される少なくとも1種の基である。また、下記式(16)中、Xは−SO2−、−CO−及び単結合のいずれかである。
【0022】
【化7】

【0023】
また、フレキシブル積層板の折り曲げ性と寸法安定性を向上させるため、熱線膨張係数が14〜20ppm/K、且つ引張り弾性率が3〜6GPaであるポリイミド樹脂層Bを少なくとも1層含むが、熱的閉環法を好適に利用するために、ポリイミド樹脂層Bの前駆体の溶液に、後述する硬化促進剤を含有させる。なお、ポリイミド樹脂層Aの前駆体溶液に硬化促進剤を含有することは必須ではないが、含有させるとポリイミド樹脂層Aの熱線膨張係数をいくらか低下させる。
【0024】
本発明において用いられる硬化促進剤は、水溶液中でのプロトン錯体の酸解離指数(pKa)は5.5〜7.8の範囲であり、好ましくは5.8〜7.2であり、更に好ましくは5.9〜7.0である。酸解離定数がこの範囲を外れると、ポリイミド前駆体樹脂のイミド化反応の十分な促進が得られにくい。このような硬化促進剤は、置換もしくは非置換のイミダゾール、2−ピコリン、N−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール及び2,6−ルチジンから選択された少なくとも1種の含窒素複素環化合物であることが好ましく、より好ましくは非置換のイミダゾール、2−ピコリン、N−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール及び2,6−ルチジンから選択された少なくとも1種がよく、更に好ましくはN−メチルイミダゾール又は2−メチルイミダゾールがよい。特に好ましくはN−メチルイミダゾールがよい。これらの硬化促進剤は、含窒素複素環の特徴ある分子骨格を効果的に利用でき、ポリイミド前駆体樹脂の分子間に配位させることで、ポリイミド前駆体樹脂の分子配向性が向上し、その結果として熱線膨張係数を低く制御できると考えられる。
【0025】
硬化促進剤の添加量は、テトラカルボン酸二無水物の1モルとジアミン化合物の1モルから生じるポリイミド前駆体の構成単位1モルに対して、好ましくは0.1〜2モル、更に好ましくは0.5〜1モルの範囲がよい。なお、ポリイミド前駆体の構成単位1モルは、ポリイミド樹脂の構成単位1モルを与え、ポリイミド樹脂の構成単位は、例えば式(1)で表される単位である。
【0026】
本発明で用いられるポリイミド前駆体樹脂溶液は、公知の方法で製造することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モル使用し、有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃で30分〜24時間撹拌し反応させることにより得られる。反応にあたっては、得られるポリイミド前駆体樹脂が有機溶媒中に5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%となるように反応成分を溶解することがよい。ポリイミド前駆体樹脂溶液は、有機極性溶媒に溶解したポリイミド前駆体樹脂溶液が好ましく選択される。重合反応する際に用いる有機溶媒については、極性を有するものを使用することがよい。有機極性溶媒としては、例えば、N, N−ジメチルホルムアミド、N, N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルフォキシド、硫酸ジメチル、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらを2種類以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の一部使用も可能である。ポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度は、500cP〜100,000cPの範囲であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリイミド前駆体樹脂溶液に、前述した硬化促進剤を添加し、ポリイミド前駆体樹脂溶液を得る。
【0027】
使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物については、本発明のフレキシブル積層板におけるポリイミド樹脂層の特性に応じて、それぞれ1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0028】
本発明において、ポリイミド樹脂層は、前駆体状態で金属箔上に直接塗工して形成される。2層以上のポリイミド樹脂層の形成に際しては、ポリイミド前駆体樹脂溶液を前記金属箔面に塗布・乾燥する操作を繰り返す方法又は多層塗布して一括で乾燥する方法によってポリイミド前駆体樹脂層を形成し、イミド化を行う。ポリイミド樹脂層が2層からなる場合、ポリイミド樹脂層Aの前駆体層の上にポリイミド樹脂層Bの前駆体を塗布してポリイミド樹脂層の前駆体層を形成するが、ポリイミド樹脂層が3層以上からなる場合、ポリイミド樹脂層Aの上に異なるポリイミド樹脂の前駆体層を、その上に他のポリイミド樹脂の前駆体を順次塗布して形成してもよい。この場合、同一の構成のポリイミド樹脂を2回以上使用してもよいが、少なくとも1層はポリイミド樹脂Bの前駆体層を含む。
【0029】
ポリイミド前駆体樹脂溶液を金属箔上に塗布し、続く熱処理で乾燥及びイミド化(又は硬化)される。この場合の熱処理条件は、60〜380℃の温度範囲で計10〜40程度行うことができるが、溶媒を除去する乾燥条件は、60〜130℃で30秒〜20分、好ましくは100〜150℃で1〜10分がよい。ポリイミド樹脂層のイミド化を完結させるためには、280〜380℃の範囲内で行うことが必要であり、好ましくは280〜360℃の範囲内で行うことがよい。このような温度範囲での熱処理条件を適用することによって、引張り弾性率3〜6GPaであるポリイミド樹脂層においても、合計加熱時間は3〜25分の範囲内、より好ましくは5〜15分の範囲内、更に好ましくは5〜11分の範囲内で、熱線膨張係数を14〜20ppm/Kの範囲に制御することが可能となる。また別の観点から、ポリイミド前駆体樹脂をイミド化して、熱線膨張係数が10〜20ppm/Kの範囲内にあるポリイミド樹脂層を形成するときに、本発明の製造方法における130〜380℃の範囲での合計加熱時間(T)と、硬化促進剤を使用しない場合の130〜380℃の範囲での合計加熱時間(t)との比(t/T)が、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上であることがよい。
【0030】
フレキシブル積層板のポリイミド樹脂層は、ポリイミド樹脂層Aとポリイミド樹脂層Bを含む。ここで、導電性金属層と接する層は、ポリイミド樹脂層Aである。ポリイミド樹脂層Aは熱線膨張係数が30〜100ppm/Kの範囲内にある。このようなポリイミド樹脂層Aは、熱可塑性ポリイミド樹脂として知られているポリイミド樹脂を与えるポリイミド前駆体樹脂溶液を選択することにより形成できる。なお、導電性の金属層と接しない層は、その全部がポリイミド樹脂層Bであることが熱線膨張係数を低下させるために有利である。
【0031】
フレキシブル積層板のポリイミド樹脂層は、全体としての熱線膨張係数が15〜30ppm/Kの範囲内が好ましく、より好ましくは16〜28ppm/Kの範囲内がよい。
【0032】
また、ポリイミド樹脂層全体の厚みは5〜40μmの範囲が好ましく、より好ましくは8〜35μmの範囲がよい。ポリイミド樹脂層の厚みが5μmより薄いと、絶縁層としての強度が弱く、フレキシブル積層板の加工時にフィルムの破れ等が起こり易くなる。逆に、厚みが40μmより厚いと、フィルムが折り曲げにくくなり、フレキシブル積層板の折り曲げ性が低下する。ポリイミド樹脂層Bの厚みは、ポリイミド樹脂層全体の厚み1.0に対して、0.5〜0.99が好ましく、より好ましくは0.6〜0.97がよく、更に好ましくは0.7〜0.95がよい。このような比率にすることで、ポリイミド樹脂層の線熱膨張係数を上記範囲内に制御することが容易となる。
【0033】
ポリイミド樹脂層Bを構成するポリイミド樹脂bは、上記式(1)で表される構造単位を有することが好ましい。ここで、ポリイミド樹脂bは、式(1)で表される構造単位を単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよく、構造単位を複数有する共重合体である場合には、ブロックとして存在しても、ランダムに存在してもよい。式(1)で表される構造単位は複数あるが、1種であっても2種以上であってもよい。有利には、式(1)で表される構造単位を主成分とすることであり、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上含むポリイミド樹脂であることがよい。
【0034】
式(1)中、Ar1は式(2)〜式(5)からなる群より選ばれた2価の芳香族基を示し、Ar2は式(6)〜式(13)からなる群より選ばれた4価の芳香族基を示す。式(2)〜式(5)及び式(13)において、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示すが、好ましくは炭素数1〜2のアルキル基又はアルコキシ基である。nは独立に0〜4の整数を示すが、好ましくは0〜1の整数である。
【0035】
また、式(3)〜式(7)において、ベンゼン環を結合するXは独立に単結合若しくは-C(CH3)2-(以下、単結合及び-C(CH3)2-を単結合等(d)という)又は-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基(以下、-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-及び-CONH-を2価の基(Y)という)を示し、mは1〜5の整数を示す。そして、Ar11モルに対して上記2価の基(Y)が0.2〜0.6モル含まれる。ここで、2価の基(Y)にはXで表される以外の基でベンゼン環を結合する2価の基(Y)に該当する基を含む。具体的には式(5)中の-O-も2価の基(Y)として扱う。また、単結合等(d)に含まれる-C(CH3)2-は、単結合と同様に剛直性の樹脂を与えるので、2価の基(Y)としては計算しない。
【0036】
2価の基(Y)の含有量の計算方法を説明すると、式(3)及び式(6)は1つのXを有し、式(4)及び式(7)は2つのXを有し、式(5)は1つのXと2つの-O-を有しするので、ポリイミド樹脂中のAr1が1モルの場合、式(2)〜式(13)で表される基のモル分率を、順次A、B、C・・・Lとし、他の基を含まないとすると、Ar1中のXのモル数はB+2C+D+E+2Fと計算される(但し、A+B+C+D=E+F+G+H+I+J+K+L=1モル)。しかし、D中の2つの-O-は2価の基(Y)であるから、2価の基(Y)の合計モル数は、B+2C+3D+E+2Fと計算される。そして、Ar11モルに対して、2価の基(Y)が0.2〜0.6モル含まれるので、B+2C+3D+E+2F中の2価の基(Y)のモル数が0.2〜0.6モルあればよいことになる。なお、A+B+C+D=E+F+G+H+I+J+K+L=1モルであり、2価の基(Y)のモル数が0.2〜0.6モルであることを満足すれば、上記A、B、C・・・Lの1以上は0であってもよい。
【0037】
式(11)〜式(12)において、Zは独立に-CH2-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-又は-CONH-から選ばれる2価の基を示す。
【0038】
式(2)〜(4)及び(6)〜(13)中、Xが単結合等(d)であるとき、これらは剛直な構造を与えるため、ポリイミド樹脂層としての低熱膨張特性を向上させることができる。このような構造を有するポリイミド樹脂の前駆体は熱的閉環法を好適に利用でき、加熱温度を制御することによって熱線膨張係数を低く抑えることが可能なポリイミド樹脂といえる。
【0039】
しかし、屈曲性基である2価の基(Y)を含むと、ポリイミド樹脂層として高熱膨張特性を与えることになる。ポリイミド前駆体樹脂中に含まれる2価の基(Y)の割合が多くなる程、得られるポリイミド樹脂層は熱可塑性としての性質が高くなる反面、熱的閉環法を利用した加熱温度の制御によって、熱線膨張係数を低く抑えることが困難となる。しかし、2価の基(Y)の含有量が上記範囲内であれば、前述の硬化促進剤が効果的に作用し、ポリイミド前駆体樹脂のイミド化を280℃〜380℃の範囲内で完結し、形成されるポリイミド樹脂層の熱線膨張係数を14〜20ppm/Kの範囲内にある制御することができる。このようなポリイミド樹脂層を与えるポリイミド樹脂は、2価の基(Y)が-CH2 -、-(CH2)2-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-であることが好ましい。
【0040】
ポリイミド樹脂bの好ましいAr1としては、下式(18)〜(22)からなる群より選ばれる2価の芳香族基がある。
【化8】

【0041】
具体例としては、下式(23)〜(28)からなる群より選ばれる2価の芳香族基が好ましく挙げられる。
【化9】

【0042】
好ましいAr2としては、下式(29)〜(37)からなる群より選ばれる4価の芳香族基がある。
【化10】

(式中、Yは2価の基(Y)を示し、R1、n及びZは式(11)、(12)及び(13)と同じである。)
【0043】
式(29)〜(30)、(35)〜(37)で表される4価の芳香族基の具体例としては、下式(38)〜(44)からなる群より選ばれる4価の芳香族基が好ましく挙げられる。
【化11】

【0044】
また、ポリイミド樹脂層B構成するポリイミド樹脂bは、式(1)中、Ar1は式(2)又は式(3a)で表される2価の芳香族基であり、Ar2は式(6)又は式(7)で表される4価の芳香族基であるものが好ましい。これらの式において、R1、n、Xは上記式(2)〜(13)で説明したR1、n、Xと同じ意味を有する。
【0045】
好ましいAr1は、上式(18)又は(19)で表される2価の芳香族基である。具体例としては、上式(23)〜(25)からなる群より選ばれる2価の芳香族基が好ましく挙げられる。
【0046】
好ましいAr2は、上式(29)又は(30)で表される4価の芳香族基である。具体例としては、上式(38)〜(40)からなる群より選ばれる4価の芳香族基が好ましく挙げられる。
【0047】
また、ポリイミド樹脂層B構成するポリイミド樹脂bは、上式(1)中、Ar1は式(3)〜式(5)からなる群より選ばれた2価の芳香族基であり、Ar2は式(8)〜式(13)及び式(6a)からなる群より選ばれた4価の芳香族基をであるものが好ましい。式(3)〜式(5)、式(6a)及び式(13)において、R1、n、Xは上記式(2)〜(13)で説明したR1、n、Xと同じ意味を有する。
【0048】
好ましいAr1は、上式(20)〜(22)で表される2価の芳香族基である。具体例としては、上式(25)〜(28)からなる群より選ばれる2価の芳香族基が好ましく挙げられる。
【0049】
このようなポリイミド樹脂bの中でも、好ましくは下式(45)で表される構造単位を有するものがよい。
【化12】

式中、Rは、-CH3、-C2H5、-OCH3、-OC2H5のいずれかの置換基である。好ましくは、Rは-CH3である。また、式中、x及びyは、それぞれ構成単位の構成比率を表し、xは0.4〜0.6の範囲、yは0.6〜0.4の範囲とすることが好ましく、x+y=1である。xとyの割合において、xが0.4より小さくなると、ポリイミド樹脂層の熱線膨張係数が大きくなり、一方、xが0.6より大きくなると、ポリイミド樹脂層の引張り弾性率が大きくなる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、熱膨張特性が高いポリイミド樹脂においても、熱的閉環法を有効に利用して低熱膨張化を可能としたことにより、このようなポリイミド樹脂層をフレキシブル積層板の製造方法に適用することで、生産性を飛躍的に高める効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施例について述べる。なお、以下の実施例において特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0052】
[熱線膨張係数の測定]
熱線膨張係数の測定は、セイコーインスツル(株)製熱機械分析装置TMA/SS6100を用いて、合成例から得られたポリイミドフィルムを室温から255℃まで20℃/分の速度で昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で室温まで冷却し、ポリイミドフィルムの寸法変化から100℃から240℃までの平均熱膨張係数(熱線膨張係数)を算出した。
【0053】
[引張り弾性率の測定]
引張り弾性率の測定は、東洋精機(株)製ストログラフR-1を用いて、幅12.4mm、長さ210mmのポリイミド樹脂を50kgの荷重を加えながら50mm/分で引張り試験を行った。
【0054】
実施例中に用いられる略号は、次の通りである。
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
m-TB:2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル
DAPE:4,4´−ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:無水ピロメリット酸
PPD:パラフェニレンジアミン
ODPA:4,4'−オキシジフタル酸二無水物
NMI:N−メチルイミダゾール
2MI:2−メチルイミダゾール
【0055】
合成例1
300mlのセパラブルフラスコ中において、44gのDMAcに3.9gのBAPP(9.4mmol)を加え、室温下で撹拌しながら溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で2.0gのPMDA(9.1mmol)及び0.1gのBPDA(0.5mmol)を加え、3時間撹拌を続け、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液aを得た。このとき、式(1)におけるAr11モル中の2価の基(Y)は2.0モルとなる。
【0056】
合成例2
300mlのセパラブルフラスコ中において、85gのDMAcに4.2gのm-TB(19.0mmol)及び3.2gのDAPE(16.0mmol)を加え、室温下で撹拌しながら溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で7.6gのPMDA(35.0mmol)を加え、3時間撹拌を続け、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液bを得た。このとき、式(1)におけるAr11モル中の2価の基(Y)は0.46モルとなる。
【0057】
合成例3
300mlのセパラブルフラスコ中において、97gのDMAcに5.5gのm-TB(20.0mmol)及び1.8gのPPD(16.3mmol)を加え、室温下で撹拌しながら溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で5.1gのODPA(16.3mmol)及び5.9gのBPDA(20.0mmol)を加え、3時間撹拌を続け、重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液cを得た。このとき、式(1)中におけるAr11モル中の2価の基(Y)は0.45モルである。
【0058】
合成例4
合成例2と同様にして得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bに、5gのDMAcに溶解した2.9gのNMI(35.0mmol)(pKaが7.0)の溶液を加えた後、30分間撹拌を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液dを得た。
【0059】
合成例5
合成例3と同様にして得られたポリイミド前駆体樹脂溶液cに、5gのDMAcに溶解した3.0gのNMI(36.3mmol)の溶液を加えた後、30分間撹拌を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液eを得た。
【0060】
合成例6
合成例2と同様にして得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bに、5gのDMAcに溶解した2.9gの2MI(35.0mmol)(pKaが7.8)の溶液を加えた後、30分間撹拌を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液fを得た。
【0061】
合成例7
合成例2と同様にして得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bに、5gのDMAcに溶解した2.8gのピリジン(35.0mmol)(pKaが5.2)の溶液を加えた後、30分間撹拌を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂溶液gを得た。
【0062】
作製例1
合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液aを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムaを得、得られたポリイミド樹脂フィルムaの熱線膨張係数を測定したところ、43ppm/Kであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0063】
作製例2
合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液aを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムa2を得、得られたポリイミド樹脂フィルムa2の熱線膨張係数を測定したところ、51ppm/Kであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0064】
作製例3
合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムbを得、得られたポリイミド樹脂フィルムbの熱線膨張係数を測定したところ、15.4ppm/Kであり、引張り弾性率は6.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0065】
作製例4
合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムb2を得、得られたポリイミド樹脂フィルムb2の熱線膨張係数を測定したところ、20.9ppm/Kであり、引張り弾性率は6.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0066】
作製例5
合成例3で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液cを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムcを得、得られたポリイミド樹脂フィルムcの熱線膨張係数を測定したところ、15.4ppm/Kであり、引張り弾性率は6.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0067】
作製例6
合成例3で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液cを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムc2を得、得られたポリイミド樹脂フィルムc2の熱線膨張係数を測定したところ、20.8ppm/Kであり、引張り弾性率は6.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0068】
作製例7
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムdを得、得られたポリイミド樹脂フィルムdの熱線膨張係数を測定したところ、16.0ppm/Kであり、引張り弾性率は5.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0069】
作製例8
合成例5で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液eを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムeを得、得られたポリイミド樹脂フィルムeの熱線膨張係数を測定したところ、16.0ppm/Kであり、引張り弾性率は5.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0070】
作製例9
合成例6で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液fを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムfを得、得られたポリイミド樹脂フィルムeの熱線膨張係数を測定したところ、16.0ppm/Kであり、引張り弾性率は5.2GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0071】
作製例10
合成例7で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液gを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムgを得、得られたポリイミド樹脂フィルムgの熱線膨張係数を測定したところ、14.5ppm/Kであり、引張り弾性率は6.4GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【0072】
作製例11
合成例7で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液gを基板上に塗布し、125℃で3分間乾燥し、その後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了させ、基板を除去してポリイミド樹脂フィルムg2を得、得られたポリイミド樹脂フィルムg2の熱線膨張係数を測定したところ、21.5ppm/Kであり、引張り弾性率は6.5GPaであった。このときのフィルム厚みは25μmであった。
【実施例】
【0073】
実施例1
銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製、BHY-22B-T、厚み35μm)の上に、合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した。更にその上に、合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dを硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した後、130〜360℃の範囲で6分間熱処理を行い、イミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板1を得た。得られた積層板1の銅箔層をエッチングにより除去し、ポリイミド樹脂フィルム1を得、得られたポリイミド樹脂フィルム1の熱線膨張係数を測定したところ、27.1ppm/Kであった。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dの代わりに、合成例5で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液eを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂フィルム2を得、得られたポリイミド樹脂フィルム2の熱線膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
実施例3
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dの代わりに、合成例6で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液fを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂フィルム3を得、得られたポリイミド樹脂フィルム3の熱線膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
比較例1
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dの代わりに、合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂フィルム4を得、得られたポリイミド樹脂フィルム4の熱線膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0077】
比較例2
合成例4で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液dの代わりに、合成例7で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液gを使用した以外は、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂フィルム5を得、得られたポリイミド樹脂フィルム5の熱線膨張係数を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
参考例1
銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製、BHY-22B-T、厚み35μm)の上に、合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した。更にその上に、合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液bを硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板6を得た。得られた積層板6の銅箔層をエッチングにより除去し、ポリイミド樹脂フィルム6を得、得られたポリイミド樹脂フィルム6の熱線膨張係数を測定したところ、27.4ppm/Kであった。結果を表1に示す。
【0079】
参考例2
銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製、BHY-22B-T、厚み35μm)の上に、合成例1で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した。更にその上に、合成例3で得られたポリイミド前駆体樹脂溶液cを硬化後の厚みが23μmとなるように塗布し、125℃で3分間乾燥した後、130〜360℃の範囲で12分間熱処理を行い、イミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板7を得た。得られた積層板7の銅箔層をエッチングにより除去し、ポリイミド樹脂フィルム7を得、得られたポリイミド樹脂フィルム7の熱線膨張係数を測定したところ、27.4ppm/Kであった。結果を表1に示す。
【0080】
以上の結果をまとめて表1に示す。なお、表1中の生産性の評価とは、参考例1又は2で作製した積層板の熱処理時間12分を基準とし、この時間に対して2/3倍以下に短縮できた場合を○とし、2/3倍を超える場合を×とした。また、表1中の積層板の評価とは、参考例1又は2で作製した積層板のポリイミド樹脂層の熱線膨張係数を基準とし、この値に対して増加が10%以下である場合を○とし、10%を超える増加が認められる場合を×とした。また、PI樹脂層はポリイミド樹脂層を意味し、CTEは熱線膨張係数を意味する。
【0081】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属層とポリイミド樹脂層からなるフレキシブル積層板の製造方法において、導電性金属層の表面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行い、導電性金属層と接するポリイミド樹脂層Aと、熱線膨張係数が14〜20ppm/Kで、引張り弾性率が3〜6GPaのポリイミド樹脂層Bとを含む少なくとも2層のポリイミド樹脂層を形成し、且つポリイミド樹脂層Bが、水溶液中でのプロトン錯体の酸解離指数(pKa)が5.5〜7.8の範囲にある硬化促進剤を含有するポリイミド前駆体樹脂溶液から形成されることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項2】
硬化促進剤が、置換又は非置換のイミダゾール、2−ピコリン、N−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール及び2,6−ルチジンから選択された少なくとも1種の含窒素複素環化合物であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項3】
ポリイミド樹脂層Aの熱線膨張係数が30〜100ppm/Kの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項4】
ポリイミド樹脂層全体の熱膨張係数が15〜30ppm/Kの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項5】
ポリイミド樹脂層全体の厚みが5〜40μmの範囲内にあり、且つポリイミド樹脂層Bの厚みがポリイミド樹脂層全体の厚み1.0に対して、0.5〜0.99であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項6】
ポリイミド樹脂層Bを構成するポリイミド樹脂bが、下記式(1)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(1)中、Ar1は式(2)〜式(5)で表される2価の基からなる群より選ばれた2価の芳香族基を示し、Ar2は式(6)〜式(13)で表される4価の基からなる群より選ばれた4価の芳香族基を示す。式(2)〜式(5)及び式(13)において、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。式(3)〜式(7)において、Xは独立に単結合又は-C(CH3)2-、-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基を示す。そして、Ar11モルに対して、式(3)〜式(5)において、ベンゼン環を結合するX及びOとして表される基であって、-(CH2)m-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-及び-CONH-から選ばれる2価の基が合計で0.2〜0.6モル含まれる。mは1〜5の整数を示す。式(11)〜式(12)において、Zは独立に-CH2-、-O-、-S-、-SO2-、-NH-、-CO-又は-CONH-から選ばれる2価の基を示す。)
【請求項7】
式(1)において、Ar1は式(2)又は下記式(3a)で表される2価の芳香族基であり、Ar2は式(6)又は式(7)で表される4価の芳香族基である請求項6に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【化4】

(式(3a)において、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。)
【請求項8】
式(1)において、Ar1は式(3)〜式(5)で表される2価の基からなる群より選ばれた2価の芳香族基であり、Ar2は下記式(6a)及び式(8)〜式(12)で表される4価の基からなる群より選ばれた4価の芳香族基である請求項6に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【化5】


【公開番号】特開2008−238572(P2008−238572A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82132(P2007−82132)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】