説明

フレキソ印刷版およびその製造方法、薄膜および液晶表示素子の製造方法

【課題】液晶配向膜などの薄膜印刷において、高精細な網点表面を用いることなく優れた転移性を有し、NMP濡れ安定性や印刷後の版クリーニング性や耐久性に優れた薄膜印刷性フレキソ印刷版およびその製造方法、薄膜および液晶表示素子の製造方法を提供する。
【解決手段】版表面平均粗さが1〜5μmであることを特徴とするフレキソ印刷版およびその製造方法、薄膜および液晶表示素子の製造方法。好ましくはフレキソ印刷版が光硬化性樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子基板の電極形成面上に均一な膜厚の配向膜を形成することのできるフレキソ印刷版およびその製造方法、薄膜および液晶表示素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷版は段ボール、紙器、紙袋、軟包装用フィルムなど包装・パッケージ分野、シールラベルに代表される包装材印刷分野、化粧仕上げ等ニス引きコーティングや建材、電子部品などの美粧やマーキング印刷分野など広範な印刷用途分野で使われている。その主な理由はオフセット印刷やグラビア印刷等と比べ、柔らかで弾力性に優れた凸部に盛ったインキを単に転写するだけのシンプルな印刷原理に由来するもので、インキそのものが単純であるだけでなくフィルムや紙だけでなく広範な被印刷材料への印刷ができる特長が挙げられる。
【0003】
フレキソ印刷版としては、従来は鋳造版や彫刻版に代表されるゴム版や活性光線を用いて製版される感光性樹脂版が一般的に用いられていた。更には、近年では印刷物製作工程における印刷データの電子化が進み、ディジタル化された画像情報を印刷版となる材料に間接または直接的に出力するなど、レーザー光を用いたフレキソ印刷版製造方法が一般的になってきている。
【0004】
フレキソ印刷版の製版方法としてレーザー光を用いた間接的な製造例としては、銀塩フィルムや感熱性フィルムなど印刷画像マスクフィルムを一旦作成してから紫外線硬化型の感光性樹脂を用いて製版する方法と、当該感光性樹脂表面に画像マスクとなる感熱層が一体化されたCTP(Computer To Plateの略称)版を利用する例が挙げられる。後者の具体的な事例としては特開H08−305030号公報に開示されているように、サーマルレーザー感応性を持ち且つ紫外線不透過性のマスク樹脂層が紫外線硬化性の感光性樹脂表面に数μの厚みで複合一体形成され、当該サーマルレーザー感応層にレーザー光を直接描画することで当該マスク樹脂の印刷画像部分を焼き飛ばして画像マスクを形成させるものである。その結果、サーマルレーザー感応層には紫外線透過可能な印刷画像マスクが一体形成されるため、その後全面に紫外線照射をすることにより従来の製版と同じように印刷画像部分を選択的に硬化させることができ、未硬化部分は溶剤現像や熱現像などの公知の方法で処理するものである。
【0005】
他方、直接的にフレキソ印刷版を作る方法例としては、炭酸ガスレーザーなどの高出力レーザーを用いてゴム版を彫刻する方法は以前から行われていたが、より優れた解像力や生産性の改善が図られた樹脂版で非画像部分を直接焼き飛ばしてレリーフ凸部を形成するレーザー彫刻版製版法が開示されている。(特許第3801592号公報)
包装材印刷分野以外の特異な用途にフレキソ印刷方式の特長を生かした事例としては、高い塗膜品質性能が要求される液晶表示装置の配向膜印刷版としての用途が挙げられる。当該用途で使用されるフレキソ印刷版には、ピンホールがなく、薄膜で且つ高い厚み精度が塗工性能に要求されるため、この分野向けには高精度薄膜印刷を可能とするフレキソ印刷版が各社から創意工夫され出願されている。(特開2002−293049号公報、特許第2933790号公報)
これら高精度薄膜印刷用のフレキソ版では紫外線感光性樹脂が主に使われており、凸部印刷表面には前記配向膜用のポリイミド樹脂を含むインキを保持させるための微細な突起と溝部が光成型によって形成、配置されている。更にその表面に配置された微細な突起や溝部においては、配向膜印刷において不均一性を生ずる印刷塗膜周辺部がその印刷膜の不均一性を修正する目的で、当該部分の塗布性を補正する特別な突起部と溝部の配置が行われている。(特許第3376908号公報、特開平11−59004号公報)そのため、このようなフレキソ印刷版の製作には高精細で且つ複雑な特殊なマスクフィルムの製作が必要で、マスクフィルム製作技術そのものももちろんその製造設備にも特別なものが必要となっている。
【0006】
また、これらフレキソ印刷版表面の微細な突起や溝部は当該マスクフィルムを用いた光成型によって作られるため、マスク製作やフレキソ版製版時のごみや埃など異物による品質への悪影響を受けやすく、製造環境の高いクリーン度を必要するばかりでなく仕上がった印刷版の性能検査も難しく、製品歩留まりはもちろん生産性の問題からコスト高の問題を抱えていた。
【0007】
更に、この配向膜印刷用フレキソ版は通常のフレキソ印刷と同じように繰り返し液晶配向膜基板の製造に使用される。そのため、フレキソ印刷版表面に設けられた微細な突起部や溝部分を清浄に保持するため、印刷終了後には必ず印刷版洗浄を行う必要があり、その際に微細な突起部や溝部分のキズや欠損が避け難く、ピンホールのない均一性に優れた安定した薄膜形成に支障が生じ易い問題も抱えていた。
【0008】
一方、紙器、紙袋や軟包装フィルムなど包装材印刷分野において用いられるフレキソ印刷版の凸部表面形状としては、良好な印刷を与える印刷版としてベタ画像の表面平均粗さRaが0.1〜0.6μmの特定範囲に制御されることが望ましいと特開2003−43672号公報では開示されている。しかし、このような粗さのフレキソ印刷版では液晶配向膜印刷で要求されているような均質な薄膜を、高精度に且つピンホールなく製造することはできなかった。
【特許文献1】特開H08−305030号公報
【特許文献2】特許第3801592号公報
【特許文献3】特開2002−293049号公報
【特許文献4】特許第2933790号公報
【特許文献5】特許第3376908号公報
【特許文献6】特開平11−59004号公報
【特許文献7】特開2003−43672号公報
【特許文献8】特開昭52−90304号公報
【特許文献9】特開平8−220737号公報
【特許文献10】特開2000−206677号公報
【特許文献11】特開昭55−48744号公報
【特許文献12】特開平8−305030号公報
【特許文献13】特開2006−301056号公報
【特許文献14】特開2006−341468号公報
【特許文献15】特開2003−025749号公報
【特許文献16】特開昭59−54600号公報
【特許文献17】特開2000−155410号公報
【特許文献18】特開2001−121833号公報、
【特許文献19】特許第2846954号公報
【特許文献20】特許第2846955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明はピンホールのない高精度の薄膜でその厚み精度が要求される液晶配向膜用印刷版において、従来のような微細且つ複雑な突起部及び溝部などで構成される凸部表面とは異なる高生産性、高信頼性に優れた安価なフレキソ印刷版およびその製造方法、薄膜および液晶表示素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記の課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)印刷面の表面平均粗さRaが1〜5μmであることを特徴とするフレキソ印刷版。
(2)前記フレキソ印刷版が光硬化性樹脂からなることを特徴とする(1)に記載のフレキソ印刷版。
(3)前記フレキソ印刷版を形成する光硬化性樹脂が、プレポリマーと、少なくとも1種類以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、光重合開始剤とを必須成分とする感光性樹脂組成物であることを特徴とする(2)に記載のフレキソ印刷版。
(4)(2)または(3)に記載のフレキソ印刷版の製造方法であって、活性光線透過性を有する粗面化された型材面に光硬化性樹脂を接触させた状態で、活性光線を照射・硬化させる工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
(5)印刷に不要な部分を機械的、熱的に切除する工程を含むことを特徴とする(4)に記載のフレキソ印刷版の製造方法。
(6)(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版を用いて薄膜形成を行うことを特徴とする薄膜の製造方法。
(7)(1)乃至(3)のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版を用いて液晶配向膜を製造することを特徴とする液晶表示素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、これまでのような印刷版表面部に複雑微細な突起部や溝部などを特別に必要としないため、印刷耐久性に優れるばかりでなく印刷洗浄性にも優れ、ベタツキのない印刷信頼性の高いフレキソ印刷版とすることができる。単純且つ均質化した表面であることから安価な印刷版製作も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明におけるフレキソ印刷とは、柔らかで弾力性に優れた凸部に盛ったインキを単に転写する印刷方式であり、インキそのものが単純であるだけでなくフィルムや紙だけでなく広範な被印刷材料への印刷ができる。
【0013】
本発明に用いられるフレキソ印刷版としては、広くフレキソ印刷において使用されている印刷材料が使用でき、活性光線や熱硬化工程を経て不溶化するようなエラストマー材料が好適である。感光性樹脂材料は活性光線照射により常温で迅速に硬化処理できるため特に好適な材料であるが、熱硬化反応を利用した加硫ゴムやシリコーンゴム、フッ素ゴムエラストマー材料などの非感光性のエラストマー材も本発明の材料として用いることができる。活性光線により硬化処理できる感光性樹脂は、硬化の際に高温且つ長時間を要する非感光性エラストマー材料と比べ高い生産性が得られるだけでなく、印刷版としての厚み精度などにも優れた特長がある。
【0014】
本発明のフレキソ印刷版は、その版表面平均粗さが1〜5μmであることが必要である。印刷版の表面平均粗さがこの範囲にあるとき、印刷版はピンホールのない均一性に優れた高精度の薄膜液晶配向膜印刷を実現することができる。この時、版表面粗さはJIS表面粗さ(B0601)の算術平均粗さであるRa(以下、中心線平均粗さを「Ra」と称す。)によって求めることができ、好ましくは1.5〜4μmであり、より好ましくは1.5〜3μmである。
【0015】
このRaは市販されている粗さ測定器を使用することで求めることができる。測定には測定針を版表面に接触させ、版表面をスキャニングすることで中心線平均粗さRaを求めることができるが、最近ではレーザー光の反射から表面粗さを求める非接触方式の測定法も利用することができる。
【0016】
本発明で言うフレキソ印刷版の版硬さは一般的に知られているゴム硬度計で簡単に測定することができる。例えばJIS K6253のデュロメータタイプA(ショアA)やJIS K6301のスプリング式A型などの硬度計で測定することができ、その硬度は20度〜80度のものが使用されるが、好ましくは40度〜65度のものを挙げることができる。
【0017】
感光性樹脂材料から得られる印刷版の硬度は、印刷版を構成する樹脂成分組成を調製することで任意の硬さのものを作ることができる。例えば、特開昭52−90304号公報、特開平8−220737号公報や特開2000−206677号公報のような感光性材料がプレポリマーとエチレン性不飽和化合物及び光重合開始剤などからなる感光性樹脂エラストマーでは、プレポリマーを含めた当該樹脂に占める不飽和基の濃度を調整することで容易に目的とする印刷版硬度を選ぶことができる。
【0018】
また、特開昭55−48744号公報、特開平8−305030号公報や特開2006−301056号公報などスチレン−イソプレンやブタジェン−スチレン系熱可塑性エラストマーなどを骨格ポリマーに、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤から構成される感光性樹脂では、物理的分子内拘束力の高い熱可塑性エラストマーの分子構造、可塑剤や軟化剤の選択や、当該樹脂成分に占めるエチレン性不飽和化合物の不飽和基濃度を適宜調整する事などで印刷版硬度を任意に調整することができる。
【0019】
本発明のフレキソ印刷版樹脂材料の耐薬品性については、印刷で使用するインキやインキ洗浄剤などの成分により膨潤し難い、厚みや硬度など物性変化が少ない材料が望ましい。そのためには前記樹脂材料を構成する成分で主成分となるプレポリマーや骨格ポリマーの選択が重要であるが、その耐薬品性は実用上支障のない物性変化範囲であれば特に縛られない。
【0020】
一方、加硫ゴムのような加硫という架橋工程を経て化学的に分子内結合を持たせたエラストマー材料も本発明に有用な印刷版材料である。ゴム材料の不溶化、すなわち硬化工程に加熱重合が利用される加硫ゴムでは、硬化温度が高かったり硬化に要する時間が長いなど製造性や品質で感光性樹脂と比べ劣る問題はあるものの実用可能なものである。更に、低温硬化が可能な非感光性エラストマー材料であるシリコーンゴムなども本発明のエラストマー材料として有用なものである。
【0021】
本発明の印刷版表面の粗さ調製方法としては、表面を予め粗面化処理したプラスチック、ガラス、陶器や金属材料などの表面の粗さを印刷版製造時の表面に転写・形成させる方法や、印刷版となるシート状に加工されたエラストマー材料表面を研磨剤で荒らしたりする一般的に良く知られた粗面化加工技術が利用できる。
【0022】
プラスチック製のフィルム、シートやガラス製で作られた前記型材料が紫外線などの活性光線透過性を有する場合には、当該型材面に感光性樹脂などの光硬化性材料を押し広げたり、型枠に流し込んでシート状にした後、型材面側又は/及びその反対面側から活性光線照射を行うことで、当該樹脂硬化と表面粗面化を同時に行うことができ、目的とする表面粗さを有する本発明のフレキソ印刷版用シートを効率的に製造することができる。
【0023】
それらの型材が陶器や金属型材などのような活性光線不透過性の素材からなる場合には、本発明のフレキソ印刷版となるエラストマー材料は架橋剤、熱硬化剤などを加え予め組成物を調製し、型枠などにプレスや圧送液などしてシート状に押し広げた後、加熱で加硫処理したり、シリコンゴムなどのような室温硬化タイプの重合メカニズムを利用したりして非感光性材料を使用することも、本発明の印刷版表面の粗さを版面に転写・形成させる有効な方法である。
【0024】
他方、シート化されたエラストマー材料の表面粗面化方法としては、研磨砥石や研磨材を用いた研磨ベルトなどにより表面を研削する公知の方法が粗面化する手段として利用できる。例えば、特開2006−341468号公報や特開2003−025749号公報で開示されている砥石を用いた感光性樹脂材料の表面研磨などの方法を用いれば、研磨材の粗さや接触時間、回数などとの組み合わせを選ぶことにより任意の表面粗さに加工することができる。
【0025】
オフセット印刷用ブランケット、印刷ロールや人工皮革などの表面仕上げに使用されるワイドベルトサンダー(商品名:株式会社名南製作所製)は、研磨ベルトの研磨材の種類や回転速度、被研磨材料の送り速度や研磨圧力などを組み合わせて制御することで、任意の表面粗さを設けることができる。
【0026】
本発明のエラストマー材料に用いることのできる粗面化された型材の作り方としては、当該型材料の表面を固定された砥粒を用いて研削する粗面化処理や、硬い金属製のブラシなどで擦って粗面化する方法、遊離砥粒を用いたバフ加工やサンドブラストのような噴射加工法など、公知の粗面化の加工方法を利用することができる。
【0027】
本発明のフレキソ印刷版構成体は樹脂層、支持体層と、必要に応じクッション層から構成される。支持体層としてはオフセット印刷ブランケットなどで見られる織布を組み合わせた基材、プラスチックフィルムや金属シートなどが利用できる。特に50〜350μmの範囲の厚みを持つポリカーボネートやポリエステルフィルムなどに代表されるプラスチックフィルムは寸法安定性や取り扱い性に優れた材料であり、樹脂層と接するその表面には必要に応じコロナ処理、アンカー剤処理や易接着層などを設けたりして、接着剤などで接合する公知の方法を利用することができる。(特開昭59−54600号公報特開2000−155410号公報)また、クッション層は印刷レリーフ樹脂材料より低い硬度であれば良く、同じ樹脂材料を用いて低密度化した樹脂発泡体で構成しても構わない。
【0028】
本発明による印刷版表面の粗面化は印刷画像パターン作成の前でも後でも作ることができる。しかし未硬化のエラストマー材料を用いて印刷画像パターンを作成する場合には画像マスクが別に必要となり、活性光線照射処理後にマスクされた非画像部分の未硬化樹脂を除去する現像工程が必要になるなど、印刷版製造工程が複雑になる問題がある。他方、予め活性光線による光硬化や熱反応などで硬化させて印刷版用シート状又は円筒状に加工されたエラストマー材料などは、印刷非画像部となる部分を機械的に彫刻除去したり、熱レーザーにより融除することでフレキソ印刷版を作成する公知の技術(特開2001−121833号公報、特許第2846954号、同2846955号公報)を利用することもできる。これらの方法は画像マスクや硬化処理後の非画像部樹脂の現像処理工程が不要になるなど、製作工程が単純化できることで製作時間やコストの点で有利な印刷版製造方法である。
【0029】
前記エラストマー材料の表面粗面化する方法としては、研磨剤などを用いて機械的に印刷表面を粗面化させることもできるが、本発明のフレキソ印刷版を得る好適な方法としては硬化前の樹脂材料を粗面化した型材面に密着させながら、活性光線による光硬化や熱反応を用いて硬化させる型材粗面転写法がより好ましい。すなわち、硬化前の流動性のあるエラストマー樹脂材料を目的とする表面粗面化を与える型材面に一定厚みになるように押し広げ、密着させた状態で硬化させるもので、本発明の印刷版表面粗面化と印刷版としての厚みを整えるシート化とを同時に達成することができる方法である。
【0030】
以下に、液状の感光性樹脂エラストマー材料を用いたシート化と粗面化とを同時に加工する本発明の支持体付き表面粗面化印刷版の制作方法の一例を述べる。図1は本発明の表面粗面化エラストマーシート10で、支持体11に接合してエラストマー層12が、更に粗面化されたエラストマー表面13が形成された構成体である。図2は本発明の表面が粗面化されたフレキソ印刷版20を示し、図1の表面粗面化エラストマーシートの印刷で不要な部分をレーザーで切除したものである。粗面化表面23を有した印刷レリーフ部22は、レーザーによって切除されたバック層面24から形成される。
【0031】
図3は本発明の一例で用いたベースガラスの内側面のレイアウトを示したものである。ベースガラスの四周にはスペーサーを取り付ける平滑部31を設け、その内側には支持体を真空吸着させるための粗面化部32を配し、その周囲に接する配置で真空及び/又は圧気溝部33を、その溝の複数個所には真空及び/又は圧気孔34を設けた。もう一枚のガラスはベースガラスと同じ大きさのカバーガラス40で、図4にその内側面のレイアウトを示す。このガラスは本発明の印刷版表面の粗面化部を形成させるもので、ベースガラスに取り付けられたスペーサー部分に対抗する最外周部は平滑面41とし、その内側部分を全面に粗面化42を施した。更にその粗面化部分の内側四隅付近には樹脂注入及び/又は空気抜き孔43を設けておいた。
【0032】
次いで図5に本発明の表面粗面化エラストマーシートの成型例の断面レイアウト図を、図6に平面レイアウト図を示した。まず、ベースガラス30に取り付けたスペーサー51の内側に収まり、真空及び/又は圧気溝33より大き目の接着処理済のプラスチックシート11(以下、ベースフィルムと呼称する。)を樹脂と接着させる側を上面に置き真空固定する。次いで当該ベースフィルム11上にスペーサー厚みより厚めで且つ柔らかなスポンジテープ52を前記樹脂注入/空気抜き孔43を囲い込むように貼り付ける。そして、更にその内側に空気排出孔とするスポンジテープ52を、中央部を2cmほど開口して設ける。そして本発明の印刷版表面となるカバーガラスの粗面化面を内側にして重ねて乗せ、2枚のガラス板をスペーサー位置でクランプなどを用いて四周を締め付けて固定する。
【0033】
次に、2枚のガラスの間隙に液状の感光性樹脂エラストマー材料を加圧注入する。この時樹脂の注入は平らな状態で行っても良いが、スポンジテープ開口部が上面になるように縦吊りにして、下部側となる樹脂注入/空気抜き孔43を一箇所又は二箇所用いて樹脂注入すると容易に行うことができる。その際、上部側の樹脂注入/空気抜き孔43は空気抜き孔として使用する。
【0034】
スポンジテープで囲った一部開口させた内側部分が樹脂で満たされたら樹脂の供給を止め、しばらく放置して加温した樹脂温度や合わせたガラスの厚みが安定化するまで待つ。樹脂の広がりが落ち着いたら、図5に示すように紫外線ランプ53などの活性光線をベースガラス及び/又はカバーガラス面から照射し、本発明の粗面化表面を有するシート状エラストマーを得ることができる。
【0035】
所定の紫外線照射が終わったらカバーガラスが下側に、ベースガラスが上側になるようにして平らな場所に置きクランプを取り外す。次にベースフィルムの真空固定を解除し、圧気に切り替え、スペーサーが取り付けられたベースガラスを取り除く。その後、カバーガラス面に一体化した本発明の表面が粗面化された印刷版用エラストマーシートを、カバーガラス表面からベースフィルムごと剥ぎ取る。
【0036】
このように樹脂エラストマー硬化の際に支持体材料を予め配置することで、支持体付きの粗面化表面を有する本発明の印刷版材料シートを得ることができる。本発明の例として活性光線透過性のガラスを2枚使う事例を述べたが、ベースガラス又はカバーガラスのいずれかが活性光線透過性材料であればもう一方は金属やセラミックスなど活性光線不透過性素材であってもよい。また、本発明の粗面化された型材に密着配置させて硬化させた感光性樹脂エラストマー材料の表面は、これまでに見られない低粘着性でドライな望ましい表面特性となる特徴もある。
【0037】
液状感光性樹脂などを印刷版にシート化する好適な成型法としてはAPR樹脂(商品名:旭化成ケミカルズ(株)製)などを用いた印刷版成型法がよく知られている。本発明にこの成型方法を用いることにより、印刷版としての厚み精度と粗面化を同時に満足し且つ生産性にも優れたエラストマーシートの製造が可能である。つまり、この方法では所定の粗面化を施した下ガラスの上面側に硬化前の感光性樹脂を直接粗面化ガラス面に押し広げ、同時に前記感光性樹脂と接着可能な処理面を有するベースフィルムを重ね合わせ、その背面に重ねられた上部ガラス面にベースフィルムを真空固定させた後、紫外線を上下同時もしくは下部面から全面に照射する。この成型・露光法の原理を利用すれば、容易に表面が粗面化された本発明の印刷用樹脂エラストマーシートを得ることができる。
【0038】
このようにして得られた表面粗面化エラストマーシートは、機械彫刻や熱レーザー彫刻など公知の方法により所定の印刷パターンを刻み込むことにより、液晶配向膜のような高精度の薄膜印刷を可能とする本発明の粗面化された印刷面を持つフレキソ印刷版とすることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例を挙げて更に詳細を説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例における測定法及び評価方法は次の通りである。
(1)表面粗さはレーザー表面粗さ計を用いて測定し、算術平均粗さRaを求めた。
(2)スペーサー及び版厚はディジタル厚み計を用いて最小単位1/100mmで測定した。
(3)版硬度はゴム硬度計タイプショアAを用いて、支持体付き版の硬さを測定した。
(4)NMP濡れ安定性は、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)を不織布に含ませて版表面を撫でるように薄く塗布したあと、はじきが見られるまでの時間を比較した。
(5)ベタツキは手指の腹を軽く押し付けたときの粘着の大小を官能評価した。
(6)配向膜印刷性能評価は液晶配向膜印刷機(型式:A45、ナカン(株)製)を用いた。アニロックスロール#400を用いて配向膜ワニスをITO膜付きガラスに印刷し、印刷塗膜の厚みと均一性、印刷版の板ガラス持ち上げ(離れ安定)性を評価した。また、印刷終了後の印刷版面のクリーニング性については、ワニスの落ち具合からその良否を評価した。
【0040】
<発明例1>
厚さが19mmと12mmで、大きさが横810mm×縦670mmの板ガラスを2枚準備した。厚さ19mmの板ガラスにはその内側50mmの位置に5mmの溝とその溝部枠の対抗角位置に5mmの真空/圧気孔を設け、その内側を#120の研磨材でサンドブラスト加工を施して粗面化してベースガラスとした。このガラスの四周には全厚み高さが2.25mmとなるよう20mm幅の金属性スペーサーを両面テープで貼り付けた。一方、厚さ12mmのガラスには四周25mm幅を残し、その内側全面を#220の研磨剤でサンドブラストした。この時、各辺の端部から約60mmの四隅に樹脂注入/空気抜き孔をそれぞれ設けカバーガラスとして準備した。
【0041】
188μ厚みのベースフィルムBF−22C(商品名、旭化成ケミカルズ(株)製)を745mm×610mmの大きさに切り出して、ベースガラスのスペーサー部内側に接着剤面が上側になるように置き、真空/圧気孔を真空ラインに接続して密着固定した。次いで当該ベースフィルム上の四周端部から約25mm、カバーガラスの樹脂注入/空気抜き孔を囲い込む位置となるよう約8mm幅、約2.3mm厚みのスポンジテープ(商品名:ネオロン角紐、(株)ノブカワ製)を四周に貼り付けた。このとき内側の空気排出孔付近のスポンジテープは、その中央付近を約20mm程度空けて貼り付けた。そのあと、その上にカバーガラスを粗面化面がスポンジ側に接するように重ね合わせ、ベースガラスのスペーサー部分で周囲をクランプで締め付け、ベースフィルムを真空固定したままスポンジテープ開口部が上になるように縦吊りとした。
【0042】
その後、12mm厚みのカバーガラス下部の二箇所の樹脂注入孔から液状感光性樹脂APR/K11(商品名、旭化成ケミカルズ(株)製フレキソ印刷用感光性樹脂)を加温しながら約0.2MPaの圧力で注入したところ約15分でスポンジ内部が樹脂液で満たされた。次いで注入後の樹脂/ガラスの冷却と厚みの安定化を目的に縦吊りの状態で一晩放置した。
【0043】
一晩放置後の注入された樹脂液面は、スポンジ開口部より僅か上がったもののスポンジ枠から溢れ出した樹脂の量は僅かであった。次いでカバーガラス側から40WケミカルランプFL40SBL(商品名、東芝(株)製)を用い、140mmの距離から30分間室温下でその全面を紫外線照射した。露光完了後、ベースフィルム固定用ガラスを圧気ラインに切り替えベースガラスを取り外した。カバーガラス上の硬化樹脂をベースフィルムと共に剥がし取ったところ、表面が粗面化された厚み2.25mmのポリエステルフィルム支持体付きの感光性樹脂エラストマーシートを得た。この粗面化面の表面平均粗さRaは2.4μmで、シート表面の指触によるベタツキ感は殆んどなく、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)液を含ませた不織布での塗布性も極めて良く、塗ってからはじき始めるまでの時間は60秒以上と安定した濡れ性が得られた。
【0044】
この粗面化された表面を有するシートを用いて、炭酸ガスレーザーで配向膜印刷用パターンを焼き込んだ。炭酸ガスレーザーによる処理は400W2ビームの下、ビーム径20ミクロン、送りピッチ60ミクロン、速度140cm/secで行った。その後、レーザー描画処理時の融除飛沫樹脂で汚れた当該シート面はKS−HGシンナー(商品名、太陽化学(株)製)で洗浄し、十分に乾燥させた。その結果、全体厚み2.28mmでレリーフ高さ約0.5mmの表面が粗面化された液晶配向膜印刷版を得た。
【0045】
この版を用いてITO膜付きガラスへの液晶配向膜の印刷を行った。液晶配向膜印刷機(型式A45、ナカン(株)製)を用い、アニロックスロール#400、配向膜印刷用ワニスAL60702(商品名、日本合成ゴム(株)製)を用いて0.7mm厚みのITO膜付きガラスに印刷したところ、予備乾燥後塗膜厚み1,100オングストロームのピンホールのない均一な塗膜面が得られた。また、配向膜印刷用ワニス供給ない状態で印刷を行ってもITO膜付きガラスが浮き上がることはなく、粘着性の極めて少ない版面であることが判った。印刷終了後の版面クリーニングはNMPを含ませた不織布でも簡単容易に行うことができた。
<発明例2〜7>
発明例1で用いた2枚の板ガラスのうち、12mm厚みのカバーガラスを用いて粗面化部をそれぞれ研磨剤#80(発明例2)、#120(発明例3)、#180(発明例4)で粗面化したものを3枚準備した。更に発明例2、発明例3、発明例4と同じ材料で同じ粗面化処理を施した粗面化面をフッ酸処理で半透明化するタペストリー加工処理を行い、それぞれ発明例5(発明例2の#80)、発明例6(発明例3の#120)、発明例7(発明例4の#180)とした。これらのカバーガラスを用いた以外は、実施例1と同じ材料、同じ方法、同じ手順でポリエステルベースフィルム付きの感光性樹脂エラストマーシートを得た。その結果は表1の通りで、いずれのシートも版面ベタツキの明らかな改善が得られ、印刷評価でも実施例1と同様な均一な塗膜面と良好なガラス離れ性、NMPクリーニング性が確認された。
<比較例>
発明例1で用いた2枚の板ガラスのうち、12mm厚みのカバーガラスについて#220で処理した粗面化面をフッ酸処理で半透明化するタペストリー加工処理を行い、比較例1の粗面化ガラスとした。このカバーガラスを用いて実施例1と同じ材料、同じ方法、同じ手順で比較例1の感光性樹脂エラストマーを得た。このものの表面平均粗さRaは0.9μmで指触のベタツキ感は大きく、ITO膜付きガラスへの液晶配向膜の印刷では、予備乾燥後塗膜厚みが薄めで厚みムラも多少あり満足するものは得られなかった。また、配向膜印刷ワニスを供給しない状態では基板ガラスの持ち上がりが顕著でガラス離れ性にも問題が見られた。また、発明例1で用いた12mm厚みのカバーガラスと同じ材質、同じ方法で研磨材を#60に替えてブラスト加工したカバーガラスを用いて比較例2の感光材エラストマーを得た。このものの平均粗さRaは5.4μmで、液晶配向膜印刷でのガラス持ち上がりは全く見られなかったが、塗膜厚みが厚めでムラも見られ満足なものは得られなかった。
現行の印刷版表面が#400、30%網点で構成された比較例3の印刷版は、指触によるベタツキ感は大きくNMP濡れ安定性は良くなかった。ITO膜付きガラスへの液晶配向膜の印刷では均一性、塗布量には問題なかったものの、ガラス離れ性に問題が見られた。更に印刷終了後の版面クリーニングではワニスの落ちも悪く、微小網点の欠損がないように作業するため、細心の注意が必要で時間がかかる問題があった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は上述の通り、生地そのもののベタツキが低減できNMP濡れ安定性にも優れ、複雑な微小網点がないため印刷洗浄性に優れ、且つ耐久性に優れた高信頼性の薄膜印刷用の液晶配向膜印刷版とすることができた。これまでのような複雑微細な網点形成を必要としないため、液晶配向膜印刷版など薄膜印刷における信頼性、安定性、生産性を高めることができるばかりか、その製版プロセスは単純化でき安価な印刷版の製作も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の表面粗面化エラストマーシートの構成体断面を示す図である。
【図2】本発明の表面粗面化フレキソ印刷版の構成体断面を示す図である。
【図3】ベースガラスの内面レイアウトを示す図である。
【図4】カバーガラスの内面レイアウトを示す図である。
【図5】本発明の成型例で、その断面図である。
【図6】本発明の成型例で、その上面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 表面粗面化エラストマーシート
11 支持体層(ベースフィルム)
12 エラストマー層
13 粗面化されたエラストマー層表面
20 表面粗面化フレキソ印刷版
21 支持体層(ベースフィルム)
22 印刷レリーフ部
23 粗面化された版面
24 バック層面
30 ベースガラス
31 平滑部(スペーサー取り付け部)
32 粗面化部
33 真空及び/又は圧気溝部
34 真空及び/又は圧気孔
40 カバーガラス
41 平滑部(スペーサー受け部)
42 粗面化部
43 樹脂注入及び/又は空気抜き孔
50 成型例 −断面−
51 スペーサー
52 スポンジテープ
53 露光ランプ
60 成型例 −上面−
61 支持体(ベースフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面の表面平均粗さRaが1〜5μmであることを特徴とするフレキソ印刷版。
【請求項2】
前記フレキソ印刷版が光硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷版。
【請求項3】
前記フレキソ印刷版を形成する光硬化性樹脂が、プレポリマーと、少なくとも1種類以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、光重合開始剤とを必須成分とする感光性樹脂組成物であることを特徴とする請求項2に記載のフレキソ印刷版。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のフレキソ印刷版の製造方法であって、活性光線透過性を有する粗面化された型材面に光硬化性樹脂を接触させた状態で、活性光線を照射・硬化させる工程を含むことを特徴とするフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項5】
印刷に不要な部分を機械的、熱的に切除する工程を含むことを特徴とする請求項4に記載のフレキソ印刷版の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版を用いて薄膜形成を行うことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版を用いて液晶配向膜を製造することを特徴とする液晶表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34913(P2009−34913A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201693(P2007−201693)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(593030727)ナカン株式会社 (11)
【Fターム(参考)】