説明

フロントフォーク

【課題】 重量の軽減および所望の減衰作用の具現化を可能にし、全体コストのいたずらな高騰化を阻止する。
【解決手段】 一対のフロントフォークにあって、一方の圧側フロントフォークの車輪側チューブT1とシートパイプ1との間をリザーバRとし、このリザーバRとシートパイプ1内とを連通するボトム部材Bに形成の連通路B1,B2中に圧側減衰バルブV1を有し、シートパイプ1内をロッド2が下降するときに圧側減衰バルブV1を介してシートパイプ1内における作動油をリザーバRに流出させると共に、他方の伸側フロントフォークが車輪側チューブT1とシートパイプ1の間をシートパイプ1の上方と遮断されながらシートパイプ1内にピストンで画成される伸側油室に通じる流路Lとし、この流路Lと連通路B1,B2中に伸側減衰バルブV2を有し、伸側油室から流出される作動油を流路Lから伸側減衰バルブV2を介してシートパイプ1内に流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、二輪車の前輪側に左右となる一対に架装されて二輪車の前輪を懸架しながらその前輪に入力される路面振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に左右となる一対に架装されて二輪車の前輪を懸架しながらその前輪に入力される路面振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークとしては、これまでに種々の提案があるが、その中で、たとえば、特許文献1には、左右のフロントフォークがその構成を左右で異にする提案が開示されている。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示のフロントフォークにあっては、一方のフロントフォークが伸側および圧側の減衰バルブを有するのに対して、他方のフロントフォークが懸架バネのみを有するとして、左右のフロントフォークにおける構成を異にしている。
【0004】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案によれば、フロントフォークが左右で同じ構成とされる場合、すなわち、伸側および圧側の各減衰バルブを有する同一のフロントフォークを左右に配置する場合に比較して、たとえば、二輪車の前輪側における重量の軽減化に寄与する。
【特許文献1】特開2005‐265129号公報(明細書中の段落0024、同0076から同0083、図1、図7、図8、図9.図12、図13参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、二輪車の前輪側における重量の軽減化に寄与する点で何等不都合はないが、好ましい減衰力の発生状態を具現化するとき、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0006】
すなわち、上記した一対となるフロントフォークの提案にあって、一方のフロントフォークは、伸側および圧側の減衰力を発生する減衰バルブを有する。
【0007】
ところで、これまでに提案されている多くのフロントフォークがそうであるように、一般には、フロントフォークにあって、伸側減衰力の発生については、内蔵されるダンパにおけるシリンダ内のピストン部に配設の伸側減衰バルブに依存し、圧側減衰力の発生については、同じくシリンダ内のベースバルブ部に配設の圧側減衰バルブに依存することが周知されている。
【0008】
そして、シリンダ内のピストン部について観察すると、シリンダの径は、インナーチューブの径より小さくなり、したがって、ピストン部に設けられる伸側減衰バルブにあっても、たとえば、リーフバルブの径が小さくなり、設計上での融通性に劣ることになる。
【0009】
さらに、このような状況下に、ピストン部で発生される伸側減衰力について、広域に制御しようとすると、すなわち、ピストン速度が低速領域にあるときだけでなく高速領域にあるときまでを制御しようとすると、ピストン部における減衰バルブだけでなくその周辺にまで複雑な構成が要求され、その具現化を困難にし易くする危惧がある。
【0010】
以上からすれば、一方のフロントフォークが減衰バルブを有し、他方のフロントフォークが懸架バネのみを有して、二輪車の前輪側における重量を軽減させても、一方のフロントフォークにおける減衰バルブが言わば狭い場所に複雑な構造で組み込まれ、全体として見るとき、二輪車の前輪側に架装されるフロントフォークおける全体コストの低減化を図るのが困難になり、また、バルブの交換や設定の変更などのメンテナス性が悪化される危惧もある。
【0011】
この発明は、このような現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、二輪車の前輪側における重量の軽減および所望の減衰力の発生を可能にしながら全体コストのいたずらな高騰化を阻止して、その汎用性の向上を期待するのに最適となるフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、基本的には、車輪側チューブの軸芯部に立設のシートパイプ内に車体側チューブの軸芯部に垂設のロッドにおける下端側を出没可能に挿通させ、シートパイプの上端開口を軸芯部にロッドを貫通させる軸受で封止し、車輪側チューブの下端開口とシートパイプの下端開口とを閉塞するボトム部材がアクスルブラケットを形成しながら一対とされるフロントフォークにおいて、一方の圧側フロントフォークが車輪側チューブとシートパイプの間をシートパイプの上方に通じるリザーバとし、このリザーバとシートパイプ内とを連通するボトム部材に形成の連通路中に圧側減衰バルブを有し、シートパイプ内をロッドが下降するときに圧側減衰バルブを介してシートパイプ内における作動油をリザーバに流出させると共に、他方の伸側フロントフォークが車輪側チューブとシートパイプの間をシートパイプの上方と遮断されながらシートパイプ内にピストンで画成される伸側油室に通じる流路とし、この流路とシートパイプ内とを連通する連通路中に伸側減衰バルブを有し、シートパイプ内をロッドが上昇するときに伸側油室から流路に流出される作動油をこの流路から伸側減衰バルブを介してシートパイプ内に流入させてなるとする。
【発明の効果】
【0013】
それゆえ、この発明による左右となる一対のフロントフォークにあっては、一方の圧側フロントフォークが圧側減衰バルブを有し、他方の伸側フロントフォークが伸側減衰バルブを有するから、それぞれの設定方向の伸縮作動時にそれぞれが所定の減衰力を発生する。
【0014】
したがって、各フロントフォークにおいて、全体構成の簡素化を可能にし、全体重量の軽減や製品コストの低下の低減を可能にし得る。
【0015】
そして、各フロントフォークにおいて、圧側減衰バルブと伸側減衰バルブとがボトム部材に配設されるから、左右のフロントフォークにおける外観を近似させて違和感を生じさせず、また、各減衰バルブに対する調整操作を簡便にする。
【0016】
また、各フロントフォークにおいて、減衰バルブがボトム部材に配設されるから、従来の車輪側チューブの内側に立設のダンパにおけるシリンダ内に同等の作用をする減衰バルブを配設する場合に比較して、各減衰バルブの構成部品をいたずらに微細に形成しなくて済み、設計上の融通性を増すと共に組立作業を容易にする。
【0017】
また、各減衰バルブがボトム部材に配在されるから、各減衰バルブが車輪側チューブの内側に立設のシートパイプ内など配在される場合に比較して、各減衰バルブにおける設定の調整や設定の変更などの作業を容易になし得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による左右で一対となるフロントフォークにあっては、図1に示す一方の圧側フロントフォークが前輪用のアクスルブラケットに圧側減衰バルブV1を有し、図2に示す他方の伸側フロントフォークが同じくアクスルブラケットに伸側減衰バルブV2を有してなる。
【0019】
そして、この発明による各フロントフォーク(以下、圧側フロントフォークおよび伸側フロントフォークの両方を言う)にあっては、基本的には、圧側フロントフォークも伸側フロントフォークも、車輪側チューブT1の軸芯部に立設のシートパイプ1内に車体側チューブT2の軸芯部に垂設のロッド2における下端側を出没可能に挿通させると共に、シートパイプ1の上端開口が軸芯部にロッド2を貫通させる軸受3で封止されている。
【0020】
また、各フロントフォークにおいて、上記の軸受3とロッド2の上端部との間にはコイルスプリングからなる懸架バネSが配在され、この懸架バネSの附勢力で車体側チューブT2内から車輪側チューブT1が突出する方向に、すなわち、シートパイプ1内からロッド2が突出する伸側方向に附勢されている。
【0021】
さらに、各フロントフォークにおいて、車輪側チューブT1の下端開口とシートパイプ1の下端開口とが上記のボトム部材Bで閉塞されているが、この発明にあっては、このボトム部材Bがアクスルブラケットを形成しながら圧側減衰バルブV1または伸側減衰バルブV2を収装させるバルブハウジングたるハウジング部Hを形成している。
【0022】
その一方で、圧側フロントフォークが圧側減衰バルブV1を有し、伸側フロントフォークが伸側減衰バルブV2を有することから、各フロントフォークにおいて、以下のような構成の相違がある。
【0023】
まず、図1に示すように、圧側フロントフォークにあっては、車輪側チューブT1とシートパイプ1の間がシートパイプ1の上方に通じるリザーバRとされ、このリザーバRとシートパイプ1内とを連通する連通路に、すなわち、図示するところでは、連通路B1と連通路B2との間となるハウジング部Hに圧側減衰バルブV1を有している。
【0024】
この圧側減衰バルブV1は、シートパイプ1内をロッド2が下降するこの圧側フロントフォークの収縮作動時に、ロッド2の下方となるシートパイプ1内からリザーバRに向けて流出する侵入ロッド体積分の作動油を通過させ、所定の圧側減衰力を発生する。
【0025】
そして、この圧側フロントフォークにあって、リザーバRは、シートパイプ1の上方にあって、ロッド2の外に出現する油面Oを境にする気室Aを有するが、この油面Oの位置は、フロントフォークの最伸長時にも軸受3を気室Aに露出させない高さ位置とされている。
【0026】
各フロントフォークにあって、図示するところでは、ロッド2がパイプ体からなり、それゆえ、一つには、ロッド2における重量の軽減化に有利であり、二つには、特に、伸側フロントフォークにおいて、ロッド2の内側に通路2aを設ける構成の具現化に有利になる。
【0027】
そして、圧側フロントフォークにあって、シートパイプ1内に臨在のロッド2における下端開口は、有底筒状に形成のキャップ21で閉塞され、したがって、ロッド2の内側は、いわゆる空部とされて、作動油を臨在させない。
【0028】
キャップ21の外周は、図示するところでは、シートパイプ1の内周に摺接せず、両者間に出現する隙間を作動油が通過し得るが、これに代えて、図3(A)に示すように、キャップ21の外周がシートパイプ1の内周に摺接しても良い。
【0029】
そして、この図3(A)に示す場合には、シートパイプ1における上端部の近傍部に、すなわち、図示するように、圧側フロントフォークが最伸長状態になるときにキャップ21で閉塞される位置にシートパイプ1の内外を連通させる通孔1aを有する。
【0030】
それゆえ、図1に示す圧側フロントフォークにあって、図示する最伸長状態からロッド2がシートパイプ1内に没入するように収縮作動に反転すると、ロッド2の下方、すなわち、キャップ21の下方となる圧側油室R1の作動油の一部が上記の隙間を介してキャップ21の上方となる伸側容室R2に流入する。
【0031】
その一方で、この収縮作動時には、ロッド2の侵入体積分に相当する量の作動油が圧側油室R1から圧側減衰バルブV1を介してリザーバRに流出し、圧側減衰バルブV1が所定の圧側減衰力を発生する。
【0032】
また、伸長作動では、シートパイプ1内において、ロッド2の退出体積分に相当する量の作動油が不足することになり、リザーバRから圧側バルブVが有するチェック弁13aを介して補給される。
【0033】
なお、図3(A)に示すところでは、キャップ21の外周がシートパイプ1の内周に摺接しているから、上記の収縮作動時への反転時には、リザーバRの作動油が通孔1aを介して上記の伸側容室R2に流入する。
【0034】
そして、キャップ21の侵入作動体積分の作動油が圧側減衰バルブV1を通過することになり、図1に示すキャップ21の外周がシートパイプ1の内周に摺接しない場合に比較して、作動油量が増加し、したがって、圧側減衰バルブV1における設計上での融通性が向上される。
【0035】
すなわち、圧側油室R1における受圧部が、図1の場合は、ロッド2の断面積になるのに対して、図3(A)の場合は、キャップ21の断面積となるから、受圧面積を大きくすることが可能になり、収縮作動時の荷重を同じにする場合に、図1の方が圧側油室R1で発生する圧力を小さくすることが可能になる。
【0036】
したがって、圧側減衰バルブV1にあっては、制御油圧を低くして、たとえば、リーフバルブにおける負担を軽減させてリーフバルブにおける耐久性を向上させ、したがって、圧側減衰バルブV1による制御をより精緻に設定するなどが可能になり、圧側減衰バルブV1における設計上での融通性が向上される。
【0037】
また、この図3(A)に示すところでは、シートパイプ1内をロッド2が最上昇するこの圧側フロントフォークの最伸長作動時に、図示するように、キャップ21が通孔1aを閉塞することで、伸側容室R2に作動油を閉じ込めてオイルロック状態を実現し得る。
【0038】
つぎに、図2に示すように、伸側フロントフォークにあっては、車輪側チューブT1とシートパイプ1の間がシートパイプ1の上方のリザーバRと遮断されながらシートパイプ1内に後述する通孔1bを介して通じる流路Lとされる。
【0039】
そして、ボトム部材Bが上記の流路Lとシートパイプ1内とを連通する連通路に、すなわち、図示するところでは、連通路B1と連通路B2との間となるハウジング部Hに伸側減衰バルブV2を有している。
【0040】
そして、この伸側減衰バルブV2は、シートパイプ1内をロッド2が上昇するこの伸側フロントフォークの伸長作動時に、シートパイプ1内から上記の流路Lに流出してこの流路Lからシートパイプ1内に向けて流出する作動油を通過させ、所定の伸側減衰力を発生する。
【0041】
この伸側フロントフォークにあっても、ロッド2は、パイプ体からなり、内側を通路2aにしているが、この通路2aは、シートパイプ1内に連通しながらこのロッド2に開穿のオリフィスとして機能する通孔2bを介してシートパイプ1の上方となるロッド2の外のリザーバRに連通している。
【0042】
この通孔2bのロッド2における開穿位置についてだが、このフロントフォークが最収縮状態になるときにも、下方の軸受3に干渉せずして閉塞されない位置とされる。
【0043】
そして、リザーバRは、シートパイプ1の上方にあって、ロッド2の外に出現する油面Oを境にする気室Aを有するが、この油面Oの位置は、この伸側フロントフォークの最伸長時にも上記の通孔2bを気室Aに露出させない高さ位置とされている。
【0044】
そして、シートパイプ1内に臨在のロッド2における下端部には、有底筒状に形成のナット22の螺着でピストン23が定着され、ナット22は、軸芯部に開口22aを有して、ロッド2内の通路2aとシートパイプ1内の後述する圧側容室R3との連通を許容している。
【0045】
また、ピストン23は、外周をシートパイプ1の内周に摺接させてシートパイプ1内に圧側容室R3と伸側油室R4とを画成すると共に、圧側容室R3の伸側油室R4への連通はこれを許容するが、反対となる伸側油室R4の圧側容室R3への連通を阻止する伸側チェック弁24を有している。
【0046】
そしてまた、シートパイプ1における上端部の近傍部には、すなわち、この伸側フロントフォークが最伸長状態になるときにピストン23で閉塞されない位置にシートパイプ1の内外を連通させる通孔1bを有している。
【0047】
したがって、この通孔1bがこの伸側フロントフォークにおける最伸長作動時にシートパイプ1内を上昇するピストン23で閉塞される設定のとき、オイルロック効果を奏させて、衝撃緩和を図ることが可能になる。
【0048】
そして、シートパイプ1の上端開口を封止する軸受3は、原理的には、外周を車輪側チューブT1の内周に摺接させるが、図示するところでは、軸受3の外周にはチェックリング31が介装され、このチェックリング31の外周が車輪側チューブT1の内周に摺接している。
【0049】
このチェックリング31は、図3(B)に示すように、断面を矩形にして軸受3の外周部に形成の環状溝3aに遊嵌され、下端側部に切り欠き通路31aを有し、図中での上昇時に、圧側チェック弁として機能して、前記した流路LのリザーバRへの連通を阻止し、図示する下降時に、リザーバRの流路Lへの連通を許容する。
【0050】
したがって、このチェックリング31を有する伸側フロントフォークにあっては、このチェックリング31の機能するところで、この伸側フロントフォークの組立時における注油作業を、すなわち、流路Lへの作動油の注入作業を容易にし得ると共に、作動中に流路Lあるいは伸側油室R4が負圧化することをリザーバRからの作動油の流入で回避できる。
【0051】
それゆえ、この図2に示す伸側フロントフォークにあって、図示しない最収縮状態からロッド2がシートパイプ1内から抜け出るように伸長作動に反転すると、ピストン23が伸側チェック弁24を有するから、ピストン23の上方となる伸側油室R4の作動油が通孔1a、流路Lおよび伸側減衰バルブV2を介してシートパイプ1内の圧側容室R3に流出し、伸側減衰バルブV2が所定の伸側減衰力を発生する。
【0052】
そして、この伸長作動時に圧側容室R3で不足する退出ロッド体積分に相当する量の作動油がリザーバRからロッド2の通孔2bおよび通路2aを介して圧側容室R3に補充され、収縮作動では、侵入ロッド体積分の作動油がロッド2の通路2aおよび通孔2bを介してリザーバRに流出される。
【0053】
以上のように形成された一対となるフロントフォークにあって、圧側フロントフォークに配設の圧側減衰バルブV1および伸側フロントフォークに配設の伸側減衰バルブV2は、以下のように形成される。
【0054】
まず、圧側減衰バルブV1および伸側減衰バルブV2は、図1、図2および図4、図5に示すように、アッセンブリ化されたいわゆる本体部がボトム部材Bに突出するように形成されたハウジング部Hに対して外部からの人為的な操作で着脱できる。
【0055】
そのため、圧側減衰バルブV1にあっては、図6に示すように、また、伸側減衰バルブV2にあっては、図7に示すように、それぞれハウジング部Hに螺着されるリングナット10を有し、このリングナット10は、フロントフォークの作動が高速領域にあるときの減衰力を制御する高速用アジャスタ11を軸芯部に螺装させている。
【0056】
また、減衰バルブV1,V2にあって、高速用アジャスタ11は、フロントフォークの作動が低速領域にあるときの減衰力を制御する低速用アジャスタ12を軸芯部に螺装させている。
【0057】
そして、これら高速用アジャスタ11にと設けたバルブ機構と低速用アジャスタ12に形成の絞り機構によって所望の減衰力を発生する。
【0058】
それゆえ、減衰バルブV1,V2にあっては、リングナット10を回動操作してハウジング部Hから分離することで、いわゆる本体部をハウジング部Hから抜き取れる(図4および図5参照)。
【0059】
ところで、高速用アジャスタ11は、リングナット10に対する回動操作でこのリングナット10に対して出没し、この発明におけるバルブ機構を構成するリーフバルブ13を附勢する附勢バネ14を伸縮させて、リーフバルブ13におけるクッラキング圧を調整する。
【0060】
そして、低速用アジャスタ12は、上記のリーフバルブ13を迂回するバイパス路を構成すべく高速用アジャスタ11における軸芯部に形成の流路11aに対して出没するニードル弁体12aを有し、高速用アジャスタ11に対する出没時にニードル弁体12aと流路11aとの間に形成されてこの発明における絞り機構を構成する環状絞り(符示せず)を広狭調整する。
【0061】
なお、図示するところでは、この低速用アジャスタ12は、ディテント機構Dの配在下に高速用アジャスタ11の軸芯部に介装されている。
【0062】
また、図示するところでは、圧側減衰バルブV1にあって、高速用アジャスタ11は、これを抜き出す方向に回動するとき、附勢バネ14を収縮させてリーフバルブ13におけるクラッキング圧を高くする設定とされている。
【0063】
それに対して、伸側減衰バルブV2における高速用アジャスタ11あっては、同じく図示するところでは、これを抜き出す方向に回動するとき、附勢バネ14を伸長させてリーフバルブ13におけるクラッキング圧を低くする設定とされている。
【0064】
このことから、図示する減衰バルブV1,V2にあっては、外部からの手動操作で高速用アジャスタ11を回動してリーフバルブ13におけるクラッキング圧をたとえば高くするとき、それぞれの回動方向が逆になる。
【0065】
したがって、このことを逆手に取ると、この発明による左右で一対となるフロントフォークのいずれが圧側制御用、または、伸側制御用とされているかを判断するときの基準にし得る。
【0066】
それゆえ、上記した圧側フロントフォークにあっては、圧側減衰バルブV1によってロッド2がシートパイプ1内を下降する際の速度に依存して、所望の圧側減衰力を発生する。
【0067】
すなわち、まず、シートパイプ1内へのロッド2の侵入速度が高速領域に比較すれば低速となる速度領域にあるときには、上記した絞り機構を構成する環状絞りによって所望の圧側減衰力が調整される。
【0068】
そして、シートパイプ1内へのロッド2の侵入速度が低速領域に比較すれば高速となる速度領域になるときには、バルブ機構を構成するリーフバルブ13によって所望の圧側減衰力が発生される。
【0069】
ちなみに、この圧側減衰バルブV1にあっては、伸長作動時に、シートパイプ1内において、ロッド2の退出体積分に相当する量の作動油が不足することになるが、リザーバRからの作動油がチェック弁13aを介してシートパイプ1内に補給される。
【0070】
また、上記した伸側フロントフォークにあっては、伸側減衰バルブV2によってロッド2がシートパイプ1内を上昇する際の速度に依存して、所望の伸側減衰力を調整される。
【0071】
すなわち、まず、シートパイプ1内からのロッド2の退出速度が高速領域に比較すれば低速となる速度領域にあるときには、上記した絞り機構を構成する環状絞りによって所望の伸側減衰力が調整される。
【0072】
そして、シートパイプ1内からのロッド2の退出速度が低速領域に比較すれば高速となる速度領域になるときには、バルブ機構を構成するリーフバルブ13によって所望の伸側減衰力が調整される。
【0073】
以上からすると、この発明による各フロントフォークにあっては、圧側減衰力だけでなく伸側減衰力にあっても、いわゆる速度領域に応じた減衰力を調整できる。
【0074】
この点について、従来から提案されている多くのフロントフォークにあっては、図示しないが、伸側減衰力を発生する伸側減衰バルブについては、これがフロントフォークに内蔵されるダンパを構成するシリンダ内のピストン部に配設される。
【0075】
それゆえ、このシリンダ内のピストン部に配設の伸側減衰バルブで広域となる速度領域における制御を実現するには、たとえば、伸側減衰バルブを迂回するバイパス路をピストン部およびロッドに形成し、このバイパス路に配設される制御バルブと、この制御バルブを作動させるコントロールロッドやプッシュロッドをロッドの軸芯部に形成の透孔に配設するなどの構成が必須になる。
【0076】
このことからすると、従来の提案にあっては、フロントフォークがダンパを内蔵することに始まって、このダンパを構成するシリンダ内のピストン部に伸側減衰バルブを有すると共に、この伸側減衰バルブの作動を多角化するための構成がロッド内にも設けられることになる。
【0077】
この従来の提案に比較して、この発明にあっては、各フロントフォークにダンパを内蔵させないし、したがって、ダンパを構成するシリンダに相当するシートパイプ内のピストンに伸側減衰バルブを配設しないから、各フロントフォーク本体における構成を簡素化しながら所望の減衰力の広域に亙る制御をなし得る点で有利となる。
【0078】
また、図示しないが、ボトム部材B上記した圧側減衰バルブV1と同等の構成を有し、同等の作動をする圧側の減衰バルブを有する提案については、従来からあるから、この発明のように、伸側減衰バルブV2をボトム部材Bに設ける提案については、圧側減衰バルブ1に代えて伸側減衰バルブV2を配置しただけとも言い得る。
【0079】
しかし、この発明では、圧側減衰バルブV1にしろ、伸側減衰バルブV2にしろ、前輪用のアクスルブラケットを形成するボトム部材Bに突出形成されるハウジング部Hに収装されることで、左右となる各フロントフォークにおいて、外観を近似させて違和感を生じさせず、また、ボトム部材Bの形成にいたずらな設計変更が招来されずして、部品製作を容易にし、部品コストの低減の上で有利になり、さらには、各減衰バルブに対する調整操作を簡便にする。
【0080】
ただし、この発明による左右となる一対のフロントフォークにあって、ボトム部材Bは、圧側フロントフォークにあっても伸側フロントフォークにあっても全く同じに形成されて良いとも言い得ない。
【0081】
なぜなら、伸側フロントフォークにあっては、伸側減衰バルブV2をボトム部材Bに有して、いわゆる速度領域が低速領域だけでなく高速領域になっても所望の伸側減衰力を調整できる。
【0082】
伸側減衰バルブV2を通過する作動油は、シートパイプ1内に画成される伸側油室R4から流出される作動油の量に依存するので、図示するところでは、圧側フロントフォークにおけるシートパイプ1に比較して伸側フロントフォークにおけるシートパイプ1の内径を大きくして、伸側減衰バルブV2を通過する作動油の量を多くする設定としている。
【0083】
すなわち、前記したところであるが、圧側油室R1における受圧部が、図1の場合は、ロッド2の断面積になるのに対して、図3(A)の場合は、キャップ21の断面積となるから、受圧面積を大きくすることが可能になり、収縮作動時の荷重を同じにする場合に、図1の方が圧側油室R1で発生する 圧力を小さくすることが可能になる。
【0084】
このことから、伸側減衰バルブV2にあっては、制御油圧を低くしてリーフバルブにおける負担を軽減させて、リーフバルブにおける耐久性を向上させ、したがって、伸側減衰バルブV2による制御をより精緻に設定するなどの設計上での融通性を向上させるのが好ましい。
【0085】
もっとも、車輪側チューブT1の外径は、これを同じにするから、左右のフロントフォークにおいて、車輪側チューブT1における径が異なることによる不自然さが招来されることを危惧する必要はない。
【0086】
以上からすると、原理的には、両方のフロントフォークにおいて、ボトム部材Bが全く同じに形成されて、したがって、シートパイプ1の径を同じにしても、この発明の成立が妨げられる訳ではない。
【0087】
ところで、この発明にあって、圧側減衰バルブV1および伸側減衰バルブV2は、基本的には、本体部が同等の構成を有してなるが、両方の減衰バルブV1,V2において、いわゆるバルブ作動時の作動油の流れ方向が逆になるので、その点からする構成に相違がある。
【0088】
すなわち、各減衰バルブV1,V2にあって、バネ受15が必須になるのはもちろんだが、まず、圧側減衰バルブV1にあって、このバネ受15は、高速アジャスタ11と縁が切れていながらその外周側端部がリングナット10に担持されている。
【0089】
それゆえ、この圧側減衰バルブV1にあっては、高速用アジャスタ11を回動してリングナット10から抜き出すようにするとき、附勢バネ14の基端位置は変更されないが、先端位置が変更されて収縮し、リーフバルブ13におけるクラッキング圧を上げる。
【0090】
一方、伸側減衰バルブV2にあって、バネ受15は、高速アジャスタ11と縁が切れているのはもちろんだが、前記した図5にも示すように、図示するところでは、筒状部15aとリング部15bの二部品からなる分割形態に形成され、いわゆる部品製作を容易にしている。
【0091】
それゆえ、このバネ受15は、その機能するところを勘案すると、図示する分割態様に形成されることに代えて、図示しないが、筒部15aとリング部15bとが一体とされた言わば有底筒状に形成されても良い。
【0092】
また、このバネ受15は、リングナット10がハウジング部Hに螺着されるとき、あらかじめハウジング部H内に導入され、爾後に、リングナット10がハウジング部Hから撤去されるときにはハウジング部H内に残留される。
【0093】
このことから、この伸側減衰バルブV2にあっては、高速用アジャスタ11を回動してリングナット10から抜き出すようにするとき、附勢バネ14がその先端を言わば残すようにして伸長し、リーフバルブ13におけるクラッキング圧を下げる。
【0094】
なお、附勢バネ14の先端が背後側に当接されるリーフバルブ13は、ハウジング部Hの内側に位置決められてこの内側をいわゆる上流側と下流側とに画成するバルブシート部材16に内周端固定で外周端自由の態様に着座し、バルブシート部材16に開穿のポート16aをいわゆる下流側から閉塞している。
【0095】
以上のように、この発明における左右で一対となる各フロントフォークにあっては、各減衰バルブV1,V2を配設するについて、ボトム部材Bにおけるハウジング部Hの内側形状を同一にすることが可能になる。
【0096】
すなわち、図7に示す伸側減衰バルブV2にあっては、高速用アジャスタ11をリングナット10から抜き出すようにするとき、附勢バネ14を伸長させてリーフバルブ13におけるクラッキング圧を下げる設定とされているから、附勢バネ14の基端を担持するバネ受15は、高速用アジャスタ11と言わば縁が切れている必要がある。
【0097】
その一方で、高速用アジャスタ11がリングナット10内に押し込まれるとき、附勢バネ14の基端が移動しないように固定される必要があるから、バネ受15が配設されるが、このバネ受15の配設が許容される限りにおいて、ハウジング部Hの内側形状については、圧側減衰バルブV1を配設させるハウジング部Hの内側形状と同一に形成されて良い。
【0098】
その結果、この発明にあっては、左右で一対となるフロントフォークにあって、ボトム部材Bにおける減衰バルブV1,V2を配設するためのハウジング部Hの内側形状を同一にすることが可能になる。
【0099】
前記したところでは、各減衰バルブV1,V2は、図示する状態から高速用アジャスタ11がリングナット10内から抜き出されるとき、附勢バネ14を伸縮させてリーフバルブ13におけるクラッキング圧を変更する設定とされているが、要は、高速用アジャスタ11を回動するとき、リーフバルブ13のクラッキング圧が変更されれば良く、したがって、図示しないが、高速用アジャスタ11をリングナット10内に押し込むときクラッキング圧が変更され、あるいは、定位置での回動でクラッキング圧が変更されても良い。
【0100】
そして、前記したところでは、各減衰バルブV1,V2にあって、高速用アジャスタ11の捩じ込み方向に対するリーフバルブ13のクラッキング圧の高低方向とが互いに逆になる設定とされているが、これに代えて、高速用アジャスタ11の捩じ込み方向に対するリーフバルブ13のクラッキング圧の高低方向とが互いに同じになる設定とされても良い。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】この発明による圧側フロントフォークを一部破断して示す部分縦断面図である。
【図2】この発明による伸側フロントフォークを図1と同様に示す図である。
【図3】フロントフォークにおける他の実施形態を部分的に示す拡大半截縦断面図である。
【図4】圧側フロントフォークにおいて圧側減衰バルブが抜き出された状態を示す部分半截縦断面図である。
【図5】伸側フロントフォークにおいて伸側減衰バルブが抜き出された状態を図1と同様に示す図である。
【図6】圧側減衰バルブを拡大して示す縦断面図である。
【図7】伸側減衰バルブを図6と同様に示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 シートパイプ
2 ロッド
2a 通路
2b 通孔
11a 絞り機構を構成する流路
12a 絞り機構を構成するニードル弁体
13 バルブ機構を構成するリーフバルブ
A 気室
B ボトム部材
B1,B2 連通路
H バルブハウジングとしてのハウジング部
L 流路
O 油面
R リザーバ
T1 車輪側チューブ
T2 車体側チューブ
V1 圧側減衰バルブ
V2 伸側減衰バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪側チューブの軸芯部に立設のシートパイプ内に車体側チューブの軸芯部に垂設のロッドにおける下端側を出没可能に挿通させ、シートパイプの上端開口を軸芯部にロッドを貫通させる軸受で封止し、車輪側チューブの下端開口とシートパイプの下端開口とを閉塞するボトム部材がアクスルブラケットを形成しながら一対とされるフロントフォークにおいて、一方の圧側フロントフォークが車輪側チューブとシートパイプの間をシートパイプの上方に通じるリザーバとし、このリザーバとシートパイプ内とを連通するボトム部材に形成の連通路中に圧側減衰バルブを有し、シートパイプ内をロッドが下降するときに圧側減衰バルブを介してシートパイプ内における作動油をリザーバに流出させると共に、他方の伸側フロントフォークが車輪側チューブとシートパイプの間をシートパイプの上方と遮断されながらシートパイプ内にピストンで画成される伸側油室に通じる流路とし、この流路とシートパイプ内とを連通する連通路中に伸側減衰バルブを有し、シートパイプ内をロッドが上昇するときに伸側油室から流路に流出される作動油をこの流路から伸側減衰バルブを介してシートパイプ内に流入させてなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
ボトム部材に連通路中となるハウジング部が突出形成されると共にこのハウジング部に圧側減衰バルブまたは伸側減衰バルブが外部からの操作で着脱可能に配設されてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
圧側減衰バルブおよび伸側減衰バルブがボトム部材に突出形成されるハウジング部に螺着されるリングナットと、このリングナットの軸芯部に螺装される高速用アジャスタと、この高速用アジャスタの軸芯部に螺装される低速用アジャスタとを有し、高速アジャスタが外部からの回動操作時にリーフバルブを背後側から附勢する附勢バネのバネ力を変更してリーフバルブにおけるクラッキング圧を変更し、低速用アジャスタが外部からの回動操作時に上記のリーフバルブを迂回するバイパス路を構成すべく高速用アジャスタにおける軸芯部に形成の流路に対してニードル弁体を出没させてニードル弁体と流路との間に形成される環状絞りを広狭してなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
圧側減衰バルブがシートパイプ内へのロッドの侵入速度が高速領域に比較すれば低速となる速度領域にあるときに作動する絞り機構と、シートパイプ内へのロッドの侵入速度が低速領域に比較すれば高速となる速度領域になるときに作動するバルブ機構とを有してなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
伸側減衰バルブがシートパイプ内からのロッドの退出速度が高速領域に比較すれば低速となる速度領域にあるときに作動する絞り機構と、シートパイプ内からのロッドの退出速度が低速領域に比較すれば高速となる速度領域になるときに作動するバルブ機構とを有してなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
伸側フロントフォークにおいて、ロッドが内側に通路を有すると共に、この通路がシートパイプ内に連通しながらロッドに開穿の通孔を介してシートパイプの上方となるロッドの外のリザーバに連通し、ロッドがシートパイプ内から最突出するときに上記の通孔がリザーバにおける油面を境にする気室に露呈しない高さ位置に設けられてなる請求項1に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−119892(P2009−119892A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292669(P2007−292669)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】