説明

フードラッチ装置

【課題】構成部材の板厚を増し、或いは断面係数を大きくするという発想によることなく、衝突時にも前部フードが不用意に開くのを防止することができる車両のフードラッチ装置を得る。
【解決手段】ストライカ進入溝を有するベースプレート21と、このベースプレート21にストライカ進入溝の両側に位置させて互いに平行な軸23,24で枢着した、ストライカを把持開放するフック25及びこのフック25の回動を規制するラチェット26と、常時はストライカの拘束位置にあり手動操作によってストライカの開放位置に移動するセカンダリレバーと、を有するフードラッチ装置において、フック25、ラチェット26及びセカンダリレバーの軸の少なくとも一つを、衝突荷重によってベースプレート21が変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材14Fに当接してその変形に抵抗を与える長さの変形抵抗軸23,24としたフードラッチ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車のフード(ボンネットあるいはトランク)のラッチ(ロック)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前部フード(ボンネット)を例にとると、前部フードは車両ボディに開閉可能に枢着されており、この前部フードにはストライカが設けられ、車両ボディにはこのストライカを把持開放するラッチ機構が設けられる。ラッチ機構は、ストライカの進入溝を有するベースプレートに、該進入溝の両側に位置させてフック及びラチェットを互いに平行な軸で枢着しており、前部フードが閉じる力でそのストライカによりフックが一定角度以上回動させられると、ラチェットがフックをロック位置に保持する。この構成は、ドアロック装置等の他のロック装置も同様であるが、前部フードのうち、特に前開きタイプは、走行中に開くと視界の妨げになり不用意に開いた場合の危険度が高いため、ストライカを把持するフックとラッチに加えて、さらに、セカンダリレバーが設けられている。セカンダリレバーは、常時はストライカの拘束位置にあり手動操作によってストライカの開放位置に移動するものであり、前部フードが閉じた状態においてフックとラチェットがストライカを開放しても、前部フードの全開状態に移動するのを防ぐ。このフック、ラッチ、セカンダリレバー或いはこれらを支持するベースプレートは従来、衝突時において変形してロックを解除することがないように可及的に高い強度を与えていた。
【特許文献1】特開2004-100267号公報
【特許文献2】特開2004-324078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、フック、ラッチ、セカンダリレバー或いはベースプレートは、いずれも板材をプレス成形してなるものであり、その断面形状を工夫したとしても、衝突に耐えうる強度を与えるのは容易でないばかりでなく、軽量化の要求とも相容れない。
本発明は、構成部材の板厚を増し、或いは断面係数を大きくするという発想によることなく、衝突時にも前部フードが不用意に開くのを防止することができるフードラッチ装置を得ることを目的とする。
また、本発明は、前部フードに限らず、衝突時に車両のベースプレート、フックあるいはラチェットの変形に起因してフードが不用意に開くのを防止することができるフードラッチ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般的に軸を挫屈させるのは大荷重が必要であり、衝突荷重に対する抵抗に十分なり得るという着眼に基づき、フック或いはラチェットの軸を延長し衝突荷重を受けさせるという発想に基づいて完成されたものである。
【0005】
本発明は、前開きタイプの前方フード対応においては、車両の前方に、後方の軸を中心に開閉可能とした前開きタイプの前部フードにストライカを設け、車両ボディにこのストライカを把持開放するラッチ機構を設けた車両のフードラッチ装置であって、該ラッチ機構は、ストライカ進入溝を有するベースプレートと、このベースプレートにストライカ進入溝の両側に位置させて互いに平行な軸で枢着した、上記ストライカを把持開放するフック及びこのフックの回動を規制するラチェットと、常時はストライカの拘束位置にあり手動操作によってストライカの開放位置に移動するセカンダリレバーと、を有するフードラッチ装置において、フック、ラチェット及びセカンダリレバーの軸の少なくとも一つを、衝突荷重によってベースプレートが変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形に抵抗を与える長さの変形抵抗軸としたことを特徴としている。
【0006】
また、本発明は、前方フード以外の一般的なフード対応では、車両ボディに開閉可能に枢着したフードにストライカを設け、車両ボディにこのストライカを把持開放するラッチ機構を設けた車両のフードラッチ装置であって、該ラッチ機構は、ストライカ進入溝を有するベースプレートと、このベースプレートにストライカ進入溝の両側に位置させて互いに平行な軸で枢着した、上記ストライカを把持開放するフックとこのフックの回動を規制するラチェットと、を有するフードラッチ装置において、フックとラチェットの軸の少なくとも一方を、衝突荷重によってベースプレートが変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形に抵抗を与える長さの変形抵抗軸としたことを特徴としている。
【0007】
前開きタイプの前部フードでは、セカンダリレバーの軸も変形抵抗軸とすることができる。
【0008】
ベースプレートには、車両ボディと一体の固定部材より前方に位置する車両左右方向の縦壁からなる平板部を設け、変形抵抗軸の一端部はこの平板部に固定するのが実際的である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフードラッチ装置によると、特に前開きタイプの前方フードに適用した場合には、衝突荷重によりベースプレート、フック或いはラチェットに変形荷重が加わると、フック、ラチェット或いはセカンダリレバーの軸の少なくとも一つが車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形を防ぐので、衝突時にフードが開いてしまうという事故を防止することができる。衝突時に前方フードが開いて視界の妨げになる状態を回避することができる。
また、セカンダリレバーを持たないフードの場合には、フックまたはラチェットの軸を変形抵抗軸とすることにより同様の作用を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本実施形態は、前開きタイプの前方フードのラッチ装置に本発明を適用した実施形態を示している。図6に示すように、乗用車10の前方エンジンルーム11を開閉する前方フード12は、後方の軸13により車両ボディ14に枢着されている。この前方フード12の前方下面には、コ字状をなすストライカ15が固定されており、車両ボディ14には、このストライカ15を把持開放するラッチ機構20が固定されている。ストライカ15は、前方フード12の下面から下方に延びる一対の縦部15aとこの一対の縦部15aの先端を結合した前後部15bとを有するコ字状をなしている。すなわち、ストライカ15は車両前後方向の縦平面内に位置している。
【0011】
ラッチ機構20は、図2ないし図5に示すように、車両ボディ14に固定されるベースプレート21を有する。ベースプレート21は、車両左右方向の縦壁からなる平板部21aと、この平板部21aの周縁から車両ボディ14側(後方)に延びるスペーサ壁21bと、このスペーサ壁21bの一部から平板部21aと平行に延びる固定壁21cとを有し、固定壁21cには、固定ねじ挿入穴21dが形成されている。図3と図4は、ラッチ機構20を後方から見た図である。
【0012】
ベースプレート21の平板部21aには、上方の開放されたストライカ進入溝22が形成されている。平板部21aには、このストライカ進入溝22の両側に位置させてそれぞれ、互いに平行な軸23、24でフック25とラチェット26が枢着されている。また平板部21aには、ストライカ進入溝22の延長方向上に位置する軸27でセカンダリレバー28が枢着されている。フック25とラチェット26は、平板部21aのスペーサ壁21b(固定壁21c)側の面(後面)に位置し、セカンダリレバー28は、反対の前面に位置している。軸23と24の間には、平板部21aとの間にフック25とラチェット26を挟着する補助ストライカ受け29が固定されている。
【0013】
フック25は、ストライカ保持溝25aとロック突起25bを有し、このストライカ保持溝25aにストライカ15が進入すると、軸23を中心にロック方向R(図3、図4の反時計方向)に回転する。フック25は軸23に同軸に設けたトーションコイルばね25cによりロック方向Rと反対のアンロック方向に回動付勢されており、その回動端は、ストッパ面25sがスペーサ壁21bの一部に当接する位置で規制されている(図3)。フック25がこの回動付勢端にあるときストライカ15(前後部15b)はストライカ保持溝25a内に自由に進退できる。
【0014】
一方、ラチェット26は、引張ばね30により、その先端係止爪26aがフック25の外周面に当接する方向(図3、図4の反時計方向)に回動付勢されている。フック25がロック位置に回動すると、ラチェット26は、先端係止爪26aがロック突起25bにより押され、時計方向に回動し、先端係止爪26aがロック突起25bを超えると、引張ばね30の力により反時計方向に回動してロック突起25bと係合し、フック25をロック位置に保持する。
【0015】
セカンダリレバー28は、ロック腕28aと、前方に延びる操作腕28bとを有しており、ロック腕28aの先端には、ストライカ進入溝22の出口位置に進退するロック突起28cが形成されている。セカンダリレバー28にはまた、平板部21aに形成した切欠21eを通ってベースプレート21内に延びるばね掛け腕28dが形成されている。上述の引張ばね30は、このばね掛け腕28dとラチェット26のばね掛け腕26bとの間に張設されており、上述のようにラチェット26を図3、図4の時計方向に回動付勢し、セカンダリレバー28を時計方向に回動付勢している。セカンダリレバー28の回動端は、ばね掛け腕28dが切欠21eの一端部に当接する位置で規制され、このときセカンダリレバー28のロック突起28cはストライカ進入溝22の出口を塞ぐ位置に位置する。ロック突起28cの上面は、前方フード12が開位置から閉位置に移動するとき、ストライカ15(前後部15b)によって押され、ストライカ進入溝22を開放する傾斜面28c’を構成している。操作腕28bは、その先端部がフロントグリルの前方から突出しており、操作者が手動で引張ばね30の力に抗して回動させることにより、ロック突起28cをストライカ15の通過経路から逃がすことができる。
【0016】
従って、図4のロック状態において、図示しない操作機構を介してラチェット26を時計方向に回動させると、フック25によるストライカ15の保持が開放される(図3)。しかし、ロック突起28cがストライカ15の通過経路に位置しているので、前方フード12を開放することはできず、操作者が操作腕28bを介してセカンダリレバー28をアンロック位置に回動させることで初めて前方フード12の開放ができる。
【0017】
以上は、通常の前方フードの動作である。本実施形態では、以上の前方フードラッチ機構において、軸23と24がそれぞれ、長尺の変形抵抗軸からなっている。この変形抵抗軸23と24の長さは、衝突荷重によってベースプレート21が変形を開始したとき、最初に車両ボディ14と一体の固定部材14Fに当接する長さである(図5参照)。すなわち、固定部材14Fは、ベースプレート21の平板部21aより後方に位置しており、変形抵抗軸23と24の後端部と僅かな隙間dをもって対向している。従って、変形抵抗軸23と24は、ベースプレート21が衝突荷重によって変形を開始したとき、ラッチ機構20のどの構成部材よりも早く固定部材14Fに当接し、ベースプレート21の変形に対する抵抗となる。変形抵抗軸23と24を当接させる固定部材14Fは、モノコックボディ(あるいはシャーシ)と一体の固定部材を意味し、具体的には少なくとも、ラジエータの支持ステーとすることができる。また、この固定部材14Fは、ベースプレート21を固定する部材とするのが実際的である。この他、既存の車両に、特別に変形抵抗軸23と24に当接する固定部材を設けてもよい。一般的に軸部材を挫屈させるには、非常に大きな荷重を必要とするから、変形抵抗軸23と24が車両ボディ14に当接した後には、ベースプレート21の変形が抑制され、従って、衝突時に、フック25とラチェット26あるいはセカンダリレバー28によるストライカ15のロックが開放されるおそれを少なくすることができる。変形抵抗軸23、24と、固定部材14Fとの間の隙間dは、以上の作用を得るために、可及的に小さくする、すなわちゼロとし、変形抵抗軸23と24を予め固定部材14Fに当接させることが好ましいが、組立性や部品公差に基づき若干離れていてもよい。
【0018】
以上の実施形態では、軸27は、単にセカンダリレバー28を回動自在に支持する短軸としたが、この軸27も長さの長い変形抵抗軸とすることができる。以上の前方フードの実施形態では、変形抵抗軸23、24及び27のいずれか一つ以上を長さの長い変形抵抗軸とすれば、一定の効果を得ることができる。
【0019】
また、本発明は、セカンダリレバー28を持たない前方フード以外の車両フードにも適用できる。この場合には、変形抵抗軸23と24の少なくとも一方を長尺の変形抵抗軸とすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明によるフードラッチ装置を前方フードに適用した実施形態を示す縦(車両前後方向)断面図である。
【図2】同フードラッチ装置のラッチ機構の分解斜視図である。
【図3】同ラッチ機構のロック解除状態(セカンダリレバーによるロック状態)を示す背面図である。
【図4】同ラッチ機構のロック状態の背面図である。
【図5】図3のV-V線に沿う断面図である。
【図6】本発明のフードラッチ装置を適用した前方フードを有する車両(乗用車)の側面図である。
【符号の説明】
【0021】
10 乗用車
11 前方エンジンルーム
12 前方フード
13 軸
14 車両ボディ
14F 固定部材
15 ストライカ
15a 一対の縦部
15b 前後部
20 ラッチ機構
21 ベースプレート
21a 平板部
21b スペーサ壁
21c 固定壁
21d 固定ねじ挿入穴
21e 切欠
22 ストライカ進入溝
23 24 27 変形抵抗軸
25 フック
25a ストライカ保持溝
25b ロック突起
25c トーションコイルばね
25s ストッパ面
26 ラチェット
26a 先端係止爪
26b ばね掛け腕
28 セカンダリレバー
28a ロック腕
28b 操作腕
28c ロック突起
28c’ 傾斜面
28d ばね掛け腕
29 補助ストライカ受け
30 引張ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に、後方の軸を中心に開閉可能とした前開きタイプの前部フードにストライカを設け、車両ボディにこのストライカを把持開放するラッチ機構を設けた車両のフードラッチ装置であって、
該ラッチ機構は、ストライカ進入溝を有するベースプレートと、このベースプレートにストライカ進入溝の両側に位置させて互いに平行な軸で枢着した、上記ストライカを把持開放するフック及びこのフックの回動を規制するラチェットと、常時はストライカの拘束位置にあり手動操作によってストライカの開放位置に移動するセカンダリレバーと、を有するフードラッチ装置において、
上記フック、ラチェット及びセカンダリレバーの軸の少なくとも一つを、衝突荷重によってベースプレートが変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形に抵抗を与える長さの変形抵抗軸としたことを特徴とするフードラッチ装置。
【請求項2】
車両ボディに開閉可能に枢着したフードにストライカを設け、車両ボディにこのストライカを把持開放するラッチ機構を設けた車両のフードラッチ装置であって、該ラッチ機構は、ストライカ進入溝を有するベースプレートと、このベースプレートにストライカ進入溝の両側に位置させて互いに平行な軸で枢着した、上記ストライカを把持開放するフックとこのフックの回動を規制するラチェットと、
を有するフードラッチ装置において、
上記フックとラチェットの軸の少なくとも一方を、衝突荷重によってベースプレートが変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形に抵抗を与える長さの変形抵抗軸としたことを特徴とするフードラッチ装置。
【請求項3】
請求項2記載のフードラッチ装置において、上記フードは、車両の前方に、後方の軸を中心に開閉可能とした前開きタイプの前部フードであり、ベースプレートには、上記フックとラチェットに加えて、常時はストライカの拘束位置にあり手動操作によってストライカの開放位置に移動するセカンダリレバーが枢着されているフードラッチ装置。
【請求項4】
請求項2または3記載のフードラッチ装置において、上記セカンダリレバーの軸を、衝突荷重によってベースプレートが変形を開始したとき、車両ボディと一体の固定部材に当接してその変形に抵抗を与える変形抵抗軸としたフードラッチ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載のフードラッチ装置において、上記ベースプレートは、上記車両ボディと一体の固定部材より前方に位置する車両左右方向の縦壁からなる平板部を有し、上記変形抵抗軸は、この平板部に一端部が固定されているフードラッチ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−299627(P2006−299627A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122112(P2005−122112)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】