説明

ブタジエンの製造方法

【課題】エチレンからブタジエン製造するにあたり、工業的に有利な製造法を提供すること。
【解決手段】(I)ニッケルの含有量が0.0001〜1重量%であるニッケル、アルミナおよびシリカからなる触媒の存在下、反応温度150〜400℃でエチレンを二量化して、実質イソブテンを含まないn−ブテンを製造する工程、(II)前記工程(I)で得られたn−ブテンおよび酸素を、モリブデン、ビスマスを必須成分とする複合金属酸化物の存在下、反応温度300℃〜600℃で酸化脱水素反応してブタジエンを製造する工程の工程(I)および(II)を含むブタジエンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンを原料とするブタジエンの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、実質的にイソブテンを副生しない触媒でエチレンを二量化してn−ブテンを製造し、次いで、n−ブテンをモリブデン、ビスマスを主成分とする複合金属酸化物触媒で脱水素してブタジエンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタジエンは合成ゴムの原料として使用される重要な化学品であり、合成ゴムは自動車のタイヤなどに大量に使用されている。ブタジエンのほとんどが石油のナフサ留分を熱分解し、イソブテン、n−ブテン、ブタジエンなどからなるC4留分から抽出して製造している。しかし、ブタジエンの需要量がC4留分の生産量を大きく上回っており、新たなブタジエン製造法が切望されている。一方、安価なエタンガスから得られるエチレンが大量に製造されるプロセスが開発され、伸びてきているが、このプロセスではナフサ分解と異なり、ブタジエン等の成分が得られないため、ブタジエンの供給不足につながる可能性がある。本発明はエチレンからブタジエンを経済的に製造する方法を提供するものである。
【0003】
エチレンをオリゴマー化してその二量化物としてブテンが得られることは知られている。古くからチタン錯体やニッケル錯体とアルキルアルミニウムとからなる触媒を使用して液相でオリゴマー化を行なう方法は公知である(たとえば非特許文献1)。しかし、反応温度は100℃以下、通常30〜60℃で行われ、反応温度維持のための冷却コストが多大となるだけでなく均一の触媒を使用する方法では触媒を分離回収する必要があり、プロセスが複雑になる。オリゴマー化反応は発熱反応であり、150℃以上、特に、200℃以上で反応を行うことができれば高品位の熱を回収することができ工業的に極めて優位である。
【0004】
エチレンを不均一触媒でオリゴマー化してその二量化物としてブテンが得られることも知られている。不均一触媒として、ニッケル、アルミナおよびシリカを主成分とするオリゴマー触媒が知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、0.1〜5重量%のニッケルと1〜10重量%のアルミナおよびシリカとからなる触媒を使用して200℃以下でエチレン、プロピレン、ブテンのようなオレフィンをオリゴマー化する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ニッケル、シリカ、およびアルミナからなりニッケルの含有量が2〜60重量%の触媒を使用し、エチレンを反応温度50℃から300℃でオリゴマー化する方法が開示されているが、エチレンの重合物が得られ、二量化物は生成しない。
【0007】
特許文献3〜5には、エチレンのポリマー化触媒としてニッケル含有量を0.1〜10重量%に調製する触媒の製造法が開示されている。
特許文献6には、酸化ニッケル/シリカ(モル比)が0.001〜0.02(ニッケルの含有量は0.092〜1.8重量%に相当する)であり、シリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)が30〜500である触媒を使用し、イソブテンやプロピレンを50〜70℃でオリゴマー化して分岐の多い生成物を得る方法が開示されている。
【0008】
特許文献7には、シリカとアルミナとからなる担体にニッケルを担持した触媒をさらにイオウを含む化合物と反応させて、担体にニッケルとイオウとを担持させた触媒が開示されている。
【0009】
特許文献8にはシリカアルミナにNiをイオン交換して調製したニッケル、シリカ、アルミナからなる触媒を20〜400℃でオリゴマー化し、分岐したオリゴマーを主生成物とする触媒の製造方法が開示されている。シリカとアルミナとの割合は限定されていないが、実施例1ではアルミナ13重量%のシリカアルミナ(シリカとアルミナとのモル比11.4)と高濃度のアルミナが使用されている。
【0010】
非特許文献2にはシリカとアルミナとの比が25〜500のシリカアルミナ担体にNiを0.8〜4重量%担持した触媒による反応温度100℃でのオリゴマー化反応が開示されている。
【0011】
非特許文献3にはニッケルが0.73〜3.84重量%で調製されたニッケル、アルミナ、シリカからなる触媒を使用し、エチレンをオリゴマー化する方法が開示されている。炭素数が偶数のオリゴマー生成物は120℃で最大となり、170℃を超えると炭素数が奇数のオリゴマー生成物が急激に増え、300℃では18倍になることが記載されている。炭素数が奇数のオリゴマー生成物の増加は熱分解のような異なった反応などにより、分岐したオリゴマー生成物が多くなることが示唆される。また、触媒寿命も短い。
【0012】
このように、エチレンを150℃〜200℃以上の高温で二量化したブテンは分岐した化合物を多量に含み、また、コーキングによって触媒寿命が短く、工業的に使用できない。イソブテンとn−ブテンは沸点が極めて近く蒸留分離することができないため、イソブテンを含むn−ブテンを酸化脱水素反応に供すると、反応性の高いイソブテンは容易にアクロレインおよびその縮合物のような含酸素化合物となり、得られるブタジエンの精製分離が複雑となり経済性を損なう要因となる。
【0013】
このように、反応温度が工業的に有利な150℃〜200℃以上の高温の場合、分岐オレフィンが副生するだけでなく、触媒寿命は短いという問題があり、工業的に触媒を使用できる方法は知られていない。
【0014】
ブテンからブタジエンを製造する酸化脱水素反応として、モリブデン、ビスマス系の複合酸化物触媒が有効な触媒であり、また、モリブデン、ビスマス、鉄およびコバルトからなる複合酸化物触媒がより効果的であることも開示されている。たとえば、特許文献9〜16などが挙げられるが、この他にも多数知られている。
【0015】
これら公知の製造法で使用されるブテンは前述のC4留分中のn−ブテンが使用されている。しかし、C4留分中のブタジエンの需要量に供するn−ブテンが不足しているだけでなく、使用されるn−ブテンにイソブタンが含まれると対応する不飽和カルボニル化合物であるメタクロレインが副生し、ブタジエンの精製が複雑になるためあらかじめそれらを分離する工程が必要であるが、イソブテン(沸点−6.9℃)と1−ブテン(沸点−6.5℃)と沸点がほとんど同じであるため、たとえば、イソブテンをメタノールと反応させてメチルエチルケトンとして除くなど前分離工程が必要である。イソブテンおよびn−ブテンを含む原料を酸化脱水素してメタクロレインとブタジエンの同時製造法が開示されているが(特許文献17)、この方法は収率が低く、分離に多大な費用がかかり経済性を大きく損なう方法である。
【0016】
ブタンを脱水素して得られるブテンを原料として酸化脱水素でブタジエンを製造する方法は公知であるが(特許文献18)、ブタンを脱水素して得られるブテンの濃度が50重量%以下であり、純度の高いn−ブテンを得るためには複雑な分離・リサイクルが必要で、経済性が大きく損なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許2581228号明細書
【特許文献2】米国特許2921971号明細書
【特許文献3】米国特許2949429号明細書
【特許文献4】米国特許3045054号明細書
【特許文献5】米国特許2904608号明細書
【特許文献6】国際公開第93/06926号パンフレット
【特許文献7】米国特許3527839号明細書
【特許文献8】特開昭60−143830号明細書
【特許文献9】WO2008/147055(A1)
【特許文献10】特開2003−230835号明細書
【特許文献11】特開平10−258266号明細書
【特許文献12】特開昭61−234943号明細書
【特許文献13】特開昭54−52010号明細書
【特許文献14】特公昭49−3498号明細書
【特許文献15】特公昭48−328066号明細書
【特許文献16】特公昭46−33929号明細書
【特許文献17】特開昭57−209232号明細書
【特許文献18】US7495138(B2)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Chem.Rev.1991,91,613-648.
【非特許文献2】Applied Catalysis A: General,245(2003)43−53
【非特許文献3】J.Heveling,C.P.Nicolaides,M.S.Scurrell,Catalysts and conditions for the highly efficient,selective and stable heterogeneous oligomerisation of ethylene,ELSEVIER,Applied Catalysis A,1998 Vol.173,1−9p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、エチレンからブタジエンを製造するにあたり、n−ブテンと分離の困難なイソブテンを実質含まないn−ブテンを劣化が少ない触媒で製造し、そのn−ブテンから高い選択率でブタジエンを製造する、すなわち、エチレンを原料とするブタジエンの工業的に有利な製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らはブタジエンの原料として純度の高いn−ブテンを高温の反応で得る方法を鋭意検討した。その結果、ニッケルの含有量が極めて少ない触媒を使用してエチレンを二量化すると150℃以上の高温でも、分岐の少ない、すなわち、イソブテンを実質副生しないn−ブテンを製造することができることを見出した。このようなn−ブテンはブタジエンの製造の原料には好都合であり、実質イソブテンのないn−ブテンを酸化脱水素すると含酸素化合物が少なく、分離・精製が容易なブタジエンが製造できることも見出し、本発明に至った。
【0021】
アルミナの含有量が多いすなわち、SiO2/Al23比が小さいとその酸性によりコークの生成やオリゴマーの分岐構造への異性化という好ましくない反応を引き起こし、触媒活性および触媒寿命が低い。したがって、アルミナ含有量を必要最小限に抑えることが好ましい。一方、担体上のアルミナによりニッケルが安定化されるので触媒中のニッケルとアルミとのモル比(Ni/Al)は、1を大きく超えない範囲が好ましい。このようにアルミナの含有量が非常に少ない、すなわちシリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)が大きいシリカとアルミナとを含む担体に、ごく少量のニッケルを担持させることにより、ニッケルが担体上に安定に高分散化され、ニッケルの凝集が起こりにくくなる。その結果、劣化が少なく高活性で高寿命の触媒を得ることが出来る。
【0022】
すなわち、本発明の方法は、
(I) ニッケルの含有量が0.0001〜1重量%であるニッケル、アルミナおよびシリカからなる触媒の存在下、反応温度150〜400℃でエチレンを二量化して、実質イソブテンを含まないn−ブテンを製造する工程、
(II) 前記工程(I)で得られたn−ブテンおよび酸素を、モリブデン、ビスマスを必須成分とする複合金属酸化物の存在下、反応温度300℃〜600℃で酸化脱水素反応してブタジエンを製造する工程
の工程(I)および(II)を含むブタジエンの製造方法である。
である。
【0023】
また、前記の工程(I)でエチレンを二量化し、該生成物から沸点がブテンより高い生成物を分離して、該沸点がブテンより高いヘキセンを含む生成物とエチレンを不均化してプロピレンを製造する工程と実質イソブテンを含まない該n−ブテンおよび酸素を、モリブデン、ビスマスを必須とする複合金属酸化物の存在下、反応温度300℃〜600℃、反応圧力0.1〜5MPaで酸化脱水素反応してブタジエンを製造するプロピレンとブタジエンを併産する製造方法である。
【0024】
なお、本発明では、ブテンとはn−ブテン(直鎖ブテン)とイソブテン(分岐を有するブテン)とのすべてをあわせた炭素数4のアルケンのことをいい、ヘキセンとはn−ヘキセン(直鎖ヘキセン)と分岐を有するヘキセンとのすべてをあわせた炭素数6のアルケンのことをいう。
【発明の効果】
【0025】
本発明の二量化触媒は、高温で分岐した副生物が実質生成しないでエチレンを二量化してn−ブテンを製造でき、触媒寿命も長い。得られるn−ブテンを酸化脱水素することによりブタジエンを製造する。発熱反応である二量化反応の発熱を高品位の熱として回収でき、実質イソブテンができないためブタジエンの分離・精製が容易で経済性に優れたものである。また本発明の触媒を用いたエチレンの二量化では分岐オレフィンが少ないため、生成するヘキセンは、エチレンと不均化を行ってブテンとプロピレンを製造する原料としても有用で、好適である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<エチレンの二量化>
本発明では、その工程(I)において、ニッケルの含有量が0.0001〜1重量%である、ニッケル、アルミナ、およびシリカを含む触媒の存在下、エチレンの二量化を行う。このような触媒を用いると、エチレン二量化の活性が向上するだけでなく触媒寿命が長くなる。
【0027】
前記触媒のニッケルの含有量は0.0001〜1重量%であるが、好ましくは0.0001〜0.5重量%、より好ましくは0.0001〜0.13重量%、さらに好ましくは0.0001〜0.09重量%、特に好ましくは0.0001〜0.05重量%である。ニッケルの含有量が前記範囲よりも少ないと、二量化活性が低くなる傾向にあり、ニッケルの含有量が前記範囲よりも多いと、触媒寿命が短くなる傾向にある。
【0028】
前記ニッケル含有量の触媒は、例えば公知の方法により、ニッケルが所望の含有量となるように、アルミナを含むシリカに含有させるようにようにして調製できる。
前記触媒によればエチレン二量化の活性が向上するだけでなく触媒寿命が長くなるが、その理由は、触媒中にアルミナが存在し、ニッケルとアルミナとの相互作用によるものと考えられる。
【0029】
しかし、前記触媒中のアルミナの含有量はアルミのグラム原子数がニッケルのグラム原子数を大きく超えることは好ましくない。
Ni/Al原子比(g−原子/g−原子)は、0.00005〜1.5であることが好ましく、0.00005〜1.2であることがより好ましい。更には、0.00005〜1.0であることが好ましく、0.00005〜0.6であることがより好ましく、0.00005〜0.2であることがさらに好ましく、0.0001〜0.1であることが特に好ましい。
【0030】
Ni/Al原子比が前記範囲より大きすぎると、イソブテンの副生が急激に増加し、触媒表面にコークが蓄積して反応活性が低下する。
また、前記触媒中のシリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)は、好ましくは100〜2000であり、より好ましくは100〜1000であり、さらに好ましくは150〜1000である。この範囲よりもシリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)が低い場合には触媒上の酸点が増加するため、分岐状オレフィンの割合が増加し、さらに触媒表面にコークが蓄積して反応活性が低下する傾向がある。一方、この範囲よりもシリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)が高い場合には、ニッケルを安定化させるために必要なアルミナが不足し、オリゴマー化反応の触媒活性および触媒寿命が低下する傾向がある。
【0031】
本発明の方法で使用するニッケル、アルミナおよびシリカを含む触媒としては例えば、シリカ担体にアルミナおよびニッケルを含ませるようにしたもの、アルミナを含むシリカ担体にニッケルを担持したものが使用できる。このような担体としては、高い比表面積と高い細孔容積とを有する担体が好ましく用いられる。前記担体の比表面積は200〜1200m2/gであることが好ましく、細孔容積は0.4〜2cc/gであることが好ましい。
【0032】
このような物性を有するシリカ担体としては、一般的なアモルファスシリカが挙げられるが、その他MCM−41もしくはMCM−48のようなメソポーラスシリカなども挙げられる。
【0033】
また、このような物性を有するシリカおよびアルミナを含む担体としては、大きい細孔径を有する、例えばY型ゼオライト、X型ゼオライト、モルデナイト、ベータ型ゼオライト、L型ゼオライト、MFIなどのゼオライトなどが挙げられる。
【0034】
本発明の担体としては、上述のような市販のものを使用してもよいが、前記担体は、シリカ源となる化合物を含む溶液から沈殿させてろ過、乾燥、焼成する方法により合成することもできる。
【0035】
前記工程(I)で使用するニッケル、アルミナおよびシリカを含む触媒の製造方法は、特に制限されず、該触媒は、種々の方法で合成することができる。例えば、前記触媒は、ケイ酸ナトリウム等のシリカ源となる化合物、硝酸アルミニウムや水酸化アルミニウムのようなアルミナ源となる化合物、ニッケルの酢酸塩、ニッケルの硝酸塩のようなニッケルの化合物からなる溶液を共沈させて、得られた沈殿をろ過、洗浄した後、乾燥、焼成する方法により調製できる。前記方法での乾燥温度および乾燥時間は、それぞれ、通常70〜150℃、通常0.1〜50時間であり、焼成温度は、通常200〜800℃である。
【0036】
また、アルミナを含むシリカ担体に、含浸法、イオン交換法、CVD法などによりニッケルを担持させる方法なども挙げられる。
このようなアルミナおよびシリカを含む担体としては、Y型ゼオライト、X型ゼオライト、モルデナイト、ベータ型ゼオライト、L型ゼオライト、MFIなどのゼオライトを使用することもできる。
【0037】
本発明の前記工程(I)のエチレン二量化反応を行う反応装置の形式は特に制限はない。また、その反応で使用する触媒の形態も特に制限はなく、例えば、粉末品、成形品などのいずれも使用できる。
【0038】
本工程(I)で使用する原料エチレンには、パラフィン、ヘリウム、窒素、アルゴン等のエチレン二量化の反応に不活性な成分などが含まれていてもよい。
また、このエチレンの二量化反応は150〜400℃の温度で行うが、好ましくは200〜350℃の温度で行う。この範囲より反応温度が低い場合は触媒の二量化活性が充分ではなくなる傾向にあり、この範囲よりも反応温度が高い場合は、分岐オレフィンが急激に増加するだけでなく、触媒上のニッケルの凝集、コークの副生が進行し、その結果、触媒劣化が起こりやすくなる。
【0039】
エチレンの二量化反応の圧力は特に制限はないが、通常0.1〜50MPaである。この範囲よりも反応圧力が高いと副生物が多くなり、反応圧力が低いと触媒活性が低下し、工業的に効率的なプロセスの構築が困難になる。さらに工業的な観点からは、前記圧力は0.1〜5MPaが好ましい。
【0040】
触媒単位重量あたりのエチレンの供給速度(WHSV(1))は、好ましくは0.1〜50h-1、より好ましくは0.5〜40h-1、さらに好ましくは0.5〜30h-1である。この範囲よりもWHSV(1)が小さい場合は、生産性が低くなる傾向があり、また、オリゴマー化の逐次反応が進行するため、二量体や三量体の選択率が低くなる傾向がある。また。一方、この範囲よりもWHSV(1)が大きい場合は、エチレンの転化率が低くなる傾向がある。
【0041】
前記工程(I)のエチレンの二量化反応では、1−ブテン、シス−2−ブテン、およびトランス−2−ブテンで表されるn−ブテンの外に、1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセンなどのヘキセンが生成する。しかし、イソブテンや3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−2−ペンテンのような分岐したオレフィンの生成は極めて少ない。
【0042】
前記工程(I)のエチレン二量化により得られた反応生成物から、未反応のエチレンを蒸留、抽出、吸着、およびその他公知の方法によって分離して、これをそのまま後述する工程(II)の酸化脱水素反応の原料として用いることができる。また、この未反応エチレンは工程(I)の反応器にリサイクルしてもよい。
【0043】
さらに、必要に応じて、蒸留、抽出、吸着などの公知の方法、好ましくは簡単な蒸留等の方法によって、沸点がブテンより高いヘキセンを含む成分を分離して精製して回収した上で、後述する工程(II)の原料としてもよい。
【0044】
<酸化脱水素>
本発明では、その工程(II)において、酸化脱水素触媒の存在下、前記工程(I)により得られた物を含む原料ガスと酸素とを混合し、酸化脱水素を行う。
【0045】
前記酸化脱水素触媒は、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)を必須成分とする複合金属酸化物触媒であるが、さらに鉄(Fe)およびコバルト(Co)も含む複合金属酸化物触媒が好ましい。
【0046】
前記複合金属酸化物触媒に含まれる複合金属酸化物の代表的な組成は下記式で示される。
Mo(a)Bi(b)Fe(c)X(d)Y(e)Z(f)O(g)
[式中、XはNiおよびCoの中から選ばれる1種以上の元素、YはK、Rb、Cs、およびTlの中から選ばれる1種以上の元素、ZはBe、Mg、S、Ca、Sr、Ba、Te、Se、Ce、Ge、Mn、Zn、Cr、Ag、Sb、Pb、As、B、P、Nb、Cu、W、Cd、Sn、Al、Zr、およびTlの中から選ばれる1種以上の元素を表わす。a、b、c、d、e、f、およびgは各元素の原子比率を表わし、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.01〜2、f=0〜4であり、gは前記各成分の原子価を満足するに必要な酸素の原子数である。]
【0047】
前記複合金属酸化物触媒は、通常、複合金属酸化物85〜95重量%とシリカ15〜5重量%とから構成されるが、シリカを使用しない触媒でも使用することができる。
前記触媒の調製法は特に限定されるものではなく、例えば、該触媒は、本分野で公知の方法により調製でき、具体的には、共沈法、蒸発乾固法、熱分解法などにより調製できる。触媒の各金属も焼成によって最終的に金属酸化物の形態になるものであれば金属そのもの、金属塩であっても使用することができ、限定されない。
【0048】
前記触媒は、使用前に予め、好ましくは350℃〜750℃、より好ましくは450℃〜650℃の温度で、空気中で通常2〜24時間焼成することが望ましい。
前記工程(II)の酸化脱水素を実施する際に反応器には前記工程(I)により得られた原料ガスが導入されるが、この原料ガス中のn−ブテンの濃度は、爆発領域を避けるために10容量%以下となるように窒素あるいはスチームのような不活性ガスで希釈することが望ましい。
【0049】
また、前記工程(II)の反応器に導入する酸素:n−ブテンのモル比は、1:0.5〜3の範囲が好ましく、さらに、1:0.8〜2の範囲が好ましい。
また、工程(II)では、酸素そのものを使用してもよいが、工業的には、酸素を含むガス、例えば空気を工程(II)で使用する方が実用的である。
【0050】
また、酸化脱水素の反応を行う際には、反応に不活性なガス、例えば、飽和炭化水素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウム等が反応系に導入されても良い。
この酸化脱水素反応は300℃〜600℃の温度で行うが、好ましくは300〜500℃、さらに好ましくは320〜450℃の温度で行う。
【0051】
前記酸化脱水素反応の際の圧力には特に制限はないが、反応圧力は通常減圧〜2MPa、好ましくは0〜0.5MPaである。
また、触媒単位重量あたりのn−ブテンの供給速度(WHSV(2))は、好ましくは0.1〜10h-1、より好ましくは0.2〜5h-1である。
【0052】
本発明の前記工程(II)の酸化脱水素反応を行う反応装置の形式は特に制限はなく、例えば、流動床、移動床、固定床などいずれの形式でも良い。
本発明のブタジエンの製造方法では、上述したその工程(I)でエチレンを二量化反応を行い反応生成物を得るが、その反応生成物中には、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテンで表されるn−ブテンの外に1−ヘキセン、2−ヘキセン、3−ヘキセンなどのヘキセンが含まれている。この工程(I)では、前記ヘキセンが選択率で約10%生成する。
【0053】
本発明のブタジエンの製造方法では、前記工程(I)でエチレンを二量化して得られた生成物から、沸点がブテンより高い、ヘキセンを含む成分を、例えば蒸留などの方法により分離して、この分離されたヘキセンを含む成分とエチレンとを不均化触媒を充填した反応器に導入して不均化反応を行い、さらにプロピレンを併産する製造することは好ましい一態様である。
【0054】
エチレンとヘキセンとの間の不均化反応では以下のような現象が起きる。1−ヘンセンとエチレンとの間では不均化反応は起らない。2−ヘキセンとエチレンとの不均化反応からはプロピレンと1−ペンタンが得られる。3−ヘキセンとエチレンとの不均化反応からは1−ブテンが得られ、この1−ブテンは不均化反応器内で2−ブテンへ異性化されるため、この2−ブテンとエチレンとの不均化反応からプロピレンを得ることができる。以上のような反応が不均化反応を行う反応器内で起こるため、得られたヘキセンとブテンはリサイクルでき、しかもプロピレンを高収率で得ることができる。
【0055】
この不均化反応の原料となるヘキセンを含む成分にはブテンが少量含まれていてもよい。また、その成分に含まれるヘキセンの量が少ない場合には、蒸留分離などにより、ヘキセンの濃度を高めてもよい。
【0056】
前記不均化触媒としては、タングステン、モリブデン、レニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミオム、ニッケルなどの金属元素を少なくとも1種以上含む触媒が挙げられる。これら触媒の中でも、活性が高いという点では、タングステン、モリブデン、およびレニウムを金属元素として含む触媒が好ましく、タングステンを金属元素として含む触媒が特に好ましい。
【0057】
前記触媒としては、より具体的には、各々の金属元素の酸化物、硫化物、水酸化物などを組成とする触媒が挙げられる。
該触媒の構造としては、前記金属元素を含む物質からなる固体そのものであってもよいし、これら金属元素を含む物質を担体(典型的には高い表面積を有する無機化合物)に担持したものでもよい。担体としては、シリカ、γ―アルミナ、チタニアなどが好ましい。担体に対する金属の担持量は、その金属元素の酸化物換算で、好ましくは0.01重量%〜50重量%の範囲であり、さらに好ましくは0.1重量%〜20重量%の範囲である。
【0058】
また、前記不均化触媒とともに、オレフィンを異性化する能力を有する塩基性の助触媒を併用してもよい。前記助触媒としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、イットリウムなどを少なくとも1種以上を金属元素として含む酸化物、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩などが挙げられる。また前記助触媒としては、さらに他の金属化合物を含有してもよい。これら助触媒の中でも、アルミニウムとマグネシウムとが各々の酸化物として層状化合物となったハイドロタルサイト、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとの固溶体などの複合酸化物が好ましい。
【0059】
ヘキセンとエチレンとを不均化反応を行う反応器に導入する際には、エチレンは、ヘキセンなどのエチレン以外のオレフィンの導入量よりも過剰量導入することが好ましい。例えば、ヘキセンとブテンとの合計に対するエチレンの量比は重量比で1〜50が好ましく、1〜5がさらに好ましい。
【0060】
エチレンの量比が小さすぎると、他のオレフィン同士の好ましくない反応が併発しやすくなり、また、その量比が大きすぎると、未反応エチレン回収のエネルギーが増大すると共に反応器自身の大型化を招きやすくなる傾向にある。
【0061】
前記不均化反応の反応温度は、通常100〜400℃であり、好ましくは130〜400℃、より好ましくは150〜350℃である。また、反応圧力は好ましくは0.1〜50MPa、より好ましくは0.1〜10MPa、さらに好ましくは0.1〜5MPaである。
【0062】
また、前記不均化反応の際の触媒単位重量あたりのエチレンの供給速度(WHSV(3))は、好ましくは0.5〜40h-1、さらに好ましくは0.5〜30h-1である。
なお前記不均化反応を行う際には、前記工程(I)の二量化反応で得られる生成物をそのまま、不均化反応を行う反応器に導入して、プロピレンを製造した後に、未反応のブテンを酸化脱水素してブタジエンを製造することも、プロピレンとブタジエンとを効率よく製造できる観点から好ましい態様である。
【0063】
本発明のブタジエンの製造方法によれば、工程(I)においてn−ブテンと沸点の近いイソブテンの生成が極めて少ない。そのため、抽出分離等の複雑な精製工程を経ることなく、必要に応じて簡単な蒸留等の精製工程のみでブタジエンの製造に係る工程(II)を実施できる。また、仮に抽出により精製を行う場合であっても極めて簡易な抽出により精製を行うことができる。このため、コスト等の面で有利である。
【実施例】
【0064】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ニッケル担持量、ならびにシリカとアルミナとのモル比(SiO2/Al23)は、ニッケル量をICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製Agilent7500s型)量で、また、アルミをICP発光分光分析装置(セイコーインスツル社製VISTA−PRO型)で定量し、それぞれ酸化ニッケルおよびアルミナとして計算し、総重量からそれらを減じたものをシリカとして計算した。
触媒の寿命は、エチレンの反応初期の転化率が10%低下するまでの時間と定義した。
【0065】
[実施例1]
(1)担体Aの調製
シリカSS62138(サンゴバン社製)3.0gを蒸留水12mlに懸濁させた。次に硝酸アルミニウム九水和物0.075gの水溶液3mlを加えた。その後、室温で10分攪拌した後、70℃で水を減圧下に留去し、固形物を得た。得られた固形物を空気中80℃で3時間かけて乾燥し、500℃で6時間かけて焼成することにより、シリカとアルミナとを含む担体を得た。シリカとアルミナのモル比(以下、単に「SiO2/Al23」とも記す。)は470であった。
【0066】
(2)触媒Aの調製
2.0gの担体Aを20mlの蒸留水に懸濁させた。次に、硝酸ニッケル六水和物0.0044gの水溶液20mlを加え、室温で10分攪拌した。その後80℃で20時間加熱した。室温まで冷却後ろ過、水洗した。その後、空気中80℃で3時間乾燥し、300℃で6時間焼成して触媒を得た。得られた触媒において、ニッケル担持量は、担体の重量に対して0.035重量%であり、Ni/Alは0.09であった。
【0067】
(3)二量化反応
触媒Aを0.275g固定床流通式反応器に充填し、エチレンを300℃、0.1MPa、WHSV=6.13h-1で流通させ、エチレンの二量化反応を行った。24時間反応後のエチレン転化率は29.4%、ブテン選択率は86.7%、ヘキセン選択率は9.0%であり、ブテン中のイソブテンの割合は0.03%であった。また、触媒の寿命は72時間であった。
【0068】
[実施例2〜4]
実施例1と同様な方法で、担体A、硝酸アルミニウム九水和物量、硝酸ニッケル六水和物の使用量を変更して、ニッケル、シリカ、アルミナ比の異なる触媒を調製した。また、実施例3は6時間の焼成時間を24時間に変更した触媒を使用した。実施例1と同様に二量化反応を行った。触媒の分析結果と反応成績を実施例1と共に表1に記す。
【0069】
[実施例5]
(1)担体Bの調製
シリカの原料として、担体Aで使用したシリカSS62138(サンゴバン社製)に換え、サイロスフェア1504(富士シリシア社製)5.0gを蒸留水20mlに懸濁させ、次に硝酸アルミニウム九水和物0.125gの水溶液5mlを加え、10分撹拌後、水を70℃で減圧下に留去し、固形物を得た。得られた固形物を空気中80℃、3時間で乾燥、500℃で6時間焼成することにより、シリカとアルミナとを含む担体を得た。
【0070】
(2)触媒Bの調製
担体Bを使用した以外は実施例1の触媒Aと同様の方法で触媒を調製した。触媒の物性を表1に示す。
【0071】
(3)二量化反応
WHSV=6.13とした以外は実施例1と同様に二量化反応を行った。26時間反応後のエチレン転化率は24.1%、ブテン選択率は85.8%、ヘキセン選択率は9.4%で、ブテン中のイソブテンの割合は0.16%であった。また、触媒の寿命は71時間であった。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例6〜12]
実施例5の触媒Bを使用した。反応温度、反応圧力、WHSVを表1のように変更した以外は実施例5と同様な方法で二量化反応を行った。反応成績を表1に示す。
【0073】
[実施例13]
(1)担体Cの調製
n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド112.5gを蒸留水321mlに溶解した溶液と、水酸化ナトリウム5.30gを蒸留水63mlに溶解した溶液と、スノーテックス20(日産化学社製)153.15gとをオートクレーブに仕込み、140℃に加熱して48時間攪拌した。室温まで冷却後、固形物をろ過し、水洗し、空気中80℃で24時間かけて乾燥して、シリカとアルミナとを含む担体45.51gを得た。
【0074】
(2)触媒Cの調製
担体Cを使用し、実施例1の触媒Aと同様な方法でニッケル、アルミナ、シリカの比の異なる触媒を調製した。得られた触媒の物性を表1に示す。
【0075】
(3)二量化反応
触媒Cを使用し、反応温度を350℃とした以外は実施例5と同様にして反応を行なった。24時間反応後のエチレン転化率は45.3%、ブテン選択率は74.5%、ヘキセン選択率は11.0%で、ブテン中のイソブテンの割合は0.08%であった。また、触媒の寿命は341時間であった。
【0076】
[実施例14]
(1)担体Dの調製
水酸化アルミニウム0.0525gと水酸化ナトリウム1.0gとを蒸留水1.5mlに加え、加熱還流して透明な水溶液を得た。蒸留水50mlを追加して加熱攪拌し均一な水溶液とした。この水溶液にシリカの原料として、水ガラス(3号)55.7gを217mlの蒸留水に溶解した水溶液と1.4M硝酸110mlとを加え室温で激しく攪拌した。3日間熟成させた後、固形物をろ過し、水洗した。この固形物を1M硝酸アンモニウム水溶液300mlに加え、50℃で1時間攪拌した後、室温で一晩熟成した。固形物をろ過、水洗し、空気中80℃で18時間乾燥させ、500℃で3時間焼成し、シリカとアルミナとを含む担体13.26gを得た。
【0077】
(2)触媒Dの調製
担体A2gに換えて担体D1.0gを使用し、硝酸ニッケル六水和物0.004gに換えて硫酸ニッケル六水和物0.020gを使用した以外は実施例1の触媒Aと同様な方法でニッケル、アルミナ、シリカの比の異なる触媒を調製した。得られた触媒の物性を表1に示す。
【0078】
(3)二量化反応
実施例1と同様の方法で触媒Dを使用して二量化反応を行った。24時間反応後のエチレン転化率は20.0%、ブテン選択率は84.0%、ヘキセン選択率は9.6%で、ブテン中のイソブテンの割合は0.21%であった。また、触媒の寿命は53時間であった。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例15]
担体A2gに換えて担体Dを2g使用し、硝酸ニッケル六水和物0.0004gに換えて酢酸ニッケル四水和物0.038g使用した以外は実施例1の触媒Aと同様な方法で触媒を調製した。24時間反応後のエチレン転化率は18.0%、ブテン選択率は84.5%、ヘキセン選択率は9.3%で、ブテン中のイソブテンの割合は0.20%であった。また、触媒の寿命は20時間であった。結果を表1に示す。
【0080】
[参考例1]
(1)担体の調製
水酸化アルミニウム0.0525gに換えて水酸化アルミニウム0.9gを使用した以外は実施例15の担体Cと同様の方法で担体を調製した。
【0081】
(2)触媒の調製
担体Aに換えて担体Dを使用した以外は実施例1の触媒Aと同様の方法で触媒Dを調製した。触媒の物性を表1に示す。
【0082】
(3)二量化反応
触媒Dを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。27時間反応後のエチレン転化率は23.2%、ブテン選択率は83.3%、ヘキセン選択率は10.0%で、ブテン中のイソブテンの割合は5.40%であった。また、触媒の寿命は6時間であった。結果を実施例と共に表1に示す。
【0083】
[参考例2〜3]
シリカとアルミナのモル比が異なる市販のシリカアルミナに硝酸ニッケル六水和物を実施例1の触媒Aと同様な方法でニッケルを担持した。得られた触媒の物性を表1に示す。
実施例1と同様の方法で二量化反応を行った実施例1と同様に二量化反応を行った。ブテン中のイソブテンの割合は、参考例2で4.56%、参考例3で4.70%であった。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
シリカとアルミナのモル比が異なる市販のシリカアルミナに硝酸ニッケル六水和物を実施例1の触媒Aと同様な方法でニッケルを担持した。得られた触媒の物性を表1に示す。
実施例1と同様の方法で二量化反応を行った実施例1と同様に二量化反応を行った。ブテン中のイソブテンの割合は8.10%であった。結果を表1に示す。
【0085】
[参考例4]
(2)触媒Eの調製
担体Aに変えてZSM−5(ゼオリスト社製NH4タイプ、SiO2/Al23=50)を使用し、硝酸ニッケル六水和物0.44gを使用した以外は触媒Aと同様に触媒を調製した。触媒Cを使用し、実施例1と同様に反応を行った。ブテン中のイソブテンの割合は53.10%であった。分析で得られた触媒の物性を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
触媒Aを使用し、反応温度を140℃に変更した以外は実施例1と同様に二量化反応を行ったが、エチレン転化率は約6%から1時間以内に3%までへ急激に低下し、以後緩やかに低下した。6時間後の結果を表1に示す。
【0087】
[比較例3]
実施例4で使用した触媒を使用し、反応温度を140℃で行った以外は実施例1と同様に反応を行ったが、1時間後のエチレン転化率は0%であった。
【0088】
【表1】

<酸化脱水素反応>
酸化脱水触媒Aの調製
水1200mlを加熱撹拌しながら、モリブデン酸アンモン127.2g、次いで硝酸セシウム4.3gを溶解し、更に20wt%濃度のシリカゾル111gを加えA液とした。水180mlに硝酸コバルト139.6g、硝酸第二鉄70.20gを溶解しB液とした。
【0089】
60%硝酸15mlと水150mlとからなる硝酸水溶液に硝酸ビスマス57. 14gを溶解しC液とした。A液にB液、 C液を順次滴下混合し、得られたスラリー溶液を噴霧乾燥し、仮焼し、550℃、10時間空気中で焼成して、Mo/Bi/Fe/Co/Cs原子比が12/2.0/3.0/8.0/0.4なる酸化物の混合物90重量%と10重量%のシリカとからなる触媒を得た。
【0090】
実施例1〜15で得られた生成物からエチレンを分離して混合し、蒸留分離して実質イソブテンを含まないn−ブテンを得た。該n−ブテンを、n−ブテン8.3容量%、酸素12.5容量%、窒素46.6容量%、水蒸気32.6容量%という原料ガス組成になるように水蒸気と空気を、酸化脱水素触媒Aを1ml充填した通常の流通式反応器に導入し、反応温度340℃、空間速度(WHSV)0.25hr-1という条件で反応を行い、触媒の性能を評価した結果、n−ブテンの転化率90%、ブタジエンの選択率95%を得た。フラン類などのn-ブテンからの副生成物だけであり1%以下であった。
【0091】
<不均化反応>
Journal of Molecular catalysis, 28(1985)117-131の表1および2に記載の方法、すなわち、MgOとWO3・SiO2を600℃で焼成し、COで15分還元し、調製した不均化触媒を、それぞれ、重量比で3:1の割合で二層に反応器へ充填して不均化反応を行った。実施例1〜15で得られた生成物からエチレンおよびn−ブテンを分離した残留物には、ヘキセン68%、オクテン(n−オクテンおよび分岐を有するオクテンとのすべてをあわせた炭素数8のアルケン)21%、ブテン5%が含まれていた。
【0092】
この残留物に、ヘキセンに対して5倍モルとなるようにエチレンをWHSV(3)として12.5hr-1で反応器へ導入し、350℃、反応圧力0.1MPaで不均化反応を行った。ヘキセンの転化率87%、原料としてリサイクル可能なエチレン、ブテンを除きプロピレン選択率は92%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)および(II)を含むブタジエンの製造方法。
(I) ニッケルの含有量が0.0001〜1重量%であるニッケル、アルミナおよびシリカからなる触媒の存在下、反応温度150〜400℃でエチレンを二量化して、n−ブテンを製造する工程、
(II) 前記工程(I)で得られたn−ブテンおよび酸素を、モリブデン、ビスマスを必須成分とする複合金属酸化物の存在下、反応温度300℃〜600℃で酸化脱水素反応してブタジエンを製造する工程
【請求項2】
ニッケル、アルミナおよびシリカからなる触媒が、シリカ/アルミナのモル比が100〜2000、かつ、ニッケル/アルミの原子比が0.00005〜1.5である請求項1に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項3】
モリブデン、ビスマスを必須成分とする複合金属酸化物が、モリブデン、ビスマス、鉄およびコバルトを成分とする複合金属酸化物である請求項1に記載のブタジエンの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の工程(I)の方法でエチレンを二量化し、該生成物から沸点がブテンより高い生成物を分離して、該沸点がブテンより高いヘキセンを含む生成物とエチレンを不均化してプロピレンを製造する工程と請求項1に記載の方法でブタジエンを製造するプロピレンとブタジエンを併産する製造方法。

【公開番号】特開2011−148720(P2011−148720A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9931(P2010−9931)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】