説明

ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液及び制振性を有する物品

【課題】ブチルゴム系熱可塑エラストマーの有する制振性等の各種の優れた性能を維持した上で、各種素材への接着性やその他の性能を向上させることによって、制振性を有する物品等への適用性を向上させたブチルゴム系熱可塑エラストマーを含む水性分散液を提供する。
【解決手段】ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を水性媒体に分散させた分散液からなる、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの水性分散液、及び該水性分散液を用いて得られる制振性を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、ゴムと同じ弾性体でありながらプラスチックと同様な機械成形が可能であり、この様な特徴を生かして、幅広い工業分野で使用されている。これらの中でも特に、ブタジエンをソフトセグメントとして導入したSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体)等のジエン系熱可塑性エラストマーは、他の熱可塑性エラストマーと比較した場合、柔らかく、かつ永久歪が小さいことより古くから工業的に製造されている。
【0003】
しかしながら、これらのジエン系熱可塑性エラストマーは、ポリブタジエンのブロック部分に不飽和結合をもつため、耐熱性や耐候性が劣る等の欠点を有している。この改良品として、不飽和結合を水添することで耐熱性や耐候性が改良されたSEBS(ポリスチレン−ポリ(エチレン−ブタジエン)−ポリスチレンブロック共重合体)タイプの熱可塑性エラストマーが製造されているが、少量の不飽和結合が残存するためにさらに改善を求められる場合がある。
【0004】
これに対して、イソブチレンをブロック部分として導入した不飽和結合を全く含まないSIBS(ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレン)タイプの熱可塑性エラストマーが工業化されている。このポリイソブチレンをブロック部分として有する熱可塑性エラストマーは、SEBSタイプの熱可塑性エラストマーと区別するため、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーとして分類される場合がある。
【0005】
ブチルゴム系熱可塑エラストマーは、不飽和結合がないため、耐熱性や耐候性に非常に優れているだけでなく、ブロック部分であるポリイソブチレンの構造に起因するガスバリア性、制振性等が良好であり、この様な特徴を活用して、制振性を有する物品を製造する検討も進められている。例えば、特許文献1および2では、エラストマーを熱融着させて鋼板等に固着させ制振ダンパー等の制振性を有する物品として用いることが検討されている。
【0006】
しかしながら、これらの熱可塑エラストマーについては、制振性を有する物品を得る際に鋼板等の無機物に対する接着性が悪いという欠点がある。このため、特許文献3では、ポリオレフィン等を含有させることにより接着性を改良することも検討されているが、その効果は十分とは言えない。
【0007】
一方、これらのブチルゴム系熱可塑エラストマーを有効に活用する手段として、特許文献4および特許文献5ではブチルゴム熱可塑性エラストマーを水性分散液として使用する方法も検討されているが、制振性を有する物品の製造への適用についてはほとんど報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−161209号公報
【特許文献2】特開2003−49043号公報
【特許文献3】特開2006−45344号公報
【特許文献4】特開2006−206677号公報
【特許文献5】特開2006−290931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ブチルゴム系熱可塑エラストマーの有する制振性等の各種の優れた性能を維持した上で、各種素材への接着性やその他の性能を向上させることによって、制振性を有する物品の製造等への適用性を向上させたブチルゴム系熱可塑エラストマーを含む水性分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む水性分散液に、更に、多価カルボン酸化合物を配合する場合には、該水性分散液から形成される成形品は、各種素材に対する接着性が大きく向上し、更に、成形品同士が付着するブロッキングも生じ難いものとなり、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの有する優れた性能を利用して各種の用途に有効に利用することが可能となり、特に、制振性を有する物品を製造するための制振材として有用性が高いものとなることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液、及び制振性を有する物品を提供するものである。
項1. ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を水性媒体に分散させた分散液からなる、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項2. ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロック及び(B)芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックを含むイソブチレン系ブロック共重合体である上記項1に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項3. ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体である上記項1又は2に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項4. 多価カルボン酸化合物が、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体である上記項1〜3のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項5. 多価カルボン酸化合物が、エチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩である上記項1〜4のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項6. 多価カルボン酸化合物の含有量が、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜20質量部である上記項1〜5のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
項7. 上記項1〜6のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を乾燥して得られる皮膜を制振材として含む制振性を有する物品。
【0012】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸を水性媒体中に分散させた分散液である。以下に本発明の水性分散液について詳細に説明する。
【0013】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマー
本発明では、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーとしては、ポリイソブチレンをブロック部分として有する熱可塑性エラストマーであれば特に限定なく使用できる。この様なブチルゴム系熱可塑性エラストマーの具体例としては、(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロックと、(B)芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックを含むブロック共重合体などが挙げられる。
【0014】
この様なブロック共重合体において、イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロックにおけるイソブチレンモノマーの含有量は、該重合体ブロックを構成するモノマー成分の全量を基準として、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0015】
また、芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックを形成するために用いる芳香族ビニル化合物の具体例としては、たとえば、スチレン、o−、m−またはp−メチルスチレン、α−メチルスチレン等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を併用してもよい。芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックにおける芳香族ビニル化合物の含有量は、該重合体ブロックを構成するモノマー成分の全量を基準として、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0016】
また、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーにおける、イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロックの含有割合は、特に限定されるものではないが、通常、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの全量を基準として、40〜95質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。
【0017】
イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロックと芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックを含むブロック共重合体は、イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロックの他は、基本的には、芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックからなるものであるが、該ブロック共重合体の性能に悪影響を及ぼさない範囲であれば、その他の重合体ブロックが含まれていても良い。
【0018】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリα−メチルスチレン−ポリイソブチレン−ポリα−メチルスチレンブロック共重合体、ポリp−メチルスチレン−ポリイソブチレン−ポリp−メチルスチレンブロック共重合体、ポリスチレン−ポリイソブチレンブロック共重合体、およびこれらのハロゲン化物等を挙げることができる。このうち、柔軟性等の機械的特性や制振性が優れるという観点からポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体が特に好ましく用いられる。これらのブチルゴム系熱可塑性エラストマーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0019】
多価カルボン酸化合物
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液では、上記したブチルゴム系熱可塑性エラストマーを多価カルボン酸化合物と組み合わせて用いることが必要である。これにより、該水性分散液から形成される成形品の各種の素材に対する接着性を向上させることができ、更に、耐ブロッキング性も良好になる。
【0020】
本発明で用いる多価カルボン酸化合物については、特に限定されないが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸等の低分子量化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体などの高分子量化合物を用いることができる。
【0021】
なかでも、分子中にカルボキシル基を有し、被接着物の表面に存在する極性の官能基と水素結合して結合力を高めることにより、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の各種素材に対する接着性を高めることができ、更に、水性分散液の静置安定性や得られる成形品の耐ブロッキング性を高めることにも寄与するという観点から、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体が好適に用いられる。
【0022】
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体としては、例えば、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とのランダム共重合体;ポリエチレンにエチレン性不飽和カルボン酸がグラフトした共重合体、さらには第3成分を加えターポリマーとしたもの等が挙げられる。
【0023】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などの炭素原子が6個以下の不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの不飽和結合を有するジカルボン酸等を挙げる事ができる。これらの中でもアクリル酸およびメタクリル酸が好ましく用いられる。
【0024】
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸の共重合比率は、特に限定されないが、該共重合体を構成するモノマーの全量を基準として、エチレン性不飽和カルボン酸の割合が1質量%〜40質量%のものが好適に用いられ、5質量%〜25質量%のものがさらに好適に用いられる。不飽和カルボン酸の共重合比率が1重量%未満の場合、得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の各種素材に対しての接着性が悪くなることがあり、また、40質量%を越える場合、水性分散液の安定性が悪くなるおそれがある。
【0025】
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体の性状は特に限定されないが、通常、水性分散液の形態が好ましい。この場合の水性分散液における該共重合体の濃度は特に限定的ではないが、例えば5質量%〜40質量%とすることができる。
【0026】
エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体を水性分散液とするためには、界面活性剤を使用する方法、自己乳化させる方法、機械的な分散方法等の各種方法を採用できる。
【0027】
界面活性剤としては、通常、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤または、これらの併用、塩基性物質との併用が一般的である。
【0028】
また、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体において、エチレン性不飽和カルボン酸の共重合比率が10質量%以上であれば自己乳化の方法をとることができる。この場合、共重合体を塩基性物質で中和する事により分散が可能となる。
【0029】
この中和に使用される塩基性物質としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属類、アンモニア、モルホリン、トリエチルアミン、アミノアルコールなどのアミン類があげられる。なかでも、本発明の水性分散体を用いて得られる成形品の耐ブロッキング性が優れている観点から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0030】
本発明においては、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体として、例えば、エチレン−アクリル酸共重合体を水酸化ナトリウムを用いて自己乳化させた、エチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩が好ましく用いられる。
【0031】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の調製方法
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、水等の水性媒体を分散媒として用い、上記したブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を水性媒体に分散させたものである。
【0032】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、(1)ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを有機溶剤に溶解した有機相と、界面活性剤を水に溶解した水相とを混合して乳化を行い、その後有機溶剤を留去した後、多価カルボン酸化合物を添加する方法、(2)ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを水媒体中で界面活性剤の存在下、加熱下で撹拌して乳化分散し、冷却した後、多価カルボン酸化合物を添加する方法等が挙げられる。なかでも、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが有機溶剤に溶解しやすい点から、(1)の方法が好ましく用いられる。
【0033】
以下、上記(1)の製造方法についてより具体的に説明する。
【0034】
上記(1)の方法でブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む有機相を調製する際に用いられる有機溶剤は、特に限定されるものではないが、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの非環式脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロヘキサンなどの環式脂肪族炭化水素系有機溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上のものを併用してもよい。さらに、溶解助剤としてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール等の低級アルコール類を併用してもよい。
【0035】
有機相を調製する際に、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの溶解割合は、特に限定されるものではないが、有機相中における固形分濃度が5〜50質量%になるよう設定するのが好ましい。溶解温度は、特に限定されるものではなく、通常100℃までの温度にて溶解される。
【0036】
一方、界面活性剤を溶解した水相を調製する際には、通常、水中に界面活性剤を添加して溶解させればよい。この際、界面活性剤の添加量は、特に限定されるものではないが、水相における濃度が0.1〜50質量%になるよう設定するのが好ましい。
【0037】
水相を調製する際に用いられる水性媒体は、基本的には水である。この水は、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水などの各種の水であるが、脱イオン水および純水が好ましい。また、この水は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、消泡剤、防かび剤、顔料等が適宜添加されていてもよい。
【0038】
界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0039】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩、脂肪酸塩等が挙げられる。これらのうち、乳化分散性および安定性に優れ、しかも安価で入手が容易であるといった観点から、ジアルキルスルホコハク酸塩、脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、および脂肪酸塩が好ましい。
【0040】
ジアルキルスルホコハク酸塩は、下記の一般式〔I〕
YOSCH(CHCOOR)COOR 〔I〕
(式中、Yは、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基を表し、R及びRは、同一または異なってよく、炭素数5〜12のアルキル基又はフェニル基を示す。)で表される化合物である。
【0041】
ジアルキルスルホコハク酸塩の具体例としては、ジオクチルスルホコハク酸塩、ジエチルヘキシルスルホコハク酸塩、ジアルキルフェニルスルホコハク酸塩、ジドデシルスルホコハク酸塩等を挙げることができる。それらの中でも特にジオクチルスルホコハク酸塩を使用した場合に好ましい結果が得られる。
【0042】
脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩は、一般式〔II〕
(AO)SOY 〔II〕
(式中、Yは、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基を表し、Rは、炭素数5〜24のアルキル基または炭素数5〜24のアルケニル基を表し、nは、付加モル数を示し2〜50の整数を示す。AOは、−(−CO−)n1−(−CO−)n2−(式中、n1=0〜50、n2=0〜50、但し、n1+n2=2〜50であり、n1≠0且つn2≠0のとき、−CO−と−CO−との順番は問わず、ブロックでもランダムでもよい。)を表す。)で表される化合物である。
【0043】
脂肪族系ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩の具体例としては、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸塩等を挙げることができる。ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム等が挙げられる。ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル硫酸アンモニウム等を挙げることができる。それらの中でも、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸塩、特にポリオキシアルキレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムが好ましく、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを用いた場合に、とりわけ好ましい結果が得られる。
【0044】
脂肪酸塩は、一般式〔III〕
COOM 〔III〕
(式中、Rは、炭素数5〜24のアルキル基または炭素数5〜24のアルケニル基、Mは、ナトリウム原子、カリウム原子又はアンモニウム基を表す。)で表される化合物である。
【0045】
脂肪酸塩の具体例としては、例えば、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、等を挙げることができるが、それらの中で、特にオレイン酸塩を使用した場合に好ましい結果が得られる。
【0046】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミドおよびポリグリセリンエステル等を挙げることができる。これらの中でも、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステルが好ましく、乳化分散性および耐熱性が優れているといった観点から、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が特に好ましい。
【0047】
エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体は、下記一般式〔IV〕で示される化合物である。
【0048】
HO(CHCHO)(CHCH(CH)O)(CHCHO)
…(IV)
一般式(IV)において、p、qおよびrは、それぞれ付加モル数を示し、pは2〜300の整数、qは10〜150の整数、rは2〜300の整数を示している。これらは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0049】
エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体の質量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは3,000〜30,000、より好ましくは6,000〜25,000、特に好ましくは8,000〜20,000である。また、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体中のエチレンオキシドの含有割合は、特に限定されないが、好ましくは40〜95質量%、より好ましくは45〜90質量%、特に好ましくは50〜85質量%である。
【0050】
界面活性剤は、2種以上のものが併用されてもよい。この場合、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤とを併用してもよい。
【0051】
なお、界面活性剤に加え、高分子分散安定剤を併せて用いることもできる。
高分子分散安定剤としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステルの塩、アルギン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0052】
これらの高分子分散安定剤を用いることにより、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの乳化を安定させ、水性分散液の安定性を向上させることができる。また、水性分散液の粘度を適宜調整し、水性分散液を使用する際のハンドリングを容易にすることもできる。
【0053】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを含む有機相と、界面活性剤を含む水相とを混合して乳化させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、適当な剪断力を有する乳化機、例えばホモジナイザーやコロイドミルなどを用いて攪拌混合する方法や、超音波分散機等を用いて分散・混合する方法等を採用することができる。特に、攪拌混合する方法が好ましい。また、乳化時の温度は、特に限定されるものではないが、5〜70℃の範囲に設定するのが好ましい。
【0054】
有機相と水相との混合割合は、通常、有機相100質量部に対する水相の割合が20〜500質量部になるよう設定するのが好ましく、25〜200質量部になるよう設定するのがより好ましい。水相の割合が20質量部未満の場合は、乳化できない場合や、得られる乳化液の粘度が非常に高くなる場合がある。逆に500質量部を超えると、乳化は可能であるが、生産性が悪く実用的ではない。
【0055】
この際、有機相に含まれるブチルゴム系熱可塑性エラストマーに対する水相に含まれる界面活性剤の割合については、通常、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、界面活性剤の量が1〜15質量部になるように設定するのが好ましく、1〜7質量部になるよう設定するのがより好ましい。界面活性剤の割合が少なければ少ないほど、各種素材への接着性が高まる傾向があるが、界面活性剤の割合が1質量部未満の場合は、安定な水性分散体が得られない場合がある。逆に15質量部を超えると、乳化が容易になるものの不経済であり、また、得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の各種物性が損なわれる場合がある。
【0056】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、上述の乳化工程により得られた乳化液から有機溶剤を留去した後、多価カルボン酸化合物を添加することにより得られる。有機溶剤の留去は、一般に、減圧下で乳化液を加熱する通常の留去方法に従って実施することができる。多価カルボン酸化合物を添加する方法としては特に限定されず、多価カルボン酸化合物を水性媒体中に分散または溶解させた後、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液に添加してもよいし、多価カルボン酸化合物を直接、水性分散液に添加することもできる。
【0057】
多価カルボン酸化合物の使用量は、特に限定されないが、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100質量部に対して1〜20質量部に設定するのが好ましく、2〜7質量部に設定するのがより好ましく、さらには3〜5質量部に設定するのがより好ましい。多価カルボン酸化合物の使用量が1重量部未満の場合は、分散液の各種素材への接着性や成形品の耐ブロッキング性が悪くなるおそれがある。また、使用量が20質量部を超える場合は、成形品の柔軟性や透明性、さらには制振性を有する物品を成形した際の制振性が悪くなるおそれがある。
【0058】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液では、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子の平均粒子径は、0.1〜3μmが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合は、水性分散液の静置安定性は高まるが、粘度が高くなるため取扱いが困難になる場合がある。逆に、3μmを超えると、水性分散液の静置安定性が低下する場合がある。この平均粒子径は、乳化工程における攪拌混合操作を適宜調整することにより達成することができる。なお、本明細書において、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて求めた値である。
【0059】
このようにして得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、必要に応じて加熱濃縮、遠心分離または湿式分離等の操作により所望の固形分濃度になるまで濃縮することもできる。
【0060】
なお、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の固形分濃度は、特に限定されないが、25〜55質量%であることが望ましい。固形分濃度が25質量%未満の場合、経済的でないことに加え、水分が多すぎて使用上不都合になるおそれがある。また、固形分濃度が55質量%を超える場合、得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の粘度が高くなり取り扱いが困難になるおそれがある。
【0061】
更に、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液には、必要に応じ、成形品の剛性を調整するために、粘着付与樹脂や可塑剤を含有させることもできる。
【0062】
粘着付与樹脂としては、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂およびそれらの水素化物、テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂およびその水素化物、芳香族系石油樹脂およびその水素化物、ジシクロペンタジエン系石油樹脂およびその水素化物、スチレンまたは置換スチレンの低分子量重合体などを挙げることができる。
【0063】
可塑剤としては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどの石油系プロセスオイル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジブチルなどの2塩基酸ジアルキル、液状ポリブテン、液状ポリイソプレンなどの低分子量液状ポリマーが挙げられる。
【0064】
また、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液には、必要に応じ、接着性付与物質として、シリコーン化合物またはエポキシ化合物を含有させることもできる。
【0065】
シリコーン化合物としては、アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基等の官能基とアルコキシ基を有するシリコーン化合物が好ましい。
【0066】
シリコーン化合物の具体例としては、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0067】
エポキシ化合物としては、1分子中に水酸基を1つ有するエポキシ化合物であれば、エポキシ基の数は特に限定されない。
【0068】
エポキシ化合物の具体例としては、(ポリ)グリセロールポリグリシジルエーテル、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリシドール、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、α−メチルエピクロロヒドリン等が挙げられる。
【0069】
なお、ここで、(ポリ)とは、二量体、三量体等のオリゴマーも含む重合体を表す。
【0070】
これらの粘着付与物質、可塑剤、シリコーン化合物、エポキシ化合物の添加量は、特に限定されないが、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。添加量が0.1質量部未満の場合、効果がほとんど得られないおそれがある。また、添加量が20質量部超の場合、経済的でないことに加え、得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の各種物性が損なわれるおそれがある。
【0071】
これらの粘着付与物質、可塑剤、シリコーン化合物、エポキシ化合物をブチルゴム系熱可塑性エラストマーに添加する添加時期としては、特に限定されない。例えば、既述のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液の製造方法において、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーを有機溶剤に溶解した有機相と、界面活性剤を水に溶解した水相とを混合して乳化を行う際に有機溶剤にこれらを添加することもできるし、最終的に得られたブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液に添加することもできる。
【0072】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液
上記した方法で得られるブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を水性媒体中に分散させたものであり、該水性分散液を乾燥することによって、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を含む、皮膜、フィルム、シートなどの成形品を得ることができる。
【0073】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液から得られる成形品は、ブチルゴム系熱可塑エラストマーの特徴である、優れた制振性を有すると同時に、耐熱性、耐候性、ガスバリア性等が良好であり、更に、多価カルボン酸化合物を配合したことによって、各種の素材に対する接着性が大きく向上している。このため、例えば、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液から形成されるシートなどの成形品を制振性を必要とする各種物品に接着する方法、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を、各種物品に直接塗布し、乾燥して皮膜を形成する方法等によって、各種の物品に対して優れた制振性を付与できる。更に、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液から形成される成形品は、耐ブロッキング性も良好であり、実用性の高い材料である。
【0074】
また、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、水性分散液の形状であることによって、固体状のブチルゴム系熱可塑性エラストマーに比べて、以下のような利点を有している。
【0075】
1)固体状のまま、熱可塑性エラストマーを用いて成形品を製造する場合、例えば、押し出し成形等により機械成形された後、オートクレーブ、プレス等により各種素材に圧着されて成形品が得られるが、水性分散液を用いる場合、ほとんどの場合、機械成形を必要とせず、各種素材に塗工して、乾燥するだけで、加圧せずに成形品を得ることができるため、製造工程が大幅に短縮できる。乾燥温度も、乾燥して得られる皮膜の厚み等にもよるが、30〜40℃位の低温度で乾燥するだけでも、皮膜、フィルム、シートなどの成形品を得ることができるため、簡単に成形品を製造しやすい。
【0076】
2)水性分散液のほうが簡単に、均一に薄く、塗工しやすい。平滑な素材でなく、湾曲した素材にも簡単に塗工し、透明な美観に優れたフィルムを得ることができる。
【0077】
3)無加圧で、応力をかけず、成形品が得られるため、成形品を損傷し、美観を損ねたりする懸念がない。
【0078】
したがって、本発明のブチルゴム系熱可塑エラストマー水性分散液は、耐振性がほとんど無いガラスや金属等の無機物、木材、プラスチック板等の有機物への接着性が優れている特徴を生かし、補修用の接着剤、装飾品の保護フィルム、合わせガラスの中間膜等として用いて、各種の物品に制振性を付与するために非常に利用価値が高いものである。
【発明の効果】
【0079】
本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液は、該分散液から形成される成形品が各種素材への接着性が優れていることから、制振性を有する物品を作製するための材料として非常に有用性が高いものである。更に、該分散液から形成される成形品は、耐ブロッキング性が良好であることから、ブチルゴム系熱可塑性エラストマーの有する各種性能を有効に利用して、各種の用途に利用できる実用性を兼ね備えた材料である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0081】
実施例1
内容積が5000mlのセパラブルフラスコに、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体(スチレン含有量=30質量%)300gとトルエン1700gとを加え、80℃で4時間攪拌して溶解した。得られたトルエン溶液に、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム9gを1000gの水に溶解した水溶液を添加し、これをホモミキサー(特殊機化工業株式会社の商品名“TKオートホモミキサー SL型”)を用いて5分間攪拌混合して乳化液を得た。なお、攪拌混合時の回転数および温度は、それぞれ9000rpmおよび40℃に設定した。得られた乳化液を40〜90kPaの減圧下で40〜70℃に加熱し、トルエンを留去した後、限外ろ過器を用いて固形分濃度が30質量%になるように濃縮し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。得られた水性分散液について、平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所の商品名“SALD−2000J”)を用いて測定したところ、1.6μmであった。
【0082】
得られた水性分散液にエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液(住友精化株式会社製の商品名“ザイクセンN”;固形分濃度25質量%、アクリル酸の共重合比率21.1質量%)60gを添加し、均一に攪拌混合し、本発明のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0083】
実施例2
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液を18g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0084】
実施例3
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液を36g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0085】
実施例4
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液を120g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0086】
実施例5
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液を180g用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0087】
実施例6
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液に加えて、アミノプロピルトリエトキシシラン(東レ・ダウコーニング製の商品名“Z−6011”)3gを用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0088】
実施例7
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液に加えて、グリセロールポリグリシジルエーテル(日本油脂製の商品名“エピオールG−100”)3gを用いた以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0089】
比較例1
実施例1においてエチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩の水性分散液を用いることなく、それ以外は実施例1と同様に操作し、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を得た。
【0090】
性能評価
上記した方法で得た実施例1〜7及び比較例1の水性分散液について、下記の方法で、接着性、耐ブロッキング性、及び制振性を評価した。結果を表1に示した。
【0091】
(1)接着性評価−1;対ガラス
実施例1〜7および比較例1で得られた水性分散液をガラス板(肉厚2mm)上に、乾燥後の皮膜の厚さが10μmとなるようにバーコーターを用いて塗布した。これを150℃のオーブンで5分間加熱乾燥して皮膜を得た。得られた皮膜を、JIS−K5400(碁盤目剥離テープ法試験)を参考に、すきま間隔3mmの碁盤目状の切り傷を付けた後、塗膜上にテープを貼り付けた。次いで、テープを貼り付けてから1〜2分後に、テープの一方の端を持って直角に引き剥がし接着性を評価した。評価基準は下記の通りである。
【0092】
◎:剥がれの面積は、正方形面積の10%未満
○:剥がれの面積は、正方形面積の10%以上であり40%未満
△:剥がれの面積は、正方形面積の40%以上であり70%未満
×:剥がれの面積は、正方形面積の70%以上。
【0093】
(2)接着性評価−2;対アルミ
アルミ板上(肉厚2mm)に塗布した以外は前述のガラス板上に塗布した場合と同様に評価を行った。
【0094】
(3)接着性評価−3;対PP
ポリプロピレン(PP)板上(肉厚2mm)に塗布した以外は前述のガラス板上に塗布した場合と同様に評価を行った。
【0095】
(4)透明性
接着性評価−1と同様に、ガラス板上に塗布、乾燥して皮膜を得た。得られた皮膜の透明性を目視により評価した。評価基準は下記の通りである。
【0096】
○:皮膜の透明性は良好である
×:皮膜が白濁し透明性が悪い。
【0097】
(5)耐ブロッキング性
接着性評価−1と同様の方法で、水性分散液を2枚のガラス板上に塗布、乾燥して皮膜を得た。得られた2枚のガラス板の皮膜面同士を重ね合わせ、指で粘着させた後、ガラス板上に錘をのせ荷重(3g/cm)を加えた。
【0098】
50℃、80%RHに設定した恒温恒湿機にガラス板を移動させた後、24時間後に取り出し、2枚のガラス板を引き剥がし、皮膜面の状態を確認した。評価基準は下記の通りである。
【0099】
◎:皮膜面は全く傷つきが無く、美観が維持されている
○:皮膜面は微妙に傷つきがあるが、ほとんど美観が維持されている
△:皮膜面の粘着により、引き剥がした際に少し傷つきが生じ、少し美観が損なわれている
×:皮膜面が粘着し、引き剥がした際の傷つきが多く、美観が大きく損なわれている。
【0100】
(6)制振性
実施例1〜7及び比較例1の各水性分散液150gを、60cm×25cm、深さ5cmの容器に注ぎ、75℃のファン付き恒温槽中で24時間乾燥し、固形物を得た。得られた固形物を表面が十分平滑な金型を用いて150℃、10分の条件下においてプレス成形を行った。
【0101】
次いで、得られた各シートについて、JIS K−6394(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの動的性質試験方法)に従って、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御株式会社の商品名“DVA−200”)を用いて、せん断モード、周波数10Hz、25℃で損失正接を測定した。評価基準は以下の通りである。
【0102】
◎:tanδ(損失正接)が0.2以上
○:tanδ(損失正接)が0.1以上で0.2未満
×:tanδ(損失正接)が0.1未満
【0103】
【表1】

【0104】
表1から明らかなように、本発明の水性分散液から形成される皮膜は、各種素材への接着性が優れている他、透明性、耐ブロッキング性、制振性等の特性が良好である。よって、本発明の水性分散液は、制振性を有する物品等を作製するために利用できる実用性に優れた材料である。
【0105】
一方、比較例1で得られた、多価カルボン酸化合物を含まない水性分散液から形成されたシートは、優れた制振性を有するものであるが、各種素材への接着性が劣るために、制振性を有する物品を作製するための材料としては実用性が劣るものである。また、比較例1の水性分散液から形成される皮膜は、耐ブロッキング性にも劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーと多価カルボン酸化合物を水性媒体に分散させた分散液からなる、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項2】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、(A)イソブチレンを主要なモノマーとして構成される重合体ブロック及び(B)芳香族ビニル化合物を主要なモノマーとして構成される重合体ブロックを含むイソブチレン系ブロック共重合体である請求項1に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項3】
ブチルゴム系熱可塑性エラストマーが、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロック共重合体である請求項1又は2に記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項4】
多価カルボン酸化合物が、エチレンとエチレン性不飽和カルボン酸とからなる共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項5】
多価カルボン酸化合物が、エチレン−アクリル酸共重合体ナトリウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項6】
多価カルボン酸化合物の含有量が、ブチルゴム系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、1〜20質量部である請求項1〜5のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のブチルゴム系熱可塑性エラストマー水性分散液を乾燥して得られる皮膜を制振材として含む制振性を有する物品。

【公開番号】特開2013−32422(P2013−32422A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168334(P2011−168334)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】