説明

ブランチケーブル

【課題】幹線ケーブルと分岐線ケーブルとの接続を簡略化し、分岐接続箇所の大型化を抑制する。
【解決手段】幹線ケーブル1における分岐接続箇所3の被覆層1bにおいて、一部を剥離することにより導体1a径方向の断面形状が円弧状の切り欠き部10cを形成し、残りの被覆層1bは当該分岐接続箇所3における導体1a外周面に残存させる。この露出した導体1aの外周面と分岐線ケーブル2の露出された導体2aとが互いに当接するように重ね合わせ、それら導体1a,2aに対して超音波振動エネルギーを付与することにより、両導体1a,2aを当接面にて溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹線ケーブルと分岐線ケーブルとから成るブランチケーブルに関するものであって、例えば各種建造物等における情報供給用ケーブル(屋内配線ケーブル等)として適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
単線構造のケーブル(例えば特許文献1,2)ではなく、図4,図5A(外観図),B(概略図)に示すように幹線ケーブル1の外周面に分岐線ケーブル2の一端部が分岐接続箇所3にて接続(分岐接続箇所3における幹線ケーブル1の外周面から分岐して延設するように接続(電気的接続))された構造のブランチケーブルが知られており、例えば各種建造物等における情報供給用ケーブル(屋内配線ケーブル等)として適用されているものがある(例えば特許文献3)。幹線ケーブル1,分岐線ケーブル2としては、それぞれ導体(長尺線状,ワイヤー状の導体)1a,2aの外周側を被覆層(例えば絶縁層,シース層等を積層した構造の被覆層)1b,2bで覆って成るものが挙げられる。
【0003】
幹線ケーブル1と分岐線ケーブル2とを接続する手法としては、予め分岐接続箇所3における被覆層1b,2bをそれぞれ剥離加工(例えば、いわゆる皮むきによって剥離除去)し露出した導体1a,2aを互いに接続し、分岐接続箇所3における露出した導体1a,2a等を絶縁性材料(例えばポリ塩化ビニル,ポリエチレン等のプラスチック材料)から成る保護膜4を被覆(モールド成形等により被覆)してシールするシール加工を施す手法が挙げられる。
【0004】
分岐接続箇所3の剥離加工では、その分岐接続箇所3における幹線ケーブル1,分岐線ケーブル2の被覆層1b,2bを剥離することにより、導体径方向に対する断面形状が円環状の切り欠き部(円筒状の切り欠き部)1c,2cがそれぞれ形成される。そして、前記の切り欠き部1c,2cによって露出(導体周方向に対し全周に亘って露出)された導体1a,2aにおいて、その露出した導体外周面が互いに当接するように束状に重ね合わせ、圧着コネクタ等の固定部材5により挟持して固定される。また、接続部位のシール加工では、分岐接続箇所3の露出した導体1a,2aや固定部材5等の外周側を覆うように、絶縁性材料から成る保護膜(モールド成形等による保護膜)4を形成してシールすることにより、その分岐接続箇所における絶縁性,防水性等が付与される。
【0005】
以上示したようなブランチケーブルの場合、幹線ケーブル,分岐線ケーブルの分岐接続箇所において各導体を固定するための固定部材が適用され、その固定部材等を保護膜(横断面環状の保護膜)で被覆する必要があるため、固定部材の形状等に応じて分岐接続箇所が大型化してしまう恐れがある。この大型化により分岐接続箇所に大きな凹凸が存在していると、ブランチケーブルの所定箇所への配線作業(例えば管路等の狭所への配線作業)が妨げられることにもなる。
【0006】
また、前記のように固定部材等が適用された分岐接続箇所を保護膜でシールするには、例えばシート状の保護膜を被覆しただけではシール性が不十分となる。そこで、保護膜をモールド成形によって形成する手法が採られているが、ケーブル製造設備において大型の射出成形機等を必要とし、そのモールド成形時間もかかってしまい、ブランチケーブルの生産性に影響を及ぼす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−367441号公報
【特許文献2】特開2007−287647号公報
【特許文献2】特開2005−354758号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明者は、前記のような背景技術等に伴って、ブランチケーブルにおいては以下に示す課題があることに着目した。すなわち、幹線ケーブルと分岐線ケーブルとの接続を簡略化(固定部材を用いずに接続)し、分岐接続箇所の大型化を抑制することが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る押出し成形されて成るブランチケーブルは、前記の課題を解決すべく本願発明者の鋭意研究の末になされた技術的思想による創作である。
【0010】
具体的に、この発明のブランチケーブルの一態様は、それぞれ導体の外周面が被覆層で覆われた幹線ケーブル,分岐線ケーブルを備え、その幹線ケーブルの分岐接続箇所に分岐線ケーブルの一端側が接続されたブランチケーブルであって、前記幹線ケーブルの分岐接続箇所における被覆層の一部を剥離して形成した導体径方向断面形状が円弧状の切り欠き部により露出された導体と、分岐線ケーブルの一端部側の被覆層を剥離して形成した導体径方向断面形状が円環状の切り欠き部により露出された導体と、が超音波溶着により接続され、前記分岐接続箇所の露出した導体の外周側を保護膜で被覆することによりシールされたことを特徴とする。
【0011】
また、前記幹線ケーブルの切り欠き部における周方向の長さは、前記幹線ケーブルにおける被覆層の外周の長さの半分以下であって、前記分岐線ケーブルの導体の直径以上であることを特徴とするものでも良い。
【0012】
この発明のブランチケーブルの他の態様は、それぞれ導体の外周面が被覆層で覆われた幹線ケーブル,分岐線ケーブルを備え、前記幹線ケーブルの分岐接続箇所に分岐線ケーブルの一端側が接続されたブランチケーブルであって、前記分岐線ケーブルの導体に対し、該導体に接続される胴体部と幹線ケーブルの導体に接続される接続部とから成る接続端子が取り付けられ、前記幹線ケーブルの分岐接続箇所における被覆層の一部を剥離して形成した導体径方向断面形状が円弧状の切り欠き部により露出された導体と、前記接続端子の接続部と、が超音波溶着により接続され、前記分岐接続箇所の露出した導体の外周側を保護膜で被覆することによりシールされたことを特徴とする。
【0013】
また、前記幹線ケーブルの切り欠き部における周方向の長さは、前記幹線ケーブルにおける被覆層の外周の長さの半分以下であって、前記接続端子接続部の幅よりも大きいことを特徴とするものでも良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るブランチケーブルによれば、幹線ケーブルと分岐線ケーブルとの接続を簡略化(固定部材を用いずに接続)し、分岐接続箇所の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1に係るブランチケーブルの分岐接続箇所の概略説明図。
【図2】超音波溶着に係る概略説明図。
【図3】実施例2に係るブランチケーブルの分岐接続箇所の概略説明図。
【図4】一般的なブランチケーブルの概略説明図。
【図5】一般的なブランチケーブルの分岐接続箇所の外観図(A)および概略図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るブランチケーブルは、幹線ケーブルにおける分岐接続箇所の被覆層において、一部を剥離することにより導体径方向の断面形状が円弧状の切り欠き部が形成され、残りの被覆層は当該分岐接続箇所における導体外周面に残存する。したがって、従来の幹線ケーブルにおける分岐接続箇所のように、導体径方向の断面形状が円環状の切り欠き部を形成し、導体において当該導体の全周に亘って露出させたものとは、全く異なる。また、幹線ケーブル,分岐線ケーブルにおける分岐接続箇所の各導体は、超音波溶着によって接続されるため、従来のように圧着コネクタ等の固定部材を用いる必要がない。
【0017】
これにより、分岐接続箇所における露出した導体の外周側を保護膜でシールする必要のある領域は、従来の場合と比較して小さくすることができ、例えばブランチケーブルの所定箇所への配線作業効率を高めることができる。
【0018】
また、分岐接続箇所において、例えば従来のように保護膜をモールド成形しなくとも、シート状の保護膜を被覆するだけでシール性を十分確保することができ、生産性の向上を図ることも可能となる。
【0019】
以下、本発明に係るブランチケーブルの実施例を説明する。なお、図4,図5等に示すものと同様のものには、同一符号等を用いて詳細な説明を省略する。
【0020】
〔実施例1〕
図1に示すブランチケーブルにおいて、符号10cは幹線ケーブル1の分岐接続箇所3における被覆層1bの一部を剥離して形成された切り欠き部であって、導体1aの径方向に対する断面形状が円弧状(図1では略半円弧状)のものであり、その切り欠き部10cにより幹線ケーブル1の導体1aの一部が露出した状態となる。この露出した導体1aの外周面と分岐線ケーブル2の露出された導体2aとが互いに当接するように束状に重ね合わせ、それら導体1a,2aに対して超音波振動エネルギーを付与することにより、両導体1a,2aを当接面にて溶着(超音波溶着)させて電気的に接続する。そして、分岐接続箇所3における露出した導体1a,2aの外周側を覆うように、絶縁性材料から成る保護膜40を形成してシールすることにより、その分岐接続箇所3において絶縁性,防水性等が得られる。
【0021】
前記の切り欠き部10cにおいては、幹線ケーブル1の分岐接続箇所3における被覆層1bの一部を剥離して形成されたものであって、分岐線ケーブル2の露出した導体2aが溶着できる形状であれば良い。図1に示す切り欠き部10cは導体径方向の断面形状が半円弧状であるが、分岐線ケーブル2の導体2aの大きさや要求されるブランチケーブル特性(絶縁性,防水性,機械的特性等)に応じて形状を設定、例えば切り欠き部10cにおける周方向の長さが、被覆層1bの外周の半分以下であって、分岐線ケーブル2の導体2aの直径以上となる形状に設定することが挙げられ、保護膜の形状を必要最小限にして分岐接続部位3の大径化を抑制することが好ましい。
【0022】
前記の超音波振動エネルギー付与による接続においては、電圧可変電源,発振機,振動子,ホーン等を備えた周知の超音波溶着機(例えば特許文献1)を適用することが挙げられる。例えば図2に示すように、超音波溶着機のチップ(工具ホーン)6と当該チップ6に相対するアンビル(受け側金具)7との間に、前記のように束状に重ね合わせられた導体1a,2aを介在させ、チップ6とアンビル7とを互いに近づける方向に加圧した状態で、電圧可変電源,発振機,振動子,ホーン等(図示省略)を介して発生する超音波振動をチップ6に伝達させる。これにより、チップ6とアンビル7との間に介在する導体1a,2aの当接面に超音波振動エネルギーが付与され、導体1a,2aが超音波溶着される。なお、前記の超音波溶着の際、アンビル7側には幹線ケーブル1の分岐接続部位における被覆層1bが位置することになるが、例えば幹線ケーブル1の分岐接続部位を所定位置に固定するための固定溝7aや当該固定溝7の内側表面に微小突起7bが備えられたアンビル7を適用することにより、超音波振動エネルギーが導体1a,2aの当接面に対して十分付与されるようにすると共に、幹線ケーブル1の位置ずれを抑制することが好ましい。
【0023】
前記の保護膜40においては、例えばポリ塩化ビニル等のプラスチック材料やゴム系材料等の絶縁性材料から成るシート状保護膜であって、導体1a,2aに接する側の面に粘着性接着材が塗布されたものを適用することが挙げられる。この保護膜40の形状(厚さ等)は、露出した導体1a,2aや切り欠き部10c,2cの形状等を考慮(シールできるように考慮)する他に、要求されるブランチケーブル特性を考慮して設定することが好ましい。また、露出した導体1a,2a等に対して予め接着剤,防水塗料等を塗布しておき、その塗布面を覆うように前記の保護膜40を被覆することにより、防水性,絶縁性をより高めることも可能である。
【0024】
〔実施例2〕
実施例1のブランチケーブルの導体1a,2aの接続においては、幹線ケーブル1,2における被覆層1b,2bの厚さや切り欠き部10c,2cの形状等に応じて、例えば図1に示したように分岐接続部位3における分岐線ケーブル2の露出した導体2a等が湾曲してしまい、その湾曲部にて応力が作用してしまうことがある。
【0025】
前記のような湾曲を抑制するブランチケーブルとしては、図3に示すように分岐線ケーブル2における切り欠き部2cにより露出された導体2aに対して、接続端子(圧着端子等)20を取り付けた構造が考えられる。この接続端子20では、露出された導体2aに接続される胴体部21と、その胴体部21から導体2a軸方向に突出して延設された接続部22と、を備えている。
【0026】
前記のように導体2aに取り付けられた接続端子20の接続部22と幹線ケーブル1の露出した導体1aとが互いに当接するように束状に重ね合わせ、それら導体1a,接続部22に対して超音波振動エネルギーを付与することにより、導体1a,接続部22が当接面にて溶着(超音波溶着)し電気的に接続(導体1a,2aを電気的に接続)される。そして、分岐接続箇所3における露出した導体1a,2a,接続端子20の外周側を覆うように、絶縁性材料から成る保護膜40を形成してシールすることにより、その分岐接続箇所において絶縁性,防水性等が得られる。
【0027】
このように接続端子20を用い、その接続端子20を介して導体1a,2aを接続することにより、前記のような分岐線ケーブル2の露出した導体2a等の湾曲を抑制することが可能となる。
【0028】
また、前記接続端子20において、例えば図4に示すように、胴体部21から導体2a軸方向に突出すると共に導体2a外周側方向に湾曲して延設された湾曲部22aと、その湾曲部22aから導体2a軸方向に突出した先端部22bと、から成る接続部22を構成したものを適用して、導体2a等の湾曲をより抑制することが可能となる。前記の湾曲部22aにおける湾曲の大きさは、幹線ケーブル1,分岐線ケーブル2における被覆層1b,2bの厚さや切り欠き部10c,2cの形状等に応じて設定(例えば被覆層1bの厚さに合わせて設定)することが好ましい。
【0029】
なお、本実施例2においても、実施例1で説明したように切り欠き部10cの形状等の設定,超音波振動エネルギー付与による接続,保護膜の形状等の設定が可能であり、同様の作用効果が得られる。
【0030】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0031】
1…幹線ケーブル
1a,2a…導体
1b,2b…被覆層
2…分岐線ケーブル
3…分岐接続箇所
10c,2c…切り欠き部
20…接続端子
40…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ導体の外周面が被覆層で覆われた幹線ケーブル,分岐線ケーブルを備え、その幹線ケーブルの分岐接続箇所に分岐線ケーブルの一端側が接続されたブランチケーブルであって、
前記幹線ケーブルの分岐接続箇所における被覆層の一部を剥離して形成した導体径方向断面形状が円弧状の切り欠き部により露出された導体と、分岐線ケーブルの一端部側の被覆層を剥離して形成した導体径方向断面形状が円環状の切り欠き部により露出された導体と、が超音波溶着により接続され、
前記分岐接続箇所の露出した導体の外周側を保護膜で被覆することによりシールされたことを特徴とするブランチケーブル。
【請求項2】
前記幹線ケーブルの切り欠き部における周方向の長さは、前記幹線ケーブルにおける被覆層の外周の長さの半分以下であって、前記分岐線ケーブルの導体の直径以上であることを特徴とする請求項1記載のブランチケーブル。
【請求項3】
それぞれ導体の外周面が被覆層で覆われた幹線ケーブル,分岐線ケーブルを備え、前記幹線ケーブルの分岐接続箇所に分岐線ケーブルの一端側が接続されたブランチケーブルであって、
前記分岐線ケーブルの導体に対し、該導体に接続される胴体部と幹線ケーブルの導体に接続される接続部とから成る接続端子が取り付けられ、
前記幹線ケーブルの分岐接続箇所における被覆層の一部を剥離して形成した導体径方向断面形状が円弧状の切り欠き部により露出された導体と、前記接続端子の接続部と、が超音波溶着により接続され、
前記分岐接続箇所の露出した導体の外周側を保護膜で被覆することによりシールされたことを特徴とするブランチケーブル。
【請求項4】
前記幹線ケーブルの切り欠き部における周方向の長さは、前記幹線ケーブルにおける被覆層の外周の長さの半分以下であって、前記接続端子接続部の幅よりも大きいことを特徴とする請求項3記載のブランチケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−45622(P2013−45622A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182519(P2011−182519)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(501418498)矢崎エナジーシステム株式会社 (79)
【Fターム(参考)】