説明

ブリスターを伴わずにシリコン表面をパッシベーションする方法

【課題】シリコン表面に、Al2O3層を備えて表面パッシベーション層を形成するに際し、表面パッシベーション層は、パッシベーション層の良好な表面パッシベーション品質が維持されると共に、ブリスター形成が、高温でも回避される方法を提供する。
【解決手段】結晶シリコン基板の表面に表面パッシベーション層を形成する方法であって、この方法が、前記表面上に、15nm以下の厚さを有するAl層を堆積するステップと、前記表面上への前記Al層の堆積の後、500℃と900℃の間の範囲の温度でガス発生プロセスを行うステップと、ガス発生プロセスの後、前記Al層上に、窒化シリコン層及び/又は酸化シリコン層等の少なくとも1個の追加誘電体層を堆積するステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン光電池の表面パッシベーションに使用できて、ブリスターを伴わずにシリコン表面をパッシベーションする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン光起電力産業は、ウエハ当たりのシリコン含有量を大幅に減らすために、より薄いウエハを使用することにより、光電池のコストを低減している。従って、セルの表面対体積比が増加するので、バルクシリコン光電池の良好な表面パッシベーションを行う必要が、重要性を増している。
【0003】
特に多結晶シリコンウエハにおいて、高温プロセスに対するシリコンのバルク寿命の高感度のために、低温表面パッシベーションプロセスが、将来の工業用高効率シリコン光電池のために開発されている。例えば、原子層堆積(ALD)で成長させた酸化アルミニウム(Al)の薄膜が、p型及びn型のシリコンウエハに良好なパッシベーションをもたらし得ることが判明している。p型結晶シリコン表面上で、Al層内の固定負電荷密度は、効果的な電界効果パッシベーションをもたらす蓄積層を誘起できる。従って、ALD堆積されたAlは、例えば、PERC(passivated emitter and rear cell)型光電池やPERL(passivated emitter rear locally diffused)型光電池等の光電池のp型裏面パッシベーションに好都合に使用できる。窒化シリコン層又は酸化シリコン層等の追加の誘電体層を、ALD堆積されたAl層の上面に設けることができる。
【0004】
光電池製造プロセスにおいて、Alパッシベーション層を堆積した後、しばしば、アニーリングが、例えば、金属焼成等の高温で行われる。例えば、PERC型シリコン光電池の製造プロセスにおいて、共焼成プロセスが、典型的に835℃より上の温度で行われる。このようなセルの裏面で、Alパッシベーション層又はAl層及び窒化シリコン層等の誘電体層を含むスタックを使用する時、このような高温アニーリングプロセスは、しばしば、パッシベーション層のブリスタリング、即ち、パッシベーション層とシリコン表面の間の界面におけるAl層の部分的離層とバブル又はブリスターの形成を招く。このようなブリスターは、パッシベーション層のパッシベーション品質に悪影響を与えて、開回路電圧VOCの低下、よって、光電池のエネルギー変換効率の低下をもたらす。
【0005】
例えば、非特許文献1おいて、A. Richter等は、高温(750℃〜850℃)での焼成の後のAl/SiNにおけるブリスタリング効果を報告している。ブリスタリングは、Al層の厚さと堆積温度によって大きく影響されることが見出された。特に、層の厚さが増加して、堆積温度が低下するにつれて、より強いブリスタリングが観察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Richter等著"Firing stable Al2O3/SiNx layer stack passivation for the front side boron emitter of n-type silicon solar cells", 25th EPVSEC, September 2010, Valencia, Spain
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いくつかの発明態様は、シリコン表面に良好な表面パッシベーション層を形成する方法に関し、表面パッシベーション層は、Al層を備えて、パッシベーション層の良好な表面パッシベーション品質が維持されると共に、ブリスター形成が、高温、例えば、約400℃と900℃の間又は500℃と900℃の間の範囲の温度での他の処理の後でさえ回避される。
【0008】
一つの発明態様は、結晶シリコン基板の表面に良好な表面パッシベーション層を形成する方法に関し、該方法は、Al層をその表面に堆積し、Al層は、1と15nmの間、より好ましくは、1と10nmの間、より好ましくは、約15nm以下、約10nm以下又は9nm、8nm、7nm、6nm、5nm以下であるステップと、約500℃と900℃の間の範囲、より好ましくは、500℃と850℃の間の範囲の温度でガス発生プロセスを行うステップと、Al層上に窒化シリコン層及び/又は酸化シリコン層等の少なくとも1個の追加の誘電体層を堆積するステップとを備える。ガス発生プロセスの時間は、例えば、5分と30分の間であり得る。例えば、それは、約10分、又は約15分、又は約20分、又は約25分である。
【0009】
Al層は、特に、約150℃と250℃の間の範囲の温度で原子層堆積(ALD)によって、又は、特に、約150℃と350℃の間の範囲の温度でプラズマ増強化学気層成長(PECVD)によって、又は、当業者に知られているどれかの適当な方法によって堆積され得る。ガス発生プロセスは、例えば、窒素環境内で行うことができる。
【0010】
一つの発明態様による方法の利点は、Al表面パッシベーション層と良好な表面パッシベーション品質を有するAl/誘電体層スタックを設けて、表面パッシベーション品質が維持されると共に、ブリスター形成が、高温での他の処理の後でさえ回避されることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
好ましい実施形態によれば、方法は、表面にAl層を堆積する前にクリーニングを更に備え、クリーニングにより、親水性表面となる。
【0012】
好ましい実施形態によれば、方法は、以下の
a.シリコン基板の前面/裏面のテキスチャリング/ポリッシングのステップ、
b.基板の前面/裏面上の例えば、POCl拡散によるエミッタ拡散のステップ、
c.裏面のエミッタ除去のステップ、
d.前面にSiN反射防止コーティングを堆積するステップ、
e.例えば、レーザアブレージョンによって裏面のパッシベーションスタックに開口を設けるステップ、
f.裏面での金属、例えば、Alの物理蒸着と前面での金属、例えば、Agのスクリーン印刷のステップと、
g.前面と裏面の接点を共焼成するステップ
のいずれかの適当な選択又は組合せから成る。
【0013】
一つの発明態様にかかる方法は、PERC型又はPERL型セル等のシリコン光電池の裏面パッシベーションに好都合に使用でき、金属焼成プロセスは、Al表面パッシベーション層を形成した後、更に、表面パッシベーション層を追加誘電体層でキャッピングした後に行われ、追加誘電体層は、焼成中の金属スパイキングに対するバリヤーを形成すると共に、バック反射率を改善する。金属焼成プロセスは、例えば、835℃より高い温度で行い得る。
【0014】
一つの発明態様にかかる方法を使用する時、このような金属焼成プロセスが、表面パッシベーション品質の重大な劣化を招くことが避けられる。特に、シリコン基板と表面パッシベーション層の間の界面におけるパッシベーション層の部分的離層とブリスターの形成が避けられる。
【0015】
各種の発明態様のいくつかの目的と利点を上述した。無論、全てのこれらの目的と利点が、どれか特定の実施形態で必ずしも達成されるわけではないことを理解すべきである。よって、例えば、当業者は、本明細書に教示又は示唆されている他の目的又は利点を必ずしも達成せずに、本明細書に教示されている一つの利点又は一群の利点を達成又は最適化するように、開示内容を具体化又は実施できることを理解するだろう。更に、この概要は、単に一例であって、開示内容の範囲の限定を意図するものではないことを理解すべきである。作業の構成と方法の両方についての開示内容は、その特徴と利点と共に、添付の図面と共に以下の詳細な説明を参照することにより、一番よく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】アニール温度を関数として、200℃で30nmに堆積したALD Alでパッシベーションして、フォーミングガス内で30分間アニールした、0.4Ω.cm p型 FZ c−Siウエハ上の準定常状態フォトコンダクタンス(QSSPC)によって測定した最大有効寿命を示す。
【図2(a)】大気圧イオン化質量分析計(APIMS)で測定された昇温脱離法(TDS)データを示し、m/e=18(H)と29(N)について、200℃で堆積した30nmのAlを有するシリコンサンプルとダミーウエハ(バックグラウンド)に対してスペクトルを表示する。
【図2(b)】大気圧イオン化質量分析計(APIMS)で測定された昇温脱離法(TDS)データを示し、m/e=15−70と71−100について、200℃で堆積した30nmのAlを有するシリコンサンプルとダミーウエハ(バックグラウンド)に対してスペクトルを表示する。
【図3】アニール温度を関数として、200℃で30nmに堆積したAlを有するシリコンサンプルに対して、m/z=43(白ぬき正方形)と有効寿命(黒べた正方形)において大気圧イオン化質量分析計(APIMS)で測定された昇温脱離法(TDS)データを示す。
【図4】ブリスターを有さず、アズデポ(堆積時状態)で100nm厚さのAl層を有するサンプル(ひし形)と、Al堆積後に500℃でアニールされたサンプル(正方形)と、Al堆積後に600℃でアニールされたサンプル(三角形)とに対して、深さを関数として水素濃度を示す。
【図5】アニール温度を関数として、200℃で5nmに堆積したAlを有するシリコンサンプルに対して、m/z=43(白ぬき正方形)と有効寿命(黒べた正方形)において大気圧イオン化質量分析計(APIMS)で測定された昇温脱離法(TDS)データを示す。
【図6】PERC参考セルと全面Al−BSF(裏面電界)参考セルに対して、Alベースの裏面パッシベーション層のプロセスパラメータの異なるPERC型光電池の測定VOC値を示す。
【図7】典型的な従来のPERC型光電池処理方法を示す。
【図8】異なる裏面パッシベーションスタックに対するPERC型セルの高波長時の反射率を示すグラフである。
【図9】異なるガス発生温度に対するPERC型セルの全ブリスター領域と平均VOCを示すグラフである。
【図10】PERC型セルのガス発生温度を関数として、Seff,rearを示すグラフである。
【図11】PERC型セルのシミュレーションされたVOCとガス発生温度の間の関係を示すグラフである。
【図12】異なる裏面パッシベーションスタックと比較して、PERC型セルの高波長時の内部量子効率(IQE)と波長の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の詳細な説明において、開示内容と、開示内容が特定の実施形態においてどのように実施されるかとについての完全な理解をもたらすように、多くの特定の詳細が述べられる。しかしながら、本開示内容は、これらの特定の詳細無しに実施できることが理解されるであろう。他の例において、本開示内容を不明瞭にさせないために、周知の方法、手順と手法が詳細に記載されなかった。本開示内容は、特定の実施形態に関してある図面を参照して記載されるけれども、その開示内容はそれに限定されない。本明細書に含まれて本明細書に記載される図面は、概略的であって、開示内容の範囲を限定しない。又、図面において、いくつかの要素の寸法は、誇張されており、従って、図示目的のために寸法通りに描かれていない。
【0018】
更に、記載中の「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、類似の要素を区別するために使用されていて、必ずしも、時間的、空間的、ランク付け又は他のどの方法での順序を記載するために使用されていない。そのように使用された用語は、適当な状況下で交換可能であると共に、本明細書に記載された開示内容の実施形態は、本明細書に記載され又は本図面に図示されたのとは別の順序で作業可能であることを理解すべきである。
【0019】
更に、記載中の「頂部」、「底部」、「上に」、「下に」等の用語は、描写目的で使用されていて、必ずしも、相対位置を記載するために使用されていない。そのように使用された用語は、適当な状況下で交換可能であると共に、本明細書に記載された開示内容の実施形態は、本明細書に記載され又は本図面に図示されたのとは別の方位で作業可能であることを理解すべきである。
【0020】
用語「備える」(comprising)は、その後に列記された手段に限定されず、他の要素又はステップを除外しない。よって、それは、言及して挙げられた特徴、整数、ステップ又は部品の存在を指定するものと解釈されるが、1個以上の他の特徴、整数、ステップ又は部品又はその群の存在又は追加を除外しない。よって、「手段Aと手段Bを備える装置」という表現の範囲は、「部品Aと部品Bのみから成る装置」に限定すべきでない。
【0021】
本記載の文脈において、光電池又は基板の「前面」又は「前側」は、光源の方に向けられた面又は側であり、よって、受光する。光電池又は基板の「後面」、「裏面」、「後側」又は「裏側」は、前面又は前側と反対の面又は側である。
【0022】
一実施形態は、シリコン基板の表面にブリスターを伴わない良好な表面パッシベーション層を形成する方法に関し、該方法は、約10nm以下、例えば、約1nm又は2nmと10nmの間の範囲の厚さを有するAl層を表面に堆積するステップと、約500℃と850℃の間の範囲の温度でガス発生プロセスを行うステップと、ガス発生プロセスの後、窒化シリコン層又は酸化シリコン層等の少なくとも1個の追加誘電体層をAl層に堆積するステップとを備える。
【0023】
一実施形態にかかる方法の利点は、表面パッシベーション層が、別の処理を高温で行った後でも維持される良好な表面パッシベーション品質を有することである。一実施形態において、なんらかの追加層をAl層にキャッピングする前に、ガス発生プロセスが行われる。Al層は、ガスのバリヤーを形成しないように、即ち、ガスが、Al層中を拡散できることにより、ガス発生中のブリスター形成を防止するように、Al層は十分に薄くされる。なんらかの他の層をAl層にキャッピングする前にガスが放出されるので、後段階プロセスでの、例えば、Al層へのキャッピング後の別の高温プロセスの影響下でのブリスター形成も防止される。
【0024】
一実施形態において、方法は、PERC型又はPERL型セル等のシリコン光電池の裏面パッシベーションに使用でき、表面パッシベーション層を形成した後に、金属焼成プロセスが行われる。一実施形態にかかる方法を使用する時、金属焼成プロセスが、表面パッシベーション品質の重大な劣化を招くことが避けられる。特に、シリコン基板とAl表面パッシベーション層の間の界面におけるAlパッシベーション層の部分的離層とブリスターの形成が避けられる。
【0025】
熱ALDによって、30nm厚のAl層を0.4Ω−cm p型FZシリコンウエハに堆積する実験が行われた。Alの堆積の後、フォーミングガス・アニーリングプロセスが、200℃と900℃の間の範囲の異なるアニール温度で30分間行われた。図1は、アニール温度を関数として、準定常状態フォトコンダクタンス(QSSPC)によって測定された最大有効マイノリティキャリヤー寿命を示す。一実施形態において、最高有効寿命は、350℃と400℃の間のアニール温度で得られた。アニール温度が400℃を超えると、有効寿命は減少する。これらのより高いアニール温度では、ブリスターが現れると共に、アニール温度を増加するにつれて、ブリスターの寸法が増大する。例えば、400℃のアニーリングは、1μm程度の半径のブリスターを生じるが、430℃のアニーリングは、2μm程度の半径のブリスターを生じる。更に、470℃のアニーリング後には、3μm程度のブリスター半径が測定され、500℃のアニーリング後には、ブリスター半径は3.5μmの程度だった。
【0026】
大気圧イオン化質量分析計(APIMS)で大気圧RTP(rapid thermal processing)チャンバーを使用して、Si/Alサンプルを加熱時の脱離種が同定された。図2(a)は、夫々、HOとHの脱離を指示する質量対電荷比m/e=18(H)と29(N)に対する脱離スペクトルを示す。図2(b)は、(i)干渉が大きすぎるN、HO、OとCOに関するm/e=17−19,28−29、32、35−37、41−42、44、46、50、55−57と60を除くm/e=15−70のスペクトルと、(ii)m/e=71−100の全スペクトルとを示す。スペクトルは、200℃で堆積した30nmのAlを有するシリコンサンプルとダミーウエハ(バックグラウンド)に対して表示される。図2(a)と図2(b)に示す測定値から、脱離ピークは、全てのスペクトルに対して400℃を超えた直後に観察されると結論することができる。
【0027】
これらの観測に基づいて、約400℃を超える温度での加熱(図1)によるSi/Al界面でのブリスターの形成は、このような温度におけるガス状脱離(図2)に関連すると結論することができる。
【0028】
30nmの厚さを有するALD Al層が、200℃の脱離温度でシリコンウエハに堆積された。Alの堆積の後、ウエハが、180℃から900℃の範囲で連続的に増加する温度に加熱された。図3は、HOを指示するm/z(原子質量単位)=43に対する測定脱離スペクトル(白ぬき正方形)を示す。ガス発生が、主に約400℃の温度から始まることが分かる。又、ブリスタリングが、約400℃以上のアニール温度で始まることが観察された。図3は、又、異なる温度でアニールされた異なるサンプルについての測定有効寿命(黒べた正方形)を示す。ガス発生プロファイルが、約400℃の温度でのアニーリングに対する最高有効寿命と、約700℃より高いアニール温度に対して零に接近する有効寿命に進むより高いアニール温度に対する急激に減少する寿命と強い相関関係を有することが見出された。これらの結果は、30nm厚のAl層が、ガス脱離へのバリヤーを形成することにより、アニーリングプロセスが約400℃より高い温度でなされる時、ブリスターが形成されることを示す。類似の傾向が、約15nmより厚い他のAl層に対して観察された。
【0029】
図4は、ブリスターを有さず、アズデポ(堆積時状態)で100nm厚さのAl層を有するサンプル(ひし形)と、Al堆積後に500℃でアニールされたサンプル(正方形)と、Al堆積後に600℃でアニールされたサンプル(三角形)とに対して、深さを関数として水素濃度を示す。図4に示すグラフにおいて、深さ=0は、Al表面に対応し、深さ=1000は、Si/Al界面に対応する。アズデポ層において、水素含有量は、Al層内で大略均一である。アニーリング後は、Al表面に比べてSi/Al界面では大幅に多くの水素が残留することにより、水素含有量が明らかに不均一である。
【0030】
5nmの厚さのALD Al層が、200℃の堆積温度でシリコンウエハ上で成長させられた。Al堆積後に、ウエハが、180℃から900℃に及ぶ連続的に増加する温度にさらされた。図5は、m/z=43に対する測定脱離スペクトル(白ぬき正方形)を示す。又、ここで、ガス発生が、約400℃の温度から生じることが分かる。しかしながら、このサンプルでは、ブリスタリングが、アニール温度の全範囲で観察されなかった。これらの結果から、約5nm厚のAl層は、ブリスターの形成無しにガス発生を許容するために十分薄いと結論することができる。これは、ガス発生がブリスターの形成を招く30nm厚のAl層についての図3に示す結果と反する。図5は、又、異なる温度でアニールされたサンプルに対する測定有効寿命(黒べた正方形)を示す。最高寿命は、約500℃のアニール温度に対して測定された。より高いアニール温度では、有効寿命は減少するが、寿命の減少は、図3の30nm厚のAl層を有するサンプルよりもはるかに少ない。
【0031】
従来のPERC型シリコンセル処理方法の一例が、図7に図示されている。それは、基板(例えば、シリコンウエハ)の単一面のテキスチャリングと、クリーニングステップをおこなうことと、オキシ塩化リン(POCl)拡散炉内で800℃と950℃の間の範囲の温度でのエミッタ拡散により、基板の前面と裏面の両方でドープト領域を形成することと、裏面のドープト(エミッタ)領域の除去と、エミッタ拡散中に前面で形成されるリンシリケートガラス(PSG)の除去と、クリーニングステップを行うことと、裏面にパッシベーションスタックを設けることと、前面に反射防止コーティング(ARC)、例えば、SiNARCを堆積することと、裏面のパッシベーションスタックを、例えば、レーザーアブレージョンにより部分的に開放することと、裏面と前面でメタライジングステップを行うことと、裏面と前面のメタライジング部を600℃と1000℃の間の範囲の温度で共焼成することとを備える。
【0032】
裏面にAlパッシベーション層を有するPERC型シリコンセルを製造する方法において、裏面のAl層は、SiN層及び/又はSiO層等の追加誘電体層でキャッピングされ、追加誘電体層は、接触焼成プロセス中のAl金属層へのバリヤーとして働くと共に、長波長、例えば、900nmより大きい波長の光の良好な裏面内部反射をもたらす。このようなキャッピング層は、典型的に、約400℃以上、又は400℃より高い、又は500℃より高い温度で堆積される。よって、このキャッピング層の堆積は、アニーリングプロセスとして作用して、上述したようにブリスターを形成する。その上、キャッピング層を設けることは、層厚さ、よって、ガスバリヤー厚さを増大させて、ブリスター形成の危険性をより高くする。又、PERC型セルでは、製造プロセスの最後に、金属共焼成プロセスが、典型的に、約835℃より高い温度で行われて、再び、ブリスター形成の問題を生じる。一実施形態が、約10nm以下の薄いAl層を使用すると共に、Al層のキャッピングの前に約500℃と850℃の間の範囲の温度でガス発生プロセスを行うことによって、ブリスター形成の問題に対する解決策をもたらす。
【0033】
PERC型光電池は、一実施形態にかかる方法を裏面パッシベーションに使用して製造された。基板として、0.5〜3Ω−cmの抵抗率を有する125×125mmのセミスクエアp型チョクラルスキー(Cz)法シリコンウエハが使用された。基板をテキスチャリングした後、基板の裏面をポリッシングすることにより、基板厚さが160μmになった。次に、前面リン拡散プロセス(POCl拡散)が、60Ω/□のシート抵抗を有するエミッタ領域を形成するために行われた。次に、ウエハは、85℃の1:4H:HSO溶液内で10分間クリーニングされ、その後、HF浸漬(脱イオン水中の2%HF)と熱風乾燥が続いた。次に、PECVD SiNx反射防止コーティングが前面に堆積された。次に、ウエハが、クリーニングされると共に、進歩した乾燥方法を用いて乾燥させられた。ウエハの第1部分に対して、疎水性表面(Si−H)になるクリーニング方法が使用された。特に、これらのウエハは、85℃の1:4H:HSO溶液内で10分間クリーニングされ、その後、HF浸漬(脱イオン水中の2%HF)とマランゴニ乾燥が続いた。ウエハの第2部分に対して、親水性表面(Si−OH)になるクリーニング方法が使用された。特に、これらのウエハは、85℃の1:4H:HSO溶液内で10分間クリーニングされ、その後、HF浸漬(脱イオン水中の2%HF)、周囲温度で10分間NHOH:H:HO(1:1:5)内で化学酸化と最終的に、マランゴニ乾燥が続いた。次に、200℃で熱ALDを用いて、厚さが5nm又は10nmの薄いAl層が、裏面に堆積されると共に、窒素環境のアニーリングプロセスが、400℃、500℃と600℃の3個の異なる温度でなされた。PECVD SiNキャッピング層が、Al層に堆積された。セルの裏面において、開口が、レーザーアブレージョンを用いてAl/SiNスタックを貫通して形成された。この次に、裏面接点を形成するために、裏面でAlスパッタリングが行われ、前面接点を形成するために、前面でAgスクリーン印刷が行われると共に、金属接点が860℃のピーク温度で共焼成された。
【0034】
異なるセルの測定開回路電圧が図6に示される。参考として、裏面パッシベーションスタックとして酸化シリコン層と窒化シリコン層を備えるスタックを有するPERCセルの開回路電圧と共に、全面Al−BSF(裏面電界)を有するセルの開回路電圧が示される。これらの結果から、開回路電圧は、ガス発生温度を上昇させるように増加することにより、ガス発生温度を上昇させるように、より良好な表面パッシベーション品質を示すと結論することができる。約400℃でのガス発生は、参考PERCセルと比較して大きな改善をもたらさない。同じガス発生条件に対して、約10nm厚さのAl層を有するセルと比較して、約5nm厚さのAl層を有するセルにおいて、より高い開回路電圧が得られる。
【0035】
図8は、アルカリ・テキスチャリングされた前面と、Al/SiN、SiO/SiN又はAl/SiO/SiNのスタックによってパッシベーションされるポリッシングされた裏面とを有する150μm厚さのp型Cz法Si基板上のPERC型太陽電池の1000nmと1200nmの間の波長における裏面内部反射率を比較する。SiO層に対しては、SiO(A)がSiO(B)よりも薄い2個の厚さが使用されている。これらの反射率の測定値から、Alベースの裏面パッシベーションの最適裏面内部反射率のために、Al層は、十分な厚さのSiO/SiNスタックでキャッピングされることが好ましいことが明らかである。これは、最適裏面内部反射率のために、共焼成ステップがなされる前に、Alが、SiO/SiNでキャッピングされることを意味する(表1参照)。薄いALD Al膜をSiO及び/又はSiNでキャッピングしたり、AlとSiO及び/又はSiNのスタックをアニールすることは、ブリスターの形成を招く。ブリスタリングは、臨界温度(ALD Alに対して典型的に350℃)より上の熱処理により、Al層内のガス脱離によって生じるAlベースのスタックの部分的離層である。キャッピングされたAl層は、ガスバリヤーとして働き、ブリスター形成が生じる。AlとキャッピングされたAl層のブリスタリングは、熱ALD、プラズマ増強ALD、PECVD等の各種の堆積手法で観察された。10nm以下の十分に薄いAl層を使用して本開示に従ってキャッピングする前にアニールステップを行うことは、ブリスターを伴わないAlベースのパッシベーションスタックを作製する解決であることが示される。
【0036】
Alベースの裏面パッシベーションスタックの熱的安定性を研究するために、Alの堆積(厚さ10nm)の後でSiO/SiNのキャッピングの前に、N内で20分間「ガス発生」熱処理を用いて、ブリスターを伴わないスクリーン印刷大面積(148.25cm)p型Si PERC型太陽電池が表1に示すように作られた。10Ω−cmの抵抗率を有する150μm厚さのCz法基板が使用された。
【0037】
【表1】

(Al)/SiO/SiN裏面パッシベーションスタックを有するベースラインp型Cz法Si PERC型太陽電池のプロセス(148.25cmセルは、150μmの厚さを有すると共に、1Ωcmのベース抵抗率と60Ω/□エミッタを有する。)
【0038】
図9は、ガス発生温度を関数とするこれらのセルの開回路電圧VOC(黒べた円)を示す。又、光学顕微鏡で測定したAl/SiO/SiNスタックに対するブリスタリング表面範囲Y(黒べた正方形)を示す。参考として、SiO/SiNパッシベーションPERCセルも記されている。
【0039】
図10は、計算された有効裏面リコンビネーション速度(Seff,rear)を示し、Zは、共焼成中に接触するブリスタリングの部分であって、接点の共焼成中のブリスターを通る望ましくない接点を形成する確率に対応する。図11に図示されるVOCは、図10に示すSeff,rear値からシミュレートされている。図11中の黒べた円は、測定されたVOC値を示す。図10と図11中のSeff,rearとVOCは、同様にガス発生温度の関数として計算される。
【0040】
図9に示すように、Al/SiO/SiNパッシベーションPERC型セルの平均VOCは、ガス発生温度の関数として明らかに改善される。更に、600−700℃のガス発生の後、Al/SiO/SiNパッシベーションセルは、SiO/SiNパッシベーションセルと比較して、後部で明らかにより良くパッシベーションされている。VOCにおけるこの改善と共に、ガス発生温度を関数とするブリスタリングの減少がある。ブリスタリング部分Yと共焼成中のブリスターを貫通する確率のファクターZを使用することによって、Seff,rearの推定値が得られる(図10)。このSeff,rearを用いて期待のVOCをシミュレートすることにより、ガス発生温度の関数としての測定VOCの増加は、ブリスタリングの減少と直接関連していることが非常に明らかである。もしガス発生温度が共焼成中に低すぎると、ブリスターの約30%(Z=0.3に対応)が、局所的点接点となるので、Seff,rearが増加し、よって、VOCが減少する。約800℃を超えるガス発生温度に対して、Seff,rearは、再び増加し始める。
【0041】
ガス発生ステップと共同して、p型Si PERC太陽電池用の裏面パッシベーションとしてのAl/SiO/SiNの組込は、好都合であることが判明した。Al堆積の後であってSiO/SiNの堆積ステップの前に700℃でガス発生させられるAl/SiO/SiNパッシベーションPERC型太陽電池の平均的でベストのセルが、表2に列記されている。ベストの参考SiO/SiNパッシベーションPERC型太陽電池の結果も、表2に記されている。
【0042】
【表2】

148.25cmAl/SiO/SiNパッシベーションp型Cz法Si PERC型太陽電池のセル特性結果(AM1.5G)の概観(処理手順は、表1に示されている。セルは、150μmの厚さを有すると共に、1Ω−cmのベース抵抗率を有する。)
【0043】
SiO/SiN及びAl/SiO/SiNパッシベーションセルの両方に対する高波長時の内部量子効率(IQE)が、図12に示されている。表2に示すように、Al/SiO/SiNパッシベーションPERC型太陽電池に対して、ベストSiO/SiNパッシベーション太陽電池に対する18.7%と比較して、最適値が、19.0%の平均セル効率に到達する。増強裏面パッシベーションと裏面内部反射のおかげで、VOCとJSCに明白なゲインがある。この改善されたAl/SiO/SiN裏面パッシベーションは、図12に示すように、1000nmと1200nmの間の波長におけるIQE測定値によって確認される。
【0044】
前述の記載は、本開示のいくつかの実施形態を詳述する。前述のことが、いかに詳細に本文中に現れても、本開示は、多くのやり方で実施できることが理解されるだろう。本開示のいくつかの特徴又は態様を記載する時の特定の専門用語の使用は、専門用語が関連する本開示の特徴又は態様の特定の特性を含むものと限定されるように、専門用語が本明細書内で再定義されていることを意味すると解釈すべきでないことを留意すべきである。
【0045】
上記の詳細な記載が、各種の実施形態に適用される新規な特徴を示し、記載し、且つ、指摘したけれども、当業者が、説明された装置又はプロセスの形態及び詳細において、各種の省略、代替及び変更を行えることが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶シリコン基板の表面に表面パッシベーション層を形成する方法において、
前記表面上に、15nm以下の厚さを有するAl層を堆積するステップと、
前記表面上への前記Al層の堆積の後、500℃と900℃の間の範囲の温度でガス発生プロセスを行うステップと、
ガス発生プロセスの後、前記Al層上に、窒化シリコン層及び/又は酸化シリコン層等の少なくとも1個の追加誘電体層を堆積するステップと
を備える方法。
【請求項2】
前記Al層を前記表面上に堆積するステップにおいて、10nm以下の厚さを有するAl層が、前記表面上に堆積される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス発生プロセスが、700℃と850℃の間の温度で行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス発生プロセスが、窒素環境内で行われる請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ガス発生プロセスの時間が、5分と30分の間である請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
シリコン太陽電池として、前記結晶シリコン基板を少なくとも部分的に400℃と900℃の範囲の温度で処理するステップを更に備える請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記Al層を前記表面上に堆積するステップにおいて、前記Al層が、原子層堆積(ALD)によって150℃と250℃の間の範囲の温度で前記表面上に堆積される請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記Al層を前記表面上に堆積するステップにおいて、前記Al層が、プラズマ増強化学気相成長(PECVD)によって150℃と350℃の間の範囲の温度で前記表面上に堆積される請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
シリコン光電池の裏面パッシベーションに使用されて、前記Al層を前記表面上に堆積するステップの後と、少なくとも1個の追加誘電体層を前記Al層上に堆積するステップの後とに、金属焼成プロセスを行うことにより、追加誘電体層が、焼成中の金属スパイキングに対するバリヤーを形成すると共に、シリコン光電池のバック反射率を改善する請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記金属焼成プロセスが、835℃より高い温度で行われる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記Al層を前記表面上に堆積するステップの前に、前記表面を親水性表面にするクリーニング方法を用いて、前記表面をクリーニングするステップを更に備える請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−253356(P2012−253356A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−127996(P2012−127996)
【出願日】平成24年6月5日(2012.6.5)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【出願人】(599098493)カトリーケ・ウニフェルジテイト・ルーベン・カー・イュー・ルーベン・アール・アンド・ディ (83)
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven,K.U.Leuven R&D
【Fターム(参考)】