説明

ブレーキパッドの塗装方法

【課題】 金属製のバックプレート2に絶縁性のパッド部3が接合されているブレーキパッド1におけるバックプレート2のパッド部3の接合面を除く外面と、パッド部3の外周側面とを、粉体塗料Aにより塗装する方法を提供する。
【解決手段】
ブレーキパッド1に対して摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aを直接当てずに、間接的に当てることにより、バックプレート2及びパッド部3に粉体塗料Aを吹き飛ばすことなく付着させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製のバックプレート(裏金)に絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを粉体塗料により塗装する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は、有機溶剤を含まず、被塗装物に付着しなかったオーバースプレー粉を回収して再使用することができるので、環境にやさしい塗装として、近年多くの製品に採用されている。
【0003】
当初はガードレール、フェンスなどの道路資材から始まり、冷蔵庫、エアコンの室外機等、家庭内で使用する製品にも多く採用されている。
【0004】
最近は、自動車のボディーの他、ワイパー、コイルスプリング等の自動車部品の塗装にも粉体塗装が使用され、ブレーキパッドの塗装にも粉体塗装が使用されるようになっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−125522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブレーキパッドは、金属製のバックプレート(裏金)に、摩擦部材であるパッド部を接合したものであるが、防錆、防食の観点から、金属製のバックプレートの外面だけを塗装することが多い。
【0007】
ところが、ブレーキパッドは、アルミホイールの隙間から見える部品であるため、最近では、意匠性の観点から、バックプレートだけではなく、摩擦面を除く、パッド部の外周側面も塗装されるようになっている。
【0008】
ところで、パッド部は、基材繊維、充填材、摩擦調整剤、樹脂結合剤等の成形材料を押し固めたものであり、金属材料を成形材料中に含んでいるものが多い。
【0009】
パッド部の成形材料中に金属材料を含んでいる場合には、パッド部も導電性を有するため、金属製のバックプレートと同様に、パッド部の塗装を静電粉体塗装することが可能である。
【0010】
ブレーキパッドのパッド部は、摩耗部品であるため、材料中に金属材料が含まれていると、金属粉の飛散が問題となるため、近年は、パッド部の成形材料から金属材料が徐々に除かれ、パッド部が絶縁性になりつつある。
【0011】
上記のように、パッド部が導電性である場合には、バックプレートと一緒にパッド部をアースすることにより、バックプレートとパッド部を、静電粉体塗装することが可能である。
【0012】
しかしながら、パッド部が絶縁性になってくると、静電気による粉体塗料の付着力が弱く、静電塗装ガンから粉体塗料を吹き付けると、付着した粉体塗料が吹き飛ばされるため、絶縁性のパッド部の粉体塗装が困難であった。
【0013】
特に、摩擦帯電式塗装ガンの場合には、摩擦帯電を行うために、搬送エアーが強く、絶縁性のパッド部に粉体塗料を付着させることは困難であった。
【0014】
そこで、この発明は、静電塗装ガンに、摩擦帯電式塗装ガンを使用しても、絶縁性のパッド部に、粉体塗料を付着させることができる粉体塗装方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、金属製のバックプレートに絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを、摩擦帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料により塗装する際に、ブレーキパッドに対して摩擦帯電式塗装ガンから吐出される粉体塗料を直接当てずに、間接的に当てるようにしたものである。
【0016】
ブレーキパッドに対して摩擦帯電式塗装ガンから吐出される粉体塗料を直接当てると、絶縁性のパッド部の外周側面に付着する粉体塗料を、吐出エアーによって吹き飛ばしてしまうが、塗装の際に、ブレーキパッドを載せる載置面又はその近傍に設置した反射板に対して粉体塗料を吐出し、前記載置面又は反射板によって反射した粉体塗料を、間接的にパッド部に当てるようにすると、吐出エアーによる粉体塗料の吹き飛ばしが防止されるため、絶縁性のパッド部の外周側面にも粉体塗料を付着させることができる。
【0017】
また、前記載置面又は反射板を、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はカーボンを含むポリテトラフルオロエチレン樹脂によって形成すると、前記載置面又は反射板に対して粉体塗料を吐出した際の摩擦によって粉体塗料の電荷量を向上させることができる。
【0018】
前記載置面は、塗装ブースを通過するコンベアベルトにすることができる。
【0019】
前記塗装ブース内には、前記載置面又は反射板に粉体塗料が吹き付けられて反射する粉体塗料が充満する充満室を設け、この充満室内を、ブレーキパッドを通過させることにより、ブレーキパッドに粉体塗料を安定的に付着させることできる。
【0020】
また、摩擦帯電式塗装ガンから吐出される粉体塗料の電荷と反対の極性の静電気を、コロナ静電塗装ガンによってブレーキパッドに対して照射した後に、摩擦帯電式塗装ガンからの粉体塗料を吹き付けることにより、絶縁性のパッド部に粉体塗料を効果的に付着させることができる。
【0021】
また、ブレーキパッドの少なくともパッド部に、水を噴霧又は浸漬した後に、摩擦帯電式塗装ガンからの粉体塗料を吹き付けると、絶縁性のパッド部に粉体塗料を付着させることができる。
【0022】
次に、コロナ帯電式塗装ガンを使用する場合には、コロナ帯電式塗装ガンとブレーキパッドとの間に、コロナ帯電式塗装ガンから放射されるフリーイオンを除去する除去手段を設置すると、絶縁性のパッド部の表面にフリーイオンが付着しないので、コロナ帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料が、絶縁性のパッド部の表面にも付着する。
【0023】
フリーイオンを除去する除去手段としては、接地された金属線又は金網を使用することができる。
【0024】
粉体塗装を行う際に、ブレーキパッドの物温を、粉体塗料の熔融温度以上にしておくと、付着した粉体塗料が熔融するので、安定した塗膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0025】
この発明によれば、上記のように、静電塗装ガンを使用して、金属製のバックプレートと共に、絶縁性のパッド部の表面にも、粉体塗料を安定的に付着させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の粉体塗装方法の被塗装物であるブレーキパッドの斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して直接吹き付ける塗装方法を示す概略図である。
【図4】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して間接的に吹き付けるこの発明に係る塗装方法の一例を示す概略図である。
【図5】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して間接的に吹き付けるこの発明に係る塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図6】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して間接的に吹き付けるこの発明に係る塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図7】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して間接的に吹き付けるこの発明に係る塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図8】摩擦帯電式塗装ガンから粉体塗料をブレーキパッドに対して間接的に吹き付けるこの発明に係る塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図9】この発明に係る塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図10】コロナ帯電式塗装ガンを使用するこの発明の塗装方法の一例を示す概略図である。
【図11】コロナ帯電式塗装ガンを使用するこの発明の塗装方法の他の例を示す概略図である。
【図12】コロナ帯電式塗装ガンを使用するこの発明の塗装方法の他の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明に係る粉体塗装方法の被塗装物であるブレーキパッド1は、図1及び図2に示すように、金属製のバックプレート2に絶縁性のパッド部3を接合したものである。
【0028】
この発明で絶縁性とは、アースが困難な電気抵抗が概ね1MΩ以上のものをいう。
【0029】
被塗装物であるブレーキパッド1の塗装面は、パッド部3の接合面を除く金属製のバックプレート2の外面と、パッド部3の摩擦面を除いたパッド部3の外周側面である。
【0030】
したがって、ブレーキパッド1を塗装する場合には、図3に示すように、塗装ブース4を通過するコンベアベルト5上に、絶縁性のパッド部3の摩擦面を下にして、金属製のバックプレート2が上になるように載置して行われる。コンベアベルト5上には、ブレーキパッド1を載置する載置台6を適宜設置してもよい。
【0031】
そして、摩擦帯電式塗装ガン7を使用して塗装を行う場合には、被塗装物であるブレーキパッド1のアースが行われるが、コンベアベルト5側には、絶縁性のパッド部3があるため、コンベアベルト5側からのアースができないので、アースを行う金属線8を金属製のバックプレート2の上面側に接触させている。
【0032】
図3においては、摩擦帯電式塗装ガン7の吐出口を絶縁性のパッド部3の側方に設置し、摩擦帯電式塗装ガン7からの吐出される粉体塗料Aが直接ブレーキパッド1に当たるようにして塗装を行っている。
【0033】
ところが、図3に示すように、摩擦帯電式塗装ガン7からの吐出される粉体塗料Aが直接ブレーキパッド1に当たるようにすると、アースされた金属製のバックプレート2には、摩擦帯電式塗装ガン7からの摩擦電荷を持った粉体塗料Aが付着するが、絶縁性のパッド部3には、摩擦帯電式塗装ガン7の摩擦電荷を持った粉体塗料Aが付着しようとしても、粉体塗料Aと共に吐出される搬送エアーによって粉体塗料Aが吹き飛ばされ、粉体塗料Aがほとんど付着しない。
【0034】
特に、摩擦帯電式塗装ガン7は、摩擦帯電チューブ内を勢いよく通過させて摩擦帯電を行うので、搬送エアーの勢いが強い。
【0035】
そこで、この発明は、図4に示すように、摩擦帯電式塗装ガン7の摩擦電荷を持った粉体塗料Aを、コンベアベルト5上に載置されたブレーキパッド1に直接当てずに、コンベアベルト5に粉体塗料Aを当てて、吐出される粉体塗料Aの搬送エネルギーを、分散、消耗させ、コンベアベルト5で反射した粉体塗料Aが間接的に絶縁性のパッド部3の側面に当てることにより、粉体塗料Aが絶縁性のパッド部3の側面にソフトに付着するようにした。また、金属製のバックプレート2は、アースされているため、帯電した粉体塗料Aが静電気力により、全面に付着する。
【0036】
上記コンベアベルト5には、例えば、ポリエステル帆布の表面にポリウレタン系樹脂をコーティングした絶縁性のベルトを使用することが好ましい。絶縁性のコンベアベルト5を使用すると、摩擦帯電式塗装ガン7からの吐出される帯電した粉体塗料Aを当てても、帯電した粉体塗料Aの電荷が取り除かれず、また、コンベアベルト5と粉体塗料Aとの衝突によって、粉体塗料Aの帯電量が向上する。
【0037】
図4に示す実施形態では、コンベアベルト5に摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aを当てて、コンベアベルト5で反射した粉体塗料Aが間接的に絶縁性のパッド部3の側面に当たるようにしたが、図5に示す実施形態では、摩擦帯電式塗装ガン7の吐出口の下面に、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の絶縁性の反射板9を設置し、この反射板9によって反射した粉体塗料Aを間接的に絶縁性のパッド部3の側面に当てるようにしている。この反射板9と、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aとの衝突によっても、粉体塗料Aの摩擦による電荷量が向上する。
【0038】
ポリエステル帆布の表面にポリウレタン系樹脂をコーティングした絶縁性のコンベアベルト5に、500V/1000MΩの絶縁抵抗計で測定した電気抵抗値の値が、∞、500MΩ、200MΩ、10MΩ、1MΩ、0MΩの6種類のパッド部3を有するブレーキパッド1を、パッド部3を下に向けて載置し、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aが、コンベアベルト5上のブレーキパッド1に直接当たらないように、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aをコンベアベルト5に衝突させて、ブレーキパッド1の塗装を行ったところ、表1に示すように、パッド部3の電気抵抗値に拘わらず、パッド部3の前後、左右の側面に、十分な膜厚で粉体塗料Aを付着させることができた。
【0039】
膜厚測定は、各5個の試料につき、各面で3箇所行い、その最小値と最大値を表1に示している。
【0040】
また、金属製のバックプレート2の膜厚も、天面の3箇所の最小値と最大値を示している。
【0041】
膜厚測定の他の条件は、コンベアスピード:5.0m/min、吐出量:35g/minの摩擦帯電式塗装ガンを2ガン(計70g/min)、粉体塗料:黒のエポキシ系ポリエステル、ブレーキパッド1の物温:22℃である。
【0042】
【表1】

【0043】
上記表1の実験例においては、図4に示すように、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aを一旦、コンベアベルト5に衝突させることにより、吐出される粉体塗料の搬送エネルギーを、分散、消耗させたが、図5に示すように、摩擦帯電式塗装ガン7の周辺に、樹脂製の反射板9を設置し、この反射板8に摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aを衝突させて、吐出される粉体塗料Aの搬送エネルギーを、分散、消耗させるようにしてもよい。
【0044】
また、上記表1の実験例においては、電気抵抗値の異なる6種類のパッド部3を有するブレーキパッド1について、全て同じ吐出量で塗装を行ったが、塗装前にパッド部3の電気抵抗値を測定し、帯電した粉体塗料Aが付着しやすい電気抵抗値を有するブレーキパッド1の場合には、吐出量を少なくする等の調整を行うことにより、使用する粉体塗料Aの削減を行うことができる。
【0045】
次に、上記表1の実験例においては、ブレーキパッドの物温が、22℃、即ち、室温状態で塗装を行った。
【0046】
ところで、パッド部3の成形の際には、ブレーキパッドの物温は、150℃位になっている。
【0047】
塗装時のブレーキパッド1の物温は、成形工程から塗装工程までの距離や時間によって、変化する。
【0048】
上記表1の実験例において、ブレーキパッド1の物温が、70℃〜80℃という高温状態で塗装を行うと、金属製のバックプレートの上面の塗膜にスケが発生する場合がある。
【0049】
これは、金属製のバックプレートが70℃〜80℃という高温であると、金属製のバックプレート2から上昇気流が発生し、バックプレート2に付着した粉体塗料Aが、上昇気流によって押し流されることによって生じる。
【0050】
このような、金属製のバックプレート2の上面にスケが生じないようにするために、図6に示す実施形態では、塗装ブース4内に、被塗装物であるブレーキパッド1を囲む粉体塗料Aの充満室10を設置し、この充満室10内で、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出された粉体塗料Aを、コンベアベルト5あるいは反射板9によって反射させることにより、充満室10内がオーバースプレー粉で満たされるようにしている。
【0051】
オーバースプレー粉で満たされた充満室10内で、塗装を行うと、塗装時のブレーキパッドの物温が高温である場合にも、金属製のバックプレート2の上面にも十分な量の粉体塗料Aを付着させることができる。図6では、金属製のバックプレート2をアースしているが、アースをしなくても金属製のバックプレート2の上面に十分な量の粉体塗料Aを付着させることができる。
【0052】
なお、粉体塗料Aの種類にもよるが、塗装時のブレーキパッド1の物温が120℃以上である場合には、絶縁性のパッド部3に付着した粉体塗料Aが溶着した。また、ブレーキパッド1の物温が、60℃以上の場合、パッド部3の側面部の特に、金属製のバックプレート2との境目の部分への粉体塗料Aの入り込みがより良好となり、膜厚も向上する。
【0053】
このブレーキパッド1の物温と粉体塗料Aの膜厚との関係は、粉体塗料Aの熔融温度、硬化温度やブレーキパッド1の添加剤の種類等によっても左右される。
【0054】
表1の実験例で使用した6種類のブレーキパッドについて、物温と塗装膜厚との関係を表2に示す。膜厚測定は、各5個の試料につき、各面で3箇所行い、その最小値と最大値を示している。また、金属製のバックプレート1の膜厚は、天面の3箇所の最小値と最大値を示している。膜厚測定の他の条件は、コンベアスピード:3.0m/min、吐出量:30g/minの摩擦帯電式塗装ガンを2ガン(計60g/min)、粉体塗料:黒のエポキシ系とした。
【0055】
【表2】

【0056】
上記表2の実験例では、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出された粉体塗料Aを、充満室10でポリテトラフルオロエチレン樹脂製の反射板9と衝突させてから充満室10内を粉体塗料Aによって充満させるようにした。
【0057】
摩擦帯電式塗装ガン7から吐出された粉体塗料Aを、充満室10内でポリテトラフルオロエチレン樹脂製の反射板9と衝突させることにより、粉体塗料Aの電荷量が向上する。
【0058】
ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の反射板9との衝突により、粉体塗料Aの電荷量がどの位増加するかについて、ファラデーカップを用いて、電荷量の測定実験を行ったところ、表3のような結果が得られた。この電荷量の測定は、ファラデーカップに向けて摩擦帯電式塗装ガン7から粉体塗料Aを直接吐出させた場合と、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の反射板9に衝突させた後に、摩擦帯電式塗装ガン7からの粉体塗料Aが間接的にファラデーカップに向くようにした場合とについて、摩擦帯電式塗装ガン7の搬送エアーと加速エアーを変化させて行った。測定は、各場合について、10回行った平均値であり、表3に示すように、摩擦帯電式塗装ガン7からの吐出量が、40g/min、60g/minのいずれの場合についても、ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の反射板9に衝突させた後に、間接的にファラデーカップに粉体塗料Aを吐出した方が、電荷量が向上する。
【0059】
また、表3の結果から、間接塗装の場合には、摩擦帯電式塗装ガン7の搬送圧を低下させても、電荷量が向上するので、ブレーキパッド1のパッド部3に対し、よりソフトに粉体塗料を付着し、安定した塗装が行えるということが確認できた。
【0060】
【表3】

【0061】
また、反射板9の材質としては、カーボンを含有するポリテトラフルオロエチレン樹脂でもよい。
【0062】
また、図7に示すように、充満室10の天井部と側壁部の一部に、多孔質材によって形成した通気板11を設置し、この通気板11からコンプレサーエアーを通気することにより、充満室10の内壁面への粉体塗料Aの付着を防止することができる。また、充満室10の天井部に設置した通気板11の高さを調整することにより、バックプレート2の膜厚を調製することができる。
【0063】
この通気板11の高さは、ブレーキパッド1が充満室10に移送される前の物温を予め検知して、物温により調節することが好ましい。
【0064】
次に、図8に示す実施形態は、充満室10内で摩擦帯電式塗装ガン7を2基使用してブレーキパッド1を塗装する際に、絶縁性のパッド3への粉体塗料Aの付き回りをさらに良好にするために、充満室10内にブレーキパッド1を移送する前に、摩擦帯電式塗装ガン7から吐出される粉体塗料Aの摩擦電荷と逆の極性の静電気を、被塗装物であるブレーキパッド1に対してコロナ帯電式静電塗装ガン12から照射している。
【0065】
コロナ帯電式塗装ガン12から、例えば、ブレーキパッド1に対して-85KVの空電圧をかけた後、ブレーキパッド1の絶縁性のパッド部3の電荷量を表面電位計で測定したところ、照射後のパッド部3の電荷量は、−0.1〜−0.3KVとなり、−0.1KVまでは急激に低下した。そして、2〜3分経過後も、−0.1KVの残存電荷量が維持された。なお、パッド部3の材質によっては3〜5分経過後も残存電荷量が維持されるものがあった。
【0066】
この絶縁性のパッド部3に残存電荷量が維持された状態で、充満室10内にブレーキパッド1を移送すると、絶縁性のパッド部3の側面の粉体塗料Aの付き回りがさらに向上した。
【0067】
図8に示す実施形態では、コンベアベルト5に非導電性のナイロン系のものを使用しており、コンベアベルト5上に残された粉体塗料Aは、除電エアーブローにより清掃される。除電エアーブローの代わりに、一般のエアーブローを行い、その後に、静電除去ブラシによってコンベアベルト5上の電荷を取り除くようにしてもよい。
【0068】
次に、図9に示す実施形態は、絶縁性のパッド3の表面に、水分を付着させて導電性を付与し、粉体塗料Aを付着させるものである。水分の付着方法は、図9に示すように、絶縁性のパッド3の側面に霧状の水滴を発生させるノズル13を設置し、このノズル13から30〜100μmの水滴を噴霧する方法の他、絶縁性のパッド3を水中に浸漬する方法を採用することができる。
【0069】
図9に示す実施形態においては、絶縁性のパッド3の側面が水分によって導電性が付与されるので、粉体塗料Aの吹き付けには、摩擦帯電式塗装ガン7、コロナ帯電式塗装ガン12のいずれを使用してもよい。
【0070】
次に、図10〜図12に示す実施形態は、コロナ帯電式塗装ガン12を使用する塗装方法である。
【0071】
コロナ帯電式塗装ガン12は、摩擦帯電式塗装ガン7と異なり、コロナピンから放電されたイオンの99%以上がフリーイオンとなって被塗装物(アース物体)に電場を形成する。
【0072】
被塗装物が、絶縁性のパッド3の場合、パッド部3に固有抵抗があっても、コロナ帯電式塗装ガン12のスタート(ON)により、瞬時に帯電してしまうので、粉体塗料Aが付着しない。
【0073】
このため、この発明では、コンベアベルト5上に設置されたブレーキパッド1の周辺にアース線14を設置し、コロナ帯電式塗装ガン12から発生するフリーイオンを取り除き、絶縁性のパッド3が帯電しないようにしている。
【0074】
アース線14は、図10に示すように、断面三角形状をしている。線の一部を尖らすことにより、コロナ帯電式塗装ガン12から発生するフリーイオンを集中的に取り除きやすくしている。そして、アース線14の外側からコロナ帯電式塗装ガン12によって塗装を行なうと、コロナ帯電式塗装ガン12から瞬時に放電されたフリーイオンは、ブレーキパッド1とコロナ帯電式塗装ガン12の間に設置されたアース線14に集中する。電荷を持った粉体塗料Aはアース線14を通過し、パッド部3の側面にソフトに付着する。コロナ帯電式塗装ガン12は、摩擦帯電式塗装ガン7と異なり、搬送エアーを強くして摩擦帯電を行なう必要がない。そのために、例えば、粉体塗料ホース径を小さく、例えば、9φにして、パッド部3の側面へのソフトな付着を実現することができる。
【0075】
図11の実施形態は、図10のアース線14の代わりに金網15を使用して接地した例である。
【0076】
図12は、図10のアース線14の代わりにドーム型の金網16を使用して接地した例である。
【符号の説明】
【0077】
1 ブレーキパッド
2 バックプレート
3 パッド部
4 塗装ブース
5 コンベアベルト
6 載置台
7 摩擦帯電式塗装ガン
8 金属線
9 反射板
10 充満室
11 通気板
12 コロナ帯電式塗装ガン
13 ノズル
14 アース線
15、16 金網



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のバックプレートに絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを、摩擦帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料により塗装するブレーキパッドの粉体塗装方法において、ブレーキパッドに対して摩擦帯電式塗装ガンから吐出される粉体塗料を直接当てずに、間接的に当てることにより、バックプレート及びパッド部に粉体塗料を付着させることを特徴とするブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項2】
塗装の際にブレーキパッドを載せる載置面又はその近傍に設置した反射板に対して粉体塗料を吐出し、前記載置面又は反射板によって反射した粉体塗料が間接的にパッド部に当たるようにしたことを特徴とする請求項1記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項3】
前記載置面又は反射板が絶縁材料からなり、前記載置面又は反射板に対して粉体塗料を吐出した際の摩擦によって粉体塗料の電荷量を向上させることを特徴とする請求項2記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項4】
前記載置面が塗装ブースを通過するコンベアベルトである請求項2〜3のいずれかに記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項5】
前記塗装ブース内に、前記載置面又は反射板に粉体塗料が吹き付けられて反射する粉体塗料が充満する充満室を設け、この充満室内を、ブレーキパッドを通過させることにより、粉体塗料をブレーキパッドに付着させることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項6】
金属製のバックプレートに絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを、摩擦帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料により塗装するブレーキパッドの粉体塗装方法において、摩擦帯電式塗装ガンから吐出される粉体塗料の電荷と反対の極性の静電気を、コロナ静電塗装ガンによってブレーキパッドに対して照射した後に、摩擦帯電式塗装ガンからの粉体塗料をブレーキパッドに付着させることを特徴とするブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項7】
金属製のバックプレートに絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを、摩擦帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料により塗装するブレーキパッドの粉体塗装方法において、ブレーキパッドの少なくともパッド部に、水を噴霧又は浸漬した後に、ブレーキパッドに対して摩擦帯電式塗装ガンからの粉体塗料を付着させることを特徴とするブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項8】
金属製のバックプレートに絶縁性のパッド部が接合されているブレーキパッドにおけるバックプレートのパッド部の接合面を除く外面と、パッド部の外周側面とを、コロナ帯電式塗装ガンから吐出された粉体塗料により塗装するブレーキパッドの粉体塗装方法において、コロナ帯電式塗装ガンとブレーキパッドとの間に、コロナ帯電式塗装ガンから放射されるフリーイオンを除去する除去手段を設置したことを特徴とするブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項9】
フリーイオンを除去する除去手段が、接地された金属線又は金網である請求項8記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。
【請求項10】
上記ブレーキパッドの物温が、粉体塗料の熔融温度以上である請求項1〜9のいずれかに記載のブレーキパッドの粉体塗装方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−250155(P2012−250155A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123415(P2011−123415)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】