説明

ブレーキ制御装置

【課題】ペダルフィーリングを向上する。
【解決手段】ブレーキ制御装置10は、ホイールシリンダ54と、ブレーキペダル12と、マスタシリンダ14と、ポンプ22と、リニア制御弁32と、リニア制御弁32に供給する電流を調整して、マスタシリンダ14とホイールシリンダ54との間の差圧を制御するECU200とを備える。ECU200は、差圧を任意の第1差圧から任意の第2差圧まで減少させる場合、差圧を所定の第1時間の間に所定の差圧低減量だけ減少させる第1工程と、差圧を所定の第2時間の間略一定に保持する第2工程とを交互に繰り返しながら、差圧を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられた車輪に付与する制動力を制御するブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の制動力を制御するブレーキ制御装置として、たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、マスタシリンダとホイールブレーキとを連結する主経路と、該主経路からバイパスされたバイパス経路と、該バイパス経路のホイールブレーキ側に設けられ、アンチスキッドコントロールのブレーキ液圧減圧時にホイールブレーキからのブレーキ液を流入させて貯蔵するリザーバと、バイパス経路のマスタシリンダ側に設けられ、リザーバのブレーキ液を吸入し主経路に向けて吐出するポンプと、を有するブレーキ液圧調整装置において、リザーバとポンプとの間のバイパス経路に設けられ、該ポンプによる前記リザーバからのブレーキ液の吸入流量を一定に制御する流量制御弁を有するブレーキ液圧調整装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、ブレーキペダルの押圧に応じて液圧が変化されるマスターシリンダと、車輪に設けられた複数のホイールシリンダと、上記マスターシリンダに接続された液圧管路に設けられ、上記マスターシリンダの液圧を開閉する第1の電磁切換弁と、この第1の電磁切換弁からの上記液圧管路を分岐して上記ホイールシリンダに液圧を導く第1及び第2の分岐管路と、上記液圧管路内の作動液を貯蔵するリザーバと、上記第1及び第2の分岐管路に夫々に設けられ、上記ホイールシリンダ側管路を上記第1の電磁切換弁側管路またはリザーバ側管路に切り換える2位置3方向の第2および第3の電磁切換弁と、上記第1及び第2の分岐管路と上記リザーバの間に設けられ、上記リザーバ内の作動液を上記第1の電磁切換弁と上記第2および第3の電磁切換弁の間に圧送する液圧ポンプと、上記第1及び第2の分岐管路の上記ホイールシリンダ側管路の間に設けられた第1の逆止弁と、上記液圧管路の上記マスターシリンダ側管路と上記第1の分岐管路の上記ホイールシリンダ側管路の間に設けられた第2の逆止弁と、上記第1〜第3の電磁切換弁および上記液圧ポンプを駆動する直流モータの通電を制御する制御回路とを備えたアンチスキッドブレーキ装置が開示されている。
【特許文献1】特開平5−69806号公報
【特許文献2】特開平6−219257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、雪道などの低μ路(摩擦係数の低い路面)では、クリープ力に対し運転者のブレーキペダル操作により生じるブースタ圧だけでは制動力が不足し、ブレーキペダルを踏み込んでいるにも拘わらず車両が徐々に移動してしまう状態(以下、押し出され状態と呼ぶ)となってしまう可能性がある。このような押し出され状態を抑制するために、車両押し出され状態となっているか否かを判定し、押し出され状態と判定された場合には、ポンプを駆動させてホイールシリンダ圧を増圧し、制動力を増加させる制御を行うことが好ましい。
【0005】
このような押し出され抑制制御を行った場合、マスタシリンダからホイールシリンダへの作動液経路上に設けられた電磁流量制御弁の開度を調整することにより、マスタシリンダとホイールシリンダとの間に差圧を発生させている。
【0006】
ここで、押し出され抑制制御が終了した場合に電磁流量制御弁に供給している電流をオフにすると、電磁流量制御弁が開状態となり高圧のホイールシリンダ側の作動液がマスタシリンダに流入するため、ブレーキペダルを運転者の側に押し戻す現象が生じ、ペダルフィーリングが悪化する可能性がある。押し出され抑制制御が終了した後も電磁流量制御弁に電流を供給し続け、運転者がブレーキペダルから足を離した後に電流をオフすることでペダルフィーリングの悪化を抑制する制御も考えられるが、電磁流量制御弁に連続して通電できる時間には限界があるので、常にこのような制御を行うことはできない。
【0007】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ペダルフィーリングを向上することのできるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、作動液の供給により車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、運転者により操作されるブレーキ操作部材と、ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、作動液を加圧して、マスタシリンダからホイールシリンダへの作動液通路に加圧した作動液を供給するポンプと、作動液通路上に設けられた電磁流量制御弁と、電磁流量制御弁に供給する電流を調整して、マスタシリンダとホイールシリンダとの間の差圧を制御する制御部とを備える。制御部は、差圧を任意の第1差圧から任意の第2差圧まで減少させる場合、差圧を所定の第1時間の間に所定の差圧低減量だけ減少させる第1工程と、差圧を所定の第2時間の間略一定に保持する第2工程とを交互に繰り返しながら、差圧を減少させる。
【0009】
この態様によると、第1差圧から第2差圧に急激に減少させるのではなく、差圧を減少させる第1時間の間に差圧を略一定に保持する第2時間を持たせ、複数回に分割して差圧を減少させることにより、運転者は、差圧を急激に減少させた場合と比較してブレーキ操作部材の押し戻され感を感じ難くなるので、ペダルフィーリングを向上できる。
【0010】
制御部は、ブレーキ操作部材が戻る際に運転者が許容できるストローク変化量であるストローク許容変化量と、ホイールシリンダの消費液量特性とに基づいて、差圧低減量を決定してもよい。この場合、ブレーキ操作部材の押し戻され感を感じ難い好適な差圧低減量を決定することができる。
【0011】
制御部は、ブレーキ操作部材が戻るときの速度が略一定となるように、第1時間を決定してもよい。ブレーキ操作部材が戻るとは、ブレーキ操作部材が未操作時の所定位置に向かって変位することをいう。この場合、運転者がブレーキ操作部材の押し戻され感を感じ難くできる。
【0012】
制御部は、電磁流量制御弁を連続して通電できる残存時間から、第1差圧から第2差圧まで差圧を減少させるのに要する時間を減算した第3時間の間、差圧を第1差圧に保持してもよい。この場合、電磁流量制御弁の連続通電時間の中で、可能な限り差圧を減少させずに保持することができる。これにより、電磁流量制御弁の連続通電時間とペダルフィーリングとを考慮した理想的な差圧減少制御を実現できる。
【0013】
運転者によるブレーキ操作部材の戻し量を検出する検出手段をさらに備え、制御部は、検出手段によりブレーキ操作部材の戻しが検出された場合、ブレーキ操作部材の戻し量に応じて差圧を減少させてもよい。この場合、運転者のペダルフィーリングを損なわずに、差圧を短時間で減少させることができる。電磁流量制御弁への通電時間を短くできるので、消費電力を低減できる。検出手段は、たとえば、ブレーキ操作部材のストローク量を検出するストロークセンサや、マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ圧センサであってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペダルフィーリングを向上することのできるブレーキ制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置10の構成を示す図である。図1に示すブレーキ制御装置10における液圧回路は、左前輪および右後輪用の系統と、右前輪および左後輪用の系統とが独立したダイアゴナル系統として構成される。これにより、一方の系統に何らかの支障をきたしても、他方の系統の機能は確実に維持される。
【0017】
ブレーキ制御装置10は、運転者により操作されるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12と、ブレーキペダル12の踏み込み量に応じたマスタシリンダ圧を発生させるマスタシリンダ14と、作動液の供給により車輪に制動力を付与する左前輪用、右後輪用、左後輪用および右前輪用のホイールシリンダ54FL、54RR、54RLおよび54FR(以下、適宜「ホイールシリンダ54」と呼ぶ)と、ホイールシリンダ54に作動液を供給する液圧アクチュエータ80とを備える。
【0018】
マスタシリンダ14は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み量に応じて作動液を第1および第2のポートより送り出す。マスタシリンダ14の第1のポートには左前輪と右後輪用のブレーキ液圧制御導管16aが接続され、第2のポートには右前輪と左後輪用のブレーキ液圧制御導管16bが接続されている。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間には、運転者の踏力を増大させて大きな制動力を発生させるためのブレーキブースタ15が設けられている。また、ブレーキペダル12には、ペダル踏み込み時にON状態となるブレーキスイッチ72が設けられている。
【0019】
また、ブレーキ制御装置10は、左前輪と右後輪用の高圧導管20aへ逆止弁23aを介して高圧の作動液を吐出供給するポンプ22aと、右前輪と左後輪用の高圧導管20bへ逆止弁23bを介して高圧の作動液を吐出供給するポンプ22bを有する。ポンプ22a、22bは、モータ24により駆動され、それぞれ供給導管28a、28bを経てリザーバ30a、30bより作動液を汲み上げるようになっている。高圧導管20a、20bには、それぞれ、高圧導管圧を検出する高圧導管圧センサ21a、21bが設けられている。
【0020】
以下においては適宜、ポンプ22a、22bを総称して、「ポンプ22」と呼ぶ。ポンプ22は、作動液を加圧して、マスタシリンダ14から各ホイールシリンダ54への作動液通路に加圧した作動液を供給する。また、高圧導管20a、20bを総称して、「高圧導管20」と呼び、高圧導管圧センサ21a、21bを総称して、「高圧導管圧センサ21」と呼ぶ。なお、高圧導管圧センサ21は、本発明の実施の形態に必須の構成要素ではなく、設けなくてもよい。
【0021】
左前輪と右後輪用のブレーキ液圧制御導管16aと高圧導管20aとの間には、リニア制御弁32aおよび逆止弁33aが設けられている。リニア制御弁32aは、非通電時は開いた状態にあり、必要に応じて開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。リニア制御弁32aに電流を供給して開度を調整することにより、ブレーキ液圧制御導管16aの液圧と高圧導管20aの液圧との間、すなわち、リニア制御弁32aの前後に差圧を作り出すことができる。また、ブレーキ液圧制御導管16aは、リザーバ30aに接続されている。
【0022】
同様に、右前輪と左後輪用のブレーキ液圧制御導管16bと高圧導管20bとの間には、リニア制御弁32bおよび逆止弁33bが設けられている。リニア制御弁32bは、非通電時は開いた状態にあり、必要に応じて開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。リニア制御弁32bに電流を供給して開度を調整することにより、ブレーキ液圧制御導管16bの液圧と高圧導管20bの液圧との間、すなわち、リニア制御弁32bの前後に差圧を作り出すことができる。また、ブレーキ液圧制御導管16bは、リザーバ30bに接続されている。なお、以下においては、リニア制御弁32a、32bを総称して、適宜「リニア制御弁32」と呼ぶ。このように、リニア制御弁32は、マスタシリンダ14から各ホイールシリンダ54への作動液通路上に設けられ、供給する電流を調整することにより、マスタシリンダ14と各ホイールシリンダ54との間の差圧が制御される。リニア制御弁32への供給電流は、後述するECU200により制御される。
【0023】
左前輪と右後輪用の供給導管28aには、左前輪と右後輪用のリターン導管44aが接続されており、リターン導管44aと高圧導管20aとの間には、左前輪用の接続導管46FLおよび右後輪用の接続導管46RRが接続されている。接続導管46FLには、常開型のソレノイド弁である増圧弁48FLおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁50FLが設けられており、接続導管46RRには、常開型のソレノイド弁である増圧弁48RRおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁50RRが設けられている。
【0024】
増圧弁48FLと減圧弁50FLとの間の接続導管46FLは、接続導管52FLにより左前輪のホイールシリンダ54FLに接続されており、接続導管52FLと高圧導管20aとの間には、ホイールシリンダ54FLより高圧導管20aへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁56FLが設けられている。
【0025】
同様に、増圧弁48RRと減圧弁50RRとの間の接続導管46RRは、接続導管52RRにより右後輪のホイールシリンダ54RRに接続されており、接続導管52RRと高圧導管20aとの間には、ホイールシリンダ54RRより高圧導管20aへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁56RRが設けられている。
【0026】
左前輪および右後輪側と同様、右前輪と左後輪用のリザーバ30bには、右前輪と左後輪用のリターン導管44bが接続されており、リターン導管44bと高圧導管20bとの間には、左後輪用の接続導管46RLおよび右前輪用の接続導管46FRが接続されている。接続導管46RLには、常開型のソレノイド弁である増圧弁48RLおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁50RLが設けられており、接続導管46FRには、常開型のソレノイド弁である増圧弁48FRおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁50FRが設けられている。なお、以下においては、リターン導管44a、44bを総称して、適宜「リターン導管44」と呼ぶ。
【0027】
増圧弁48RLと減圧弁50RLとの間の接続導管46RLは、接続導管52RLにより左後輪のホイールシリンダ54RLに接続されており、接続導管52RLと高圧導管20bとの間には、ホイールシリンダ54RLより高圧導管20bへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁56RLが設けられている。同様に、増圧弁48FRと減圧弁50FRとの間の接続導管46FRは、接続導管52FRにより右後輪のホイールシリンダ54FRに接続されており、接続導管52FRと高圧導管20bとの間には、ホイールシリンダ54FRより高圧導管20bへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁56FRが設けられている。なお、以下においては、増圧弁48FL、48RR、48RL、48FRを総称して、適宜「増圧弁48」と呼び、減圧弁50FL、50RR、50RL、50FRを総称して、適宜「減圧弁50」呼ぶ。
【0028】
車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ54の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生するようになっている。
【0029】
左前輪用、右後輪用、左後輪用および右前輪用のホイールシリンダ54FL、54RR、54RLおよび54FR付近には、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ51FL、51RR、51RLおよび51FRが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ51FL〜51FRを総称して「ホイールシリンダ圧センサ51」と呼ぶ。なお、ホイールシリンダ圧センサ51は、本発明の実施の形態に必須の構成要素ではなく、設けなくてもよい。
【0030】
また、左前輪、右後輪、左後輪および右前輪には、それぞれの車輪の車輪速を検出する車輪速センサ18FL、18RR、18RLおよび18FRが設けられている。以下、適宜、車輪速センサ18FL、18RR、18RLおよび18FRを総称して「車輪速センサ18」と呼ぶ。
【0031】
上述のリニア制御弁32、増圧弁48、減圧弁50、ポンプ22等は、ブレーキ制御装置10の液圧アクチュエータ80を構成する。そして、かかる液圧アクチュエータ80は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。
【0032】
ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
【0033】
ECU200には、上述のリニア制御弁32、増圧弁48、減圧弁50、モータ24等の液圧アクチュエータ80を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
【0034】
また、ECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU200には、ホイールシリンダ圧センサ51から、ホイールシリンダ54におけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力される。また、ECU200には、マスタシリンダ圧センサ13からマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、ブレーキスイッチ72より該スイッチがオン状態にあるか否かを示す信号が入力される。また、ECU200には、高圧導管圧センサ21からの信号が入力され、マスタシリンダ圧と高圧導管圧とから、マスタシリンダ14とホイールシリンダ54との間の差圧Pを算出する。差圧Pは、リニア制御弁32の制御電流から求めることも可能である。
【0035】
また、ECU200には、車輪速センサ18から各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、操舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力され、車速センサから車両の走行速度を示す信号が入力されたりしている。
【0036】
このように構成されるブレーキ制御装置10では、通常の走行状態にある場合には、リニア制御弁32が開弁、増圧弁48が開弁、減圧弁50が閉弁された状態にあり、運転者がブレーキペダル12を踏み込んだことにより生じたマスタシリンダ圧と同じ液圧がホイールシリンダ圧に生じ、制動力を発生するようになっている。
【0037】
また、ブレーキ制御装置10では、ECU200に接続された各種センサからの信号に基づいて車両の走行状態をモニタし、車両の走行状態に応じてポンプ22やリニア制御弁32を制御することで最適な制動力を自動的に発生させる機能を有する。このような自動制動制御の例としては、トラクションコントロール(TRC)や、車両安定性制御(VSC)などがあるが、これの制御は既知であるためここでの説明は省略する。
【0038】
本実施の形態に係るブレーキ制御装置10は、自動制動制御の1つとして、押し出され抑制制御を行うことができる。押し出され抑制制御は、雪道などの低μ路において行われる制御である。上述したように、低μ路においては、運転者がブレーキペダル12を踏むことによって生じる制動力のみでは、制動力が不足して押し出され状態となってしまう可能性がある。ここで説明する押し出され抑制制御を行うことにより、通常時よりも大きな制動力が発生され、押し出され状態を抑制することができる。
【0039】
まず、ECU200は、種々のセンサからの信号に基づいて、車両が押し出され状態となったか否かを判定(以下、押し出され判定という)する。ECU200は、たとえば、車輪速センサ18からの車輪速信号に基づいて押し出され判定を行う。具体的には、前輪の車輪速センサ18FL、18FRにより検出された車輪速が零で、後輪の車輪速センサ18RR、18RLにより検出された車輪速が零でない場合、車両が押し出され状態にあると判定する。
【0040】
車両が押し出され状態にあると判定された場合、ECU200は、モータ24に指令を出し、ポンプ22の駆動を開始する。また、ECU200は、押し出され状態が解消するように、リニア制御弁32の開度を調整し、リニア制御弁32前後の差圧Pを制御する。これにより、ホイールシリンダ圧がマスタシリンダ圧以上に増圧されるので、通常時よりも大きな制動力が発生し、押し出され状態を抑制、すなわち、車両を停止できる。
【0041】
図2は、本発明の実施の形態に係る制動制御について説明するための図である。図2において、横軸は時間を表しており、縦軸は、上から、車速、ポンプ回転数、リニア制御弁32前後の差圧Pをそれぞれ表している。
【0042】
本実施の形態に係る制動制御は、リニア制御弁32前後の差圧Pを減少させる際の制御に関するものである。図2では、上述のような押し出され抑制制御が行われた結果、時刻t0において車速が零となっている。この車速が零になった時刻t0を押し出され抑制制御が終了した時刻とする。時刻t0において、マスタシリンダ14とホイールシリンダ54との間には、押し出され抑制制御終了時の差圧P0(以下、制御終了時差圧P0と呼ぶ)が存在する。
【0043】
押し出され抑制制御が終了した場合、図2に示すように、ECU200は、モータ24への通電を停止して、ポンプ22の回転を停止するが、それとともに、リニア制御弁32に供給している電流をオフにすると、リニア制御弁32が開状態となり高圧のホイールシリンダ54側の作動液がマスタシリンダ14に流入するため、ブレーキペダル12を運転者の側に押し戻す現象が生じ、ペダルフィーリングが悪化する可能性がある。押し出され抑制制御が終了した後もリニア制御弁32に通電を続け、運転者がブレーキペダル12から足を離した後に電流をオフすることでペダルフィーリングの悪化を抑制する制御も考えられる。しかしながら、リニア制御弁32に高電流を長時間に亘って供給し続けることは、リニア制御弁32の耐久性、信頼性の面から不可能であり、リニア制御弁32に連続して通電できる時間には限界がある。
【0044】
そこで、本実施の形態においては、ECU200は、差圧Pを制御終了時差圧P0から零まで減少させる場合、差圧Pを所定の第1時間T1の間に所定の差圧低減量P1だけ減少させる第1工程と、差圧Pを所定の第2時間T2の間略一定に保持する第2工程とを交互に繰り返しながら差圧Pが徐々に減少するよう、リニア制御弁32に供給する電流を制御する。
【0045】
図2では、ECU200は、押し出され抑制制御が終了した時刻t0の後、時刻t1まで制御終了時差圧P0を保持している。時刻t0から時刻t1までの時間T0を、制御終了時差圧保持時間T0と呼ぶ。制御終了時差圧保持時間T0については後述する。ECU200は、時刻t1から時刻t2までの第1時間T1の間に、制御終了時差圧P0を所定の差圧低減量P1だけ低下させる。この工程が第1工程である。第1時間T1は、差圧低下時間T1とも呼ぶ。
【0046】
その後、ECU200は、時刻t2から時刻t3までの第2時間T2の間、時刻t2のときの差圧P、すなわち、制御終了時差圧P0から差圧低減量P1を引いたP0−P1に差圧Pを保持する。この工程が第2工程である。第2時間T2は、差圧低下アイドル時間とも呼ぶ。時刻t3の後、再び第1工程、第2工程と交互に行い、最終的に差圧Pが零になるまで繰り返す。なお、図2におけるP2は、差圧Pが零となる直前に残る残圧を表し、T3は、残圧が零になるまでの時間を表す。
【0047】
このように、本実施の形態に係るブレーキ制御装置10では、制御終了時差圧P0を急激に零にするのではなく、差圧低下アイドル時間T2を持たせ、複数回に分割して差圧低減量P1を零にするよう構成した。これにより、運転者は、制御終了時差圧P0を急激に零にした場合と比較してブレーキペダル12の押し戻され感を感じ難くなるので、ペダルフィーリングを向上できる。
【0048】
差圧低減量P1、差圧低下時間T1、差圧低下アイドル時間T2の値は、ブレーキ制御装置10が適用される車両に応じて、運転者がブレーキペダル12の押し戻され感を最も感じ難い値を実験やシミュレーションにより適宜設定すればよい。
【0049】
次に、制御終了時差圧保持時間T0の設定方法について説明する。上述したように、制御終了時差圧保持時間T0は、押し出され抑制制御が終了した時点における制御終了時差圧P0を保持する時間である。本実施の形態に係るブレーキ制御装置10では、ECU200は、リニア制御弁32を連続して通電できる連続通電残存時間Tmaxから、制御終了時差圧P0から零差圧まで差圧Pを減少させるのに要する差圧低下完了時間T4を減算した時間を、制御終了時差圧保持時間T0と設定する。
T0=Tmax−T4 ・・・(1)
【0050】
ここで、連続通電残存時間Tmaxは、設計的に決められた時間であるリニア弁連続通電可能時間Tcから、リニア制御弁32に通電を開始した時からの経過時間Tpを減算したものである。経過時間Tpは、ECU200に内蔵されたタイマによりカウントされる。
Tmax=Tc−Tp ・・・(2)
【0051】
また、差圧低下完了時間T4は、以下の(3)式のように設定される。
T4=(T1+T2)×[P0/P1]+T3 ・・・(3)
(3)式における[P0/P1]は、ガウス記号であり、P0/P1を超えない最大の整数である。
【0052】
(1)式のように制御終了時差圧保持時間T0を設定することにより、連続通電残存時間Tmaxの中で、制御終了時差圧保持時間T0を最大限に確保することができる。本実施の形態では、リニア制御弁32に連続して通電できる時間に限界がある中で、運転者がブレーキペダル12の押し戻され感を感じ難い差圧低減方法について提案している。しかしながら、運転者がブレーキペダル12を踏んでいる間は制御終了時差圧P0を保持し、ブレーキペダル12から足を離した後に制御終了時差圧P0を零にする制御が、ブレーキペダル12の押し戻され感を感じないという点では最も理想的である。従って、本実施の形態のように、可能な限り制御終了時差圧P0を保持する制御を行うことにより、リニア制御弁32の連続通電時間とブレーキフィーリングとを考慮した差圧低減制御を実現できる。
【0053】
図3は、差圧低減量の決定方法を説明するための図である。図3は、ホイールシリンダ54の消費液量特性を表しており、縦軸がホイールシリンダ54の消費液量、横軸がリニア制御弁32前後の差圧Pである。
【0054】
上記では、差圧低減量P1は、ブレーキ制御装置10が適用される車両に応じて、運転者がブレーキペダル12の押し戻され感を最も感じ難い値を実験やシミュレーションにより適宜設定するとしたが、ブレーキペダル12が戻る際に運転者が許容できるストローク変化量であるストローク許容変化量ΔSと、ホイールシリンダ54の消費液量特性とに基づいて、差圧低減量P1を決定するようにしてもよい。運転者が許容できるストローク変化量とは、運転者がストローク変化を感じ難い変化量であり、実験的に定めることができる。
【0055】
ブレーキペダル12におけるペダル比をγ、マスタシリンダ14のシリンダ径をAとしたとき、ホイールシリンダ54からマスタシリンダ14への戻り液量Qは、以下の(4)式のように表される。
Q=A×ΔS/γ ・・・(4)
【0056】
図3の消費液量特性L1において、(4)式から求められた戻り液量Qと対応する差圧Pを求めることにより、好適な差圧低減量P1を決定することができる。なお、図3における消費液量特性L2、L3は、マスタシリンダ圧が変化したときの消費液量特性を表している。図3の横軸の差圧Pは、マスタシリンダ圧に依存するため、マスタシリンダ圧に応じて異なる消費液量特性となる。マスタシリンダ圧に応じた消費液量特性を用いることにより、さらに好適に差圧低減量P1を決定できる。
【0057】
図4は、差圧低減量の別の決定方法を説明するための図である。図4は、横軸をホイールシリンダ圧とした場合の消費液量特性を表している。ECU200には、予め、図4に示す消費液量特性を格納しておく。そして、マスタシリンダ圧センサ13の出力値PMCと差圧Pの目標値の和からホイールシリンダ圧を演算し、戻り液量Qと図4に示す消費液量特性とから、好適な差圧低減量P1を求めることができる。
【0058】
図5は、差圧低下時間の決定方法を説明するための図である。図5の原点より右方向の横軸は差圧Pを表し、原点より左方向の横軸は、戻り液量Qを表す。また、図5の縦軸は、差圧Pの平方根を表す。
【0059】
上記では、差圧低下時間T1は、ブレーキ制御装置10が適用される車両に応じて、運転者がブレーキペダル12の押し戻され感を最も感じ難い値を実験やシミュレーションにより適宜設定するとしたが、ブレーキペダル12が戻るときの速度が略一定となるように、差圧低下時間T1を決定してもよい。ブレーキペダル12が戻るときの速度が略一定となるよう差圧低下時間T1を決定することにより、運転者がブレーキペダル12の押し戻されを感じ難くできる。
【0060】
ブレーキペダル12が戻るときの速度が略一定とするためには、戻り液量Qが略一定となるようにすればよい。そこで、差圧低減量P1/液圧センサLSBを最大戻し回数n0としたときに、戻り液速度ΔQ=Q/n0が略一定値となるように、作動液をホイールシリンダ54からマスタシリンダ14に戻す。なお、液圧センサLSBとは、マスタシリンダ圧センサ13、高圧導管圧センサ21、ホイールシリンダ圧センサ51などの液圧センサの分解能である。
【0061】
差圧Pを差圧低減量P1だけ低減する際に、図5に示すように差圧Pを非線形に低減させることにより、戻り液速度ΔQを略一定とすることができる。ΔP1≦液圧センサLSBとなった演算周期で差圧低減量P1の減圧完了とし、このときのECU200の演算回数をn1とすると、差圧低下時間T1は、
T1=T×n1 ・・・(5)
のように求めることができる。ここで、TはECU200の演算周期である。
【0062】
次に、運転者がブレーキペダル12を踏む踏力に応じた差圧Pの減少方法について説明する。上記においては、運転者がブレーキペダル12を踏む踏力を略一定とした場合の制御であったが、ブレーキペダル12が戻されたときに準じて素早くホイールシリンダ圧を抜き、差圧Pを低下させれば、良好なペダルフィーリングを保ちつつ、短時間で差圧Pを零にすることができる。
【0063】
この制御を行うためには、ブレーキスイッチ72に代えてまたは加えて、ブレーキペダル12の戻しストローク量を検出するストロークセンサをブレーキペダル12に設ける。そして、ある演算周期でのストローク踏み込み量をSTK0、差圧目標値をPr0と、次の演算周期でのストローク踏み込み量をSTK1、差圧目標値をPr1としたとき、ブレーキペダル12が戻された場合、すなわち、STK1−STK0≦α(αは負の閾値)の場合に、ECU200は、以下の(6)式により差圧目標値Pr1を決定する。
Pr1=(STK1−STK0)/STK0×Pr0 ・・・(6)
【0064】
ブレーキペダル12が戻されるのを検出されたときに、(6)式を用いて差圧目標値Pr1を決定することにより、ブレーキペダル12の戻し量に応じて、短時間で差圧Pを減少させることができる。差圧Pを短時間で減少させたとしても、運転者がブレーキペダル12の踏力を緩めている状態であるので、ペダルフィーリングへの影響は少ない。また、短時間で差圧Pを減少させることにより、リニア制御弁32で消費される消費電力を削減することができる。
【0065】
ブレーキペダル12の戻し操作の検出は、マスタシリンダ圧センサ13を用いて行ってもよい。ある演算周期でのマスタシリンダ圧をPMC0、差圧目標値をPr0と、次の演算周期でのマスタシリンダ圧をPMC1、差圧目標値をPr1としたとき、ブレーキペダル12が戻された場合、すなわち、PMC1−PMC0≦α(αは負の閾値)の場合に、以下の(7)式により差圧目標値Pr1を決定する。
P1=(PMC1−PMC0)/PMC0×P0 ・・・(7)
【0066】
この場合も、ブレーキペダル12が戻されるのを検出されたときに、(7)式を用いて差圧目標値Pr1を決定することにより、ブレーキペダル12の戻し量に応じて、短時間で差圧Pを減少させることができる。差圧Pを短時間で減少させたとしても、運転者がブレーキペダル12の踏力を緩めている状態であるので、ペダルフィーリングへの影響は少ない。また、短時間で差圧Pを減少させることにより、リニア制御弁32で消費される消費電力を削減することができる。
【0067】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0068】
たとえば、上述の実施の形態では、差圧Pを制御終了時差圧P0から零まで減少させる場合を例にして説明したが、この場合に限られず、差圧Pを任意の第1差圧から任意の第2差圧まで減少させる場合に、上述の第1工程と第2工程を繰り返しながら減少させていく制御を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る制動制御について説明するための図である。
【図3】差圧低減量の決定方法を説明するための図である。
【図4】差圧低減量の別の決定方法を説明するための図である。
【図5】差圧低下時間の決定方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0070】
10 ブレーキ制御装置、 12 ブレーキペダル、 14 マスタシリンダ、 15 ブレーキブースタ、 18 車輪速センサ、 20 高圧導管、 22 ポンプ、 24 モータ、 30 リザーバ、 32 リニア制御弁、 48 増圧弁、 50 減圧弁、 54 ホイールシリンダ、 72 ブレーキスイッチ、 200 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液の供給により車輪に制動力を付与するホイールシリンダと、
運転者により操作されるブレーキ操作部材と、
前記ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
作動液を加圧して、前記マスタシリンダから前記ホイールシリンダへの作動液通路に加圧した作動液を供給するポンプと、
前記作動液通路上に設けられた電磁流量制御弁と、
前記電磁流量制御弁に供給する電流を調整して、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間の差圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記差圧を任意の第1差圧から任意の第2差圧まで減少させる場合、前記差圧を所定の第1時間の間に所定の差圧低減量だけ減少させる第1工程と、前記差圧を所定の第2時間の間略一定に保持する第2工程とを交互に繰り返しながら、前記差圧を減少させることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材が戻る際に運転者が許容できるストローク変化量であるストローク許容変化量と、前記ホイールシリンダの消費液量特性とに基づいて、前記差圧低減量を決定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ブレーキ操作部材が戻るときの速度が略一定となるように、前記第1時間を決定することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電磁流量制御弁を連続して通電できる残存時間から、前記第1差圧から前記第2差圧まで前記差圧を減少させるのに要する時間を減算した第3時間の間、前記差圧を前記第1差圧に保持することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
運転者による前記ブレーキ操作部材の戻し量を検出する検出手段をさらに備え、
前記制御部は、前記検出手段により前記ブレーキ操作部材の戻しが検出された場合、前記ブレーキ操作部材の戻し量に応じて前記差圧を減少させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−202640(P2009−202640A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44441(P2008−44441)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】