ブレーキ制御装置
【課題】ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることで、ペダルフィールの違和感を緩和すること。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、マスターシリンダ13と、VDCブレーキ液圧ユニット2と、マスターシリンダ液圧センサ24と、ブレーキコントローラ7と、を備える。VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプ22によりポンプアップ液圧を発生する。マスターシリンダ液圧センサ24は、運転者によるブレーキ操作速度を検知する。ブレーキコントローラ7は、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くする(図3)。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、マスターシリンダ13と、VDCブレーキ液圧ユニット2と、マスターシリンダ液圧センサ24と、ブレーキコントローラ7と、を備える。VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプ22によりポンプアップ液圧を発生する。マスターシリンダ液圧センサ24は、運転者によるブレーキ操作速度を検知する。ブレーキコントローラ7は、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くする(図3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプアップ液圧とマスターシリンダ液圧によりホイールシリンダ液圧を発生させるブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ操作時、マスターシリンダのプライマリピストンがリザーバポートを塞ぐまでのペダルストローク初期域においては、VDCポンプアップによりホイールシリンダ液圧を上昇させる。そして、プライマリピストンがリザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域では、ポンプアップ液圧にマスターシリンダ液圧を加えることによりホイールシリンダ液圧を上昇させる車両用ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用ブレーキ装置にあっては、ポンプアップ指令値を、ポンプアップ液圧応答速度を考慮せずに算出する構成になっていた。このため、ブレーキペダル踏み込み速度が速く、ポンプアップ指令値に対し液圧応答速度が追いつかない場合、リザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域において、プライマリピストンが押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される。このポンプアップ動作によるマスターシリンダ側からのブレーキ液の吸込み消費により、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。
【0005】
この結果として、
・ペダルストロークに対しホイールシリンダ液圧が上昇しにくくなり、ホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生する。
・ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が小さくなるため、マスターシリンダ液圧によるペダル反力が低下し、ペダルフィールに違和感が発生する。
という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができるブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ制御装置は、マスターシリンダと、ポンプアップ液圧発生手段と、ブレーキ操作速度検知手段と、ポンプアップ液圧制御手段と、を備える手段とした。
前記マスターシリンダは、ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生する。
前記ポンプアップ液圧発生手段は、前記マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生する。
前記ブレーキ操作速度検知手段は、運転者によるブレーキ操作速度を検知する。
前記ポンプアップ液圧制御手段は、前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くする。
【発明の効果】
【0008】
よって、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ポンプアップ液圧制御手段において、ポンプアップ液圧増加速度が制御される。このポンプアップ液圧増加速度の制御は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。
このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域で、ポンプアップ液圧増加速度が遅くされることで、ポンプアップ液圧発生手段がマスターシリンダからブレーキ液を吸い込む速さが遅くなる。したがって、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のマスターシリンダ液圧の上昇が確保され、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動が小さく抑えられる。
この結果、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることでることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示すブレーキシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置におけるVDCブレーキ液圧ユニットを示すブレーキ液圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置のブレーキコントローラにて実行されるポンプアップ液圧制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置のブレーキコントローラにて実行されるポンプアップ液圧制御でのポンプアップ指令値演算処理を示すブロック図である。
【図5】ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧(ポンプアップ液圧+マスターシリンダ液圧)の基本分担特性を示すホイールシリンダ液圧特性図である。
【図6】ペダル操作速度が速いときペダルストロークに対してマスターシリンダ液圧が発生しにくくなるメカニズムを示すメカニズム説明図である。
【図7】マスターシリンダとVDCブレーキ液圧ユニットを備えたブレーキシステムを示す概略図である。
【図8】図7に示すブレーキシステムにおいてプライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップに吸込み消費されるときの低圧リザーバの動作を示す低圧リザーバ動作説明図である。
【図9】比較例での課題を説明するためのペダルストロークに対するポンプアップによる液圧・マスターシリンダ液圧・ホイールシリンダ液圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1での効果を説明するためのペダルストロークに対するポンプアップによる液圧・マスターシリンダ液圧・ホイールシリンダ液圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置の構成を、「全体システム構成」、「VDCブレーキ液圧ユニット構成」、「ポンプアップ液圧制御構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示す。以下、図1に基づき、VDCを利用したブレーキシステムの全体構成を説明する。
【0013】
前記ブレーキシステムの制動力発生系は、図1に示すように、ブレーキ液圧発生装置1と、VDCブレーキ液圧ユニット2(ポンプアップ液圧発生手段)と、ストロークセンサ3と、左前輪ホイールシリンダ4FLと、右前輪ホイールシリンダ4FRと、左後輪ホイールシリンダ4RLと、右後輪ホイールシリンダ4RRと、走行用電動モータ5と、を備えている。
【0014】
すなわち、既存のVDCシステム(VDCは、「Vehicle Dynamics Control」の略)を利用したブレーキシステムによる構成としている。なお、VDCシステムとは、高速でのコーナー進入や急激なハンドル操作などによって車両姿勢が乱れた際、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を担保する車両挙動制御(=VDC制御)を行うシステムである。
【0015】
前記ブレーキ液圧発生装置1は、ドライバーによるブレーキ操作に応じて前後輪の各輪に付与するマスターシリンダ液圧分を発生するマスターシリンダ液圧発生手段である。このブレーキ液圧発生装置1は、図1に示すように、ブレーキペダル11と、負圧ブースタ12と、マスターシリンダ13と、リザーバ14と、を有する。つまり、ブレーキペダル11に加えられたドライバーのブレーキ踏力を、負圧ブースタ12により倍力し、マスターシリンダ13のプライマリピストンとセカンダリピストンによりマスターシリンダ液圧(プライマリ液圧とセカンダリ液圧)を作り出す。
【0016】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液圧発生装置1と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとを連結する液圧系に配置される。このVDCブレーキ液圧ユニット2は、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22を有し、マスターシリンダ液圧の増圧・保持・減圧を制御すると共に、マスターシリンダ液圧に加えるポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段である。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2とブレーキ液圧発生装置1とは、プライマリ液圧管61とセカンダリ液圧管62により接続されている。VDCブレーキ液圧ユニット2と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとは、左前輪液圧管63と右前輪液圧管64と左後輪液圧管65と右後輪液圧管66により接続されている。つまり、ブレーキ操作時、ブレーキ液圧発生装置1により発生したマスターシリンダ液圧で不足するとき、VDCブレーキ液圧ユニット2により加圧し、各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRに加えることで液圧制動力を得るようにしている。
【0017】
前記ストロークセンサ3は、ドライバーによるブレーキペダル操作量をポテンショメータ等により検出する手段である。このストロークセンサ3は、例えば、回生協調ブレーキ制御を行う際に必要情報である目標減速度(=ドライバー要求減速度)を検出する構成として、既存のVDCシステムに対して追加された部品である。
【0018】
前記各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRは、前後各輪のブレーキディスクに設定され、VDCブレーキ液圧ユニット2からの液圧が印加される。そして、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧印加時、ブレーキパッドによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0019】
前記走行用電動モータ5は、左右前輪(駆動輪)の走行用駆動源として設けられ、駆動モータ機能と発電ジェネレータ機能を持つ。この走行用電動モータ5は、力行時、バッテリ電力を吸込み消費しながらのモータ駆動により、左右前輪へ駆動力を伝達する。そして、回生時、左右前輪の回転駆動に負荷を与えることで電気エネルギーに変換し、発電分をバッテリへ充電する。つまり、左右前輪の回転駆動に与える負荷が、回生制動力となる。この走行用電動モータ5が設けられる左右前輪(駆動輪)の駆動系には、走行用電動モータ5以外に、走行用駆動源としてエンジン10が設けられ、変速機11を介して左右前輪へ駆動力を伝達する。
【0020】
前記ブレーキシステムの制動力制御系は、図1に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、エンジンコントローラ12と、を備えている。
【0021】
前記ブレーキコントローラ7は、統合コントローラ9からの指令とVDCブレーキ液圧ユニット2のマスターシリンダ液圧センサ24からの圧力情報を入力する。そして、所定の制御則にしたがって、VDCブレーキ液圧ユニット2のVDCモータ21とソレノイドバルブ類25,26,27,28に対し駆動指令を出力する。
【0022】
前記モータコントローラ8は、駆動輪である左右前輪に連結された走行用電動モータ5にインバータ13を介して接続される。そして、ブレーキ制御時、統合コントローラ9から回生分指令を入力すると、走行用電動モータ5により発生する回生制動力を入力された回生分指令に応じて制御する。このモータコントローラ8は、走行時、走行状態や車両状態に応じて走行用電動モータ5により発生するモータトルクやモータ回転数を制御する機能も併せ持つ。
【0023】
前記統合コントローラ9は、回生協調ブレーキ制御時等において、目標減速度を得るようにブレーキコントローラ7とモータコントローラ8を統合して制御する手段である。この統合コントローラ9には、バッテリコントローラ91からのバッテリ充電容量情報、車速センサ92からの車速情報、ブレーキスイッチ93からのブレーキ操作情報、ストロークセンサ3からのペダルストローク情報、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧情報、等が入力される。なお、車速センサ92としては、極低車速域までの車速検出が可能な車輪速回転数センサが用いられる。そして、車輪速回転数を時間微分演算処理することで、実減速度を求める。
【0024】
[VDCブレーキ液圧ユニット構成]
図2は、ポンプアップ液圧発生手段の一例であるVDCブレーキ液圧ユニットを示す。以下、図2に基づいて、VDCブレーキ液圧ユニット2の具体的構成を説明する。
【0025】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキコントローラ7からの指令に基づいて、ポンプアップ液圧を発生する制御を行う。このVDCブレーキ液圧ユニット2は、図2に示すように、VDCモータ21と、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22と、低圧リザーバ23,23と、マスターシリンダ液圧センサ24と、を有する。ソレノイドバルブ類として、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と、第2M/Cカットソレノイドバルブ26と、保持ソレノイドバルブ27,27,27,27と、減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28と、を有する。
【0026】
前記第1M/Cカットソレノイドバルブ25と前記第2M/Cカットソレノイドバルブ26は、差圧弁であり、VDCモータ21によるポンプ駆動時、ホイールシリンダ液圧(下流圧)とマスターシリンダ液圧(上流圧)の差圧(=ポンプアップ液圧)を制御する。
つまり、制動力制御時にブレーキコントローラ7からポンプアップ液圧指令が出力されると、VDCモータ21によるポンプアップ昇圧と、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26への作動電流値による差圧コントロールと、によりポンプアップ液圧制御を行う。
【0027】
前記保持ソレノイドバルブ27,27,27,27(IN弁)と減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28(OUT弁)は、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへのホイールシリンダ液圧を各輪独立で制御する。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2は、上記ポンプアップ液圧制御以外に、VDC制御、TCS制御、ABS制御、回生協調ブレーキ制御、前後輪制動力配分制御、等を行う。
【0028】
[ポンプアップ液圧制御構成]
図3は、実施例1のブレーキ制御装置におけるブレーキコントローラ7で実行されるポンプアップ液圧制御処理の流れを示す(ポンプアップ液圧制御手段)。以下、ポンプアップ液圧制御構成をあらわす図3の各ステップについて説明する。この処理は、ブレーキ操作の開始をブレーキスイッチ93から入力すると開始される。
【0029】
ステップS1では、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES未満か否かを判断する。YES(S<SRES)の場合はステップS2へ進み、NO(S≧SRES)の場合はステップS3へ進む。
ここで、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRESは、予め測定しておく。
【0030】
ステップS2では、ステップS1でのS<SRESであるとの判断に続き、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧検出値に基づき、ポンプアップ指令値マップを更新し、ステップS4へ進む。
ここで、ポンプアップ指令値マップの更新は、図4のPU指令値演算処理ブロックB1に示すように、ペダルストロークに対するPU指令値の増加勾配が高い特性からPU指令値の増加勾配が低い特性までの複数のPU指令値特性を予め設定しておく。そして、マスターシリンダ液圧を制御起動毎に監視し、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性を選択し、選択したPU指令値特性によるマップを、ポンプアップ液圧制御に用いるPU指令値マップとして更新する。
なお、複数のPU指令値特性は、実験により適正値を決めておく。
【0031】
ステップS3では、ステップS2でのS≧SRESであるとの判断に続き、ポンプアップ指令値マップを更新することなく、S<SRESからS≧SRESに切り替わったと判断された時点で更新されているPU指令値マップに固定し、ステップS4へ進む。
ここで、固定されるPU指令値マップは、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達した時点、あるいは、リザーバポートの閉鎖位置に到達する直前の時点でのマスターシリンダ液圧に基づくPU指令値特性を持つ。
【0032】
ステップS4では、ステップS2でのPU指令値マップの更新、あるいは、ステップS3でのPU指令値マップの固定に続き、そのとき選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値を算出し(図4)、エンドへ進む。
ここで、算出されたPU指令値に基づく液圧サーボ制御によりポンプアップ液圧制御(ポンプアップ昇圧、差圧コントロール)が行われる。
【0033】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例のポンプアップ液圧制御における課題」の説明を行う。続いて、実施例1のブレーキ制御装置における作用を、「ポンプアップ液圧制御作用」、「ポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用」に分けて説明する。
【0034】
[比較例のポンプアップ液圧制御における課題]
既存のコンベンショナルVDCによるブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作速度にかかわらず、一定のポンプアップ液圧指令によりポンプアップ液圧制御を行うものを比較例とする。
ここで、「一定のポンプアップ液圧指令」とは、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させる際、図5に示すように、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置に達するまで所定勾配にて上昇させる。その後、所定値によるポンプアップ液圧を維持する指令をいう。なお、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置とは、ペダルストロークがリザーバポートを閉鎖する位置、あるいは、リザーバポートを塞ぐ位置と同じ意味である。
【0035】
この比較例のポンプアップ液圧制御は、ブレーキ操作速度がゆっくりと行われ、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させたとき、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置に達するタイミングと一致するときに成立する。つまり、ブレーキペダル踏み込み速度が遅く、ポンプアップ液圧指令に対する液圧応答速度が追従するときには成立する。
【0036】
しかしながら、ブレーキペダル踏み込み速度が速く、ポンプアップ指令値に対し液圧応答速度が追いつかない場合、リザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域において、プライマリピストンが押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される。このポンプアップ動作によるマスターシリンダ側からのブレーキ液の吸込み消費により、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。以下、このメカニズムを図6〜図8に基づき説明する。
【0037】
まず、ブレーキペダル踏み込み速度が速いとき、図6(a)に示すように、リザーバポートまでのペダルストローク域において、応答遅れによりポンプアップ指令値とポンプアップ液圧実値が乖離する。そして、ペダルストロークがリザーバポートに到達し、プライマリピストンによりリザーバポートを閉鎖すると、図6(b)に示すように、マスターシリンダのリザーバからブレーキ液を吸えなくなる。そして、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後は、図6(c)に示すように、リザーバポートまでのペダルストローク域に引き続き、ポンプアップ指令値に対し応答遅れを持ちながらポンプアップ液圧実値が上昇する。このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過して所定値まで達する間においては、図6(d)に示すように、プライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費され、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。
【0038】
ここで、プライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される理由を、低圧リザーバの動作により説明する。
VDCブレーキ液圧ユニットの低圧リザーバは、図7に示すように、ピストンと、ピストンに一体のピストンロッドと、ピストンロッドの端部に接し、バネにより付勢されたチェックボールと、を有する構成となっている。したがって、ポンプアップ動作を行うと、低圧リザーバの液室が狭くなる方向(図8の上方向)にピストンが移動し、ピストンロッドがチェックボールを押し上げる。このため、チェックボールにより塞がれていた液路が少し開き、図8の矢印に示すように、マスターシリンダ側から低圧リザーバへブレーキ液が流れ込む。したがって、液圧ポンプのポンプアップ動作により、プライマリピストンで押し出したブレーキ液が吸込み消費されることになる。
【0039】
このため、ペダルストロークに対するポンプアップによる液圧特性は、図9(a)の特性を示し、この結果として、下記の課題が生じる。
(1) ホイールシリンダ液圧特性をみると、図9(c)に示すように、ペダルストロークに対しホイールシリンダ液圧が上昇しにくくなり、ホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生する。
すなわち、ホイールシリンダ液圧特性としては、速踏み時の特性においても、ゆっくり踏み時の特性に沿うような滑らかに上昇する特性を狙っている。しかし、リザーバポート位置から折れて低下する段付きが発生すると共に、狙いよりもホイールシリンダ液圧が低くなり、制動G(=制動減速度)が減少する。
(2) マスターシリンダ液圧特性をみると、図9(b)に示すように、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が小さくなるため、マスターシリンダ液圧によるペダル反力が低下し、ペダルフィールに違和感が発生する。
すなわち、マスターシリンダ液圧特性としては、速踏み時の特性においても、ゆっくり踏み時の特性に沿うような滑らかに上昇する特性を狙っている。しかし、リザーバポート位置からは狙いよりマスターシリンダ液圧が低くなり、ペダル反力が弱くなる。
【0040】
[ポンプアップ液圧制御作用]
上記比較例の課題に対し、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後にマスターシリンダからのブレーキ液の吸込み消費を抑えることが必要である。以下、これを反映するポンプアップ液圧制御作用を説明する。
【0041】
ブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES未満のときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→エンドへと進む流れが繰り返される。
したがって、ステップS2では、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧検出値に基づき、ポンプアップ指令値マップが更新される。このマップ更新は、図4のPU指令値演算処理ブロックB1に示すように、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性が選択され、選択されたPU指令値特性によるマップが、ポンプアップ液圧制御に用いるPU指令値マップとされる。
次のステップS4では、更新により選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値が算出される。
【0042】
そして、ブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES以上になると、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS3→ステップS4→エンドへと進む流れが繰り返される。
ステップS3では、ポンプアップ指令値マップを更新することなく、S<SRESからS≧SRESに切り替わったと判断された時点で更新されているPU指令値マップに固定される。この固定されるPU指令値マップは、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達した時点、あるいは、リザーバポートの閉鎖位置に到達する直前の時点でのマスターシリンダ液圧に基づくPU指令値特性を持つことになる。
次のステップS4では、最後の更新により選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値が算出される。
【0043】
よって、マスターシリンダ液圧の上昇勾配が高く、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合には、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させる際、ポンプアップ液圧制御により、ポンプアップ液圧増加速度が制御される。このポンプアップ液圧増加速度の制御は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。なぜなら、S<SRES領域でのマップ更新において、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性が選択され、S≧SRESになる領域で制御に用いられるマップは、増加勾配が最も低いPU指令値特性の選択が固定されることによる。
【0044】
このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域においては、増加勾配が最も低いPU指令値特性を用いてポンプアップ指令値が決められることで、ポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。そして、ポンプアップ液圧増加速度が遅いと、VDCブレーキ液圧ユニット2でのポンプアップ動作に伴ってマスターシリンダ13からブレーキ液を吸い込む速さが遅くなる。したがって、ポンプアップ動作によるブレーキ液の吸い込み消費が抑えられる分、マスターシリンダ13で使うブレーキ液が確保されることになり、この結果、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域でペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の上昇が確保される。
【0045】
[ポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用]
以下、図10に基づき、実施例1のポンプアップ液圧制御を適用することによるポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用を説明する。
【0046】
まず、速踏み時のペダルストロークに対するポンプアップによる液圧特性は、図10(a)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、速踏みに対する応答遅れによりポンプアップ指令値とポンプアップ液圧実値が乖離するため、ポンプアップ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、増加勾配が最も低いPU指令値特性の選択が固定されることで、ポンプアップ液圧増加速度が比較例よりも遅くなり、比較例がペダルストロークS1の位置にて所定値に達するのに対し、実施例1では、ペダルストロークS2(>S1)の位置にて所定値に達する。
【0047】
次に、速踏み時のペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧特性は、図10(b)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、マスターシリンダ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、ペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の増加が確保されることで、マスターシリンダ液圧が比較例のように低くならない。このため、マスターシリンダ液圧の低下によりペダル反力が弱くならず、ペダルフィールの違和感が緩和される。
【0048】
次に、速踏み時のペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性は、図10(c)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、ホイールシリンダ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、ペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の増加が確保されることで、ホイールシリンダ液圧が比較例のように低くならない。このため、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生することでの制動G(=制動減速度)の減少が抑制される。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0050】
(1) ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生するマスターシリンダ13と、
前記マスターシリンダ4とホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプ22によりポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段(VDCブレーキ液圧ユニット2)と、
運転者によるブレーキ操作速度を検知するブレーキ操作速度検知手段(マスターシリンダ液圧センサ24)と、
前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くするポンプアップ液圧制御手段(図3)と、
を備える。
このため、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができる。
【0051】
(2) 前記ポンプアップ液圧制御手段(図3)は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする。
このため、(1)の効果に加え、ブレーキ操作速度の速さにかかわらず、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の低下を狙い通りに抑えることができる。つまり、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ポンプアップ動作によりマスターシリンダ13側から吸い込む液量が増加するのに合わせた制御になる。
【0052】
(3) 前記ブレーキ操作速度検知手段(マスターシリンダ液圧センサ24)は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置域に達した時点でのマスターシリンダ液圧を用い、マスターシリンダ液圧が高いほどブレーキ操作速度が速いと検知する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、例えば、ブレーキ操作速度検知手段として、ストロークセンサ3の微分値を使用する場合に比べ、ノイズやサンプリング周期の影響を受けずに、速踏みされたことを精度良く検知することができる。
【0053】
以上、本発明のブレーキ制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0054】
実施例1では、ポンプアップ液圧発生手段として、VDCブレーキ液圧ユニット2を用いる例を示した。しかしながら、ポンプアップ液圧発生手段としては、マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生する手段であれば、実施例1のVDCブレーキ液圧ユニット2に限られない。
【0055】
実施例1では、ブレーキ操作速度検知手段として、マスターシリンダ液圧センサ24を用いる例を示した。しかし、ブレーキ操作速度検知手段としては、ストロークセンサ3の微分値を使用する例であっても良いし、他にブレーキ操作速度を直接的或いは間接的に検知するものであっても良い。
【0056】
実施例1では、ポンプアップ液圧制御手段として、ブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする例を示した。しかし、ポンプアップ液圧制御手段としては、ブレーキ操作速度が所定値より速いとき、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を、閉鎖位置通過前より遅くするという制御を行うものであっても良い。さらに、ブレーキ操作速度が所定値より速いとき、複数の閾値を設けて多段階的にポンプアップ液圧増加速度を遅くするという制御を行うものであっても良い。
【0057】
実施例1では、本発明のブレーキ制御装置を、前輪駆動のハイブリッド車へ適用した例を示した。しかし、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、等の電動車両に限らず、エンジン車へ本発明のブレーキ制御装置を適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 ブレーキ液圧発生装置
13 マスターシリンダ
2 VDCブレーキ液圧ユニット(ポンプアップ液圧発生手段)
21 VDCモータ
22 液圧ポンプ
24 マスターシリンダ液圧センサ(ブレーキ操作速度検知手段)
25 第1M/Cカットソレノイドバルブ
26 第2M/Cカットソレノイドバルブ
3 ストロークセンサ
4FL 左前輪ホイールシリンダ
4FR 右前輪ホイールシリンダ
4RL 左後輪ホイールシリンダ
4RR 右後輪ホイールシリンダ
5 走行用電動モータ
61 プライマリ液圧管
62 セカンダリ液圧管
63 左前輪液圧管
64 右前輪液圧管
65 左後輪液圧管
66 右後輪液圧管
7 ブレーキコントローラ
8 モータコントローラ
9 統合コントローラ
91 バッテリコントローラ
92 車速センサ
93 ブレーキスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプアップ液圧とマスターシリンダ液圧によりホイールシリンダ液圧を発生させるブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ操作時、マスターシリンダのプライマリピストンがリザーバポートを塞ぐまでのペダルストローク初期域においては、VDCポンプアップによりホイールシリンダ液圧を上昇させる。そして、プライマリピストンがリザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域では、ポンプアップ液圧にマスターシリンダ液圧を加えることによりホイールシリンダ液圧を上昇させる車両用ブレーキ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−96218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両用ブレーキ装置にあっては、ポンプアップ指令値を、ポンプアップ液圧応答速度を考慮せずに算出する構成になっていた。このため、ブレーキペダル踏み込み速度が速く、ポンプアップ指令値に対し液圧応答速度が追いつかない場合、リザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域において、プライマリピストンが押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される。このポンプアップ動作によるマスターシリンダ側からのブレーキ液の吸込み消費により、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。
【0005】
この結果として、
・ペダルストロークに対しホイールシリンダ液圧が上昇しにくくなり、ホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生する。
・ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が小さくなるため、マスターシリンダ液圧によるペダル反力が低下し、ペダルフィールに違和感が発生する。
という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができるブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ制御装置は、マスターシリンダと、ポンプアップ液圧発生手段と、ブレーキ操作速度検知手段と、ポンプアップ液圧制御手段と、を備える手段とした。
前記マスターシリンダは、ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生する。
前記ポンプアップ液圧発生手段は、前記マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生する。
前記ブレーキ操作速度検知手段は、運転者によるブレーキ操作速度を検知する。
前記ポンプアップ液圧制御手段は、前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くする。
【発明の効果】
【0008】
よって、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ポンプアップ液圧制御手段において、ポンプアップ液圧増加速度が制御される。このポンプアップ液圧増加速度の制御は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。
このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域で、ポンプアップ液圧増加速度が遅くされることで、ポンプアップ液圧発生手段がマスターシリンダからブレーキ液を吸い込む速さが遅くなる。したがって、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のマスターシリンダ液圧の上昇が確保され、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動が小さく抑えられる。
この結果、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることでることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示すブレーキシステム図である。
【図2】実施例1のブレーキ制御装置におけるVDCブレーキ液圧ユニットを示すブレーキ液圧回路図である。
【図3】実施例1のブレーキ制御装置のブレーキコントローラにて実行されるポンプアップ液圧制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置のブレーキコントローラにて実行されるポンプアップ液圧制御でのポンプアップ指令値演算処理を示すブロック図である。
【図5】ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧(ポンプアップ液圧+マスターシリンダ液圧)の基本分担特性を示すホイールシリンダ液圧特性図である。
【図6】ペダル操作速度が速いときペダルストロークに対してマスターシリンダ液圧が発生しにくくなるメカニズムを示すメカニズム説明図である。
【図7】マスターシリンダとVDCブレーキ液圧ユニットを備えたブレーキシステムを示す概略図である。
【図8】図7に示すブレーキシステムにおいてプライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップに吸込み消費されるときの低圧リザーバの動作を示す低圧リザーバ動作説明図である。
【図9】比較例での課題を説明するためのペダルストロークに対するポンプアップによる液圧・マスターシリンダ液圧・ホイールシリンダ液圧の各特性を示すタイムチャートである。
【図10】実施例1での効果を説明するためのペダルストロークに対するポンプアップによる液圧・マスターシリンダ液圧・ホイールシリンダ液圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置の構成を、「全体システム構成」、「VDCブレーキ液圧ユニット構成」、「ポンプアップ液圧制御構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した前輪駆動によるハイブリッド車の構成を示す。以下、図1に基づき、VDCを利用したブレーキシステムの全体構成を説明する。
【0013】
前記ブレーキシステムの制動力発生系は、図1に示すように、ブレーキ液圧発生装置1と、VDCブレーキ液圧ユニット2(ポンプアップ液圧発生手段)と、ストロークセンサ3と、左前輪ホイールシリンダ4FLと、右前輪ホイールシリンダ4FRと、左後輪ホイールシリンダ4RLと、右後輪ホイールシリンダ4RRと、走行用電動モータ5と、を備えている。
【0014】
すなわち、既存のVDCシステム(VDCは、「Vehicle Dynamics Control」の略)を利用したブレーキシステムによる構成としている。なお、VDCシステムとは、高速でのコーナー進入や急激なハンドル操作などによって車両姿勢が乱れた際、横滑りを防ぎ、優れた走行安定性を担保する車両挙動制御(=VDC制御)を行うシステムである。
【0015】
前記ブレーキ液圧発生装置1は、ドライバーによるブレーキ操作に応じて前後輪の各輪に付与するマスターシリンダ液圧分を発生するマスターシリンダ液圧発生手段である。このブレーキ液圧発生装置1は、図1に示すように、ブレーキペダル11と、負圧ブースタ12と、マスターシリンダ13と、リザーバ14と、を有する。つまり、ブレーキペダル11に加えられたドライバーのブレーキ踏力を、負圧ブースタ12により倍力し、マスターシリンダ13のプライマリピストンとセカンダリピストンによりマスターシリンダ液圧(プライマリ液圧とセカンダリ液圧)を作り出す。
【0016】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキ液圧発生装置1と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとを連結する液圧系に配置される。このVDCブレーキ液圧ユニット2は、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22を有し、マスターシリンダ液圧の増圧・保持・減圧を制御すると共に、マスターシリンダ液圧に加えるポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段である。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2とブレーキ液圧発生装置1とは、プライマリ液圧管61とセカンダリ液圧管62により接続されている。VDCブレーキ液圧ユニット2と各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRとは、左前輪液圧管63と右前輪液圧管64と左後輪液圧管65と右後輪液圧管66により接続されている。つまり、ブレーキ操作時、ブレーキ液圧発生装置1により発生したマスターシリンダ液圧で不足するとき、VDCブレーキ液圧ユニット2により加圧し、各輪のホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRに加えることで液圧制動力を得るようにしている。
【0017】
前記ストロークセンサ3は、ドライバーによるブレーキペダル操作量をポテンショメータ等により検出する手段である。このストロークセンサ3は、例えば、回生協調ブレーキ制御を行う際に必要情報である目標減速度(=ドライバー要求減速度)を検出する構成として、既存のVDCシステムに対して追加された部品である。
【0018】
前記各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRは、前後各輪のブレーキディスクに設定され、VDCブレーキ液圧ユニット2からの液圧が印加される。そして、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧印加時、ブレーキパッドによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0019】
前記走行用電動モータ5は、左右前輪(駆動輪)の走行用駆動源として設けられ、駆動モータ機能と発電ジェネレータ機能を持つ。この走行用電動モータ5は、力行時、バッテリ電力を吸込み消費しながらのモータ駆動により、左右前輪へ駆動力を伝達する。そして、回生時、左右前輪の回転駆動に負荷を与えることで電気エネルギーに変換し、発電分をバッテリへ充電する。つまり、左右前輪の回転駆動に与える負荷が、回生制動力となる。この走行用電動モータ5が設けられる左右前輪(駆動輪)の駆動系には、走行用電動モータ5以外に、走行用駆動源としてエンジン10が設けられ、変速機11を介して左右前輪へ駆動力を伝達する。
【0020】
前記ブレーキシステムの制動力制御系は、図1に示すように、ブレーキコントローラ7と、モータコントローラ8と、統合コントローラ9と、エンジンコントローラ12と、を備えている。
【0021】
前記ブレーキコントローラ7は、統合コントローラ9からの指令とVDCブレーキ液圧ユニット2のマスターシリンダ液圧センサ24からの圧力情報を入力する。そして、所定の制御則にしたがって、VDCブレーキ液圧ユニット2のVDCモータ21とソレノイドバルブ類25,26,27,28に対し駆動指令を出力する。
【0022】
前記モータコントローラ8は、駆動輪である左右前輪に連結された走行用電動モータ5にインバータ13を介して接続される。そして、ブレーキ制御時、統合コントローラ9から回生分指令を入力すると、走行用電動モータ5により発生する回生制動力を入力された回生分指令に応じて制御する。このモータコントローラ8は、走行時、走行状態や車両状態に応じて走行用電動モータ5により発生するモータトルクやモータ回転数を制御する機能も併せ持つ。
【0023】
前記統合コントローラ9は、回生協調ブレーキ制御時等において、目標減速度を得るようにブレーキコントローラ7とモータコントローラ8を統合して制御する手段である。この統合コントローラ9には、バッテリコントローラ91からのバッテリ充電容量情報、車速センサ92からの車速情報、ブレーキスイッチ93からのブレーキ操作情報、ストロークセンサ3からのペダルストローク情報、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧情報、等が入力される。なお、車速センサ92としては、極低車速域までの車速検出が可能な車輪速回転数センサが用いられる。そして、車輪速回転数を時間微分演算処理することで、実減速度を求める。
【0024】
[VDCブレーキ液圧ユニット構成]
図2は、ポンプアップ液圧発生手段の一例であるVDCブレーキ液圧ユニットを示す。以下、図2に基づいて、VDCブレーキ液圧ユニット2の具体的構成を説明する。
【0025】
前記VDCブレーキ液圧ユニット2は、ブレーキコントローラ7からの指令に基づいて、ポンプアップ液圧を発生する制御を行う。このVDCブレーキ液圧ユニット2は、図2に示すように、VDCモータ21と、VDCモータ21により駆動する液圧ポンプ22,22と、低圧リザーバ23,23と、マスターシリンダ液圧センサ24と、を有する。ソレノイドバルブ類として、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と、第2M/Cカットソレノイドバルブ26と、保持ソレノイドバルブ27,27,27,27と、減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28と、を有する。
【0026】
前記第1M/Cカットソレノイドバルブ25と前記第2M/Cカットソレノイドバルブ26は、差圧弁であり、VDCモータ21によるポンプ駆動時、ホイールシリンダ液圧(下流圧)とマスターシリンダ液圧(上流圧)の差圧(=ポンプアップ液圧)を制御する。
つまり、制動力制御時にブレーキコントローラ7からポンプアップ液圧指令が出力されると、VDCモータ21によるポンプアップ昇圧と、第1M/Cカットソレノイドバルブ25と第2M/Cカットソレノイドバルブ26への作動電流値による差圧コントロールと、によりポンプアップ液圧制御を行う。
【0027】
前記保持ソレノイドバルブ27,27,27,27(IN弁)と減圧ソレノイドバルブ28,28,28,28(OUT弁)は、各ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへのホイールシリンダ液圧を各輪独立で制御する。そして、VDCブレーキ液圧ユニット2は、上記ポンプアップ液圧制御以外に、VDC制御、TCS制御、ABS制御、回生協調ブレーキ制御、前後輪制動力配分制御、等を行う。
【0028】
[ポンプアップ液圧制御構成]
図3は、実施例1のブレーキ制御装置におけるブレーキコントローラ7で実行されるポンプアップ液圧制御処理の流れを示す(ポンプアップ液圧制御手段)。以下、ポンプアップ液圧制御構成をあらわす図3の各ステップについて説明する。この処理は、ブレーキ操作の開始をブレーキスイッチ93から入力すると開始される。
【0029】
ステップS1では、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES未満か否かを判断する。YES(S<SRES)の場合はステップS2へ進み、NO(S≧SRES)の場合はステップS3へ進む。
ここで、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRESは、予め測定しておく。
【0030】
ステップS2では、ステップS1でのS<SRESであるとの判断に続き、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧検出値に基づき、ポンプアップ指令値マップを更新し、ステップS4へ進む。
ここで、ポンプアップ指令値マップの更新は、図4のPU指令値演算処理ブロックB1に示すように、ペダルストロークに対するPU指令値の増加勾配が高い特性からPU指令値の増加勾配が低い特性までの複数のPU指令値特性を予め設定しておく。そして、マスターシリンダ液圧を制御起動毎に監視し、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性を選択し、選択したPU指令値特性によるマップを、ポンプアップ液圧制御に用いるPU指令値マップとして更新する。
なお、複数のPU指令値特性は、実験により適正値を決めておく。
【0031】
ステップS3では、ステップS2でのS≧SRESであるとの判断に続き、ポンプアップ指令値マップを更新することなく、S<SRESからS≧SRESに切り替わったと判断された時点で更新されているPU指令値マップに固定し、ステップS4へ進む。
ここで、固定されるPU指令値マップは、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達した時点、あるいは、リザーバポートの閉鎖位置に到達する直前の時点でのマスターシリンダ液圧に基づくPU指令値特性を持つ。
【0032】
ステップS4では、ステップS2でのPU指令値マップの更新、あるいは、ステップS3でのPU指令値マップの固定に続き、そのとき選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値を算出し(図4)、エンドへ進む。
ここで、算出されたPU指令値に基づく液圧サーボ制御によりポンプアップ液圧制御(ポンプアップ昇圧、差圧コントロール)が行われる。
【0033】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例のポンプアップ液圧制御における課題」の説明を行う。続いて、実施例1のブレーキ制御装置における作用を、「ポンプアップ液圧制御作用」、「ポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用」に分けて説明する。
【0034】
[比較例のポンプアップ液圧制御における課題]
既存のコンベンショナルVDCによるブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作速度にかかわらず、一定のポンプアップ液圧指令によりポンプアップ液圧制御を行うものを比較例とする。
ここで、「一定のポンプアップ液圧指令」とは、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させる際、図5に示すように、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置に達するまで所定勾配にて上昇させる。その後、所定値によるポンプアップ液圧を維持する指令をいう。なお、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置とは、ペダルストロークがリザーバポートを閉鎖する位置、あるいは、リザーバポートを塞ぐ位置と同じ意味である。
【0035】
この比較例のポンプアップ液圧制御は、ブレーキ操作速度がゆっくりと行われ、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させたとき、ペダルストロークがリザーバポートを切る位置に達するタイミングと一致するときに成立する。つまり、ブレーキペダル踏み込み速度が遅く、ポンプアップ液圧指令に対する液圧応答速度が追従するときには成立する。
【0036】
しかしながら、ブレーキペダル踏み込み速度が速く、ポンプアップ指令値に対し液圧応答速度が追いつかない場合、リザーバポートを塞いだ後のペダルストローク域において、プライマリピストンが押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される。このポンプアップ動作によるマスターシリンダ側からのブレーキ液の吸込み消費により、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。以下、このメカニズムを図6〜図8に基づき説明する。
【0037】
まず、ブレーキペダル踏み込み速度が速いとき、図6(a)に示すように、リザーバポートまでのペダルストローク域において、応答遅れによりポンプアップ指令値とポンプアップ液圧実値が乖離する。そして、ペダルストロークがリザーバポートに到達し、プライマリピストンによりリザーバポートを閉鎖すると、図6(b)に示すように、マスターシリンダのリザーバからブレーキ液を吸えなくなる。そして、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後は、図6(c)に示すように、リザーバポートまでのペダルストローク域に引き続き、ポンプアップ指令値に対し応答遅れを持ちながらポンプアップ液圧実値が上昇する。このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過して所定値まで達する間においては、図6(d)に示すように、プライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費され、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が上昇しにくくなる。
【0038】
ここで、プライマリピストンで押し出したブレーキ液がポンプアップ動作により吸込み消費される理由を、低圧リザーバの動作により説明する。
VDCブレーキ液圧ユニットの低圧リザーバは、図7に示すように、ピストンと、ピストンに一体のピストンロッドと、ピストンロッドの端部に接し、バネにより付勢されたチェックボールと、を有する構成となっている。したがって、ポンプアップ動作を行うと、低圧リザーバの液室が狭くなる方向(図8の上方向)にピストンが移動し、ピストンロッドがチェックボールを押し上げる。このため、チェックボールにより塞がれていた液路が少し開き、図8の矢印に示すように、マスターシリンダ側から低圧リザーバへブレーキ液が流れ込む。したがって、液圧ポンプのポンプアップ動作により、プライマリピストンで押し出したブレーキ液が吸込み消費されることになる。
【0039】
このため、ペダルストロークに対するポンプアップによる液圧特性は、図9(a)の特性を示し、この結果として、下記の課題が生じる。
(1) ホイールシリンダ液圧特性をみると、図9(c)に示すように、ペダルストロークに対しホイールシリンダ液圧が上昇しにくくなり、ホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生する。
すなわち、ホイールシリンダ液圧特性としては、速踏み時の特性においても、ゆっくり踏み時の特性に沿うような滑らかに上昇する特性を狙っている。しかし、リザーバポート位置から折れて低下する段付きが発生すると共に、狙いよりもホイールシリンダ液圧が低くなり、制動G(=制動減速度)が減少する。
(2) マスターシリンダ液圧特性をみると、図9(b)に示すように、ペダルストロークに対しマスターシリンダ液圧が小さくなるため、マスターシリンダ液圧によるペダル反力が低下し、ペダルフィールに違和感が発生する。
すなわち、マスターシリンダ液圧特性としては、速踏み時の特性においても、ゆっくり踏み時の特性に沿うような滑らかに上昇する特性を狙っている。しかし、リザーバポート位置からは狙いよりマスターシリンダ液圧が低くなり、ペダル反力が弱くなる。
【0040】
[ポンプアップ液圧制御作用]
上記比較例の課題に対し、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後にマスターシリンダからのブレーキ液の吸込み消費を抑えることが必要である。以下、これを反映するポンプアップ液圧制御作用を説明する。
【0041】
ブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES未満のときは、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→エンドへと進む流れが繰り返される。
したがって、ステップS2では、マスターシリンダ液圧センサ24からのマスターシリンダ液圧検出値に基づき、ポンプアップ指令値マップが更新される。このマップ更新は、図4のPU指令値演算処理ブロックB1に示すように、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性が選択され、選択されたPU指令値特性によるマップが、ポンプアップ液圧制御に用いるPU指令値マップとされる。
次のステップS4では、更新により選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値が算出される。
【0042】
そして、ブレーキペダルストロークSが、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達するペダルストロークSRES以上になると、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS3→ステップS4→エンドへと進む流れが繰り返される。
ステップS3では、ポンプアップ指令値マップを更新することなく、S<SRESからS≧SRESに切り替わったと判断された時点で更新されているPU指令値マップに固定される。この固定されるPU指令値マップは、マスターシリンダ13のリザーバポートの閉鎖位置に到達した時点、あるいは、リザーバポートの閉鎖位置に到達する直前の時点でのマスターシリンダ液圧に基づくPU指令値特性を持つことになる。
次のステップS4では、最後の更新により選択されているPU指令値マップのPU指令値特性と、ストロークセンサ3からのブレーキペダルストロークSによりPU指令値が算出される。
【0043】
よって、マスターシリンダ液圧の上昇勾配が高く、ブレーキ操作速度が所定値以上の場合には、ポンプアップ液圧によりホイールシリンダ液圧を所定値まで増加させる際、ポンプアップ液圧制御により、ポンプアップ液圧増加速度が制御される。このポンプアップ液圧増加速度の制御は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。なぜなら、S<SRES領域でのマップ更新において、マスターシリンダ液圧が高くなるほど増加勾配が低くなるPU指令値特性が選択され、S≧SRESになる領域で制御に用いられるマップは、増加勾配が最も低いPU指令値特性の選択が固定されることによる。
【0044】
このように、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域においては、増加勾配が最も低いPU指令値特性を用いてポンプアップ指令値が決められることで、ポンプアップ液圧増加速度が遅くされる。そして、ポンプアップ液圧増加速度が遅いと、VDCブレーキ液圧ユニット2でのポンプアップ動作に伴ってマスターシリンダ13からブレーキ液を吸い込む速さが遅くなる。したがって、ポンプアップ動作によるブレーキ液の吸い込み消費が抑えられる分、マスターシリンダ13で使うブレーキ液が確保されることになり、この結果、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のストローク域でペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の上昇が確保される。
【0045】
[ポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用]
以下、図10に基づき、実施例1のポンプアップ液圧制御を適用することによるポンプアップ液圧/マスターシリンダ液圧/ホイールシリンダ液圧の発生作用を説明する。
【0046】
まず、速踏み時のペダルストロークに対するポンプアップによる液圧特性は、図10(a)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、速踏みに対する応答遅れによりポンプアップ指令値とポンプアップ液圧実値が乖離するため、ポンプアップ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、増加勾配が最も低いPU指令値特性の選択が固定されることで、ポンプアップ液圧増加速度が比較例よりも遅くなり、比較例がペダルストロークS1の位置にて所定値に達するのに対し、実施例1では、ペダルストロークS2(>S1)の位置にて所定値に達する。
【0047】
次に、速踏み時のペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧特性は、図10(b)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、マスターシリンダ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、ペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の増加が確保されることで、マスターシリンダ液圧が比較例のように低くならない。このため、マスターシリンダ液圧の低下によりペダル反力が弱くならず、ペダルフィールの違和感が緩和される。
【0048】
次に、速踏み時のペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性は、図10(c)に示す実線特性を描くようになる。
すなわち、S<SRES領域においては、ホイールシリンダ液圧が比較例と同様の勾配にて上昇する。しかし、S≧SRES領域においては、ペダルストロークに対するマスターシリンダ液圧の増加が確保されることで、ホイールシリンダ液圧が比較例のように低くならない。このため、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性に段付きが発生することでの制動G(=制動減速度)の減少が抑制される。
【0049】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0050】
(1) ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生するマスターシリンダ13と、
前記マスターシリンダ4とホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプ22によりポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段(VDCブレーキ液圧ユニット2)と、
運転者によるブレーキ操作速度を検知するブレーキ操作速度検知手段(マスターシリンダ液圧センサ24)と、
前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くするポンプアップ液圧制御手段(図3)と、
を備える。
このため、ブレーキ操作時、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の段付きとペダル反力の変動を小さく抑えることで、ペダルフィールの違和感を緩和することができる。
【0051】
(2) 前記ポンプアップ液圧制御手段(図3)は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする。
このため、(1)の効果に加え、ブレーキ操作速度の速さにかかわらず、ペダルストロークに対するホイールシリンダ液圧特性の低下を狙い通りに抑えることができる。つまり、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ポンプアップ動作によりマスターシリンダ13側から吸い込む液量が増加するのに合わせた制御になる。
【0052】
(3) 前記ブレーキ操作速度検知手段(マスターシリンダ液圧センサ24)は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置域に達した時点でのマスターシリンダ液圧を用い、マスターシリンダ液圧が高いほどブレーキ操作速度が速いと検知する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、例えば、ブレーキ操作速度検知手段として、ストロークセンサ3の微分値を使用する場合に比べ、ノイズやサンプリング周期の影響を受けずに、速踏みされたことを精度良く検知することができる。
【0053】
以上、本発明のブレーキ制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0054】
実施例1では、ポンプアップ液圧発生手段として、VDCブレーキ液圧ユニット2を用いる例を示した。しかしながら、ポンプアップ液圧発生手段としては、マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生する手段であれば、実施例1のVDCブレーキ液圧ユニット2に限られない。
【0055】
実施例1では、ブレーキ操作速度検知手段として、マスターシリンダ液圧センサ24を用いる例を示した。しかし、ブレーキ操作速度検知手段としては、ストロークセンサ3の微分値を使用する例であっても良いし、他にブレーキ操作速度を直接的或いは間接的に検知するものであっても良い。
【0056】
実施例1では、ポンプアップ液圧制御手段として、ブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする例を示した。しかし、ポンプアップ液圧制御手段としては、ブレーキ操作速度が所定値より速いとき、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を、閉鎖位置通過前より遅くするという制御を行うものであっても良い。さらに、ブレーキ操作速度が所定値より速いとき、複数の閾値を設けて多段階的にポンプアップ液圧増加速度を遅くするという制御を行うものであっても良い。
【0057】
実施例1では、本発明のブレーキ制御装置を、前輪駆動のハイブリッド車へ適用した例を示した。しかし、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、等の電動車両に限らず、エンジン車へ本発明のブレーキ制御装置を適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 ブレーキ液圧発生装置
13 マスターシリンダ
2 VDCブレーキ液圧ユニット(ポンプアップ液圧発生手段)
21 VDCモータ
22 液圧ポンプ
24 マスターシリンダ液圧センサ(ブレーキ操作速度検知手段)
25 第1M/Cカットソレノイドバルブ
26 第2M/Cカットソレノイドバルブ
3 ストロークセンサ
4FL 左前輪ホイールシリンダ
4FR 右前輪ホイールシリンダ
4RL 左後輪ホイールシリンダ
4RR 右後輪ホイールシリンダ
5 走行用電動モータ
61 プライマリ液圧管
62 セカンダリ液圧管
63 左前輪液圧管
64 右前輪液圧管
65 左後輪液圧管
66 右後輪液圧管
7 ブレーキコントローラ
8 モータコントローラ
9 統合コントローラ
91 バッテリコントローラ
92 車速センサ
93 ブレーキスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生するマスターシリンダと、
前記マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段と、
運転者によるブレーキ操作速度を検知するブレーキ操作速度検知手段と、
前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くするポンプアップ液圧制御手段と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記ポンプアップ液圧制御手段は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ操作速度検知手段は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置域に達した時点でのマスターシリンダ液圧を用い、マスターシリンダ液圧が高いほどブレーキ操作速度が速いと検知する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項1】
ペダルストローク操作に応じてマスターシリンダ液圧を発生するマスターシリンダと、
前記マスターシリンダとホイールシリンダを連結する液圧系に配置され、ブレーキ液を吸い込んで吐出する液圧ポンプによりポンプアップ液圧を発生するポンプアップ液圧発生手段と、
運転者によるブレーキ操作速度を検知するブレーキ操作速度検知手段と、
前記ブレーキ操作速度が所定値以上の場合、前記ポンプアップ液圧により前記ホイールシリンダへの液圧を所定値まで増加させる際、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのポンプアップ液圧増加速度よりも、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度を遅くするポンプアップ液圧制御手段と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ制御装置において、
前記ポンプアップ液圧制御手段は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置に達するまでのブレーキ操作速度が速いほど、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置を通過した後のポンプアップ液圧増加速度をより遅くする
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたブレーキ制御装置において、
前記ブレーキ操作速度検知手段は、ペダルストロークがリザーバポートの閉鎖位置域に達した時点でのマスターシリンダ液圧を用い、マスターシリンダ液圧が高いほどブレーキ操作速度が速いと検知する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−86625(P2013−86625A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228082(P2011−228082)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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