説明

ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッド

【課題】摩擦性能を適正化することができるブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドを提供することを目的とする。
【解決手段】磁気を帯びた磁性体44を含んで構成される複数の摩擦材41を有する第1部材4と、磁気を帯びた磁性体52を含んで構成され、複数の摩擦材41と接触して第1部材4と相対変位可能である第2部材5と、制動要求に応じて少なくとも摩擦材41の磁性体44又は第2部材5の磁性体52のいずれか一方の磁界の強さ又は向きを変更する磁力変更装置3とを備えることを特徴とする。したがって、ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、摩擦性能を適正化することができる、という効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキなどのブレーキ装置として、車両に搭載され、車両の車体に回転可能に支持された車輪に制動力を付与するものがある。なお、種々の従来のブレーキ装置として、例えば、特許文献1には、常時はアーマチュア組立体を永久磁石の吸引力により永久磁石側に吸引することで入力軸からのトルクをスプラインを介して出力軸側に伝達し、電磁石が励磁したときは永久磁石の吸引力を打ち消してアーマチュア組立体を電磁石側に吸引して入力軸からのトルクを解放し出力軸にブレーキ力を付与する電磁式のクラッチ又はブレーキ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平02−062126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のディスクブレーキなどのブレーキ装置においては、例えば、摩擦性能の点でさらなる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、摩擦性能を適正化することができるブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキ装置は、磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を有する第1部材と、磁気を帯びた磁性体を含んで構成され、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材と、制動要求に応じて少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きを変更する磁力変更装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記ブレーキ装置では、前記磁力変更装置は、少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方が電磁石であり、当該電磁石に流す電流を制御して磁界の強さ又は向きを変更するものとすることができる。
【0008】
また、上記ブレーキ装置では、前記摩擦材と前記第2部材との接触面は、それぞれ硬質材によって構成されるものとすることができる。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキ装置用摩擦対は、磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を有する第1部材と、磁気を帯びた磁性体を含んで構成され、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材とを備え、少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きが変更可能であることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るブレーキパッドは、磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を備え、少なくとも前記摩擦材の磁性体又は車輪と共に回転するディスクロータを構成する磁気を帯びた磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きが変更されることで、前記摩擦材が前記ディスクロータと接触することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対、ブレーキパッドは、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態に係るブレーキ装置の概略構成を示す部分断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材の斜視図である。
【図3】図3は、実施形態に係るブレーキ装置の案内部材の部分斜視図である。
【図4】図4は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材のクリアランス、形状について説明する模式図である。
【図5】図5は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦制動面について説明する模式的部分断面図である。
【図6】図6は、実施形態に係るブレーキ装置の複数の摩擦材の押圧状態について説明する模式的部分断面図である。
【図7】図7は、実施形態に係るブレーキ装置の動作について説明する模式図である。
【図8】図8は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材の着力点について説明する模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
[実施形態]
図1は、実施形態に係るブレーキ装置の概略構成を示す部分断面図、図2は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材の斜視図、図3は、実施形態に係るブレーキ装置の案内部材の部分斜視図、図4は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材のクリアランス、形状について説明する模式図、図5は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦制動面について説明する模式的部分断面図、図6は、実施形態に係るブレーキ装置の複数の摩擦材の押圧状態について説明する模式的部分断面図、図7は、実施形態に係るブレーキ装置の動作について説明する模式図、図8は、実施形態に係るブレーキ装置の摩擦材の着力点について説明する模式的部分断面図である。
【0015】
図1に示す本実施形態のブレーキ装置1は、典型的には、車両に搭載され、車両の車体に回転可能に支持された車輪に制動力を付与するものであり、ブレーキ装置用摩擦対2と、制御装置としてのECU3とを備える。
【0016】
ブレーキ装置用摩擦対2は、車輪に制動力を付与する際に摩擦要素間に所定の摩擦力(摩擦抵抗力)を発生させるためのものである。ブレーキ装置用摩擦対2は、硬質材を用いたいわゆる硬質フリクションペアであり、相対的に高い摩耗特性を得ることができるものである。一方で、このような硬質フリクションペアであるブレーキ装置用摩擦対2は、摩擦制動面となる接触面同士が馴染まず接触面積が不安定となり摩擦性能、制動性能が低下するおそれがある。
【0017】
そこで、本実施形態のブレーキ装置1は、複数に分割された摩擦材41を押圧することで、ブレーキ装置用摩擦対2を安定的に面接触させ、広い接触面積を確保し、摩擦箇所の面積を安定させ、摩擦性能を適正化することができるものである。
【0018】
ブレーキ装置用摩擦対2は、第1部材としてのブレーキパッド4と、第2部材としてのディスクロータ(ブレーキロータ)5とを含んで構成される。ブレーキパッド4は、車輪と共に回転不能に車体側に設けられる。ブレーキパッド4は、図1では一方しか図示していないがインナパッド及びアウタパッドの一対で設けられ、ブラケット等を介して車体側に組み付けられる。ディスクロータ5は、車輪と共に一体的に回転可能に車輪側に設けられる。これにより、ブレーキパッド4とディスクロータ5とは、相対変位可能な構成となり、すなわち、ディスクロータ5の回転方向に相対回転可能な関係となる。一対のブレーキパッド4は、ディスクロータ5の両側に配置され、ディスクロータ5の両側の接触面5aに対向する。一対のブレーキパッド4は、車輪に制動力を付与する際にはディスクロータ5の両側を挟持する。
【0019】
そして、本実施形態のブレーキ装置1は、上述したように、ブレーキ装置用摩擦対2をなすブレーキパッド4が複数の摩擦材41を含んで構成されることで、ブレーキパッド4とディスクロータ5とを安定的に面接触させ、広い接触面積を確保し、摩擦箇所の面積を安定させ、摩擦性能を適正化し、例えば、摩耗性能の向上と、摩擦性能、制動性能の向上との両立を図っている。
【0020】
具体的には、ブレーキパッド4は、図1に示すように、複数個に分割された摩擦材41と、支持部材としての裏金42と、案内部材43とを有する。
【0021】
なお、この図1では、図中左右方向がブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位の方向、すなわち、ディスクロータ5の回転方向、さらに言えばブレーキパッド4の摺動方向である。また、図中上下方向が各摩擦材41とディスクロータ5との押し付け方向である。
【0022】
複数の摩擦材41は、この摩擦材41と摺動し摩擦力を発生する円板状のディスクロータ5の接触面5aに対向して設けられる。摩擦材41は、接触面5aと対向する面が摩擦面としての接触面41aをなす。各摩擦材41は、ディスクロータ5側に押し付けられた際には、各接触面41aがディスクロータ5の接触面5aと接触して摺動する摩擦制動面となり、この接触面41aが制動力を発生させる。
【0023】
本実施形態の摩擦材41は、図1、図2に示すように、それぞれ、円柱状に形成され、接触面41aの背面側に挿入穴41bが設けられる。言い換えれば、摩擦材41は、接触面41a側が閉塞した円筒状に形成され、中空部分が挿入穴41bをなす。摩擦材41は、円筒状の中心軸線に沿った方向の一端側が閉塞して接触面41aをなし、他端側が開口して内部に中空の挿入穴41bが形成される。
【0024】
ここでは、各摩擦材41とディスクロータ5との接触面41a、5aは、それぞれ硬質材によって構成される。接触面41a、5aは、硬質材として、典型的には、相対的に高い耐熱性、所定以上の強度、相対的に高い硬度を有する材料、例えば、アルミナ、窒化ケイ素等によって構成される。
【0025】
裏金42は、板状の部材により構成され、ブレーキパッド4の基端部をなす。裏金42は、複数の摩擦材41を後述する案内部材43等を介して支持する。
【0026】
案内部材43は、各摩擦材41を所定の位置に位置決めするためのものである。案内部材43は、図1、図3に示すように、板状に形成されると共に、各摩擦材41を収容するための複数の収容孔43aを有する。各収容孔43aは、案内部材43本体を押し付け方向に貫通する。ここでは、各収容孔43aは、摩擦材41の形状に対応して、円柱状に形成される。複数の収容孔43aは、隣接する収容孔43aとほぼ等間隔で形成される。
【0027】
案内部材43は、各収容孔43a内にそれぞれ1つずつ摩擦材41を収容し、複数の摩擦材41を押し付け方向に案内すると共に、この押し付け方向と交差する方向、すなわち、押し付け方向以外(典型的にはパッド面方向)への摩擦材41の移動を規制する拘束具として機能する。各摩擦材41は、円柱状(円筒状)の中心軸線が押し付け方向とほぼ平行になるように案内部材43の各収容孔43a内に収容される。
【0028】
案内部材43は、各収容孔43a内に各摩擦材41を収容した状態で不図示の周縁部が裏金42に固定される。各摩擦材41は、この状態で各接触面41aが各収容孔43aを介して裏金42とは反対側に露出しディスクロータ5の接触面5aと対向すると共に、不図示の抜け止めによって各収容孔43aからの脱落が防止されている。
【0029】
そして、本実施形態の各摩擦材41及びディスクロータ5は、それぞれ磁気を帯びた磁性体44、52を含んで構成される。そして、本実施形態のブレーキ装置1は、磁力変更装置としてのECU3が、制動要求に応じて、少なくとも摩擦材41の磁性体44又はディスクロータ5の磁性体52のいずれか一方の磁界の強さ又は向きを変更することで、各摩擦材41とディスクロータ5とを押し付けて制動操作に応じた押し付け力を作用させる。
【0030】
なお、ここでの制動要求とは、車輪に制動力を付与する要求であり、例えば、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作、ECU3によるABS制御やVSC制御等の車両挙動制御の実行等に応じて発生する。
【0031】
磁性体44は、複数の摩擦材41に対応して複数設けられ、各摩擦材41に対応して1つずつ設けられる。各磁性体44は、棒状に構成され、各摩擦材41の各挿入穴41bにそれぞれ1つずつ挿入される。各磁性体44は、先端がそれぞれ挿入穴41bの底部41cに当接する。各磁性体44は、各摩擦材41とディスクロータ5とを押し付ける際に、各摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する押圧部材である。
【0032】
各磁性体44は、先端が挿入穴41bの底部41cと点接触する。ここでは、磁性体44は、先端に突起44aが設けられており、この突起44aにて底部41cと点接触する。つまり、磁性体44は、突起44aが底部41cとの点接触部となる。一方、各磁性体44は、基端(突起44aが設けられる端部とは反対側の端部)が固定されておらず、フリーな状態となっている。
【0033】
磁性体52は、ディスクロータ5のロータ本体51の両側の面にそれぞれ設けられ、それぞれの表面が各摩擦材41の接触面41aが接触する接触面5aをなす。
【0034】
そして、ブレーキ装置1は、少なくとも各摩擦材41の磁性体44又はディスクロータ5の磁性体52のいずれか一方が電磁石として構成される。本実施形態のブレーキ装置1は、各摩擦材41の磁性体44が電磁石であるものとして説明するが、これに限らず、ディスクロータ5の磁性体52が電磁石であってもよい。
【0035】
電磁石である各磁性体44は、電力を供給する電源部6に接続され、ECU3による制御によって電源部6から供給される印加(励磁)電流が調節されることで、磁界の強さ(磁力の大きさ)、磁界の向き(磁力線の向き)が変更される。つまり、ECU3は、電磁石である各磁性体44に流す電流を制御して各磁性体44で発生させる磁力を制御し、磁界の強さ又は磁界の向きを変更する。ECU3は、例えば、電磁石である各磁性体44に流す電流を増減することで磁界の強さを調節し、電磁石である各磁性体44に流す電流の方向を変えることで磁極を入れ替えて磁界の向きを変更する。
【0036】
したがって、このブレーキ装置1は、制動要求が発生し車輪に制動力を付与する場合に、ECU3によって電磁石である各磁性体44の磁界の向きが制御され、各磁性体44の先端側の磁極と磁性体52の磁極とが異なる状態(N極−S極)とされると、各磁性体44が磁性体52側に吸引され、各摩擦材41に対してディスクロータ5側に向かう吸引力が作用する。これにより、ブレーキ装置1は、各磁性体44と磁性体52との間に位置する各摩擦材41がディスクロータ5側に押し付けられ、各摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに接触させることができ、各摩擦材41とディスクロータ5とを押し付けて各摩擦材41とディスクロータ5との間に押し付け力を作用させることができる。そして、ブレーキ装置1は、各ブレーキパッド4の各摩擦材41の接触面41aがディスクロータ5の各接触面5aに当接し押し付けられてディスクロータ5を挟持することで、車輪と共に回転するディスクロータ5に対して所定の回転抵抗力が作用し、このディスクロータ5及びこれと一体で回転する車輪に制動力を付与することができる。このとき、ブレーキ装置1は、ECU3によって、制動要求に応じて電磁石である各磁性体44の磁界の強さが調節されることで、押し付け力の大きさが調節され、車輪に付与される制動力の大きさが制御される。
【0037】
一方、このブレーキ装置1は、制動要求がない場合には、ECU3によって電磁石である各磁性体44の磁界の向きが制御され、各磁性体44の先端側の磁極と磁性体52の磁極とが同じ状態(N極−N極、あるいは、S極−S極)とされると、各磁性体44が磁性体52とは反対側に反発し、各摩擦材41に対してディスクロータ5側から離間する反発力が作用する。これにより、ブレーキ装置1は、各摩擦材41の接触面41aがディスクロータ5の接触面5aから離れて、各摩擦材41がディスクロータ5側から退避し、各摩擦材41がディスクロータ5から離間し、接触面41aと接触面5aとの接触を解除することができる。
【0038】
ここで、このブレーキパッド4は、図4に示すように、摩擦材41のモーメント長h1が可能な限り小さくなるように、また、摩擦材41の高さh2が可能な限り大きくなるように、クリアランス、形状等が設定されることが好ましい。これにより、このブレーキパッド4は、摩擦材41に押し付け力(荷重)Wが作用し接触面41aがディスクロータ5の接触面5aと接触して摩擦力Fを発生させた際に、摩擦材41に作用する回転力により摩擦材41が点接触となってしまうことを抑制している。なお、この図4中、実線で表す摩擦材41は回転前の状態を、点線で表す摩擦材41は回転後の状態を模式的に表している。
【0039】
上記の摩擦材41のモーメント長h1は、図4中の点Aから拘束点Bまでの押し付け方向に沿った長さに相当する。ブレーキパッド4は、このモーメント長h1を相対的に小さくすることで、図4中の点A周りの(左)回転方向の発生回転力M(=F×h1)を相対的に小さくすることができる。ここでの点Aは、摩擦材41とディスクロータ5とが接触した際の回転中心となる点に相当する。また、拘束点Bは、点Aとは反対側で摩擦材41の外面が収容孔43aの内面と当接し回転が拘束される点に相当する。このブレーキパッド4は、案内部材43の収容孔43aの内面と摩擦材41の外面とのクリアランス(隙間)を小さくすることで、摩擦材41のモーメント長h1を相対的に小さくすることができる。
【0040】
また、上記の摩擦材41の高さh2は、図4中に示すように、摩擦材41の押し付け方向に沿った長さに相当する。ブレーキパッド4は、この高さh2を相対的に大きくし、案内部材43によって各摩擦材41の押し付け方向以外への移動を拘束することで、図4中の回転変位θを小さくすることができる。ここでの回転変位θ[degree]は、sin-1(δ/h2)で表すことができる。δは、点A側で摩擦材41の外面が収容孔43aの内面と当接し回転が拘束される拘束点C側のクリアランス(隙間)に相当する。このブレーキパッド4は、摩擦材41の接触面41aからの厚みを大きくすることで、摩擦材41の高さh2を相対的に大きくすることができる。
【0041】
上記のように構成されるブレーキ装置1は、制動要求が発生しECU3によって各磁性体44の先端側の磁極と磁性体52の磁極とが異なる状態(N極−S極)とされると、各摩擦材41の接触面41aとディスクロータ5の接触面5aとが当接し、ディスクロータ5の回転に応じて各接触面41aと接触面5aとが摺動する。そして、ブレーキ装置1は、各摩擦材41の各接触面41aと接触面5aとの間に生じる摩擦力(摩擦抵抗力)によって、ブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位、すなわち、ディスクロータ5の回転を制動する制動力を発生させることができる。ブレーキ装置1は、ブレーキパッド4とディスクロータ5とが押し付けられた状態で、ブレーキパッド4とディスクロータ5との相対変位に伴って各接触面41aと接触面5aとの間に生じる摩擦力により上記相対変位を制動することができる。この結果、ブレーキ装置1は、ディスクロータ5、ひいては車輪に所定の制動力を付与することができる。
【0042】
そして、ブレーキ装置1は、各摩擦材41とディスクロータ5との接触面41a、5aがそれぞれ硬質材によって構成されることから、相対的に高い摩耗特性を得ることができ、例えば、接触面41a、5aの融点を相対的に高くすることができ、これにより、ブレーキ装置用摩擦対2の熱に対する許容範囲を拡大することができる。一方、この場合、各摩擦材41とディスクロータ5とは、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士であるがために、図1、図5に例示するように、摩擦制動面となる接触面41aと接触面5aとが馴染まず接触面積が不安定となり小さくなるおそれがある。
【0043】
これに対して、このブレーキ装置1は、ブレーキパッド4が全体として複数の摩擦材41に分かれて構成され、それぞれの挿入穴41bの底部41cが、対応する磁性体44によってディスクロータ5の接触面5aに押圧されることで、図6に例示するように、各摩擦材41の接触面41aを独立して接触面5aに押圧することができる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aを接触面5aの微細な凹凸等形状に合わせて追従しやすくすることができ、よって、接触面41a、5aがそれぞれ硬質材同士で構成される場合であっても、接触面41aと接触面5aとの接触面積を相対的に大きくすることができる。
【0044】
より具体的にいうと、ブレーキ装置1は、例えば、図7に例示するように、ECU3によって電磁石である各磁性体44の先端側の磁極と磁性体52の磁極とが異なる状態(N極−S極)とされることで、その磁力により分割された各摩擦材41がそれぞれ独立してディスクロータ5の接触面5a側に移動し、各接触面41aと接触面5aとがそれぞれしっかりと接触する状態となり、各接触面41aと接触面5aとの間により確実に摩擦力を発生させることができる。この結果、ブレーキ装置1は、各摩擦材41に対する押し付け力を各磁性体44によって各摩擦材41でほぼ均一に作用させることができるので、複数の摩擦材41の接触面41aと接触面5aとを安定的に面接触させ摩擦箇所の面積を安定化させることができ、摩擦性能を適正化し、例えば、摩耗性能の向上と、摩擦性能、制動性能の向上との両立を図ることができる。
【0045】
また、本実施形態のブレーキ装置1は、各摩擦材41をディスクロータ5に押し付ける際に、各磁性体44がそれぞれ挿入穴41bの底部41cをディスクロータ5に向かって押圧し摩擦材41の接触面41aをディスクロータ5の接触面5aに押圧する。これにより、このブレーキ装置1は、挿入穴41bにて磁性体44の先端部を確実に位置決めすることができると共に、底部41cにて接触面41aと接触面5aとの接触部分のすぐ近傍に磁性体44からの押し付け力の着力点を位置させることができ、すなわち、押し付け力の着力点と、接触面41aと接触面5aとの摩擦制動面とを近接させることができる。この結果、ブレーキ装置1は、接触面41aと接触面5aとを安定的に面接触させ摩擦箇所の面積を安定化させることができ、摩擦性能、制動性能をさらに向上することができる。
【0046】
また、ブレーキ装置1は、各磁性体44が突起44aにてそれぞれ挿入穴41bの底部41cと点接触することから、図8に例示するように、各摩擦材41の底部41cにおける磁性体44からの押し付け力の着力点の位置を突起44aの一点にて安定化させることができ、例えば、着力点が底部41cの中心部からずれてしまうことを抑制することができる。そして、ブレーキ装置1は、押し付け力の着力点の位置を安定化させることができることから、結果的に、接触面41aと接触面5aとの摩擦制動面を安定化させることができ、摩擦性能、制動性能をさらに向上することができる。
【0047】
また、このブレーキ装置1は、摩擦材41のモーメント長h1を小さくし、摩擦材41の高さh2を大きくすることで、摩擦材41に押し付け力(荷重)Wが作用し接触面41aにて摩擦力Fを発生させた際に生じる発生回転力M、及び、回転変位θを抑制することができるので、摩擦材41に作用する回転力により摩擦材41が点接触となってしまうことを抑制することができ、接触面41aと接触面5aとの摩擦面積をより安定させることができる。さらに言えば、ブレーキ装置1は、案内部材43が複数の摩擦材41を押し付け方向に案内すると共にこの押し付け方向と交差する方向への移動を規制することから、摩擦材41の倒れを規制し、より接触面積を安定化させることができる。
【0048】
以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置1によれば、磁気を帯びた磁性体44を含んで構成される複数の摩擦材41を有するブレーキパッド4と、磁気を帯びた磁性体52を含んで構成され、複数の摩擦材41と接触してブレーキパッド4と相対変位可能であるディスクロータ5と、制動要求に応じて少なくとも摩擦材41の磁性体44又はディスクロータ5の磁性体52のいずれか一方、ここでは、磁性体44の磁界の強さ又は向きを変更するECU3とを備える。
【0049】
以上で説明した実施形態に係るブレーキ装置用摩擦対2によれば、磁気を帯びた磁性体44を含んで構成される複数の摩擦材41を有するブレーキパッド4と、磁気を帯びた磁性体52を含んで構成され、複数の摩擦材41と接触してブレーキパッド4と相対変位可能であるディスクロータ5とを備え、少なくとも摩擦材41の磁性体44又はディスクロータ5の磁性体52のいずれか一方、ここでは、磁性体44の磁界の強さ又は向きを変更可能である。
【0050】
以上で説明した実施形態に係るブレーキパッド4によれば、磁気を帯びた磁性体44を含んで構成される複数の摩擦材41を備え、少なくとも摩擦材41の磁性体44又は車輪と共に回転するディスクロータ5を構成する磁気を帯びた磁性体52のいずれか一方、ここでは、磁性体44の磁界の強さ又は向きが変更されることで、摩擦材41がディスクロータ5と接触する。
【0051】
したがって、ブレーキ装置1、ブレーキ装置用摩擦対2、ブレーキパッド4は、例えば、摩擦箇所の面積を安定させることで摩擦性能を適正化することができる。また、ブレーキ装置1、ブレーキ装置用摩擦対2、ブレーキパッド4は、複数の摩擦材41の摩耗状態をより均一化することができる。
【0052】
なお、上述した本発明の実施形態に係るブレーキ装置、ブレーキ装置用摩擦対及びブレーキパッドは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
以上の説明では、ブレーキパッド4が第1部材であり、ディスクロータ5が第2部材であるものとして説明したが、これに限らず、ディスクロータが第1部材、ブレーキパッドが第2部材であってもよい。
【0054】
以上の説明では、摩擦材は、円柱状(円筒状)に形成されるものとして説明したが、これに限らず、例えば、矩形柱状(矩形筒状)に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 ブレーキ装置
2 ブレーキ装置用摩擦対
3 ECU(磁力変更装置)
4 ブレーキパッド(第1部材)
5 ディスクロータ(第2部材)
5a 接触面
6 電源部
41 摩擦材
41a 接触面
41b 挿入穴
41c 底部
42 裏金
43 案内部材
43a 収容孔
44 磁性体(電磁石)
44a 突起
51 ロータ本体
52 磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を有する第1部材と、
磁気を帯びた磁性体を含んで構成され、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材と、
制動要求に応じて少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きを変更する磁力変更装置とを備えることを特徴とする、
ブレーキ装置。
【請求項2】
前記磁力変更装置は、少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方が電磁石であり、当該電磁石に流す電流を制御して磁界の強さ又は向きを変更する、
請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記摩擦材と前記第2部材との接触面は、それぞれ硬質材によって構成される、
請求項1又は請求項2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を有する第1部材と、
磁気を帯びた磁性体を含んで構成され、前記複数の摩擦材と接触して前記第1部材と相対変位可能である第2部材とを備え、
少なくとも前記摩擦材の磁性体又は前記第2部材の磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きが変更可能であることを特徴とする、
ブレーキ装置用摩擦対。
【請求項5】
磁気を帯びた磁性体を含んで構成される複数の摩擦材を備え、
少なくとも前記摩擦材の磁性体又は車輪と共に回転するディスクロータを構成する磁気を帯びた磁性体のいずれか一方の磁界の強さ又は向きが変更されることで、前記摩擦材が前記ディスクロータと接触することを特徴とする、
ブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229002(P2012−229002A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100046(P2011−100046)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】