説明

ブレーキ装置

【課題】 ブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置において、ストロークシミュレータを廃止して構造の簡素化を図りながらペダル反力を確保できるようにする。
【解決手段】 正常時には大気遮断弁19を開弁してマスタシリンダ10をリザーバ18に連通させてモータシリンダ20をホイールシリンダ16に連通させた状態で、マスタシリンダ10の反力ばね15a,15bでペダル反力を付与するので、マスタシリンダ10がブレーキ液圧を発生しない状態でも、ストロークシミュレータを必要とせずにブレーキペダル11にペダル反力を発生させることが可能になり、部品点数の削減に寄与することができる。また異常時には大気遮断弁19を閉弁してマスタシリンダ10をリザーバ18から遮断してホイールシリンダ16に連通させることで、モータシリンダ20を必要とせずにホイールシリンダ16を作動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常時にブレーキ液圧発生手段が電気的に発生したブレーキ液圧で車輪を制動し、異常時にドライバーのブレーキ操作によりマスタシリンダが発生するブレーキ液圧で車輪を制動するブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ液圧を発生するオイルポンプが作動可能な正常時には、ドライバーがブレーキペダルを踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと車輪を制動するディスクブレーキ装置との連通を電磁開閉弁で遮断した状態で、オイルポンプが発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ装置を作動させ、またオイルポンプが作動不能になる異常時には、電磁開閉弁を開弁してマスタシリンダが発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ装置を作動させる、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置が、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2005−14883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種のブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置では、シリンダの内部にスプリングで付勢されたピストンを収納したストロークシミュレータを設け、マスタシリンダが実質的にブレーキ液圧を発生しない正常時に、ストロークシミュレータでブレーキペダルにペダル反力を付与してドライバーの違和感を解消するようになっている。このようなストロークシミュレータには、それとマスタシリンダとの連通・遮断を制御する開閉弁が必要になるため、更に部品点数が増加する問題があった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、ブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置において、ストロークシミュレータを廃止して構造の簡素化を図りながらペダル反力を確保できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、ブレーキ液を貯留するリザーバと、内部に反力ばねを備えてドライバーのブレーキ操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、ブレーキ液圧により車輪を制動可能なホイールシリンダと、電気的にブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生手段とを備え、正常時にはマスタシリンダをリザーバに連通させてブレーキ液圧発生手段をホイールシリンダに連通させた状態で、マスタシリンダの反力ばねでペダル反力を付与し、異常時にはマスタシリンダをリザーバから遮断してホイールシリンダに連通させることを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、ブレーキ液圧発生手段はブレーキ液圧の発生時に閉じるポートを有しており、正常時に前記ポートが閉じることでホイールシリンダをマスタシリンダから遮断することを特徴とするブレーキ装置が提案される。
【0007】
尚、実施例のモータシリンダ20および液圧ポンプ34は、本発明のブレーキ液圧発生手段に対応する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、正常時にはマスタシリンダをリザーバに連通させてブレーキ液圧発生手段をホイールシリンダに連通させた状態で、マスタシリンダの反力ばねでペダル反力を付与するので、マスタシリンダがブレーキ液圧を発生しない状態でも、ストロークシミュレータを必要とせずにブレーキペダルにペダル反力を発生させることが可能になり、部品点数の削減に寄与することができる。また異常時にはマスタシリンダをリザーバから遮断してホイールシリンダに連通させることで、ブレーキ液圧発生手段を必要とせずにホイールシリンダを作動させることができる。
【0009】
請求項2の構成によれば、ブレーキ液圧発生手段がブレーキ液圧の発生時に閉じるポートを有しているので、特別の弁を必要とせずに、ホイールシリンダをマスタシリンダから遮断してブレーキ液圧がリザーバに逃げるのを阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0011】
図1および図2は本発明の第1実施例を示すもので、図1は車両用ブレーキ装置の正常時の液圧系統図、図2は図1に対応する異常時の液圧系統図である。
【0012】
図1に示すように、タンデム型のマスタシリンダ10は、ドライバーがブレーキペダル11を踏む踏力に応じたブレーキ液圧を出力する第1、第2出力ポート12a,12bを備えており、第1出力ポート12aは例えば左前輪のディスクブレーキ装置13に接続されるとともに、第2出力ポート12bは例えば右前輪のディスクブレーキ装置に接続される。マスタシリンダ10は一対のピストン14a,14bを備えており、それぞれのピストン14a,14bには反力ばね15a,15bで反力が与えられる。図面には、第1出力ポート12aに連なる一方のブレーキ系統だけが図示されており、第2出力ポート12bに連なる他方のブレーキ系統は図示されていないが、一方および他方のブレーキ系統の構造は実質的に同一である。以下、第1出力ポート12aに連なる一方のブレーキ系統について説明する。
【0013】
マスタシリンダ10の第1出力ポート12aとディスクブレーキ装置13のホイールシリンダ16とは液路17a,17b,17cで接続され、液路17bとマスタシリンダ10のリザーバ18とが液路17dで接続される。また液路17bと液路17dとの間に常閉型電磁弁である大気遮断弁19が配置される。液路17bと液路17cとの間にモータシリンダ20が配置される。モータシリンダ20に摺動自在に嵌合するピストン21は電動モータ22により減速機構23を介して駆動されるもので、ピストン21の前面に形成された液室24にブレーキ液圧を発生させることができる。モータシリンダ20の液室24が液路17bに連なるポート25aはピストン21が前進すると閉塞され、モータシリンダ20の液室24が液路17cに連なるポート25bはピストン21の位置に関わらずに常時開放する。
【0014】
大気遮断弁19およびモータシリンダ20の電動モータ22の作動を制御する不図示の電子制御ユニットには、ブレーキペダル11の踏力を検出する踏力センサ26と、ホイールシリンダ16に連なる液路17cの液圧を検出する液圧センサ27とが接続される。
【0015】
次に、上記構成を備えた本発明の第1実施例の作用を説明する。
【0016】
図1に示す正常時には、電子制御ユニットからの指令で大気遮断弁19のソレノイドが励磁されて開弁する。この状態でドライバーがブレーキペダル11を踏み込んでも、マスタシリンダ10の第1出力ポート12aは液路17a→液路17b→大気遮断弁19→液路17dの経路でリザーバ18に連通するためにブレーキ液圧は発生しない。これと同時に、電動モータ22が作動して減速機構23を介してモータシリンダ20のピストン21が前進することで、液室24に発生したブレーキ液圧がポート25bから液路17cを介してホイールシリンダ16に伝達されて前輪を制動する。このとき、ブレーキペダル11の操作量をストロークセンサ26で検出し、そのペダル操作量に基づいて電子制御ユニットが目標ブレーキ液圧を設定し、液圧センサ27で検出したブレーキ液圧が前記目標ブレーキ液圧になるように、電子制御ユニットが電動モータ22の作動をフィードバック制御する。またピストン21が前進すると同時にモータシリンダ20のポート25aを閉塞するため、液室24に発生したブレーキ液圧が開弁した大気遮断弁19からリザーバ18に逃げる虞がない。
【0017】
上述した正常時には、ドライバーがブレーキペダル11を踏んだときにマスタシリンダ10の反力ばね15a,15bが圧縮されることで、ブレーキペダル11に所定のペダル反力が付与される。従って、実際には電動モータ22の駆動力でディスクブレーキ装置13を作動させているにも関わらず、ドライバーの踏力でディスクブレーキ装置13を作動させているのと同等の操作フィーリングを得ることができる。このように、従来必要であったストロークシミュレータを廃止しても、ブレーキペダル11に所定の反力を付与することができるので、部品点数を削減して構造の簡素化を図ることができる。
【0018】
但し、ドライバーにとって違和感のないペダル反力を得るためには、反力ばね15a,15bのばね定数を通常の反力ばねのばね定数よりも高めに設定する必要がある。
【0019】
さて、バッテリ外れ等により電源が失陥したような異常時には、図2に示すように大気遮断弁19が閉弁してマスタシリンダ10およびリザーバ18間の連通を遮断する。その結果、ドライバーがブレーキペダル11を踏み込んでマスタシリンダ10が発生したブレーキ液圧は、マスタシリンダ10の第1出力ポート12a→液路17a→開液路17b→モータシリンダ20のポート25a→モータシリンダ20の液室24→モータシリンダ20のポート25b→液路17cの経路でディスクブレーキ装置13のホイールシリンダ16に伝達され、前輪が制動される。
【0020】
しかして、電源が失陥して大気遮断弁19および電動モータ22が作動不能になっても、ドライバーがブレーキペダル11を踏んでマスタシリンダ10が発生したブレーキ液圧で前輪のホイールシリンダ16を支障なく作動させることができ、これにより異常時にも車両を安全に停止させることができる。
【0021】
尚、上述した異常時には、マスタシリンダ10が発生したブレーキ液圧でホイールシリンダ16を作動させて発生するペダル反力が、反力ばね15a,15bにより発生するペダル反力に加算されるため、ブレーキペダル11のペダルフィーリングが正常時に比べて重くなるが、異常時にはペダルフィーリングよりも安全性が優先されるために問題にはならない。
【0022】
この第1実施例によれば、ストロークシミュレータが不要になるだけでなく、弁の数を大気遮断弁19の1個だけに抑えて部品点数の大幅な削減が可能になる。
【0023】
次に、図3および図4に基づいて本発明の第2実施例を説明する。尚、第2実施例において、第1実施例の構成要素に対応する構成要素に第1実施例と同じ符号を付すことで重複する説明を省略する。
【0024】
マスタシリンダ10の第1出力ポート12aとディスクブレーキ装置13のホイールシリンダ16とが液路31aおよび液路31bを介して接続されており、液路31aおよび液路31b間に常開型電磁弁よりなる踏力遮断弁32が配置される。液路31bから分岐する液路31cは常閉型電磁弁よりなる加圧弁33、液路31dおよび液圧ポンプ34を介してリザーバ18に連通する。尚、このリザーバ18は、マスタシリンダ10のリザーバ18と別個に描かれているが、同じものであっても良い。そして液圧ポンプ34が接続された前記液路31dにはアキュムレータ35が接続される。
【0025】
液路31cの中間部から分岐する液路31eは常閉型電磁弁よりなる減圧弁36と、前記液路31aに連通する液路31fと、常閉型電磁弁よりなる大気遮断弁19と、液路31gとを介してリザーバ18に連通する。
【0026】
次に、上記構成を備えた本発明の第2実施例の作用を説明する。
【0027】
図3に示す正常時には、電子制御ユニットからの指令で大気遮断弁19のソレノイドが励磁されて開弁し、踏力遮断弁32のソレノイドが励磁されて閉弁する。この状態でドライバーがブレーキペダル11を踏み込んでも、マスタシリンダ10の第1出力ポート12aは液路31a→液路31f→大気遮断弁19→液路31gの経路でリザーバ18に連通するためにブレーキ液圧は発生しない。
【0028】
これと同時に、加圧弁33のソレノイドが励磁されて開弁し、液圧ポンプ34gがリザーバ18から汲み上げてアキュムレータ35に蓄圧したブレーキ液圧が液路31d→加圧弁33→液路31c→液路31bの経路でホイールシリンダ16に伝達されて前輪を制動する。このとき、減圧弁36を開閉して液路31cのブレーキ液圧の一部を液路31e→減圧弁36→液路31f→大気遮断弁19→液路31gの経路でリザーバ18に逃がすことにより、ホイールシリンダ16に伝達されるブレーキ液圧を調整して制動力を制御することができる。第2実施例では、ブレーキペダル11の踏力を踏力センサ26で検出し、液圧センサ27で検出したブレーキ液圧が前記踏力に応じた値になるように、電子制御ユニットが減圧弁36の開閉をフィードバック制御する。
【0029】
上述した正常時には、ドライバーがブレーキペダル11を踏んだときにマスタシリンダ10の反力ばね15a,15bが圧縮されることで、ブレーキペダル11に所定のペダル反力が付与される。従って、実際にはアキュムレータ35に蓄圧されたブレーキ液圧でディスクブレーキ装置13を作動させているにも関わらず、ドライバーの踏力でディスクブレーキ装置13を作動させているのと同等の操作フィーリングを得ることができる。このように、従来必要であったストロークシミュレータを廃止しても、ブレーキペダル11に所定の反力を付与することができるので、部品点数を削減して構造の簡素化を図ることができる。
【0030】
さて、バッテリ外れ等により電源が失陥したような異常時には、図4に示すように大気遮断弁19、加圧弁33および減圧弁36が閉弁し、踏力遮断弁32が開弁する。その結果、ドライバーがブレーキペダル11を踏み込んでマスタシリンダ10が発生したブレーキ液圧はリザーバ18に逃げることなく、マスタシリンダ10の第1出力ポート12a→液路31a→踏力遮断弁32→液路31bの経路でディスクブレーキ装置13のホイールシリンダ16に伝達され、前輪が制動される。
【0031】
しかして、電源が失陥して大気遮断弁19、加圧弁33、減圧弁36,踏力遮断弁32および液圧ポンプ34が作動不能になっても、ドライバーがブレーキペダル11を踏んでマスタシリンダ10が発生したブレーキ液圧で前輪のホイールシリンダ16を支障なく作動させることができ、これにより異常時にも車両を安全に停止させることができる。
【0032】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施例に係る車両用ブレーキ装置の正常時の液圧系統図
【図2】図1に対応する異常時の液圧系統図
【図3】第2実施例に係る車両用ブレーキ装置の正常時の液圧系統図
【図4】図3に対応する異常時の液圧系統図
【符号の説明】
【0034】
10 マスタシリンダ
15a 反力ばね
15b 反力ばね
16 ホイールシリンダ
18 リザーバ
20 モータシリンダ(ブレーキ液圧発生手段)
25a ポート
34 液圧ポンプ(ブレーキ液圧発生手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液を貯留するリザーバ(18)と、
内部に反力ばね(15a,15b)を備えてドライバーのブレーキ操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(10)と、
ブレーキ液圧により車輪を制動可能なホイールシリンダ(16)と、
電気的にブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生手段(20,34)と、
を備え、
正常時にはマスタシリンダ(10)をリザーバ(18)に連通させてブレーキ液圧発生手段(20,34)をホイールシリンダ(16)に連通させた状態で、マスタシリンダ(10)の反力ばね(15a,15b)でペダル反力を付与し、
異常時にはマスタシリンダ(10)をリザーバ(18)から遮断してホイールシリンダ(16)に連通させることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
ブレーキ液圧発生手段(20)はブレーキ液圧の発生時に閉じるポート(25a)を有しており、正常時に前記ポート(25a)が閉じることでホイールシリンダ(16)をマスタシリンダ(10)から遮断することを特徴とする、請求項1に記載のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−306221(P2006−306221A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129938(P2005−129938)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】