説明

プラスチック保持器用材料、転がり軸受用プラスチック保持器及び転がり軸受

【課題】射出成形が可能で、冷却時間を短縮できるプラスチック保持器用の成形材料を提供する。
【解決手段】転がり軸受に組み込まれるプラスチック保持器を成形するための材料であって、樹脂と、珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方とを含むことを特徴とするプラスチック保持器用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受用プラスチック保持器(以下、単に「プラスチック保持器」ともいう)及びその成形材料に関する。また、本発明は、前記プラスチック保持器を備え、例えば高温・高速オルタネータ用転がり軸受や、高速工作機械用転がり軸受のように特に高温かつ高速回転での使用に好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受では、保持器としてプラスチック製保持器が多用されている。例えば、図1は玉軸受の一例を示す断面図であるが、図示されるように、内輪11と外輪12との間に配置される複数個の転動体である玉13を、図2に斜視図を示すプラスチック製の冠型保持器14にて転動自在に保持し、更に封入グリースの漏洩や外部からの異物の侵入を防止するためのシール15を装着して構成されている。
【0003】
プラスチック製保持器は、生産性から射出成形で製造することが望ましく、樹脂と、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル及び多価アルコール化合物の高級脂肪酸部分エステルから選ばれる高級脂肪酸エステル系内部潤滑剤とを混練し、成形時の成形材料の溶融時間を短縮することにより、成形サイクルの短縮を図る等の工夫がなされている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平6−340807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、冷却時間の短縮については検討されていない。成形プロセスでは、冷却時間は、溶融時間と共に多くの時間を要しており、冷却時間の短縮は製造コストの削減に大きく寄与する。射出成形において冷却工程と溶融工程は同時に行われるが、溶融工程を短縮しても冷却工程が終了しない場合、溶融した樹脂を成形機のシリンダーで保持したまま、冷却・成形物の離型が完了するまで待機しなければならない。また、溶融した樹脂を待機している間に、酸化劣化が起こり易く、成形不良の原因にもなる。
【0006】
そこで本発明は、射出成形が可能で、冷却時間を短縮できるプラスチック保持器用の成形材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、転がり軸受に組み込まれるプラスチック保持器を成形するための材料であって、樹脂と、珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方とを含むことを特徴とするプラスチック保持器用材料を提供する。
【0008】
また、本発明は、前記プラスチック保持器用材料を射出成形してなることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器、並びに前記転がり軸受用プラスチック保持器を備えることを特徴とする転がり軸受を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチック保持器用材料に含まれる珪藻土やホワイトカーボンは、熱伝導室を高めて固化を促進させる作用があり、射出成形における冷却時間を短縮することができる。そのため、冷却工程において早期に固化し、樹脂を溶融状態で待機させることが無くなり、酸化劣化が起こり難く、成形不良も非常に低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
本発明において、樹脂はポリアミド樹脂が好ましいが、特にその種類は制限されるものではない。しかし、後述される架橋機構から、水素の引き抜きを容易にして架橋をより進行させるために、分子構造中にメチレン鎖(−(CH−)に有することが好ましく、繰り返し単位中にベンゼン環を有する芳香族ポリアミド樹脂よりは脂肪族ポリアミド樹脂の方が好ましい。具体的には、ポリアミド6(ナイロン6)、ポリアミド66(ナイロン66)、ポリアミド46(ナイロン46)、ポリアミド12(ナイロン12)、ポリアミド11(ナイロン11)、ポリアミド6−12(ナイロン6−12)等のポリアミド樹脂を好適に用いることができる。また、これらの多くは、PPS樹脂、PEEK樹脂、ポリイミドPI樹脂に比べて安価であるという利点を有する。
【0012】
上記ポリアミド樹脂には、熱伝導率を高めて固化を促進するために、珪藻土、ホワイトカーボンをそれぞれ単独で、もしくは混合して配合する。珪藻土は、熱伝導率をより高めるために、50質量%以上のSiO及び20質量%以上のCaOを含むことが好ましい。また、珪藻土の粒径は、熱伝導効率を高めるために、400〜200メッシュであることが好ましい。
【0013】
珪藻土及びホワイトカーボンの配合量は、それぞれ単独で、あるいは合計で、全体の0.1〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3質量%である。配合量が0.1質量%未満では固化促進効果が十分ではなく、5質量%を超えると固化が早すぎて成形不良を起し、得られるプラスチック保持器の機械的強度が低下する。
【0014】
また、珪藻土及びホワイトカーボンとともに、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートから選ばれる少なくとも一種を配合することが好ましい。これらは架橋助剤として作用し、配合することにより、より高温で固化するため、離型温度を高くしても寸法精度を確保できるようになる。高温で離型できることにより、生産性が高まる。
【0015】
これら架橋助剤の配合量は、それぞれ単独で、あるいは合計で、全体の0.1〜3質量%であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2質量%である。また、珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方90〜30%に対し、10〜70%が好ましい。より好ましくは、珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方70〜50%に対し、30〜50%である。尚、前記配合比は重量比である。このような配合量、配合比から逸脱すると、固化促進効果と固化の高温化とのバランスが悪くなる。尚、架橋助剤は、珪藻土やホワイトカーボンに所定量を予め吸着、混合しておき、ポリアミド樹脂と混練することにより均質なプラスチック保持器用材料が得られ、好ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂には、機械的強度の向上を目的として、ガラス繊維や炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー等の繊維状補強材を配合することが好ましい。繊維状補強材は、ポリアミド樹脂との接着性を高めたり、分散性を高めるために、カップリング剤等による表面処理が施されていてもよい。繊維状補強材の配合量は、ポリアミド樹脂の種類や繊維状補強材の種類、あるいは保持器形状等によっても異なるが、ポリアミド樹脂組成物全量に対して10〜40質量%、好ましくは15〜30質量%である。繊維状補強材の配合量が10質量%未満では、補強効果が小さく、プラスチック保持器としての実用性が低い。一方、繊維状補強材が40質量%を超える場合は、成形原料の溶融粘度が高すぎて成形性が悪くなり、複雑な形状のプラスチック保持器を精度よく成形するのが困難になる。
【0017】
また、ポリアミド樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱や光による劣化を防止するために、ヨウ化化合物等の熱安定剤、アミン化合物やフェノール化合物等の酸化防止剤、光安定化剤を添加できる。更には、固体潤滑剤、潤滑油、着色剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良剤、結晶化促進剤等を適宜添加してもよい。
【0018】
本発明の上記のプラスチック保持器用材料では架橋を加熱により行うが、ポリアミド樹脂に含まれるトリアリルイソシアヌレート等の架橋助剤の作用により、架橋が良好に進行する。架橋助剤による架橋反応は、次のような機構によるものと考えられる。即ち、先ず加熱初期において何らかのラジカルが発生し、そのラジカルが架橋助剤の炭素間二重結合に付加し、2次ラジカルを生じる。そして、この2次ラジカルが、ポリアミド樹脂のアミド結合の間に存在するメチレン水素を引き抜き、それにより発生したポリアミド樹脂の分子ラジカル同士が架橋助剤により数箇所で結合され、架橋構造が構築される。但し、このラジカルの発生自体の数が少なく、反応が進むのが遅いため、成形工程には影響が無い。
【0019】
また、このようにラジカル発生及び架橋助剤の反応が遅いことは、製造上大きな利点になる。即ち、ポリアミド樹脂と、架橋助剤を配合したポリアミド樹脂のペレットを事前に調製することができ、これらの保管が可能となり、実際の製造において、事前に調製したペレットを成形機に投入すればプラスチック保持器の成形を即時開始することができる。これに対し、架橋剤として一般的な有機過酸化物は、単独でもポリアミド樹脂のアミド結合の間に存在するメチレン水素を引き抜いて架橋が進行するため、成形直前にポリアミド樹脂に有機過酸化物を添加して混練する必要があり、製造開始毎に成形原料の調製が必要になる。
【0020】
本発明のプラスチック保持器を得るには、ポリアミド樹脂に架橋助剤を配合したペレットと、繊維状補強材及びその他の添加剤を、好ましくは射出成形機に投入し、この射出成形機の加熱部にて溶融混練を行う。この間に上記の架橋反応が進行し、所定の保持器形状(例えば、図2に示した冠型)に成形した時点では架橋物としてプラスチック保持器が得られる。離型後、ポリアミド樹脂の融点以下の温度、70〜290℃、好ましくは70〜200℃にて加熱処理を行い、架橋を更に進行させる。尚、この加熱処理は、酸化劣化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気もしくは真空下で行うことが望ましい。また、加熱処理後に直ちに空気中に出さず、同一雰囲気で室温程度にまで徐冷することにより酸化劣化を防止できる。また、成形後に電子線を照射して架橋を進行させてもよい。また、電子線照射と加熱処理を併用してもよい。
【0021】
尚、一般的な射出成形機では、数平均分子量が50,000程度までの樹脂に対しては精度よく安定して成形することできる。そこで、本発明においても、上記のポリアミド樹脂として、数平均分子量が30,000以下、好ましくは10,000〜20,000のものを用いる。このような比較的低分子量のポリアミド樹脂を用いることにより、従来通りに射出成形を実施でき、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0022】
また、ポリアミド樹脂は、数平均分子量100,000前後を境にして剛性に大きな差が出てくる。そこで本発明においても、架橋後のポリアミド樹脂の数平均分子量が100,000以上、好ましくは300,000以上、特に好ましくは500,000以上になるように架橋条件を調整する。
【0023】
このようにして得られるプラスチック保持器は、母材であるポリアミド樹脂が架橋されて高分子量化(数平均分子量100,000以上)しており、従来よりも優れた剛性や耐摩耗性を有する、また、高度に架橋されていることから、分子間の広がりが抑えられるため、吸水による膨張も抑制され、寸法変化も小さくなる。
【0024】
また、上記のプラスチック保持器を組み込むことにより、高温や高速回転条件下でも期間の使用に耐えることができ、例えばオルタネータや工作機械用として好適な転がり軸受となる。本発明は、上記のプラスチック保持器を組み込んだ転がり軸受も含む。
【0025】
尚、転がり軸受としては、図1に示した玉軸受の他に、例えば図3に示すようなアンギュラ玉軸受とすることもでき、保持器4も図4に示す形状とすることができる。図3において、符号1は内輪、2は外輪、3は玉、4は保持器であり、図4における符号41は玉3を保持するためにポケットである。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1〜5、比較例1〜2)
ポリアミド46樹脂(DSM製「スタニールTW 341」;ヨウ化銅系熱安定剤含有)のペレットに、珪藻土(日本化成(株)製;珪藻土60質量%とトリアリルイソシヌレート40質量%との混合物)を表1に示す配合比で混合し、2軸押出し機に投入して押出し混練を行い、ペレットを得た。次いで、このペレットをインラインスクリュー式射出成形機を用いて図2に示すような冠型保持器(6909相当品)を成形した。そして、成形不良品の発生頻度及び成形時間の短縮率を求めた。成形不良品とは、欠損、ウエルドの接合不慮、反り、割れが発生した成形品であり、成形時間は比較例1の成形時間からの短縮率(%)である。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例6〜10、比較例3〜4)
ホリアミド46樹脂をポリアミド66樹脂(UBE(株)製「2020B」;ヨウ化銅系熱安定剤含有)に変えて上記と同様の試験を行った。結果を表2に示すが、成形時間の短縮率は比較例3の成形時間からの短縮率である。
【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2から、本発明に従い、珪藻土と架橋助剤とを規定量配合することにより、成形不良を起こすことなく、短時間で射出成形できることがわかる。尚、比較例2及び比較例4では、射出成形ができなかった。
【0032】
また、各冠型保持器について、成形後に電子線を照射して2次架橋を行った後、引張居度試験を行った。即ち、図5に示す円環引張治具に上記で得た各冠型保持器40を、そのゲート部40gとウエルド40wが水平位置になるようにセットし、島津製作所(株)製引張試験機(オートグラフAG−10KNG)を用いて、150℃にて10mm/minの引張速度で円環引張試験を行った。
【0033】
その結果、実施例1〜3の保持器は比較例1の保持器と同等の引張強度を有しているが、実施例4〜5の保持器では若干強度が低いものの、実用上問題のない程度であった。また、実施例6〜8の保持器は比較例3の保持器と同等の引張強度を有しているが、実施例9〜10の保持器では若干強度が低いものの、実用上問題のない程度であった。このことから、珪藻土の配合慮は、0.6質量%以下がより好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】玉軸受の一例を示す断面図である。
【図2】冠型保持器を示す斜視図である。
【図3】アンギュラ玉軸受の一例を示す断面図である。
【図4】アンギュラ玉軸受用保持器を示す斜視図である。
【図5】円環引張治具を示す上面図である。
【符号の説明】
【0035】
11 内輪
12 外輪
13 玉
14 冠型保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受に組み込まれるプラスチック保持器を成形するための材料であって、
樹脂と、珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方とを含むことを特徴とするプラスチック保持器用材料。
【請求項2】
前記珪藻土が、50質量%以上のSiOと、20質量%以上のCaOとを含むことを特徴とする請求項1記載のプラスチック保持器用材料。
【請求項3】
前記珪藻土の粒径が400〜200メッシュであることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック保持器用材料。
【請求項4】
重量比で、前記珪藻土及びホワイトカーボンの少なくとも一方を90〜30%に対し、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートから選ばれる少なくとも一種を10〜70%の割合で含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のプラスチック保持器用材料。
【請求項5】
繊維状補強材を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のプラスチック保持器用材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のプラスチック保持器用材料を射出成形してなることを特徴とする転がり軸受用プラスチック保持器。
【請求項7】
請求項6記載の転がり軸受用プラスチック保持器を備えることを特徴とする転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−197137(P2009−197137A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40427(P2008−40427)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】