説明

プラスチック製印刷物検査装置および検査方法

【課題】検査対象のプラスチック製印刷物の近赤外波長域での分光特性に応じて、吸収となる波長の画像を限定的に取得することにより、透明部分と穴や欠損部分を確実に分離して正確な欠損検査が可能となるプラスチック製印刷物検査装置を提供する。
【解決手段】プラスチック製印刷物の一方の面に対し投光部により近赤外波長域の光を照射し、当該プラスチック製印刷物の他方の面に対し上記投光部と相対向して配設された近赤外波長域に感度を有する画像取得部により当該プラスチック製印刷物からの透過光を電気信号に変換することにより近赤外波長域の透過画像を取得し、この取得された透過画像に基づき当該プラスチック製印刷物の外形を求め、この求められた外形範囲内の透過画像により当該プラスチック製印刷物の欠損量を求め、この求められた欠損量とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより当該プラスチック製印刷物の最終的な欠損判定を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、有価証券等のプラスチック製印刷物の疲弊による欠損や真偽を検査するプラスチック製印刷物検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有価証券等の印刷物の検査装置において、穴や欠損等の疲弊度の検査は、可視域あるいは広域の近赤外波長域の透過光の射影画像を利用し、シート材部分が吸収部(暗部)に対して、穴や欠損部分が透過部(明部)となることにより検出する技術が知られている。また、真偽の検査では、可視域あるいは広域の近赤外波長域の光に対して、反射あるいは透過の色、レベルや模様を取得したり、あるいは、磁気などの光以外の物理量を取得することにより検査を行なう技術が知られている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−9694号公報
【特許文献2】特開平6−266925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近、紙幣、チケット、その他の有価証券等の印刷物で、紙の代りにプラスチック製シートを利用することが進んできている。これら有価証券等を偽造する場合に、母材となるプラスチック製シートが紙に比較して入手や印刷の面で容易ではなく、また、印刷模様中に透明部分を備えておくことで、紙での複製ができなくなるため、偽造を防止する効果があり、さらに、耐久性やリサイクル性もある、といったことが特長となっている。
【0004】
このような有価証券等のプラスチック製印刷物では、偽造防止のために透明な部分が設けられていることがあり、そのため、従来の印刷物の検査装置では、その透明部分が穴や欠損と同様な透過部(明部)として検出されてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、検査対象のプラスチック製印刷物の近赤外波長域での分光特性に応じて、吸収となる波長の画像を限定的に取得することにより、透明部分と穴や欠損部分を確実に分離して正確な欠損検査が可能となるプラスチック製印刷物検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、近赤外波長域での分光特性に応じて、吸収ピーク波長、透過ピーク波長等のそのプラスチック製印刷物を示す特徴的な波長の信号を限定的に取得して、プラスチック製印刷物そのものの特徴を捉えることにより、より精度の高い真偽検査が可能となるプラスチック製印刷物検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチック製印刷物検査装置は、プラスチック製印刷物の一方の面に対し近赤外波長域の光を照射する投光手段と、前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設され、かつ、近赤外波長域に感度を有し、前記プラスチック製印刷物からの透過光を電気信号に変換することにより近赤外波長域の透過画像を取得する画像取得手段と、この画像取得手段により取得された透過画像に基づき前記プラスチック製印刷物の外形を求める外形演算手段と、この外形演算手段により求められた外形範囲内の透過画像により前記プラスチック製印刷物の欠損量を求める欠損量演算手段と、この欠損量演算手段により求められた欠損量とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な欠損判定を行なう判定手段とを具備している。
【0008】
また、本発明のプラスチック製印刷物検査装置は、プラスチック製印刷物の一方の面に対し近赤外波長域の光を照射する投光手段と、前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設され、前記プラスチック製印刷物から得られる当該プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて決定される少なくとも2種以上の複数の波長域の透過光をそれぞれ電気信号に変換することにより前記複数の波長域の透過信号をそれぞれ限定的に取得する信号取得手段と、この信号取得手段により取得された複数の波長域の透過信号に対して取得した各波長域の透過信号量とあらかじめ設定される各波長域の基準値との類似度を求める類似度演算手段と、この類似度演算手段により求められた類似度とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な真偽判定を行なう判定手段とを具備している。
【0009】
また、本発明のプラスチック製印刷物検査方法は、プラスチック製印刷物の一方の面に対し投光手段により近赤外波長域の光を照射する第1のステップと、前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設された近赤外波長域に感度を有する画像取得手段により前記プラスチック製印刷物からの透過光を電気信号に変換することにより近赤外波長域の透過画像を取得する第2のステップと、この第2のステップにより前記画像取得手段から取得された透過画像に基づき前記プラスチック製印刷物の外形を求める第3のステップと、この第3のステップにより求められた外形範囲内の透過画像により前記プラスチック製印刷物の欠損量を求める第4のステップと、この第4のステップにより求められた欠損量とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な欠損判定を行なう第5のステップとを具備している。
【0010】
また、本発明のプラスチック製印刷物検査方法は、プラスチック製印刷物の一方の面に対し投光手段により近赤外波長域の光を照射する第1のステップと、前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設された信号取得手段により、前記プラスチック製印刷物から得られる当該プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて決定される少なくとも2種以上の複数の波長域の透過光をそれぞれ電気信号に変換することにより前記複数の波長域の透過信号をそれぞれ限定的に取得する第2のステップと、この第2のステップにより前記信号取得手段から取得された複数の波長域の透過信号に対して取得した各波長域の透過信号量とあらかじめ設定される各波長域の基準値との類似度を求める第3のステップと、この第3のステップにより求められた類似度とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な真偽判定を行なう第4のステップとを具備している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検査対象のプラスチック製印刷物の近赤外波長域での分光特性に応じて、吸収となる波長の画像を限定的に取得することにより、透明部分と穴や欠損部分を確実に分離して正確な欠損検査が可能となるプラスチック製印刷物検査装置および検査方法を提供できる。
【0012】
また、本発明によれば、近赤外波長域での分光特性に応じて、吸収ピーク波長、透過ピーク波長等のそのプラスチック製印刷物を示す特徴的な波長の信号を限定的に取得して、プラスチック製印刷物そのものの特徴を捉えることにより、より精度の高い真偽検査が可能となるプラスチック製印刷物検査装置および検査方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る検査対象であるプラスチック製印刷物10を模式的に示すものである。プラスチック製印刷物10は、プラスチック製シートによって構成されていて、たとえば、その全表面に印刷図柄Pを有するとともに、この印刷図柄P中に円状の透明部Aを有し、さらに、繰り返し使用の疲弊により、穴Bや角の欠損部Cが生じているものとする。プラスチック製シートは、そのプラスチック材料の種類により、近赤外波長域において例えば図2に示すような吸光度の分光特性を有しているものとする。
【0014】
図3は、第1の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を模式的に示すものである。プラスチック製印刷物10は、搬送手段としての搬送部20により図示矢印方向に1枚ずつ順次搬送され、読取位置Dに順次送出される。投光手段としての投光部11と画像取得手段としての画像取得部12は、読取位置Dに対して、搬送部20を間に介在して相対向配設されている。投光部11は読取位置Dにおいてプラスチック製印刷物10の一方の面に光を照射し、画像取得部12は読取位置Dでのプラスチック製印刷物10の透過光を受光して電気信号に変換することにより透過画像を取得する。
【0015】
画像取得部12は、たとえば、プラスチック製印刷物10の搬送方向に対して直交方向にライン状に配設された複数の受光素子、あるいはラインセンサにより構成されていて、ラインごとの電気信号をプラスチック製印刷物10の搬送に同期して逐次取得することにより2次元の信号(透過画像)を得るようになっている。
【0016】
図3の場合、投光部11は、近赤外波長域を含む光源により構成され、画像取得部12は、近赤外波長域に感度を有するセンサ13aと、その受光面側に配設された任意の近赤外波長域の光を限定的に透過するフィルタ13bとで構成される。あるいは、投光部11は、近赤外波長域を含む光源と、その照射側に配設された任意の近赤外波長域の光を限定的に透過するフィルタとで構成され、画像取得部12は、近赤外波長域に感度を有するセンサで構成されてもよい。このとき、フィルタ13bの特性は、プラスチック製印刷物10の母材の近赤外波長域での分光特性に応じて吸光度の高い波長、たとえば、図2の例では波長λaの光を限定的に透過する特性を持つものとする。
【0017】
このような光学系の構成により、吸光度の高い波長λaの光での透過信号を得ることにより、図4に示すような穴部Bおよび欠損部Cのみが透過部(明部)となり、透明部Aは他の母材と同様な吸収部(暗部)となる透過画像が得られる。
なお、図5は、通常の可視光で取得した透過画像を示しており、透明部Aも穴部Bや欠損部Cと同様に透過部(明部)となり、両者に差がないことがわかる。
【0018】
画像取得部12の出力は、外形演算手段としての外形推定演算部30に送られる。外形推定演算部30は、画像取得部12で取得された透過画像に基づきプラスチック製印刷物10の外形を推定演算する処理を行なう。たとえば、図6に示すように、四方での外廓となる直線a,b,c,dを導出し、これら直線a,b,c,dにより囲まれる矩形を推定外形とする。
【0019】
外形推定演算部30の出力は、欠損量演算手段としての欠損量演算部31に送られる。欠損量演算部31は、たとえば、外形推定演算部30で推定された外形範囲内の明画素数を計数し、その計数値を欠損量とする。
【0020】
欠損量演算部31の出力は、判定手段としての最終判定部40に送られる。最終判定部40は、欠損量演算部31により求められた欠損量とあらかじめ設定される欠損券として判定するための基準値とを比較することにより当該プラスチック製印刷物10の最終的な欠損判定、たとえば、当該プラスチック製印刷物10を廃棄とするか否かを判定する。
【0021】
図7は、第2の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を模式的に示すものである。プラスチック製印刷物10は、搬送手段としての搬送部20により図示矢印方向に1枚ずつ順次搬送され、読取位置Dに順次送出される。投光手段としての投光部11は、プラスチック製印刷物10の読取位置Dに対して一方の面側に配設されていて、読取位置Dにおいてプラスチック製印刷物10の一方の面に光を照射している。
【0022】
信号取得手段としての信号取得部14a〜14cは、プラスチック製印刷物10の読取位置Dに対して対称面側に配設されている。すなわち、投光部11からの光路上に配設される第1のハーフミラー16により反射分岐される第1の光路では、第1波長(λa)透過フィルタ15aを介して第1波長(λa)信号取得部14aが、透過分岐される光路上に続いて配設される第2のハーフミラー17により反射分岐される第2の光路では、第2波長(λb)透過フィルタ15bを介して第2波長(λb)信号取得部14bが、透過分岐される光路の末端に第3波長(λc)透過フィルタ15cを介して第3波長(λc)信号取得部14cが、それぞれ配設される。
【0023】
透過フィルタ15a〜15cの各透過波長は、たとえば、図2で示されるような波長λa,λb,λcであり、その検査対象のプラスチック製印刷物10の母材によって決まる特性上の吸収ピーク波長、透過ピーク波長などの特徴的な波長を選んで決定される。
【0024】
なお、本実施の形態では、分岐により3波長の透過信号を取得する構成としているが、取得する波長は2種あるいはそれ以上でもよい。一般に、取得する波長数が多ければ検査精度が向上するが、構成が複雑かつ高価で、さらに実装には高い技術が必要となり、実施条件により決定される。
【0025】
信号取得部14a〜14cの各出力は、類似度演算手段としての類似量演算部32にそれぞれ送られる。類似量演算部32は、真正なプラスチック製印刷物との類似性を示す特徴量(類似度)を演算する。すなわち、たとえば、信号取得部14a〜14cで得られた各波長の透過信号量をxλa,λb,λcとし、あらかじめ取得した真正なプラスチック製印刷物の各波長の透過信号量(基準値)をrλa,λb,λcとすると、下記数1に示すような演算を行なうことにより相違度Dを、下記数2に示すような演算を行なうことにより類似度Sを、下記数3に示すような演算を行なうことにより相関Rを、それぞれ求める。
【数1】

【0026】
【数2】

【0027】
【数3】

【0028】
なお、n種の波長の透過信号量を取得する系では、取得する透過信号量をxλ1,…,xλi,…,xλn、あらかじめ取得した真正なプラスチック製印刷物の各波長の透過信号量をrλ1,…,rλi,…,rλnとしたとき、相違度Dnの一般式として下記数4が、類似度Snの一般式として下記数5が、相関Rnの一般式として下記数6が、それぞれ得られる。
【数4】

【0029】
【数5】

【0030】
【数6】

【0031】
類似量演算部32で求められた特徴量は、判定手段としての最終判定部41に送られる。最終判定部41は、類似量演算部32で求められた特徴量と、あらかじめ真正なデータに基づき求められた同特徴量の基準値とを比較照合することにより適正性を判定し、最終的な当該プラスチック製印刷物10に対する真偽判定を行なう。
【0032】
なお、上記各類似量演算の処理は実施の一形態であり、この例により何ら限定されるものではなく、また、各演算式も説明のための一般式であり、この演算式により何ら限定されるものではない。
【0033】
図8は、第3の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を模式的に示すものである。プラスチック製印刷物10は、搬送手段としての搬送部20により図示矢印方向に1枚ずつ順次搬送され、読取位置Dに順次送出される。投光手段としての投光部11は、プラスチック製印刷物10の読取位置Dに対して一方の面側に配設されていて、読取位置Dにおいてプラスチック製印刷物10の一方の面に光を照射している。
【0034】
信号取得手段としての信号取得部18は、プラスチック製印刷物10の読取位置Dに対して対称面側に配設され、その光路上にチョップフィルタ19が配設されている。チョップフィルタ19は、図9に示すように、領域によりそれぞれ異なる透過波長特性を持ち、図2で示されるような波長λa,λb,λcで、その検査対象のプラスチック製印刷物10の母材によって決まる特性上の特徴的な波長を選んで決定される。
【0035】
本実施の形態では、チョップフィルタ19は、たとえば、図9(a)に示すように、それぞれが均等な面積を有する第1波長(λa)選択フィルタ領域E、第2波長(λb)選択フィルタ領域F、第3波長(λc)選択フィルタ領域Gを有する円盤状フィルタである。
【0036】
チョップフィルタ19は、投光部11からの光路が各領域E,F,Gを順次通過するよう回転されるもので、信号取得部18ではその回転と時間的に同期してその透過信号を取得することにより、3種の異なる波長の透過信号を取得する。
【0037】
なお、本実施の形態では、3つの領域E,F,Gで3種の異なる波長の透過信号を取得する構成としているが、取得する波長は、2種あるいはそれ以上でもよい。たとえば、図9(b)に示すような第1波長(λa)選択フィルタ領域E、第2波長(λb)選択フィルタ領域Fを有するフィルタを用いる場合、投光部11からの光路が各領域E,Fを順次通過するよう移動させればよい。
一般に、取得する波長数が多ければ検査精度が向上するが、構成が複雑かつ高価で、さらに実装には高い技術が必要となり、実施条件により決定される。
【0038】
以下、類似量演算部32および最終判定部41では、前記第2の実施の形態と同様の処理を行ない、真偽判定を行なう。
【0039】
次に、第4の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置について説明する。
第4の実施の形態は、前記第2、第3の実施の形態(図7、図8)において、非検査時、つまり検査前あるいは検査と検査との間のときに、基準材シート50を検査時と同様に搬送して透過信号を取得する。ここで、基準材シート50は、プラスチック製印刷物10と同一のプラスチック材料、あるいは他のプラスチック材料であってもよい。
【0040】
こうして取得した非検査時の基準材シート50の透過信号に基づき信号取得部14a〜14cの出力信号を補正するもので、以下、その補正を行なう具体的な手段について説明する。
【0041】
まず、第1の例として、図7のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cは、たとえば、図10に示すように、透過光を受光して電気信号に変換する受光部60、受光部60から得られる電気信号を増幅する増幅部61、および、増幅部61の増幅率(G)を制御する増幅率制御部62により構成される。
【0042】
増幅率制御部62は、非検査時に取得される基準材シート50の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0043】
次に、第2の例として、図8のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cは、たとえば、図10に示すように、透過光を受光して電気信号に変換する受光部60、受光部60から得られる電気信号を増幅する増幅部61、および、増幅部61の増幅率を制御する増幅率制御部62により構成される。
【0044】
増幅率制御部62は、チョップフィルタ19の移動に同期して得られる各波長の透過信号に対して、あらかじめ決定されている任意の1つの波長について、非検査時に取得される基準材シート50の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0045】
あるいは、増幅率制御部62は、チョップフィルタ19の移動に同期して得られる各波長の透過信号に対して、非検査時に取得される基準材シート50の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を各波長ごとに決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、チョップフィルタ19の移動に同期して各波長ごとに増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0046】
次に、第3の例として、図7、図8のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cまたは信号取得部18で得られた各波長の透過信号量xλiについて、類似量演算部32では演算の前処理として、下記数7に示すように補正係数gλiを乗算し、補正後の透過信号量としてx’λiを得る。その上で前述の類似量の演算を実施する。ここで、補正係数gλiは、下記数8に示すように、非検査時に取得される基準材シート50の透過信号量xrλiがあらかじめ設定される基準値tλiになるように決定される。
【数7】

【0047】
【数8】

【0048】
このように、非検査時に基準材シート50の透過信号を取得し、その透過信号量に基づき信号取得部14a〜14c(信号取得部18)の出力信号を補正することにより、温度や経年の変動などに対して補正することができ、検査精度の向上を図ることができる。
【0049】
次に、第5の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置について説明する。
第5の実施の形態は、前記第2、第3の実施の形態(図7、図8)において、扁平形状の基準材51を読取位置Dの直前あるいは直後の光路上に出したり外したりする移動機構を設け、非検査時、つまり検査前あるいは検査と検査との間のときに、基準材51を光路上に移動させることで基準材51の透過信号を取得する。ここで、基準材51は、プラスチック製印刷物10と同一のプラスチック材料、あるいは他のプラスチック材料であってもよい。
【0050】
こうして取得した非検査時の基準材51の透過信号に基づき信号取得部14a〜14cの出力信号を補正するもので、以下、その補正を行なう具体的な手段について説明する。
【0051】
まず、第1の例として、図7のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cは、たとえば、図10に示すように、透過光を受光して電気信号に変換する受光部60、受光部60から得られる電気信号を増幅する増幅部61、および、増幅部61の増幅率を制御する増幅率制御部62により構成される。
【0052】
増幅率制御部62は、非検査時に取得される基準材51の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0053】
次に、第2の例として、図8のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cは、たとえば、図10に示すように、透過光を受光して電気信号に変換する受光部60、受光部60から得られる電気信号を増幅する増幅部61、および、増幅部61の増幅率(G)を制御する増幅率制御部62により構成される。
【0054】
増幅率制御部62は、チョップフィルタ19の移動に同期して得られる各波長の透過信号に対して、あらかじめ決定されている任意の1つの波長について、非検査時に取得される基準材51の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0055】
あるいは、増幅率制御部62は、チョップフィルタ19の移動に同期して得られる各波長の透過信号に対して、非検査時に取得される基準材51の透過信号量があらかじめ設定される基準値になるように増幅部61の増幅率を各波長ごとに決定し、検査時にはその決定された増幅率を保持して、チョップフィルタ19の移動に同期して各波長ごとに増幅部61の増幅率を制御する機能を有している。
【0056】
次に、第3の例として、図7、図8のプラスチック製印刷物検査装置において、信号取得部14a〜14cまたは信号取得部18で得られた各波長の透過信号量xλiについて、類似量演算部32では演算の前処理として、下記数7に示すように補正係数gλiを乗算し、補正後の透過信号量としてx’λiを得る。その上で前述の類似量の演算を実施する。ここで、補正係数gλiは、下記数8に示すように、非検査時に取得される基準材51の透過信号量xtλiがあらかじめ設定される基準値tλiになるように決定される。
【数9】

【0057】
【数10】

【0058】
このように、非検査時に基準材51の透過信号を取得し、その透過信号量に基づき信号取得部14a〜14c(信号取得部18)の出力信号を補正することにより、温度や経年の変動などに対して補正することができ、検査精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態に係る検査対象であるプラスチック製印刷物を概略的に示す模式図。
【図2】プラスチック製印刷物の母材の赤外領域での分光特性例を示す特性図。
【図3】第1の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を概略的に示す模式図。
【図4】本発明による透過画像例を示す模式図。
【図5】従来方式による透過画像例を示す模式図。
【図6】第1の実施の形態における外形推定演算の説明図。
【図7】第2の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を概略的に示す模式図。
【図8】第3の実施の形態に係るプラスチック製印刷物検査装置の構成を概略的に示す模式図。
【図9】第3の実施の形態におけるチョップフィルタの説明図。
【図10】補正機能を有する信号取得部の構成例を示すブロック図。
【符号の説明】
【0060】
10…プラスチック製印刷物、A…透明部、B…穴部、C…欠損部、P…印刷図柄、11…投光部(投光手段)、D…読取位置、12…画像取得部(画像取得手段)、13…波長選択フィルタ、14a…第1波長(λa)信号取得部(信号取得手段)、14b…第2波長(λb)信号取得部(信号取得手段)、14c…第3波長(λc)信号取得部(信号取得手段)、15a…第1波長(λa)透過フィルタ、15b…第2波長(λb)透過フィルタ、15c…第3波長(λc)透過フィルタ、16…第1のハーフミラー、17…第2のハーフミラー、18…信号取得部(信号取得手段)、19…チョップフィルタ、20…搬送部(搬送手段)、30…外形推定演算部(外形演算手段)、31…欠損量演算部(欠損量演算手段)、32…類似量演算部(類似度演算手段)、40,41…最終判定部(判定手段)、50…基準材シート、51…基準材、60…受光部、61…増幅部、62…増幅率制御部、E…第1波長(λa)選択フィルタ領域、F…第2波長(λb)選択フィルタ領域、G…第3波長(λc)選択フィルタ領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製印刷物の一方の面に対し近赤外波長域の光を照射する投光手段と、
前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設され、かつ、近赤外波長域に感度を有し、前記プラスチック製印刷物からの透過光を電気信号に変換することにより近赤外波長域の透過画像を取得する画像取得手段と、
この画像取得手段により取得された透過画像に基づき前記プラスチック製印刷物の外形を求める外形演算手段と、
この外形演算手段により求められた外形範囲内の透過画像により前記プラスチック製印刷物の欠損量を求める欠損量演算手段と、
この欠損量演算手段により求められた欠損量とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な欠損判定を行なう判定手段と、
を具備したことを特徴とするプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項2】
前記投光手段は、前記プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて吸光度の高い波長域の光を限定的に投光することを特徴とする請求項1記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項3】
前記画像取得手段は、前記プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて吸光度の高い波長域の透過画像を限定的に取得することを特徴とする請求項1記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項4】
前記欠損量演算手段は、前記外形演算手段により求められた外形範囲内における透過画像の明画素数を計数し、その計数値を前記プラスチック製印刷物の欠損量とすることを特徴とする請求項1記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項5】
前記プラスチック製印刷物を読取位置に搬送する搬送手段を有し、
前記画像取得手段は、前記読取位置において前記プラスチック製印刷物の搬送方向に対して直交方向にライン状に配設された複数の受光素子からなり、ラインごとの電気信号を前記プラスチック製印刷物の搬送に同期して逐次取得することにより2次元の信号を得ることを特徴とする請求項1記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項6】
プラスチック製印刷物の一方の面に対し近赤外波長域の光を照射する投光手段と、
前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設され、前記プラスチック製印刷物から得られる当該プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて決定される少なくとも2種以上の複数の波長域の透過光をそれぞれ電気信号に変換することにより前記複数の波長域の透過信号をそれぞれ限定的に取得する信号取得手段と、
この信号取得手段により取得された複数の波長域の透過信号に対して取得した各波長域の透過信号量とあらかじめ設定される各波長域の基準値との類似度を求める類似度演算手段と、
この類似度演算手段により求められた類似度とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な真偽判定を行なう判定手段と、
を具備したことを特徴とするプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項7】
前記信号取得手段は、
前記投光手段からの光路上に設けられた1つあるいは複数のハーフミラーと、
このハーフミラーに対して、それぞれの反射光路と最終段のハーフミラーの透過光路に配設され、前記プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて決定されるそれぞれ異なる波長域の光を限定的に透過するフィルタと、
このフィルタを介して異なる波長域の透過信号をそれぞれ取得する受光手段と、
を具備したことを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項8】
前記信号取得手段は、
前記投光手段からの光路上に配設され、光透過特性が異なる複数の領域を有するフィルタと、
このフィルタを介してその透過信号を取得する受光手段とを有し、
前記投光手段からの光路が前記フィルタの各領域を順次通るよう、前記フィルタを移動あるいは回転させ、それと同期して前記受光手段から時分割に信号を取得することにより、異なる波長域の透過信号をそれぞれ取得することを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項9】
非検査時に前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路上に基準材シートを介在させることで、前記プラスチック製印刷物の場合と同様の透過信号を前記信号取得手段から取得する手段と、
この手段により取得された前記基準材シートからの透過信号に基づき前記信号取得手段の出力信号を補正する補正手段と、
をさらに具備したことを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項10】
非検査時に前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路上に基準材シートを介在させることで、前記プラスチック製印刷物の場合と同様の透過信号を前記信号取得手段から取得する手段と、
この手段により取得された前記基準材シートからの透過信号に基づき前記類似度演算手段の演算内容を補正する補正手段と、
をさらに具備したことを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項11】
前記基準材シートは、前記プラスチック製印刷物と同一材料であることを特徴とする請求項9または請求項10記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項12】
検査時には前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路外に退避している基準材を非検査時に前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路上に移動させることで、前記プラスチック製印刷物の場合と同様の透過信号を前記信号取得手段から取得する手段と、
この手段により前記信号取得手段から取得された前記基準材からの透過信号に基づき前記信号取得手段の出力信号を補正する補正手段と、
をさらに具備したことを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項13】
検査時には前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路外に退避している基準材を非検査時に前記投光手段と前記信号取得手段との間の光路上に移動させることで、前記プラスチック製印刷物の場合と同様の透過信号を前記信号取得手段から取得する手段と、
この手段により前記信号取得手段から取得された前記基準材シートからの透過信号に基づき前記類似度演算手段の演算内容を補正する補正手段と、
をさらに具備したことを特徴とする請求項6記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項14】
前記基準材は、前記プラスチック製印刷物と同一材料であることを特徴とする請求項12または請求項13記載のプラスチック製印刷物検査装置。
【請求項15】
プラスチック製印刷物の一方の面に対し投光手段により近赤外波長域の光を照射する第1のステップと、
前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設された近赤外波長域に感度を有する画像取得手段により前記プラスチック製印刷物からの透過光を電気信号に変換することにより近赤外波長域の透過画像を取得する第2のステップと、
この第2のステップにより前記画像取得手段から取得された透過画像に基づき前記プラスチック製印刷物の外形を求める第3のステップと、
この第3のステップにより求められた外形範囲内の透過画像により前記プラスチック製印刷物の欠損量を求める第4のステップと、
この第4のステップにより求められた欠損量とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な欠損判定を行なう第5のステップと、
を具備したことを特徴とするプラスチック製印刷物検査方法。
【請求項16】
プラスチック製印刷物の一方の面に対し投光手段により近赤外波長域の光を照射する第1のステップと、
前記プラスチック製印刷物の他方の面に対し前記投光手段と相対向して配設された信号取得手段により、前記プラスチック製印刷物から得られる当該プラスチック製印刷物の近赤外波長域での吸光度の分光特性に応じて決定される少なくとも2種以上の複数の波長域の透過光をそれぞれ電気信号に変換することにより前記複数の波長域の透過信号をそれぞれ限定的に取得する第2のステップと、
この第2のステップにより前記信号取得手段から取得された複数の波長域の透過信号に対して取得した各波長域の透過信号量とあらかじめ設定される各波長域の基準値との類似度を求める第3のステップと、
この第3のステップにより求められた類似度とあらかじめ設定される基準値とを比較することにより前記プラスチック製印刷物の最終的な真偽判定を行なう第4のステップと、
を具備したことを特徴とするプラスチック製印刷物検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−89385(P2008−89385A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269857(P2006−269857)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】