説明

プラズマ処理方法

【課題】本発明は、堆積性のガスを用いたプラズマ処理において、被処理体の処理枚数の増加による異物を抑制できるプラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】本発明は、処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行うプラズマ処理方法において、前記被処理体を前記プラズマに曝す第一の期間と、前記被処理体を前記プラズマに曝し当該第一の期間よりも前記被処理体に対するエッチングレートの低い第二の期間とを繰り返すことにより、前記処理室内壁面への堆積膜がアモルファスになるエッチング条件で前記被処理体をエッチングすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法に係り、特に異物を抑制するプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高微細化,複雑化した半導体デバイスを製造するためには、被エッチング材料である膜を高選択に、かつ垂直にプラズマエッチングする技術が必要とされる。その一つとして、下地やマスクの材料として用いられる酸化シリコン膜(SiO2)に対して窒化シリコン膜(Si34)を高選択かつ垂直にプラズマエッチングすることが重要課題となっている。
【0003】
この課題を解決する技術としては、特許文献1にCH3FやCH22などC,H,FからなりF対Hの比が2以下になるようなガスを用いて、窒化シリコン膜を酸化シリコン膜に対して高選択比でエッチングする方法が開示されている。また、特許文献2には、窒化シリコンエッチング中にウェハバイアス電力値を上下させ選択性を上げる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−115232号公報
【特許文献2】特開平6−267895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術では、高選択性と垂直性の高い形状を両立しているが、CH3FガスやCH22ガスのプラズマを用いるため、堆積性が強いカーボンを含む反応生成物を多く発生させる。このため、プラズマ処理室の内壁に多くのカーボン系の反応生成物が堆積し、ある程度の枚数を処理すると堆積膜が剥がれ、それが異物としてウェハ上に落下する。このウェハ上に落下した異物により、エッチング加工の不良が発生する。
【0006】
また、上記の課題は、CH3FガスやCH22ガスのプラズマを用いたエッチングに限られたことではなく、堆積性のガスを用いたプラズマエッチングでも共通の課題である。
【0007】
このため、本発明は、堆積性のガスを用いたプラズマ処理において、被処理体の処理枚数の増加による異物を抑制できるプラズマ処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行うプラズマ処理方法において、前記被処理体を前記プラズマに曝す第一の期間と、前記被処理体を前記プラズマに曝し当該第一の期間よりも前記被処理体に対するエッチングレートの低い第二の期間とを繰り返すことにより、前記処理室内壁面への堆積膜がアモルファスになるエッチング条件で前記被処理体をエッチングすることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行う間に前記処理室内壁面への堆積を抑制するプラズマ処理方法において、前記高周波電力を時間変調し間欠的に前記被処理体に印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプラズマ処理方法により、堆積性のガスを用いたプラズマ処理において、被処理体の処理枚数の増加による異物を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施するプラズマエッチング装置の概略断面図である。
【図2】本発明のプラズマ処理を示すフロー図である。
【図3】プラズマ処理方法の違いによる反応生成物の堆積状態を示す図である。
【図4】実施例で用いられたウェハの膜構造を示す図である。
【図5】窒化シリコン膜のエッチング速度の処理枚数依存性を示す図である。
【図6】任意の第一の期間の高周波バイアス電力に対する処理枚数の増加による異物の抑制が可能なデューティー比の範囲を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に本発明のプラズマ処理方法を実施するためのプラズマエッチング装置の一例について説明する。図1は、本実施例で使用したプラズマエッチング装置の概略断面図である。本実施例のプラズマエッチング装置は、被処理体であるウェハ10を載置する試料台1と、試料台1を内部に設けた処理室2と、処理室2を支える架台3と、試料台1に対向し、マイクロ波を発振するマグネトロン6と、マグネトロン6から発振されたマイクロ波を処理室2に伝播させる導波管5と、導波管5を伝播したマイクロ波を透過させる誘電体の天板4と、処理室2の外側に設けられ、静磁場を発生させるソレノイドコイル7と、試料台1に高周波電力を印加する高周波電源9と、処理室2内を所定の圧力に制御する排気手段(図示せず)とを備えたマイクロ波を用いたECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマエッチング装置である。
【0013】
高周波電源9は、連続的な高周波電力または、時間変調された間欠的な高周波電力のいずれかを試料台1に印加することができる。また、直流電源8より直流電圧を試料台1に印加することによって、試料台1の載置面にウェハ10を静電吸着により吸着させる。
【0014】
次に本プラズマエッチング装置を用いたウェハ10のプラズマ処理について説明する。搬送手段(図示せず)により搬入口11を経由してウェハ10を試料台1に載置する。マグネトロン6から発振されたマイクロ波を導波管5及び天板4を経由して処理室2内に供給する。ガス供給手段(図示せず)により処理室2内に供給されたガスを排気口12を経由して排気手段(図示せず)により排気しながら、処理室内2の圧力を所定の圧力に制御し、処理室内に供給されたマイクロ波とソレノイドコイル7により発生した静磁場との相互作用によって、処理室2内に高密度なプラズマ13を発生させる。このプラズマ13を用いて試料台1に載置されたウェハ10をプラズマ処理する。また、高周波電源9より高周波電力を試料台1に印加してプラズマ13中のイオンをウェハ10に引き込み、イオンアシストエッチングを行う。次にプラズマ処理されたウェハ10は、搬送手段(図示せず)により搬入口11を経由して処理室2から搬出される。
【0015】
次に上述したプラズマエッチング装置を用いた本発明のプラズマ処理方法について説明する。図2に示すように最初にステップ1として、堆積性ガスを用いて第一の期間と第二の期間を繰り返しながらウェハ10をプラズマ処理する。ここで、第二の期間とは、第一の期間で生成された反応生成物の組成とは異なる反応生成物を生成する期間のことである。また、第一の期間と第二の期間は、第一の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さと第二の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さがそれぞれ1nm以下となるような周波数で繰り返す。
【0016】
次にステップ2として、処理室2内のプラズマクリーニングを行う。このプラズマクリーニングは、試料台1にウェハ10が載置された状態でも、載置されていない状態のどちらで行っても良い。また、ウェハ10が試料台1に載置された状態でプラズマクリーニングを実施する場合は、ステップ1とステップ2のウェハ10は同一でも異なっても良い。
【0017】
以上、本発明は、ステップ1とステップ2を行うプラズマ処理方法であり、ステップ1とステップ2を行うことにより、被処理体であるウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物を抑制できる。この効果は、以下の作用によると考えられる。
【0018】
図3は、異物の発生と抑制を説明する図である。図3に示されている黒丸は第一の期間で生成される反応生成物14を示し、白丸15は第二の期間で生成される反応生成物15を示す。
【0019】
図3(a)は、第一の期間と第二の期間は、第一の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さと第二の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さのいずれかが1nmより厚くなるような周波数で繰り返された場合に処理室2の内壁に堆積する反応生成物の断面模式図である。この場合、第一の期間及び第二の期間では、反応生成物が十分に処理室2の内壁に堆積する時間があるため、堆積層を形成することができ、堆積膜は積層型の構造となる。積層型の堆積膜は、黒丸の層または白丸の層の同一層内の分子間の結合エネルギーがイオンのプラズマポテンシャルよりも強く、ラジカルに対し耐性を持つため、揮発し難く、処理室2の内壁に入射するイオンやラジカルによって堆積膜が取り除かれるレートよりも、反応生成物の処理室2の内壁への堆積レートの方が速いため、反応生成物による堆積膜の厚さは増加する。そして、黒丸の層と白丸の層との層間の結びつきは弱く、剥がれ易い性質も持っているため、例えば層断面がむき出しになった箇所があると、そこから剥がれだし、ウェハ10上に落下して異物となる。
【0020】
図3(b)は、第一の期間と第二の期間は、第一の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さと第二の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さがそれぞれ1nm以下となるような周波数で繰り返された場合に処理室2の内壁に堆積する反応生成物の断面模式図である。この場合、第一の期間と第二の期間のそれぞれの期間において反応生成物は十分に処理室2の内壁に堆積する時間がないため、黒丸の層あるいは白丸の層を形成することができず、堆積膜は黒丸と白丸のアモルファス型構造となる。アモルファス型の堆積膜は、分子間の結合エネルギーがイオンのプラズマポテンシャルに対し同等あるいは同等以下でかつ、ラジカルに対する耐性も弱まるため、揮発し易くなり、処理室2の内壁に反応生成物が堆積する堆積レートよりも、処理室2の内壁に入射するイオンやラジカルによって堆積膜が取り除かれるレートの方が速いため、反応生成物の堆積膜の厚さは薄いままか、ほとんど0に近づく。このため、異物として剥がれ落ちる量はわずかであり、異物は抑制される。
【0021】
また、図3(a)に示すような堆積膜が処理室2に堆積している場合は、プラズマクリーニングを実施しても十分に堆積膜を除去することは困難であるが、図3(b)に示すような堆積膜が処理室2に堆積している場合は、プラズマクリーニングを実施することによって、完全に堆積膜を除去できる。
【0022】
また、上述した通り、本発明はステップ1とステップ2の組合せであることを述べたが、本発明のプラズマ処理で用いる堆積性ガスの種類または、ガス流量によっては、少なくともステップ1を行うことによっても、被処理体であるウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物を抑制することができる。すなわち、言い換えると、本発明は、被処理体をプラズマに曝す第一の期間と、前記被処理体をプラズマに曝し当該第一の期間よりも前記被処理体に対するエッチングレートの低い第二の期間とを繰り返すことにより、処理室内壁面への堆積膜がアモルファスになるエッチング条件で前記被処理体をエッチングすることを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明は、処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行う間に前記処理室内壁面への堆積を抑制するプラズマ処理方法において、前記高周波電力を時間変調し間欠的に前記被処理体に印加することを特徴とするプラズマ処理方法であるとも言える。
【0024】
よって、本発明は、上述した第一の期間と第二の期間を繰り返すエッチングを行うため、処理室内壁面への堆積を抑制することができる。このため、被処理体の処理枚数の増加による異物を抑制できる。以下、本発明の各実施例について説明する。
【0025】
[実施例1]
最初に本実施例で処理する被処理体であるウェハ10の構造について説明する。
【0026】
図4に示すように、シリコン基板16上に酸化シリコン膜17があり、酸化シリコン膜17の上に窒化シリコン膜18がある。また、窒化シリコン膜18の上に酸化シリコン材のマスク19がパターニングされている。なお、本実施例では酸化シリコン膜17に対し、選択的に窒化シリコン膜18をエッチングする工程であればよく、構造や工程を限定しない。例えば、マスクパターンとして酸化シリコン膜があって、下地膜を考慮せずに窒化シリコン膜をエッチングするメインエッチング工程や、酸化シリコン膜を下地膜として残留窒化シリコン膜を除去する工程であっても良い。また、被エッチング膜としては、本実施例では、窒化シリコン膜18としているが、シリコン原子と窒素原子を含有する膜であっても良い。
【0027】
上述した構造のウェハ10を上述したマイクロ波ECRプラズマエッチング装置を用いて表1に示すようなCH3FガスとO2ガスの混合ガスのプラズマにて処理を行った。尚、表1のデューティー比とは、高周波バイアスの1周期(第一の期間と第二の期間の和)に対する第一の期間の比のことである。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示す条件にてウェハ10を25枚処理しても、垂直形状のエッチングを行うことができるとともに、異物も抑制することができた。
【0030】
本実施例では、「第一の期間に生成される反応生成物と第二の期間に生成される反応生成物は異なり、第一の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さと第二の期間に生成された反応生成物が処理室2の内壁に堆積する厚さがそれぞれ1nm以下となるような周波数で第一の期間と第二の期間を繰り返す」という本発明のステップ1を繰り返し周波数が10Hzの時間変調された間欠的な高周波バイアスをウェハ10に印加することによって実施している。ここで、繰り返し周波数とは、第一の期間と第二の期間を繰り返す周期の逆数のことである。
【0031】
また、第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数は、本実施例では、10Hzが最適値であったが、表2に示すように10Hz以上の周波数であれば良い。尚、表2は、表1の条件において、デューティー比を50%に固定した時の繰り返し周波数に対する異物の許容範囲と第一の期間の高周波バイアスパワーに対する異物の許容範囲を示すデータである。
【0032】
また、表2における「○」は垂直形状のエッチングが可能かつ異物数が許容範囲を示し、「×」は異物許容不可を示し、「−」はエッチング不可を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示すように高周波バイアスの第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数を1Hz以上2000Hz以下にすると「○」の領域が存在し、繰り返し周波数の増加に伴い、「○」の領域が増加する。これは、堆積性ガスとしてCH3Fガスを用いているため、第一の期間に生成された反応生成物と第二の期間に生成された反応生成物がそれぞれ処理室2の内壁に堆積する膜厚が繰り返し周波数が1Hz以上2000Hz以下の時に1nm以下となるためである。
【0035】
また、垂直加工のエッチングを行うには、第一の期間の高周波バイアスは、40Wより大きくする必要がある。しかし、この40Wはデューティー比が50%での値であるため、他のデューティー比での垂直加工のエッチングを行うための第一の期間の高周波バイアス電力を算出するには、40Wを時間平均電力に換算する必要がある。尚、時間平均電力は、第一の期間の高周波バイアス電力とデューティー比との積によって求められる。
【0036】
よって、垂直加工のエッチングを行うには、高周波バイアス電力の時間平均を20Wより大きくする必要がある。また、直径が300mmのウェハ10を使用したので、ウェハ1cm2当たりに換算すると高周波バイアスの時間平均電力は0.03W以上が必要となる。
【0037】
この理由は、ステップ1で使用されるガスは反応生成物の処理室2の内壁への堆積レートが速く、高周波バイアスの時間平均電力が20W以下だとエッチングレートよりも堆積レートの方が速いため、エッチングが進行しないためであり、あるいはイオンのエネルギーが不十分でエッチング形状がテーパ形状になってしまうからである。また、この場合、積層型の堆積膜は形成されないが単一成分の反応生成物が堆積し、この単一成分の堆積物もある程度の厚さまで堆積するとウェハ10に落下する。
【0038】
本実施例では、CH3FガスとO2ガスからなる混合ガスを用いたが、この混合ガスにArガス,Xeガス,Krガス,Heガス,N2ガスなどの不活性ガスを添加しても本実施例と同様な効果を得ることができる。また、本実施例では、堆積ガスとしてCH3Fガスを用いたが、CHF3ガス,CH22ガス等のハイドロフルオロカーボンガスを用いても本実施例と同様な効果を得ることができる。特にフルオロカーボンガスの中でフッ素の水素に対する比が2以下となるガスを用いると、シリコン(Si)または酸化シリコン膜(SiO2)に対して窒化シリコン膜(NとSiを含有する膜)を高選択的にエッチングすることも可能となる。
【0039】
また、シリコン(Si)または酸化シリコン膜(SiO2)に対して窒化シリコン膜(窒素原子とシリコン原子を含有する膜)を高選択的にエッチングするには、必ずしもハイドロフルオロカーボンガスを用いることが必須ではなく、エッチングで用いる混合ガスに含まれるフッ素の総和が水素の総和に対して2以下となる混合ガスであれば良い。例えば、CF4ガスとCHF3ガスとCH4ガスを含んだ混合ガスでも良い。
【0040】
本実施例では、第二の期間の高周波バイアス電力を0Wとしたが、高周波バイアスの繰り返し周波数が小さい場合、またはデューティー比が小さい等の高周波バイアスのオフの期間(本実施例では第二の期間)が長くなると高周波バイアス電圧のピーク値(以下、Vppと称する。)が小刻みに変動し易くなるという問題が発生する場合がある。
【0041】
Vppの変動の度合いは、処理圧力やプラズマ密度などにも影響されるが、第二の期間の高周波バイアス電力は、第一の期間の高周波バイアス電力と異なっていれば良いので、完全に第二の期間の高周波電力を0Wにしないで、直径300mmのウェハの場合、窒化シリコン膜をエッチングできない5Wから20W程度にすることによって、Vppの変動を抑制できる。尚、この5Wから20Wの範囲はウェハ単位面積(1cm2)あたりに換算すると、0.007Wから0.028Wの範囲となる。
【0042】
よって、第二の期間の高周波バイアス電力をウェハ単位面積(1cm2)あたり0.007Wから0.028Wにすることにより、Vppの変動を抑制できるため、第二の期間でもウェハ10上のプラズマシースの状態を安定させることができる。なぜならば、Vppの大部分はプラズマシースにかかるからである。
【0043】
本実施例では、「第一の期間と、第一の期間に生成される反応生成物と異なった反応生成物を生成する第二の期間とを繰り返す」という本発明(ステップ1)を電力の異なる第一の期間と第二の期間を繰り返す高周波バイアスを適用した例であったが、ステップ1は、第一の期間に生成される反応生成物と第二の期間に生成される反応生成物が異なっていれば良いので、パルスマイクロ波放電を用いたり、ガスを時間変調しながら処理室2内に供給してガスの組成を時間的に変化させる手段を適用しても良い。
【0044】
例えば、パルスマイクロ波放電により、ガスの組成を時間的に変化させる場合は、図1のマイクロ波ECRプラズマエッチング装置がマグネトロン6から発生するマイクロ波出力を任意の周波数およびデューティー比でオン・オフするマイクロ波電源(図示せず)をさらに備える構成にすれば良い。
【0045】
また、ガスを時間的に変調しながら、処理室2内に供給してガスの組成を時間的に変化させる場合は、図1のマイクロ波ECRプラズマエッチング装置のガス供給手段(図示せず)は、任意の周波数でガスを時間変調させながら処理室内へ供給する制御部を更に備える構成とすれば良い。
【0046】
[実施例2]
実施例1のようにステップ1だけでもウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物を抑制することができる。しかし、ステップ1に用いるガス種,ガス流量比、第一の期間の高周波バイアス電力等の条件によっては、ウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物の抑制が十分でない場合があり得る。このような場合でも確実にウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物を抑制するプラズマ処理方法について以下に説明する。
【0047】
実施例1で説明したステップ1に表3に示すプラズマクリーニング処理であるステップ2を図2のように追加することによって、ウェハ10の処理枚数の増加に伴い発生する異物を確実に抑制することができる。
【0048】
【表3】

【0049】
本実施例では、表3に示すようにプラズマクリーニングにO2ガスを用いたが、処理室2内に堆積している堆積物が有機系であれば、SF6ガス,NH3ガス,H2ガスとN2ガスとの混合ガスを用いても良い。また、処理室2内に堆積している堆積物が金属系であれば、BCl3ガス、BCl3ガスとCl2ガスとの混合ガスをO2ガスの代わりに用いても良い。
【0050】
また、ステップ2を実施する際は、試料台1にウェハ10が載置された状態または、載置されていない状態のどちらでも良い。また、試料台1にウェハ10が載置された状態でも、ステップ1で処理されたウェハ10をステップ2でそのまま使用しても良いし、または、ステップ1で処理されたウェハ10と異なるウェハをステップ2で使用しても良い。
【0051】
また、本実施例では、ステップ2をステップ1の後に追加しているが、ステップ2はステップ1の後に毎回実施される必要はなく、処理室2の内壁に堆積している堆積物の量に応じて、ステップ1で処理されるウェハ10の任意の処理枚数毎にステップ2を実施すれば良い。
【0052】
プラズマクリーニングの処理時間は、短すぎると処理室2の内壁の堆積物を十分に除去できず、逆に長すぎると、処理室2内の特定のパーツ(例えば石英パーツ等)を変質させ、異物発生の原因となる。このため、プラズマクリーニングの処理時間は、最適化する必要がある。
【0053】
例えば、発光検出手段(図示せず)により、プラズマクリーニング中のカーボン成分の波長の発光推移をモニタし、カーボン成分の発光強度がプラズマクリーニング開始から5秒から10秒の範囲において到達するカーボン成分の発光強度の最大値の25%を下回るまでの時間を算出し、この算出した時間の等倍から1.5倍までの時間をプラズマクリーニングの処理時間の最適値とする。
【0054】
[実施例3]
次に実施例2で説明したステップ2による他の効果について説明する。
【0055】
図5にCH3Fガスを50ml/min、O2ガスを20ml/min、処理圧力を1.0Pa、連続的な高周波バイアスを60Wとした処理条件にて窒化シリコン膜の連続処理を行った場合の窒化シリコン膜のエッチング速度の処理枚数依存性を示す。また、図5では、窒化シリコン膜をエッチングした後にO2ガスを100ml/min、処理圧を2.0Paとしたプラズマ処理(ステップ2)の有無による窒化シリコン膜のエッチング速度の処理枚数依存性を比較している。
【0056】
ステップ2が無い場合は窒化シリコン膜のエッチング速度が処理枚数の増加に伴って徐々に低下するが、一方、ステップ2が有る場合は、窒化シリコン膜のエッチング速度の低下はほとんど見られない。これは以下の理由によると考えられる。
【0057】
CH3Fガスを用いたプラズマの場合、有機系の反応生成物が処理室2の内壁に堆積し、処理室2の内壁に堆積した堆積物の一部がプラズマ13により再解離する。再解離した堆積物は、ウェハ10の表面に堆積し、エッチングを阻害する。このため、ウェハ10の処理枚数の増加に伴って窒化シリコン膜のエッチング速度を低下させる。
【0058】
一方、O2ガスを用いたプラズマ処理を追加した場合は、処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去できるため、処理室2の内壁の堆積物の再解離によるウェハ10の表面への堆積を抑制できる。このため、ウェハ10の処理枚数の増加に伴って窒化シリコン膜のエッチング速度が低下することを抑制できる。
【0059】
エッチング終了の終点を反応生成物の発光をモニタして決定している場合はエッチング速度の多少の変動は問題ではない。しかし、たとえば被エッチング面積が小さく発光によるエッチング終点が検出できないために時間によりエッチング量を定めている場合などに不具合を生じる。
【0060】
また、図4に示すようにマスク下の窒化シリコン膜を垂直にエッチングする場合は、高周波バイアスをオン・オフして第一の期間の高周波バイアス電力を高くした方が垂直にエッチングし易くなるが、溝や穴に埋まった窒化シリコン膜のエッチングではエッチング形状は関係なくなるので、CH3Fガスを用いたエッチングにおいて特に高周波バイアスをオン・オフ変調する必要はなくなる。
【0061】
これらの場合でも、O2ガスを用いたプラズマによるステップ2を追加して処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去することは、処理枚数増加に伴う窒化シリコン膜のエッチング速度低下の抑制に有効である。
【0062】
また、図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置において天板4の材料を石英とアルミナで窒化シリコン膜のエッチング速度の低下を比較すると、石英の方が小さくなった。これは石英がCH3Fガスのフッ素でエッチングされるために、堆積物の堆積が困難になるとともにクリーニングも容易になるからと推定できる。
【0063】
また、処理室2内でプラズマ13に曝される箇所の材質を変えて実験を行った結果、プラズマ13に曝される面積の30%以上を石英の材料とすると窒化シリコン膜のエッチング速度の低下を抑制する効果が見られた。尚、プラズマ13に曝される面積とは、図1に示すマイクロ波ECRプラズマエッチング装置において、ウェハ10が載置される試料台1より上方の空間の面積を指す。
【0064】
[実施例4]
実施例1では、「電力の異なる第一の期間と第二の期間を10Hz以上の周波数で繰り返す高周波バイアスを試料台1に印加する」という実施例を説明したが、電力の異なる第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数が10Hz未満でも、電力の異なる第一の期間と第二の期間の繰り返し周期に対する第一の期間の比であるデューティー比を適正化すれば、処理枚数増加に伴う異物を抑制できる。
【0065】
今回、我々発明者は、上記の適正化されたデューティー比を数式から算出するために、本発明である「アモルファス型の堆積膜を形成する」の数式化を試み、数式化が可能であることが判明した。このため、本実施例では、本発明の数式化の結果について説明する。
【0066】
アモルファス型の堆積膜を形成するためには、以下に示す(1)式及び(2)式を満たすことである。言い換えると、(1)式及び(2)式を満たすデューティー比を算出することによって、処理枚数増加に伴う異物を抑制できるデューティー比を推定できる。
【0067】
【数1】

【0068】
【数2】

【0069】
ここで、Rate1は、第一の期間の処理室2の内壁への堆積レート[nm/sec]、Rate2は、第二の期間の処理室2の内壁への堆積レート[nm/sec]、Rf1は、第一の期間の高周波バイアスの電力[W]、Rf2は、第二の期間の高周波バイアスの電力[W]、Rfcは、ウェハ10のエッチングが進行しない連続的な高周波バイアスの電力[W]、freqは、第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数[Hz]とする。
【0070】
ステップ1のプラズマ処理条件毎にRfcとRate1とRate2をそれぞれ測定し、測定されたRfcとRate1とRate2を(1)式,(2)式に代入することによって、任意のRf1,Rf2,freqでの適正なデューティー比を算出できる。
【0071】
次に、表1に示す条件におけるRfc,Rate1,Rate2のそれぞれの測定方法について説明する。
【0072】
Rfcは、窒素原子とシリコン原子とを含有する膜を有するウェハ(以下、ダミーウェハと称する)を用いて、ダミーウェハ表面上に反応性生物が堆積せず、かつ、ダミーウェハ表面上のエッチングが進行しないような連続的な高周波バイアス電力を探しだすことによって、求める。
【0073】
次に、Rate1及びRate2の測定方法について説明する。
【0074】
まず、ダミーウェハを2枚用意し、1枚目のダミーウェハを高周波バイアス電力を任意のRf1とした処理条件を用いてダミーウェハを所定の時間でエッチングする。ここで、所定の時間とは、ダミーウェハ表面の被エッチング膜がある程度残るぐらいのエッチング処理時間である。
【0075】
次に、エッチングされた1枚目のダミーウェハを試料台1に載置した状態で、表4に示す条件にてプラズマクリーニングを行い、このプラズマクリーニング中に処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去する時間をプラズマクリーニングの発光データの推移を基に算出する。この算出された処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去する時間を第一のプラズマクリーニング時間とする。
【0076】
【表4】

【0077】
次に、2枚目のダミーウェハを高周波バイアス電力を0Wとした処理条件を用いて、1枚目のダミーウェハと同一の時間でエッチングする。
【0078】
次に、エッチングされた2枚目のダミーウェハを試料台1に載置した状態で、表4に示す条件にてプラズマクリーニングを行い、このプラズマクリーニング中に処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去する時間をプラズマクリーニングの発光データの推移を基に算出する。この算出された処理室2の内壁に堆積した堆積物を除去する時間を第二のプラズマクリーニング時間とする。
【0079】
2枚目のダミーウェハのエッチングにおいて、処理室2の内壁に堆積した堆積膜の厚さは、2枚目のダミーウェハ表面に堆積した堆積膜と同じ厚さとし、2枚目のダミーウェハ表面に堆積した堆積膜の膜厚を光学式膜厚測定器で測定し、測定された堆積膜の膜厚を2枚目のダミーウェハのエッチング時間で除した値がRate2となる。
【0080】
次に、1枚目のダミーウェハのエッチング後のプラズマクリーニングと2枚目のダミーウェハのエッチング後のプラズマクリーニングは同一条件であるため、1枚目のダミーウェハをエッチングした時の処理室2の内壁に堆積した堆積膜の厚さと1枚目のダミーウェハをエッチングした時の処理室2の内壁に堆積した堆積膜の厚さとの比は、第一のプラズマクリーニング時間と第二のプラズマクリーニング時間との比と同じであるため、以下に示す(3)式より、Rate1を求めることができる。
【0081】
【数3】

【0082】
上述した測定方法により求められた表1に示す条件において、第一の期間の高周波バイアス電力を任意のRf1とした時のRfc,Rate1,Rate2のそれぞれの測定結果を表5に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
表5に示すRfc,Rate1,Rate2のそれぞれの測定結果を(1)式,(2)式に代入することにより、以下の(4)式,(5)式を得ることができる。
【0085】
【数4】

【0086】
【数5】

【0087】
表1条件で第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数をそれぞれ1Hz,10Hz,100Hzとした場合異物許容に対するデューティー比依存性データの実験値と、(4)式及び(5)式を満足するデューティー比の計算値との比較結果を表6から表8に示す。また、表6から表8における「○」は垂直形状のエッチングが可能かつ異物数が許容範囲を示し、「×」は異物許容不可を示し、「−」はエッチング不可を示す。
【0088】
【表6】

【0089】
【表7】

【0090】
【表8】

【0091】
表6から表8に示す通り、(4)式及び(5)式より算出された計算値と実験値が、第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数100Hz、第一の期間の高周波バイアス電力400W、デューティー比50%のデータ以外は一致している。このため、任意の第一の期間の高周波バイアス電力(Rf1)、任意の第二の期間の高周波バイアス電力(Rf2)、第一の期間と第二の期間との任意の繰り返し周波数(freq)における処理枚数の増加による異物の抑制が可能なデューティー比を(1)式及び(2)式から算出し、推定できる。また、図6に示すように、例えば、第一の期間と第二の期間の繰り返し周波数10Hzの場合の、任意の第一の期間の高周波バイアス電力に対する処理枚数の増加による異物の抑制が可能なデューティー比の範囲を図示できる。
【0092】
以上、本実施例の発明は、任意の第一の期間の高周波バイアス電力(Rf1)、任意の第二の期間の高周波バイアス電力(Rf2)、第一の期間と第二の期間との任意の繰り返し周波数(freq)における処理枚数の増加による異物の抑制が可能なデューティー比を算出できる数式を導き出したことである。このため、(1)式及び(2)式の両式を満たすデューティー比を算出することによって、任意の第一の期間の高周波バイアス電力(Rf1)、任意の第二の期間の高周波バイアス電力(Rf2)、第一の期間と第二の期間との任意の繰り返し周波数(freq)における処理枚数の増加による異物の抑制が可能なデューティー比を推定できる。
【0093】
以上、実施例1から実施例4において、ハイドロフルオロカーボンガスを用いた窒化シリコン膜(NとSiを含有する膜)のエッチング例を説明したが、本発明は、フルオロカーボンガスを用いた酸化シリコン膜(SiO2)のエッチングにも適用できる。
【0094】
また、実施例1から実施例3において説明した本発明は、マイクロ波ECRプラズマエッチング装置への適用に限定されず、容量結合方式あるいは誘導結合方式のプラズマ源を備えたプラズマエッチング装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0095】
1 試料台
2 処理室
3 架台
4 天板
5 導波管
6 マグネトロン
7 ソレノイドコイル
8 直流電源
9 高周波電源
10 ウェハ
11 搬入口
12 排気口
13 プラズマ
14 第一の期間で生成される反応生成物
15 第二の期間で生成される反応生成物
16 シリコン基板
17 酸化シリコン膜
18 窒化シリコン膜
19 マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行うプラズマ処理方法において、
前記被処理体を前記プラズマに曝す第一の期間と、前記被処理体を前記プラズマに曝し当該第一の期間よりも前記被処理体に対するエッチングレートの低い第二の期間とを繰り返すことにより、前記処理室内壁面への堆積膜がアモルファスになるエッチング条件で前記被処理体をエッチングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
処理室内に導入された堆積性ガスからプラズマを生成し、当該処理室内に設けられた試料台上に載置される被処理体を、高周波電力を印加した状態で前記プラズマに曝すことにより前記被処理体のエッチングを行う間に前記処理室内壁面への堆積を抑制するプラズマ処理方法において、
前記高周波電力を時間変調し間欠的に前記被処理体に印加することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ処理方法において、
前記プラズマ処理方法は、さらに前記処理室をプラズマクリーニングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ処理方法において、
前記被処理体のエッチングは、ハイドロフルオロカーボンガスを用いて、窒素原子とシリコン原子を含有する膜である窒化シリコン膜を有する被処理体を、前記第一の期間と前記第二の期間の繰り返し周波数が1Hz以上2000Hz以下である時間変調された高周波電力を前記試料台に印加してエッチングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4記載のプラズマ処理方法において、
前記プラズマ処理方法は、さらに前記処理室をプラズマクリーニングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項5記載のプラズマ処理方法において、
前記ハイドロフルオロカーボンは、CH3Fガスであり、
前記プラズマクリーニングは、O2ガスを用いて前記処理室をプラズマクリーニングすることを特徴とするプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12624(P2013−12624A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145164(P2011−145164)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】