説明

プラズマ処理装置

【課題】プラズマの密度及び均一性の向上を図るプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】基板Sbを収容する処理室50を有する真空槽11と、電磁波を処理室50へ出力する高周波アンテナ20と、高周波アンテナ20と処理室50との間に介在し、電磁波の導入口となる誘電体窓12とを備えたプラズマ処理装置において、誘電体窓12には、電磁波を処理室50に導入する窓部と、窓部よりも厚い補強部とが一体に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理室内にプラズマを発生させて基板を処理するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高密度なプラズマを生成できるプラズマ源として、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)源を有する装置、磁束密度が「0」となるゼロ磁場領域をプラズマ中に生成する、いわゆる磁気中性線放電(NLD magnetic Neutral Loop Discharge)型装置、電子サイクロトロン共鳴プラズマ(ECR:Electron Cyclotron Resonance plasma)源を有する装置等が知られている。
【0003】
これらの装置は、電磁波源から出力された電磁波を、誘電体からなる誘電体窓を介して基板を収容した処理室に伝播させてプラズマを生成する。例えば、誘導結合型プラズマ源を有する装置は、高周波電圧が印加された誘導コイルから出力された高周波電力を、誘導窓を介して処理室に伝播し、処理室に供給された原料ガスをプラズマ化する。
【0004】
この誘電体窓は、一般的に平板状をなしており、処理室内の真空圧と大気圧との圧力差に耐えうる強度を確保するための厚さを有している。しかし、誘電体窓の厚さが大きいと、電磁波源と処理室との相対距離が長くなるために電磁波の損失が大きくなる。このため、プラズマ密度のさらなる向上を図る場合においては、誘電体窓の強度を確保しなければならないために、限界があった。
【0005】
これに対し、特許文献1では、誘電体窓を金属製の梁で支持して強度を確保することによって、誘電体窓を薄くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−27782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、誘電体窓を金属製の梁で支持する場合には、部品点数が増加するだけでなく、誘電体窓を介して電磁波を導入する際に、電磁波の伝播が梁によって遮断されて、処理室内のプラズマの均一性が低下する虞がある。プラズマの均一性が低下すると、エッチングを実施する場合にはエッチングレートの均一性の低下を招来し、CVD装置の場合では膜厚や膜質の均一性が低下する。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を低減しつつ、プラズマ密度を向上できるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、請求項1に記載のプラズマ処理装置において、基板を収容する処理室を有する真空槽と、電磁波を前記処理室へ出力する電磁波源と、前記電磁波源と前記処理室との間に介在し、前記電磁波の導入口となる誘電体窓とを備えたプラズマ処理装置において、前記誘電体窓には、前記電磁波を前記処理室に導入する窓部と、前記窓部よりも厚い補強部とが一体に形成されていることを要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、誘電体窓には、窓部よりも厚い補強部が一体に形成されているので、窓部を補強する部材を別に設けることなく、誘電体窓の厚さ方向において強度を向上することができる。また、このため、電磁波源を処理室に近づけて、高密度のプラズマを生成することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラズマ処理装置において、前記電磁波源は、誘導コイルを有し、前記誘電体窓は、複数の前記窓部を有し、前記誘電体窓の前記補強部は、前記誘電体窓の中央に形成された突部と、前記突部から前記誘電体窓の外周に向かって延びる突条とを有することを要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、補強部は、誘電体窓の中央に形成された突部と、外周に向かって延びる突条とから構成されるので、突部の周囲であって突条の間に窓部を配置することができる。誘導コイルの構造や処理室のガスの流れ等の要因により、処理室の中央はプラズマ密度が高くなる傾向があるが、上記したように誘電体窓の中央の突部を配置することによって、処理室の中央部は、その外側よりも相対的に誘電損失が大きくなる。このため、処理室の径方向におけるプラズマ密度の勾配を小さくすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置において、前記誘電体窓は、3本の前記突条を備えることを要旨とする。
請求項3に記載の発明によれば、誘電体窓に形成される突条を3本とすることで、誘電体窓の強度を確保しつつ、誘電体窓に形成される突部を極力少なくして誘電体窓に生成される電場を阻害しないようにすることができる。このため、処理室へ伝播される電磁波の損失を抑制することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置において、前記誘電体窓は、前記補強部が形成された第1の側面と、前記第1の側面と平行な平面状の第2の側面とを有し、前記第1の側面を前記処理室に向けて配置する状態、及び前記第2の側面を前記処理室内に向けて配置する状態のうち一方を選択可能に構成されたことを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、誘電体窓自体が強度が確保されているため、第1の側面を処理室に向けた状態、第2の側面を処理室に向けた状態のいずれでも、使用可能である。第2の側面を処理室に向けた場合、突部が形成された第1の側面が大気圧に曝されるが、この場合には平面状の第2の側面において一律に大気圧を受けるよりも、圧力が分散される。このため、第2の側面を処理室に向けた方が各側面に対し直交する方向における強度を大きくすることができる。従って、目的に応じて、誘電体窓の配置を適宜変更することで、誘電体窓の寿命を長くすることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置において、前記補強部には、プラズマ処理によって生じる生成物の前記誘電体窓への付着を抑制するカバーを取り付けるためのカバー固定部が形成されていることを要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、補強部のカバー固定部にカバーを取り付けることができるので、誘電体窓から離間させた位置にカバーを取り付けなくてもよい。処理室は、カバーの下方に位置するため、電磁波源と処理室との相対距離を短くすることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置において、前記補強部のうち、前記窓部の側面と平行な面以外の側面はテーパ状に形成されていることを要旨とする。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、補強部のうち、窓部の側面以外の領域にはテーパ面が形成されているため、補強部の破損を防止するとともに、補強部の基端部での生成物の堆積を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態であるNLDエッチング装置の概略構成を示す模式図。
【図2】同NLDエッチング装置の高周波アンテナの平面図。
【図3】同NLDエッチング装置が備える誘電体窓の斜視図。
【図4】(a)は同誘電体窓の中央突部の端面図、(b)は同誘電体窓の突条の端面図。
【図5】同誘電体窓と、誘電体窓に取り付けられるカバーガラスとの平面図。
【図6】本発明に係るプラズマ処理装置に用いられる誘電体窓の別例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のプラズマ処理装置を、磁気中性線放電型エッチング装置(以下、NLD型エッチング装置)に具体化した一実施形態について、図1〜図5にしたがって説明する。
【0022】
図1に示すように、NLDエッチング装置は、略有底筒状に形成された真空槽11を有している。真空槽11はアルミニウム等の金属製であって、その内部に基板Sbを収容する処理室50を有し、処理室50の上部開口を、石英、サファイア等の誘電体から形成された誘電体窓12によって密閉している。
【0023】
真空槽11には、エッチングを実施する処理対象となる基板Sbを隣室から真空槽11内へ搬入するとともに、真空槽11から他の処理室へ搬送するための図示しない搬送口が設けられている。さらに、真空槽11には、真空槽11内のエッチングガスや大気等の流体を排気する排出口11dが設けられ、該排出口11dには図示しない排気装置が接続されている。また、真空槽11には、処理室50に連通するガス供給部13が設けられている。エッチングを実施する際には、このガス供給部13を介して各種ガスが真空槽内に供給される。
【0024】
真空槽11の下部には、ステージ15が設けられている。ステージ15は、その上面が平坦に形成され、基板Sbを載置可能となっている。また、ステージ15は、ステージ電極を兼ねており、整合回路16を介して、バイアス用高周波電源18に電気的に接続されている。整合回路16は、プラズマ生成領域とバイアス用高周波電源18から基板Sbまでの伝送路とのインピーダンスの整合を図る整合回路とブロッキングコンデンサとを含んでいる。
【0025】
また、誘電体窓12の上方には、電磁波源を構成する誘導コイルとしての2段の高周波アンテナ20が、異なる面上であって、真空槽11の中心軸X1の回りを周回するように積み重ねられている。
【0026】
図2に示すように、各高周波アンテナ20は、平面視において渦巻き形状をなしている。そして、その平面が、上記中心軸X1に対して直交し、且つ渦巻き形状の開始点である始端20aが中心軸X1付近に位置するように配設されている。
【0027】
また、各高周波アンテナ20は、その始端20aが、真空槽11の中心軸X1と平行に延びる柱状の入力端子21に、その外周側に位置する終端20bが、中心軸X1と平行な方向に延びる出力端子22に電気的に並列に接続されている。
【0028】
図1に示すように、上段の高周波アンテナ20から突出する入力端子21の端部には、電磁波源を構成する高周波電源25と整合回路26とからなる直列回路と、直列に接続された直流電源DCとローパスフィルタ28とからなる直列回路とが、入力側コンデンサ29を介して並列に接続されている。
【0029】
高周波電源25は、処理室50にプラズマを生成するための高周波電力、例えば13.56MHzの高周波電力を出力する。整合回路26は、負荷となる上記処理室50内のガスと、高周波アンテナ20を含む高周波電源25から真空槽11までの伝送路とのインピーダンスの整合を図る。入力側コンデンサ29は、容量の変更が可能ないわゆる可変コンデンサであって、例えば10pF〜100pFの範囲で任意に静電容量を変更する。直流電源DCは、例えば0V〜−2000kVの直流電圧を入力端子21に印加可能な電源である。またローパスフィルタ28は、直流電源DCの出力した電圧からノイズを除去する。
【0030】
また、上段の高周波アンテナ20から突出する出力端子22の端部は、可変コンデンサである出力側コンデンサ27に接続され、この出力側コンデンサ27及びNLDエッチング装置の筐体を介して設置電位に接続されている。尚、この出力側コンデンサ27も入力側コンデンサ29同様、その静電容量は、例えば10pF〜100pFの範囲で任意に変更可能である。
【0031】
さらに、真空槽11の側面には三段の磁場コイル30が設けられている。この磁場コイル30は、第1磁場コイル31、第2磁場コイル32及び第3磁場コイル33を有している。各磁場コイル31〜33は、真空槽11の外周に配設され、それらの中心軸が、上記中心軸X1とほぼ一致するように配置されている。
【0032】
第1磁場コイル31及び第3磁場コイル33には、各電力供給部(図示略)から、同一方向の電流が供給される。第2磁場コイル32には、第1磁場コイル31及び第3磁場コイル33に供給される電流の向きとは逆の電流が供給される。その結果、磁場コイル30の周方向、即ち真空槽11の周方向に沿って、ゼロ磁場領域51が形成される。ゼロ磁場領域51の上記中心軸X1方向の位置は、第2磁場コイル32の上記中心軸X1方向における位置とほぼ同じである。
【0033】
次に、誘電体窓12について詳細に説明する。図3に示すように、誘電体窓12は、真空槽11の上部開口を封止可能な大きさの略円盤状をなしている。誘電体窓12は、処理室50に向けて配置された側面が真空圧、その反対側の側面が大気圧に曝されるため、それらの側面に直交する方向からの外力に対する強度を確保する必要がある。特に誘電体窓12の中央部は、真空槽11の上部開口に支持される外周部に比べ、高応力状態となる。このため、中央部における応力がその許容応力を超えないように、中央部の剛性を高めなければならない。
【0034】
このため、誘電体窓12の側面12aには、誘電体窓自体の剛性を高めるための補強部40が形成されている。また、誘電体窓12のうち、補強部40が形成された側面12aと平行な面であって、反対側の側面12bは、平面状に形成されている。また、エッチング対象物に対する化学的及び物理的な反応等により生成される生成物が付着して堆積することを抑制する等の目的で、その表面は、表面粗さRa2.2〜3.6程度に研磨されている。
【0035】
補強部40は、他の領域に比べ厚さを大きくした領域であって、中央に設けられた中央突部44と、中央突部44から誘電体窓12の外周に向かって放射状に広がる3本の突条42とを有している。中央突部44は、略三角形状をなし、窓部41の側面に対して突出している。突条42は、細長状且つ窓部41の側面から突出した形状であって、誘電体窓12の周方向に等間隔に配置されている。この中央突部44によって、誘電体窓12の中央における強度が確保され、突条42によってその周囲の強度が確保されている。
【0036】
また、突条42の間には、3つの窓部41が周方向において等間隔に設けられている。窓部41は、高周波アンテナ20から出力される高周波電力を処理室50に導入する入口となる領域であり、誘電体からなる母材を削ることにより薄肉化されている。この窓部41は、それぞれ扇状に形成されるとともに、誘電体窓12の中央から周縁までの範囲に亘って形成されている。
【0037】
上記したように、誘電体窓12には補強部40が設けられることにより、誘電体窓自体の強度が確保されているため、それらの窓部41は、例えば中央突部44の厚さの半分程度に薄くすることができる。このため、補強部40が形成された側面12aを処理室50側に配置した際に、高周波アンテナ20と処理室50(ゼロ磁場領域51)との相対距離が短くなる。
【0038】
また、図4(a)に示すように、中央突部44のうち、窓部41の側面と平行な面は平面状であるが、窓部41の側面に連続する外周面は、テーパ面44aとなっている。さらに中央突部44のテーパ面44aには、スリット状のカバー固定部44bが側面12aと平行に形成されている。このカバー固定部44bには、エッチング対象物に対する化学的及び物理的な反応等により生成される生成物が誘電体窓12へ付着するのを防止するカバーG(図5参照)の一端が固定される。即ち、誘電体窓12の補強部40にカバーGを取り付けることができるので、誘電体窓12から離間させた位置にカバーGを取り付ける構成を設けなくてもよい。また、誘電体窓12にカバーGを取り付けることで、カバーGの下方に位置する処理室50と高周波アンテナ20を短くすることができる。
【0039】
また、図4(b)に示すように、突条42のうち、窓部41の側面と平行な面は平面状であって、窓部41の側面に連続する面は、テーパ面42aとなっている。そのテーパ面42aには、スリット状のカバー固定部42bが側面12aと平行に且つ突条42の長手方向と平行に形成されている。
【0040】
カバーGは、図5に示すように窓部41の形状に合わせて扇状に形成されている。このカバーGを誘電体窓12に取り付ける際には、図5中、左下の窓部41に示すように、誘電体窓12の周縁側から、カバーGの側辺を、突条42のカバー固定部42bに挟み込み、カバーGを誘電体窓12の中央に向かってスライドさせる。そして、カバーGの先端を、中央突部44のカバー固定部44bに固定する。これにより、カバーGが、取り外し可能に誘電体窓12に固定される。
【0041】
カバーGが固定された誘電体窓12は、真空槽11の上部開口に取り付けられる。図1に示すように、真空槽11の上部開口には、真空槽11の環状の壁部における端面に間欠的に形成された3つの溝11aと、突条42を嵌合するための3つの嵌合溝(図示略)とが形成されている。誘電体窓12を取り付ける際は、この3つの溝11aにエラストマー等からなる3つのシール部材Sをそれぞれ圧入し、突条42を対応する各嵌合溝に嵌合して、誘電体窓12を真空槽11に固定する。
【0042】
その結果、中央突部44が高周波アンテナ20の入力端子21の真下に配置され、窓部41は、入力端子21の回りを巻回する高周波アンテナ20の真下に配置される。
また、誘電体窓12は、補強部40と窓部41とが一体に形成されていることから、図1のように補強部40が形成された側面12aを処理室50側に配置しても使用可能であるし、平面状の側面12bを処理室50側に配置しても使用可能である。尚、補強部40が形成された側面12aを処理室50側に向ける場合には、カバー固定部42b、44bに各カバーGをそれぞれ固定するが、平面状の側面12bを処理室50側へ向ける場合には、その側面12bと同じ外形を有するカバーガラス(図示略)を側面12bと平行に取り付ける。
【0043】
具体的には、高密度プラズマを生成する通常時には、補強部40が形成された側面12aを処理室50側に向けて配置する。上記したように、この場合には、平面状の側面12bに近付けて高周波アンテナ20と処理室50との距離を短くすることができる。一方、平面状の側面12bを処理室50側に向けて配置した場合には、補強部40の分だけ、高周波アンテナ20と処理室50との距離が長くなるものの、補強部40が形成された側面12aを処理室50へ向けて配置するよりも大きい強度を得ることができる。つまり、従来構造の平板状の誘電体窓の場合には、その側面に直交する方向(X1軸方向)に大気圧が一律に加わるが、上記誘電体窓12は、補強部40と、テーパ面42a,44aとが設けられているので、中心軸X1方向以外の方向からも大気圧が加わる。このため、誘電体窓12の中心軸X1方向に加わる圧力としては、全体として平板状の誘電体窓に加わる圧力よりも小さくなる。このため、プラズマ密度が比較的小さくてもよい場合には、補強部40が形成された側面12aを大気圧側に向けて配置すると、誘電体窓12の劣化を抑制できる。
【0044】
次に、NLDエッチング装置の作用について説明する。まず、NLDエッチング装置の搬送口を介して基板Sbが真空槽11内に搬入され、ステージ15上に載置される。次いで、ガス供給部13を介して、処理室50内にエッチングガスが供給される。また、図示しない排気装置の駆動により、真空槽11内がプラズマエッチング処理の条件に応じた圧力とされる。このエッチングガスの供給と、排気装置による真空槽11内の排気は、プラズマエッチング処理の実施中にわたり継続されるものである。
【0045】
次に、図示しない各電力供給部から、第1磁場コイル31及び第3磁場コイル33に同一方向の電流が供給され、第2磁場コイル32に第1磁場コイル31及び第3磁場コイル33を流れる電流とは逆方向の電流が供給され、処理室50に、ゼロ磁場領域51が形成される。また、高周波電源25から、例えば13.56MHzの高周波電力が、整合回路26及び入力側コンデンサ29を介して高周波アンテナ20に供給される。また、直流電源DCからもローパスフィルタ28を介して直流電圧が高周波アンテナ20に印加される。
【0046】
そして、高周波アンテナ20から出力される高周波電力が、誘電体窓12の窓部41を介して処理室50に伝播され、ゼロ磁場領域51周辺に誘導電場が生成される。そして、この誘導電場の生成により、エッチングガスを原料とするプラズマが生成される。この際、プラズマ中の電子が処理室50の磁場勾配によってゼロ磁場領域51に移動するため、高密度のプラズマを生成することができる。また、各磁場コイル31〜33に供給する電流値を調整することにより、ゼロ磁場領域51の径が変更可能であるため、プラズマ密度の分布を調整することができる。
【0047】
この際、渦巻き状の高周波アンテナ20には、入力端子21から電力が投入されるため、例えば従来構成の平板状の誘電体窓を用いた場合には、処理室50のうち、入力端子21の直下であって、コイルの密度が相対的に高い部位では、誘導電場が強まり、プラズマ密度が高くなる。一方、処理室50の中央に配置された入力端子21から外側に向かうにつれて、入力端子21から離れ、且つコイルの密度が小さくなる結果、誘導電場が弱まり、プラズマ密度が低くなる。しかし、本実施形態のように、誘電体窓12に、厚さの大きい中央突部44を中央に設け、その外周に厚さが小さい窓部41を設けることにより、誘電体窓12の中央では、相対的に誘電損失が大きくなる。それゆえに、処理室50の中央から外周にかけてのプラズマ密度の勾配を小さくすることができる。
【0048】
また、誘電体窓12は、従来構成の平板状の誘電体窓の厚さに比べ、薄く加工された窓部41を備えているので、高周波アンテナ20の位置を処理室50に近付けることができる。従って、処理室50内であって窓部41の直下の領域は、誘電体窓12における高周波電力の伝播損失が、従来構成の平板状の誘電体窓を用いた場合に比べ小さくなる。また、誘電体窓12は、強度を確保するための突条42を必要最小限の3本としているため、窓部41の占有面積を大きくとることができる。このため、処理室50内のプラズマの密度を均一化しつつ、密度を大きくすることができる。
【0049】
また、誘電体窓12の直下には、高周波アンテナ20の周囲に形成される誘導磁場により、誘電体窓12の周方向に変動する誘電電界が発生する。この際、誘電体窓12内部を電磁波が伝播するため、誘電体の厚さが相対的に大きくなる突条42では、電磁波の誘電損失が相対的に大きくなる。そして、誘電体窓12の周方向にて突条42の直下では、相対的にプラズマの密度が低くなる。その結果、誘電体窓12の周方向に多数の凸部が形成されていると、その凸部の直下が節となるような定在波が誘電体窓12の直下に形成されてしまう可能性がある。そして、凸部の下方におけるプラズマ密度が低下し、処理室50内のプラズマの均一性が低下する可能性がある。
【0050】
この問題に対し、上記した誘電体窓12では、該誘電体窓12の周方向にて、突条42が節として機能しないように、突条42の数量が奇数であって、且つ2以上の奇数のうちで最小となる3本とされている。それゆえに、電磁波が突条42内を伝播する際に減衰するとしても、こうした減衰が強調され難くなる。尚、突条を窓部41とは別の金属製の部材とした場合には、突条が等電位になる結果、誘電体窓12の凹凸形状を増加させるよりも誘導電場の偏りが強調されることとなる。
【0051】
そして、ステージ15にバイアス用の高周波電力が供給されると、基板Sbにバイアス電圧が印加される。このバイアス電圧によって、処理室50内に存在するプラズマ中の活性種、特に正イオンが基板Sbに引き込まれてエッチャントとして機能する。こうして、基板Sbの所定領域が、その垂直方向、厚さ方向に沿ってエッチングされる。
【0052】
この際、基板Sbのエッチングにより、プラズマ処理によって生じる生成物が、真空槽11の内側面やカバーGの側面、誘電体窓12の中央突部44の側面、突条42の側面等、処理室50に露出された面に付着する。この際、中央突部44及び突条42には、テーパ面44a、42aが設けられているので、テーパ面44a,42aと、カバーGとからなる隅部に上記生成物が堆積しにくい。従って、誘電体窓12における上記生成物の堆積を抑制し、エッチング実施中に、基板の処理面に堆積物が落下するようなことを抑制することができる。
【0053】
また、誘電体窓12は、高周波電力を導入する窓部41と補強部40とを一体に設けているため、窓部と補強部とを別部材として備える場合のように、誘電体窓12内にプラズマ処理によって生じる生成物が侵入する隙間が形成されない。電磁波を導入する窓部と該窓部を補強する補強部とを別部材として備えた装置では、部品点数が多くなる他、窓部と補強部とを密着させたとしても、その間に微小な隙間が生じる可能性がある。この隙間は、窓部や補強部の製造公差や、窓部に補強部を取り付ける際の組み付け誤差でも生じる。
【0054】
また例えば、高周波電力を処理室に導入した際、誘電体窓12に電力が伝播されることで発熱するが、窓部と補強部とが別部材である場合、熱膨張率の違いから、窓部と補強部との間に隙間が生じやすくなる。窓部と補強部との間に隙間が生じると、プラズマ処理によって生じる生成物等が隙間に侵入して堆積する。この堆積物が、処理室内の圧力変化や温度変化等の要因によって剥離すると、基板Sbの処理面に付着してしまう虞がある。また、上記隙間が生じる場合には、プラズマ中のラジカル種等がその隙間に侵入し、窓部と補強部との間に介在するシール材等を劣化させる可能性もある。
【0055】
その点、窓部41と補強部40とを一体に設けた誘電体窓12では、窓部41と補強部40との間に隙間が生じることはないので、誘電体窓12における上記生成物の堆積を抑制することができる。
【0056】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、NLDエッチング装置に用いられる誘電体窓12を、高周波電力を処理室50に導入する窓部41と、窓部41よりも厚い補強部40とを一体とした構成とした。このため、窓部41を補強する部材を別部材として設けることなく、誘電体窓12の側面12a,12bに直交する方向における外力に対する剛性を向上し、窓部41を薄くすることができる。従って、窓部41を補強する部材を別部材として設ける場合のように、電磁波の伝播がその部材によって遮断されないので、従来構造の平板状の誘電体窓と比較して、プラズマの均一性が低下しない。このため、プラズマの均一性低下を抑制しつつ、厚さの小さい窓部41を介して高周波電力を導入することができるので、高密度なプラズマを生成することができる。
【0057】
(2)上記実施形態では、誘電体窓12を、3つの窓部41と、誘電体窓12の中央に形成された中央突部44と、該中央突部44から誘電体窓12の外周に向かって延びる突条42とを有する構造とした。即ち、高周波アンテナ20の入力端子21の真下に中央突部44を配置するため、コイルの密度が相対的に高い中央部において、誘導損失を相対的に大きくすることができる。このため、平板状の誘電体窓を用いた場合に比べ、処理室50の中央におけるプラズマ密度が小さくなる。従って、処理室50内の径方向のプラズマ密度の勾配を小さくすることができる。
【0058】
(3)上記実施形態では、誘電体窓12に、3本の突条42を形成した。従って誘電体窓12の強度を確保しつつ、窓部41の占有面積を大きくすることができる。また、誘電体窓12に形成される凹凸形状を極力少なくすることで、誘電体窓12内の電磁波の伝播を妨げないので、処理室50内への電磁波の伝播を阻害せず、プラズマ密度の均一性低下を抑制することができる。
【0059】
(4)上記実施形態では、誘電体窓12は、補強部40が形成された側面12aと、側面12aと平行な平面状の側面12bとの両方を真空槽11を封止可能な形状とした。そして、目標とするプラズマ密度に応じて、補強部40が形成された側面12aを処理室50に向けて配置する状態、及び平面状の側面12bを処理室50内に向けて配置する状態の一方を適宜選択するようにした。即ち、同じ装置を用いて異なる種の基板を処理する場合、エッチング対象によっては、必ずしも高密度のプラズマを生成しなくても良い場合もある。そういった場合には、誘電体窓12を、補強部40が形成された側面12aを大気圧側に向け、強度を高めた状態で使用することができる。このため、誘電体窓12の寿命を長くすることができるとともに、一つの誘電体窓12で多様なエッチング条件に適応することができる。
【0060】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・誘電体窓12は、図6に示すように、その外周部に、環状シール部材52を圧入するための溝部53を備えるようにしてもよい。この場合には、溝部53に環状シール部材52を圧入した状態で、誘電体窓12が真空槽11の上部開口に固定される。この場合には、カバーGは窓部41の下方から取り付けられる。尚、この場合には、誘電体窓12の両側面を使用可能とはならない。
【0061】
・高周波アンテナ20は、同一平面上を巻回する渦巻き状としたが、1重の環状のコイルでもよいし、真空槽11の上部開口を横切るコの字状のコイルでもよい。
・上記実施形態では、突条42を3本としたが、突条42の幅を小さく形成できる場合には、3本以上の奇数本でもよい。
【0062】
・上記実施形態では、本発明のプラズマ処理装置を、NLDエッチング装置に具体化したが、誘導結合型のプラズマ源を有するエッチング装置、電子サイクロトロン共鳴プラズマ源を有するエッチング装置に具体化してもよい。また、エッチング装置に限定されず、CVD装置等、電磁波を誘電体窓から処理室に導入する他の装置に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0063】
G…カバー、Sb…基板、11…真空槽、12…誘電体窓、12a…第1の側面としての側面、12b…第2の側面としての側面、20…電磁波源を構成する高周波アンテナ、25…電磁波源を構成する高周波電源、40…補強部、41…窓部、42…突条、42a,44a…テーパ面、42b,44b…カバー固定部、44…中央突部、50…処理室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容する処理室を有する真空槽と、
電磁波を前記処理室へ出力する電磁波源と、
前記電磁波源と前記処理室との間に介在し、前記電磁波の導入口となる誘電体窓とを備えたプラズマ処理装置において、
前記誘電体窓には、前記電磁波を前記処理室に導入する窓部と、前記窓部よりも厚い補強部とが一体に形成されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記電磁波源は、誘導コイルを有し、
前記誘電体窓は、複数の前記窓部を有し、
前記誘電体窓の前記補強部は、前記誘電体窓の中央に形成された突部と、前記突部から前記誘電体窓の外周に向かって延びる突条とを有する請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘電体窓は、3本の前記突条を備える請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記誘電体窓は、前記補強部が形成された第1の側面と、前記第1の側面と平行な平面状の第2の側面とを有し、前記第1の側面を前記処理室に向けて配置する状態、及び前記第2の側面を前記処理室内に向けて配置する状態のうち一方を選択可能に構成された請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記補強部には、プラズマ処理によって生じる生成物が前記誘電体窓に付着することを抑制するカバーを取り付けるためのカバー固定部が形成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記補強部のうち、前記窓部の側面と平行な面以外の側面はテーパ状に形成されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−222063(P2012−222063A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84313(P2011−84313)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】