説明

プラズマ処理装置

【課題】大気圧近傍の処理空間内に雰囲気ガスが流入するのを抑制又は防止し、処理ガスへの不純物混入を低減するプラズマ処理装置の提供。
【解決手段】第1電極11の平面状の放電面11aと、円筒形状の第2電極21の周面との間に処理空間90を形成する。第2電極21を軸線のまわりに回転させて被処理物9を搬送する。第1電極11の一側部に処理ガスの吹出し部30を配置する。第1電極11の他側部に遮蔽部材50を配置する。遮蔽部材50を放電面11a又はそれを覆う固体誘電体層12の処理空間画成面よりも第2電極21に向けて突出させ、その突出量hを処理空間90の最も狭い部分90aの厚さgより大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、処理ガスをプラズマ化して被処理物に接触させることで被処理物をプラズマ処理する装置に関し、特に円筒電極と対向電極との間に大気圧近傍下でプラズマ放電を生成するプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の大気圧プラズマ処理装置は、凹面電極と円筒電極を含む。凹面電極は、部分凹円筒面からなる凹曲面を有している。この凹曲面と、円筒電極の外周面とが互いに対向し、これら対向面どうし間に一定の厚さの処理空間が形成されている。これら対向面の少なくとも一方には溶射膜等の固体誘電体層が設けられている。凹面電極は、電源に接続されて電界印加電極となっている。円筒電極は、電気的に接地され、接地電極となっている。更に、円筒電極の周方向に沿って、第1スカートと、不活性ガスノズルと、処理ガスノズルと、上記凹面電極と、吸引ノズルと、第2スカートが、順次配置されている。円筒電極の外周面には、連続シート状の被処理物が巻き付けられ、かつ円筒電極が軸線まわりに回転することで、被処理物が処理空間を通過するように搬送される。そして、凹面電極と円筒電極との間に電界が印加されて大気圧グロー放電が生成されるとともに、処理ガスが処理ガスノズルから処理空間に導入されてプラズマ化される。プラズマ化した処理ガスが、処理空間内の被処理物に接触し、被処理物が表面処理される。処理済みのガスは、吸引ノズルに吸引される。同時に、不活性ガスノズルからAr等の不活性ガスを吹き出し、該不活性ガスノズルと円筒電極との間の隙間の圧力を処理空間より高圧にすることで、処理ガスが処理空間とは逆側へ流れるのを防止している。更に、第1、第2スカートと円筒電極との間の隙間をそれぞれ処理空間の厚さより狭く設定することで、これら隙間からの処理ガスの漏れを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−309870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被処理物をプラズマ表面処理するにあたり、処理ガスのレシピ管理は重要である。特に大気圧近傍下でのプラズマ処理においては、処理ガスに空気等の雰囲気ガスが混入しやすい。特に、近年では被処理物の搬送速度を大きくする傾向があり、空気等の雰囲気ガスが被処理物と一緒に処理空間に巻き込まれやすい。空気等の雰囲気ガスには酸素や水蒸気が含まれており、これが処理ガスに混入すると、良好な表面処理を妨げられるおそれがある。
本発明は、簡易な構成で雰囲気ガスの処理空間への流入を防止し、表面処理を良好に行なうことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するために、本発明は、大気圧近傍の処理空間内で電界印加によって処理ガスをプラズマ化(励起、分解、活性化、ラジカル化、イオン化を含む)するとともに、前記処理空間内を通る被処理物に前記処理ガスを接触させることにより、前記被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、
第1方向と直交する平面状の放電面を有する前記電界印加のための第1電極と、
軸線を前記第1方向と直交する処理幅方向に向けた円筒形状をなして前記第1電極との間に前記処理空間を形成し、かつ前記軸線のまわりに回転することで前記被処理物を搬送する第2電極と、
前記第1電極の前記第1方向及び前記処理幅方向の何れとも直交する第2方向の一側部(第1側)に配置され、前記処理空間に前記処理ガスを導入する吹出し部と、
前記第1電極の前記第2方向の他側部(第2側)に配置され、前記放電面又は前記放電面を覆う固体誘電体層の前記処理空間を画成する面よりも前記第2電極に向けて前記第1方向に突出する遮蔽部材と、
を備え、前記遮蔽部材の突出量が、前記処理空間の最も狭い部分の厚さより大きいことを特徴とする。
これによって、処理空間の内圧を高めて、処理空間内に空気等の雰囲気ガスが流入するのを抑制又は防止でき、処理ガスへの不純物混入を0〜微量にできる。したがって、環境(雰囲気ガスの状態)に影響されることなく、良好な表面処理を行なうことができる。また、上記雰囲気ガスの流入防止のために吸引排気機構を設ける必要がなく、装置構成を簡素化できる。更には、放電面を平面にすることで、前記第1電極の構造を簡素化できる。
【0006】
前記遮蔽部材の突出量は、好ましくは2mm以上であり、より好ましくは3mm以上である。これによって、処理空間内への雰囲気ガス流入を一層確実に抑制又は防止できる。前記遮蔽部材の突出量の上限は、前記遮蔽部材の突出端が前記第2電極に当たらないように設定し、更には、前記遮蔽部材の突出端と前記第2電極との間の隙間が前記被処理物の厚さより大きくなるように設定する。これによって、前記隙間に前記被処理物を通すことができる。
【0007】
前記被処理物の搬送速度は、例えば20m/min〜40m/min程度の高速である。そのため、空気等の雰囲気ガスの巻き込み作用が大きい。これに対して、前記突出部を設けることで、雰囲気ガスの巻き込み量を確実に抑制でき、処理ガスへの不純物混入量を確実に微量にできる。例えば、濡れ性向上処理においては、前記高速搬送による巻き込み作用と前記突出部による巻き込み抑制作用とが相俟って、窒素等の処理ガスに大気から微量の酸素を添加することができ、この結果、濡れ性を顕著に向上させることができる。
【0008】
前記吹出し部が、前記第1電極よりも前記被処理物の搬送方向の上流側に配置されていることが好ましい。前記遮蔽部材が、前記第1電極よりも前記被処理物の搬送方向の下流側に配置されていることが好ましい。これによって、処理空間の下流側において処理ガスの流れを邪魔することで、処理空間の内圧を周辺の環境圧より確実に高圧にできる。したがって、処理空間への雰囲気ガス流入を確実に抑制又は防止できる。
【0009】
前記吹出し部が、前記処理空間に向かって開口する吹出し口を含むことが好ましい。これによって、処理ガスを前記吹出し口から処理空間に直接的に導入できる。前記吹出し部が、前記放電面又は前記固体誘電体層の前記処理空間を画成する面よりも前記第2電極に向けて前記第1方向に突出する突出部を有し、前記突出部の前記処理空間を向く側面に前記吹出し口が開口していることが好ましい。これによって、前記被処理物の搬送に伴なう雰囲気ガスの巻き込みを防止できるだけでなく、処理ガスの吹出し流に乗って雰囲気ガスが処理空間に引き込まれるのを防止できる。
【0010】
ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理空間内に雰囲気ガスが流入するのを抑制又は防止でき、処理ガスへの不純物混入を低減できる。したがって、良好な表面処理を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置を示す側面断面図である。
【図2】図2は、上記プラズマ処理装置の斜視図である。
【図3】図3は、上記プラズマ処理装置の処理空間を拡大して示す側面断面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の第3実施形態に係るプラズマ処理装置を示す側面図である。
【図6】図6は、処理ガス吹出し部及びカーテンガス吹出し部の先端構造の変形例を示す側面断面図である。
【図7】図7は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図3は、本発明の第1実施形態を示したものである。図1及び図2に示すように、プラズマ処理装置1は、プラズマヘッド10と、第2電極21を備えている。これら第2電極21とプラズマヘッド10が上下(第1方向)に対向し、互いの間に処理空間90が形成されている。この処理空間90に被処理物9が通され、被処理物9のプラズマ表面処理がなされる。この実施形態における表面処理内容は、例えば被処理物9の表面の濡れ性向上(親液化)処理である。被処理物9は、連続シート状の樹脂フィルムであり、例えば偏光板用の光学フィルムや電子装置のフレキシブル配線等として適用される。被処理物9の幅(図1の紙面と直交する処理幅方向の寸法)は、例えば数十mm〜数千mmである。被処理物9の厚さは、数百μm程度である。図3において、被処理物9の厚さは、誇張されている。
【0014】
プラズマヘッド10は、第1電極11と、ホルダ13と、ベース14を含む。第1電極11は、四角形の断面形状をなして、図1の紙面と直交する処理幅方向(第1方向と直交する方向)に延びている。第1電極11の上面が放電面11aを構成する。放電面11aは、第1方向と直交する平面をなして処理幅方向に延びている。第1電極11の内部には温調路11cが形成されている。温調路11cに冷却水等の温調媒体を流通させることで、電極11を温調できる。
【0015】
第1電極11の処理幅方向の長さは、被処理物9の幅寸法に応じて設定され、例えば数十mm〜数千mmである。第1電極11の短手方向(第1方向及び処理幅方向の何れとも直交する第2方向、図1の左右方向)の長さは、例えば十数mm〜数十mmである。
【0016】
第1電極11には電源2が接続されている。これによって、第1電極11が電界印加電極になっている。電源2は、例えばパルス波(間欠波)状の高周波電力を第1電極11に供給する。供給電力は、パルス波の間欠波状に限定されるものではなく、正弦波等の連続波状であってもよい。
【0017】
第1電極11上に固体誘電体層12が配置されている。固体誘電体層12が、放電面11aに密着して放電面11aの全体を覆っている。固体誘電体層12は、アルミナ等の固体誘電体からなる平らな板にて構成されている。固体誘電体層12の厚さは、例えば約1mm〜数mm程度である。板状の固体誘電体層12は、放電面11aより面積が大きく、第1電極11よりも処理幅方向の両側及び第2方向の両側に延び出ている。固体誘電体層12の処理幅方向の長さは、例えば数十mm〜数千mmである。固体誘電体層12の第2方向の長さは、例えば数十mm〜数百mmである。
【0018】
第1電極11は、ホルダ13にて保持されている。ホルダ13は、樹脂やセラミックス等の絶縁体にて構成されている。ホルダ13には凹部13aが形成されている。凹部13aは、ホルダ13の上面に開口している。凹部13aに第1電極11が収容されている。ホルダ13の上面と放電面11aとは面一になっている。固体誘電体層12が、ホルダ13の上面をも覆っている。
【0019】
第2電極21は、軸線を処理幅方向に向けた円筒形状になっている。第2電極21の処理幅方向の長さは、被処理物9の幅寸法に応じて設定され、かつ第1電極11の処理幅方向の長さとほぼ同じかそれより大きく、例えば数十mm〜数千mmである。第2電極21の直径は、第1電極11の第2方向(短手方向)の長さより充分に大きく、更にはプラズマヘッド10の第2方向の寸法よりも大きく、例えば数十mm〜数百mmである。
【0020】
第2電極21は、接地線2eを介して電気的に接地されている。これによって、第2電極21は、接地電極を構成している。上記電源2からの電圧供給によって、第1電極11と第2電極21との間に電位差を形成してプラズマ放電91を発生させることができる。
【0021】
図3に示すように、第2電極21の円筒形の外周面の全体が固体誘電体層22(図1において省略)にて被覆されている。固体誘電体層22は、例えばアルミナの溶射膜に構成されている。固体誘電体層22の厚さは、例えば約1mm〜数mm程度である。
【0022】
電極11,21どうしの間には、大気圧近傍(大気圧を含む)の処理空間90が形成されている。詳細には、第1電極11の固体誘電体層12の上面と、第2電極21の固体誘電体層22の下側の外周面とによって、処理空間90が画成されている。処理空間90は、第2電極21の軸線の直下において最も狭くなっている。この最狭部90aから第2方向に離れるにしたがって処理空間90の厚さが漸次大きくなっている。最狭部90aの厚さgは、例えばg=約1mm〜数mm程度である。処理空間90の第2方向の両端部及び処理幅方向の両端部がプラズマ処理装置1の周辺空間に連通している。
【0023】
第2電極21は、図示しない回転駆動部に連結されている。この回転駆動部によって第2電極21がその軸線まわりに回転される。連続シート状の被処理物9が、第2電極21の下側の周面に掛け回され、処理空間90に通されている。第2電極21の回転によって、被処理物9が搬送される。ここでは、図1において、第2電極21が反時計回りに回転され、被処理物9が概略右方向に搬送される。被処理物9の搬送速度は、比較的大きく、例えば20m/min〜40m/min程度である。なお、一般的な搬送速度は、数m/min程度〜十数m/minである。
【0024】
プラズマヘッド10における第1電極11の第2方向の第1側部(一側部、図1において左)には、処理ガス吹出し部30が配置されている。吹出し部30は、第1電極11よりも被処理物9の搬送方向の上流側に位置する。吹出し部30は、鉛直な板状の部材にて構成されている。吹出し部30の第1電極11を向く側面(図1において右側面)に、固体誘電体層12の第1側の端面及びホルダ13の第1側の側面が当たっている。吹出し部30の上端部31が、固体誘電体層12の上面(処理空間90の底部を画成する画成面)よりも第2電極21に向けて上(第1方向)に突出し、第2電極21に近接している。この突出部31の第1電極11を向く鉛直な側面が、処理空間90の第2方向の第1側の端部(図1において左端部)を画成している。突出部31の固体誘電体層12からの突出量は、最狭部90aの厚さgより大きい。吹出し部30の上端面は、水平になっている。吹出し部30の上端面と第2電極21の下側の周面との間に隙間93が形成されている。隙間93は、処理空間90との連通部において最も狭くなっている。隙間93の最も狭くなった部分の上下の厚さは、例えば数mm程度であり、処理空間90の最狭部90aの厚さとほぼ同じでもよく、最狭部90aの厚さより小さくてもよく、最狭部90aの厚さより大きくてもよい。
【0025】
吹出し部30の内部に処理ガス導入路32が形成されている。処理ガス導入路32の基端部(図1において下端)に処理ガス源3が接続されている。詳細な図示は省略するが、処理ガス導入路32は、処理ガス源3からの処理ガスを吹出し部30内において処理幅方向に分散させる分散路を含む。処理ガス導入路32に処理ガス吹出し口33が連なっている。吹出し口33は、処理幅方向に分散して配置された複数の小孔で構成されていてもよく、処理幅方向に延びるスロットにて構成されていてもよい。吹出し口33は、処理ガス導入路32から処理空間90に向かって第2方向の内側へ、かつ若干斜め上へ延びている。この吹出し口33が、突出部31の第1電極11を向く側面に達している。したがって、吹出し口33は、処理空間90の第2方向の一端部(図1において左)に向かって開口し、処理空間90に直接連なっている。
【0026】
処理ガスの組成は、被処理物9の表面処理内容に応じて適宜選択される。濡れ性向上処理の場合、処理ガスは、窒素(N)を主成分として含むことが好ましい。ここでは、処理ガスが窒素100%にて構成されている。
【0027】
吹出し部30の第2方向の外側部(第1電極11側とは反対側)には、カーテンガス吹出し部40が設けられている。カーテンガス吹出し部40は、鉛直な板状の部材にて構成され、吹出し部30の外側面にぴったり重ねられている。吹出し部30,40の合計厚さ(第2方向の寸法)は、数十mm〜百mm程度である。カーテンガス吹出し部40の上端面は、処理ガス吹出し部30の上端面と面一の水平面になっている。吹出し部40の上端面と第2電極21の下側の周面との間に隙間94が形成されている。処理空間90が、隙間93,94を介して、プラズマ処理装置1より第2方向の第1側(図1において左)の周辺空間に連なっている。
【0028】
吹出し部40の内部にカーテンガス導入路42が形成されている。カーテンガス導入路42の基端部(図1において下端)にカーテンガス源4が接続されている。カーテンガスとして、例えば窒素等の不活性ガスが用いられている。処理ガス源3とカーテンガス源4とが、共通の窒素ガス源にて構成されていてもよい。詳細な図示は省略するが、導入路42は、カーテンガス源4からのカーテンガスを吹出し部40内において処理幅方向に分散させる分散路を含む。導入路42にカーテンガス吹出し口43が連なっている。カーテンガス吹出し口43は、処理幅方向に分散して配置された複数の小孔にて構成されていてもよく、処理幅方向に延びるスロットにて構成されていてもよい。吹出し口43は、導入路42から上へ向かって延び、吹出し部40の上端面に達して、隙間94に向かって開口している。
【0029】
プラズマヘッド10における吹出し部30とは第2方向の反対側の第2側部(他側部、図1において右)には、遮蔽部材50が配置されている。遮蔽部材50は、第1電極11よりも被処理物9の搬送方向の下流側に位置する。遮蔽部材50は、鉛直な板状になっている。遮蔽部材50の第2方向の厚さは、特に限定が無いが、好ましくは吹出し部30,40の厚さより充分に小さく、例えば数mm〜十数mm程度である。遮蔽部材50の第1電極11を向く側面(図1において左側面)に、固体誘電体層12の第2側の端面及びホルダ13の第2側の側面が当たっている。遮蔽部材50の上端部51が、固体誘電体層12の上面(処理空間90の底部を画成する面)よりも上(第2電極21に向けて第1方向)に突出し、第2電極21に近接している。突出部51の第1電極11を向く鉛直な側面が、処理空間90の第2方向の第2側の端部(図1において右端部)を画成している。遮蔽部材50の固体誘電体層12からの突出量h(突出部51の高さ)は、最狭部90aの厚さgより大きい(h>g)。好ましくは、遮蔽部材50の突出量hは、2mm以上であり(h≧2mm)、好ましくは3mm以上である(h≧3mm)。また、突出量hは、吹出し部30の突出部31の固体誘電体層12からの突出量と同じかそれ以上である。
【0030】
遮蔽部材50の上端面と第2電極21の下側の周面との間に隙間95が形成されている。隙間95の上下の厚さは、被処理物9を通すことができる大きさであれば、特に限定が無く、処理空間90の最狭部90aの厚さとほぼ同じでもよく、最狭部90aの厚さより小さくてもよく、最狭部90aの厚さより大きくてもよい。ここでは、隙間95の上下の厚さは、約1mm〜十数mm程度である。処理空間90が、隙間95を介して、プラズマ処理装置1より第2方向の第2側(図1において右)の周辺空間に連なっている。
プラズマヘッド10には使用済みの処理ガス等を吸引する吸引排気機構が設けられていない。
【0031】
上記のように構成されたプラズマ処理装置1を用いて、被処理物9を表面処理する方法を説明する。
被処理物9を第2電極21の下側の周面に抱かせ、第2電極21を例えば図1において反時計回りに回転させることで、被処理物9を右方向に例えば20m/min〜40m/min程度の高速で搬送する。電源2から第1電極11に高周波電力を供給し、第1電極11及び第2電極21の間に電界を印加する。これにより、処理空間90内の第2方向の中央部(第1電極11に対応する部分91)に大気圧近傍のプラズマ放電91を生成する。
【0032】
上記の電圧供給と併行して、処理ガス(N)を処理ガス源3から処理ガス導入路32に送り、処理ガス導入路32において処理幅方向に分散させる。この処理ガスを、吹出し口33から吹き出す。吹出し口33は処理空間90の第1側の端部(図1において左端)に開口しているから、処理ガスを処理空間90に直接的に導入でき、さらには処理ガスをプラズマ放電部91に向けて確実に流すことができる。しかも、処理ガスの流れは処理幅方向に均一な状態になる。この処理ガスが、プラズマ放電部91にてプラズマ化(励起、分解、活性化、ラジカル化、イオン化等を含む)される。このプラズマ化された処理ガス(窒素プラズマ)が、第2電極21の下側の周面上の被処理物9に接触する。これによって、被処理物9の表面をプラズマ処理(濡れ性向上処理)できる。第2電極21の回転によって被処理物9を連続的に処理空間90に通すことで、被処理物9をその延び方向にプラズマ処理できる。また、吹出し口33からの吹き出し流を処理幅方向に均一な状態にでき、更には処理空間90及び隙間93,94,95の上下厚さ等を処理幅方向に均一な大きさに設定することで、被処理物9の処理度合いを処理幅方向に均一にすることができる。
【0033】
プラズマヘッド10より第1側すなわち搬送方向の上流側の空気(雰囲気ガス)は、被処理物9との粘性によって、被処理物9と一緒に処理空間90内に巻き込まれようとする。特に、搬送速度が高速(例えば20m/min〜40m/min程度)であるために、上記巻き込み作用も大きい。これに対して、処理空間90は、第2電極21と固体誘電体層12と突出部31,51とによってほぼ閉じた空間になっているから、処理ガスを処理空間90内に充填して加圧できる。これによって、処理空間90の内圧を大気圧近傍の範囲内でプラズマ処理装置1の周辺空間の圧力(環境圧)より高くできる。特に、遮蔽部材50の突出部51によって処理ガスの流れを処理空間90の下流端において邪魔してほぼ堰き止めることで、処理空間90の内圧を環境圧より確実に高圧にできる。これによって、搬送速度が高速であっても、上記空気が処理空間90内に流入するのを充分に抑制でき、処理ガスへの空気混入量を微量にすることができる。突出部51の突出高さhを放電ギャップgより大きくし、好ましくはh≧2mm、より好ましくはh≧3mmとすることで、処理空間90への空気流入を確実に抑制でき、処理ガスへの空気混入量を確実に微量にできる。
【0034】
処理空間90の上流側(第1側)では、吹出し部30の突出部31によって、上記被処理物9の搬入に伴なう空気の巻き込みを直接的に阻むことができる。また、上記上流側の空気が処理ガスの吹出しに伴なって処理空間90に引き込まれるのを防止できる。更には、カーテンガス源4からのカーテンガス(N)を吹出し口43から吹き出す。これによって、処理空間90の上流側にガスカーテンを形成でき、上記空気の巻き込みを確実に阻むことができる。したがって、処理ガスへの空気混入量を一層確実に微量にできる。
【0035】
そして、処理空間90内に充填された処理ガスは、各隙間93,94,95から外部へ排出され、更には処理空間90の処理幅方向の両端部からも外部へ排出される。この排出の流れによって、処理空間90に向かう空気を押し戻すことができ、処理空間90への空気流入を一層確実に抑制できる。
【0036】
この結果、処理空間90内における酸素濃度を例えば100ppm〜1000ppm程度の微量にできる。酸素濃度を1000ppm以下に抑えることで、処理性能が損なわれるのを確実に防止できる。しかも、窒素100%からなる処理ガスに大気から微量の酸素を添加することによって、被処理物9の濡れ性を顕著に向上させることができる。
本プラズマ処理装置1によれば、空気の流入防止のためにプラズマヘッド10に吸引排気機構を設ける必要がなく、装置構成を簡素化できる。更には、放電面11aを平面にすることで、第1電極11の構造を簡素化できる。
【0037】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
プラズマヘッド10の第2電極21に対する配置場所は、第2電極21の下側に限られない。図4に示す第2実施形態では、プラズマヘッド10が、第1実施形態のものに対して右に90度回転され、第2電極21の右側部に配置されている。プラズマヘッド10内の第1電極11と第2電極21とが左右に対向している。したがって、第2実施形態における第1方向は水平に向いている。第2方向(第1方向とも処理幅方向とも直交する方向)は、鉛直に向いている。
【0038】
プラズマヘッド10は、1つに限られず、複数(2以上)であってもよい。図5に示す第3実施形態では、プラズマ処理装置1が、2つのプラズマヘッド10を含む。これらプラズマヘッド10が第2電極21の周方向に間隔を置いて配置されている。プラズマヘッド10ごとに第1方向(電極11,21どうしの対向方向)及び第2方向(前記対向方向及び処理幅方向の何れとも直交する方向)が定まる。各プラズマヘッド10と第2電極21との間に処理空間90が形成されている。プラズマ処理装置1全体では、2つの処理空間90が第2電極21の周方向に間隔を置いて形成されている。したがって、被処理物9を第2電極21の周方向に搬送する間に2つの処理空間90にて二回の表面処理を行なうことができる。これによって、被処理物9に対する表面処理度を一層高めることができる。1段目(搬送方向の上流側)のプラズマヘッド10での表面処理内容と2段目(搬送方向の下流側)のプラズマヘッド10での表面処理内容とが互いに異なっていてもよい。
プラズマヘッド10の数ひいては処理空間90の数は、3つ以上でもよい。
【0039】
図6は、吹出し部30,40の変形例を示したものである。この変形例では、吹出し部30の上端面が第2電極21の周面に沿うように斜めになっている。そのため、第2電極21と吹出し部30の間の隙間93が全体的にほぼ同じ厚さになっている。同様に、吹出し部40の上端面が第2電極21の周面に沿うように斜めになっており、第2電極21と吹出し部40との間の隙間94が全体的にほぼ同じ厚さになっている。吹出し部40の上端面の傾斜角度は、吹出し部30の上端面の傾斜角度より大きい。この変形例によれば、隙間94,93の流通抵抗を高くでき、外部の空気等の雰囲気ガスが隙間94,93を通して処理空間90に流入するのを一層確実に抑制又は防止できる。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様を採用できる。
例えば、固体誘電体層は電極11,21の少なくとも一方に設けられていればよい。固体誘電体層12又は22の何れか一方を省略してもよい。固体誘電体層12を省略する場合、遮蔽部材50は、放電面11aよりも第2電極21に向けて第1方向に突出していればよい。
遮蔽部材50が、第1電極11に対して被処理物9の搬送方向の上流側に配置されていてもよい。吹出し部30が、第1電極11に対して被処理物9の搬送方向の下流側に配置されていてもよい。
被処理物9の搬送速度は、20m/min〜40m/minに限られず、20m/minより小さくてもよく、40m/minより大きくてもよい。
本発明は、濡れ性向上処理に限られず、撥水化等のその他の表面改質処理、洗浄、成膜等の種々の表面処理に適用できる。
【実施例1】
【0041】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
実施例1では、第1実施形態(図1〜図3)と実質的に同じ構造の装置を用いて、遮蔽部材50の突出量hに対する処理空間90内への混入酸素量を調べた。
第2電極21の下端の処理空間90の最狭部90aの厚さは、1mm程度であった。
遮蔽部材50の突出量hを、h=0〜6mmの範囲で調節した。
被処理物9の搬送速度は、20m/minと40m/minの2通りとした。
処理ガスとして窒素(N)100%を用いた。
処理幅方向の単位長さあたり(1m)の処理ガスの供給流量は、7slmであった。
【0042】
結果を図7に示す。突出部51の突出量hを放電ギャップgより大きくすることで(h>g)、処理空間90内への空気流入を抑制でき、処理空間90内の酸素濃度を大きく低減できることが確認された。突出量h=2mmで酸素濃度の低減効果を発現できた。突出量hを3mm以上とすると(h≧3mm)、酸素濃度を確実に低減できることが確認された。また、搬送速度が高速であるほど、酸素濃度の低減効果が大きかった。
【実施例2】
【0043】
実施例2では、第1実施形態(図1〜図3)と実質的に同じ構造の装置を用いて、カーテンガスの効果を調べた。
吹出し部40からのカーテンガスの吹出し流量を0〜80L/minの範囲で調節した。
プラズマヘッド10及び第2電極21の処理幅方向の長さは2m程度であった。
被処理物9の搬送速度は、20m/minと、30m/minと、40m/minの3通りとした。
遮蔽部材50の突出量hは、h=6mmであった。
その他の装置構成及び処理条件は実施例1と同じであった。
【0044】
結果を図8に示す。搬送速度が30m/min以上の高速の場合、カーテンガスの流量を大きくするにしたがって、処理空間90内への空気流入をより抑制でき、処理空間90内の酸素濃度をより低減できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は、例えば光学フィルムの接着性改善処理やフレキシブル配線材の表面処理に適用可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 プラズマ処理装置
2 電源
2e 接地線
3 処理ガス源
4 カーテンガス源
9 被処理物
10 プラズマヘッド
11 第1電極
11a 放電面
11c 温調路
12 固体誘電体層
13 ホルダ
13a 凹部
14 ベース
21 第2電極
22 固体誘電体層
30 処理ガス吹出し部(吹出し部材)
31 突出部
32 処理ガス導入路
33 処理ガス吹出し口
40 カーテンガス吹出し部
42 カーテンガス導入路
43 カーテンガス吹出し口
50 遮蔽部材
51 突出部
90 処理空間
90a 最狭部
91 プラズマ放電部
93 隙間(30と21の間)
94 隙間(40と21の間)
95 隙間(50と21の間)
処理空間の最狭ギャップ
h 突出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧近傍の処理空間内で電界印加によって処理ガスをプラズマ化するとともに、前記処理空間内を通る被処理物に前記処理ガスを接触させることにより、前記被処理物の表面をプラズマ処理するプラズマ処理装置において、
第1方向と直交する平面状の放電面を有する前記電界印加のための第1電極と、
軸線を前記第1方向と直交する処理幅方向に向けた円筒形状をなして前記第1電極との間に前記処理空間を形成し、かつ前記軸線のまわりに回転することで前記被処理物を搬送する第2電極と、
前記第1電極の前記第1方向及び前記処理幅方向の何れとも直交する第2方向の一側部に配置され、前記処理空間に前記処理ガスを導入する吹出し部と、
前記第1電極の前記第2方向の他側部に配置され、前記放電面又は前記放電面を覆う固体誘電体層の前記処理空間を画成する面よりも前記第2電極に向けて前記第1方向に突出する遮蔽部材と、
を備え、前記遮蔽部材の突出量が、前記処理空間の最も狭い部分の厚さより大きいことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材の突出量が、3mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記被処理物の搬送速度が、20m/min〜40m/min程度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記遮蔽部材が、前記第1電極よりも前記被処理物の搬送方向の下流側に配置されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記吹出し部が、前記放電面又は前記固体誘電体層の前記処理空間を画成する面よりも前記第2電極に向けて前記第1方向に突出する突出部を有し、前記突出部の前記処理空間を向く側面に、前記処理ガスを吹き出す吹出し口が開口していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−37811(P2013−37811A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171128(P2011−171128)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】