説明

プラズマ構成元素分析装置

【課題】プラズマ挙動を細かく把握、解析でき、プラズマの安定化技術の向上につながるプラズマ構成元素分析装置を提供する。
【解決手段】プラズマの構成元素を分析するプラズマ構成元素分析装置1であって、プラズマ光を集光する集光レンズ2と、集光レンズ2からの光を2つの光路に分離するスプリッタ4と、一方の光路3aに設けられ、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラ5と、他方の光路3bに設けられ、入力スリットを介したスペクトルを、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として撮影する第2の高速度カメラ6と、両高速度カメラ5、6から出力される画像信号を同期化して記憶する制御部7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロー放電によるスパッタリング法やアーク放電による成膜法等で発生させるプラズマの構成元素の分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを利用した成膜装置においては、プラズマを構成する元素の分布を的確に把握しておくことが重要であり、前記元素の分布を解析することでプラズマ挙動の安定化技術、つまり高品質の成膜技術に貢献できるものと期待される。
【0003】
発光強度を利用した従来の元素の分析技術としては特許文献1が挙げられるが、この技術では元素の同定は可能であるが、元素の位置情報、つまり元素の分布状態は把握できない。一方、特許文献2には、複数の検出コイルに誘起される誘導電流を検出することでアークの位置を検出する技術が記載されている。
【特許文献1】特開平5−273128号公報
【特許文献2】特開2002−241927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の技術においても、アーク、つまりプラズマのおおよその位置を検出することはできるが、プラズマを構成する元素の細かい分布状態を把握することはできない。
【0005】
本発明は、このような問題を解消するために創作されたものであり、プラズマ挙動を細かく把握、解析でき、プラズマの安定化技術の向上につながるプラズマ構成元素分析装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、プラズマの構成元素を分析する装置であって、プラズマ光を集光する集光レンズと、集光レンズからの光を2つの光路に分離するスプリッタと、一方の光路に設けられ、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラと、他方の光路に設けられ、入力スリットを介したスペクトルを、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として撮影する第2の高速度カメラと、両高速度カメラから出力される画像信号を同期化して記憶する制御部と、を備えることを特徴とするプラズマ構成元素分析装置とした。
【0007】
このプラズマ構成元素分析装置によれば、プラズマ光を構成する各元素を同定することができ、また各元素の位置(分布)を知ることができる。これらの元素に関するデータとプラズマ光の実像画像とを解析することで、プラズマ挙動に対する各元素の影響度を評価でき、プラズマの安定化技術を効率的に向上させることができる。したがって、スパッタリング装置等の成膜装置について適用した場合には、均一で不純物のない膜生成など、膜品質の向上に貢献する。
【0008】
また本発明は、前記入力スリットのスリット形成方向を、電場に対して平行に設定したことを特徴とするプラズマ構成元素分析装置とした。
【0009】
このプラズマ構成元素分析装置によれば、プラズマの発生・収束方向での元素の同定、元素の分布特定が可能となり、プラズマ挙動に対する各元素の影響度を効果的に評価できる。
【0010】
また本発明は、前記制御部は、前記第2の高速度カメラから出力された画像信号と、各元素固有の波長データを記憶したデータベースとを照合し、プラズマ光を構成する任意の一元素について、空間軸および発光強度に関するグラフを表示装置に表示させることを特徴とするプラズマ構成元素分析装置とした。
【0011】
このプラズマ構成元素分析装置によれば、プラズマ挙動に対する各元素の影響度の解析が容易となる。
【0012】
また本発明は、前記第2の高速度カメラで撮影された分光スペクトル画像の各画素値を時間毎に平均化して、プラズマ光を構成する各元素の分布を求め、この求めた各元素の分布が、予め設定した分布の許容範囲にあるか否かによりプラズマ濃度分布状態の良・不良を判定する判定手段を備えることを特徴とするプラズマ構成元素分析装置とした。
【0013】
このプラズマ構成元素分析装置によれば、プラズマ濃度分布を高品位に管理できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プラズマ挙動に対する各元素の影響度を評価でき、プラズマの安定化技術を効率的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、スパッタにおけるプラズマを分析する場合の実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明に係るプラズマ構成元素分析装置の構成ブロック図、図2は入力スリットによる分光作用およびそれによって得られる分光スペクトル画像のイメージ図である。
【0016】
図1において、符号31はスパッタリング装置であり、符号32は陽極、符号33は基板、符号34はターゲット、符号35は陰極、符号36は、基板33とターゲット34との間に発生させるプラズマ雰囲気を示している。
【0017】
本発明に係るプラズマ構成元素分析装置1は、プラズマ光を集光する集光レンズ2と、集光レンズ2からの光を2つの光路(第1光路3a、第2光路3b)に分離するスプリッタ4と、一方の光路(第1光路3a)に設けられ、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラ5と、他方の光路(第2光路3b)に設けられ、入力スリット10(図2参照)を介したスペクトルを、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として撮影する第2の高速度カメラ6と、両高速度カメラ5、6から出力される画像信号を同期化して記憶する制御部7と、を備える。
【0018】
図1に示した構成を基に具体的に説明すると、集光レンズ2は、プラズマ雰囲気36の撮影を可能とするように設置される。スプリッタ4としては、異なる射光方向が得られる公知のビームスプリッタが適用可能である。なお、第1光路3aにおいて、必要に応じて、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラ5の前に、一部の幅の波長光のみ透過させるバンドパスフィルタ8を設けてもよい。
【0019】
第2光路3bにおいて、分光スペクトル画像を撮影する第2の高速度カメラ6の前にはスリット分光器9が設けられる。スリット分光器9の概略的な一構造例としては、図2に示すように、光が入力スリット10を通過することで得られるスペクトルをレンズ11で整える等である。スリット分光器9では例えば400nm〜1000nmの波長光を分光する。入力スリット10の位置やスリット形成方向は任意に変更することができる。
【0020】
高速度カメラ6には、光電素子13に入ってくる光を制限する時間分解機能を有した高速度シャッター12が設けられている。プラズマ光が不安定で瞬間的に消えてしまうような場合、高速度カメラ6の時間分解機能が低いと、分光スペクトルが得られない場合も平均値化されやすくなるので、安定した結果が得にくくなる。このことから、高速度シャッター12の時間分解機能としては、1秒間当たり60〜100000コマ撮影可能な機能を有しているものが良い。実際の撮影では、1秒間当たり500〜10000コマ程度に設定することが望ましく、より望ましくは1秒間当たり1000コマ〜6000コマ程度である。光電素子13では、スリット分光器9から入ってきたスペクトルが、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として映像化される。光電素子13としてはCCD等である。分光スペクトル画像の空間軸の長さは入力スリット10のスリット長さに対応している。
【0021】
図1において、高速度カメラ5の構成も高速度カメラ6と同一であり、高速度カメラ5側の光電素子13においては、プラズマ光(プラズマ雰囲気36)の実像が映像化される。
【0022】
2台の高速度カメラ5、6はトリガー14で互いに連動している。つまり、トリガー14は、2つの高速度シャッター12をスタート時から同期させ、光電素子13から出力される電気信号(画像信号)を処理するCPU15とも連動することで、高速度カメラ5の光電素子13から出力される画像信号、すなわちプラズマ光(プラズマ雰囲気36)の実像と、高速度カメラ6の光電素子から出力される画像信号、すなわち分光スペクトル画像とを同期させる。同期した2つの画像信号はメモリ16に記憶される。
【0023】
図3は、第2の高速度カメラ6で撮影される分光スペクトル画像のイメージ図であり、勿論、前記入力スリット10(図3では仮想線にて示す)を介して入光した分についての分光スペクトルを示している。この例では、入力スリット10のスリット形成方向を電場方向、つまり電場に対して平行に設定している。プラズマ雰囲気36としては、例えば1〜10−2Torr程度の不活性ガス(例えばAr)中で基板33とターゲット34との間に数100Vの電圧を加えることで生成し、イオン化したArがターゲット34に向かって加速、衝突する際に生ずるプラズマ光が分析対象の一例となる。なお、前記したように、入力スリット10の位置やスリット形成方向は任意に変更可能であり、例えばスリット形成方向を電場に対して直交する方向にすることもできる。
【0024】
図1において、制御部7では、分光スペクトル画像から得られる分光スペクトル(校正処理済み)を基にプラズマ光の構成元素を同定する。各元素はそれぞれ波長光が決まっており、実像画像に対する前記入力スリット10の位置はわかっていることから、どの元素がどの位置に分布しているかが割り出されることとなる。また、プラズマ光を構成する任意の一元素(例えばAr)について、図5に示すように、空間軸および発光強度に関してグラフ化することもできる。制御部7は、例えばこのグラフを表示装置(モニタや印刷装置)に表示させる機能を有する。グラフは例えば一定時間の平均値として出力される。
【0025】
以上のように、プラズマ光を集光する集光レンズ2と、集光レンズ2からの光を2つの光路(第1光路3a、第2光路3b)に分離するスプリッタ4と、一方の光路(第1光路3a)に設けられ、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラ5と、他方の光路(第2光路3b)に設けられ、入力スリット10を介したスペクトルを、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として撮影する第2の高速度カメラ6と、両高速度カメラ5、6から出力される画像信号を同期化して記憶する制御部7と、を備えるプラズマ構成元素分析装置1とすれば、プラズマ光を構成する各元素を同定することができ、また各元素の位置や分布を知ることができる。これらの元素に関するデータとプラズマ光の実像画像とを解析することで、プラズマ挙動に対する各元素の影響度を評価でき、プラズマの安定化技術を効率的に向上させることができる。
【0026】
また、入力スリット10のスリット形成方向を電場に対して平行に設定すれば、プラズマの発生・収束方向での元素の同定、元素の分布特定が可能となり、プラズマ挙動に対する各元素の影響度を効果的に評価できる。
【0027】
また、制御部7に、第2の高速度カメラ6から出力された画像信号と、各元素固有の波長データを記憶したデータベース(図示せず)とを照合し、プラズマ光を構成する任意の一元素について、空間軸および発光強度に関するグラフ(例えば図5のグラフ)をモニタや印刷装置等の表示装置に表示させる機能を付加すれば、プラズマ挙動に対する各元素の影響度の解析が容易となる。空間軸および発光強度に関するグラフ、つまり発光強度の分布データを採取することでプラズマ濃度を決める因子(電流値等)の制御の解析が容易となり、スパッタ膜厚の制御として、時間制御だけでなくプラズマ濃度の制御(電流値の制御)を容易に行えることになる。
【0028】
さらに、第2の高速度カメラ6で撮影された複数の分光スペクトル画像を図4(元素分布の時間的データ処理のイメージ図)に示すように平均化して、つまり、分光スペクトル画像の各画素値を時間毎に平均化して、プラズマ光を構成する各元素の分布を求め、この求めた各元素の分布が、予め設定した分布の許容範囲にあるか否かによりプラズマ濃度分布状態の良・不良を判定手段17を備えるプラズマ構成元素分析装置1とすれば、プラズマ挙動を高品位に管理できる。前記判定手段17は、図1に示すように、制御部7のCPU15内としても良いし、別途のCPUとしても良い。
【0029】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。入力スリット10の位置やスリット形成方向を変える都度、データを蓄積、解析することで、より緻密にプラズマ挙動に対する各元素の影響度を評価できることになる。
また、図1において、スリット分光器9と第2の高速度カメラ6とを別体の要素として示したが、両者が一体式のものであっても良い。
その他、本発明は図面に記載されたものに限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るプラズマ構成元素分析装置の構成ブロック図である。
【図2】入力スリットによる分光作用およびそれによって得られる分光スペクトル画像のイメージ図である。
【図3】第2の高速度カメラで撮影される分光スペクトル画像のイメージ図である。
【図4】元素分布の時間的データ処理のイメージ図である。
【図5】プラズマ光を構成する元素における、空間軸および発光強度に関するグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 プラズマ構成元素分析装置
2 集光レンズ
4 スプリッタ
5 第1の高速度カメラ
6 第2の高速度カメラ
7 制御部
9 スリット分光器
10 入力スリット
12 高速度シャッター
13 光電素子
31 スパッタリング装置
36 プラズマ雰囲気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマの構成元素を分析する装置であって、
プラズマ光を集光する集光レンズと、
集光レンズからの光を2つの光路に分離するスプリッタと、
一方の光路に設けられ、プラズマ光の実像を撮影する第1の高速度カメラと、
他方の光路に設けられ、入力スリットを介したスペクトルを、波長軸および空間軸に関する分光スペクトル画像として撮影する第2の高速度カメラと、
両高速度カメラから出力される画像信号を同期化して記憶する制御部と、
を備えることを特徴とするプラズマ構成元素分析装置。
【請求項2】
前記入力スリットのスリット形成方向を、電場に対して平行に設定したことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ構成元素分析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2の高速度カメラから出力された画像信号と、各元素固有の波長データを記憶したデータベースとを照合し、プラズマ光を構成する任意の一元素について、空間軸および発光強度に関するグラフを表示装置に表示させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ構成元素分析装置。
【請求項4】
前記第2の高速度カメラで撮影された分光スペクトル画像の各画素値を時間毎に平均化して、プラズマ光を構成する各元素の分布を求め、この求めた各元素の分布が、予め設定した分布の許容範囲にあるか否かによりプラズマ濃度分布状態の良・不良を判定する判定手段を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ構成元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−298449(P2008−298449A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141722(P2007−141722)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】