説明

プラズマCVD装置

【課題】 プラズマCVD装置1において、基材Wの端部の波状変形や異常なアーク放電を防止する。
【解決手段】本発明のプラズマCVD装置1は、真空チャンバと、真空チャンバ内に配備されると共に電源の両極が接続され且つ成膜対象であるシート状の基材Wが巻き掛けられる真空チャンバから絶縁された成膜ロール2と、基材Wが巻き掛けられていない成膜ロール2の端部2a、2bを成膜ロール2近傍に発生したプラズマ5から遮蔽する遮蔽部材4と、を備え、成膜ロール2の軸方向の端部2a、2bは中央部2cより小径に形成されていて、端部2a、2bの外周面と中央部2cの外周面との間には段差面2dが設けられており、遮蔽部材4がその外周面が成膜ロール2の中央部2cの外周面と面一になるように成膜ロール2の端部を覆っており、遮蔽部材4と段差面2dとの間には成膜ロール2の軸方向に基材Wが成膜ロール2に当接しない間隙が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムなど基材にCVD皮膜を形成するプラズマCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品包装に用いられるプラスチックフィルムに対しては、水蒸気や酸素を通さない特性(バリア性)が高く要求されている。このようなプラスチックフィルムなどの基材(シート材)に高バリア性を付与するためには、透明性のあるSiOxやAl23などの皮膜をコーティングする必要がある。SiOx皮膜のコーティング技術としては従来より真空蒸着法、スパッタ法などの物理蒸着法(PVD法)があるが、これらの技術に比して成膜速度、高バリア皮膜の形成の面で優位なプラズマCVD法が近年用いられるようになっている。
【0003】
上述したプラズマCVD法を行うプラズマCVD装置には、例えば特許文献1〜特許文献3に示されたものがある。
これらの文献に開示された装置は、交流電源の両極にそれぞれ電気的に接続された一対の成膜ロールを有し、一対の成膜ロールの間に電位差が加えられていて、それぞれのロールの内部にはロール表面に磁場を形成するマグネットが配備されている。そして、磁場と電位差との相互作用でロールの表面にプラズマを発生させてシート材W(基材W)にCVD皮膜の成膜が可能となる。
【0004】
ところで、一般にシート材Wは成膜ロールより狭幅に形成されているため、シート材に対して幅方向にムラなく皮膜を形成しようとすればシート材の端部に対しても中央部と同様にプラズマを発生させなくてはならない。つまり、シート材Wが巻き掛けられていない成膜ロールの端部表面はプラズマに対して露出状態となっているので、成膜をしたくない成膜ロールの表面にも成膜が行われてしまう。
【0005】
そこで、特許文献4には、図5(a)に示すように、成膜ロール102の端部102aにこの成膜ロール102の表面をプラズマ105から遮蔽する遮蔽部材104を設けたプラズマCVD装置101が提案されている。この文献に記載された遮蔽部材104は、マイカ(雲母)などの絶縁体からなるシートであり、成膜ロール102の端部102aの表面を被覆することで成膜ロールの端部102aに成膜が行われることを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−196001号公報
【特許文献2】特許第3880697号公報
【特許文献3】特許第3155278号公報
【特許文献4】特開2009−24205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献4のように遮蔽部材104で成膜ロール102の端部102aを被覆する構成では、ロール表面が露出しないようにシート材Wの幅を中央部102cの幅より十分に広くする、言い換えれば図示するようにシート材Wをその端が遮蔽部材104の上にまで乗り上げる程度に広くすることが一般的である。これは、せっかく遮蔽部材104を設けても、シート材Wの幅が成膜ロール102の中央部102cの幅より狭いと、中央部102cの表面が露出してしまい、遮蔽部材104を設けた意味が無くなるからである。
【0008】
ところが、このようにシート材Wを遮蔽部材104の上にまで乗り上げる構成を採用すると、遮蔽部材104の厚みの分だけシート材Wを巻き回す部分の径が大きくなってしまい、この端部の上を通ったシート材Wの一部だけが中央部を通るものより伸びて、成膜後にシート材Wの端部が波状に変形することがある。
また、図5(b)に示すように、端部が波状に変形したシート材Wを成膜ロール102に巻き掛けると、シート材Wがロール表面からめくり上がってロール表面との間に隙間ができやすくなり、この隙間から剥き出しになった成膜ロール102の表面にプラズマ105からアーク放電106が発生しやすくなる。このようなアーク放電106が発生すると、交流電源の故障に繋がったり、または電源を保護する保護回路が作動してCVD処理が中断し、安定して成膜をし続けることが困難になるといった問題が起こる場合もある。
【0009】
加えて、プラズマCVD装置には生産性に考慮して複数本の成膜ロールを備えものがある。このようなプラズマCVD装置では一つのシート材を複数の成膜ロールに順に通して多段で成膜が行われるため、先に通過した成膜ロールでシート材の変形が起こると当然後の成膜ロールで放電を誘発する原因となり、アーク放電がさらに発生しやすくなる。また、このようなアーク放電は、生産性を上げようとして成膜ロール間に高電圧を加えても発生しやすくなるため、特許文献4の装置では生産性を向上する手段として一般的に行われる成膜ロールの多段化や成膜電圧の高電圧化が実施しにくく、そのためプラズマCVDの生産性を高めることが困難であるという問題もあった。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、上述の課題をすべて解決できるプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
具体的には、本発明は、基材で覆われていない成膜ロールの端部を遮蔽する遮蔽部材を備えたものであって、次の(1)〜(3)の課題を解決できるようにしたプラズマCVD装置を提供することを目的とする。
(1)基材のうち成膜ロールの端部を通る部分だけが中央部を通る部分に比べて伸びて波状に変形することを防止する。
(2)成膜ロールに基材を巻き掛けても、基材の端部が成膜ロールの表面からめくれ上がらないようにして、めくり上がった基材と遮蔽部材との隙間から剥き出しになった成膜ロールの表面に異常なアーク放電が起こることを防止する。
(3)アーク放電を起こすことなく高電圧や多段での処理を可能として、プラズマCVD処理の生産性を上げる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のプラズマCVD装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のプラズマCVD装置は、真空チャンバと、当該真空チャンバ内に配備されると共に電源の両極が接続され且つ成膜対象であるシート状の基材が巻き掛けられる真空チャンバから絶縁された成膜ロールと、前記基材が巻き掛けられていない成膜ロールの端部を成膜ロール近傍に発生したプラズマから遮蔽する遮蔽部材と、を備えたプラズマCVD装置であって、前記成膜ロールの軸方向の端部は中央部より小径に形成されていて、当該端部の外周面と中央部の外周面との間には段差面が設けられており、前記遮蔽部材は、当該遮蔽部材の外周面が前記成膜ロールの中央部の外周面と面一になるように、前記成膜ロールの端部側を覆っており、前記遮蔽部材と成膜ロールの段差面との間には、成膜ロールの軸方向に基材と成膜ロールが当接しない間隙が備えられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明者は、シート状の基材を成膜ロールと遮蔽部材との双方に掛け渡しても基材が曲がらないようにすることはできないかと考えた。そして、成膜ロールの端部を中央部より小径に形成しておいて、この小径にした端部を遮蔽部材で覆えば、遮蔽部材の外周面が中央部の外周面と面一になって基材に変形が起こらなくなることを知見して本発明を完成させたのである。
【0013】
ただ、このように小径な部分に遮蔽部材を設けるのみでは、上述のように基材の変形は抑制できても、その反面、図4に示すように、段差面102dと中央部102cとの境界にできた鋭角の角部102eが起点となってアーク放電106が起こりやすくなる。これは、このような鋭角の角部102eでは強い電界を形成するためプラズマ105との間にアーク放電106が起きやすいためであり、特に遮蔽部材104を成膜ロール102の段差面102dに接触させてしまうまたは接触しないまでもごく近傍まで近づけると、角部102eで形成される強い電界の作用で遮蔽部材104の表面に分極による電荷が発生し、発生した電荷との相互作用で金属で形成された段差面と遮蔽部材104との間の電界が強まるので、さらにアーク放電105が発生しやすくなる。加えて、大気中の水分を吸着しやすい遮蔽部材104をプラズマ105にさらすと遮蔽部材104から水分が放出され、放出された水分が基点となってさらにアーク放電106が起きやすくなる。
【0014】
そこで、本発明者は、ただ単に成膜ロールの端部の小径な部分を遮蔽部材で覆うだけでなく、遮蔽部材と成膜ロールの段差面との間に軸方向に基材と成膜ロールが当接しない間隙を設ける(遮蔽部材を成膜ロールの段差面から離す)ことにより、基材の変形のみならず異常なアーク放電の発生までも防止できるようにしているのである。
なお、前記遮蔽部材は板状の絶縁体を用いて円筒形状に形成されているのが好ましく、前記円筒形状は、その外径が前記成膜ロールの中央部の外径と略等しくされていて、且つその内径が前記成膜ロールの小径とされた端部の外径と略等しくされていると良い。
【0015】
つまり、遮蔽部材を成膜ロールの端部の外径と同じ内径の円筒形状に形成すれば、遮蔽部材を成膜ロールの端部に容易に挿し込んだり巻き付けたりすることが可能となる。また、このようにして巻き付けられた遮蔽部材の外径は成膜ロールの中央部の外径と略等しくなるので、成膜ロールの端部の外周面と中央部の外周面とが互いに面一となり、基材を遮蔽部材と成膜ロールとの双方に架け渡しても基材の変形が起こることが無くなる。
【0016】
なお、遮蔽部材の外周面と成膜ロールの中央部の外周面とが面一になるとは、外周面同士が同一平面上にあるという意味だけでなく、外周面の間に高さの差が多少ある場合も含む。高さの差が基材の弾性変形の範囲内であれば、基材の変形を抑制することが可能であるからである。
また、前記間隙は、軸方向に0.5〜2.0mm、より好ましくは0.7〜1.5mmの幅を備えているのが好ましい。間隙の幅を軸方向に0.5mmより大きくすることにより、角部に対するアーク放電の発生を確実に抑制することが可能となる。また、間隙の幅を2.0mmより小さくすれば、基材が座屈する心配もなくなり、基材の変形をも抑制することができる。
【0017】
さらに、前記成膜ロールにおける中央部の外周面と段差面との間には、さらに面取り加工が施されているのが好ましい。このような面取り加工により鋭角なエッジ(角)が無くなれば電荷が集中しなくなり、電界も弱くなって、異常なアーク放電が生じにくくなる。
なお、プラズマCVD装置としては前記成膜ロールが複数本設けられたものを用いることもできるが、この場合はそれぞれの成膜ロールの段差面と前記遮蔽部材との間にも、軸方向に前記間隙が設けられているのが好ましい。このようにすれば、どの成膜ロールでも成膜時に変形が起こらず、先の成膜ロールで端部が変形した基材がそのまま次の成膜ロールで成膜されることもない。当然、いずれの成膜ロールでも遮蔽部材とロール表面との隙間からアーク放電が発生する心配がないので、多段での成膜や高電圧での成膜が可能となって、プラズマCVD処理の生産性を大幅に高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプラズマCVD装置を用いることで、基材の端部が波状に変形することを防止しつつ、異常なアーク放電の発生を抑制でき、プラズマCVD処理の生産性も上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のプラズマCVD装置の斜視図である。
【図2】第1実施形態の成膜ロールを軸方向に沿って切断した正面断面図である。
【図3】第2実施形態の成膜ロールの正面断面図である。(a)はR面取り、(b)はC面取りのものである。
【図4】従来のプラズマCVD装置の成膜ロールの正面断面図であって、端部が小径とされると共にこの小径な部分に遮蔽部材が巻き掛けられ、且つ遮蔽部材を段差面に接触させたものである。
【図5】従来のプラズマCVD装置の成膜ロールの正面断面図であって、成膜ロールの小径に加工されていない端部に遮蔽部材が巻き掛けたものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るプラズマCVD装置1の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。なお、本発明に係るプラズマCVD装置1は後述する成膜ロール2が1本や3本以上のものであっても良いが、以降の実施形態では成膜ロール2が一対設けられたものを例に挙げて説明を行う。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るプラズマCVD装置1の全体構成を示している。
【0021】
本実施形態のプラズマCVD装置1(以下、単に装置1という)は、減圧下において、互いに対向して配置した左右で一対の成膜ロール2、2に交流あるいは極性反転を伴うパルス電圧を印加し、成膜ロール2、2の間の対向空間にグロー放電を発生させ、成膜ロール2に巻き掛けたシート状の基材WにプラズマCVDによる成膜を行うものである。
この装置1は、図示しない真空チャンバを備えていて、その内部には後述する原料ガスが充填されている。また、真空チャンバ内には、一対の成膜ロール2、2が配備されている。一対の成膜ロール2、2のそれぞれには、交流電源3の両極がそれぞれ接続されていて、成膜対象であるシート状の基材Wが巻き掛けられている。そして、基材Wが巻き掛けられていない成膜ロール2の端部には、成膜ロール2の近傍に発生したプラズマ5から成膜ロール2の表面を遮蔽する遮蔽部材4が備えられる。
【0022】
まず、上述の装置1で行われるプラズマCVDについて簡単に説明する。
本実施形態の装置1はSiOxバリア膜をCVD皮膜として形成するものであり、真空チャンバにはHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)とO2、He、Ar、N2、NH3またはこれらの混合物を含む混合ガスが原料ガスとして充填されている。なお、本実施形態の装置1では、原料ガスにHMDSOを含むものを例示しているが、原料ガスにはHMDSO以外の有機シリコン系成膜ガス、例えばHMDS(N)(ヘキサメチルジシラザン)、TEOS(テトラエトキシシラン)、TMS(トリメチルシラン、テトラメチルシラン)、ジメチルシラン、モノシランなどを用いることもできる。
【0023】
それぞれの成膜ロール2の内部には対向する成膜ロール2との間に発生したプラズマ5を成膜ロール2の表面付近に収束させる磁場発生手段(図示略)が設けられており、このプラズマ5内に基材Wを通過させることで基材Wの表面にCVD皮膜が形成される。
CVD皮膜の成膜対象である基材Wとしては、プラスチックのフィルムやシート、紙など、ロール状に巻き取り可能な絶縁性の材料が考えられる。プラスチックのフィルムやシートとしては、PET、PEN、PES、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド等で形成されたものが適当であり、基材Wの厚みとしては真空中での搬送が可能な5μm 〜0.5mmが好ましい。なお、基材Wは、ガラスクロスやグラスファイバーとプラスチック樹脂の複合フィルムでも良い。
【0024】
次に、上述の装置1を構成する各部材について説明する。
成膜ロール2、2は、互いに同径同長のステンレス材料等で形成された円筒であり、その回転中心が床面から(上下方向に)略同じ高さに設置され、互いの軸芯が平行で且つ水平となるように配備されている。成膜ロール2の内部には、温度調整された水などの媒体が流通されていて、ロール表面を所定の温度にコントロールできるようになっている。成膜ロール2の表面には、傷が付きにくいようにクロムメッキや超硬合金などのコーティングが好ましくは設けられている。
【0025】
一対の成膜ロール2、2は、真空チャンバから電気的に絶縁されており、交流電源3の両極に接続される。なお、成膜ロール2は、同径、同長である方が好ましいが、必ずしも同径、同長でなくても良い。また、成膜ロール2同士の軸芯は互いに水平に配備されているのが好ましいが、必ずしも水平でなくても良い。
成膜ロール2は、さまざまな寸法幅の基材Wを巻き掛けられるように、巻き掛け可能な基材Wのうちで最も幅が大きなものより広幅に形成されている。成膜ロール2の両端部2a、2bは中央部2cより小径にされていて、この小径にされた端部2a、2bには後述する遮蔽部材4が備えられている。
【0026】
交流電源3は、高周波の交流電圧、または、両極の極性が反転可能なパルス状の電圧(パルス状直流電圧)が発生可能なものである。なお、交流電源3には、負荷との整合を得るための自動整合器を付けるとなお好ましい。この交流電源3の両極は、いずれも真空チャンバから絶縁されたフローティング電位とされている。成膜を行う基材Wは、前述の如く絶縁性の材料であるため、直流の電圧の印加では電流を流すことが出来ないが、フィルム(基材W)の厚みに応じた適切な周波数(およそ1kHz〜、好ましくは10kHz〜)であれば基材Wを通して導通可能である。なお、周波数の上限は特にないが、数10MHz以上になるとプラズマが周波数に追従できなくなるので好ましくはなく、より好ましくは1MHz以下としている。
【0027】
本発明の装置1は、成膜ロール2の左右両端部2a、2bが中央部2cより小径に加工されていて、この小径に加工された端部2a、2bに遮蔽部材4が巻き付けられ、この遮蔽部材4と成膜ロール2の中央部2cとの間に間隙(空隙)が設けられていることを特徴としている。次に、成膜ロール2の小径とされた端部2a、2b、この小径にされた端部2a、2bに巻き付けられる遮蔽部材4、及び両者の間に形成される間隙Lについて詳しく説明する。
【0028】
図2に示すように、成膜ロール2は軸方向(左右方向)の両端部2a、2bが中央部2cより小径に形成されている。この左側の端部2aと右側の端部2bとは、互いに同径の円筒状とされていて、いずれも中央部2cに比べてその半径が遮蔽部材4の厚みDの分だけ小さくなっている。また、このように小径とされた端部2a、2bの長さは、それぞれ遮蔽部材4の長さより軸方向に長くなっていて、中央部2cから軸方向に後述する間隙Lをあけて端部2a、2bに遮蔽部材4を配備可能な長さとされている。そして、この小径な端部2a、2bの外周面と中央部2cの外周面とは、軸方向に対して垂直に切り立った段差面2dを介して繋がっている。
【0029】
段差面2dには、左側の端部2aに設けられるものと右側の端部2bに設けられるものとがあり、左側の段差面2dと右側の段差面2dとの間には成膜ロール2のなかでも最も径が大きな中央部2cが形成されている。この中央部2cの幅は基材Wの幅より短くなっていて、中央部2cに基材Wを巻き掛けると基材Wの端部が段差面2dを超えて左側と右側とに庇状に張り出すようになっている。
【0030】
遮蔽部材4は、プラズマ5から成膜ロール2の端部2a、2bの表面を遮蔽するものであり、円筒形状に形成されている。遮蔽部材4の材質や厚みDは基材Wと同じ程度に高周波電流が流れるようにするのが良く、基材Wと同様の電気的特性(絶縁性)を有する材料から形成されるのが好ましい。このような材料としては、例えば基材Wと同じ種類の材料であるPETやPEN、またはこれらより絶縁性の高いポリイミドやアルミナなどのセラミックなどが用いられる。また、遮蔽部材4は、これらの材料から形成されたテープなどを巻き回して円筒形状に形成したものでも良いし、これらの材料を射出成形や真空成形により一度に円筒形状に成形したものでも良い。
【0031】
遮蔽部材4が薄すぎると遮蔽部材4が絶縁破壊されて高周波電流が集中し、基材Wの上に十分に成膜が行われなくなる虞がある。また、逆に遮蔽部材4が厚すぎると、遮蔽部材4を通じて流れる電流が小さくなり、遮蔽部材4近傍でプラズマ5が十分に形成できなくなって、遮蔽部材4と基板フィルムの境界部でプラズマ密度などに分布の偏りが発生し、基板フィルムの端部の膜厚や膜質に偏りが発生し、良くない。
【0032】
この遮蔽部材4は、その外径が成膜ロール2の中央部2cの外径と略等しくなり、且つその内径が成膜ロール2の小径とされた端部2a、2bの外径と略等しくなるような円筒形状とされている。つまり、遮蔽部材4は、成膜ロール2の小径とされた端部2a、2bとほぼ同じ内径を備えるため、成膜ロール2の端部2a、2bに容易に巻き付けたり挿し込んだりすることが可能となる。また、一旦成膜ロール2の端部2a、2bに遮蔽部材4を巻き付けると、遮蔽部材4の外径は成膜ロール2の中央部2cの外径と略等しくなるので、遮蔽部材4の外周面と成膜ロール2の中央部2cの外周面とが互いに面一となり、遮蔽部材4の外周面と中央部2cの外周面との双方に跨るように基材Wを巻き掛けても基材Wに変形が起こることが無くなる。
【0033】
なお、遮蔽部材4の外周面と成膜ロール2の中央部2cの外周面とが面一になるとは、外周面同士が同一平面上にあるという意味だけでなく、外周面の間に径方向に多少距離(ズレ)がある場合も含む。これは、遮蔽部材4の外周面と中央部2cの外周面との間に多少のズレがあっても、基材の弾性変形の範囲であれば双方に跨った基材Wに波状の変形あとが残らない(塑性変形しない)からである。具体的な例を挙げれば、遮蔽部材4の外周面と、成膜ロール2の中央部2cの外周面との間にあるズレが、法線方向に50μm〜1mmまでであれば、基材Wの変形は十分抑制可能である。
【0034】
ところで、このように遮蔽部材4の外周面と成膜ロール2の中央部2cの外周面とを面一にしても、遮蔽部材4の端部が段差面2dに隙間なく接していると、以下に示すような理由からアーク放電が起こりやすくなる。
つまり、図5に示すように、その法線を軸方向に向けた段差面102dと、その法線を軸垂直方向に向けた中央部102cの外周面との間には、先端が鋭角な角部102eが周方向に亘って形成される。このような鋭角の角部102eでは強い電界が形成されやすく、この角部102eを起点としてアーク放電106が起こりやすくなる。特に遮蔽部材104を成膜ロール102の段差面102dに接触させてしまう、または接触しないまでもごく近傍まで近づけると、角部102eで形成される強い電界の作用で遮蔽部材104の表面に分極による電荷が発生し、発生した電荷との相互作用で金属で形成された段差面と遮蔽部材104との間の電界が強まるので、さらにアーク放電105が発生しやすくなる。加えて、大気中の水分を吸着しやすい遮蔽部材104をプラズマ105にさらすと遮蔽部材104から水分が放出され、放出された水分が基点となってさらにアーク放電106が起きやすくなる。
【0035】
そこで、本発明の装置1では、図2に示すように遮蔽部材4と段差面2dとの間に間隙Lを設けて、アーク放電6を抑制しているのである。
上述した遮蔽部材4と段差面2dとの間に設けられる間隙Lは、軸方向に0.5〜2.0mmの幅に設定されている。この間隙Lを軸方向に0.5mmより大きくすると、角部2eに対するアーク放電6の発生を確実に抑制することが可能となる。また、間隙Lを2.0mmより小さくすれば、基材Wが間隙Lに落ち込むように座屈することもなくなり、基材Wの変形をも抑制することができる。
【0036】
次に、上述したプラズマCVD装置1を用いて基材Wに成膜を行う方法、言い換えれば本発明のプラズマCVDのやり方について詳しく説明する。
まず、中央部2cより小径に形成された端部2a、2bに、段差面2dから0.5〜2.0mmの間隙Lを隔てて絶縁体の遮蔽部材4で覆った成膜ロール2、2を用意し、これらの成膜ロール2、2を真空チャンバ内に設置する。そして、真空チャンバ内を一旦減圧し、その後連続的に原料ガス(本実施形態の場合であればHMDSOガスなどの有機シリコン系成膜ガス、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス)を供給して、真空チャンバ内が所定の圧力になるように原料ガスの充填を行う。
【0037】
原料ガスが真空チャンバ内に充填されたら、成膜ロール2、2を交流電源3に電気的に接続して、交流電源3から成膜ロール2、2に高周波の交流またはパルス状の電圧を印加する。そうすると、磁場発生手段により形成された磁場空間にグロー放電が発生してプラズマ5が形成され、真空チャンバに供給された原料ガスがプラズマ5で分解されて基材W上にCVD皮膜が形成される。
【0038】
上述のように、本発明の装置1では、遮蔽部材4の外周面と成膜ロール2の中央部2cの外周面とが互いに面一とされているので、遮蔽部材4の外周面と中央部2cの外周面との双方に跨るように巻き掛られた基材Wを波状に変形させることが無い。
また、遮蔽部材4と段差面2dとの間に軸方向に基材が成膜ロール2に当接しない0.5〜2.0mmの間隙Lを設けているので、角部2eに強い電界が形成されることもなく、この角部2eを起点とするアーク放電を抑制することも可能となる。加えて、遮蔽部材4と段差面2dとの間の間隙Lはそれ程広幅でないため、この間隙Lに基材Wが落ち込むように座屈することもない。それゆえ、アーク放電だけでなく、基材Wの座屈変形をも抑制することができる。
【0039】
一方、生産性良くプラズマCVDを行うには、プラズマCVD装置1に複数本の成膜ロール2を設けて多段でCVD処理を行うか、成膜ロール2に加える電圧を高くする必要がある。このような場合であっても、基材Wの変形や成膜ロール2の角部2eを起点とするアーク放電6を抑制可能な本発明のプラズマCVD装置1では、アーク放電の発生を心配することなく多段で成膜を行ったり電圧を高くするといった生産性を向上する手段を講じることが可能となり、プラズマCVD方法の生産性を向上させることが可能となる。
[第2実施形態]
なお、上記第1実施形態として述べた、遮蔽部材4と段差面2dとの間に間隙Lを備えるプラズマCVD装置1において、角部2eを起点とするアーク放電6を抑制する構成を様々に変更したプラズマCVD装置1を考えることもできる。それらを第2実施形態として、以下に述べる。なお、説明を省略した部分は、第1実施形態のプラズマCVD装置1と略同様な構成を有している。
【0040】
図3(a)及び(b)に示すように、第2実施形態のプラズマCVD装置1は、成膜ロール2の中央部2cの外周面と段差面2dとの間に面取り加工が施されたものであり、この面取り加工によって角部2eを起点とするアーク放電がより確実に抑制される点で第1実施形態と異なっている。
この面取り加工は、成膜ロール2の中央部2cの外周面と段差面2dとの間に形成される鋭角状の角部を曲面状(R面取り)あるいは平面状(C面取り)に加工してなだらかにしたものであり、中央部2cの外周面と段差面2dとの間のコーナ面をなだらかにして強い電界が発生することを抑制するものである。
【0041】
面取り加工としては、R面取りまたはC面取りのどちらを採用しても良いが、電界を弱める目的ではR面取りの方を採用するのが望ましい。
図3(a)に示すように、R面取りの面取り加工の場合、面取り半径R1は段差と同じ程度、言い換えれば遮蔽部材4の厚みDと略同じにすることが好ましい。具体的には、この面取り半径R1は50〜200μmとするのが良い。面取り半径R1を50μmより大きくすることで、十分に電界を緩和でき、異常放電を確実に抑制できるようになる。また、面取り半径R1を200μmより小さくすれば、面取り加工により新たに基材Wと成膜ロール2表面との間にできる隙間を最小限に留めて、成膜ロール2の表面に十分な強度のプラズマを形成でき、基材Wに目標とする膜厚のCVD皮膜を確実に成膜することが可能となる。なお、基材Wの縁際までCVD皮膜を成膜しないのであれば、面取り半径R1は2mmと大きくても良い。
【0042】
図3(b)に示すように、C面取りの面取り加工の場合は、面取りされる厚みR2を12μm〜200μmとするのがよい。なお、上述したC面取りは、水平に対して45°の角度に加工されるものだけでなく、水平に対して45°以外の角度で平面状に面取りする場合も含む。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 装置(プラズマCVD装置)
2 成膜ロール
2a 成膜ロールの左側端部
2b 成膜ロールの右側端部
2c 成膜ロールの中央部
2d 成膜ロールの中央部と端部との間に形成される段差面
2e 成膜ロールの中央部の外周面と段差面との間に形成される角部
3 交流電源
4 遮蔽部材
5 プラズマ
6 アーク放電
D 遮蔽部材の厚み
L 段差面と遮蔽部材との間に形成される間隙
1 角部に形成されるR面取りの半径
2 角部に形成されるC面取りの厚み
W 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、当該真空チャンバ内に配備されると共に電源の両極が接続され且つ成膜対象であるシート状の基材が巻き掛けられる真空チャンバから絶縁された成膜ロールと、前記基材が巻き掛けられていない成膜ロールの端部を成膜ロール近傍に発生したプラズマから遮蔽する遮蔽部材と、を備えたプラズマCVD装置であって、
前記成膜ロールの軸方向の端部は中央部より小径に形成されていて、当該端部の外周面と中央部の外周面との間には段差面が設けられており、
前記遮蔽部材は、当該遮蔽部材の外周面が前記成膜ロールの中央部の外周面と面一になるように、前記成膜ロールの端部を覆っており、
前記遮蔽部材と成膜ロールの段差面との間には、前記成膜ロールの軸方向に前記基材が前記成膜ロールに当接しない間隙が備えられていることを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、板状の絶縁体を用いて円筒形状に形成されており、
前記円筒形状は、その外径が前記成膜ロールの中央部の外周面の外径と略等しくされていて、且つその内径が前記成膜ロールの小径とされた端部の外径と略等しくされていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD装置。
【請求項3】
前記間隙は、軸方向に0.5〜2.0mmの幅であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマCVD装置。
【請求項4】
前記成膜ロールにおける中央部の外周面と段差面との間に、面取り加工が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマCVD装置。
【請求項5】
前記成膜ロールは複数本設けられており、
それぞれの成膜ロールの段差面と前記遮蔽部材との間に、軸方向に前記間隙が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−149059(P2011−149059A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11391(P2010−11391)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】