説明

プラズモン共鳴および蛍光の同時イメージング装置及びイメージング方法

【課題】 蛍光免疫法と表面プラズモン共鳴法を同時におこなう方法では、固定される捕捉体が一種類であり、一回の測定では一種類の標的物質しか分析することは出来ないため、例えば、どの部位が癌であるかを特定できないという問題があった。
【解決手段】 誘電体基体上に形成された複数の島状の金属薄膜からなる金属アレイに複数の異なったリガンドを固定し、基板の裏面から光を照射して、表面プラズモン共鳴とエバネッセント波による蛍光とを同時に測定することで、複数項目を同時に測定するスクリーニングを可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タンパク質やDNAなどの複数個の生体分子を一度にスクリーニングし、病原因となる分子を迅速に発見し診断を行なうイメージング装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中には、ガン・肝炎・糖尿病・骨粗しょう症など特定の疾患に対するマーカーが複数存在している。罹患した際には、平時より特定のタンパク質の濃度が増加する。これらを平時からモニターしておくことで、重大な病気を早期に発見することが出来るため、次世代の医療技術として期待されている。
【0003】
未加工で未精製のタンパク質を分析するための方法の1つは、生物学的なリガンド−標的物質相互作用を利用して特定の化合物を識別するセンサーを基本としたものである。捕捉体−標的物質の組み合わせとしては、タンパク質同士の結合を利用した抗原抗体の複合体、核酸とその相補的なものが結合するDNA複合体、レセプターの複合体などが含まれている。
【0004】
センサーには、蛍光免疫法、プラズモン共鳴法、光干渉法など幾つかの方式があるが、どの場合も捕捉体をセンサー表面に固定し、検体中の標的物質を高感度にかつ選択性よく選別して結合することにより夾雑物を排除し、目的とするタンパク質のみを高効率に基板表面に固定化することが共通のステップとなる。
【0005】
蛍光免疫法では、捕捉体−標的物質複合体にさらに蛍光色素で標識した第二の捕捉体をさらに結合させ、蛍光色素を励起し、蛍光量を測定することで標的物質の濃度を測定する。プラズモン共鳴法では、金属プラズモンが界面物質の屈折率変化に高感度に反応することを利用して、金属薄膜や金属の微粒子の上に固定化されたリガンドに結合する標的物質の濃度を測定している。
【0006】
蛍光免疫法は、感度よく測定できるが反応速度の測定をすることができない。一方、プラズモン共鳴法は、反応速度の測定をすることができるが、感度よく測定することや低分子を測定することは、やや難しいという特徴があった。これらの課題を克服する技術として、蛍光免疫法と表面プラズモン共鳴法を同時におこない、両手法の欠点を補う手法が、特開平10−307141号公報(特許文献1)や特開2002−62255公報(特許文献2)に開示されている。
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】特開2002−62255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に示されている蛍光免疫法と表面プラズモン共鳴法を同時におこなう方法では、固定される捕捉体が一種類であり、一回の測定では一種類の標的物質しか分析することは出来ない。一方、現在発見されている腫瘍マーカーなどは、部位に特異的なものは少なく、例えばCEAやCA19−9という腫瘍マーカーは胃、大腸、膵臓、肺など複数の臓器の細胞でつくられるため、一種類のマーカーを測定するだけではどの部位が癌であるかを特定できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記に挙げた課題は、以下に示す本発明によって解決される。すなわち本発明は、励起光を入射または出射させるための誘電体ブロックと、その上面に構成された金属膜のアレイと、金属膜の上に構成された特定の化学物質を捉えるリガンドと、金属膜に対してプラズモン共鳴を生じさせるための光源と、励起光を適切なビームに調整する光学系と、金属膜から反射してきた反射光を調整する光学系と、反射光を捕らえる検出器と、誘電体ブロック上面にイメージ信号を捕らえるための光学系と、イメージングする検出器とから構成され、複数のアレイに対し表面プラズモン共鳴角と蛍光の同時イメージングが可能であることを特徴とするイメージング装置に関するものである。
【0009】
また、本発明は、励起光を入射または出射させるための誘電体ブロックと、その上面に構成された金属膜のアレイと、金属膜の上に構成された特定の化学物質を捉えるリガンドと、金属膜に対してプラズモン共鳴を生じさせるための光源と、励起光を適切なビームに調整する光学系と、金属膜から反射してきた反射光を調整する光学系と、反射光を捕らえる検出器と、誘電体ブロック上面にイメージ信号を捕らえるための光学系と、イメージングする検出器とから構成され、複数のアレイに対し表面プラズモン共鳴角と蛍光の同時イメージングが可能であることを特徴とするイメージング方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、複数の捕捉体標的物質複合体に対して、蛍光免疫法と表面プラズモン共鳴法を同時におこなうイメージング装置を提供することが出来、複数項目を同時に測定するスクリーニングが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、複数の捕捉体−標的物質複合体に対して、蛍光免疫法と表面プラズモン共鳴法とによる検査を同時に行うことができるイメージング装置およびその検査方法である。
【0012】
図6は、本発明のイメージング装置の基板部の拡大模式図である。誘電体基板507上に形成したアレイ上の金属薄膜上に予め異なった捕捉体を配置し、該捕捉体と検体とを反応させ捕捉体標的物質複合体を形成させた後、基板の裏面側から光501を照射する。
【0013】
光501の金属膜からの表面プラズモン共鳴である出射角504で出射される反射光503を、2次元光センサーを用いて検出する。表面プラズモン共鳴である反射光503は、島状の金属薄膜506に固定された捕捉体標的物質複合体の種類により、分子の重さによる反射光の屈折率の変化が異なるので入射角502と反射光503の出射角504とが同一の角度になるようにして角度を変化させ(スキャンさせ)、反射光強度の角度依存性をモニターすることで捕捉体標的物質複合体を判別することができる。
【0014】
更に、光501を照射することで誘電体膜を介しエバネッセント光により金属薄膜506に固定された捕捉体標的物質複合体が励起され蛍光505を発する。この蛍光を、2次元光センサーを用いて検出する。
【0015】
図7(a)は、基板上の発光状態を模式的に示す図で、図7(b)は、2次元光センサー上に図7(a)の基板からの発光を受光した状態を示す図である。図7(a)で、基板601上に形成した島状の金属膜に固定された捕捉体標的物質複合体からの発光601を示している。
【0016】
図7(b)は、2次元光センサー603上に形成された受光領域604に基板からの発光601を受光した領域605を示している。
【0017】
反射光503は、捕捉体標的物質複合体による表面プラズモン共鳴の生じない領域からの反射強度は一定であるので金属膜からの反射光505を受光している部位を除いた画素領域の受光強度は略同一といえる。同様に、蛍光505も捕捉体標的物質複合体以外からは発せられないので蛍光505を受光している部位を除いた画素領域の受光強度は略同一といえる。
【0018】
2次元光センサーにより検出し、検出された2次元の光情報を例えばCRT(カソード・レイ・チューブ:ブラウン管)あるいは液晶表示装置のような表示装置に表示(イメージング)する。
【0019】
表示装置への表示は、それぞれの光情報を後述の演算装置を用いて合成して1画面に表示させることも、画面を分割して、各々の光情報を表示させる等が可能であり、使用する目的で表示装置に表示する画像を選択することができる。
【0020】
2次元光センサーは、CCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)あるいはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor:相補型金属酸化物半導体)センサーを用いることができる。
【0021】
捕捉体(リガンド)には、タンパク質あるいは核酸を用いることができる。
【0022】
リガンドとして用いるタンパク質としては、抗体等が使われ、核酸としては、DNA、RNA等を用いることができる。
【0023】
図8に、検出部の概略構成を示す。
【0024】
図8(a)は、n×mの画素で構成されるCCDエリアセンサーの画素部を示す概略図である。エリアセンサーは、エリアセンサーから得られる電気情報から画素の位置が決定できるので、例えば下記のようにすることで分離することができる。
1.金属薄膜の位置関係は、基板を交換しても同じであるとして、島状の金属薄膜からなる金属アレイの反射光を測定し、予め、金属アレイに対応する画素を記憶させる。
2.検査毎に、反射光から、画素の位置を決定し、決定された画素を記憶させる。
【0025】
上記のいずれかの方法で記憶された情報に基づいて、金属薄膜の表面プラズモン共鳴による反射光、あるいはエバネッセント波による蛍光からのアレイに対応する信号を分離する。
【0026】
反射光の場合、縦と横の比率が変わっているので、蛍光との比較のために縦横比を予め求めとおきノーマライズしても良い。
【0027】
図8(b)は、エリアセンサーからの信号から画素単位の信号を分離するための信号分離部の概念図である。エリアセンサーはCCDを用いたものとして説明するが、エリアセンサーは、CCD以外であっても、受光素子を、アレイ状には位置したセンサーであっても、CMOSセンサーであっても構わないことはいうまでもない。
【0028】
画像処理用コンピュータ710は、CCDセンサー701及び702の信号から金属アレイに対応する画素を決定するための演算部と決定された画素の位置情報を記憶部とを有する演算装置703と、CCDセンサー701及び702の光情報を該金属アレイに対応する記憶された画素情報に基づいて演算装置の演算部で演算し、その結果を画面上に表示する表示装置703から構成されている。
【0029】
CCDセンサー701と702との演算された光情報を表示装置701で表示する場合、各々光情報を、画面を分割して表示する、あるいは、CCDセンサー701と702との光情報を予め演算装置701の記憶部に記憶された処理方法により演算部で演算処理を行って1画像として表示する、あるいは、検査工程毎に必要とする画像を表示するようにすることができる。
実質的には演算して表示することになります。
【0030】
更に、演算部は図示していないが、表面プラズモン共鳴を測定するために、上述の光源からの出射光となる光501の光軸と反射光503を受光する受光部の光軸の入射角502と反射角504とが同一の角度になるように例えば、アーム等の機構(不図示)を制御させることができる。演算部を介してアームを動かす場合、表面プラズモン共鳴の角度依存性を演算する際の角度情報を演算装置703に外部から角度情報を入力しないですむので演算部からアーム制御を行うことが好ましい。
【0031】
詳細は後述するが、基板をプリズム上にセット後、例えば、下記のようなプロトコールで検査が行なわれる。
(1)標識化抗体を、予め抗原と反応させ、標識された抗原抗体ペアを作成する。
(2)蛍光標識した抗体を流路に導入し、5分間インキュベートする。
(3)標識抗体を抜き取り、リン酸緩衝液で洗浄する。
(4)標識された抗原が混入している検体を流路に導入する。
(5)レーザー光を導入し、各金属薄膜ドットから表面プラズモン共鳴曲線ならびに蛍光信号の時間変化を検出する。
(6)各金属薄膜ドットからの蛍光信号の時間変化をプロットすると、図9に示すような結果が得られる。
【0032】
上記の、抗体の流入・インキュベート・洗浄・抗原の流入・インキュベート・洗浄・標識光体の流入・インキュベート・洗浄との工程を演算装置から制御する、あるいは、該工程の制御信号を演算装置703に入力することで必要であれば各工程後とに検査を行いその結果を表示することができる。
【0033】
以下、図1の概略図を参照しながら本発明に関わる実施形態に係わる測定装置を詳細に説明する。尚、本発明が、ここに記した内容に限定されるものではないことは言うまでも無い。
【0034】
本実施例に用いる3角柱型の直角プリズム101の各面を図1(b)のようにA、B、Cと名前を付ける。図1(a)には、測定器の側面と基板の俯瞰図が示されている。測定器は、少なくとも、プリズム101、微小な金属アレイ102、基板103、捕捉体−標的物質複合体104、光源105、レーザー光106、コリメートレンズ107、偏光フィルター115、反射光108、集光レンズ109、検出器110、蛍光111、集光レンズ112、フィルター113および検出器114で構成されている。
【0035】
プリズム101のA面に、基板103が固定されている。基板103を上面から俯瞰すると、基板上103上に、異なる捕捉体が固定化された微小な金属がアレイ状に配列されている。アレイ状に配列された金属(以下、金属アレイ102と称す)に光源(レーザー光源)105から出射されたレーザー光106を照射する。レーザー光106は、コリメートレンズ107で平行光に変換されプリズム101のB面に入射する。プリズム101のB面に入射したレーザー光は、プリズム101のA面で反射するとともに基板103上のリガンドに固定された検体による表面プラズモン共鳴による反射光108が、プリズム101のC面から出射される。
【0036】
プリズム101のB面から出射された反射光108は、集光レンズ109により集光され2次元光センサーからなる検出器110に入射する。
【0037】
基板103上に形成された微小な金属アレイ102は、異なる捕捉体が固定化されている。微小な金属アレイ102上に固定された異なる捕捉体により捕捉された検体が、プリズム101のA面に入射されたレーザー光106により励起され、蛍光101を発する。蛍光101は、集光レンズ112により集光されフィルター113により所望の波長のみが検出器114に入射する。
【0038】
尚、図1では、金属アレイ102が形成された基板103とプリズム101とになっているが、プリズムのA面に金属アレイ102を直接形成することができることはいうまでもない。
【0039】
プリズム101としては、屈折率1.4〜2.0までのものを用いることが出来るが、本構成では1.5以上のものであることが好ましい。微小金属アレイ102としては、直径が50μm〜5mm程度、厚みが20〜300nm程度のものを用いることが出来るが、本構成では、直径100μmφ程度、膜厚50nm程度が好ましい。基板103としては、プリズム101と屈折率がほぼ同じであるものが好ましい。捕捉体標的物質複合体104を構成する物質としては、抗原と抗体の組み合わせ、DNAとそれに相補的なDNAなどを選択して用いることができる。光源105としては、波長が200nm〜1000nmの範囲のレーザーダイオードまたはガスレーザを選択して用いることができる。本構成では波長が800nm以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
コリメートレンズ107、109は、非球面レンズ、セルフォックレンズ、平凸もしくは両凸レンズ群、顕微鏡用対物レンズなどを用いることが出来る。本構成では、平凸または非球面レンズを用いることが好ましい。光センサー110としては、フォトダイオードアレイ、CCDアレイ、CMOSアレイ等の2次元画素が配置された光センサーを用いることができる。本構成では、検体の濃度によってフォトダイオード、CCDアレイが適宜選択される。
【0041】
集光レンズ109、112としては、平凸シリンダーレンズ、平凹シリンダーレンズ、非球面レンズ、平凸もしくは両凸球面レンズ群、顕微鏡用対物レンズおよびセルフォックレンズを用いることが出来る。本構成では平凸シリンダーレンズまたは平凹シリンダーレンズを用いることが好ましい。光学フィルター113としては色ガラスフィルター、ダイクロイックフィルター、ゼラチンフィルター、ロングパスフィルター、可視光ブロックフィルターおよびIRパスフィルターを用いることが出来る。本構成ではダイクロイックフィルター、もしくは色ガラスフィルターを用いることが好ましい。フィルター115としては、偏光フィルターが用いられる。
【実施例】
【0042】
以下本発明の実施例を述べるが、本発明はここに記述した内容だけに制限を受けるものではない。
【0043】
(実施例1)
図2を参照しながら説明する。プリズム201(部材:BK7、形状:A≒28.3mm、B=C=20(mm))のA面に、プリズム201と同じ屈折率を持ったインデックスマッチングオイル(ニューポート社,F−IMF−105)を塗布し、100μmφの金属アレイ202を形成した基板203を密着させた。
【0044】
更に、その上に、検体や洗浄液を導入する透明な溶液セル204を接着した。光源205としては、レーザーダイオード(三洋電機製、DL3038−033)を用い、コリメートレンズ207としては、平凸レンズ(シグマ光機製、平凸レンズ5mmφ)を用い、フィルター221としては偏光フィルター(シグマ光機製、SPF−30C−32)を用いた。
【0045】
これら入射光学系を、アーム219に固定した。光センサー210は、CCDエリアイメージセンサ(浜松フォトニクス製、S7030−0906)、コリメートレンズ209は、平凸レンズ(シグマ光機製、平凸レンズ5mmφ)を用いた。これら受光光学系は、アーム220に固定され、測定時に、基板への入射角と反射角とが同じ角度になるようスキャンされる。また、反応セル221の上側には、蛍光光を集光する集光レンズ213(シグマ光機、平凸レンズ5mmφ)、CCDエリアイメージセンサ(浜松フォトニクス製、S7030−0906)を設置した。
【0046】
センサーの光学特性を確認する為に、以下の検討をおこなった。濃度が1x10-7mol/LのCy5(Amersham Biosciences社製の蛍光色素)溶液に金属膜アレイ基板203を浸漬したあと、完成した光学系に設置した。レーザーダイオードからレーザー光(波長:約638nm、実効強度:3mW、1kHzの矩形波で変調)を導入し、アーム219、220を同期してスキャンさせプラズモンの共鳴特性と蛍光特性を測定すると、感度よく測定できることが確認された。
【0047】
次に、癌のマーカーとして知られているCEA、AFP、PSA、PAPの各種抗原について検出を試みる。まず各金属アレイにストレプトアビジンを付着させる。それからビオチン修飾した抗CEA抗体、抗AFP抗体、抗PSA抗体、抗PAP抗体を吸着させ、免疫センサーを用意した。
【0048】
図3は、図2の構成を斜視図によって示したものである。図2と同じ構成に対しては同じ番号が付与されている。
【0049】
図2と同様に、プリズム201と同じ屈折率を持ったインデックスマッチングオイルを塗布し、100μmφの金属アレイ202を形成した基板203を密着させた。
【0050】
更に、その上に、検体や洗浄液を導入する透明な溶液セル204を接着した。光源205としては、レーザーダイオード、コリメートレンズ207としては、平凸レンズを用い、フィルター221としては偏光フィルターを用いた。
【0051】
これら入射光学系を、アーム219に固定した。光センサー210は、CCDエリアイメージセンサ、コリメートレンズ209は、平凸レンズを用いた。これら受光光学系は、アーム220に固定され、測定時に、基板への入射角と反射角とが同じ角度になるようスキャンされる。また、反応セル221の上側には、蛍光光を集光する集光レンズ213、CCDエリアイメージセンサを設置した。
【0052】
図4を用いて詳細に説明する。図4は、基板301上に金属薄膜からなる金属アレイ302が形成され、金属アレイ302上にリガンドとなる抗CEA抗体303、抗AFP抗体305、抗PSA抗体304及び抗PAP抗体306が固定されている状態を示す概念図である。抗体を基板に固定化させる方法は、アビジンをSH基を介して金基板に吸着させ、抗体をビオチン化しアビジンビオチンで固定化させる方法を用いた。
【0053】
基板301を蛍光分析装置にセットする。そして図10に示すプロトコールで測定をおこなった。
(1)Cy5色素で蛍光標識した上記4種類の抗体を、各抗原と反応させ、標識された抗原を作成する。
(2)Cy5色素で蛍光標識した抗体を流路に導入し、5分間インキュベートする。
(3)標識抗体を抜き取り、リン酸緩衝液で洗浄する。
(4)標識されたCEA抗原、PSA抗原、AFP抗原、PAP抗原が混入している検体を流路に導入する。
(5)レーザー光を導入し、各金属薄膜ドットから表面プラズモン共鳴曲線ならびに蛍光信号の時間変化を検出する。
【0054】
各金属薄膜ドットからの蛍光信号の時間変化をプロットすると、図9が得られる。また、反応して固定化された量としては、吸着反応と乖離が終了した蛍光強度から見積もることができ、反応量としては表1が得られる。図9のプロファイルおよび表1の固定化量をデーターベースのデータと比較することにより、癌の部位を高い精度で特定することが可能となる。
【0055】
本発明では、複数の抗原抗体反応を同時測定することができ、更に、プラズモン共鳴で生じさせた電場を用いて、蛍光強度の時間変化を測定することができる。この結果、従来はなしえなかった、複数の抗原抗体反応の同時測定を行い、反応の時間プロファイルならびに反応量から値をもとめることができる。
【0056】
【表1】

【0057】
(実施例2)
実施例1で使用した光学系を用いて、DNAのハイブリダイゼーション測定をおこなった。各金属アレイ表面にストレプトアビジンを付着させ、ビオチン修飾した20量体DNAを4種類吸着させ、核酸センサーを用意した。
【0058】
図5を用いて詳細に説明する
図5の平面図に示すように、基板401上に形成された2×2の金属アレイ402上に、4種類のビオチン修飾した20量体DNAが固定されている。そして次のプロトコールをおこなった。
【0059】
金属アレイに異なったリガンドの固定は、特許文献1と同様に行った。
(1)塩基配列が固定DNA405(プローブP)と対応する捕捉DNA(ターゲットT1、20量体)にCy5色素で蛍光標識した複合体4種類(A*、B*、C*、D*)403と、塩基配列が一つだけ異なっている20量体DNA4種類(ターゲットT2、20量体、A’、B’、C’、D’)をCy3色素で標識した複合体4種類404が混入している検体液を用意する。
(2)検体液を流路に導入した後、5分間インキュベートする。
(3)検体を抜き取り、リン酸緩衝液で洗浄する。
(4)リン酸緩衝液を流路に注入する。
【0060】
(4)の操作のあとレーザー光を導入し、プラズモン共鳴ならびに蛍光強度を測定すると、プラズモン共鳴曲線には、DNAのハイブリダイゼーション反応前後で差異が見られなかった。一方、蛍光測定では、DNAの濃度1nMまで感度よく測定されることが確認された。蛍光のスペクトルを分光器(不図示)で測定してみると670nm付近にピークをもつ色素のみが蛍光を発していることが確認され、T1のDNAだけが特異的に結合していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態のプラズモン共鳴および蛍光の同時イメージング装置を表す図である。
【図2】本発明の実施例1のプラズモン共鳴および蛍光の同時イメージング装置を説明する為の図である。
【図3】本発明の実施例1のプラズモン共鳴および蛍光の同時イメージング装置の斜視図である。
【図4】金属アレイ上にリガンドが固定された状態を模式的に示す図である。
【図5】2×2の金属アレイ上にリガンドが固定された状態を模式的に示す図である。
【図6】本発明のイメージング装置の基板部の拡大模式図である。
【図7】本発明の基板上の発光状態を模式的に示す図である。
【図8】本発明の検出部の概略構成を示す図である。
【図9】本発明の実施例1を説明するための図である。
【図10】実施例1のプロトコールを示す図。
【符号の説明】
【0062】
101 プリズム
102 金属アレイ
103 基板
104 捕捉体標的物質複合体
105 光源
106 励起光
107 コリメートレンズ
108 反射光
109 集光レンズ
110 検出器
111 蛍光
112 集光レンズ
113 フィルター
114 検出器
115 偏光フィルター
201 プリズム
202 金属アレイ
203 基板
204 溶液セルカバー
205 半導体レーザー
206 励起光
207 コリメートレンズ
208 反射光
209 集光レンズ
210 検出器
211 蛍光
212 集光レンズ
214 フィルター
215、216 検体もしくは洗浄液の注入口、または排出口
217 リード線
218 データ処理装置
219 励起光学系固定用アーム
220 反射光学系固定用アーム
221 偏光フィルター
301 基板
302 金属アレイ
303 抗CEA抗体
304 抗PSA抗体
305 抗AFP抗体
306 抗PAP抗体
401 基板
402 金属アレイ
403 ターゲットDNA(T1)
404 ターゲットと塩基配列が異なるDNA(T2)
405 プローブDNA(P)
501 入射光
502 入射角
503 反射光
504 出射角
505 蛍光
506 金属薄膜
507 誘電体基板
602 基板
601 発光
603 2次元光センサー
604 受光領域
605 発光を受光した領域
701、702 光センサー
703 演算装置
704 表示装置
710 画像処理用コンピュウター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基体と、
該基体上に形成された複数の島状の金属薄膜からなる金属アレイと、
前記複数の島状の金属薄膜上に形成された特定の化学物質を捉える複数の異なった捕捉体と、
基体の前記金属アレイの形成された面と対向する面側に形成された第一の光学系と、
前記基板の金属膜が形成された面側に形成された第二の光学系とを有し、
前記第一の光学系は、第一の光源と前記第一の光源からの出射光の前記基体からの反射光を検出する2次元光センサーからなる第一の検出手段とからなり、
前記第二の光学系は、前記第一の光源により励起された捕捉体−標的物質複合体からの蛍光を検出する2次元光センサーからなる第二の検出手段とからなり、
前記第一の検出手段により検出された2次元の光情報を表示する第一の表示手段と、
前記第二の検出手段により検出された2次元の光情報を表示する第二の表示手段とを有することを特徴とするイメージング装置。
【請求項2】
前記特定の化学物質を捉える捕捉体がタンパク質であることを特徴とする請求項1記載のイメージング装置。
【請求項3】
前記特定の化学物質を捉える捕捉体が核酸であることを特徴とする請求項1記載のイメージング装置。
【請求項4】
前記第一の光源の光軸の前記基体となす角と前記第一の検出手段の光軸の前記基体となす角度とが同一の角度を保持するようにスキャンされることを特徴とする請求項1記載のイメージング装置。
【請求項5】
励起光を入射または出射させるための誘電体基体と、
該基体上に形成された複数の島状の金属薄膜からなる金属アレイと、
前記複数の島状の金属薄膜上に形成された特定の化学物質を捉える複数の異なったリガンドと、
基板の前記金属膜アレイの形成された面と対向する面側に形成された第一の光学系と、前記基板の金属膜が形成された面側に形成された第二の光学系とを有し、
前記第一の光学系の第一の光源から前記基体へ前記第一の光源からの出射光を入射する工程と、
前記入射光の前記基体からの反射光を2次元光センサーにより検出する第一の検出工程と、
前記入射光により励起された前記捕捉体−標的物質複合体からの蛍光を検出する第二の検出工程と、
前記第一の検出工程で得られた第一の2次元光情報を2次元の表示装置により表示する第一の表示工程と、
前記第二の検出工程で得られた第二の2次元光情報を2次元の表示装置により表示する第二の表示工程とを有することを特徴とするイメージング方法。
【請求項6】
前記特定の化学物質を捉える捕捉体がタンパク質であることを特徴とする請求項5記載のイメージング方法。
【請求項7】
前記特定の化学物質を捉える捕捉体が核酸であることを特徴とする請求項5記載のイメージング方法。
【請求項8】
前記第一の光源の光軸の前記基体となす角と前記第一の検出手段の光軸の前記基体となす角度とが同一の角度を保持するようにスキャンされることを特徴とする請求項5記載のイメージング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−208294(P2006−208294A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23517(P2005−23517)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】