プラントの制御装置
【課題】制御量を所定の条件下で制御するプラントの制御装置において、実際の制御量が上記条件を逸脱したり、逆に制御量を上記条件に拘束する制御が不要に働いたりするのを防止できる制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置に構成された最適化コントローラは、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N)を備える。燃焼モデルベースコントローラ7_iでは、予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを燃焼モデル711_iに入力したときに、このモデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、算出された予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいて、燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定する。
【解決手段】制御装置に構成された最適化コントローラは、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N)を備える。燃焼モデルベースコントローラ7_iでは、予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを燃焼モデル711_iに入力したときに、このモデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、算出された予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいて、燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの制御装置に関する。特に、プラントモデルに基づいて制御入力を決定するプラントの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのエンジン制御において、点火時期や燃料の噴射時期は、エンジンの性能が最大限に引き出されるように、エンジン回転数や空燃比などに応じて最適な時期に設定される。一方、これら点火時期や噴射時期は、燃焼サイクルごとのシリンダ内圧の最大値(以下、「最大シリンダ内圧」という)に相関があることが知られている。エンジンに過度の負担がかからないように、この最大シリンダ内圧は所定の許容最大値を超えないように制御される。
【0003】
図30は、点火時期又は噴射時期と、エンジン出力及び最大シリンダ内圧との関係を模式的に示す図である。
点火(噴射)時期を進角側に設定すると出力を向上できるものの、これに伴い最大シリンダ内圧も大きくなる傾向がある。このため、図30に示すように、点火(噴射)時期を最も大きな出力が得られる最適な時期(MBT(Minimum advance for the Best Torque))に設定すると、最大シリンダ内圧がエンジンの骨格強度限界に応じて設定された許容最大値を超えてしまう場合がある。このような場合、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないように点火(噴射)時期を遅角側に設定する必要があるが、従来では、エンジンの生産ばらつき、気筒間のばらつき、環境ばらつきなどを考慮して、最大シリンダ内圧が確実に許容最大値を超えないように、許容最大値に対し所定のマージンを持たせて点火(噴射)時期を設定する。このように、許容最大値に対するマージンを大きく設定するとエンジンにかかる負担をより確実に軽減できるものの、結果としてエンジンの出力が低下したり、エンジンの重量が増加したりするおそれがある。
【0004】
そこで特許文献1には、エンジンの骨格強度を使いきれるように、エンジンのシリンダ内圧をシリンダ内圧センサで監視し、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないように燃料の供給量や、点火(噴射)時期などを調整する技術が提案されている。より具体的には、シリンダ内圧センサによる最大シリンダ内圧の検出値が、許容最大値よりも小さな値に設定した閾値を超えたことに応じて燃料の供給量を減量することにより、最大シリンダ内圧を許容最大値以下に抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−180879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようにシリンダ内圧センサの検出値を用いたフィードバック制御アルゴリズムにより最大シリンダ内圧を許容最大値以下に抑制する制御を行ったとしても、今回の燃焼サイクルに基づいて演算した点火時期や燃料噴射時期は、次回の燃焼サイクル時にしか反映できないため、最大シリンダ内圧に必ず制御遅れが発生してしまう。このため、例えば、一時的に最大シリンダ内圧が許容最大値を超えてしまったり、逆に不要に最大シリンダ内圧を抑制する制御が働くことで出力が低下したりするおそれがある。このような運転者の意思に反した挙動は、過渡的な運転状態において特に顕著となる。したがって、従来の技術では、最大シリンダ内圧を許容値よりも十分に低く抑える必要があるため、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきれているとは言いがたい。
【0007】
なお、ここまで制御量に制御遅れが発生することに伴う課題についてエンジンの最大シリンダ内圧制御を例に説明したが、このような制御遅れに付随した課題は、エンジンの制御量を所定の許容最大値以下に抑制する制御をフィードバック制御に基づいて行った場合には、共通して生じうると考えられる。
【0008】
本発明は、上述した点を考慮してなされたものであり、制御量を所定の条件下で制御するプラントの制御装置において、実際の制御量が上記条件を逸脱したり、逆に制御量を上記条件に拘束する制御が不要に働いたりするのを防止できる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、プラント(例えば、後述のエンジン1,1D)の第1制御量(例えば、後述の最大シリンダ内圧Pmax、シリンダ内圧検出値Pcyl、NOxセンサ検出値NOx_act、温度センサ検出値Tex_act、ノックセンサ検出値Pknock)を調整するための制御パラメータ(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、燃料噴射分割比率Rinj、圧縮比指令値Cr_cmd、点火時期θig)を含む入力に基づいて、前記プラントの制御量を推定するプラントモデル(例えば、後述の図3、図6、図7、図8、図9、図10に示す燃焼モデル)を備えたプラントの制御装置(例えば、後述の制御装置2,2A,2B,2C,2D,2E)を提供する。前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値(例えば、後述の予測燃料噴射量Ginj_i、及び予測燃料噴射時期θinj_i)を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値(例えば、後述の予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i)を第1制御量モデル値と定義する。前記制御装置は、当該第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように前記制御パラメータの暫定値を補正し、さらに当該補正された制御パラメータの暫定値に基づいて前記プラントの制御入力(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、燃料噴射分割比率Rinj、圧縮比指令値Cr_cmd、点火時期θig)を決定する制御入力決定手段(例えば、後述の最適化コントローラ5,5A,5B,5C,5D,5E)を備える。
【0010】
この発明によれば、制御入力決定手段は、プラントモデルに制御パラメータの暫定値を入力したときにおける、このプラントモデルから出力された第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように制御パラメータの暫定値を補正する。さらに、この制御入力決定手段は、第1制御量モデル値が拘束条件を満たすように補正した制御パラメータの暫定値に基づいてプラントの制御入力を決定する。これにより、第1制御量が常に拘束条件を満たすように制御入力を決定することができる。このように、この発明によれば、実際の第1制御量が拘束条件を外れることを契機とすることなく、プラントモデルによりフィードフォワード的に制御入力を決定することができるので、制御遅れにより一時的に第1制御量が上記拘束条件から逸脱したり、逆に第1制御量が上記拘束条件を満たすような制御が不要に働くのを防止したりすることもできる。
【0011】
この場合、前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第2制御量の推定値(例えば、後述の予測トルク値Pre_Trq_i)を、第2制御量モデル値と定義し、前記制御入力決定手段は、前記第1制御量モデル値が前記拘束条件を満たすように、それぞれ異なる最適化条件の下で(例えば、それぞれ異なる後述の分配係数We_iの下で)前記制御パラメータの暫定値を補正する複数の最適化手段(例えば、後述のN個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N))と、前記複数の最適化手段のそれぞれにより補正された前記制御パラメータの暫定値(例えば、後述の予測燃料噴射時期補正値dθinj_i(i=1〜N)、及び予測燃料噴射量補正値dGinj_i(i=1〜N))のうち、前記第2制御量モデル値が所定の優先条件(例えば、第2制御量モデル値が大きいこと)に最も適合するものを選択し、当該選択した制御パラメータの暫定値を前記プラントの制御入力として決定する最適値選択手段(例えば、後述の最適入力セレクタ8)と、を備えることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、複数の最適化手段により、それぞれ異なる最適化条件の下で、第1制御量モデル値が拘束条件を満たすように制御パラメータの暫定値を補正する。そして、最適値選択手段により、各最適化手段により補正された制御パラメータの暫定値のうち、第2制御量モデル値が所定の優先条件に最も適合するものを選択し、この選択した暫定値をプラントの制御入力として決定する。これにより、例えば第1制御量が拘束条件を満たすように制御入力を決定するあまり、プラントの第2制御量が上記優先条件から外れてしまい、マイナスの影響が現れるのを防止することができる。すなわち、第1制御量を適切に維持しながら、第2制御量が望まれていない挙動を示すのを防止することができる。
【0013】
この場合、前記プラントモデルは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成されたニューラルネットワークを含むことが好ましい。
【0014】
例えば、プラントモデルとして差分方程式などで表わされた物理モデルを用いた場合、その演算には過大な負荷が要求されるため、車載コンピュータのような小型の計算機では、実現できない場合がある。また、物理モデルでは、数式では表現できないようなプラントにおける複雑な素過程については推定することができないため、一般的にモデル化誤差が大きい。さらに、物理モデルでは、モデル化に伴い莫大な数の不特定のモデルパラメータを含む。これらモデルパラメータは、予め実験により適切な値に同定する必要があるが、実際には非線形結合しているものも多く、既存のシステム同定理論では困難である場合が多い。これに対して、本発明では、プラントモデルとしてニューラルネットワークを用いることにより、車載コンピュータでも実現可能な程度の計算量で、モデル化誤差が小さく精度の高い演算が可能となる。また、ニューラルネットワークにも多くのパラメータが含まれているものの、ニューラルネットワークでは物理的な意味を持ったモデルパラメータとしてこれらパラメータを同定しないので、既存の手法により適切な値に設定することができる。
【0015】
この場合、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段(例えば、後述のシリンダ内圧センサ、NOxセンサ、排気温度センサ、ノックセンサ)と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記プラントモデルを適応修正するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルを適応修正する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0017】
この場合、前記ニューラルネットワークの入力(例えば、後述の入力ベクトルU)は、当該入力と出力(例えば、後述の出力Y)との相関関係を適応修正するための修正係数(例えば、後述の適応修正係数KVNS)を含み、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルのニューラルネットワークに入力される修正係数を算出する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0019】
この場合、前記プラントモデルは、前記ニューラルネットワークの出力(例えば、後述の出力Y)に修正係数(例えば、後述の適応修正係数KVNS)を乗算又は加算したものに基づいて前記第1制御量の推定値を算出し、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルの出力に乗算又は加算される修正係数を算出する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
また、上述のように、修正係数をニューラルネットワークに入力する場合(入力補正型の場合)、この修正係数を通じて、プラントの劣化や生産ばらつきなどの特性変化を予め学習しておく必要がある。このため、プラントが上記学習した特性変化から外れた予期しない変化をした場合、修正係数によりモデル化誤差を補償できなくなる場合がある。
これに対して、修正係数をニューラルネットワークの出力に乗算又は加算する場合(出力補正型の場合)、このようなプラントの特性変化を予め学習する必要がないので、プラントが上述のような予期しない変化をした場合であっても、比較的高い精度でモデル化誤差を補償することができると考えられる。すなわち、入力補正型と出力補正型とを比較すると、静的な特性変化に対するロバスト性は出力補正型の方が高いが、動的な特性変化に対するロバスト性は入力補正型の方が高い傾向がある。
【0021】
この場合、前記プラントモデルへの入力のうちの少なくとも1つを含む参照パラメータ(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、及びエンジン回転数NE)を定義し、前記モデル修正手段は、前記参照パラメータを基底とする空間に、互いに重複する複数の領域を定義するとともに、各領域にそれぞれ「0」でない値を持つ正規化された複数の重み関数(例えば、後述の重み関数Wij)を設定する重み関数設定手段(例えば、後述の重み関数設定部922)と、前記重み関数の値と前記偏差との積が最小になるように、前記領域ごとに修正値を算出する修正値算出手段(局所修正係数算出部923)と、前記重み関数の値と前記修正値との積の全領域に亘る総和に基づいて前記修正係数を決定する決定手段(例えば、後述の修正係数算出部924)と、を備えることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、参照パラメータを基底とする空間に複数の領域を定義するとともに、各領域に重み関数を設定する。そして、重み関数と上記偏差との積が最小になるように、領域ごとに修正値を算出する。さらに重み関数と上記修正値との積の全領域にわたる総和に基づいて修正係数を決定する。
ところで、プラントにおける劣化や生産ばらつきが、第1制御量の推定値の誤差におよぼす影響は、プラントの状態に応じて異なったものになると考えられる。この構成によれば、プラントの状態を示す参照パラメータを基底とした空間内の領域ごとの修正値を算出することにより、プラントの状態ごとに異なる誤差への影響を考慮して修正係数を決定することができる。
【0023】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量(例えば、後述の燃料噴射量Ginj)と、燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)とを含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、燃料噴射量及び燃料噴射時期の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される最大シリンダ内圧の推定値が、許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定し、内燃機関に入力する。これにより、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないようにすることができるので、内燃機関の骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0025】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量(例えば、後述の燃料噴射量Ginj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0026】
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割噴射比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される最大シリンダ内圧の推定値が許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割噴射比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないようにすることができるので、内燃機関の骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0027】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関から排出されるNOx量であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記内燃機関の運転状態に応じて設定された許容最大値(例えば、後述の最大フィードNOx目標値NOx_trgt)以下であることが好ましい。
【0028】
近年の排気浄化装置によれば、内燃機関から排出されるNOxの殆どを浄化できるものの、さらなるNOxの排出量の低減や、排気浄化装置にかかる負担の軽減のためには、内燃機関から排出されるNOx量をする必要がある。そこで、内燃機関から排出されるNOx量を検出するNOx検出手段を設け、このNOx検出手段の出力が許容最大値を超えないようにフィードバック制御する手法が考えられる。しかしながらこの手法では、上述のように制御遅れが発生してしまい、NOx量が一時的に許容最大値を超えてしまう場合がある。特に過渡条件下では、このようなNOx量の増大が顕著となる。
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出されるNOx量の推定値が許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、過渡条件下であっても内燃機関から排出されるNOx量が許容最大値を超えないようにすることができるので、NOxの排出量を低減するとともに、排気浄化装置にかかる負担を軽減することができる。
【0029】
この場合、前記プラントは、その排気通路に排気を浄化する排気浄化触媒が設けられた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の排気温度であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度(例えば、後述の排気温度目標値Tex_trgt)に近いこと、であることが好ましい。
【0030】
近年のリーンバーン内燃機関の排気浄化触媒では、高い浄化率を発揮できる触媒温度範囲が非常に狭くなっている。そこで近年では、浄化率を高く維持できるように触媒温度を適切な温度に維持するため、内燃機関の排気温度を、触媒の活性温度に応じて設定された目標温度の近くに維持する制御を行う場合がある。そこで、内燃機関の排気温度を検出する排気温度検出手段を設け、この排気温度センサの出力が目標温度から逸脱しないようにフィードバック制御する手法が考えられる。しかしながらこの手法では、上述のように制御遅れが発生してしまい、排気温度が目標値から逸脱してしまう場合がある。
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される排気温度の推定値が目標値から外れないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、排気温度が目標値から逸脱しないようにすることができるので、排気浄化触媒における浄化率を高く維持することができる。
【0031】
ところで、排気温度を上昇させることは内燃機関における燃焼効率を低下させることにつながるため、このような排気温度制御は、浄化率と燃費性能とを両立することが課題となる。一般的に排気温度は、内燃機関における燃焼速度に大きく影響され、この燃焼速度は、燃料性状、EGRバルブの流量ばらつき及び劣化度合い、過給器の特性ばらつき及び劣化度合いなどの様々な要因により変化する。この発明によれば、モデル修正手段により、プラントモデルを適応修正することにより、このような特性変化が生じた場合であっても、浄化率と燃費性能との両立を図ることができる。
【0032】
この場合、前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期(例えば、後述の点火時期θinj)と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値(例えば、後述の圧縮比指令値Cr_cmd)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0033】
可変圧縮比機構で圧縮比を向上することにより、内燃機関がガソリンエンジンであるか又はディーゼルエンジンであるかにかかわらず燃費性能を向上できる。しかしながらこのとき、内燃機関がガソリンエンジンである場合には、高負荷条件においてノックが発生しやすくなり、内燃機関がディーゼルエンジンである場合には、最大シリンダ内圧が大きくなりやすい。このため、可変圧縮比機構を備えた内燃機関では、その燃費性能と、過大なノックの発生や、過大な最大シリンダ内圧の発生の回避との両立が課題となる。
この発明によれば、内燃機関の点火時期及び圧縮比指令値の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出されるノック強度の推定値が許容最大値を超えないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて点火時期及び圧縮比指令値を決定し、内燃機関に入力する。これにより、ノック強度が許容最大値を超えないようにしながら、燃費を向上することができる。
【0034】
ところで、一般的な可変圧縮比機構では、内燃機関の圧縮比を、機構の一部分の変位又は角度により検出するため、劣化や生産ばらつきによる誤差が生じやすい。この発明によれば、モデル修正手段により、プラントを適応修正することにより、このような特性変化が生じた場合であっても、燃費の向上と、過大なノックの発生の回避とを両立することができる。
【0035】
この場合、前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関のノック強度であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期(例えば、後述の点火時期θinj)と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値(例えば、後述の圧縮比指令値Cr_cmd)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述のノック強度目標値Pknock_trgt)以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態に係る最適化コントローラの構成を示すブロック図である。
【図3】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図4】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成を示す図である。
【図5】シグモイド関数を示す図である。
【図6】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態に係る最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図8】上記実施形態に係る最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図9】上記実施形態に係る入力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図10】上記実施形態に係る出力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図11】上記実施形態に係るモデル適応器の構成を示すブロック図である。
【図12】上記実施形態に係るエンジン回転数を定義域とした4つの第1重み関数を示す図である。
【図13】上記実施形態に係る燃料噴射量を定義域とした4つの第2重み関数を示す図である。
【図14】上記実施形態に係る2つの参照パラメータを定義域とした16個の重み関数を示す図である。
【図15】上記実施形態に係るN個のコントローラのうちのi番目の燃焼モデルベースコントローラの構成を示すブロック図である。
【図16】上記実施形態に係る制御装置により実行される最大シリンダ内圧制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図17】従来の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図18】従来の制御装置により最大シリンダ内圧制御を行った場合における燃料噴射量、燃料噴射時期補正値、及びシリンダ内圧の変化を示す図である。
【図19】条件1、条件2、及び条件3の内容を示す図である。
【図20】上記実施形態に係る制御装置を条件1のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図21】上記実施形態に係る制御装置を条件2のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図22】上記実施形態に係る制御装置を条件3のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図24】燃料噴射時期の遅角化を模式的に示す図である。
【図25】メイン噴射の分割を模式的に示す図である。
【図26】本発明の第3実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図27】本発明の第4実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図28】本発明の第5実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図29】本発明の第6実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図30】点火時期又は噴射時期と、エンジン出力及び最大シリンダ内圧との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るプラントとしての内燃機関(以下、「エンジン」という)1と、その制御装置2との構成を示すブロック図である。
【0038】
エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、複数のシリンダのそれぞれの燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁が設けられている。
【0039】
制御装置2は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するクランク角度位置センサ(図示せず)と、エンジン1のシリンダ内圧を検出するシリンダ内圧センサ(図示せず)と、クランク位置角度センサから出力されたクランク角度を示すパルス信号(以下、「クランク角信号」という)θcrk及びシリンダ内圧センサの検出値(以下、「シリンダ内圧検出値」という)Pcylに基づいてエンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginj及びその燃料噴射時期θinjを決定する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3と、を備える。この他、制御装置2は、ECU3に接続されたアクセル開度センサSAや、その他のセンサ類SBなどを備える。
【0040】
なお、このエンジン1における1燃焼サイクルは、クランク角信号θcrkが720deg進むことに相当する。エンジン1の回転数NEは、クランク角信号θcrkに基づいてECU3により算出され、エンジン1の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧Pmaxは、シリンダ内圧検出値Pcylをクランク角信号θcrkに基づいて1燃焼サイクルに亘るピークホールド処理を施すことで検出される。
【0041】
アクセル開度センサSAは、車両のアクセルペダルの開度を検出し、検出値APに略比例した信号をECU5に出力する。
センサ類SBは、例えば、エアフローセンサ、吸気圧センサ、排気圧センサ、EGRバルブ開度センサなどを含む。エアフローセンサは、エンジン1に吸入される空気量(吸入空気量)を検出し、検出値Gairに略比例した信号をECU3に出力する。吸気圧センサは、エンジンの吸気管内の吸気圧力を検出し、検出値PBに略比例した信号をECU3に出力する。排気圧センサは、エンジンの排気管内の排気圧力を検出し、検出値PEXに略比例した信号をECU3に出力する。EGRバルブ開度センサは、エンジンの排気還流通路を開閉するEGRバルブの開度(リフト量)を検出し、検出値θegrに略比例した信号をECU3に出力する。
【0042】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、エンジン1の燃料噴射弁などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0043】
また、ECU3には、以上のようなハードウェア構成により、各種センサの入力に基づいて最大シリンダ内圧Pmaxが所定の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように、最適な燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定する最適化コントローラ5が構成されている。以下、この最適化コントローラ5の構成について詳細に説明する。
【0044】
<1.最適化コントローラ>
図2は、最適化コントローラ5の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、最適化コントローラ5は、基準燃料噴射時期θinj_bsを算出する基準噴射時期算出部51と、基準燃料噴射量Ginj_bsを算出する基準噴射量算出部52と、燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjを算出する補正値算出部6と、上記基準値θinj_bs,Ginj_bsのそれぞれに上記補正値dθinj,dGinjを加算する2つの加算器53,54と、を含んで構成される。
【0045】
この最適化コントローラ5において、燃料噴射時期θinj(k)は、基準噴射時期算出部51で算出された基準燃料噴射時期θinj_bs(k)と、補正値算出部6で算出された燃料噴射時期補正値dθinj(k)とを、加算器53により加算することで算出される(下記式(1−1)参照)。
【数1】
【0046】
一方、燃料噴射量Ginj(k)は、基準噴射量算出部52で算出された基準燃料噴射量Ginj_bs(k)と、補正値算出部6で算出された燃料噴射量補正値dGinj(k)とを、加算器54により加算することで算出される(下記式(1−2)参照)。
【数2】
【0047】
基準噴射時期算出部51では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて所定のマップを検索することでドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、さらにこのドライバ要求トルクTRQ_DRV及びエンジン回転数NEに基づいて図示しない制御マップを検索することにより、基準燃料噴射時期θinj_bs(k)を算出する。
基準噴射量算出部52では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて所定のマップを検索することでドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、さらにこのドライバ要求トルクTRQ_DRV及びエンジン回転数NEに基づいて図示しない制御マップを検索することにより、基準燃料噴射量Ginj_bs(k)を算出する。
【0048】
なお、この最適化コントローラ5では、1燃焼サイクルごとに最適な燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを算出するため、ブロックごとに異なる演算周期の下で演算を行う。基準噴射時期算出部51、基準噴射量算出部52、及び加算器53,54では、実際のエンジンの燃焼サイクルと同じ演算周期Tk、すなわちクランク角信号θcrkが720deg進むごとに演算を行う。また、上記式(1−1)及び(1−2)に示すように、本実施形態では、演算周期Tkの下で更新される演算値には「k」を付す。
【0049】
なお、後に詳述するように、補正値算出部6のうち図2中破線で示したブロックでは、実際のエンジンの燃焼サイクルと同期した演算周期Tkよりも短い周期で演算が行われる。そこで、上記燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjには、補正値算出部6により算出された最適燃料噴射時期補正値dθinj_opt及び最適燃料噴射量補正値dGinj_optを、クランク角信号θcrkに基づいて上記演算周期Tkの下でダウンサンプリングしたものが用いられる。
【0050】
補正値算出部6は、N個のコントローラで構成された燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nと、最適入力セレクタ8と、燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nのそれぞれに備えられた後述の燃焼モデルを、エンジンの特性変化に応じて適応修正するモデル適応器9と、を含んで構成される。
【0051】
補正値算出部6の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nでは、上記マップ検索により算出された基準燃料噴射時期θinj_bs及び基準燃料噴射量Ginj_bsを各々の燃焼モデルに入力することで最大シリンダ内圧Pmaxに要求される所定の拘束条件を満たすかどうかを予測する。ここで、最大シリンダ内圧が上記条件を満たさないと予測された場合、各燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nは、上記基準値(θinj_bs,Ginj_bs)に対する補正値(dθinj_1,dGinj_1),…,(dθinj_N,dGinj_N)を算出する。そして最適入力セレクタ8では、これら補正値(dθinj_1,dGinj_1),…,(dθinj_N,dGinj_N)から最適なものを選択し、選択した補正値に基づいて最適燃料噴射時期補正値dθinj_opt及び最適燃料噴射量補正値dGinj_optを算出する。
【0052】
次に、補正値算出部6の各燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_N、モデル適応器9、及び最適入力セレクタ8の詳細な構成について説明する前に、燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_N及びモデル適応器9のそれぞれに設けられる燃焼モデルの詳細な構成について説明する。
【0053】
<2.燃焼モデル>
以下、エンジンの燃焼モデルの詳細な構成について、図3〜図10を参照して説明する。
本実施形態では、所定の入力に基づいて最大シリンダ内圧を推定する最大シリンダ内圧用燃焼モデルと、所定の入力に基づいてエンジンの発生トルクを推定するトルク用燃焼モデルとの2種類を準備する。以下、これら最大シリンダ内圧用燃焼モデルと、トルク用燃焼モデルとの2種類について順に説明する。
【0054】
<2−1.最大シリンダ内圧用燃焼モデル>
後に詳述するように、燃焼モデルの入力と出力の相関関係は、エンジンの生産ばらつきや劣化の度合いなど実際のエンジンの特性変化に適応して修正される。このような燃焼モデルの適応修正は、モデル適応器9(上述の図2参照)により算出される適応修正係数KVNSを燃焼モデルに入力することで実現される。そこで、この適応修正係数KVNSの入力の仕方に応じて、燃焼モデルは、出力補正型(後述の図3参照)と、入力補正型(後述の図6参照)との2種類に分けることができる。
また、以下詳細に説明するように、燃焼モデルは、ニューラルネットワークの出力に基づいて最大シリンダ内圧の推定値を算出する。最終的に最大シリンダ内圧の推定値を得るため、燃焼モデルが備えるニューラルネットワークには、所定のクランク角ごとのシリンダ内圧に相当する値を出力するように構築したもの(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワーク)と、燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧に相当する値を出力するように構築したもの(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワーク)との2種類が考えられる。
以下では、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型及び入力補正型の最大シリンダ内圧燃焼モデル、並びに、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型及び入力補正型の最大シリンダ内圧燃焼モデルの合計4種類の燃焼モデルについて順に説明する。
【0055】
<2−1−1.出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図3は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
この最大シリンダ内圧用燃焼モデルは、シリンダ内圧に相関のある複数のパラメータ(燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、エンジン回転数NE、パイロット燃料噴射量Ginj_pi、パイロット燃料噴射時期θinj_pi、メイン燃料噴射量Ginj_min、アフター燃料噴射量Ginj_after、アフター燃料噴射時期θinj_after、吸入空気量Gair、吸気圧力PB、排気圧力PEX、及びEGRバルブ開度θegr)、及び推定クランク角度Est_θcrkから成る複数成分の入力ベクトルUに基づいて、この入力ベクトルUに応じた最大シリンダ内圧の推定値Est_Pmaxを算出する。
【0056】
上記入力ベクトルUの成分のうち、メイン燃料噴射量Ginj_minは、主にエンジンから出力を得るために実行するメイン噴射における燃料噴射量を示す。なお、燃料噴射時期θinjは、より具体的には、このメイン噴射を実行する時期を示す。パイロット燃料噴射量Ginj_piは、上記メイン噴射よりも前に実行するパイロット噴射における燃料噴射量を示し、パイロット燃料噴射時期θinj_piは、このパイロット噴射を実行する時期を示す。アフター燃料噴射量Ginj_afterは、上記メイン噴射よりも後に実行するアフター噴射における燃料噴射量を示し、アフター燃料噴射時期θinj_afterは、このアフター噴射を実行する時期を示す。また、下記式(2−1)に示すように、これら3つの噴射量Ginj_pi,Ginj_min,Ginj_afterの総和は、燃料噴射量Ginjに相当する。
【数3】
【0057】
また、上記入力ベクトルUの成分のうち、推定クランク角度Est_θcrkは、実際のエンジンのクランク角度ではなく、燃焼モデルにおいて仮想的に設定したエンジンのクランク角度であり、燃焼モデル内で算出される。この推定クランク角度Est_θcrkは、下記式(2−2)に示すように、燃焼モデルで設定された所定の演算周期ごとに、クランク角分解能dθcrk_estだけ進み、720degを超えるとリセットされる。なお、最大シリンダ内圧用燃焼モデルにおける演算周期の下で更新される演算値には「tp」を付す。また、このクランク角分解能dθcrk_estは、例えば、2〜6degの範囲内で設定される。
【数4】
【0058】
なお、燃焼モデルの演算周期と、上記実際のエンジンの燃焼サイクルと同期した演算周期Tkとの関係は、この燃焼モデルを適用するブロック(モデル適応器、燃焼モデルベースコントローラなど)ごとに適宜設定される。
【0059】
図3に示すように、この出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルは、シリンダ内圧を推定するために構築されたシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを含んで構成される。この出力補正型の燃焼モデルにおける入力ベクトルUは、下記式(2−3)で定義される。
【数5】
【0060】
そして、下記式(2−4)に示すように、この入力ベクトルUをシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yに、適応修正係数KVNSを乗算したものを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとする。
【数6】
【0061】
さらにこの推定シリンダ内圧Est_Pcylに対し、燃焼モデルにおける1燃焼サイクル(推定クランク角度Est_θcrk=0〜720deg)にわたるピークホールド処理を施すことにより、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出する。
【数7】
【0062】
なお、上記式(2−4)の代わりに、下記式(2−6)に示すように、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの出力Yに適応修正係数KVNSを加算したものを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとすることもできる。
【数8】
【0063】
図4は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成を示す図である。
このニューラルネットワークは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成され、m成分の入力ベクトルU(tp)に応じて、出力Y(tp)を出力する。図4に示すように、このニューラルネットワークは、入力ベクトルU(tp)の成分数mに応じたm個のニューロンW1j(j=1〜m)で構成された入力層と、m×(n−1)個のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)で構成された中間層と、1個のニューロンYで構成された出力層との3つの層を含んで構成された階層型である。
入力層:W1j (j=1,2,…,m)
中間層:Wij (i=2,3,…,n,j=1,2,…,m)
出力層:Y
【0064】
入力層のm個のニューロンW1j(j=1〜m)の動作について説明する。
入力層のニューロンW1jには、信号T1j(tp)が入力される。この入力信号T1j(tp)には、それぞれ、下記式(2−7)に示すように入力ベクトルU(tp)のj番目の成分Uj(tp)が用いられる。
【数9】
【0065】
入力層のニューロンW1jは、中間層のm個のニューロンW2j(j=1〜m)に所定の重みで結合しており、これら結合したm個のニューロンW2jへ信号V1j(tp)を出力する。すなわち、このニューロンW1jは、下記式(2−8),(2−9)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号T1j(tp)に応じた信号V1j(tp)をm個のニューロンW2jに出力する。
【数10】
【数11】
【0066】
図5は、シグモイド関数f(x)を示す図である。この図5には、上記式(2−9)において、ε=0とし、β=0.5,1.0,2.0,3.0とした場合を示す。
シグモイド関数f(x)の値域は、[ε,ε+1]となっている。また、図5に示すように、シグモイド関数f(x)は、βを大きくするに従い、x=0を中心としたステップ関数に近づく。
【0067】
上記式(2−9)において、係数βはシグモイド関数f(x)の傾きゲインを示し、係数εはシグモイド関数f(x)のオフセット値を示す。傾きゲインβは、後述のニューラルネットワークの学習により設定する。オフセット値εは、後述のニューラルネットワークの学習により設定するか、又は所定の値に設定しておく。
【0068】
次に中間層の(n−1)×m個のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)の動作について説明する。
中間層のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)には、結合するニューロンから出力されたm個の信号Vi−1,j(j=1〜m)のそれぞれに所定の重みωi−1,j(j=1〜m)を乗じた信号の和が入力される。したがって、中間層のニューロンWijには、下記式(2−10)に示すような信号Tij(tp)が入力される。
【数12】
【0069】
中間層のニューロンのうち出力層に結合するm個を除いたニューロン、すなわち、(n−2)×m個のニューロンWij(i=2〜n−1,j=1〜m)は、中間層のm個のニューロンWi+1,j(j=1〜m)に重みωijで結合しており、これら結合したニューロンWi+1,jへ信号Vij(tp)を出力する。すなわち、このニューロンWij(i=2〜n−1,j=1〜m)は、下記式(2−11)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号Tij(tp)に応じた信号Vij(tp)をm個のニューロンWi+1,jに出力する。
【数13】
【0070】
また、中間層のm個のニューロンWnj(j=1〜m)は、出力層のニューロンYに重みωnjで結合しており、この出力層のニューロンYへ信号Vnj(tp)を出力する。すなわち、これらニューロンWnj(j=1〜m)は、下記式(2−12)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号Tnj(tp)に応じた信号Vnj(tp)をニューロンYに出力する。
【数14】
【0071】
次に出力層のニューロンYの動作について説明する。
出力層のニューロンYには、結合する中間層のニューロンから出力されたm個の信号Vn,j(j=1〜m)に所定の重みωn,j(j=1〜m)を乗じた信号の和が入力される。したがって、出力層のニューロンYには、下記式(2−13)に示すような信号T(tp)が入力される。
【数15】
【0072】
出力層のニューロンYは、下記式(2−14),(2−15)に示すように、シグモイド関数g(x)に従って、入力信号T(tp)に応じた信号Y(tp)を出力する。
【数16】
【数17】
【0073】
シグモイド関数g(x)は、上述の図5に示す関数f(x)と、定性的には同じ振る舞いを示すが、値域が[δ,δ+α]である点でシグモイド関数f(x)と異なる。上記式(2−15)において、係数γはシグモイド関数g(x)の傾きゲインを示し、係数δはシグモイド関数g(x)のオフセット値を示す。また、係数αはニューラルネットワークの出力の取り得る自由度を設定するための出力ゲインを示す。傾きゲインγ及び出力ゲインαは、後述のニューラルネットワークの学習により設定する。オフセット値δは、後述のニューラルネットワークの学習により設定するか、又は所定の値に設定しておく。
【0074】
以上のように構成されたニューラルネットワークの学習は、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−3)の入力Uの成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、θcrk)と、シリンダ内圧との相関関係を示すデータを用いて、入力Uに基づいて算出された推定シリンダ内圧Est_Pcylとデータの値とが一致するように、ニューロンの関数f(x),g(x)の各種ゲイン(α,β,γ,δ,ε)、並びに、各ニューロンの結合の強さを示す重みωij(i=1〜n,j=1〜m)を設定することで行われる。また、後に詳述するように、適応修正係数KVNSは、エンジンの状態が新品又はばらつきに対し標準のものであるときはその値が「1」となるように設定されることから、入力Uとシリンダ内圧との相関関係を示すデータには、適応修正係数KVNSが「1」に相当する新品の実際のエンジンに基づいて得られたものが用いられる。
なお、ニューラルネットワークの学習のアルゴリズムには、既知の方法が用いられる。具体的には、例えば、逆誤差伝播法などの学習アルゴリズムの他、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムが挙げられる。
【0075】
<2−1−2.入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図6は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
上述の出力補正型の燃焼モデルでは、適応修正係数KVNSをニューラルネットワークの出力Yに乗算又は加算した(上述の図3参照)。これに対して入力補正型の燃焼モデルでは、下記式(2−16)に示すように、適応修正係数KVNSはシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの入力ベクトルUの一成分として含められる。
【数18】
【0076】
そして、下記式(2−17)に示すように、この入力ベクトルUをシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとする。
【数19】
【0077】
そして、上記出力補正型の燃焼モデルと同様に、算出した推定シリンダ内圧Est_Pcylに対し、燃焼モデルにおける1燃焼サイクルにわたるピークホールド処理を施すことにより、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出する。
【0078】
なお、この入力補正型のシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成は、上述の図4に示すものと基本的には同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0079】
また、ニューラルネットワークの学習の手順は、入力補正型と出力補正型とで異なる。入力補正型の燃焼モデルにおけるニューラルネットワークでは、上記式(2−16)に示す入力ベクトルUの成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、θcrk、KVNS)とシリンダ内圧との相関関係を示すデータとして、新品又はばらつきに対し標準のエンジンに基づいて取得された新品時データと、劣化又はばらつきの発生したエンジンに基づいて取得された劣化時データとの、少なくとも2組のデータを用いる。
【0080】
新品時データに基づいて学習を行う際には、入力ベクトルUに含まれる適応修正係数KVNSを、新品又はばらつきに対し標準のものに相当する「1」に設定する。また、劣化時データに基づいて学習を行う際には、入力ベクトルUに含まれる適応修正係数KVNSを、劣化又はばらつきの発生したものに相当する「0」に設定する。
以上のように設定した適応修正係数KVNSを含む入力ベクトルUを用いてニューラルネットワークの学習を行うことにより、適応修正係数KVNSを「0」〜「1」の間で連続的に変化させた場合に、推定シリンダ内圧Est_Pcylを、実際のエンジンの特性変化に合わせて変化させることができる。
なお、用いるデータの組の数は、上記2つに限らない。例えば、上記新品と劣化品との間の中間的な特性を有するエンジンを準備した場合には、適応修正係数KVNSを「1」と「0」との間の値、例えば、「0.3」や「0.6」に設定した上で、ニューラルネットワークの学習を行う。これにより、エンジンの特性変化をニューラルネットワークでより現実的に再現することができる。
【0081】
<2−1−3.出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
以上、説明したシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた最大シリンダ内圧用燃焼モデルでは、ニューラルネットワークの出力Yで推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylを算出し、これにピークホールド処理を施すことで最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出した。ニューラルネットワークでは、このように推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylの算出を経ることなく、直接、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出するように構成することができる。以下では、ニューラルネットワークの出力Yにより最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する燃焼モデルについて説明する。
【0082】
図7は、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、出力補正型では、下記式(2−17)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを上記式(2−3)から推定クランク角度Est_θcrkを除いたもので定義する。また、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、燃焼モデルにおける演算周期を推定クランク角度Est_θcrkに同期する必要がないので、その演算時刻tp´も、上記演算時刻tpとは異なったものとなる。
【数20】
【0083】
そして、下記式(2−18)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yに、適応修正係数KVNSを乗算したものを、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとする。
【数21】
【0084】
なお、この出力補正型の最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成は、上述の図4に示すものと基本的には同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0085】
最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの学習は、上述の図3に示すシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークと同じ手順で行われる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−17)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr)と、最大シリンダ内圧との相関関係を示すデータが用いられる。
【0086】
<2−1−4.入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図8は、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、入力補正型では、下記式(2−19)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを上記式(2−16)から推定クランク角度Est_θcrkを除いたもので定義する。
【数22】
【0087】
そして、下記式(2−20)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとする。
【数23】
【0088】
また、ニューラルネットワークの学習は、上述の図6に示すニューラルネットワークと同じ手順で行われる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−19)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、最大シリンダ内圧との相関関係を示すデータが用いられる。
【0089】
<2−2.トルク用燃焼モデル>
トルク用燃焼モデルも、上述の最大シリンダ内圧用シリンダモデルと同様に、適応修正係数KVNSの入力の仕方に応じて、出力補正型と入力補正型との2種類に分けられる。
【0090】
<2−2−1.入力補正型のトルク用燃焼モデル>
図9は、入力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
トルク推定値Est_Trqを算出する場合、入力補正型では、下記式(2−21)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを、上記式(2−16)に示す最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に定義する。なお、トルク用燃焼モデルにおける演算周期の下で更新される演算値には「tt」を付す。
【数24】
【0091】
そして、下記式(2−22)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、トルク推定値Est_Trqとする。
【数25】
【0092】
トルク推定用ニューラルネットワークの学習は、上述の最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に行うことができる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−21)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、発生トルクとの相関関係を示すデータが用いられる。
【0093】
<2−2−2.出力補正型のトルク用燃焼モデル>
図10は、出力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
後に詳述するように、本実施形態におけるモデル適応器では、最大シリンダ内圧用燃焼モデルにより算出された最大シリンダ内圧推定値と、センサの検出値との偏差が小さくなるように、適応修正係数を算出する。このように、適応修正係数を最大シリンダ内圧用燃焼モデルに発生した誤差に基づいて算出した場合、この適応修正係数を、トルク用に構築されたニューラルネットワークの出力に乗算又は加算しても、トルク推定値を実際のエンジンの特性変化に適応して修正することができない。
【0094】
したがって出力補正型のトルク用燃焼モデルを構築する場合、トルクを検出するセンサを別途準備し、モデル適応器により、トルク用燃焼モデルにより算出されたトルク推定値と、このセンサの検出値との偏差が小さくなるように適応修正係数KVNS´を算出する。そして、出力補正型のトルク用燃焼モデルでは、下記式(2−23)に示すように、ニューラルネットワークの出力Yに、トルク用燃焼モデルに発生した誤差に基づいて算出した適応修正係数KVNS´を乗算したものを、トルク推定値Est_Trqとする。
なお、モデル適応器では、上述のようなセンサの検出値の代わりに、シリンダ内圧センサの検出値に基づいて平均有効圧力や、マップに基づいて算出されたエンジンのフリクション及び補機の駆動トルクなどに基づいて算出されたトルクの推定値を用いてもよい。
【数26】
【0095】
このとき、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUは、下記式(2−24)に示すように定義する。
【数27】
【0096】
ニューラルネットワークの学習は、上述の最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に行うことができる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−24)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、発生トルクとの相関関係を示すデータが用いられる。
【0097】
<3.モデル適応器>
図11は、モデル適応器9の構成を示すブロック図である。
モデル適応器9は、最大シリンダ内圧用燃焼モデル91と、この最大シリンダ内圧用燃焼モデル91により算出された最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxと最大シリンダ内圧Pmaxとに基づいて適応修正係数KVNSを算出する適応修正器92と、を含んで構成される。
【0098】
最大シリンダ内圧用燃焼モデル91には、上述の図3、図6、図7、図8で説明したものの何れかが用いられる。
なお、このモデル適応器9のうち、適応修正器92では上記演算周期Tkの下で演算を行い、燃焼モデル91ではこの演算周期Tkと同じかそれよりも短い演算周期Tnの下で演算を行う。特に、燃焼モデル91に図3や図6に示すような推定クランク角度Est_θcrkごとに演算を行うモデルを適用した場合には、演算周期Tnを上記演算周期Tkよりも短く設定する必要がある。より具体的には、この場合、推定クランク角度Est_θcrkが720deg変化する時間(燃焼モデルにおける1燃焼サイクル)が、実際のエンジンの1燃焼サイクルと同じかそれよりも短くなるように演算周期Tnを設定する必要がある。なお、演算周期Tnの下で更新される演算値には「n」を付す。
【0099】
また、図11に示すように、燃焼モデル91により最大シリンダ内圧推定値Est_Pmax(k)を算出するにあたり、燃焼モデル91に入力する各種パラメータには、適応修正係数KVNSを除いて前回値が用いられる。例えば、燃焼モデル91として図3に示す出力補正型のもの適用した場合、燃焼モデル91のニューラルネットワークの入力ベクトルUは、上記式(2−3)に替えて下記式(3−1)のようになる。
【数28】
【0100】
適応修正器92は、モデル偏差算出部921と、重み関数設定部922と、局所修正係数算出部923と、修正係数算出部924と、を備える。以下説明するように、適応修正器92は、これら構成により、燃焼モデル91の誤差を示すモデル偏差E_Estを算出し、このモデル偏差E_Estが小さくなるように、適応修正係数KVNSを算出する。
【0101】
モデル偏差算出部921は、下記式(3−2)に示すように、燃焼モデル91により各種パラメータの前回値に基づいて算出された最大シリンダ内圧推定値Est_Pmax(k)から、最大シリンダ内圧の前回値Pmax(k−1)を減算することにより、モデル偏差E_Est(k)を算出する。
【数29】
【0102】
なお、燃焼モデル91に、図3及び図4に示すような推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylを算出する場合には、下記式(3−3)に示すように、推定シリンダ内圧Est_Pcylとセンサの検出値Pcylとの差の1燃焼サイクルの間における最大値や、推定シリンダ内圧Est_Pcylとセンサの検出値Pcylとの差の1燃焼サイクルにわたる積分値などにより、モデル偏差E_Est(k)を定義してもよい。
【数30】
【0103】
この適応修正器92では、燃焼モデル91への入力から選ばれた2つの参照パラメータ(例えば、エンジン回転数NE、及び燃料噴射量Ginj)を基底とする空間を定義するとともに、この空間を複数の領域に分ける。さらに、領域ごとに後述の局所修正係数Uij(i=1〜4,j=1〜4)を算出し、これら局所修正係数Uijを後述の重み関数Wij(i=1〜4,j=1〜4)で重み結合することにより、適応修正係数KVNSを算出する。
【0104】
ところで、エンジンの劣化や生産ばらつきが上記モデル偏差E_Estに及ぼす影響は、エンジンの運転条件、すなわち参照パラメータの値ごとに異なったものになると考えられる。適応修正器92では、参照パラメータを基底とする空間内の領域ごとに局所修正係数Uijを算出することにより、参照パラメータの値ごとに異なる上述の誤差への影響を考慮して適応修正係数KVNSを算出する。
【0105】
図12は、エンジン回転数NEを定義域とした4つの第1重み関数Wni(i=1〜4)を示す図である。図12に示すように、4つの第1重み関数Wniは、それぞれ、定義域に互いに重複した4つの領域を定義し、これら領域において「0」でない値を持つように設定される。
【0106】
より具体的には、定義域は、[N0,N2]と、第2領域[N1,N3]と、第3領域[N2,N4]と、第4領域[N3,N5]とに分けられる。ここで、図9に示すように、N0<N1<N2<N3<N4<N5とする。したがって、第1領域と第2領域は区間[N1,N2]で重複し、第2領域と第3領域は区間[N2,N3]で重複し、第3領域と第4領域は区間[N3,N4]で重複する。
【0107】
関数WN1は、第1領域[N0,N2]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN1は、区間[N0,N1]において「1」に設定され、区間[N1,N2]において「1」から「0」に減少するように設定される。
関数WN2は、第2領域[N1,N3]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN2は、区間[N1,N2]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N2,N3]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WN1と関数WN2は、区間[N1,N2]の中心で交差する。
関数WN3は、第3領域[N2,N4]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN3は、区間[N2,N3]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N3,N4]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WN2と関数WN3は、区間[N2,N3]の中心で交差する。
関数WN4は、第4領域[N3,N5]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN4は、区間[N3,N4]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N4,N5]において「1」に設定される。したがって、関数WN3と関数WN4は、区間[N3,N4]の中心で交差する。
【0108】
また、第1重み関数Wniは、下記式(3−4)に示すように、その総和関数の値がエンジン回転数NEによらず「1」となるように正規化されている。なお、以下では、エンジン回転数NE(k)を引数とした第1重み関数の値Wni(NE(k))を単にWni(k)とする。
【数31】
【0109】
図13は、燃料噴射量Ginjを定義域とした4つの第2重み関数Wgj(j=1〜4)を示す図である。
図13に示すように、4つの第2重み関数Wgjは、それぞれ、定義域に互いに重複した4つの領域を定義し、これら領域において「0」でない値を持つように設定される。
【0110】
より具体的には、定義域は、[G0,G2]と、第2領域[G1,G3]と、第3領域[G2,G4]と、第4領域[G3,G5]とに分けられる。ここで、図13に示すように、G0<G1<G2<G3<G4<G5とする。したがって、第1領域と第2領域は区間[G1,G2]で重複し、第2領域と第3領域は区間[G2,G3]で重複し、第3領域と第4領域は区間[G3,G4]で重複する。
【0111】
関数WG1は、第1領域[G0,G2]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG1は、区間[G0,G1]において「1」に設定され、区間[G1,G2]において「1」から「0」に減少するように設定される。
関数WG2は、第2領域[G1,G3]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG2は、区間[G1,G2]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G2,G3]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WG1と関数WG2は、区間[G1,G2]の中心で交差する。
関数WG3は、第3領域[G2,G4]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG3は、区間[G2,G3]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G3,G4]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WG2と関数WG3は、区間[G2,G3]の中心で交差する。
関数WG4は、第4領域[G3,G5]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG4は、区間[G3,G4]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G4,G5]において「1」に設定される。したがって、関数WG3と関数WG4は、区間[G3,G4]の中心で交差する。
【0112】
また、第2重み関数Wgjは、下記式(3−5)に示すように、その総和関数の値が燃料噴射量Ginjによらず「1」となるように正規化されている。なお、以下では、燃料噴射量Ginj(k)を引数とした第2重み関数の値Wgj(Ginj(k))を単にWgj(k)とする。
【数32】
【0113】
図14は、2つの参照パラメータ(NE,Ginj)を定義域とした16個の重み関数Wij(i=1〜4,j=1〜4)を示す図である。図14において、横軸はエンジン回転数NEを示し、縦軸は燃料噴射量Ginjを示す。図14に示すように、2つの参照パラメータ(NE,Ginj)の定義域には、互いに重複する16個の領域が定義される。
【0114】
16個の重み関数Wijは、下記式(3−6)に示すように、第1重み関数Wniの各成分と第2重み関数Wgjの各成分との積により定義される。これにより、16個の領域においてそれぞれ「0」でない値を持つ重み関数Wijが定義される。なお、図14には、4つの重み関数W11,W22,W33,W44のみを異なるハッチングで示す。
【数33】
【0115】
また、上記式(3−4)及び(3−5)と同様に、重み関数Wijの総和関数の値は、下記式(3−7)に示すように、2つの参照パラメータ(NE(k),Ginj(k))の値によらず「1」となるように正規化される。なお、以下では、エンジン回転数NE(k)及び燃料噴射量Ginj(k)を引数とした重み関数の値Wij(NE(k),Ginj(k))を単にWij(k)とする。
【数34】
【0116】
図11に戻って、重み関数設定部922は、複数の第1重み関数Wniが設定された第1重み関数算出部9221と、複数の第2重み関数Wgjが設定された第2重み関数算出部9222と、これら第1重み関数Wni及び第2重み関数Wgjに基づいて重み関数Wijを算出する乗算器9223と、モデル偏差E_Estに対し領域ごとに重み付けする乗算器9224と、を含んで構成される。
【0117】
第1重み関数算出部9221は、図12に示すようなマップを検索することにより、エンジン回転数NE(k)に応じた第1重み関数の値Wni(k)を算出する。
【0118】
第2重み関数算出部9222は、図13に示すようなマップを検索することにより、燃料噴射量Ginj(k)に応じた第2重み関数の値Wgj(k)を算出する。
【0119】
乗算器9223は、下記式(3−8)に示すように、第1重み関数算出部7151により算出された第1重み関数の値Wni(k)と第2重み関数の値Wgj(k)との各成分を乗算することにより、重み関数の値Wij(k)を算出する。
【数35】
【0120】
乗算器9224は、下記式(3−9)に示すように、算出された重み関数の値Wij(k)の各成分をモデル偏差E_Est(k)に乗算することにより、領域ごとに重み付けされた誤差信号WEVNSij(k)を算出する。
【数36】
【0121】
局所修正係数算出部923は、領域ごとに重み付けされた誤差信号WEVNSijが「0」になるように、局所修正係数Uij(i=1〜4,j=1〜4)を領域ごとに算出する。
【0122】
本実施形態では、誤差信号WEVNSijの収束速度を設定できる応答指定型制御アルゴリズムにより、局所修正係数Uijを算出する。この応答指定型制御アルゴリズムとは、偏差の収束挙動を規定した関数に基づいて、偏差の収束速度と収束挙動の両方を指定できる制御アルゴリズムのことをいう。
【0123】
局所修正係数算出部923は、この応答指定型制御アルゴリズムが実行可能に構成された複数のスライディングモードコントローラを備える。以下では、これらスライディングモードコントローラの動作について説明する。
【0124】
先ず、下記式(3−10)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_vと誤差信号の前回値WEVNSij(k−1)との積と、WEVNSij(k)との和を算出し、これを切換関数σ_vij(k)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_vは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数37】
【0125】
次に、下記式(3−11)に示すように、到達則入力Urch_vij(k)、及び適応則入力の前回値Uadp_vij(k−1)の和を算出し、これを局所修正係数Uij(k)として定義する。
【数38】
【0126】
到達則入力Urch_vij(k)は、偏差状態量を切換直線上に載せるための入力であり、下記式(3−12)に示すように、切換関数σ_vij(k)に所定の到達則ゲインKrch_vを乗算することで算出される。
【数39】
【0127】
適応則入力Uadp_vij(k)は、モデル化誤差や外乱の影響を抑制し、偏差状態量を切換直線に載せるための入力であり、下記式(3−13)に示すように、切換関数σ_vij(k)と所定の適応則ゲインKadp_vを乗算したものと、前回制御時の適応則入力Uadp_vij(k−1)との和により算出される。
【数40】
【0128】
修正係数算出部924は、領域ごとに算出された局所修正係数Uijを重み関数Wijによる重み結合したものに、「1」を加算することにより、適応修正係数KVNSを算出する。すなわち、修正係数算出部924は、下記式(3−14)に示すように、局所修正係数Uij(k)と重み関数の値Wijとの積の全領域(i=1〜4,j=1〜4)に亘る総和に、「1」を加算することにより、適応修正係数KVNS(k)を算出する。
【数41】
【0129】
ここで、上記式(3−14)において、「1」を加算した理由は、上述のように適応修正係数KVNS=1を新品の状態とした上で、適応則入力UADP_V_ijの初期値を「0」とし、かつ、適応修正係数KVNSの初期値を「1」とするためである。なお、適応則入力UADP_V_ijの初期値を「1」とした場合には、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。また、適応修正係数KVNSの初期値を、劣化品を示す「0」にする場合にも、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。また、上記式(2−6)に示すように、適応修正係数KVNSを加算することで燃焼モデルを適応修正する場合にも、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。
【0130】
また、上述のように重み関数Wijは、各領域においてのみ「0」でない値を持つ関数Wni及びWgjの積に基づいて算出されるものであるため、重み関数の値が「0」になる領域も存在する。したがって、上記式(3−14)において、全領域(i=1〜4,j=1〜4)に亘る総和を演算する際には、このような重み関数の値Wij(k)が「0」になる領域に関する演算を除外してもよい。これにより、演算負荷を軽減することができる。
【0131】
<4.燃焼モデルベースコントローラ>
図2に戻って、燃焼モデルベースコントローラの構成について説明する。
補正値算出部6には、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nが並列して設けられている。
図15は、N個のコントローラのうちのi番目の燃焼モデルベースコントローラ7_iの構成を示すブロック図である。
【0132】
燃焼モデルベースコントローラ7_iは、最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_i及びトルク用燃焼モデル712_iを含んで構成されたモデル予測器71_iと、このモデル予測器71_iを制御対象として再帰演算により予測燃料噴射時期補正値θdinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出するフィードバックコントローラ74_iと、を含んで構成される。
【0133】
この燃焼モデルベースコントローラ7_iのうち、フィードバックコントローラ74_iでは上記演算周期Tkよりも短い演算周期Tqの下で演算を行い、モデル予測器71_iでは上記演算周期Tqと同じかそれよりも短い演算周期Tmの下で演算を行う。
フィードバックコントローラ74_iは、実際のエンジンの1燃焼サイクルの間に、モデル予測器71_iを制御対象としてみたてて再帰的に演算することにより、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出する。このため、演算周期Tkが経過する間に、上記補正値dθinj_i,dGinj_iが所定の値に収束するように複数回演算を行う必要がある。このため、フィードバックコントローラ74_iにおける演算周期Tqは、上記演算周期Tkよりも十分に短くなるように設定する。なお、演算周期Tqの下で更新される演算値には「q」を付し、演算周期Tmの下で更新される演算値には「m」を付す。
【0134】
モデル予測器71_iは、フィードバックコントローラ74_iからの入力に基づいて予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iを算出する最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iと、フィードバックコントローラ74からの入力に基づいて予測トルク値Pre_Trq_iを算出するトルク用燃焼モデル712_iと、を備える。
【0135】
最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iには、上述の図3、図6、図7、図8で説明したものの何れかが用いられる。ここでは、図3に示す出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルを適用した場合について説明する。
この場合、燃焼モデル711_iのニューラルネットワークへの入力ベクトルUは、下記式(4−1)のようになる。
【数42】
【0136】
このとき、モデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射量Ginj_i(m)は、下記式(4−2)に示すように、基準噴射量算出部52により演算周期Tkの下で算出された基準燃料噴射量Ginj_bs(k)とフィードバックコントローラ74_iにより演算周期Tqの下で算出された予測燃料噴射量補正値の前回値dGinj_i(q−1)とを、加算器72_iで加算することにより算出される。
【数43】
【0137】
また、モデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射時期θinj_i(m)は、下記式(4−3)に示すように、基準噴射時期算出部51により演算周期Tkの下で算出された基準燃料噴射時期θinj_bs(k)とフィードバックコントローラ74_iにより演算周期Tqの下で算出された予測燃料噴射時期補正値の前回値dθinj_i(q−1)とを、加算器73_iで加算することにより算出される。
【数44】
【0138】
また、この最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iにおける予測クランク角度Pre_θcrkは、下記式(4−4)に示すように、演算周期Tmごとにクランク角分解能dθcrk_preだけ進み、720degを超えるとリセットされる。
【数45】
【0139】
上記式(4−1)に示す入力ベクトルUの下で、最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iで算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i(m)は、フィードバックコントローラ74_iに入力される。
【0140】
トルク用燃焼モデル712_iには、上述の図9、図10で説明したものの何れかが用いられる。ここでは、図9に示す入力補正型のトルク用燃焼モデルを適用した場合について説明する。
この場合燃焼モデル712_iのニューラルネットワークへの入力ベクトルUは、下記式(4−5)のようになる。
【数46】
【0141】
上記式(4−5)に示す入力ベクトルUの下で、トルク用燃焼モデル712_iで算出された予測トルク値Pre_Trq_i(m)は、後述の最適入力セレクタ8に入力される。
【0142】
なお、上記式(4−1)、(4−5)において、第4〜第7成分は、演算周期Tkの下で更新されるのに対し、第1、第2成分は、演算周期Tmの下で更新される。そこで、パイロット燃料噴射量Ginj_pi及び噴射時期θinj_pi、並びに、アフター燃料噴射量Ginj_after及び噴射時期θinj_afterを、燃料噴射量Ginj_i及びθinj_iに合わせて、例えばマップ検索などにより演算周期Tmの下で更新してもよい。
【0143】
フィードバックコントローラ74_iは、予測偏差算出部75_iと、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iと、燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iと、2つの増幅器76_i,77_iと、を含んで構成される。
【0144】
予測偏差算出部75_iは、2つのフィードバックコントローラ78_i,79_iにより補償すべき制御量としての、最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iを算出する。より具体的には、下記式(4−6)に示すように、モデル予測器71_iにより算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iのうち、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから超えた分を最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iとして定義する。また、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが、上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtよりも小さい場合には、最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iを「0」とする。
【数47】
【0145】
2つのフィードバックコントローラ78_i,79_iに入力する制御量を上記式(4−6)に示すように定義することにより、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超える場合にのみ、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、フィードバックコントローラ78_i,79_iにより予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iが算出され、ひいてはモデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iが補正される。
【0146】
また、ここで算出された最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iは、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_i及び燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iに対し、所定の分配係数We_iによりそれぞれ異なるように重み付けされた偏差が入力される。
より具体的には、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iには、下記式(4−7)に示すような偏差E_Ginj_i(q)が入力される。一方、燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iには、下記式(4−8)に示すような偏差E_θinj_i(q)が入力される。
【数48】
【数49】
【0147】
ここで、上記式(4−7)、(4−8)における分配係数We_iには、燃焼モデルベースコントローラ7_iごとに「0」から「1」の間で固有の値を設定する。すなわち、上述の図2に示すように、本実施形態では、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,71_Nを並列に設けたが、各コントローラ71_1,…,71_Nでは、分配係数We_1,…,We_Nの値が異なるよう設定する。したがって、各コントローラ71_1,…,71_Nでは、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_1,…, Pre_Pmax_Nが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、異なる条件の下で予測燃料噴射時期補正値dθinj_1,…,dθinj_N、予測燃料噴射量補正値dGinj_1,…, dGinj_N、及び予測トルク値Pre_Trq_1,…, Pre_Trq_Nが算出される。
【0148】
燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iは、上記モデル適応器9の局所修正係数算出部923と同様の構成のスライディングモードコントローラを備える。この燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iでは、先ず、下記式(4−9)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_θinjと偏差の前回値E_θinj_i(q−1)との和を算出し、これを切換関数σθinj_i(q)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_θinjは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数50】
【0149】
次に、下記式(4−10)に示すように、到達則入力dθinj_rch_i(q)と適応則入力の前回値dθinj_adp_i(q−1)との和により、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i(q)を定義する。
【数51】
【0150】
ここで、到達則入力dθinj_rch_i(q)は、下記式(4−11)に示すように、切換関数σθinj_i(q)に所定の到達則ゲインKrch_θinjを乗算することで算出される。また、適応則入力dθinj_adp_i(q)は、下記式(4−12)に示すように、切換関数σθinj_iの現在の時刻qまでの総和と、適応則ゲインKadp_θinjとの積により算出される。
【数52】
【数53】
【0151】
燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iは、上記燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iと同様に動作するスライディングモードコントローラを備える。この燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iでは、先ず、下記式(4−13)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_Ginjと偏差の前回値E_Ginj_i(q−1)との和を算出し、これを切換関数σGinj_i(q)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_Ginjは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数54】
【0152】
次に、下記式(4−14)に示すように、到達則入力dGinj_rch_i(q)と適応則入力の前回値dGinj_adp_i(q−1)との和により、予測燃料噴射量補正値dGinj_i(q)を定義する。
【数55】
【0153】
ここで、到達則入力dGinj_rch_i(q)は、下記式(4−15)に示すように、切換関数σGinj_i(q)に所定の到達則ゲインKrch_Ginjを乗算することで算出される。また、適応則入力dGinj_adp_i(q)は、下記式(4−16)に示すように、切換関数σGinj_iの現在の時刻qまでの総和と、適応則ゲインKadp_Ginjとの積により算出される。
【数56】
【数57】
【0154】
<5.最適入力セレクタ>
図2に戻って、最適入力セレクタ8の構成について説明する。
上述のように、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nでは、それぞれ、異なる最適化条件の下で予測燃料噴射時期補正値dθinj_1,…,dθinj_Nと、予測燃料噴射量補正値dGinj_1,…, dGinj_Nとが再帰演算により算出される。最適入力セレクタ8では、所定の優先条件を設定しておき、これらN個の補正値の組(dθinj_1, dGinj_1),…,(dθinj_N, dGinj_N)のうち、上記優先条件に最も適合する組を選択し、これを最適燃料噴射量補正値dGinj_opt及び最適燃料噴射時期補正値dθinj_optとして決定する。
【0155】
本実施形態では、上記優先条件を、補正値の組(dθinj_i,dGinj_i)とともに算出された予測トルク値Pre_Trq_iに対し所定の優先条件を設定する。上述の各燃焼モデルベースコントローラ7_iにより算出された補正値の組(dθinj_i,dGinj_i)は、それぞれ予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下となるように決定されているものの、最適化条件が異なるため、予測トルク値Pre_Trq_iの値は、コントローラによって異なったものとなる。そこで、下記式(5−1)に示すように、予測トルク値Pre_Trq_iが大きいことを優先条件として、この優先条件に最も適合するコントローラの番号iopを決定する。なお、下記式(5−1)において、演算時刻meは、最適入力セレクタ8が動作する時刻である。この演算時刻meは、次回の燃焼サイクルの燃料噴射に間に合うように、適宜設定される。
【数58】
【0156】
そして、下記式(5−2)、(5−3)に示すように、この番号iopのコントローラにより算出された補正値の組(dθinj_iop,dGinj_iop)を、燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjとして決定する。
【数59】
【数60】
【0157】
また、上記式(1−1)、(1−2)に示すように、このようにして決定された燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjに基づいて、燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjが決定される。
【0158】
<6.フローチャート>
次に、制御装置2による最大シリンダ内圧制御の具体的な手順について、図16を参照して説明する。
図16は、制御装置2により実行される最大シリンダ内圧制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
ステップS1では、EGRバルブ故障フラグF_EGRNGが「1」であるか否かを判別する。このEGRバルブ故障フラグF_EGRNGは、図示しない判定処理においてEGRバルブが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS2に移る。
【0159】
ステップS2では、センサ類故障フラグF_SNSNGが「1」であるか否かを判別する。このセンサ類故障フラグF_SNSNGは、図示しない判定処理において吸気圧センサ、排気圧センサ、EGRバルブ開度センサ、及びエアフローセンサなどの各種センサの何れかが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS3に移る。
【0160】
ステップS3では、シリンダ内圧センサ故障フラグF_PCYLNGが「1」であるか否かを判別する。このシリンダ内圧センサ故障フラグF_PCYLNGは、図示しない判定処理においてシリンダ内圧センサが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS4に移る。
【0161】
ステップS4では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すような正常運転時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS5に移る。
【0162】
ステップS5では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射量Ginj_bsを算出し、ステップS6に移る。ステップS6では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射時期θinj_bsを算出し、ステップS7に移る。
【0163】
ステップS7では、モデル適応器9により、上記式(3−1)〜(3−14)に基づいて適応修正係数KVNSを算出し、ステップS8に移る。
ステップS8では、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N)により、上記式(4−1)〜(4−16)に基づいて補正値の組dGinj_i,dθinj_i(i=1〜N)を算出する。
ステップS9では、最適化セレクタ8により上記補正値の組dGinj_i,dθinj_i(i=1〜N)から最適な補正値dGinj_opt,dθinj_optを選択し(上記式(5−1)〜(5−3)参照)、これに基づいて燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを決定し(上記式(1−1)、(1−2)参照)、この処理を終了する。
【0164】
一方、上記ステップS3における判別がYESであり、シリンダ内圧センサが故障した状態であると判断された場合には、補正値算出部6を停止するべく、ステップS10に移る。
ステップS10では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すようなシリンダ内圧センサ故障時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS11に移る。このとき、補正値算出部6を停止しても最大シリンダ内圧が最大シリンダ内圧目標値を超えることがないように、シリンダ内圧センサ故障時用マップによれば、ドライバ要求トルクTRQ_DRVは、正常運転時用のマップを検索した場合と比較して、やや小さな値に設定される。
【0165】
ステップS11では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射量Ginj_bsを算出し、ステップS12に移る。ステップS12では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射時期θinj_bsを算出し、ステップS13に移る。
【0166】
ステップS13では、基準燃料噴射量Ginj_bsを燃料噴射量Ginjとして決定しステップS14に移る。ステップS14では、基準燃料噴射時期θinj_bsを燃料噴射時期として決定し、この処理を終了する。
【0167】
また、上記ステップS1又はステップS2の判別がYESであり、センサ類の何れか又はEGRバルブが故障したと判断された場合にも、補正値算出部6を停止するべく、ステップS15に移る。
ステップS15では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すようなバルブ故障時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS11に移る。このとき、補正値算出部6を停止しても最大シリンダ内圧が最大シリンダ内圧目標値を超えないように、かつ、エンジンを保護するため、バルブ故障時用マップによれば、ドライバ要求トルクTRQ_DRVは、センサ故障時用のマップを検索した場合と比較して、さらに小さな値に設定される。
【0168】
<7.シミュレーション結果>
次に、本実施形態の制御装置2による最大シリンダ内圧制御のシミュレーション結果について説明する。
【0169】
先ず、本実施形態の比較対象となる従来の制御装置による最大シリンダ内圧制御のシミュレーション結果について、図17及び図18を参照して説明する。
図17は、従来の制御装置の構成を示すブロック図である。
従来の制御装置では、基準燃料噴射時期θinj_bs及び基準燃料噴射量Ginj_bsを本実施形態と同様にマップ検索により算出する。
【0170】
フィードバックコントローラでは、下記式(6−1)に示すように、最大シリンダ内圧偏差dPmaxを算出する。より具体的には、最大シリンダ内圧Pmaxのうち、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから超えた分を最大シリンダ内圧偏差dPmaxとして定義する。また、最大シリンダ内圧Pmaxが、上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtよりも小さい場合には、最大シリンダ内圧偏差dPmaxを「0」とする。
【数61】
【0171】
また、フィードバックコントローラでは、この最大シリンダ内圧偏差dPmaxが「0」となるように、すなわち、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えた場合には、検出値Pmaxが目標値Pmax_trgt以下になるように、燃料噴射時期補正値dθinjを算出する。ここで、フィードバックアルゴリズムとしては、上記式(4−9)〜(4−12)に示したものと同様のスライディングモードアルゴリズムを適用した。
【0172】
図18は、従来の制御装置により最大シリンダ内圧制御を行った場合における燃料噴射量、燃料噴射時期補正値、及びシリンダ内圧の変化を示す図である。
図18に示すように、この従来の制御装置では、時刻t1において、シリンダ内圧値が目標値Pmax_trgtを超えたことに応じて初めてフィードバックコントローラが動作し、時刻t2では「0」でない燃料噴射時期補正値dθinjが算出される。このように、制御遅れが必ず生じてしまうため、間欠的ではあるものの最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを大幅に超えてしまう場合がある。また、このような制御遅れの発生により、逆に最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを大幅に下回るように、最大シリンダ内圧Pmaxを不要に抑制してしまう場合もある。
【0173】
次に、本実施形態のシミュレーション結果について図19〜図22を参照して説明する。
ここでは、図19に示すように、3つの異なる条件下でシミュレーションを行った。条件1では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオフにした。条件2では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオフにし、さらにモデル化誤差を付与した。ここで、モデル化誤差とは、燃焼モデルベースコントローラ7_i及びモデル適応器9に備えられた燃焼モデルにより再現されるエンジンの状態と、実際のエンジンの状態とが異なるときに発生する誤差である。条件3では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオンにし、さらにモデル化誤差を付与した。
【0174】
図20は、本実施形態に係る制御装置を条件1のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、及び予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iの変化を示す図である。
なお、図20中、下方には、演算周期Tmの下で算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iを演算周期Tkにわたって拡大したものを図示する。
【0175】
上述のように、燃焼モデルベースコントローラでは、次回の燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを決定するまでに、燃焼モデルにより再帰的に演算を行うことで予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出する。そして、このようにしてN個のコントローラで算出された補正値の組dθinj_i,dGinj_i(i=1〜N)のうち、最も大きい予測トルク値Pre_Trq_i(i=1〜N)を出力するコントローラで算出された補正値に基づいて燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期補正値dθinjを決定する。
このため、図20に示すように、シリンダ内圧検出値Pcylが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えることはない。また、図18の従来の結果と比較して分かるように、本実施形態によれば、最大シリンダ内圧Pmaxを抑制する制御を行った後、不要に最大シリンダ内圧Pmaxを抑制する制御が働くこともない。また、燃料噴射量Ginjと燃料噴射時期θinjとでは、それぞれ補正のバランスが変化することが確認できる。これは、最大シリンダ内圧Pmaxを目標値Pmax_trgt以下に抑制しながらも、トルクを最大化、すなわち燃焼効率を最大化するような補正を行っているためである。
【0176】
図21は、本実施形態に係る制御装置を条件2のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、及び予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iの変化を示す図である。
【0177】
条件2では、より具体的には、燃焼モデルによる予測値が実際のエンジンの検出値よりも20%程度大きくなるようなモデル化誤差を与えた。また、条件2では、モデル適応器を作動させていないため、最適化コントローラでは、予測値Pre_Pmax_iを検出値Pmaxに一致させるようなフィードバック動作が働かずに、燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjをフィードフォワード的に決定するのみである。結果として最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超える場合がある。
【0178】
図22は、本実施形態に係る制御装置を条件3のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i、適応修正係数KVNS、及び最大シリンダ内圧の予測値Pre_Pmax_iと最大シリンダ内圧Pmaxとの変化を示す図である。
【0179】
条件3では、条件2と同じモデル化誤差を与えつつ、モデル適応器を作動させる。
このため、図22中、破線で示すように、シミュレーションを開始した直後は、燃焼モデルによる最大シリンダ内圧の予測値Pre_Pmax_iと、実際の検出値Pmaxとの間でずれがあるものの、モデル適応器により適応修正係数KVNSを適切な値に変化させてゆくことにより、この予測値Pre_Pmax_iと検出値Pmaxとの間の誤差はなくなる。すなわち、シミュレーション開始時に与えたモデル化誤差は自動的に無くなる。したがって、シリンダ内圧検出値Pcylが目標値Pmax_trgtを超えてしまうこともない。
図21と図22とを比較すると、燃料噴射量Ginjと燃料噴射時期θinjの補正のバランスが、燃焼モデルをモデル適応器により修正する前(図21)と、修正した後(図22)では異なることが確認できる。これは、燃焼モデルとして適応修正器を併用したニューラルネットワークを用い、最適化コントローラで最適な制御入力を燃焼モデルの変化に合わせて逐次選択するようにしたためであり、従来のマップを用いた手法では実現することは困難であると考えられる。
【0180】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態によれば、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iは、燃焼モデルに予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを入力したときにおける、この燃焼モデルにより算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、上記予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。さらに、この最適化コントローラ5は、補正した予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいてエンジンの制御入力を決定する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが常に最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように制御入力を決定することができる。このように、本実施形態によれば、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを上回ることを契機とすることなく、燃焼モデルによりフィードフォワード的に制御入力を決定することができるので、制御遅れにより一時的に最大シリンダ内圧Pmaxが上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから大幅に上回ったり、逆に最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るような制御が不要に働くのを防止したりすることもできる。
【0181】
(2)本実施形態によれば、N個の燃焼モデルベースコントローラにより、それぞれ異なる最適化条件の下で、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、最適入力セレクタ8により、各燃焼モデルベースコントローラにより算出された予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iのうち、予測トルク値Pre_Trq_iが最も大きくなるものを選択し、この選択した予測燃料噴射量及び予測燃料噴射時期をエンジンの制御入力として決定する。これにより、例えば最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るように制御入力を決定するあまり、トルク値が小さくなってしまい、マイナスの影響が現れるのを防止することができる。すなわち、最大シリンダ内圧Pmaxを適切に維持しながら、トルクが望まれていない挙動を示すのを防止することができる。
【0182】
(3)本実施形態では、プラントモデルとしてニューラルネットワークを用いることにより、車載コンピュータでも実現可能な程度の計算量で、モデル化誤差が小さく精度の高い演算が可能となる。また、ニューラルネットワークにも多くのパラメータが含まれているものの、ニューラルネットワークでは物理的な意味を持ったモデルパラメータとしてこれらパラメータを同定しないので、既存の手法により適切な値に設定することができる。
【0183】
(4)本実施形態によれば、モデル適応器9により、最大シリンダ内圧Pmaxと燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iとの偏差が小さくなるように、燃焼モデルを適応修正する。これにより、エンジンに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、燃焼モデルによる予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iと実際のエンジンの最大シリンダ内圧Pmaxとを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0184】
(5)本実施形態によれば、モデル修正器9により、最大シリンダ内圧Pmaxと燃焼モデルにより算出される最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとの偏差が小さくなるように、燃焼モデルのニューラルネットワークに入力される適応修正係数KVNSを算出する。これにより、エンジンに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、燃焼モデルによる最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxと実際のエンジンの最大シリンダ内圧Pmaxとを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0185】
(6)本実施形態によれば、適応修正係数KVNSをニューラルネットワークの出力に乗算又は加算する場合(出力補正型の場合)、このようなエンジンの特性変化を予め学習する必要がないので、エンジンが上述のような予期しない変化をした場合であっても、比較的高い精度でモデル化誤差を補償することができると考えられる。
【0186】
(7)本実施形態によれば、エンジンの状態を示す参照パラメータ(NE,Ginj)を基底とした空間内の領域ごとの局所修正係数Uijを算出することにより、エンジンの状態ごとに異なる誤差への影響を考慮して適応修正係数KVNSを決定することができる。
【0187】
(8)本実施形態によれば、予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、この補正した予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいて燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないようにすることができるので、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0188】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第2実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略化又は簡略化する。
【0189】
図23は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Aの構成を示すブロック図である。
本実施形態の制御装置2AのECU3Aに構成された最適化コントローラ5Aは、最大シリンダ内圧Pmaxを最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下に制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0190】
ここで、燃料噴射分割比率Rinjとは、メイン噴射を例えば2回に分けて実行した場合における、第1メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min1と、第2メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min2との比率を示すものであり、「0」から「1」の間で設定される。より具体的には、この燃料噴射分割比率Rinjを用いて、第1メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min1と、第2メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min2とは、下記式(7−1)、(7−2)により決定される。
【数62】
【数63】
【0191】
図24は、燃料噴射時期θinjの遅角化を模式的に示す図である。
図25は、メイン噴射の分割を模式的に示す図である。
第1実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えるおそれがある場合には、燃料噴射量Ginjを少なくする補正を行うか、又は図24に示すように、メイン噴射を実行する時期が遅くなるように燃料噴射時期θinjを補正する。
これに対して第2実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えるおそれがある場合には、燃料噴射量Ginjを少なくする補正を行うか、又は図25に示すように、第1メイン燃料噴射量Ginj_min1と第2メイン燃料噴射量Ginj_min2との合計をメイン燃料噴射量Ginj_minに固定したまま、第1メイン燃料噴射量Ginj_min1と第2メイン燃料噴射量Ginj_min2との比率を変化させる。
【0192】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(9)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割噴射比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割噴射比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないようにすることができるので、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0193】
なお、最大シリンダ内圧Pmaxを目標値Pmax_trgt以下に制御するため、第1実施形態では燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを調整し、第2実施形態では燃料噴射量Ginj及び燃料噴射分割比率Rinjを調整したが、最大シリンダ内圧Pmaxを制御するための制御パラメータはこれらに限らない。この他、制御パラメータとしては、例えば、パイロット燃料噴射量、パイロット噴射を実行する回数、EGR率、及び過給圧などが挙げられる。これら制御パラメータの中でも、EGR率と過給圧は、応答遅れが大きいため、速応性が要求される最大シリンダ内圧Pmaxの抑制制御には適していないと考えられるが、燃焼モデルベースコントローラに備えられた燃焼モデルには、遅れ特性を考慮できるニューラルネットワークを用いるため、この遅れを補償するように他の制御パラメータを決定することができる。
【0194】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第3実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0195】
図26は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Bの構成を示すブロック図である。
制御装置2Bは、エンジン1から排出されるNOx量(以下、「フィードNOx」という)を検出するNOxセンサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Bと、を備える。
本実施形態のECU3Bに構成された最適化コントローラ5Bは、NOxセンサの検出値NOx_actを、エンジン1の運転状態に応じて設定される最大フィードNOx目標値NOx_trgt以下に制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0196】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(10)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出されるNOx量の推定値が最大フィードNOx目標値NOx_trgtを超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、例えば、過渡条件下であってもエンジンから排出されるNOx量が最大フィードNOx目標値NOx_trgtを超えないようにすることができるので、NOxの排出量を低減するとともに、排気浄化装置にかかる負担を軽減することができる。
【0197】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第4実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0198】
図27は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Cの構成を示すブロック図である。
制御装置2Cは、エンジン1の排気温度を検出する排気温度センサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Cと、を備える。
本実施形態のECU3Cの最適化コントローラ3Cは、排気温度センサの検出値Tex_actを、エンジン1の排気通路に設けられた排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度Tex_trgtに維持するように制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0199】
ところで、上記第1実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えないようにするため、上記式(4−6)に示すように、燃焼モデルベースコントローラのフィードバックコントローラに入力する偏差Pre_dPmax_iを、予測値Pre_Pmax_iが目標値Pmax_trgtより小さい場合には「0」と定義した。しかしながら、本実施形態の排気温度制御では、排気温度センサの検出値Tex_actを目標温度Tex_trgtに維持するため、燃焼モデルベースコントローラのフィードバックコントローラに入力する偏差Pre_dTex_iを、上記式(4−6)に変えて、下記式(7−3)に示すように、燃焼モデルによる排気温度の予測値Pre_Tex_iから、目標値Tex_trgtを除算したもので定義する。
【数64】
【0200】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(11)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される排気温度の推定値が目標温度Tex_trgtから外れないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、排気温度Tex_actが目標温度Tex_trgtから逸脱しないようにすることができるので、排気浄化触媒における浄化率を高く維持することができる。
【0201】
また、本実施形態では、排気温度の予測値Pre_Tex_i(i=1〜N)を算出するための燃焼モデルの他、エンジンの燃焼効率の予測値Pre_Ita_i(i=1〜N)を算出する燃焼モデルや、エンジンの燃料消費量の予測値Pre_Gfuel_i(i=1〜N)を算出する燃焼モデルを燃焼モデルベースコントローラに設けてもよい。この場合、N個の燃焼モデルベースコントローラにより算出された予測燃料噴射量補正値dGinj_i(i=1〜N)及び予測燃料噴射分割比率dRinj_i(i=1〜N)のうち、燃焼効率の予測値Pre_Ita_iが最も高いか、又は、エンジンの燃料消費量の予測値Pre_Gfuel_iが最も少ないコントローラにより算出された予測燃料噴射量補正値及び予測燃料噴射分割比率を、最適燃料噴射量補正値dGinj_opt及び最適燃料噴射分割比率補正値dRinj_optとして決定することが好ましい。これにより、排気温度Tex_actを目標値Tex_trgtに維持しながら、エンジンの燃費を少なくすることができる。
【0202】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第5実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0203】
図28は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1Dとその制御装置2Dの構成を示すブロック図である。
本実施形態のエンジン1Dは、ガソリンエンジンであり、さらに燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮機構(図示せず)を備える。
本実施形態のECU3Dに構成された最適化コントローラ5Dは、最大シリンダ内圧Pmaxを最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下に制御するため、エンジン1Dの点火時期θigと、可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値Cr_cmdとを最適な値に決定する。
【0204】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(12)本実施形態によれば、エンジンの点火時期θig及び圧縮比指令値Cr_cmdの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出されるノック強度の推定値がノック強度目標値Pknock_trgtを超えないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて点火時期θig及び圧縮比指令値Cr_cmdを決定し、エンジンに入力する。これにより、ノック強度Pknockがノック強度目標値Pknock_trgtを超えないようにしながら、燃費を向上することができる。
【0205】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第6実施形態の説明にあたって、第5実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0206】
図29は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1Dとその制御装置2Eの構成を示すブロック図である。
本実施形態の制御装置2Eは、エンジン1Dのノック強度を検出するノックセンサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Eとを備える。
本実施形態のECU3Eに構成された最適化コントローラ5Eは、ノックセンサの検出値Pknockをノック強度目標値Pknock_trgt以下に制御するため、エンジン1Dの点火時期θigと、可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値Cr_cmdとを最適な値に決定する。
本実施形態によれば、上記第5実施形態と同様の効果を奏する。
【0207】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
【0208】
上記実施形態では、燃焼モデルを、非線形な動特性の再現性に優れたニューラルネットワークに基づいて構築したが、これに限るものではない。例えば、エンジンの物理モデルや制御マップに基づいて燃焼モデルを構築しても十分な効果を奏する。
【0209】
上記実施形態のモデル修正器では、2つの参照パラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量)を基底とした2次元の空間に重み関数を定義し、この重み関数を用いて適応修正係数KVNSを算出したが、これに限らない。すなわち、重み関数を定義する空間の次元数、及び、参照パラメータとして用いる物理量の種類は、上記実施形態に示した例に限らない。空間の次元数は、例えば、1次元又は3次元以上であってもよい。また、参照パラメータとして用いるパラメータには、燃焼モデルへの入力の他の成分、例えば、燃料噴射時期θinj、パイロット燃料噴射量Ginj_pi、パイロット燃料噴射時期θinj_pi、メイン燃料噴射量Ginj_min、アフター燃料噴射量Ginj_after、アフター燃料噴射時期θinj_after、吸入空気量Gair、吸気圧力PB、排気圧力PEX、及びEGRバルブ開度θegrなどを用いてもよい。
【0210】
上記実施形態のモデル修正器では、スライディングモード制御アルゴリズムを用いて領域ごとの局所修正係数Uijを算出したが、これに限らない。例えば、バックステッピング制御、PID制御、及び最適制御アルゴリズムなどの既知のフィードバックアルゴリズムを用いて領域ごとの局所修正係数Uijを算出してもよい。
【符号の説明】
【0211】
1,1D…エンジン(プラント、内燃機関)
2,2A,2B,2C,2D,2E…制御装置
3,3A,3B,3C,3D,3E…ECU
5,5A,5B,5C,5D,5E…最適化コントローラ(制御入力決定手段)
51…基準噴射時期算出部
52…基準噴射量算出部
6…補正値算出部
7_i(i=1〜N)…燃焼モデルベースコントローラ(最適化手段)
711_i(i=1〜N)…最大シリンダ内圧用燃焼モデル
712_i(i=1〜N)…トルク用燃焼モデル
74_i(i=1〜N)…フィードバックコントローラ
8…最適入力セレクタ(最適値選択手段)
9…モデル適応器(モデル修正手段)
91…最大シリンダ内圧用燃焼モデル
92…適応修正器
922…重み関数設定部(重み関数設定手段)
923…局所修正係数算出部(修正係数算出手段)
924…修正係数算出部(決定手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントの制御装置に関する。特に、プラントモデルに基づいて制御入力を決定するプラントの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのエンジン制御において、点火時期や燃料の噴射時期は、エンジンの性能が最大限に引き出されるように、エンジン回転数や空燃比などに応じて最適な時期に設定される。一方、これら点火時期や噴射時期は、燃焼サイクルごとのシリンダ内圧の最大値(以下、「最大シリンダ内圧」という)に相関があることが知られている。エンジンに過度の負担がかからないように、この最大シリンダ内圧は所定の許容最大値を超えないように制御される。
【0003】
図30は、点火時期又は噴射時期と、エンジン出力及び最大シリンダ内圧との関係を模式的に示す図である。
点火(噴射)時期を進角側に設定すると出力を向上できるものの、これに伴い最大シリンダ内圧も大きくなる傾向がある。このため、図30に示すように、点火(噴射)時期を最も大きな出力が得られる最適な時期(MBT(Minimum advance for the Best Torque))に設定すると、最大シリンダ内圧がエンジンの骨格強度限界に応じて設定された許容最大値を超えてしまう場合がある。このような場合、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないように点火(噴射)時期を遅角側に設定する必要があるが、従来では、エンジンの生産ばらつき、気筒間のばらつき、環境ばらつきなどを考慮して、最大シリンダ内圧が確実に許容最大値を超えないように、許容最大値に対し所定のマージンを持たせて点火(噴射)時期を設定する。このように、許容最大値に対するマージンを大きく設定するとエンジンにかかる負担をより確実に軽減できるものの、結果としてエンジンの出力が低下したり、エンジンの重量が増加したりするおそれがある。
【0004】
そこで特許文献1には、エンジンの骨格強度を使いきれるように、エンジンのシリンダ内圧をシリンダ内圧センサで監視し、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないように燃料の供給量や、点火(噴射)時期などを調整する技術が提案されている。より具体的には、シリンダ内圧センサによる最大シリンダ内圧の検出値が、許容最大値よりも小さな値に設定した閾値を超えたことに応じて燃料の供給量を減量することにより、最大シリンダ内圧を許容最大値以下に抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−180879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようにシリンダ内圧センサの検出値を用いたフィードバック制御アルゴリズムにより最大シリンダ内圧を許容最大値以下に抑制する制御を行ったとしても、今回の燃焼サイクルに基づいて演算した点火時期や燃料噴射時期は、次回の燃焼サイクル時にしか反映できないため、最大シリンダ内圧に必ず制御遅れが発生してしまう。このため、例えば、一時的に最大シリンダ内圧が許容最大値を超えてしまったり、逆に不要に最大シリンダ内圧を抑制する制御が働くことで出力が低下したりするおそれがある。このような運転者の意思に反した挙動は、過渡的な運転状態において特に顕著となる。したがって、従来の技術では、最大シリンダ内圧を許容値よりも十分に低く抑える必要があるため、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきれているとは言いがたい。
【0007】
なお、ここまで制御量に制御遅れが発生することに伴う課題についてエンジンの最大シリンダ内圧制御を例に説明したが、このような制御遅れに付随した課題は、エンジンの制御量を所定の許容最大値以下に抑制する制御をフィードバック制御に基づいて行った場合には、共通して生じうると考えられる。
【0008】
本発明は、上述した点を考慮してなされたものであり、制御量を所定の条件下で制御するプラントの制御装置において、実際の制御量が上記条件を逸脱したり、逆に制御量を上記条件に拘束する制御が不要に働いたりするのを防止できる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、プラント(例えば、後述のエンジン1,1D)の第1制御量(例えば、後述の最大シリンダ内圧Pmax、シリンダ内圧検出値Pcyl、NOxセンサ検出値NOx_act、温度センサ検出値Tex_act、ノックセンサ検出値Pknock)を調整するための制御パラメータ(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、燃料噴射分割比率Rinj、圧縮比指令値Cr_cmd、点火時期θig)を含む入力に基づいて、前記プラントの制御量を推定するプラントモデル(例えば、後述の図3、図6、図7、図8、図9、図10に示す燃焼モデル)を備えたプラントの制御装置(例えば、後述の制御装置2,2A,2B,2C,2D,2E)を提供する。前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値(例えば、後述の予測燃料噴射量Ginj_i、及び予測燃料噴射時期θinj_i)を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値(例えば、後述の予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i)を第1制御量モデル値と定義する。前記制御装置は、当該第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように前記制御パラメータの暫定値を補正し、さらに当該補正された制御パラメータの暫定値に基づいて前記プラントの制御入力(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、燃料噴射分割比率Rinj、圧縮比指令値Cr_cmd、点火時期θig)を決定する制御入力決定手段(例えば、後述の最適化コントローラ5,5A,5B,5C,5D,5E)を備える。
【0010】
この発明によれば、制御入力決定手段は、プラントモデルに制御パラメータの暫定値を入力したときにおける、このプラントモデルから出力された第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように制御パラメータの暫定値を補正する。さらに、この制御入力決定手段は、第1制御量モデル値が拘束条件を満たすように補正した制御パラメータの暫定値に基づいてプラントの制御入力を決定する。これにより、第1制御量が常に拘束条件を満たすように制御入力を決定することができる。このように、この発明によれば、実際の第1制御量が拘束条件を外れることを契機とすることなく、プラントモデルによりフィードフォワード的に制御入力を決定することができるので、制御遅れにより一時的に第1制御量が上記拘束条件から逸脱したり、逆に第1制御量が上記拘束条件を満たすような制御が不要に働くのを防止したりすることもできる。
【0011】
この場合、前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第2制御量の推定値(例えば、後述の予測トルク値Pre_Trq_i)を、第2制御量モデル値と定義し、前記制御入力決定手段は、前記第1制御量モデル値が前記拘束条件を満たすように、それぞれ異なる最適化条件の下で(例えば、それぞれ異なる後述の分配係数We_iの下で)前記制御パラメータの暫定値を補正する複数の最適化手段(例えば、後述のN個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N))と、前記複数の最適化手段のそれぞれにより補正された前記制御パラメータの暫定値(例えば、後述の予測燃料噴射時期補正値dθinj_i(i=1〜N)、及び予測燃料噴射量補正値dGinj_i(i=1〜N))のうち、前記第2制御量モデル値が所定の優先条件(例えば、第2制御量モデル値が大きいこと)に最も適合するものを選択し、当該選択した制御パラメータの暫定値を前記プラントの制御入力として決定する最適値選択手段(例えば、後述の最適入力セレクタ8)と、を備えることが好ましい。
【0012】
この発明によれば、複数の最適化手段により、それぞれ異なる最適化条件の下で、第1制御量モデル値が拘束条件を満たすように制御パラメータの暫定値を補正する。そして、最適値選択手段により、各最適化手段により補正された制御パラメータの暫定値のうち、第2制御量モデル値が所定の優先条件に最も適合するものを選択し、この選択した暫定値をプラントの制御入力として決定する。これにより、例えば第1制御量が拘束条件を満たすように制御入力を決定するあまり、プラントの第2制御量が上記優先条件から外れてしまい、マイナスの影響が現れるのを防止することができる。すなわち、第1制御量を適切に維持しながら、第2制御量が望まれていない挙動を示すのを防止することができる。
【0013】
この場合、前記プラントモデルは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成されたニューラルネットワークを含むことが好ましい。
【0014】
例えば、プラントモデルとして差分方程式などで表わされた物理モデルを用いた場合、その演算には過大な負荷が要求されるため、車載コンピュータのような小型の計算機では、実現できない場合がある。また、物理モデルでは、数式では表現できないようなプラントにおける複雑な素過程については推定することができないため、一般的にモデル化誤差が大きい。さらに、物理モデルでは、モデル化に伴い莫大な数の不特定のモデルパラメータを含む。これらモデルパラメータは、予め実験により適切な値に同定する必要があるが、実際には非線形結合しているものも多く、既存のシステム同定理論では困難である場合が多い。これに対して、本発明では、プラントモデルとしてニューラルネットワークを用いることにより、車載コンピュータでも実現可能な程度の計算量で、モデル化誤差が小さく精度の高い演算が可能となる。また、ニューラルネットワークにも多くのパラメータが含まれているものの、ニューラルネットワークでは物理的な意味を持ったモデルパラメータとしてこれらパラメータを同定しないので、既存の手法により適切な値に設定することができる。
【0015】
この場合、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段(例えば、後述のシリンダ内圧センサ、NOxセンサ、排気温度センサ、ノックセンサ)と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記プラントモデルを適応修正するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルを適応修正する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0017】
この場合、前記ニューラルネットワークの入力(例えば、後述の入力ベクトルU)は、当該入力と出力(例えば、後述の出力Y)との相関関係を適応修正するための修正係数(例えば、後述の適応修正係数KVNS)を含み、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルのニューラルネットワークに入力される修正係数を算出する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0019】
この場合、前記プラントモデルは、前記ニューラルネットワークの出力(例えば、後述の出力Y)に修正係数(例えば、後述の適応修正係数KVNS)を乗算又は加算したものに基づいて前記第1制御量の推定値を算出し、前記制御装置は、前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差(例えば、後述のモデル偏差E_Est)が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段(例えば、後述のモデル適応器9)と、をさらに備えることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、モデル修正手段により、第1制御量の検出値とプラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、プラントモデルの出力に乗算又は加算される修正係数を算出する。これにより、プラントに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、プラントモデルによる第1制御量の推定値と実際のプラントの第1制御量の値とを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
また、上述のように、修正係数をニューラルネットワークに入力する場合(入力補正型の場合)、この修正係数を通じて、プラントの劣化や生産ばらつきなどの特性変化を予め学習しておく必要がある。このため、プラントが上記学習した特性変化から外れた予期しない変化をした場合、修正係数によりモデル化誤差を補償できなくなる場合がある。
これに対して、修正係数をニューラルネットワークの出力に乗算又は加算する場合(出力補正型の場合)、このようなプラントの特性変化を予め学習する必要がないので、プラントが上述のような予期しない変化をした場合であっても、比較的高い精度でモデル化誤差を補償することができると考えられる。すなわち、入力補正型と出力補正型とを比較すると、静的な特性変化に対するロバスト性は出力補正型の方が高いが、動的な特性変化に対するロバスト性は入力補正型の方が高い傾向がある。
【0021】
この場合、前記プラントモデルへの入力のうちの少なくとも1つを含む参照パラメータ(例えば、後述の燃料噴射量Ginj、及びエンジン回転数NE)を定義し、前記モデル修正手段は、前記参照パラメータを基底とする空間に、互いに重複する複数の領域を定義するとともに、各領域にそれぞれ「0」でない値を持つ正規化された複数の重み関数(例えば、後述の重み関数Wij)を設定する重み関数設定手段(例えば、後述の重み関数設定部922)と、前記重み関数の値と前記偏差との積が最小になるように、前記領域ごとに修正値を算出する修正値算出手段(局所修正係数算出部923)と、前記重み関数の値と前記修正値との積の全領域に亘る総和に基づいて前記修正係数を決定する決定手段(例えば、後述の修正係数算出部924)と、を備えることが好ましい。
【0022】
この発明によれば、参照パラメータを基底とする空間に複数の領域を定義するとともに、各領域に重み関数を設定する。そして、重み関数と上記偏差との積が最小になるように、領域ごとに修正値を算出する。さらに重み関数と上記修正値との積の全領域にわたる総和に基づいて修正係数を決定する。
ところで、プラントにおける劣化や生産ばらつきが、第1制御量の推定値の誤差におよぼす影響は、プラントの状態に応じて異なったものになると考えられる。この構成によれば、プラントの状態を示す参照パラメータを基底とした空間内の領域ごとの修正値を算出することにより、プラントの状態ごとに異なる誤差への影響を考慮して修正係数を決定することができる。
【0023】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量(例えば、後述の燃料噴射量Ginj)と、燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)とを含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0024】
この発明によれば、燃料噴射量及び燃料噴射時期の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される最大シリンダ内圧の推定値が、許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射時期を決定し、内燃機関に入力する。これにより、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないようにすることができるので、内燃機関の骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0025】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量(例えば、後述の燃料噴射量Ginj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0026】
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割噴射比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される最大シリンダ内圧の推定値が許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割噴射比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、最大シリンダ内圧が許容最大値を超えないようにすることができるので、内燃機関の骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0027】
この場合、前記プラントは、内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関から排出されるNOx量であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記内燃機関の運転状態に応じて設定された許容最大値(例えば、後述の最大フィードNOx目標値NOx_trgt)以下であることが好ましい。
【0028】
近年の排気浄化装置によれば、内燃機関から排出されるNOxの殆どを浄化できるものの、さらなるNOxの排出量の低減や、排気浄化装置にかかる負担の軽減のためには、内燃機関から排出されるNOx量をする必要がある。そこで、内燃機関から排出されるNOx量を検出するNOx検出手段を設け、このNOx検出手段の出力が許容最大値を超えないようにフィードバック制御する手法が考えられる。しかしながらこの手法では、上述のように制御遅れが発生してしまい、NOx量が一時的に許容最大値を超えてしまう場合がある。特に過渡条件下では、このようなNOx量の増大が顕著となる。
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出されるNOx量の推定値が許容最大値を超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、過渡条件下であっても内燃機関から排出されるNOx量が許容最大値を超えないようにすることができるので、NOxの排出量を低減するとともに、排気浄化装置にかかる負担を軽減することができる。
【0029】
この場合、前記プラントは、その排気通路に排気を浄化する排気浄化触媒が設けられた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の排気温度であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期(例えば、後述の燃料噴射時期θinj)と、メイン燃料噴射の分割噴射比率(例えば、後述の燃料噴射分割比率Rinj)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度(例えば、後述の排気温度目標値Tex_trgt)に近いこと、であることが好ましい。
【0030】
近年のリーンバーン内燃機関の排気浄化触媒では、高い浄化率を発揮できる触媒温度範囲が非常に狭くなっている。そこで近年では、浄化率を高く維持できるように触媒温度を適切な温度に維持するため、内燃機関の排気温度を、触媒の活性温度に応じて設定された目標温度の近くに維持する制御を行う場合がある。そこで、内燃機関の排気温度を検出する排気温度検出手段を設け、この排気温度センサの出力が目標温度から逸脱しないようにフィードバック制御する手法が考えられる。しかしながらこの手法では、上述のように制御遅れが発生してしまい、排気温度が目標値から逸脱してしまう場合がある。
この発明によれば、燃料噴射量及びメイン燃料噴射の分割比率の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出される排気温度の推定値が目標値から外れないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量及び分割比率を決定し、内燃機関に入力する。これにより、排気温度が目標値から逸脱しないようにすることができるので、排気浄化触媒における浄化率を高く維持することができる。
【0031】
ところで、排気温度を上昇させることは内燃機関における燃焼効率を低下させることにつながるため、このような排気温度制御は、浄化率と燃費性能とを両立することが課題となる。一般的に排気温度は、内燃機関における燃焼速度に大きく影響され、この燃焼速度は、燃料性状、EGRバルブの流量ばらつき及び劣化度合い、過給器の特性ばらつき及び劣化度合いなどの様々な要因により変化する。この発明によれば、モデル修正手段により、プラントモデルを適応修正することにより、このような特性変化が生じた場合であっても、浄化率と燃費性能との両立を図ることができる。
【0032】
この場合、前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期(例えば、後述の点火時期θinj)と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値(例えば、後述の圧縮比指令値Cr_cmd)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt)以下であることが好ましい。
【0033】
可変圧縮比機構で圧縮比を向上することにより、内燃機関がガソリンエンジンであるか又はディーゼルエンジンであるかにかかわらず燃費性能を向上できる。しかしながらこのとき、内燃機関がガソリンエンジンである場合には、高負荷条件においてノックが発生しやすくなり、内燃機関がディーゼルエンジンである場合には、最大シリンダ内圧が大きくなりやすい。このため、可変圧縮比機構を備えた内燃機関では、その燃費性能と、過大なノックの発生や、過大な最大シリンダ内圧の発生の回避との両立が課題となる。
この発明によれば、内燃機関の点火時期及び圧縮比指令値の暫定値をプラントモデルに入力したときにこのプラントモデルにより算出されるノック強度の推定値が許容最大値を超えないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて点火時期及び圧縮比指令値を決定し、内燃機関に入力する。これにより、ノック強度が許容最大値を超えないようにしながら、燃費を向上することができる。
【0034】
ところで、一般的な可変圧縮比機構では、内燃機関の圧縮比を、機構の一部分の変位又は角度により検出するため、劣化や生産ばらつきによる誤差が生じやすい。この発明によれば、モデル修正手段により、プラントを適応修正することにより、このような特性変化が生じた場合であっても、燃費の向上と、過大なノックの発生の回避とを両立することができる。
【0035】
この場合、前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、前記第1制御量は、前記内燃機関のノック強度であり、前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期(例えば、後述の点火時期θinj)と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値(例えば、後述の圧縮比指令値Cr_cmd)と、を含み、前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値(例えば、後述のノック強度目標値Pknock_trgt)以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】上記実施形態に係る最適化コントローラの構成を示すブロック図である。
【図3】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図4】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成を示す図である。
【図5】シグモイド関数を示す図である。
【図6】上記実施形態に係るシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図7】上記実施形態に係る最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図8】上記実施形態に係る最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図9】上記実施形態に係る入力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図10】上記実施形態に係る出力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
【図11】上記実施形態に係るモデル適応器の構成を示すブロック図である。
【図12】上記実施形態に係るエンジン回転数を定義域とした4つの第1重み関数を示す図である。
【図13】上記実施形態に係る燃料噴射量を定義域とした4つの第2重み関数を示す図である。
【図14】上記実施形態に係る2つの参照パラメータを定義域とした16個の重み関数を示す図である。
【図15】上記実施形態に係るN個のコントローラのうちのi番目の燃焼モデルベースコントローラの構成を示すブロック図である。
【図16】上記実施形態に係る制御装置により実行される最大シリンダ内圧制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
【図17】従来の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図18】従来の制御装置により最大シリンダ内圧制御を行った場合における燃料噴射量、燃料噴射時期補正値、及びシリンダ内圧の変化を示す図である。
【図19】条件1、条件2、及び条件3の内容を示す図である。
【図20】上記実施形態に係る制御装置を条件1のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図21】上記実施形態に係る制御装置を条件2のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図22】上記実施形態に係る制御装置を条件3のもとで作動させた場合におけるシミュレーションの結果を示す図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図24】燃料噴射時期の遅角化を模式的に示す図である。
【図25】メイン噴射の分割を模式的に示す図である。
【図26】本発明の第3実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図27】本発明の第4実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図28】本発明の第5実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図29】本発明の第6実施形態に係るエンジンとその制御装置の構成を示すブロック図である。
【図30】点火時期又は噴射時期と、エンジン出力及び最大シリンダ内圧との関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るプラントとしての内燃機関(以下、「エンジン」という)1と、その制御装置2との構成を示すブロック図である。
【0038】
エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、複数のシリンダのそれぞれの燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁が設けられている。
【0039】
制御装置2は、エンジン1のクランク軸の回転角度を検出するクランク角度位置センサ(図示せず)と、エンジン1のシリンダ内圧を検出するシリンダ内圧センサ(図示せず)と、クランク位置角度センサから出力されたクランク角度を示すパルス信号(以下、「クランク角信号」という)θcrk及びシリンダ内圧センサの検出値(以下、「シリンダ内圧検出値」という)Pcylに基づいてエンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginj及びその燃料噴射時期θinjを決定する電子制御ユニット(以下、「ECU」という)3と、を備える。この他、制御装置2は、ECU3に接続されたアクセル開度センサSAや、その他のセンサ類SBなどを備える。
【0040】
なお、このエンジン1における1燃焼サイクルは、クランク角信号θcrkが720deg進むことに相当する。エンジン1の回転数NEは、クランク角信号θcrkに基づいてECU3により算出され、エンジン1の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧Pmaxは、シリンダ内圧検出値Pcylをクランク角信号θcrkに基づいて1燃焼サイクルに亘るピークホールド処理を施すことで検出される。
【0041】
アクセル開度センサSAは、車両のアクセルペダルの開度を検出し、検出値APに略比例した信号をECU5に出力する。
センサ類SBは、例えば、エアフローセンサ、吸気圧センサ、排気圧センサ、EGRバルブ開度センサなどを含む。エアフローセンサは、エンジン1に吸入される空気量(吸入空気量)を検出し、検出値Gairに略比例した信号をECU3に出力する。吸気圧センサは、エンジンの吸気管内の吸気圧力を検出し、検出値PBに略比例した信号をECU3に出力する。排気圧センサは、エンジンの排気管内の排気圧力を検出し、検出値PEXに略比例した信号をECU3に出力する。EGRバルブ開度センサは、エンジンの排気還流通路を開閉するEGRバルブの開度(リフト量)を検出し、検出値θegrに略比例した信号をECU3に出力する。
【0042】
ECU3は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定のレベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換するなどの機能を有する入力回路と、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)とを備える。この他、ECU3は、CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果などを記憶する記憶回路と、エンジン1の燃料噴射弁などに制御信号を出力する出力回路と、を備える。
【0043】
また、ECU3には、以上のようなハードウェア構成により、各種センサの入力に基づいて最大シリンダ内圧Pmaxが所定の最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように、最適な燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定する最適化コントローラ5が構成されている。以下、この最適化コントローラ5の構成について詳細に説明する。
【0044】
<1.最適化コントローラ>
図2は、最適化コントローラ5の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、最適化コントローラ5は、基準燃料噴射時期θinj_bsを算出する基準噴射時期算出部51と、基準燃料噴射量Ginj_bsを算出する基準噴射量算出部52と、燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjを算出する補正値算出部6と、上記基準値θinj_bs,Ginj_bsのそれぞれに上記補正値dθinj,dGinjを加算する2つの加算器53,54と、を含んで構成される。
【0045】
この最適化コントローラ5において、燃料噴射時期θinj(k)は、基準噴射時期算出部51で算出された基準燃料噴射時期θinj_bs(k)と、補正値算出部6で算出された燃料噴射時期補正値dθinj(k)とを、加算器53により加算することで算出される(下記式(1−1)参照)。
【数1】
【0046】
一方、燃料噴射量Ginj(k)は、基準噴射量算出部52で算出された基準燃料噴射量Ginj_bs(k)と、補正値算出部6で算出された燃料噴射量補正値dGinj(k)とを、加算器54により加算することで算出される(下記式(1−2)参照)。
【数2】
【0047】
基準噴射時期算出部51では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて所定のマップを検索することでドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、さらにこのドライバ要求トルクTRQ_DRV及びエンジン回転数NEに基づいて図示しない制御マップを検索することにより、基準燃料噴射時期θinj_bs(k)を算出する。
基準噴射量算出部52では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて所定のマップを検索することでドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、さらにこのドライバ要求トルクTRQ_DRV及びエンジン回転数NEに基づいて図示しない制御マップを検索することにより、基準燃料噴射量Ginj_bs(k)を算出する。
【0048】
なお、この最適化コントローラ5では、1燃焼サイクルごとに最適な燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを算出するため、ブロックごとに異なる演算周期の下で演算を行う。基準噴射時期算出部51、基準噴射量算出部52、及び加算器53,54では、実際のエンジンの燃焼サイクルと同じ演算周期Tk、すなわちクランク角信号θcrkが720deg進むごとに演算を行う。また、上記式(1−1)及び(1−2)に示すように、本実施形態では、演算周期Tkの下で更新される演算値には「k」を付す。
【0049】
なお、後に詳述するように、補正値算出部6のうち図2中破線で示したブロックでは、実際のエンジンの燃焼サイクルと同期した演算周期Tkよりも短い周期で演算が行われる。そこで、上記燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjには、補正値算出部6により算出された最適燃料噴射時期補正値dθinj_opt及び最適燃料噴射量補正値dGinj_optを、クランク角信号θcrkに基づいて上記演算周期Tkの下でダウンサンプリングしたものが用いられる。
【0050】
補正値算出部6は、N個のコントローラで構成された燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nと、最適入力セレクタ8と、燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nのそれぞれに備えられた後述の燃焼モデルを、エンジンの特性変化に応じて適応修正するモデル適応器9と、を含んで構成される。
【0051】
補正値算出部6の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nでは、上記マップ検索により算出された基準燃料噴射時期θinj_bs及び基準燃料噴射量Ginj_bsを各々の燃焼モデルに入力することで最大シリンダ内圧Pmaxに要求される所定の拘束条件を満たすかどうかを予測する。ここで、最大シリンダ内圧が上記条件を満たさないと予測された場合、各燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nは、上記基準値(θinj_bs,Ginj_bs)に対する補正値(dθinj_1,dGinj_1),…,(dθinj_N,dGinj_N)を算出する。そして最適入力セレクタ8では、これら補正値(dθinj_1,dGinj_1),…,(dθinj_N,dGinj_N)から最適なものを選択し、選択した補正値に基づいて最適燃料噴射時期補正値dθinj_opt及び最適燃料噴射量補正値dGinj_optを算出する。
【0052】
次に、補正値算出部6の各燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_N、モデル適応器9、及び最適入力セレクタ8の詳細な構成について説明する前に、燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_N及びモデル適応器9のそれぞれに設けられる燃焼モデルの詳細な構成について説明する。
【0053】
<2.燃焼モデル>
以下、エンジンの燃焼モデルの詳細な構成について、図3〜図10を参照して説明する。
本実施形態では、所定の入力に基づいて最大シリンダ内圧を推定する最大シリンダ内圧用燃焼モデルと、所定の入力に基づいてエンジンの発生トルクを推定するトルク用燃焼モデルとの2種類を準備する。以下、これら最大シリンダ内圧用燃焼モデルと、トルク用燃焼モデルとの2種類について順に説明する。
【0054】
<2−1.最大シリンダ内圧用燃焼モデル>
後に詳述するように、燃焼モデルの入力と出力の相関関係は、エンジンの生産ばらつきや劣化の度合いなど実際のエンジンの特性変化に適応して修正される。このような燃焼モデルの適応修正は、モデル適応器9(上述の図2参照)により算出される適応修正係数KVNSを燃焼モデルに入力することで実現される。そこで、この適応修正係数KVNSの入力の仕方に応じて、燃焼モデルは、出力補正型(後述の図3参照)と、入力補正型(後述の図6参照)との2種類に分けることができる。
また、以下詳細に説明するように、燃焼モデルは、ニューラルネットワークの出力に基づいて最大シリンダ内圧の推定値を算出する。最終的に最大シリンダ内圧の推定値を得るため、燃焼モデルが備えるニューラルネットワークには、所定のクランク角ごとのシリンダ内圧に相当する値を出力するように構築したもの(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワーク)と、燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧に相当する値を出力するように構築したもの(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワーク)との2種類が考えられる。
以下では、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型及び入力補正型の最大シリンダ内圧燃焼モデル、並びに、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型及び入力補正型の最大シリンダ内圧燃焼モデルの合計4種類の燃焼モデルについて順に説明する。
【0055】
<2−1−1.出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図3は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
この最大シリンダ内圧用燃焼モデルは、シリンダ内圧に相関のある複数のパラメータ(燃料噴射量Ginj、燃料噴射時期θinj、エンジン回転数NE、パイロット燃料噴射量Ginj_pi、パイロット燃料噴射時期θinj_pi、メイン燃料噴射量Ginj_min、アフター燃料噴射量Ginj_after、アフター燃料噴射時期θinj_after、吸入空気量Gair、吸気圧力PB、排気圧力PEX、及びEGRバルブ開度θegr)、及び推定クランク角度Est_θcrkから成る複数成分の入力ベクトルUに基づいて、この入力ベクトルUに応じた最大シリンダ内圧の推定値Est_Pmaxを算出する。
【0056】
上記入力ベクトルUの成分のうち、メイン燃料噴射量Ginj_minは、主にエンジンから出力を得るために実行するメイン噴射における燃料噴射量を示す。なお、燃料噴射時期θinjは、より具体的には、このメイン噴射を実行する時期を示す。パイロット燃料噴射量Ginj_piは、上記メイン噴射よりも前に実行するパイロット噴射における燃料噴射量を示し、パイロット燃料噴射時期θinj_piは、このパイロット噴射を実行する時期を示す。アフター燃料噴射量Ginj_afterは、上記メイン噴射よりも後に実行するアフター噴射における燃料噴射量を示し、アフター燃料噴射時期θinj_afterは、このアフター噴射を実行する時期を示す。また、下記式(2−1)に示すように、これら3つの噴射量Ginj_pi,Ginj_min,Ginj_afterの総和は、燃料噴射量Ginjに相当する。
【数3】
【0057】
また、上記入力ベクトルUの成分のうち、推定クランク角度Est_θcrkは、実際のエンジンのクランク角度ではなく、燃焼モデルにおいて仮想的に設定したエンジンのクランク角度であり、燃焼モデル内で算出される。この推定クランク角度Est_θcrkは、下記式(2−2)に示すように、燃焼モデルで設定された所定の演算周期ごとに、クランク角分解能dθcrk_estだけ進み、720degを超えるとリセットされる。なお、最大シリンダ内圧用燃焼モデルにおける演算周期の下で更新される演算値には「tp」を付す。また、このクランク角分解能dθcrk_estは、例えば、2〜6degの範囲内で設定される。
【数4】
【0058】
なお、燃焼モデルの演算周期と、上記実際のエンジンの燃焼サイクルと同期した演算周期Tkとの関係は、この燃焼モデルを適用するブロック(モデル適応器、燃焼モデルベースコントローラなど)ごとに適宜設定される。
【0059】
図3に示すように、この出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルは、シリンダ内圧を推定するために構築されたシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを含んで構成される。この出力補正型の燃焼モデルにおける入力ベクトルUは、下記式(2−3)で定義される。
【数5】
【0060】
そして、下記式(2−4)に示すように、この入力ベクトルUをシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yに、適応修正係数KVNSを乗算したものを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとする。
【数6】
【0061】
さらにこの推定シリンダ内圧Est_Pcylに対し、燃焼モデルにおける1燃焼サイクル(推定クランク角度Est_θcrk=0〜720deg)にわたるピークホールド処理を施すことにより、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出する。
【数7】
【0062】
なお、上記式(2−4)の代わりに、下記式(2−6)に示すように、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの出力Yに適応修正係数KVNSを加算したものを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとすることもできる。
【数8】
【0063】
図4は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成を示す図である。
このニューラルネットワークは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成され、m成分の入力ベクトルU(tp)に応じて、出力Y(tp)を出力する。図4に示すように、このニューラルネットワークは、入力ベクトルU(tp)の成分数mに応じたm個のニューロンW1j(j=1〜m)で構成された入力層と、m×(n−1)個のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)で構成された中間層と、1個のニューロンYで構成された出力層との3つの層を含んで構成された階層型である。
入力層:W1j (j=1,2,…,m)
中間層:Wij (i=2,3,…,n,j=1,2,…,m)
出力層:Y
【0064】
入力層のm個のニューロンW1j(j=1〜m)の動作について説明する。
入力層のニューロンW1jには、信号T1j(tp)が入力される。この入力信号T1j(tp)には、それぞれ、下記式(2−7)に示すように入力ベクトルU(tp)のj番目の成分Uj(tp)が用いられる。
【数9】
【0065】
入力層のニューロンW1jは、中間層のm個のニューロンW2j(j=1〜m)に所定の重みで結合しており、これら結合したm個のニューロンW2jへ信号V1j(tp)を出力する。すなわち、このニューロンW1jは、下記式(2−8),(2−9)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号T1j(tp)に応じた信号V1j(tp)をm個のニューロンW2jに出力する。
【数10】
【数11】
【0066】
図5は、シグモイド関数f(x)を示す図である。この図5には、上記式(2−9)において、ε=0とし、β=0.5,1.0,2.0,3.0とした場合を示す。
シグモイド関数f(x)の値域は、[ε,ε+1]となっている。また、図5に示すように、シグモイド関数f(x)は、βを大きくするに従い、x=0を中心としたステップ関数に近づく。
【0067】
上記式(2−9)において、係数βはシグモイド関数f(x)の傾きゲインを示し、係数εはシグモイド関数f(x)のオフセット値を示す。傾きゲインβは、後述のニューラルネットワークの学習により設定する。オフセット値εは、後述のニューラルネットワークの学習により設定するか、又は所定の値に設定しておく。
【0068】
次に中間層の(n−1)×m個のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)の動作について説明する。
中間層のニューロンWij(i=2〜n,j=1〜m)には、結合するニューロンから出力されたm個の信号Vi−1,j(j=1〜m)のそれぞれに所定の重みωi−1,j(j=1〜m)を乗じた信号の和が入力される。したがって、中間層のニューロンWijには、下記式(2−10)に示すような信号Tij(tp)が入力される。
【数12】
【0069】
中間層のニューロンのうち出力層に結合するm個を除いたニューロン、すなわち、(n−2)×m個のニューロンWij(i=2〜n−1,j=1〜m)は、中間層のm個のニューロンWi+1,j(j=1〜m)に重みωijで結合しており、これら結合したニューロンWi+1,jへ信号Vij(tp)を出力する。すなわち、このニューロンWij(i=2〜n−1,j=1〜m)は、下記式(2−11)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号Tij(tp)に応じた信号Vij(tp)をm個のニューロンWi+1,jに出力する。
【数13】
【0070】
また、中間層のm個のニューロンWnj(j=1〜m)は、出力層のニューロンYに重みωnjで結合しており、この出力層のニューロンYへ信号Vnj(tp)を出力する。すなわち、これらニューロンWnj(j=1〜m)は、下記式(2−12)に示すように、シグモイド関数f(x)に従って、入力信号Tnj(tp)に応じた信号Vnj(tp)をニューロンYに出力する。
【数14】
【0071】
次に出力層のニューロンYの動作について説明する。
出力層のニューロンYには、結合する中間層のニューロンから出力されたm個の信号Vn,j(j=1〜m)に所定の重みωn,j(j=1〜m)を乗じた信号の和が入力される。したがって、出力層のニューロンYには、下記式(2−13)に示すような信号T(tp)が入力される。
【数15】
【0072】
出力層のニューロンYは、下記式(2−14),(2−15)に示すように、シグモイド関数g(x)に従って、入力信号T(tp)に応じた信号Y(tp)を出力する。
【数16】
【数17】
【0073】
シグモイド関数g(x)は、上述の図5に示す関数f(x)と、定性的には同じ振る舞いを示すが、値域が[δ,δ+α]である点でシグモイド関数f(x)と異なる。上記式(2−15)において、係数γはシグモイド関数g(x)の傾きゲインを示し、係数δはシグモイド関数g(x)のオフセット値を示す。また、係数αはニューラルネットワークの出力の取り得る自由度を設定するための出力ゲインを示す。傾きゲインγ及び出力ゲインαは、後述のニューラルネットワークの学習により設定する。オフセット値δは、後述のニューラルネットワークの学習により設定するか、又は所定の値に設定しておく。
【0074】
以上のように構成されたニューラルネットワークの学習は、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−3)の入力Uの成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、θcrk)と、シリンダ内圧との相関関係を示すデータを用いて、入力Uに基づいて算出された推定シリンダ内圧Est_Pcylとデータの値とが一致するように、ニューロンの関数f(x),g(x)の各種ゲイン(α,β,γ,δ,ε)、並びに、各ニューロンの結合の強さを示す重みωij(i=1〜n,j=1〜m)を設定することで行われる。また、後に詳述するように、適応修正係数KVNSは、エンジンの状態が新品又はばらつきに対し標準のものであるときはその値が「1」となるように設定されることから、入力Uとシリンダ内圧との相関関係を示すデータには、適応修正係数KVNSが「1」に相当する新品の実際のエンジンに基づいて得られたものが用いられる。
なお、ニューラルネットワークの学習のアルゴリズムには、既知の方法が用いられる。具体的には、例えば、逆誤差伝播法などの学習アルゴリズムの他、遺伝的アルゴリズムなどの最適化アルゴリズムが挙げられる。
【0075】
<2−1−2.入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図6は、シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
上述の出力補正型の燃焼モデルでは、適応修正係数KVNSをニューラルネットワークの出力Yに乗算又は加算した(上述の図3参照)。これに対して入力補正型の燃焼モデルでは、下記式(2−16)に示すように、適応修正係数KVNSはシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの入力ベクトルUの一成分として含められる。
【数18】
【0076】
そして、下記式(2−17)に示すように、この入力ベクトルUをシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、推定クランク角度Est_θcrkにおける推定シリンダ内圧Est_Pcylとする。
【数19】
【0077】
そして、上記出力補正型の燃焼モデルと同様に、算出した推定シリンダ内圧Est_Pcylに対し、燃焼モデルにおける1燃焼サイクルにわたるピークホールド処理を施すことにより、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出する。
【0078】
なお、この入力補正型のシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成は、上述の図4に示すものと基本的には同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0079】
また、ニューラルネットワークの学習の手順は、入力補正型と出力補正型とで異なる。入力補正型の燃焼モデルにおけるニューラルネットワークでは、上記式(2−16)に示す入力ベクトルUの成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、θcrk、KVNS)とシリンダ内圧との相関関係を示すデータとして、新品又はばらつきに対し標準のエンジンに基づいて取得された新品時データと、劣化又はばらつきの発生したエンジンに基づいて取得された劣化時データとの、少なくとも2組のデータを用いる。
【0080】
新品時データに基づいて学習を行う際には、入力ベクトルUに含まれる適応修正係数KVNSを、新品又はばらつきに対し標準のものに相当する「1」に設定する。また、劣化時データに基づいて学習を行う際には、入力ベクトルUに含まれる適応修正係数KVNSを、劣化又はばらつきの発生したものに相当する「0」に設定する。
以上のように設定した適応修正係数KVNSを含む入力ベクトルUを用いてニューラルネットワークの学習を行うことにより、適応修正係数KVNSを「0」〜「1」の間で連続的に変化させた場合に、推定シリンダ内圧Est_Pcylを、実際のエンジンの特性変化に合わせて変化させることができる。
なお、用いるデータの組の数は、上記2つに限らない。例えば、上記新品と劣化品との間の中間的な特性を有するエンジンを準備した場合には、適応修正係数KVNSを「1」と「0」との間の値、例えば、「0.3」や「0.6」に設定した上で、ニューラルネットワークの学習を行う。これにより、エンジンの特性変化をニューラルネットワークでより現実的に再現することができる。
【0081】
<2−1−3.出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
以上、説明したシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた最大シリンダ内圧用燃焼モデルでは、ニューラルネットワークの出力Yで推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylを算出し、これにピークホールド処理を施すことで最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出した。ニューラルネットワークでは、このように推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylの算出を経ることなく、直接、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを算出するように構成することができる。以下では、ニューラルネットワークの出力Yにより最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する燃焼モデルについて説明する。
【0082】
図7は、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、出力補正型では、下記式(2−17)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを上記式(2−3)から推定クランク角度Est_θcrkを除いたもので定義する。また、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、燃焼モデルにおける演算周期を推定クランク角度Est_θcrkに同期する必要がないので、その演算時刻tp´も、上記演算時刻tpとは異なったものとなる。
【数20】
【0083】
そして、下記式(2−18)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yに、適応修正係数KVNSを乗算したものを、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとする。
【数21】
【0084】
なお、この出力補正型の最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの構成は、上述の図4に示すものと基本的には同じであるので、その詳細な説明を省略する。
【0085】
最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークの学習は、上述の図3に示すシリンダ内圧推定用ニューラルネットワークと同じ手順で行われる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−17)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr)と、最大シリンダ内圧との相関関係を示すデータが用いられる。
【0086】
<2−1−4.入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデル(最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを用いた例)>
図8は、最大シリンダ内圧推定用ニューラルネットワークを備えた入力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxを直接算出する場合、入力補正型では、下記式(2−19)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを上記式(2−16)から推定クランク角度Est_θcrkを除いたもので定義する。
【数22】
【0087】
そして、下記式(2−20)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとする。
【数23】
【0088】
また、ニューラルネットワークの学習は、上述の図6に示すニューラルネットワークと同じ手順で行われる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−19)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、最大シリンダ内圧との相関関係を示すデータが用いられる。
【0089】
<2−2.トルク用燃焼モデル>
トルク用燃焼モデルも、上述の最大シリンダ内圧用シリンダモデルと同様に、適応修正係数KVNSの入力の仕方に応じて、出力補正型と入力補正型との2種類に分けられる。
【0090】
<2−2−1.入力補正型のトルク用燃焼モデル>
図9は、入力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
トルク推定値Est_Trqを算出する場合、入力補正型では、下記式(2−21)に示すように、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUを、上記式(2−16)に示す最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に定義する。なお、トルク用燃焼モデルにおける演算周期の下で更新される演算値には「tt」を付す。
【数24】
【0091】
そして、下記式(2−22)に示すように、この入力ベクトルUをニューラルネットワークに入力することで得られた出力Yを、トルク推定値Est_Trqとする。
【数25】
【0092】
トルク推定用ニューラルネットワークの学習は、上述の最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に行うことができる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−21)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、発生トルクとの相関関係を示すデータが用いられる。
【0093】
<2−2−2.出力補正型のトルク用燃焼モデル>
図10は、出力補正型のトルク用燃焼モデルの構成を示すブロック図である。
後に詳述するように、本実施形態におけるモデル適応器では、最大シリンダ内圧用燃焼モデルにより算出された最大シリンダ内圧推定値と、センサの検出値との偏差が小さくなるように、適応修正係数を算出する。このように、適応修正係数を最大シリンダ内圧用燃焼モデルに発生した誤差に基づいて算出した場合、この適応修正係数を、トルク用に構築されたニューラルネットワークの出力に乗算又は加算しても、トルク推定値を実際のエンジンの特性変化に適応して修正することができない。
【0094】
したがって出力補正型のトルク用燃焼モデルを構築する場合、トルクを検出するセンサを別途準備し、モデル適応器により、トルク用燃焼モデルにより算出されたトルク推定値と、このセンサの検出値との偏差が小さくなるように適応修正係数KVNS´を算出する。そして、出力補正型のトルク用燃焼モデルでは、下記式(2−23)に示すように、ニューラルネットワークの出力Yに、トルク用燃焼モデルに発生した誤差に基づいて算出した適応修正係数KVNS´を乗算したものを、トルク推定値Est_Trqとする。
なお、モデル適応器では、上述のようなセンサの検出値の代わりに、シリンダ内圧センサの検出値に基づいて平均有効圧力や、マップに基づいて算出されたエンジンのフリクション及び補機の駆動トルクなどに基づいて算出されたトルクの推定値を用いてもよい。
【数26】
【0095】
このとき、ニューラルネットワークに対する入力ベクトルUは、下記式(2−24)に示すように定義する。
【数27】
【0096】
ニューラルネットワークの学習は、上述の最大シリンダ内圧用燃焼モデルと同様に行うことができる。なお、学習には、実際のエンジンに基づいて得られた上記式(2−24)の成分(Ginj、θinj、NE、Ginj_pi、θinj_pi、Ginj_min、Ginj_after、θinj_after、Gair、PB、PEX、θegr、KVNS)と、発生トルクとの相関関係を示すデータが用いられる。
【0097】
<3.モデル適応器>
図11は、モデル適応器9の構成を示すブロック図である。
モデル適応器9は、最大シリンダ内圧用燃焼モデル91と、この最大シリンダ内圧用燃焼モデル91により算出された最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxと最大シリンダ内圧Pmaxとに基づいて適応修正係数KVNSを算出する適応修正器92と、を含んで構成される。
【0098】
最大シリンダ内圧用燃焼モデル91には、上述の図3、図6、図7、図8で説明したものの何れかが用いられる。
なお、このモデル適応器9のうち、適応修正器92では上記演算周期Tkの下で演算を行い、燃焼モデル91ではこの演算周期Tkと同じかそれよりも短い演算周期Tnの下で演算を行う。特に、燃焼モデル91に図3や図6に示すような推定クランク角度Est_θcrkごとに演算を行うモデルを適用した場合には、演算周期Tnを上記演算周期Tkよりも短く設定する必要がある。より具体的には、この場合、推定クランク角度Est_θcrkが720deg変化する時間(燃焼モデルにおける1燃焼サイクル)が、実際のエンジンの1燃焼サイクルと同じかそれよりも短くなるように演算周期Tnを設定する必要がある。なお、演算周期Tnの下で更新される演算値には「n」を付す。
【0099】
また、図11に示すように、燃焼モデル91により最大シリンダ内圧推定値Est_Pmax(k)を算出するにあたり、燃焼モデル91に入力する各種パラメータには、適応修正係数KVNSを除いて前回値が用いられる。例えば、燃焼モデル91として図3に示す出力補正型のもの適用した場合、燃焼モデル91のニューラルネットワークの入力ベクトルUは、上記式(2−3)に替えて下記式(3−1)のようになる。
【数28】
【0100】
適応修正器92は、モデル偏差算出部921と、重み関数設定部922と、局所修正係数算出部923と、修正係数算出部924と、を備える。以下説明するように、適応修正器92は、これら構成により、燃焼モデル91の誤差を示すモデル偏差E_Estを算出し、このモデル偏差E_Estが小さくなるように、適応修正係数KVNSを算出する。
【0101】
モデル偏差算出部921は、下記式(3−2)に示すように、燃焼モデル91により各種パラメータの前回値に基づいて算出された最大シリンダ内圧推定値Est_Pmax(k)から、最大シリンダ内圧の前回値Pmax(k−1)を減算することにより、モデル偏差E_Est(k)を算出する。
【数29】
【0102】
なお、燃焼モデル91に、図3及び図4に示すような推定クランク角度Est_θcrkごとの推定シリンダ内圧Est_Pcylを算出する場合には、下記式(3−3)に示すように、推定シリンダ内圧Est_Pcylとセンサの検出値Pcylとの差の1燃焼サイクルの間における最大値や、推定シリンダ内圧Est_Pcylとセンサの検出値Pcylとの差の1燃焼サイクルにわたる積分値などにより、モデル偏差E_Est(k)を定義してもよい。
【数30】
【0103】
この適応修正器92では、燃焼モデル91への入力から選ばれた2つの参照パラメータ(例えば、エンジン回転数NE、及び燃料噴射量Ginj)を基底とする空間を定義するとともに、この空間を複数の領域に分ける。さらに、領域ごとに後述の局所修正係数Uij(i=1〜4,j=1〜4)を算出し、これら局所修正係数Uijを後述の重み関数Wij(i=1〜4,j=1〜4)で重み結合することにより、適応修正係数KVNSを算出する。
【0104】
ところで、エンジンの劣化や生産ばらつきが上記モデル偏差E_Estに及ぼす影響は、エンジンの運転条件、すなわち参照パラメータの値ごとに異なったものになると考えられる。適応修正器92では、参照パラメータを基底とする空間内の領域ごとに局所修正係数Uijを算出することにより、参照パラメータの値ごとに異なる上述の誤差への影響を考慮して適応修正係数KVNSを算出する。
【0105】
図12は、エンジン回転数NEを定義域とした4つの第1重み関数Wni(i=1〜4)を示す図である。図12に示すように、4つの第1重み関数Wniは、それぞれ、定義域に互いに重複した4つの領域を定義し、これら領域において「0」でない値を持つように設定される。
【0106】
より具体的には、定義域は、[N0,N2]と、第2領域[N1,N3]と、第3領域[N2,N4]と、第4領域[N3,N5]とに分けられる。ここで、図9に示すように、N0<N1<N2<N3<N4<N5とする。したがって、第1領域と第2領域は区間[N1,N2]で重複し、第2領域と第3領域は区間[N2,N3]で重複し、第3領域と第4領域は区間[N3,N4]で重複する。
【0107】
関数WN1は、第1領域[N0,N2]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN1は、区間[N0,N1]において「1」に設定され、区間[N1,N2]において「1」から「0」に減少するように設定される。
関数WN2は、第2領域[N1,N3]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN2は、区間[N1,N2]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N2,N3]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WN1と関数WN2は、区間[N1,N2]の中心で交差する。
関数WN3は、第3領域[N2,N4]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN3は、区間[N2,N3]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N3,N4]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WN2と関数WN3は、区間[N2,N3]の中心で交差する。
関数WN4は、第4領域[N3,N5]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WN4は、区間[N3,N4]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[N4,N5]において「1」に設定される。したがって、関数WN3と関数WN4は、区間[N3,N4]の中心で交差する。
【0108】
また、第1重み関数Wniは、下記式(3−4)に示すように、その総和関数の値がエンジン回転数NEによらず「1」となるように正規化されている。なお、以下では、エンジン回転数NE(k)を引数とした第1重み関数の値Wni(NE(k))を単にWni(k)とする。
【数31】
【0109】
図13は、燃料噴射量Ginjを定義域とした4つの第2重み関数Wgj(j=1〜4)を示す図である。
図13に示すように、4つの第2重み関数Wgjは、それぞれ、定義域に互いに重複した4つの領域を定義し、これら領域において「0」でない値を持つように設定される。
【0110】
より具体的には、定義域は、[G0,G2]と、第2領域[G1,G3]と、第3領域[G2,G4]と、第4領域[G3,G5]とに分けられる。ここで、図13に示すように、G0<G1<G2<G3<G4<G5とする。したがって、第1領域と第2領域は区間[G1,G2]で重複し、第2領域と第3領域は区間[G2,G3]で重複し、第3領域と第4領域は区間[G3,G4]で重複する。
【0111】
関数WG1は、第1領域[G0,G2]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG1は、区間[G0,G1]において「1」に設定され、区間[G1,G2]において「1」から「0」に減少するように設定される。
関数WG2は、第2領域[G1,G3]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG2は、区間[G1,G2]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G2,G3]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WG1と関数WG2は、区間[G1,G2]の中心で交差する。
関数WG3は、第3領域[G2,G4]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG3は、区間[G2,G3]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G3,G4]において「1」から「0」に減少するように設定される。したがって、関数WG2と関数WG3は、区間[G2,G3]の中心で交差する。
関数WG4は、第4領域[G3,G5]において「0」でない値を持つように設定される。より具体的には、関数WG4は、区間[G3,G4]において「1」から「0」に上昇するように設定され、区間[G4,G5]において「1」に設定される。したがって、関数WG3と関数WG4は、区間[G3,G4]の中心で交差する。
【0112】
また、第2重み関数Wgjは、下記式(3−5)に示すように、その総和関数の値が燃料噴射量Ginjによらず「1」となるように正規化されている。なお、以下では、燃料噴射量Ginj(k)を引数とした第2重み関数の値Wgj(Ginj(k))を単にWgj(k)とする。
【数32】
【0113】
図14は、2つの参照パラメータ(NE,Ginj)を定義域とした16個の重み関数Wij(i=1〜4,j=1〜4)を示す図である。図14において、横軸はエンジン回転数NEを示し、縦軸は燃料噴射量Ginjを示す。図14に示すように、2つの参照パラメータ(NE,Ginj)の定義域には、互いに重複する16個の領域が定義される。
【0114】
16個の重み関数Wijは、下記式(3−6)に示すように、第1重み関数Wniの各成分と第2重み関数Wgjの各成分との積により定義される。これにより、16個の領域においてそれぞれ「0」でない値を持つ重み関数Wijが定義される。なお、図14には、4つの重み関数W11,W22,W33,W44のみを異なるハッチングで示す。
【数33】
【0115】
また、上記式(3−4)及び(3−5)と同様に、重み関数Wijの総和関数の値は、下記式(3−7)に示すように、2つの参照パラメータ(NE(k),Ginj(k))の値によらず「1」となるように正規化される。なお、以下では、エンジン回転数NE(k)及び燃料噴射量Ginj(k)を引数とした重み関数の値Wij(NE(k),Ginj(k))を単にWij(k)とする。
【数34】
【0116】
図11に戻って、重み関数設定部922は、複数の第1重み関数Wniが設定された第1重み関数算出部9221と、複数の第2重み関数Wgjが設定された第2重み関数算出部9222と、これら第1重み関数Wni及び第2重み関数Wgjに基づいて重み関数Wijを算出する乗算器9223と、モデル偏差E_Estに対し領域ごとに重み付けする乗算器9224と、を含んで構成される。
【0117】
第1重み関数算出部9221は、図12に示すようなマップを検索することにより、エンジン回転数NE(k)に応じた第1重み関数の値Wni(k)を算出する。
【0118】
第2重み関数算出部9222は、図13に示すようなマップを検索することにより、燃料噴射量Ginj(k)に応じた第2重み関数の値Wgj(k)を算出する。
【0119】
乗算器9223は、下記式(3−8)に示すように、第1重み関数算出部7151により算出された第1重み関数の値Wni(k)と第2重み関数の値Wgj(k)との各成分を乗算することにより、重み関数の値Wij(k)を算出する。
【数35】
【0120】
乗算器9224は、下記式(3−9)に示すように、算出された重み関数の値Wij(k)の各成分をモデル偏差E_Est(k)に乗算することにより、領域ごとに重み付けされた誤差信号WEVNSij(k)を算出する。
【数36】
【0121】
局所修正係数算出部923は、領域ごとに重み付けされた誤差信号WEVNSijが「0」になるように、局所修正係数Uij(i=1〜4,j=1〜4)を領域ごとに算出する。
【0122】
本実施形態では、誤差信号WEVNSijの収束速度を設定できる応答指定型制御アルゴリズムにより、局所修正係数Uijを算出する。この応答指定型制御アルゴリズムとは、偏差の収束挙動を規定した関数に基づいて、偏差の収束速度と収束挙動の両方を指定できる制御アルゴリズムのことをいう。
【0123】
局所修正係数算出部923は、この応答指定型制御アルゴリズムが実行可能に構成された複数のスライディングモードコントローラを備える。以下では、これらスライディングモードコントローラの動作について説明する。
【0124】
先ず、下記式(3−10)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_vと誤差信号の前回値WEVNSij(k−1)との積と、WEVNSij(k)との和を算出し、これを切換関数σ_vij(k)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_vは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数37】
【0125】
次に、下記式(3−11)に示すように、到達則入力Urch_vij(k)、及び適応則入力の前回値Uadp_vij(k−1)の和を算出し、これを局所修正係数Uij(k)として定義する。
【数38】
【0126】
到達則入力Urch_vij(k)は、偏差状態量を切換直線上に載せるための入力であり、下記式(3−12)に示すように、切換関数σ_vij(k)に所定の到達則ゲインKrch_vを乗算することで算出される。
【数39】
【0127】
適応則入力Uadp_vij(k)は、モデル化誤差や外乱の影響を抑制し、偏差状態量を切換直線に載せるための入力であり、下記式(3−13)に示すように、切換関数σ_vij(k)と所定の適応則ゲインKadp_vを乗算したものと、前回制御時の適応則入力Uadp_vij(k−1)との和により算出される。
【数40】
【0128】
修正係数算出部924は、領域ごとに算出された局所修正係数Uijを重み関数Wijによる重み結合したものに、「1」を加算することにより、適応修正係数KVNSを算出する。すなわち、修正係数算出部924は、下記式(3−14)に示すように、局所修正係数Uij(k)と重み関数の値Wijとの積の全領域(i=1〜4,j=1〜4)に亘る総和に、「1」を加算することにより、適応修正係数KVNS(k)を算出する。
【数41】
【0129】
ここで、上記式(3−14)において、「1」を加算した理由は、上述のように適応修正係数KVNS=1を新品の状態とした上で、適応則入力UADP_V_ijの初期値を「0」とし、かつ、適応修正係数KVNSの初期値を「1」とするためである。なお、適応則入力UADP_V_ijの初期値を「1」とした場合には、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。また、適応修正係数KVNSの初期値を、劣化品を示す「0」にする場合にも、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。また、上記式(2−6)に示すように、適応修正係数KVNSを加算することで燃焼モデルを適応修正する場合にも、上記式(3−14)に示すように「1」を加算する必要は無い。
【0130】
また、上述のように重み関数Wijは、各領域においてのみ「0」でない値を持つ関数Wni及びWgjの積に基づいて算出されるものであるため、重み関数の値が「0」になる領域も存在する。したがって、上記式(3−14)において、全領域(i=1〜4,j=1〜4)に亘る総和を演算する際には、このような重み関数の値Wij(k)が「0」になる領域に関する演算を除外してもよい。これにより、演算負荷を軽減することができる。
【0131】
<4.燃焼モデルベースコントローラ>
図2に戻って、燃焼モデルベースコントローラの構成について説明する。
補正値算出部6には、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nが並列して設けられている。
図15は、N個のコントローラのうちのi番目の燃焼モデルベースコントローラ7_iの構成を示すブロック図である。
【0132】
燃焼モデルベースコントローラ7_iは、最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_i及びトルク用燃焼モデル712_iを含んで構成されたモデル予測器71_iと、このモデル予測器71_iを制御対象として再帰演算により予測燃料噴射時期補正値θdinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出するフィードバックコントローラ74_iと、を含んで構成される。
【0133】
この燃焼モデルベースコントローラ7_iのうち、フィードバックコントローラ74_iでは上記演算周期Tkよりも短い演算周期Tqの下で演算を行い、モデル予測器71_iでは上記演算周期Tqと同じかそれよりも短い演算周期Tmの下で演算を行う。
フィードバックコントローラ74_iは、実際のエンジンの1燃焼サイクルの間に、モデル予測器71_iを制御対象としてみたてて再帰的に演算することにより、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出する。このため、演算周期Tkが経過する間に、上記補正値dθinj_i,dGinj_iが所定の値に収束するように複数回演算を行う必要がある。このため、フィードバックコントローラ74_iにおける演算周期Tqは、上記演算周期Tkよりも十分に短くなるように設定する。なお、演算周期Tqの下で更新される演算値には「q」を付し、演算周期Tmの下で更新される演算値には「m」を付す。
【0134】
モデル予測器71_iは、フィードバックコントローラ74_iからの入力に基づいて予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iを算出する最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iと、フィードバックコントローラ74からの入力に基づいて予測トルク値Pre_Trq_iを算出するトルク用燃焼モデル712_iと、を備える。
【0135】
最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iには、上述の図3、図6、図7、図8で説明したものの何れかが用いられる。ここでは、図3に示す出力補正型の最大シリンダ内圧用燃焼モデルを適用した場合について説明する。
この場合、燃焼モデル711_iのニューラルネットワークへの入力ベクトルUは、下記式(4−1)のようになる。
【数42】
【0136】
このとき、モデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射量Ginj_i(m)は、下記式(4−2)に示すように、基準噴射量算出部52により演算周期Tkの下で算出された基準燃料噴射量Ginj_bs(k)とフィードバックコントローラ74_iにより演算周期Tqの下で算出された予測燃料噴射量補正値の前回値dGinj_i(q−1)とを、加算器72_iで加算することにより算出される。
【数43】
【0137】
また、モデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射時期θinj_i(m)は、下記式(4−3)に示すように、基準噴射時期算出部51により演算周期Tkの下で算出された基準燃料噴射時期θinj_bs(k)とフィードバックコントローラ74_iにより演算周期Tqの下で算出された予測燃料噴射時期補正値の前回値dθinj_i(q−1)とを、加算器73_iで加算することにより算出される。
【数44】
【0138】
また、この最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iにおける予測クランク角度Pre_θcrkは、下記式(4−4)に示すように、演算周期Tmごとにクランク角分解能dθcrk_preだけ進み、720degを超えるとリセットされる。
【数45】
【0139】
上記式(4−1)に示す入力ベクトルUの下で、最大シリンダ内圧用燃焼モデル711_iで算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i(m)は、フィードバックコントローラ74_iに入力される。
【0140】
トルク用燃焼モデル712_iには、上述の図9、図10で説明したものの何れかが用いられる。ここでは、図9に示す入力補正型のトルク用燃焼モデルを適用した場合について説明する。
この場合燃焼モデル712_iのニューラルネットワークへの入力ベクトルUは、下記式(4−5)のようになる。
【数46】
【0141】
上記式(4−5)に示す入力ベクトルUの下で、トルク用燃焼モデル712_iで算出された予測トルク値Pre_Trq_i(m)は、後述の最適入力セレクタ8に入力される。
【0142】
なお、上記式(4−1)、(4−5)において、第4〜第7成分は、演算周期Tkの下で更新されるのに対し、第1、第2成分は、演算周期Tmの下で更新される。そこで、パイロット燃料噴射量Ginj_pi及び噴射時期θinj_pi、並びに、アフター燃料噴射量Ginj_after及び噴射時期θinj_afterを、燃料噴射量Ginj_i及びθinj_iに合わせて、例えばマップ検索などにより演算周期Tmの下で更新してもよい。
【0143】
フィードバックコントローラ74_iは、予測偏差算出部75_iと、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iと、燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iと、2つの増幅器76_i,77_iと、を含んで構成される。
【0144】
予測偏差算出部75_iは、2つのフィードバックコントローラ78_i,79_iにより補償すべき制御量としての、最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iを算出する。より具体的には、下記式(4−6)に示すように、モデル予測器71_iにより算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iのうち、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから超えた分を最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iとして定義する。また、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが、上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtよりも小さい場合には、最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iを「0」とする。
【数47】
【0145】
2つのフィードバックコントローラ78_i,79_iに入力する制御量を上記式(4−6)に示すように定義することにより、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超える場合にのみ、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、フィードバックコントローラ78_i,79_iにより予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iが算出され、ひいてはモデル予測器71_iに入力される予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iが補正される。
【0146】
また、ここで算出された最大シリンダ内圧偏差Pre_dPmax_iは、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_i及び燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iに対し、所定の分配係数We_iによりそれぞれ異なるように重み付けされた偏差が入力される。
より具体的には、燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iには、下記式(4−7)に示すような偏差E_Ginj_i(q)が入力される。一方、燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iには、下記式(4−8)に示すような偏差E_θinj_i(q)が入力される。
【数48】
【数49】
【0147】
ここで、上記式(4−7)、(4−8)における分配係数We_iには、燃焼モデルベースコントローラ7_iごとに「0」から「1」の間で固有の値を設定する。すなわち、上述の図2に示すように、本実施形態では、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,71_Nを並列に設けたが、各コントローラ71_1,…,71_Nでは、分配係数We_1,…,We_Nの値が異なるよう設定する。したがって、各コントローラ71_1,…,71_Nでは、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_1,…, Pre_Pmax_Nが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、異なる条件の下で予測燃料噴射時期補正値dθinj_1,…,dθinj_N、予測燃料噴射量補正値dGinj_1,…, dGinj_N、及び予測トルク値Pre_Trq_1,…, Pre_Trq_Nが算出される。
【0148】
燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iは、上記モデル適応器9の局所修正係数算出部923と同様の構成のスライディングモードコントローラを備える。この燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iでは、先ず、下記式(4−9)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_θinjと偏差の前回値E_θinj_i(q−1)との和を算出し、これを切換関数σθinj_i(q)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_θinjは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数50】
【0149】
次に、下記式(4−10)に示すように、到達則入力dθinj_rch_i(q)と適応則入力の前回値dθinj_adp_i(q−1)との和により、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i(q)を定義する。
【数51】
【0150】
ここで、到達則入力dθinj_rch_i(q)は、下記式(4−11)に示すように、切換関数σθinj_i(q)に所定の到達則ゲインKrch_θinjを乗算することで算出される。また、適応則入力dθinj_adp_i(q)は、下記式(4−12)に示すように、切換関数σθinj_iの現在の時刻qまでの総和と、適応則ゲインKadp_θinjとの積により算出される。
【数52】
【数53】
【0151】
燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iは、上記燃料噴射時期フィードバックコントローラ79_iと同様に動作するスライディングモードコントローラを備える。この燃料噴射量フィードバックコントローラ78_iでは、先ず、下記式(4−13)に示すように、切換関数設定パラメータPOLE_Ginjと偏差の前回値E_Ginj_i(q−1)との和を算出し、これを切換関数σGinj_i(q)として定義する。なお、切換関数設定パラメータPOLE_Ginjは、所定の設定テーブルに基づいて、「−1」から「0」の間で設定されたものが用いられる。
【数54】
【0152】
次に、下記式(4−14)に示すように、到達則入力dGinj_rch_i(q)と適応則入力の前回値dGinj_adp_i(q−1)との和により、予測燃料噴射量補正値dGinj_i(q)を定義する。
【数55】
【0153】
ここで、到達則入力dGinj_rch_i(q)は、下記式(4−15)に示すように、切換関数σGinj_i(q)に所定の到達則ゲインKrch_Ginjを乗算することで算出される。また、適応則入力dGinj_adp_i(q)は、下記式(4−16)に示すように、切換関数σGinj_iの現在の時刻qまでの総和と、適応則ゲインKadp_Ginjとの積により算出される。
【数56】
【数57】
【0154】
<5.最適入力セレクタ>
図2に戻って、最適入力セレクタ8の構成について説明する。
上述のように、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_1,…,7_Nでは、それぞれ、異なる最適化条件の下で予測燃料噴射時期補正値dθinj_1,…,dθinj_Nと、予測燃料噴射量補正値dGinj_1,…, dGinj_Nとが再帰演算により算出される。最適入力セレクタ8では、所定の優先条件を設定しておき、これらN個の補正値の組(dθinj_1, dGinj_1),…,(dθinj_N, dGinj_N)のうち、上記優先条件に最も適合する組を選択し、これを最適燃料噴射量補正値dGinj_opt及び最適燃料噴射時期補正値dθinj_optとして決定する。
【0155】
本実施形態では、上記優先条件を、補正値の組(dθinj_i,dGinj_i)とともに算出された予測トルク値Pre_Trq_iに対し所定の優先条件を設定する。上述の各燃焼モデルベースコントローラ7_iにより算出された補正値の組(dθinj_i,dGinj_i)は、それぞれ予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下となるように決定されているものの、最適化条件が異なるため、予測トルク値Pre_Trq_iの値は、コントローラによって異なったものとなる。そこで、下記式(5−1)に示すように、予測トルク値Pre_Trq_iが大きいことを優先条件として、この優先条件に最も適合するコントローラの番号iopを決定する。なお、下記式(5−1)において、演算時刻meは、最適入力セレクタ8が動作する時刻である。この演算時刻meは、次回の燃焼サイクルの燃料噴射に間に合うように、適宜設定される。
【数58】
【0156】
そして、下記式(5−2)、(5−3)に示すように、この番号iopのコントローラにより算出された補正値の組(dθinj_iop,dGinj_iop)を、燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjとして決定する。
【数59】
【数60】
【0157】
また、上記式(1−1)、(1−2)に示すように、このようにして決定された燃料噴射時期補正値dθinj及び燃料噴射量補正値dGinjに基づいて、燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjが決定される。
【0158】
<6.フローチャート>
次に、制御装置2による最大シリンダ内圧制御の具体的な手順について、図16を参照して説明する。
図16は、制御装置2により実行される最大シリンダ内圧制御の具体的な手順を示すフローチャートである。
ステップS1では、EGRバルブ故障フラグF_EGRNGが「1」であるか否かを判別する。このEGRバルブ故障フラグF_EGRNGは、図示しない判定処理においてEGRバルブが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS2に移る。
【0159】
ステップS2では、センサ類故障フラグF_SNSNGが「1」であるか否かを判別する。このセンサ類故障フラグF_SNSNGは、図示しない判定処理において吸気圧センサ、排気圧センサ、EGRバルブ開度センサ、及びエアフローセンサなどの各種センサの何れかが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS3に移る。
【0160】
ステップS3では、シリンダ内圧センサ故障フラグF_PCYLNGが「1」であるか否かを判別する。このシリンダ内圧センサ故障フラグF_PCYLNGは、図示しない判定処理においてシリンダ内圧センサが故障したと判定されたときに「1」に設定され、それ以外のときには「0」に設定される。この判別がNOの場合には、ステップS4に移る。
【0161】
ステップS4では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すような正常運転時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS5に移る。
【0162】
ステップS5では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射量Ginj_bsを算出し、ステップS6に移る。ステップS6では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射時期θinj_bsを算出し、ステップS7に移る。
【0163】
ステップS7では、モデル適応器9により、上記式(3−1)〜(3−14)に基づいて適応修正係数KVNSを算出し、ステップS8に移る。
ステップS8では、N個の燃焼モデルベースコントローラ7_i(i=1〜N)により、上記式(4−1)〜(4−16)に基づいて補正値の組dGinj_i,dθinj_i(i=1〜N)を算出する。
ステップS9では、最適化セレクタ8により上記補正値の組dGinj_i,dθinj_i(i=1〜N)から最適な補正値dGinj_opt,dθinj_optを選択し(上記式(5−1)〜(5−3)参照)、これに基づいて燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを決定し(上記式(1−1)、(1−2)参照)、この処理を終了する。
【0164】
一方、上記ステップS3における判別がYESであり、シリンダ内圧センサが故障した状態であると判断された場合には、補正値算出部6を停止するべく、ステップS10に移る。
ステップS10では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すようなシリンダ内圧センサ故障時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS11に移る。このとき、補正値算出部6を停止しても最大シリンダ内圧が最大シリンダ内圧目標値を超えることがないように、シリンダ内圧センサ故障時用マップによれば、ドライバ要求トルクTRQ_DRVは、正常運転時用のマップを検索した場合と比較して、やや小さな値に設定される。
【0165】
ステップS11では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射量Ginj_bsを算出し、ステップS12に移る。ステップS12では、エンジン回転数NE及び算出したドライバ要求トルクTRQ_DRVに基づいて、所定のマップを検索することで基準燃料噴射時期θinj_bsを算出し、ステップS13に移る。
【0166】
ステップS13では、基準燃料噴射量Ginj_bsを燃料噴射量Ginjとして決定しステップS14に移る。ステップS14では、基準燃料噴射時期θinj_bsを燃料噴射時期として決定し、この処理を終了する。
【0167】
また、上記ステップS1又はステップS2の判別がYESであり、センサ類の何れか又はEGRバルブが故障したと判断された場合にも、補正値算出部6を停止するべく、ステップS15に移る。
ステップS15では、エンジン回転数NE及びアクセル開度APに基づいて、図16に示すようなバルブ故障時用のマップを検索することで、ドライバ要求トルクTRQ_DRVを算出し、ステップS11に移る。このとき、補正値算出部6を停止しても最大シリンダ内圧が最大シリンダ内圧目標値を超えないように、かつ、エンジンを保護するため、バルブ故障時用マップによれば、ドライバ要求トルクTRQ_DRVは、センサ故障時用のマップを検索した場合と比較して、さらに小さな値に設定される。
【0168】
<7.シミュレーション結果>
次に、本実施形態の制御装置2による最大シリンダ内圧制御のシミュレーション結果について説明する。
【0169】
先ず、本実施形態の比較対象となる従来の制御装置による最大シリンダ内圧制御のシミュレーション結果について、図17及び図18を参照して説明する。
図17は、従来の制御装置の構成を示すブロック図である。
従来の制御装置では、基準燃料噴射時期θinj_bs及び基準燃料噴射量Ginj_bsを本実施形態と同様にマップ検索により算出する。
【0170】
フィードバックコントローラでは、下記式(6−1)に示すように、最大シリンダ内圧偏差dPmaxを算出する。より具体的には、最大シリンダ内圧Pmaxのうち、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから超えた分を最大シリンダ内圧偏差dPmaxとして定義する。また、最大シリンダ内圧Pmaxが、上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtよりも小さい場合には、最大シリンダ内圧偏差dPmaxを「0」とする。
【数61】
【0171】
また、フィードバックコントローラでは、この最大シリンダ内圧偏差dPmaxが「0」となるように、すなわち、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えた場合には、検出値Pmaxが目標値Pmax_trgt以下になるように、燃料噴射時期補正値dθinjを算出する。ここで、フィードバックアルゴリズムとしては、上記式(4−9)〜(4−12)に示したものと同様のスライディングモードアルゴリズムを適用した。
【0172】
図18は、従来の制御装置により最大シリンダ内圧制御を行った場合における燃料噴射量、燃料噴射時期補正値、及びシリンダ内圧の変化を示す図である。
図18に示すように、この従来の制御装置では、時刻t1において、シリンダ内圧値が目標値Pmax_trgtを超えたことに応じて初めてフィードバックコントローラが動作し、時刻t2では「0」でない燃料噴射時期補正値dθinjが算出される。このように、制御遅れが必ず生じてしまうため、間欠的ではあるものの最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを大幅に超えてしまう場合がある。また、このような制御遅れの発生により、逆に最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを大幅に下回るように、最大シリンダ内圧Pmaxを不要に抑制してしまう場合もある。
【0173】
次に、本実施形態のシミュレーション結果について図19〜図22を参照して説明する。
ここでは、図19に示すように、3つの異なる条件下でシミュレーションを行った。条件1では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオフにした。条件2では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオフにし、さらにモデル化誤差を付与した。ここで、モデル化誤差とは、燃焼モデルベースコントローラ7_i及びモデル適応器9に備えられた燃焼モデルにより再現されるエンジンの状態と、実際のエンジンの状態とが異なるときに発生する誤差である。条件3では、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iの動作をオンにし、かつモデル適応器9の動作をオンにし、さらにモデル化誤差を付与した。
【0174】
図20は、本実施形態に係る制御装置を条件1のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、及び予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iの変化を示す図である。
なお、図20中、下方には、演算周期Tmの下で算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iを演算周期Tkにわたって拡大したものを図示する。
【0175】
上述のように、燃焼モデルベースコントローラでは、次回の燃料噴射時期θinj及び燃料噴射量Ginjを決定するまでに、燃焼モデルにより再帰的に演算を行うことで予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射時期補正値dθinj_i及び予測燃料噴射量補正値dGinj_iを算出する。そして、このようにしてN個のコントローラで算出された補正値の組dθinj_i,dGinj_i(i=1〜N)のうち、最も大きい予測トルク値Pre_Trq_i(i=1〜N)を出力するコントローラで算出された補正値に基づいて燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期補正値dθinjを決定する。
このため、図20に示すように、シリンダ内圧検出値Pcylが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えることはない。また、図18の従来の結果と比較して分かるように、本実施形態によれば、最大シリンダ内圧Pmaxを抑制する制御を行った後、不要に最大シリンダ内圧Pmaxを抑制する制御が働くこともない。また、燃料噴射量Ginjと燃料噴射時期θinjとでは、それぞれ補正のバランスが変化することが確認できる。これは、最大シリンダ内圧Pmaxを目標値Pmax_trgt以下に抑制しながらも、トルクを最大化、すなわち燃焼効率を最大化するような補正を行っているためである。
【0176】
図21は、本実施形態に係る制御装置を条件2のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、及び予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iの変化を示す図である。
【0177】
条件2では、より具体的には、燃焼モデルによる予測値が実際のエンジンの検出値よりも20%程度大きくなるようなモデル化誤差を与えた。また、条件2では、モデル適応器を作動させていないため、最適化コントローラでは、予測値Pre_Pmax_iを検出値Pmaxに一致させるようなフィードバック動作が働かずに、燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjをフィードフォワード的に決定するのみである。結果として最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超える場合がある。
【0178】
図22は、本実施形態に係る制御装置を条件3のもとで作動させた場合におけるシリンダ内圧検出値Pcyl、燃料噴射量Ginj、基準燃料噴射量Ginj_bs、燃料噴射時期補正値dθinj、予測燃料噴射時期補正値dθinj_i、予測燃料噴射量補正値dGinj_i、予測トルク値Pre_Trq_i、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_i、適応修正係数KVNS、及び最大シリンダ内圧の予測値Pre_Pmax_iと最大シリンダ内圧Pmaxとの変化を示す図である。
【0179】
条件3では、条件2と同じモデル化誤差を与えつつ、モデル適応器を作動させる。
このため、図22中、破線で示すように、シミュレーションを開始した直後は、燃焼モデルによる最大シリンダ内圧の予測値Pre_Pmax_iと、実際の検出値Pmaxとの間でずれがあるものの、モデル適応器により適応修正係数KVNSを適切な値に変化させてゆくことにより、この予測値Pre_Pmax_iと検出値Pmaxとの間の誤差はなくなる。すなわち、シミュレーション開始時に与えたモデル化誤差は自動的に無くなる。したがって、シリンダ内圧検出値Pcylが目標値Pmax_trgtを超えてしまうこともない。
図21と図22とを比較すると、燃料噴射量Ginjと燃料噴射時期θinjの補正のバランスが、燃焼モデルをモデル適応器により修正する前(図21)と、修正した後(図22)では異なることが確認できる。これは、燃焼モデルとして適応修正器を併用したニューラルネットワークを用い、最適化コントローラで最適な制御入力を燃焼モデルの変化に合わせて逐次選択するようにしたためであり、従来のマップを用いた手法では実現することは困難であると考えられる。
【0180】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態によれば、最適化コントローラ5の燃焼モデルベースコントローラ7_iは、燃焼モデルに予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを入力したときにおける、この燃焼モデルにより算出された予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように、上記予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。さらに、この最適化コントローラ5は、補正した予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいてエンジンの制御入力を決定する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが常に最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下になるように制御入力を決定することができる。このように、本実施形態によれば、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを上回ることを契機とすることなく、燃焼モデルによりフィードフォワード的に制御入力を決定することができるので、制御遅れにより一時的に最大シリンダ内圧Pmaxが上記最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtから大幅に上回ったり、逆に最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るような制御が不要に働くのを防止したりすることもできる。
【0181】
(2)本実施形態によれば、N個の燃焼モデルベースコントローラにより、それぞれ異なる最適化条件の下で、予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、最適入力セレクタ8により、各燃焼モデルベースコントローラにより算出された予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iのうち、予測トルク値Pre_Trq_iが最も大きくなるものを選択し、この選択した予測燃料噴射量及び予測燃料噴射時期をエンジンの制御入力として決定する。これにより、例えば最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを下回るように制御入力を決定するあまり、トルク値が小さくなってしまい、マイナスの影響が現れるのを防止することができる。すなわち、最大シリンダ内圧Pmaxを適切に維持しながら、トルクが望まれていない挙動を示すのを防止することができる。
【0182】
(3)本実施形態では、プラントモデルとしてニューラルネットワークを用いることにより、車載コンピュータでも実現可能な程度の計算量で、モデル化誤差が小さく精度の高い演算が可能となる。また、ニューラルネットワークにも多くのパラメータが含まれているものの、ニューラルネットワークでは物理的な意味を持ったモデルパラメータとしてこれらパラメータを同定しないので、既存の手法により適切な値に設定することができる。
【0183】
(4)本実施形態によれば、モデル適応器9により、最大シリンダ内圧Pmaxと燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iとの偏差が小さくなるように、燃焼モデルを適応修正する。これにより、エンジンに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、燃焼モデルによる予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iと実際のエンジンの最大シリンダ内圧Pmaxとを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0184】
(5)本実施形態によれば、モデル修正器9により、最大シリンダ内圧Pmaxと燃焼モデルにより算出される最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxとの偏差が小さくなるように、燃焼モデルのニューラルネットワークに入力される適応修正係数KVNSを算出する。これにより、エンジンに劣化が発生したり生産ばらつきが生じたりした場合であっても、燃焼モデルによる最大シリンダ内圧推定値Est_Pmaxと実際のエンジンの最大シリンダ内圧Pmaxとを常に合致させることができるため、上記劣化や生産ばらつきに関わらず常に適切な制御入力を決定することができる。
【0185】
(6)本実施形態によれば、適応修正係数KVNSをニューラルネットワークの出力に乗算又は加算する場合(出力補正型の場合)、このようなエンジンの特性変化を予め学習する必要がないので、エンジンが上述のような予期しない変化をした場合であっても、比較的高い精度でモデル化誤差を補償することができると考えられる。
【0186】
(7)本実施形態によれば、エンジンの状態を示す参照パラメータ(NE,Ginj)を基底とした空間内の領域ごとの局所修正係数Uijを算出することにより、エンジンの状態ごとに異なる誤差への影響を考慮して適応修正係数KVNSを決定することができる。
【0187】
(8)本実施形態によれば、予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが、最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iを補正する。そして、この補正した予測燃料噴射量Ginj_i及び予測燃料噴射時期θinj_iに基づいて燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないようにすることができるので、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0188】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第2実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略化又は簡略化する。
【0189】
図23は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Aの構成を示すブロック図である。
本実施形態の制御装置2AのECU3Aに構成された最適化コントローラ5Aは、最大シリンダ内圧Pmaxを最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下に制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0190】
ここで、燃料噴射分割比率Rinjとは、メイン噴射を例えば2回に分けて実行した場合における、第1メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min1と、第2メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min2との比率を示すものであり、「0」から「1」の間で設定される。より具体的には、この燃料噴射分割比率Rinjを用いて、第1メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min1と、第2メイン噴射実行時の噴射量Ginj_min2とは、下記式(7−1)、(7−2)により決定される。
【数62】
【数63】
【0191】
図24は、燃料噴射時期θinjの遅角化を模式的に示す図である。
図25は、メイン噴射の分割を模式的に示す図である。
第1実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えるおそれがある場合には、燃料噴射量Ginjを少なくする補正を行うか、又は図24に示すように、メイン噴射を実行する時期が遅くなるように燃料噴射時期θinjを補正する。
これに対して第2実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えるおそれがある場合には、燃料噴射量Ginjを少なくする補正を行うか、又は図25に示すように、第1メイン燃料噴射量Ginj_min1と第2メイン燃料噴射量Ginj_min2との合計をメイン燃料噴射量Ginj_minに固定したまま、第1メイン燃料噴射量Ginj_min1と第2メイン燃料噴射量Ginj_min2との比率を変化させる。
【0192】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(9)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割噴射比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される予測最大シリンダ内圧値Pre_Pmax_iが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割噴射比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、最大シリンダ内圧Pmaxが最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgtを超えないようにすることができるので、エンジンの骨格強度を最大限有効に使いきることができる。
【0193】
なお、最大シリンダ内圧Pmaxを目標値Pmax_trgt以下に制御するため、第1実施形態では燃料噴射量Ginj及び燃料噴射時期θinjを調整し、第2実施形態では燃料噴射量Ginj及び燃料噴射分割比率Rinjを調整したが、最大シリンダ内圧Pmaxを制御するための制御パラメータはこれらに限らない。この他、制御パラメータとしては、例えば、パイロット燃料噴射量、パイロット噴射を実行する回数、EGR率、及び過給圧などが挙げられる。これら制御パラメータの中でも、EGR率と過給圧は、応答遅れが大きいため、速応性が要求される最大シリンダ内圧Pmaxの抑制制御には適していないと考えられるが、燃焼モデルベースコントローラに備えられた燃焼モデルには、遅れ特性を考慮できるニューラルネットワークを用いるため、この遅れを補償するように他の制御パラメータを決定することができる。
【0194】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第3実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0195】
図26は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Bの構成を示すブロック図である。
制御装置2Bは、エンジン1から排出されるNOx量(以下、「フィードNOx」という)を検出するNOxセンサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Bと、を備える。
本実施形態のECU3Bに構成された最適化コントローラ5Bは、NOxセンサの検出値NOx_actを、エンジン1の運転状態に応じて設定される最大フィードNOx目標値NOx_trgt以下に制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0196】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(10)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出されるNOx量の推定値が最大フィードNOx目標値NOx_trgtを超えないように上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、例えば、過渡条件下であってもエンジンから排出されるNOx量が最大フィードNOx目標値NOx_trgtを超えないようにすることができるので、NOxの排出量を低減するとともに、排気浄化装置にかかる負担を軽減することができる。
【0197】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第4実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0198】
図27は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1とその制御装置2Cの構成を示すブロック図である。
制御装置2Cは、エンジン1の排気温度を検出する排気温度センサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Cと、を備える。
本実施形態のECU3Cの最適化コントローラ3Cは、排気温度センサの検出値Tex_actを、エンジン1の排気通路に設けられた排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度Tex_trgtに維持するように制御するために、エンジン1の燃料噴射弁に燃焼サイクルごとに入力される燃料噴射量Ginjと、燃焼サイクルごとに入力されるメイン噴射に対する燃料噴射分割比率Rinjとを最適な値に決定する。
【0199】
ところで、上記第1実施形態では、最大シリンダ内圧Pmaxが目標値Pmax_trgtを超えないようにするため、上記式(4−6)に示すように、燃焼モデルベースコントローラのフィードバックコントローラに入力する偏差Pre_dPmax_iを、予測値Pre_Pmax_iが目標値Pmax_trgtより小さい場合には「0」と定義した。しかしながら、本実施形態の排気温度制御では、排気温度センサの検出値Tex_actを目標温度Tex_trgtに維持するため、燃焼モデルベースコントローラのフィードバックコントローラに入力する偏差Pre_dTex_iを、上記式(4−6)に変えて、下記式(7−3)に示すように、燃焼モデルによる排気温度の予測値Pre_Tex_iから、目標値Tex_trgtを除算したもので定義する。
【数64】
【0200】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(11)本実施形態によれば、燃料噴射量Ginj及びメイン燃料噴射の分割比率Rinjの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出される排気温度の推定値が目標温度Tex_trgtから外れないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて燃料噴射量Ginj及び分割比率Rinjを決定し、エンジンに入力する。これにより、排気温度Tex_actが目標温度Tex_trgtから逸脱しないようにすることができるので、排気浄化触媒における浄化率を高く維持することができる。
【0201】
また、本実施形態では、排気温度の予測値Pre_Tex_i(i=1〜N)を算出するための燃焼モデルの他、エンジンの燃焼効率の予測値Pre_Ita_i(i=1〜N)を算出する燃焼モデルや、エンジンの燃料消費量の予測値Pre_Gfuel_i(i=1〜N)を算出する燃焼モデルを燃焼モデルベースコントローラに設けてもよい。この場合、N個の燃焼モデルベースコントローラにより算出された予測燃料噴射量補正値dGinj_i(i=1〜N)及び予測燃料噴射分割比率dRinj_i(i=1〜N)のうち、燃焼効率の予測値Pre_Ita_iが最も高いか、又は、エンジンの燃料消費量の予測値Pre_Gfuel_iが最も少ないコントローラにより算出された予測燃料噴射量補正値及び予測燃料噴射分割比率を、最適燃料噴射量補正値dGinj_opt及び最適燃料噴射分割比率補正値dRinj_optとして決定することが好ましい。これにより、排気温度Tex_actを目標値Tex_trgtに維持しながら、エンジンの燃費を少なくすることができる。
【0202】
[第5実施形態]
次に、本発明の第5実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第5実施形態の説明にあたって、第1実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0203】
図28は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1Dとその制御装置2Dの構成を示すブロック図である。
本実施形態のエンジン1Dは、ガソリンエンジンであり、さらに燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮機構(図示せず)を備える。
本実施形態のECU3Dに構成された最適化コントローラ5Dは、最大シリンダ内圧Pmaxを最大シリンダ内圧目標値Pmax_trgt以下に制御するため、エンジン1Dの点火時期θigと、可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値Cr_cmdとを最適な値に決定する。
【0204】
本実施形態によれば、上記(1)〜(7)の効果に加えて、以下の効果を奏する。
(12)本実施形態によれば、エンジンの点火時期θig及び圧縮比指令値Cr_cmdの暫定値を燃焼モデルに入力したときにこの燃焼モデルにより算出されるノック強度の推定値がノック強度目標値Pknock_trgtを超えないように、上記暫定値を補正する。そして、この補正した暫定値に基づいて点火時期θig及び圧縮比指令値Cr_cmdを決定し、エンジンに入力する。これにより、ノック強度Pknockがノック強度目標値Pknock_trgtを超えないようにしながら、燃費を向上することができる。
【0205】
[第6実施形態]
次に、本発明の第6実施形態を、図面を参照して説明する。
以下の第6実施形態の説明にあたって、第5実施形態と同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
【0206】
図29は、本実施形態に係るプラントとしてのエンジン1Dとその制御装置2Eの構成を示すブロック図である。
本実施形態の制御装置2Eは、エンジン1Dのノック強度を検出するノックセンサ(図示せず)と、クランク角度位置センサ(図示せず)と、ECU3Eとを備える。
本実施形態のECU3Eに構成された最適化コントローラ5Eは、ノックセンサの検出値Pknockをノック強度目標値Pknock_trgt以下に制御するため、エンジン1Dの点火時期θigと、可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値Cr_cmdとを最適な値に決定する。
本実施形態によれば、上記第5実施形態と同様の効果を奏する。
【0207】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。
【0208】
上記実施形態では、燃焼モデルを、非線形な動特性の再現性に優れたニューラルネットワークに基づいて構築したが、これに限るものではない。例えば、エンジンの物理モデルや制御マップに基づいて燃焼モデルを構築しても十分な効果を奏する。
【0209】
上記実施形態のモデル修正器では、2つの参照パラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量)を基底とした2次元の空間に重み関数を定義し、この重み関数を用いて適応修正係数KVNSを算出したが、これに限らない。すなわち、重み関数を定義する空間の次元数、及び、参照パラメータとして用いる物理量の種類は、上記実施形態に示した例に限らない。空間の次元数は、例えば、1次元又は3次元以上であってもよい。また、参照パラメータとして用いるパラメータには、燃焼モデルへの入力の他の成分、例えば、燃料噴射時期θinj、パイロット燃料噴射量Ginj_pi、パイロット燃料噴射時期θinj_pi、メイン燃料噴射量Ginj_min、アフター燃料噴射量Ginj_after、アフター燃料噴射時期θinj_after、吸入空気量Gair、吸気圧力PB、排気圧力PEX、及びEGRバルブ開度θegrなどを用いてもよい。
【0210】
上記実施形態のモデル修正器では、スライディングモード制御アルゴリズムを用いて領域ごとの局所修正係数Uijを算出したが、これに限らない。例えば、バックステッピング制御、PID制御、及び最適制御アルゴリズムなどの既知のフィードバックアルゴリズムを用いて領域ごとの局所修正係数Uijを算出してもよい。
【符号の説明】
【0211】
1,1D…エンジン(プラント、内燃機関)
2,2A,2B,2C,2D,2E…制御装置
3,3A,3B,3C,3D,3E…ECU
5,5A,5B,5C,5D,5E…最適化コントローラ(制御入力決定手段)
51…基準噴射時期算出部
52…基準噴射量算出部
6…補正値算出部
7_i(i=1〜N)…燃焼モデルベースコントローラ(最適化手段)
711_i(i=1〜N)…最大シリンダ内圧用燃焼モデル
712_i(i=1〜N)…トルク用燃焼モデル
74_i(i=1〜N)…フィードバックコントローラ
8…最適入力セレクタ(最適値選択手段)
9…モデル適応器(モデル修正手段)
91…最大シリンダ内圧用燃焼モデル
92…適応修正器
922…重み関数設定部(重み関数設定手段)
923…局所修正係数算出部(修正係数算出手段)
924…修正係数算出部(決定手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの第1制御量を調整するための制御パラメータを含む入力に基づいて、前記プラントの制御量を推定するプラントモデルを備えたプラントの制御装置であって、
前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値を第1制御量モデル値と定義し、
当該第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように前記制御パラメータの暫定値を補正し、さらに当該補正された制御パラメータの暫定値に基づいて前記プラントの制御入力を決定する制御入力決定手段を備えることを特徴とするプラントの制御装置。
【請求項2】
前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第2制御量の推定値を、第2制御量モデル値と定義し、
前記制御入力決定手段は、
前記第1制御量モデル値が前記拘束条件を満たすように、それぞれ異なる最適化条件の下で前記制御パラメータの暫定値を補正する複数の最適化手段と、
前記複数の最適化手段のそれぞれにより補正された前記制御パラメータの暫定値のうち、前記第2制御量モデル値が所定の優先条件に最も適合するものを選択し、当該選択した制御パラメータの暫定値を前記プラントの制御入力として決定する最適値選択手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のプラントの制御装置。
【請求項3】
前記プラントモデルは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成されたニューラルネットワークを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラントの制御装置。
【請求項4】
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記プラントモデルを適応修正するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークの入力は、当該入力と出力との相関関係を適応修正するための修正係数を含み、
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプラントの制御装置。
【請求項6】
前記プラントモデルは、前記ニューラルネットワークの出力に修正係数を乗算又は加算したものに基づいて前記第1制御量の推定値を算出し、
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプラントの制御装置。
【請求項7】
前記プラントモデルへの入力のうちの少なくとも1つを含む参照パラメータを定義し、
前記モデル修正手段は、
前記参照パラメータを基底とする空間に、互いに重複する複数の領域を定義するとともに、各領域にそれぞれ「0」でない値を持つ正規化された複数の重み関数を設定する重み関数設定手段と、
前記重み関数の値と前記偏差との積が最小になるように、前記領域ごとに修正値を算出する修正値算出手段と、
前記重み関数の値と前記修正値との積の全領域に亘る総和に基づいて前記修正係数を決定する決定手段と、を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載のプラントの制御装置。
【請求項8】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量と、燃料噴射時期とを含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項9】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項10】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関から排出されるNOx量であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記内燃機関の運転状態に応じて設定された許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項11】
前記プラントは、その排気通路に排気を浄化する排気浄化触媒が設けられた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の排気温度であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度に近いことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項12】
前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項13】
前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関のノック強度であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項1】
プラントの第1制御量を調整するための制御パラメータを含む入力に基づいて、前記プラントの制御量を推定するプラントモデルを備えたプラントの制御装置であって、
前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値を第1制御量モデル値と定義し、
当該第1制御量モデル値が所定の拘束条件を満たすように前記制御パラメータの暫定値を補正し、さらに当該補正された制御パラメータの暫定値に基づいて前記プラントの制御入力を決定する制御入力決定手段を備えることを特徴とするプラントの制御装置。
【請求項2】
前記プラントモデルに前記制御パラメータの暫定値を入力したときに、当該プラントモデルにより算出される第2制御量の推定値を、第2制御量モデル値と定義し、
前記制御入力決定手段は、
前記第1制御量モデル値が前記拘束条件を満たすように、それぞれ異なる最適化条件の下で前記制御パラメータの暫定値を補正する複数の最適化手段と、
前記複数の最適化手段のそれぞれにより補正された前記制御パラメータの暫定値のうち、前記第2制御量モデル値が所定の優先条件に最も適合するものを選択し、当該選択した制御パラメータの暫定値を前記プラントの制御入力として決定する最適値選択手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のプラントの制御装置。
【請求項3】
前記プラントモデルは、所定の関数に従って出力する複数のニューロンを結合して構成されたニューラルネットワークを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラントの制御装置。
【請求項4】
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記プラントモデルを適応修正するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークの入力は、当該入力と出力との相関関係を適応修正するための修正係数を含み、
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプラントの制御装置。
【請求項6】
前記プラントモデルは、前記ニューラルネットワークの出力に修正係数を乗算又は加算したものに基づいて前記第1制御量の推定値を算出し、
前記第1制御量を検出する第1制御量検出手段と、
当該第1制御量の検出値と前記プラントモデルにより算出される第1制御量の推定値との偏差が小さくなるように、前記修正係数を算出するモデル修正手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載のプラントの制御装置。
【請求項7】
前記プラントモデルへの入力のうちの少なくとも1つを含む参照パラメータを定義し、
前記モデル修正手段は、
前記参照パラメータを基底とする空間に、互いに重複する複数の領域を定義するとともに、各領域にそれぞれ「0」でない値を持つ正規化された複数の重み関数を設定する重み関数設定手段と、
前記重み関数の値と前記偏差との積が最小になるように、前記領域ごとに修正値を算出する修正値算出手段と、
前記重み関数の値と前記修正値との積の全領域に亘る総和に基づいて前記修正係数を決定する決定手段と、を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載のプラントの制御装置。
【請求項8】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量と、燃料噴射時期とを含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項9】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射量と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項10】
前記プラントは、内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関から排出されるNOx量であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記内燃機関の運転状態に応じて設定された許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項11】
前記プラントは、その排気通路に排気を浄化する排気浄化触媒が設けられた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の排気温度であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの燃料噴射時期と、メイン燃料噴射の分割噴射比率と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が、前記排気浄化触媒の活性温度に応じて設定された目標温度に近いことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項12】
前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関の燃焼サイクルごとの最大シリンダ内圧であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【請求項13】
前記プラントは、燃焼室内の圧縮比を変更することができる可変圧縮比機構を備えた内燃機関であり、
前記第1制御量は、前記内燃機関のノック強度であり、
前記制御パラメータは、前記内燃機関の点火時期と、前記可変圧縮比機構に対する圧縮比指令値と、を含み、
前記拘束条件は、前記第1制御量モデル値が所定の許容最大値以下であることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のプラントの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
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【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2011−144753(P2011−144753A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6187(P2010−6187)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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