説明

プリプレグの製造装置及びプリプレグ

【課題】圧縮方向に大きな負荷のかかる自動車用・航空機用の構造材料に適した極めて実用性に秀れたプリプレグを提供する。
【解決手段】フィラメントが集束した繊維束を一方向に引き揃えて成る繊維体若しくはフィラメントが集束した繊維束を経糸及び緯糸として織成して成る繊維体にマトリックス樹脂を積層した後、該マトリックス樹脂を加熱溶融させて前記繊維体に含浸させプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、マトリックス樹脂を繊維体に強制的に含浸させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造装置及びプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維,ガラス繊維その他の無機繊維や有機繊維と、エポキシ樹脂,ポリイミド樹脂,フェノール樹脂,ビニルエステル樹脂,ポリエステル樹脂等のマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂)とから成る繊維強化プラスチック(以下、「FRP」という。)は、力学的特性に秀れることから、スポーツ用途,自動車用途,航空機用途に使用されている。
【0003】
このFRPは、例えば、上記繊維に上記マトリックス樹脂を含浸せしめて半硬化状態としたプリプレグ(以下、「PP」という。)を複数枚積層し、加熱・硬化せしめることで成形される。
【0004】
ところで、上記の繊維の中でも炭素繊維は、比強度,比弾性率に秀れることから、幅広く使用され、また、上記のマトリックス樹脂の中でもエポキシ樹脂は、力学的特性,耐熱性,ハンドリング性に秀れることから、幅広く使用されている。
【0005】
これらの繊維及びマトリックス樹脂により成形されたFRPは、繊維部分とマトリックス樹脂部分から構成され、FRPを微視的に見ると繊維部位近傍の強度は秀れているが、繊維のないマトリックス樹脂部位での強度は劣るという欠点がある。
【0006】
これを補うため、従来はマトリックス樹脂に熱可塑性樹脂や無機フィラーを混入し、破壊時に応力分散させることで強度向上を図っている。
【0007】
しかし、熱可塑性樹脂を用いた場合にはTg(ガラス転移点)の低下、弾性率の低下が発生するという問題点があり、また、無機フィラーを混入した場合には、脆くなるという問題点がある。
【0008】
そこで、特開2003−201388号公報(特許文献1)や特開2004−131538号公報(特許文献2)には、上記問題点を生じさせることなくFRPの強度向上を図るため、マトリックス樹脂にCNT(カーボンナノチューブ)を分散させ、このマトリックス樹脂をウェット法により繊維体に含浸せしめる技術が開示されている。
【0009】
しかしながら、ウェット法は、溶剤によりマトリックス樹脂を希釈し、低粘度化せしめて繊維に含浸させた後、加熱により溶剤を除去する手法であるため、溶剤が蒸散して空気中に溶剤成分が含まれてしまい、それだけ環境に負荷がかかることから好ましくない。
【0010】
一方、ウェット法と異なり、溶剤を使用せずにマトリックス樹脂を繊維体に積層して加熱溶融含浸させるホットメルト法によれば上記溶剤の問題は生じないが、マトリックス樹脂が加熱され流動化すると繊維体が濾紙のような役割を果たし、樹脂フィルムの積層面側にはCNTが多く存在し、反対面側にはほとんど存在せず、CNTがPP中に偏在してしまうことが起こり得る。繊維体にマトリックス樹脂をダブ漬けし(ウェット法)、乾燥により半硬化状態としてPPを得、使用に際して加熱する場合には、CNTの偏在という問題はそれ程顕著ではないが、ホットメルト法の場合には、CNTの偏在、不均一化は顕著となる。
【0011】
このようにCNTがPP若しくはFRP中に偏在した場合、所望の強度を得ることはできない。
【0012】
【特許文献1】特開2003−201388号公報
【特許文献2】特開2004−131538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の問題点を解決したもので、環境性に秀れたホットメルト法を用いても、確実にCNTをPP中に分散状態で存在せしめることができ、特に圧縮強度の向上が顕著で、圧縮方向に大きな負荷のかかる自動車用・航空機用の構造材料に適した極めて実用性に秀れたプリプレグの製造装置及びプリプレグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0015】
フィラメントが集束した繊維束9を一方向に引き揃えて成る繊維体1若しくはフィラメントが集束した繊維束を経糸及び緯糸として織成して成る繊維体1にマトリックス樹脂2を積層した後、該マトリックス樹脂2を加熱溶融させて前記繊維体1に含浸させプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、前記マトリックス樹脂2としてCNTが分散状態で混入せしめられたマトリックス樹脂2を採用し、前記繊維体1を搬送する搬送機構と、前記マトリックス樹脂2を加熱する加熱部3と、この加熱されたマトリックス樹脂2を加圧して前記繊維体1に押し込む加圧部6と、前記繊維体1に前記マトリックス樹脂2を押し込む際、前記繊維体1のマトリックス樹脂2が存在する面の反対面側から前記マトリックス樹脂2を吸引する吸引部7とを具備して成ることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0016】
また、請求項1記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧部6は、複数の加圧体8が並設されて構成されており、また、前記加熱部3は、複数の加熱体13が並設されて構成されており、前記加圧体8及び前記加熱体13は、最初の加圧体8及び加熱体13により温度Tにして一定圧Pで前記マトリックス樹脂2を加熱・加圧し、最後の加圧体8及び加熱体13により温度T(T>T)にして一定圧P(P>P)で前記マトリックス樹脂2を加熱・加圧するように構成されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0017】
また、請求項2記載のプリプレグの製造装置において、前記最初の加圧体8と前記最後の加圧体8との間に設けられるn−1個の加圧体8は、温度T,T,・・・Tn−1(T<T<T・・・<Tn−1,nが大きいほど下流側)にして一定圧Pでマトリックス樹脂2を加熱・加圧するように構成されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0018】
また、請求項2,3いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体8と前記吸引部7とは前記繊維体1を挟んで対向状態に設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0019】
また、請求項2〜4いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加熱体13は前記吸引部7に近接せしめられていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0020】
また、請求項2〜5いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記複数の加熱体13は、前記繊維体1の搬送方向に並設される複数のヒータであることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0021】
また、請求項1〜6いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記吸引部7は、該吸引部7に穿設される吸引孔14と、該吸引孔14と連設される吸引装置15とから成ることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0022】
また、請求項7記載のプリプレグの製造装置において、前記吸引孔14の開口形状はテーパー形状に設定されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0023】
また、請求項1〜8いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体8は、押圧ロール18と、該押圧ロール18を駆動する駆動装置19とから成ることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0024】
また、請求項9記載のプリプレグの製造装置において、前記押圧ロール18は、中央部が両端部より膨出するビア樽形状に設定されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0025】
また、請求項1〜10いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体8は前記繊維体1の通過口32が形成された容体16内に設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0026】
また、請求項11記載のプリプレグの製造装置において、前記容体16には、該容体16内に温風を送気する温風送気機構17が設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0027】
また、請求項1〜12いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂2として、アスペクト比が5〜30に設定されたCNTが分散状態で混入されたものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0028】
また、請求項1〜13いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂2として、前記CNTをマトリックス樹脂量に対して1〜15%の割合で混入したものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0029】
また、請求項1〜14いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂2として、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを含んで成るものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0030】
また、請求項15記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂2として、エポキシ樹脂100重量部に対して、DICYを2乃至6重量部若しくはDDSを20乃至40重量部配合されて成るものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置に係るものである。
【0031】
また、請求項1〜16いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置により製造されることを特徴とするプリプレグに係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、上述のように構成したから、環境性に秀れたホットメルト法を用いても、マトリックス樹脂を繊維体に濾紙作用を発揮させることなく一気に含浸せしめることで、確実にCNTをプリプレグ中に分散状態で存在せしめることができ、特に圧縮強度の向上が顕著で、圧縮方向に大きな負荷のかかる自動車用・航空機用の構造材料に適した極めて実用性に秀れたプリプレグの製造装置及びプリプレグとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して説明する。
【0034】
マトリックス樹脂2を繊維体1に溶融含浸する際、マトリックス樹脂2は、単に繊維体1に押し込まれるのではなく、加熱により低粘度化せしめられて繊維体1に押し込まれ、且つ繊維体1のマトリックス樹脂2が存在する面の反対面側から吸引されるから、それだけマトリックス樹脂2に混入されるCNTが繊維束9間を良好に通過し、繊維体1が濾紙作用を発揮することが可及的に減少するため、該マトリックス樹脂2は一気に確実・良好に含浸せしめられる。
【0035】
また、ホットメルト法を用いてマトリックス樹脂2を繊維体1に含浸させるから、製造時に溶剤を用いる必要がなく、それだけ環境への負荷が少ないことになる。
【0036】
従って、本発明は、プリプレグの縦断面内でCNTの偏在が発生することがなく、確実にCNTをプリプレグ中に分散状態で存在せしめることができ、特に圧縮強度の向上が顕著で、圧縮方向に大きな負荷のかかる自動車用・航空機用の構造材料に適した極めて実用性に秀れたプリプレグの製造装置となる。
【実施例】
【0037】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0038】
本実施例は、フィラメントが集束した繊維束9を一方向に引き揃えて成る繊維体1若しくはフィラメントが集束した繊維束を経糸及び緯糸として織成して成る繊維体1にマトリックス樹脂2を積層した後、該マトリックス樹脂2を加熱溶融させて前記繊維体1に含浸させプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、前記マトリックス樹脂2としてCNTが分散状態で混入せしめられたマトリックス樹脂2を採用し、前記繊維体1を搬送する搬送機構と、前記マトリックス樹脂2を加熱する加熱部3と、この加熱されたマトリックス樹脂2を加圧して前記繊維体1に押し込む加圧部6と、前記繊維体1に前記マトリックス樹脂2を押し込む際、前記繊維体1のマトリックス樹脂2が存在する面の反対面側から前記マトリックス樹脂2を吸引する吸引部7とを具備して成るものである。
【0039】
繊維束9としては、AN(アクリロニトリル)を重合せしめて成るPAN(ポリアクリロニトリル)をフィラメント化して紡糸することでPAN繊維を形成し、該PAN繊維を焼成することで形成される公知の炭素繊維が採用されており、この炭素繊維を一方向に引き揃えて繊維体1を形成している。
【0040】
マトリックス樹脂2としては、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを含んで成るものが採用されている。具体的には、エポキシ樹脂100重量部に対して、DICY(ジシアンジアミド)を2乃至6重量部配合されて成るものが採用されている。尚、DICYの代わりにDDS(ジアミノジフェニルスルホン)を20乃至40重量部配合しても良い。
【0041】
また、マトリックス樹脂2には、アスペクト比が5〜30に設定されたCNT(例えば公知のカップスタック型CNT)が分散状態で混入せしめられている。特に5〜20の範囲で設定するとフィラメント間に良好に含浸し秀れた強度向上作用を発揮することが確認されている。また、CNTは、マトリックス樹脂量に対して1〜15%の割合で混入すると良い。この割合で混入するとマトリックス樹脂に良好に分散し易く、強度向上作用を発揮し易いことが確認されている。
【0042】
本実施例は、無溶剤型樹脂含浸法、所謂ホットメルト法を用いてマトリックス樹脂2を繊維体1に含浸せしめてPPを作製するものである。具体的には、マトリックス樹脂2を離型紙23上に半硬化状態で塗布して樹脂フィルムを成形し、この樹脂フィルムを前記炭素繊維を一方向に引き揃えて成る繊維体1に積層せしめて熱ラミネート加工を行うことで、繊維体1に前記マトリックス樹脂2が溶融含浸せしめられたUDPP(ユニダイレクションプリプレグ)を作製するものである。
【0043】
各部を具体的に説明する。
【0044】
図1に図示したように、繊維体1は送り出しロール10に巻回されており、該送り出しロール10を送り駆動すると共に該繊維体1が巻き取られる巻き取りロール11を巻き取り駆動することで、前記送り出しロール10から送り出され搬送される。
【0045】
送り出しロール10から送り出される繊維体1には、加圧部6と該加圧部6と対向状態に設けられる吸引部7の搬送上流側位置(送り出しロール10と加圧部6及び吸引部7との間)に設けられる半硬化状態の前記マトリックス樹脂2が塗布せしめられた離型紙23が積層され、そのまま該マトリックス樹脂2及び繊維体1を予備加熱する予備加熱機構20に搬送される。
【0046】
予備加熱機構20は、一対のホットロール20aとホットプレート20bとから成り、離型紙23上に半硬化状態のマトリックス樹脂2が塗布せしめられた樹脂フィルムが巻回される巻回ロール24から該樹脂フィルムを引き出し、該樹脂フィルムを前記繊維体1と共に約50℃に加熱されたホットロール20aとホットプレート20bの間を通過せしめることで、マトリックス樹脂2が繊維体1上に積層せしめられる。図1中、符号25は繊維体1をホットロール20aとホットプレート20bの間を通過せしめた後、樹脂フィルムから離型紙23を巻き取るフィルム巻き取りロール、30はガイドロールである。
【0047】
尚、本実施例においては離型紙23上に半硬化状態のマトリックス樹脂2を塗布しているが、離型紙23の代わりに耐熱性を有する離型フィルムを用いても良い。
【0048】
この予備加熱により、繊維体1及びマトリックス樹脂2の(巾方向の)温度を可及的に均一にすることができ、従って、後述する加熱部3,加圧部6及び吸引部7によりマトリックス樹脂2を繊維体1に含浸せしめる際、該マトリックス樹脂2をより均一に繊維体1に含浸できることになる。
【0049】
マトリックス樹脂2が積層せしめられた繊維体1は、以下のような構成の加圧部6と吸引部7との間に搬送される。
【0050】
加圧部6は、図1に図示したように繊維体1の下方に設けられ該繊維体1が載置される吸引部7と繊維体1を挟んで対向状態に設けられる(繊維体1の上方に設けられる)複数の加圧体8で構成されている。
【0051】
また、前記吸引部7の下方には加熱部3を構成する複数の加熱体13が埋設されている。
【0052】
また、加圧体8は前記繊維体1の通過口32が形成された容体16内に設けられている。
【0053】
吸引部7を繊維体1の上方に設ける構成としても良いが、この場合にはマトリックス樹脂2を吸引しにくくなる。即ち、本実施例は、容体16により、繊維体1上に積層せしめられたマトリックス樹脂2を下方から吸引する際に前記容体16内(隠蔽空間部)が真空保持の役割を担い、一層良好にマトリックス樹脂2の吸引を行える構成である。
【0054】
尚、図7に図示したように容体16にして搬送方向上流側及び搬送方向下流側端面には前記繊維体1の通過口32が設けられており、該通過口32から大気が流入することになるが、マトリックス樹脂2を吸引できる程度(100mmHg程度)まで減圧できれば十分であるため特に問題はない。
【0055】
また、容体16には、図7に図示したように該容体16内に温風を送気する温風送気機構17が設けられている。この温風送気機構17からの温風により繊維体1の温度が保持され、繊維体1及びマトリックス樹脂2の温度をより均一に保持できる、即ち、粘度の調整を一層良好に行えることになる。
【0056】
本実施例は、吸引及び加熱の双方を行う吸引加熱ブロック4が設けられている。
【0057】
具体的には、吸引加熱ブロック4は、上ブロック体4a,中ブロック体4b及び下ブロック体4cを重合せしめて構成されている。この上ブロック体4a及び中ブロック体4bが吸引作用を担い、下ブロック体4cが加熱作用を担う。
【0058】
上ブロック体4aには、多数の吸引孔14が穿設されており、該吸引孔14の開口形状はテーパー形状に形成されている。開口形状をテーパー形状とすることで、搬送に伴い吸引部7(上ブロック体4a)上を摺動する繊維体1が、吸引孔14側に屈曲せず(若しくは吸引孔14内方に屈曲しても開口部に引っかかりにくくなり)、繊維体1の配向(一方向性)を均一に保持できることになる。
【0059】
中ブロック体4bには、前記吸引孔14と吸引装置15(真空ポンプ)とを連結する格子状の排気路22が刻設されている。この格子状の排気路22は、交差部が前記吸引孔14と一致するように設定すると良い。また、本実施例においては、上記4つの加熱帯に対応した4つの吸引帯を形成するように排気路22を4つの領域に区分し、各排気路22を両側部にて集束し、この集束部を連結管30を介して領域毎に別々の吸引装置15と連結している。従って、4つの領域毎に夫々吸引力を設定でき、また、個々の吸引装置15の負担がそれだけ軽くなるから、一層良好にマトリックス樹脂2の吸引を行えることになる。尚、吸引装置15は下ブロック体4cの下方等、可及的に繊維体1の搬送を阻害しない位置に設置すると良い。
【0060】
下ブロック体4cには、図2〜4に図示したように前記繊維体1の搬送方向に並設される複数の加熱体13(プレートヒータ)が埋設されている。本実施例においては、加圧体8と吸引部7との間に前記繊維体1の搬送方向に沿って4つの加熱帯(A,B,C,D)を形成するように、加熱体13を下ブロック体4cの図1中手前側と奥側とに夫々4つずつ並設している。図4中、符号28は前記8つの加熱体13が夫々嵌入される8つの凹溝、29は中ブロック体4bに形成された排気路22と一致する上側排気路である。尚、加熱体13として繊維体1の搬送方向に温度勾配を付与できる一の加熱体13を採用しても良い。
【0061】
また、加熱部3及び加圧部6は、最初の加熱体13及び最初の加圧体8により温度Tにして一定圧Pで前記マトリックス樹脂2を加熱・加圧し、最後の加熱体13及び最後の加圧体8により温度T(T>T)にして一定圧P(P>P)で前記マトリックス樹脂2を加熱・加圧するように構成されている。
【0062】
この最初の加熱体13及び前記最初の加圧体8と前記最後の加熱体13及び前記最後の加圧体8との間に設けられるn−1個の加熱体13及び加圧体8は、温度T,T,・・・Tn−1(T<T<T・・・<Tn−1,nが大きいほど下流側)にして一定圧Pでマトリックス樹脂2を加熱・加圧するように構成されている。
【0063】
本実施例においては、最初の加圧体8と最後の加圧体8との間に二つの加圧体8を設けている。
【0064】
即ち、前記加圧体8は、図5及び図8に図示したように、前記4つの加熱帯(A,B,C,D)に夫々一つずつ計4つ設けられている。この4つの加圧体8のうち、繊維体1の搬送上流側位置の加熱帯Aに設けられる加圧体8が最初の加圧体8に設定され、繊維体1の搬送下流側位置の加熱帯Dに設けられる加圧体8が最後の加圧体8に設定されている。
【0065】
更に、前記加圧体8は、前記繊維体1の搬送方向に並設される押圧ロール18と、該押圧ロール18を駆動する駆動装置19(サーボモータ)とから成り、夫々異なる押圧力でマトリックス樹脂2を押圧可能に構成されている。
【0066】
本実施例においては、上述のように最後の加圧体8に設定された一の加圧体8の加圧力(押圧力)を、他の加圧体8の加圧力より大きく設定し、他の加圧体8の加圧力は同一に設定している。これは、後述する加熱体13による段階的な加熱により低粘度化すると共に前記吸引部7により吸引されるマトリックス樹脂2を少しずつゆっくりと含浸せしめるのではなく、短時間にパルス的な圧力をかけて一気に含浸せしめることで、繊維体1に上述の濾紙作用を発揮させないようにするためである。
【0067】
また、本実施例においては、前記複数の加熱体13は、搬送下流側位置に設けられる前記最後の加圧体8側(加熱帯D側)ほど高い温度で加熱するように構成されている。
【0068】
具体的には、マトリックス樹脂2の材料によって前記加熱温度は変化するが、本実施例に係るマトリックス樹脂2は70〜80℃で急峻な粘度低下を示すため、図8に図示したように前記加熱帯Aでは予備加熱機構と同じ50℃、加熱帯Bでは60℃、加熱帯Cでは70℃、加熱帯Dでは80℃で加熱するように設定されている。
【0069】
即ち、本実施例は段階的にマトリックス樹脂2を加熱することでマトリックス樹脂2全体を均一に且つ安定的に低粘度化せしめ、また、加熱と共に加圧体8により少しずつ繊維体1に押し込むことで、前記最後の加圧体8により容易に且つ確実にマトリックス樹脂2を繊維体1に一気に含浸せしめ得るように構成されている。
【0070】
また、少なくとも一の前記押圧ロール18は、図6に図示したように中央部が両端部より膨出するビア樽形状に設定されている。本実施例においては、前記最後の加圧体8を構成する押圧ロール18をビア樽形状に設定している。このように押圧ロール18をビア樽形状に設定することで、マトリックス樹脂2を繊維体1に含浸せしめる際に該繊維体1に混入したエアによるボイドを、繊維体1の側方から前記エアを抜くことで除去できることになり、一層欠陥のないプリプレグを得られることになる。尚、ビア樽形状の膨出度合いは、例えば押圧ロール18の全長に対して0.01〜0.5%程度で十分上記作用を発揮できることが確認されている。
【0071】
以上のような加圧部6と吸引部7との間に搬送された前記繊維体1は、吸引部7により繊維体1上に積層せしめられたマトリックス樹脂2が吸引され、且つ搬送される繊維体1上のマトリックス樹脂2は、搬送上流側から順次加熱帯A,加熱帯B,加熱帯C,加熱帯Dにより段階的に加熱されると共に加圧体8により少しずつ繊維体1に押し込まれ、マトリックス樹脂2が急峻な低粘度化を示す加熱温度に設定された加熱帯Dにおいて最後の加圧体8により一気にマトリックス樹脂2が含浸せしめられることになる。
【0072】
従って、従来のように繊維体が濾紙作用を発揮することなく繊維体1にマトリックス樹脂2が一気に含浸せしめられるから、マトリックス樹脂2に分散混入せしめられたCNTはPP中においても分散状態で混入されることになり、CNTはフィラメント表面,繊維束の表面及び繊維体の表面に分散状態で付着せしめられることになる。
【0073】
また、加圧部6及び吸引部7の搬送下流側位置には、図1に図示したように前記マトリックス樹脂2が含浸せしめられた繊維体1(UDPP)を押圧して該繊維体1の凹凸を除去する凹凸除去機構21が設けられている。
【0074】
具体的には、凹凸除去機構21は、繊維体1を挟持する一対のホットロール21a・21bにより該繊維体1を加熱・押圧して表面の僅かな凹凸を平滑化し、厚さムラを整えるものであり、繊維体1の下方側のホットロール21bがサーボモータ31によりその押圧力がコントロールできるように構成されている。尚、下方側を駆動するように構成したのは、ロールの自重による押圧をキャンセルできる構成とするためであり、上方側を駆動する構成としても良い。
【0075】
また、本実施例においては、ホットロール21a・21bにより繊維体1を挟持する際、該繊維体1の上下両面に、(巻き取りロール11により巻き取る際に繊維体1同士を隔離する)セパレータとしてのホットロール21a・21bによる加熱に耐え得る離型フィルム26を設ける構成としている。図1中、符号27は離型フィルム26が巻回される巻回ロール27である。
【0076】
尚、本実施例は、上述のように繊維体1を予備加熱機構20を通過せしめた後、離型紙23をマトリックス樹脂2から剥離して巻き取る構成としているが、剥離せず加圧部6と吸引部7との間に搬送する構成としても良い。この場合、該離型紙23が繊維体1の上面に設けられる上記セパレータとなるため、図1中、繊維体1の上方側の離型フィルム26が巻回される巻回ロール27は不要となる。
【0077】
この凹凸除去機構21を通過した繊維体を巻き取りロール11で巻き取ることでUDPPが作製される。
【0078】
本実施例は上述のように構成したから、マトリックス樹脂2を繊維体1に溶融含浸する際、マトリックス樹脂2は、単に繊維体1に押し込まれるのではなく、加熱により低粘度化せしめられて繊維体1に押し込まれ、且つ繊維体1のマトリックス樹脂2が存在する面の反対面側から吸引されるから、それだけマトリックス樹脂2に混入されるCNTが繊維束9間を良好に通過し、繊維体1が濾紙作用を発揮することが可及的に減少するため、該マトリックス樹脂2は最後の加圧体8により一気に確実・良好に含浸せしめられる。
【0079】
また、ホットメルト法を用いてマトリックス樹脂2を繊維体1に含浸させるから、製造時に溶剤を用いる必要がなく、それだけ環境への負荷が少ないことになる。
【0080】
従って、本実施例は、プリプレグの縦断面内でCNTの偏在が発生することがなく、確実にCNTをプリプレグ中に分散状態で存在せしめることができ、特に圧縮強度の向上が顕著で、圧縮方向に大きな負荷のかかる自動車用・航空機用の構造材料に適した極めて実用性に秀れたプリプレグの製造装置となる。
【0081】
本実施例の効果を裏付ける実験例について説明する。
【0082】
[比較例1]
基材(繊維体) :炭素繊維;トレカT−700SC−12K(800tex)
組織;一方向 基材目付け;180g/m
マトリックス樹脂: エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂 100重量部
アミン系硬化剤;ジシアンジアミド 4.5重量部
触媒;イミダゾール 0.5重量部
CNT:未使用
樹脂付着量:35%
【0083】
上記配合のマトリックス樹脂を樹脂フィルムに成形し、この樹脂フィルムを前記基材に積層せしめて熱ラミネート加工を行うことで、UDPPを作製した。
【0084】
このUDPPを用いて以下のような条件で積層板を構成し、強度評価を行ったところ、図9に示すような結果が得られた。
【0085】
積層板成形条件: 積層数 :12枚
積層方向:0°/90°
成形方法:オートクレーブ成形
成形条件:130℃×120min×5kg/cm
【0086】
尚、評価項目及び試験方法は以下の通りである。
【0087】
・引張強度:JIS K 7073
・曲げ強度:JIS K 7074
・圧縮強度:JIS K 7076
【0088】
[比較例2]
使用材料は比較例1と同様とし、カップスタック型CNT(アスペクト比10)を、マトリックス樹脂量に対して10%の割合で分散せしめたマトリックス樹脂を繊維体に含浸せしめた。
【0089】
具体的には、エポキシ樹脂主剤にCNTを分散せしめ、該CNTが分散せしめられたエポキシ樹脂に硬化剤及び触媒を混合し、ニーダーで均一に混練した後、樹脂フィルムに成形し、この樹脂フィルムを前記基材に積層せしめて通常の熱ラミネート加工を行うことで、UDPPを作製した。
【0090】
このUDPPを用いて比較例1と同様の条件で積層板を構成し、比較例1と同様の強度評価を行ったところ、図9に示すような結果が得られた。
【0091】
[比較例3]
カップスタック型CNT(アスペクト比10)を、マトリックス樹脂量に対して20%の割合で分散せしめた以外は、比較例2と同一の条件で積層板を構成し、比較例1と同様の強度評価を行ったところ、図9に示すような結果が得られた。
【0092】
[実施例1]
使用材料は比較例1と同様とし、カップスタック型CNT(アスペクト比10)を、マトリックス樹脂量に対して10%の割合で分散せしめた比較例2と同様のマトリックス樹脂を、上記本実施例に係るプリプレグの製造装置を用いて繊維体に一気に含浸させてUDPPを作製した。
【0093】
このUDPPを用いて比較例1と同様の条件で積層板を構成し、比較例1と同様の強度評価を行ったところ、図9に示すような結果が得られた。
【0094】
以上の実験結果から、適量のカップスタック型CNTをプリプレグに分散状態に設けることで、曲げ・圧縮強度が向上することが分かった。
【0095】
特に、実施例1の強度向上率は比較例2の約2倍であり、本実施例を用いることで従来のホットメルト法の欠点を解決してCNTによる強度向上作用を一層良好に得られ、秀れた強度を発揮するプリプレグを製造できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本実施例の構成概略説明図である。
【図2】本実施例の吸引部の拡大概略説明斜視図である。
【図3】本実施例の吸引加熱ブロックの分解説明斜視図である。
【図4】本実施例の吸引加熱ブロックの一部を切り欠いた説明断面図である。
【図5】本実施例の加圧部及び吸引部の概略説明斜視図である。
【図6】本実施例の加圧体の概略説明図である。
【図7】本実施例の要部の概略説明斜視図である。
【図8】本実施例の概略説明図である。
【図9】本実施例の実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0097】
1 繊維体
2 マトリックス樹脂
3 加熱部
6 加圧部
7 吸引部
8 加圧体
9 繊維束
13 加熱体
14 吸引孔
15 吸引装置
16 容体
17 温風送気機構
18 押圧ロール
19 駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントが集束した繊維束を一方向に引き揃えて成る繊維体若しくはフィラメントが集束した繊維束を経糸及び緯糸として織成して成る繊維体にマトリックス樹脂を積層した後、該マトリックス樹脂を加熱溶融させて前記繊維体に含浸させプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、前記マトリックス樹脂としてCNTが分散状態で混入せしめられたマトリックス樹脂を採用し、前記繊維体を搬送する搬送機構と、前記マトリックス樹脂を加熱する加熱部と、この加熱されたマトリックス樹脂を加圧して前記繊維体に押し込む加圧部と、前記繊維体に前記マトリックス樹脂を押し込む際、前記繊維体のマトリックス樹脂が存在する面の反対面側から前記マトリックス樹脂を吸引する吸引部とを具備して成ることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項2】
請求項1記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧部は、複数の加圧体が並設されて構成されており、また、前記加熱部は、複数の加熱体が並設されて構成されており、前記加圧体及び前記加熱体は、最初の加圧体及び加熱体により温度Tにして一定圧Pで前記マトリックス樹脂を加熱・加圧し、最後の加圧体及び加熱体により温度T(T>T)にして一定圧P(P>P)で前記マトリックス樹脂を加熱・加圧するように構成されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項3】
請求項2記載のプリプレグの製造装置において、前記最初の加圧体と前記最後の加圧体との間に設けられるn−1個の加圧体は、温度T,T,・・・Tn−1(T<T<T・・・<Tn−1,nが大きいほど下流側)にして一定圧Pでマトリックス樹脂を加熱・加圧するように構成されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項4】
請求項2,3いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体と前記吸引部とは前記繊維体を挟んで対向状態に設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項5】
請求項2〜4いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加熱体は前記吸引部に近接せしめられていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項6】
請求項2〜5いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記複数の加熱体は、前記繊維体の搬送方向に並設される複数のヒータであることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記吸引部は、該吸引部に穿設される吸引孔と、該吸引孔と連設される吸引装置とから成ることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項8】
請求項7記載のプリプレグの製造装置において、前記吸引孔の開口形状はテーパー形状に設定されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項9】
請求項1〜8いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体は、押圧ロールと、該押圧ロールを駆動する駆動装置とから成ることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項10】
請求項9記載のプリプレグの製造装置において、前記押圧ロールは、中央部が両端部より膨出するビア樽形状に設定されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記加圧体は前記繊維体の通過口が形成された容体内に設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項12】
請求項11記載のプリプレグの製造装置において、前記容体には、該容体内に温風を送気する温風送気機構が設けられていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項13】
請求項1〜12いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂として、アスペクト比が5〜30に設定されたCNTが分散状態で混入されたものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項14】
請求項1〜13いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂として、前記CNTをマトリックス樹脂量に対して1〜15%の割合で混入したものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤とを含んで成るものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項16】
請求項15記載のプリプレグの製造装置において、前記マトリックス樹脂として、エポキシ樹脂100重量部に対して、DICYを2乃至6重量部若しくはDDSを20乃至40重量部配合されて成るものが採用されていることを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項17】
請求項1〜16いずれか1項に記載のプリプレグの製造装置により製造されることを特徴とするプリプレグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−98918(P2007−98918A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295506(P2005−295506)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000105154)株式会社GSIクレオス (31)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】