説明

プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層板

【課題】ファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を製造可能なプリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層板を提供する。
【解決手段】銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆し、且つ、Au、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上を含む被覆層とを備え、前記被覆層におけるAuの付着量が200μg/dm2以下、Ptの付着量が200μg/dm2以下、Pdの付着量が120μg/dm2以下であるプリント配線板用銅箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層板に関し、特にフレキシブルプリント配線板用の銅箔及びそれを用いた積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板はここ半世紀に亘って大きな進展を遂げ、今日ではほぼすべての電子機器に使用されるまでに至っている。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着、もしくは絶縁基板上にNi合金等を蒸着させた後に電気めっきで銅層を形成させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔または銅層面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。そのため、プリント配線板用の銅箔または銅層には良好なエッチング性が要求される。
【0004】
エッチング性を向上させる技術として、例えば、特許文献1には、銅張積層板の構成材である絶縁基材との張り合わせ面に、銀又は銀−パラジウム合金で構成された銀系被覆層を備えた銀系被覆層付銅箔に係る発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−101398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高密度実装基板に対して近年要求されるレベルの精密な回路を形成するためには、銅箔のエッチング性が単純に良好であるというだけでは足りない。すなわち、近年求められるエッチング性とは、回路間の絶縁部に表面処理由来の金属が残存しないこと、回路の裾引きが小さいことをいう。回路間の絶縁部に金属が残存していれば、回路間で短絡が起こってしまう。また、回路形成のエッチングでは、回路上面から下(絶縁基板側)に向かって、末広がりにエッチングされ、回路の断面は台形になる。この台形の上底と下底との差(以下「裾引き」と呼ぶ)が小さければ、回路間のスペースを狭くでき、高密度配線基板が得られる。裾引きが大きければ、回路間のスペースを狭くすると回路が短絡するので、高密度実装基板を製造することができない。
【0007】
これに対し、特許文献1に開示された発明は、貴金属で構成された被覆層を銅箔の粗化面に形成しているため、サイドエッチを抑制するものではなく、裾引きの小さい回路を良好に作製することが難しい可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、ファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を製造可能なプリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、微量の貴金属を銅箔のエッチング面に層として付着させた場合に、形成された回路の裾引きが小さくなり、これにより高密度実装基板の形成が可能となることを見出した。このような構成は、特許文献1に記載された貴金属で構成された被覆層を銅箔の粗化面に形成する構成とは全く異なる思想に基づくものであり、その効果も大きく異なるものである。
【0010】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆し、且つ、Au、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上を含む被覆層とを備え、前記被覆層におけるAuの付着量が200μg/dm2以下、Ptの付着量が200μg/dm2以下、Pdの付着量が120μg/dm2以下であるプリント配線板用銅箔である。
【0011】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の一実施形態においては、前記被覆層におけるAuの付着量が30〜200μg/dm2以下、Ptの付着量が30〜200μg/dm2以下、Pdの付着量が25〜120μg/dm2以下である。
【0012】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の別の実施形態においては、前記被覆層が、さらにNi、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上を含む。
【0013】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の実施形態においては、前記Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択される金属がNi及びCoであり、前記被覆層におけるNiの付着量が300μg/dm2以下、Coの付着量が300μg/dm2以下である。
【0014】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の実施形態においては、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のAu、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上の原子濃度(%)をf(x)、Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上の金属の原子濃度をg(x)とし、区間[0、5]におけるf(x)及びg(x)のうちの第一の極大値をとる深さをXとしたとき、g(X)≧f(x)を満たす。
【0015】
本発明は、別の一側面において、本発明の銅箔で構成された圧延銅箔又は電解銅箔を準備する工程と、前記銅箔の被覆層をエッチング面として該銅箔と樹脂基板との積層体を作製する工程と、前記積層体を塩化第二鉄水溶液又は塩化第二銅水溶液を用いてエッチングし、銅の不必要部分を除去して銅の回路を形成する工程とを含む電子回路の形成方法である。
【0016】
本発明は、更に別の一側面において、本発明の銅箔と樹脂基板との積層体である。
【0017】
本発明は、更に別の一側面において、銅層と樹脂基板との積層体であって、銅層の表面の少なくとも一部を被覆する本発明の被覆層を備えた積層体である。
【0018】
本発明に係る積層体の一実施形態においては、樹脂基板がポリイミド基板である。
【0019】
本発明は、更に別の一側面において、本発明の積層体を材料としたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を製造可能なプリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】回路パターンの一部の表面写真、当該部分における回路パターンの幅方向の横断面の模式図、及び、該模式図を用いたエッチングファクター(EF)の計算方法の概略である。
【図2】回路パターンの健全部の拡大表面写真である。
【図3】回路パターンの異常部の拡大表面写真である。
【図4】実施例12のスパッタ後のXPSによるデプスプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(銅箔基材)
本発明に用いることのできる銅箔基材の形態に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。屈曲性が要求される用途には圧延銅箔を適用することが多い。
銅箔基材の材料としてはプリント配線板の導体パターンとして通常使用されるタフピッチ銅や無酸素銅といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0023】
本発明に用いることのできる銅箔基材の厚さについても特に制限はなく、プリント配線板用に適した厚さに適宜調節すればよい。例えば、5〜100μm程度とすることができる。但し、ファインパターン形成を目的とする場合には30μm以下、好ましくは20μm以下であり、典型的には5〜20μm程度である。
【0024】
本発明に使用する銅箔基材は、特に限定されないが、例えば、粗化処理をしないものを用いても良い。従来は特殊めっきで表面にμmオーダーの凹凸を付けて表面粗化処理を施し、物理的なアンカー効果によって樹脂との接着性を持たせるケースが一般的であるが、一方でファインピッチや高周波電気特性は平滑な箔が良いとされ、粗化箔では不利な方向に働くことがある。また、粗化処理をしないものであると、粗化処理工程が省略されるので、経済性・生産性向上の効果がある。
【0025】
(1)被覆層の構成
銅箔基材の絶縁基板との接着面の反対側(回路形成予定面側)の表面の少なくとも一部には、被覆層が形成されている。被覆層は、Au、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上を含んでいる。Pt、Pd、及び、Au以外の金属としては、Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上を挙げることができる。このようにな貴金属を銅箔のエッチング面に微量付着させると、形成された回路の裾引きが小さくなる。これにより、銅箔の厚みが薄くなくても裾引きが小さい回路を形成することが可能となるため、高密度実装基板の形成が可能となる。被覆層の厚さは0.2〜3nm、好ましくは0.4〜3nmである。被覆層の厚さが0.2nm未満ではレジスト剥離耐性が劣化し、3nm超では初期エッチング性が劣化するおそれがある。
【0026】
(2)被覆層の同定
被覆層の同定はXPS、若しくはAES等表面分析装置にて表層からアルゴンスパッタし、深さ方向の化学分析を行い、夫々の検出ピークの存在によって同定することができる。
【0027】
(3)付着量
被覆層がAuを含む場合は、Auの付着量が200μg/dm2以下であり、好ましくは30〜200μg/dm2であり、より好ましくは80〜200μg/dm2である。被覆層がPtを含む場合は、Ptの付着量が200μg/dm2以下であり、好ましくは30〜200μg/dm2であり、より好ましくは80〜200μg/dm2である。被覆層がPdを含む場合は、Pdの付着量が120μg/dm2以下であり、好ましくは25〜120μg/dm2であり、より好ましくは60〜120μg/dm2である。被覆層のAuの付着量が200μg/dm2超、被覆層のPtの付着量が200μg/dm2超、及び、被覆層のPdの付着量が120μg/dm2超であると、それぞれ初期エッチング性に悪影響を及ぼす。
【0028】
また、被覆層が、Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上のうち、Ni及びCoを含む場合、Niの付着量は300μg/dm2以下であり、好ましくは80〜300μg/dm2である。また、Coの付着量は300μg/dm2以下であり、好ましくは80〜300μg/dm2である。被覆層のNi及びCoの付着量がそれぞれ300μg/dm2超であると、初期エッチング性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0029】
(4)被覆層表面の原子濃度
被覆層は、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のAu、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上の原子濃度(%)をf(x)、Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上の金属の原子濃度をg(x)とし、区間[0、5]におけるf(x)及びg(x)のうちの第一の極大値をとる深さをXとしたとき、g(X)≧f(x)を満たすことが好ましい。貴金属付着量が少ないと、貴金属は銅箔基材上において、層状ではなく、島状に存在するためか、サイドエッチ抑制効果が十分でなくなる。しかしながら、この上に、Ni、Co等の異層を形成することで、貴金属があたかも「貴金属合金層」として振舞うため、サイドエッチ抑制効果が向上する。さらに、貴金属層をこのようなNi、Co等の異層で覆うことで、エッチング中にレジスト剥離が起こりにくくなる。
ここで「第一の極大値」とは、被覆層表面から深さ方向へ向かって観察したときに、初めに存在する極大値を示す。
【0030】
また、銅箔基材と被覆層との間には、初期エッチング性に悪影響を及ぼさない限り、耐加熱変色性の観点から下地層を設けてもよい。下地層としてはニッケル、ニッケル合金、コバルト、銀、マンガンが好ましい。下地層を設ける方法は乾式、湿式法いずれでもよい。
【0031】
被覆層上の最表層には、防錆効果を高めるために、さらに、クロム層若しくはクロメート層、及び/又は、シラン処理層で構成された防錆処理層を形成することができる。また、被覆層と銅箔との間に、さらに加熱処理による酸化を抑制するため、耐酸化性を有する下地層を形成してもよい。
【0032】
(銅箔の製造方法)
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、スパッタリング法により形成することができる。すなわち、スパッタリング法によって銅箔基材の表面の少なくとも一部を、被覆層により被覆する。具体的には、スパッタリング法によって、銅箔のエッチング面側に銅よりもエッチングレートの低いAu、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上からなる層を形成する。被覆層は、スパッタリング法に限らず、例えば、電気めっき、無電解めっき等の湿式めっき法で形成してもよい。また、このとき、被覆層は、さらにNi、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上を加えて形成してもよい。
また、本発明に係るプリント配線板用銅箔は、スパッタリング処理を行う前に、前処理として、銅箔表面に公知の手段により酸化膜の除去等を行うことが好ましい。
【0033】
(プリント配線板の製造方法)
本発明に係る銅箔を用いてプリント配線板(PWB)を常法に従って製造することができる。以下に、プリント配線板の製造方法の例を示す。
【0034】
まず、銅箔と絶縁基板とを貼り合わせて積層体を製造する。銅箔が積層される絶縁基板はプリント配線板に適用可能な特性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用にポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等を使用する事ができる。
【0035】
貼り合わせの方法は、リジッドPWB用の場合、ガラス布などの基材に樹脂を含浸させ、樹脂を半硬化状態まで硬化させたプリプレグを用意する。銅箔を被覆層の反対側の面からプリプレグに重ねて加熱加圧させることにより行うことができる。
【0036】
フレキシブルプリント配線板(FPC)用の場合、ポリイミドフィルム又はポリエステルフィルムと銅箔とをエポキシ系やアクリル系の接着剤を使って接着することができる(3層構造)。また、接着剤を使用しない方法(2層構造)としては、ポリイミドの前駆体であるポリイミドワニス(ポリアミック酸ワニス)を銅箔に塗布し、加熱することでイミド化するキャスティング法や、ポリイミドフィルム上に熱可塑性のポリイミドを塗布し、その上に銅箔を重ね合わせ、加熱加圧するラミネート法が挙げられる。キャスティング法においては、ポリイミドワニスを塗布する前に熱可塑性ポリイミド等のアンカーコート材を予め塗布しておくことも有効である。
【0037】
本発明に係る積層体は各種のプリント配線板(PWB)に使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えば、導体パターンの層数の観点からは片面PWB、両面PWB、多層PWB(3層以上)に適用可能であり、絶縁基板材料の種類の観点からはリジッドPWB、フレキシブルPWB(FPC)、リジッド・フレックスPWBに適用可能である。また、本発明に係る積層体は、銅箔を樹脂に貼り付けてなる上述のような銅張積層板に限定されず、樹脂上にスパッタリング、めっきで銅層を形成したメタライジング材であってもよい。
【0038】
上述のように作製した積層体の銅箔上に形成された被覆層表面にレジストを塗布し、マスクによりパターンを露光し、現像することによりレジストパターンを形成する。
続いて、レジストパターンの開口部に露出した被覆層を、試薬を用いて除去する。当該試薬としては、塩酸、硫酸又は硝酸を主成分とするものを用いるのが、入手しやすさ等の理由から好ましい。貴金属層は非常に薄いため、製造時の熱履歴で銅箔基材の銅と適度に拡散し合っており、この拡散によって最表層近傍にまで達した銅原子が大気又はレジストの乾燥工程の加熱で酸化され、酸化銅が生成する。拡散により形成された貴金属/銅の合金層中におけるこの酸化銅は酸で容易に溶解するため、同時に貴金属も除去される。よって耐腐食性がある貴金属層であっても、レジストパターンの開口部に露出した部分から用意に除去することが可能となる。
次に、積層体をエッチング液に浸漬する。このとき、エッチングを抑制する白金、パラジウム、及び、金のいずれか1種以上を含む被覆層は、銅箔上のレジスト部分に近い位置にあり、レジスト側の銅箔のエッチングは、この被覆層近傍がエッチングされていく速度よりも速い速度で、被覆層から離れた部位の銅のエッチングが進行することにより、銅の回路パターンのエッチングがほぼ垂直に進行する。これにより銅の不必要部分を除去されて、次いでエッチングレジストを剥離・除去して回路パターンを露出することができる。
積層体に回路パターンを形成するために用いるエッチング液に対しては、被覆層のエッチング速度は、銅よりも十分に小さいためエッチングファクターを改善する効果を有する。エッチング液は、塩化第二銅水溶液、又は、塩化第二鉄水溶液等を用いることができる。
また、被覆層を形成する前に、あらかじめ銅箔基材表面に耐熱層を形成しておいてもよい。
【0039】
(プリント配線板の銅箔表面の回路形状)
上述のように被覆層側からエッチングされて形成されたプリント配線板の銅箔表面の回路は、その長尺状の2つの側面が絶縁基板上に垂直に形成されるのではなく、通常、銅箔の表面から下に向かって、すなわち樹脂層に向かって、末広がりに形成される(ダレの発生)。これにより、長尺状の2つの側面はそれぞれ絶縁基板表面に対して傾斜角θを有している。現在要求されている回路パターンの微細化(ファインピッチ化)のためには、回路のピッチをなるべく狭くすることが重要であるが、この傾斜角θが小さいと、それだけダレが大きくなり、回路のピッチが広くなってしまう。また、傾斜角θは、通常、各回路及び回路内で完全に一定ではない。このような傾斜角θのばらつきが大きいと、回路の品質に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、被覆層側からエッチングされて形成されたプリント配線板の銅箔表面の回路は、長尺状の2つの側面がそれぞれ絶縁基板表面に対して65〜90°の傾斜角θを有し、且つ、同一回路内のtanθの標準偏差が1.0以下であるのが望ましい。また、エッチングファクターとしては、回路のピッチが50μm以下であるとき、1.5以上であるのが好ましく、2.5以上であるのが更に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0041】
(例1:実施例1〜7、9〜15、18〜22、24、25、27〜29、31、32)
(銅箔への被覆層の形成(エッチング面))
銅箔基材として、表面粗さ(Rz)は0.1μm、8μm厚の圧延銅箔(日鉱金属製C1100)を用意した。
【0042】
イオンビーム源を備えたCHA社製Vaccume WEB Chamber(14inch幅)を使用して、銅箔表面の前処理を行った。イオンビーム源にはカーフマン型イオンビーム源6.0cm×40cm Linear Ion Source(ION TECH INC製)を使用した。イオンビーム源の電源は同社MPS−5001で、イオンビームの最大出力はおよそ3W/cm2であった。
表面処理に先立って行ったイオンビームによる前処理条件は、
出力:1.2W/cm2
Ar圧:0.2Pa
銅箔搬送速度:10m/min
であった。この前処理で銅箔表面に付着している薄い酸化膜を取り除き、Au、Pt、Pd、Ni、V、Co、Cr、Sn、Zn又はこれらの合金のターゲットをスパッタリングすることにより、被覆層を形成した。スパッタリングに使用した各種金属の単体は純度が3Nのものを用いた。また、CoCr(Crは20質量%)、NiV(Vは7質量%)、NiZn(Znは20質量%)、NiSn(Snは20質量%)を具体的な合金ターゲットとして用いた。成膜順はAu、Pt、Pdのいずれかの層を形成した上に、Ni、V、Co、Cr、Sn、Znのいずれか1種以上からなる層とした。付着量は出力を変化させて調整した。
【0043】
(表面処理層の形成(接着面))
上述の被覆層が形成された表面の反対側の銅箔基材表面に対して、ポリイミドフィルムとの接着層を同じスパッタリング装置を用いて形成した。薄い酸化皮膜を前処理で取り除いた後、Ni層(付着量90μg/dm2)、この上にCr層(付着量70μg/dm2)を形成した。
【0044】
(付着量の測定)
被覆層のAu、Pt、Pd付着量測定は、王水で銅層の半分程度を溶解させ、その溶解液を希釈し、原子吸光分析法で行った。その他は50mm×50mmの銅層表面の皮膜をHNO3(2重量%)とHCl(5重量%)を混合した溶液に溶解し、その溶液中の金属濃度をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SFC−3100)にて定量し、単位面積当たりの金属量(μg/dm2)を算出した。
【0045】
(XPSによる測定)
被覆層のデプスプロファイルを作成した際のXPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10-7Pa
・X線:単色AlKαまたは非単色MgKα、エックス線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.0nm/min(SiO2換算)
【0046】
(CCL化)
銅箔基材のNi層及びCr層形成側表面に接着剤付きポリイミドフィルム(ニッカン工業性、CISV1215)を圧力7kgf/cm2、160℃、40分の条件で接着した。
【0047】
(エッチングによる回路形状)
銅箔の表面処理層が形成された面に感光性レジスト塗布及び露光工程により10本の21μm幅の回路(開口幅9μm)を印刷し、銅箔の不要部分を除去するエッチング処理を以下の条件で実施した。
【0048】
(エッチング条件)
エッチングは、下記の条件でスプレーエッチング装置を用いて行った。
・液組成
塩化第二銅(2.0mol/L)+塩酸(1.5mol/L)
・スプレー圧:0.2MPa
・液温:50℃
(30μmピッチ回路形成)
・レジストL/S=21μm/9μm
・仕上がり回路ボトム(底部)幅:15μm
・エッチング終点の確認:時間を変えてエッチングを数水準行い、光学顕微鏡で回路間に銅が残存しなくなるのを確認し、これをエッチング時間とした。
エッチング後、45℃のNaOH水溶液(100g/L)に1分間浸漬させてレジストを剥離した。
【0049】
(エッチングファクターの測定条件)
エッチングファクターは、末広がりにエッチングされた場合(ダレが発生した場合)、回路が垂直にエッチングされたと仮定した場合の、銅層からの垂線と樹脂基板との交点からのダレの長さの距離をaとした場合において、このaと銅層の厚さbとの比:b/aを示すものであり、この数値が大きいほど、傾斜角は大きくなり、エッチング残渣が残らず、ダレが小さくなることを意味する。図1に、回路パターンの一部の表面写真と、当該部分における回路パターンの幅方向の横断面の模式図と、該模式図を用いたエッチングファクターの計算方法の概略とを示す。このaは回路上方からのSEM観察により測定し、エッチングファクター(EF=b/a)を算出した。このエッチングファクターを用いることにより、エッチング性の良否を簡単に判定できる。さらに、傾斜角θは上記手順で測定したa及び銅層の厚さbを用いてアークタンジェントを計算することにより算出した。これらの測定範囲は回路長600μmで、12点のエッチングファクター、その標準偏差及び傾斜角θの平均値を結果として採用した。
ここで、図2及び3に、エッチング後のアルカリでレジストを剥離していない回路上部からの写真を示す。このうち、図2は健全部(レジストと銅基材が剥離していない部分)を示し、図3は異常部(レジストと銅基材が一部剥離している部分)を示す。レジストが基材と十分に密着していれば、図2のように金属光沢がレジスト越しに確認できるうえ、回路が直線であることが確認できる。一方、レジストと基材がエッチング中に剥離してしまうと、図3の点線で囲まれた部分のようにレジスト越しに金属光沢は確認できず、さらに健全部と比べるとこの部分は回路の直線性が劣る。このため、本実施例における耐レジスト剥離性評価では、レジストパターン(L/S=21μm/9μm、10本)中に図3のようなレジスト剥離が15箇所までなら○、16〜25箇所までなら△、26箇所以上は×とした。
【0050】
(例2:実施例16、17、26、33(合金ターゲット))
例1の手順で8μm厚の圧延銅箔(日鉱金属製C1100)にPdNi(Pdは20質量%)、AuNi(Auは20質量%)、PtNi(Ptは20質量%)をスパッタリングして各合金層を形成した。この面にレジストパターンを印刷し、エッチング性を評価した。
【0051】
(例3:実施例8、23、30)
8μm厚の圧延銅箔(日鉱金属製C1100)にNiV合金層をスパッタリングで形成した後、Au、Pd、Ptのいずれかの層をスパッタリングで形成した。この面にレジストパターンを印刷し、エッチング性を評価した。
【0052】
(例4:比較例1(ブランク材))
厚さ8μm厚の圧延銅箔(日鉱金属製C1100)とポリイミドフィルムを例1の手順で積層し、エッチング性を評価した。
【0053】
(例5:参考例2、7、8、比較例3〜6)
例1の手順で厚さ8μm厚の圧延銅箔(日鉱金属製C1100)にスパッタリングでPd、Au、Pt、NiV、CoCr、NiSn、NiZn層を形成させた。この面にレジストパターンを印刷し、エッチング性を評価した。
例1〜5の各試験条件及び測定結果を表1及び2に示す。
また、図4に、実施例12のスパッタ後のXPSによるデプスプロファイルを示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
<評価>
実施例1、6、18、20、27ではエッチング中にレジスト剥離が起こったものの、回路を形成できた部分でエッチングファクターを測定すると、ブランク材(比較例1)よりも大きな値となった。
実施例2〜4、7、9〜14、19、21、22、24、28、29、31では貴金属層を貴金属とCu以外の層で覆うことで、極微量の貴金属付着量でもエッチング中にレジスト剥離は起こらず、裾引きが小さい回路が形成できた。
実施例5、15、25、32は貴金属を覆う層の主成分Niの付着量300μg/dm2を超えているものであるが、貴金属付着量が同程度の実施例4、12、24、31とそれぞれ比較すると、回路の裾引きは同程度であることから、Niの付着量300μg/dm2を超えても効果が飽和しており、コストの面から貴金属を覆う層の主成分Niの付着量は300μg/dm2以下でよいことがわかる。
貴金属層が最表層になっている実施例8、23、30では、同程度の付着量である実施例7、22、29とそれぞれ比較した場合、エッチングファクターは小さくなった。これにより、極微量の貴金属層が異なる金属の層で覆われている構成のほうが好ましいことがわかる。
合金ターゲットを用いた実施例16、17、26、33でも、ブランク材(比較例1)と比べるとエッチングファクターは大きくなった。
比較例3〜6はブランク材と比べるとエッチングファクターが高いものの、貴金属層との組み合わせがある場合と比べると、エッチングファクターは小さくなった。
参考例2、7、8は同程度の貴金属量である実施例19、24、31とそれぞれ比較すると、エッチングファクターは同程度であるため、Auの付着量は200μg/dm2以下、Ptの付着量は200μg/dm2以下、Pdの付着量は120μg/dm2以下であればよいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆し、且つ、Au、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上を含む被覆層とを備え、
前記被覆層におけるAuの付着量が200μg/dm2以下、Ptの付着量が200μg/dm2以下、Pdの付着量が120μg/dm2以下であるプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
前記被覆層におけるAuの付着量が30〜200μg/dm2以下、Ptの付着量が30〜200μg/dm2以下、Pdの付着量が25〜120μg/dm2以下である請求項1に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
前記被覆層が、さらにNi、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上を含む請求項1又は2に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
前記Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択される金属がNi及びCoであり、
前記被覆層におけるNiの付着量が300μg/dm2以下、Coの付着量が300μg/dm2以下である請求項3に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のAu、Pt及びPdからなる群から選択された1種以上の原子濃度(%)をf(x)、Ni、V、Co、Cr、Sn及びZnからなる群から選択された1種以上の金属の原子濃度をg(x)とし、区間[0、5]におけるf(x)及びg(x)のうちの第一の極大値をとる深さをXとしたとき、g(X)≧f(x)を満たす請求項1〜4のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の銅箔で構成された圧延銅箔又は電解銅箔を準備する工程と、前記銅箔の被覆層をエッチング面として該銅箔と樹脂基板との積層体を作製する工程と、前記積層体を塩化第二鉄水溶液又は塩化第二銅水溶液を用いてエッチングし、銅の不必要部分を除去して銅の回路を形成する工程とを含む電子回路の形成方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載の銅箔と樹脂基板との積層体。
【請求項8】
銅層と樹脂基板との積層体であって、前記銅層の表面の少なくとも一部を被覆する請求項1〜5の何れかに記載の被覆層を備えた積層体。
【請求項9】
前記樹脂基板がポリイミド基板である請求項7又は8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項7〜9の何れかに記載の積層体を材料としたプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−45881(P2013−45881A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182466(P2011−182466)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】