説明

プレートヒータ

【課題】加熱板1の中にシースヒータ3を収納した場合に、加熱−冷却時の温度変化に伴う熱応力、熱歪みが生じにくく、しかもシースヒータ3から加熱板1へと効率的な熱の移動が出来るプレートヒータを得る。
【解決手段】プレートヒータは、加熱板1とこの加熱板1のヒータ用溝11に埋め込まれたシースヒータ3のシース13とがアルミニウムからなり、このシース13の加熱板1側の接触面積が、前記ヒータ用溝11を閉じた蓋板7側の接触面積より大きくなるようにシースヒータ3が加熱板1に埋め込まれているものである。より具体的には、シース13の加熱板1側の接触面が凸形状になっており、且つ同シース13の前記蓋板7側の接触面が平坦となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板上に薄膜パターンを形成したり、あるいはその基板をエッチングする工程、さらには化学的気相堆積法(CVD法)等の手段でガラス基板等の基板上に薄膜を形成する工程において、基板を載せて加熱するプレートヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコーン系太陽電池等の半導体製品やフラットパネル用ガラス基板等のディスプレイパネル製品は、半導体ウエハやガラス基板等の基板上にフォトマスク等を適用して電極パターン等の薄膜パターンを形成したり、薄膜をエッチングして所定のパターンに形成する工程等を経て製造される。またディスクプレイパネル等に使用される透明基板上に形成される透明導電膜等からなる電極パターンは、いわゆるプラズマCVD法等の化学的気相堆積法等の手段で形成される。
これらの基板の電極パターン等の成膜工程は、殆どの場合に、単結晶Siウエハーの製造に比べて200℃〜300℃と比較的低い温度で基板を加熱した状態で行われる。この基板の加熱のために基板を載置した状態で加熱するのに使用されるのがプレートヒータである。
【0003】
従来において、このような基板の加熱に使用されるプレートヒータは、熱伝導良好なステンレスやアルミニウム等の金属製の加熱板の中にシーズヒータ等のシースヒータを埋め込み、このシースヒータにより加熱板を加熱し、その上に載せられた基板を加熱する方式のものが多い。特にアルミニウム製の加熱板を使用したプレートヒータは、ステンレス鋼に比べて加熱板の熱容量が小さく、熱伝導率が高いので、温度応答性に優れ、加熱、冷却時間が短く、温度制御も容易である。また、表面をアルマイト処理することにより、基板面を絶縁したり、耐腐食性を増す事が出来る。
【0004】
従来において、アルミニウム製の加熱板を使用したプレートヒータでは、アルミニウム板の裏面に溝を掘り、この溝にステンレス製のシースを有するシースヒータを埋め込んで固定していた。この場合、アルミニウムとステンレスとの熱膨張率の違いにより発生する熱歪みが問題となる。
【0005】
シースヒータのステンレスシースの弾性限界の歪み量を0.2%とした場合、その弾性限界に達する温度Tを以下に求める。
0.2%(弾性限界歪み率)=(αa−α)×T(限界温度)×100
T=0.2/(24×10-6−17×10-6)×T×100=285.7℃
但し、αa:アルミニウムの熱膨張係数=24×10-61/℃
α:ステンレスの熱膨張係数=17×10-61/℃
このように、限界温度Tは300℃に満たない。
【0006】
プレートヒータによる基板の加熱温度は薄膜パターンやホトレジスト等の成膜温度により決定されるが、400℃以上の高い加熱温度が要求されることも多い。従来のアルミニウム製の加熱板を用いたプレートヒータでは、前述した通りステンレスシースの弾性限界は300℃以下であり、400℃の温度はこの温度を超えている。
【0007】
もっとも、ステンレスシースの弾性限界を越えたとしても、すぐにステンレスシースが破断に至るものではないが、プレートヒータの四隅に有るステンレスシースヒータの大きな曲げ加工部等は、長時間の熱サイクルに晒されるとステンレスシースも破断することが有り、さらに、加熱温度が400℃を越えると、ステンレスシースとアルミニウム製の加熱板との熱膨張率の相違により、加熱板が湾曲しやすくなる。そうすると、その上に載置した基板が変形し、基板に悪影響を及ぼす。
【0008】
これらの熱膨張率の違いによる歪みを抑えるためには、シースヒータとしてアルミニウムシースを使用したアルミニウムシースヒータを使用することが有効である。アルミニウムシースヒータのアルミニウムシースは熱伝導率も高いため、その特性を活かした効率的な基板の加熱処理を実現することが要請される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−91660号公報
【特許文献2】特開2007−169777号公報
【特許文献3】特開2006−172970号公報
【特許文献4】特開2005−71947号公報
【特許文献5】特開2004−247210号公報
【特許文献6】特開2004−71363号公報
【特許文献7】特開2002−359062号公報
【特許文献8】特開2002−280152号公報
【特許文献9】特開2002−270347号公報
【特許文献10】特開2001−176645号公報
【特許文献11】特開2000−243542号公報
【特許文献12】特開平10−32238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来におけるプレートヒータの前記の課題に鑑み、加熱板の中にシースヒータを収納した場合に、加熱−冷却時の温度変化に伴う熱応力、熱歪みが生じにくく、しかもシースヒータから加熱板へと効率的な熱の移動が出来るプレートヒータを提供することを目的とする。
【0011】
本発明では、前記の目的を達成するため、アルミニウム製の加熱板1のヒータ用溝11にアルミニウム製のシース13を有するシースヒータ3を埋め込み、このシース13の加熱板1側を半円弧にして接触面積が、前記ヒータ用溝11を閉じた蓋板7側の接触面積より大きくなるようにし、さらにシース13の蓋板7側を平坦にしてシースヒータが急激な昇温に於いても蓋板7との面が平坦なためにシース13の溶接部4に過大な応力が掛からないようにして、シース13並びに溶接部4の健全性を確保した。
【0012】
すなわち、本発明によるプレートヒータは、加熱板1とこの加熱板1のヒータ用溝11に埋め込まれたシースヒータ3のシース13とがアルミニウムからなり、このシース13の加熱板1側を半円弧にして接触面積が、前記ヒータ用溝11を閉じた蓋板7側の接触面積より大きくなるようにシースヒータ3が加熱板1に埋め込まれているものである。より具体的には、シース13の加熱板1側の接触面が凸形状になっており、且つ同シース13の前記蓋板7側の接触面が平坦となっている。
【0013】
このような特徴を有するプレートヒータでは、加熱板1とシースヒータ3のシース13とが共にアルミニウムからなるため、加熱−冷却に伴う温度変化により、両者の熱膨張率の違いによる熱応力の発生が無く、加熱板1の熱歪みによる撓み等の変形を無くすることが出来る。しかも、シース13の加熱板1側の接触面積が、前記ヒータ用溝11を閉じた蓋板7側の接触面積より大きくなっているため、シースヒータ13側から加熱板1へとより大量の熱を伝えることが出来るので、効率良く加熱板1を加熱することが出来て、シースヒータ13のシース13とその溶接部4がいかなる急昇温に於いても健全性が保たれる。
【0014】
前記のようなシース13の加熱板1側の接触面の形状は、シースヒータ3を埋め込む加熱板1のヒータ用溝11により塑性変形して形成することが出来る。アルミニウム製のシース13は、ステンレス等に比べて軟らかいので、塑性加工が容易である。このため、加熱板1のヒータ用溝11に加工を施しておき、その中にシースヒータ3を埋め込んで加圧するだけで、シース13の加熱板1側の接触面の形状を適宜に形成することが出来る。
【発明の効果】
【0015】
以上説明した通り、本発明によれば、加熱と冷却を繰り返しても、加熱板1の熱歪みの内プレートヒータを得ることが出来る。しかもシースヒータ3側から加熱板1へとより大量の熱を伝えることが出来るので、熱効率に優れたプレートヒータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例によるプレートヒータを示す裏面図である。
【図2】本発明の一実施例によるプレートヒータを示す側面図である。
【図3】本発明の一実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設された部分の断面を示す要部断面図である。
【図4】本発明の一実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設される部分の埋設前の状態を示す要部断面図である。
【図5】本発明の他の実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設された部分の断面を示す要部断面図である。
【図6】本発明の他の実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設された部分の断面を示す要部断面図である。
【図7】本発明の他の実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設された部分の断面を示す要部断面図である。
【図8】本発明の他の実施例によるプレートヒータ加熱板にシースヒータが埋設される部分の埋設前の状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、アルミニウム製の加熱板1のヒータ用溝11にアルミニウム製のシース13を有するシースヒータ3を埋め込み、このシース13の加熱板1側の接触面積が、前記ヒータ用溝11を閉じた蓋板7側の接触面積より大きくなるようにすることで前記の目的を達成するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態によるプレートヒータの底面図であり、図2はその側面図である。
加熱板1は金属製の板からなり、最も好ましくはアルミニウム系合金の板が使用される。例えば厚さ50mmのアルミニウム合金の板体からなる。
【0019】
後述するように、加熱板1は表面を耐食性化するため陽極酸化等の手段で表面酸化処理し、表面にアルマイト(Al等の酸化膜被膜)を形成する。そのため、加熱板1としては陽極酸化等による表面処理に適したアルミニウム合金が使用される。例えば国際アルミニウム合金名として5000番台のAl−Mg系合金や6000番台のAl−Mg−Si系合金等を使用することになる。
【0020】
この加熱板1の所要の剛性を維持しながら肉薄化と軽量化を図る目的で、図1に示すように、その裏面にはリブ2が形成され、その間の部分は凹部9となっている。さらに、この加熱板1の裏面中央には円筒形のリード線引出筒部6が立設されている。
【0021】
加熱板1の中には、シースヒータ3が配置され、このシースヒータ3のリード線8は前記リード線引出筒部6から電源側に引き出される。このシースヒータ3の配置パターンは、例えば図1に示すようなものであるが、これは加熱板1の加熱温度が全面にわたって出来るだけ均一になるようなパターンに設計して埋設する。加熱板1の放熱量はその中心部より周辺部の大きいが、例えば中心部に前述のようなリード線引出筒部6が立設されているとそこからの放熱もある。これらのバランスが均衡するようにシースヒータ3を配置することで、放熱板1の温度分布の均一性が得られるようなシースヒータ3の配置パターンを採用する。
【0022】
図4に示すように、前記のシースヒータ3は、シース13の中にタングステン、ニクロム、タンタル等の高融点金属からなる電熱線14が収納され、この電熱線14がシース13の中に充填したマグネシア粉末等からなる無機絶縁材15で絶縁されている。図示はしていないが電熱線14をコイリングして電熱線14自体の熱応力を緩和してシース13に埋め込まれているものの方が良い。シースヒータのシース13は一般にステンレスが使用されるが、ここでは加熱板1を前述のようなアルミニウム合金とし、なお且つシース13にも同じようなアルミニウム合金のものを使用する。これにより、加熱板1とシースヒータ3との熱膨張率の違いによる熱応力を低減し、熱歪みによる加熱板1の反りや曲がりを低減することが出来る。
【0023】
加熱板1の裏面に蓋用溝12を設け、この蓋用溝12の底にヒータ用溝11を設け、このヒータ用溝11の中に前記のシースヒータ3を埋め込んで装着する。図3は加熱板1にシースヒータ3が埋設された状態の部分断面を示し、図4は加熱板1にシースヒータ3が埋設される前の状態を示している。
【0024】
図4に示すように、加熱板1の下面に断面矩形のシースヒータ13より幅広の蓋用溝12が設けられ、さらにこの奥、すなわち蓋用溝12の天面にヒータ用溝11が設けられている。このヒータ用溝11は、上に突状となった半円筒面を有しており、ここに断面円形のシースヒータ3を嵌め込む。ヒータ用溝11の半円筒面の径は、シースヒータ3の径と同じか僅かに大きい。また、このヒータ用溝11の深さは、シースヒータ3の径より小さい。
【0025】
図3に示すように、ヒータ用溝11の中にシースヒータ3を嵌め込み、さらに前記蓋用溝12に断面矩形の蓋板7を嵌め込み、ヒータ用溝11の中のシースヒータ3を加圧してヒータ用溝11の中に押し込む。これにより、シースヒータ3のシース13が塑性変形し、ヒータ用溝11の奥に接する部分が、そのヒータ用溝11の半円筒面に倣って半円筒形となる。他方、シースヒータ3が蓋板7に当接する部分は、その蓋板7の平面形状に倣って塑性変形し、平面となる。図3にと図4に示した実施例では、蓋板7の厚さは蓋用溝12の深さと同じになっており、図3に示されたように、蓋板7の下面は加熱板1の下面と面一となる。
【0026】
この状態で蓋板7の両側を加熱板1の蓋用溝12の縁部に溶接10し、蓋板7を固定する。なお、蓋用溝12に断面矩形の蓋板7を嵌め込む前に、予めシースヒータ3のシース13を加熱板1のヒータ用溝11の縁部に溶接4し、シースヒータ3を固定しておくこともある。何れの場合も、溶接手段としては摩擦攪拌溶接やレーザー溶接を用いることが出来る。
【0027】
図3に示したように、前記加熱板1へシースヒータ3を埋め込む過程で、シース13の加熱板1に接触する側が半円筒形に塑性変形し、前記蓋板7側に接触する側が平面形に塑性変形するため、シース13の加熱板1側の接触面積が蓋板7側の接触面積より大きくなる。このため、シースヒータ3側から蓋板7側より加熱板1側へとより大量の熱を伝えることが出来、熱効率を高めることが出来る。
【0028】
図5に示した実施例は、蓋板7の厚さを蓋用溝12の深さより薄くして、加熱板1の裏側の溶接面が突起しないようにした例である。この実施例でも前記実施例と同様に、ヒータ用溝11の中にシースヒータ3を嵌め込み、蓋用溝12に蓋板7を嵌め込み、ヒータ用溝11の中のシースヒータ3を加圧してヒータ用溝11の中に押し込む。この状態で、蓋板7の下面は加熱板1の下面より蓋用溝12の奥に入り込んだ状態となる。
それ以外は、図3と図4により前述した実施例と基本的に同じであり、同じ部分は同じ符合で示している。
【0029】
図6に示した実施例は、ヒータ用溝11の内面形状の半円弧面がヒータ用溝11にさらに喰い込やすくしてシースヒータ3が溝内で動かないように、同ヒータ用溝11の長手方向にわたって連続し、且つその径方向に凹凸を幾回か繰り返す複数の峰−谷形状を呈している例である。このヒータ用溝11の中に押し込められて塑性変形されるシースヒータ3のシース13も、この峰−谷形状に倣って塑性変形される。シースヒータ3のシース13の蓋板7に接する側は、前述の実施例と同様平坦である。
それ以外は、図3と図4により前述した実施例と基本的に同じであり、同じ部分は同じ符合で示している。
【0030】
図7と図8に示した実施例は、加熱板1の下面に蓋用溝12を設けず、加熱板1の下面にヒータ用溝11のみを設け、このヒータ用溝11の中にシースヒータ3を嵌め込んだ例である。蓋板7’は加熱板1の下面のほぼ全体を覆うように加熱板1の下面に取り付ける。この際に、蓋板7’でヒータ用溝11の中のシースヒータ3を加圧してヒータ用溝11の中に押し込む。
【0031】
蓋板7’は、例えば図7に示すように、ネジ16により加熱板1の下面に固定される。或いは加熱板1と蓋板7’とにわたって貼り合わせピン17を打ち込んで固定することも出来る。ネジ16と貼り合わせピン17を併用することもある。さらに必要に応じて、加熱板1と蓋板7’とにわたって、加熱板1の上面に載置される基板(図示せず)を押し上げるためのノックピン(図示せず)を通すための貫通孔18が設けられる。
それ以外は、図3と図4により前述した実施例と基本的に同じであり、同じ部分は同じ符合で示している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によるプレートヒータは、半導体ウエハ等の基板上にフォトマスク等を適用して電極パターン等の薄膜パターンを形成したり、薄膜をエッチングして所定のパターンに形成する工程等において、基板を載置した状態で加熱するのに使用される。
【符号の説明】
【0033】
1 加熱板
3 シースヒータ
7 蓋板
11 ヒータ用溝
12 蓋用溝
13 シースヒータのシース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の板体からなる加熱板(1)と、この加熱板(1)のヒータ用溝(11)の中に埋設されたシースヒータ(3)とを有するプレートヒータにおいて、加熱板(1)とシースヒータ(3)のシース(13)とがアルミニウムからなり、このシース(13)の加熱板(1)側の接触面積が、前記ヒータ用溝(11)を閉じた蓋板(7)側の接触面積より大きくなるようにシースヒータ(3)が加熱板(1)に埋め込まれていることを特徴とするプレートヒータ。
【請求項2】
シース(13)の加熱板(1)側の接触面が凸形状になっており、且つ同シース(13)の前記蓋板(7)側の接触面が平坦であることを特徴とする請求項1に記載のプレートヒータ。
【請求項3】
シース(13)の加熱板(1)側の接触面の形状がシースヒータ(3)を埋め込む加熱板(1)のヒータ用溝(11)により塑性変形して形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のプレートヒータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−15036(P2012−15036A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152582(P2010−152582)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000183945)助川電気工業株式会社 (79)
【Fターム(参考)】