説明

プレート式反応器

【課題】良好な伝熱効率を得るとともに、触媒層の圧力損失を低減できるプレート式反応器を提供する。
【解決手段】原料ガスを反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで配列され、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含む複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層とを有するプレート式反応器であって、前記伝熱プレートは、前記原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値(S2)と、隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最小距離(S1)とが、1<S2/S1≦2の関係を有するように配列されていることを特徴とする、プレート式反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレート式反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、プロピレン、又はアクロレインの気相接触酸化反応のような、発熱又は吸熱を伴い、粒状の固体触媒が用いられる気相反応に用いられる反応器としては、例えば、原料ガスを反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒体を供給する装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレート式反応器は、一般に、隣り合う伝熱プレート間の隙間に形成される複数の触媒層を有し、また伝熱プレートと触媒との接触性に優れていることから、前記気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れている。
一方で上記プレート式反応器では、触媒層が複数回に折れ曲がる波状の流路として形成されているために、伝熱プレートと触媒との熱交換には優れるものの、同時に触媒層の圧力損失が増大することがあった。そのため、プレート式反応器において、良好な伝熱効率を得るとともに、プレート式反応器内部の触媒層における圧力損失を低減できる技術が求められている。
【特許文献1】特開2004−202430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、良好な伝熱効率を得るとともに、触媒層の圧力損失を低減できるプレート式反応器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プレート式反応器において、隣り合う伝熱プレートが所定の関係を有するように配列されているプレート式反応器を提供する。
【0006】
すなわち本発明は、原料ガスを反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで配列され、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含む複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層とを有するプレート式反応器であって、前記伝熱プレートは、前記原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値(S2)と、隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最小距離(S1)とが、1<S2/S1≦2の関係を有するように配列されていることを特徴とする、プレート式反応器を提供する。
【0007】
また本発明は、前記伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上である前記プレート式反応器を提供する。
【0008】
また本発明は、前記触媒層のガス入口からガスの流れ方向の該触媒層の長さの50%長さまでの領域において、前記1<S2/S1≦2の関係を有するように伝熱プレートが配列されている前記プレート式反応器を提供する。
【0009】
また本発明は、前記触媒層のガス入口からガスの流れ方向の該触媒層の長さの50%長さまでの領域において、前記伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上である前記プレート式反応器を提供する。
【0010】
さらに本発明は、前記原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離が2mm以上である前記プレート式反応器を提供する。
【0011】
さらに本発明は、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料ガスを酸化し、不飽和脂肪族アルデヒドまたは不飽和脂肪酸を製造するための気相接触酸化反応に用いられる前記プレート式反応器を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プレート式反応器において、原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値(S2)と、隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最小距離(S1)とが、1<S2/S1≦2の関係を有するように配列されていることから、プレート式反応器において圧力損失を低減することができるとともに、伝熱プレートと触媒との熱交換が効率よく行われ、良好な伝熱効率が得られる。
【0013】
また本発明では、前記伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上であることで、前記伝熱管の接合部における原料ガスの混合が促進され、伝熱効率が向上するとともに、触媒層の断面形状が好適なものとなり、圧力損失を低減できる。また、原料ガスの反応転化率の部分的な低下を防止でき、部分的な転化率の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のプレート式反応器は、原料ガスを反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層とを有する。
【0015】
前記反応容器は、並列する複数の伝熱プレートが収容され、供給された原料ガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器である。前記反応容器には、例えば、原料ガスの流れ方向に対する横断面の形状が矩形であるケーシングや、前記横断面の形状が円形であるシェルが用いられる。
【0016】
前記反応容器は、通常、一対の通気口を有する。前記一対の通気口は、一方が反応容器に供給される原料ガスの供給口となり、他方が反応容器で生成した生成ガスの排出口となる。通気口の形態は、反応容器へのガスの供給と反応容器からのガスの排出とが行われる形状であれば特に限定されない。一対の通気口は、対向して設けられていることが好ましい。このような通気口としては、例えば、ケーシングやシェルの両端に設けられる一対の通気口や、シェルの中心軸を含む中心部とシェルの内周部とにそれぞれ円筒状に形成され、シェルの横断面において放射状にガスを通気させる一対の通気口が挙げられる。
【0017】
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含む。このような伝熱プレートは、円弧、楕円弧、多辺形等のパターンが連続して形成された二枚の波板を両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成することができる。又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を周縁又は端縁で連結して形成することができる、又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を反応容器において周縁又は端縁で接するように積み重ねて形成することができる。
【0018】
上記伝熱プレートの形状や大きさは、反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、一般に矩形であり、例えば縦(すなわち伝熱管の連結高さ)が0.5〜6mであり、横(すなわち伝熱管の長さ)が0.05〜10mである。
【0019】
反応容器において伝熱プレートは、原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値(S2)と、隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最小距離(S1)とが、1<S2/S1≦2の関係を有するように配列される。このように配列されることで、触媒層の厚さの変化量が好適なものとなり、プレート式反応器内の触媒層における圧力損失を低減させることができる。S2/S1>2となると、触媒層内のガスの線速度の変化量が大きくなり、圧力損失が増大する。
【0020】
図1〜3に示されるように、本発明では、伝熱プレート間の隙間を触媒層の厚さとし、S2は、原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向の隣り合う伝熱プレート間の触媒層の厚さの最大距離であり、S1(スロート)は触媒層の厚さの最小距離である。
本発明のS2は、例えば図1〜3に示されるように、伝熱管の連結部を結んで形成される直線を伝熱プレートの中心軸としたとき、一対の伝熱プレートが平行かつ互いに伝熱管の中心軸の半分に相当する距離だけ上下に離れている場合には、一方の伝熱管の中心軸と、もう一方の伝熱管の中心軸から触媒層側に最も離れた伝熱管の外面を通る中心軸に平行な軸までの距離となる。
上記の場合以外、例えば一対の伝熱プレートの上下方向の距離が上記の関係ではない場合、S2は、伝熱管の凸縁の連結部から、伝熱プレートの中心軸の垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に伸ばして、隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の外面までの距離を測定することによって求められる。
ここで本発明において、伝熱プレートの長さ方向とは、例えば図4で示すように伝熱プレートを縦に配列したとき、伝熱プレート(伝熱管)の幅の方向(図4中のW)を意味する。
一方、S1は、隣り合う伝熱プレートの伝熱管の外面間の距離の最小値を測定することにより求められ、例えば、伝熱プレートを円弧のパターンが連続して形成された二枚の波板を両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成し、波板の形状が円弧で近似できる場合には円弧の中心点を結ぶ直線と波板の触媒層側の外面との交点間の距離を測定することによって求めることができる。
【0021】
上記S2とS1は、それぞれ、伝熱プレートの同じ反応帯域において測定される値である。同じ反応帯域とは、原料ガスの流れ方向と垂直方向に測定した場合の触媒層の平均層厚さが同じ領域をいう。触媒層の平均層厚さは以下の式から求められる。
(式)
[触媒層の平均層厚さ]=[触媒層の体積]÷[伝熱プレートの長さ(幅)(図1における紙面に垂直方向の長さ)]÷[伝熱プレートの原料ガスの流れ方向の長さ]
(ここで、[触媒層の体積]は、触媒層が形成される一対の伝熱プレートを地面に対して垂直に保ち、かつ底(各反応帯域の最も下面)に蓋を設置して、一対の伝熱プレートに挟まれた空間内に水などの液体又は直径1mm以下のガラスビーズを注ぎいれたときに、該空間を満たすのに必要な水などの液体又は直径1mm以下のガラスビーズの体積とする。)
【0022】
上記スロートS2とスロートS1の関係はS2/S1≦1.95であることがより好ましく、S2/S1≦1.90であることが特に好ましい。
本発明において、S2/S1は1<S2/S1の関係を満たす。伝熱プレートに凹凸が
全くないとき、S2/S1の値は1になる。S2/S1は、反応原料ガスの流速変化によって反応原料ガス流れの混合を促進し、触媒層中心部と伝熱プレート表面近傍との温度差を縮小することで、伝熱効率の向上を図る観点から1.3≦S2/S1であることがより好ましく、1.6≦S2/S1であることが更に好ましい。
このような関係を満たす範囲において、伝熱プレートは、隣り合う伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対向するように並べられてもよい。高い伝熱効率を確保する観点から、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対してガスの流れ方向の垂直方向に平行に対向するように並べられること、すなわち、一対の伝熱プレートが平行かつ互いに伝熱管の中心軸の半分に相当する距離だけ上下に離れていることが特に好ましい。
【0023】
上記S2/S1の値は、例えば伝熱プレートを円弧、楕円弧、多辺形等のパターンが連続して形成された二枚の波板を両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成する場合には、上記波板の波高さ(H)や波の周期(L)、隣り合う伝熱プレート間の距離(伝熱プレートの断面において、伝熱管の連結部を結んで形成される直線を伝熱プレートの軸としたときに、一方の伝熱プレートの軸と隣り合う伝熱プレートの軸との距離:P)を適宜調整することで調整できる。
【0024】
上記(H)は通常、5〜50mmであることが好ましく、10〜30mmであることがより好ましい。また、上記(L)は通常、10〜100mmであることが好ましく、20〜50mmであることがより好ましい。上記(P)は通常、10〜50mmである。
伝熱プレートを、複数の伝熱管を周縁又は端縁で連結して形成する場合や、複数の前記伝熱管を反応容器において周縁又は端縁で接するように積み重ねて形成する場合には、伝熱管の断面形状を調整したり、上記(P)を適宜調整することで、上記S2/S1の値を調整できる。伝熱管の断面形状は、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール型等の略円形でもよいし、矩形や菱形等の多角形でもよい。
【0025】
上記S2/S1の値が本願発明の範囲を満たすように伝熱プレートを配列することで、上記のように圧力損失を低減できるばかりでなく、プレート式反応器本来の良好な伝熱効率が得られることにより、触媒層の温度を平滑化できる。
【0026】
また、伝熱プレートは、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの50%長さまでの領域において本発明で規定する上記S2/S1の値を満たすように配列することが好ましい。 通常、酸化反応において、上記の領域では原料ガスの反応性が高く、この領域の反応熱は触媒層全体の90%程度にも相当するので、高い伝熱効率が求められる。反応熱は、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの30%長さまでの領域では、触媒層当たりでさらに多く発生し、その割合は触媒層全体の60〜70%にも達する。このことから、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの30%長さまでの領域において本発明で規定する上記S2/S1の値を満たすように配列することがより好ましい。伝熱プレートが本発明で規定する上記S2/S1の値を満たすように上記領域に配列することは、当該領域における触媒層の温度の平滑化に寄与しつつ、当該領域での圧力損失の低減に寄与できる。
【0027】
また、本発明のプレート式反応器では、上記伝熱プレートに含まれる伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、50°以上であることが特に好ましい。ここでいう伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度とは、図1や図2に示すように、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向の伝熱プレートの断面において、伝熱プレートの伝熱管の連結部を基点として、上下の伝熱管の外面に接する線が形成する触媒層側の角度(θ)をいう。伝熱面角度は、
例えば図1のように、伝熱管の形状がラグビーボール型の略円形である場合には、伝熱管の連結部を基点として上下の伝熱管の外面に接する各接線が形成する触媒層側の角度であり、図2のように、伝熱管が菱形である場合には、伝熱管の連結部を基点として上下の伝熱管の各外面が形成する触媒層側の角度である。
なお、伝熱面角度の上限については特に限定されないが、伝熱プレートと触媒との伝熱効率を保つために、120°以下であることが好ましく、100°以下であることが特に好ましい。
【0028】
伝熱面角度が30°以上であることにより、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向の触媒層の断面形状が好適なものとなり、圧力損失を低減できる。また、伝熱面角度が30°以上であることにより、伝熱管の連結部付近の触媒層にガスが滞留する部分、すなわちデッドスペースができることを防ぐことができる。伝熱面角度が上記範囲であれば、供給された原料ガスは、伝熱管の連結部を過ぎて、伝熱管の外面に衝突し、ガスの流れの方向が変化する。このとき、慣性力を有するガスは触媒層内において混合が促進され、触媒層の中心付近に存在する高温のガスが入れ替わる。このことにより、触媒層内の温度分布が平滑化され、良好な伝熱効率が得られる。
伝熱面角度が30°未満であると、伝熱管の連結部付近の触媒層にガスが滞留する部分、すなわちデッドスペースが生じてガスの渦が発生し、ガスの滞留が起こる。渦中に存在するガスは触媒層内の滞留時間が長くなり、原料ガス全体の触媒層内の滞留時間も長くなる。
この場合、渦に存在しないガスの滞留時間は短くなり、反応転化率が低下する一方で、滞留時間の長い原料ガスは選択率が低下する。結果として、反応による目的成分の収量が低下する。
【0029】
また、前記伝熱面角度は、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの50%長さまでの領域において上記範囲を満たすことが好ましい。通常、酸化反応において、上記の領域では原料ガスの反応性が高く、この領域では90%もの反応転化率が達成されるので、高い伝熱効率と反応生産性が求められる。反応転化は、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの30%長さまでの領域では、触媒層当たりでさらに多く達成され、その割合は触媒層全体の60から70%にも達する。このことから、触媒層のガス入口から、ガスの流れ方向の触媒層の長さの30%長さまでの領域において上記伝熱面角度の値を満たすことがより好ましい。上記領域において伝熱面角度が上記範囲を満たすことは、当該領域における触媒層の温度の平滑化に寄与しつつ、当該領域におけるガスの反応転化率の低下と選択率の低下を防止できる。結果として、反応による目的成分の収量が向上する。
【0030】
前記伝熱管は、伝熱管内の熱媒体と伝熱管に外接する触媒層との間で熱が交換される伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス及びカーボンスチールが挙げられる。この材料の板厚は2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。伝熱管の断面形状における周縁とは、円形における周縁を意味し、伝熱管の断面形状における端縁とは、略円形における長軸端の縁や、多角形における一角の縁を意味する。
【0031】
伝熱管の大きさは、例えば図1を参照したときに、伝熱管の断面形状の幅が3〜20mmであり、伝熱管の断面形状の高さが10〜50mmである。伝熱プレートが複数の異なる断面形状の伝熱管を有する場合、すなわち、原料ガスの流れ方向と垂直方向に測定した場合の触媒層の平均層厚さが異なる領域を複数有し、反応帯域が複数形成されている場合には、少なくともひとつの反応帯域において、上記1<S2/S1≦2の関係を満たせばよい。
【0032】
伝熱プレートにおける伝熱管は、反応容器内のガスの流れ方向に対して直交する方向に延出するように形成されていること、すなわち伝熱管を流れる熱媒体の方向が反応容器内のガスの流れ方向に対して直交する方向であること、が、伝熱管中の熱媒体の温度の調整によって原料の反応を制御する観点から好ましい。
【0033】
上記伝熱管に流す熱媒体は、各反応帯域にそれぞれ最適な温度で供給される。
また、熱媒体の入口温度と出口温度の温度差は0.5〜10℃であることが好ましく、2〜5℃であることがより好ましい。
1〜複数の伝熱管毎に、熱媒体の流量、温度、及び流す方向を変えることも可能である。また、一つの反応帯域においても、1〜複数の流路毎に、独立して同温の熱媒体を同じ方向に流す場合も、向流(カウンターフロー)方向に流す場合もある。また、ある反応帯域の伝熱管に供給され排出された熱媒体を同じあるいは別の反応帯域の伝熱管に供給することも可能である。
【0034】
伝熱管に供給される熱媒体の温度は、原料ガスが、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料ガスの少なくとも1種のときは、250〜450℃で各反応帯域に供給されることが好ましく、より好ましくは、300〜420℃である。該反応原料ガスが、プロピレンの場合は、反応帯域に供給される熱媒体の温度が320〜400℃であることが好ましい。
一方、反応原料ガスが、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる原料ガスの少なくとも1種のときは、200〜350℃で反応帯域に供給されることが好ましく、より好ましくは、250〜330℃である。該反応原料ガスがアクロレインの場合は、反応帯域に供給される熱媒体の温度が250〜320℃であることが好ましい。
同じ反応帯域では、熱媒体の温度は基本的に同じであることが好ましいが、ホットスポット現象が発生しない範囲で変化させることは可能である。
【0035】
伝熱管に供給される熱媒体の流量は反応熱量と伝熱抵抗から決定される。しかし、伝熱抵抗は、通常、液体である熱媒体より原料ガスの気体側にあるので問題になることは少ないが、伝熱管の液線速度は好適には0.3m/s以上が採用される。
原料ガス側伝熱抵抗に比較し、熱媒体側の抵抗が小さく問題にならない値とするには、0.5〜1.0m/sが最も適当である。大きすぎると熱媒体の循環ポンプの動力が大きくなって経済面で好ましくない。
【0036】
なお、用いられる熱媒体は、公知のものを使用することが可能であり、例えば、複数の硝酸塩類の混合物である溶融塩(ナイター)や多環芳香族炭化水素混合物などからなる有機熱媒体が用いられる。
【0037】
本発明のプレート式反応器において、反応圧力は、常圧から200kPaG(キロパスカル−ゲージ)であることが好ましい。
【0038】
上記プレート式反応器には、連続的に温度を監視し、触媒層温度の上昇に伴う、ホットスポットの発生を防いで触媒の損傷を防止するために、後述する温度測定装置を設けることが好ましい。前記温度測定装置を触媒層に設置するため、プレート式反応器内の隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離が2mm以上であることが好ましい。ここで、隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離とは、ある反応帯域における一対の伝熱プレートの伝熱プレートの長さ方向と垂直方向の断面において、伝熱管の連結部を結んで形成される直線を伝熱プレートの中心軸としたときに、該中心軸から触媒層側に最も離れた伝熱管の外面を通る前記中心軸に平行な軸と、隣り合う伝熱プレートの中心軸から触媒層側に最も離れた伝熱管の外面を通る中心軸に平行な軸までの最短距離を意
味する。例えば、図1では図中のdが隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離である。
【0039】
ひとつの伝熱プレート内に複数の反応帯域を有する場合には、該複数の反応帯域のそれぞれにおいて伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離が2mm以上であることが好ましい。
伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離が2mm以上であることで、触媒層に温度測定装置を垂直に設置したときに温度測定装置の温度測定部と伝熱プレートが接触することを防ぐことができる。伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離は、4mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることが特に好ましい。伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離の上限値については、触媒層の温度分布の平滑化、惹いてはホットスポットの防止と緊密な関係があり、触媒の劣化防止の観点から10mm以下であることが好ましい。
【0040】
前記温度測定装置は、通常、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に垂直に配置される。隣り合う伝熱プレートから等距離の位置とは、伝熱プレートの断面において、伝熱管の連結部を結んで形成される直線を伝熱プレートの軸としたときに、隣り合う伝熱プレートの軸の中間の位置(「隙間の中心面」ともいう)である。
前記温度測定装置の好ましい例を以下に示し、温度測定装置の配置方法及び触媒の充填方法として好ましく用いられるものを以下に示す。
【0041】
前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体と、この支持体に内包される複数の温度測定部とを有することが好ましい。温度測定装置は、一体の反応容器に一つ設けられても、複数設けられてもよい。一反応容器における反応の状態を把握して制御する観点から、温度測定装置は、一体の反応容器に複数設けられることが好ましく、例えば2〜20設けることが好ましい。
【0042】
前記支持体には、例えば可撓性を有するステンレス製などの管が好ましく用いられる。支持体の長さは1.1〜12mであることが好ましく、支持体の太さは2〜5mmであることが好ましい。この支持体の太さは、前記伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離に応じて適宜調整する。
【0043】
前記温度測定部は、温度の測定値を電気信号として送信することができる部材であることが好ましい。温度測定部には、反応時における触媒層の温度の範囲に応じた前記部材を用いることができる。このような温度測定部としては、例えばコイル状の白金の細線を有する白金測温抵抗体、サーミスタ、熱電対、及び光ファイバ中の光信号の変化により温度を測定する光ファイバ型温度測定器が挙げられる。
【0044】
温度測定部は、一本の支持体に対して一つであってもよいし、複数であってもよい。また前記温度測定部は、支持体に固定されていてもよいし、例えば管状の支持体内を移動自在に移動可能なものでもよい。支持体に固定される温度測定部は、触媒層の検温によって反応を制御する観点から、一本の支持体に5〜30設けられることが好ましく、10〜20設けられることがさらに好ましく、触媒層に複数の反応帯域が形成される場合では、一反応帯域に対して1〜10設けられることが好ましい。
【0045】
前記支持体は、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に配置される。このような支持体の配置は、後述する張設工程と充填工程とを経て行うことができる。
【0046】
支持体は、前記隙間の中心面に張られていればよく、例えば支持体がさらに反応容器に
おけるガスの流れ方向に沿って固定されることは、所定の熱媒体の温度における反応の状態を正確に把握する観点から好ましく、一本の支持体で前記触媒層における反応の状態を広く把握する観点から好ましい。
【0047】
前記温度測定装置は、前記隙間において前記支持体を挟む二枚の伝熱プレートの一方又は両方に接するスペーサをさらに有することが、伝熱プレートの対向方向における支持体の振れを抑制する観点から好ましい。スペーサは、一本の支持体に対して一つでも複数でもよい。スペーサは、触媒の充填時における触媒の滞留を防止する観点から、棒又は充填時の触媒の供給方向に沿って表面が延出する板であることが好ましい。さらにスペーサは、一つのスペーサが、隣り合う伝熱プレートのうちの一方のみに接することが前記隙間への支持体の挿入及び前記隙間からの支持体の引き抜きを容易に行う観点から好ましく、両方の伝熱プレートに接することが、スペーサの数を少なくする観点から好ましい。またスペーサは、これらの触媒の充填、前記隙間への温度測定装置の設置と取り出し、及び前記隙間の中心面への支持体の配置の観点から、一本の支持体に1〜10設けられることが好ましい。
【0048】
前記張設工程では、支持体を破断せず、かつ支持体をほぼ直線状にする張力が支持体に与えられるように、支持体が引っ張られる。張設工程では、支持体をその両端で引っ張ってもよいし、支持体の一端を固定して支持体の他端を引っ張ってもよい。このような支持体の引っ張りは、バネや錘のような、支持体が引っ張られる方向に支持体の端部を所定の力で付勢する部材や、ネジとナットのように支持体が引っ張られる方向に支持体の端部を進出、固定させる部材を用いて行うことができる。支持体の端部は、前記隙間のガスの流れ方向における端部に固定してもよいし、その延長線上の任意の位置に固定してもよい。支持体の端部の固定には、例えば支持体又は反応容器内の一方に設けられるフックと他方に設けられる孔又はリングのような互いに係止する一対の部材によって行うことができる。
【0049】
前記充填工程については、支持体が張られている状態で各隙間と同量の触媒を各隙間に連続して又は断続的に充填できる。触媒の適切な充填状態は、例えば各隙間に充填された触媒(触媒層)の天面の位置の対比や、各隙間における前記天面の実測値と計算値との比較によって判断することができる。触媒層の長さ(ガスの流れ方向の長さ)は通常2〜6mが採用される。
【0050】
本発明のプレート式反応器は、前述した構成以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば、熱媒体供給装置、仕切り、仕切り用係止部、及び、通気栓、が挙げられる。
【0051】
プレート式反応器が前記仕切りをさらに有する場合は、触媒の充填は区画単位で行うことができる。プレート式反応器が前記通気栓をさらに有する場合は、区画単位で触媒を抜き出すことができる。この場合、触媒の充填は、各区画と同量の触媒を各区画に連続して又は断続的に充填することによって行うことができる。
【0052】
触媒の充填後は、支持体は前記隙間の中心面に触媒によって保持されることから、支持体の張りを解除することができる。以上より、触媒層の中心において触媒の温度を連続的に測定できるように温度測定装置を配置するとともに、触媒を伝熱プレート間に充填し、触媒層を設けることができる。
【0053】
本発明のプレート式反応器には、前記触媒として、例えば以下のものを用いることが可能である。
触媒の組成としては、モリブデン、タングステン、ビスマスなどを含む金属酸化物、ま
たは、バナジウムなどを含む金属酸化物が挙げられる。該組成の金属酸化物粉末を、球状、ペレット状、またはリング状に成型し、高温で焼成して触媒として用いる。
また、触媒の形状は、公知の形状が採用でき、直径が3〜15mm(ミリメートル)の球状、または楕円形以外の形状で3〜15mmの相当直径を有するペレット状、あるいは円柱の円柱中心に穴の開いたリング状の形状のもので、円外径が4〜10mm、円内径が1〜3mm、高さが2〜10mmの形状が好適に用いられる。上記直径、相当直径、円外径及び高さが、3〜5mmの触媒がより好ましい。
【0054】
原料ガスがプロピレンの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(1)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(a)Bi(b)Co(c)Ni(d)Fe(e)X(f)Y(g)Z(h)Q(i)Si(j)O(k)・・・式(1)
上記式(1)中、Moはモリブデン、Biはビスマス、Coはコバルト、Niはニッケル、Feは鉄、Xはナトリウム、カリウム、ルビジュウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Yはほう素、りん、砒素及びタングステンからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Zはマグネシウム、カルシウム、亜鉛、セリウム及びサマリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素、Qはハロゲン元素、Siはシリカ、Oは酸素を表す。
また、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j及びkは、それぞれMo、Bi、Co、Ni、Fe、X、Y、Z、Q、Si及びOの原子比を表し、モリブデン原子(Mo)が12のとき、0.5≦b≦7、0≦c≦10、0≦d≦10、1≦c+d≦10、0.05≦e≦3、0.0005≦f≦3、0≦g≦3、0≦h≦1、0≦i≦0.5、0≦j≦40であり、kは各元素の酸化状態によって決まる値である。
【0055】
一方、原料ガスがアクロレインの場合、上記金属酸化物として、下記一般式(2)で表される化合物が好適に例示される。
Mo(12)V(a)X(b)Cu(c)Y(d)Sb(e)Z(f)Si(g)C(h)O(i)・・・式(2)
上記式(2)中、XはNb及びWからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。YはMg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。ZはFe、Co、Ni、Bi、Alからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示す。但し、Mo、V、Nb、Cu、W、Sb、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Fe、Co、Ni、Bi、Al、Si、CおよびOは元素記号である。a、b、c、d、e、f、g、hおよびiは各元素の原子比を表し、モリブデン原子(Mo)12に対して、0<a≦12、0≦b≦12、0≦c≦12、0≦d≦8、0≦e≦500、0≦f≦500、0≦g≦500、0≦h≦500であり、iは前記各成分のうちCを除いた各成分の酸化度によって決まる値である。
【0056】
本発明のプレート式反応器に用いられる反応原料ガスは、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる原料ガスの少なくとも1種、または、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる反応原料ガスの少なくとも1種である。
上記炭素数3の炭化水素としては、プロピレン、プロパンが挙げられる。
上記炭素数4の炭化水素としては、イソブチレン、ブタンが挙げられる。
上記炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレインが挙げられる。
また、上記反応物である炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、並びに炭素数3及び4の不飽和脂肪酸における、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレインが挙げられ、炭素数3及び4の不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。
【0057】
上記プレート式反応器に供給される原料ガスは、反応原料ガス、分子状酸素、及び必要に応じて窒素や水蒸気などの反応に不活性なガスを含む。
上記反応原料ガスは、1種のみの構成としてもよく、また2種以上を混合した混合物としてもよい。上記反応原料ガスの組成は、目的に応じて適宜選択される。
上記反応原料ガスの、上記原料ガスに対する含有量は、特に限定されないが、反応原料ガスの総量として、5〜13モル%であることが好ましい。また、上記分子状酸素の、上記原料ガスに対する含有量は、反応原料ガスの総量の1〜3倍量であることが好ましい。
【0058】
上記不活性なガスの、上記原料ガスに対する含有量は、上記原料ガス全量から反応原料ガスの総量と分子状酸素量を除いた値となる。なお、上記不活性なガスは、反応系から排出される排気ガスを再循環した不活性ガスを用いてもよい。
以下、本発明を図面に基づいてさらに具体的に説明する。
【0059】
図1は、本発明のプレート式反応器の一実施の形態である一対の伝熱プレートの一部分の概略を示す。図1において、伝熱プレートは一方の伝熱プレートの表面の凸縁と、他方の伝熱プレートの表面の凹縁とが対向するように並列している。図1の伝熱プレートは、円弧のパターンが連続して形成された二枚の波板を両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成され、伝熱プレートに含まれる伝熱管はラグビーボール型の略円形を有する。図1中のS2及びS1は、それぞれ、伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値及び最小値を示し、θは伝熱面角度を示す。図1のθは、伝熱管の連結部を基点として、上下の伝熱管の外壁に接する接線が形成する角度である。図中のHは伝熱プレートを形成する波板の波の高さを示し、Lは波板の波の周期を示し、Pは、隣り合う伝熱プレート間の距離を示し、dは、伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離を示す。
上記H、L及びPは、1<S2/S1≦2となるように適宜調整される。
【0060】
図2は本発明のプレート式反応器の別の実施の形態である一対の伝熱プレートの一部分の概略を示す。図2において、伝熱プレートは一方の伝熱プレートの表面の凸縁と、他方の伝熱プレートの表面の凹縁とが対向するように並列している。図2の伝熱プレートは、接合すると断面形状が菱形となるように二辺形のパターンが連続して賦形された二枚の波板を、両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成されている。図中のS2、S1、θ、H、L及びPは図1と同じ意味である。図2のθは、断面形状が菱形の伝熱管の連結部を基点として、上下の伝熱管の各外壁が形成する角度である。
【0061】
図3は本発明のプレート式反応器のさらに別の実施の形態である一対の伝熱プレートの一部分の概略を示す。図3において、伝熱プレートは一方の伝熱プレートの表面の凸縁と、他方の伝熱プレートの表面の凹縁とが対向するように並列している。図3の伝熱プレートは、接合すると断面形状が菱形となるように二辺形のパターンが連続して賦形された二枚の波板を、両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成されている。図中のS2、S1、θ、L及びPは図1と同じ意味である。図中のHは、それぞれ、波板の高さが大きい方の伝熱プレートを形成する波板の波の高さであり、hは波板の高さが小さい方の伝熱プレートを形成する波板の波の高さである。図3のθは、断面形状が菱形の伝熱管の連結部を基点として、上下の伝熱管の各外壁が形成する角度である。
図3のプレート式反応器では、一方の伝熱プレートと他方の伝熱プレートを形成する波板の波高さ(H)がそれぞれ異なっており、このことにより、伝熱プレート間の触媒層厚さの変化を大きくさせたものである。このように波板の波高さが異なる伝熱プレートを配列した場合には、プレート式反応器を通過する原料ガスの混合が促進され、伝熱効果がよ
り高まり、触媒層における温度分布が平滑化される。
【実施例】
【0062】
<実施例1>
波板の波の高さ(H)が20mm、波板の波の周期(L)が40mmのものを2枚準備した。この波板を両波板の凸部を互いに接合して、複数の伝熱管が形成された伝熱プレートを一組作製した。図4に示すようにこれらの伝熱プレートを伝熱プレートの間隔(P)が24mmとなるように並列させ、伝熱プレートの幅(長さ)を100mmとして両端を閉じてプレート式反応器を作製した。
該プレート式反応器のスロートS1は7.6mmで、S2/S1は1.9であった。また、伝熱面角度(θ)は74°であった。該プレート式反応器に触媒を充填し、触媒層の層高さは1mとし、触媒量を1リットルとした。触媒は、形状が直径4mmφで高さが3mmの円柱状のものを用いた。ガスとして空気を用い、プレート式反応器の上方より供給した。空気の温度は23℃で、流量はロータメータを用いて測定し、標準状態(0℃、103kPa)に換算した。
プレート式反応器に用いた伝熱プレートの仕様を表1に示す。
【0063】
上記プレート式反応器を用いて、ガスの圧力損失を測定した。圧力損失の測定には、水マノメータを用いた。触媒層の上下において、空気の圧力変化を測定したところ、触媒層の平均断面あたり、標準状態に換算したガス体積を用いたガスの線速度が0.5m/sec(SV=1800(1/hr))での圧力損失が、触媒層1mあたり、2.5キロパスカル(kPa)であった。線速度が1.0m/secでは、8.0kPaであった。
【0064】
<比較例1>
表1に示す仕様のプレート式反応器を用いて、圧力損失を測定する試験を行った。実施例で用いたプレート式反応器と比較するため、スロートS1の値が近いものを用いた。実施例1で用いた触媒と同じものを、層高が1mとなるように反応器に充填した。触媒の充填量は1.1リットルであった。S2/S1は2.6であり、伝熱面角度(θ)は25°であった。
【0065】
実施例1と同様に、22℃の空気をプレート式反応器の上方から供給し、触媒層の上下で空気の圧力変化を測定した。平均断面を用いて求めたガスの線速度が0.5m/secと1.0m/secのそれぞれの場合における圧力損失は、3kPa及び10kPaであり、実施例1と比較すると、20程度%高かった。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
プレート式反応器では、伝熱プレートと触媒との熱交換を効率よく行わせるとともに、触媒層における圧力損失を低減することが重要である。触媒層の厚さの変化の割合を特定
のものとした本発明のプレート式反応器によれば、伝熱プレートと触媒との熱交換が効率よく行われるとともに、触媒層における圧力損失が低減される。このことから、反応生成物の収率を損なうことがなく、圧力損失を補うために原料ガスの送風機或いは圧縮機などの動力を大きくする必要がなく、経済的に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明のプレート式反応器の一実施の形態における伝熱プレートの一部を概略的に示す図である。
【図2】本発明のプレート式反応器の別の一実施の形態における伝熱プレートの一部を概略的に示す図である。
【図3】本発明のプレート式反応器の別の一実施の形態における伝熱プレートの一部を概略的に示す図である。
【図4】本発明の実施例及び比較例で用いたプレート式反応器を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 マノメータ
S1 触媒層厚さの最小値
S2 触媒層厚さの最大値
θ 伝熱面角度
H、h 波板の波高さ
L 波板の波の周期
P 伝熱プレート間の距離
d 伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離
r 円弧の半径
F ガスの流れ方向
T 触媒層の層高さ(触媒層の長さ)
W 触媒層の幅(伝熱管の長さ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスを反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで配列され、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含む複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層とを有するプレート式反応器であって、
前記伝熱プレートは、前記原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最大値(S2)と、隣り合う伝熱プレート間の触媒層厚さの最小距離(S1)とが、1<S2/S1≦2の関係を有するように配列されていることを特徴とする、プレート式反応器。
【請求項2】
前記伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上であることを特徴とする、請求項1に記載のプレート式反応器。
【請求項3】
前記触媒層のガス入口からガスの流れ方向の該触媒層の長さの50%長さまでの領域において、前記1<S2/S1≦2の関係を有するように伝熱プレートが配列されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のプレート式反応器。
【請求項4】
前記触媒層のガス入口からガスの流れ方向の該触媒層の長さの50%長さまでの領域において、前記伝熱管の連結部における触媒層側の伝熱面角度が、30°以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレート式反応器。
【請求項5】
前記原料ガスの流れ方向と垂直方向であって、伝熱プレートの長さ方向と垂直方向に測定した場合の隣り合う伝熱プレートの伝熱管の触媒層側の頂点間距離が2mm以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプレート式反応器。
【請求項6】
炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる反応原料ガスを酸化し、不飽和脂肪族アルデヒドまたは不飽和脂肪酸を製造するための気相接触酸化反応に用いられることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレート式反応器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−42339(P2010−42339A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207351(P2008−207351)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】