説明

プロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体の製造方法

【課題】 オレフィン重合用触媒を用いたプロピレン系重合体の多段連続気相重合法において、少ないコストで高い生産性にて安定的に連続多段重合体を製造でき、重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減できるプロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体の製造方法の提供。
【解決手段】 プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置であって、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されていることを特徴とするプロピレン重合反応装置及びその装置を用いたプロピレン系重合体の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、オレフィン重合用触媒を用いたプロピレン系重合体の多段連続気相重合法において、少ないコストで高い生産性にて安定的に連続多段重合体を製造でき、重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減できるプロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂は、比較的安価でかつ優れた諸特性を有することから、従来から多岐の分野にわたり使用されている。しかしながら、ポリプロピレン単体ではその用途も限られることより、さまざまな改良が加えられてきた。例えば、耐衝撃性を向上させるため最初にホモポリプロピレンを重合し、その後プロピレンとエチレンの共重合を実施したプロピレン系ブロック共重合体、あるいは成形性・外観を改良するために分子量の異なるポリプロピレンを段階的に製造して分子量分布を拡大したプロピレン系重合体などが提案されている。
【0003】
これら樹脂の製造においては、各成分を個別に製造した後に、所定の比率で各成分を再度混錬する方法もあるが、経済性および混錬による品質の低下の懸念から、連続的に各成分を製造する連続多段重合法が有利である。しかし、1つの容器内では重合体粒子は完全混合状態に近くなるため、十分に成長していない粒子が排出されるショートパスや、成長しすぎた粒子が容器内に蓄積されることが起こりやすく、結果として該重合体の品質を低下させる要因となっている。これに対して、完全混合型の反応槽を直列に複数接続して全体としてプラグフローとすることも考えられるが、多数の反応槽を設けるのでは設備コストがかかる。
【0004】
1つの反応槽において、滞留時間分布を小さくしてプラグフロー化を達成する公知のものとして、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器が知られている(横型気相法プロセス、例えば、特許文献1参照。以下、反応器は、反応槽とも言う)。一般に、重合反応により触媒粒子はポリマー粒子へと徐々に成長していくが、横型反応器で重合を行なう場合、重合によるポリプロピレンの生成と機械的な撹拌の2つの力により、これらの粒子は徐々に成長しながら反応器の軸方向に沿って進んでいく。そのため、反応器の上流から下流に向かって、成長度すなわち滞留時間のそろった粒子が経時的に並ぶ事になる。すなわち、横型反応器では流体のフローパターンがプラグフロー型となり、これは、完全混合型の反応槽を複数台直列に並べた場合と同程度に滞留時間分布を狭くする効果がある。よって、該重合体の製造においては、横型反応器を複数台直列に連結してなるプロピレン重合用反応装置が有利である。
【0005】
ところで、前述の例で示したポリプロピレンの改質を目的とした場合には、ある重合工程にて分子量の低い成分、あるいはエチレンなどの成分が多い成分を製造することとなる。横型反応器では重合熱を除去するのに液化プロピレンの潜熱が利用される。液化プロピレンとしては、重合反応槽から未反応のプロピレンガスを抜き出し、熱交換器で冷却する事により液化させたものを用いることがある。未反応ガスが液化する温度(露点)は圧力および未反応ガスの組成に依存するため、プロピレン単独の露点に対して、プロピレンに水素やエチレンなどの露点の低いガス成分を多く混合していくと、混合量の増加に従って露点が低下する。その結果、横型反応器を含むプロセスでは、分子量の低い成分あるいはエチレンなどの成分を含む多段重合体を製造しようとすると、除熱の問題から生産性が著しく落ちてしまう問題が発生する。
【0006】
上記問題を解決するために熱交換器の冷却能力を高める方法もあるが、その場合は多大な設備コストとなる。仮に、相当の能力を有する熱交換器を設置したとしても、その運用には多くのエネルギーを要する。
【0007】
この様に、横型気相法プロセスは、優れたプラグフロー特性を有しているが、分子量の低い成分やエチレンなどを多く含む成分を有する多段重合体を製造する場合には生産性および運用コストの面で解決すべき課題を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2675919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、オレフィン重合用触媒を用いたプロピレン系重合体の多段連続気相重合法において、少ないコストで高い生産性にて安定的に連続多段重合体を製造でき、重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減できるプロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置において、横型反応槽と、これに連結する完全混合槽とを、それぞれ少なくとも1槽以上具備してなるプロピレン重合反応装置を作製することにより、さらにはそれを用いてなるプロピレン系重合体の製造方法により、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置であって、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されていることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記完全混合槽は、主に循環ガスの顕熱を利用して重合熱の除去を行なう反応槽であることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記完全混合槽は、縦型撹拌槽、攪拌式流動床反応槽又は流動床反応槽から選ばれる反応槽であることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、前記完全混合槽は、流動床反応槽であることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記横型反応槽は、L/Dが5以上(L:水平長手方向の長さ、D:内径)であることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、前記横型反応槽の直後に、前記完全混合槽が設けられることを特徴とするプロピレン重合反応装置が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明のプロピレン系重合反応装置を用いて、オレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンの多段連続気相重合を行なうことを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記完全混合槽における重合反応は、露点が50℃以下である反応ガスを用いて行なうことを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第9の発明によれば、第7又は8の発明において、前記横型反応槽においてプロピレンの重合反応を行い、引き続き、前記完全混合槽においてプロピレンとエチレンを含むα−オレフィンとの重合反応を行なうことを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の装置及び製造方法によれば、プロピレン系重合体の連続多段重合体を最小の設備投資コストで、かつ高い生産性を安定的に維持して製造することができる。
また、多段連続気相重合法において、特定の気相重合反応槽にて滞留時間の変更を行なう場合、その調整が極めて容易(短時間)となり、結果として重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明において、横型反応槽と攪拌式流動床反応槽を組み合わせたプロピレン重合反応装置のフローシートを表す概略図である。
【図2】図2は、本発明において、横型反応槽と縦型攪拌槽を組み合わせたプロピレン重合反応装置のフローシートを表す概略図である。
【図3】図3は、本発明において、横型反応槽と流動床反応槽を組み合わせたプロピレン重合反応装置のフローシートを表す概略図である。
【図4】図4は、本発明において、横型反応槽と流動床反応槽を組み合わせた場合の好ましい態様のプロセスフローおよび実施例で用いた製造方法のフローシートを表す概略図である。
【符号の説明】
【0022】
1、2 触媒成分供給配管
3、5 原料プロピレン補給配管
4、6 原料補給配管(水素・エチレンなど)
7 電子供与性化合物供給配管
10 横型反応槽(第1段重合工程)
11 気液分離槽
12 反応槽上流末端
13、23 未反応ガス抜出し配管
14 反応槽下流末端
15 凝縮器
16、26 圧縮器
17 原料液化プロピレン補給配管
18 原料混合ガス供給配管
20 完全混合槽(第2段重合工程)
25 循環ガスクーラー
30、31 脱ガス槽
32、33 重合体抜出し配管
34 重合体供給配管
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のプロピレン重合反応装置は、プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置であって、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されている
ことを特徴とする。
また、本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、前述のプロピレン重合反応装置を用いたプロピレン系重合体の製造方法であって、オレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンの多段連続気相重合を行なうことを特徴とする。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
<プロピレン重合反応装置>
本発明のプロピレン重合反応装置は、プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置であって、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されていることを特徴とする。本発明の最小の反応槽の構成での装置の例を図1から図3に示す。
【0025】
<横型反応槽>
本発明のプロピレン重合反応装置を構成する横型反応槽としては、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽であれば公知の反応槽を使用することができる。一例として、図1〜3に示したような横型反応槽を使用することができる。
図1〜3において、少なくとも1槽用いられる、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽10は細長く、上流端12と下流端14を持ち、図1に示すように、一般的には水平位置で設置されている。軸8は反応槽10の下流端14の中へ延び、攪拌の為の翼が反応槽10内で取り付けられている。攪拌翼はポリマー粒子を反応槽10内でその中へ導入される他物質と混合する。
反応槽10の上流部配管1および2より導入された触媒成分は、攪拌翼にてポリマー粒子と混合されながら、重合を開始する。重合の際、発生する重合熱は、頂部配管17から供給される原料液化プロピレンの蒸発潜熱により除去される。未反応のプロピレンガスは配管13にて反応系外へ出され、凝縮器15にてその一部分が凝縮され、気液分離槽11で液相と気相へ分離される。液相部は重合熱除去のため配管17へ導入され、気相部は分子量調節のための水素等と混合され、反応槽10の底部に設置された配管18を経由して供給される。
【0026】
本発明における横型反応槽のL/Dは、好ましくは3以上であり、より好ましくは5以上であり、一方、好ましくは10以下である。Lは反応槽の水平長手方向の長さ、Dは反応槽の内径を示す。L/Dが過小な場合は、十分な滞留時間分布の狭幅化は達成されないおそれがある。また、L/Dが過大な場合は、強度上攪拌軸を太くする必要があり、実反応容積が減少し生産性が低下するおそれがある。
【0027】
<完全混合槽>
本発明における「完全混合槽」とは、槽内にある物質が流入し、そして流出される場合、槽内の濃度と流出流れの濃度が等しいことを特徴とする反応槽を意味する。すなわち、完全混合槽は、槽内の温度や反応ガスの組成などが均一であるため、反応槽内で製造される物質の品質の均一性という点で有利である。
本発明のプロピレン系重合体の製造装置を構成する完全混合槽としては、上述のような完全混合槽であれば、公知の反応槽を使用することができる。プロピレンの重合装置として広く利用されている完全混合槽としては、縦型撹拌槽、攪拌式流動床反応槽、流動床反応槽が挙げられる。一例として、図1〜3に示したような完全混合槽を使用することができる。図1では完全混合槽として撹拌式流動床反応槽を、図2では縦型撹拌槽を、図3では流動床反応槽を使用した例を示す。
本発明に用いられる完全混合槽としては、重合熱の除去を主として循環ガスの顕熱により行うことを特徴とする反応槽が好ましい。ここで、プロピレン系重合体の完全混合槽を用いた連続多段気相重合法における反応ガス(反応帯域のガス)及び循環ガス(循環帯域のガス)は、前述した原料であるプロピレン、エチレンを含むα−オレフィン、水素、その他の原料である。
連続多段気相重合法において、反応ガスの露点が低い重合条件下で製造を行なう場合、横型反応槽では除熱が困難となり著しく生産性が低下する。連続多段重合における各段の反応量のバランスおよび熱交換機の能力にもよるが、反応ガスの露点が50℃を下回ると、生産性の低下が顕著となる。このような重合環境が必要な部分での最適な重合反応槽として、主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽を用いる。広く利用されている該反応槽としては、攪拌式流動床反応槽や流動床反応槽があるが、本発明においては滞留時間の制御や重合体の均一な分散の面より流動床反応槽の利用がより望ましい。該反応槽は、重合熱の除去のために循環ガスの顕熱を利用するので、反応ガスの露点低下による生産性への影響は受けない。
【0028】
本発明の装置の一例として、図3に流動床反応槽を利用した装置のフロー図を示す。流動床反応槽20は縦に細長く、前段の工程で製造された重合体は、配管34より供給される。流動床反応槽20内の重合体は、該反応槽へ最小流動化速度以上の線速度で供給される原料プロピレンおよび水素やエチレンなどの他の原料ガスにて流動化され、重合反応が行われる。未反応の混合ガスは、未反応ガス抜き出し配管23より反応系外へ抜き出され、循環ガスクーラー25にて冷却され、流動化用ガスとして反応槽20へ供給される。
反応槽20にて製造された重合体は配管33及び脱ガス槽31を経由して、次工程へ移送される。
【0029】
<装置の構成>
本発明による連続多段気相重合法の高い生産性の提供に関しては、横型反応槽及び完全混合槽が連結した装置であれば良く、設置順序に制約はない。設置順序については、横型反応槽−完全混合槽、完全混合槽−横型反応槽のどちらでも行なうことができる。また、本発明においては、一連の製造工程の中に、横型反応槽及び完全混合槽が連結した装置が少なくとも1つあればよく、この装置の前後に別の装置を配置しても良い。具体的には、横型反応槽や主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽のような追加の重合反応槽を、前段または後段に1又は複数設け、3槽以上の反応槽からなる装置を実現してもよい。そのような装置の構成としては、横型反応槽−横型反応槽−完全混合槽、横型反応槽−完全混合槽−完全混合槽、横型反応槽−横型反応槽−完全混合槽−完全混合槽などが挙げられる。
【0030】
ただし、循環ガスの顕熱を利用する反応槽における滞留時間の変更を行なう際の規格外製品発生量の低減を得る場合には、横型反応槽の直後に完全混合槽を配置することが好ましい。横型反応槽と完全混合槽のいずれか又は両方が複数具備された装置においては、横型反応槽の直後に完全混合槽を配置する構成を含む装置であることが好ましい。
連続多段気相重合法の場合、各段の重合工程でその反応量を制御することができる。一般には、ある重合工程の反応量を抑制したい場合は、少量の重合失活剤を供給して反応量を制御するが、過剰の重合失活剤の使用は次工程の反応量を大きく低下させてしまう。よって、連続多段気相重合法における反応量の制御は、重合失活剤の使用に応じて、プロピレン分圧の変更や反応槽内での滞留時間の変更をする必要が生じることがある。
【0031】
例えば、完全混合槽の前段に横型反応槽が存在しない場合、具体的な例としては、主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽として、完全混合槽である流動床反応槽を用いて、更に流動床反応槽の前段に横型反応槽が存在しない場合、流動床反応槽へは滞留時間分布が広い履歴を受けた重合体粒子が供給されることとなる。この重合体粒子の粒径分布は広いものとなる。このような状況下、流動床反応槽においてプロピレン分圧の変更や反応槽内に保有される重合体の量を変更する場合、小粒子の重合体が系外へ飛散せぬよう、循環ガス量を調整しながら、徐々に実施する必要があり、結果として大量の規格外製品が発生する。
【0032】
一方、完全混合槽の前段に横型反応槽が存在する場合、具体的な例としては、流動床反応槽の前段に横型反応槽を設置した場合、流動床反応槽へ供給される重合体の粒径分布は狭い(小粒子が少ない)ものであり、前述の場合に比べ、より短い時間で条件の変更が可能となる。本効果は、横型反応槽の直後に完全混合槽を配置することにより、初めて認められたものである。
【0033】
本発明の装置は、その重合体成分中に低い分子量を有するポリプロピレン成分あるいは高い濃度のエチレン成分を有する重合体を製造する時、最も高い効果を発揮する装置である。
例えば、分子量分布を拡大したホモポリプロピレンを製造する場合、横型反応槽で分子量の高い成分を製造し、引き続き、主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽である完全混合槽にて分子量の低い成分を製造することにより、高い生産性が得られ、更に完全混合槽として流動床反応槽を用いた場合は、条件変更における規格外製品の発生を最小限に止めることができる。
【0034】
別の例としては、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテン共重合体などの製造において、各重合工程でエチレン含有量が大きく異なる共重合体を好適に製造できる。特に、プロピレン系ブロック共重合体の製造に好適であり、該共重合体としては、例えば、プロピレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体、プロピレン/エチレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体、などをあげることができる。
プロピレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体の製造の場合、ホモポリプロピレン成分を横型反応槽で製造し、引き続き、主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽である完全混合槽にてプロピレン/エチレン共重合体成分を製造することにより、高い生産性が得られ、更に完全混合槽として流動床反応槽を用いた場合は、条件変更における規格外製品の発生を最小限に止めることができる。
【0035】
本発明の装置においては、横型反応槽、完全混合槽等の反応槽以外の装置については、通常プロピレン系重合体の重合反応装置に用いられるものが使用できる。
【0036】
<プロピレン系重合体の製造方法>
続いて、本発明における、プロピレン系重合体、触媒等について詳しく説明する。
本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、前述のプロピレン重合反応装置を用いて、オレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンの多段連続気相重合を行なうことを特徴とする。詳しくは、本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、プロピレンの連続多段製造方法であって、プロピレンを重合(単独重合、共重合)して、ポリプロピレンすなわちポリプロピレン重合体(プロピレン単独重合体、プロピレン/α−オレフィン共重合体)の製造を行なう。本発明で用いられるプロピレン以外のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどがあげられる。
用いるα−オレフィンは各重合工程において変更してもよく、α−オレフィンを2種以上用いてもよい。
【0037】
本発明の製造方法による連続多段気相重合法の高い生産性の提供に関しては、前述した本発明のプロピレン重合反応装置を用いることが必要である。
ただし、循環ガスの顕熱を利用する反応槽である完全混合槽における滞留時間の変更を行なう際の規格外製品発生量の低減を得る場合には、前述のとおり、横型反応槽での重合の直後に完全混合槽での重合を行なうことが好ましい。
【0038】
<オレフィン重合用触媒>
本発明に用いられるオレフィン重合用触媒の種類としては、特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、特開昭47−34478、特開昭58−23806、特開昭63−146906、特開昭58−157808、特開昭58−83006、特開昭58−5310、特開昭61−218606)あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022)が使用できる。これらの触媒は特に制限なく公知の触媒が使用可能である。
【0039】
また、助触媒として有機アルミニウム化合物を使用することができる。有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
【0040】
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することが出来る。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0041】
<予備重合処理>
本発明におけるオレフィン重合用触媒は、本重合で使用する前に予備重合処理して用いることが好ましい。本重合に先立って、予備重合処理により、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
【0042】
予備重合処理は、本重合に用いる有機アルミニウム化合物と同様の有機アルミニウム化合物の存在下で実施できる。使用する有機アルミニウム化合物の添加量は、使用する重合触媒成分の種類によって異なるが、通常、チタン原子1モルに対して有機アルミニウム化合物を好ましくは0.1〜40モル、より好ましくは0.3〜20モルの範囲で用いることができる。予備重合処理時の温度は、好ましくは−150℃〜150℃、より好ましくは0℃〜80℃である。予備重合処理の時間は、10分〜48時間が好ましい。予備重合処理量は、オレフィン重合用触媒成分1グラム当たり好ましくは0.1〜100グラム、より好ましくは0.5〜50グラムのα−オレフィン等のモノマーを重合させることができる。予備重合処理は、通常、不活性溶媒中で行われる。
【0043】
予備重合処理においては、必要に応じて本重合に用いる電子供与体と同様の電子供与体を用いることもできる。電子供与体が有機ケイ素化合物の場合、有機アルミニウム化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いてもよい。
【0044】
オレフィン重合用触媒の予備重合処理に用いられるモノマーとしては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。具体的な化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテンなどに代表されるオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、アリルベンゼン、クロロスチレンなどに代表されるスチレン類似化合物、及び、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,6−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,9−デカジエン、ジビニルベンゼン類などに代表されるジエン化合物類、などを挙げる事が出来る。中でも、エチレン、プロピレン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン類、などが特に好ましい。
これらは単独のみならず、他のα−オレフィンとの2種以上の混合物であってもよい。また、その重合に際して生成するポリマーの分子量を調節するために水素等の分子調節剤を併用することもできる。
【0045】
予備重合処理は、一般的に撹拌下に行なうことが好ましく、そのとき不活性溶媒を存在させることもできる。オレフィン重合用触媒の予備重合処理に用いられる不活性溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンおよび流動パラフィン等の液状飽和炭化水素やジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイル等重合反応に著しく影響を及ぼすことがない不活性溶媒である。これらの不活性溶媒は1種の単独溶媒または2種以上の混合溶媒のいずれでもよい。これらの不活性溶媒の使用に際しては重合に悪影響を及ぼす水分、イオウ化合物等の不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
【0046】
予備重合処理は複数回行なっても良く、この際用いるモノマーは同一であっても異なっていても良い。また、予備重合処理後のオレフィン重合用触媒に対して、ヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行なう事も出来る。予備重合処理を終了した後のオレフィン重合用触媒は、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。
さらに、予備重合処理においては、オレフィン重合用触媒と上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0047】
<横型反応槽での重合>
本発明において、横型反応槽ではプロピレンを重合(単独重合、共重合)して、ポリプロピレンすなわちプロピレン系重合体(プロピレン単独重合体、プロピレン/α−オレフィン共重合体を含む。)の製造を行なう。本発明で用いられるプロピレン以外のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどがあげられる。
横型反応槽における温度や圧力の様な重合条件は、所望のインデックス(MFRやエチレン含有量など)を得るために、生産性を阻害しない限り任意に設定する事が出来る。具体的には、重合温度は好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、一方、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。重合圧力は大気圧以上、好ましくは600kPa以上、更に好ましくは1000kPa以上、特に好ましくは1600kPa以上であり、一方、好ましくは4200kPa以下、更に好ましくは3500kPa以下、特に好ましくは3000kPa以下を例示できる。ただし、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸気圧力より高く設定するべきではない。
滞留時間は重合反応槽の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整する事が出来る。一般的には、30分から10時間の範囲内で設定される。
【0048】
<完全混合槽での重合>
本発明において、完全混合槽ではプロピレンを重合(単独重合、共重合)して、ポリプロピレンすなわちプロピレン系重合体(プロピレン単独重合体、プロピレン/α−オレフィン共重合体を含む。)の製造を行なう。本発明で用いられるプロピレン以外のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどがあげられる。
また、本発明における「完全混合槽」としては、前述したとおり、重合熱の除去を主として循環ガスの顕熱により除去することを特徴とする完全混合反応槽が好ましい。連続多段気相重合において、反応ガスの露点が低い重合条件下で製造を行なう場合、横型反応槽では除熱が困難となり著しく生産性が低下する。連続多段重合における各段の反応量のバランスおよび熱交換機の能力にもよるが、反応ガスの露点が50℃を下回ると、生産性の低下が顕著となる。このような重合環境が必要な部分での最適な重合反応槽として、主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽を用いる。広く利用されている該反応槽としては、攪拌式流動床や流動床反応槽があるが、本発明においては滞留時間の制御や重合体の均一な分散の面より流動床反応槽の利用がより望ましい。該反応槽は、重合熱の除去のために循環ガスの顕熱を利用するので、反応ガスの露点低下による生産性への影響は受けない。従って、本発明の製造方法においては、完全混合槽における重合反応は、露点が50℃以下である反応ガスを用いて行なうことが好ましい。なお、「反応ガス」とは、前述のとおり、原料であるプロピレン、エチレンを含むα−オレフィン、水素、その他の原料である。
【0049】
完全混合槽における温度や圧力の様な重合条件は、本発明の効果を阻害しない限り任意に設定する事が出来る。例えば、流動床反応槽の場合、具体的には、重合温度は好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、一方、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。重合圧力は大気圧以上、好ましくは600kPa以上、更に好ましくは1000kPa以上、特に好ましくは1600kPa以上であり、一方、好ましくは4200kPa以下、更に好ましくは3500kPa以下、特に好ましくは3000kPa以下を例示できる。ただし、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸気圧力より高く設定するべきではない。
滞留時間は重合反応槽の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整する事が出来る。一般的には、30分から10時間の範囲内で設定される。
【0050】
<プロピレン系重合体>
本発明の装置及び製造方法では、前述のとおり、プロピレンを重合(単独重合、共重合)して、ポリプロピレンすなわちプロピレン系重合体(プロピレン単独重合体、プロピレン/α−オレフィン共重合体を含む。)の製造を行なう。
本発明の装置及び製造方法では、その重合体成分中に低い分子量を有するポリプロピレン成分あるいは高い濃度のエチレン成分を有する重合体を製造する時、最も高い効果を発揮する。
例えば、分子量分布を拡大したホモポリプロピレンを製造する場合、横型反応槽で分子量の高い成分を製造し、引き続き主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽である完全混合槽にて分子量の低い成分を製造することにより高い生産性が得られ、更に完全混合槽として流動床反応槽を用いた場合は、条件変更における規格外製品の発生を最小限に止めることができる。
具体的な製造例としては、本発明においては、最も分子量が高い重合体成分を製造する横型反応槽を用いた重合工程で製造される重合体成分の極限粘度が、5〜100dl/gであり、該極限粘度は、最も分子量が低い重合体成分を製造する完全混合槽を用いた重合工程で製造される重合体成分の極限粘度の5倍以上であり、最も分子量が高い重合体成分を製造する横型反応槽を用いた重合工程で製造される重合体成分の量が、プロピレン系重合体中に0.1〜80重量%含有するプロピレン系重合体をあげることができる。
【0051】
別の例としては、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/エチレン/1−ブテン共重合体などにおいて各重合工程でエチレン含有量が大きく異なる共重合体を好適に製造できる。特に、プロピレン系ブロック共重合体の製造に好適であり、該共重合体としては、例えば、プロピレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体、プロピレン/エチレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体、などをあげることができる。
プロピレン−プロピレン/エチレンブロック共重合体の場合、ホモポリプロピレン成分を横型反応槽で製造し、引き続き主として循環ガスの顕熱を利用する反応槽である完全混合槽にてプロピレン/エチレン共重合体成分を製造することにより高い生産性が得られ、更に完全混合槽として流動床反応槽を用いた場合は、条件変更における規格外製品の発生を最小限に止めることができる。
【0052】
以上のように、本発明により、少ないコストで高い生産性にて安定的に連続多段重合体を製造でき、重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減できる装置及び製造方法を提供することができる。また、本装置及び製造方法では、多段重合反応装置内の重合体の置換性が高く、連続重合での製造条件変更に伴う製品ロスが低減される。
また、本発明の装置及び製造方法により得られるプロピレン系重合体は、プロピレン系重合体粒子間の重合体構造の均一性に優れ、自動車部品、家電部品、包装資材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例1は図4に示した装置にて実施した。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0054】
(各種物性測定法)
a)MFR(単位:g/10分):JIS−K6921の方法に従い、230℃、21.18Nの条件で測定した。
b)α−オレフィン含有率(第2段重合工程の重合比率、重量%):赤外線吸収スペクトル法により測定した。
c)第2段重合工程でレベル変更に要した時間(hr):循環系へ微粉粒子が飛散せぬよう監視しながら反応槽内のパウダー保有量を30kgから60kgへ増加させて、この時に要した時間を第2段重合工程でレベル変更に要した時間とした。
【0055】
(実施例1)
1)固体触媒成分(オレフィン重合用触媒)の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)を200g、TiClを1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体触媒成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体触媒成分のTi含量は2.7wt%、Mg含有量は18wt%であった。また、固体触媒成分の平均粒径は33μmであった。
【0056】
2)固体触媒成分の予備重合処理
内容積20リットルの傾斜羽根付きステンレス製反応槽を窒素ガスで置換した後、ヘキサン17.7リットル、トリエチルアルミニウム100.6mmol、ジイソプロピルジメトキシシラン15.1mmol、前項で調整した固体触媒成分120.4gを室温で加えた後、30℃まで加温した。次いで、攪拌しながらプロピレン240.8gを3時間かけて供給し、予備活性化処理を行った。分析の結果、固体触媒1g当たりプロピレン1.9gが反応していた。
【0057】
3)第1段重合工程
図4に示したフローシートによって説明する。攪拌羽根を有する横形重合器(L/D=5.2、内容積100リットル)に上記予備活性化処理(予備重合処理)した固体触媒を0.95g/hr、有機アルミ化合物としてトリエチルアルミニウムおよび有機ケイ素化合物としてジイソプロピルジメトキシシランを、Al/Mgモル比が6、Al/Siモル比が6となるよう、それぞれ42mmol/h、7.0mmol/hにて、連続的に供給した。反応温度65℃、反応圧力2.2MPa、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、重合器内の気相中の水素濃度を水素/プロピレンモル比で0.002に維持するように、水素ガスを循環配管2より連続的に供給して、第1段重合体のMFRを調節した。
【0058】
反応熱は配管3から供給する原料液化プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管4を通して反応槽系外で冷却、凝縮させて配管2にて重合器10に還流した。
生成した第1段重合の重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に配管11を通して重合器10から間欠的に抜き出し、第2段重合工程の重合器20に供給した。また重合体の一部を抜き出し、MFRの測定、および触媒単位重量当たりの重合体収量を測定する試料とした。MFRは0.8g/10分であった。触媒単位重量当たりの重合体収量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP法)により測定した重合体中のMg含有量から算出した。Mg含有量は13.1ppmであった。
【0059】
4)第2段重合工程
第1段重合工程に引き続き、内容積2000リットルの流動床式反応槽にて第2段重合工程の重合を実施した。反応温度70℃で、圧力が2.0MPaになるように、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.13となるように連続的に供給した。反応ガスの露点は、46℃であった。
第2反応槽で重合したパウダーは、空塔速度が0.40m/secとなるように流動させ、また、反応槽内のパウダー保有量が、平均して30kgとなるように1回約2Kgずつ間欠的に、5〜10分に1回ベッセルに抜き出し、更に別のベッセルに移送し、そこでは、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止、残留プロピレンをパージさせ、プロピレン重合体を得た。プロピレン重合体の生産速度は1時間平均で、21kgであった。また、第2段重合工程において、循環系へ微粉粒子が飛散せぬよう監視しながら反応槽内のパウダー保有量を30kgから60kgへ増加させて、この時に要した時間を測定したところ3.5時間要した。
【0060】
得られた重合体の一部はMFRの測定、および触媒単位重量当たりの重合体収量を測定する試料とした。MFRは4.9g/10分であった。触媒単位重量当たりの重合体収量は、生産速度を個体触媒供給量で除することで算出した。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例1)
攪拌羽根を有する横形重合器(L/D=5.2、内容積100リットル)を2個連結してなる連続反応装置を用いて重合を行った。
まず、第1反応槽に実施例1に記載の予備活性化処理(予備重合処理)した固体触媒を0.59g/hr、有機アルミ化合物としてトリエチルアルミニウムおよび有機ケイ素化合物としてジイソプロピルジメトキシシランを、Al/Mgモル比が6、Al/Siモル比が6となるよう、それぞれ26mmol/h、4.4mmol/hにて、連続的に供給した。反応温度65℃、反応圧力2.2MPa、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、重合器内の気相中の水素濃度を水素/プロピレンモル比で0.002に維持するように、水素ガスを連続的に供給して、第1段重合体のMFRを調節した。MFRは0.7g/10分であった。生成した第1段重合の重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に間欠的に抜き出し、第2段重合工程の重合器に供給した(第1段重合工程)。
重合温度70℃で、圧力2.0MPa、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.13となるように連続的に供給した。反応ガスの露点は、46℃であった。
第2反応槽で重合したパウダーは、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に間欠的に抜き出し、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止させ、プロピレン重合体を得た(第2段重合工程)。
プロピレン重合体の生産速度は14.8kg/hrであった。MFRは3.7g/10分であった。プロピレン重合体の生産速度を上げるため、固体触媒の供給量を増加しようと試みたが、第2段重合工程の熱交換機への負荷が大きくなり、圧力の維持が困難となった。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例2)
1)固体触媒成分の調製
実施例1に準じて固体触媒成分を調整した。
2)固体触媒成分の予備重合処理
撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、固体触媒成分100g導入した。四塩化ケイ素を50ml加え、90℃で1hr反応を行い、その後、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。精製したn−ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した後、ジメチルジビニルシランを30ml、ジイソプロピルジメトキシシランを30ml、トリエチルアルミニウムを80g添加し、40℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。再度、精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒成分の濃度が20g/Lとなる様に調整した。スラリーを10℃に冷却した後、トリエチルアルミニウムを10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って予備活性化処理した固体触媒を得た。分析の結果、固体触媒1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。
【0063】
3)重合
内容積2000リットルの流動床式反応槽を2個連結してなる連続反応装置を用いて重合を行った。第1反応槽に、予備活性化処理(予備重合処理)した固体触媒を1.01g/hr、有機アルミ化合物としてトリエチルアルミニウムをAl/Mgモル比が6となるよう、45mmol/hにて、連続的に供給した。反応温度65℃、プロピレン分圧2.0MPa、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.002となるように連続的に供給した。MFRは0.8g/10分であった。
第1反応槽で重合したパウダーは、空塔速度が0.35m/secとなるように流動させ、また、反応槽内のパウダー保有量が、平均して30kgとなるように1回約2Kgずつ間欠的に、5〜10分に1回ベッセルに抜き出した後、更に第2反応槽に移送した(第1段重合工程)。
第2反応槽では、重合温度70度で、圧力2.0MPaになるように、プロピレンと分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.13となるように連続的に供給した。反応ガスの露点は、46℃であった。
第2反応槽で重合したパウダーは、空塔速度が0.40m/secとなるように流動させ、また、反応槽内のパウダー保有量が、平均して30kgとなるように1回約2Kgずつ間欠的に、5〜10分に1回ベッセルに抜き出した後、更に別のベッセルに移送し、そこでは、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止、残留プロピレンをパージさせ、プロピレン重合体を得た(第2段重合工程)。
プロピレン重合体の生産速度は1時間平均で、20kgであった。MFRは6.4g/10分であった。また、第2段重合工程において、循環系へ微粉粒子が飛散せぬよう監視しながら反応槽内のパウダー保有量を30kgから60kgへ増加させて、この時に要した時間を測定したところ、6時間要した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1から明らかなように、本発明のプロピレン重合反応装置及びプロピレン系重合体の
製造方法である、「内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されている」との要件を満たさない方法である比較例1、2では、反応ガスの露点が50℃を下回る条件下で著しく生産速度が低下(比較例1)、あるいは重合条件変更に多くの時間を要している(比較例2)。
従って、実施例1により、低い露点の反応ガス条件を必要とする重合成分を含むプロピレン多段連続気相重合体の製造方法において、本発明の特定事項である、横型反応槽と完全混合槽が組み合わされたプロピレン重合反応装置の使用をすることで、高い生産性を維持できるばかりでなく、重合条件(滞留時間)の変更を行なう場合、その調整が極めて容易(短時間)という点で、優れた結果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の装置及び製造方法では、プロピレン系重合体の連続多段重合体を最小の設備投資コストで、かつ高い生産性を安定的に維持して製造することができ、また、多段連続気相重合法において、特定の気相重合反応槽にて滞留時間の変更を行なう場合、その調整が極めて容易(短時間)となり、結果として重合条件変更に伴う規格外製品の発生量を大幅に低減して製造することができるため、産業上大いに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体を多段連続気相重合法で製造するための反応装置であって、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応槽と、該横型反応槽に連結する完全混合槽とが、それぞれ少なくとも1槽以上具備されていることを特徴とするプロピレン重合反応装置。
【請求項2】
前記完全混合槽は、主に循環ガスの顕熱を利用して重合熱の除去を行なう反応槽であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン重合反応装置。
【請求項3】
前記完全混合槽は、縦型撹拌槽、攪拌式流動床反応槽または流動床反応槽から選ばれる反応槽であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン重合反応装置。
【請求項4】
前記完全混合槽は、流動床反応槽であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン重合反応装置。
【請求項5】
前記横型反応槽は、L/Dが5以上(L:水平長手方向の長さ、D:内径)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン重合反応装置。
【請求項6】
前記横型反応槽の直後に、前記完全混合槽が設けられることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロピレン重合反応装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロピレン重合反応装置を用いて、オレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンの多段連続気相重合を行なうことを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項8】
前記完全混合槽における重合反応は、露点が50℃以下である反応ガスを用いて行なうことを特徴とする請求項7に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項9】
前記横型反応槽においてプロピレンの重合反応を行い、引き続き、前記完全混合槽においてプロピレンとエチレンを含むα−オレフィンとの重合反応を行なうことを特徴とする請求項7又は8に記載のプロピレン系重合体の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−116970(P2011−116970A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245316(P2010−245316)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】