説明

ヘテロアセン誘導体、テトラハロターフェニル誘導体及びそれらの製造方法

【課題】優れた耐酸化性を有し、塗布法による半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体、及び耐酸化性有機半導体材料並びに有機薄膜を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を、テトラハロターフェニル誘導体をメタル化剤を用いてテトラメタル化し、反応剤で処理する。


(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数4〜30のアリール基、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体等の電子材料への展開が可能なヘテロアセン誘導体、その用途及びその製造方法に関する。さらに本発明は、該ヘテロアセン誘導体の前駆化合物であるテトラハロターフェニル誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタに代表される有機半導体デバイスは、省エネルギー、低コスト及びフレキシブルといった無機半導体デバイスにはない特徴を有することから近年注目されるようになった。この有機半導体デバイスは有機半導体活性相、基板、絶縁相、電極等数種類の材料から構成されるが、中でも電荷のキャリアー移動を担う有機半導体活性相は該デバイスの中心的な役割を有している。この有機半導体活性相を構成する有機材料のキャリアー移動能により有機半導体デバイス性能が左右される。
【0003】
有機半導体活性相を作製する方法としては一般的に、高温真空下、有機材料を気化させて実施する真空蒸着法及び有機材料を適当な溶媒に溶解させその溶液を塗布する塗布法が知られている。塗布法においては、塗布は高温高真空条件を用いることなく印刷技術を用いても実施することができる。そのため、塗布法は印刷によりデバイス作製の大幅な製造コストの削減を図ることができることから、経済的に好ましいプロセスである。しかし、従来、有機半導体デバイスとして性能が高い材料ほど塗布法で有機半導体活性相を形成することが困難になるという問題があった。
【0004】
例えば、ペンタセン等の結晶性材料はアモルファスシリコン並みの高いキャリアー移動度を有し、優れた有機半導体デバイス特性を発現することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。又、ペンタセン等のポリアセンを溶解させ塗布法で有機半導体デバイスを製造する試みも報告されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ペンタセンはその強い凝集性のため溶解性が低く、塗布法を適用するためには高温加熱等の条件が必要とされ、さらにペンタセンの溶液は極めて容易に空気酸化されることから、塗布法の適用はプロセス的、経済的に困難を伴うものであった。また、ポリ−(3−ヘキシルチオフェン)等の自己組織化材料は溶媒に可溶であり、塗布法による有機半導体デバイス作製が報告されてはいるが、キャリアー移動度が結晶性化合物より1桁低いことから(例えば、非特許文献2参照)、得られた有機半導体デバイスの特性が低いという問題があった。
【0005】
またチオフェン環が縮環したペンタチエノアセンはペンタセンに比べ耐酸化性が向上しているが、キャリアー移動度が低いこと及びその合成に多工程を必要とすることから(例えば、非特許文献3参照)実用上好ましい材料ではなかった。
【0006】
【非特許文献1】「ジャーナル オブ アプライドフィジックス」、(米国)、2002年、92巻、5259−5263頁
【非特許文献2】「サイエンス」、(米国)、1998年、280巻、1741−1744頁
【非特許文献3】「ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー」、(米国)、2005年、127巻、13281−13286頁
【特許文献1】WO2003/016599号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記の従来技術が有する問題点に鑑み、優れた耐酸化性を有し、塗布法による有機半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体及びそれを用いた耐酸化性有機半導体材料並びに有機薄膜を提供することを目的とする。さらに、本発明は該ヘテロアセン誘導体の前駆体として有用なテトラハロターフェニル誘導体及びその製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討の結果、本発明の新規なヘテロアセン誘導体を見出した。加えて、該ヘテロアセン誘導体が耐酸化性に優れ、塗布法の適用が可能であるため結晶性の薄膜を容易に安定して作製することができることから、該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
さらに本発明者らは、該ヘテロアセン誘導体を効率的に製造することができる新規な前駆化合物、即ち特定のテトラハロターフェニル誘導体を見出し、且つ係るテトラハロターフェニル誘導体を効率的に製造する方法を見出し本発明を完成するに到った。
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。説明はヘテロアセン誘導体及びその製造方法、該ヘテロアセン誘導体の前駆体であるテトラハロターフェニル誘導体及びその製造方法、並びに該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜について述べる。
【0011】
(ヘテロアセン誘導体)
本発明のヘテロアセン誘導体は下記一般式(1)で示される。
【0012】
【化1】

[(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数4〜30のアリール基、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数であり、環A及びBは同一又は異なって、下記一般式(A−1)又は(A−2)で示される構造を有する。)
【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

(ここで、置換基R〜R11は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数4〜30のアリール基、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基を示す。なお、置換基R〜R及びR〜R11は、それぞれに、各置換基内の任意の2つ以上の置換基が互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいピリジン環、置換基を有していてもよいピラジン環を形成することができ、置換基Tは、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素を示し、nは0又は1の整数である。但し、T及びTが硫黄である場合、環A及びBは、(A−1)又は置換基を有する(A−2)で示される環である。)]
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の置換基について述べる。
【0015】
置換基R〜Rにおける炭素数4〜30のアリール基は、特に限定はなく、例えばフェニル基、p−トリル基、p−(n−ヘキシル)フェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(シクロヘキシル)フェニル基、m−(n−オクチル)フェニル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、p−(n−パーフルオロオクチル)フェニル基、2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−パーフルオロナフチル基、アントラセニル基、2−フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、1−ビフェニレノ基、2−ビフェニレノ基、ターフェニル基、2−ピリジル基、テトラフルオロピリジル基、ビピリジル基、(ジフェニルアミノ)フェニル基、(ジフェニルアミノ)ビフェニル基等を挙げることができ、好ましくはフェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(n−パーフルオロオクチル)フェニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基等である。
【0016】
置換基R〜Rにおける炭素数3〜20のアルキル基は、特に限定はなく、例えばプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。
【0017】
置換基R〜Rにおける炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基は、特に限定はなく、例えばトリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロドデシル基、パーフルオロオクタデシル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロオクチル基等のパーフルオロアルキル基;あるいはペンタデカフルオロオクチル基、オクタデカフルオロデシル基等の一部の水素がフッ素に置換されたハロゲン化アルキル基を挙げることができ、好ましくはパーフルオロアルキル基であり、特に好ましくはパーフルオロオクチル基、パーフルオロドデシル基である。
【0018】
これらの置換基R〜Rの中でも、特に水素原子、炭素数4〜30のアリール基が好ましく、さらに水素原子、フェニル基が好ましい。
【0019】
置換基T及びTは、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素、アルミニウムであり、その中でも好ましくは硫黄、セレン、リン、ホウ素であり、さらに好ましくは硫黄、リン、ホウ素である。また、T及びTが硫黄である時、環A及びBは、(A−1)又は置換基を有する(A−2)で示される環であることが好ましい。
【0020】
l及びmは、各々0又は1の整数である。ただし、置換基T、Tが、硫黄、セレン、テルル、酸素の場合は、l、mは0であり、置換基T、Tが、リン、ホウ素、アルミニウムの場合は、l、mは1である。
【0021】
次に、一般式(A−1)及び(A−2)で示される、環A及びBについて述べる。
【0022】
本発明のヘテロアセン誘導体は、環A、Bを有する誘導体であり、環A,Bは一般式(A−1)又は(A−2)で示される構造を有するものである。
【0023】
置換基R〜R11における炭素数4〜30のアリール基は、特に限定はなく、例えばフェニル基、p−トリル基、p−(n−ヘキシル)フェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(シクロヘキシル)フェニル基、m−(n−オクチル)フェニル基、p−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、p−(トリフルオロメチル)フェニル基、p−(n−パーフルオロオクチル)フェニル基、2−チエニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基、2,2’−ビチエニル−5−基、ビフェニル基、パーフルオロビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−パーフルオロナフチル基、アントラセニル基、2−フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、1−ビフェニレノ基、2−ビフェニレノ基、ターフェニル基、2−ピリジル基、テトラフルオロピリジル基、ビピリジル基、(ジフェニルアミノ)フェニル基、(ジフェニルアミノ)ビフェニル基等を挙げることができ、好ましくはフェニル基、p−(n−オクチル)フェニル基、p−(n−パーフルオロオクチル)フェニル基、5−(n−ヘキシル)−2−チエニル基等である。
【0024】
置換基R〜R11における炭素数3〜20のアルキル基は、特に限定はなく、例えばプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等を挙げることができる。
【0025】
置換基R〜R11における炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基は、特に限定はなく、例えばトリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロシクロオクチル基等を挙げることができ、好ましくはパーフルオロオクチル基である。
【0026】
また、環A及びBの置換基群R〜R及びR〜R11は、それぞれに、各置換基群内の任意の二以上の置換基が互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいピリジン環、置換基を有していてもよいピラジン環を形成することができ、好ましくは置換基を有していてもよいベンゼン環である。置換基を有してもよいベンゼン環は特に限定はなく、例えばベンゼン環、メチルベンゼン環、(n−ヘキシル)ベンゼン環、(n−オクチル)ベンゼン環、ジメチルベンゼン環、ジ(n−ヘキシル)ベンゼン環、ジフェニルベンゼン環、ナフタレン環、メチルナフタレン環、ジメチルナフタレン環、ジ(n−ヘキシル)ナフタレン環、ジ(n−オクチル)ナフタレン環、ジ(n−ドデシル)ナフタレン環、ジ(n−オクタデシル)ナフタレン環、ジ(n−パーフルオロヘキシルヘキシル)ナフタレン環、ジ(n−パーフルオロオクチル)ナフタレン環、ジ(n−パーフルオロドデシル)ナフタレン環、ジ(n−パーフルオロオクタデシル)ナフタレン環、ジ(n−ペンタデカフロオロオクチル)ナフタレン環、ジ(n−オクタデカフルオロドデシル)ナフタレン環、フェニルナフタレン環、アントラセン環、トリフェニレン環、キノリン環等を挙げることができ、置換基を有していてもよいピリジン環は特に限定はなく、例えばピリジン環、メチルピリジン環、(n−ヘキシル)ピリジン環、フェニルピリジン環等を挙げることができ、置換基を有していてもよいピラジン環は特に限定はなく、例えばピラジン環、メチルピラジン環、ジメチルピラジン環、(n−ヘキシル)ピラジン環、フェニルピラジン環等を挙げることができ、置換基を有していてもよいベンゼン環が好ましく、さらにジ(n−ドデシル)ナフタレン環、ジ(n−パーフルオロドデシル)ナフタレン環が特に好ましい。また、置換基R〜R11の内、RとR10が互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環を形成することが好ましい。
【0027】
これらの置換基R〜R及びR〜R11の中でも、特に水素原子、フッ素原子、置換基を有していても良いベンゼン環が好ましく、さらに水素原子、フッ素原子、ベンゼン環が好ましい。
【0028】
置換基Tは、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素であり、その中でも好ましくは硫黄、セレン、リン、ホウ素であり、さらに好ましくは硫黄、リン、ホウ素である。
【0029】
nは0又は1の整数であり、nが0の場合、Tは硫黄、セレン、テルル、酸素であり、nが1の場合、Tはリン、ホウ素である。
【0030】
これらの中でも本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、該ヘテロアセン誘導体及び該ヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料及びその有機薄膜が、高い耐酸化性及びキャリアー移動度を発現することから、以下の化合物が好ましく、
【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

特に、テトラチエノアセン、P,P−ジフェニルベンゾホスホロジベンゾホスホール、B,B−ジフェニルベンゾボロリルジベンゾボロール、テトラフルオロジチエノアセン、テトラフェニルジチエノアセン、ジベンゾジチエノアセン等が好ましい。
【0036】
(テトラハロターフェニル誘導体)
次に、本発明の本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆化合物であるテトラハロターフェニル誘導体について述べる。
【0037】
本発明の本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆化合物であるテトラハロターフェニル誘導体は下記一般式(2)で示される。
【0038】
【化9】

(ここで、置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、置換基R及び並びに環A及びBは一般式(1)で示される置換基及び環と同意義を示す。)
置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、好ましくは臭素原子、ヨウ素原子であり、特に好ましくはいずれも臭素原子である。
【0039】
置換基R及びRは、一般式(1)で示される置換基と同意義を示し、その中でも特に水素原子が好ましい。
【0040】
環A及びBは一般式(1)で示される環と同意義を示す。すなわち、一般式(A−1)又は一般式(A−2)と同意義を示す。そして、その中でも一般式(A−1)においては、Tが硫黄、R及びRが結合し環状のベンゼン環であることが好ましく、一般式(A−2)においては、R〜R11が水素原子、フッ素原子、環状のベンゼン環であることが好ましい。
【0041】
本発明の一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体としては、以下の化合物が好ましく、
【0042】
【化10】

【0043】
【化11】

特に、{1,4−ビス(3−ブロモベンゾチエニル)−2,5−ジブロモ}ベンゼン、2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル、4,5,4”,5”−テトラフルオロ−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル、4,5,4”,5”−テトラフェニル−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル、2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ジベンゾターフェニル等が好ましい。
【0044】
(ヘテロアセン誘導体の製造方法)
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の製造方法について述べる。
【0045】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体をメタル化剤を用いてテトラメタル化し、下記一般式(3)及び下記一般式(4)で示される反応剤と反応させることにより製造することができる。なお、一般式(3)、一般式(4)で示される反応剤が同じ化合物であっても良い。
(R(L (3)
(R(L (4)
(ここで、置換基T、T、R、R及び記号lとmは一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示し、置換基Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、フェニルスルホニル基を示し、p及びqは0又は2の整数を示す。)
なお、ここでテトラメタル化とは、一般式(2)におけるX〜Xをそれぞれメタルに置換することを意味する。
【0046】
一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体をテトラメタル化する場合、用いるメタル化剤は、一般式(2)におけるX〜Xをメタルに置換することができるものである限り特に限定はなく、例えばn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、メチルリチウム、ヘキシルリチウム等のアルキルリチウム;フェニルリチウム、p−tert−ブチルフェニルリチウム、p−メトキシフェニルリチウム、p−フルオロフェニルリチウム等のアリールリチウム;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド等のリチウムアミド;リチウムパウダー等のリチウム金属;メチルマグネシウムブロマイド、エチルマグネシウムブロマイド、イソプロピルマグネシウムクロライド、tert−ブチルマグネシウムクロライド、フェニルマグネシウムブロマイド等のグリニャール試薬;マグネシウム金属;亜鉛金属等を挙げることができ、好ましくはアルキルリチウムであり、特に好ましくはsec−ブチルリチウムである。
【0047】
該メタル化剤の使用量は一般式(2)のテトラハロターフェニル誘導体1当量に対し、3〜20当量が好ましく、特に好ましくは4〜15当量、さらに好ましくは5〜10当量の範囲で使用することができる。
【0048】
該テトラメタル化は、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒は特に限定はなく、例えばテトラヒドロフラン(以下、THFと略す)、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等であり、特に好ましくはTHFである。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。該テトラメタル化の温度は−100〜50℃で行うことが好ましく、特に好ましくは−90〜20℃である。反応時間は1〜120分が好ましく、特に好ましくは5〜60分である。なお、テトラメタル化の進行は、反応液の一部を取り出し、水で反応を停止させた後、ガスクロマトグラフィーで分析することで監視することができる。
【0049】
該テトラメタル化により生成したテトラメタル塩は、次いで一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤と反応させることにより、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体が得られるものである。係る反応剤との反応は、前記テトラメタル化により生成したテトラメタル塩を含む反応混合物に前記反応剤を直接用いて反応させる方法、生成したテトラメタル塩を一度単離した後、前記反応剤と反応させる方法のいずれを用いてもよい。
【0050】
ここで、一般式(3)、一般式(4)における置換基T、T、R、R及び記号lとmは一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示す。その中でも一般式(3)、一般式(4)としては、ビス(フェニルスルホニル)スルフィド、ジクロロフェニルホスフィン、ジクロロフェニルボラン等が好ましい。
【0051】
また、置換基L、Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、アリールスルホニル基を示し、好ましくは塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アリールスルホニル基である。炭素数1〜20のオキシ基は特に限定はなく、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、フェノキシ基、(2−メトキシ)フェノキシ基等を挙げることができ、アリールスルホニル基は特に限定はなく、例えばフェニルスルホニル基、p−トリルスルホニル基等を挙げることができる。これらの中でも特にフェニルスルホニル基が好ましい。
【0052】
そして、具体的な一般式(3)、一般式(4)で示される反応剤としては、例えば2塩化硫黄;2臭化硫黄;ビス(フェニルスルホニル)スルフィド、ビス(p−トリルスルホニル)スルフィド等のビス(アリールスルホニル)スルフィド類;硫黄;2塩化セレン;セレン;2塩化テルル;テルル;ジクロロフェニルホスフィン、ジメトキシフェニルホスフィン、ジフェノキシフェニルホスフィン、ジクロロ{4−(n−オクチル)フェニル}ホスフィン等のアリールホスフィン類;ジクロロ(n−ヘキシル)ホスフィン、ジクロロ(n−オクチル)ホスフィン、ジメトキシ(n−ヘキシル)ホスフィン等のアルキルホスフィン類;ジクロロフェニルボラン、ジメトキシフェニルボラン、ジメトキシ{4−(n−ヘキシル)フェニル}ボラン、ジフェノキシフェニルボラン、ジクロロ{4−(n−オクチル)フェニル}ボラン等のアリールボラン類;ジクロロ(n−ヘキシル)ボラン、ジクロロ(n−オクチル)ボラン、ジメトキシ(n−ヘキシル)ボラン等のアルキルボラン類;ジクロロフェニルアルミニウム、ジメトキシフェニルアルミニウム、ジメトキシ{4−(n−ヘキシル)フェニル}アルミニウム、ジフェノキシフェニルアルミニウム、ジクロロ{4−(n−オクチル)フェニル}アルミニウム等のアリールアルミニウム類;ジクロロ(n−ヘキシル)アルミニウム、ジクロロ(n−オクチル)アルミニウム、ジメトキシ(n−ヘキシル)アルミニウム等のアルキルアルミニウム類等を挙げることができ、好ましくはビス(フェニルスルホニル)スルフィド、ジクロロフェニルホスフィン、ジクロロフェニルボラン等である。
【0053】
テトラメタル化により生成したテトラメタル塩と一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤と反応させる際には、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒は特に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジグライム、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン等であり、好ましくはTHFである。用いる反応剤の量は、一般式(2)のテトラハロターフェニル誘導体1当量に対し、1.2〜10当量が好ましく、特に好ましくは2〜8当量である。該反応剤との反応温度は−100〜50℃が好ましく、特に好ましくは−90〜30℃であり、反応時間は0.5〜30時間が好ましく、特に好ましくは1〜18時間である。
【0054】
本発明の一般式(1)のヘテロアセン誘導体の製造は、好ましくは窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気下で実施する。
【0055】
本発明の一般式(1)のヘテロアセン誘導体の製造方法では、一般式(2)のテトラハロターフェニル誘導体をテトラメタル化した後、塩化マグネシウムと反応させ、その後に一般式(3)及び一般式(4)で示される反応剤で処理することもできる。
【0056】
かくして得られた、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定はなく、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0057】
(テトラハロターフェニル誘導体の製造方法)
次に、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の前駆体として用いられる一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体の製造方法について述べる。
【0058】
本発明の一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体は下記一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンと下記一般式(6)及び下記一般式(7)で示される2−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させることにより製造することができる。なお、一般式(6)、一般式(7)で示される反応剤が同じ化合物であっても良い。
【0059】
【化12】

(ここで、置換基X及びXは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示す。置換基R、R、X及びXは一般式(2)で示される置換基と同意義を示す。)
【0060】
【化13】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基X並びに環Aは、一般式(2)で示される置換基並びに環と同意義を示す。)
【0061】
【化14】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基X並びにB環は、一般式(2)で示される置換基並びに環と同意義を示す。)
本発明の一般式(5)、(6)及び(7)について、さらに述べる。
【0062】
一般式(5)の置換基X及びXは、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、好ましくは臭素原子及びヨウ素原子であり、さらに好ましくはヨウ素原子である。
【0063】
置換基R、R、X及びXは、一般式(2)で示される置換基と同意義を示す。
【0064】
そして、具体的な一般式(5)で示される化合物としては、1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼンが挙げられる。
【0065】
一般式(6)、(7)の置換基M、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物であり、上記のパラジウム及び/又はニッケル触媒により脱離され、パラジウム及び/又はニッケルと置換できる基である限り特に限定はなく、例えばMgCl、MgBr、B(OH)、B(OMe)、テトラメチルジオキサボロラニル基、ZnCl、ZnBr、ZnI、Sn(Bu−n)、Si(Bu−n)等を挙げることができ、好ましくはZnCl、B(OH)である。
【0066】
置換基X、X並びに環A、Bは、一般式(2)で示される置換基並びに環と同意義を示す。
【0067】
そして、具体的な一般式(6)、一般式(7)で示される化合物としては、例えば3−ブロモベンゾチエニル−2−ジンククロライド、2−ブロモ−4,5−ジフルオロフェニルマグネシウムブロマイド、2−ブロモナフチル−3−マグネシウムブロマイド、2−ブロモフェニルボロン酸等が挙げられる。
【0068】
なお、一般式(6)、一般式(7)で示される2−ハロアリール金属試薬は、例えば、それらの原料となるアリールジハロゲン置換体をイソプロピルマグネシウムブロマイド等のグリニャール試薬あるいはn−ブチルリチウム等の有機リチウム試薬によりハロゲン/金属交換反応を行った後、塩化亜鉛、トリメトキシボラン等と反応させることで好適に調製することができる。なお、グリニャール試薬によるハロゲン/金属交換反応は、例えば「ジャーナル オブ オルガニック ケミストリィー」、2000年、65巻、4618−4634頁」に記載されている方法、有機リチウム試薬によるハロゲン/金属交換反応は、例えば「ジャーナル オブ ケミカル リサーチ シノプシス」、1981年、185頁に記載されている方法を用いることもできる。
【0069】
一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンと一般式(6)及び一般式(7)で示される2−ハロアリール金属試薬の反応に用いる触媒はパラジウム及び/又はニッケル触媒であれば特に限定はなく、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム、ジアセタトビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム、酢酸パラジウム/トリフェニルホスフィン混合物、酢酸パラジウム/トリ−tert−ブチルホスフィン混合物、酢酸パラジウム/2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−1,1’−ビフェニル混合物、ジクロロ(エチレンジアミン)パラジウム、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム/トリフェニルホスフィン混合物等のパラジウム触媒;ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、ジクロロ(1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)ニッケル、ジクロロ(エチレンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル/トリフェニルホスフィン混合物、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル/トリフェニルホスフィン混合物等のニッケル触媒;を挙げることができる。中でも、好ましい触媒は0価のパラジウム化合物であり、特に好ましい触媒はテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムである。又、これら触媒は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。
【0070】
一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンと一般式(6)及び一般式(7)で示される2−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させる際には、好ましくは溶媒中で実施する。用いる溶媒に特に限定はなく、例えばTHF、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、エタノール、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピロリジン、ジイソプロピルアミン等を挙げることができ、又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良く、例えばトルエン/水、トルエン/エタノール/水のような2乃至3成分系でも使用することができる。
【0071】
パラジウム触媒、ニッケル触媒の使用量は一般式(5)のテトラハロベンゼン1モルに対し、0.1〜20モル%が好ましく、特に好ましくは1〜10モル%の範囲である。
【0072】
一般式(6)、一般式(7)の2−ハロアリール金属試薬の使用量は一般式(5)のテトラハロベンゼン1当量に対し、0.8〜3.2当量が好ましく、特に好ましくは1.0〜2.8当量、さらに好ましくは1.1〜2.5当量の範囲で使用することができる。
【0073】
反応の際の温度は10〜120℃が好ましく、特に好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは40〜90℃であり、反応時間は1〜48時間が好ましく、特に好ましくは2〜30時間の範囲で好適に実施することができる。
【0074】
なお、反応系中に塩基を存在させることもできる。この場合の塩基の種類としては特に限定はなく、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、りん酸カリウム、りん酸ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキサイド、フッ化カリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ピリジン等の有機塩基を好適なものとして挙げることができる。これらの塩基の使用量は一般式(5)のテトラハロベンゼン1当量に対し、0.5〜10.0当量が好ましく、特に好ましくは2.0〜8.0当量の範囲で使用することができる。さらにこれらの塩基と併用し、相間移動触媒を用いることもできる。相間移動触媒の種類は特に限定はなく、例えばトリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド等を好適なものとして挙げることができる。これらの相間移動触媒の使用量は一般式(5)のテトラハロベンゼン1当量に対し、0.1〜1.5当量が好ましく、特に好ましくは0.2〜0.8当量の範囲である。
【0075】
さらに反応系中にトリフェニルホスフィン等のホスフィンを存在させることもできる。これらのホスフィンの使用量は、該パラジウム及び/又はニッケル触媒1当量に対し、0.9〜8.0当量が好ましく、特に好ましくは1.0〜3.0当量の範囲で使用することができる。
【0076】
なお、反応系中に銅化合物を存在させることもできる。該銅化合物しては特に限定はなく、例えば塩化銅(I)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(I)、酢酸銅(I)等の1価銅;塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、酢酸銅(II)、アセチルアセトナート銅(II)等の2価銅等を挙げることができる。その中でも好ましくは1価銅であり、特に好ましくはヨウ化銅(I)である。これらの銅化合物の使用量は該パラジウム及び/又はニッケル触媒1当量に対し、0.3〜10.0当量が好ましく、特に好ましくは0.6〜6.0当量の範囲で使用することができる。
【0077】
また、一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンと一般式(6)及び(7)の2−ハロアリール金属試薬の反応により炭素−炭素結合が形成される位置はハロゲンの種類により制御することができる。
【0078】
即ち、ヨウ素原子の反応性が最も高く、臭素原子、塩素原子の順に反応性が低下することから、これらハロゲンの種類の反応性を利用することで反応する位置を任意に決めることができる。そのため、一般式(2)のテトロハロターフェニル誘導体の製造は、例えば一般式(5)のX及びXをヨウ素原子とし、X及びXを臭素原子及び/又は塩素原子とすることにより、製造することができる。
【0079】
かくして得られた、本発明の一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体は、さらに精製することができる。精製する方法は特に限定はなく、例えばカラムクロマトグラフィー、再結晶化、あるいは昇華による方法を挙げることができる。
【0080】
(耐酸化性有機半導体材料)
次に、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料について述べる。該耐酸化性有機半導体材料は溶剤への溶解性、耐酸化性に優れ、好適な塗布性を有する。該耐酸化性有機半導体材料は本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を溶剤に溶解することにより製造することができる。
【0081】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の溶解に用いる溶剤は、特に限定はなく、例えばo−ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;THF、ジオキサン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族化合物の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤;等が挙げられる。又、これら溶剤は1種若しくは2種以上の混合物を用いても良い。中でも、好ましくはクロロベンゼン、トルエン等である。
【0082】
上記に挙げた溶剤と一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を混合攪拌することにより、一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料となるものである。混合攪拌する際の温度は10〜200℃が好ましく、特に好ましくは20〜190℃である。混合攪拌する際の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、溶剤及び温度により変えることができ、0.01〜10.0重量%であることが好ましい。溶液の調製は空気中でも実施することができるが、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で調製する。
【0083】
一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料の耐酸化性の評価は、該溶液を所定時間、空気と接触させる方法で実施することができる。まず用いる溶剤は予め脱気しておき、溶存酸素を除去する。空気との接触時間は、温度により適宜選択することができ、0.5分〜3時間が好適である。酸化の進行は、溶液の色の変化並びにガスクロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィー(GC)−マススペクトル(GCMS)分析による酸化物の検出により行うことができる。
【0084】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料は、用いられる一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体自体が適度の凝集性を有することから比較的に低温で溶剤へ溶解でき、且つ耐酸化性があることから、塗布法による有機薄膜の製造に好適に適用できる。即ち、雰囲気から厳密に空気を除く必要がないことから塗布工程を簡略化することができる。塗布は空気中でも実施できるが、好ましくは溶剤の乾燥を考慮して窒素気流下で行う。なお、好適な塗布性を得るために、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料の粘度は、0.005〜20ポアズの範囲にあることが好ましい。
【0085】
(有機薄膜)
次に本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体を含む耐酸化性有機半導体材料を用いた有機薄膜について述べる。係る有機薄膜は上記の耐酸化性有機半導体材料(溶液)の再結晶化若しくは基板への塗布により製造することができ、特に基板への塗布により製造することが好ましい。そして、基板への塗布により製造することにより、基板上に形成される有機薄膜となるものである。
【0086】
再結晶化による薄膜は、前記耐酸化性有機半導体材料を冷却することで形成することができる。有機薄膜を製造する時の雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス又は空気下で行うことが好ましく、特に窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが好ましい。該溶液中の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、特に限定はなく、例えば0.01〜10.0重量%である。冷却は60〜200℃の温度から−20〜60℃が好ましく、特に好ましくは−10℃〜40℃の間に冷却することにより好適に実施することができる。またこのようにして製造した結晶状の有機薄膜を適当な基板の上に張り合わせる、即ちラミネーション等により基板上に製造することもできる。再結晶化により得られる有機薄膜の膜厚は特に限定はなく、好ましくは50nm〜2mm、特に好ましくは1〜500μmである。
【0087】
基板への塗布による有機薄膜の製造は、前記耐酸化性有機半導体材料を基板上に塗布した後、加熱、気流及び自然乾燥等の方法により溶剤を気化させることで実施することができる。該溶液中の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の濃度は、特に限定はなく、例えば0.01〜10.0重量%であることが好ましい。塗布温度は特に限定はなく、例えば20〜200℃の間で好適に実施することができる。塗布の具体的方法は特に限定はなく、公知の方法、例えばスピンコート、キャストコート及びディップコート等を用いることができる。さらにスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷等の印刷技術を用いても作製することが可能である。使用する基板の材料は特に限定はなく、結晶性、非結晶性の種々の材料を用いることができる。基板の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリ(ジイソプロピルフマル酸)、ポリ(ジエチルフマル酸)、ポリ(ジイソプロピルマレイン酸)等のプラスチック基板;ガラス、石英、酸化アルミニウム、シリコン、酸化シリコン、二酸化タンタル、五酸化タンタル、インジウム錫酸化物等の無機材料基板;金、銅、クロム、チタン等の金属基板を好適に用いることができる。またこれらの基板の表面は、例えばオクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキシシラン等のシラン類;ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン類で修飾処理したものであっても使用することができる。さらに、基板は絶縁性あるいは誘電性を有する材料であっても良い。塗布した後の溶剤の乾燥は、常圧若しくは減圧で除去することができる、又、加熱、窒素気流により乾燥してもよい。さらに、溶剤の気化速度を調節することで本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体の結晶成長を制御することができる。基板への塗布により得られる有機薄膜の膜厚は特に限定はなく、好ましくは1nm〜100μm、特に好ましくは10nm〜20μmである。
【0088】
本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は平面剛直性の高い分子構造を有することから、優れた半導体特性を与えることが期待できる。又、該ヘテロアセン誘導体はトルエンあるいはクロロベンゼン等の溶媒に溶解し、溶液状態にあっても容易に空気酸化されることはない。従って、塗布法により半導体薄膜を容易に作成できる。したがって、本発明の一般式(1)で示されるヘテロアセン誘導体は、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、ICタグ用等のトランジスタの有機半導体活性相用途;有機ELディスプレイ材料;有機半導体レーザー材料;有機薄膜太陽電池材料;フォトニック結晶材料等の電子材料に利用することができる。
【発明の効果】
【0089】
優れた耐酸化性を有し、塗布法による有機半導体活性相形成が可能な、ヘテロアセン誘導体及びその用途を提供する。さらに、該ヘテロアセン誘導体の前駆化合物であるテトラハロターフェニル誘導体及びその製造方法をも提供する。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0091】
生成物の同定にはH−NMRスペクトル及びマススペクトルを用いた。なお、H−NMRスペクトルは日本電子製JEOL GSX−270WB(270MHz)を用いた。マススペクトル(MS)は日本電子製JEOL JMS−700を用いて、試料を直接導入し、電子衝突(EI)法(70エレクトロンボルト)あるいはFAB法(6キロエレクトロンボルト、キセノンガス、マトリックス(ジチオスレイトール:ジチオエリスリトール=3:1))(FABMS)で測定した。
【0092】
反応の進行の確認等はガスクロマトグラフィー(GC)及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析を用いた。
【0093】
ガスクロマトグラフィー分析
装置 島津GC14B
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30m
ガスクロマトグラフィー−マススペクトル分析
装置 パーキンエルマーオートシステムXL(MS部;ターボマスゴールド)
カラム J&Wサイエンティフィック社製、DB−1,30
反応用の試薬及び溶媒は、断りのない限り市販品を用いた。なお、グリニャール試薬あるいはブチルリチウム等の有機金属試薬を用いた場合は、市販の脱水溶媒をそのまま用いた。
【0094】
合成例1 (1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼンの合成)
1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼンはジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティー、1997年、119巻、4578−4593頁に記載されている方法を参考に合成を行った。
【0095】
メカニカルスターラー付き1lの三口フラスコに過ヨウ素酸16.7g(73.0mmol)及び硫酸525mlを加えた。過ヨウ素酸が溶解した後、ヨウ化カリウム36.4g(219mmol)を少しずつ添加した。その内容物の温度を−30℃に冷却し、1,4−ジブロモベンゼン34.5g(146mmol)を5分間かけて添加した。得られた混合物を−25℃で36時間撹拌した。反応混合物を氷(2Kg)中へ注いだ後、濾過し固体を取り出した。その固体をクロロホルムに溶解させ、5%苛性ソーダ水溶液及び水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮後、残渣をクロロホルムから再結晶化し、白色結晶を得た(36.0g、収率50%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.02(s,2H)。
【0096】
H−NMRスペクトルが文献値と一致したことより、1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼンが得られたことを確認した。
【0097】
合成例2 (2−フェニル−5−ブロモ−4−ビフェニルボロン酸の合成)
1)1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼンの合成
1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼンを「シンレット」、2003年、29−34頁に従い合成した。
【0098】
メカニカルスターラー付き1lの三口フラスコに過ヨウ素酸36.9g(162mmol)及び硫酸150mlを加えた。過ヨウ素酸が溶解した後、ヨウ化カリウム80.7g(486mmol)を少しずつ添加した。その内容物の温度を0℃に冷却し、1,2−ジブロモベンゼン75.0g(318mmol)を添加した。得られた混合物を0℃で30分間撹拌した。反応混合物を氷へ注いだ後、濾過し固体を取り出した。その固体をTHF/メタノールから2回再結晶化し、白色結晶を得た(76.2g、収率49%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.03(s,2H)。
【0099】
H−NMR測定より、1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼンが得られたことを確認した。
【0100】
2)1,2−ジブロモ−4,5−ジフェニルベンゼンの合成
窒素雰囲気下、200mlシュレンク反応容器に1)で合成した1,2−ジブロモ−4,5−ジヨードベンゼン3.074g(6.30mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)600mg(0.519mmol)及びフェニルボロン酸(和光純薬工業製)1.920g(15.7mmol)を添加した。さらにトルエン50ml、エタノール13ml及び炭酸ナトリウム4.007g(37.8mmol)と水16mlからなる水溶液を添加した。82℃に加熱し、24時間撹拌した。室温まで冷却後、トルエン及び水を添加し分相した。有機相を濃縮し、得られた残渣をトルエン26mlに溶解後、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)1.0mlを添加し、室温で2時間撹拌した。このトルエン溶液を水で2回洗浄後、有機相を減圧濃縮し、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後(溶媒、ヘキサン)、白色固体を得た(1.953g、収率80%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.67(s,2H),7.24−7.13(m,6H),7.12−6.90(m,4H)。
MS m/z: 388(M,100%),308(M−Br,23),228(M−2Br,53)。
【0101】
H−NMR及びMS測定より、1,2−ジブロモ−4,5−ジフェニルベンゼンが得られたことを確認した。
【0102】
3)2−フェニル−5−ブロモ−4−ビフェニルボロン酸の合成
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に2)で合成した1,2−ジブロモ−4,5−ジフェニルベンゼン755mg(1.95mmol)及びTHF12mlを添加した。この溶液を−100℃に冷却し、n−ブチルリチウム(関東化学製、1.59M)のヘキサン溶液1.3ml(2.1mmol)を滴下した。30分間熟成後、その温度でホウ酸トリイソプロピル(東京化成工業製)472mg(2.51mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、3N塩酸を添加し、分相した。有機相を減圧濃縮し、770mgの白色固体(2−フェニル−5−ブロモ−4−ビフェニルボロン酸)を得た。
【0103】
合成例3 (2−ブロモ−3−ヨードナフタレンの合成)
2−ブロモ−3−ヨードナフタレンはシンセティック コミュニュケーションズ、2003年、33巻、2751−2756頁に記載されている方法を参考に合成を行った。なお、原料の2−ブロモ−ビス(ヘキサクロロシクロペンタジエン)ナフタレンはシグマ−アルドリッチから購入したものをそのまま使用した。
【0104】
窒素雰囲気下、500mlの3口フラスコ反応容器にメタンスルホン酸200ml及びオルト過ヨウ素酸1.31g(5.74mmol)を加えた。30分間撹拌後、ヨウ素4.36g(17.2mmol)を加えた。この混合物を2時間撹拌した後、2−ブロモ−ビス(ヘキサクロロシクロペンタジエン)ナフタレン30.1g(40.0mmol)を少しずつ加えた。この混合物を30℃で3日間撹拌した。反応混合物を氷水中に注ぎ、生成した固体を濾過した。さらにこの固体を水で洗浄し、減圧乾燥した後、2−ブロモ−3−ヨード−ビス(ヘキサクロロシクロペンタジエン)ナフタレンの白色粉体を得た(34.8g、収率99%)。
【0105】
ガラス製昇華管の末端に上記で得た2−ブロモ−3−ヨード−ビス(ヘキサクロロシクロペンタジエン)ナフタレン8.05g(9.16mmol)を加えた。末端を210℃に加熱し、1.5パスカルに減圧した。発生した2−ブロモ−3−ヨードナフタレンは減圧側のガラス管に付着し、ヘキサクロロシクロペンタジエンは減圧側の底に溜まった。1時間後昇華操作を中断し、ガラス管の付着物を取り出し、再度同じ操作を繰り返した。1時間の昇華操作を行った(2.29g、収率75%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.41(s,1H),8.14(s,1H),7.75−7.65(m,2H),7.54−7.45(m,2H)。
【0106】
H−NMRスペクトルが文献値と一致したことより、2−ブロモ−3−ヨードナフタレンが得られたことを確認した。
【0107】
実施例1 ({1,4−ビス(3−ブロモベンゾチエニル)−2,5−ジブロモ}ベンゼン(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に2,3−ジブロモベンゾチオフェン(シグマ−アルドリッチ製)886mg(3.03mmol)及びTHF8mlを添加した。この溶液を−30℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(東京化成工業製、0.80M)のTHF溶液3.8ml(3.0mmol)を滴下した。30分間熟成後、−50℃に冷却し、その温度で塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液3.0ml(3.0mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮した。得られた白色固体[(3−ブロモベンゾチエニル−2−ジンククロライド)(一般式(6)及び(7)の化合物)]に、合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン492mg(1.01mmol)(一般式(5)の化合物)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)91.7mg(0.079mmol)及びTHF8mlを添加した。63℃で10時間反応を実施した後、容器を水冷し1N塩酸4mlを添加することで反応を停止させた。トルエンを添加し、得られた懸濁液を濾過し、濾板上の固体をトルエン及び水で洗浄した。固体を減圧乾燥し、白色固体292mgを得た。一方、濾液を分相し有機相を水洗した。有機相を減圧濃縮し、溶媒を留去した。得られた固体をヘキサン洗浄し(10ml)、残渣をトルエンから再結晶化した。析出した結晶を減圧乾燥後、206mgの白色固体を得た。先の濾過後の白色固体と合わせ、収率75%で目的物を得た。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.95−7.84(m,4H),7.81(s,2H),7.58−7.44(m,4H)。
MS m/z: 658(M,44%),498(M−2Br,34),338(M−4Br,100),306(M−4Br−S),9),169(M−4Br)/2,66)。
H−NMR及びMS測定より、{1,4−ビス(3−ブロモベンゾチエニル)−2,5−ジブロモ}ベンゼンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0108】
【化15】

実施例2 (テトラチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例1で合成した{1,4−ビス(3−ブロモベンゾチエニル)−2,5−ジブロモ}ベンゼン422mg(0.641mmol)及びTHF30mlを添加した。この溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液5.1ml(5.1mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。40分間撹拌後、−70℃で反応剤としてビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)(一般式(3)及び(4)の化合物)730mg(2.32mmol)を一気に投入した。一晩かけて室温まで温度を上げた。飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄した。有機相は黄色懸濁液であったことから濾過し、黄色固体を取り出し、真空乾燥し、123mgの黄色固体を得た。生成した固体を濾過した。さらにこの得られた固体をo−ジクロロベンゼンで抽出(50℃)した後、減圧乾燥し残渣を60℃でトルエンにて洗浄し、残渣を減圧乾燥することで黄色固体を得た(71mg、収率28%)。
MS m/z: 402(M,100%),201(M/2,14)。
【0109】
MS測定より、テトラチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0110】
【化16】

実施例3 (2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン4.39g(9.00mmol)(一般式(5)の化合物)、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)974mg(0.84mmol)及び2−ブロモフェニルボロン酸(シグマ−アルドリッチ製)4.16g(一般式(6)及び(7)の化合物)(20.7mmol)を添加した。さらにトルエン72ml、エタノール18ml及び炭酸ナトリウム5.72g(54.0mmol)と水22mlからなる水溶液を添加した。85℃のオイルバスに浸し、15時間撹拌した。室温まで冷却後、ジクロロメタン及び飽和食塩水を添加し分相した。有機相を減圧濃縮し、残渣をトルエンから再結晶化し、白色針状晶を得た(3.68g、収率75%)。
融点:230−231℃。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.70(d,J=8.0Hz,2H),7.55(d,J=1.5Hz,2H),7.45−7.23(m,6H)。
MS m/z: 546(M,92%),466(M−Br,45),386(M−2Br,53),226(M−4Br,100)。
【0111】
H−NMR及びMS測定より、2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニルが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0112】
【化17】

実施例4 (P,P−ジフェニルベンゾホスホロジベンゾホスホール(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に実施例3で合成した2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル410mg(0.752mmol)及びTHF30mlを添加した。この溶液を−80℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液6.0ml(6.0mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。溶液の色が薄黄色から真緑色へ変化した。20分間撹拌後、−75℃で反応化剤としてジクロロフェニルホスフィン(東京化成工業製)452mg(2.52mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を添加し、一晩かけて室温まで温度を上げた。飽和食塩水を添加した後分相し、さらに有機相を炭酸カリウム水溶液で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化し、淡黄色の結晶を得た(101mg、収率30%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.26(s,2H),7.94(d,J=7.8Hz,2H),7.69(d,J=7.1Hz,2H),7.44(t,J=7.8Hz,2H),7.41−7.10(m,12H)。
MS m/z: 442(M,100%),364(M−Ph−1,38),288(M−2Ph,19),221(M/2,10)。
【0113】
H−NMR及びMS測定より、P,P−ジフェニルベンゾホスホロジベンゾホスホールが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0114】
【化18】

実施例5 (B,B−ジフェニルベンゾボロリルジベンゾボロール(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に実施例3で合成した2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル425mg(0.778mmol)及びTHF30mlを添加した。この溶液を−80℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液6.2ml(6.2mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。溶液の色が薄黄色から真緑色へ変化した。20分間撹拌後、−75℃で反応化剤としてジクロロフェニルボラン(シグマ−アルドリッチ製)410mg(2.58mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を添加し、一晩かけて室温まで温度を上げた。飽和食塩水を添加した後分相し、さらに有機相を炭酸カリウム水溶液で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化し、淡黄色の結晶を得た(78mg、収率25%)。
MS m/z: 402(M,100%),201(M/2,14)。
【0115】
MS測定より、B,B−ジフェニルベンゾボロリルジベンゾボロールが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0116】
【化19】

実施例6 (4,5,4”,5”−テトラフルオロ−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に1,2−ジブロモ−4,5−ジフルオロベンゼン(和光純薬工業製)2.53g(9.30mmol)及びTHF15mlを添加した。この溶液を−40℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液15ml(9.7mmol)を滴下した。30分間熟成後、その温度で塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液9.8ml(9.8mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮した。得られた白色固体(2−ブロモ−4,5−ジフルオロフェニルマグネシウムブロマイド)(一般式(6)及び(7)の化合物)に、合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン2.15g(4.41mmol)(一般式(5)の化合物)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)408mg(0.353mmol)及びTHF30mlを添加した。60℃で6時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸(8ml)を添加することで反応を停止させた。トルエン及び食塩を添加後、分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去した。この得られた残渣をトルエン10mlに溶解させ、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)(0.5ml)を添加し、室温で2時間撹拌した。この溶液を水洗浄し、有機相を減圧濃縮した。有機相をトルエン:ヘキサン=1:1に溶解させ、シリカゲルを充填したカラムを通過させた。溶出液を減圧濃縮し、得られた固体をヘキサン:トルエン=3:1の混合溶媒を用いて再結晶化を行い、白色固体を得た(1.48g,収率54%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.58−7.45(m,2H),7.53(s,2H),7.23−7.09(m,2H)。
MS m/z: 618(M,73%),538(M−Br,32),458(M−2Br,45),378(M−3Br,4),298(M−4Br,100)。
【0117】
H−NMR及びMS測定より、4,5,4”,5”−テトラフルオロ−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニルが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0118】
【化20】

実施例7 (テトラフルオロジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成))
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例6で合成した4,5,4”,5”−テトラフルオロ−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル506mg(0.818mmol)及びTHF28mlを添加した。この懸濁溶液を−80℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液5.9ml(5.9mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−75℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)900mg(2.86mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。飽和食塩水及びトルエンを添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後、静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化した(77mg,収率26%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=8.46(s,2H),8.10(m,2H),7.81(m,2H)。
MS m/z: 362(M,100%),181(M/2,18)。
【0119】
H−NMR及びMS測定より、テトラフルオロジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0120】
【化21】

実施例8 (4,5,4”,5”−テトラフェニル−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例2で合成した2−フェニル−5−ブロモ−4−ビフェニルボロン酸(一般式(6)及び(7)の化合物)770mg、合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン476mg(0.976mmol)(一般式(5)の化合物)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)90.1mg(0.078mmol)、トルエン7.6ml及びエタノール1.8mlを添加した。さらに炭酸ナトリウム625mg(5.90mmol)と水2.3mlからなる溶液を添加し、この混合物を85℃で30時間反応を実施した。室温まで冷却させた後、トルエン及び食塩水を添加分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去した。得られた固体をトルエン:ヘキサン=7:3の混合溶媒を用いて再結晶化を行い、白色固体を得た(467mg、収率56%)。
H−NMR(CDCl,21℃):δ=7.77(s,0.85H),7.76(s,1.15H),7.69(s,2H),7.42(s,1.15H),7.35(s,0.85H),7.28−7.13(m,20H)。
FABMS m/z: 850(M,100%),770(M−Br,71)。
【0121】
H−NMR及びFABMS測定より、4,5,4”,5”−テトラフェニル−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニルが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0122】
【化22】

実施例9 (テトラフェニルジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例8で合成した4,5,4”,5”−テトラフェニル−2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ターフェニル416mg(0.489mmol)及びTHF30mlを添加した。この懸濁溶液を−80℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液3.9ml(3.9mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−75℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)507mg(1.61mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。飽和食塩水及びトルエンを添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にヘキサンを添加し撹拌後、静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥した。残渣をトルエンから再結晶化し、結晶を得た(90mg,収率31%)。
MS m/z: 594(M,100%),297(M/2,15)。
【0123】
MS測定より、テトラフェニルジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0124】
【化23】

実施例10 (2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ジベンゾターフェニル(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例3で合成した2−ブロモ−3−ヨードナフタレン2.03g(6.10mmol)及びTHF12mlを添加した。この溶液を−65℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液9.9ml(6.4mmol)を滴下した。30分間熟成後、その温度で塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液6.4ml(6.4mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、生成した白色スラリー液を減圧濃縮した。得られた白色固体(2−ブロモナフチル−3−マグネシウムブロマイド)(一般式(6)及び(7)の化合物)に、合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン1.41g(2.88mmol)(一般式(5)の化合物)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)285mg(0.247mmol)及びTHF31mlを添加した。60℃で4時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸4mlを添加することで反応を停止させた。全体を減圧濃縮し、溶媒を留去した。析出した固体を濾液が中性になるまで水で洗浄し、さらにクロロホルムとTHFで洗浄した。得られた結晶を減圧乾燥後、結晶を得た(1.20g,収率64%)。
H−NMR(CDCl,60℃):δ=8.22(s,2H),7.90−7.75(m,4H),7.85(s,2H),7.67(s,2H),7.60−7.48(m,4H)。
MS m/z: 646(M,64%),566(M−Br,8),486(M−2Br,34),406(M−3Br,6),326(M−4Br,92),163((M−4Br)/2,100)。
【0125】
H−NMR及びMS測定より、2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ジベンゾターフェニルが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0126】
【化24】

実施例11 (ジベンゾジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例10で合成した2,2’,5’,2”−テトラブロモ−1,1’,4’,1”−ジベンゾターフェニル388mg(0.601mmol)及びTHF27mlを添加した。この懸濁溶液を−80℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液4.8ml(4.8mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−75℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)660mg(2.10mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄した。減圧濃縮し、得られた残渣にトルエンを添加し撹拌後、静置し、上澄み液を取り除き、減圧乾燥し結晶を得た(59mg,収率25%)。
MS m/z: 390(M,100%),195(M/2,11)。
【0127】
MS測定より、ジベンゾジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0128】
【化25】

合成例4 (2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンの合成)
1)1,2−ジドデシルベンゼンの合成
1,2−ジドデシルベンゼンは、「シンセシス」、1993年、387−390頁の方法を参考に1,2−ジクロロベンゼンとn−ドデシルマグネシウムブロマイドから次のように合成した。
【0129】
窒素雰囲気下、200mlシュレンク反応容器に1,2−ジクロロベンゼン2.7ml(24.0mmol)、塩化ニッケル{ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン}66mg(0.12mmol)、及びジエチルエーテル18mlを添加した。0℃に冷却し、n−ドデシルマグネシウムブロマイド(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液65ml(65mmol)を滴下した。35℃で11時間反応後、3N塩酸を加えて反応を停止させた。ジエチルエーテルで抽出し、有機相を水及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。塩化カルシウムで乾燥し、溶媒を減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留し(0.15mmHg)、1,2−ジドデシルベンゼンの液体を得た(8.36g、収率84%)。
【0130】
2)4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸の合成
4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸は「ジャーナル オブ オルガニック ケミストリィー」(米国)、1951年、16巻、1577−1581頁に記載されている方法を参考に4−ブロモ無水フタル酸を原料に用いて次のように合成を行った。
【0131】
100mlの三口フラスコに4−ブロモ無水フタル酸(東京化成工業製)6.42g(28.3mmol)、10%発煙硫酸25ml、及びヨウ素3.60g(14.2mmol)を加えた。110℃に加熱し、4時間反応を行った。室温に冷却後、反応物を氷中へ注いでクエンチした。冷20%水酸化ナトリウム水溶液で処理した後、塩酸を添加し、溶液のpHを6〜7とした。不溶物を濾紙を用いて除去し、さらに塩酸を少しずつ添加し、pHを1以下にした。得られたスラリー液を一晩撹拌した後、生成した沈殿物を濾別し、乾燥した。得られた固体をトルエンで洗浄し、残渣を冷20%水酸化ナトリウム水溶液で処理し溶解させた。酢酸を用いて溶液のpHを3.5とし生成した沈殿物を濾別した。この沈殿物を塩酸で処理した後、さらにトルエンと無水酢酸で処理することで1.10gの4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸を得た(収率11%)。
【0132】
3)2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンの合成
2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンは「ベリヒテ」(独国)、1933年、66B巻、1876−1891頁に記載されている方法を参考に次のように合成を行った。
【0133】
100mlの三口フラスコに上記で合成した4−ブロモ−5−ヨード無水フタル酸1.00g(2.83mmol)、1,2−ジドデシルベンゼン1.29g(3.11mmol)、及びテトラクロロエタン4mlを加えた。そこへ塩化アルミニウム0.82g(6.15mmol)を添加し、室温で3時間撹拌した。得られた反応混合物に氷を少しずつ加えてクエンチした後、トルエンで抽出した。硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、2.5gの粘調物を得た。この粘調物に硫酸8mlを添加し、80℃で2時間撹拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、氷を加えた。トルエンで抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、678mgの2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノンを得た(収率35%)。
【0134】
4)2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンの合成
上記で得た2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラキノン678mgにTHF14mlを加え溶解させた後、水素化ジイソプロピルアルミニウム(関東化学製、0.99M)トルエン溶液2.7ml(2.7mmol)を添加し、室温で2時間撹拌した。氷冷後、6N塩酸5mlを添加した後、65℃に加熱し、4時間反応を行った。トルエン及び食塩水を添加し、分相した。さらに食塩水で洗浄し、有機相を減圧濃縮及び真空乾燥した。得られた残渣に再度、水素化ジイソプロピルアルミニウムを用いた還元、6N塩酸による脱水操作を繰り返した。粗生成物をトルエンから再結晶精製し、469mgの薄黄色固体である2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセンを得た(収率72%)。
【0135】
実施例12 (3,2’,5’,3”−テトラブロモ−6,7,6”,7”−(テトラドデシル)−2,1’,4’,2”−ジナフトターフェニル(テトラハロターフェニル誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に合成例4で合成した2−ブロモ−3−ヨード−6,7−ジドデシルアントラセン461mg(0.640mmol)及びTHF8mlを添加した。この溶液を−60℃に冷却し、イソプロピルマグネシウムブロマイド(関東化学製、0.65M)のTHF溶液1.0ml(0.65mmol)を滴下した。30分間熟成後、−78℃に冷却し、塩化亜鉛(シグマ−アルドリッチ製、1.0M)のジエチルエーテル溶液0.65ml(0.65mmol)を滴下した。徐々に室温まで昇温した後、得られた反応液を減圧濃縮した。得られた残渣に、合成例1で合成した1,4−ジブロモ−2,5−ジヨードベンゼン145mg(0.298mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(東京化成工業製)27.5mg(0.0238mmol)及びTHF8mlを添加した。60℃で7時間反応を実施した後、容器を水冷し3N塩酸3mlを添加することで反応を停止させた。トルエンを添加後、分相し、有機相を食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し溶媒を留去し、さらに真空乾燥した。得られた残渣にトルエンを添加し、70%tert−ブチルハイドロパーオキサイド溶液(和光純薬工業製)(0.06ml)を添加し、室温で2時間撹拌した。この溶液を水洗浄し、有機相を減圧濃縮析出した。残渣をシリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィーで濾過し(溶媒;ヘキサン:クロロホルム=5:2)、濾液を減圧濃縮した。得られた残渣をヘキサンで洗浄、真空乾燥後、254mgの黄色固体を得た(収率60%)。
MS m/z: 1419(M,100%),1339(M−Br,8),1108(M−2C1123,15)。
MS測定より、3,2’,5’,3”−テトラブロモ−6,7,6”,7”−(テトラドデシル)−2,1’,4’,2”−ジナフトターフェニルが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0136】
【化26】

実施例13 (テトラドデシルジナフトジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器に、実施例12で合成した3,2’,5’,3”−テトラブロモ−6,7,6”,7”−(テトラドデシル)−2,1’,4’,2”−ジナフトターフェニル122mg(0.086mmol)及びTHF6mlを添加した。この懸濁溶液を−75℃に冷却し、メタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液0.7ml(0.7mmol)を滴下し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−80℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)108mg(0.344mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。トルエン及び飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンから再結晶精製し、25mgの固体を得た(収率25%)。
MS m/z: 1164(M,100%),582(M/2,14)。
MS測定より、テトラドデシルジナフトジチエノアセンが得られたことを確認した。なお、その構造式を下記に示す。
【0137】
【化27】

実施例14 (テトラドデシルジナフトジチエノアセン(ヘテロアセン誘導体)の合成)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク反応容器を−75℃に冷却し、THF6ml及びメタル化剤としてsec−ブチルリチウム(関東化学製1.0M)のシクロヘキサン/ヘキサン溶液1.0ml(1.0mmol)を添加した。−75℃下で実施例12で合成した3,2’,5’,3”−テトラブロモ−6,7,6”,7”−(テトラドデシル)−2,1’,4’,2”−ジナフトターフェニル132mg(0.093mmol)を投入し、テトラメタル化を行った。20分間撹拌後、−80℃でビス(フェニルスルホニル)スルフィド(アクロス製)117mg(0.372mmol)(一般式(3)及び(4)の化合物)を一気に投入した。徐々に昇温し、一晩かけて室温まで反応温度を上げた。トルエン及び飽和食塩水を添加した後、分相し、さらに有機相を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた残渣をトルエンから再結晶精製し、40mgのテトラドデシルジナフトジチエノアセンを得た(収率37%)。
【0138】
実施例15 (耐酸化性有機半導体材料の合成及びその耐酸化性評価)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器にクロロベンゼン5.4gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ実施例2で得られたテトラチエノアセンの固体5.1mgを添加し、50℃に加熱し溶解させ、テトラチエノアセンを含む耐酸化性有機半導体材料を合成した(山吹色溶液)。次に、このシュレンク容器の上部の栓を開け、1分間、外気に接触させることで空気を導入(耐酸化性評価)し、さらに50℃で撹拌したが、色の変化は見られなかった。したがって、色の変化が見られなかったことから、耐酸化性に優れるものであった。
【0139】
実施例16 (有機薄膜の作成)
窒素雰囲気下、実施例2で得られたテトラチエノアセン2.5mgをクロロベンゼン25gと混合し、70℃で1時間撹拌し、テトラチエノアセンの山吹色溶液を調製した(テトラチエノアセンを含む耐酸化性有機半導体材料の合成)。
【0140】
窒素雰囲気下、凹面のあるガラス基板を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液をスポイトを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚280nmの有機薄膜を作製した。
【0141】
実施例17 (耐酸化性有機半導体材料の合成及びその耐酸化性評価)
窒素雰囲気下、100mlシュレンク容器にクロロベンゼン5.4gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへ実施例14で得られたテトラドデシルジナフトジチエノアセンの固体7.2mgを添加し、70℃に加熱し溶解させ、テトラドデシルジナフトジチエノアセンを含む耐酸化性有機半導体材料を合成した(黄橙色溶液)。次に、このシュレンク容器の上部の栓を開け、1分間、外気に接触させることで空気を導入(耐酸化性評価)し、さらに70℃で撹拌したが、色の変化は見られなかった。したがって、色の変化が見られなかったことから、耐酸化性に優れるものであった。
【0142】
さらにこの溶液を70℃。1時間、撹拌下で空気と接触させても溶液の色の変化は見られず、耐酸化性に優れるものであった。
【0143】
実施例18 (有機薄膜の作成)
窒素雰囲気下、実施例14で得られたテトラドデシルジナフトジチエノアセン4.7mgをクロロベンゼン15gと混合し、70℃で1時間撹拌し、テトラドデシルジナフトジチエノアセンの黄橙色溶液を調製した(テトラドデシルジナフトジチエノアセンを含む耐酸化性有機半導体材料の合成)。
【0144】
窒素雰囲気下、凹面のあるガラス基板を70℃に加熱し、この基板上に上記の溶液をスポイトを用いて塗布し常圧下で乾燥し、膜厚220nmの有機薄膜を作製した。
【0145】
比較例1 (耐酸化性評価)
ペンタセンを用いて耐酸化性を評価した。
【0146】
窒素雰囲気下、20mlシュレンク容器にo−ジクロロベンゼン2.9gを添加し、凍結(液体窒素)−減圧−窒素置換−融解から成るサイクルを3回繰り返すことで溶存酸素を除去した。そこへペンタセン(東京化成工業製)2.5mgを添加し、120℃に加熱し溶解させると赤紫色溶液となった。次にこのシュレンク容器の上部の栓を開け、1分間、外気に接触させることで空気を導入し、さらに120℃で撹拌した。ガスクロマトグラフィー及びガスクロマトグラフィー−マススペクトル(GCMS)分析から、6,13−ペンタセンキノンが生成していることがわかった。
【0147】
さらにこの溶液を120℃、1時間、撹拌下で空気と接触させると溶液の色が黄に変化していた。ガスクロマトグラフィー分析から、6,13−ペンタセンキノンの生成が増加していることがわかった。
【0148】
したがって、溶液の色の変化及び6,13−ペンタセンキノンが生成していることから、酸化が進行しており、耐酸化性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするヘテロアセン誘導体。
【化1】

[(ここで、置換基R〜Rは同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数4〜30のアリール基、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基を示し、T及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素、アルミニウムを示し、l及びmは、各々0又は1の整数であり、環A及びBは同一又は異なって、下記一般式(A−1)又は(A−2)で示される構造を有する。)
【化2】

【化3】

(ここで、置換基R〜R11は同一又は異なって、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素数4〜30のアリール基、炭素数3〜20のアルキル基、炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基を示す。なお、置換基R〜R及びR〜R11は、それぞれに、各置換基内の任意の2つ以上の置換基が互いに結合し、置換基を有していてもよいベンゼン環、置換基を有していてもよいピリジン環、置換基を有していてもよいピラジン環を形成することができ、置換基Tは、硫黄、セレン、テルル、酸素、リン、ホウ素を示し、nは0又は1の整数である。但し、T及びTが硫黄である場合、環A及びBは、(A−1)又は置換基を有する(A−2)で示される環である。))]
【請求項2】
l及びmが各々0であり、且つT及びTは同一又は異なって、硫黄、セレン、テルル、酸素であることを特徴とする請求項1に記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項3】
l及びmが各々1であり、且つT及びTは同一又は異なって、リン、ホウ素、アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項4】
nが0であり、且つTは硫黄、セレン、テルル、酸素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヘテロアセン誘導体。
【請求項5】
一般式(2)で示されることを特徴とするテトラハロターフェニル誘導体。
【化4】

(ここで、置換基X〜Xは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示し、置換基R及びR並びに環A及びBは請求項1に記載の一般式(1)で示される置換基及び環と同意義を示す。)
【請求項6】
一般式(2)において、環A及びBが(A−1)で示される環であることを特徴とする請求項5に記載のテトラハロターフェニル誘導体。
【請求項7】
nが0で、且つTは硫黄、セレン、テルル、酸素であることを特徴とする請求項5又は6に記載のテトラハロターフェニル誘導体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の一般式(2)で示されるテトラハロターフェニル誘導体をメタル化剤を用いてテトラメタル化し、下記一般式(3)及び下記一般式(4)で示される反応剤と反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロアセン誘導体の製造方法。
(R(L (3)
(R(L (4)
(ここで、置換基T、T、R、R及び記号lとmは請求項1に記載の一般式(1)で示される置換基及び記号と同意義を示し、置換基L、Lは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜20のオキシ基、アセトキシ基、アリールスルホニル基を示し、p及びqは0又は2の整数を示す。)
【請求項9】
メタル化剤としてアルキルリチウムを用いることを特徴とする請求項8に記載のヘテロアセン誘導体の製造方法。
【請求項10】
下記一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンと下記一般式(6)及び下記一般式(7)で示される2−ハロアリール金属試薬をパラジウム及び/又はニッケル触媒存在下で反応させることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のテトラハロターフェニル誘導体の製造方法。
【化5】

(ここで、置換基X及びXは臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子を示す。置換基R、R、X及びXは請求項8に記載の一般式(2)で示される置換基と同意義を示す。)
【化6】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基X並びに環Aは、請求項8に記載の一般式(2)で示される置換基並びに環と同意義を示す。)
【化7】

(ここで、Mはマグネシウム、ホウ素、亜鉛、錫、ケイ素のハロゲン化物;ハイドロオキサイド;アルコキサイド;アルキル化物を示し、置換基X並びにB環は、請求項8に記載の一般式(2)で示される置換基並びに環と同意義を示す。)
【請求項11】
一般式(5)で示されるテトラハロベンゼンにおいて、X及びXがヨウ素原子であり、X及びXが臭素原子及び/又は塩素原子であることを特徴とする請求項10に記載のテトラハロターフェニル誘導体の製造方法。
【請求項12】
一般式(6)、一般式(7)のM、MがZnCl、B(OH)であることを特徴とする請求項10又は11に記載のテトラハロターフェニル誘導体の製造方法。
【請求項13】
用いる触媒がテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムであることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のテトラハロターフェニル誘導体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれかに記載のヘテロアセン誘導体を含むことを特徴とする耐酸化性有機半導体材料。
【請求項15】
請求項14に記載の耐酸化性有機半導体材料を用いることを特徴とする有機薄膜。
【請求項16】
有機薄膜が基板上に形成されることを特徴とする請求項15に記載の有機薄膜。

【公開番号】特開2008−81494(P2008−81494A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194346(P2007−194346)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】