説明

ベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造

【課題】可動シーブ背面の油圧室に発生する遠心油圧をバランスさせるバランスチャンバを備えたベルト式無段変速機において、バランスチャンバ用スナップリングの単体での回転を阻止し、バランスチャンバの背面部材及びスナップリングの摩耗を未然に防止することが可能なベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造を提供する。
【解決手段】リング溝154内でバランスチャンバ用スナップリング158がセカンダリ軸150を回転中心とする単体での回転時に、その端部158bが接することでバランスチャンバ用スナップリング158の単体での回転を規制する突部157bをカバー部材157の係止部157aに設ける。その結果、バランスチャンバ用スナップリング158の単体での回転を阻止することができ、カバー部材157及びバランスチャンバ用スナップリング158の摩耗を未然に防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造に関し、さらに詳しくは、ベルト式無段変速機において、バランスチャンバ背面をなす背面部材の軸方向への移動を阻止するバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機にあっては、ベルトを挟み込むプライマリプーリ、セカンダリプーリ共に、プーリ軸と一体の固定シーブと、プーリ軸の長さ方向に向かって移動自在な可動シーブとで構成される。可動シーブの背面に設けられた油圧室に必要油圧が供給されることで可動シーブに推力が与えられ、固定シーブと協働してベルトを挟み込む際の摩擦力により動力伝達が行われる。回転する可動シーブ背面に油圧室が形成されるために、油圧室内のオイル(作動油)には遠心油圧が発生する。遠心油圧によるシーブ推力が、ベルトを滑らさないために必要な推力を上回ってしまうとベルトフリクションの無用な増大が引き起こされる。
そこで、この遠心油圧をバランスさせるため、可動シーブ油圧室の背面にバランスチャンバ(バランス油室)を設けたベルト式無段変速機が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の公報の図4(a)、(b)には、バランスチャンバ(バランス油室)29a背面を形成する背面部材としてのカバー部材27aが、可動シーブ21bの外周部(シリンダ27)内側に設けられたリング溝に嵌合されたバランスチャンバ用スナップリングによって軸方向への移動が阻止される様子が示されている。
【0004】
一般に、カバー部材27aは、その外周部からプーリ軸の半径方向に突設された係止部(図示せず)が可動シーブ21bの外周部(シリンダ27)内側に設けられた凹部に係合することにより可動シーブ21bに回り止めされる。一方、バランスチャンバ用スナップリング(以下、スナップリングと言う)にはカバー部材27aに設けられたような係止部はない。バランスチャンバ用に用いられるスナップリングはC字状に形成されており、その外径をリング溝の内径よりも小とする外力が加えられた状態でリング溝に嵌め込まれ、その外力が取り除かれた際に発生する、スナップリングの外径が元の状態に戻ろうとする弾性力によってリング溝に圧着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−275154号公報(段落0016、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のベルト式無段変速機にあっては、可動シーブは回転しながらベルトを挟圧するので可動シーブには種々の方向から外力が加わる。そのため、可動シーブのリング溝に嵌着しているスナップリングは、可動シーブに加わる外力によってその外径がリング溝よりも小となる方向に向かって弾性変形をする虞がある。
リング溝内にて外径がリング溝よりも小となる方向に向かって弾性変形したスナップリングは、圧着力が低下するためプーリ軸を回転中心とする回転を単体で行ってしまい、スナップリングとカバー部材との互いの接合面が摩耗してしまう。
【0007】
本発明は上記背景により、ベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの単体での回転を阻止し、バランスチャンバの背面部材及びスナップリングの摩耗を未然に防止することが可能なベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明のベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造は、可動シーブを軸方向に向かって移動自在に支持するプーリ軸と、前記可動シーブに推力を与える油圧室と、前記油圧室に発生する遠心油圧をバランスさせるバランスチャンバと、前記バランスチャンバの背面をなし、かつ外周部に前記可動シーブの外径部内側に係止する係止部を有する背面部材と、外力が加わっていない状態で両端部の間に隙間が形成され、前記可動シーブの外径部内側のリング溝に嵌め込まれると前記背面部材の軸方向の移動を阻止するバランスチャンバ用スナップリングとを備えたベルト式無段変速機において、
前記背面部材の係止部に、前記バランスチャンバ用スナップリングが単体での回転をしたときにその端部が接し前記回転を規制する突部が設けられていることを構成要件とする。
【0009】
ベルト式無段変速機にあっては、ベルトを挟み込むプライマリプーリ(駆動側プーリ)、セカンダリプーリ(従動側プーリ)共に、プーリ軸には固定シーブが一体形成、もしくは固定され、可動シーブがプーリ軸の長さ方向に向かって移動自在に支持される。可動シーブ背面は、プランジャによって油圧室とバランスチャンバとに区画され、油圧室に必要油圧が供給されることで可動シーブに推力が与えられ、動力伝達や変速が行われる。可動シーブの回転時に油圧室内のオイル(作動油)に発生する遠心油圧は、バランスチャンバにオイル(作動油)が供給されることでバランスされる(打ち消される)。
油圧室及びバランスチャンバへのオイル供給は、プーリ軸に設けられた個別の油路により行われる。これは、油圧室に供給される必要油圧とバランスチャンバに供給される必要油圧とが異なるためである。
【0010】
バランスチャンバは、可動シーブの外周部、プランジャ及び背面部材により形成される。背面部材は、その外周部からプーリ軸の半径方向に向かって突設された係止部が可動シーブの外周部内側に設けられた凹部に係合することにより可動シーブに回り止めされる。この背面部材の背面に接することにより、プーリ軸の軸方向の移動を規制してプーリ軸に抜け止め固定するのがバランスチャンバ用スナップリングである。
【0011】
バランスチャンバ用スナップリングはC字状の穴用スナップリングが用いられる。このバランスチャンバ用スナップリングには背面部材に設けられたような係止部はなく、その外径を可動シーブ外周部内側のリング溝の内径よりも小とする外力が、例えばスナップリングプライヤ等の着脱専用工具により加えられた状態でリング溝に嵌め込まれ、その外力が取り除かれた際に発生する、外径が元の状態に戻ろうとする弾性力によってリング溝に圧着する。
【0012】
背面部材は係止部により可動シーブの外周部内側に回り止めされるのに対し、バランスチャンバ用スナップリングは弾性力によってリング溝に圧着することから、バランスチャンバ用スナップリングを背面部材に回り止めさせてやれば、バランスチャンバ用スナップリングの外径がリング溝よりも小となる方向に外力が加わったとしても、バランスチャンバ用スナップリングが単体で回転するのを規制することが可能となる。
【0013】
そこで、背面部材の係止部に、バランスチャンバ用スナップリングが単体での回転をしたときにその端部が接しその回転を規制する突部を設ける(請求項1)。具体的に、突部は、係止部からプーリ軸の軸方向リング溝側に向かって突設されることによって、バランスチャンバ用スナップリングの端部が接することが可能となり、バランスチャンバ用スナップリング単体での回転を規制する(請求項2)。突部は、バランスチャンバ用スナップリングの端部が接したときにバランスチャンバ用スナップリング単体での回転を規制すればよいので、バランスチャンバ用スナップリングの端部が接する面部(外周部)の形状は直線形状、湾曲形状、凹凸形状等、任意である。
これによれば、バランスチャンバ用スナップリングは、その外径がリング溝よりも小となる方向に外力が加わり単体で回転したときに、その端部が突部に接することでバランスチャンバ用スナップリング単体での回転が規制される。
【0014】
突部は、リング溝底部と間隔が無い状態で配される場合と、リング溝底部と間隔をあけて配される場合とがある。
リング溝底部と間隔が無い場合は、バランスチャンバ用スナップリングの端部が突部と接することでバランスチャンバ用スナップリング単体での回転が規制される。
これに対し、突部がリング溝底部と間隔をあけて配される場合、バランスチャンバ用スナップリングの端部をリング溝底部と突部との対向面間に進入させて、バランスチャンバ用スナップリングの端部が突部に接した際にバランスチャンバ用スナップリングの端部をリング溝底部に向かって押し付ける傾斜部もしくは湾曲部をバランスチャンバ用スナップリングの端部に設けることでバランスチャンバ用スナップリング単体での回転を規制することができる(請求項3)。これによれば、バランスチャンバ用スナップリングの端部は、リング溝底部と突部との対向面間に進入した際に、その傾斜部もしくは湾曲部が突部に接するとリング溝底部に向かって押し付けられることよりくさび効果が発生する。従って、バランスチャンバ用スナップリングの回り止めが確実になされる。その上、バランスチャンバ用スナップリングの外径がリング溝よりも小となる外力が加わった際、バランスチャンバ用スナップリングがリング溝から脱落するのを阻止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
背面部材の係止部に、バランスチャンバ用スナップリングの単体での回転時にその端部が接することでバランスチャンバ用スナップリングの単体での回転を規制する突部を設けたことで、バランスチャンバ用スナップリングの単体での回転を阻止することができ、カバー部材及びスナップリングの摩耗を未然に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ベルト式無段変速機において、カバー部材の係止部に形成された突部とバランスチャンバ用スナップリングとの配置状態を示した断面図である。
【図2】図1(a)中のA矢視図である。
【図3】可動シーブ、カバー部材及びバランスチャンバ用スナップリングの分解斜視図である。
【図4】バランスチャンバ用スナップリングの端部がリング溝底部と突部との対向面間に進入して突部に接した際に、バランスチャンバ用スナップリングの端部がリング溝底部に向かって押し付けられる様子を説明するための模式図である。
【図5】ベルト式無段変速機全体を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
図1は、可動シーブ152を軸方向に向かって移動自在に支持するセカンダリ軸(プーリ軸)150と、可動シーブ152に推力を与えるセカンダリ油圧室(油圧室)153と、このセカンダリ油圧室(油圧室)153に発生する遠心油圧をバランスさせるバランスチャンバ156と、バランスチャンバ156の背面をなし、かつ外周部に可動シーブ152の外径部内側に係止する係止部157aを有する背面部材としてのカバー部材157と、外力が加わっていない状態で両端部の間に隙間が形成され、可動シーブ152の外径部内側のリング溝154aに嵌め込まれるとカバー部材157のプーリ軸方向の移動を阻止するバランスチャンバ用スナップリング(以下、スナップリングという)158とを備えたベルト式無段変速機1において、
カバー部材157の係止部157aに、スナップリング158がセカンダリ軸(プーリ軸)150を回転中心とする単体での回転時にその端部158bが接しスナップリング単体での回転を規制する突部157bが設けられている構成例を示す。
図3に示すように、スナップリング158はC字状の穴用スナップリングが用いられ、開口部158aを挟んだ両端部158b、158bには、リング溝154aに着脱する際に用いられる着脱専用工具(例えばスナップリングプライヤ)の爪が差し込まれる挿入部158cがそれぞれ形成される。
【0019】
初めにベルト式無段変速機1全体の説明をする。図4に示すように、エンジン2の動力は、クランクシャフト3に接続されたドライブプレート4から、トルクコンバータ5のポンプインペラ6、それに向き合ったタービンランナ7、タービンランナ7に接続されたインプットシャフト8を経て前後進切換装置9のプラネタリギヤ10に伝達される。
【0020】
前後進切換装置9は、プラネタリギヤ10、フォワードクラッチ11及びリバースブレーキ12を有している。前進時には、フォワードクラッチ11を係合させてプラネタリギヤ10をロックさせることで、入力時の回転方向そのままで減速せずに変速部13のプライマリプーリ14に動力が伝達される。後進時には、フォワードクラッチ11を開放し、リバースブレーキ12を係合させてプラネタリギヤ10を差動させることで、その入力を逆回転し、かつ減速して変速部13のプライマリプーリ14に動力が伝達される。
【0021】
変速部13は、詳しくは後述するが、プライマリプーリ14、セカンダリプーリ15及び駆動ベルト16を有している。プライマリプーリ14に伝達された動力は、駆動ベルト16からセカンダリプーリ15に伝達される。セカンダリプーリ15に伝達された動力は、セカンダリ軸150の出力ギヤ150bからディファレンシャル装置17、ドライブシャフト18を経て車輪19に伝達される。
【0022】
変速部13について説明する。変速部13は、プライマリ軸(入力側のプーリ軸)140に配されるプライマリプーリ14と、このプライマリプーリ14に対向してセカンダリ軸(出力側のプーリ軸)150に配されるセカンダリプーリ15と、これらプライマリプーリ14及びセカンダリプーリ15に巻装される駆動ベルト16とを有している。
【0023】
プライマリプーリ14は、プライマリ軸140に固定された固定シーブ141と、この固定シーブ141に対向してプライマリ軸140の長さ方向に移動自在な可動シーブ142とを有している。可動シーブ142の背面に、可動シーブ142に推力を与えるプライマリ油圧室(ただ単に油圧室とも言う)143が、可動シーブ142の外周部144と、この外周部144に接するプランジャ145とにより形成される。また、このプライマリ油圧室143の背面側に、プラマリ油圧室143の遠心油圧をバランスさせるためのバランスチャンバ146が、可動シーブ142の外周部144と、この外周部144に固定されたカバー部材147とにより形成される。すなわち、プライマリ油圧室143とバランスチャンバ146とはプランジャ145によって区画される。
【0024】
セカンダリプーリ15は、セカンダリ軸150に固定された固定シーブ151と、この固定シーブ151に対向してセカンダリ軸150の長さ方向に移動自在な可動シーブ152とを有している。可動シーブ152の背面に、可動シーブ152に推力を与えるセカンダリ油圧室(ただ単に油圧室とも言う)153が、可動シーブ152の外周部154と、この外周部154に接するプランジャ155とにより形成される。また、このセカンダリ油圧室153の背面側に、セカンダリ油圧室153の遠心油圧をバランスさせるためのバランスチャンバ156が、可動シーブ152の外周部154と、この外周部154に固定されたカバー部材157とにより形成される。すなわち、セカンダリ油圧室153とバランスチャンバ156とはプランジャ155によって区画される。
【0025】
セカンダリ油圧室153には、エンジン2によって駆動されるオイルポンプ20の吐出圧を調圧したライン圧がセカンダリプーリ軸150の回転軸回りに設けられた油路161(図1に図示)から供給される。また、プライマリ油圧室143には、ライン圧を減圧したプライマリ圧がプライマリプーリ軸140に設けられた油路(図示せず)から供給される。油圧室143に作動油圧が供給されると可動シーブ142は推力により固定シーブ141と共に駆動ベルト16を挟み込む。また、油圧室153に作動油圧が供給されると、可動シーブ152は推力により固定シーブ151と共に駆動ベルト16を挟み込む。そして、その際の摩擦力によりプライマリプーリ14とセカンダリプーリ15との間で動力伝達が行われると共に、各プーリ溝が可変に設定されることにより変速比制御が行われる。
【0026】
ライン圧及びプラマリ圧は油圧制御装置(図示せず)により制御される。油圧制御装置は、例えば、車速、スロットル開度、セカンダリプーリ回転数等と、予め最適な変速パターンが記憶されているマップデータとを用いて変速比の制御目標値を設定し、変速比の制御目標値と、実プライマリプーリ回転数及び実プライマリプーリ回転数から演算される実変速比との偏差に基づいてプライマリ圧を制御する。また、油圧制御装置は、変速比とエンジントルクとに基づいて駆動ベルト16によるトルク伝達に必要なライン圧の制御目標値を設定し、センサを用いて検出した実際のライン圧と目標ライン圧との偏差に基づいて、オイルポンプ20の吐出圧を調圧する。
【0027】
また、油圧制御装置は、バランスチャンバ146、156に作動油を供給して、プライマリプーリ14及びセカンダリプーリ15の回転時にプライマリ油圧室143内のオイル及びセカンダリ油圧室153内のオイルに発生する遠心油圧をバランスさせる。以下では、セカンダリプーリ15の可動シーブ152の背面側のバランスチャンバ156にオイルを供給するオイル供給回路の説明をする。
【0028】
図1に示すように、バランスチャンバ156にオイルを供給するセカンダリ軸(プーリ軸)150の油路159は、セカンダリ軸150の回転中心軸回りに形成された主油路部159aと、この主油路部159aから半径方向に延びて外周部に至る油孔部159bと、この油孔部159bが至った外周部に設けられた全周溝159cとを有している。
【0029】
セカンダリ軸150の外周部に設けられたスプライン溝部150aに回転部材21がスプライン嵌合している。回転部材21は、その長さ方向両端がセカンダリ軸150の段部150bと、セカンダリ軸150に抜け止め固定されたベアリング22とに挟まれることでセカンダリ軸150に抜け止め固定される。回転部材21の外周部は凸状に形成され、その中央部全周に亘って歯部210が一体形成される。従って、回転部材21をセカンダリ軸150からディファレンシャル装置17に向かって駆動力を伝達する出力ギヤ150bの代わりとして用いることが可能である。
【0030】
回転部材21は、セカンダリ軸150の全周溝159cと連通し、セカンダリ軸150の油路159からのオイルを回転部材21の内周部から外周部に供給(給排)する油路211を有している。この油路211は、回転部材21の内周部から外周部に至る油孔部211aと、この油孔部211aの両端部にそれぞれ形成された全周溝部211b、211cとを有している。内周部の全周溝部211bはセカンダリ軸150の全周溝部159aと連通し、外周溝の全周溝部211cはガイド部材23に設けられた油路231に連通される。
【0031】
ガイド部材23は、その内周部がプランジャ155と共に回転部材21の可動シーブ側外周部212a、212bに固定され、外周部230aはプランジャ155との間に間隔Sをあけて配される。このガイド部材23の内周部から外周部230aに至るまでの中間部230bは回転部材21の半径方向に延びている。また、外周部230aはセカンダリ軸150の長さ方向に延びてその先端部(開放端部)がバランスチャンバ156内に至っている。また、このガイド部材23の外周部230aにカバー部材157の内周部が摺動可能に接する。
【0032】
このガイド部材23は、回転部材21の全周溝211cと連通し、回転部材21からのオイルをバランスチャンバ156の内周部に供給する油路231を有している。油路231は切り欠き形成された切欠き油路部であり、ガイド部材23の内周部に沿って等間隔に複数形成される。
【0033】
ガイド部材23の内周部がプランジャ155と共に回転部材21の外周部212a、212bに固定されることで、プランジャ155、回転部材21及びガイド部材23は一体化される。一体化されたプランジャ155とガイド部材23とにあっては、ガイド部材23の外周部230aとプランジャ155との間にはセカンダリ軸(プーリ軸)150の半径方向に向かった間隔Sがあけられている。この間隔Sは、ガイド部材23の外周部230aとプランジャ155との対向面間からバランスチャンバ156へオイルが供給(給排)可能とされる間隔とされる。
【0034】
プランジャ155は、ガイド部材23の油路231と連通し、ガイド部材23からのオイルを前記したガイド部材23の外周部230aとバランスチャンバ156との間の隙間Sに供給する油路155aを有している。この油路155aは、プランジャ155の内周部から半径方向に向かって等間隔に複数形成された溝状の油路(油溝)である。なお、セカンダリ油圧室153において、プランジャ155と可動シーブ152の背面側との間に、可動シーブ152に初期推力を与えるスプリング160が配される。
【0035】
ガイド部材23の油路231とプランジャ155の油路155aとの油路幅は、少なくとも1組のガイド部材23の油路231とプランジャ155の油路155aとが同位相になって、油路(オイル供給回路)が塞がれないように設定される。これにより、セカンダリ軸150に対する回転部材21、ガイド部材23及びプランジャ155の固定に際し、各部材間での位置決めの必要が無く、セカンダリ軸150の油路159からバランスチャンバ156に至る油路の引き回しが成立する。
なお、プライマリプーリ14の可動シーブ142の背面側のバランスチャンバ146にオイルを供給するオイル供給油路も同様に形成される。
【0036】
従って、プランジャ155、回転部材21及びガイド部材23に、セカンダリ軸150の油路159に連通し、ガイド部材23の外周部230aとプランジャ155との対向面間にオイルを供給する油路(油孔部211a、全周溝211b、全周溝211c、油路231、油路155a)が備えられることによってバランスチャンバ156にオイルを供給することが可能とされる。
【0037】
ここで、スナップリングの回り止め構造の説明を行う。なお、以下にあってはセカンダリプーリ15側におけるバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造について説明するが、プライマリプーリ14側にも適用することができる。
図1〜図3に示すようにカバー部材157は、その外周部から半径方向に突設された係止部157aが可動シーブ152の外周部154内側に凹設された被係止部154aに係止し、回り止めされる。このカバー部材157の背面にはスナップリング158が配され、前面(バランスチャンバ156側)にはシール材162(図1に図示)が配される。
【0038】
スナップリング158は、その外径をリング溝154の内径よりも小とする外力が、例えばスナップリングプライヤ等の着脱専用工具により加えられた状態、かつスナップリング158の開口部158a(端部158b、158b間のこと)に係止部157aを位置させた状態でリング溝154に嵌め込まれ、その外力が取り除かれた際に発生する、外径が元の状態に戻ろうとする弾性力によってリング溝154bに圧着している。リング溝154bに圧着したスナップリング158の前面がカバー部材157の背面外周部に圧接することで、カバー部材157はその軸方向の移動が規制され可動シーブ152に抜け止め固定される。
【0039】
前記したようにカバー部材157は係止部157aが可動シーブ152の外周部154内側の被係止部154aに係止、回り止めされるのに対し、スナップリング158は弾性力によってリング溝154bに圧着している。従って、スナップリング158をカバー部材157に回り止めさせることにより、スナップリング158の外径がリング溝154bよりも小となる方向に外力が加わったとしても、スナップリング単体での回転が規制されることとなる。
【0040】
そこで、スナップリング158がセカンダリ軸(プーリ軸)150を回転中心とする単体での回転(この場合の回転方向は可動シーブ152の回転方向に対して正方向、逆方向何れであってもよい)をしたときに、スナップリング158の端部158bが接することでスナップリング158の単体での回転を規制する突部157bがカバー部材157の係止部157aに設けられる。
【0041】
突部157bは、係止部157aからセカンダリ軸(プーリ軸)150の軸方向リング溝側(可動シーブ152の背面側)に向かって突設されることによって、単体で回転し始めたスナップリング158の端部158bが接することが可能なる。従って、突部157bは、単体で回転し始めたスナップリング158の端部158bが接した状態にあっては、スナップリング158がそれ以上回転しないように回転を規制する。
なお、突部157bの背面視は、図2、図4に示すように係止部157aの背面視とほぼ同一とされているが、スナップリング158の端部158bが接した際にスナップリング158の回転を規制するのであれば、背面視形状、リング溝側への突出量(厚さ)等は任意である。また、スナップリング158の端部158bと突部157bとの接合部に互いに係合自在な凹凸部を設けることができる。
【0042】
また、突部157bは、リング溝154bの底部154cと間隔がなく形成される場合(図2参照)と、間隔S1をあけて形成される場合(図4参照)とがある。
【0043】
図2に示すように、突部157bとリング溝154bの底部154cと間隔が無い場合、つまり突部157bがリング溝154bの底部154cに接している場合は、スナップリング158の外径がリング溝154bよりも小となる方向に外力が加わり、スナップリング158が単体で回転し始めるとスナップリング158の端部158bが突部157bに接することでスナップリング単体での回転が規制される。この場合、後述する、スナップリング158の端部158bにおいて外径側端部間よりも内径側端部間の方の隙間を大とする傾斜形状(もしくは湾曲形状)を有している傾斜部(もしくは湾曲部)158dを配するか否かは任意である。傾斜部(もしくは湾曲部)158dを配した場合にはくさび効果(後述する)が発生する。
【0044】
一方、図4に示すように、突部157bがリング溝154bの底部154cと間隔S1をあけている場合にあっては、スナップリング158の端部158bをリング溝154bの底部154cと突部157bとの対向面間(間隔S1)に進入させて、スナップリング158の端部158bが突部157bに接するとスナップリング158の端部158bをリング溝154bの底部154cに向かって押し付ける傾斜部(もしくは湾曲部)158dがスナップリング158の端部158bの内周側に設けられる。この傾斜部(もしくは湾曲部)158dは、スナップリング158の端部158bにおいて外周側端部間よりも内周側端部間の方の隙間を大とする傾斜形状(もしくは湾曲形状)を有している。
【0045】
これによれば、スナップリング158は、その端部158bがリング溝154bの底部154cと突部157bとの対向面間に進入した際に、その傾斜部(もしくは湾曲部)158dが突部157bに接するとリング溝154bの底部154cに向かって押し付けられることよりくさび効果が発生する。従って、くさび効果により、スナップリング158の回り止めが確実になされるうえに、スナップリング158の外径がリング溝154bよりも小となる外力が加わった際、スナップリング158がリング溝154bから脱落するのを阻止することが可能となる。
【0046】
なお、突部157bがリング溝154bの底部154cと間隔S1をあけている場合において、スナップリング158の端部158bに傾斜部(もしくは湾曲部)158dを設けない場合もある。この場合、スナップリング158が単体で回転し始めるとスナップリング158の端部158bが突部157bに接することでスナップリング単体での回転が規制される。
【符号の説明】
【0047】
1…ベルト式無段変速機
13…変速部

14…プライマリプーリ、140…プライマリ軸(プーリ軸)、141…固定シーブ、142…可動シーブ、143…プライマリ油圧室(油圧室)144…可動シーブの外周部、145…プランジャ、146…バランスチャンバ、147…カバー部材

15…セカンダリプーリ、150…セカンダリ軸(プーリ軸)、150a…スプライン溝、150b…出力ギヤ、151…固定シーブ、152…可動シーブ、153…セカンダリ油圧室(油圧室)、154…可動シーブの外周部、154a…被係止部、154b…リング溝、154c…底部、155…プランジャ、156…バランスチャンバ、159a…主油路部、159b…油孔部、159c…全周溝、160…スプリング、161…油路、162…シール材

157…カバー部材(背面部材)、157a…係止部、157b…突部

158…スナップリング(バランスチャンバ用スナップリング)、158a…開口部、158b…端部、158c…挿入部、158d…傾斜部(湾曲部)

16…駆動ベルト、21…回転部材、210…歯部、211…油路、211a…油孔部、211b…全周溝、211c…全周溝、212a…外周部、212b…外周部、23…ガイド部材、230a…外周部、230b…中間部、231…油路(切欠き油路部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動シーブを軸方向に向かって移動自在に支持するプーリ軸と、前記可動シーブに推力を与える油圧室と、前記油圧室に発生する遠心油圧をバランスさせるバランスチャンバと、前記バランスチャンバの背面をなし、かつ外周部に前記可動シーブの外径部内側に係止する係止部を有する背面部材と、外力が加わっていない状態で両端部の間に隙間が形成され、前記可動シーブの外径部内側のリング溝に嵌め込まれると前記背面部材の軸方向の移動を阻止するバランスチャンバ用スナップリングとを備えたベルト式無段変速機において、
前記バランスチャンバ用スナップリングが前記プーリ軸を回転中心とする単体での回転をしたときに、前記バランスチャンバ用スナップリングの端部が接することで前記バランスチャンバ用スナップリング単体での回転を規制する突部が前記カバー部材の係止部に設けられていることを特徴とするベルト式無段変速機のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造。
【請求項2】
前記突部は、前記係止部から前記プーリ軸の軸方向リング溝側に向かって突出していることを特徴とする請求項1に記載のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造。
【請求項3】
前記バランスチャンバ用スナップリングの端部が前記突部に接した際に前記バランスチャンバ用スナップリングの端部を前記リング溝の底部に向かって押し付ける傾斜部もしくは湾曲部が前記バランスチャンバ用スナップリングの端部に設けられていることを特徴とする請求項1もしくは請求項2に記載のバランスチャンバ用スナップリングの回り止め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−223255(P2010−223255A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68412(P2009−68412)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】