説明

ベルト駆動制御装置及び画像形成装置

【課題】減速機構の変動成分やモータの偏心成分も抑えて、高精度なベルト駆動を行うことができるベルト駆動制御装置を提供する。
【解決手段】駆動軸14の回転角度を検出する駆動軸エンコーダセンサ18と、無端ベルト3上のエンコーダパターン24を検出するベルトエンコーダセンサ19を有し、ベルトエンコーダセンサ19からの検出信号に基づいてベルト表面速度を演算するベルト速度演算部30と、駆動軸エンコーダセンサ18からの検出信号に基づいて駆動軸速度を演算する駆動軸速度検算部31を有し、ベルト目標速度とベルト速度演算部30で算出されたベルト表面速度とを比較して、ベルト表面速度の補償演算を行うベルト速度補償器33を有する第1の速度制御ループと、ベルト速度補償器33の出力と駆動軸速度検算部31の出力を比較して、駆動軸速度の補償演算を行う駆動軸速度補償器35を有する第2の速度制御ループとを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、プリンタ等の画像形成装置に使用される中間転写ベルトなどの無端ベルトの駆動を制御するベルト駆動制御装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式のカラー画像形成装置として、例えば、複数の感光体ドラムにそれぞれ形成された各色のトナー画像を移動する無端ベルト状の中間転写ベルト上に順次重ね合わせるようにして転写(一次転写)して、中間転写ベルト上に転写されたカラー画像を2次転写部材により用紙等の被記録材に転写する構成の画像形成装置が知られている。
【0003】
このような画像形成装置では、中間転写ベルトの移動速度が変動すると、各色のトナー画像の重ね合わせ位置がずれて色ずれ等の不具合が生じる。前記のような中間転写ベルトの速度変動を防止するために、中間転写ベルトの駆動系にはベルト駆動制御装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1では、検出手段で検出されたベルト(画像形成ベルト)の走行速度情報から、特定の周波数成分を強調するフィルタ手段によってフィルタリングされた速度情報に基づいて中間転写ベルト(画像形成ベルト)の走行速度を制御するようにしている。
【特許文献1】特開2000−356936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1では、ベルトの厚み変動や駆動ローラの偏心の影響を、ベルト表面速度をフィードバック制御することによって抑えることができ、また、摩擦等の定常的な外乱は、モータのモータ速度をフィードバック制御することによって抑えることができる。しかしながら、減速機構の変動成分や駆動モータの回転成分の影響を抑えるためには、ベルト表面速度のフィードバック制御系のループで補償する必要がある。そのため、ベルト表面速度のフィードバック制御系のループを、減速機構の変動成分やモータの回転成分よりも高い周波数まで応答させる必要がある。
【0006】
しかしながら、画像形成装置に用いられるベルト駆動系の機械共振周波数は、通常1000Hz以下であり、これが制約条件となるため制御系の応答周波数を高く設定できない。そのため、ベルト表面速度のフィードバック制御系のループでは、減速機構の変動成分やモータの偏心成分を抑えることができない。例えば、ベルト駆動系の共振周波数が500Hzで、モータの回転周波数が40Hzの場合、モータによる40Hzの外乱をベルト表面速度のフィードバック制御系のループでは抑えることができない。
【0007】
また、モータの回転速度を検出するエンコーダでは、減速機構の変動成分やモータの偏心成分を検出できないため、応答周波数を高く設定できた場合でも、減速機構の変動成分や駆動モータの偏心成分を抑えることができない。
【0008】
更に、前記特許文献1では、駆動ローラの偏心を抑えるためのフィルタをベルト表面速度のフィードバック制御系に直列に入れているが、複数の速度モードを備える画像形成装置では、各速度モードごとにフィルタのパラメータを用意する必要があり、また応答周波数を広げられないフィードバック制御系に対してフィルタを入れると、位相遅れの影響が大きくなったり、前記ベルト駆動系の機械共振周波数と干渉してしまう等の不具合が生じ、フィードバック制御系の不安定化要因を増加させる。
【0009】
図25は、モータ電圧からベルト速度(図のa)とモータ電圧から駆動軸速度(図のb)の周波数応答を示したものである。これからも、中間転写ベルト機構の機械共振周波数以上の周波数となるとベルト表面速度の位相が遅れることより、ベルト表面速度のフィードバック制御だけでは、減速機構の偏心やモータの回転ムラを抑制できないことが分かる。
【0010】
そこで、本発明は、ベルト表面速度のフィードバック制御系のループを、減速機構の変動成分やモータの回転成分よりも高い周波数まで応答できるようにし、更に、減速機構の変動成分やモータの偏心成分も抑えて、高精度なベルト駆動を行うことができるベルト駆動制御装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、駆動軸に連結された駆動ローラと複数の従動ローラ間に張架された無端ベルトを、前記駆動軸に減速機構を介して連結されたモータの回転により駆動するときにベルト駆動制御を行う制御部を有するベルト駆動制御装置であって、前記駆動軸近傍に設けた、該駆動軸の回転角度を検出するための回転角度検出手段と、前記無端ベルトの移動量を検出するために該無端ベルトに設けられたマーカーを検出するマーカー検出手段とを有し、前記制御部は、前記マーカー検出手段から入力される検出信号に基づいて、移動する前記無端ベルトのベルト表面速度を演算する第1の速度演算手段と、前記回転角度検出手段から入力される検出信号に基づいて、回転する前記駆動軸の駆動軸速度を演算する第2の速度演算手段とを有し、更に、ベルト目標速度と前記第1の速度演算手段で算出されたベルト表面速度とを比較して、移動する前記無端ベルトのベルト表面速度の補償演算を行う第1の速度補償器を有する第1の速度制御ループと、前記第1の速度補償器の出力と前記第2の速度演算手段の出力を比較して、前記駆動軸速度の補償演算を行う第2の速度補償器を有する第2の速度制御ループとを備えたことを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記制御部での制御演算は、デジタル演算器によって実行され、前記第1の速度演算手段は、前記無端ベルトに設けた前記マーカーによって発生されるパルス信号のタイミングで、前記デジタル演算器によりソフトウェア的に演算されるものであり、前記第2の速度演算手段は、前記回転角度検出手段の出力パルス信号のタイミングで、前記デジタル演算器によりソフトウェア的に演算されるものであることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記第1の速度演算手段では、ベルト目標速度とベルト表面速度とを比較して速度偏差を求め、該速度偏差のローパスフィルタ処理演算を実行してから、前記第1の速度補償器にその処理演算値を渡すことを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記第1の速度補償器は積分要素を備えていることを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、前記第1の速度演算手段では、ベルト目標速度とベルト表面速度を比較して速度偏差を求める演算と、前記第1の速度補償器の一部である積分演算を実行してから、前記第1の速度補償器にその処理演算値を渡すことを特徴としている。
【0016】
請求項6に記載の発明は、前記第2の速度制御ループでは、該第2の速度制御ループに入力される前記第1の速度補償器の出力である駆動軸の目標速度と前記第2の速度演算手段の出力である駆動軸速度とから駆動軸速度偏差を算出して、算出した該駆動軸速度偏差から所定の周波数のみを取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段の出力に所定ゲインを乗算して、前記第2の速度補償器の出力へ加算する加算手段とを備えていることを特徴としている。
【0017】
請求項7に記載の発明は、前記第2の速度制御ループでは、前記第2の速度演算手段の出力である駆動軸速度から所定の周波数のみを取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段の出力に所定ゲインを乗算して、前記第2の速度補償器の出力へ加算する加算手段とを備えていることを特徴としている。
【0018】
請求項8に記載の発明は、前記フィルタ手段の演算は、前記第2の速度演算手段によって演算されることを特徴としている。
【0019】
請求項9に記載の発明は、前記第2の速度制御ループの目標速度を、前記第1の速度補償器の出力もしくはベルト目標速度に所定ゲインを乗算した値に切り換えるための切換え部を備えていることを特徴としている。
【0020】
請求項10に記載の発明は、ベルト目標速度に所定ゲインを乗算して、前記第1の速度補償器の出力に加算する加算手段を備え、前記第2の速度制御ループの目標速度とすることを特徴としている。
【0021】
請求項11に記載の発明は、前記第2の速度制御ループの目標速度として前記第1の速度補償器の出力を、オン/オフする切換え部を備えていることを特徴としている。
【0022】
請求項12に記載の発明は、前記第1の速度制御ループの応答周波数を、前記無端ベルトの厚み変動の周波数および前記駆動軸の回転周波数よりも高く設定する第1の速度補償器を備えていることを特徴としている。
【0023】
請求項13に記載の発明は、前記第2の速度制御ループの応答周波数を、前記モータの回転周波数よりも高く設定する第2の速度補償器を備えていることを特徴としている。
【0024】
請求項14に記載の発明は、前記駆動ローラと前記従動ローラの慣性モーメント、前記無端ベルトの剛性、前記減速機構の連結部の剛性のいずれか1つ以上によって発生する機械共振を抑えるための手段を、前記第1の速度補償器が備えていることを特徴としている。
【0025】
請求項15に記載の発明は、駆動ローラと複数の従動ローラ間に張架された無端ベルトを備えた画像形成装置において、前記無端ベルトの駆動制御を行うベルト駆動制御装置として、請求項請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置を備えていることを特徴としている。
【0026】
請求項16に記載の発明は、前記無端ベルトは、感光体上に形成された複数色の画像が重ね合わされて転写される中間転写ベルトであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
請求項1に記載の発明によれば、第1の速度制御ループにベルト表面速度のフィードバックループを、第2の速度制御ループに駆動軸速度のフィードバックループをそれぞれ備えることによって、定常的な外乱成分とモータや減速機構の回転成分を第2の速度制御ループで抑制し、駆動軸(駆動ローラ)の回転成分と無端ベルトの厚み変動等の低い周波数成分を第1の速度制御ループで抑制することができるので、高精度なベルト駆動が可能となるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば、演算器による速度検出機構を備えることによって、特別なハードウェアが不要となる。加えて、検出された速度に対しフィルタ処理等の自由度を向上できるベルト駆動制御装置を提供するこができる。
【0029】
請求項3に記載の発明によれば、検出速度に対しフィルタ処理を行うことによって、速度のサンプリングと制御サンプリングが異なる場合に発生する不具合を改善できるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0030】
請求項4に記載の発明によれば、積分要素をベルト速度制御補償器に備えることによって、ベルト表面速度の速度偏差を抑制できるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0031】
請求項5に記載の発明によれば、積分要素の演算を速度演算と同時に行うことによって、速度のサンプリングと制御サンプリングが異なる場合に発生する不具合の改善と、ベルト表面速度の速度偏差の抑制を同時にできるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0032】
請求項6に記載の発明によれば、特定の周波数成分を取り出し、加算する加算手段を第2の速度制御ループに備えることにより、第2の速度補償器によって設定される通常のゲインでは抑制しきれない特定の周波数成分を抑制できるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0033】
請求項7に記載の発明によれば、特定の周波数成分を取り出し、加算する加算手段を第2の速度制御ループに備えることにより、第2の速度補償器によって設定される通常のゲインでは抑制しきれない特定の周波数成分を抑制できるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0034】
請求項8に記載の発明によれば、特定周波数成分を取り出すフィルタの演算周期を第2の速度演算手段とすることによって、ベルト表面速度を変えても特定周波数成分を抽出するフィルタを切り換えることのない構成を備えたベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0035】
請求項9に記載の発明によれば、切換え部を備えたことによって、第2の速度制御ループ単体でも駆動できる構成を備えたベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0036】
請求項10に記載の発明によれば、所定の値を第1の速度補償器の出力に加算する手段を備えたことによって、第1の速度制御ループの応答の遅れを補償できるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0037】
請求項11に記載の発明によれば、切換え部を備えたことによって第2の速度制御ループ単体でも駆動できる構成を備えたベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0038】
請求項12に記載の発明によれば、無端ベルトの厚み変動とこの無端ベルトを駆動する駆動軸や、駆動軸近傍に取り付けられた回転角度検出手段の周期成分(主として偏心成分)を、第1の速度制御ループで抑制する構成を備えたベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0039】
請求項13に記載の発明によれば、モータの周期成分(主としてモータ回転周波数)を第2の速度制御ループで抑制する構成を備えたベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0040】
請求項14に記載の発明によれば、駆動軸と従動軸の慣性モーメントと、無端ベルトの剛性、もしくは減速機構の連結部の剛性によって発生する機械共振周波数を抑えるための手段を第1の速度補償器が備えることにより、安定したベルト駆動ができるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0041】
請求項15に記載の発明の画像形成装置によれば、請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置を備えていることにより、無端ベルトの表面速度を高精度に制御することができるので、請求項16に記載の発明のように、無端ベルトが中間転写ベルトの場合には、画像形成動作時における中間転写ベルトの表面速度を高精度に制御することが可能となり、高品質な画像を形成できる画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るベルト駆動制御装置を備えた画像形成装置の要部を示す構成図、図2は、本発明の実施形態1に係る画像形成装置を示す構成図、図3は、本発明の実施形態1に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図である。本実施形態における画像形成装置は、無端ベルト状の中間転写ベルトを有する電子写真方式の複写機やプリンタなどのカラー画像形成装置であり、本実施形態におけるベルト駆動制御装置は、画像形成動作時に移動する中間転写ベルトの駆動制御に適用した例である。
【0043】
本実施形態に係る画像形成装置1は、図2に示すように、配列された4つの画像形成部2a,2b,2c,2dと、各画像形成部2a,2b,2c,2dでそれぞれ形成された各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナー画像を重ね合わせてフルカラーのトナー画像が転写(1次転写)される無端ベルト状の中間転写ベルト3と、中間転写ベルト3の表面に1次転写されたフルカラーのトナー画像を用紙などの記録材Pに転写(2次転写)する2次転写ローラ4を備えている。
【0044】
画像形成部2a,2b,2c,2dは、それぞれ感光体ドラム5a,5b,5c,5d、帯電ローラ6a,6b,6c,6d、現像器7a,7b,7c,7d、1次転写ローラ8a,8b,8c,8d、クリーニング装置9a,9b,9c,9を有している。各現像器7a,7b,7c,7dには、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのトナー(現像剤)がそれぞれ収納されている。
【0045】
中間転写ベルト3は、駆動ローラ10、従動ローラ11、対向ローラ12間に張架されており、駆動ローラ10の回転駆動により矢印a方向に移動する。中間転写ベルト3の画像形成部2a〜2d側は、各感光体ドラム5a〜5dと各1次転写ローラ8a〜8dとの間のニップ部を移動する。中間転写ベルト3には、テンションローラ13により所定の張力が付与されている。中間転写ベルト3の対向ローラ12と対向する外周面側には前記2次転写ローラ4が当接している。
【0046】
また、図1に示すように、駆動ローラ10に一体的に連結されている駆動軸14とモータ15のモータ軸16との間には、モータ軸16に形成したギア部16aと噛み合う減速ギア17が設置されている。減速ギア17側の駆動軸14近傍には駆動軸エンコーダセンサ(ロータリエンコーダ)18が設置されており、中間転写ベルト3近傍にはベルトエンコーダセンサ(リニアエンコーダ)19が設置されている。駆動ローラ10の回転によって移動する中間転写ベルト3は、後述するベルト駆動制御部装置20より駆動制御される。
【0047】
そして、画像形成動作時には、各帯電ローラ6a,6b,6c,6dにより、所定のプロセススピードで矢印方向に回転している各感光体ドラム5a,5b,5c,5dの表面をそれぞれ均一に帯電し、露光装置(不図示)からのレーザ光による露光により、各感光体ドラム5a,5b,5c,5dの表面に、入力した画像情報に対応する静電潜像をそれぞれ形成する。そして、各感光体ドラム5a,5b,5c,5dの表面の静電潜像に対して、各現像器7a,7b,7c,7dにより各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナーをそれぞれ付着させて現像(可視像化)する。これにより、各感光体ドラム5a,5b,5c,5dの表面に、イエローのトナー画像、マゼンタのトナー画像、シアンのトナー画像、ブラックのトナー画像がそれぞれ形成される。
【0048】
そして、転写バイアスが印加された各1次転写ローラ8a,8b,8c,8dにより、これらの各色のトナー画像は、駆動ローラ10の駆動により移動する中間転写ベルト3上に順次重ね合わされるようにして転写(1次転写)され、中間転写ベルト3上にフルカラーのトナー画像が形成される。そして、このトナー画像の形成に合わせて用紙等の記録材Pが、中間転写ベルト3と2次転写ローラ4間の2次転写部に搬送され、記録材P上にフルカラーのトナー画像が転写(2次転写)される。フルカラーのトナー画像が転写された記録材Pは定着器(不図示)に搬送され、定着器(不図示)によりトナー画像が熱定着された記録材Pを排出する。
【0049】
なお、各感光体ドラム5a,5b,5c,5dの表面に付着している残トナーは各クリーニング装置9a,9b,9c,9により除去され、また、中間転写ベルト3の表面に付着している残トナーは不図示のクリーニング装置により除去される。
【0050】
ところで、前記した画像形成時に、中間転写ベルト3のベルト表面速度(移動速度)に速度変動が生じてしまうと、4色のドナー画像の重ね合わせ位置がずれてしまったり、トナー画像が伸び縮みしたりする。これによって、記録材Pに転写する際に色ずれや色の濃淡等の画像の不具合が生じてしまう。
【0051】
中間転写ベルト3のベルト表面速度を変化させる原因として、摩擦負荷、回転体(中間転写ベルト3、駆動ローラ10、従動ローラ11、対向ローラ12、駆動軸14、モータ15等)の偏心や負荷変動、中間転写ベルト3の厚み変動、減速ギア17の取付け偏心や負荷変動、エンコーダセンサ(本実施形態では、駆動軸14に駆動軸エンコーダセンサ18が取付けた構成であるが、従来ではモータ15に取り付けられている)の取り付け偏心、モータ15の回転ムラ、用紙突入やクラッチ(不図示)のON/OFFによるトルク変動等が考えられる。
【0052】
これらを外乱と考えると、摩擦負荷は定常的もしくは非常に低い周波数成分であるためフィードバック制御を行うことによって抑制しやすい。中間転写ベルト3の厚み変動も他の前記回転体と比較して低い周波数成分であるため、直接ベルト表面速度が検出できれば、これを使用したフィードバック制御を行うことにより抑制できる。一方、前記回転体の変動成分の中でも減速ギア17の偏心やモータ15の回転ムラは、前記回転体と中間転写ベルト3の剛性や、駆動軸14と減速ギア17間の連結部の剛性によって生じる機械共振周波数(以下、「中間転写ベルト機構の機械共振周波数」という)に近い周波数となってしまう。
【0053】
そのため、従来のように、エンコーダセンサが駆動モータに取り付けられている構成では、単純に中間転写ベルト3のベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築しただけでは、中間転写ベルト機構の機械共振周波数以下の応答周波数の制御系となり、ゲイン不足により外乱を抑制できず、高精度なベルト駆動を行うことができなかった。
【0054】
そこで、本実施形態では、図1に示すように、駆動軸14の回転角度を検出する駆動軸エンコーダセンサ18と、中間転写ベルト3の移動量を検出するベルトエンコーダセンサ19からのセンサ出力に基づいて、中間転写ベルト3の駆動(移動)を制御するベルト駆動制御装置20を備えている(詳細は後述する)。なお、図1では、中間転写ベルト3上の感光体ドラム5a,5b,5c,5d等は省略している。
【0055】
図1に示すように、本実施形態では、モータ15の回転は、モータ軸16に形成したギア部16aと減速ギア17との噛み合いにより構成される減速機構22によって減速される。減速機構22の減速ギア17には、駆動軸14が連結されている。なお、減速機構22として、複数のギアを有するギア列構成や遊星歯車機構等でもよい。減速機構22に連結されている駆動軸14近傍には駆動軸エンコーダセンサ18が設置されており、駆動軸エンコーダセンサ18により駆動軸14に取り付けられているコードホイール23のスリットを読み取る。
【0056】
駆動軸エンコーダセンサ18からはコードホイール23の回転に応じて2値化信号がセンサ出力として出力される。このセンサ出力は、90度位相の異なる2相の2値化信号でも、単相アナログ信号、2相アナログ信号でもよい。本実施形態における中間転写ベルト3の駆動方向は単一方向にしか駆動されない構成であるため、正転、逆転の制御を行う必要がないため、必ずしも2相出力は必要とならないが、等速性能と停止性能が要求されるような画像形成装置(例えば、1つの感光体ドラムを使用して、複数回の工程で画像を形成する画像形成装置)では、2相出力が必要となる場合がある。
【0057】
中間転写ベルト3の表面の側面側にはエンコーダパターン24が刻まれており、このエンコーダパターン24をベルトエンコーダセンサ19で読み取ることで、移動するベルト表面速度が検出される。図1では、ベルトエンコーダセンサ19をテンションローラ13従動ローラ11との間に設置しているが、ベルト表面速度を正しく検出するために平坦な部分であればよい。例えば、従動ローラ11と駆動ローラ10との間や、駆動ローラ10と対向ローラ12の間でもよい。また、各ローラ上にベルトエンコーダセンサ19を設置した場合には、ローラの曲率の影響が出てしまい、更に、中間転写ベルト3の製造上の厚み変動や環境変化による厚み変動によって、エンコーダパターン24の間隔が変化してしまうことにより、ベルト表面速度を正しく検出できなくなってしまうために避ける必要がある。なお、エンコーダパターン24を中間転写ベルト3の背面側に設けてもよい。
【0058】
エンコーダパターン24は、シート状のパターンを貼り付けたり、中間転写ベルト3上に直接パターン加工したり、中間転写ベルト3の製造工程で一体加工したりと、製作方法はどのような方法でもよい。また、本実施形態では、ベルトエンコーダセンサ19は等間隔のスリットを備えた反射式の光学センサを想定しているが、エンコーダパターン24からベルト表面位置を正確に検出できるセンサであればよく、例えば、CCDカメラ等を使用し、画像処理によって表面位置を検出するものでもよい。また、ドップラー方式やベルト表面の凹凸から画像処理によって表面位置を検出できるセンサ方式であれば、エンコーダパターン24を無くすことも可能となる。
【0059】
駆動軸エンコーダセンサ18のセンサ出力およびベルトエンコーダセンサ19のセンサ出力は、ベルト駆動制御部21に入力され、入力される各センサ出力に基づいて駆動軸14(駆動ローラ10)の速度、中間転写ベルト3のベルト表面速度が演算される。そして、この演算結果に基づいて所定の制御演算が行われ、制御演算結果である指令値はモータドライバ36(図3参照)に出力され、指令値に応じて駆動モータ15を駆動する。
【0060】
モータ15は、ブラシ付きモータでもブラシレスモータでもよいが、モータ15の形式に応じてモータドライバ36の駆動回路も変わってくる。また、モータドライバは電圧制御方式でも電流制御方式でもよい。電流制御方式のモータドライバであれば、経時変化や環境変化に対してロバストとなる。モータドライバへの指令値は、アナログ値、デジタル値、PWM等、何でもよく、指令値に対して比例した出力の出せるモータドライバであればよい。また、モータドライバ36はPWM駆動でもリニア駆動でもよい。制御演算は、アナログ、デジタルのどちらでもよいが、CPUやDSP等のデジタル演算器が一般的であり、制御演算はソフトウェアで記述される。単純な制御演算や動作ロジックであって、パラメータ変更が無いのであればハードウェアロジックで制御演算を行わせてもよい。
【0061】
ベルト駆動制御部21は、図3に示すように、第1速度演算手段としてのベルト速度演算部30、第2速度演算手段としての駆動軸速度演算部31、第1比較器32、ベルト速度補償器33、第2比較器34、駆動軸速度補償器35、モータドライバ36を有している。ベルト速度演算部30は、ベルトエンコーダセンサ19からのセンサ出力に基づいて中間転写ベルト3のベルト表面速度を演算(算出)する。駆動軸速度演算部31は、駆動軸エンコーダセンサ18からのセンサ出力に基づいて駆動軸の駆動軸速度を演算(算出)する。
【0062】
モータ15の回転速度は減速機構22(ギア部16aと減速ギア17)により減速され、減速ギア17に連結された駆動軸14、駆動ローラ10の回転により中間転写ベルト3が矢印a方向に駆動(移動)される。駆動ローラ10によって中間転写ベルト3が駆動されると、中間転写ベルト3の駆動(移動)に合わせて対向ローラ12、テンションローラ13、従動ローラ11も従動回転するように駆動される(以下、駆動されるこれらの中間転写ベルト3、駆動ローラ10、対向ローラ12、テンションローラ13、従動ローラ11を「ベルト機構37」という)。
【0063】
そして、ベルト機構37が駆動するときの中間転写ベルト3上のエンコーダパターン24の情報をベルトエンコーダセンサ19で読み取り、ベルト速度演算部30はベルトエンコーダセンサ19から入力されるセンサ出力に基づいてベルト速度を演算し、移動する中間転写ベルト3のベルト表面速度を算出する。算出されたベルト表面速度情報は、第1比較器32にフィードバックされる。また、駆動軸14に取り付けられたコードホイール23のスリットを駆動軸エンコーダセンサ18で読み取り、駆動軸速度演算部31は駆動軸エンコーダセンサ18から入力されるセンサ出力に基づいて回転する駆動軸14の速度を演算し、駆動軸速度を算出する。算出された駆動軸速度は、第2比較器34にフィードバックされる。
【0064】
なお、駆動軸14用の駆動軸エンコーダセンサ18はロータリエンコーダ、中間転写ベルト3用のベルトエンコーダセンサ19はリニアエンコーダであるため、単位系が異なる。一般的に回転速度はrad/s、直線速度はm/sとなる。よって、これら2つのエンコーダで求められた速度をどちらか一方の単位系に変換する必要がある。よって、ベルト表面速度に統一する場合はm/sとなり、駆動軸速度を変換するために単位変換用の係数を駆動軸速度演算部31に含むことになる。また、駆動軸速度補償器35もm/sに合わせる係数を持つことになる。一方。駆動軸速度に統一する場合はrad/sとなり、ベルト速度補償器33にrad/sに変換する係数を持つことになる。
【0065】
次に、ベルト駆動制御部21による中間転写ベルト3の駆動制御を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
【0066】
ベルトエンコーダセンサ19からのセンサ出力に基づいてベルト速度演算部30によりベルト表面速度を算出し、駆動軸エンコーダセンサ18からのセンサ出力に基づいて駆動軸速度演算部31により駆動軸速度を算出する(ステップS1)。
【0067】
そして、ベルト目標速度算出器(不図示)から出力されるベルト目標速度とベルト速度演算部30により算出されたベルト表面速度は、第1比較器32で比較され、ベルト速度偏差が出力される。このベルト速度偏差はベルト速度補償器33に入力され、駆動軸目標速度が出力される。この駆動軸目標速度と駆動軸速度演算部31により算出された駆動軸速度は、第2比較器34で比較され、駆動軸速度偏差が出力される。駆動軸速度補償器35は入力される駆動軸速度偏差に基づいて、モータ電圧値を算出する(ステップS2)。このモータ電圧値をPWM値に変換してモータドライバ36に入力し(ステップS3)、駆動モータ15を回転駆動する。
【0068】
なお、図4に示したフローチャートでは、2つの速度(ベルト表面速度と駆動軸速度)を最初に取得する形で説明しているが、ベルト速度制御ループ(第1の速度制御ループ)と駆動軸速度制御ループ(第2の速度制御ループ)の速度偏差を算出する演算の前に各速度を取得してもよい。また、ベルト速度制御ループと駆動軸速度制御ループを同一の制御周期で演算する形式として説明しているが、それぞれのループが異なる制御周期で演算する形式でもよい。この場合、内側になるループの応答が外側のループの応答よりも速くなる必要があるため、“駆動軸速度制御ループの制御周期≦ベルト速度制御ループの制御周期”となる必要がある。
【0069】
また、同一の制御周期で演算する場合は、駆動軸速度制御ループで必要とされる応答周波数を実現できる制御周期を用意する必要がある。一般的に応答周波数の10倍以上が理想的である。また、前記ステップS3では、モータ電圧相当のPWM値をセットしているが、モータドライバ36がアナログ入力やデジタル入力の場合、D/Aコンバータ出力となるアナログ電圧値やデジタル値を設定することになる。モータドライバ36が電流制御ドライバの場合は、電流指令値相当の値をPWMやアナログ値、デジタル値で設定することになる。
【0070】
次に、前記ベルト速度演算部30について説明する。ベルト速度演算部30は、パルス間隔をハードウェアでF/V変換して速度相当の電圧として出力してもよい。もしくは、パルスの一方のエッジ(立ち上がりもしくは立下りエッジ)から次のパルスのエッジまでの間隔を基本クロックで測定する速度カウンタをハードウェアで構築されていてもよい。この場合、パルス間距離/(速度カウンタのカウント値×基本クロック周期)が速度になる。
【0071】
すなわち、速度カウンタの逆数が速度に比例することになる。または、CPUやDSP等の演算器が制御演算等の演算を行っても十分な演算能力がある場合、前記パルスの入るIOポートを常時観測することによって、パルスのエッジを検出し、パルス間隔をソフトウェア的に測定し、速度をソフトウェア処理で算出する。この場合、IOポートを観測する周波数がエンコーダ周波数よりも十分に高い必要がある。
【0072】
しかしながら、より演算器を効率よく利用するためにCPUやDSP等の演算器の割り込みを利用して、パルスの一方のエッジ(立ち上がりもしくは立下りエッジ)によって、割り込みを発生させ、そのときの時間と、前回の割り込み時の時間との差分を取って、パルス間隔の時間を測定し、“パルス間距離/パルス間隔の時間”の演算によって、速度を算出する方法が用いられる。パルス間隔の時間測定は、演算器内にハードウェアとして用意されるクロックカウンタを利用し基本クロックをカウントすればよいが、速度演算処理やクロックカウンタの制御はソフトウェアとして処理することとなる。
【0073】
よって、このような割り込み処理により速度演算を行う場合は、パルス周波数が速すぎる速度演算に処理時間が取られてしまい、主演算である制御演算が所定時間内に終らなくなってしまう可能性がある。そのため、各種演算時間の見積が重要である。また、他の方法として、OSを搭載する演算器を使用する場合は、OSの機能であるソフトウェア割り込み処理によって、ソフトウェア演算により速度を算出できる。この場合、演算器の割り込み処理と比較すると、時間のばらつきが大きくなる場合があり、ハードウェア的な割り込み処理よりも速度の精度が悪くなることがある。
【0074】
また、駆動軸14に取付けられたコードホイール24の情報を駆動軸エンコーダセンサ18で読み取り、その出力をパルス出力としたとき、駆動軸速度演算部31で実行される速度演算も上記で説明したベルト速度演算部30と同様な構成によって実現される。演算器の割り込みを利用してソフトウェア演算によって速度を算出する場合は、通常、ベルト速度演算部30で利用されるIOポートや割り込みポートとは別のポートが利用される。割り込み演算の場合は、ソフトウェア演算もベルト速度演算部30とは異なるルーチンに飛んで、専用の処理が行われる。
【0075】
以下では、CPUやDSP等の演算器の割り込み処理ルーチンを速度検出に使用する構成を例にして説明する。
【0076】
図3に示したような2重の速度制御ループを持ち、第1比較器32、ベルト速度補償器33、第2比較器34、駆動軸速度補償器35での制御演算周期と、ベルト速度演算部30、駆動軸速度演算部31での速度演算周期が別々である場合、例えば、制御演算は、演算器のタイマ割り込みで周期的に演算され(周期A)、速度演算は上記で示すようなパルスのエッジ周期によって算出される(ベルト速度演算:周期B、駆動軸速度演算:周期C)。
【0077】
前記周期Aが前記周期Bや前記周期Cよりも長い(周波数が低い)場合、周期Bや周期Cの演算結果を周期Aの演算ルーチンに渡すと、ダウンサンプリングとなってしまう(一般的に、周期A≧周期B≧周期Cとなる)。これによって、例えば、図 5(a),(b)に示すように、周期Bもしくは周期Cに含まれる周期Aのナイキスト周波数以上の周数成分が、周期Aのナイキスト周波数以下に折り返し周波数として現れてしまう。これにより、実際には無いはずの周波数成分が出てきてしまう可能性がある。
【0078】
このため、制御系では、前記実際に無いはずの周波数成分に対しても抑制するような動作をしてしまうため、幾何的には発生しない周波数成分の回転ムラを信号処理が原因で発生させてしまう可能性がある。
【0079】
そこで、ベルト速度演算部30や駆動軸速度演算部31において、ローパスフィルタ処理により帯域制限を行うことによってエイリアシングの発生を防ぐことができる。ローパスフィルタの形式はFIRフィルタでもIIRフィルタのどちらでもよい。また、ベルト速度演算部30の割り込み処理ルーチンにおいて、ベルト速度演算部30の演算と第1比較器32の演算を行った後、前記エイリアシング防止のローパスフィルタ処理を行ってもよい)。第1比較器32の演算は単純な比較演算であるため、速度演算の割り込み演算に入れても演算負荷の問題はない。
【0080】
ベルト速度演算部30の割り込み処理ルーチンで行われる上記動作を、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0081】
先ず、ベルト速度算出演算を行ってから(ステップS11)、次にベルト目標速度とベルト速度の速度偏差の演算を行い(ステップS12)、その後ローパスフィルタ演算を行う(ステップS13)。
【0082】
駆動軸速度制御ループは駆動軸速度補償器35によって安定化され、駆動軸速度制御ループに加わる外乱を抑制するように制御される。このループの外側にベルト速度制御ループを備える場合、ベルト速度補償器33を単に比例項としただけでは、中間転写ベルト3に加わる外乱等によって定常的な速度偏差が発生してしまう。そこで、ベルト速度補償器33に積分要素を備えることによって、ベルト速度制御ループは1型となり、ベルト速度偏差を0にすることができる。また、前記周期Bの演算においてローパスフィルタによる帯域制限をしていれば、ベルト速度補償器33の積分要素の演算は前記周期Aで行うことができる。
【0083】
前記周期Bの演算において、ローパスフィルタ演算をすることに変えて、ベルト補償器33に備える積分要素の演算を周期Bのベルト速度演算と同じ割り込みルーチンで実行することにより、帯域制限をかけることと同じ役割(−20dB/decのゲインの傾きを持ち、1rad/s以上の周波数を0dB以下にする)と、定常速度偏差を抑える積分要素の役割を果たすことができる。
【0084】
図3で説明すると、ベルトエンコーダセンサ19の出力パルスによる割り込み演算処理ルーチンにおいて、ベルト速度演算部30と第1比較器32とベルト速度補償器33の一部である積分要素の演算を行うものである。つまり、速度偏差を速度検出のタイミングごとに積分することになるので、正しい位置偏差を算出していることを意味している。
【0085】
連続系の積分要素はラプラス変換で1/sとして表されるが、離散系の積分要素はz変換で、下記の式(1)又は式(2)として表される。なお、tsはサンプリング時間、zは1サンプル進みを意味する。
【0086】
ts/(z−1) …(1)
z・ts/(z−1)…(2)
【0087】
ベルト速度演算部30の割り込み処理ルーチンで行われる上記動作を、図7に示すフローチャートを参照して説明する。
【0088】
先ず、ベルト速度算出演算を行ってから(ステップS21)、次にベルト目標速度とベルト速度の速度偏差の演算を行い(ステップS22)、その後積分演算を行う(ステップS23)。
【0089】
このように、本実施形態によれば、ベルト目標速度とベルト速度演算部30で算出されたベルト表面速度とを比較して、移動する中間転写ベルト3のベルト表面速度の補償演算を行うベルト速度補償器33を有する第1の速度制御ループと、前記ベルト速度補償器33の出力と駆動軸速度演算部31の出力を比較して、駆動軸速度の補償演算を行う駆動軸速度補償器35を有する第2の速度制御ループとを備えることによって、定常的な外乱成分とモータ15や減速機構22等の回転成分を第2の速度制御ループで抑制し、駆動軸(駆動ローラ10)14の回転成分と中間転写ベルト3の厚み変動等の低い周波数成分を第1の速度制御ループで抑制することができるので、高精度なベルト駆動が可能となるベルト駆動制御装置を提供することができる。
【0090】
(実施形態2)
本実施形態では、図8に示すように、図3に示したベルト駆動制御部21に変換係数部38を設けた構成である。なお、他の構成は、図3に示したベルト駆動制御部21と同様であり、重複する説明は省略する。本実施形態では、ベルト目標速度に変換係数を乗算し、駆動軸速度制御ループの第2比較器34で加算することによって、外側にあるベルト速度制御ループの応答の遅れを補償し、ベルト目標速度の変化に対して素早く応答できるようにした。このときのベルト目標速度に乗算される変換係数は、前記ベルト表面速度と駆動軸速度の単位変換をする変換係数であったり、前記変換係数よりも多少小さい値であったりする。
【0091】
このとき、駆動軸速度制御ループは主として変換係数部38からの変換係数値で動作し、それの補正値としてベルト速度補償器33から値が出力される。このような構成(フィードフォワード)とする場合、ベルト目標速度を急激に変化させると、速度のオーバーシュートが大きくなってしまうため、加減速時のベルト速度プロファイルを工夫する必要がある。
【0092】
(実施形態3)
前記したように、ベルト速度制御ループと駆動軸速度制御ループからなる2重の制御ループを設けることによって、抑制すべき周波数成分を各速度制御ループに分離することができる。しかしながら、市販製品として使用されている複写機やプリンタ等の画像形成装置では、周期性外乱が大きく、かつ機械共振周波数が低いため、制御系の安定範囲で設定できるゲインでは目標仕様値まで抑制できないことがある。ここでは、駆動軸速度制御ループで抑制するモータの回転ムラが大きいため、駆動軸の機械共振周波数による振動が出ない範囲でゲインを設定しても、前記モータの回転ムラによる周期成分を抑制しきれない場合を考える。
【0093】
これを解決するために、図9に示すように、本実施形態におけるベルト駆動制御部21は、バンドパスフィルタ39と加算器40を更に有しており、バンドパスフィルタ39により駆動軸速度補償器35に入力される駆動軸速度偏差に所定の周波数を抽出するフィルタ処理を行い、所定の比例要素を乗算した後、駆動軸速度補償器35の出力に加算する。他の構成は、図8に示したベルト駆動制御部21と同様である。なお、図3に示したベルト駆動制御部21と同様でもよい。
【0094】
そして、第2比較器34の出力である駆動軸速度偏差に対し、バンドパフィルタ39で所定の周波数(ここでは、モータ15のモータ回転周波数)を抽出し、所定ゲイン動モータ15のモータ回転数を抑制するのに不足しているゲイン分)を乗算する。そして、加算器40において、抽出した値と駆動軸速度補償器35の出力が加算され、その加算値によってモータドライバ36を駆動する。
【0095】
(実施形態4)
図10に示すように、本実施形態におけるベルト駆動制御部21は、バンドパスフィルタ41により駆動軸速度に対して所定の周波数を抽出するフィルタ処理を行い、所定の比例要素を乗算した後、駆動軸速度補償器35の出力に加算する。他の構成は、図9に示したベルト駆動制御部21と同様である。
【0096】
そして、駆動軸速度演算部35の出力である駆動軸速度に対し、バンドパフィルタ41で所定の周波数(ここでは、モータ15のモータ回転周波数)を抽出し、所定ゲイン(モータ15のモータ回転数を抑制するのに不足しているゲイン分)を乗算する。そして、加算器37において、抽出した値と駆動軸速度補償器35の出力が加算され、その加算値によってモータドライバ35を駆動する。
【0097】
前記実施形態3、4で使用される各バンドパスフィルタ39、41は、特定周波数のみ位相遅れなく抽出できるものが理想であるが、現実的な特性は図11(a),(b)に示すような周波数特性を持っているものである。
【0098】
このバンドパスフィルタ39、41の演算は、駆動軸速度補償器35と同じ演算周期(周期A)で演算することができる。例えば、演算周期500μs(サンプリング周波数2kHz)とし、38Hzの周波数を抽出するバンドパスフィルタの伝達関数Gは、下記の式(3)で表される。
G=(0.003132−0.003132z−2)/(1−1.98z−2+0.9937z−2) …(3)
【0099】
ここでは、バンドパスフィルタを離散系の2次のIIRフィルタとしたが、FIRフィルタや次元の異なるフィルタやアナログフィルタを使用してもよい。また、抽出される特定周波数において、位相遅れが生じる場合は、位相を合わせて加算する等の手段が必要である。
【0100】
図12(a),(b)は、バンドパスフィルタの有無による駆動軸速度制御ループの開ループ周波数応答である。なお、図12(a),(b)において、実線はバンドパスフィルタが有る場合であり、破線はバンドパスフィルタが無い場合である。図12(a),(b)に示すように、バンドパスフィルタによって、約38Hzのゲインが増加していることが分かる。
【0101】
図13は、駆動軸速度制御ループを駆動し、抽出した信号に乗算する比例要素を0〜100(×0〜×100)まで変化させたときの駆動軸の周波数特性の変化を示したものである。上記比例要素を大きくしていくことによって、約38Hzの周波数成分が小さくなっていることが分かる。すなわち、所定の周波数成分を抑制できていることを示している。
【0102】
しかしながら、図11、図12から分かるように、バンドパスフィルタによって抽出された信号は位相の変化を伴う。そのため、前記比例要素を大きくしていくと制御系の位相変動が大きくなり、制御系の安定性に影響が出てくる。図13からも、特定周波数以外の周波数成分が大きくなってしまうことが分かる。よって、前記比例要素による特定周波数の増幅は、制御系の位相余有によって限界が決まってくる。
【0103】
図14(a),(b)は、同じパラメータを使用した前記バンドパスフィルタ39、41の出力を示したものである。図14(a)がバンドパスフィルタ39の出力、図14(b)がバンドパスフィルタ41の出力である。
【0104】
バンドパスフィルタ39の入力は速度偏差であることから0近傍のデータであるため、フィルタ出力も0近傍から出力されるが、バンドパスフィルタ41の入力は速度であり、初期値が大きいため、フィルタの出力が安定するまで大きな値となってしまう。フィルタ時定数よりも十分時間が経過すれば、フィルタの状態変数が安定するためどちらの出力も同じものとなる。よって、バンドパスフィルタを使用する場合は、出力が安定する時間を考慮する必要がある。
【0105】
また、前記した図9、図10においては、加算器40として同様に説明しているが、駆動軸速度入力と駆動軸速度偏差入力では符号が反転するため、図10の構成では、バンドパスフィルタ41の演算内で符号を反転させるか、加算器40において駆動軸速度補償器35の出力からバンドパスフィルタ41の出力を減算させる処理となる。
【0106】
前記バンドパスフィルタ39、41は所定の周波数を抽出するものである。そのため、駆動軸速度補償器35と同じ演算周期(周期A)で演算させる場合、演算周期が周期Aで固定となると、抽出したい周波数ごとに前記式(3)相当のバンドパスフィルタ39、41のパラメータを用意する必要がある。複写機やプリンタなどの画像形成装置等では、厚紙モードやカラーモード、白黒モード等の作像モードに合わせて駆動速度が変わることがあるため、各モードの速度に合わせたバンドパスフィルタのパラメータを複数用意し、モードに合わせてパラメータを切り換えることになる。
【0107】
一方、駆動軸速度演算部31の割り込み周期(周期C)で前記バンドパスフィルタ39、41の演算を行うようにすると、作像モードに応じて駆動軸速度が変化するため、駆動軸速度演算部31の割り込み周期(周期C)が変化する。これは駆動軸速度に応じてバンドパスフィルタ39、41の通過周波数が自動的に変化することになる。よって、前記式(3)相当のモータ回転周波数を抽出するバンドパスフィルタ39、41のパラメータを1つ用意しておけば、作像モードによって駆動軸の回転数が変わっても、必ずモータ15の回転周波数を抽出できることになる。
【0108】
図15(a),(b)は、前記式(3)のバンドパスフィルタを使用して、フィルタ演算のサンプリング周波数を0.5倍、1.0倍、1.5倍(図中のa(サンプリング1)、b(サンプリング2)、c(サンプリング3)に対応)としたときのフィルタ特性を示したものである。図15(a),(b)から明らかなように、演算周期が変わることによってフィルタ特性が変わっていることがわかる。
【0109】
図9におけるバンドパスフィルタ39の演算を含む駆動軸速度演算部31の割り込み処理ルーチンで行われる動作を、図16に示すフローチャートを参照して説明する。
【0110】
先ず、駆動軸速度算出演算を行ってから(ステップS31)、次に駆動軸目標速度(ベルト速度補償器30の出力、もしくはこれにフィードフォワードの値を加算した値)と、駆動軸速度の速度偏差である駆動軸速度偏差の演算を行い(ステップS32)、前記駆動軸速度偏差からバンドパスフィルタ39の演算を行う(ステップS33)。
【0111】
図10におけるバンドパスフィルタ41の演算を含む駆動軸速度演算部31の割り込み処理ルーチンで行われる動作を、図17に示すフローチャートを参照して説明する。
【0112】
先ず、駆動軸速度算出演算を行ってから(ステップS41)、駆動軸速度からバンドパスフィルタ41の演算を行う(ステップS42)。
【0113】
(実施形態5)
前記実施形態1で述べたように、中間転写ベルト3の表面にはエンコーダパターン24が刻まれており、このエンコーダパターン24をベルトエンコーダセンサ19で読み取り、前記したベルト速度演算処理によって移動する中間転写ベルト3のベルト表面速度を検出している。この際、何らかの原因でエンコーダパターン24の一部が欠損したり、汚れたりすることによって、ベルトエンコーダセンサ19が正しいセンサ出力を出さなくなる不具合が生じる可能性がある。また、生産性を重視するユーザにおいては、前記不具合を改善するまでの間、多少の画像品質の低下があってもこの画像形成装置を使用し続けたい要求がある。
【0114】
また、中間転写ベルト3上のエンコーダパターン24とベルトエンコーダセンサ19との間の間隔の変動がエンコーダ信号の変動(パルス間隔のばらつき)につながってしまうため、所定の周波数以下では動作させないような手段をとることもある。これは、中間転写ベルト3を駆動し始めるときにベルトエンコーダセンサ19のセンサ出力が出ないことを意味する。
【0115】
このため、ベルトエンコーダセンサ19のセンサ出力が出ない場合においても安定的に中間転写ベルトを駆動させる必要がある。そこで、本実施形態では、駆動軸速度制御プール単体からなる単ループ制御と、駆動軸速度制御ループとベルト速度制御ループからなる2重ループ制御のどちらでも駆動できる構成とした。
【0116】
本実施形態では、図18に示すように、図8に示したベルト駆動制御部21に切替えスイッチ部42を設けた構成である。切換え部42は、リレーやアナログスイッチ等からなるハードウェアスイッチ以外にも、制御系演算がソフトウェアで構成されている場合は、ソフトウェアによる切り換えによっても実現できる。他の構成は、図8に示したベルト駆動制御部21と同様であり、重複する説明は省略する。
【0117】
以下、本実施形態のベルト駆動制御部21による駆動制御について説明する。
【0118】
先ず、中間転写ベルト3のベルト表面速度が駆動開始から等速となるまで駆動するときの動作を説明する。最初は切換え部42を変換係数部38側に切り換え、ベルト目標速度を変換係数部38によって駆動軸目標速度に変換される。変換された駆動軸目標速度は、切換え部42を介して駆動軸速度制御ループの第2比較器34に入力され、フィードバックされる駆動軸速度と比較されて駆動軸速度補償器35に入力される。
【0119】
そして、駆動軸速度が所望の速度になったところで、切換え部42をベルト速度補償器33側に切り換えて、駆動軸速度制御ループ単体の単ループ制御から駆動軸速度制御ループとベルト速度制御ループからなる2重ループ制御へ切り換える。なお、切換え部42を変換係数部38側からベルト速度補償器33側に切り換えたとき、ベルト速度補償器33へは予めベルト速度偏差が入力されているため、状態変数は速度偏差相当の値であり、2重ループ制御の定常時相当の値になっていない。
【0120】
そのため、この切り換え時に速度の低下が発生してしまう。そこで、切り換え時に2重ループ制御の定常状態相当の状態変数の値を設定してやることによって、切り換え時の速度変動を小さくすることができる。
【0121】
図19は、単ループ制御(図のa)のステップ応答と2重ループ制御(図のb)のステップ応答の測定結果を示した図である。図19から明らかなように、単プール制御系(図のa)は応答周波数の向上と機械共振周波数の関係から位相余裕が不足し、比較的オーバシュートが大きい系となっている。このような特性の制御系では、単ループ制御において目標速度をステップ的に与えてしまうと、図19のようにオーバシュートが大きくなってしまうため、目標速度が滑らかに増加するような目標速度プロファイルを使用した方がよい。
【0122】
次に、ベルトエンコーダセンサ19のセンサ出力に異常が生じたときの動作を説明する。ベルトエンコーダセンサ19に異常が生じた場合には、切換え部42をベルト速度補償器33側から変換係数部38側に切り換えて、2重ループ制御から単ループ制御に切り換える。なお、上記の切換え部42の切り換えは、ベルト速度の演算を行うベルト速度演算部30において、ベルトエンコーダセンサ19の信号の状態や動作シーケンスを判断して切り換えを行う構成でもよい。
【0123】
(実施形態6)
図20に示すように、本実施形態におけるベルト駆動制御部21は、ベルト速度補償器33の下流側に切換え部43を設けている。他の構成は、図8に示したベルト駆動制御部21と同様である。
【0124】
本実施形態では、単ループ制御時には切換え部43をOFFし、2重ループ制御時には切換え部43をONすることにより、単ループ制御と2重ループ制御への切り換えを行う構成である。
【0125】
切換え部43は、リレーやアナログスイッチ等からなるハードウェアスイッチ以外にも、制御系演算がソフトウェアで構成されている場合は、ソフトウェアによる切り換えによっても実現できる。また、切換え部43の切り換え動作は、速度制御演算を行う演算器において、ベルトエンコーダセンサ19の信号の状態や動作シーケンスを判断して行ってもよい。
【0126】
この制御系で、切換え部43をONとした場合、マイナーループである駆動軸速度制御ループに渡される値(駆動軸速度の目標値)は、変換係数部38を介して変換されたベルト目標速度と、ベルト速度補償器33の出力の加算値である。マイナーループの目標速度は、変換係数部38の出力が主の値となり、ベルト速度補償器33の出力で前記主の値を補正することになる。
【0127】
このように、本実施形態の構成では、切換え部43をOFFにした単ループ制御から、切換え部43をONにした2重ループ制御に切り換えても、ベルト速度補償器33の状態変数の値に大きな変動が無いため、切り換え時の速度変動を小さく抑えることができる。
【0128】
次に、ベルト速度制御ループの応答周波数に関して説明する。前記した各本実施形態のように、中間転写ベルト3のベルト表面速度を検出するために中間転写ベルト3の表面側面側にエンコーダパターン24を設け、ベルト表面速度をフィードバックする制御系を構築すると、駆動軸14の駆動軸エンコーダセンサ18以降で発生する比較的低い周波数の変動成分を抑制することができる。よって、駆動軸14等の回転体の偏心や負荷変動、中間転写ベルト3の厚み変動、駆動軸エンコーダセンサ18の取り付け偏心等の変動成分を抑制できる。このため、中間転写ベルト3の厚み変動周波数と駆動軸14(駆動ローラ10)の回転周波数で、外乱を所望の値に抑制するゲインが必要となる。これについて、図21を参照して説明する。
【0129】
前記したように、ベルト速度制御ループの内側にマイナーループとして駆動軸速度制御ループがあり、これによって安定化がなされている。そのため、ベルト速度制御ループの制御対象となる駆動軸速度制御ループの低域ゲインは0dBとなっている。ベルト速度補償器33に定常偏差をキャンセルする積分要素を備えると、ベルト速度制御ループの開ループゲイン(1/s)は、図中に示すように、1rad/sが交差周波数となる、−20dB/decの傾きを持つ。
【0130】
一般的には、中間転写ベルト3のベルト厚み変動周波数f1よりも駆動軸周波数f2の方が高く、かつ振幅が大きいため、ここでは、駆動軸周波数f2で所望のゲインGとなるようにパラメータを設定する。即ち、ゲインGの傾きが−20dB/decで、交差周波数がωc1となるように比例要素を設定する(図中のgは、必要なゲインを示している)。例として、ベルト速度補償器21を単純な積分要素と比例要素を直列に配置した形式とすると、連続系で表される補償器は、(1/s)×ωc1となる。
【0131】
また、前記した各実施形態において、異なる演算周期の積分要素演算をベルト速度演算部30で行う場合は、ベルト速度補償器33では、ωc1の比例要素の演算となる。実機では、前記ベルト機構37の機械共振周波数が前記交差周波数ωc1の近傍にある場合がありそれを安定化するため、また、高域ノイズに対してロバストとするため、ノッチフィルタやローパスフィルタ等のフィルタ演算を入れることもある。
【0132】
次に、駆動軸速度制御ループの応答周波数に関して説明する。前記した各本実施形態のように、駆動軸14近傍に駆動軸エンコーダセンサ18を取り付けると、制御系に影響のある機械共振周波数は、モータ15の慣性モーメントと前記ベルト機構37の慣性モーメントと減速機構22の剛性によって生じるもの(以下、「駆動軸14の機械共振周波数」という)となり、ベルト機構37の機械共振周波数よりも高い機械共振周波数となる(例えば、50Hzに対して200Hz)。
【0133】
そして、駆動軸14近傍に取り付けた駆動軸エンコーダセンサ18の出力値をフィードバックし、減速機構22の偏心やモータ15の回転ムラによって生じる変動成分よりも高く応答周波数を設定できれば、駆動軸14近傍に取り付けた駆動軸エンコーダセンサ18よりも前段で発生する変動成分を抑制することができる。よって、モータ15の回転周波数で、外乱を所望の値に抑制するゲインが必要となる。これについて、図22を参照して説明する。
【0134】
図22では、駆動軸速度ループの制御対象を駆動軸14の機械共振周波数がない、単純な1慣性モデルとして説明する。また、ここでは、モータ15の電圧駆動を考慮する。制御対象には、モータ15の電気時定数Tと機械時定数Tがあり、図22に示すように、各時定数の逆数(1/Tと1/T)となる周波数がゲインの折れ点となる。また、制御対象としてのゲインAは、1/T以下で0dB/dec、1/T以上1/T以下で−20dB/dec、1/T以上で−40dB/decとなる。
【0135】
まず、機械時定数による低域(1/T以下)のゲイン不足を補償するために、積分要素を使用し、モータ15の回転周波数fを抑制するために必要なゲインgを確保するために、比例要素を使用する(積分要素と比例要素からなるPI要素)。積分要素が入るため、制御系が1型となり摩擦等の定常的な外乱を抑制することができる。なお、低域の外乱抑制効果を得るために、前記PI要素よりも低域にゲインを増加させるPI要素を追加することもある。
【0136】
また、モータ15の回転周波数を抑制するゲインを確保するためには、制御系の応答周波数はモータ15の回転周波数よりも大きくする必要がある。必要ゲインgを確保するために、比例要素によって制御対象の交差周波数ω02をωc2に向上させる。これにより、駆動軸速度ループの駆動軸速度補償器35は、積分要素と比例要素を加算した形式であるPI補償器によって、応答周波数がωc2となるように設計できる。また、実機の補償器では、高域のノイズに対してロバストとするためにローパスフィルタを入れたり、応答の改善を行うために微分要素を入れることもある。
【0137】
なお、上記においては、ベルト速度補償器33と駆動軸速度補償器35に関して、古典制御理論に基づいて説明を行ったが、現代制御理論やロバスト制御理論を用いた補償器においても、形態や演算方法は異なることがあるが、同様な効果を持たせることとなる。実際の方法として、現代制御理論の場合は、予め積分要素を入れた拡大プラントに対して補償器を設計したり、現代制御理論では、積分要素や比例要素等を周波数重みとして与えたりすることによって補償器を設計する。
【0138】
(実施形態7)
図23は、前記ベルト駆動制御部21の構成の一例を示したブロック図であり、速度カウンタをハードウェアとして備えた構成である。
【0139】
図23に示すように、CPU50(もしくはDSP)からなるデジタル演算器を有しており、この演算器上で動かすプログラムはROM51に記録されている。前記プログラムはROM51上から直接CPU50に読み込まれて実行される。もしくは、高速化およびパラメータ変更に対応するために、RAM52に展開して実行される構成でもよい。
【0140】
CPU50における制御演算のON/OFFや各種パラメータ設定は、HOSTインタフェース(HOST I/F)53を介して上位演算器であるHOST―CPU54と通信によって実現される。HOST I/F53は、シリアルやパラレルや共有メモリ等どのような方法でもよく、また、通信プロトコルもどのような形式でもよい。
【0141】
前記ベルトエンコーダセンサ19からのセンサ出力(パルス出力)は、第1速度カウンタ55によってパルスのエッジ間隔が計測され、カウント値がレジスタに蓄えられる。また、前記駆動軸エンコーダセンサ18からのセンサ出力(パルス出力)は、第2速度カウンタ56によってパルスのエッジ間隔が計測され、カウント値がレジスタに蓄えられる。
【0142】
そして、中間転写ベルト3の駆動(移動)により制御演算ONとなると、CPU50の内部にあるタイマ割り込み等を使用して所定の周期で制御演算が実行される。この制御演算では、第1速度カウンタ55と第2速度カウンタ56のレジスタからパルスのエッジ間隔を読出してベルト表面速度を算出し、制御演算に使用する。そして、この制御演算の結果を前記モータドライバ36に書き込み、前記モータ15を駆動する。
【0143】
なお、図23に示した構成においては、モータドライバ36に直接デジタルデータを書き込めるものとしたが、PWMデータやアナログデータとしてモータドライバ36側へ出力する形式でもよい。その場合、PWMを発振するパルス発振器やD/Aコンバータが備えられ、それらに対して演算結果がデジタルデータとして渡される。
【0144】
図24は、速度(駆動軸速度、ベルト速度)を演算器の割り込み処理によって算出する構成であり、他の構成は図23の構成と同様である。
【0145】
図24の構成では、ベルトエンコーダセンサ19のセンサ出力(パルス出力)は、CPU50の割り込みポートに入力され、パルスのUPもしくはDOWNのエッジによって、CPU50のベルト速度演算の割り込みルーチンが処理され、ベルト速度が算出される。同様に、駆動軸エンコーダセンサ18のセンサ出力(パルス出力)は、CPU50の割り込みポートに入力され、パルスのUPもしくはDOWNのエッジによって、CPU50の駆動軸速度演算の割り込みルーチンが処理され、駆動軸速度が算出される。
【0146】
図24の構成では、ソフトウェアで速度演算を行うため、図23の構成よりも演算器能力が必要となるが、速度信号に対するフィルタ処理等が容易であり、速度演算に関する自由度が大きいものとなる。なお、図24の構成では、前記したように制御演算処理はタイマ割り込み等で所定の周期で実行するものとしているが、ベルトエンコーダセンサ19による割り込みで、ベルト速度補償器33等のベルト速度制御ループの演算を、駆動軸エンコーダセンサ18による割り込みで、駆動軸速度補償器35等の駆動軸速度制御ループの演算を行ってもよい。この場合、駆動軸速度によって制御系の応答周波数が変化することに注意する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の実施形態1に係るベルト駆動制御装置を備えた画像形成装置の要部を示す構成図。
【図2】本発明の実施形態1に係る画像形成装置の要部を示す構成図。
【図3】本発明の実施形態1に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図4】ベルト駆動制御部による中間転写ベルトの駆動制御を示すフローチャート。
【図5】(a)は、元の周波数成分を示す図、(b)は、ダウンサンプリング後の周波数成分を示す図。
【図6】ベルト速度演算部の割り込み処理ルーチンで行われる動作を示すフローチャート。
【図7】ベルト速度演算部の割り込み処理ルーチンで行われる動作を示すフローチャート。
【図8】本発明の実施形態2に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図9】本発明の実施形態3に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図10】本発明の実施形態4に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図11】(a),(b)は、バンドパスフィルタの周波数特性の一例を示す図。
【図12】(a),(b)は、バンドパスフィルタの有無による駆動軸速度制御ループの開ループ周波数応答を示す図。
【図13】駆動軸速度制御ループを駆動し、抽出した信号に乗算する比例要素を0〜100まで変化させたときの駆動軸の周波数特性の変化を示した図。
【図14】(a)は、実施形態3におけるベルト駆動制御装置のバンドパスフィルタの出力を示す図、(b)は、実施形態4におけるベルト駆動制御装置のバンドパスフィルタの出力を示す図。
【図15】(a),(b)は、バンドパスフィルタを使用してフィルタ演算のサンプリング周波数を0.5倍、1.0倍、1.5倍としたときのフィルタ特性を示す図。
【図16】駆動軸速度演算部の割り込み処理ルーチンで行われる動作を示すフローチャート。
【図17】駆動軸速度演算部の割り込み処理ルーチンで行われる動作を示すフローチャート。
【図18】本発明の実施形態5に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図19】単ループ制御のステップ応答と2重ループ制御のステップ応答の測定結果を示した図。
【図20】本発明の実施形態6に係るベルト駆動制御装置の構成を示すブロック図。
【図21】中間転写ベルトの厚み変動周波数と駆動軸の回転周波数で、外乱を所望の値に抑制するために必要なゲインについて説明した図。
【図22】モータの回転周波数で、外乱を所望の値に抑制するために必要なゲインについて説明した図。
【図23】ベルト駆動制御部の速度カウンタをハードウェアとして備えた構成の一例を示したブロック図。
【図24】速度(駆動軸速度、ベルト速度)を演算器の割り込み処理によって算出する構成の一例を示したブロック図。
【図25】(a),(b)は、モータ電圧からベルト表面速度、駆動軸速度の周波数応答を示した図。
【符号の説明】
【0148】
1 画像形成装置
3 中間転写ベルト(無端ベルト)
5a,5b,5c,5d 感光体ドラム
10 駆動ローラ
15 モータ
18 駆動軸エンコーダセンサ
19 ベルトエンコーダセンサ
20 ベルト駆動制御装置
21 ベルト駆動制御部
22 減速機構
30 ベルト速度演算部
31 駆動軸速度演算部
32 第1比較器
33 ベルト速度補償器
34 第2比較器
35 駆動軸速度補償器
36 モータドライバ
38 変換係数部
39、41 バンドパスフィルタ
40 加算器
42、43 切換え部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結された駆動ローラと複数の従動ローラ間に張架された無端ベルトを、前記駆動軸に減速機構を介して連結されたモータの回転により駆動するときにベルト駆動制御を行う制御部を有するベルト駆動制御装置であって、
前記駆動軸近傍に設けた、該駆動軸の回転角度を検出するための回転角度検出手段と、
前記無端ベルトの移動量を検出するために該無端ベルトに設けられたマーカーを検出するマーカー検出手段とを有し、
前記制御部は、前記マーカー検出手段から入力される検出信号に基づいて、移動する前記無端ベルトのベルト表面速度を演算する第1の速度演算手段と、
前記回転角度検出手段から入力される検出信号に基づいて、回転する前記駆動軸の駆動軸速度を演算する第2の速度演算手段とを有し、
更に、ベルト目標速度と前記第1の速度演算手段で算出されたベルト表面速度とを比較して、移動する前記無端ベルトのベルト表面速度の補償演算を行う第1の速度補償器を有する第1の速度制御ループと、
前記第1の速度補償器の出力と前記第2の速度演算手段の出力を比較して、前記駆動軸速度の補償演算を行う第2の速度補償器を有する第2の速度制御ループとを備えた、
ことを特徴とするベルト駆動制御装置。
【請求項2】
前記制御部での制御演算は、デジタル演算器によって実行され、前記第1の速度演算手段は、前記無端ベルトに設けた前記マーカーによって発生されるパルス信号のタイミングで、前記デジタル演算器によりソフトウェア的に演算されるものであり、前記第2の速度演算手段は、前記回転角度検出手段の出力パルス信号のタイミングで、前記デジタル演算器によりソフトウェア的に演算されるものである、
ことを特徴とする請求項1に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1の速度演算手段では、ベルト目標速度とベルト表面速度とを比較して速度偏差を求め、該速度偏差のローパスフィルタ処理演算を実行してから、前記第1の速度補償器にその処理演算値を渡す、
ことを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載のベルト駆動制御装置。
【請求項4】
前記第1の速度補償器は積分要素を備えている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項5】
前記第1の速度演算手段では、ベルト目標速度とベルト表面速度を比較して速度偏差を求める演算と、前記第1の速度補償器の一部である積分演算を実行してから、前記第1の速度補償器にその処理演算値を渡す、
ことを特徴とする請求項4に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項6】
前記第2の速度制御ループでは、該第2の速度制御ループに入力される前記第1の速度補償器の出力である駆動軸の目標速度と前記第2の速度演算手段の出力である駆動軸速度とから駆動軸速度偏差を算出して、算出した該駆動軸速度偏差から所定の周波数のみを取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段の出力に所定ゲインを乗算して、前記第2の速度補償器の出力へ加算する加算手段とを備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項7】
前記第2の速度制御ループでは、前記第2の速度演算手段の出力である駆動軸速度から所定の周波数のみを取り出すフィルタ手段と、該フィルタ手段の出力に所定ゲインを乗算して、前記第2の速度補償器の出力へ加算する加算手段とを備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項8】
前記フィルタ手段の演算は、前記第2の速度演算手段によって演算される、
ことを特徴する請求項6又は請求項7記載のベルト駆動制御装置。
【請求項9】
前記第2の速度制御ループの目標速度を、前記第1の速度補償器の出力もしくはベルト目標速度に所定ゲインを乗算した値に切り換えるための切換え部を備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項10】
ベルト目標速度に所定ゲインを乗算して、前記第1の速度補償器の出力に加算する加算手段を備え、前記第2の速度制御ループの目標速度とする、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項11】
前記第2の速度制御ループの目標速度として前記第1の速度補償器の出力を、オン/オフする切換え部を備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項12】
前記第1の速度制御ループの応答周波数を、前記無端ベルトの厚み変動の周波数および前記駆動軸の回転周波数よりも高く設定する第1の速度補償器を備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項11のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項13】
前記第2の速度制御ループの応答周波数を、前記モータの回転周波数よりも高く設定する第2の速度補償器を備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項12のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項14】
前記駆動ローラと前記従動ローラの慣性モーメント、前記無端ベルトの剛性、前記減速機構の連結部の剛性のいずれか1つ以上によって発生する機械共振を抑えるための手段を、前記第1の速度補償器が備えている、
ことを特徴とする請求項請求項1乃至請求項13のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置。
【請求項15】
駆動ローラと複数の従動ローラ間に張架された無端ベルトを備えた画像形成装置において、
前記無端ベルトの駆動制御を行うベルト駆動制御装置として、請求項請求項1乃至請求項14のいずれか一項に記載のベルト駆動制御装置を備えている、
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項16】
前記無端ベルトは、感光体上に形成された複数色の画像が重ね合わされて転写される中間転写ベルトである、
ことを特徴とする請求項15に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2009−222112(P2009−222112A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66091(P2008−66091)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】