ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造
【課題】ベーン型圧縮機の潤滑オイルを減圧して供給する構造について、相対的に低いコストで且つ相対的に高い精度管理の下に加工することを可能とし、しかも潤滑オイルに含まれる塵等の異物により閉塞されて潤滑オイルの供給が不十分となることも抑止する。
【解決手段】ベーン型圧縮機1の駆動軸3の外周側に円環状の潤滑オイル絞り通路29を形成し、この潤滑オイル絞り通路29を、中継通路27を介して潤滑オイル室25と連通させると共に、この潤滑オイル絞り通路29の下流側と連通した潤滑オイル供給通路30を、ロータ4とリアサイドブロック7との摺動部分まで少なくとも延出させて、潤滑オイル室25からの潤滑オイルを潤滑オイル絞り通路29内で減圧してロータ4とリアサイドブロック7との摺動部分まで供給可能な、潤滑オイル移動経路Aを備えた構成とする。
【解決手段】ベーン型圧縮機1の駆動軸3の外周側に円環状の潤滑オイル絞り通路29を形成し、この潤滑オイル絞り通路29を、中継通路27を介して潤滑オイル室25と連通させると共に、この潤滑オイル絞り通路29の下流側と連通した潤滑オイル供給通路30を、ロータ4とリアサイドブロック7との摺動部分まで少なくとも延出させて、潤滑オイル室25からの潤滑オイルを潤滑オイル絞り通路29内で減圧してロータ4とリアサイドブロック7との摺動部分まで供給可能な、潤滑オイル移動経路Aを備えた構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用空調装置に用いられるベーン型圧縮機の構造に関し、特に、ベーン型圧縮機の所定の部位に、潤滑オイル等の潤滑剤を減圧してから供給するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のベーン型圧縮機において、ロータ端面とサイドブロックのロータとの摺動部分とに潤滑油を供給するために、リアサイドブロックに貫通孔状の潤滑油通路を設け、潤滑油がリアサイド側の油溜室からこのリアサイドブロックに設けられた当該潤滑油通路を経て軸受とロータとの摺動部分にそれぞれ供給される発明については、例えば特許文献1で示されるように既に公知となっている。そして、この特許文献1に示されるベーン型圧縮機では、駆動軸をリアサイド側の側壁に支持するための軸受として、当該特許文献1の図2においてローラーベアリング又はニードルベアリングと称される軸受(符号22)が図示されている。
【0003】
また、この種のベーン型圧縮機において、可変容量機構の制御プレートに対し、駆動軸の軸方向に沿って延びて当該制御プレートを貫通して成る絞り孔を形成して、高圧の潤滑油がこの絞り孔を介して背圧室に供給されるにあたり、潤滑油が絞り孔を通る際に減圧されるようにした発明については、例えば特許文献2により既に公知である。そして、この特許文献2に示されるベーン型圧縮機でも、駆動軸をリアサイドブロックに支持するスラストベアリングとして、当該特許文献2の図1においてローラーベアリング又はニードルベアリングと称される軸受(符号12)が図示されている。
【特許文献1】実開平3−99891号公報
【特許文献2】特開平5−223080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるように、リアサイドブロックに貫通孔状の潤滑油通路を形成し、又は、特許文献2に示されるように、可変容量機構の制御プレートに細長い絞り孔を形成することは、圧搾等による加工を行うこととなるため、相対的に作業が困難となるので、ベーン型圧縮機全体の製造コストが高くなるという不具合が懸念され、また、各潤滑油通路や絞り孔に対する内径寸法等の統一化のための精度管理も相対的に困難であるので、それぞれ異なる減圧がされた潤滑油が背圧室に送られて、背圧にばらつきが生ずることが考えられる。
【0005】
更に、潤滑油に塵等の異物が混入する場合には、リアサイドブロックに設けられた貫通孔状の潤滑油通路の開口面積が相対的に小さく、また、可変容量機構の制御プレートに設けられた絞り孔の開口面積も相対的に小さいので、これらの潤滑油通路や絞り孔に異物が詰まって閉塞され、潤滑油の供給が妨げられるという不都合も考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、相対的に安価なコストで且つ相対的に高い精度管理の下に加工することができ、更に、潤滑剤に含まれる塵等の異物により閉塞されて潤滑剤の供給が不十分となることも抑止したベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るベーン型圧縮機の潤滑剤供給構造は、両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記両サイドブロックに支持されると共に前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、前記駆動軸の外周側に円環状の潤滑剤絞り通路が形成されており、この潤滑剤絞り通路を少なくとも中継通路を介して前記潤滑剤室と連通させると共に、この潤滑剤絞り通路又はこの潤滑剤絞り通路の下流側と連通した潤滑剤供給通路を前記ロータ端面と前記リア側のサイドブロックとの摺動部分まで少なくとも延出させることにより、前記潤滑剤室からの潤滑剤を前記潤滑剤絞り通路内で減圧して前記ロータ端面と前記サイドブロックとの摺動部分まで供給することができる潤滑剤移動経路を備えていることを特徴とする(請求項1)。この潤滑剤絞り通路は、発明の実施形態の中で説明する、プレーンベアリングと駆動軸、又はサイドブロックの延出部と駆動軸とで形成される潤滑オイル絞り・供給兼用通路も含まれる。また、潤滑剤の供給先となるロータ端面とサイドブロックとの摺動部分であるが、ここで言うサイドブロックは、リア側のサイドブロックに限定されず、フロント側のサイドブロックも該当する。
【0008】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸に前記プレーンベアリングを装着することで生ずる隙間により形成されている(請求項2)。潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は、後述のようにレーンベアリングの内側面のうち駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたり、駆動軸の外周面のうちプレーンベアリングの内側面と対峙する部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたりしない場合には、例えば100マイクロメートルと、相対的に大きな寸法となっている。
【0009】
そして、前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたものとしても(請求項5)、又は前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたものとしても良い(請求項6)。この場合の潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は、例えば10マイクロメートルと、相対的に小さな寸法となっている。また、プレーンベアリングの溝又は駆動軸の窪み部により拡張された部分は、潤滑剤の絞り効果がないか低いもので、この潤滑剤絞り通路のうちプレーンベアリングの溝又は駆動軸の窪み部により拡張された部分は潤滑剤供給通路として主に機能する。
【0010】
一方で、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっており、前記潤滑剤供給通路は、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部のうち当該延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成され、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいものもある(請求項3)。この場合の潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は例えば10マイクロメートル、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は例えば100マイクロメートルとなっている。
【0011】
また、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤供給通路と前記潤滑剤絞り通路とは、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されており、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいものもある(請求項4)。この場合も、潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は例えば10マイクロメートル、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は例えば100マイクロメートルとなっている。
【0012】
そして、これらのベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造においても、前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたものとしても(請求項5)、又は前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたものとしても良い(請求項6)。
【0013】
更に、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部により行われていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成されたものもある(請求項7)。リア側のサイドブロックと延出部とは一体形成になっている。
【0014】
以上により、潤滑剤絞り通路は、駆動軸の外周面とプレーンベアリングの内側面又は駆動軸の外周面とリアサイドブロックから延出した延出部の駆動軸と対峙する面との組み合わせによって形成されるので、潤滑剤絞り通路が貫通孔としてサイドブロック等に加工形成される場合に比しその製造コストが低減されると共に、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅について高度な寸法等の精度管理が可能であるためベーン溝の背圧室に送られる潤滑剤の減圧も均一となり、背圧にばらつきが生ずることもない。
【0015】
また、潤滑剤絞り通路の周囲を画成するための面の一つを駆動軸の外周面が構成しており、この駆動軸は回転するため、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が侵入して引っ掛かっても小さく砕かれる等してしまうので排斥されやすい。
【0016】
しかも、潤滑剤絞り通路は駆動軸の外周側に円環状に形成されているため、この潤滑剤絞り通路の潤滑剤が移動可能な開口面積が、サイドブロックや駆動軸に貫通孔状の潤滑剤絞り部を形成する場合に比し相対的に大きくなるので、潤滑剤絞り通路内にゴミが引っ掛かった状態においても、潤滑剤絞り通路は潤滑剤が移動するのに十分な開口面積を確保していることから、前記ロータ端面と前記リアサイドブロックとの摺動部分に供給される潤滑剤の量が不足する事態は回避される。
【0017】
このように、駆動軸の外周側に潤滑剤絞り通路を有することで、潤滑剤室から中継通路を介して移動してきた高圧の潤滑剤は、この潤滑剤絞り通路を通る際に所定値まで減圧されて背圧室に送られるので、ベーンをカムリング側に押し出す作用を得られつつ、ベーンがカムリングの内周面に強く押し付けられてしまい、カムリングの内周面が摩耗してしまうことが回避されるという所期の目的を達成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、潤滑剤絞り通路を、駆動軸の外周面とプレーンベアリングの内側面、駆動軸の外周面とリアサイドブロックから延出した延出部の駆動軸と対峙する面との組み合わせによって形成するので、潤滑剤絞り通路が貫通孔としてサイドブロック等に加工形成される場合に比しベーン型圧縮機の製造コストを低減することができる。そして、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向寸法について高度な精度管理が可能であるためベーン溝の背圧室に送られる潤滑剤の圧力低減も均一となり、背圧にばらつきが生ずるのを抑制することが可能であるから、ベーン型圧縮機の性能を十分に発揮、維持させることができる。
【0019】
また、この発明によれば、潤滑剤絞り通路の周囲を構成する面の一つを駆動軸が構成しており、この駆動軸は回転するため、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が侵入して引っ掛かっても小さく砕かれたりして排斥されやすいことから、潤滑剤絞り通路が潤滑剤の包含する塵等の異物により長期にわたって詰まるのを防止することができるので、背圧室や潤滑剤のロータ端面とリアサイドブロックとの摺動部分へ供給される量が不足することを防止することが可能である。
【0020】
しかも、この発明によれば、潤滑剤絞り通路は、駆動軸の外周側に円環状に形成されているため、潤滑剤絞り通路の潤滑剤が移動可能な開口面積がサイドブロックや駆動軸に貫通孔状の潤滑剤絞り部を形成する場合に比し相対的に大きくなるので、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が引っ掛かった状態においても、潤滑剤絞り通路は潤滑剤が移動するのに十分な開口面積を確保していることから、ロータ端面とリアサイドブロックとの摺動面に供給される潤滑剤の量が不足することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0022】
図1から図3において、この発明の第1の実施例に係るベーン型圧縮機1の全体構成が示されている。このベーン型圧縮機1は、例えば冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適したもので、車両用空調装置等に用いられる。
【0023】
このベーン型圧縮機1は、カムリング2と、このカムリング2内に回転可能に収納されると共に駆動軸3に固定されたロータ4と、このロータ4に設けられた複数のベーン溝5に挿入されるベーン6と、カムリング2のリア側端面に固定されるリアサイドブロック7と、カムリング2のフロント側端面及び外周面を包囲し、リアサイドブロック7に嵌合するフロントサイドブロック8とを有して構成されている。
【0024】
駆動軸3は、フロントサイドブロック8にはローラーベアリング、ニードルベアリングと称される軸受10を介して、リアサイドブロック7には後述するプレーンベアリング11を介して、回転可能に支持されている。但し、フロントサイドブロック8に用いられる軸受10として、例えばプレーンベアリングを用いても良い。
【0025】
そして、フロントサイドブロック8には、作動流体(冷媒ガス)の吸入口12と、この吸入口に連通する低圧室13が形成され、リアサイドブロック7には、作動流体の吐出口14と、この吐出口14に作動流体を送る経路となる高圧室15が形成されている。この高圧室15は、後述するフランジ部2aの通孔21を介して吐出弁収容室19に連通する高圧室15と、この吐出弁収容室19に連通する高圧室15に後述するオイル分離器43を介して連通すると共に吐出口14に連通する高圧室15とがある。
【0026】
カムリング2の内周面には楕円状の空間9が形成され、この空間9に真円状のロータ4が配されることで、カムリング2とロータ4の外周面との間には圧縮空間16が画成されており、この圧縮空間16はベーン6によって仕切られて複数の圧縮室17が形成されていると共に、各圧縮室17の容積はロータ4の回転により変化するようになっている。
【0027】
上述のロータ4に設けられたベーン溝5は、カムリング2の内周面側のみならず、フロントサイドブロック8側及びリアサイドブロック7側にも開口され、またその底部に背圧室23が形成されている。よって、背圧室23もフロントサイドブロック8側及びリアサイドブロック7側に開口したものとなっている。
【0028】
リアサイドブロック7は、カムリング2に当接するサイドブロック部7aと、ヘッド部7bとを有するもので、カムリング2と対峙する端面を駆動軸3の軸方向に窪ませることにより上記の高圧室15を形成するための凹部15aが形成されている。
【0029】
フロントサイドブロック8は、カムリング2に当接するサイドブロック部8aと、このサイドブロック部8aを包囲するシェル状のヘッド部8bとが一体形成されたもので、駆動軸3に車両エンジン等の外部駆動源(図示せず)からの回転動力を伝達するためのプーリ(図示せず)がボス部8cに回転可能に外装され、このプーリから電磁クラッチ(図示せず)を介して外部駆動源からの回転動力が駆動軸3に伝達されるようになっている。
【0030】
カムリング2は、その両端部に駆動軸3の径方向に沿って突出したフランジ部2a、2bが形成されている。このうち、フロント側のフランジ部2bは、フロントサイドブロック8の内周形状に合わせた形状に形成されて、このフロントサイドブロック8の内部に圧入されている。これに対し、リア側のフランジ部2aは、この実施例では、フロントサイドブロック8のヘッド部8bの内周形状に合わせた形状に形成されて、このヘッド部8bの内部に圧入されている。但し、リアサイドブロック7に嵌入部を形成すると共に、リア側のフランジ部2aをこの嵌入部に合わせた形状に形成して、リア側のフランジ部2aがこの嵌入部に圧入されるものとしても良い。これにより、この実施例では、リアサイドブロック7をフロントサイドブロック8のヘッド部8bに適宜に圧入した場合には、フランジ部2aはリアサイドブロック7の端面と当接されて、リアサイドブロック7の外周縁近傍に形成された凹部15aを閉塞して、前記高圧室15が画成される。
【0031】
カムリング2の外周面には、圧縮空間16に対応して吐出ポート18が設けられている。また、カムリング2の外周面とフロントサイドブロック8の内周面との間には、カムリング2の両端に形成されたフランジ部2a、2bによって画成された吐出弁収容室19が形成されていると共に、前記吐出ポート18はこの吐出弁収容室19に開口し、前記ベーン6間に形成された圧縮室17が吐出ポート18を介して連通可能となっている。そして、吐出ポート18は、吐出弁収容室19に収容された吐出弁20により開閉されるようになっている。
【0032】
この吐出弁収容室19と高圧室15とは、カムリング2に設けられたフランジ部2aにより分離されており、このフランジ部2aに形成された通孔21を介してのみ連通されている。また、リアサイドブロック7には、カムリング2のフランジ部2aに形成された通孔21よりも下流側に、吐出ガスに混在する潤滑オイルを分離するための遠心分離式のオイル分離器43が設けられている。
【0033】
上記の構成によれば、ベーン型圧縮機による作動流体の吸入、圧縮、吐出の動作は以下のようになる。すなわち、図示しない外部動力源からの回転動力が図示しないプーリ及び電磁クラッチを介して駆動軸3に伝達され、ロータ4が回転すると、吸入口12から低圧室13に流入した作動流体が図示しない吸入ポートを介して圧縮空間16に吸入される。圧縮空間16内のベーン6によって仕切られた圧縮室17の容積はロータ4の回転に伴って変化するので、ベーン6間に閉じ込められた作動流体は圧縮されて、吐出ポート18から吐出弁20を介して吐出弁収容室19に吐出され、カムリング2のフランジ部2aに形成された通孔21を介してリアサイドブロック7に形成された高圧室15へ導かれる。作動流体は、その後、図示しない導入ポートを介してオイル分離器43に導入され、ここで潤滑オイルが分離されてから隣接の吐出口14と連通した高圧室15へ導かれ、しかる後に吐出口14から吐出される。
【0034】
そして、この発明に係るベーン型圧縮機1は、オイル分離器43で分離された高圧の潤滑オイルを、ベーン6の端面とリアサイドブロック7との摺動部分、背圧室23、及び、ベーン6の端面とフロントサイドブロック8との摺動部分に送るために、図5に示されるように潤滑オイル移動経路Aを有している。
【0035】
この潤滑オイル移動経路Aは、図5に示されるように、オイル分離器43で分離された高圧の潤滑オイルを一次的に溜める潤滑オイル室25を起点とするもので、リアサイドブロック7の駆動軸3を収納した駆動軸収納空間26と潤滑オイル室25とを結ぶ中継通路27がリアサイドブロック7に形成されて、潤滑オイル室25から中継通路27を介して駆動軸収納空間26まで移動する。中継通路27の下流側開口は、この実施例では、駆動軸収納空間26のうち駆動軸3の端部の下方側若しくは駆動軸3の端部よりもリア側に開口している。
【0036】
駆動軸収納空間26は、図4に示されるように、リアサイドブロック7から駆動軸3の径方向に沿って円環状に延出部28が延出することにより相対的に狭められた部位を有し、この駆動軸収納空間26の相対的に狭い部位に駆動軸3を配置することにより、駆動軸3の外周面と延出部28の延出側面(駆動軸3と対峙する面)とで、駆動軸3の外周面と駆動軸収納空間26の延出部28を有しない部位の内側面との間隔よりも狭い潤滑オイル絞り通路29が円環状に形成されている。この潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向寸法の数値L1は、例えば100マイクロメートルとなっている。
【0037】
そして、駆動軸収納空間26の延出部28よりもフロント側において、プレーンベアリング11が駆動軸3に装着されている。このプレーンベアリング11は、この実施例では、筒状体11aと、この筒状体11aの端部から筒状体11aに対し例えば直角方向等、その軸方向と交差する角度で曲折してなるフランジ部11bとで構成されている。筒状体11aの内径寸法は駆動軸3の外径寸法よりも若干大きくなっている。これにより、駆動軸3にプレーンベアリング11を装着した場合には、図4に示されるように、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の筒状体11aの内周面との間に潤滑オイル供給通路30が円環状に形成される。この潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向寸法の数値L2は、例えば10マイクロメートルとなっている。
【0038】
そして、この潤滑オイル供給通路30は、図4に示されるように、潤滑オイル絞り通路29とは反対側において、通路31を介してベーン溝5の背圧室23と連通している。さらに、背圧室23は、この通路31とは反対側に位置する通路を介してロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分とも連通している。
【0039】
以上の構成によれば、図4及び図5に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り通路29で減圧されて、潤滑オイル供給通路30に送られる。そして、潤滑オイルは、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、更に、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0040】
更にまた、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、前述したフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0041】
ここで、潤滑オイル絞り通路29について、リアサイドブロック7から円環状に延出部28を駆動軸収納空間26内に駆動軸3の径方向に沿って延出させることで形成するとして説明したが必ずしもこれに限定されない。図6に示されるように、プレーンベアリング11を駆動軸3の軸方向に沿って中継通路27の開口近傍まで延出させ、その先端部位の厚みを円環状に大きくすることにより、プレーンベアリング11の開口端部位の内周面と駆動軸3の外周面とで構成された、円環状の潤滑オイル絞り通路29を有するものとしても良い。
【0042】
すなわち、プレーンベアリング11の開口端部位の内周面と駆動軸3の外周面との間には、駆動軸3のリア側から潤滑オイル絞り通路29と潤滑オイル供給通路30とが順次、形成されたものとなる。そして、この場合においても、潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向寸法の数値L1は例えば100マイクロメートルとなり、潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向寸法の数値L2は、例えば10マイクロメートルとなっている。
【0043】
このような構成によっても、先の図4及び図5に示された潤滑オイル移動経路Aと同様の経路が構成されて、潤滑オイルも先述した説明と同様の作用及び働きをなすことができる。尚、この実施例1の変形例については、図6において、先の実施例1と同様の構成については同一の符号を付すことでその説明を省略した。
【0044】
また、プレーンベアリング11の構造について、後述する実施例2の図9のようにその内周面に対して駆動軸の軸方向に向いつつ直線的でなく湾曲して螺旋状に延びる1又は2以上(図示上は2つ)の溝35を有するものとしても良い。これにより、潤滑オイルが潤滑オイル供給通路30を移動する際に、当該潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向幅が相対的に狭いために抵抗となって潤滑オイルの移動が円滑に行われないことを、潤滑オイルの一部がこの溝35を流れることで回避される。更に、プレーンベアリング11は、フランジ部11bを有さず、筒状体11aのみからなる構成であっても良い。
【実施例2】
【0045】
この発明のベーン型圧縮機1における第2の実施例及びその変形例について、図7から図12を示しながら説明する。尚、このベーン型圧縮機1の全体構成については、潤滑オイル移動経路Aの一部以外について、先述した第1の実施例と同じであるので、当該第1の実施例1の図1から図3に相当する図を省略し、且つ、この第1の実施例と同様の構成についての説明も、同一の符号を付す等して省略した。
【0046】
図7においては、潤滑オイル移動経路Aとして、これまで説明してきた構成での潤滑オイル絞り通路29を有しておらず、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面とで形成された円環状の潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を有する構成が示されている。すなわち、この第2の実施例では、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば100マイクロメートルとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は潤滑オイル絞り通路としても機能している。
【0047】
以上の構成によれば、図7及び図8に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34に送られる。そして、潤滑オイルは、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通過する際に減圧されると同時に、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0048】
更にまた、この実施例でも、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、この背圧室23のフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0049】
図9から図11において、第2の実施例の変形例1が示されており、この変形例1では、筒状体11aに溝35を有するプレーンベアリング11が用いられる構成となっている。このプレーンベアリング11の溝35は、この実施例では、2条ほど形成されているもので、各溝35は、駆動軸3の軸方向に向いつつ直線的でなく湾曲して螺旋状に延びた形状となっている。但し、溝35の条数について必ずしもこれに限定されず、1条でも3条以上であっても良いが、後述する工程を経てプレーンベアリング11が製造される場合には、剛性が不均一にならない程度の条数(例えば2条)に溝35の条数も限定される。
【0050】
そして、プレーンベアリング11と駆動軸3の外周面とで形成される潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は、プレーンベアリング11側が溝35以外となる内側面にあっては、駆動軸径方向幅が、第1の実施例に示される潤滑オイル供給通路30の駆動軸の径方向幅と同じ数値L2、例えば10マイクロメートルとなっていると共に、プレーンベアリング11側が溝35の駆動軸3に対峙する内側面にあっては、駆動軸径方向幅が潤滑オイルに対し絞り効果を生じない程度の寸法となっている。
【0051】
但し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34のうちプレーンベアリング11の溝35以外の内側面と駆動軸3の外周面とで形成される部位の駆動軸径方向幅について、例えば第1の実施例に示される潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向幅と同じ数値L1、例えば100マイクロメートルとしても良い。
【0052】
これにより、潤滑オイルが潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通る際に、その潤滑オイルの全部は、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働くと共に、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の溝35以外の内側面とで形成される部位を移動する潤滑オイルは減圧される。そして、駆動軸3の外周面と溝35の内側面とで形成される部位を移動する潤滑オイルは、相対的に広い部位を移動するので、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の全体としては潤滑オイルの移動に対して抵抗となるのを防止することができる。
【0053】
次に、このプレーンベアリング11の成形について図10を用いて概説すると、まず平板状のプレート素材37に対し、プレス加工により溝35を必要な条数に応じて形成すると共に、フランジ部11bを形成するための折り代38を施す。溝35は、プレート素材37の短手方向の端部から内側に向って延びるが、折り代38を越えないように形成される。そして、このプレート素材37について、折り代38で折り曲げつつ全体的にもロール状に曲げることで、プレーンベアリング11が成形される。これにより、溝35を有するプレーンベアリング11の成形も簡易となっている。
【0054】
図12において、第2の実施例の変形例2が示されており、この変形例2では、駆動軸3は、外周面に対しその軸方向に沿って延びる面取りを施すことにより、他の外周面よりも窪んだ窪み部39を有している。これにより、この駆動軸3にプレーンベアリング11を装着した場合には、プレーンベアリング11の内周面と駆動軸3の窪み部39以外での外周面とで潤滑オイル絞り・供給兼用通路34が形成される一方で、プレーンベアリング11の内周面と窪み部39の面とで潤滑オイルに対し絞り効果を生じない潤滑オイル非絞り通路部40も有する。
【0055】
すなわち、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向幅は、第1の実施例に示される潤滑オイル供給通路30の駆動軸の径方向幅と同じ数値L2、例えば10マイクロメートルとなっていると共に、潤滑オイル非絞り通路部40の駆動軸径方向幅は、潤滑オイルに対し絞り効果を生じない程度の寸法が確保されている。但し、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向幅について、例えば第1の実施例に示される潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向幅と同じ数値L1、例えば100マイクロメートルとしても良い。
【0056】
これにより、潤滑オイルが潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通る際に、その潤滑オイルの全部は、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働くと共に、潤滑オイル非絞り通路部40以外の部位を移動する潤滑オイルは減圧される。そして、潤滑オイル非絞り通路部40を移動する潤滑オイルは、相対的に広い部位を移動する。これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の全体としては潤滑オイルの移動に対して抵抗となるのを防止することができる。
【実施例3】
【0057】
この発明のベーン型圧縮機1における第3の実施例について、図13を示しながら説明する。尚、このベーン型圧縮機1の全体構成については、潤滑オイル移動経路Aの一部以外について、第1の実施例及び第2の実施例と同じであるので、第1の実施例1の図1から図3に相当する図を省略し、且つ、この第1の実施例と同様の構成についての説明も、同一の符号を付す等して省略した。
【0058】
図13においては、プレーンベアリング11を有さず、代わりにリアサイドブロック7から駆動軸の径方向に沿って円環状に延出した延出部42を有したものとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は、駆動軸3の外周面と延出部42の延出側面(駆動軸3と対峙する面)とにより円環状に形成されている。そして、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば100マイクロメートルとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は潤滑オイル絞り通路としても機能している。
【0059】
以上の構成によれば、図13に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34に送られる。そして、潤滑オイルは、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通過する際に減圧されると同時に、駆動軸3の外周面と延出部42の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0060】
更にまた、この実施例でも、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、前述したフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0061】
尚、図示しないが、延出部42の延出側面に先述したプレーンベアリング11の溝35と同様の形状の溝を形成し、又は駆動軸3に先述した窪み部39と同様の窪み部を形成して、同じく先述した潤滑オイル非絞り通路部40と同様に機能する潤滑オイル非絞り通路部を有したものとしても良い。これにより、潤滑オイルの供給量が確保されるので、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば10マイクロメートルとすることができる。
【実施例4】
【0062】
この発明に係るベーン型圧縮機の軸受構造は、
両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、
前記駆動軸は、プレーンベアリングを介して前記サイドブロックへ回転可能に支持されており、このプレーンベアリングは、前記駆動軸が挿通可能な筒状体とこの筒状体の軸方向の一方端から外側に向けて延出したフランジ部とを有して構成されていると共に、このプレーンベアリングのフランジ部と前記サイドブロックの端面との間に隙間が設けられていることを特徴としたものとなっている。
【0063】
この発明の技術分野は、例えば車両用空調装置に用いられるベーン型圧縮機の構造に関し、特に、駆動軸を回転可能に支持するための軸受の構造に関するものである。
【0064】
この発明が解決しようとする課題は以下の通りである。
本願出願人により、例えば、特願2006−231586号(未公開)の明細書の段落番号「0022」において、駆動軸3をフロントサイドブロック8に相当するシェル部材及びリアサイドブロック7に相当するリアサイド部材にプレーンベアリングを介して回転可能に支持することが記載されている。しかしながら、上記特許出願に添付された図面にプレーンベアリングが図示されず、且つプレーンベアリングがフランジ部を有するか否かも具体的に説明されていないもので、この発明のプレーンベアリング11のフランジ部11bをロータ4に当接させて、ロータ4とリアサイドブロック7(フロントサイドブロック8も可。)とのクリアランス管理に利用し、サイドブロック7、8の端面に対する表面処理を不要とするという解決手段を示していないものである。
【0065】
すなわち、この発明では、図4、図6、図7及び図11に示されるように、プレーンベアリング11のフランジ部11bはロータ4と略当接した状態にあると共に、リアサイドブロック7との間には所定の寸法値L3でクリアランスが設けられている。このクリアランスは、ロータ4及びこのプレーンベアリング11が装着された状態の駆動軸3をリアサイドブロック7の駆動軸収納空間26内に荷重をかけて押し込んだ後、この荷重をなくした際に生ずる復元力で生じさせることができる。このクリアランスがあることで、プレーンベアリング11のロータ4側の面はリアサイドブロック7の摺動面よりも例えば20マイクロメートルほど出ているので、リアサイドブロック7のロータ4側の端面に対しテフロン(登録商標)によるコーティング等の表面処理をすることが不要となるという効果が生ずる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、この発明に係るベーン型圧縮機について、駆動軸の軸方向からリアサイドブロック側を見た状態を示す断面図である。
【図2】図2は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における全体構成を側方から見た状態を示す断面図である。
【図3】図3は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における全体構成を側方から見た状態を示す断面図であって、図2とは異なる切り口で切断した構成を示す断面図である。
【図4】図4は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例の主要な構成部品をなすプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り通路及びリアサイドブロックと駆動軸とで形成された潤滑オイル供給通路の構成を示した要部拡大断面図である。
【図5】図5は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における潤滑オイルの流れる経路を示した断面図である。
【図6】図6は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例の変形例として、潤滑オイル絞り通路及び潤滑オイル供給通路の双方をプレーンベアリングと駆動軸とで形成した構成を示す要部拡大断面図である。
【図7】図7は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例におけるプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部の構成を示した断面図である。
【図8】図8は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例における潤滑オイルの流れる経路を示した断面図である。
【図9】図9は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例の変形例1として、プレーンベアリングの内側面に溝を形成した構成を示す斜視図である。
【図10】図10は、同上のプレーンベアリングを形成するためのプレス加工済みで且つ最終ロール形成前のプレート素材の構成について示す平面図である。
【図11】図11は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2の変形例1におけるプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部であって溝を有する構成を示した断面図である。
【図12】図12(a)は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2の変形例2として、駆動軸の外周面の一部を面取りすることで窪みを形成した構成について当該駆動軸の軸方向から見た状態を示す断面図であり、図12(b)は、同じく同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2変形例2として、駆動軸の外周面の一部を面取りすることで窪み部を形成した構成について当該駆動軸の径方向から見た状態を示す断面図である。
【図13】図13は、同上のベーン型圧縮機の第3の実施例におけるサイドブロックから延出した延出部と駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部の構成を示した断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ベーン型圧縮機
2 カムリング
3 駆動軸
4 ロータ
5 ベーン溝
6 ベーン
7 リアサイドブロック(リア側のサイドブロック)
8 フロントサイドブロック(フロント側のサイドブロック)
11 プレーンベアリング
27 中継通路
28 延出部
29 潤滑オイル絞り通路(潤滑剤絞り通路)
30 潤滑オイル供給通路(潤滑剤供給通路)
34 潤滑オイル絞り・供給兼用通路(潤滑剤絞り通路)
35 溝
37 プレート素材
38 折り代
39 窪み部
40 潤滑オイル非絞り通路部
42 延出部
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用空調装置に用いられるベーン型圧縮機の構造に関し、特に、ベーン型圧縮機の所定の部位に、潤滑オイル等の潤滑剤を減圧してから供給するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のベーン型圧縮機において、ロータ端面とサイドブロックのロータとの摺動部分とに潤滑油を供給するために、リアサイドブロックに貫通孔状の潤滑油通路を設け、潤滑油がリアサイド側の油溜室からこのリアサイドブロックに設けられた当該潤滑油通路を経て軸受とロータとの摺動部分にそれぞれ供給される発明については、例えば特許文献1で示されるように既に公知となっている。そして、この特許文献1に示されるベーン型圧縮機では、駆動軸をリアサイド側の側壁に支持するための軸受として、当該特許文献1の図2においてローラーベアリング又はニードルベアリングと称される軸受(符号22)が図示されている。
【0003】
また、この種のベーン型圧縮機において、可変容量機構の制御プレートに対し、駆動軸の軸方向に沿って延びて当該制御プレートを貫通して成る絞り孔を形成して、高圧の潤滑油がこの絞り孔を介して背圧室に供給されるにあたり、潤滑油が絞り孔を通る際に減圧されるようにした発明については、例えば特許文献2により既に公知である。そして、この特許文献2に示されるベーン型圧縮機でも、駆動軸をリアサイドブロックに支持するスラストベアリングとして、当該特許文献2の図1においてローラーベアリング又はニードルベアリングと称される軸受(符号12)が図示されている。
【特許文献1】実開平3−99891号公報
【特許文献2】特開平5−223080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるように、リアサイドブロックに貫通孔状の潤滑油通路を形成し、又は、特許文献2に示されるように、可変容量機構の制御プレートに細長い絞り孔を形成することは、圧搾等による加工を行うこととなるため、相対的に作業が困難となるので、ベーン型圧縮機全体の製造コストが高くなるという不具合が懸念され、また、各潤滑油通路や絞り孔に対する内径寸法等の統一化のための精度管理も相対的に困難であるので、それぞれ異なる減圧がされた潤滑油が背圧室に送られて、背圧にばらつきが生ずることが考えられる。
【0005】
更に、潤滑油に塵等の異物が混入する場合には、リアサイドブロックに設けられた貫通孔状の潤滑油通路の開口面積が相対的に小さく、また、可変容量機構の制御プレートに設けられた絞り孔の開口面積も相対的に小さいので、これらの潤滑油通路や絞り孔に異物が詰まって閉塞され、潤滑油の供給が妨げられるという不都合も考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、相対的に安価なコストで且つ相対的に高い精度管理の下に加工することができ、更に、潤滑剤に含まれる塵等の異物により閉塞されて潤滑剤の供給が不十分となることも抑止したベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るベーン型圧縮機の潤滑剤供給構造は、両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記両サイドブロックに支持されると共に前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、前記駆動軸の外周側に円環状の潤滑剤絞り通路が形成されており、この潤滑剤絞り通路を少なくとも中継通路を介して前記潤滑剤室と連通させると共に、この潤滑剤絞り通路又はこの潤滑剤絞り通路の下流側と連通した潤滑剤供給通路を前記ロータ端面と前記リア側のサイドブロックとの摺動部分まで少なくとも延出させることにより、前記潤滑剤室からの潤滑剤を前記潤滑剤絞り通路内で減圧して前記ロータ端面と前記サイドブロックとの摺動部分まで供給することができる潤滑剤移動経路を備えていることを特徴とする(請求項1)。この潤滑剤絞り通路は、発明の実施形態の中で説明する、プレーンベアリングと駆動軸、又はサイドブロックの延出部と駆動軸とで形成される潤滑オイル絞り・供給兼用通路も含まれる。また、潤滑剤の供給先となるロータ端面とサイドブロックとの摺動部分であるが、ここで言うサイドブロックは、リア側のサイドブロックに限定されず、フロント側のサイドブロックも該当する。
【0008】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸に前記プレーンベアリングを装着することで生ずる隙間により形成されている(請求項2)。潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は、後述のようにレーンベアリングの内側面のうち駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたり、駆動軸の外周面のうちプレーンベアリングの内側面と対峙する部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたりしない場合には、例えば100マイクロメートルと、相対的に大きな寸法となっている。
【0009】
そして、前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたものとしても(請求項5)、又は前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたものとしても良い(請求項6)。この場合の潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は、例えば10マイクロメートルと、相対的に小さな寸法となっている。また、プレーンベアリングの溝又は駆動軸の窪み部により拡張された部分は、潤滑剤の絞り効果がないか低いもので、この潤滑剤絞り通路のうちプレーンベアリングの溝又は駆動軸の窪み部により拡張された部分は潤滑剤供給通路として主に機能する。
【0010】
一方で、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっており、前記潤滑剤供給通路は、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部のうち当該延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成され、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいものもある(請求項3)。この場合の潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は例えば10マイクロメートル、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は例えば100マイクロメートルとなっている。
【0011】
また、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤供給通路と前記潤滑剤絞り通路とは、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されており、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいものもある(請求項4)。この場合も、潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は例えば10マイクロメートル、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅は例えば100マイクロメートルとなっている。
【0012】
そして、これらのベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造においても、前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたものとしても(請求項5)、又は前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたものとしても良い(請求項6)。
【0013】
更に、ベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造としては、前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部により行われていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成されたものもある(請求項7)。リア側のサイドブロックと延出部とは一体形成になっている。
【0014】
以上により、潤滑剤絞り通路は、駆動軸の外周面とプレーンベアリングの内側面又は駆動軸の外周面とリアサイドブロックから延出した延出部の駆動軸と対峙する面との組み合わせによって形成されるので、潤滑剤絞り通路が貫通孔としてサイドブロック等に加工形成される場合に比しその製造コストが低減されると共に、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅について高度な寸法等の精度管理が可能であるためベーン溝の背圧室に送られる潤滑剤の減圧も均一となり、背圧にばらつきが生ずることもない。
【0015】
また、潤滑剤絞り通路の周囲を画成するための面の一つを駆動軸の外周面が構成しており、この駆動軸は回転するため、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が侵入して引っ掛かっても小さく砕かれる等してしまうので排斥されやすい。
【0016】
しかも、潤滑剤絞り通路は駆動軸の外周側に円環状に形成されているため、この潤滑剤絞り通路の潤滑剤が移動可能な開口面積が、サイドブロックや駆動軸に貫通孔状の潤滑剤絞り部を形成する場合に比し相対的に大きくなるので、潤滑剤絞り通路内にゴミが引っ掛かった状態においても、潤滑剤絞り通路は潤滑剤が移動するのに十分な開口面積を確保していることから、前記ロータ端面と前記リアサイドブロックとの摺動部分に供給される潤滑剤の量が不足する事態は回避される。
【0017】
このように、駆動軸の外周側に潤滑剤絞り通路を有することで、潤滑剤室から中継通路を介して移動してきた高圧の潤滑剤は、この潤滑剤絞り通路を通る際に所定値まで減圧されて背圧室に送られるので、ベーンをカムリング側に押し出す作用を得られつつ、ベーンがカムリングの内周面に強く押し付けられてしまい、カムリングの内周面が摩耗してしまうことが回避されるという所期の目的を達成することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、潤滑剤絞り通路を、駆動軸の外周面とプレーンベアリングの内側面、駆動軸の外周面とリアサイドブロックから延出した延出部の駆動軸と対峙する面との組み合わせによって形成するので、潤滑剤絞り通路が貫通孔としてサイドブロック等に加工形成される場合に比しベーン型圧縮機の製造コストを低減することができる。そして、潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向寸法について高度な精度管理が可能であるためベーン溝の背圧室に送られる潤滑剤の圧力低減も均一となり、背圧にばらつきが生ずるのを抑制することが可能であるから、ベーン型圧縮機の性能を十分に発揮、維持させることができる。
【0019】
また、この発明によれば、潤滑剤絞り通路の周囲を構成する面の一つを駆動軸が構成しており、この駆動軸は回転するため、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が侵入して引っ掛かっても小さく砕かれたりして排斥されやすいことから、潤滑剤絞り通路が潤滑剤の包含する塵等の異物により長期にわたって詰まるのを防止することができるので、背圧室や潤滑剤のロータ端面とリアサイドブロックとの摺動部分へ供給される量が不足することを防止することが可能である。
【0020】
しかも、この発明によれば、潤滑剤絞り通路は、駆動軸の外周側に円環状に形成されているため、潤滑剤絞り通路の潤滑剤が移動可能な開口面積がサイドブロックや駆動軸に貫通孔状の潤滑剤絞り部を形成する場合に比し相対的に大きくなるので、潤滑剤絞り通路内に塵等の異物が引っ掛かった状態においても、潤滑剤絞り通路は潤滑剤が移動するのに十分な開口面積を確保していることから、ロータ端面とリアサイドブロックとの摺動面に供給される潤滑剤の量が不足することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0022】
図1から図3において、この発明の第1の実施例に係るベーン型圧縮機1の全体構成が示されている。このベーン型圧縮機1は、例えば冷媒を作動流体とする冷凍サイクルに適したもので、車両用空調装置等に用いられる。
【0023】
このベーン型圧縮機1は、カムリング2と、このカムリング2内に回転可能に収納されると共に駆動軸3に固定されたロータ4と、このロータ4に設けられた複数のベーン溝5に挿入されるベーン6と、カムリング2のリア側端面に固定されるリアサイドブロック7と、カムリング2のフロント側端面及び外周面を包囲し、リアサイドブロック7に嵌合するフロントサイドブロック8とを有して構成されている。
【0024】
駆動軸3は、フロントサイドブロック8にはローラーベアリング、ニードルベアリングと称される軸受10を介して、リアサイドブロック7には後述するプレーンベアリング11を介して、回転可能に支持されている。但し、フロントサイドブロック8に用いられる軸受10として、例えばプレーンベアリングを用いても良い。
【0025】
そして、フロントサイドブロック8には、作動流体(冷媒ガス)の吸入口12と、この吸入口に連通する低圧室13が形成され、リアサイドブロック7には、作動流体の吐出口14と、この吐出口14に作動流体を送る経路となる高圧室15が形成されている。この高圧室15は、後述するフランジ部2aの通孔21を介して吐出弁収容室19に連通する高圧室15と、この吐出弁収容室19に連通する高圧室15に後述するオイル分離器43を介して連通すると共に吐出口14に連通する高圧室15とがある。
【0026】
カムリング2の内周面には楕円状の空間9が形成され、この空間9に真円状のロータ4が配されることで、カムリング2とロータ4の外周面との間には圧縮空間16が画成されており、この圧縮空間16はベーン6によって仕切られて複数の圧縮室17が形成されていると共に、各圧縮室17の容積はロータ4の回転により変化するようになっている。
【0027】
上述のロータ4に設けられたベーン溝5は、カムリング2の内周面側のみならず、フロントサイドブロック8側及びリアサイドブロック7側にも開口され、またその底部に背圧室23が形成されている。よって、背圧室23もフロントサイドブロック8側及びリアサイドブロック7側に開口したものとなっている。
【0028】
リアサイドブロック7は、カムリング2に当接するサイドブロック部7aと、ヘッド部7bとを有するもので、カムリング2と対峙する端面を駆動軸3の軸方向に窪ませることにより上記の高圧室15を形成するための凹部15aが形成されている。
【0029】
フロントサイドブロック8は、カムリング2に当接するサイドブロック部8aと、このサイドブロック部8aを包囲するシェル状のヘッド部8bとが一体形成されたもので、駆動軸3に車両エンジン等の外部駆動源(図示せず)からの回転動力を伝達するためのプーリ(図示せず)がボス部8cに回転可能に外装され、このプーリから電磁クラッチ(図示せず)を介して外部駆動源からの回転動力が駆動軸3に伝達されるようになっている。
【0030】
カムリング2は、その両端部に駆動軸3の径方向に沿って突出したフランジ部2a、2bが形成されている。このうち、フロント側のフランジ部2bは、フロントサイドブロック8の内周形状に合わせた形状に形成されて、このフロントサイドブロック8の内部に圧入されている。これに対し、リア側のフランジ部2aは、この実施例では、フロントサイドブロック8のヘッド部8bの内周形状に合わせた形状に形成されて、このヘッド部8bの内部に圧入されている。但し、リアサイドブロック7に嵌入部を形成すると共に、リア側のフランジ部2aをこの嵌入部に合わせた形状に形成して、リア側のフランジ部2aがこの嵌入部に圧入されるものとしても良い。これにより、この実施例では、リアサイドブロック7をフロントサイドブロック8のヘッド部8bに適宜に圧入した場合には、フランジ部2aはリアサイドブロック7の端面と当接されて、リアサイドブロック7の外周縁近傍に形成された凹部15aを閉塞して、前記高圧室15が画成される。
【0031】
カムリング2の外周面には、圧縮空間16に対応して吐出ポート18が設けられている。また、カムリング2の外周面とフロントサイドブロック8の内周面との間には、カムリング2の両端に形成されたフランジ部2a、2bによって画成された吐出弁収容室19が形成されていると共に、前記吐出ポート18はこの吐出弁収容室19に開口し、前記ベーン6間に形成された圧縮室17が吐出ポート18を介して連通可能となっている。そして、吐出ポート18は、吐出弁収容室19に収容された吐出弁20により開閉されるようになっている。
【0032】
この吐出弁収容室19と高圧室15とは、カムリング2に設けられたフランジ部2aにより分離されており、このフランジ部2aに形成された通孔21を介してのみ連通されている。また、リアサイドブロック7には、カムリング2のフランジ部2aに形成された通孔21よりも下流側に、吐出ガスに混在する潤滑オイルを分離するための遠心分離式のオイル分離器43が設けられている。
【0033】
上記の構成によれば、ベーン型圧縮機による作動流体の吸入、圧縮、吐出の動作は以下のようになる。すなわち、図示しない外部動力源からの回転動力が図示しないプーリ及び電磁クラッチを介して駆動軸3に伝達され、ロータ4が回転すると、吸入口12から低圧室13に流入した作動流体が図示しない吸入ポートを介して圧縮空間16に吸入される。圧縮空間16内のベーン6によって仕切られた圧縮室17の容積はロータ4の回転に伴って変化するので、ベーン6間に閉じ込められた作動流体は圧縮されて、吐出ポート18から吐出弁20を介して吐出弁収容室19に吐出され、カムリング2のフランジ部2aに形成された通孔21を介してリアサイドブロック7に形成された高圧室15へ導かれる。作動流体は、その後、図示しない導入ポートを介してオイル分離器43に導入され、ここで潤滑オイルが分離されてから隣接の吐出口14と連通した高圧室15へ導かれ、しかる後に吐出口14から吐出される。
【0034】
そして、この発明に係るベーン型圧縮機1は、オイル分離器43で分離された高圧の潤滑オイルを、ベーン6の端面とリアサイドブロック7との摺動部分、背圧室23、及び、ベーン6の端面とフロントサイドブロック8との摺動部分に送るために、図5に示されるように潤滑オイル移動経路Aを有している。
【0035】
この潤滑オイル移動経路Aは、図5に示されるように、オイル分離器43で分離された高圧の潤滑オイルを一次的に溜める潤滑オイル室25を起点とするもので、リアサイドブロック7の駆動軸3を収納した駆動軸収納空間26と潤滑オイル室25とを結ぶ中継通路27がリアサイドブロック7に形成されて、潤滑オイル室25から中継通路27を介して駆動軸収納空間26まで移動する。中継通路27の下流側開口は、この実施例では、駆動軸収納空間26のうち駆動軸3の端部の下方側若しくは駆動軸3の端部よりもリア側に開口している。
【0036】
駆動軸収納空間26は、図4に示されるように、リアサイドブロック7から駆動軸3の径方向に沿って円環状に延出部28が延出することにより相対的に狭められた部位を有し、この駆動軸収納空間26の相対的に狭い部位に駆動軸3を配置することにより、駆動軸3の外周面と延出部28の延出側面(駆動軸3と対峙する面)とで、駆動軸3の外周面と駆動軸収納空間26の延出部28を有しない部位の内側面との間隔よりも狭い潤滑オイル絞り通路29が円環状に形成されている。この潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向寸法の数値L1は、例えば100マイクロメートルとなっている。
【0037】
そして、駆動軸収納空間26の延出部28よりもフロント側において、プレーンベアリング11が駆動軸3に装着されている。このプレーンベアリング11は、この実施例では、筒状体11aと、この筒状体11aの端部から筒状体11aに対し例えば直角方向等、その軸方向と交差する角度で曲折してなるフランジ部11bとで構成されている。筒状体11aの内径寸法は駆動軸3の外径寸法よりも若干大きくなっている。これにより、駆動軸3にプレーンベアリング11を装着した場合には、図4に示されるように、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の筒状体11aの内周面との間に潤滑オイル供給通路30が円環状に形成される。この潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向寸法の数値L2は、例えば10マイクロメートルとなっている。
【0038】
そして、この潤滑オイル供給通路30は、図4に示されるように、潤滑オイル絞り通路29とは反対側において、通路31を介してベーン溝5の背圧室23と連通している。さらに、背圧室23は、この通路31とは反対側に位置する通路を介してロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分とも連通している。
【0039】
以上の構成によれば、図4及び図5に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り通路29で減圧されて、潤滑オイル供給通路30に送られる。そして、潤滑オイルは、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、更に、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0040】
更にまた、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、前述したフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0041】
ここで、潤滑オイル絞り通路29について、リアサイドブロック7から円環状に延出部28を駆動軸収納空間26内に駆動軸3の径方向に沿って延出させることで形成するとして説明したが必ずしもこれに限定されない。図6に示されるように、プレーンベアリング11を駆動軸3の軸方向に沿って中継通路27の開口近傍まで延出させ、その先端部位の厚みを円環状に大きくすることにより、プレーンベアリング11の開口端部位の内周面と駆動軸3の外周面とで構成された、円環状の潤滑オイル絞り通路29を有するものとしても良い。
【0042】
すなわち、プレーンベアリング11の開口端部位の内周面と駆動軸3の外周面との間には、駆動軸3のリア側から潤滑オイル絞り通路29と潤滑オイル供給通路30とが順次、形成されたものとなる。そして、この場合においても、潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向寸法の数値L1は例えば100マイクロメートルとなり、潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向寸法の数値L2は、例えば10マイクロメートルとなっている。
【0043】
このような構成によっても、先の図4及び図5に示された潤滑オイル移動経路Aと同様の経路が構成されて、潤滑オイルも先述した説明と同様の作用及び働きをなすことができる。尚、この実施例1の変形例については、図6において、先の実施例1と同様の構成については同一の符号を付すことでその説明を省略した。
【0044】
また、プレーンベアリング11の構造について、後述する実施例2の図9のようにその内周面に対して駆動軸の軸方向に向いつつ直線的でなく湾曲して螺旋状に延びる1又は2以上(図示上は2つ)の溝35を有するものとしても良い。これにより、潤滑オイルが潤滑オイル供給通路30を移動する際に、当該潤滑オイル供給通路30の駆動軸径方向幅が相対的に狭いために抵抗となって潤滑オイルの移動が円滑に行われないことを、潤滑オイルの一部がこの溝35を流れることで回避される。更に、プレーンベアリング11は、フランジ部11bを有さず、筒状体11aのみからなる構成であっても良い。
【実施例2】
【0045】
この発明のベーン型圧縮機1における第2の実施例及びその変形例について、図7から図12を示しながら説明する。尚、このベーン型圧縮機1の全体構成については、潤滑オイル移動経路Aの一部以外について、先述した第1の実施例と同じであるので、当該第1の実施例1の図1から図3に相当する図を省略し、且つ、この第1の実施例と同様の構成についての説明も、同一の符号を付す等して省略した。
【0046】
図7においては、潤滑オイル移動経路Aとして、これまで説明してきた構成での潤滑オイル絞り通路29を有しておらず、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面とで形成された円環状の潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を有する構成が示されている。すなわち、この第2の実施例では、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば100マイクロメートルとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は潤滑オイル絞り通路としても機能している。
【0047】
以上の構成によれば、図7及び図8に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34に送られる。そして、潤滑オイルは、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通過する際に減圧されると同時に、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0048】
更にまた、この実施例でも、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、この背圧室23のフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0049】
図9から図11において、第2の実施例の変形例1が示されており、この変形例1では、筒状体11aに溝35を有するプレーンベアリング11が用いられる構成となっている。このプレーンベアリング11の溝35は、この実施例では、2条ほど形成されているもので、各溝35は、駆動軸3の軸方向に向いつつ直線的でなく湾曲して螺旋状に延びた形状となっている。但し、溝35の条数について必ずしもこれに限定されず、1条でも3条以上であっても良いが、後述する工程を経てプレーンベアリング11が製造される場合には、剛性が不均一にならない程度の条数(例えば2条)に溝35の条数も限定される。
【0050】
そして、プレーンベアリング11と駆動軸3の外周面とで形成される潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は、プレーンベアリング11側が溝35以外となる内側面にあっては、駆動軸径方向幅が、第1の実施例に示される潤滑オイル供給通路30の駆動軸の径方向幅と同じ数値L2、例えば10マイクロメートルとなっていると共に、プレーンベアリング11側が溝35の駆動軸3に対峙する内側面にあっては、駆動軸径方向幅が潤滑オイルに対し絞り効果を生じない程度の寸法となっている。
【0051】
但し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34のうちプレーンベアリング11の溝35以外の内側面と駆動軸3の外周面とで形成される部位の駆動軸径方向幅について、例えば第1の実施例に示される潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向幅と同じ数値L1、例えば100マイクロメートルとしても良い。
【0052】
これにより、潤滑オイルが潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通る際に、その潤滑オイルの全部は、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働くと共に、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の溝35以外の内側面とで形成される部位を移動する潤滑オイルは減圧される。そして、駆動軸3の外周面と溝35の内側面とで形成される部位を移動する潤滑オイルは、相対的に広い部位を移動するので、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の全体としては潤滑オイルの移動に対して抵抗となるのを防止することができる。
【0053】
次に、このプレーンベアリング11の成形について図10を用いて概説すると、まず平板状のプレート素材37に対し、プレス加工により溝35を必要な条数に応じて形成すると共に、フランジ部11bを形成するための折り代38を施す。溝35は、プレート素材37の短手方向の端部から内側に向って延びるが、折り代38を越えないように形成される。そして、このプレート素材37について、折り代38で折り曲げつつ全体的にもロール状に曲げることで、プレーンベアリング11が成形される。これにより、溝35を有するプレーンベアリング11の成形も簡易となっている。
【0054】
図12において、第2の実施例の変形例2が示されており、この変形例2では、駆動軸3は、外周面に対しその軸方向に沿って延びる面取りを施すことにより、他の外周面よりも窪んだ窪み部39を有している。これにより、この駆動軸3にプレーンベアリング11を装着した場合には、プレーンベアリング11の内周面と駆動軸3の窪み部39以外での外周面とで潤滑オイル絞り・供給兼用通路34が形成される一方で、プレーンベアリング11の内周面と窪み部39の面とで潤滑オイルに対し絞り効果を生じない潤滑オイル非絞り通路部40も有する。
【0055】
すなわち、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向幅は、第1の実施例に示される潤滑オイル供給通路30の駆動軸の径方向幅と同じ数値L2、例えば10マイクロメートルとなっていると共に、潤滑オイル非絞り通路部40の駆動軸径方向幅は、潤滑オイルに対し絞り効果を生じない程度の寸法が確保されている。但し、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向幅について、例えば第1の実施例に示される潤滑オイル絞り通路29の駆動軸径方向幅と同じ数値L1、例えば100マイクロメートルとしても良い。
【0056】
これにより、潤滑オイルが潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通る際に、その潤滑オイルの全部は、駆動軸3の外周面とプレーンベアリング11の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働くと共に、潤滑オイル非絞り通路部40以外の部位を移動する潤滑オイルは減圧される。そして、潤滑オイル非絞り通路部40を移動する潤滑オイルは、相対的に広い部位を移動する。これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の全体としては潤滑オイルの移動に対して抵抗となるのを防止することができる。
【実施例3】
【0057】
この発明のベーン型圧縮機1における第3の実施例について、図13を示しながら説明する。尚、このベーン型圧縮機1の全体構成については、潤滑オイル移動経路Aの一部以外について、第1の実施例及び第2の実施例と同じであるので、第1の実施例1の図1から図3に相当する図を省略し、且つ、この第1の実施例と同様の構成についての説明も、同一の符号を付す等して省略した。
【0058】
図13においては、プレーンベアリング11を有さず、代わりにリアサイドブロック7から駆動軸の径方向に沿って円環状に延出した延出部42を有したものとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は、駆動軸3の外周面と延出部42の延出側面(駆動軸3と対峙する面)とにより円環状に形成されている。そして、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば100マイクロメートルとなっており、これにより、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34は潤滑オイル絞り通路としても機能している。
【0059】
以上の構成によれば、図13に示されるように、潤滑オイル室25に溜まった高圧の潤滑オイルは、中継通路27を介して駆動軸収納空間26に案内された後、駆動軸3の軸方向に沿って移動し、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34に送られる。そして、潤滑オイルは、この潤滑オイル絞り・供給兼用通路34を通過する際に減圧されると同時に、駆動軸3の外周面と延出部42の内周面との摺動部分に対し摩耗防止のための潤滑剤として働いた後、通路31を経て背圧室23に到達し、ベーン6をカムリング2側に押し出す作用をなすと共に、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とリアサイドブロック7のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0060】
更にまた、この実施例でも、潤滑オイルは、背圧室23を駆動軸3の軸方向に沿って移動して、前述したフロントサイドブロック8側の開口端まで達した後、通路31とは反対側に位置する通路を経てロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との隙間に入り、ロータ4の端面とフロントサイドブロック8のロータ側面との摺動部分に対する摩耗防止のための潤滑剤として働く。
【0061】
尚、図示しないが、延出部42の延出側面に先述したプレーンベアリング11の溝35と同様の形状の溝を形成し、又は駆動軸3に先述した窪み部39と同様の窪み部を形成して、同じく先述した潤滑オイル非絞り通路部40と同様に機能する潤滑オイル非絞り通路部を有したものとしても良い。これにより、潤滑オイルの供給量が確保されるので、潤滑オイル絞り・供給兼用通路34の駆動軸径方向寸法は、第1の実施例の潤滑オイル絞り通路29と同様の数値L1、例えば10マイクロメートルとすることができる。
【実施例4】
【0062】
この発明に係るベーン型圧縮機の軸受構造は、
両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、
前記駆動軸は、プレーンベアリングを介して前記サイドブロックへ回転可能に支持されており、このプレーンベアリングは、前記駆動軸が挿通可能な筒状体とこの筒状体の軸方向の一方端から外側に向けて延出したフランジ部とを有して構成されていると共に、このプレーンベアリングのフランジ部と前記サイドブロックの端面との間に隙間が設けられていることを特徴としたものとなっている。
【0063】
この発明の技術分野は、例えば車両用空調装置に用いられるベーン型圧縮機の構造に関し、特に、駆動軸を回転可能に支持するための軸受の構造に関するものである。
【0064】
この発明が解決しようとする課題は以下の通りである。
本願出願人により、例えば、特願2006−231586号(未公開)の明細書の段落番号「0022」において、駆動軸3をフロントサイドブロック8に相当するシェル部材及びリアサイドブロック7に相当するリアサイド部材にプレーンベアリングを介して回転可能に支持することが記載されている。しかしながら、上記特許出願に添付された図面にプレーンベアリングが図示されず、且つプレーンベアリングがフランジ部を有するか否かも具体的に説明されていないもので、この発明のプレーンベアリング11のフランジ部11bをロータ4に当接させて、ロータ4とリアサイドブロック7(フロントサイドブロック8も可。)とのクリアランス管理に利用し、サイドブロック7、8の端面に対する表面処理を不要とするという解決手段を示していないものである。
【0065】
すなわち、この発明では、図4、図6、図7及び図11に示されるように、プレーンベアリング11のフランジ部11bはロータ4と略当接した状態にあると共に、リアサイドブロック7との間には所定の寸法値L3でクリアランスが設けられている。このクリアランスは、ロータ4及びこのプレーンベアリング11が装着された状態の駆動軸3をリアサイドブロック7の駆動軸収納空間26内に荷重をかけて押し込んだ後、この荷重をなくした際に生ずる復元力で生じさせることができる。このクリアランスがあることで、プレーンベアリング11のロータ4側の面はリアサイドブロック7の摺動面よりも例えば20マイクロメートルほど出ているので、リアサイドブロック7のロータ4側の端面に対しテフロン(登録商標)によるコーティング等の表面処理をすることが不要となるという効果が生ずる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、この発明に係るベーン型圧縮機について、駆動軸の軸方向からリアサイドブロック側を見た状態を示す断面図である。
【図2】図2は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における全体構成を側方から見た状態を示す断面図である。
【図3】図3は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における全体構成を側方から見た状態を示す断面図であって、図2とは異なる切り口で切断した構成を示す断面図である。
【図4】図4は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例の主要な構成部品をなすプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り通路及びリアサイドブロックと駆動軸とで形成された潤滑オイル供給通路の構成を示した要部拡大断面図である。
【図5】図5は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例における潤滑オイルの流れる経路を示した断面図である。
【図6】図6は、同上のベーン型圧縮機の第1の実施例の変形例として、潤滑オイル絞り通路及び潤滑オイル供給通路の双方をプレーンベアリングと駆動軸とで形成した構成を示す要部拡大断面図である。
【図7】図7は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例におけるプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部の構成を示した断面図である。
【図8】図8は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例における潤滑オイルの流れる経路を示した断面図である。
【図9】図9は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例の変形例1として、プレーンベアリングの内側面に溝を形成した構成を示す斜視図である。
【図10】図10は、同上のプレーンベアリングを形成するためのプレス加工済みで且つ最終ロール形成前のプレート素材の構成について示す平面図である。
【図11】図11は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2の変形例1におけるプレーンベアリングと駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部であって溝を有する構成を示した断面図である。
【図12】図12(a)は、同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2の変形例2として、駆動軸の外周面の一部を面取りすることで窪みを形成した構成について当該駆動軸の軸方向から見た状態を示す断面図であり、図12(b)は、同じく同上のベーン型圧縮機の第2の実施例2変形例2として、駆動軸の外周面の一部を面取りすることで窪み部を形成した構成について当該駆動軸の径方向から見た状態を示す断面図である。
【図13】図13は、同上のベーン型圧縮機の第3の実施例におけるサイドブロックから延出した延出部と駆動軸とで形成された潤滑オイル絞り部の構成を示した断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ベーン型圧縮機
2 カムリング
3 駆動軸
4 ロータ
5 ベーン溝
6 ベーン
7 リアサイドブロック(リア側のサイドブロック)
8 フロントサイドブロック(フロント側のサイドブロック)
11 プレーンベアリング
27 中継通路
28 延出部
29 潤滑オイル絞り通路(潤滑剤絞り通路)
30 潤滑オイル供給通路(潤滑剤供給通路)
34 潤滑オイル絞り・供給兼用通路(潤滑剤絞り通路)
35 溝
37 プレート素材
38 折り代
39 窪み部
40 潤滑オイル非絞り通路部
42 延出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記両サイドブロックに支持されると共に前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、
前記駆動軸の外周側に円環状の潤滑剤絞り通路が形成されており、この潤滑剤絞り通路を少なくとも中継通路を介して前記潤滑剤室と連通させると共に、この潤滑剤絞り通路又はこの潤滑剤絞り通路の下流側と連通した潤滑剤供給通路を前記ロータ端面と前記リア側のサイドブロックとの摺動部分まで少なくとも延出させることにより、前記潤滑剤室からの潤滑剤を前記潤滑剤絞り通路内で減圧して前記ロータ端面と前記サイドブロックとの摺動部分まで供給することができる潤滑剤移動経路を備えていることを特徴とするベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項2】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸に前記プレーンベアリングを装着することで生ずる隙間により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項3】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっており、前記潤滑剤供給通路は、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部のうち当該延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成され、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項4】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤供給通路と前記潤滑剤絞り通路とは、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されており、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項5】
前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたことを特徴とする請求項2、請求項3、又は請求項4のいずれかに記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項6】
前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたことを特徴とする請求項2、請求項3、又は請求項4のいずれかに記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造
【請求項7】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部により行われていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項1】
両側が2つのサイドブロックで挟まれることにより閉塞されたカムリングと、このカムリング内に収納されると共に複数のベーン溝が形成されたロータと、このロータのベーン溝内に収納されて、側面が前記ベーン溝の内側面を摺動すると共に、先端が前記ベーン溝から出没して前記カムリングの内周面を摺動するベーンと、前記両サイドブロックに支持されると共に前記ロータと連結されて外部からの回転力を前記ロータに伝達する駆動軸と、前記サイドブロック内に形成されて、潤滑剤が一時的に溜められる潤滑剤室とを少なくとも有するベーン型圧縮機において、
前記駆動軸の外周側に円環状の潤滑剤絞り通路が形成されており、この潤滑剤絞り通路を少なくとも中継通路を介して前記潤滑剤室と連通させると共に、この潤滑剤絞り通路又はこの潤滑剤絞り通路の下流側と連通した潤滑剤供給通路を前記ロータ端面と前記リア側のサイドブロックとの摺動部分まで少なくとも延出させることにより、前記潤滑剤室からの潤滑剤を前記潤滑剤絞り通路内で減圧して前記ロータ端面と前記サイドブロックとの摺動部分まで供給することができる潤滑剤移動経路を備えていることを特徴とするベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項2】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸に前記プレーンベアリングを装着することで生ずる隙間により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項3】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっており、前記潤滑剤供給通路は、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部のうち当該延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成され、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項4】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックと別部材のプレーンベアリングを前記駆動軸の外周側に装着することにより行われる構造となっていると共に、前記潤滑剤供給通路と前記潤滑剤絞り通路とは、前記駆動軸の外周面と前記プレーンベアリングの内側面との間に生ずる隙間により形成されており、前記潤滑剤供給通路の駆動軸の径方向幅は、前記潤滑剤絞り通路の駆動軸の径方向幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項5】
前記プレーンベアリングの内側面のうち前記駆動軸の外周面と対峙する部分に1又は2以上の溝を設けたことを特徴とする請求項2、請求項3、又は請求項4のいずれかに記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【請求項6】
前記駆動軸の外周面のうち前記プレーンベアリングの内側面と対峙する1又は2以上の部分を当該駆動軸の外周面の他の部分よりも窪ませたことを特徴とする請求項2、請求項3、又は請求項4のいずれかに記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造
【請求項7】
前記駆動軸の前記リア側のサイドブロックへの支持は、前記リア側のサイドブロックから駆動軸の径方向に延出した延出部により行われていると共に、前記潤滑剤絞り通路は、前記駆動軸の外周面と前記延出部の前記駆動軸と対峙する面との間に生ずる隙間により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機の潤滑剤減圧供給構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−156231(P2009−156231A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337999(P2007−337999)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】
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