説明

ペースト塗布装置およびペースト塗布方法

【課題】ペーストを塗布しようとする基板を、ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように傾斜させることで、塗布膜厚に対して1.5倍以上のコーティングギャップをあけて塗布しても、ペースト内にエアーが混入しないようにする。
【解決手段】基板を水平に載置するテーブルと、基板に向けてペーストを吐出するノズルを有し、テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動可能なダイヘッドを備え、ダイヘッドをテーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、テーブルの載置面を傾斜させる傾斜機構をテーブルに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースト塗布装置およびペースト塗布方法に関し、さらに詳しくは、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す)の製造に好適に用いられ、特に、電極被覆用誘電体層となる低融点ガラスペーストを塗布するに適したテーブル型のペースト塗布装置およびペースト塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平面型の表示デバイスとして、AC面放電型PDPが知られている。このPDPは、表示に必要な構成要素が形成された前面側の基板と背面側の基板が貼り合わされ、内部に放電ガスが封入された構造となっている。前面側の基板は、例えば、ガラス基板に、維持電極(表示電極)、誘電体層、及び保護膜(MgO膜)等が順次形成された構造となっている。背面側の基板は、例えば、ガラス基板に、アドレス電極、誘電体層、隔壁、及び蛍光体層が順次形成された構造となっている。
【0003】
これらの構成要素のうち、誘電体層は、テーブル型ダイコータまたはスロットコータと呼ばれる厚膜形成用のペースト塗布装置を用いたコーティング法によって形成されることが多い。このコーティング法は、ダイヘッドの先端に設けたノズルから誘電体ペーストを吐出させながら、ダイヘッドと基板とを一定の距離を隔てて相対的に水平移動させ、基板上に誘電体ペーストを塗布するものである。ダイヘッドのノズル開口がみぞ穴形状のものはスロットコータとも呼ばれる(特許文献1および非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−134873号公報
【非特許文献1】1998 FPDテクノロジー大全 424−427頁(電子ジャーナル)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年ではPDPの性能向上に向けて、誘電体層の厚みは薄くなる傾向にある。しかし、上述のような厚膜塗布装置を用いたコーティング法では、塗布膜厚が70μm以下になると良好な膜厚分布を得ることが困難である。
【0006】
すなわち、塗布膜厚は、塗布しようとするペーストの粘性率や表面張力、塗布速度、コーティングギャップ(塗布面とダイヘッド間のクリアランス)などに依存する。PDPのパネル基板に誘電体層を形成する際に用いる低融点ガラスペーストは、その性状から、塗布膜厚に対して1.5倍程度のコーティングギャップをあけて塗布する必要がある。この場合、コーティングギャップが広すぎると塗布膜にエアーが混入して塗布膜が途切れ、逆に狭すぎるとダイヘッドと塗布膜が接触し膜厚の均一性が損なわれる。
【0007】
このため、50μmもしくはそれ以下の塗布膜厚を得るには、コーティングギャップを75μm以下にする必要があるが、コーティングギャップを75μm以下にすると、塗布装置の機械的精度や、基板の平面精度の影響から、塗布ヘッドと塗布膜が接触することがあり、面内一定の膜厚分布を得ることが難しい。
【0008】
また、塗布膜厚に対して1.5倍以上のコーティングギャップをあけて塗布した場合には、ダイヘッドより吐出されたペーストの前面の角度(以下、これを塗布角度という)が塗布面に対して垂直でなくなるため、エアー混入を招き、誘電体層として致命的な欠陥を生じることになる。
【0009】
以上のような背景から、本発明は、厚膜塗布装置を用いたコーティング法において、ペーストを塗布しようとする基板を、ダイヘッドの進行方向(移動方向)にペーストが流下するように傾斜させることで、塗布膜厚に対して1.5倍以上のコーティングギャップをあけて塗布しても、ペースト内にエアーが混入しないようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板を床面に対して水平に載置する載置面を有するテーブルと、前記基板に向けてペーストを吐出するノズルを有し、前記テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動可能なダイヘッドを備え、前記テーブルが、前記ダイヘッドを前記テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、前記ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、前記ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、前記テーブルの載置面を傾斜させる傾斜機構を有してなるペースト塗布装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広いコーティングギャップでペーストを塗布することができるので、良好な膜厚分布のペースト層を得ることが可能となる。たとえばこのペースト塗布装置を用いて、PDPの電極が形成されたガラス基板上に、誘電体層となる低融点ガラスペーストを塗布すれば、性能のよいPDPを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、パネル基板としては、ガラス、石英、セラミックス等の基板や、これらの基板上に、電極、絶縁膜、誘電体層、保護膜等の所望の構成要素を形成した基板が含まれる。
【0013】
本発明において、ダイヘッドは、当該分野で公知のダイコータやスロットコータなどのダイヘッドを適用することができる。
【0014】
傾斜機構は、ダイヘッドをテーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて基板にペーストを塗布する際、ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、テーブルの載置面を傾斜させることができる機構であればよい。この傾斜機構は、手動、自動のいずれの機構であってもよい。手動の傾斜機構としては、ラック&ピニオンを用いたギアによる傾斜機構などが挙げられる。自動の傾斜機構としては、電動モータを用いた油圧による傾斜機構や、コンプレッサーを用いた傾斜機構などが挙げられる。
【0015】
本発明のペースト塗布装置において、テーブルは、基板を載置面に固定することが可能な固定機構を有していることが望ましい。この固定機構としては、当該分野で公知の各種の固定機構を適用することができる。たとえば、この固定機構としては、基板の載置面に設けた吸引孔から基板を真空吸着することで載置面に基板を固定させる機構などを適用することができる。
【0016】
本発明のペースト塗布装置を用いて、ダイヘッドをテーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて基板にペーストを塗布する際に、ペーストの塗布時には、ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、テーブルの載置面を傾斜させた状態に制御し、ペーストの塗布終了後に、テーブルの載置面を水平状態に戻すように制御することが望ましい。
【0017】
本発明は、また、基板を床面に対して水平に保持し、前記基板に向けてペーストを吐出
するノズルを有するダイヘッドを、前記基板に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動可能に配置し、前記ダイヘッドを前記基板に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、前記ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、前記ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、前記基板を傾斜させることからなるペースト塗布方法である。
【0018】
上記構成においては、基板を、表面に電極が形成されたプラズマディスプレイパネル用のガラス基板とし、ペーストを、低融点ガラスペーストとし、低融点ガラスペーストの塗布によって、50μm以下の均一な厚みの低融点ガラスペースト層を形成するようにしてもよい。
【0019】
以下、図面に示す実施形態に基づいて本発明を詳述する。なお、本発明はこれによって限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
【0020】
図1(a)および図1(b)は本発明を用いて製造されたPDPの一例を示す説明図である。図1(a)は前面基板の部分分解斜視図、図1(b)は背面基板の部分分解斜視図である。このPDPはカラー表示用のAC面放電型のPDPである。
【0021】
PDPは、PDPとして機能する構成要素が形成された前面基板1と背面基板2から構成されている。前面基板1および背面基板2の基板素材としては、ガラス基板を用いているが、ガラス基板以外に、石英基板、セラミックス基板等も使用することができる。
【0022】
前面側のガラス基板11の内側面には、水平方向に表示電極Xと表示電極Yが等間隔で交互に配置されている。表示電極Xは維持放電用の電極であり、表示電極Yは走査用の電極である。隣接する表示電極Xと表示電極Yとの間が全て表示ラインとなる。各表示電極X,Yは、ITO、SnO2などの幅の広い透明電極12と、例えばAg、Au、Al、Cu、Cr及びそれらの積層体(例えばCr/Cu/Crの積層構造)等からなる金属製の幅の狭いバス電極13から構成されている。表示電極X,Yは、Ag、Auについてはスクリーン印刷のような厚膜形成技術を用い、その他については蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成技術とエッチング技術を用いることにより、所望の本数、厚さ、幅及び間隔で形成することができる。以後、表示電極XをX電極と称し、表示電極YをY電極と称することもある。
【0023】
なお、本PDPでは、表示電極Xと表示電極Yが等間隔に配置され、隣接する表示電極Xと表示電極Yとの間が全て表示ラインとなる、いわゆるALIS構造のPDPとなっているが、対となる表示電極X,Yが放電の発生しない間隔(非放電ギャップ)を隔てて配置された構造のPDPであっても、本発明を適用することができる。
【0024】
表示電極X,Yの上には、表示電極X,Yを覆うように誘電体層17が形成されている。誘電体層17は、低融点ガラスフリット、バインダー樹脂、および溶媒からなる低融点ガラスペーストを用い、このガラスペーストを、後述する本発明のダイコータ塗布装置を用いたペースト塗布方法により、表示電極が形成された前面側のガラス基板11上に塗布し、焼成することにより形成している。
【0025】
誘電体層17の上には、表示の際の放電により生じるイオンの衝突による損傷から誘電体層17を保護するための保護膜が形成されている(保護膜は図示していない)。この保護膜はMgOで形成されている。保護膜は、電子ビーム蒸着法やスパッタ法のような、当該分野で公知の薄膜形成プロセスによって形成することができる。
【0026】
背面側のガラス基板21の内側面には、平面的にみて表示電極X,Yと交差する方向に
複数のアドレス電極Aが形成され、そのアドレス電極Aを覆って誘電体層24が形成されている。アドレス電極Aは、Y電極との交差部で発光セルを選択するためのアドレス放電を発生させるものであり、Cr/Cu/Crの3層構造で形成されている。このアドレス電極Aは、その他に、例えばAg、Au、Al、Cu、Cr等で形成することもできる。アドレス電極Aも、表示電極X,Yと同様に、Ag、Auについてはスクリーン印刷のような厚膜形成技術を用い、その他については蒸着法、スパッタ法等の薄膜形成技術とエッチング技術を用いることにより、所望の本数、厚さ、幅及び間隔で形成することができる。誘電体層24は、誘電体層17と同じ材料、同じ方法を用いて形成することができる。
【0027】
隣接するアドレス電極Aとアドレス電極Aとの間の誘電体層24上には、放電空間を列方向に区画するストライプ形の隔壁29が形成されている。隔壁29は、たとえばボックスリブやワッフルリブ、メッシュ状リブ、ラダー状リブなどと呼ばれるような閉鎖形の隔壁であってもよい。隔壁29は、転写法、サンドブラスト法、感光性ペースト法等により形成することができる。例えば、転写法では、隔壁形状の凹部を有する転写凹版を用い、この転写凹版の凹部に、ガラスフリット、バインダー樹脂、溶媒等からなるガラスペーストを充填して基板に転写し、これを焼成することで隔壁を形成する。サンドブラスト法では、ガラスフリット、バインダー樹脂、溶媒等からなるガラスペーストを誘電体層24上に塗布して乾燥させた後、そのガラスペースト層上に隔壁パターンの開口を有する切削マスクを設けた状態で切削粒子を吹きつけて、マスクの開口に露出したガラスペースト層を切削し、この切削したガラスペースト層を焼成することにより隔壁を形成する。また、感光性ペースト法では、切削粒子で切削することに代えて、バインダー樹脂に感光性の樹脂を使用し、マスクを用いた露光及び現像の後、焼成することにより形成する。
【0028】
隔壁29と隔壁29との間に形成される細長い溝内の側面及び底面には、紫外線により励起されて赤(R)、緑(G)、青(B)の可視光を発生する蛍光体層28R,28G,28Bが形成されている。蛍光体層28R,28G,28Bは、蛍光体粉末とバインダー樹脂と溶媒とを含む蛍光体ペーストを隔壁29間の溝内にスクリーン印刷、又はディスペンサーを用いた方法などで塗布し、これを各色毎に繰り返した後、焼成することにより形成している。この蛍光体層28R,28G,28Bは、蛍光体粉末と感光性材料とバインダー樹脂とを含むシート状の蛍光体層材料(いわゆるグリーンシート)を使用し、フォトリソグラフィー技術で形成することもできる。この場合、所望の色のシートを基板上の表示領域全面に貼り付けて、露光、現像を行い、これを各色毎に繰り返すことで、対応するセル内に各色の蛍光体層を形成することができる。
【0029】
PDPは、上記した前面基板1と背面基板2とを、表示電極X,Yとアドレス電極Aとが交差するように対向配置し、周辺を封着材10で封着し、隔壁29で囲まれた放電空間にXeとNeとを混合した放電ガスを充填することにより作製されている。放電ガスの封入圧力は66.4kPa(500Torr)程度である。このPDPでは、表示電極X,Yとアドレス電極Aとの交差部の放電空間が、表示の最小単位である1つのセル(単位発光領域)となる。1画素はR、G、Bの3つのセルで構成される。
【0030】
図2は本発明のダイコータ塗布装置を示す説明図である。
図において、31はダイヘッド、31aはダイヘッドのノズル、32は誘電体ペースト、34はテーブル、35は設置床、36はギャップセンサー、37は塗工液供給ポンプ、38は塗工液供給タンク、39は吸引口、40はテーブル傾斜ハンドルである。
【0031】
ダイコータ塗布装置は、主として、テーブル34とダイヘッド31から構成されている。ダイヘッド31は、図中、矢印Dで示す方向に水平移動可能である。ダイヘッド31には、ギャップセンサー36が設けられている。このギャップセンサー36は、ダイヘッド31のノズル31aから塗布面(誘電体ペーストを塗布しようとする面)までの距離を光
学的に検出するセンサーである。ダイヘッド31で塗布を行う際には、ギャップセンサー36で塗布面までの距離を検出し、ダイヘッド31のノズル31aと塗布面との距離が、あらかじめ設定した一定の値に保持されるように、ダイヘッド31の位置を自動的に調整できる機構となっている。
【0032】
また、ダイヘッド31には、塗工液供給ポンプ37により、塗工液供給タンク38から誘電体ペースト32が供給され、この誘電体ペースト32が、ダイヘッド31のノズル31aから吐出されて、前面側の基板11に塗布されるようになっている。誘電体ペースト32は、低融点ガラスフリット、バインダー樹脂、および溶媒からなる低融点ガラスペーストであり、焼成することで前述した誘電体層17となるものである。
【0033】
前面基板1は、ガラス基板11に透明電極12とバス電極13からなる表示電極X,Yが形成されたものである。誘電体ペースト32は、表示電極X,Yを覆って、前面側のガラス基板11全体に塗布される。
【0034】
テーブル34は、水平な設置床35の上に設置されている。テーブル34には、吸引口39が設けられており、この吸引口39により、図中、矢印Tで示す方向に真空吸引することで、前面側の基板11がテーブル34に吸着固定されるようになっている。
【0035】
テーブル34には、テーブル傾斜ハンドル40が設けられており、このテーブル傾斜ハンドル40を手動、またはモータ等で回転させることにより、テーブル34を傾斜させることが可能な構造となっている。
【0036】
図3はダイコータ塗布装置のテーブルを傾斜させた状態を示す説明図である。
ダイコータ塗布装置を用いて、表示電極が形成された前面側のガラス基板11に誘電体ペースト32を塗布する際には、テーブル34のテーブル傾斜ハンドル40を手動、またはモータ等で回転させてテーブル34を傾斜させる。
【0037】
塗布膜厚は、塗布しようとするペーストの粘性率や表面張力、塗布速度、コーティングギャップなどに依存する。前面側のガラス基板11に誘電体ペースト32を塗布する場合、低融点ガラスペーストである誘電体ペースト32の性状から、塗布膜厚に対して1.5倍程度のコーティングギャップをあけて塗布する必要がある。したがって、50μmもしくはそれ以下の塗布膜厚を得るには、コーティングギャップを75μm以下にする必要がある。
【0038】
しかし、テーブル34を水平状態にしたままで、塗布膜厚に対して1.5倍のコーティングギャップをあけて誘電体ペースト32を塗布すると、ダイヘッドより吐出された誘電体ペースト32の塗布角度が塗布面に対して垂直でなくなる。
【0039】
図4はダイヘッドから誘電体ペーストを吐出する状態を示す説明図である。この図に示すように、塗布の際、ダイヘッド31から吐出された誘電体ペースト32の塗布角度は塗布面に対して垂直であるのが望ましいが、上述の場合には、図中、Vで示す塗布角度が垂直でなくなる。
【0040】
誘電体ペースト32の塗布角度が塗布面に対して垂直でなくなると、誘電体ペースト32中にエアーが混入するが、このエアーの混入により塗布膜が途切れることがある。この問題を解決するために、テーブル34を、誘電体ペースト32がダイヘッド31の進行方向(移動方向)に流下するように傾斜させることで、塗布膜厚に対して1.5倍のコーティングギャップをあけて塗布しても、誘電体ペースト32の塗布角度が塗布面に対して垂直になるようにする。
【0041】
図5(a),図5(b),図5(c)は本発明のダイコータ塗布装置を用いたペースト塗布方法を示す説明図である。
ダイコータ塗布装置を用いてPDPの誘電体層となる誘電体ペーストを塗布する際は、塗布前に、テーブル34の傾斜を水平状態にしておき(図5(a)参照)、塗布中には、誘電体ペースト32がダイヘッド31の進行方向に流下するように、テーブル34を傾斜させ、ダイヘッド31のノズル31aから誘電体ペースト32を、図中、矢印Pで示す方向に吐出する(図5(b)参照)。そして、塗布後には、テーブル34を水平状態に戻す(図5(c)参照)。
【0042】
図6はペースト塗布時の状態を示す説明図である。
この図に示すように、ダイコータ塗布装置を用いて、表示電極が形成された前面側のガラス基板11に誘電体ペースト32を塗布する際には、テーブル34を傾斜させる。そして、ダイヘッド31のノズル31aから誘電体ペースト32を、図中、矢印Pで示す方向に吐出する。
【0043】
これにより、コーティングギャップを塗布膜厚の1.7倍以上にすることができるので、機械精度とガラス基板の平面精度の影響を受けることなく、マージンの広いコーティングギャップで誘電体層用の低融点ガラスペーストを塗布することができる。そして、これにより、比較的薄い誘電体層を均一な膜厚分布で形成することができる。
【0044】
設定の塗布膜厚に対してコーティングギャップを広げると、機械精度と基板の平面精度の影響を受けにくくなり、良好な膜厚分布が得られる。その実験結果を以下に示す。この実験においては、テーブル型ダイコータ塗布装置の傾斜角度を0度(水平状態)にしたまま、ダイヘッド幅390mmのものを用い、低融点ガラスペースト(粘性率:100mPa・s)を使用し、塗布速度50mm/secにて実施した。左側はコーティングギャップ(μm)、右側はそのコーティングギャップで塗布した際の塗膜の膜厚精度(%)である。
【0045】
90μm:膜厚精度±1.56%
85μm:膜厚精度±1.43%
80μm:膜厚精度±4.04%
75μm:膜厚精度±4.6%
67.5μm:膜厚精度±8.46%
60μm:膜厚精度±10.41%
50μm:膜厚精度±13%
この結果より、均一な膜厚を得るには、広いコーティングギャップで塗布することが必要であることがわかった。
【0046】
ただし、コーティングギャップは広ければ広いほどよいというわけではなく、塗布しようとする誘電体ペーストの膜厚の1.5倍以上になると、テーブルが水平状態のままであれば、誘電体ペースト32の塗布角度が塗布面に対して垂直でなくなる。
【0047】
このため、上述の実施形態においては、テーブル34を、誘電体ペースト32がダイヘッド31の進行する方向に流下するように傾斜させ、誘電体ペースト32の塗布角度が塗布面に対して垂直になるようにした。このテーブル34の傾斜角度について実施した結果を示す。
【実施例】
【0048】
この実施においては、組成比の異なる(つまり粘性率の異なる)誘電体ペーストを用い
た。実施例1として、低融点ガラスフリット65.6wt%、樹脂9.4wt%、溶剤25wt%の組成比の誘電体ペーストを用いた。この実施例1の誘電体ペーストの粘性率は300mPa・sであった。
【0049】
実施例2として、低融点ガラスフリット46.5wt%、樹脂15.5wt%、溶剤38wt%の組成比の誘電体ペーストを用いた。この実施例2の誘電体ペーストの粘性率は185mPa・sであった。
【0050】
実施例3として、低融点がラスフリット39.2wt%、樹脂9.8wt%、溶剤51wt%の組成比の誘電体ペーストを用いた。この実施例3の誘電体ペーストの粘性率は100mPa・sであった。
【0051】
そして、これらの誘電体ペーストをテーブルに固定したガラス基板上に塗布し、テーブルを設置床面に対して、90度より小さい角度の範囲内で徐々に傾けていったとき、塗布膜が動き始める角度を調査した。また、それぞれの材料に対し、塗布面に対してほぼ垂直な塗布角度を維持する角度を望ましい角度とした。
【0052】
実施例1:望ましい角度40度
実施例2:望ましい角度30度
実施例3:望ましい角度20度
以上の結果から、誘電体ペーストの粘性率に応じて、テーブルの傾斜角度を適切に設定することで、塗布膜厚に対して1.7倍以上のコーティングギャップをあけて塗布することが可能であることがわかった。
【0053】
以上説明したように、本実施形態によれば、塗布膜厚の1.7倍以上のコーティングギャップで塗布しても、ダイヘッドより吐出されるペーストが、塗布面に対して垂直な塗布角度を維持することができ、エアー混入無く塗布可能で、良好な膜厚分布を得ることができる。即ちガラス基板を載置するテーブルを塗布装置設置床面に対して塗布の方向が低くなるよう角度をつけて設置することにより、ダイヘッドより吐出されたペーストの重力が塗布方向に対して作用する結果、コーティングギャップを広げたことによるペーストの前部メニスカスの変形が補償修正されてほぼ垂直状態を維持することができ、先に述べたようなエアーの巻き込みのような問題を回避することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの誘電体層用低融点ガラスペーストの塗布に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を用いて製造されたPDPの一例を示す説明図である。
【図2】本発明のダイコータ塗布装置を示す説明図である。
【図3】本発明のダイコータ塗布装置のテーブルを傾斜させた状態を示す説明図である。
【図4】ダイヘッドから誘電体ペーストを吐出する状態を示す説明図である。
【図5】本発明のダイコータ塗布装置を用いたペースト塗布方法を示す説明図である。
【図6】本発明のペースト塗布方法によるペースト塗布時の状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 前面基板
2 背面基板
10 封着材
11 前面側のガラス基板
12 透明電極
13 バス電極
17,24 誘電体層
21 背面側のガラス基板
28R,28G,28B 蛍光体層
29 隔壁
31 ダイヘッド
31a ノズル
32 誘電体ペースト
34 テーブル
35 設置床
36 ギャップセンサー
37 塗工液供給ポンプ
38 塗工液供給タンク
39 吸引口
40 テーブル傾斜ハンドル
A アドレス電極
X,Y 表示電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を床面に対して水平に載置する載置面を有するテーブルと、
前記基板に向けてペーストを吐出するノズルを有し、前記テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動可能なダイヘッドを備え、
前記テーブルが、前記ダイヘッドを前記テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、前記ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、前記ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、前記テーブルの載置面を傾斜させる傾斜機構を有してなるペースト塗布装置。
【請求項2】
前記テーブルが、前記基板を載置面に固定することが可能な固定機構を有してなる請求項1記載のペースト塗布装置。
【請求項3】
前記ダイヘッドを前記テーブルの載置面に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、前記ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、
ペーストの塗布時には、前記ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、前記テーブルの載置面を傾斜させた状態に制御し、ペーストの塗布終了後に、前記テーブルの載置面を水平状態に戻すように制御することを特徴とする請求項1記載のペースト塗布装置を用いたペースト塗布方法。
【請求項4】
基板を床面に対して水平に保持し、
前記基板に向けてペーストを吐出するノズルを有するダイヘッドを、前記基板に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動可能に配置し、
前記ダイヘッドを前記基板に対して一定の距離を隔てて相対的に水平移動させながら、前記ダイヘッドのノズルからペーストを吐出させて前記基板にペーストを塗布する際、前記ダイヘッドの進行方向にペーストが流下するように、前記基板を傾斜させることからなるペースト塗布方法。
【請求項5】
前記基板が、表面に電極が形成されたプラズマディスプレイパネル用のガラス基板からなり、前記ペーストが低融点ガラスペーストからなり、その低融点ガラスペーストの塗布によって形成される層が、50μm以下の均一な厚みの低融点ガラスペースト層である請求項4記載のペースト塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−221164(P2008−221164A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65245(P2007−65245)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(599132708)日立プラズマディスプレイ株式会社 (328)
【Fターム(参考)】