説明

ボールジョイント

【課題】ベアリング部材のボール部に対する抱持力を低下させることなく,ハウジング及びスタッド部間に作用する引っ張り荷重を緩衝し得るようにする。
【解決手段】第1及び第2開口部24a,24bを持つ内室24を有するハウジング23と,その内室に嵌装されるベアリング部材25と,この部材25にボール部22を保持されると共にスタッド部21を第1開口部24a側に突出させたボールスタッド20と,ハウジング23に固定されてベアリング部材25の一端部を支承する環状の受け部と,第2開口部24bに嵌合,固着される閉止部材46とよりなるボールジョイントにおいて,受け部を,ハウジング23の内周に係止される弾性を有する止め環40で構成し,閉止部材46によりベアリング部材25を押圧して止め環40を弾性変形させることで,止め環40に,ベアリング部材25を閉止部材46に向かって付勢するセット荷重を付与した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として自動車の懸架装置や操向装置に使用されるボールジョイントに関し,特に,軸方向一端を第1開口部,他端を第2開口部として開放したシリンダ状の内室を有するハウジングと,このハウジングの内室に嵌装される合成樹脂製のベアリング部材と,このベアリング部材に保持されるボール部及びこのボール部から前記第1開口部側に突出するスタッド部よりなるボールスタッドと,前記ハウジングに設けられて前記ベアリング部材の一端部を支承する環状の受け部と,前記ベアリング部材の他端に対置すべく前記第2開口部に嵌合,固着される閉止部材とよりなるボールジョイントの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝるボールジョイントは,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−105306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のかゝるボールジョイントでは,特許文献1に開示されるように,ベアリング部材の一端部を支承する環状の受け部は,ハウジングに一体に形成されていて剛性を有するものであるため,ハウジング及びスタッド部間に引っ張り荷重が作用したとき,その引っ張り荷重は,ボール部からベアリング部材を介して受け部に伝達,支承され,その間に緩衝されることは殆どなく,したがって過負荷によるベアリング部材の摩耗が生じ易く,その耐久性を損じることになる。
【0005】
そこで,上記のような張り荷重を緩和し得るような弾性をベアリング部材に付与することが考えられるが,そのようにすると,ベアリング部材のボール部に対する抱持力が低下してしまい,好ましくない。
【0006】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,ベアリング部材のボール部に対する抱持力を低下させることなく,ハウジング及びスタッド部間に作用する引っ張り荷重を緩衝し得るようにした新規なボールジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,軸方向一端を第1開口部,他端を第2開口部として開放したシリンダ状の内室を有するハウジングと,このハウジングの内室に嵌装される合成樹脂製のベアリング部材と,このベアリング部材に保持されるボール部及びこのボール部から前記第1開口部側に突出するスタッド部よりなるボールスタッドと,前記ハウジングに設けられて前記ベアリング部材の一端部を支承する環状の受け部と,前記ベアリング部材の他端に対置すべく前記第2開口部に嵌合,固着される閉止部材とよりなるボールジョイントにおいて,前記受け部を,前記ハウジングの内周に係止される弾性を有する止め環で構成し,前記閉止部材により前記ベアリング部材を押圧して前記止め環を弾性変形させることで,該止め環に,前記ベアリング部材を前記閉止部材に向かって付勢するセット荷重を付与したことを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記ボール部及び前記ベアリング部材間には,前記ボール部の頂部に圧接するように弾性圧縮変形される,前記ベアリング部材より軟質の補助ベアリング部材を介装したことを第2の特徴とする。
【0009】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,ボールジョイントの組立時,前記補助ベアリング部材の圧縮方向の変形代を前記止め環の曲げ方向の変形代より大きく設定したことを第3の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第2の特徴に加えて,前記補助ベアリング部材を,前記ボール部の他方の極の周辺部と前記ベアリング部材との間に介装される皿状のベアリング部と,このベアリング部の外周面中心部より前記閉止部材側に突出する位置決め筒部とで構成する一方,この補助ベアリング部材を保持する保持孔を前記ベアリング部材に形成したことを第4の特徴とする。
【0011】
さらにまた本発明は,第1又は第3の特徴に加えて,前記止め環をばね鋼板製としたことを第5の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば,外部からスタッド部及びハウジング間に引っ張り荷重が作用し,その荷重が止め環のセット荷重を上回ったときは,ボール部はベアリング部材を伴なって止め環に曲げ方向の弾性変形を与えるので,その弾性変形により上記荷重を緩衝することができ,過負荷によるベアリング部材の摩耗を回避し,ボールジョイントの耐久性の向上に寄与し得る。またベアリング部材には特別な弾性を付与する必要がないから,ベアリング部材のボール部に対する強力な抱持力を維持することができる。
【0013】
しかも,止め環のセット荷重は,ハウジングに対する閉止部材の嵌合深さの設定により容易に調整が可能である。
【0014】
またボールスタッドボール部を保持したベアリング部材を,ボール部側からハウジングの内室に嵌装するので,スタッド部に内室の内径より大径の部分が存在したり,スタッド部に大型の部材が一体に連結されている場合でも,それらに邪魔されることなく,ベアリング部材をボール部と共にハウジングに装着することができ,組立性が極めて良好である。
【0015】
本発明の第2の特徴によれば,ボール部及びベアリング部材間に,ボール部の頂部に圧接するように弾性圧縮変形される補助ベアリング部材を介装したので,補助ベアリング部材の初期弾性変形量,即ちセット荷重の選定により,ボールスタッドの首振りトルクを所望通りに設定することができる。また外部からスタッド部及びハウジング間に圧縮荷重が作用し,その圧縮荷重が補助ベアリング部材の圧縮セット荷重を上回ったときは,ボール部が補助ベアリング部材に更なる圧縮変形を与え,その変形により上記荷重を緩衝することができ,過負荷による補助ベアリング部材及びベアリング部材の摩耗を回避し,ボールジョイントの耐久性の向上に寄与し得る。
【0016】
しかも補助ベアリング部材を,ベアリング部材より軟質としたので,ベアリング部材に殆ど干渉されることなく,補助ベアリング部材のセット荷重を所望通りに設定することが可能となり,ボールスタッドの首振りトルクを所望通り容易に設定することができる。
【0017】

本発明の第3の特徴によれば,各部の製作誤差によっても,ボールジョイントの組立時,補助ベアリング部材に充分な弾性圧縮変形を付与して,ボールスタッドに必要な首振りトルクを確実に付与することができる。
【0018】
本発明の第4の特徴によれば,補助ベアリング部材は,その位置決め筒部をベアリング部材の保持孔に嵌合することで,位置ずれすることなくボール部の頂部に圧接し続けることができる。
【0019】
本発明の第5の特徴によれば,止め環をばね鋼板製としたことで,止め環のばね特性が安定し,閉止部材のハウジングへの嵌合深さの選定により,止め環に所定のセット荷重を容易に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係るボールジョイントを使用する自動車の懸架装置の斜視図。
【図2】前記懸架装置における前記ボールジョイント周りの分解斜視図。
【図3】前記ボールジョイントの拡大縦断面図。
【図4】前記ボールジョイントにおけるベアリング部材の側面図。
【図5】図4の5矢視図。
【図6】図5の6−6線断面図。
【図7】図6の7−7線断面図。
【図8】前記ボールジョイントにおける止め環の平面図。
【図9】前記ボールジョイントの組立要領説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0022】
先ず,図1により,本発明のボールジョイントを使用したFF型自動車の前部懸架装置について説明する。
【0023】
この懸架装置Sは,前輪Wを回転自在に支持するAl合金製ナックル1と,このナックル1の上部を図示しない車体前部に上下揺動可能に連結する二股状のアッパアーム2と,ナックル1の下部を車体のサブフレーム3に上下揺動可能に連結する第1及び第2ロアアーム4a,4bと,アッパアーム2の二股部間を通って第2ロアアーム4b及び車体前部間に介装されるダンパ5と,このダンパ5の伸縮に応じて伸縮するようダンパ5の上部に装着されるコイルばね6とを備える。
【0024】
またナックル1には,操向装置7のタイロッド8が連結され,ドライバによる舵取り操作に伴ないタイロッド8の左右動によりナックル1が仮想キングピン軸線A周りに回動するようになっている。上記仮想キングピン軸線Aは,その下方の瞬間中心が第1ロアアーム4aの延長線と第2ロアアーム4bの延長線との交差部位を通るようになっており,そのため,この懸架装置Sでは,仮想キングピン軸線Aと路面の交点と,前輪Wの中心との間のずれ(キングピンオフセット)が通常の懸架装置に比して有意に小さくなっている。
【0025】
さらにナックル1には,前輪Wのハブ10がハブベアリング(図示せず)を介して保持され,そのハブ10に,図示しないパワーユニットにより駆動されるドライブシャフト11が連結される。
【0026】
図2に示すように,前記ナックル1の下面には,長辺を車体の前後方向に延ばした略直方体形状のジョイントブラケット12が前後一対のボルト13,13により締結され,このジョイントブラケット12は,その上面側で前記第1ロアアーム4aの外端部と,また下面側で前記第2ロアアーム4bの外端部と本発明に係る一対のボールジョイントJ,Jを介してそれぞれ連結される。上下一対のボールジョイントJ,Jは,車体の前後方向に沿って比較的短い間隔を置いて相互にオフセット配置される。
【0027】
さて,本発明に係るボールジョイントJの構成について,図2〜図8を参照しながら説明する。
【0028】
図2及び図3に示すように,ボールジョイントJは,ジョイントブラケット12の上面又は下面に一体に突設されるボールスタッド20と,第1ロアアーム4a又は第2ロアアーム4bの外端部に一体に形成されるハウジング23とを備える。以下の説明において,便宜上,ハウジング23側を上,ボールスタッド20側を下とする。
【0029】
ボールスタッド20は,ジョイントブラケット12から隆起したスタッド基部21aに,それより小径のスタッド頸部21bを一体に連設してなるスタッド部21と,その頸部21bに一体に連設されるボール部22とよりなっており,スタッド基部21aは,ボール部22より大径になっている。そのボール部22は,外周面が円筒状をなす合成樹脂製のベアリング部材25により抱持される。
【0030】
ハウジング23はシリンダ状の内室24を有する。その内室24は,軸方向下端を第1開口部24a,上端を第2開口部24bとして開放しており,前記ベアリング部材25は,第1開口部24aから内室24に密に嵌合される。
【0031】
図4〜図7に示すように,ベアリング部材25は,その内周側にボール部22の赤道e(スタッド部21の軸線yと直交するボール部22上の大円)及びその周辺部に適合する球状の抱持面27が形成される。この抱持面27には,ボール部22の赤道eに沿って延びる環状溝28が形成される。またベアリング部材25の周壁には,第1開口部24a側の一端部から抱持面27を越えて延びる複数のスリット29,29…が周方向等間隔置きに設けられる。さらにベアリング部材25の上端部外周面には,その部分の肉厚変動を極力抑える複数の切欠き溝30,30…が設けられる。
【0032】
ベアリング部材25及びボール部22間には,ボール部22の頂部に圧接する補助ベアリング部材31が介装される。この補助ベアリング部材31は,ボール部22の頂部に圧接する球面の圧接面33を持った皿状のベアリング部32と,このベアリング部32の外周面中心部より突出する位置決め筒部34とからなっており,位置決め筒部34には,その中心部を貫通する透孔35が設けられ,圧接面33には,透孔35から延びる放射状溝36,36…が形成される。
【0033】
この補助ベアリング部材31を保持する保持孔37がベアリング部材25に設けられる。この保持孔37は,前記抱持面27の上縁より延びてベアリング部32の外周縁部が嵌合する大径孔37aと,位置決め筒部34が嵌合する小径孔37bと,これら大径孔37a及び小径孔37b間を接続し,ベアリング部32の傾斜した外周面を支承するテーパ孔37cとで構成される。
【0034】
而して,補助ベアリング部材31のベアリング部32には予め所定の締め代が付与されており,ボール部22がベアリング部材25の抱持面27に密接するようにベアリング部材25に保持されたとき,ベアリング部32がベアリング部材25及びボール部22間で所定量,弾性圧縮変形され,ベアリング部32に所定の圧縮セット荷重が付与される。これによりボールスタッド21の首振りトルクが設定される。
【0035】
ハウジング23の,第1開口部24a近傍の内周面には環状の係止溝38が設けられ,この係止溝38に,ベアリング部材25の下端面を支承するばね鋼板製の止め環40が装着される。
【0036】
図3及び図8に示すように,この止め環40は,一つの切り口41を有するサークリップ状をなしており,切り口41を挟んで対向する両端部には,これを縮径させて係止溝38に装着する際に使用する工具のための工具孔42,42が設けられる。この止め環40は,ベアリング部材25内周面の係止溝38に弾性的に係合し,係止溝38から張り出した部分でベアリング部材25の下端面を支承する。
【0037】
再び図3において,ハウジング23の第2開口部24bの内周面には,内室24より大径の環状凹部44が設けられ,この環状凹部44の外端縁から環状のかしめ部45が隆起している。環状凹部44には閉止部材46が嵌合される。この閉止部材46は,第2開口部24bを閉鎖すると共に,ベアリング部材25の上端面を押圧して止め環40に所定の弾性曲げ変形を付与するもので,この閉止部材46の環状凹部44との嵌合状態を保持するようにかしめ部45が半径方向内側にかしめられる。またベアリング部材25は,閉止部材46からの押圧により止め環40を変形させるとき,同時に補助ベアリング部材31のベアリング部32をも圧縮して,それをボール部22に圧接させる。
【0038】
ところで,ベアリング部材25は,例えばポリアセタールのような比較的硬質の合成樹脂製であってボール部22に対する大なる抱持力を発揮し得るものであり,補助ベアリング部材31は,例えばポリエステルエラストマのような,ベアリング部材25よりも軟質の合成樹脂製であってボール部22の首振りトルクを規定すると共にボール部22からの衝撃力を吸収し得るものである。
【0039】
而して,ボールジョイントJの組立時,補助ベアリング部材31の圧縮方向の変形代は,止め環40の曲げ方向の変形代より大きく設定される。
【0040】
スタッド部21及びハウジング23間には,ハウジング23の第1開口部24a周りを覆う可撓性のブーツ47が張設される。即ち,ブーツ47は,蛇腹部47aと,その軸方向両端に形成される環状の第1及び第2リップ部47b,47cとからなっており,その第1リップ部47bは,スタッド基部21a外周面に圧入固定され,第2リップ部47cは,ハウジング23の,第1開口部24a側端部の外周面に設けられた環状のリップ装着溝48に装着される。
【0041】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0042】
ボールジョイントJの組立要領について図3及び図9により説明すると,先ず,スタッド基部21aにブーツ47の第1リップ部47bを圧入し,次いで止め環40の切り口41を開きながら,止め環40をスタッド部21の周囲に待機させる。
【0043】
次に,ボール部22の外周面にグリースを塗布し,またベアリング部材25に補助ベアリング部材31を嵌合した状態で,それらの内周面もグリースを塗布する。これらグリースは,ベアリング部材25の環状溝28や,補助ベアリング部材31の透孔35及び放射状溝36,36…に保持され,ボール部22と,ベアリング部材25及び補助ベアリング部材31との各間の摺動部の潤滑に供される。
【0044】
それから,ベアリング部材25の,補助ベアリング部材31と反対側の開口部にボール部22を押し込む。而して,ベアリング部材25の周壁には,その開口端から球状の抱持面27を越えて延びる複数条のスリット29,29…が設けられているから,ボール部22の押し込み力によれば,それらスリット29,29…が拡張するようにベアリング部材25の周壁が円錐状に拡径してボール部22を受け入れ,その後,抱持面27がボール部22に密接するように,ベアリング部材25の周壁は,それ自体の弾性により原形に戻ろうとするが,補助ベアリング部材31のベアリング部32には前述のように所定の締め代が付与されているため,ボール部22は圧縮変形前のベアリング部32に邪魔されて抱持面27に不完全な状態で嵌合し,したがってベアリング部材25の周壁は,僅かに円錐状に拡径した状態を呈する。
【0045】
そこで,次にベアリング部材25をボール部22と共にハウジング23の内室24に第1開口部24a側,即ち係止溝38側から嵌合していくと,ベアリング部材25の前記円錐状拡径部は,内室24の内周面により縮径され,それに伴ないボール部22は,抱持面27に密着するよう強制的に押し込まれながらベアリング部32をベアリング部材25との間で圧縮していく。こうして補助ベアリング部材31には圧縮セット荷重を付与する。このとき,補助ベアリング部材31は,ベアリング部材25より軟質の合成樹脂製であるから,ベアリング部材25に殆ど干渉されることなく,補助ベアリング部材31のセット荷重を所望通りに設定することが可能となり,ボールスタッド21の首振りトルクを所望通り容易に設定することができる。
【0046】
ベアリング部材25の内室24への嵌合が進み,ベアリング部材25が係止溝38を通過した後,止め環40を係止溝38に装着する。ハウジング23の内室24に嵌合したベアリング部材25の周壁は,内室24の内周面により拡径が阻止されるので,ボール部22は抱持面27により強固に抱持され,ベアリング部材25からの抜け出しが阻止される。
【0047】
次にベアリング部材25を,係止溝38に係止された止め環40上に載せて,ハウジング23の環状凹部44に閉止部材46を嵌合し,そしてこの閉止部材46が環状凹部44の底面に密着するように,ハウジング23のかしめ部45を半径方向内側にかしめ,閉止部材46をハウジング23に固定する。
【0048】
而して,かしめ部45の閉止部材46に与えるかしめ力は,ベアリング部材25を介して止め環40に伝達して,それらに所定の弾性曲げ変形を与えて所定のセット荷重を付与することになる。その際,ベアリング部材25にも僅かながら弾性圧縮変形が生じ,補助ベアリング部材31と協働してボール部22に対する抱持力を増加させる。
【0049】
閉止部材46の固定後,ブーツ47の第2リップ部47cをハウジング23のリップ装着溝48に装着して,ボールジョイントJの組み立ては終了する。
【0050】
上記のように,このボールジョイントJでは,ボール部22に装着したベアリング部材25を,ボール部22側からハウジング23の内室24に嵌装するので,この実施例のように,スタッド部21のスタッド基部21aが内室24の内径より大径であったり,スタッド部21にジョイントブラケット12のような大型の部材が一体に連結されていても,それらに邪魔されることなく,ベアリング部材25をボール部22と共にハウジング23に装着することができる。
【0051】
自動車の走行中,懸架装置Sの作動状態により,ボールジョイントJにはあらゆる方向から荷重が作用する。而して,ハウジング23内のベアリング部材25は,止め環40のセット荷重により,この止め環40と閉止部材46との間で強力に挟持されるので,ベアリング部材25がハウジング23内でガタつくことはなく,またボール部22は,補助ベアリング部材31の圧縮セット荷重により抱持面27の下方に付勢されるので,これもベアリング部材25内でガタつくことはない。したがって,ボールジョイントJは,通常の負荷状態では,ハウジング23及びボールスタッド20間でガタつくことなく,所定のトルクをもってスムーズな首振り動作を行うことができる。
【0052】
しかも,止め環40のセット荷重は,ハウジング23の環状凹部44の深さ,換言すればハウジング23への閉止部材の嵌合深さの設定により容易に調整が可能である。
【0053】
さらに,補助ベアリング部材31は,その位置決め筒部34をベアリング部材25の保持孔37の小径孔37bに嵌合させているので,位置ずれすることなくボール部22の頂部に圧接し続けることができる。
【0054】
ところで,外部からスタッド部21及びハウジング23間に引っ張り荷重が作用し,その引っ張り荷重が止め環40の前記セット荷重を上回ったときは,ボール部22はベアリング部材25を伴なって止め環40に曲げ方向の弾性変形を与えるので,その弾性変形により上記引っ張り荷重を緩衝することができる。
【0055】
また外部からスタッド部21及びハウジング23間に圧縮荷重が作用し,その圧縮荷重が補助ベアリング部材31の圧縮セット荷重を上回ったときは,ボール部22がベアリング部32に更なる弾性圧縮変形を与えるので,その弾性圧縮変形により上記圧縮荷重を緩衝することができる。
【0056】
以上により,過負荷によるベアリング部材25の摩耗を回避し,ボールジョイントJの耐久性の向上に寄与し得る。またベアリング部材25には特別な弾性を付与する必要がないから,ベアリング部材25のボール部22に対する強力な抱持力を維持することができる。
【0057】
ところで,ボールジョイントJの組立時,補助ベアリング部材31の圧縮方向の変形代は,そのときの前記止め環40の曲げ方向の変形代より大きく設定されるので,各部の製作誤差によっても,補助ベアリング部材31に充分な圧縮変形を付与して,ボールスタッド21に必要な首振りトルクを確実に付与することができる。
【0058】
また止め環40をばね鋼板製としたことで,止め環40のばね特性が安定し,閉止部材46のハウジング23への嵌合深さの選定により,止め環40に所定のセット荷重を容易に付与することができる。
【0059】
以上,本発明の好適実施例について説明したが,本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
J・・・・ボールジョイント
20・・・ボールスタッド
21・・・スタッド部
22・・・ボール部
23・・・ハウジング
24・・・内室
25・・・ベアリング部材
31・・・補助ベアリング部材
32・・・ベアリング部
33・・・圧接面
37・・・保持孔
40・・・止め環
46・・・閉止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端を第1開口部(24a),他端を第2開口部(24b)として開放したシリンダ状の内室(24)を有するハウジング(23)と,このハウジング(23)の内室(24)に嵌装される合成樹脂製のベアリング部材(25)と,このベアリング部材(25)に保持されるボール部(22)及びこのボール部(22)から前記第1開口部(24a)側に突出するスタッド部(21)よりなるボールスタッド(20)と,前記ハウジング(23)に設けられて前記ベアリング部材(25)の一端部を支承する環状の受け部と,前記ベアリング部材(25)の他端に対置すべく前記第2開口部(24b)に嵌合,固着される閉止部材(46)とよりなるボールジョイントにおいて,
前記受け部を,前記ハウジング(23)の内周に係止される弾性を有する止め環(40)で構成し,前記閉止部材(46)により前記ベアリング部材(25)を押圧して前記止め環(40)を弾性変形させることで,該止め環(40)に,前記ベアリング部材(25)を前記閉止部材(46)に向かって付勢するセット荷重を付与したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項2】
請求項1記載のボールジョイントにおいて,
前記ボール部及び前記ベアリング部材間には,前記ボール部(22)の頂部に圧接するように弾性圧縮変形される,前記ベアリング部材(25)より軟質の補助ベアリング部材(31)を介装したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項3】
請求項2記載のボールジョイントにおいて,
ボールジョイント(J)の組立時,前記補助ベアリング部材(31)の圧縮方向の変形代を前記止め環(40)の曲げ方向の変形代より大きく設定したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項4】
請求項2記載のボールジョイントにおいて,
前記補助ベアリング部材(31)を,前記ボール部(22)の他方の極の周辺部と前記ベアリング部材(25)との間に介装される皿状のベアリング部(32)と,このベアリング部(32)の外周面中心部より前記閉止部材(46)側に突出する位置決め筒部(34)とで構成する一方,この補助ベアリング部材(31)を保持する保持孔(34)を前記ベアリング部材(25)に形成したことを特徴とするボールジョイント。
【請求項5】
請求項1又は3記載のボールジョイントにおいて,
前記止め環(40)をばね鋼板製としたことを特徴とするボールジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−52730(P2011−52730A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200601(P2009−200601)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000238360)武蔵精密工業株式会社 (82)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】