説明

ポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物

【課題】液経時安定性が良好であり、且つ現像性、耐エッチング性等の回路形成能が良好なポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を提供すること。
【解決手段】(A) 以下の(a)〜(c)成分を用いて共重合することにより得られる、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体 60〜95重量部、
(a)置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部
(b)(a)以外の共重合性ビニル系単量体 85〜98重量部
(c)カルボキシル基を有する連鎖移動剤 共重合性ビニル系単量体(a)と(b)の合計100重量部に対し、0.05〜10重量部
(B) 1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤 5〜40重量部
(C) 中和剤としての3級アミン (A)成分のカルボキシル基1モルに対し、0.2〜0.9モルを含有することを特徴とするポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液安定性、現像性、耐エッチング性に優れ、回路形成能が良好なポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物、該ポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を電着塗装したリジット及びフレキシブルプリント基板及び該プリント基板から露光工程、現像工程等の所定の工程を経て得られるプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に利用されるプリント基板は、レジスト材料によって回路パターンが形成されるが、近年、電子機器の小型化に対応して高密度・高精度が求められており、回路パターンの微細化が進んでいる。微細化への対応手法として、以前よりポジ型感光性電着レジストが提案されている。
【0003】
ポジ型電着レジスト組成物としては、種々提案されているが、非化学増幅型ポジ型電着レジスト組成物では、大きく分けて、(1)カルボキシル基含有樹脂に感光性官能基を導入
する方法(例えば、特許文献1)、(2)カルボキシル基を持たない樹脂と感光性官能基を
もつハロゲン化物を反応させた高分子感光剤とカルボキシル基含有樹脂をブレンドする方法(例えば、特許文献2)、(3)感光性官能基を持つハロゲン化物と不飽和基を持つ化合
物の反応により合成した感光性を有する不飽和モノマーとカルボキシル基含有不飽和モノマーを共重合する方法(例えば、特許文献3)、(4)カルボキシル基含有樹脂と感光剤を
ブレンドする方法(例えば、特許文献4)の4種類に、その技術内容から分類することができる。
【0004】
方法(1)、及び、(2)では、高分子と低分子の反応で反応効率が悪く、工程が煩雑であるだけでなくカルボキシル基を持つ樹脂では、副反応で樹脂がゲル化するため、使用は難しく、方法(3)では、感光性を有する不飽和モノマーの合成が煩雑であるだけでなく、コス
トアップになるので好ましくはない。このような背景から、方法(4)でポジ型電着レジス
ト組成物を作製する方法が技術的に有望である。
【0005】
しかしながら、方法(4)においても、カルボキシル基含有樹脂と感光剤の相溶性があま
りよくないために、感光剤が分離沈降し、感度を上げるために感光剤を増量することがこれまで困難であった。
この点を改良するため、アクリル樹脂等の改善が種々提案されているが(例えば、特許文献5)、アクリル樹脂製造工程が複雑になる問題があった。このように複雑な製造工程を用いず、液安定性が良好で、且つ現像性、耐エッチング性等の回路形成能が良好なポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物は未だ見出せていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−206293号公報
【特許文献2】特開平3−100073号公報
【特許文献3】特開昭63−221177公報
【特許文献4】特開昭63−141048号公報
【特許文献5】特開平7−278471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような従来技術における問題を解決し、複雑なアクリル樹脂製造工程を用いず、液経時安定性が良好であり、且つ現像性、耐エッチング性等の回路形成能が良好なポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤を含有することを特徴とするポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を用いて電着塗装を行なうことにより、上記課題を克服できることを見出し、本願発明にいたった。
すなわち本発明は、
(A) 以下の(a)〜(c)成分を用いて共重合することにより得られる、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体 60〜95重量部、
(a)置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体2〜15重量部
(b)(a)以外の共重合性ビニル系単量体85〜98重量部
(c)カルボキシル基を有する連鎖移動剤 共重合性ビニル系単量体(a)と(b)の合計100重量部に対し、0.05〜10重量部
(B) 1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤 5〜40重量部
(C) 中和剤として(A)成分のカルボキシル基1モルに対し、3級アミンを0.2〜0.9モルを含有することを特徴とするポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物、を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物は上記したような構成であり、本発明のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を使用することで、電着塗料液安定性と併せて、現像性、解像度が良好な感光性電着塗膜を得ることができ、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の構成と作用を説明する。本発明においては、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤(B)、中和剤としての3級アミン(C)の各成分は、ポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を得るための必須構成成分である。
【0011】
(A)成分の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性のビニル系共重合体を構成する、置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ダイマー、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸、メサコン酸等のアクリル系アニオン電着塗料に一般的に使用されるものを用いられるがこれらに限定されない。これらの中では、アクリル酸、メタクリル酸を用いるのが望ましい。
【0012】
(A)成分の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を構成する、その他のビニル系単量体(b)としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ノルマルブチルアクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、ノルマルヘキシルアクリレート、ノルマルヘキシルメタクリレート、ノルマルヘプチルアクリレート、ノルマルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノルマルラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等の炭素数約20までのアルキル基を有する同様な共重合性ビニルエステルやシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレートなどの側鎖に脂環式炭化水素基を有する共重合性ビニルエステル系単量体、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ
プロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート等の水酸基含有単量体、及び、スチレン、α−メチルスチレン、α−クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族基を有するビニル系単量体が使用できる。さらにアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−イソブトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルメタクリルアミド、N−イソブトキシメチルメタクリルアミド、N−ブトキシメチルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類やアクリロニトリル、酢酸ビニル等を使用することも出来る。
【0013】
(A)成分の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を構成するカルボキシル基を有する連鎖移動剤(c)は、ビニル重合の際に開始ラジカル、または、成長ラジカルが連鎖移動することで重合を開始することができるもので、それにより水溶性、または、水分散性ビニル系共重合体の主鎖末端にカルボキシル基を導入できる。
そのため、(B)成分の1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤との相溶性がきわめて優れ、該感光剤の分散安定性が良好となる。
そして、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤をコアとしたコアシェル型エマルジョンが形成されるので、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤の加水分解が抑制され、液の安定性が良好となる。
カルボキシル基を有する連鎖移動剤としては、チオカルボン酸類が好ましく、具体的には、チオグリコール酸、2−チオプロピオン酸、3−チオプロピオン酸、チオ乳酸、メルカプトコハク酸、チオリンゴ酸、N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン、2−メルカプト安息香酸、2−メルカプトニコチン酸、チオリンゴ酸、チオサリチル酸、3,3−ジチオジプロピオン酸、3,3−ジチオイソ酪酸等があげられるが、なかでも3−チオプロピオン酸が好ましい。
【0014】
(A)成分の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を重合する際に使用される溶剤は、一般的なものが使用できるが、水溶性又は水分散性という点からイソプロピルアルコール、ノルマルブタノール、イソブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のセロソルブ類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類が望ましい。
(A)成分の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体を重合する際に使用される重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル、2,2‘−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等の過酸化物等が使用できる。
【0015】
(B)成分の1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤としては、通常のポジ型液状レジストと異なり制限があり、非ベンゾフェノン系の分子量1000未満の低分子ポリフェノール化合物とナフトキノンジアジドスルホン酸(6−ジアゾ−5,6−ジヒドロ−5−オキソ−ナフタレン−1−スルホン酸)のエステル化物を用いることが好ましい。
すなわち一般にポジ型液状レジストに用いられる感光剤であるノボラック樹脂のナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化物やフェノール性水酸基を複数個有するベンゾフェノン誘導体のナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化物、及び、分子量1000
以上のポリフェノール化合物とナフトキノンジアジドスルホン酸とナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化物は本発明の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)を用いても分散安定性が悪く、電着特性や経時安定性に悪影響を与えるために使用することはできない。
【0016】
本願の1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤である非ベンゾフェノン系の分子量1000以下の低分子ポリフェノール化合物とナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化物の合成に使用できる特定の低分子ポリフェノール化合物としては、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール,4,4‘−(1−メチルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール),4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール,4,4‘−(1−α−メチル−ベンジリデン)ビスフェノール,4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニルメタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン等があげられるが、これらに限定されない。
【0017】
本発明における主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)のカルボキシル基の中和には、3級アミンを用いることが好ましい。
一般的なアニオン電着の中和剤として用いられる水酸化ナトリウム等無機アルカリやアンモニア、ジプロピルアミン等の1級、2級アミン類は強塩基性であるので、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)を中和した後に、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤を加えた際に感光剤の劣化を引き起こし、本願発明で使用する中和剤としては好ましくない。
【0018】
しかしながら、本願発明で使用する3級アミンは、そのような劣化反応が抑制され好ましく使用される。本発明に使用できる3級アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等のアルキルアミンやメチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(N,N−ジメチルアミノ)−2−メチル−1−プロパノール等のアルカノールアミンなどが挙げられる。特に望ましいものは、アルカノールアミン類である。本発明に使用する3級アミンは、(A)成分中のカルボキシル基に対して、モル比が0.2〜0.9となるように添加すればよい。
【0019】
主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)により得られた電着塗膜は、優れた液安定性を有し、置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)2〜15重量部、好ましくは4〜10重量部、(a)以外の共重合性ビニル系単量体(b)が85〜98重量部、好ましくは90〜96重量部、共重合性ビニル系単量体(a)と(b)の合計100重量部に対し、カルボキシル基を有する連鎖移動剤(c)0.05〜10重量部、好ましくは0.5重量部〜5重量部を重合し作製した主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体により得られた電着塗料用組成物は、水分散性が特に良好であり、それにより得られた電着塗膜は、現像性、耐エッチング性等の回路形成特性に優れている。
【0020】
主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)の構成である置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体(a)が2重量部未満である電着塗料用組成物は液安定性が悪く、現像液への溶解性が低いために現像性が悪い。
また、15重量部を超えると得られた塗膜の耐薬品性が悪く、現像液に溶けすぎてパタ
ーン形成ができない。
共重合性ビニル系単量体(a)と(b)の合計100重量部に対し、メルカプトカルボン酸(c)が0.05重量部未満であると現像性が低下し、10重量部を超えると現像液に溶けすぎてパターン形成ができない。
【0021】
本発明の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)60〜95重量部、好ましくは、80〜93重量部、1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤(B)5〜40重量部、好ましくは、10〜20重量部で用いる。水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)の割合が60重量部未満では、十分な水分散性が得られず液安定性が悪く沈降を生じやすく、95重量部を超えると十分な回路形成性能が得られない。
1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤(B)の割合が5重量部未満では、十分な回路形成性能が得られず、40重量部を超えると、十分な水分散性が得られず、電着塗布しても平滑な塗膜が得られないため充分な解像度が得られず耐エッチング性が劣る。また、製造コストも上昇する。
【0022】
本発明の主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体(A)のカルボキシル基1モルに対し、中和剤としての3級アミン(C)は、0.2〜0.9モル、好ましくは、0.3〜0.5モルで用いる。3級アミン(C)が、0.2モル未満では、十分な水分散性が得られず液安定性が悪く沈降を生じやすく、0.9モルを超えると、塩基性が増加するため感光剤の劣化が起こり、液安定性が悪くなる。
【0023】
本発明により構成されるポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物は基板上に電着塗装されるが、基板としては銅箔などの導電性の被膜層を有するリジット及びフレキシブルプリント基板、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウムなどの金属板及びニッケルめっき、スズめっき、クロムめっきなどのめっき処理したものが使用できる。
電着前処理として各基材に適した脱脂やエッチング処理を行うことができ、電着前に充分脱イオン水で水洗する。電着前なじみとして、被塗物を電着槽に入槽する。通常バッチ処理で行われるリジッドプリント基板にはスルーホールがある。その微細孔に塗膜を析出させるため電着槽にプリント基板を入槽する時、電着塗料液を循環させてスルーホール内に電着塗料液を入れる。必要があればその吹き出し口をプリント基板に当てエアーポケットが発生しないようにする。プリント基板に振動を加えエアーを抜く方法もある。リールトゥリールなどの連続式処理方法で行われるフレキシブルプリント基板は、前なじみ槽を設置することが望ましい。電着条件としては、通電工程において印加される電圧は10〜400V、好ましくは100〜250Vであり、通電時間は0.1分〜5分、好ましくは0.5〜4分である。電圧が高いほど通電時間は短く、電圧が低ければ通電時間を長くする。印加電圧は通電と同時に設定電圧をかけるハードスタート、あるいは徐々に設定電圧まで電圧を上げていくソフトスタートのいずれでもかまわない。また、スルーホール内に充分な塗膜厚になるように、通電時間は2〜4分が望ましい。フレキシブルプリント基板で採用されるリールトゥリールなどの連続式処理方法では、電着槽スペースの制約上から通電時間は0.1分〜0.5分で行われる。本組成物を用いれば通電時間0.1分からの電着処理が可能であり、処理速度が上がり生産性の向上が図れる。
【0024】
電着塗装された被塗装物は、数秒から数分間の浸漬水洗又はシャワー式水洗を行う。次いで100℃で10分間程度加熱して乾燥するが最適加熱条件は、基材が紙フェノール、ガラスエポキシ、セラミック等の材質の種類と厚みにより異なり、80℃〜120℃で数分から20分程度の範囲で最適条件を確認する必要がある。また、加熱乾燥を2回に分割し、初期乾燥として100℃3分程度行った後に数時間から数日後に80℃〜120℃10分程度再乾燥しても構わない。塗装膜中の水分を乾燥した後に配線パターンを描画したフォトマスクを当てメタルハライドランプの紫外線光源を用い、積算光量100mJ/c
〜500mJ/cmを照射する。本組成物の感光性基はi線波長365nmに感光するので、この波長の積算光量を確認する。その後、現像液0.5%メタケイ酸ナトリウム水溶液を用いて、32℃2分間浸漬して現像する。メタケイ酸ナトリウム水溶液は、0.2%〜1.0%濃度で現像可能である。同様に0.2%〜1.0%の炭酸ナトリウム水溶液で現像することも出来るが、現像時間は2倍程度長くかかる。その後塩化第二鉄又は塩化第二銅のエッチング液を用い、銅箔をエッチングして配線パターンを形成する。エッチング条件は、プリント基板の銅箔の厚さにより異なる。通常、銅箔の厚さは8μ〜70μとその用途により異なりエッチング時間が数分以内に可能となるようスプレー圧力、エッチング液温度が調整される。その後、電着塗膜は、3%水酸化ナトリウム水溶液に50℃で2分から3分浸漬して剥離し回路パターン形成を行う。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の部は、特に断りのない限り重量部である。
製造例1
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.0部、ブチルセロソルブ10.0部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール16.0部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、2−エチルヘキシルアクリレート14部、エチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート34部、メチルメタクリレート35部、メルカプト酢酸1部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で90分反応を続けた後に、冷却し共重合体の温度が50℃以下でジメチルアミノエタノールを2.3部添加後に攪拌を終了した。
【0026】
製造例2
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.0部、ブチルセロソルブ10.0部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール16.0部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、2−エチルヘキシルアクリレート14部、エチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート34部、メチルメタクリレート35部、3−チオプロピオン酸2部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で90分反応を続けた後に、冷却し共重合体の温度が50℃以下でジメチルアミノエタノールを3部添加後に攪拌を終了した。
【0027】
製造例3
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.0部、ブチルセロソルブ10.0部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール16.0部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、2−エチルヘキシルアクリレート14部、エチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート34部、メチルメタクリレート35部、チオグリコール酸1部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で90分反応を続けた後に、冷却し共重合体の温度が50℃以下でジメチルアミノエタノールを2.3部添加後に攪拌を終了した。
【0028】
製造例4
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.0部、ブチルセロソルブ10.0部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール16.0部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、2−エチルヘキシルアクリレート14部、エチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート34部、メチルメタクリレート35部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で90分反応を続けた後に、冷却し共重合体の温度が50℃以下でジメチルアミノエタノールを2.3部添加後に攪拌を終了した。
【0029】
製造例5
攪拌装置、還流冷却器および窒素導入管を備えた3リットルの4つ口フラスコにイソプロパノール10.0部、ブチルセロソルブ10.0部を仕込み、90℃に昇温した。別にイソプロパノール16.0部、アクリル酸6部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、2−エチルヘキシルアクリレート14部、エチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート34部、メチルメタクリレート35部、メルカプト酢酸15部、アゾビスイソブチロニトリル2部の混合液を滴下ロートに仕込み、前記フラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、さらにイソプロパノール2部、アゾビスイソブチロニトリル0.2部を、30分毎に3回添加したのちに、さらに90℃で90分反応を続けた後に、冷却し共重合体の温度が50℃以下でジメチルアミノエタノールを3.8部添加後に攪拌を終了した。
【0030】
実施例1
製造例1で得られたビニル系共重合体122部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物15部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を418.5部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0031】
実施例2
製造例2で得られたビニル系共重合体122.6部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物15部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を417.9部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0032】
実施例3
製造例3で得られたビニル系共重合体122部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物15部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を418.5部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0033】
比較例1
製造例4で得られたビニル系共重合体122.4部と4、4’−[1−[4−[1−(
4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物15部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を418.2部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0034】
比較例2
製造例5で得られたビニル系共重合体126.8部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物13部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を413.8部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0035】
比較例3
製造例1で得られたビニル系共重合体139.2部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物3部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を413.3部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0036】
比較例4
製造例1で得られたビニル系共重合体78.9部と4、4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノールと6−ジアジ−5,6ジヒドロ−5−オキソナフタレン−1−スルホン酸とのエステル化合物45部を混合し、攪拌を続けながら、脱イオン水を431.6部加えて転相乳化を行ない、電着用原液を得た。別の容器に脱イオン水を444.4部仕込み、攪拌しながら前記電着用原液555.5部を投入し電着液を得た。
【0037】
電着塗料用組成物の評価
実施例1〜3、比較例1〜4で調整した電着塗料液を使用し、常法に従って陽極に片面に銅箔を貼ってあるサンハヤト(株)プリント基板No.10番(7.5cm×10cm)を、陰極にSUS304板を用いて、7μmの塗膜厚が得られる条件で電着塗装を実施した。次いで電着塗装されたプリント基板を取り出して充分に水洗したのち、100℃の温度で10分間乾燥して、水分、溶剤分を乾燥し、所定のパターンを描画したフォトマスク越しにメタルハライドランプにて積算光量300mJ/cmを照射して露光した。その後、0.5%メタケイ酸ナトリウム水溶液を用いて、32℃2分間浸漬して現像した後、充分に水洗した。その後、塩化第二鉄のエッチング液を用い、40℃で5分エッチング液に浸漬した後に電着塗膜を剥離し、パターン形成を行った。プリント基板上に形成された電着塗膜の特性は表1に示すとおりであった。
【0038】
評価方法
(1)液安定性:作製した電着塗料液を24時間静置して容器底に堆積した沈降物の有無を確認した。
(2)現像性:露光後のプリント基板を0.5%メタケイ酸ナトリウム水溶液に、32℃で2分間浸漬して現像が可能であるかを確認した。
(3)解像度:ライン/スペースを描画したフォトマスクのテストパターンを使用し何μmまでの線幅が電着塗膜で形成出来たかを確認した。
(4)耐エッチング液性:現像後のプリント基板を塩化第二鉄のエッチング液40℃5分
浸漬した後の電着塗膜の割れ、折れの有無を確認した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のポジ型アニオン電着塗料用組成物を使用することで液安定性に優れ、また、当該電着塗料用組成物を用いて形成された電着塗膜は、良好な現像性、解像度、耐エッチング性を有しており、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 以下の(a)〜(c)成分を用いて共重合することにより得られる、主鎖末端にカルボキシル基を有する水溶性又は水分散性ビニル系共重合体 60〜95重量部、
(a)置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体 2〜15重量部
(b)(a)以外の共重合性ビニル系単量体 85〜98重量部
(c)カルボキシル基を有する連鎖移動剤 共重合性ビニル系単量体(a)と(b)の合計100重量部に対し、0.05〜10重量部
(B) 1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤 5〜40重量部
(C) 中和剤としての3級アミン (A)成分のカルボキシル基1モルに対し、0.2〜0.9モルを含有することを特徴とするポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。
【請求項2】
前記(a)置換基としてカルボキシル基を有する共重合性ビニル系単量体成分が、アクリル酸またはメタクリル酸であることを特徴とする請求項1に記載のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。
【請求項3】
前記(c)カルボキシル基を有する連鎖移動剤がメルカプトカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。
【請求項4】
前記(B) 1分子につき、平均1から2個の感光性基を有する低分子感光剤が、非ベンゾフェノン系の分子量1000未満の低分子ポリフェノール化合物とナフトキノンジアジドスルホン酸とのエステル化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。
【請求項5】
前記(C) 中和剤としての3級アミンが、アルカノールアミンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかのポジ型感光性アニオン電着塗料用組成物を基板上に電着塗装して得られたポジ型感光性塗膜層を有することを特徴とするリジット及びフレキシブルプリント基板。
【請求項7】
請求項6の被塗物に対し、フォトマスクパターンを当て露光する工程、現像工程、エッチング工程、電着塗膜の剥離工程を施しパターンを形成することにより得られたものであることを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2010−111803(P2010−111803A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286540(P2008−286540)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【特許番号】特許第4302178号(P4302178)
【特許公報発行日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000111591)ハニー化成株式会社 (13)
【Fターム(参考)】