説明

ポジ型感光性樹脂組成物及びそれを使用したレリーフパターンの製造方法

【課題】高い溶解度及びi線、g線透過率を有しながら最終的なポリベンズオキサゾール樹脂の耐熱性及び機械特性を損わないポリベンズオキサゾールの前駆体を使用したレリーフパターンの製造方法を提供する。
【解決手段】(i)下記一般式[I]


で表されるポリアミドを光酸発生剤と共に有機溶媒に溶解して溶液を調製し、この溶液をキャストしてポリアミドフィルムを得、得られたポリアミドフィルムを活性光線でパターン露光し、次いでアルカリ溶液で現像して露光部分を除去し、さらにこのポリアミドフィルムを加熱してフィルム中のポリアミドをポリベンズオキサゾールに変換する工程を含むレリーフパターンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気、電子絶縁材料、特に半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、バッファーコートとして有用なポリベンズオキサゾールのレリーフパターンの製造方法、及びそれに使用するポジ型感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レリーフパターンは一般的に、感光性樹脂組成物を有機溶媒に溶解してフィルム状に成形し、次いでフィルムを活性光線でパターン露光して現像液で現像することによって製造される。電気、電子絶縁材料用のレリーフパターンを構成する樹脂としては、優れた耐熱性と電気特性、機械特性等を併せ持つポリイミド樹脂が従来より用いられている。一方、近年、半導体素子の高集積化、大型化が進む中、封止樹脂パッケージの薄型化、小型化の要求があり、LOC(リード・オン・チップ)や半田リフローによる表面実装などの方式が取られてきており、これまで以上に機械特性、耐熱性等に優れた樹脂が必要とされるようになってきた。
【0003】
このような要求に答えるため、レリーフパターンを構成する樹脂としてポリイミド樹脂の代わりにポリベンズオキサゾール樹脂を使用することが提案されている。ポリベンズオキサゾール樹脂は、機械特性及び耐熱性に優れるが、有機溶媒に対する溶解性が極めて低いため、そのままではフィルム状に成形することが困難である。そこで、ポリベンズオキサゾール樹脂を使用したレリーフパターンは、ポリベンズオキサゾール樹脂の前駆体(ポリアミド)を有機溶媒に溶解してフィルム状に成形し、パターン露光して現像した後で、加熱閉環により前駆体をポリベンズオキサゾール樹脂に変換することによって製造されているが、この前駆体を経由する方法でも、前駆体の溶解度は十分高いと言えず、さらなる改良が求められている。
【0004】
前駆体の溶解度を向上させる方法としては、トリフルオロメチル基のような嵩高い基を有するメチレン基等を分子鎖中に導入することが提案されている(特許文献1参照)。この方法は、前駆体の溶解度をある程度向上させるが、前駆体中のメチレン基が最終的なポリベンズオキサゾール樹脂中にも残っているので、ポリベンズオキサゾール樹脂の利点である耐熱性や機械特性の高さが損われてしまうという問題があった。また、この前駆体は、その構造上、十分なi線(365nm)及びg線(436nm)透過率を有するものとは言えず、レリーフパターン形成時のフィルム感度が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−143805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、高い溶解度及びi線、g線透過率を有しながら最終的なポリベンズオキサゾール樹脂の耐熱性及び機械特性を損わないポリベンズオキサゾールの前駆体を使用したレリーフパターンの製造方法、及びかかる製造方法に使用するためのポジ型感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる目的を達成するためにポリベンズオキサゾール樹脂の前駆体ポリアミド中に導入する置換基の種類とその導入位置について鋭意検討した結果、ポリアミドのヒドロキシ基をtert−ブトキシカルボニル基(以下、t−Boc基とも称する)で置換することによって、ポリアミドの有機溶媒に対する溶解度及びi線、g線透過率を高めることができること、また、このt−Boc基は、このポリアミドの加熱閉環時に樹脂から遊離し、最終的なポリベンズオキサゾール中には存在しないこと、その結果、ポリベンズオキサゾール本来の耐熱性及び機械特性の高さは損われないことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の(1)、(2)の構成が提供される。
{1} (i)下記一般式[I]で表されるポリアミドを光酸発生剤と共に有機溶媒に溶解して溶液を調製する工程

(式中、Rはtert−ブトキシカルボニル基を表すが、n個の繰返し単位中の一部は、Rが水素原子であっても良く、nは50以上の整数を表す。);
(ii)(i)で調製された溶液をキャストしてポリアミドフィルムを得る工程;
(iii)(ii)で得られたポリアミドフィルムを活性光線でパターン露光する工程;
(iv)(iii)で露光されたポリアミドフィルムをアルカリ溶液で現像して露光部分を除去する工程;及び
(v)(iv)で露光部分を除去されたポリアミドフィルムを加熱してフィルム中のポリアミドをポリベンズオキサゾールに変換する工程
を含むことを特徴とするレリーフパターンの製造方法。
(2) 一般式[I]で表されるポリアミドと光酸発生剤を含有することを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレリーフパターンの製造方法は、ヒドロキシ基の少なくとも一部がt−Boc基で置換されたポリアミドを前駆体として使用しているため、有機溶媒に対する溶解度が高く、フィルム成形が容易である。また、t−Boc基で置換されたポリアミドは、i線及びg線透過率が高いため、レリーフパターン形成時のフィルム感度も高い。さらに、前駆体ポリアミド中に存在するt−Boc基は、最終的なポリベンズオキサゾールフィルムに残らないため、得られたレリーフパターンは、ポリベンズオキサゾール本来の優れた耐熱性及び機械特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、t−Boc置換ポリアミド及び無置換ポリアミドのUV−VIS吸収スペクトルを示す。
【図2】図2は、t−Boc置換ポリアミド及び無置換ポリアミドを窒素気流中で示差熱分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前駆体ポリアミドを介してポリベンズオキサゾール樹脂からレリーフパターンを製造する方法において、前駆体ポリアミドとして特定の置換ポリアミドを使用することを特徴とするものである。
【0012】
まず、本発明で使用する置換ポリアミドについて説明する。本発明で使用する置換ポリアミドは、以下の一般式[I]で表されるものである。

【0013】
上記一般式[I]中、Rはtert−ブトキシカルボニル基(t−Boc基)を表すが、n個の繰返し単位中の一部は、Rが水素原子であっても良い。ポリアミドは通常、アミド基に対してオルト位にヒドロキシ基を有しており、有機溶媒に対する溶解性に劣るが、本発明の置換ポリアミドでは、ヒドロキシ基の少なくとも一部がt−Boc基で置換されているため、有機溶媒に対する溶解性に優れる。
【0014】
本発明で使用する置換ポリアミドは、n個の繰返し単位中のヒドロキシ基の全てがt−Boc基で置換されているものだけでなく、少なくとも一部が置換されずに残っているものも含む。ヒドロキシ基のt−Boc基への置換反応の条件によっては、一部のヒドロキシ基が未置換のまま残ることがあるからである。具体的には、ヒドロキシ基のt−Boc基での置換割合は、50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。置換割合が上記下限値未満であると、得られた置換ポリアミドの有機溶剤への溶解度が低くなるおそれがある。
【0015】
また、一般式[I]で表されるポリアミドの繰返し数nは、50以上の整数であり、好ましくは100以上、さらに好ましくは200以上の整数である。繰返し数nが上記下限値未満であると、成形して得られるポリアミドフィルムおよびその後加熱閉環して得られるポリベンズオキサゾールフィルムが脆くなるおそれがある。また、繰返し数nの上限値は特に限定されないが、ポリアミド溶液の粘度が高すぎると、流動性が低くなり、フィルムへの成形が困難になるという観点から一般的に2000程度である。
【0016】
一般式[I]中のRは、保護基に相当するが、本発明では、この保護基がt−Boc基であることが重要である。t−Boc基以外の保護基、例えば、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等では、これらの基をポリアミドの水酸基へ置換しようとすると、水酸化ナトリウム等が存在する塩基性条件下で、相当するハロゲン化物を反応させることになるが、この場合、ポリアミドの溶解性が低いため、およびアミド基部位での加水分解等が起こるため、置換反応を行うことは容易ではない。また、仮に置換できたとしても、脱保護基の反応は、パラジウムカーボンや強酸の存在下で行わざるを得ないため、ポリアミドの状態で製膜して脱保護を行った後、ポリアミドからポリベンズオキサゾールへの閉環反応を行う本発明の方法にはそぐわない。さらに、フェニル基等で置換した場合、ポリアミドの紫外線吸収波長が長波長側へシフトするため、ポリアミドのi線、g線透過性が低下してしまい、レリーフパターン形成時のフィルム感度が不十分になる。一方、保護基がt−Boc基であれば、ポリアミドの水酸基への置換が容易でi線及びg線透過性に優れ、かつポリアミドからポリベンズオキサゾールへの閉環反応時にt−Boc基が比較的容易に外れるため、閉環反応が十分に進行する。
【0017】
一般式[I]で表されるポリアミドは、例えば、以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。
(a)シリル化4,6−ジアミノレゾルシノールとテレフタル酸クロライドとを反応させ、アミド基に対してオルト位にヒドロキシ基を有するポリアミドを合成する工程;および
(b)合成されたポリアミド中の少なくとも一部のヒドロキシ基をtert−ブトキシカルボニル基で置換し、置換ポリアミドを得る工程。
【0018】
工程(a)で使用されるシリル化4,6−ジアミノレゾルシノールは、例えば市販の4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩を有機溶媒中でシリル化剤とともに加熱して反応させることによって得ることができる(以下の式1参照)。式1の反応終了後、減圧蒸留を行って目的のシリル化物を単離する。

【0019】
式1の反応におけるシリル化剤としては、一般的なシリル化剤を使用することができ、具体的には、ヘキサメチルジシラザン、クロロトリメチルシラン、またはこれらの混合物を使用することができる。有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系の溶媒やテトラヒドロフラン、四塩化炭素等を脱水処理したものを使用することができる。反応温度は、通常80〜130℃である。反応時間は、通常1時間〜100時間である。反応時間が1時間未満の場合、未反応物が多くなるおそれがあり、100時間より長い場合、生成物の分解が起こり収率が低下するおそれがある。
【0020】
工程(a)で使用されるテレフタル酸クロライドは、例えばテレフタル酸とチオニルクロライドとを反応させることによって得ることができる(以下の式2参照)。

【0021】
また、工程(a)のテレフタル酸クロライドは、市販品を使用しても良い。いずれの場合においても、高重合度のポリアミドを得るためには、有機溶媒から再結晶により精製することが望ましい。この有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等を使用することができる。
【0022】
工程(a)では、上述のようにして調製したシリル化4,6−ジアミノレゾルシノールとテレフタル酸クロライドとを反応させ、アミド基に対してオルト位にヒドロキシ基を有するポリアミドを合成する(以下の式3参照)。この工程は、具体的には、シリル化4,6−ジアミノレゾルシノールとテレフタル酸クロライドを正確に等モル量仕込み、有機溶媒中で低温で反応させることにより行うことができる。

【0023】
式3の反応における有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン等を脱水処理したものを使用することができる。反応温度は、使用する有機溶媒の種類により異なるが、通常−10〜60℃であり、好ましくは−10〜20℃である。反応時間は、通常1時間〜24時間であり、好ましくは1時間〜12時間である。
【0024】
式3の反応終了後、所望により、反応液を大量のアルコール中へ滴下してポリアミドを沈殿させ、固体としてろ取し、アルコールで洗浄する。このアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を使用することができる。
【0025】
工程(a)の反応中または反応後処理中に、シリル基が脱離してしまうため、工程(a)で合成されたポリアミドは、有機溶媒に対する溶解性がかなり低い。従って、これを有機溶媒に溶解してキャスト製膜することは極めて困難であり、得られるフィルムの強度も極めて低い。そこで、一般的な有機溶媒に対する溶解度を上げるため、工程(b)において、工程(a)で合成されたポリアミド中の少なくとも一部のヒドロキシ基をtert−ブトキシカルボニル基(t−Boc基とも称する)で置換し、置換ポリアミドを得る(以下の式4参照)。この工程は、具体的には、工程(a)で合成されたポリアミドと二炭酸ジ−tert−ブチルを有機溶媒中で塩基性物質の存在下で反応させることにより行うことができる。

【0026】
式4の反応における有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ピリジン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、ベンゼン、ピリジン、アニソール等を使用することができる。塩基性物質としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア等を使用することができる。反応温度は、通常0〜50℃であり、好ましくは0〜35℃である。反応時間は、通常0.5時間〜50時間であり、好ましくは0.5時間〜30時間である。
【0027】
式4の反応終了後、所望により、反応液を水またはアルコール中に滴下して置換ポリアミドを沈殿させ、固体としてろ取し、水またはアルコールで良く洗浄して置換ポリアミドを精製する。このアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を使用することができる。
【0028】
次に、本発明のレリーフパターンの製造方法について説明する。本発明のレリーフパターンの製造方法は、以下の工程を含むことを特徴とする:
(i)一般式[I]で表されるポリアミドを光酸発生剤と共に有機溶媒に溶解して溶液を調製する工程;
(ii)(i)で調製された溶液をキャストしてポリアミドフィルムを得る工程;
(iii)(ii)で得られたポリアミドフィルムを活性光線でパターン露光する工程;
(iv)(iii)で露光されたポリアミドフィルムをアルカリ溶液で現像して露光部分を除去する工程;及び
(v)(iv)で露光部分を除去されたポリアミドフィルムを加熱してフィルム中のポリアミドをポリベンズオキサゾールに変換する工程。
【0029】
工程(i)において使用する光酸発生剤は、活性光線照射により酸を発生する化合物である。光酸発生剤としては、光照射によりブレンステッド酸を生じる化合物が使用される。これらは、各種のオニウム塩やスルホン酸エステル等に大別され、ジアゾナフトキノン系、アリールジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩などが挙げられる。具体的には、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸の低分子ヒドドロキシベンゼン、2−および4−メチルーフェノール、4,4’−ヒドロキシ−プロパンのエステル、フェノール化合物と、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸または1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸とのエステル、(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルフォニウムトリフレート、トリフェニルスルフォニウムトリフレート、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミドパーフルオロ−1−ブタンスルフォネート、ジフェニルインドニウム−9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルフォネート等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、または2種類以上を同時に使用しても良い。光酸発生剤の使用量は、通常、一般式[I]のポリアミドに対して0.1〜10重量%であり、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0030】
工程(i)において使用する有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等の汎用有機溶媒を挙げることができる。溶液中の一般式[I]のポリアミドの濃度は、キャスト製膜に適した濃度であれば特に限定されず、通常1mg/ml〜50mg/mlであり、好ましくは1mg/ml〜30mg/mlである。
【0031】
次に、工程(ii)において、工程(i)で調製された溶液をキャストしてポリアミドフィルムを得る。この工程は、従来公知のいかなる方法でも行うことができ、例えば、ガラス、フッ素系樹脂、アルミニウム、鉄、ステンレス等の素材からなる板、シート、フィルム等の基板に溶液をキャストして、常圧または減圧下で加熱して有機溶媒を除去する方法や、溶液をダイから押し出し、ロールまたはエンドレスベルトに引き取る方法を採用することができる。
【0032】
次に、工程(iii)において、工程(ii)で得られたポリアミドフィルムに、所定のパターンのフォトマスクを介して活性光線を照射し、パターン露光する。活性光線が照射されると、照射部分のフィルム中の光酸発生剤から酸が発生される。この酸は、照射部分のフィルム中の一般式[I]のポリアミドのt−Boc基と反応して、t−Boc基をポリアミドから脱離させ、このポリアミドをアルカリ不溶性からアルカリ可溶性に変える。これにより、照射部分と非照射部分との間でアルカリ可溶度の差が生じる。また、一般式[I]のポリアミドはt−Boc基を有するため、t−Boc基を有さないポリアミドと比較して光吸収スペクトルのピークが短波長側にシフトしており光酸発生剤の一般的な吸収ピークであるi線(365nm)及びg線(436nm)における透過率が高い。従って、照射された活性光線は、フィルム中のポリアミドにほとんど吸収されず、もっぱら光酸発生剤に吸収され、その結果、レリーフパターン形成時のフィルム感度が高まる。活性光線としては、通常250〜450nmの波長を有する紫外光を使用する。活性光線の照射時間は、通常0.01〜60分間、好ましくは0.01〜10分間である。また、10μm以下の高い解像度でパターンを得るために必要な露光量は、600mJ/cm以下である。
【0033】
次に、工程(iv)において、露光後のポリアミドフィルムをアルカリ溶液で現像して露光部分(アルカリ可溶部分)を除去する。アルカリ溶液に使用されるアルカリ性化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニア、アミン化合物等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニア水などの無機アルカリ類、エチルアミン、n―プロピルアミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンなどの第三アミン類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド、テトラエチルアンモニルムハイドロキサイドなどの第四級アンモニウム塩等を使用することができる。これらのアルカリ性化合物を溶解させる溶媒としては、水や、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類を使用することができる。多くの電子機器では残留金属が電気特性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、金属を含まないテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液がアルカリ溶液として好適に使用される。また、所望により、アルカリ溶液に界面活性剤を適量添加しても良い。アルカリ溶液中のアルカリ性化合物の濃度は、通常0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0034】
現像方法としては、アルカリ溶液をスプレー、シャワー、浸漬、超音波等の方式でフィルムに適用する方法を採用することができる。現像条件は、特に限定されないが、通常、室温で10秒〜10分間程度である。
【0035】
現像後は、そのまま次の工程(v)に進んでもよいが、鮮明なポジ型パターンを得るためには純水で洗浄することが好ましい。また、上記現像の後に、常圧または減圧下で100℃以下で乾燥し、パターンを安定化することが望ましい。
【0036】
次に、このようにして得られたポリアミドフィルムを、工程(v)において加熱してフィルム中のポリアミドを閉環してポリベンズオキサゾールに変換する(以下の式5参照)。

【0037】
工程(v)において、加熱処理の温度は特に限定されないが、通常170〜400℃であり、好ましくは200〜400℃である。加熱処理温度が前記上限値より高いと、副反応が起こり、力学特性等が低下するおそれがある。また、加熱処理温度が前記下限値より低いと、閉環反応が極めて遅くなり、目的のポリベンズオキサゾールフィルムが得られなくなるおそれがある。加熱処理の時間は、通常1分〜180分であり、好ましくは10分〜150分である。なお、加熱処理は、不活性気体の雰囲気で行う方が、副反応による力学特性等の低下が少なく、好ましい。
【0038】
以上のようにして得られたレリーフパターンでは、原料ポリアミド中に存在していたt−Boc基は、ポリアミドのポリベンズオキサゾールへの加熱閉環の際に樹脂から遊離し、レリーフパターンを最終的に構成するポリベンズオキサゾール中には残っていない。このため、本発明のレリーフパターンは、ポリベンズオキサゾール本来の優れた耐熱性及び機械特性を発揮することができる。
【0039】
上記のようにして得られた一般式[I]のポリアミドは、光酸発生剤と共に、本発明のポジ型感光性樹脂組成物を構成する。本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、活性光線の照射によって光酸発生剤から発生する酸が一般式[I]のポリアミドのt−Boc基を脱離させることにより、照射部分がアルカリ不溶性からアルカリ可溶性に変わることを利用するものである。本発明のポジ型感光性樹脂組成物は、一般式[I]のポリアミドと光酸発生剤を適切な手段で均一に混合することによって製造することができる。組成物中の両成分の配合割合は、特に限定されないが、通常、一般式[I]のポリアミドに対して光酸発生剤が0.1〜10重量%であり、好ましくは0.1〜5重量%である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中の各特性は以下の方法で測定した。
【0041】
1.光透過率
日本SHIMADZU社製紫外可視分光光度計(UV−2450)を用い、ポリアミドフィルム(膜厚約10μm)の可視・紫外線透過率を300nm〜800nmの範囲で測定し、i線(365nm)及びg線(436nm)における光透過率(%)を求めた。
【0042】
2.感度の評価
解像度10μmのパターンを鮮明に形成させるために最低限必要な露光量を感度とした。解像度10μmのパターンが鮮明に形成されているかどうかは、露光・現像後のレリーフパターンをマイクロスコープによって観察することにより判断した。露光量は、紫外線照度計・光量系(UV−M03:オーク株式会社製)を用いて測定した。
【0043】
3.残膜率の算出
現像前後のフィルムの非露光部分の膜厚を測定し、以下の計算方法により残膜率を算出した。
残膜率(%)={(現像後の膜厚)/(現像前の膜厚)}×100
【0044】
4.フィルムの外観評価
現像後ならびに加熱後のフィルムの外観を目視ならびにマイクロスコープによって観察した。現像後の外観評価に関しては、未露光部の現像残りがなく、パターンのエッジが平滑であれば、「良好」と評価した。また、加熱後の外観評価に関しては、フィルムの割れや膨れ、ボイド、剥がれ、ウエハの割れや反りなどがなければ、「良好」と評価した。
【0045】
[参考例]
1.N,N’,O,O’−テトラ(トリメチルシリル)−4,6−ジアミノレゾルシノールの製造
系中を乾燥窒素雰囲気下にしたのち、300ml二口フラスコに、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩20.0g(94.0mmol)、脱水処理したトルエン100ml、ヘキサメチルジシラザン100ml(370mmol)、およびクロロトリメチルシラン15ml(120mmol)を入れ、100℃で72時間反応させた。反応終了後、減圧下でトルエン、および過剰のヘキサメチルジシラザンとクロロトリメチルシランを除去し、減圧蒸留により精製した。生成物の沸点は、146〜149℃/0.9mmHgであり、収量は、43.7g(87%)であった。
【0046】
2.tert−ブトキシカルボニル置換ポリアミドの製造
(i)乾燥窒素雰囲気下、300ml三口フラスコ中に、上記1で製造したN,N’,O,O’−テトラ(トリメチルシリル)−4,6−ジアミノレゾルシノール4.29g(10mmol)、および脱水処理したN−メチル−2−ピロリドン20mlを加え、0℃で溶解させた。精製した市販のテレフタル酸クロライド2.03g(10mmol)を少しずつ加え、0℃で6時間反応させた。
【0047】
(ii)次に、この反応液にN−メチル−2−ピロリドン50mlを追加してさらに1時間攪拌した。この反応溶液にトリエチルアミン8.3ml(60mmol)、および二炭酸ジ−tert−ブチル9.2ml(40mmol)を加え、さらに24時間反応させた。反応終了後、メタノール1000ml中に反応液を滴下し、沈殿物をろ取し、メタノール100mlで洗浄し、t−Boc置換ポリアミドを得た。収量は、3.7g(83%)であった。このt−Boc置換ポリアミドのN−メチルピロリドンに対する溶解度は、5mg/ml以上であった。また、このt−Boc置換ポリアミドのUV−VIS吸収スペクトルを無置換ポリアミドと比較した。その結果を図1に示す。図1から、アミド基のオルト位の水酸基をt−Boc基で置換することにより、344nmの極大吸収が290nmまでシフトしており、t−Boc置換ポリアミドがi線(365nm)及びg線(436nm)に対して高い光線透過率を示すことがわかる。また、このt−Boc置換ポリアミドを窒素気流中で示差熱分析した結果を無置換ポリアミドとの比較で図2に示す。
【0048】
[実施例1]
レリーフパターンの製造
(i)参考例で製造したt−Boc置換ポリアミド0.2g、及び光酸発生剤としての(4−フェニルチオフェニル)ジフェニルスルホニウムトリフレート0.02gをN−メチル−2−ピロリドン2.74gに溶解させてキャスト用溶液を調製した。次に、この溶液を1cm×1cmのガラスプレート上に滴下し、室温で24時間3mmHg、次いで100℃、200℃、300℃の各温度で1時間3mmHgの環境下で溶媒を留去し、厚さ10μmのポリアミドフィルムを得た。得られたポリアミドフィルムのi線及びg線における光透過率は、それぞれ88%及び93%であった。
【0049】
(ii)次に、上記フィルムに解像度10μmのパターンのフォトマスクを通して超高圧水銀灯を用いて紫外線を照射した。その後、2.38重量%テトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を用いて現像を行った。次いで蒸留水で洗浄し、乾燥した。フィルムの感度は300mJ/cmであり、残膜率は92%であった。また、現像後のフィルムの外観も良好であった。
【0050】
(iii)次に、このポリアミドフィルムをガラスプレートごと窒素気流下で360℃で30分間加熱してポリアミドをポリベンズオキサゾールへ転換させ、ポリベンズオキサゾールのレリーフパターンを得た。このポリベンズオキサゾールの分解温度は約650℃であった。また、加熱後のフィルムの外観は良好であった。
【0051】
[実施例2]
光酸発生剤としてジフェニルインドニウム−9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルフォネートを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリベンズオキサゾールのレリーフパターンを得た。フィルムの光透過率、感度、残膜率、及び現像後ならびに加熱後の外観評価は、実施例1と同レベルであった。
【0052】
[比較例]
t−Boc置換ポリアミドの代わりに無置換ポリアミドを使用して実施例1と同様にしてレリーフパターンを製造しようとした。この無置換ポリアミドのN−メチルピロリドンに対する溶解度は0.2mg/ml程度であった。このポリマー濃度でキャスト用溶液を調製した後、メンブランフィルターでろ過してキャストし、ポリアミドフィルムを得た。このフィルムのi線及びg線透過率を測定したところ、それぞれ65%及び79%と極めて低かったため、それ以降の工程は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のレリーフパターンの製造方法は、ヒドロキシ基の少なくとも一部がt−Boc基で置換されたポリアミドを前駆体として使用しているため、フィルム成形が容易である。また、t−Boc基で置換されたポリアミドは、i線、及びg線透過率が高いため、レリーフパターン形成時のフィルム感度も高い。さらに、前駆体ポリアミド中に存在するt−Boc基は、最終的なポリベンズオキサゾールフィルムに残らないため、得られたレリーフパターンは、ポリベンズオキサゾール本来の優れた耐熱性及び機械特性を示す。従って、本発明のレリーフパターンの製造方法は、電気、電子絶縁材料、特に半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、バッファーコートとして有用なポリベンズオキサゾールのレリーフパターンを製造するために極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記一般式[I]で表されるポリアミドを光酸発生剤と共に有機溶媒に溶解して溶液を調製する工程

(式中、Rはtert−ブトキシカルボニル基を表すが、n個の繰返し単位中の一部は、Rが水素原子であっても良く、nは50以上の整数を表す。);
(ii)(i)で調製された溶液をキャストしてポリアミドフィルムを得る工程;
(iii)(ii)で得られたポリアミドフィルムを活性光線でパターン露光する工程;
(iv)(iii)で露光されたポリアミドフィルムをアルカリ溶液で現像して露光部分を除去する工程;及び
(v)(iv)で露光部分を除去されたポリアミドフィルムを加熱してフィルム中のポリアミドをポリベンズオキサゾールに変換する工程
を含むことを特徴とするレリーフパターンの製造方法。
【請求項2】
一般式[I]で表されるポリアミドと光酸発生剤を含有することを特徴とするポジ型感光性樹脂組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−221173(P2011−221173A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88674(P2010−88674)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】