説明

ポペット弁及びそれを用いた風揺れ固定装置

【課題】スリーブのシート面のテーパ角度とポペットの前部シート面のテーパ角度に差を持たせてシート面のシールをエッジ及びシール部材により行うようにする。
【解決手段】スリーブ14のシート面20を形成するテーパ角度とポペット18の前部シート面21を形成するテーパ角度に差をもたせている。すなわち、軸心に対するスリーブ14のシート面20のテーパ角度よりもポペット18の前部シート面21の角度を大きして、シート面20と前部シート面21とは下端部では隙間を形成され、これらの隙間をOリング部材37でシールし、上端部ではエッジで互いに接触してシールするようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅などに設ける免震システムの風揺れ固定装置に係り、特に、ポペット弁及びそれを用いた風揺れ固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅などの設置物に設ける、転がり機構を用いた免震システムは、横風による設置物の揺れを押さえるために、設置物と地盤や基礎との間に風揺れ固定装置を併用している。
従来、この種の風揺れ固定装置は、シリンダを備え、地震揺れのない通常時には、シリンダをロック状態に保持して、風による設置物の揺れを防止する。一方、地震発生時には、シリンダをロック解除状態に切り換えて、転がり機構による免震作用を可能にする(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開2004−211357号公報
【特許文献2】特開2005−061082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び2の風揺れ固定装置のシリンダを制御する制御バルブがスプールタイプものでは、風荷重を長時間受けるとクリアランスから油の漏れによりシリンダが動くという問題が発生する。この問題を解決するため、変更形態としてポペット弁を用いたものが提案されている。
このポペット弁のものは、スプールタイプに比べればはるかに漏れ量は小さくなるものの、線シール構造を用いているため漏れが完全にゼロにはならず、長時間風荷重を受けると、わずかながらに漏れが発生し、シリンダが例えば数mm動くという現象が発生する場合がある。
このことは免震性能には何らの影響はないが、住宅の基礎と架台が数mmずれるため、人によっては不快感を覚える場合がある。
【0004】
一方、シリンダへの液通路を遮断する装置として一般的にポペットと着座部からなる弁装置が知られており、多くの場合稜線で線シールする構成となっている。金属同士で線シールする場合、一般的な使われ方(高圧を遮断)では、十分な押付け力が発生し良好な性能を得られるが、遮断する圧力が小さい場合、押付け力が不足し、漏れを完全にゼロにしようとする場合、加工精度の影響を受け、必ずしも良好な性能を得られる保証がない。
そこで、実公昭59−31968のように弁装置のポペットをゴム等の弾性部材を使用し、かつシート面の角度をポペットと着座とで差異を設けることが提案されているが、液通路に発生する圧力が大きくなった場合は強い力が発生するため、面圧が小さくなるようシート面を大きく設計する必要が生じ、その結果通路が狭くなるといった問題が生じる。
【0005】
また、上記問題を解決するため特公平6−5114に提案されている弁装置があるが、シート面に強い力が掛からないようポペットを段付き構造にし、かつポペットにOリングが組み込まれているため開閉の際に摺動抵抗が発生し、ポペットの応答性が遅くなる、また摺動を繰り返すうちにOリングが摩耗し、シール性が損なわれる問題が考えられる。
さらに、ポペットと着座部(円筒部材)との間に強い力が掛からないよう段付部の段差で荷重を受け、ポペットと着座部とをバネ力で押し付けてシート面に掛かる力を小さくしているが、遮断する液通路に発生する圧力が大きくなると着座部は図の下方向に押し下げられ、その結果ポペットと着座部の押付け力が弱くなりシール性が低下する(漏れる)問題が発生する。
これを解決しようとしてスプリング力を強くしようとしても現行のスペースではバネの設計が困難になり、バネを収納するスペースを大きくすると液通路が狭くなるといった問題が発生する。また着座部も摺動を繰り返すので長い間に摩耗し、シール性が損なわれる心配がある。
【0006】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので、ポペットと着座部のテーパ面の角度を変えることで高圧をシールする場合はポペットと着座部の稜線で線シールし、低圧の場合に線シール部からわずかな漏れがあった場合でもポペットテーパ面に組み込まれたシール部材が着座部のテーパ面に密着してシールすることで、高圧・低圧のいかなる状態でも良好にシールすることができるポペット弁及びそれを用いた風揺れ固定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するため請求項1記載の発明は、スプリングによってシート面に付勢されるポペットの前部シート面が前記シート面に着座した際供給ポートと負荷ポートとの連通を遮断するポペット弁であって、
ハウジングに嵌挿された円筒形状のスリーブ部材と、
前記スリーブ部材に摺動自在に嵌挿されて前記スプリングにより付勢されるポペットと、
を備え、
前記スリーブ部材は内周面端部にテーパ角度を有するシート面を形成し、前記ポペットは前記シート面に係合するテーパ角度を有する前部シート面を形成し、前記シート面のテーパ角度と前記前部シート面のテーパ角度に差をもたせ、前記シート面と前記前部シート面とはエッジで線シールされるとともにシール部材でシールされることを特徴とする。
本発明によればポペット弁の大きさをコンパクトに抑え、通油路を狭くすることなく低圧から高圧まで漏れをゼロにすることができ、かつ耐久性に優れたポペット弁を提供できる。
【0008】
請求項2記載の発明は、設置物と基礎をつなぐ油圧シリンダと、前記油圧シリンダをロックして風などによる設置物の揺れを防ぐ第1の作動位置と、前記油圧シリンダを伸縮自在にして免震システムを稼動可能にする第2の作動位置とを有し、この第2の作動位置に付勢されている切換弁と、を備える風揺れ固定装置において、
前記切換弁は、前記ポペット弁により該切換弁を通る油圧があると開弁して前記油圧シリンダを流通する圧油の方向を制御するパイロット型の弁であることを特徴とする。
本発明によれば微風から台風などの強風まで風揺れ固定装置に加わる負荷荷重が変化してもシリンダのヘッド側とロッド側での漏れを押さえることができるので免震住宅の基礎と架台のずれをほとんどゼロにすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は弁の構造を簡単になり、また大幅なコストアップをすることなく通油路を確保したまま低圧から高圧まで漏れのないポペット弁を提供することができる。
また、上記ポペット弁を用いて油圧回路を構成することで負荷変動に依存することなく基礎と架台のずれを小さく抑える風揺れ固定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のポペット弁及びそれを用いた風揺れ固定装置につき好適の実施の形態を挙げ、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、ポペット弁10の概略構造を示す略縦断面図である。ポペット弁10は、ハウジング11に穿設されたガイド孔13に円筒形状のスリーブ14が嵌挿されている。前記スリーブ14は一端(図1で下端)に底面15を有し、上下の両端部側は外周面に装着されたシール部材、例えばOリングによりハウジング11の液密に設けられるとともに、底面15に隣接して外周面の径方向に指向する開口部16が形成されている。
【0011】
前記スリーブ14の内孔17に液密摺動自在に嵌合されたポペット18は、その背後に配設されたスプリング19の弾発力により底面15に形成されたシート面20に向かって付勢され、ポペット18の前部シート面21とシート面20との隙間を変更することにより、この隙間を通ってポート22からポート23へまたはポート23からポート22へ流れる油量を制御するようになっている。
【0012】
ハウジング11の開口端を閉塞するカバー12はポペット18に収納された前記スプリング19を押圧するためにハウジング11にボルト部材(図示しない)に液密に取り付けられており、かつ内孔17に連通する油路24及び25が穿設されている。なお、油路25には油路24に略並行してスプリング室38に連通する油路27が連通している。参照符号31は油路25の一端を閉塞するねじ部材である。
【0013】
一方、油路27はハウジング11に設けられた圧油室28に連通する油路29に接続されている。油路29には絞り30が配設されている。なお、圧油室28に連通するポート26は油圧シリンダ41に接続する管路55(図4参照)に連通している。
カバー12に穿設された前記ポート23は、管路56を介して切換弁42(図4参照)に接続するとともに油路24に連通する油路32の途中に連通している。油路32に設けられたチェック弁33は、カバー12に螺着されたねじ部材34と、該ねじ部材34にガイドされたスプリング35と、該スプリング35の弾発力が付勢されるボール36より構成されている。
【0014】
図2はスリーブ14のシート面20とポペット18の前部シート面21とが係合状態を示す拡大図である。図2において、スリーブ14のシート面20を形成するテーパ角度とポペット18の前部シート面21を形成するテーパ角度に差をもたせている。
すなわち、軸心に対するスリーブ14のシート面20のテーパ角度よりも前記ポペット18の前部シート面21の角度を小さくして、シート面20と前部シート面21とは上端部(図2で上方)ではエッジで互いに接触し、下端部(図2で下方)では隙間を形成する。
よって、シート面20と前部シート面21とは上端部がエッジでシールし、下端部のシート面20と前部シート面21との隙間にシール部材、例えばOリング37を装着してシールしている。
【0015】
係る構成により、スリーブ14のシート面20がポペット18の前部シート面21に接触した際に、シート面20と前部シート面21が互いに接触する状態、すなわちエッジで線シールするとともに、Oリング37でもシールするようになる。
この実施の形態では、スリーブ14のシート面20のテーパ角度よりも前記ポペット18の前部シート面21の角度を小さくして、シート面20と前部シート面21とは上端部ではエッジで互いに接触し、下端部では隙間を形成するようにしたが、スリーブ14のシート面20のテーパ角度よりも前記ポペット18の前部シート面21の角度を大きくして、シート面20と前部シート面21とは下端部(図2で下方)においてエッジで互いに接触し、上端部(図2で上方)では隙間をもたせてシール部材でシールしてもよい。
【0016】
次に、ポペット弁10の作動について説明する。
ポート26に圧力が発生すると、この圧力はポペット18の外径とスリーブ14のシート部として形成される稜線58との円環状の面積A(図2参照)に作用しポペット18を押し上げる力を発生させる。また、ポート23に接続される切換弁42(図4参照)が閉じている場合、ポート26の圧力は油路29を通り絞り30を介してポペット18の反対側のスプリング室38に同じ圧力で伝わる。この圧力はポペット18の外径に作用し該ポペット18とスリーブ14に押し付ける力を発生させる。
【0017】
このとき、円環状の面積Aとポペット18のスプリング室38側の面積では、該スプリング室38側の面積が大きいので、同じ圧力が作用しているときポペット18を押し下げる力の方が該ポペット18を押し上げる力より大きいのでポペット18はスリーブ14に押し付けれ、スリーブ14のシート面20とポペット18の前部シート面21とは密着するのでポート22とポート26は遮断する。
【0018】
ポート23に接続される切換弁42(図4参照)が開いているときにポート26に圧力が発生すると作動油が油路29、絞り30、チェック弁33a、ポート23を通って切換弁42よりタンク54(図4参照)に流れる。このとき絞り30の前後に差圧が発生する。すなわち、油路25とポート26とでは該油路25の方が低い圧力になり、ポペット18のスプリング室38の圧力もポート26より小さくなる。このため、前述したポペット18を押し下げる力(ポペット18のスプリング室38の圧力×ポペット18の外径)はポペット18を押し上げる力(圧油室28の圧力×円環状の面積A)より小さくなり、ポペット18を押し上げるためポート22と圧油室28は連通する。
また、圧油室28に圧力が発生していない場合に、ポート22より作動油が導かれた場合はポペット18を押し広げポート22と圧油室28は連通する。
【0019】
次に、図1及び図2に示したポペット弁10を風揺れ固定装置に使用した実施の形態を図3及び図4により説明する。
図3は、免震システムを設けた構造物50を示しており、このシステムに風揺れ固定装置40を組み込んでいる。構造物50は、複数個の転がり支持具60を介して、基礎51上に設置されている。各支持具60は、2つの球面状台座61の間に鋼球62を配置した構造で、構造物50の重量を支えるとともに、鋼球62の転動によって構造物50と基礎51との相対移動を可能にしている。
【0020】
風揺れ固定装置40は、油圧シリンダ41と、切換弁42とを有する。油圧シリンダ41は、構造物50に接続したピストンロッド43と、基礎51に接続したシリンダ部44から成る。油圧シリンダ41は、配管45,46を介して、切換弁42につながっている。
切換弁42は、地震揺れのない平常時には油道を閉じて油圧シリンダ41をロックする常時閉の設定であり、油圧を切り換えるバルブ部47と、地震などの強い揺れを感知する地震感知部48と、ソレノイド部49とを有する。なお、地震感知部48と、ソレノイド部49は、特開2005−61082に記載される構造に同じのため詳細な説明は省略する。
【0021】
なお、油圧シリンダ41は、前後左右への構造物50の揺れを抑えるように、少なくとも2方向に向きを変えて設置するが、図3では図面に平行な方向の油圧シリンダ41のみを例示している。
【0022】
図4は切換弁42に図1に示すポペット弁10を一対にして併用した風揺れ固定装置40の油圧回路図の構成を示す。図4中、ロッジクバルブ10を構成する2個併記した符号には付属記号を付して説明する。
この構成では、油圧シリン41の作用室52,53が、ポペット弁10a,10b、絞り30a,30b、チェック弁33a,33bを介して、それぞれ切換弁42につながっている。
【0023】
構造物が横風をうけて油圧シリンダ41が作動すると、例えば作用室52に圧力が発生する。この圧力は、ポペット弁10aの絞り30aを通って、ポペット弁10aのスプリング室38aに入る。同時に、絞り30aからの圧力は、チェック弁33aを通って切換弁42に入る。しかし、切換弁42が閉じているので作動油が流れない。
ここで、圧力は、ポペット18aをハウジング11aに押しつけるように作用し、ポペット18aはスリーブ14aに当接するのでポペット弁10aを閉じて、シリンダ41の作用室52の作動油を通さない。
【0024】
油圧シリンダ41が反対側に作動する場合も、同様に、作用室53からの圧力は、ポペット弁10bの絞り30bとチェック弁33bを通って、切換弁42に入る。
この場合、切換弁42は予め地震揺れのない平常時には閉じている設定である。加えて、ポペット弁10に示す前述のように圧力を通さないので、構造物50が風を受け、作用室52,53の圧力が上がっても、作動油は流れることなく、油圧シリンダ41はロック状態にあって、構造物50を固定する。
【0025】
地震など強い揺れが生ずると、切換弁42の地震感知部48が作動して、該切換弁42を開状態に切り換える。このとき、構造物50が例えば図4の左方向に動くと、油圧シリンダ41の作用室52に圧力が発生する。この圧力は、ポペット弁10aの絞り30a、スプリング室38aとチェック弁33aを通り、さらに切換弁42を通り抜けて、タンク54へ入る。
【0026】
その際に、作動油は絞り30aを通るので、この絞り30aの前後に圧力差が生ずる。よって、絞り前の配管55における圧力は絞り後の配管56より高く、ポペット弁10のポペット18はその圧力差によって押し上げられる。かくして、ポペット弁10が開いて、油圧シリンダ41の作用室52の作動油をタンク54へ流す。
これにより、地震発生時には、油圧シリンダ41が伸縮可能となって、免震システムによる免震作用を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係るポペット弁略縦断面図である。
【図2】図1のスリーブとポペットとのシート面の係合を示す拡大詳細図である。
【図3】風揺れ固定装置の概略図である。
【図4】図1のロッジクバルブを切換弁、油圧シリンダに組合せた概念を示す油圧回路図である。
【符号の説明】
【0028】
10 ポペット弁 11 ハウジング
14 スリーブ 18 ポペット
20 シート面 21 前部シート面
40 風揺れ固定装置 41 油圧シリンダ
42 切換弁 50 構造物
51 基礎 60 支持具
61 球面状台座 62 鋼球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリングによってシート面に付勢されるポペットの前部シート面が前記シート面に着座した際供給ポートと負荷ポートとの連通を遮断するポペット弁であって、
ハウジングに嵌挿された円筒形状のスリーブ部材と、
前記スリーブ部材に摺動自在に嵌挿されて前記スプリングにより付勢されるポペットと、
を備え、
前記スリーブ部材は内周面端部にテーパ角度を有するシート面を形成し、前記ポペットは前記シート面に係合するテーパ角度を有する前部シート面を形成し、前記シート面のテーパ角度と前記前部シート面のテーパ角度に差をもたせ、前記シート面と前記前部シート面とはエッジで線シールされるとともにシール部材でシールされることを特徴とするポペット弁。
【請求項2】
設置物と基礎をつなぐ油圧シリンダと、前記油圧シリンダをロックして風などによる設置物の揺れを防ぐ第1の作動位置と、前記油圧シリンダを伸縮自在にして免震システムを稼動可能にする第2の作動位置とを有し、この第2の作動位置に付勢されている切換弁と、
を備える風揺れ固定装置において、
前記切換弁は、前記ポペット弁により該切換弁を通る油圧があると開弁して前記油圧シリンダを流通する圧油の方向を制御するパイロット型の弁であることを特徴とする風揺れ固定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106904(P2010−106904A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277633(P2008−277633)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】