説明

ポリアリーレンスルフィド酸化物、固体物品およびその製造方法

【課題】本発明は、耐熱性、耐薬品性および耐吸湿性に優れたポリアリーレンスルフィド酸化物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリアリーレンスルフィド酸化物およびポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を酸化剤を含む液体存在下で、形態を保持したまま酸化反応処理することにより、広角X線回折測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を製造する固体物品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性および耐吸湿性に優れたポリアリーレンスルフィド酸化物(以下、PPSOと呼ぶこともある)、およびその製造方法に関するものである。本発明のポリアリーレンスルフィド酸化物は、バグフィルターをはじめ、各種フィルターや、さらに耐吸湿性が要求される電機資材など、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド酸化物は、高融点かつ高耐薬品性を有するがゆえに、溶融成形や溶液成形が実用上困難であり、酸化反応処理後の成形は工業的に採用しがたいのが実状であった。このような現状から、ポリアリーレンスルフィド化合物を酸化反応処理前に目的の形態を有する物品とし、その形態を保持したまま酸化反応処理し、目的物を望ましい形態で得ることは大変意義が大きいと言える。
【0003】
これまでに、液体存在下でポリアリーレンスルフィド化合物を酸化する方法は、ポリフェニレンスルフィドスルホン(以下、PPSSと呼ぶ)を濃硫酸に溶解させた後、過酸化水素水を滴下して酸化する方法(例えば、特許文献1および2参照)、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶ)を濃硝酸中で溶解し、酸化する方法(例えば、特許文献3参照)、PPSを過酸化水素または次亜塩素酸塩で酸化する方法(例えば、特許文献4参照)、PPSを過酢酸、あるいは過酸化水素水と酢酸とで調製される平衡過酢酸で酸化する方法(例えば、特許文献5〜9参照)、PPSをオゾンで酸化した後に特許文献5〜7のいずれかの手法によって酸化する方法(例えば、特許文献10参照)などが提案されている。
【特許文献1】英国特許第1234008号明細書(第5−8頁)
【特許文献2】英国特許第1365486号明細書(第2−3頁)
【特許文献3】特開平10−87998号公報(第5頁)
【特許文献4】特公昭60−35370号公報(第5−8頁、第I−III表)
【特許文献5】特開平10−87832号公報(第3頁)
【特許文献6】特開平7−3027号公報(第6頁)
【特許文献7】特開平5−230760号公報(第3頁)
【特許文献8】特開2000−328444号公報(第5−6頁、第1表)
【特許文献9】特開昭63−182413号公報(第6−9頁)
【特許文献10】特開平7−3024号公報(第6−7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1〜3の方法では、ポリアリーレンスルフィド化合物を一旦液体中に溶解して処理するため、酸化反応処理前の形態を保持できないという問題がある。一方、特許文献4〜10の方法は、酸化反応処理前の形態を保持しながら処理できる方法である。しかし、例えば、特許文献4の方法は、物品の一部の表面層のみが酸化され、またその生成物は非常に脆く亀裂が生じたりするという生成物の物性面でも問題が生じていた。また、特許文献5〜9に記載の方法は、酸化反応に過酢酸、あるいは過酸化水素水と酢酸の混合物から形成される平衡過酢酸を用いた例が記載されているが、単にそのような処理をするのみでは、十分な物性を有するポリアリーレンスルフィド酸化物は得られなかった。また特許文献5〜9の方法により得られるポリアリーレンスルフィド酸化物は、吸湿性が高いという問題点を有していた。すなわち吸湿による固体物品の寸法変化や、吸湿による固体物品の電気的特性の低下という本質的問題点を有していた。このように、これまで提案されてきた方法では、得られるポリアリーレンスルフィド酸化物の物性面およびその製造方法に課題が多く、実用に供さないものばかりであった。したがって本発明は、工業用途として満足できる優れた特性を持つポリアリーレンスルフィド酸化物を提供することを課題とする。また、プロセスの安全性を確保し、かつ、効率の良い簡便な方法で、このポリアリーレンスルフィド酸化物を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはこれらの問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、工業用途として満足できる優れた特性を持つポリアリーレンスルフィド酸化物を見出した。また、プロセスの安全性を確保しかつ効率の良い簡便な方法で、このポリアリーレンスルフィド酸化物を製造できることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下を有するポリアリーレンスルフィド酸化物である。
【0007】
また、本発明は、上記ポリアリーレンスルフィド酸化物からなり、粉末、繊維、布帛、フィルムおよび紙から選ばれる形態を有する固体物品である。
【0008】
また、本発明は、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を酸化剤を含む液体存在下で形態を保持したまま酸化反応処理することにより、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下を有するポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を製造する固体物品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
ポリアリーレンスルフィド酸化物が工業用途として有用な化合物であることは前記の通りであり、本発明によりさらに高耐熱性、耐薬品性、耐吸湿性、電気絶縁性等に優れたポリアリーレンスルフィド酸化物が得られ、工業用途として多岐に渡り有用な固体物品が得られる。また、本発明の製法は、工業的に容易に入手可能な試薬を用い、簡便な手法でかつ効率良く、工業的に優れた方法で所望の形状を有するポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を得る製造方法である。そして目的とする酸化物を、酸化前の形態を保持したまま安全なプロセスで酸化反応処理して得ることは意義が大きいものと言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
<ポリアリーレンスルフィド化合物>
本発明において反応原料となるポリアリーレンスルフィド化合物は、一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基の少なくともいずれか1つを表す。)で示される繰り返し単位を主要構成単位とするホモポリマー、または、上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(2)〜(8)
【0014】
【化2】

【0015】
(Rは、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R’は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体である。
【0016】
置換基RおよびR’は、水素または炭素数1〜4の脂肪族置換基が好ましく、具体例としては水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。中でも好ましいのは、メチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基であり、さらに好ましいのは、メチル基である。ポリアリーレンスルフィド化合物の具体例としては、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィド、ポリ−p−クロロフェニレンスルフィド、ポリ−p−フルオロフェニレンスルフィドなどが挙げられ、中でも好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィドであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィドである。
【0017】
また、本発明に用いる、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品は、粉末、繊維、布帛、フィルム、紙、その他成形体など、いずれの形態でも構わない。繊維形態の具体例としては、ボビンなどに巻き付けられた糸巻き状、かせなどが挙げられる。布帛の具体例としては、不織布、織布、編物などが挙げられる。固体物品は、繊維、布帛、フィルムおよび紙から選ばれた形態を有することが、特に好ましい。固体物品には、本発明を妨げない限りにおいて、各種添加剤や他のポリマーを含んでもかまわない。
【0018】
さらに、固体物品を構成するポリアリーレンスルフィド化合物は、結晶化度30%以上かつ重量平均分子量(Mw)30000以上の物性を有することが好ましく、さらに結晶化度は50%以上であることがより好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は40000以上であることがより好ましい。従来の方法として、酸化反応処理の処理効率を上げて反応時間を短縮するために、出発原料として結晶化度の低いポリアリーレンスルフィドを用いることが知られていた。しかしながら、発明者等は、むしろ結晶化度が高く、上記特定の範囲の結晶化度および分子量を有するポリアリーレンスルフィド化合物を用いることにより、酸化反応処理においてもその結晶性や分子量が損なわれず、その結果生成するポリアリーレンスルフィド酸化物の物性が大きく向上することを見いだした。それに対して、出発原料として結晶化度の低いポリアリーレンスルフィドを用いると、後の酸化反応処理によりさらに結晶化度が低下し、結果その生成物は非常に脆く、大きく物性を落とすということを見いだした。さらに、反応前のポリアリーレンスルフィドの結晶化度が高いと、ポリマーの分子が規則正しく並んでいるために、架橋反応も起こりやすいことを見いだした。高架橋化が進行することにより、生成するポリアリーレンスルフィド酸化物の物性は、さらに向上する。このような結晶化度及び重量平均分子量を有するポリアリーレンスルフィドからなる固体物品は、例えば以下の方法により得ることができる。
【0019】
すなわち、硫黄源として水硫化ナトリウムおよび有機モノマーとしてp−ジクロロベンゼンを用いて、重合する際に重合助剤として酢酸ナトリウムを用い、その重合助剤を水硫化ナトリウムに対して0.04倍モル以上用い、水硫化ナトリウムに対するp−ジクロロベンゼンの過剰率が2.0モル%以上の条件で約4時間重合させることにより、重量平均分子量(Mw)30000以上を有するポリフェニレンスルフィドを得ることができる。
【0020】
また、結晶化度30%以上を有するポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を得るためには、固体物品の形態によりその方法が異なるが、例えば、固体物品が繊維またはフィルムの場合、公知の方法により延伸速度、延伸倍率の制御や、延伸後の熱処理条件の制御することによりこれらを得ることができる。
【0021】
固体物品が繊維または布帛である場合、その物品を構成する繊維の太さ(単糸繊度)は、0.1〜10dtexが好ましく、より好ましくは0.5〜9dtex、さらに好ましくは1〜7dtex、特に好ましくは、2.0〜6.0dtexである。
【0022】
<反応液体>
本発明において、酸化反応処理に使用される液体は、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品の形態を保持するものであれば任意に用いることができ、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであることが好ましい。中でも、有機酸、有機酸無水物または鉱酸を含む液体であることが好ましい。また、液体は単独および混合物のいずれでもよい。また水、あるいは、水を含む混合物でも構わない。液体の具体例としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、ピリジン、後述する有機酸および有機酸無水物が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸などが挙げられる。有機酸無水物としては、下記一般式(a)
【0023】
【化3】

【0024】
(R、Rは、それぞれ炭素数1〜5の脂肪族置換基、芳香族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、RおよびRは互いに連結して環状構造を形成していてもよい。)で示される酸無水物が挙げられ、具体例としては無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸、無水−クロロ安息香酸などが挙げられる。鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸である。中でも特に好ましいのは、水、酢酸および硫酸が混合された液体である。その混合組成比としてより好ましいのは、水:5〜20重量%、酢酸:60〜90重量%、硫酸:5〜20重量%であり、この範囲の濃度において特に良好な結果を与える。
【0025】
<酸化剤>
本反応に使用される酸化剤は、上記液体に均一に溶解するものであって、本発明で規定する特性を有するポリアリーレンスルフィド酸化物を与えるものであれば任意に用いることができる。中でもポリアリーレンスルフィドからなる固体物品をその形態を保持したまま酸化反応処理し得る酸化剤および液体の組み合わせであることが好ましい。酸化剤としては無機塩過酸化物および過酸化水素水から選ばれる少なくとも1つが好ましく、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選択される一種以上と、有機酸および有機酸無水物から選択される一種以上との混合物から形成される過酸化物(過酸を含む)であっても構わない。酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく挙げられる。ここで塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などが挙げられるが、なかでもナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。その具体例としては、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸塩としては過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過ホウ酸アンモニウム、過炭酸塩としては過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムなどが挙げられる。過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などが挙げられる。中でも好ましいのは、過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸であり、さらに好ましいのは、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、トリフルオロ過酢酸である。
【0026】
<酸化剤濃度>
酸化剤の濃度は工業的製法における安全性管理の上で重要である。処理効率の点からは高い濃度の方が好ましいが、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品の形態や見かけ体積などから、固体物品が酸化剤を含む液体に十分浸漬しうる濃度まで液体で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。
【0027】
酸化剤として過酸を用いる場合、過酸の濃度は20重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%〜10重量%であり、さらに好ましくは3〜8重量%である。この範囲の濃度において良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0028】
また、酸化剤として無機塩過酸化物を用いる場合、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品の形態や見かけ体積などから十分浸漬しうる濃度まで溶媒で希釈、あるいは安全面から濃度を下げることは任意に可能である。好ましくは0.1重量%〜10重量%、さらに好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0029】
過酸化水素水と有機酸との混合物から形成される過酸または過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、10重量%以下であることが好ましい。
【0030】
過酸化水素水と有機酸無水物との混合物から形成される過酸あるいは過酸化物を用いる場合、過酸または過酸化物の濃度は、好ましくは0.1重量%〜20重量%、さらに好ましくは3重量%〜15重量%、特に好ましくは3重量%〜8重量%である。
【0031】
上記範囲の濃度において、特に良好な反応結果を与え、かつ安全性の高いプロセスが構築できる。これより高いとその安定性や安全性が温度に対して非常に影響を受けやすくなり、特に20重量%を超える高濃度の過酸はその安定性やプロセスの安全性の管理が難しいため好ましくない。
【0032】
例えば、示差走査熱量計(DSC−60:島津製作所)を用い、空気雰囲気下、サンプル量を5mg〜8mgの範囲内で秤量し、ステンレス製4.9MPa(50気圧)耐圧密閉容器にて、温度プログラムを30℃〜200℃(30℃から10℃/分昇温で200℃まで昇温)と設定して測定した時の過酢酸溶液の熱的挙動は、40%過酢酸溶液の場合が分解温度110℃、発熱量770J/gである。酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸の場合は、分解温度133℃、発熱量704J/gである。それに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは分解温度132℃、445J/gと約6割の発熱量である。また理論過酢酸濃度9%のそれは分解温度110℃、230J/gと約3分の1の発熱量であり、非常に小さい。それ故に、酸化剤濃度を下げることで酸化反応処理プロセスの安全性を確保することは非常に重要である。
【0033】
<反応温度および時間>
本酸化反応処理は、本発明で規定する特性を有するポリアリーレンスルフィド酸化物が得られる限り特に制限はないが、使用される液体の沸点以下の温度で行われることが好ましい。沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり煩雑な設備となる場合が多く、また安全面においても厳しいプロセス管理が必要とされる傾向にある。具体的な酸化反応処理温度は、用いる液体の沸点により異なるが、液体の沸点が許容する範囲内において、0℃〜100℃の間、中でも30℃前後〜80℃の間が好ましく、特に40℃〜70℃が好ましい。例えば、液体が酢酸の場合には50℃〜70℃の酸化反応処理温度が好ましく、この範囲の温度において特に良好な反応結果を与える。
【0034】
酸化反応処理時間は、本発明で規定した特性を有するポリアリーレンスルフィド酸化物が得られる限り特に制限はなく、具体的な時間としても反応温度と酸化剤の濃度により左右されるため一概にはいえないが、例えば、液体が酢酸の場合には、60℃条件下、10重量%の酸化剤濃度において、約2時間である。
【0035】
通常60℃条件下、5重量%の酸化剤濃度において、約1〜8時間が好ましい。さらに酸化剤として前記一般式(a)で示される酸無水物と過酸化水素との混合物から形成される過酸を用いる場合、安全性を確保した上で効率よく短時間で酸化反応処理を行うことが好ましい。例えば、酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した平衡過酢酸を用いた場合、繊維束、布帛、フェルトのいずれかを酸化反応処理するための時間が60℃温度条件下で約8時間であるのに対し、無水酢酸および34.5%過酸化水素水を等重量用いて理論過酢酸濃度を40%に調製した混合液体のそれは約2時間であり、非常に効率がよい。
【0036】
<酸化反応処理方式>
本酸化反応処理を行うための処理方式に特に制限はないが、バッチ式または連続式、あるいはそれらを組み合わせたものも採用できる。また1段式プロセスまたは多段式プロセスのいずれでも採用できる。
【0037】
ここで、バッチ式とは、任意の反応容器内にポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品および酸化剤の含まれる液体を投入し、任意の濃度、温度、時間で酸化反応処理した後、ポリアリーレンスルフィド酸化物または液体を取り出す処理方式を意味する。連続式とは、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品または酸化剤の含まれる液体を任意の流速を持たせて反応容器内を流通させて酸化反応処理する方式を意味する。連続式においては、任意の形態で固定化したポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品に対して、酸化剤の含まれる液体を流通または循環させて酸化反応処理する方法、あるいは、酸化剤の含まれる液体を任意の反応容器内に投入し、そこへポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を連続的に流通または循環させて酸化反応処理する方法のいずれも採用できる。
【0038】
また、多段式プロセスとは、バッチ式または連続式を採用した酸化反応処理の単位工程が、複数または段階的に構築されたプロセスを意味する。具体的には、酸化反応処理を複数回に分け、各処理を行う際に、酸化反応処理を行うための酸化剤を含む液体をあらたに調製し、続く酸化反応処理を行う方法が例示される。かかる方法は酸化反応を促進できる点で好ましく、具体的には酸化反応処理時間の短縮や、より低い温度での反応が可能となる点で好ましく用いられる。特に、ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品の形態や見かけ体積などの影響で、それが十分浸漬するよう液体で希釈したり、あるいは安全性確保のために濃度を下げたりすることにより生じ得る酸化反応処理時間の延長を抑制したり、過度の温度上昇を不要にし得る点でこの多段式プロセスが好ましく、これを採用することにより、酸化反応時間の延長や温度上昇を被ることなくかつ安全性を確保した上でプロセス構築ができる。
【0039】
さらに、酸化反応処理におけるポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品と酸化剤の含まれる液体との接触方法は、酸化剤の含まれる液体中にポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を浸漬する方法、任意の形態で固定化したポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品に酸化剤の含まれる液体を散布または噴霧する方法のいずれも採用できる。
【0040】
次に、本反応により得られるポリアリーレンスルフィド酸化物について説明する。
【0041】
<ポリアリーレンスルフィド酸化物>
上述の酸化反応処理により、ポリアリーレンスルフィド化合物中のチオエーテル部分が酸化されてポリアリーレンスルフィド酸化物が得られる。さらに好ましい態様による酸化反応処理により、ポリアリーレンスルフィド化合物中のチオール部分が酸化されるのみでなく、ポリマーの分子鎖間で架橋も生ずる。
【0042】
すなわち本発明により得られるポリアリーレンスルフィド酸化物は、
一般式(9)
【0043】
【化4】

【0044】
(R"は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、分子間のR"同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。またR”はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖でもよい。R'''はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位からなるポリマー、または、主要構造単位としての上記繰り返し単位と、上記繰り返し単位1モル当たり1.0モル以下、好ましくは0.3モル以下の一般式(10)〜(16)
【0045】
【化5】

【0046】
(R”は、水素、ハロゲン、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基、芳香族置換基で置換された脂肪族置換基のいずれかを表し、R''''は、原子価の許容される範囲で任意の官能基により置換された脂肪族置換基を表し、分子間のRまたはR’同士が互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。また、R”、R''''はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖でもよい。R'''はポリアリーレンスルフィド酸化物からなるポリマー鎖を示し、mは0〜3のいずれかの整数を表し、nは0〜2のいずれかの整数を表す。また、Xは0、1、2のいずれかを表す。)で示される繰り返し単位とからなる共重合体である。また、一般式(9)で示される繰り返し単位のうち、Xが0、1、2である構造単位中に占める、Xが1または2である構造単位の比率は、0.5以上が好ましく、さらに好ましくは0.7以上である。
【0047】
<ポリアリーレンスルフィド酸化物の残存炭化物量>
本発明における酸化反応処理過程で生じる架橋とは、ポリアリーレンスルフィド化合物を酸化反応処理する過程でポリマー分子間で橋架け構造を形成することを意味し、繰り返し単位の構造中に含まれる炭素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれかから選ばれる原子同士が結合して橋架け構造を形成することを意味する。この架橋化度は、該ポリアリーレンスルフィド酸化物の固体NMR分析および熱重量(TGA)測定によりその一部を把握することができる。中でもTGA測定においては、窒素雰囲気下で熱重量変化評価後に残存する炭化物量を測定することにより、架橋構造のうち、炭素原子どうしの架橋構造の割合を把握できる。例えば、示差熱/熱重量同時測定装置(DTG−50:島津製作所)を用い、窒素雰囲気下、サンプル量約10mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラムを30℃〜900℃(30℃から10℃/分昇温で900℃まで昇温)と設定して測定した時の残存する炭化物量は、PPS繊維(東レ社製「トルコン(登録商標)」)がほぼ定量的に熱消失して残存物が検出されないのに対し、本発明において酸化反応処理後に得られるPPSO繊維の一例では炭化物が13.2重量%残存し、酸化反応処理により炭素原子同士の架橋構造を形成していることが確認できる。該ポリアリーレンスルフィド酸化物は、本TGA測定において残存炭化物が実質的に認められることが好ましい。さらに、1重量%以上の残存炭化物量を有することが好ましく、特に、5重量%以上の残存炭化物量を有することが好ましい。この範囲において耐熱性および耐薬品性に関して特に優れた特性を有する。ここで言う残存炭化物量とは、上記の熱重量(TGA)測定において、測定前のポリアリーレンスルフィド酸化物の重量に対する測定後の残存炭化物量の重量%を意味する。
【0048】
<PPSO結晶化度>
また、本発明により得られるポリアリーレンスルフィド酸化物は結晶性を有する。すなわち、広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上である。この範囲において、ポリアリーレンスルフィド酸化物の物性に関して特に優れた特性を有する。ここで結晶化度は、広角X線回折の測定において観測される、全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比より算出した値である。例えば、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にて、試料厚さ約70μmのフィルムを測定した時の結晶性構造に由来するピーク面積比より算出することができる。本発明においては、前記のとおり酸化反応処理に供するポリアリーレンスルフィドとして結晶性および分子量の比較的高いものを用い、このポリアリーレンスルフィドの結晶性を過大に損なわない酸化条件を選択することにより、高い結晶性を有するポリアリーレンスルフィド酸化物を得ることが可能である。
【0049】
<PPSO不融化度>
さらに、該ポリアリーレンスルフィド酸化物は、示差走査熱量計(DSC)での測定において、融解熱量が15J/g以下、好ましくは10J/g以下、より好ましくは5J/g以下を表し、特に好ましくは1J/g以下の融解熱量を有するポリアリーレンスルフィド酸化物を意味し、より好ましくは実質的に融解ピークが観察されない化合物である。この範囲において耐熱性および耐薬品性に関して特に優れた特性を有する。ここでDSC測定条件は、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分において、示差走査熱量計(RDC220:セイコー・インスツルメンツ)を用い、サンプル量5mg〜10mgの範囲内で、温度プログラムを30℃〜500℃(30℃から10℃/分昇温で340℃まで昇温後、2分ホールド、続いて10℃/分降温により30℃まで降温後、2分間ホールドした後、10℃/分で500℃まで再昇温)と設定し、測定した時の融解熱量である。このような融解熱量が15J/g以下のポリアリーレンスルフィド酸化物は酸化反応処理条件を前記した好ましい条件とすることにより製造することができる。
【0050】
<PPSO用途>
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド酸化物は、極めて高い耐熱性を有し、かつアルカリ、濃硫酸および濃硝酸に対して優れた耐薬品性を有しており、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物であり、耐熱性および耐薬品性が要求される用途に幅広く利用することができる。また耐吸湿性にも優れるため、吸湿時の寸法変化が小さく、また吸湿による電気特性の低下が少ないため、電機資材用途に幅広く利用することができる。また、酸化反応処理前の形態を保持しているため、酸化反応処理前に所望の形状に賦形することにより、所望の形状の固体物品を得ることができる。具体的には、バグフィルター、薬液フィルター、食品用フィルター、ケミカルフィルター、オイルフィルター、エンジンオイルフィルター、空気清浄フィルター等のフィルター用途、電気絶縁紙等の紙用途、消防服等の耐熱作業着用途、ドライヤーカンバス、抄紙用フェルト、縫糸、耐熱性フェルト、離形材、電池用セパレーター、心臓パッチ、人工血管、人工皮膚、プリント基板基材、コピーローリングクリーナー、安全衣服、実験作業着、保温衣料、難燃衣料、イオン交換基材、オイル保持材、断熱材、電極用セパレーター、保護フィルム、建築用断熱材、クッション材、吸液芯、ブラシなどに利用することができる。中でも、フィルター用途、紙用途、耐熱作業着用途が好ましく、さらに、フィルター用途として耐熱バグフィルター、紙用途として電気絶縁紙、耐熱作業着用途として消防服等に好ましく用いられるが、これらの用途に限定されるものではない。これらの固体物品には、本発明を妨げない限りにおいて、各種添加剤や他のポリマーを含んでいてもかまわない。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。なお、ここで用いている試薬類のメーカーグレードは、いずれも1級レベルに相当するものである。
【0052】
(1)示差走査熱量(DSC)測定条件
示差走査熱量測定装置(RDC220(セイコー・インスツルメンツ))を用い、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分とし、サンプル量5mgを秤量し、温度プログラム:30℃から340℃まで10℃/分で昇温後、2分間ホールドし、340℃から30℃まで10℃/分で降温後、2分間ホールドした後、30℃から500℃まで10℃/分で昇温した時のDSCカーブより、融解熱量を測定した。
【0053】
(2)熱重量(TGA)測定条件
示差熱/熱重量同時測定装置(DTG−50(島津製作所))を用い、窒素雰囲気下、サンプル量約10mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラム:30℃から900℃まで10℃/分で昇温した時のTGAカーブより、熱重量変化を測定した。測定前のポリアリーレンスルフィド酸化物の重量に対する測定後の残存炭化物の重量%を算出し、残存炭化物量とした。
【0054】
(3)広角X線回折測定条件
X線回折装置(RINT2100(リガク))を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にてX線回折を測定し、観測される全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比(%)により、結晶化度を算出した。
【0055】
(4)耐薬品性評価条件
ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品、あるいは酸化反応を施したポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を、それぞれ10%苛性ソーダ水、30%苛性ソーダ水、48%硫酸水、濃硫酸、10%硝酸、濃硝酸(59%硝酸)に93℃で1週間浸漬させ、浸漬時およびピンセットでつまんだ時のサンプル形状を観察し、耐薬品性を評価した。尚、耐薬品性の判定は、薬液中および薬液からピンセットでつまんだ時のいずれも形状を保持している場合を○印、薬液中では形状を保持するが、ピンセットでつまんだ時に形状がくずれる場合を△印、薬液中で溶解する場合を×印とし、その結果を記載した。
【0056】
(5)電気絶縁性測定条件
JIS規準K6911の方法に準じ、測定した。体積抵抗率の場合、直流電圧100V、主電極直径50〜70mm、電極荷重5kgfにて室温付近の温度条件下で測定した。絶縁破壊強さの場合、主電極直径20〜25mm、電極荷重250〜500g、電源周波数60Hz、電圧上昇速度約0.2〜1.0kV/sにて室温付近の温度条件下で測定した。
【0057】
(6)重量平均分子量測定条件
以下の装置、および操作・条件にて調製した溶離液、試料溶液を用い、重量平均分子量(GPC)を測定した。
【0058】
1)溶離液調製
1−クロロナフタレン(1−CN)に活性アルミナ(1−CNに対して1/20重量)を加え、6時間攪拌した後、G4グラスフィルターで濾過した。これを超音波洗浄機にかけながらアスピレーターを用いて脱気した。
【0059】
2)試料溶液調製
ポリマー5mgおよび1−CN 5gをサンプル瓶に計り取った。これを、210℃に設定した高温濾過装置(センシュー科学製SSC−9300)に入れ、5分間(1分間予備加熱、4分間攪拌)加熱した。サンプルを、高温濾過装置から取り出し、室温になるまで放置した。
【0060】
3)GPC測定環境
装置 : センシュー科学 SSC−7100
カラム名 : センシュー科学 GPC3506×1
溶離液 : 1−クロロナフタレン(1−CN)
検出器 : 示差屈折率検出器
検出器感度 : Range 8
検出器極性 : +
カラム温度 : 210℃
プレ恒温槽温度 : 250℃
ポンプ恒温槽温度 : 50℃
検出器温度 : 210℃
サンプル側流量 : 1.0mL/min
リファレンス側流量 : 1.0mL/min
試料注入量 : 300μL
検量線作成試料 : ポリスチレン。
【0061】
(7)吸湿性
ポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を、高温高湿槽(20℃、65RH%)内で24時間処理し、吸湿率を測定した。吸湿率は、[(処理後の重量―処理前の重量)/処理前の重量]×100(%)より算出した。
【0062】
実施例1
酢酸 800mL (関東化学社製)、過ホウ酸ナトリウム4水和物 46.16g(0.30mmol;三菱ガス化学社製) を反応容器に投入し、60℃で攪拌し、溶解させた。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維4.03g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約200m、単糸繊度:4.5dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃、10時間酸化反応処理した。繊維の重量は24.3%増加し、5.01gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して10.2重量%であった。また吸湿率は5.1%程度であった。また、広角X線回折を評価した。なお後述するが、PPS繊維の吸湿率は0.8%程度であり、PPS繊維の酸化により吸湿率は相対的に高くなるものの、実用レベルにおいては十分なレベルの耐吸湿性である。
【0063】
実施例2
PPS繊維の代わりに、PPS布帛3.65g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:12.5×4.0cm、単糸繊度:3.0dtex)を用い、実施例1と同様に酸化反応処理を行った。布帛の重量は29.0%増加し、4.71gのPPS酸化物からなる布帛(PPSO布帛)を得た。本布帛は、DSC測定においてPPSの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した布帛であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿性等についても実施例1と同様に評価した。
【0064】
実施例3
PPS繊維の代わりに、PPSフェルト4.79g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:9.5×9.0cm、単糸繊度:2.2dtex)を用い、実施例1と同様に酸化反応処理を行った。フェルトの重量は30.5%増加し、6.25gのPPS酸化物からなるフェルト(PPSOフェルト)を得た。本フェルトは、DSC測定においてPPS繊維の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフェルトであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿性等についても実施例1と同様に評価した。
【0065】
実施例4
過ホウ酸ナトリウム4水和物の代わりに、過ホウ酸ナトリウム1水和物 (三菱ガス化学社製) に変え、実施例1と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は24.0%増加し、同様の不融化されたPPSO繊維を得た。実施例1と同様に評価した。
【0066】
実施例5
反応時間を10時間から8時間に短縮し、実施例1と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は23.9%増加し、4.99gのPPSO繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において285℃付近で3.10J/gの融解熱量を有し、ほぼ不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して7.6重量%であった。広角X線回折、吸湿性についても実施例1と同様に評価した。
【0067】
実施例6
酢酸 800mL (関東化学社製)、過ホウ酸ナトリウム4水和物 46.16g(0.30mmol;三菱ガス化学社製) を反応容器に投入し、60℃で攪拌・溶解させた。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維4.03g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約20m;単糸繊度:2.2dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃、4時間酸化反応処理した。繊維の重量は18.4%増加し、4.77gの繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、285℃付近で17.01J/gの融解熱量を有していた。さらに1段目と同様に、酢酸 800mL (関東化学社製)、過ホウ酸ナトリウム4水和物 46.16g(0.30mmol;三菱ガス化学社製) を新たに反応容器に調製し、続いて1段目で得た繊維をその反応溶液に浸漬させて60℃、4時間で多段処理の2段目酸化反応処理を行った。繊維の重量は初期のPPSに対して24.3%増加し、5.01gのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して12.7重量%であった。また吸湿率は5.1%と低い値を示した。また、広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0068】
比較例1
反応時間を10時間から3時間に短縮し、実施例1と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量はわずかに4.7%増加し、さらに、示差走査熱量計(DSC)測定において285℃付近で22.01J/gの融解熱量を有すことから、酸化反応が十分に進行していないことがわかる。また、耐薬品性評価については、濃硝酸中では溶解し、濃硫酸中では薬液中では形状を保持するものの、ピンセットでつまんだ時には形状がくずれる結果であり、耐熱性、耐薬品性ともに、本発明の目的であるPPSO繊維のそれに劣るものであった。さらに、熱重量(TGA)測定では、ほぼ定量的に熱消失して残存物は検出されなかった。結晶化度は50%と高いものの、目的の酸化反応が十分に進行しておらず、本結晶化度はPPS繊維の結晶化度を表しているといえる。それゆえ、吸湿性は1.2%程度とPPS繊維に低い値を示した。
【0069】
比較例2
実施例と同様の測定あるいは評価条件にて、実施例1に記載のPPS繊維(東レ社製「トルコン(登録商標)」)をDSC測定および耐薬品性評価を行った結果、本繊維は、285℃付近で37.10J/gの融解熱量を有し、また、耐薬品性評価については、濃硝酸中では溶解し、濃硫酸中では薬液中では形状を保持するものの、ピンセットでつまんだ時には形状がくずれる結果であり、耐熱性、耐薬品性ともにPPSO繊維のそれに劣るものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定では、ほぼ定量的に熱消失して残存物は検出されなかった。吸湿率は0.8%程度とPPS繊維に低い値を示した。
実施例1〜6および比較例1〜2の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例7
酢酸15.0g(0.15mol;和光純薬社製)および34.5%過酸化水素水5.0g(0.05mol;関東化学社製)を反応容器に投入後、室温(約20℃)にて均一溶液になるまで攪拌した。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維69.3mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約2m;単糸繊度:4.5dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃で酸化反応処理したと。6時間で反応は完結し、重量が27.2%増加した88.1mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても溶融ピークが観測されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.2重量%であった。また吸湿率は5.2%と低いレベルであった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0072】
実施例8
酸化剤および液体の投入量をそれぞれ、酢酸10.0g(0.10mol;和光純薬社製)、34.5%過酸化水素水10.0g(0.10mol;関東化学社製)に変え、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維71.2mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約2m;単糸繊度:4.5dtex)を用いて実施例7と同様に60℃で酸化反応処理した。7時間で反応は完結し、重量が25.2%増加した89.2mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であり、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.2重量%であった。また吸湿率は5.1%と低いレベルであった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0073】
実施例9
酢酸 (関東化学社製)を用いて、過酢酸濃度を8重量%に調整した過酢酸溶液20.0g(過酢酸23.67mmol;三菱ガス化学社製)を反応容器に投入し、60℃で攪拌した。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維70.6mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約2m;単糸繊度:2.2dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃、5時間酸化反応処理した。重量は29.8%増加し、91.6mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して12.8重量%であった。また吸湿率は5.0%と低いレベルであった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0074】
実施例10
過酢酸濃度を3.6重量%に変え、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は27.4%増加し、同様の不融化されたPPSO繊維を得た。広角X線回折、吸湿率についても実施例1と同様に評価した。
【0075】
実施例11
50重量%の酢酸水溶液を用いて、過酢酸濃度を4.5重量%に調整した過酢酸/酢酸水溶液を用いて、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は25.7%増加し、同様の不融化されたPPSO繊維を得た。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0076】
実施例12
PPS繊維の代わりに、PPSフェルト1.57g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:8.9×3.2cm;単糸繊度:3.0dtex)を用い、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。フェルトの重量は31.2%増加し、2.06gのPPSOフェルトを得た。本フェルトは、DSC測定においてPPS繊維の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフェルトであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。
【0077】
実施例13
PPS繊維の代わりに、PPSフィルム1.54g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:9.0×21.0cm)を用い、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は27.1%増加し、1.96gのPPSOフィルムを得た。本フィルムは、DSC測定においてPPSフィルムの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフィルムであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量等についても実施例1と同様に評価した。さらに、広角X線回折測定の結果、本PPSOフィルムの全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比は、56%であった。また吸湿率は4.5%と低い値を示した。実施例7〜12との比較から、吸湿性が低いが、これは繊維形態とフィルム形態の違いによる表面積の違い、すなわち水分との接触面積による差であると考えられる。
【0078】
実施例14
PPS繊維の代わりに、PPS紙5.95g(東レ社製「トルコンペーパー(登録商標)」;サイズ:20.0cm×36.0cm×100μm)を用い、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。紙の重量は22.4%増加し、7.28gのPPSO紙を得た。本PPSO紙は、DSC測定においてPPS紙の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した紙であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量等についても実施例1と同様に評価した。また吸湿率は5.7%と低いレベルであった。さらに、電気絶縁性測定の結果、体積抵抗率は1.3×1016Ω・cm、絶縁破壊強さは6.4kV/mmであった。
【0079】
また、PPS紙を酸化した本PPSO紙は紙用途、特に電気絶縁紙としての効果を発揮することがわかった。また耐湿熱性の特長を示すため、本PPSO紙を吸湿処理後、電気絶縁性を測定した。その結果、体積抵抗率は1.0×1016Ω・cm、絶縁破壊強さは5.4kV/mmと、吸湿による電気特性の低下は小さく、実用に耐えうる電気特性を示すことがわかった。
【0080】
実施例15
酢酸 (関東化学社製)を用いて、過酢酸濃度を8重量%に調整した過酢酸溶液20.0g(過酢酸23.67mmol;三菱ガス化学社製)を反応容器に投入し、60℃で攪拌した。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維70.60mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約2m、繊維太さ:4.5dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃、1時間で多段処理の1段目酸化反応処理を行った。繊維の重量は13.0%増加し、79.76mgのポリ−p−フェニレンスルフィド酸化物の繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、285℃付近で15.90J/gの融解熱量を有していた。さらに1段目と同様に、酢酸 (関東化学社製)を用いて、過酢酸濃度を8重量%に調整した過酢酸溶液20.0g(過酢酸23.67mmol;三菱ガス化学社製)を新たに反応容器に調製し、続いて1段目で得たポリ−p−フェニレンスルフィド酸化物の繊維をその反応溶液に浸漬させて60℃、1時間で多段処理の2段目酸化反応処理を行った。繊維の重量は初期のPPSに対して29.6%増加し、91.53mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.0重量%であった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0081】
比較例3
20重量%の酢酸水溶液にて1.8重量%に調整した過酢酸/酢酸水溶液を用いて、実施例9と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は12.4%増加した。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、285℃付近で15.70J/gの融解熱量を有すことから、酸化反応が十分に進行しておらず、未反応のPPS構造を有していることがわかる。また、耐薬品性評価については、濃硝酸中では溶解し、濃硫酸中では薬液中では形状を保持するものの、ピンセットでつまんだ時には形状がくずれる結果であり、耐熱性、耐薬品性ともにPPSO繊維のそれに劣るものであった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。結晶化度は50%と高いものの、目的の酸化反応が十分に進行しておらず、結晶化度はPPS繊維の結晶化度を表しているといえる。それゆえ、吸湿率は1.0%程度とPPS繊維に近い低い値を示した。
実施例7〜15および比較例3の結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
実施例16
無水酢酸15.0g(0.15mol;和光純薬社製)および34.5%過酸化水素水5.0g(0.05mol;関東化学社製)を反応容器に投入後、室温(約20℃)にて均一溶液になるまで攪拌した。次に、ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維68.6mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;繊維長:約2m;単糸繊度:4.5dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃で酸化反応処理した。2時間で反応は完結し、重量が24.4%増加した85.4mgのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.2重量%であった。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0084】
実施例17
無水酢酸の重量を10.0g(0.10mol;和光純薬社製)、34.5%過酸化水素水の重量を10.0g(0.10mol;関東化学社製)に変え、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。3時間で反応は完結し、重量が26.0%増加した同様の不融化されたPPSO繊維を得、実施例1と同様に評価した。
【0085】
実施例18
無水酢酸の重量を17.5g(0.17mol;和光純薬社製)、34.5%過酸化水素水の重量を2.5g(0.025mol;関東化学社製)に変え、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。5時間で反応は完結し、重量が26.6%増加した同様の不融化されたPPSO繊維を得、実施例1と同様に評価した。
【0086】
実施例19
PPS繊維の代わりに、PPS布帛65.1mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:1.0cm×1.0cm、単糸繊度:4.5dtex)を用い、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量が28.4%増加した83.6mgのPPSO布帛を得た。本布帛は、DSC測定においてPPSの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した布帛であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。
【0087】
本PPS布帛を酸化したPPSO布帛は、フィルター、特に不融性を活かしたバグフィルターとしての効果や、耐熱作業着、特に消防服としての高い効果を発揮した。
【0088】
実施例20
PPS繊維の代わりに、PPSフェルト65.3mg(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:0.5cm×1.0cm、単糸繊度:4.5dtex)を用い、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量が30.1%増加した84.9gのPPSOフェルトを得た。本フェルトは、DSC測定においてPPSの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフェルトであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性、TGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。本PPSフェルトを酸化したPPSOフェルトは、フィルター、特に不融性を活かしたバグフィルターとしての効果や、耐熱作業着、特に消防服としての高い効果を発揮した。
【0089】
実施例21
PPS繊維の代わりに、PPS紙5.95g(東レ社製「トルコンペーパー(登録商標)」;サイズ:20.0cm×36.0cm×100μm)を用い、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量は23.4%増加し、7.34gのPPSO紙を得た。本PPSO紙は、DSC測定においてPPS繊維の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した紙であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性についても実施例16と同等、吸湿率は5.4%であった。広角X線回折についても実施例1と同様に評価した。さらに、電気絶縁性測定の結果、体積抵抗率は1.2×1016Ω・cm、絶縁破壊強さは6.0kV/mmであった。また本PPSO紙を吸湿処理後、電気絶縁性を測定した結果、体積抵抗率は1.0×1016Ω・cm、絶縁破壊強さは5.5kV/mmと、吸湿による電気特性の低下は小さく、実用に耐えうることがわかった。
【0090】
また、PPS紙を酸化した本PPSO紙は紙用途、特にモーター用電気絶縁紙としての高い効果を発揮した。
【0091】
実施例22
無水酢酸を無水プロピオン酸15.0g(0.12mol;東京化成社製)に変え、実施例16と同様に酸化反応処理を行った。10時間で反応は完結し、重量が26.0%増加した同様の不融化されたPPSO繊維を得、実施例1と同様に評価した。
実施例16〜22の結果および参考用として前記比較例2の結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
実施例23
酢酸111g(1.85mol;関東化学社製)および34.5%過酸化水素水37.0g(0.38mol;関東化学社製)を反応容器に投入後、室温(約20℃)にて攪拌した。次に、PPSステープル繊維19.8g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;単糸繊度:2.2dtex)をその反応溶液に浸漬させて60℃に加熱し、続いて95%硫酸10.0g(0.1mol;関東化学社製)を30分かけてゆっくり滴下して酸化反応処理した。滴下終了後から2時間で反応は完結し、重量が30.3%増加した25.8gのポリ−p−フェニレンスルホキシド(PPSO)ステープル繊維を得た。本ステープル繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPS繊維の融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.3重量%であった。また吸湿率は5.2%と低いレベルを示した。広角X線回折等についても実施例1と同様に評価した。
【0094】
実施例24
PPSステープル繊維の代わりに、PPSフェルト20.1g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ15cm×20cm、単糸繊度:3.0dtex)を用い、実施例23と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量が28.9%増加した25.9gのPPSOフェルトを得た。本フェルトは、DSC測定においてPPSの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフェルトであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。
【0095】
実施例25
PPS繊維の代わりに、PPS布帛4.73g(東レ社製「トルコン(登録商標)」;サイズ:12.5cm×5.0cm、単糸繊度:3.0dtex)を用い、実施例23と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量は23.5%増加し、5.84gのPPSO布帛を得た。本布帛は、DSC測定においてPPS繊維の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した布帛であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。
【0096】
実施例26
PPS繊維の代わりに、PPS紙4.49g(東レ社製「トルコンペーパー(登録商標)」;サイズ:20.0cm×34.0cm×100μm)を用い、実施例23と同様に酸化反応処理を行った。2時間で反応は完結し、重量は22.5%増加し、5.50gのPPSO紙を得た。本PPSO紙は、DSC測定においてPPS繊維の融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した紙であり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。吸湿率は5.3%であった。さらに、電気絶縁性測定の結果、体積抵抗率は3.5×1014Ω・cm、絶縁破壊強さは6.0kV/mmであった。本PPSO紙を吸湿処理後、電気絶縁性を測定した結果、体積抵抗率は2.0×1014Ω・cm、絶縁破壊強さは5.3kV/mmと、吸湿による電気特性の低下は小さいことがわかった。
【0097】
実施例27
酸化剤および液体の投入量をそれぞれ、酢酸120g(2.0mol;関東化学社製)、34.5%過酸化水素水18.0g(0.18mol;関東化学社製)、95%硫酸20.0g(0.2mol;関東化学社製)に変え、PPSステープル繊維20.1g(東レ社製「トルコン(登録商標)」)を用いて実施例23と同様に酸化反応処理を行った。3時間で反応は完結し、重量が30.0%増加した26.1gのPPSOステープル繊維を得た。本ステープル繊維は、DSC測定においてPPSの融点が消失し、観察したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフェルトであり、かつ処理前後でサイズに実質的な変動のない完全に形態が保持されたものであった。また、耐薬品性およびTGA測定による残存炭化物量、吸湿率等についても実施例1と同様に評価した。
実施例23〜27の結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
<ポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂の製造>
参考例1
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.0g(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2975.0g(71.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.5g(115.5モル)、酢酸ナトリウム516.6g(6.3モル)、及びイオン交換水10500.0gを仕込み、常圧で窒素を通じながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14770.0gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.017モルであった。
【0100】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10347.6g(70.4モル)、NMP9064.4g(91.6モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で140分保持した。
【0101】
270℃で140分経過後、2646.0g(147.0モル)のイオン交換水を15分かけて反応系内に圧入しながら、250℃まで冷却した。次いで200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急冷した。
【0102】
内容物を取り出し、35リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を70リットルの温水で数回洗浄、濾別した。これを、80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥してポリフェニレンスルフィドを得た。この時のポリフェニレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は、GPC測定の結果、Mw=40,000であった。
【0103】
参考例2
酢酸ナトリウム量を229.6g(2.8モル)とした以外、参考例1と同様にして行った結果、重量平均分子量Mw=30,000のポリフェニレンスルフィドを得た。
【0104】
<ポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂組成物の作製(フィルム製造前のペレット作製)>
参考例3
平均粒径1.0μmの球状のカルサイト型炭酸カルシウムをエチレングリコール中に50重量%微分散させたスラリーを調製した。このスラリーを1μmカットフィルターで濾過した後、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末にヘンシェルミキサを用いて炭酸カルシウムが5.0重量%となるよう混合した。次いで、2個所のベント孔を有する2軸押出機に供給し、溶融混練と同時にベント孔よりエチレングリコールを除去し、ガット状に押出し、水中で冷却後切断して粒子ペレットとした。
【0105】
また、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のみを上記同様に溶融押出し、無粒子ペレットとした。
【0106】
<ポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムの作製>
参考例4
参考例3にて作製した粒子ペレットおよび無粒子ペレットを炭酸カルシウムが0.4重量%となるよう混合した。粒子ペレットと無粒子ペレットは、重量平均分子量の同じもの同士を組み合わせた。回転式真空乾燥機で150℃、3mmHg(400Pa)の減圧下で3時間処理して結晶化ペレットとした。次いで、この結晶化ペレットを90mm直径の単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ650μmの非晶フィルムとした。次いで、この非晶フィルムを表面温度95℃の回転ロール群に巻き付けて加熱し、引き続いて配置された表面温度25℃のロールとの間で3.5倍にフィルムの長手方向(MD)に延伸した。次いで、テンタ−で100℃の熱風が循環する室内でフィルムの長手と直行方向(TD)に3.5倍延伸し、引き続いて280℃の熱風が循環する室内で10秒間定長熱処理した後、200℃の温度で幅方向に3.0%制限収縮を行い、厚さ50μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムを得た。
【0107】
該フィルムの広角X線回折測定による結晶化度はいずれも68%であり、重量平均分子量は、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0108】
参考例5
参考例3にて作製した無粒子ペレットのみを用い、参考例4と同様に90mmφの単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ650μmの非晶フィルムとした。次いで、この非晶フィルムを表面温度95℃の回転ロール群に巻き付けて加熱し、引き続いて配置された表面温度25℃のロールとの間で3.5倍にフィルムの長手方向(MD)に延伸した。次いで、テンタ−で100℃の熱風が循環する室内でフィルムの長手と直行方向(TD)に3.5倍延伸し、引き続いて280℃の熱風が循環する室内で10秒間定長熱処理した後、200℃の温度で幅方向に3.0%制限収縮を行い、厚さ50μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムを得た。
【0109】
該フィルムの広角X線回折測定による結晶化度はいずれも65%であり、重量平均分子量は、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0110】
<ポリ−p−フェニレンスルフィド繊維の作製>
参考例6
参考例3にて作製した無粒子ペレットを用い、溶融温度320℃、吐出量350g/分、引速800m/分で口金より吐出させ、23℃に保たれた雰囲気内を落下・冷却させて繊度4375dtexの未延伸糸とした。次いで、この未延伸糸を表面温度98℃の回転ロール群に巻き付けて加熱し、延伸倍率3.27、延伸速度120m/分にて延伸した。引き続いて配置された表面温度90℃のクリンパーとの間でけん縮度13.0にてけん縮を付与し、さらに125℃に保たれた雰囲気内に通すことで熱処理した後冷却し、さらにカットして単糸繊維2.2dtex、長さ50mm〜80mmのポリ−p−フェニレンスルフィド繊維を得た。
【0111】
該繊維の広角X線回折測定による結晶化度はいずれも55%であり、重量平均分子量は、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0112】
実施例28
参考例6にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維4.03gを用いて実施例1と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は24.3%増加し、5.01gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して10.2重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は45%であった。
【0113】
実施例29
参考例6にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維69.3mgを用いて実施例7と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は27.2%増加し、88.1mgのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.2重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は45%であった。
【0114】
実施例30
重量平均分子量Mw=30,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維に変え、実施例29と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は28.2%増加し、88.8mgのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して12.8重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は43%であった。また吸湿率は5.2%と低い値を示した。
【0115】
実施例31
参考例6にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維68.6mgを用いて実施例16と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は24.4%増加し、85.4mgのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して14.3重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は44%、吸湿率は5.0%と低い値を示した。
【0116】
実施例32
重量平均分子量Mw=30,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維に変え、実施例31と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は25.7%増加し、86.2mgのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して12.7重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は42%、吸湿率は5.3%と低い値であった。
【0117】
実施例33
参考例6にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維19.8gを用いて実施例23と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は30.3%増加し、25.8gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.3重量%であり、広角X線回折測定による結晶化度は44%、吸湿率は5.2%であった。
【0118】
実施例34
重量平均分子量Mw=30,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維に変え、実施例33と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は29.2%増加し、25.6gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化した繊維であった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して12.6重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は43%、吸湿率は5.3%であった。
【0119】
実施例35
参考例4にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度68%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルム20.0gを用いて実施例23の繊維を処理した条件と同様に酸化反応処理を行った。8hで反応は完結し、重量が30.3%増加した26.1gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフィルムであった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して13.2重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は56%、吸湿率は4.7%と低い値を示した。
【0120】
実施例36
重量平均分子量Mw=30,000、結晶化度68%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、実施例35と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は29.2%増加し、25.8gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフィルムであった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して12.9重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は54%、吸湿率は4.6%であった。
【0121】
実施例37
参考例5にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度65%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、実施例35と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は29.5%増加し、25.9gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフィルムであった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.1重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は55%、吸湿率は4.3%であった。
【0122】
実施例38
参考例5にて作製した重量平均分子量Mw=30,000、結晶化度65%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、実施例35と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は28.3%増加し、25.7gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されず、不融化したフィルムであった。また、耐薬品性についても優れた特性を示し、上記評価対象薬品の全てに対して、薬液中および薬液からの取り出し時において形状を完全に保持したものであった。さらに、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して12.8重量%であリ、広角X線回折測定による結晶化度は53%、吸湿率は4.5%であった。
実施例28〜38の結果を表5に示す。
【0123】
【表5】

【0124】
<ポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂の製造>
参考例7
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.0g(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2986.7g(71.7モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.5g(115.5モル)、及びイオン交換水10500.0gを仕込み、常圧で窒素を通じながら230℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14770.0gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.015モルであった。
【0125】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10368.7g(70.5モル)、NMP9064.4g(91.6モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で50分保持した。
【0126】
270℃で50分経過後、室温近傍まで急冷した。
【0127】
内容物を取り出し、ガラスフィルターで濾過した後、70リットルの温水を注ぎ込み、吸引濾過した。この操作を数回繰り返してPPSケークを得た。これを80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥してポリフェニレンスルフィドを得た。この時のポリ−p−フェニレンスルフィドの重量平均分子量(Mw)は、GPC測定の結果、Mw=20,000であった。
【0128】
参考例8
p−DCB量を10338.4g(70.3モル)とした以外、参考例7と同様にして行った結果、重量平均分子量Mw=25,000のポリ−p−フェニレンスルフィドを得た。
【0129】
ポリp−フェニレンスルフィド樹脂組成物の作製(フィルム製造前のペレット作製)
参考例9
平均粒径1.0μmの球状のカルサイト型炭酸カルシウムをエチレングリコール中に50重量%微分散させたスラリーを調製した。このスラリーを1μmカットフィルターで濾過した後、参考例7または参考例8にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末にヘンシェルミキサを用いて炭酸カルシウムが5.0重量%となるよう混合した。次いで、2個所のベント孔を有する2軸押出機に供給し、溶融混練と同時にベント孔よりエチレングリコールを除去し、ガット状に押出し、水中で冷却後切断して粒子ペレットとした。
【0130】
また、参考例7または参考例8にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のみを上記同様に溶融押出し、無粒子ペレットとした。
【0131】
ポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムの作製
参考例10
参考例9にて作製した粒子ペレット(重量平均分子量Mw=20,000)および無粒子ペレット(重量平均分子量Mw=20,000)を炭酸カルシウムが0.4重量%となるよう混合し、回転式真空乾燥機で150℃、3mmHg(400Pa)の減圧下で3時間処理して結晶化ペレットとした。次いで、この結晶化ペレットを90mm直径の単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ60μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムのフィルムを得た。 該フィルムの広角X線回折測定による結晶化度は56%であり、重量平均分子量は、参考例7または参考例8にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0132】
参考例11
参考例9にて作製した無粒子ペレット(重量平均分子量Mw=20,000)のみを用い、参考例10と同様に90mm直径の単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ60μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムのフィルムを得た。
【0133】
該フィルムの広角X線回折測定による結晶化度は55%であり、重量平均分子量は、参考例7または参考例8にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0134】
参考例12
参考例3にて作製した有粒子ペレット(重量平均分子量Mw=40,000)および無粒子ペレット(重量平均分子量Mw=40,000)を炭酸カルシウムが0.4重量%となるよう混合し、回転式真空乾燥機で150℃、3mmHg(400Pa)の減圧下で3時間処理して結晶化ペレットとした。次いで、この結晶化ペレットを90mm直径の単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ60μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムのフィルムを得た。 該フィルムの重量平均分子量は、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかったが、広角X線回折測定による結晶化度は6%であった。
【0135】
参考例13
参考例3にて作製した無粒子ペレット(重量平均分子量Mw=40,000)のみを用い、参考例12と同様に90mmφの単軸押出機に供給し、溶融温度330℃、瀘過精度10μmのフィルターを通過させて、リップ幅400mm、スリット間隙1.5mmのステンレス製Tダイから吐出させ、表面を30℃に保った金属ドラム上で冷却固化して、厚さ60μmのポリ−p−フェニレンスルフィドフイルムのフィルムを得た。
【0136】
該フィルムの重量平均分子量は、参考例1または参考例2にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかったが、広角X線回折測定による結晶化度は5%であった。
【0137】
<ポリ−p−フェニレンスルフィド繊維の作製>
参考例14
参考例9にて作製した無粒子ペレット(重量平均分子量Mw=20,000のもの、もしくは重量平均分子量Mw=25,000のもの)を用い、溶融温度320℃、吐出量350g/分、引速800m/分で口金より吐出させ、23℃に保たれた雰囲気内を落下・冷却させて繊度4375dtexの未延伸糸とした。次いで、この未延伸糸を表面温度98℃の回転ロール群に巻き付けて加熱し、延伸倍率3.27、延伸速度120m/分にて延伸した。引き続いて配置された表面温度90℃のクリンパーとの間でけん縮度13.0にてけん縮を付与し、さらに125℃に保たれた雰囲気内に通すことで熱処理した後冷却し、さらにカットして繊維の太さ(単糸繊度)5.0dtex、長さ50mm〜80mmのポリ−p−フェニレンスルフィド繊維を得た。
【0138】
該繊維の広角X線回折測定による結晶化度はいずれも25%であり、重量平均分子量は、参考例7または参考例8にて作製したポリ−p−フェニレンスルフィド粉末のそれと変化がなかった。
【0139】
比較例4
参考例14にて作製した重量平均分子量Mw=20,000、結晶化度25%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維19.8gを用いて実施例33と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は31.0%増加し、25.9gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されない繊維であったが、広角X線回折測定による結晶化度はほぼ0%までに低下した。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.7重量%であった。また、分子量が低く、かつ結晶化度の低いPPS繊維を酸化して得られたPPSO繊維の吸湿率は、驚くべきことに、14.9%と極めて耐吸湿性に劣ることがわかる。
【0140】
比較例5
参考例14で作製した重量平均分子量Mw=25,000、結晶化度25%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)繊維に変え、比較例4と同様に酸化反応処理を行った。繊維の重量は30.0%増加し、25.7gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)繊維を得た。本繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されない繊維であったが、広角X線回折測定による結晶化度はほぼ0%までに低下した。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSO繊維に対して13.5重量%であった。また吸湿率は13.0%と高く、耐吸湿性に極めて劣ることがわかる。
【0141】
比較例6
参考例10にて作製した重量平均分子量Mw=20,000、結晶化度56%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、比較例4と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は28.7%増加し、25.5gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されないフィルムであり、かつ広角X線回折測定による結晶化度はほぼゼロまで低下した。また濃硝酸中での耐薬品性にやや劣る結果となった。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して12.9重量%であった。また本比較例のように、PPSフィルムの結晶化度が高くても、分子量が低いと、吸湿率が9.0%と、高い値を示すことがわかる。
【0142】
比較例7
参考例11にて作製した重量平均分子量Mw=20,000、結晶化度55%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、比較例4と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は29.6%増加し、25.7gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されないフィルムであったが、広角X線回折測定による結晶化度はほぼゼロまでに低下した。また濃硝酸中での耐薬品性にやや劣る結果となった。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して12.6重量%、吸湿率は9.0%であった。
【0143】
比較例8
参考例12にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度6%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、比較例4と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は30.5%増加し、25.8gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されないフィルムであったが、広角X線回折による結晶化度測定では結晶化ピークは実質上観測されなかった。またまた濃硝酸中での耐薬品性にやや劣る結果となった。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して13.0重量%であった。また吸湿率は15.0%と耐吸湿性に劣ったPPSOフィルムであることがわかる。
【0144】
比較例9
参考例13にて作製した重量平均分子量Mw=40,000、結晶化度5%のポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)フィルムに変え、比較例4と同様に酸化反応処理を行った。フィルムの重量は31.3%増加し、26.0gのポリ−p−フェニレンスルホン(PPSO)フィルムを得た。本フィルムは、示差走査熱量計(DSC)測定において、PPSの融点(285℃)付近の融解ピークが消失し、観測したいずれの温度においても融解ピークが観察されないフィルムであったが、広角X線回折による結晶化度測定では結晶化ピークは実質上観測されなかった。また濃硝酸中での耐薬品性にやや劣る結果となった。ず、触れるだけでフィルムの一部が脱落するような脆いものであった。なお、熱重量(TGA)を測定した結果、残存する炭化物量はPPSOフィルムに対して13.2重量%、吸湿率は14.9%であった。
比較例4〜9の結果を表6に示す。
【0145】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0146】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド酸化物は、極めて高い耐熱性を有し、かつアルカリ、濃硫酸および濃硝酸に対して優れた耐薬品性を有しており、工業用途として多岐にわたる分野で有用な化合物であり、耐熱性、耐薬品性、耐吸湿性などが要求される用途に幅広く利用することができる。具体的には、バグフィルター、薬液フィルター、ドライヤーカンバス、抄紙用フェルト、縫糸、耐熱性フェルト、食品用フィルター、離形材、電池用セパレーター、心臓パッチ、人工血管、人工皮膚、プリント基板基材、電気絶縁紙、ケミカルフィルター、オイルフィルター、エンジンオイルフィルター、コピーローリングクリーナー、空気清浄フィルター、安全衣服、耐熱衣類、実験作業着、保温衣料、難燃衣料、イオン交換基材、オイル保持材、断熱材、電極用セパレーター、保護フィルム、建築用断熱材、クッション材、吸液芯、ブラシなどに利用することができるが、これらの用途に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広角X線回折の測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリアリーレンスルフィド酸化物。
【請求項2】
広角X線回折の測定における結晶化度が30%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下である請求項1記載のポリアリーレンスルフィド酸化物。
【請求項3】
示差走査熱量計(DSC)の測定において融解ピークが実質的に認められない請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド酸化物。
【請求項4】
熱重量(TGA)の測定において残存炭化物が実質的に認められる請求項1〜3のいずれか記載のポリアリーレンスルフィド酸化物。
【請求項5】
熱重量(TGA)の測定において残存炭化物量が、1重量%以上である請求項4記載のポリアリーレンスルフィド酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなり、粉末、繊維、布帛、フィルムおよび紙から選ばれる形態を有する固体物品。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド化合物からなる固体物品を酸化剤を含む液体存在下で、形態を保持したまま酸化反応処理することにより、広角X線回折測定における結晶化度が10%以上であり、かつ示差走査熱量計(DSC)の測定における融解熱量が15J/g以下であるポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品を製造する固体物品の製造方法。
【請求項8】
固体物品が、繊維または布帛であって、この物品を構成する繊維の繊度が0.1〜10dtexである請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
ポリアリーレンスルフィド化合物が、結晶化度30%以上かつ重量平均分子量(Mw)30000以上の物性を有するポリアリーレンスルフィド化合物であって、かつ、ポリアリーレンスルフィド酸化物が、広角X線回折の測定において結晶性ピークが実質的に認められるものである請求項7または8記載の固体物品の製造方法。
【請求項10】
ポリアリーレンスルフィド酸化物が、熱重量(TGA)の測定において残存炭化物が実質的に認められるものである請求項7〜9のいずれかに記載の固体物品の製造方法。
【請求項11】
酸化剤が、無機塩過酸化物および過酸化水素水から選ばれる少なくとも1つである請求項7〜10のいずれかに記載の固体物品の製造方法。
【請求項12】
液体が、有機酸および有機酸無水物から選ばれる少なくとも1つを含む請求項7〜11のいずれかに記載の固体物品の製造方法。
【請求項13】
液体が、鉱酸を含有する請求項7〜12のいずれかに記載の固体物品の製造方法。
【請求項14】
液体が水、酢酸および硫酸を含む混合物であり、かつ酸化剤が過酸化水素水である請求項7〜13のいずれかに記載の固体物品の製造方法。
【請求項15】
ポリアリーレンスルフィド酸化物からなる固体物品が、フィルター用途、紙用途および耐熱作業着用途の中から選ばれる用途として用いられる請求項6記載の固体物品。
【請求項16】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる布帛を含むバグフィルター。
【請求項17】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる紙を含む電気絶縁紙。
【請求項18】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド酸化物からなる布帛を含む消防服。

【公開番号】特開2006−16585(P2006−16585A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235135(P2004−235135)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】