説明

ポリイミドオリゴマー及びこれを加熱硬化させてなるポリイミド樹脂

【課題】 優れた熱成形性、及び加熱硬化後のポリイミド樹脂として優れた耐熱性を有するとともに、容易且つ安価に得ることのできるポリイミドオリゴマーを提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【化1】


(上記式において、Xは、直接結合、−O−、−NH−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性のポリイミドオリゴマー、特に成形性に優れ、且つ加熱硬化することで耐熱性に優れたポリイミド樹脂を得ることのできるポリイミドオリゴマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れており、非常に高い熱分解温度を示すことから、ロケットや人工衛星分野のカーボンファイバー強化構造材マトリックスとして用いられている(例えば、非特許文献1参照)。また、近年,Siウエハーを利用するLSIの分野では、情報の高密度化高速化に伴いSi−Cを用いた電子部品が盛んに研究されており、Si−Cを用いたLSI等では400℃を超える温度での動作が想定されているものの、耐熱性に優れているといわれる従来のポリイミド樹脂を用いたとしても対応することができない。そこで、ポリイミド樹脂に限らず、様々な耐熱性高分子フィルムの使用も検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
一方で、ポリイミド樹脂は高耐熱性であるが故、結晶構造が強固であり、溶解・溶融特性に欠け、成形が困難であるという問題がある。このような問題に対して、近年、熱硬化性を有するポリイミドオリゴマーの研究開発が進められている。すなわち、4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物等の架橋反応性官能基をポリイミドオリゴマーの末端に付加することで、ポリイミドオリゴマーを成形した後に、加熱によりポリマー鎖間の架橋反応を進行して樹脂を硬化し、高耐熱性を有するポリイミド樹脂成形体を得ようとするものである。
【0004】
さらに、このようなポリイミドオリゴマーの溶解・溶融特性、あるいは得られるポリイミド樹脂の物性を改善する目的で、例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のような非軸対称性のビフェニル酸二無水化物を導入したポリイミドオリゴマーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、通常のポリイミド構造は直線性が高く分子間相互作用が非常に大きいのに対して、このような非軸対称性分子を導入することによってポリイミド鎖が螺旋性を示すため、分子間相互作用が小さくなり、熱溶融性や着色性が改善されることが明らかとなっている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−219741号
【非特許文献1】柿本雅明監修,「最新ポリイミド材料と応用技術」,シーエムシー出版
【非特許文献2】「SiCパワーエレクトロニクス実用化・導入普及戦略に係る調査研究」,財団法人新機能素子研究開発協会,平成17年3月
【非特許文献3】Masatoshi Hasegawaら,Macromolecules,1999,32,p382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において用いられているような非軸対称性の酸二無水化物モノマーは、合成が難しく比較的高価であることから、このようにして得られた高耐熱性・易熱成形性のポリイミドオリゴマーを様々な分野へと応用することは、事実上困難であった。
すなわち、本発明は、優れた熱成形性、及び加熱硬化後のポリイミド樹脂として優れた耐熱性を有するとともに、容易且つ安価に得ることのできるポリイミドオリゴマーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、前記従来技術の課題に鑑み鋭意検討を行った結果、2つのアミノ基が同一軸上に導入されていない非軸対称性芳香族ジアミンをジアミン成分として用いることで、得られたポリイミドオリゴマーが螺旋性を有し、熱成形性に優れており、さらにこのポリイミドオリゴマーを加熱硬化して得られたポリイミド樹脂が、優れた耐熱性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかるポリイミドオリゴマーは、下記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするものである。
【化1】

(上記式において、Xは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−である)
【0009】
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、両末端に架橋性反応基を有することが好適である。
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、平均重合度が2〜12であり、且つ平均分子量が8000以下であることが好適である。
【0010】
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、前記非軸対称性ジアミンが、3,4’−ジアミノフェニルエーテル、3,4’−ジアミノフェニルメタン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ベンジジンから選ばれる少なくとも1種以上であることが好適である。
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、前記ジアミン成分が、前記ジアミン成分全量中の前記非軸対称性芳香族ジアミンの比率が90モル%以上であることが好適である。
【0011】
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、前記非軸対称性芳香族ジアミン以外のジアミン成分が、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル,1、3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α'−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン,3,3'−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる少なくとも1種以上であることが好適である。
【0012】
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、前記酸二無水化物成分が、ピロメリット酸二無水化物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4'−ビフタリック酸二無水化物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォン酸、4,4'−(ヘキサフルオロイソピリデン)ジフタリック酸二無水化物、4,4'−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピィデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物から選ばれる少なくとも1種以上であることが好適である。
【0013】
また、前記ポリイミドオリゴマーにおいて、前記架橋性反応基が、4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物、無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水化物、2,5−ノルボルナジエン−2,3−ジカルボン酸無水化物、マレイン酸無水物、プロパギルアミン、フェニルエチニルアニリン、エチニルアニリン、アミノスチレン、ビニルアニリンから選ばれる少なくとも1種以上の化合物に由来することが好適である。
【0014】
また、本発明にかかるポリアミック酸オリゴマーは、上記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするものである。
また、本発明にかかるポリイミド樹脂は、前記ポリイミドオリゴマーを加熱硬化させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、2つのアミノ基が同一軸上に導入されていない非軸対称性芳香族ジアミンをジアミン成分として用いることで、得られたポリイミドオリゴマーが螺旋性を有し、この結果、熱成形性に優れ、且つ加熱硬化後のポリイミド樹脂として優れた耐熱性を有するポリイミドオリゴマーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかるポリイミドオリゴマーは、下記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするものである。
【化2】

【0017】
ここで、上記一般式(1)により表される化合物は、直接あるいは特定の官能基を介して結合した2つのベンゼン環上のそれぞれ3位と4位にアミノ基が結合したものであり、各アミノ基の結合位置がXを中心とした軸対称位置をとらない、すなわち、非軸対称性の芳香族ジアミンである。
【0018】
上記一般式(1)中、Xは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−である。
【0019】
上記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンは、より具体的には、3,4’−ベンジジン(Xが直接結合)、3,4’−ジアミノフェニルエーテル(Xが−O−)、3,4’−ジアミノフェニルメタン(Xが−CH−)、3,4’−ジアミノフェニルエタン(Xが−C−)、3,4’−ジアミノフェニルイソプロパン(Xが−C(CH−)、3,4’−ジアミノフェニルジフルオロメタン(Xが−CF−)、3,4’−ジアミノフェニルテトラフルオロエタン(Xが−C−)、3,4’−ジアミノフェニルヘキサフルオロイソプロパン(Xが−C(CF−)、3,4’−ジアミノベンゾフェノン(Xが−C(=O)−)、3,4’−ジアミノフェニルアミン(Xが−NH−)、3,4’−ジアミノフェニルスルフィド(Xが−S−)、3,4’−ジアミノフェニルスルフォキシド(Xが−S(=O)−)、3,4’−ジアミノフェニルスルフォン(Xが−S(=O)−)となる。これらのうち、3,4’−ジアミノフェニルエーテル、3,4’−ジアミノフェニルメタン3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ベンジジンを好適に用いることができ、特に3,4’−ジアミノフェニルエーテル、又は3,4’−ジアミノフェニルメタンを好適に用いることができる。なお、これらの非軸対称性芳香族ジアミンは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0020】
本発明のポリイミドオリゴマーに用いるジアミン成分としては、前記非軸対称性芳香族ジアミン以外のジアミン成分を組み合わせて用いてもよい。前記非軸対称性芳香族ジアミンは、その少なくとも1分子がジアミン成分として含まれていればよく、ジアミン成分全量中の非軸対称性芳香族ジアミンの比率は、特に限定されるものではないが、好ましくはジアミン成分全量中80モル%以上、より好ましくは90モル%以上である。さらに好ましくは、ジアミン成分の全量が前記非軸対称性芳香族ジアミンのみからなっていてもよい。
【0021】
前記非軸対称性芳香族ジアミン以外のジアミン成分(すなわち、軸対称性ジアミン成分)を本発明に用いる場合、酸二無水化物と縮合反応してポリイミド構造を形成し得るものであればよく、特に限定されるものではない。このようなジアミン成分としては、例えば、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル,1、3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α'−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン,3,3'−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。なお、これらの軸対称性芳香族ジアミンは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、特に4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。これら軸対称性のジアミン成分の比率は、特に限定されるものではないが、ジアミン成分全量中、好ましくは20モル%未満、より好ましくは10モル%未満の範囲で用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリイミドオリゴマーに用いる酸二無水化物成分は、ジアミンと縮合反応してポリイミド構造を形成し得るものであればよく、特に限定されるものではない。本発明に用いる酸二無水化物としては、例えば、ピロメリット酸二無水化物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4'−ビフタリック酸二無水化物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォン酸、4,4'−(ヘキサフルオロイソピリデン)ジフタリック酸二無水化物、4,4'−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピィデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物等が挙げられる。また、酸二無水化物成分としては、公知の非軸対称性の酸二無水化物成分を用いてもよく、このような非軸対称性の酸二無水化物成分としては、例えば、3,4'−ビフタリック酸二無水化物、3,4'−(ヘキサフルオロイソピリデン)ジフタリック酸二無水化物、3,4'−オキシジフタル酸二無水化物等が挙げられる。なお、これらの酸二無水化物成分は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これら酸二無水化物成分のうち、特に4,4'−オキシジフタル酸二無水化物、4,4'−ビフタリック酸二無水化物を好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明のポリイミドオリゴマーにおいて、両末端に架橋性反応基を有することが好ましい。架橋性反応基を有する化合物により末端を修飾することで、熱硬化性が付与される。本発明に用いる架橋性反応基を有する化合物としては、例えば、4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物、無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水化物、2,5−ノルボルナジエン−2,3−ジカルボン酸無水化物、マレイン酸無水物、プロパギルアミン、フェニルエチニルアニリン、エチニルアニリン、アミノスチレン、ビニルアニリン等が挙げられる。これらのうち、特に4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水化物を好適に用いることができる。
【0024】
本発明のポリイミドオリゴマーにおいては、ジアミン成分と酸二無水化物成分との交互結合により形成され、このポリイミド繰り返し単位を一単位とする平均重合度は2〜20である。なお、この平均重合度は、ポリイミドオリゴマーの製造に用いるジアミン成分、酸二無水化物成分の量や反応時間を変化させることで適宜調整することが可能である。本発明のポリイミドオリゴマーにおいて、平均重合度が20を超えると、熱溶融性に劣り、成形が困難になる場合がある。ポリイミドオリゴマーの成形性の観点から、平均重合度は2〜12であることが好ましく、さらに好ましくは4〜10である。平均重合度が前記範囲内であると、特に成形性に優れたポリイミドオリゴマーが得られる。
【0025】
本発明にかかるポリイミドオリゴマーにおいては、上記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンをオリゴマー鎖中に有することによって、オリゴマー鎖は全体として螺旋構造を示している。このため、本発明にかかるポリイミドオリゴマーは比較的低い温度で熱溶融するため、熱成形が容易であり、また、加熱硬化後のポリイミド樹脂の熱分解温度が500℃以上に達し、耐熱性においても非常に優れている。
【0026】
なお、例えば、特許文献1に記載されているような従来の螺旋性ポリイミドオリゴマーは、熱成形性及び加熱硬化後のポリイミド樹脂の耐熱性に優れてはいるものの、比較的高価な非軸対称化合物を有しているため、製造において多大なコストがかかってしまうという問題があった。これに対し、本発明にかかる螺旋性のポリイミドオリゴマーは、比較的安価で入手可能な非軸対称性芳香族ジアミンを使用することによって製造コストを大幅に削減でき、優れた熱成形性及び加熱硬化後のポリイミド樹脂の耐熱性を有するポリイミドオリゴマーを、容易且つ安価に得ることができる。
【0027】
なお、本発明にかかるポリイミドオリゴマーは、例えば、下記の工程によって調製することができる。
(A)上記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを反応させ、ポリアミック酸を調製する。
ここで、ジアミン成分及び酸二無水化物成分の添加割合及び反応時間を変化させることで、重合度を適宜調整することができる。本発明においては、ポリイミド繰り返し単位の平均重合度が2〜20となるように、上記各成分の添加割合を調整する必要がある。
【0028】
また、反応に用いる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、γ−ブチロラクタム等の非プロトン性溶媒が挙げられる。非プロトン性溶媒中で重合反応を行なった場合、通常、分子内にアミド部位とカルボン酸部位とを有するポリアミック酸オリゴマーとして得られる。このポリアミック酸オリゴマーは、例えば、低温でイミド化剤を添加するか、あるいは高温で加熱還流することによって、前記アミド部位とカルボン酸部位とを脱水・環化(イミド化)させ、ポリイミドオリゴマーとすることができる。
【0029】
(B)さらに、以上で得られたポリイミドオリゴマー又はポリアミック酸オリゴマーの末端に、架橋性反応基を有する化合物を付加する。
この架橋性反応基は加熱によって反応基同士が架橋構造を形成するため、これにより、ポリイミドオリゴマーに熱硬化性を付与することができる。
ここで、架橋性反応基含有化合物は、酸二無水化物における未反応カルボン酸基、ジアミンにおける未反応アミノ基のいずれかと反応し得るものであればよい。架橋性反応基含有化合物の添加量は、反応可能なカルボン酸基あるいはアミノ酸基の当量に合わせて適宜調整すればよい。
【0030】
上記(B)工程の反応は(A)工程と連続して行なうことができ、通常、(A),(B)の全工程をポリアミック酸オリゴマーの状態で行い、最後にポリイミドオリゴマーへと変換させる。すなわち、(A)工程により得られたポリアミック酸オリゴマーの状態で(B)工程による架橋性反応基含有化合物の付加を行い、つづいて、例えば、低温でイミド化剤を添加するか、あるいは高温で加熱還流することによって、アミド部位とカルボン酸部位とを脱水・環化(イミド化)させ、分子末端に架橋性反応基を有するポリイミドオリゴマーを得る。
【0031】
なお、上記(A),(B)工程において、イミド化を行っていないポリアミック酸オリゴマーについても、本発明の範疇である。このようなポリアミック酸オリゴマーは、加熱による脱水・環化反応によって、容易にポリイミドオリゴマーへと変換することができる。例えば、本発明のポリアミック酸オリゴマー溶液を、150〜245℃程度の高温で加熱還流することによって、本発明のポリイミドオリゴマーとすることができる。あるいは、例えば、ポリアミック酸オリゴマー溶液を、ガラス板等の剥離性の良好な支持体上へと塗布し、250〜350℃程度に加熱することによってイミド化し、本発明のポリイミドオリゴマーを得ることもできる。
【0032】
また、上記(A),(B)の反応工程においては、いずれもアルゴンあるいは窒素のような不活性ガスの存在下、又は真空中で行うことが好ましい。
【0033】
なお、予め非軸対称性芳香族ジアミンと、これに対して大過剰量の酸二無水化物とを反応させることによって、非軸対称性芳香族ジアミン1分子を中心とした両側鎖に酸二無水化物を縮合したオリゴマー前駆体を調製することができる。そして、このようにして得られたオリゴマー前駆体(未反応の酸二無水化物を含む)に、他のジアミン成分を添加し、さらに重縮合反応を行なうことによって、非軸対称性の芳香族ジアミンをオリゴマー鎖の中心部のみに配置したポリイミドオリゴマーを得ることも可能である。
【0034】
以上のようにして得られたポリイミドオリゴマーは、反応後の溶液をそのまま用いることも可能であるが、例えば、反応終了後の溶液を多量の水中に攪拌しながら投入し、ろ過により単離した後、100℃程度で乾燥させることで、粉末状のポリイミドオリゴマーとして用いるができる。また。このようにして得られたポリイミドオリゴマー粉末は、必要に応じて適当な溶媒中に溶解した溶液として使用することもできる。
【0035】
また、以上のようにして得られたポリイミドオリゴマーは、オリゴマー単独で、あるいは炭素繊維等の繊維状補強材に含浸させた状態で加熱硬化することで、耐熱性に優れたポリイミド樹脂とすることができる。加えて、本発明にかかるポリイミドオリゴマーは、螺旋構造を示すため、成形性に優れていることから、例えば、金型等により容易に成形することが可能であり、あるいは繊維状補強材等への含浸も比較的容易に行うことができる。
【0036】
また、ポリイミドオリゴマーの加熱硬化に際し、加熱温度及び加熱時間については、所望のポリイミド樹脂の物性に合わせて適宜調整することができる。なお、本発明にかかるポリイミドオリゴマーは、架橋性反応基含有化合物の種類等によっても異なるが、通常、約300〜370℃程度で熱硬化を生じる。より具体的には、例えば、予備的に210〜320℃程度の温度で一定時間加熱することでポリイミドオリゴマーを熱溶融し、その後、350〜400℃の温度で一定時間加熱して架橋反応を行い、ポリイミド樹脂硬化物を得る。それぞれの加熱工程における加熱温度を高くするか、あるいは加熱時間を長くすることによって、通常、ポリイミド樹脂硬化物の耐熱性が向上する。
【0037】
なお、本発明のポリイミドオリゴマーを用いたポリイミド樹脂成形体の製造は、公知の方法にしたがって行なえばよい。例えば、本発明のポリイミドオリゴマーの粉末を金型内に充填し、250〜370℃、0.5〜5MPa程度で、1〜5時間程度加熱圧縮成形して、ポリイミド樹脂成形体を得ることができる。また、例えば、本発明のポリイミドオリゴマー溶液を炭素繊維等の繊維状補強材に含浸させ、180〜260℃で1〜5時間程度加熱乾燥した後、さらに加圧下、250〜370℃で1〜5時間程度加熱して、ポリイミド樹脂の繊維含有複合体を得ることができる。また、例えば、本発明のポリイミドオリゴマー溶液を、ガラス板等の剥離性の良好な支持体上へと塗布し、250〜350℃で1〜5時間程度加熱して、ポリイミド樹脂フィルムを得ることができる。
【実施例1】
【0038】
以下、実施例の記載に基づいて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【化3】

【0039】
アルゴン気流下3,4’−ジアミノジフェニルエーテル23.15gと4,4’−オキシジフタリック酸無水化物26.80gをN,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解させ、約30分間室温下で撹拌した。その後4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物14.29gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させ、灰白色の懸濁液を得た。イオン交換水800mlに懸濁液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120℃で一晩乾燥させ、灰白色の粉末状ポリイミドオリゴマーを得た。なお、得られたポリイミドオリゴマーについて、GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は5.2x10g/molであった(NMP溶媒)。
【0040】
つづいて、以上のようにしてポリイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量とり、ホットプレス上230℃で1時間溶融・脱泡した後、さらに350℃,2Mpaで1時間加圧し、ポリイミド樹脂硬化物を得た。
【0041】
以上で得られたポリイミド樹脂硬化物について、窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は563.3℃(窒素気流下,昇温速度10度/分)であった。また、TMA(EASTAR6000:SII社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は316.4℃(窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
また、TMA(EASTAR6000:SII社製)により測定したポリイミド樹脂硬化物の熱膨張係数(CTE)は31ppmであった。また、ポリイミド樹脂硬化物を厚さ約75μmのフィルムとして、初期弾性率を測定(EZGraph:shimadzu社製)した結果、3.2GPaであった。
【実施例2】
【0042】
【化4】

【0043】
アルゴン気流下3,4’−ジアミノジフェニルエーテル18.97gと3,3’、4,4’−ベンゾフェノンテレフタリック二酸無水化物22.82gをN,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解させ、約30分間室温下撹拌した。その後4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物11.72gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させ、緑白色の懸濁液を得た。イオン交換水800mlに懸濁液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120℃で一晩乾燥させ、緑白色の粉末状ポリイミドオリゴマーを得た。なお、得られたポリイミドオリゴマーについて、GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は5.2x10g/mol(NMP)であった。
【0044】
つづいて、以上のようにしてポリイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量とり、ホットプレス上250℃で0.5時間溶融・脱泡した後、さらに350℃,2Mpaで1.5時間加圧し、飴色透明のポリイミド樹脂硬化物を得た。
【0045】
以上で得られたポリイミド樹脂硬化物について、窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は563.3℃(窒素気流下,昇温速度10度/分)であった。また、TMA(EASTAR6000:SII社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は316.4℃(窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
また、TMA(EASTAR6000:SII社製)により測定したポリイミド樹脂硬化物の熱膨張係数(CTE)は31ppmであった。また、ポリイミド樹脂硬化物を厚さ約75μmのフィルムとして、初期弾性率を測定(EZGraph:shimadzu社製)した結果、3.2GPaであった。
【実施例3】
【0046】
【化5】

【0047】
3,4’−ジアミノジフェニルメタン4.73gをアルゴン気流下N,N−ジメチルアセトアミド100mlに溶解させ、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水化物6.84gを加え約60分間室温下撹拌した。その後4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物2.37gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させた。イオン交換水500mlに反応液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120度で一晩乾燥させ、乳白色の粉末状ポリイミドオリゴマーを得た。なお、得られたポリイミドオリゴマーについて、GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は4.5x10g/molであった(NMP溶媒)。
【0048】
つづいて、以上のようにしてポリイミドオリゴマー粉末をサンプル瓶に所要量とり、窒素気流下250℃で2時間、280℃で5時間、320℃で2時間、350℃で2.5時間加熱し、飴色透明のポリイミド樹脂硬化物を得た。
【0049】
以上で得られたポリイミド樹脂硬化物について、窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は557.3℃(窒素気流下,昇温速度10度/分)であった。また、TMA(EASTAR6000:SII社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は330.0℃(窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
また、TMA(EASTAR6000:SII社製)により測定したポリイミド樹脂硬化物の熱膨張係数(CTE)は38ppmであった。また、ポリイミド樹脂硬化物を厚さ約75μmのフィルムとして、初期弾性率を測定(EZGraph:shimadzu社製)した結果、2.8GPaであった。
【実施例4】
【0050】
【化6】

【0051】
3,4’−ジアミノジフェニルメタン3.92gをアルゴン気流下N,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解させ、3,4’−オキシジフタリック酸無水化物36.29gを加え約30分間室温下撹拌した。その後9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン40.78gを加え約1時間撹拌すると粘調な溶液を得た。さらに、4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物9.68gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させた。イオン交換水800mlに反応液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120度で一晩乾燥させ、白色の粉末状ポリイミドオリゴマーを得た。なお、得られたポリイミドオリゴマーについて、GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は5.2x10g/molであった(NMP溶媒)。
【0052】
つづいて、以上のようにしてポリイミドオリゴマー粉末をサンプル瓶に所要量とり、窒素気流下250℃で0.5時間加熱後、さらに2Mpa加圧条件下、350℃,1.5時間加圧し、250℃で2時間、280℃で5時間、320℃で1.5時間、350℃で1.5時間加熱し、黄色透明のポリイミド樹脂硬化物を得た。
【0053】
以上で得られたポリイミド樹脂硬化物について、窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は563.3℃(窒素気流下,昇温速度10度/分)であった。また、TMA(EASTAR6000:SII社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は316.4℃(窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
また、TMA(EASTAR6000:SII社製)により測定したポリイミド樹脂硬化物の熱膨張係数(CTE)は31ppmであった。また、ポリイミド樹脂硬化物を厚さ約75μmのフィルムとして、初期弾性率を測定(EZGraph:shimadzu社製)した結果、3.2GPaであった。
【0054】
上記各実施例において示したように、2つのアミノ基が同一軸上に導入されていない非軸対称性芳香族ジアミンをジアミン成分として用いることで、得られたポリイミドオリゴマーが熱成形性に優れており、また、このポリイミドオリゴマーを加熱硬化して得られたポリイミド樹脂が、優れた耐熱性、機械特性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【化1】

(上記式において、Xは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−である)
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミドオリゴマーにおいて、両末端に架橋性反応基を有することを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリイミドオリゴマーにおいて、平均重合度が2〜20であり、且つ平均分子量が8000以下であることを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のポリイミドオリゴマーにおいて、前記非軸対称性ジアミンが、3,4’−ジアミノフェニルエーテル、3,4’−ジアミノフェニルメタン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ベンジジンから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のポリイミドオリゴマーにおいて、前記ジアミン成分全量中の前記非軸対称性芳香族ジアミンの比率が90モル%以上であることを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のポリイミドオリゴマーにおいて、前記非軸対称性芳香族ジアミン以外のジアミン成分が、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル,1、3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α'−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン,3,3'−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のポリイミドオリゴマーにおいて、前記酸二無水化物成分が、ピロメリット酸二無水化物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4'−ビフタリック酸二無水化物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォン酸、4,4'−(ヘキサフルオロイソピリデン)ジフタリック酸二無水化物、4,4'−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピィデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のポリイミドオリゴマーにおいて、前記架橋性反応基が、4−フェニルエチニィルフタル酸無水化物、無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水化物、2,5−ノルボルナジエン−2,3−ジカルボン酸無水化物、マレイン酸無水物、プロパギルアミン、フェニルエチニルアニリン、エチニルアニリン、アミノスチレン、ビニルアニリンから選ばれる少なくとも1種以上の化合物に由来することを特徴とするポリイミドオリゴマー。
【請求項9】
上記一般式(1)により表される非軸対称性芳香族ジアミンを少なくとも1種以上含むジアミン成分と、酸二無水化物成分とを構成モノマーとして含有することを特徴とするポリアミック酸オリゴマー。
【請求項10】
請求項1から8に記載のポリイミドオリゴマーを加熱硬化させてなるポリイミド樹脂。

【公開番号】特開2009−185204(P2009−185204A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27703(P2008−27703)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】