説明

ポリイミド薄膜の自己組織化プロセス

【課題】低コスト、製造プロセスの簡素化および小型化が可能となるポリイミドベースの薄膜自己組織化技術を提供する。
【解決手段】(1)シリコン基板10上に犠牲層20と低応力微細構造層30を蒸着し、(2)低応力微細構造層をパターン付けしてエッチングを施し、微細構造の静止部と可動部を備え、(3)微細構造層の弾性結合部41として感光性ポリイミド薄膜を被覆し、その形状をフォトリソグラフィ技術を用いて画定し、(4)微細構造層の可動部の下の犠牲層を、ウエットエッチングにより除去し、(5)最後に、ポリイミドのリフロープロセスを進めて弾性接合を収縮させ、さらに可動部を回転し持ち上げて微細構造の自己組織化が完了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド薄膜の自己組織化プロセスを提供する。そのプロセスは、簡単、高速且つ経済的な特性を有する一体的小型化平面技術を用いて、従来の自己組織化技術の問題点を解決するものである。
【背景技術】
【0002】
小型化技術の開発と応用は、近代科学の主要トレンドである。特に、自己組織化技術は、近年、ミクロの世界の基礎となる方法である。
【0003】
微小電気機械システム(MEMS)技術により製造された微小回転ファンにおいて、付属書1に示すように、微小回転ファンのスクラッチ駆動アクチュエータ(SDA)と微小ブレード構造間の部分は、自己組織化技術とマルチユーザーMEMSプロセス(MUMPs)によって形成される。
【0004】
いわゆる自己組織化技術は、微細構造を、最終解放プロセスの完了後に自己整合させるものである。付属書2に示すように、従来の自己組織化技術には、以下のような3つのタイプがある。
【0005】
タイプ1は、付属書2の図1に示すように、製造プロセスにおける残留応力を用いて、変形を生じさせ、結果として微細構造の変位をもたらす。図1はLucent Technology社によって開発された三次元微小光学スイッチを示す。
【0006】
タイプ2は、付属書2の図2に示すように、超音波によって発生した表面音響波を用いて、振動により微細構造をプリセット位置に移動させる。
【0007】
タイプ3は、ソルダーボール、フォトレジストまたは他のポリマーを用いて、微小ヒンジ上に弾性結合部を形成する。弾性結合部の溶融は、高温リフロープロセスによって行われ、このプロセスによって、付属書2の図3に示すように、微細構造を引っ張り上げる表面張力を生じさせる。
【非特許文献1】Ryan. J. Linderman、 Paul. E. Kladitis、 Victor. M. Bright、「微小回転ファンの開発」、センサーとアクチュエータ A、95巻、2002、135〜142ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の自己組織化技術によるタイプ1とタイプ2は、静的な用途あるいは固定微細構造に対してのみ適用可能であり、微小ファン用途などの動的あるいは回転微細構造に対しては適していない。
【0009】
タイプ3の自己組織化技術に関しては、弾性結合部製作に適した多くの材料が用いられている。これらの材料はそれぞれ欠点を有する。ソルダーボールを1例として以下説明する。
【0010】
鉛汚染: ソルダーボールは錫と鉛(63Sn/37Pb)からできている。リフロープロセス中には、設備や環境が鉛に汚染される。
【0011】
高コスト: 表面をマイクロマシン化した微細構造のほとんどは、通常多結晶シリコン(Poly−Si)により形成されており、ここで、金パッドの層は、ソルダーボールとPoly−Siとを相互に接続する被膜として形成されている。この追加プロセスにより、必然的に生産が困難となり、コストが増加する。
【0012】
低精度: 微細構造の立ち上げ角度あるいは変位を計算するためには、ソルダーボールの寸法が正確に制御されなければならない。しかしながら、従来のソルダーボールは、体積のばらつきが25%にものぼり、立ち上げ角度や変位の精度が制御不能となる。
【0013】
手作業処理: 今のところ、ソルダーボールの金パッドへの取付は、いまだ手作業による芯出し処理でおこなわれている。
【0014】
小型化実現不可: 現時点では、ソルダーボールの最小寸法は100μm以上であり、はんだを用いる装置の最小サイズに限界がある。
【0015】
フォトレジストにより形成される弾性結合をもう1つの例を参照して説明する。
【0016】
フォトレジストにより形成される弾性結合の製造プロセスは、ソルダーボールを用いたプロセスほど複雑ではなく、低コストでもある。しかしながら、微細構造の解放にはドライまたはウエットエッチング処理が必要である。
【0017】
ドライエッチングでは、液体二酸化炭素を用いて微細構造を解放し、水分子を置換して微細構造の吸着効果を防止しているが、この方法に使用される臨界超過CO2乾燥除去装置は非常に高価であり、このためこのプロセスのコストは比較的高い。
【0018】
ウエットエッチングでは、余計な製造装置は不要であり、コストはかからない。しかしながら、希フッ化水素酸(HF)溶液あるいは緩衝酸化物エッチング(BOE)を用いて犠牲層をエッチングした後、さらにイソプロピル・アルコール(IPA)を塗布し、水分子を急速に気化させる。IPAはフォトレジストを溶解させる特性を有するため、初めに作られたフォトレジストベースの弾性結合部を損傷する。
【0019】
つまり、生産コスト、プロセス統合、小型化性能を考慮して、ソルダーボールやフォトレジストにより形成される弾性結合から生じる様々な問題を解決するために、まったく新しい製造プロセスが緊急に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記した事情に鑑み、本発明は、ポリイミドベースの薄膜自己組織化技術を提供するものであり、同技術は以下に述べる五つの処理工程から成る。(1)シリコン基板上に犠牲層と低応力微細構造を蒸着し、(2)低応力微細構造層をパターン化するとともにエッチングを施し、微細構造の静止部と可動部を形成し、(3)微細構造層の弾性結合部として感光性ポリイミド薄膜を被覆し、同薄膜の形状をフォトリソグラフィ技術を用いて限定し、(4)微細構造の可動部の下方の犠牲層を、ウエットエッチングにより除去し、(5)最後に、ポリイミドのリフロープロセスを進めて弾性結合部を収縮させ、微細構造の自己組織化の完了の際に、さらに可動部を回転し持ち上げられるようにする。本発明は、多くの小型化業界に広く適用され得るので、従来技術の問題を解決し、低コスト、製造プロセスの単純化および小型化といった要求を満足することができる。
【0021】
本発明のポリイミド薄膜自己組織化プロセスは以下の特徴を有する。
a.シリコン基板上に犠牲層を蒸着し、前記犠牲層上に低応力微細構造層を蒸着する工程と、
b.前記犠牲層上に形成された微細構造をパターン化しエッチングする工程と、
c.前記微細構造層上にポリイミド薄膜を被覆する工程と、
d.前記ポリイミド薄膜上に形成された弾性結合部をパターン化しエッチングする工程と、
e.前記犠牲層の予め画定された輪郭部をエッチングし除去するためのウエットエッチングプロセスを行うステップと、
f.ポリイミドのリフロープロセスを行って弾性結合部を収縮させ、さらに前記微細構造層の予め画定された部分を回転させ持ち上げるステップと
を具備する。
前記低応力犠牲層は燐酸シリケートガラス(PSG)からなることを特徴とする。
また、前記微細構造層が多結晶シリコン(Poly−Si)からなることを特徴とする。
【0022】
本発明のポリイミド薄膜自己組織化プロセスは、微小回転ファンの自己組織化、微小虫状チップの自己組織化、スクラッチ駆動アクチュエータの自己組織化、微小光学ベンチチップの自己組織化、微小光学スイッチの自己組織化、微小受動素子の自己組織化、に適用可能である。前記微小受動素子は、微小誘導体、或いは、微小キャパシタであることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、弾性結合用材料として感光性ポリイミド薄膜を用いるポリイミド薄膜自己組織化プロセスに関する。リフロープロセス中には、ポリイミドベースの弾性結合部の溶融は、高温(380℃〜405℃)下で行われ、この溶融によって表面張力が発生し微細構造を持ち上げる。
【0024】
図1に示すように、本発明の製造プロセスは、以下のプロセスから成る。
【0025】
プロセス1:プラズマ助長化学蒸着(PECVD)法により犠牲層20として燐酸シリケートガラス(PSG)をシリコン基板10上に蒸着し、さらに、低圧化学蒸着(LPCVD)法により微細構造層30として低応力Poly−Siを犠牲層20上に蒸着する。
【0026】
プロセス2:第一のフォトリソグセフィプロセスを行い、微細構造層30を誘導結合プラズマ(ICP)エッチング法を用いてエッチングし、全体的な輪郭を画定する。
【0027】
プロセス3:スピンコーターを用いて感光性ポリイミド薄膜40を微細構造層30上に蒸着する。
【0028】
プロセス4:第二のフォトリソグラフィプロセスを行い、ポリイミド弾性結合部41の形状輪郭を画定する。
【0029】
プロセス5:ウエハーをBOE中に浸漬し、犠牲層20のあらかじめ画定した部分をウエットエッチングし、その後微細構造層を解放する。
【0030】
プロセス6:高温炉を用いてポリイミド薄膜のリフロープロセスを行うことによって、380℃〜405℃の高温下で弾性結合部41が溶融する。付属書3に示すように、加熱されたポリイミド弾性結合部41は収縮変形し、Poly−Si微細構造層30のあらかじめ画定した部分を回転させ持ち上げる。
【0031】
先ず最初に、本発明により形成されたポリイミド弾性結合部とソルダーボールのそれぞれの長所と短所を比較してみると以下の通りである。
【0032】
本発明では、鉛汚染は生じない。
【0033】
本発明では、連結インターフェースを被覆する金パッドを追加する必要はなく、簡単で費用のかからない製造プロセスを提供することができる。
【0034】
本発明では、フォトリソグラフィ技術によって、相当高い精度で位置合わせを行い、より良い精度を提供できる。
【0035】
本発明は、一体的小型化平面自己組織化処理を行うことができる。
【0036】
本発明の小型化寸法には限界が無い。
【0037】
さらに、本発明により形成されたポリイミド弾性結合部とフォトレジストを用いて形成されたポリイミド弾性結合部のそれぞれ長所と短所を比較すると以下の通りである。
【0038】
感光性ポリイミドとフォトレジストは共にポリマー材料として分類されるが、ポリイミドは、より大きい表面張力を有し、同じ微細構造層であればより大きな角度で立ち上げることができる。その結果、本発明は、弾性結合部がIPAによって溶解により損傷を受ける心配が無い。
【0039】
感光性ポリイミド薄膜は、十分な耐有機溶液性を有するので、費用のかからないウエットエッチングプロセスで形成できる。従って、本発明の製作コストは低く、比較的おさえることができる。
【0040】
要約すれば、本発明は、製造プロセスを簡素化し、コストを下げ、ソルダーボールやフォトレジストにより形成される弾性結合部から生じる問題を完全に解決することができる。
【0041】
さらに、図2に示すように、時間と温度はPoly−Si微細構造層30の予め画定された立ち上がり部の立ち上がり角度に直接影響する。結果として、ポリイミドの時間とリフロー温度を管理することにより、微細構造層30の予め画定した立ち上がり部の立ち上がり角度が正確に制御できる。
【0042】
厚さ20μmの感光性ポリイミド薄膜の実験に基づく実際の結果を以下に示す。
【0043】
パターン化された微細構造層30は、リフロープロセスの温度が330℃未満では持ち上げることができない。
【0044】
立ち上がり現象は、ポリイミドのリフロー温度が380℃以上に達した時から、徐々に現れる。
【0045】
実験結果によれば、450℃のリフロー温度における立ち上がり角度は、380℃における立ち上がり角度よりも大きいが、450℃での歩留りは380℃での歩留りの半分以下である。これは、感光性ポリイミド薄膜が、405℃(あるいは以上)で過剰に収縮し、ポリイミドの幅がPoly−Si微細構造層30の可動部と静止部間の隙間より小さくなるということに基づくものであり、ポリイミド弾性結合部41の機能不良となる。
【0046】
発明者の経験では、ポリイミドベース弾性結合の最適なリフロー温度は380℃である。
【0047】
上記の製造プロセスによって、本発明は、ソルダーボールあるいはフォトレジストの弾性結合から生じる多くの問題を完全に解決し、自己組織化技術を多様な小型化業界に広く適用することが可能となる。従って、本発明は、新規で進歩的なだけではなく、産業上の利用性も有する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は本発明の製造プロセスを示す概略図である。
【図2】図2は本発明のポリイミドのリフロー温度と微細構造層の立ち上げ角度の間の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.シリコン基板上に犠牲層を蒸着し、前記犠牲層上に低応力微細構造層を蒸着する工程と、
b.前記犠牲層上に形成された微細構造をパターン化しエッチングする工程と、
c.前記微細構造層上にポリイミド薄膜を被覆する工程と、
d.前記ポリイミド薄膜上に形成された弾性結合部をパターン化しエッチングする工程と、
e.前記犠牲層の予め画定された輪郭部をエッチングし除去するためのウエットエッチングプロセスを行うステップと、
f.ポリイミドのリフロープロセスを行って弾性結合部を収縮させ、さらに前記微細構造層の予め画定された部分を回転させ持ち上げるステップと
を具備するポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項2】
前記低応力犠牲層が燐酸シリケートガラス(PSG)からなることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項3】
前記微細構造層が多結晶シリコン(Poly−Si)からなることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項4】
微小回転ファンの自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項5】
微小虫状チップの自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項6】
スクラッチ駆動アクチュエータの自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項7】
微小光学ベンチチップの自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項8】
微小光学スイッチの自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項9】
微小受動素子の自己組織化に適用したことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項10】
前記微小受動素子が微小誘導体であることを特徴とする、請求項9に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。
【請求項11】
前記微小受動素子が微小キャパシタであることを特徴とする、請求項9に記載のポリイミド薄膜自己組織化プロセス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−260113(P2008−260113A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106607(P2007−106607)
【出願日】平成19年4月14日(2007.4.14)
【出願人】(505381910)サノンウェルス エレクトリック マシーン インダストリー カンパニー リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】Sunonwealth Electric Machine Industry Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】12th Froor, 120 Chung Cheng 1st Road, Ling Ya Dt., Kaohsiung City, TAIWAN
【Fターム(参考)】