説明

ポリウレタンフォーム成形品の製造方法

【課題】物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品の製造方法において、該成形部同士の境界部をより精度良く設計位置に配置することが可能なポリウレタンフォーム成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】成形時にいずれのポリウレタンフォーム成形部13,14においても所定の成形圧となるように各ウレタン原液U,Uの注入量を求め、この注入量を各ウレタン原液の注入量の基準値G,Gとし、各ウレタン原液U,Uの注入の時間差に基づき、後から注入されるウレタン原液Uの注入量を該基準値Gよりも多くするか、先に注入されるウレタン原液Uの注入量を該基準値Gよりも少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォーム成形品の製造方法に係り、特に2種以上のウレタン原液を発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形するポリウレタンフォーム成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のシートに取り付けられる車両用シートパッドは、一般に軟質ポリウレタンフォーム又は半硬質ポリウレタンフォームで構成されている。
【0003】
車両用シートパッドにおいては、座面の尻下部は搭乗者の体重が最も多くかかり、この部分の材質は座り心地や乗り心地と密接な関係がある。従って、尻下部の構成材料は座り心地、乗り心地の観点から重要であるが、それ以外の部分は体重の負荷も小さく、相対的な重要度は低い。
【0004】
座り心地、乗り心地及び耐久性を損なうことなく、軽量化及びコストダウンを図った車両用シートパッドとして、座面の尻下部以外の一部又は全部が、該尻下部を構成する材料よりも低密度でかつ硬度がほぼ同等の材料で構成されている車両用シートパッドが特開2002−353102に記載されている。前述の如く、座り心地、乗り心地に加え、耐久性といった観点から、尻下部以外の部分には大きな負荷はかからず、従って、このように尻下部を構成する材料と硬度がほぼ同一であれば、尻下部以外の部分に低密度の安価な材料を用いても、十分に良好な性能を得ることができる。
【0005】
ポリウレタンフォームの成形方法として、金型に2種以上のウレタン原液を同時に或いは時間差をおいて注入して一体成形する方法は従来行われている。再表2004/058473には、いずれの成形部においても所定の成形圧(発泡成形時に発泡成形用金型内で到達する最大内圧)となるようにウレタン原液の注入量を設定してポリウレタンフォームを一体成形することが記載されている。このように、いずれの成形部においても所定の成形圧となるようにウレタン原液の注入量を設定することにより、各成形部が、より確実に目的とする物性ないし特性を有したポリウレタンフォーム成形品を製造することが可能となる。
【0006】
なお、金型の一半側に第1のウレタン原液を注入し、他半側に別種の第2のウレタン原液を注入する場合、第1のウレタン原液と第2のウレタン原液とを同時に注入すると、金型の中央部付近で第1のウレタン原液と第2のウレタン原液とが混ざり合ってしまう。これに対し、第1のウレタン原液の注入から所定時間遅れて第2のウレタン原液を注入すると、第1のウレタン原液から発泡しつつある第1の発泡物がある程度硬化してから第2のウレタン原液からの第2の発泡物が該第1の発泡物に接触するので、第1の発泡物と第2の発泡物とがそれ程混ざり合わないようになる。この結果、第1のウレタン原液から発泡成形された第1の成形部と、第2のウレタン原液から発泡成形される第2の成形部とからなる成形体が、両者間に比較的明瞭な境界部を有するように成形される。
【0007】
かかる時間差注入方式によると、例えば、低密度の腿下部と高密度の尻下部とが明確に区分されたポリウレタンフォーム製シートパッドが製造される。もちろん、このシートパッドは、腿下部から尻下部にかけて一連一体であるが、腿下部と尻下部との境界付近で、腿下部から尻下部にかけて密度が明確に変化する密度分布を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−353102
【特許文献2】再表2004/058473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
物性ないし特性が異なる2部分以上の成形部を一体成形してなるポリウレタンフォーム成形品を製造するに当り、各成形部を成形するウレタン原液を、時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させた場合、先に注入されたウレタン原液(以下、第1のウレタン原液という。)が、後から注入されたウレタン原液(以下、第2のウレタン原液という。)よりも早く発泡を開始するため、第1のウレタン原液から発泡成形される成形部(以下、第1の成形部という。)と第2のウレタン原液から発泡成形される成形部(以下、第2の成形部という。)との予定境界位置(設計上の第1の成形部と第2の成形部との境界部)に、該第1のウレタン原液が先に到達し、この予定境界位置を越えて第2の成形部側へ膨張する。
【0010】
この場合、後から発泡を開始した第2のウレタン原液が第1のウレタン原液を押し戻すように膨張するが、先に発泡を開始した第1のウレタン原液は、第2のウレタン原液よりも先に樹脂化(硬化)し、粘度が上昇しているため、第2のウレタン原液が第1のウレタン原液を予定境界位置まで押し戻すことができないことがある。
【0011】
特に、第1のウレタン原液を注入してから第2のウレタン原液を注入するまでの時間差Δtが大きいほど、第1の成形部が予定境界位置をより大きく越えることになり、第1の成形部と第2の成形部との境界部が予定境界位置から離反することになる。
【0012】
本発明は、物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品の製造方法において、該成形部同士の境界部をより精度良く設計位置に配置することが可能なポリウレタンフォーム成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、物性ないし特性が異なるポリウレタンフォームを成形し得る2種以上のウレタン原液を発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形するポリウレタンフォーム成形品の製造方法であって、各ウレタン原液を所定の時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させるポリウレタンフォーム成形品の製造方法において、各ウレタン原液を同時に該発泡成形用金型内に注入すると仮定した場合において、成形時にいずれのポリウレタンフォーム成形部においても同一の所定の成形圧となる各ウレタン原液の注入量を求め、この注入量を各ウレタン原液の基準注入量とし、前記所定の時間差が大きくなるほど、
a) 後から注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも多くする、
b) 先に注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも少なくする、
の少なくとも一方よりなる注入量補正を行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1において、前記所定の成形圧において、硬度が同一で密度の異なるポリウレタンフォームを成形し得る2種以上のウレタン原液を前記発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、硬度が同一で密度の異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形することを特徴とするものである。
【0015】
請求項3のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項2において、前記所定の成形圧において各ウレタン原液により成形されるポリウレタンフォームの密度と、各ポリウレタンフォーム成形部の設計上の容積とに基づいて、各ウレタン原液の前記基準注入量を設定することを特徴とするものである。
【0016】
請求項4のポリウレタンフォーム成形品の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、各ウレタン原液を前記所定の時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させたときに、先に注入されたウレタン原液により成形された成形部と、後から注入されたウレタン原液により成形された成形部との境界部を、該後から注入されたウレタン原液の膨張力により設計上の境界位置まで押し戻すことを可能とする各ウレタン原料の成形圧を求め、この求められた成形圧と前記所定の成形圧との差に基づき、前記注入量補正を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明(請求項1)のポリウレタンフォーム成形品の製造方法にあっては、各ウレタン原液を同時に発泡成形用金型内に注入すると仮定した場合において、成形時にいずれのポリウレタンフォーム成形部においても所定の成形圧となるように各ウレタン原液の注入量を求め、この注入量を各ウレタン原液の基準注入量とする。そして、ポリウレタンフォーム成形品の製造時には、各ウレタン原液の注入の時間差に基づき、後から注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも多くするか、先に注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも少なくするか、又はその両方を行ってウレタン原液注入量を補正する。
【0018】
このようにウレタン原液注入量を補正することにより、成形部同士の境界部をより精度良く設計位置に配置することが可能となる。
【0019】
本発明は、請求項2の通り、硬度が同一で密度の異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を製造するのに好適である。この場合、所定の成形圧において、硬度が同一で密度の異なるポリウレタンフォームを成形し得る2種以上のウレタン原液を発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、より確実に、各ポリウレタンフォーム成形部が所期の硬度及び密度を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形することが可能である。
【0020】
この場合、請求項3の通り、前記所定の成形圧において各ウレタン原液により成形されるポリウレタンフォームの密度と、各ウレタン原液により成形されるポリウレタンフォーム成形部の設計上の容積とに基づいて、各ウレタン原液の基準注入量を設定するのが好ましい。このようにすることにより、各ウレタン原液の基準注入量を容易に設定することが可能となる。
【0021】
請求項4の通り、各ウレタン原液を前記所定の時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させたときに、先に注入されたウレタン原液により成形された成形部と、後から注入されたウレタン原液により成形された成形部との境界部を、該後から注入されたウレタン原液の膨張力により設計上の境界位置まで押し戻すことを可能とする各ウレタン原料の成形圧を求め、この求められた成形圧と前記所定の成形圧との差に基づき、ウレタン原液の注入量を補正することにより、各ウレタン原液の最適な注入量を、各ウレタン原液の注入の時間差に応じて容易に且つ精度良く求めることが可能となる。
【0022】
なお、本発明において、ポリウレタンフォームの密度とは「OA密度(オーバーオール密度;総密度)」を示す。OA密度は、ポリウレタンフォームの重量を体積で除する(フォーム重量/体積)ことにより測定される。また、硬度は、「25%硬度」である。この25%硬度は、ポリウレタンフォームを直径200mmの加圧板にて厚さが加圧前の25%となるまで圧縮し、そのときの荷重を測定することにより求められる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係るポリウレタンフォーム成形品の製造方法の説明図である。
【図2】第1のウレタン原液及び第2のウレタン原液を、注入量を補正せずに発泡成形用金型に注入してポリウレタンフォーム成形品を製造した場合の説明図である。
【図3】図1のポリウレタンフォーム成形品の製造方法における第1のウレタン原液及び第2のウレタン原液の基準注入量の求め方の説明図である。
【図4】参考例における注入時間差と各成形部の密度との関係を示すグラフである。
【図5】参考例における注入時間差と補正成形圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、以下の各実施の形態では、物性ないし特性が異なる2部分のポリウレタンフォーム成形部が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品の製造方法を例示しているが、本発明は、物性ないし特性が異なる3部分以上のポリウレタンフォーム成形部が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品の製造方法にも適用可能である。
【0025】
第1図は、実施の形態に係るポリウレタンフォーム成形品の製造方法を説明する発泡成形用金型の概略的な断面図であり、第2図は、第1のウレタン原液と第2のウレタン原液とを、各々の注入量を補正せずに発泡成形用金型に注入してポリウレタンフォーム成形品を製造した場合を説明する発泡成形用金型の概略的な断面図である。第1図及び第2図において、それぞれ、(a)図は発泡成形用金型の第1の成形空間への第1のウレタン原液の注入時を示し、(b)図は発泡成形用金型の第2の成形空間への第2のウレタン原液の注入時を示し、(c)図は該第1のウレタン原液及び第2のウレタン原液の発泡途中時を示し、(d)図は該第1のウレタン原液及び第2のウレタン原液の発泡完了時を示している。第3図は、このポリウレタンフォーム成形品の製造方法における第1のウレタン原液及び第2のウレタン原液の基準注入量の求め方の説明図であり、(a)図はウレタン原液の成形圧と、成形されたポリウレタンフォームのOA密度との関係を示すグラフであり、(b)図はこのポリウレタンフォームの25%硬度とOA密度との関係を示すグラフである。
【0026】
以下、物性ないし特性が異なる2部分のポリウレタンフォーム成形部(以下、単に成形部と略すことがある。)2,3が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品1の製造方法について説明する。なお、第1図(の説明)においては、このポリウレタンフォーム成形品1は直方体形状のものとして図示されているが、ポリウレタンフォーム成形品1の形状はこれに限定されない。この実施の形態では、ポリウレタンフォーム成形品1は、その長手方向(第1図(d)における左右方向)の一半側が第1の成形部2となっており、他半側が第2の成形部3となっている。なお、各成形部2,3の形状や配置はこれに限定されない。
【0027】
第1の成形部2と第2の成形部3とは、所定の成形圧(発泡成形時に発泡成形用金型内で到達する最大内圧)Pにて硬度H、密度Dのポリウレタンフォームを成形し得る第1のウレタン原液Uと、この所定の成形圧(即ち第1のウレタン原液Uと同一の成形圧)にて硬度H、密度Dのポリウレタンフォームを成形し得る第2のウレタン原液Uとを発泡成形用金型(以下、単に金型と略すことがある。)10にそれぞれ所定量注入して発泡させることにより一体成形される。第1のウレタン原液Uが発泡してなるポリウレタンフォームにより第1の成形部2が成形され、第2のウレタン原液Uが発泡してなるポリウレタンフォームにより第2の成形部3が成形される。
【0028】
この実施の形態では、硬度HとHとはほぼ同一であり、密度DとDとは異なるものとなっている。ポリウレタンフォーム成形品1が車両用シートパッドの場合、硬度がほぼ同一とは、硬度差が20N以下、特に0〜4.9Nであることをいう。密度が異なるとは、密度差が3kg/m以上、特に10〜50kg/m程度異なることをいう。なお、前述の通り、密度はOA密度であり、硬度は25%硬度である。
【0029】
この金型10は、下型11と上型12とを有している。金型10内は、第1の成形部2と第2の成形部3との予定境界位置BL(設計上の第1の成形部2と第2の成形部3との境界部)を挟んで一半側が、第1の成形部2を成形するための第1の成形空間13となっており、他半側が、第2の成形部3を成形するための第2の成形空間14となっている。この実施の形態では、成形空間13,14同士は水平に連続している。この実施の形態では、予定境界位置BLは、ポリウレタンフォーム成形品1の長手方向の中間に配置され、第1の成形部2と第2の成形部3とがほぼ同一の形状及び体積となるように設定されているが、予定境界位置BLの配置はこれに限定されない。
【0030】
上型12には、第1の成形空間13に第1のウレタン原液Uを注入するための第1の注入部15と、第2の成形空間14に第2のウレタン原液Uを注入するための第2の注入部16とが設けられている。第1の注入部15は第1の成形空間13の中央部の上方に配置され、第2の注入部16は第2の成形空間14の中央部の上方に配置されており、第1の注入部15から予定境界位置BLまでの距離と、第2の注入部16から予定境界位置BLまでの距離とが等距離となっている。
【0031】
ポリウレタンフォーム成形品1を製造するに当っては、まず第1図(a)又は第2図(a)の通り時刻tに第1の注入部15から第1の成形空間13に第1のウレタン原液Uを注入する。ウレタン原液Uはこの注入直後から発泡を開始する。この時刻tから所定時間Δtが経過した時刻tになったならば、第1図(b)又は第2図(b)の通り第2の注入部16から第2の成形空間14に第2のウレタン原液Uを注入する。ウレタン原液Uはこの注入直後から発泡を開始する。
【0032】
第1のウレタン原液Uが第2のウレタン原液UよりもΔtだけ早く発泡を開始するので、第1のウレタン原液Uが先に予定境界位置BLまで膨張する。このとき、第2のウレタン原液Uは予定境界位置BLまで膨張していないため、該第1のウレタン原液Uは、その後、第1図(c)又は第2図(c)の通り、予定境界位置BLを越えて第2の成形空間14側まで膨張する。その後、後から発泡を開始した第2のウレタン原液Uが第1のウレタン原液Uを予定境界位置BLまで押し戻すように膨張するが、先に発泡を開始した第1のウレタン原液Uは、第2のウレタン原液Uよりも先に樹脂化(硬化)し、粘度が上昇しているため、第2のウレタン原液Uが十分に第1のウレタン原液Uを予定境界位置BLまで押し戻すことができないことがある。この場合、第2図(d)の通り、成形後のポリウレタンフォーム成形品1’の成形部2’,3’同士の境界部は予定境界位置BLよりも第2の成形空間14側に位置したものとなる。
【0033】
上記第1のウレタン原液Uの注入時刻tと第2のウレタン原液Uの注入時刻tとの時間差Δtが大きい(長い)ほど、第1の成形部2は第2の成形空間14に深く入り込み、成形品1における成形部2,3の境界部は予定境界位置BLよりも第2の成形空間14側に位置する。
【0034】
第1のウレタン原液Uの注入量を少なくするか、第2のウレタン原液Uの注入量を多くするか、もしくは第1のウレタン原液Uの注入量を少なくし且つ第2のウレタン原液Uの注入量を多くすることにより、第2のウレタン原液Uの成形圧が高まるために、第2の成形部3が第1の成形部2を予定境界位置BL側に強く押し戻すことができるため、成形部2,3の境界部は予定境界位置BLに合致又は近づくことになる。
【0035】
そこで、本発明では、上記時間差Δt(=t−t)が大きくなるほど、ウレタン原液U,Uの基準注入量に比べて第1のウレタン原液Uの注入量を少なくするか、第2のウレタン原液Uの注入量を多くするか、もしくは第1のウレタン原液Uの注入量を少なくし且つ第2のウレタン原液Uの注入量を多くする。特に、その際、注入時間差Δtと各ウレタン原液U,Uの成形圧との関係を求めておけば、当該注入時間差Δtにおいて、第2のウレタン原液Uの膨張力によって成形部2,3の境界部を予定境界位置BLまで押し戻すためには該第2のウレタン原液Uの成形圧を前記所定成形圧Pからどの程度上昇させればよいか(以下、この第2のウレタン原液Uの成形圧の前記所定成形圧Pからの補正量を補正成形圧ΔPという。)、又は第1のウレタン原液Uの成形圧を前記所定成形圧Pからどの程度低下させればよいか(以下、この第1のウレタン原液Uの成形圧の前記所定成形圧Pからの補正量を補正成形圧ΔPという。)が求められ、それによってウレタン原液U,Uの注入量をどの程度補正すべきか、より正確に求めることができる。なお、この補正成形圧ΔP,ΔPの求め方については後述する。
【0036】
このウレタン原液の基準注入量は、ウレタン原液の配合によっても異なるので、まずウレタン原液の配合決定方法を説明する。この実施の形態では、各ウレタン原液U,Uは、以下のようにして調製される。
【0037】
成形されるポリウレタンフォームの密度は、主にウレタン原液のポリオール配合液中に含まれる発泡剤としての水の量によって決定される。
【0038】
従って、ウレタン原液の調製に当たり、ポリオール配合液中の水の量を調整し、後述の実施例1に示す如く、2種類のウレタン原液により成形されるポリウレタンフォームの成形圧とOA密度との関係(第3図(a))を調べる。そして、同一の成形圧において、OA密度が異なり、所望のOA密度差となる2種類のウレタン原液、即ち、より高密度のポリウレタンフォームを成形するためのウレタン原液(以下「高密度用ウレタン原液」と称す。)と、より低い密度のポリウレタンフォームを成形するためのウレタン原液(以下「低密度用ウレタン原液」と称す。)の各組成を設定する。このとき、同一の成形圧において、高密度用ウレタン原液により成形される高密度ポリウレタンフォームの密度をDとし、低密度用ウレタン原液により成形される低密度ポリウレタンフォームの密度をDとする(D>D)。
【0039】
次に、この高密度ポリウレタンフォームと低密度ポリウレタンフォームとについて、後述の実施例1に示す如く、OA密度と25%硬度との関係(第3図(b))を調べ、例えば、高密度ポリウレタンフォームの密度がDのときに、低密度ポリウレタンフォームの密度がDのときの25%硬度と同等の硬度が得られるように、高密度用ウレタン原液のイソシアネートインデックスを調整する。この調整は、例えば、イソシアネート成分とポリオール配合液との配合を微調整するのみで良い。このような調整を行うことにより、高密度用ウレタン原液によって成形されたポリウレタンフォームの密度と成形圧との関係は殆ど変わることがなく、従って、同一の成形圧にて、同一硬度、異密度のポリウレタンフォームを成形し得る高密度用ウレタン原液と低密度用ウレタン原液の組成を設定することができる。このようにして調製された高密度用ウレタン原液及び低密度用ウレタン原液を第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uとして用いる。この実施の形態では、高密度用ウレタン原液を第1のウレタン原液Uとし、低密度用ウレタン原液を第2のウレタン原液Uとする。なお、これとは逆に、低密度用ウレタン原液を第1のウレタン原液Uとし、高密度用ウレタン原液を第2のウレタン原液Uとしてもよい。
【0040】
上記のイソシアネートインデックスの調整は、低密度ポリウレタンフォームの密度がDのときに、高密度ポリウレタンフォームの密度がDのときの25%硬度と同等の硬度が得られるように、低密度用ウレタン原液に対して行っても良い。
【0041】
以上のウレタン原液の調製方法は、前述の再表2004/058473と同様である。
【0042】
なお、以上の調製方法は、同一の成形圧において硬度が同一で密度の異なるポリウレタンフォームを成形可能な2種類のウレタン原液を調製する方法の一例であって、本発明におけるウレタン原液の調製方法は、何ら上記の方法に限定されるものではない。
【0043】
このようにして調製された第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uの基準注入量は、以下のようにして決定される。
【0044】
まず、前記密度D,Dから、第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uを同時に注入すると仮定した場合において、各成形空間13,14において所定の同一の成形圧Pが得られる第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uの注入量を求め、このときの注入量を、実際にポリウレタンフォーム成形品1を製造するに当って第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uの基準注入量G,Gとする。具体的には、この第1のウレタン原液Uの基準注入量Gは、第1の成形空間13の容積Vと前記密度Dとの積から求められる(G=V×D)。また、第2のウレタン原液Uの基準注入量Gは、第2の成形空間14の容積Vと前記密度Dとの積から求められる(G=V×D)。
【0045】
次に、第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uに関し、それぞれ、後述の第5図のような注入時間差Δtと前記補正成形圧ΔP,ΔPとの関係を求め、当該注入時間差Δtにおける補正成形圧ΔP,ΔPに基づいて基準注入量G,Gを補正し、実際にポリウレタンフォーム成形品1を製造(量産)する際の第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uの注入量を設定する。
【0046】
即ち、時間差Δtが大きくなるほど、基準注入量G,Gに比べて、第1のウレタン原液Uの注入量を少なくするか、第2のウレタン原液Uの注入量を多くするか、もしくは第1のウレタン原液Uの注入量を少なくし且つ第2のウレタン原液Uの注入量を多くする。
【0047】
注入時間差Δtと補正成形圧ΔP,ΔPとの関係は、次のように試作に基づいて求められる。この際、実際にポリウレタンフォーム成形品1を製造(量産)するのに用いられる金型で試作を行う代わりに、テストピース成形用金型を用いて試作を行うのが好ましい。このテストピース成形用金型は、一般的に、ウレタン原液を所定の大きさの直方体形状に発泡成形し、その発泡特性(成形圧等)や、成形後のポリウレタンフォームの物性(密度等)を調べるのに用いられるものである。この実施の形態では、該テストピース成形用金型は、それぞれ直方体形状(底面の直交2方向の辺の長さがそれぞれ400mm及び200mm、高さ100mm)の第1の成形空間13と第2の成形空間14とが水平に連なっており、これらの成形空間の天井部の中央にそれぞれウレタン原液を注入するための注入部が設けられた構成となっている。このテストピース成形用金型内には、第1の成形空間13及び第2の成形空間14内における成形圧をそれぞれ測定するための圧力センサが設けられている。この第1の成形空間に第1のウレタン原液Uを注入し、所定の時間差Δtをおいて第2の成形空間に第2のウレタン原液Uを注入して発泡させることにより、第1のウレタン原液Uにより成形された第1の部分2’と、第2のウレタン原液Uにより成形された第2の部分3’とを有するテストピース(試作品)1’が得られる。第2図は、このテストピース製作工程を示したものである。
【0048】
注入時間差Δtと第1のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとの関係は、以下のようにして求められる。ある注入時間差Δtの時に、第1のウレタン原液Uの注入量を基準注入量Gから少しずつ減らした上記試作品1’を複数個試作し、各試作品1’において、第1の成形部2’の密度D’をそれぞれ測定する。これにより、各試作品1’における第1の成形部2’の密度D’と、量産品における第1の成形部2の設定密度Dとの差がどの程度あるかが分かるので、その密度差(D’−D)から、この密度差を解消するのに必要な補正成形圧ΔPを算出する。補正成形圧ΔPは、この密度差にほぼ比例している(例えば、D’−D=ΔDkg/mである場合には、前記所定成形圧Pからの補正成形圧ΔPは、ほぼpΔD(pは比例定数。具体的には、p=0.047程度)kgf/cmとなる。)。なお、例えば仮に、試作品1’を複数個試作しているうちに、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した試作品1’が得られた場合には、この試作品1’における密度D’と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出する。あるいは、各試作品1’の成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置と合致しなくても、複数個の成形品1’の密度D’の値から、内挿により、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した場合の密度D’を予想し、この密度D’の内挿値と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出することもできる。これを、注入時間差Δtを変更して複数回繰り返すことにより、第5図のような注入時間差Δtと第1のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとの関係を示すグラフが得られる。
【0049】
注入時間差Δtと第2のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとの関係は、以下のようにして求められる。ある注入時間差Δtの時に、第2のウレタン原液Uの注入量を基準注入量Gから少しずつ増やした上記試作品1’を複数個試作し、各試作品1’において、第2の成形部3’の密度D’をそれぞれ測定する。これにより、各試作品1’における第2の成形部3’の密度D’と、量産品における第2の成形部3の設定密度Dとの差がどの程度であるかが分かるので、その密度差(D’−D)から、この密度差を解消するのに必要な補正成形圧ΔPを算出する。補正成形圧ΔPは、この密度差にほぼ比例している(例えば、D’−D=ΔDkg/mである場合には、前記所定成形圧Pからの補正成形圧ΔPは、ほぼpΔD(pは比例定数。具体的には、p=0.052程度)kgf/cmとなる。)。なお、例えば仮に、試作品1’を複数個試作しているうちに、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した試作品1’が得られた場合には、この試作品1’における密度D’と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出する。あるいは、各試作品1’の成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置と合致しなくても、複数個の成形品1’の密度D’の値から、内挿により、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した場合の密度D’を予想し、この密度D’の内挿値と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出することもできる。これを、注入時間差Δtを変更して複数回繰り返すことにより、第5図のような注入時間差Δtと第2のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとの関係を示すグラフが得られる。
【0050】
この補正成形圧ΔP,ΔPに基づき、第2のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gからどの程度増加させればよいか(以下、この第2のウレタン原液Uの注入量の前記基準注入量Gからの補正量を補正注入量ΔGという。)、又は第1のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gからどの程度減少させればよいか(以下、この第1のウレタン原液Uの注入量の前記基準注入量Gからの補正量を補正注入量ΔGという。)が求められる。具体的には、補正注入量ΔGを求める場合には、上記の注入時間差Δtと補正成形圧ΔPとのグラフから、当該注入時間差Δtにおける補正成形圧ΔPを求める。そして、第2のウレタン原液Uの成形圧をこの補正成形圧ΔPだけ上昇させるために、第2のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gからどの程度増加させればよいか算出する。この算出値が補正注入量ΔGとなる。また、補正注入量ΔGを求める場合には、上記の注入時間差Δtと補正成形圧ΔPとのグラフから、当該注入時間差Δtにおける補正成形圧ΔPを求める。そして、第1のウレタン原液Uの成形圧をこの補正成形圧ΔPだけ下降させるために、第1のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gからどの程度減少させればよいか算出する。この算出値が補正注入量ΔGとなる。
【0051】
このように、注入時間差Δtに対する補正成形圧ΔP,ΔPを計算しておくと、ウレタン原液U,Uの配合そのものの変更や、配合の組合せの変更などに関わらず、正確にウレタン原液U,Uの補正注入量ΔG,ΔGを求めることが可能である。
【0052】
本発明では、具体的なウレタン原液U,Uの注入量の増減量の決定は、以下の注入量補正方法1〜3のいずれかを行う。
【0053】
[注入量補正方法1]
ポリウレタンフォーム成形品1の製造時の実際の注入時間差Δtから上記の手順にて第2のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPを求め、この補正成形圧ΔPに基づいて補正注入量ΔGを求め、第2のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gよりもこの補正注入量ΔGだけ多くする。
【0054】
このように補正することにより、第2のウレタン原液Uがより大きく膨張しようとするため、第2のウレタン原液Uが第1のウレタン原液Uをより強く押し戻すことが可能となり、第1図(d)の通り、成形後のポリウレタンフォーム成形品1において、成形部2,3同士の境界部が予定境界位置BLに合致するか又は接近する(成形部2,3同士の境界部と予定境界位置BLとの離反距離が好ましくは、50mm以下、特に好ましくは20mm以下となる)ようになる。なお、第1の成形部2と第2の成形部3との境界部は、第2図の通り、該第2の成形部3側へ凸曲面状に入り込むことが多いが、この成形部2,3同士の境界部と予定境界位置BLとの離反距離とは、この凸曲面を平均的に見た場合の予定境界位置BLからの離反距離(この凸曲面と予定境界位置BLとの平均離反距離)を指す。
【0055】
[注入量補正方法2]
ポリウレタンフォーム成形品1の製造時の実際の注入時間差Δtから上記の手順にて第1のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPを求め、この補正成形圧ΔPに基づいて補正注入量ΔGを求め、第1のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gよりもこの補正注入量ΔGだけ少なくする。
【0056】
このように補正することにより、第1のウレタン原液Uが第2のウレタン原液Uに対抗して第2の成形空間14側へ膨張しようとする力が弱くなるため、第2のウレタン原液Uが第1のウレタン原液Uを十分に押し戻すことが可能となり、成形後のポリウレタンフォーム成形品1において、成形部2,3同士の境界部が予定境界位置BLに合致するか又は接近するようになる。
【0057】
[注入量補正方法3]
ポリウレタンフォーム成形品1の製造時の実際の注入時間差Δtから第1のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPと、第2のウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとを求め、この補正成形圧ΔP,ΔPに基づいて、第1のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gよりも少なくし、且つ第2のウレタン原液Uの注入量を前記基準注入量Gよりも多くする。
【0058】
この場合、例えば、補正成形圧ΔP,ΔPに基づいて求められる各ウレタン原液U,Uの補正注入量ΔG,ΔGをそれぞれ前記基準注入量G,Gに加算又は減算するのではなく、第2のウレタン原液Uの注入量をΔG/mだけ前記基準注入量Gよりも多くし、且つ第1のウレタン原液Uの注入量をΔG/nだけ前記基準注入量Gよりも少なくする。なお、m,nは、m=nであることが好ましく、特にm=n=2であることが好ましい。このように補正することにより、第2のウレタン原液Uがより大きく膨張しようとし、第1のウレタン原液Uをより強く押し戻すようになると共に、第1のウレタン原液Uが第2のウレタン原液Uに対抗して第2の成形空間14側へ膨張しようとする力が弱くなるため、第2のウレタン原液Uが第1のウレタン原液Uを十分に押し戻すことが可能となり、成形後のポリウレタンフォーム成形品1において、成形部2,3同士の境界部が予定境界位置BLに合致するか又は接近するようになる。
【0059】
なお、上記の補正方法は一例であり、本発明における第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uの注入量の補正方法はこれに限定されない。例えば、ポリウレタンフォーム成形品1の試作に基づいてウレタン原液U,Uの注入量を補正してもよい。このウレタン原液U,Uの補正量は経験則に基づいて決定してもよい。また、第1のウレタン原液Uを金型10に注入してから第2のウレタン原液Uを金型10に注入するまでの時間差Δtに応じて、どの程度、第1のウレタン原液U及び/又は第2のウレタン原液Uの注入量を補正すればよいか、予め実験等により指標を明らかにしておき、この指標に基づいて第1のウレタン原液U及び/又は第2のウレタン原液Uの注入量を補正するようにしてもよい。
【0060】
このようにして第1のウレタン原液U及び/又は第2のウレタン原液Uの注入量をそれぞれ前記基準注入量G,Gから補正した後、この補正された注入量を量産時の注入量としてポリウレタンフォーム成形品1を製造する。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
<実施例1>
下記配合のウレタン原液Aとウレタン原液Bとを用意した。なお、ウレタン原液Aのイソシアネートインデックスは36であり、ウレタン原液Bイソシアネートインデックスは41である。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
ウレタン原液Aとウレタン原液Bについて、OA密度と成形圧との関係を調べ、結果を第3図(a)に示した。第3図(a)より、成形圧P=0.647kgf/cm(63.4kPa)において、ウレタン原液Aにより成形されたポリウレタンフォームのOA密度は45.8kg/mであり、ウレタン原液Bにより成形されたポリウレタンフォームのOA密度は40kg/mであり、密度が異なることがわかる。
【0066】
このウレタン原液Aとウレタン原液Bについて、OA密度と25%硬度との関係を調べ、結果を第3図(b)に示した。第3図(b)より明らかなように、ウレタン原液Bにより成形されたポリウレタンフォームのOA密度が40kg/mのときに25%硬度は25.8kgfあるのに対し、ウレタン原液Aにより成形されたポリウレタンフォームのOA密度が45.8kg/mのときに、25%硬度は18kgfであり、ウレタン原液Bの25.8kgfよりもかなり低い。
【0067】
そこで、ウレタン原液Aについて、ポリオール配合液とイソシアネート成分との混合割合を徐々に変え、その場合のOA密度と25%硬度との関係を調べた。その結果、第3図(b)に示す如く、イソシアネートインデックスを37.5としたウレタン原液A’により成形されたポリウレタンフォームは、OA密度45.8kg/mのときに25%硬度が上記と同じ25.8kgfになることが判明した。なお、このウレタン原液A’により成形されたポリウレタンフォームのOA密度と最大内圧との関係は、ウレタン原液Aにより成形されたポリウレタンフォームのOA密度と最大内圧との関係とほぼ同等であり、OA密度45.8kg/mのときの最大内圧はいずれも0.647kgf/cmであった。
【0068】
上記の経緯に基づき、下記のウレタン原液A’及びウレタン原液Bを用いてポリウレタンフォーム成形品1を成形することとした。ウレタン原液A’を、第1の成形部2を成形するための第1のウレタン原液Uとし、ウレタン原液Bを、第2の成形部3を成形するための第2のウレタン原液Uとした。この実施例1では、P=0.647kgf/cm、D=45.8kg/m、D=40kg/mである。金型10の第1の成形空間13及び第2の成形空間14の容積はいずれも8000cmとした。金型10のキャビティ体積は16000cmである。
【0069】
【表3】

【0070】
このキャビティ内における成形時の最大内圧が、キャビティ内のいずれの箇所においても0.647kgf/cmとなるように各ウレタン原液U,Uの基準注入量G,Gを求めたところ、G=366.4g、G=320gであった。
【0071】
この基準注入量G,Gをそれぞれウレタン原液U,Uの注入量として試作品1’を製作した。第1のウレタン原液Uを金型10に注入してから第2のウレタン原液Uを金型10に注入するまでの時間差Δtは15秒とした。成形完了後、この試作品1’の各成形部2’,3’の密度D’,D’を測定した。D’はDよりも0.3kg/m小さく、D’はDよりも0.3kg/m大きなものとなった。そこで、予め作成しておいた注入時間差Δtとウレタン原液Uの補正成形圧ΔPとの関係を示すグラフから、Δt=15秒のときのウレタン原液Uの補正成形圧ΔPを求めたところ、ΔP=0.12kgf/cmであったので、それに基づきウレタン原液Uの注入量を基準注入量GよりもΔG=18.5g(即ちウレタン原液Uの成形圧を0.12kgf/cm程度上昇させるのに必要な増加量)多くして338.5gとするように補正し、この補正した注入量にてウレタン原液U,Uを金型10に注入したこと以外は試作品1’と同様にしてポリウレタンフォーム成形品1を製造した。
【0072】
このポリウレタンフォーム成形品1を長手方向にカットし、断面を目視により確認したところ、成形部2と成形部3との境界部は、該ポリウレタンフォーム成形品1の長手方向のほぼ中間に位置していた。
【0073】
以上詳述した通り、本発明によれば、物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部が一体成形されてなるポリウレタンフォーム成形品を製造するに当り、成形部同士の境界部をより精度良く設計位置に配置することが可能である。
【0074】
<参考例>
第1のウレタン原液U及び第2のウレタン原液Uとして同一配合のウレタン原液(同一成形圧Pにおいて同一密度のポリウレタンフォームを成形しうるウレタン原液)を使用し、このウレタン原液を実施例1と同一の金型10に時間差Δtをおいて注入してポリウレタンフォーム成形品1を製作した。この際、第2のウレタン原液Uには青色の着色を行い、成形後の第1の成形部2と第2の成形部3との境界部(合わせ目)が目視により容易に確認できるようにした。注入時間差Δtを6秒、15秒、20秒、25秒と変更してそれぞれポリウレタンフォーム成形品1を製作し、それぞれについて、各成形部2,3の密度と、成形部2,3同士の密度差を測定した。結果を表4及び第4図に示す。なお、第4図は表4をグラフ化したものである。表4及び第4図から、注入時間差Δtが大きくなるほど、成形部2,3同士の密度差(体積差)が生じ、且つその程度も大きくなることが分かる。
【0075】
【表4】

【0076】
注入時間差Δtを6秒、15秒、20秒及び25秒にそれぞれ固定し、第2のウレタン原液Uの注入量を少しずつ増やしながらポリウレタンフォーム成形品1を複数個試作することにより、当該注入時間差Δtにおいて成形部2,3同士の境界部が予定境界位置BLとほぼ合致するようになる補正成形圧ΔPを探索した。結果を第5図に示す。
【0077】
この参考例においては、補正成形圧ΔPは、以下のようにして求められる。ある注入時間差Δtの時に、第2のウレタン原液Uの注入量を基準注入量Gより少しずつ増やした試作品1’を複数個試作し、各試作品1’において、成形部2’,3’の密度D’,D’をそれぞれ測定する。これにより、各試作品1’における成形部2’,3’の密度D’,D’と、量産品における設定密度D,Dとの差がどの程度であるかが分かるので、その密度差(D’−D)から、この密度差を解消するのに必要な補正成形圧ΔPを算出する。前述の通り、補正成形圧ΔPは、この密度差にほぼ比例している。仮に、試作品1’を複数個試作しているうちに、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した試作品1’が得られた場合には、この試作品1’における密度D’と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出する。あるいは、各試作品1’の成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置と合致しなくても、複数個の成形品1’の密度D’の値から、内挿により、成形部2’,3’同士の境界部が設計上の予定位置とほぼ合致した場合の密度D’を予想し、この密度D’の内挿値と量産品の設定密度Dとの差から補正成形圧ΔPを算出することもできる。なお、この密度差(D’−D)から直接的に補正注入量を算出しない理由は、密度−成形圧の関係がウレタン原料の配合によって異なるためである。即ち、この密度差(D’−D)から当該注入時間差Δtにおける補正成形圧ΔPを算出することにより、第2のウレタン原液Uとしてどのような配合のウレタン原液を使用する場合にも(即ち、例えば仮にこの試作品1’を製作するのに用いたウレタン原液と配合が異なるウレタン原液を用いてポリウレタンフォーム成形品1を製作することになっても)、この補正成形圧ΔPから、第2のウレタン原液Uの補正注入量を求めることが可能となる。
【0078】
いくつかの注入時間差Δt(参考例では6秒、15秒、20秒及び25秒)について、上記の手順でそれぞれ補正成形圧ΔPを求めることにより、第5図の如き注入時間差Δtと補正成形圧ΔPとの関係を示すグラフが得られる。
【0079】
[考察]
この実験により、注入時間差Δtに応じて、補正成形圧ΔPが決定されることが明らかになった。
【符号の説明】
【0080】
1 ポリウレタンフォーム成形品
2 第1のポリウレタンフォーム成形部
3 第2のポリウレタンフォーム成形部
10 発泡成形用金型
11 下型
12 上型
13 第1の成形空間
14 第2の成形空間
15 第1の注入部
16 第2の注入部
第1のウレタン原液
第1のウレタン原液
BL 第1の成形部と第2の成形部との予定境界位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物性ないし特性が異なるポリウレタンフォームを成形し得る2種以上のウレタン原液を発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、物性ないし特性が異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形するポリウレタンフォーム成形品の製造方法であって、
各ウレタン原液を所定の時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させるポリウレタンフォーム成形品の製造方法において、
各ウレタン原液を同時に該発泡成形用金型内に注入すると仮定した場合において、成形時にいずれのポリウレタンフォーム成形部においても同一の所定の成形圧となる各ウレタン原液の注入量を求め、この注入量を各ウレタン原液の基準注入量とし、
前記所定の時間差が大きくなるほど、
a) 後から注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも多くする、
b) 先に注入されるウレタン原液の注入量を該基準注入量よりも少なくする、
の少なくとも一方よりなる注入量補正を行うことを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記所定の成形圧において、硬度が同一で密度の異なるポリウレタンフォームを成形し得る2種以上のウレタン原液を前記発泡成形用金型内に注入して発泡させることにより、硬度が同一で密度の異なる2部分以上のポリウレタンフォーム成形部を有するポリウレタンフォーム成形品を一体成形することを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記所定の成形圧において各ウレタン原液により成形されるポリウレタンフォームの密度と、各ポリウレタンフォーム成形部の設計上の容積とに基づいて、各ウレタン原液の前記基準注入量を設定することを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
各ウレタン原液を前記所定の時間差をおいて発泡成形用金型内に注入して発泡させたときに、先に注入されたウレタン原液により成形された成形部と、後から注入されたウレタン原液により成形された成形部との境界部を、該後から注入されたウレタン原液の膨張力により設計上の境界位置まで押し戻すことを可能とする各ウレタン原料の成形圧を求め、
この求められた成形圧と前記所定の成形圧との差に基づき、前記注入量補正を行うことを特徴とするポリウレタンフォーム成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91416(P2012−91416A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241210(P2010−241210)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】