説明

ポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法

【課題】 ポリエステル繊維屑から効率良く精製エステルモノマーを回収する方法を提供する。
【解決手段】 ポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法であって、(1)ポリエステル繊維屑をエチレングリコール(EG)により解重合してエステルモノマーを含むEG溶液とする工程、(2)EG溶液中の不溶解物を35℃を超える温度で濾別する工程、(3)EG溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる工程、(4)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得る工程、(5)粗エステルモノマーを、未使用のEGに溶解してEG溶液とする工程、および(6)EG溶液を精製して精製エステルモノマーを得る工程、からなる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法に関する。さらに詳しくは、ポリエステル繊維屑またはその造粒処理物であって染料や顔料の着色成分を含むものから精製エステルモノマーを効率良く回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記することがある)はその優れた特性により繊維、フィルム、樹脂成形品等として広く用いられているが、これらの製造工程で発生する繊維屑、フィルム屑、樹脂成形品屑等のポリエステル屑の有効利用はコスト低減の点から解決すべき課題となっている。また、ポリエステル製品として使用された繊維、フィルム、樹脂成形品は、通常、使用後に廃棄されるが、この廃棄が環境を悪化させるとして問題になっている。そこで、これらの処理方法として、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクル、ケミカルリサイクル等が検討され、またこれによる各種の提案がされている。
【0003】
このうち、マテリアルリサイクルとして、自治体を中心に、回収したPETボトル屑を粉砕、分離、精製処理に付して綺麗なPETフレークとし、次いでフレークをPET成形材料として再利用することが実施されている。しかし、繊維屑については均一な品質を確保するのが難しく、このリサイクル方法を採ることは極めて困難である。
また、ポリエステル屑を燃料に転化するサーマルリサイクルは、ポリエステル燃焼熱の再利用という利点を有するものの、ポリエステル原料の損失および二酸化炭素の発生という問題があり、省資源・環境保全の面からは好ましくない。
これに対してケミカルリサイクルは、ポリエステル屑を原料モノマーに戻し、これを再度重縮合反応に供して新しいポリエステルにすることから、回収処理に伴う品質の低下が少なく、クローズドループのリサイクルとして適している。
【0004】
このケミカルリサイクルによるポリエステル屑の再生利用法としては、例えば特許文献1には、ポリエステルの製造工程で発生した樹脂状、繊維状またはフィルム状のポリエステル屑を特定量比のエチレングリコール(以下、EGと略記することがある)により解重合した後、得られた芳香族ジカルボン酸ビスグリコールエステルおよびその低重合体(BHT)を未精製のまま再び重縮合反応に供して再生ポリエステルを得る方法等が提案されている。しかしこの方法は、解重合時間を短縮し、ジエチレングリコール等の不純物の少ないBHTを得ることができ、その結果、高品位、特に軟化点の高いポリマーを得ることができるという利点を有するものの、熱分解による着色を防止できず、またポリエステル屑と再生ポリエステルの組成が同じという特殊なケースしか採用できないという欠点がある。
【0005】
また、ポリエステル製造工程外の繊維を回収対象とした場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、綿等のポリエステルとは異なる繊維類の混入が避けられない場合がある。さらに材質がポリエステルであっても染料を含むものについては、該染料が解重合等の一連の反応中に分解し、回収エステルモノマーに着色成分として分散含有され、品質を著しく悪化させる。
そこで特許文献2には、ポリエステル繊維廃棄物からテレフタル酸を回収するに際し、他の繊維から分別したポリエステル繊維廃棄物を粉砕、造粒して粗製ポリエステルとする前処理工程と、該前処理工程で得られた粗製ポリエステルをグリコリシス−エステル交換法にて処理し、続いて得られたテレフタル酸ジメチルを加水分解処理してテレフタル酸とし、さらにこのテレフタル酸にアルキレングリコールを添加混合し、重合反応に適したテレフタル酸/アルキレングリコール比のスラリーとして回収する方法が提案されている。
さらにこの特許文献2には、前記粗製ポリエステルに染料が含有されている場合、該粗製ポリエステルを温度100〜190℃の溶剤(例えば、水、アルキレングリコール、ジメチルホルムアミド、パラキシレン、2−へプタノン等)中に投入して染料を抽出する抜染工程を経てから反応工程へと輸送することが記載されている。
【0006】
しかしながら、本発明者の検討によると、造粒した粗製ポリエステルに含まれている染料は水やアルキレングリコールでは実質的に抽出除去できないこと、他の抽剤でもその効率は低く、またその後の処理工程に負荷がかかり、そして抽剤が残存すると製品品質を劣化させる要因になることが問題であることが明らかになった。
また、本発明者は、PETボトル屑をケミカルリサイクルする方法として、PETボトル屑を過剰のエチレングリコール(EG)により解重合し、得られたビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレートとEGの混合溶液を活性炭処理、イオン交換処理、晶析処理等を組み合わせた精製処理に付し、さらに分子蒸留処理に付して高純度ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレートを得る方法(例えば、特許文献3、特許文献4等)を提案している。
【0007】
しかし、この方法をポリエステル繊維屑のケミカルリサイクルに適用しようとすると、ポリエステル繊維屑に含まれている染料等の着色成分が精製処理の負荷を過大にし、該方法がそのままでは適用できないことが明らかになった。
また、繊維状ポリエステルに含まれている着色成分をどの程度除去すれば、精製処理の負荷を過大にすることなく効率的にケミカルリサイクルできるかも明らかではなかった。
【特許文献1】特開昭48−61447号公報
【特許文献2】特開2003−128626号公報
【特許文献3】特開2000−169623号公報
【特許文献4】特開2000−255839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、ポリエステル繊維屑のケミカルリサイクル法を開発すべく鋭意検討した。その結果、以下の方法によれば、高純度の精製エステルモノマーを効率良く得ることができることを見出した。即ち、ポリエステル繊維屑またはその造粒処理物(例えば、チップ、ペレット等)を構成するエステル成分をEGにより解重合してエステルモノマーを含むグリコール溶液(解重合溶液)とする。次に該グリコール溶液に着色成分を除去する処理(濾過による顔料等の粗大粒子の除去処理、晶析分離による染料等の着色物質の除去処理)を施して粗エステルモノマーを得る。次いで該粗エステルモノマーを着色剤を含まない未使用のEGに再溶解してEG溶液とする。続いて該EG溶液に精製処理(吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせ)を施す。
【0009】
従って、本発明の目的は、従来のポリエステル繊維屑、特にPET繊維屑をケミカルリサイクルする際の問題点を解消し、ポリエステル繊維屑から精製されたエステルモノマーを効率良く回収する方法を提供することにある。本発明の他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、ポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法であって、
(1)ポリエステル繊維屑またはその造粒処理物を構成するエステル成分をエチレングリコールにより解重合してエステルモノマーを含むエチレングリコール溶液とする解重合工程、
(2)エチレングリコール溶液中の不溶解物を35℃を超える温度で濾別する濾別工程、
(3)濾別処理で得られたエチレングリコール溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる晶析工程、
(4)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得るモノマー分離工程、
(5)粗エステルモノマーを、未使用のエチレングリコールに溶解してエチレングリコール溶液とする溶解工程、および
(6)エチレングリコール溶液を精製して精製エステルモノマーを得るモノマー精製工程、
からなるポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法によって達成される。
【0011】
本発明においては、モノマー分離工程(4)の後、溶解工程(5)の前に、粗エステルモノマーの着色度がL値で50以上となるまで、
(a)粗エステルモノマーを未使用のエチレングリコールに溶解してエチレングリコール溶液とする工程、
(b)エチレングリコール溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる工程、および
(c)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得る工程からなる中間精製工程を実施することが好ましい。
【0012】
また、ポリエステル繊維屑を構成するエステル成分がポリエチレンテレフタレートであり、エステルモノマーがビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートであることが好ましい。さらにまた、モノマー精製工程においては、濾過処理、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらを組み合わせて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエステル繊維屑、例えば染料で着色されたポリエステル繊維屑、染料と顔料で着色されたポリエステル繊維屑、染料で着色されたポリエステル繊維と顔料で着色されたポリエステル繊維の混合繊維(例えば、混紡繊維、混織繊維、混編繊維、混不織布繊維等)からなる繊維屑などをケミカルリサイクルする方法の問題点を解消し、ポリエステル繊維屑から精製されたエステルモノマーを効率良く回収する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<ポリエステル繊維屑>
本発明におけるポリエステル繊維屑としては、まず、短繊維、長繊維等のポリエステル繊維の製造工程で発生した屑を挙げることができる。また、これらのポリエステル繊維を用いた織物、編物、不織布等の布帛や詰綿等の加工工程、染色工程、縫製工程などで発生した屑を挙げることができる。さらにまた、市場に出荷された後に回収されたトレーナー、ジャージ、フリース、傘地等のポリエステル繊維(製品)屑を挙げることができる。これらの中、クローズドループのリサイクルという観点から、市場に出荷された後に回収されたポリエステル繊維(製品)屑であることが好ましい。
【0015】
ポリエステル繊維屑は、ポリエステル繊維単独で廃棄されたり、他の繊維(例えば天然繊維)との混合繊維(例えば、混紡繊維、混織繊維、混編繊維、混不織布繊維等)という形で廃棄されることが多い。他の繊維が混ざっている場合には、回収処理の効率を高めるために、ポリエステル繊維の割合が50重量%以上、さらには70重量%、特に90重量%以上であることが好ましい。繊維屑がポリエステル繊維から主としてなるものであるか否かの判別、或いはその混合比率の判定にはUV判別法を用いることが好ましいが、他の方法であってもよい。ポリエステル繊維の割合が小さいものは本発明に供しないようにすることが好ましい。
【0016】
ポリエステル繊維は、通常、艶消し剤(例えば、酸化チタン、酸化ケイ素等)が使用されており、白色(調)繊維となっている。そして、この色調の繊維を染色することで種々の色調の着色繊維が製造される。また、この艶消し剤の替わりにカーボンブラックのような黒色顔料を用いて黒色ポリエステル繊維とすることもある。その際、黒色顔料との組み合わせで色調改善剤(例えば、染料等)を使用することもある。
【0017】
従って、本発明におけるポリエステル繊維屑は、この艶消し剤を使用した白色(調)繊維、この艶消し剤の替わりにカーボンブラックのような黒色顔料、そのほかの着色剤で着色されたものを対象とすることができる。また、無着色のものも対象とすることができる。また、無着色のものと、着色されたものとの混合物も対象とすることができる。なお、着色されたポリエステル繊維は、染料で着色されたポリエステル繊維、顔料で着色されたポリエステル繊維、或いは染料で着色されたポリエステル繊維と顔料で着色されたポリエステル繊維の混紡・混織繊維からなる。ポリエステルの着色に用いられた染料および/または顔料には特に制限はなく、例えば、直接染料、酸性染料、塩基性染料、媒染染料、酸性媒染染料、バット染料、分散染料、反応染料、蛍光増白染料、天然有機顔料、天然無機顔料、合成有機顔料、合成無機顔料等を挙げることができる。これらのうち、分散染料であることが好ましい。
【0018】
また、ポリエステル繊維には潤滑性、集束性、制電性、ぬれ性、撥水性等の要求特性を付与するために、通常、油剤(例えば、鉱物油、動植物油、脂肪族エステル、芳香族エステル、含硫黄エステル、アルキレンオキサイド共重合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、ノニオン、アニオン、カチオン、両性活性剤等の界面活性剤、等)が付着していることが多い。
【0019】
ポリエステル繊維屑は、解重合工程へ投入するのに支障をきたさない大きさや形状であれば特に制限はない。解重合装置への投入のハンドリングの効率を高めるには、繊維状であれば繊維長で1〜20cm、さらには2〜10cmであることが好ましい。また、布帛状のものは一辺の長さが、上記繊維長にほぼ近い長さの1〜20cm、さらには2〜10cmであることが好ましい。また、ポリエステル繊維屑は、解重合処理時のハンドリング性を高めたり、解重合装置に構造上の制約がある場合には、造粒してから解重合反応に供するのが好ましい。このような場合、造粒方法としては、溶融してペレタイザーで処理する方法、ポリエステル繊維の表面の一部のみを溶融させて造粒する方法、該ポリエステル繊維を圧縮造粒する方法等が好ましく例示できる。造粒処理物の形状は円筒状固形物であることが好ましく、該固形物の径の大きさは1〜20mm、さらには2〜10mm、長さは1〜60mm、さらには2〜50mmであることが好ましい。
【0020】
ポリエステル繊維屑を構成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。このポリエチレンテレフタレートはホモポリマーであることが好ましいが、第三成分を小割合(例えば、全酸成分に対し20モル%以下)共重合させたコポリマーであっても良い。また、他の縮合樹脂を小割合(例えば、全重量に対し20重量%以下)混合させたブレンドポリマーであっても良い。これらポリマーには、通常、繊維として要求される特性を付与するための改質剤(例えば、顔料、安定剤等)が含有されている。顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ、シリカゲル等を例示することができる。また、安定剤としては、リン化合物、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物等を例示することができる。
【0021】
<解重合工程(1)>
解重合工程は、ポリエステル繊維屑またはその造粒処理物を構成するエステル成分をEGを用いて解重合してエステルモノマーとし、エステルモノマーを含むEG溶液を得る工程である。この解重合処理においては、通常、ポリエステル繊維屑はそのままの状態で解重合に供するが、場合によっては、解重合処理時のハンドリング性を高めたり、解重合装置に構造上の制約がある場合には、造粒してから解重合反応に供するのが好ましい。造粒物の形状は円筒状固形物であることが好ましく、該固形物の径の大きさは1〜20mm、さらには2〜10mm、長さは1〜60mm、さらには2〜50mmであることが好ましい。
【0022】
ポリエステルを構成するエステル成分は、ジカルボン酸とジオール成分とがエステル結合を介して結合した単位のことをいい、重合度70〜200のポリマーから、重合度2〜10のオリゴマーまでを包含する。従って本発明によればエステル成分を解重合し、1個のジカルボン酸単位を有するビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、BHETと略記することがある)に例示されるエステルモノマーにまで分解する。
【0023】
解重合工程で使用するEGは、純度80重量%以上であることが好ましい。このEGは不純成分としての固形分、例えばBHETのようなエステル系固形分を、好ましくは10重量%以下含有することができる。また、不純成分としての液体分、例えば水、ジエチレングリコール等を、好ましくは10重量%以下含有することができる。この条件を満足するEGであれば特に制限はなく、例えば市場から入手するEG、後述するモノマー精製工程において発生する濾液または蒸発液のEG(回収EG)、およびこれらを蒸留精製したEG(蒸留精製EG)のいずれも使用することができる。また、これらのEGは単独で使用できるが、2種以上のEGを混合(例えば、回収EGと蒸留精製EGを混合)して使用することができる。これらのうち市場から入手するEG(特に、JIS K 1527の規定を満足するEG)を用いるのが好ましい。
【0024】
解重合温度は160〜270℃、さらには170〜250℃であることが好ましい。解重合時のポリエステルとEGの量比は、重量比で1:9〜3:7であることが好ましい。解重合触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメチラート、酢酸亜鉛等が好ましく挙げられる。また、触媒の量としては、ポリエステルに対し0.05〜0.50重量%、さらには0.15〜0.40重量%用いることが好ましい。解重合反応時間は、0.5〜7.0時間、さらには0.5〜5.0時間であることが好ましい。
【0025】
艶消し剤、特に酸化チタンの凝集剤としては、アルカリ土類金属化合物、特に水酸化カルシウムが好ましく挙げられる。また、添加量としては、ポリエステルに対して0.05〜0.50重量%、さらには0.15〜0.40重量%であることが好ましい。
得られるEG溶液中の固形分の濃度は10〜30重量%、さらには15〜25重量%であることが好ましい。この固形分は主としてエステルモノマーからなり、固形分中のオリゴマーの割合は1〜30重量%、さらには2〜20重量%である。
ポリエステル繊維屑を構成するエステル成分がエチレンテレフタレート単位である場合、解重合により、エステルモノマーとしてBHETが得られる。
【0026】
この場合、ポリエステル繊維屑の量がEGに対して少なすぎると、生成するBHETの量がEGの飽和溶解度より小さくなり、解重合工程で得られる全液量に対して得られる最大の収量より少ない量でしかBHETが得られなくなり、また、後述する晶析工程(3)、モノマー分離工程(4)の効率が悪くなるため経済的でない。一方、ポリエステル繊維製品の量がEGに対して多すぎると、BHETのオリゴマーが増加してBHETの収率が低下する。また、BHETがEGの飽和溶解度を超えて存在すると、BHETが析出するために脱イオン処理できなくなる。
【0027】
解重合は、反応装置に精留塔を設け、反応溶液から水分を系外へ留去しながら行うのが好ましい。その際、蒸発したEGは系内へ戻すようにするのが好ましい。解重合反応をこのようにして行うことで得られるEG溶液中の水分量を少なくすることができるので、エステルモノマーの加水分解反応を抑制することができる。EG溶液中に含まれる水分量が0.5重量%以下となるように調整することが好ましい。水分量は、前記溶液を京都電子工業(株)製カールフィッシャー水分計MKC−510Nにより計測することで得られる。
【0028】
(予備解重合)
解重合工程においては、EGによる解重合を行う前に、ポリエステルのモノマーおよび/またはオリゴマーを用いてポリエステル繊維屑を構成するエステル成分を予備解重合し、次いで予備解重合物をEGにより解重合(本解重合)することもできる。ポリエステルがPETの場合、ポリエステルのモノマーはBHET、オリゴマーはBHETのオリゴマーであることが好ましい。
【0029】
予備解重合は、ポリエステル繊維製品をそのモノマーおよび/またはオリゴマー(重合度2〜10)と200〜300℃、好ましくは230〜280℃の温度で混練することで行うのが好ましい。また、予備解重合の時間は1.0分〜5.0時間、さらには1.0分〜1.5時間行うことが好ましい。その際、ポリエステルに対するモノマーおよび/またはオリゴマー(重合度2〜10)の量は、ポリエステル1重量部当り、0.1〜1.0重量部、さらには0.2〜0.8重量部であることが好ましい。得られる予備解重合物はエステル成分で構成される。その分子量は重合度で2〜20、さらには3〜10であることが好ましい。
【0030】
予備解重合は、通常、常圧下で実施するが、その際ポリエステル繊維製品と一緒に系内に30重量%以下、さらには1〜25重量%の遊離EGや水のような低沸点成分が供給される場合には、これらを系外に蒸発除去しながら行うことが好ましい。また、反応系からの蒸発物が反応の進行を阻害しない程度の減圧下で実施してもよい。場合によっては加圧下、好ましくはEGの蒸気圧以下(例えば、1.3MPa以下)で蒸発物を系内に戻さないようにしながら行うこともできる。
【0031】
次いで予備解重合物は、予備解重合されなかった異物(炭化物等)を例えば孔径0.1〜2mmの金属製のストレーナーによって除去した後、EGを用いて解重合触媒の存在下160〜270℃、好ましくは180〜250℃の温度で解重合(本解重合)するのが好ましい。解重合触媒としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムメチラート、酢酸亜鉛等が好ましく挙げられる。また、触媒の量としては、予備解重合物をポリエステルに換算した値に対し0.05〜0.50重量%、さらには0.15〜0.40重量%用いることが好ましい。本解重合反応時間は、0.5〜5.0時間、さらには0.5〜4.0時間であることが好ましい。その際、酸化チタンの凝集剤としてはアルカリ土類金属化合物、さらにはカルシウム化合物(例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム等)が好ましく挙げられ、特に好ましくは水酸化カルシウムが挙げられる。また、EGの量は、予備解重合物1重量部当り、2〜10重量部、さらには3〜7重量部であることが好ましい。得られるEG溶液(解重合溶液)の固形分は主としてポリエステルのエステルモノマーからなり、オリゴマーの割合が1〜30重量%、さらには2〜20重量%に低減されたものである。この固形分の濃度は10〜30重量%、さらには15〜25重量%であることが好ましい。
【0032】
<濾別工程(2)>
濾別工程は、通常、前記EG溶液(解重合溶液)が不溶性物質(EGに不溶性の物質)を含んでいるため、前記EG溶液から該不溶性物質を濾別するための工程である。濾別工程は、35℃を超える温度、好ましくは38〜270℃、さらに好ましくは40〜250℃で行う。濾別工程は、下記第一段濾過処理、第二段濾過処理またはこれらの双方を行うことが好ましい。第一段および第二濾過処理の双方を行う場合には、第一段濾過処理を行った後に、第二段濾過処理を行うことが好ましい。
【0033】
(第一段濾過処理)
第一段濾過処理は、EG溶液(解重合溶液)を濾過し粗大物質を取り除く処理である。この濾過処理は、前記不溶性物質のうち解重合反応で分解されなかった粗大物質、例えば天然繊維屑等の固形異物を取り除くことが好ましい。例えば、EG溶液を、孔径0.1〜2mmの金属製のストレーナーに通すことが好ましい。その際、溶液は35℃を超える温度、好ましくは38〜270℃、さらに好ましくは40〜250℃に保持する。
【0034】
(第二段濾過処理)
第二段濾過処理は、EG溶液を濾過し比較的大きい固体粒子を取り除く処理である。この濾過処理は、解重合反応で分解されなかった固体粒子、例えば平均粒径が1〜500μm程度の固形異物(酸化チタン、カーボンブラック等の顔料等)を取り除くことが好ましい。例えば、EG溶液を、3〜20dtexの繊維(繊維状ポリエステル、ポリプロピレン繊維等)からなる濾材を空隙率70〜98%で充填した濾過装置に通すことが好ましい。その際、溶液は35℃を超える温度、好ましくは38〜150℃、さらに好ましくは40〜90℃の温度に降温・維持して濾過する。
【0035】
また、グリコール不溶性の顔料や酸化チタン等の比較的大きい固体粒子は、解重合工程で凝集剤を添加することにより、その殆どを0.5〜10μm程度に凝集させておいて、35℃を超える温度、さらに38〜150℃、特に40〜90℃の温度領域で、繊維濾材等のフィルターで第二段濾過処理により除去することが好ましい。
【0036】
(液々分離処理)
EG溶液に油剤成分が存在する場合には、油剤成分を液々分離することが好ましい。液々分離処理は、EG溶液に油剤成分が存在する場合、EG溶液と異なる液相で存在し、前記濾過処理において除去することができないため、該油剤成分を分離、除去するための処理である。ポリエステル繊維には、潤滑性、集束性、制電性、ぬれ性、撥水性等の要求特性を付与するために、通常、油剤(例えば、鉱物油、動植物油、脂肪族エステル、芳香族エステル、含硫黄エステル、アルキレンオキサイド共重合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、ノニオン、アニオン、カチオン、両性活性剤等の界面活性剤、等)が付着している。この油剤を除去するために、分液漏斗、デカンター、分離板型遠心分離機、バスケット型遠心分離機等の装置により液々分離することが好ましい。この分離処理は、第一段濾過処理の前、第一段濾過処理と第二段濾過処理の間、または第二段濾過処理の後のいずれにも処理することができるが、これらの中、第一段濾過処理と第二段濾過処理の間に行うことが特に好ましい。その際、溶液は35℃を超える温度、さらに38〜150℃、特に40〜90℃の温度で処理することが好ましい。
【0037】
<晶析工程(3)、モノマー分離工程(4)>
晶析工程(3)においては、濾別工程で処理されたEG溶液を35℃以下、好ましくは−10〜30℃に冷却して固形成分であるエステルモノマーを晶析させる。そして、モノマー分離工程(4)において、晶析工程で得られた固形物としてエステルモノマーを主とする晶析物を含むEG溶液を前記温度の低温に維持して加圧濾過、減圧濾過、遠心分離等で固液分離する。この晶析・モノマー分離工程は、着色成分(特に染料)を主としてEGからなる液体成分中に残し、固形成分であるエステルモノマー成分を粗エステルモノマーケークとして分離する工程である。この粗エステルモノマーケークには、通常固液分離装置の性能にもよるが、溶媒成分が好ましくは30〜60重量%、さらに好ましくは35〜55重量%含まれている。
【0038】
晶析処理を行うことにより、解重合によって分解されEG溶液中に溶解している、ナイロン等の合成繊維の成分(例えば、5−アミノカプロン酸のグリコールエステル、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸のグリコールエステル等)もEG中に溶解した状態となるため、粗エステルモノマーから分離することができる。
【0039】
<中間精製工程>
なお、エステルモノマー成分の割合や染料の種類、濃度等によって、1回の晶析・モノマー分離処理で目標とする染料等の除去が行えなかった場合は、モノマー分離工程(4)の後、溶解工程(5)の前に、粗エステルモノマーの着色度がL値で50以上となるまで、
(a)粗エステルモノマーを未使用のエチレングリコールに溶解してエチレングリコール溶液とする工程、
(b)エチレングリコール溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる工程、および
(c)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得る工程からなる中間精製工程を実施することが好ましい。
【0040】
中間精製処理を実施する回数は、1回以上、さらには1〜2回であることが好ましい。こうして得られた粗エステルモノマーの着色度は、L値で50以上、さらには60以上であることが好ましい。粗エステルモノマーの着色度は、反射測定用丸セルにケークを直接充填し、日本電色工業(株)製 色彩測定器 ZE−2000で測定することにより求める。
【0041】
この工程で使用する未使用のEGとは、市場から入手したEGの他、後述するモノマー精製工程において発生する濾液または蒸発液等を蒸留精製したEG(蒸留精製EG)を包含するものである。前記市場から入手したEGは、通常、JIS K 1527に規定されている品質を満足する。この未使用のEGは、上述から理解できるように外観が無色透明で浮遊物のないものであり、特に純度99重量%以上、さらには99.5重量%以上、着色度(APHA)は100以下、さらには50以下であることが好ましい。EGのAPHAは、比色管(内径25mm、高さ250mm)を使用して裸眼で試料と標準比色液(標準色)とを比較することによりAPHAを求め、これをEGの着色度とする。標準比色液は、塩化白金酸カリウム2.492g、塩化コバルト2.038gおよび特級の塩酸10mlの混合物に純水を加えて1リットルとして標準比色液原液を調製する。この原液を1、2、3、4、5、10および20ml採取し、それぞれ純水を加えて100mlとしたものを標準比色液とする。この標準比色液のAPHAは、原液濃度の薄いものから順番に10、20、30、40、50、100、および200とし、純水のみのAPHAは0とする。
【0042】
この品質のEGを中間精製工程で使用することにより、粗エステルモノマーの着色度(L値)を効率良く所望の値以上とすることができる。また、このようにして粗エステルモノマーの着色度を求めることにより、着色性物質の除去程度がわかり、これにより粗エステルモノマーをモノマー精製工程に供することが出来るかどうかを知ることができる。
【0043】
<溶解工程(5)>
溶解工程(5)においては、こうして得られた粗エステルモノマーケークをエステルモノマー成分の含有量が好ましくは10〜30重量%、さらに好ましくは15〜25重量%となるように未使用のEG(着色剤を含まないEG)に溶解して、再度、粗エステルモノマーのEG溶液とする。このときの溶解温度は60〜95℃、さらには70〜90℃であることが好ましい。
この工程で使用する未使用のEGとは、市場から入手したEGの他、後述するモノマー精製工程において発生する濾液または蒸発液等を蒸留精製したEG(蒸留精製EG)を包含するものである。前記市場から入手したEGは、通常、JIS K 1527に規定されている品質を満足する。この未使用のEGは、上述から理解できるように外観が無色透明で浮遊物のないものであり、特に純度99重量%以上、さらには99.5重量%以上、着色度(APHA)は100以下、さらには50以下であることが好ましい。
【0044】
<モノマー精製工程(6)>
モノマー精製工程(6)は、溶解工程で得られたEG溶液に精製処理を施して精製エステルモノマーを得る工程である。モノマー精製工程は吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせからなる。
EG溶液に含まれる微量の不純物や副反応促進成分等を取り除くには、吸着処理、イオン交換処理またはこれらの組み合わせによって除去することが好ましい。即ち、先の着色成分除去処理で除去しきれなかった微量の顔料などの微粒子は活性炭での吸着処理で除去し、さらに触媒残渣等のイオン性物質はイオン交換処理で除去して精製することが好ましい。
【0045】
また、ここまでの処理で除去できなかったEG可溶性不純物や副反応物は、晶析処理で除去することが好ましい。さらに晶析処理では除去しきれない残存低沸点物やオリゴマー等の高沸点不純物を蒸留処理で除去することが好ましい。
従って、本発明のモノマー精製工程は、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理および蒸留処理をこの順番で行うことが好ましい。
【0046】
(吸着処理)
吸着処理は、EG溶液中の不純物を活性炭、骨炭等の吸着剤により吸着する処理である。吸着処理は、EG溶液を60〜95℃、好ましくは70〜90℃の温度に維持し、活性炭を充填した吸着塔に空間速度(SV)0.1〜5.0hr−1で通液して行うことが好ましい。この吸着処理は微小な顔料等の着色剤を除去するものでもあり、脱色処理と云えるものである。活性炭としては、例えば三菱化学(株)製「ダイアホープ006」、「ダイアホープ008」等を挙げることができる。
【0047】
(イオン交換処理)
イオン交換処理は、EG溶液中の触媒残渣のようなイオン性物質やナイロンのような合成繊維を構成するアミン成分に由来するイオン性物質(例えば、ヘキサメチレンジアミン等)を取り除く処理である。イオン交換処理としては、EG溶液を60〜95℃、好ましくは70〜90℃の温度に維持し、カチオン交換体を充填した脱カチオン塔に空間速度(SV)1〜12hr−1で通液してカチオン交換処理し、その後、連結配管内を3秒〜10分で通過させてからアニオン交換体を充填した脱アニオン塔に空間速度(SV)0.5〜10hr−1で通液してアニオン交換処理するのが好ましい。カチオン交換体としては、例えばロームアンドハース社製カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」等を好ましく挙げることができる。また、アニオン交換体としては、例えばロームアンドハース社製アニオン交換樹脂「アンバーライトIRA96SB」とカチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」の混合物等を好ましく挙げることができる。このアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合(容量比)は1:3〜5:1であることが好ましい。
【0048】
(晶析処理)
晶析処理は、EG溶液を冷却し、エステルモノマー等の固形分を析出させ固液分離する処理である。晶析処理は、脱イオン処理を行った後の溶液(脱イオン処理溶液)を晶析槽において飽和溶解度以上の温度から15〜30℃の範囲の温度まで冷却し、この範囲の温度に1〜12時間維持して、析出物の平均粒子径が40〜200μm(島津製作所製SALD−200V ERを用いて、EGで10倍希釈して測定)になるようにエステルモノマーを析出させるのが好ましい。この脱イオン処理溶液を飽和溶解度以上の温度から冷却する場合、例えば0.1〜0.5℃/分の速度でゆっくりと冷却するのが好ましい。
【0049】
得られた析出物は固液分離により固形分を分離する。固液分離は、晶析処理時の温度、すなわち15〜30℃の範囲の温度を維持しながら行うのが好ましい。固液分離の方法は特に制限はないが、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離等の方法を好ましく挙げることができる。例えば、加圧濾過する場合、析出物を通気度が3〜30cm/min・cmの濾布を用いたフィルタープレスで濾別することが好ましく、吸引濾過する場合、保留粒子径が1〜30μmの濾紙または濾布を用いて濾別することが好ましい。さらにイソプロピルアルコールなどの有機溶媒を用いて、再結晶精製処理を行ってもよい。
【0050】
EG溶液の晶析処理において、モノマー分離工程(4)で得られた粗エステルモノマーケークに含まれてEG溶液に持ち込まれかつ該溶液中に溶解している、ナイロン等の合成繊維に由来する成分の一部(例えば、5−アミノカプロン酸のグリコールエステル、アジピン酸のグリコールエステル等)は、濾液中に溶解した状態となるため固形分から分離される。
【0051】
(蒸留処理)
蒸留処理は、晶析処理で得られたエステルモノマー等の固形分を蒸留精製して精製エステルモノマーを得る処理である。蒸留処理は、晶析処理で得られたエステルモノマー等の濾過ケークを70〜120℃で溶解し、融解液を第一蒸発装置に導入し、温度130〜170℃、圧力300〜1,000Paの条件で低沸点成分を蒸発(第一蒸発)させ、次いで第一蒸発を経た融解液を第二蒸発装置に導入し、温度130〜170℃、圧力50〜250Paの条件で、低沸点成分を蒸発(第二蒸発)させるのが好ましい。次いで、第二蒸発を経た融解液を流下薄膜式分子蒸留装置に導入し、温度180〜220℃、圧力25Pa以下の条件で蒸留(分子蒸留)し、留分としてエステルモノマーを得ることが好ましい。
【0052】
エステルモノマーを上述の操作により精製することにより、効率良く高品質なエステルモノマー、好ましくはビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を得ることができる。この精製BHETの純度は、90重量%以上、さらに95重量%以上が好ましく、380nmにおける光学密度(OD380)は、0.000〜0.010、さらに0.000〜0.008、特に0.000〜0.006であることが好ましい。
この精製BHETは、重合触媒の存在下で重合せしめることにより高品質の(例えば、色調に優れた)ポリエチレンテレフタレートを製造することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、この実施例によって本発明が限定されるものでないことは言うまでもない。また、例中の「部」は「重量部」を表し、「容量部」は、例えば、水の場合で1容量部が1重量部に換算できる単位である。例中の特性は下記の方法により測定する。
【0054】
<UV判別法>
フェノール/テトラクロロエタン=3/2混合溶液500ミリリットルにサンプル繊維1gを溶解し、No.5Aの濾紙で吸引濾過して残った不溶物をメタノールで洗浄、乾燥して不溶物の混入率を求める。続いて濾液の310nmにおける吸光度を、紫外可視分光光度計「UVmini−1240」((株)島津製作所製)で測定し、標準物質のポリエチレンテレフタレートの波形に一致したピークの高さを対比して、溶解しているポリエチレンテレフタレートの濃度を算定した。上記混入率と該濃度から、サンプル繊維中のポリエステル含有量を測定する。
【0055】
<光学密度測定法(OD380)>
サンプル5gをメタノールに溶解して10重量%メタノール溶液とし、UVmini−1240((株)島津製作所製)によりセル長10mmで、ブランクはメタノールを用いてゼロ点補正し、これらの溶液の380nmの吸光度を測定する。
【0056】
<BHETの純度>
試料50mgを精秤し、クロロホルム/エタノール=1/1(容量比)を用いて1,000ppmの溶液を調製し、これを高速液体クロマトグラムLC−2010HT((株)島津製作所製)に展開し、ピーク面積より試料中の各成分の割合を求め、その中からBHETの含有量を算出した。
【0057】
<着色度(L値)>
粗エステルモノマーの着色度は得られたケークのL値をもって表し、L値は次の方法で求める。反射測定用丸セルにケークを直接充填し、日本電色工業(株)製 色彩測定器 ZE−2000で測定することによりL値を求めた。
【0058】
〔実施例1〕
淡青色のフリース(タッグ表示:ポリエステル100%)のファスナーおよびタッグ等を除去して繊維屑として回収した。また、UV法により、布地がポリエステル繊維100%からなることを確認した。ついで該繊維屑を裁断して約3cm角としたものを102部採取した。この裁断品のL値は40であった。
【0059】
<解重合工程(1)>
この裁断品と、JIS K 1527で規定されている1号のエチレングリコール(EG)560部、水酸化ナトリウム(NaOH)0.25部および水酸化カルシウム(Ca(OH))0.25部を、還流装置および攪拌機付きのオートクレーブに投入し、常圧、EGの沸点下で3時間解重合を行った。その結果、酸化チタンの粗大粒子を含む淡青色の解重合溶液(EG溶液)が得られた。
【0060】
<濾別工程(2)>
得られた解重合溶液を190℃で孔径1mmの濾材に通液して第一段濾過処理を行った。次いで、この溶液を85℃にまで冷却し、この温度を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過して解重合溶液中の懸濁物質を除去し、濾液を受器に受けた。
【0061】
<晶析工程(3)、モノマー分離工程(4)>
濾別工程で得られた濾液を、85℃から40℃まで急冷した後、攪拌しつつ25℃まで徐冷して晶析を行い、結晶スラリーを得た。次いで、得られた結晶スラリーを、25℃を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過し、濾過物としてケークを得た。
得られたケークは189部であり、固形分63重量%、液成分37重量%であった。固形分中の組成はビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)87重量%、ダイマー5重量%、モノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(MHET)3重量%、その他5重量%であった。このケークは淡青色を呈していた。また、このケークのL値は75であった。
【0062】
<溶解工程(5)>
得られたケーク150部に、JIS K 1527で規定されている1号のEG322部を加えて85℃で加熱溶解して、EG溶液とした。
【0063】
<モノマー精製工程(6)>
(吸着処理)
このEG溶液を、30部の活性炭(三菱化学(株)製、「ダイアホープ006」)を充填した85℃保温カラムに空間速度(SV)3.0hr−1で通液して活性炭による吸着処理(脱色処理)を行った。
【0064】
(イオン交換処理)
次いで、このEG溶液を、30容量部のカチオン交換体(ロームアンドハース社製、強酸性カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」)を充填した85℃保温カラムに空間速度5.0hr−1で通液してカチオン交換処理を行った。さらに、このEG溶液を、30容量部のアニオン交換体(ロームアンドハース社製、強酸性カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」と、ロームアンドハース社製、弱塩基性アニオン交換樹脂「アンバーライトIRA−96SB」を1:2の容量比で混合したもの)を充填した85℃保温カラムに空間速度(SV)5.0hr−1で通液してアニオン交換処理を行い、脱イオン溶液を得た。
【0065】
(晶析処理)
得られた脱イオン溶液を攪拌しつつ85℃から0.2℃/分の速度で冷却し、25℃で2時間保持して晶析処理を行い、結晶スラリーを得た。次いで、得られた結晶スラリーを、25℃を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過し、ケークを得た。このときに発生した濾液は353部であった。
得られたケークは119部であり、固形分63重量%、液成分37重量%であった。固形分中の組成はBHET89重量%、ダイマー4重量%、MHET2重量%、その他5重量%であった。
【0066】
(蒸留処理)
得られたケークを100℃で加熱し融解液とした。EGを主とする低沸点物を溜去するために、この融解液を蒸発面の温度150℃、圧力500Paである流下薄膜式蒸発装置に導入して第一蒸発を行った。さらに、第一蒸発で得られた融解液を、蒸発面の温度150℃、圧力133Paである流下薄膜式蒸発装置に導入して第二蒸発を行い、粗BHETの濃縮液とした。得られた濃縮液は79部であり、BHETを主とする固形分濃度は99.6重量%であった。また、このときに発生した低沸点物(蒸発液)は40部であった。
得られた濃縮液を、蒸発面の温度195℃、圧力3Paである流下薄膜式分子蒸留装置に導入して分子蒸留を行い、精製BHETを得た。得られた精製BHETは55部であり、純度は97.2重量%、380nmにおける光学密度(OD380)は0.004であった。
【0067】
〔実施例2〕
濃赤色トレーニングパンツ(タッグ表示:ポリエステル100%)および撥水加工した濃紺雨傘(タッグ表示:ポリエステル100%)のファスナーや傘骨およびタッグ等を除去して繊維屑として回収した。これらについては、UV法により、布地がポリエステル繊維100%からなることを確認した。ついで夫々を裁断して約3cm角としたものを夫々51部採取した。これらの裁断品のうち、濃赤色トレーニングパンツ由来のもののL値は33、濃紺雨傘由来のもののL値は17であった。
【0068】
<解重合工程(1)>
実施例1のモノマー精製工程で発生した濾液353部と蒸発液40部、およびJIS K 1527で規定されている1号のEG167部を混合して、純度97重量%のEG560部を用意した。このEGと、上述した裁断品を混合したもの102部、水酸化ナトリウム(NaOH)0.25部および水酸化カルシウム(Ca(OH))0.25部を、還流装置および攪拌機付きのオートクレーブに投入し、常圧、EGの沸点下で3時間解重合を行った。その結果、酸化チタンの粗大粒子を含む暗赤色の解重合溶液(EG溶液)が得られた。
【0069】
<濾別工程(2)>
得られた解重合溶液を190℃で孔径1mmの濾材に通液して第一段濾過処理を行った。次いで、この溶液を85℃にまで冷却し、液々分離装置によって液表面に浮遊する油状物質を分液した。その後、この温度を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過して解重合溶液中の懸濁物質を除去し、濾液を受器に受けた。
【0070】
<晶析工程(3)、モノマー分離工程(4)>
濾別工程(2)で得られた濾液を、85℃から40℃まで急冷した後、攪拌しつつ25℃まで徐冷して晶析を行い、結晶スラリーを得た。次いで、得られた結晶スラリーを、25℃を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過し、濾過物としてケークを得た。
得られたケークは189部であり、固形分63重量%、液成分37重量%であった。固形分中の組成はBHET87重量%、ダイマー4重量%、MHET3重量%、その他6重量%であった。このケークは赤緑色を呈していた。また、このケークのL値は45であった。
【0071】
<中間精製工程>
得られたケーク150部に、JIS K 1527で規定されている1号のEG360部を加えて、85℃で加熱することにより結晶を完全に溶解してEG溶液とした。このEG溶液を85℃から40℃まで急冷した後、撹拌しつつ25℃まで冷却して再晶析を行い、再結晶スラリーを得た。その後、25℃を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過し、ケークを得た。
得られたケークは120部であり、固形分68重量%、液成分32重量%であった。固形分中の組成はBHET91重量%、ダイマー4.5重量%、MHET1.3重量%、その他3.2重量%であった。このケークは淡赤緑色を呈していた。また、このケークのL値は80であった。
【0072】
<溶解工程(5)>
得られたケーク120部に、JIS K 1527で規定されている1号のEG290部を加えて85℃で加熱溶解して、EG溶液とした。
【0073】
<モノマー精製工程(6)>
(吸着処理)
このEG溶液を、30部の活性炭(三菱化学(株)製、「ダイアホープ006」)を充填した85℃保温カラムに空間速度(SV)3.0hr−1で通液して活性炭による吸着処理(脱色処理)を行った。
【0074】
(イオン交換処理)
次いで、このEG溶液を、30容量部のカチオン交換体(ロームアンドハース社製、強酸性カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」)を充填した85℃保温カラムに空間速度(SV)5.0hr−1で通液してカチオン交換処理を行った。さらに、このEG溶液を、30容量部のアニオン交換体(ロームアンドハース社製、強酸性カチオン交換樹脂「アンバーライトIR−120B」と、ロームアンドハース社製、弱塩基性アニオン交換樹脂「アンバーライトIRA−96SB」を1:2の容量比で混合したもの)を充填した85℃保温カラムに空間速度(SV)5.0hr−1で通液してアニオン交換処理を行い、脱イオン溶液を得た。
【0075】
(晶析処理)
得られた脱イオン溶液を撹拌しつつ85℃から0.2℃/分の速度で冷却し、25℃で2時間保持して晶析を行い、結晶スラリーを得た。次いで、得られた結晶スラリーを、25℃を保持したまま、保留粒子径6μmの濾材により濾過し、ケークを得た。
得られたケークは114部であり、固形分63重量%、液成分37重量%であった。固形分中の組成はBHET91重量%、ダイマー4重量%、MHET1重量%、その他4重量%であった。
【0076】
(蒸留処理)
得られたケークを100℃で加熱し融解液とした。EGを主とする低沸点物を溜去するために、この融解液を蒸発面の温度150℃、圧力500Paである流下薄膜式蒸発装置に導入して第一蒸発を行った。さらに、第一蒸発で得られた融解液を、蒸発面の温度150℃、圧力133Paである流下薄膜式蒸発装置に導入して第二蒸発を行い、粗BHETの濃縮液とした。得られた濃縮液は72.5部であり、BHETを主とする固形分濃度は99.5重量%であった。
得られた濃縮液を、蒸発面の温度195℃、圧力3Paである流下薄膜式分子蒸留装置に導入して分子蒸留を行い、精製BHETを得た。得られた精製BHETは51部であり、純度は97.3重量%、380nmにおける光学密度(OD380)は0.003であった。
【0077】
〔比較例1〕
<解重合工程(1)、濾別工程(2)>
実施例2と同じ方法で行った。
【0078】
<晶析工程(3)、モノマー分離工程(4)、溶解工程(5)>
得られた濾液(EG溶液)に対して、晶析、モノマー分離、溶解の各工程を省略し、次工程に供した。
【0079】
<モノマー精製工程(6)>
(吸着処理)
前工程で得られたEG溶液は、85℃において暗赤色を呈していた。このEG溶液について、実施例2と同じ方法で吸着処理を行ったところ、活性炭の破過が直ちに起こり、活性炭充填塔から出た液は処理開始後すぐに暗赤色を呈したものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、ポリエステル繊維屑、特に着色されたポリエステル繊維屑から高純度エステルモノマーを効率良く回収する方法であり、リサイクル産業への貢献が大いに期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法であって、
(1)ポリエステル繊維屑またはその造粒処理物を構成するエステル成分をエチレングリコールにより解重合してエステルモノマーを含むエチレングリコール溶液とする解重合工程、
(2)エチレングリコール溶液中の不溶解物を35℃を超える温度で濾別する濾別工程、
(3)濾別処理で得られたエチレングリコール溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる晶析工程、
(4)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得るモノマー分離工程、
(5)粗エステルモノマーを、未使用のエチレングリコールに溶解してエチレングリコール溶液とする溶解工程、および
(6)エチレングリコール溶液を精製して精製エステルモノマーを得るモノマー精製工程、
からなるポリエステル繊維屑からエステルモノマーを回収する方法。
【請求項2】
モノマー分離工程(4)の後、溶解工程(5)の前に、粗エステルモノマーの着色度がL値で50以上となるまで、
(a)粗エステルモノマーを未使用のエチレングリコールに溶解してエチレングリコール溶液とする工程、
(b)エチレングリコール溶液を35℃以下に冷却してエステルモノマーを晶析させる工程、および
(c)晶析したエステルモノマーと液体成分とを固液分離して粗エステルモノマーを得る工程からなる中間精製工程を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリエステル繊維屑を構成するエステル成分がポリエチレンテレフタレートであり、エステルモノマーがビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
モノマー精製工程が、濾過処理、吸着処理、イオン交換処理、晶析処理、蒸留処理またはこれらの組み合わせからなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2006−232701(P2006−232701A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47479(P2005−47479)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(598059468)株式会社アイエス (4)
【Fターム(参考)】