説明

ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート及びその製造方法

【課題】熱可塑性エラストマー層が極めて薄い厚みで高発泡倍率のポリオレフィン系樹脂発泡体層に共押出ラミネートされており、摩擦係数が大きく、被包装物や接触物との粘着性が小さいポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層接着されている、厚みが0.3〜30mmで密度が0.018〜0.18g/cmのポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)であって、
(i)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満であり、
(ii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されており、
(iii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS K7125に基づく静止摩擦係数が4〜15であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最外層として熱可塑性エラストマー層が積層された滑り止め機能を有するポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、及び該発泡シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡シートにエラストマー層を積層する場合に要求性能、コスト等の面からエラストマー層をより薄く積層することが好ましい。特に、高発泡倍率で薄物品(例えば、発泡倍率:40倍、厚み:1mm)の場合には数十μmの厚みのエラストマー層を積層すると該エラストマー層の多層発泡シート全体重量に対する重量割合が大きくなり、材料コスト上の問題を生ずる。また、エラストマー層の厚みが大きくなるということは、多層発泡シートの柔軟性が低下して被包装物を包む場合の追従性や緩衝性が低下することが懸念される。
【0003】
下記特許文献1には、発泡体からなる基材層の片面に、押出温度240℃で押出し成形により積層された厚み10μm以上の水添ジエン系重合体からなる熱可塑性エラストマー粘着剤層を有する粘着積層体が開示されている。
また、特許文献2には、発泡体の少なくとも片面に平滑層を有する基材層の平滑面に、ビニル結合含量が50〜90%の共役ジエン化合物を主体とする重合体の共役ジエン部分の二重結合が80%以上飽和された水添ジエン系重合体からなる熱可塑性エラストマー粘着剤層を積層してなる粘着積層体が開示されている。
ポリオレフィン系樹脂発泡シートにエラストマー層を積層する目的としては、滑り止めや接着機能の付与であるがこれらの機能はエラストマー層の厚みが薄い場合にも発揮されると考えられる。しかしながら、従来技術では、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに厚みが10μm未満のエラストマー層を押出ラミネート法により積層することは、該接着法に必要なエラストマー層を形成する溶融樹脂の熱量不足により発泡シートとエラストマー層との接着不良、エラストマー層の裂けの発生等の問題により困難であった。また、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに厚みが10μm以上のエラストマー層を積層した多層発泡シートは、非包装物に対する粘着性を発現して、被包装物と接触させた場合には剥離の操作が必要となり、用途によっては不都合を生じていた。
更に、ポリオレフィン系樹脂発泡シートにエラストマー層を積層する際に、共押出条件として、エラストマー溶融物の押出温度と発泡性ポリオレフィン系樹脂溶融物の押出温度とは大きな温度差があり、エラストマー溶融物は発泡性ポリオレフィン系樹脂溶融物よりも高い温度で押出さなければならなかった為に、両者を共押出する場合には、高温エラストマー溶融物がダイ内にて発泡性ポリオレフィン系樹脂溶融物に積層されることにより、発泡性ポリオレフィン系樹脂溶融物の温度ムラ、粘度ムラなどが発生し、発泡性ポリオレフィン系樹脂溶融物の発泡性を低下させることになり、その結果、高発泡倍率の共押出ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを得ることが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−102016号公報
【特許文献2】特開平11−061066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1には、耐候性良好な粘着積層体の積層方法として、(i)基材層上に押出機を用いて押し出した熱可塑性エラストマー粘着剤層を熱貼合する方法、(ii)共押出しタイプのTダイ押出し成形機等により直接積層成形する方法、(iii)例えば前記(i)の方法で基材層の一方の面に熱可塑性エラストマー粘着剤層を押出しラミネートする方法、等の公知の方法で積層して製造することができることが記載されているが、これらの方法のうち、基材層上に押出機を用いて粘着剤層を熱貼合する(i)の方法が好ましく、また粘着材層の厚さは成形性および強度の観点から、10μm以上であることが好ましい、ことが記載されている。また、実施例においては、基材層上に粘着剤層を押出し成形機を用いた、押出しラミネートする上記(iii)の方法のみが開示されている。また、実施例には、基材層上に厚さ15μmの粘着剤層を押出ラミネートして、粘着積層体を得たことが記載されている。
特許文献1には、基材層上に厚みが10μm未満の粘着剤層を積層する方法は開示されておらず、また、特許文献1の発明で得られる粘着積層体は粘着力が強いので、被包装物や接触物から剥離する操作が必要となり、用途によっては不都合を生ずる。
上記特許文献2には、粘着積層体の製造方法として、(i)基材層上に押出機を用いて押し出した熱可塑性エラストマー粘着剤層を熱貼合する方法、(ii)例えば前記(i)の方法で基材層の平滑面に粘着剤層を押出しラミネートする方法、(iii)熱可塑性エラストマー粘着剤層を構成する成分を有機溶剤に溶解後、塗布、乾燥する方法が開示され、粘着剤層の厚さは、粘着積層体の所望の特性や用途に応じて適宜選択されるが、成形性および強度の観点から、10μm以上であることが好ましい、と記載されている。また、実施例には、基材層上に厚さ15μmの粘着剤層を押出ラミネートして、粘着積層体を得た、ことが記載されている。
特許文献2の発明で得られる粘着積層体も粘着力が強いので、被包装物や接触物から剥離する操作が必要となり、用途によっては不都合を生ずる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱可塑性エラストマー層が極めて薄い厚みで高発泡倍率のポリオレフィン系樹脂発泡体層に共押出ラミネートされており、摩擦係数が大きく、被包装物や接触物との粘着性が小さいポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを提供すること、及び極めて薄い熱可塑性エラストマー層を高発泡倍率のポリオレフィン系樹脂発泡体層に接着不良、エラストマー層の裂けの発生等の問題を生ずることなく、かつ発泡体層の発泡倍率低下を起こさずに安定的に、上記ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、揮発性可塑剤を含有する熱可塑性エラストマーと、物理発泡剤を含有するポリオレフィン系樹脂組成物とを加熱下に共押出ラミネートすることにより、接着不良、エラストマー層の裂けの発生等の問題を生ずることなく、安定的に非粘着性、柔軟性、及び緩衝性を有する極薄のエラストマー層を最外面に有するポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを製造できることを見出し、更に、該極薄のエラストマー層の表面に微細な凹みが多数形成されることにより、該表面が被包装物や接触物に粘着する問題が解決された滑り止め機能を有するものとなることを見出し本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、
(1)ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層接着されている、厚みが0.3〜30mmで密度が0.018〜0.18g/cmのポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)であって、
(i)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満であり、
(ii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されており、
(iii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS K7125に基づく静止摩擦係数が4〜15である
ことを特徴とするポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(以下、第1の態様ということがある。)、
(2)前記ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)における熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS Z0237に基づく剥離強度が0.5N/cm以下であることを特徴とする前記(1)に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
(3)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に面積が1〜500μmの範囲内の凹みが10〜100個/2500μm形成されていることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
(4)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、JIS K6253に基づく硬度(デュロ硬度A)が25〜50であることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
(5)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合部分を60重量%以上含有する重合体であることを特徴とする、前記(1)ないし(4)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
(6)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合部分を60重量%以上含有する重合体であり、該重合体の共役ジエン化合物の二重結合部分の80%以上が水素化された水添ジエン系重合体であることを特徴とする、前記(5)に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
(7)前記熱可塑性エラストマー層(イ)に高分子型帯電防止剤(B)が該熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対し10〜30重量部添加されていることを特徴とする、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート、
【0009】
(8)熱可塑性エラストマー(A)100重量部と揮発性可塑剤(C)5〜50重量部とを押出機中にて混練した熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)と、ポリオレフィン系樹脂(E)と物理発泡剤(F)とを他の押出機中にて混練したポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とを共押出することにより、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として、熱可塑性エラストマー層(イ)を積層接着させることを特徴とする前記(1)ないし(7)のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの製造方法(以下、第2の態様ということがある。)、
を要旨とするものである。
【0010】
以下、上記「熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)」を「溶融物(D)」と、上記「ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)」を「樹脂溶融物(G)」と、上記「ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)」を「樹脂発泡体層(ロ)」と、上記「ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)」を「積層発泡シート(ハ)」と記載することがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)は、熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されることにより、被包装物や接触物に強く粘着することなく、容易に剥離できる程度の粘着性が発現され、該熱可塑性エラストマー層(イ)により高い摩擦性能による滑り防止効果と強粘着防止効果を兼備する発泡シートである。更に、極めて薄い厚みの熱可塑性エラストマー層(イ)と高発泡倍率の発泡体層により、柔軟性及び緩衝性を備えた積層シートを得ることが可能になった。当該積層発泡シートは装飾品、精密機械部品、電子・電気部品等の包装材用途に極めて有望である。
また、本発明のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)の製造方法を採用することにより、従来では困難であった、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)上に厚み10μm未満の熱可塑性エラストマー層(イ)を共押出により積層することが可能となり、更に、上記機能を有する外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されている熱可塑性エラストマー層(イ)を形成することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)、及び該積層発泡シートの製造方法について説明する。
本発明の積層発泡シート(ハ)の製造方法の例は、図2に示すように、熱可塑性エラストマー(A)(又は、帯電防止性を付与する場合には熱可塑性エラストマー(A)及び高分子型帯電防止剤(B))と揮発性可塑剤(C)とを第1の押出機11にて混練してなる熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)と、ポリオレフィン系樹脂(E)と物理発泡剤(F)を第2の押出機12にて混練してなるポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とを共押出しすることにより、筒状積層体を得て、その一端を切り開いてポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを製造する方法である。
かかる製造方法により、図3に例示するポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の片面に熱可塑性エラストマー層(イ)が積層接着されたポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)を得ることができる。
【0013】
共押出しによる積層発泡シートの製造は、図2及び図3に示す態様では、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の片面側の最外面を構成する表面層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層されるように製造してなるものである。特に図示しないが、上記の態様以外にも、熱可塑性エラストマー層(イ)が、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の表裏両面の最外面を構成する表面層として積層されていてもよい。
【0014】
〔1〕第1の態様の「ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)」について
第1の態様の「ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)」は、
ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層接着されている、厚みが0.3〜30mmで密度が0.018〜0.18g/cmのポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)であって、
(i)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満であり、
(ii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されており、
(iii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS K7125に基づく静止摩擦係数が4〜15であることを特徴とする。
【0015】
(1)熱可塑性エラストマー層(イ)について
(1−1)熱可塑性エラストマー層形成材料
(i)熱可塑性エラストマー(A)
熱可塑性エラストマー層(イ)を形成している熱可塑性エラストマー(A)は、高分子有機化合物またはそれを基本成分とする固体材料であって、JIS K6200(1998年)において定義されているものをいい、共役ジエンの単独重合体、又は少なくとも1種の共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体を主体とする重合体の水添ジエン系重合体が、後述する硬度の低いものが得られ易い点から好ましい。
【0016】
上記水添ジエン系重合体としては、例えば共役ジエンの単独重合体、共役ジエンと芳香族ビニル化合物のランダム共重合体、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックからなるブロック共重合体、芳香族ビニル化合物の重合体ブロックと共役ジエン/芳香族ビニル化合物のランダム共重合体ブロックからなるブロック共重合体、共役ジエン化合物の重合体ブロックと共役ジエン/芳香族ビニル化合物の共重合体ブロックからなるブロック共重合体、1,2−および3,4−ビニル結合が30重量%以下のポリブタジエンブロックと共役ジエン化合物の重合体ブロックからなるブロック重合体などのジエン系重合体(以下、「水添前重合体」と記載することがある。)の水素添加物などがあげられる。
また、本発明の水添ジエン系重合体は、官能基で変性されたものも使用できる。
水添前重合体を構成する水添前の共役ジエン化合物/芳香族ビニル化合物の割合は、特に限定されるものではないが、重量比で好ましくは95/5〜60/40、より好ましくは90/10〜70/30である。
これらの中でも共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のランダム共重合体が硬度の低い熱可塑性エラストマーが得られやすく、該ランダム共重合部分を60重量%以上含有する重合体が特に好ましい。
【0017】
ここで、水添ジエン系重合体成分に用いられる共役ジエン化合物として、工業的に利用可能で物性に優れた水添ジエン系重合体を得ることが可能である観点から、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が例示でき、また、同様に芳香族ビニル化合物として、スチレン、α―メチルスチレン、p―メチルスチレン等が例示できる。
尚、水添ジエン系重合体としては、2種またはそれ以上の水添前重合体のブレンド物を水素添加したものも好適に用いられる。更に、水添ジエン系重合体として2種またはそれ以上の水添ジエン系重合体同士のブレンド物も好適に使用できる。
【0018】
本発明に用いられる水添ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を主体とする重合体を水素添加したものである。該重合体は、水添前の共役ジエン部分の二重結合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上飽和されていることが必要であり、80%未満では、押出発泡時にゲルの発生によるシート孔空が生ずるおそれがあり、また摩擦力も低下する虞もある。
また、本発明に用いられる水添ジエン系重合体の好ましい数平均分子量(ポリスチレン換算)は、1〜70万、より好ましくは5〜60万であり、1万未満では、凝集力が低下し被包装物を汚染する虞があるため好ましくない。一方70万を越えると、成形外観が劣るものとなり好ましくない。本発明に用いられる水添ジエン系重合体において、共役ジエン部分中のビニル結合の割合は、50〜90重量%、好ましくは60〜90重量%、さらに好ましくは65〜85重量%である。共役ジエン部分中のビニル結合の割合が50%未満の場合、滑り防止性が不十分な場合があり好ましくない。本発明に用いられる水添ジエン系重合体は、周知の水素添加方法によって得ることができる。
【0019】
本発明で使用する熱可塑性エラストマー(A)のJIS K6253(1993年)(デュロ硬度A)に基づく硬度は25〜50であることが好ましい。
硬度が前記25以上のときに押出成形時に熱可塑性エラストマー(A)のブロッキングを防止して、安定した押出成形が可能になる。また、硬度が前記50以下のときに積層発泡シート表面の静止摩擦係数を4以上とすることが可能となり、一般のポリエチレン発泡シートやEVA発泡シートの静止摩擦係数(1〜2程度)に対して高いものが得られる。なお、静止摩擦係数が15以上では粘着性が高くなり剥離に手間を要するようになる。
また、前記ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)における熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS Z0237(1991年)に基づく剥離強度は、非粘着性の点から0.5N/cm以下、さらに0〜0.1N/cmであることが好ましい。なお、該剥離強度は、JIS Z0237(1991年)、8.3.2(1)試験板に対する90度引きはがし粘着力の測定による値である。
【0020】
(ii)高分子型帯電防止剤(B)
本発明のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)はその使用目的により、帯電防止機能が要求される場合には、帯電防止剤を熱可塑性エラストマー層(イ)に含有させることが望ましい。帯電防止機能としては、表面抵抗率で、1013Ω以下となるように、熱可塑性エラストマー層(イ)中に帯電防止剤を含有させることが望ましい。
使用する帯電防止剤としては、高分子型帯電防止剤(B)が好ましい。高分子型帯電防止剤(B)としては、数平均分子量(ポリスチレン換算値)が、少なくとも300以上、好ましくは300〜50000、さらに好ましくは600〜15000で、密度が935g/L超えて1500g/L以下のものが好ましく、950g/L以上1200g/L以下のものが好ましく、さらに表面抵抗率が1012Ω未満である樹脂からなる。高分子型帯電防止剤(B)は、無機塩又は低分子量有機プロトン酸塩、例えばLiCLO、LiCFSO、NaCLO、LiBF、NaBF、KBF、KCLO、KPFSO、Ca(CLO、Mg(CLO、Zn(CLO等を含有していても良い。また高分子型帯電防止剤(B)の数平均分子量の上限は10万程度である。
【0021】
高分子型帯電防止剤(B)の具体例としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン‐メタクリル酸共重合体などのアイオノマー、ポリエチレングリコールメタクリレート系重合体等の第四級アンモニウム塩から選択される1種、又は2種以上の混合物、又は2種以上の共重合体、さらにそれらとポリプロピレンなどの他の樹脂との共重合体等の中で、分子鎖中に極性基を有し無機塩又は低分子量有機プロトン酸塩を錯体形成又は溶媒和することが可能な樹脂が挙げられ、無機塩又は有機プロトン酸塩等を錯体形成又は溶媒和させてあってもよい。
【0022】
高分子型帯電防止剤(B)の配合量は、熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対し5〜40重量部が好ましく、更に10〜30重量部がより好ましい。高分子型帯電防止剤(B)の配合量が5重量部未満では表面抵抗率を1013Ω以下とするのは困難となる虞があり、一方、40重量部を超えると静止摩擦係数が低下するおそれがある。
尚、表面抵抗率の測定は、JIS K6271(2001年)に準拠して測定される。すなわち、測定対象物である積層発泡シートから縦100mm×横100mm(厚さは発泡シートの厚み)の大きさに切り出した試験片を温度30℃、相対湿度30%の雰囲気下に36時間放置することにより試験片の状態調整を行ってから、JIS K6271(2001年)に準拠して印加電圧500Vの条件で1分後の電流値から表面抵抗率が求められる。
【0023】
(1−2)熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚み
熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みは10μm未満である。
平均厚みが10μm以上では非粘着性が不充分となる虞や緩衝性が不充分となる不具合がある。なお、該厚みは0.8〜8μm、更に1〜6μmであることが好ましい。熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みの下限は製膜性の観点から概ね0.3μmである。
熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みの測定は、積層発泡シート(ハ)を押出方向に直行する方向に垂直に切断し、該切断面の厚み(凹部を除く)を顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した各点における熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みを測定し、得られた値の算術平均値を各々積層発泡シート(ハ)の厚み、熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みとする。なお、熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みが測定し易いように、その層を着色することもできる。本発明の積層発泡シートの熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みは、極めて薄いものであるが、実際に上記の方法にて測定した算術平均値に基づき、熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満であることは確認できている。なお、該算術平均値により求められる熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みは、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物の吐出量、熱可塑性エラストマーの密度、積層発泡シートの幅、及びシートの引取速度に基づき算出される熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みと同様の値であることも確認できている。
また、熱可塑性エラストマー層の厚みの調整は、後述する共押出発泡法における積層発泡シートの引取速度や熱可塑性エラストマー層を形成する樹脂の吐出量、そして熱可塑性エラストマー(A)への揮発性可塑剤(C)の添加により溶融物(D)の溶融粘度を調整することによりなされる。
【0024】
(2)ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)について
(2−1)ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)を形成しているポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が使用可能であるが、これらの中でも密度が935g/L以下のポリエチレン系樹脂を主成分とするものが好ましい。密度が935g/L以下のポリエチレン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。中でも発泡性が良好な低密度ポリエチレンが好ましい。前記した密度が935g/L以下のポリエチレン系樹脂を主成分とするとは、該ポリエチレン樹脂の含有量が発泡体層を構成している全重量の50重量%以上であるものをいう。ポリオレフィン系樹脂(E)として好ましく用いられるポリエチレン系樹脂の密度の下限は880g/Lである。
【0025】
更に、上記したポリエチレン系樹脂の中でも、190℃における溶融張力が20mN〜400mNのポリエチレン系樹脂が好ましい。ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力が20mN未満の場合は、発泡倍率の低下や連続気泡化の虞がある。一方、ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力が400mNを超えると、樹脂の粘度が上昇し、押出する際、負荷が高くなるおそれがある。ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力は、低密度の発泡体層を得るのが容易である点から、30mN以上であることがより好ましく、更に好ましくは40mN以上である。また連続気泡率の低い発泡体層を得るのが容易である点から、ポリエチレン系樹脂の190℃における溶融張力は、300mN以下であることがより好ましく、更に好ましくは250mN以下である。また、ポリオレフィン系樹脂としてポリプロピレン系樹脂を使用する場合には、230℃における溶融張力が20mN〜400mNのポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0026】
上記溶融張力は、(株)東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定される。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径2.095mm、長さ8.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を、基材樹脂を構成しているポリオレフィン系樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合には230℃、ポリエチレン系樹脂の場合は190℃とし、試料の必要量を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから、ピストン速度を10mm/分として溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を直径45mmの張力検出用プーリーに掛け、4分で引き取り速度が0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーで紐状物を引取って紐状物が破断した際の直前の張力の極大値を得る。ここで、引取り速度が0m/分から200m/分に達するまでの時間を4分とした理由は、樹脂の熱劣化を抑えるとともに得られる値の再現性を高めるためである。上記操作を異なる試料を使用し、計10回の測定を行い、10回で得られた極大値の最も大きな値から順に3つの値と、極大値の最も小さな値から順に3つの値を除き、残った中間の4つの極大値を相加平均して得られた値を溶融張力(mN)とする。
【0027】
但し、上記した方法で溶融張力の測定を行い、引取り速度が200m/分に達しても紐状物が切れない場合には、引取り速度を200m/分の一定速度にして得られる溶融張力(mN)の値を採用する。詳しくは、上記測定と同様にして、溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出して、この紐状物を張力検出用プーリーに掛け、4分間で0m/分から200m/分に達するように一定の増速で引取り速度を増加させながら引取りローラーを回転させ、回転速度が200m/分になるまで待つ。回転速度が200m/分に到達してから溶融張力のデータの取り込みを開始し、30秒後にデータの取り込みを終了する。この30秒の間に得られたテンション荷重曲線から得られたテンション最大値(Tmax)とテンション最小値(Tmin)の平均値(Tave)を本発明方法における溶融張力とする。
ここで、上記Tmaxとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたピーク(山)値の合計値を検出された個数で除した値であり、上記Tminとは、上記テンション荷重曲線において、検出されたディップ(谷)値の合計値を検出された個数で除した値である。
尚、当然のことながら上記測定において溶融樹脂をオリフィスから紐状に押出す際には該紐状物に、できるだけ気泡が入らないようにする。また、発泡シートから測定試料を調整する場合、発泡シートを真空オーブンにて加熱し脱泡したものを試料とし、その際の真空オーブンでの脱泡条件は、発泡シートの基材樹脂を構成しているポリオレフィン系樹脂の融点以上の温度、かつ減圧下とする。
【0028】
(2−2)ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の厚み
本発明において、熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満と樹脂発泡体層(ロ)と比較して極めて薄いことから、積層発泡シート(ハ)の切断面における積層発泡シート(ハ)と熱可塑性エラストマー層(イ)を測定し、積層発泡シート(ハ)の厚みから熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みを引算して樹脂発泡体層(ロ)の厚みを求める。具体的な測定としては、樹脂発泡体層(ロ)の厚みの測定は、まず、積層発泡シート(ハ)を押出方向に直行する方向に垂直に切断し、該切断面の厚みを顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した各点における積層発泡シート(ハ)の厚みと熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みをそれぞれ測定し、得られた値の算術平均値を各々積層発泡シート(ハ)の厚み、熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みとする。次に、求めた積層発泡シート(ハ)の厚みから熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みを引算し、該引算により得られた厚みを樹脂発泡体層(ロ)の厚みとする。
なお、樹脂発泡体層(ロ)の厚み又は熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みが測定し易いように、どちらか一方の層を着色することもできる。
【0029】
(2−3)ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の密度
本発明において、熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満と樹脂発泡体層(ロ)と比較して極めて薄いことから、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の密度は特に規定せず、後述する積層発泡シート(ハ)の密度で規定している。
【0030】
(3)ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)について
(3−1)ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)の密度
本発明の積層発泡シート(ハ)の密度は、0.018〜0.18g/cmである。該密度が小さすぎる場合は十分な緩衝性能が得られないおそれがあり、一方、大きすぎる場合は安定的に製造するのが困難となる。
該密度は、0.018〜0.15g/cmが好ましく、0.02〜0.12g/cmがより好ましい。
本発明において積層発泡シート(ハ)の密度の測定方法は以下の通りである。まず前述した方法により、積層発泡シート(ハ)の厚みを予め測定する。次に積層発泡シート(ハ)の坪量を行う。積層発泡シート(ハ)の坪量は、縦25mm×横25mm×発泡シートの厚みの試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定した後、その重量に1600倍し、単位換算することで得られる(g/m)。積層発泡シート(ハ)の密度は、前記積層発泡シート(ハ)の坪量(g/m)を積層発泡シート(ハ)の厚み(mm)で除した値を単位換算し、積層発泡シート(ハ)の密度(g/cm)とする。
【0031】
(3−2)ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)の厚み
本発明の積層発泡シート(ハ)の厚みは、積層発泡シートを包装用シートとして使用した際に、柔軟性と緩衝性に優れ、被包装体を梱包する際の取り扱いが容易である点から、0.3〜30mmであり、更に0.3〜15mm、特に0.5〜12mmであることが好ましい。該厚みが0.3mm未満では目的とする緩衝性が得られないおそれがあり、また30mmを超えると包装材としての柔軟性に欠けるおそれがある。
積層発泡シート(ハ)の厚みの測定は、前述した通り、積層発泡シート(ハ)を押出方向に直行する方向に垂直に切断し、該切断面の厚みを顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した各点における積層発泡シート(ハ)の厚みを測定し、得られた値の算術平均値を積層発泡シート(ハ)の厚みとする。
【0032】
(3−3)凹み
本発明の積層発泡シート(ハ)の熱可塑性エラストマー層(イ)外表面には、図1(電子顕微鏡写真、拡大倍率:500倍)に例示するような微細な不定形の凹みが多数形成されている。このような凹みを存在させることにより、静止摩擦係数が大きくかつ極めて容易に剥離できる程度の粘着性と、柔軟性及び緩衝性を備えたシートを得ることが可能になる。
該凹みは、上記の優れた効果を達成する上で、熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に1〜500μmの面積範囲内の凹みが10〜100個/2500μm形成されていることが好ましく、更に10〜50個/2500μm形成されていることが好ましい。また、当然のことながら該凹みは熱可塑性エラストマー層(イ)外表面の全面に形成されていることが好ましい。
尚、上記凹みの数の測定方法は、ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)の熱可塑性エラストマー層(イ)表面を電子顕微鏡(拡大倍率500倍)にて写真撮影する。次に、撮影した写真上に一辺が50μmの正方形を書き、前記正方形内に存在する面積が1〜2500μmの範囲内の凹みの数を数える(但し、該正方形の上辺や右辺と交わる凹みは凹みの数として数えることとし、下辺や左辺と交わる凹みは凹みの数として数えないこととする)。前記操作は、積層発泡シートを幅方向に5等分して得られる各々の試料の中央部において行い、得られた各試料の凹みの数(個/2500μm)の算術平均値(5箇所の算出平均値)を熱可塑性エラストマー層表面の凹みの数(個/2500μm)とする。
【0033】
(3−4)熱可塑性エラストマー層(イ)外表面の静止摩擦係数
該ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)における熱可塑性エラストマー層(イ)外表面の静止摩擦係数が4〜15である。該静止摩擦係数が4以上で摩擦による固定性に優れ、一方、15以下で粘着性が低いので容易に剥離することが可能になる。
上記の静止摩擦係数の測定方法は、JIS Z0237(1991年)の8.2.2に示されるSUS304を試験板として用いてJIS K7125(1999年)に基づいて測定される。
【0034】
(4)用途
本発明の積層発泡シートは、柔軟性、緩衝性を有し、しかも静止摩擦係数が高いので、装飾品、精密機械部品、電子・電気部品等の包装材、緩衝材として有用であり、具体的には、シートトレー、ランチョンマット、熱成形した浅物トレーとして好適に使用することができる。
【0035】
〔2〕第2の態様の「ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの製造方法」について
第2の態様の発明は、熱可塑性エラストマー(A)100重量部と揮発性可塑剤(C)5〜50重量部とを押出機中にて混練した熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)と、ポリオレフィン系樹脂(E)と物理発泡剤(F)とを他の押出機中にて混練したポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とを共押出することにより、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として、熱可塑性エラストマー層(イ)を積層接着させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの製造方法に関する。
【0036】
(1)熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)
溶融物(D)は、少なくとも以下に記載する熱可塑性エラストマー(A)と揮発性可塑剤(C)を主成分とする溶融物である。
(1−1)熱可塑性エラストマー(A)
本発明における熱可塑性エラストマー(A)は、第1の態様に記載した熱可塑性エラストマーと同様である。
【0037】
(1−2)揮発性可塑剤(C)
熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物(D)の1成分である揮発性可塑剤(C)は、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)中に存在している状態で、該溶融物の溶融粘度を低下させる機能を有すると共に、熱可塑性エラストマー層形成の際又は形成後に、該熱可塑性エラストマー層(イ)から揮発して樹脂層から除去可能であるものが用いられる。揮発性可塑剤(C)を熱可塑性エラストマー(A)に添加、混合して溶融物とすることにより、積層発泡シート(ハ)を共押出しする際に、熱可塑性エラストマー層(A)の溶融伸びを著しく向上させることができ、熱可塑性エラストマー層(A)の伸びを該積層発泡シートの伸びに対応させて、熱可塑性エラストマーの伸び不足による亀裂発生を防止できると共に、熱可塑性エラストマー層(イ)表面に図1に示すような微細な不定形の凹みが多数形成される。該凹みの形成メカニズムは定かではないが、熱可塑性エラストマー(A)は、溶融張力が低いため、熱可塑性エラストマー層を形成する際、該層に亀裂が発生し易く、且つ結晶化による急激な粘度上昇も起こらないため熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)中の揮発性可塑剤(C)が分離、偏在化し、その後溶融物(D)から揮発性可塑剤(C)が揮散することにより形成されているものと考えられる。なお、上記のような凹みは、溶融張力が高く、結晶化による急激な粘度上昇を起こし延伸性に優れるポリエチレンのような樹脂を積層接着した共押出積層発泡シートの樹脂層外表面には形成されない。
【0038】
揮発性可塑剤(C)は、(i)炭素原子数2〜7の脂肪族炭化水素、(ii)脂環式炭化水素、(iii)炭素原子数1〜4の脂肪族アルコール、又は(iv)炭素原子数2〜8の脂肪族エーテルから選択される1種、或いは2種以上のものが好ましく用いられる。なお、可塑剤として滑剤のように揮発性の低いものを用いた場合、熱可塑性エラストマー層に残存し、被包装体の表面を汚染することがある。これに対し上記揮発性可塑剤(C)は、熱可塑性エラストマー層を効率よく可塑化させ、得られた熱可塑性エラストマー層(イ)に揮発性可塑剤(C)が残存しない点から好ましい。
【0039】
上記炭素原子数2〜7の脂肪族炭化水素としては、例えば、エタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、イソヘキサン、ヘプタンなどが挙げられる。
上記脂環式炭化水素としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
上記炭素原子数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールが挙げられる。
上記炭素原子数2〜8の脂肪族エーテルとしては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチルアミルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルアミルエーテル、エチルイソアミルエーテル、ビニルエーテル、アリルエーテル、メチルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルアリルエーテルが挙げられる。
【0040】
揮発性可塑剤(C)は、熱可塑性エラストマー層が形成される際に該層から揮発させる必要があるので、常圧における沸点が120℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。揮発性可塑剤(C)が上記沸点を有していれば、共押出しした後、放置しておくことで、共押出しの直後の熱やその後の揮発性可塑剤のガス透過により発泡シートの熱可塑性エラストマー層を形成する層から自然に揮散して、該熱可塑性エラストマー層を形成する層から除去することが可能である。上記沸点の下限値は、概ね−50℃である。
【0041】
揮発性可塑剤(C)の添加量は、熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して5〜50重量部が好ましい。
揮発性可塑剤(C)の添加量が5重量部未満では、溶融物(D)の溶融粘度の低下が不十分となり、熱可塑性エラストマー(A)が混練によりせん断発熱して、その熱により発泡体層を形成する樹脂溶融物(G)の樹脂温度が上昇し、それにより気泡が破泡して低密度の樹脂発泡体層(ロ)が得られない虞がある。さらに、熱可塑性エラストマー層(イ)を形成する層が樹脂発泡体層(ロ)に追随する伸張性、熱可塑性エラストマー層(イ)の厚みを均一に薄く積層する観点から7重量部以上がより好ましく、10重量部以上が更に好ましい。
一方、揮発性可塑剤(C)の添加量が50重量部を超えると、熱可塑性エラストマー層(イ)自体の物性低下や揮発性可塑剤(C)が溶融している熱可塑性エラストマー(A)と十分に混練することが困難となるために、ダイリップから揮発性可塑剤(C)が噴き出し、その結果、積層発泡シートに孔が開いたり、その表面に大きな凹凸形状が形成され、静止摩擦係数を低下させるおそれがある。上記観点から揮発性可塑剤(C)の添加量は45重量部以下がより好ましく、40重量部以下が更に好ましい。揮発性可塑剤(C)の添加量を上記範囲とすることで、共押出時の溶融物(D)の溶融粘度をポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)の溶融粘度に近似させる粘度の低下効果と熱可塑性エラストマー(A)の伸張性の向上効果を確保できる。
【0042】
本発明において、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)を形成する熱可塑性エラストマー(A)に、揮発性可塑剤(C)を均一に拡散させる観点から、後述するポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)の気泡調整剤として例示した材料を添加することができる。その際、上記観点から揮発性可塑剤(C)の添加量は、溶融物(D)を形成する熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。
【0043】
(1−3)高分子型帯電防止剤(B)
共押出によりポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを製造する際に、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)中に帯電防止剤を含有させることにより、帯電防止効果に優れた積層発泡シートを得ることが出来る。
使用する帯電防止剤としては、高分子型帯電防止剤(B)が好ましい。溶融物(D)中で高分子型帯電防止剤(B)の分散状態が良好であると、網状又は層状に分散して導電ネットワークを形成して、良好な帯電防止効果を発揮することが可能になる。
第2の態様における高分子型帯電防止剤(B)は、第1の態様に記載した高分子型帯電防止剤と同様である。
【0044】
高分子型帯電防止剤(B)の融点は、押出する際の熱可塑性エラストマー(A)の成形加工温度以下のものを使用すると、溶融不足や結晶化物が発生しない観点から好ましい。
高分子型帯電防止剤(B)の添加量は、熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して5〜40重量部である。高分子型帯電防止剤(B)の添加量が、5重量部未満の場合には帯電防止剤添加の効果が十分に発揮されず、40重量部を超えると、熱可塑性エラストマー層の摩擦係数低下や、該層形成自体が困難になると共に、安価な積層発泡シートの製造が困難となる虞がある。
【0045】
(1−4)その他の添加剤
また、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)には、本発明の目的を阻害しない範囲において溶融物(D)を形成する熱可塑性エラストマー(A)に前記した気泡調整剤と高分子型帯電防止剤(B)以外にも各種の添加剤を必要に応じて添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填剤、抗菌剤等が挙げられる。その場合の添加量は、添加剤の種類にもよるが、熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が特に好ましい。なお、この場合の添加量の下限は概ね0.01重量部である。
【0046】
(2)ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)は、少なくとも以下に記載するポリオレフィン系樹脂(E)と物理発泡剤(F)を主成分とする。
(2−1)ポリオレフィン系樹脂(E)
本発明におけるポリオレフィン系樹脂(E)は、第1の態様に記載したポリオレフィン系樹脂と同様である。
【0047】
(2−2)物理発泡剤(F)
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)に添加される、物理発泡剤(F)としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、塩化メチル、塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2−テトラフロロエタン、1,1−ジフロロエタン等のフッ化炭化水素等の有機系物理発泡剤、酸素、窒素、二酸化炭素、空気等の無機系物理発泡剤が挙げられる。上記した物理発泡剤は、2種以上を混合して使用することが可能である。これらのうち、特にポリエチレン系樹脂との相溶性、発泡性の観点から有機系物理発泡剤が好ましく、中でもノルマルブタン、イソブタン、又はこれらの混合物を主成分とするものが好適である。
【0048】
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)には、通常、気泡調整剤が添加される。気泡調整剤としては有機系のもの、無機系のもののいずれも使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩、塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。また有機系気泡調整剤としては、リン酸−2,2−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。またクエン酸と重炭酸ナトリウム、クエン酸のアルカリ塩と重炭酸ナトリウム等を組み合わせたもの等も気泡調整剤として用いることができる。これらの気泡調整剤は2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)への物理発泡剤(F)の添加量は、共押出により得られる積層発泡シートの密度が0.018〜0.18g/cmのとなるように、発泡剤の種類、目的とする密度に応じて調整する。また気泡調整剤の添加量は、目的とする気泡径に応じて調節する。即ち、物理発泡剤(F)としてイソブタン30重量%とノルマルブタン70重量%とのブタン混合物を用いた場合、該ブタン混合物の添加量はポリオレフィン系樹脂(E)100重量部当たり2〜30重量部、好ましくは4〜20重量部、より好ましくは10〜20重量部である。また気泡調整剤として、例えば、低密度ポリエチレン100重量部に対してタルク10重量部、クエン酸ナトリウム5重量部の配合量で作製したマスターバッチを用いた場合、気泡調整剤の添加量はポリオレフィン系樹脂100重量部当たり、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部である。
(2−3)高分子型帯電防止剤(B)
共押出によりポリオレフィン系樹脂積層発泡シートを製造する際に、ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)中に高分子型帯電防止剤(B)を含有させることにより、帯電防止性に優れた積層発泡シートを得ることが出来る。使用する帯電防止剤としては、高分子型帯電防止剤(B)が好ましく、該好ましい高分子型帯電防止剤(B)は、第1の態様に記載した高分子型帯電防止剤(B)と同様である。
高分子型帯電防止剤(B)の添加量は、樹脂溶融物(G)中で好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下であり、また好ましくは3重量%以上である。高分子型帯電防止剤(B)の添加量が前記30重量%を超えると発泡が阻害される場合があり、一方、3重量%未満では高分子型帯電防止剤(B)添加の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0050】
(2−4)他の樹脂成分及び添加剤
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)には、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲で、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、アイオノマーやエチレンプロピレンゴム等のエラストマー、ポリブテン等のブテン系樹脂、ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル系樹脂等を添加することができる。その場合の添加量は40重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましく、10重量%以下が特に好ましい。下限は概ね0.01重量%である。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)には、前記した樹脂に各種の添加剤を添加してもよい。各種の添加剤としては、例えば、造核剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機充填剤、抗菌剤、収縮防止剤、着色剤等が挙げられる。その場合の添加量は、添加剤の種類にもよるが、30重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、5重量%以下が特に好ましい。なお、この場合の添加量の下限は概ね0.01重量部である。
【0052】
(3)共押出成形
本発明のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)の製造方法の具体例を以下に例示する。
押出機において熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物(D)中には、揮発性可塑剤(C)が添加されている。該揮発性可塑剤(C)の添加時期は、特に制限されるものではないが、熱可塑性エラストマー(A)に高分子型帯電防止剤(B)等の添加剤が配合される場合には、熱可塑性エラストマー(A)とこれらの添加剤とが十分に分散させた後に揮発性可塑剤(C)を添加するのが好ましい。これは、ポリオレフィン系樹脂(E)と高分子型帯電防止剤(B)とを混練する場合には、粘度をある程度高い状態に維持することにより、高分子型帯電防止剤(B)の分散を確実に行って導電ネットワーク構造を確実に形成するとともに、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)を共押出しする際には、揮発性可塑剤(C)を添加することにより熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物(D)の溶融温度(樹脂温度ともいう)を樹脂発泡体層(ロ)の発泡を阻害しない温度まで低下させ、さらに発泡体層に追従する伸長性を付与することができる。特にポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)が、高発泡倍率の場合に効果的であり、確実な発泡シートの製造を行うことができる。
【0053】
共押出法により、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の最外層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層されてなる積層発泡シート(ハ)において、熱可塑性エラストマー層(イ)中の揮発性可塑剤(C)は、押出された時点で押出し時の熱によりほぼ揮散している。なお揮発性可塑剤(C)によっては、一部、希に押出し後、数日間熱可塑性エラストマー層(イ)中に残存している場合もあるが、押出し後の比較的早い時期に揮散して熱可塑性エラストマー層(イ)中にはほとんど残存しない。
【0054】
熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物(D)とポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とは、各押出機内において適正温度に調整してから、ダイ内にて合流積層され、ダイリップより共押出しされることにより、樹脂溶融物(G)は発泡しポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)となり、該樹脂発泡体層(ロ)の表面層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層されてなる積層発泡シート(ハ)が得られる。なお、押出機先端のダイとしてはフラットダイや環状ダイ等が用いられる。
【0055】
上記溶融物(D)、樹脂溶融物(G)の押出機内におけるそれぞれの適正温度は、表面に該凹みを有する平均厚み10μm未満である熱可塑性エラストマー層(イ)、及び低密度の樹脂発泡体層(ロ)が得られる温度である。
尚、樹脂発泡体層(ロ)を形成する樹脂溶融物(G)の溶融温度は、[ポリオレフィン系樹脂(E)の結晶化温度+5℃]以上で、[該結晶化温度+30℃]以下が好ましい。また、溶融物(D)の温度は、[樹脂溶融物(G)の温度−30℃]以上で、[樹脂溶融物(G)の温度+30℃]以下であることが、樹脂発泡体層(ロ)の独立気泡率の向上や得られる積層発泡シート(ハ)の収縮を抑える観点から好ましく、より好ましくは[樹脂溶融物(G)の温度−15℃]以上で、[樹脂溶融物(G)の温度+15℃]以下である。
前記共押出の際に、溶融物(G)の溶融粘度(ηg)と樹脂溶融物(D)の溶融粘度(ηd)との溶融粘度比(ηg/ηd)が好ましくは0.25〜4、より好ましくは0.33〜3の範囲となる共押出温度を選択すれば、樹脂発泡体層(ロ)を高発泡倍率にすることが容易となる。
【0056】
また片面側の表面層のみに高分子型帯電防止剤(B)を含有する熱可塑性エラストマー層(イ)が積層された発泡シートを得る場合も、多層共押出法を用いることができる。
多層共押出法により発泡シートを得る方法として、(i)フラットダイを用い、始めからシート状に共押出して積層する方法、(ii)先ず環状ダイを用いて共押出して筒状発泡体を製造し、次いで筒状発泡体を切り開いて発泡シートとする方法等が例示できる。
前記した中でも押出機先端の環状ダイとして(ii)の環状ダイを用いる方法は、高い発泡倍率の発泡シートを得る際のコルゲートと呼ばれる波状模様の発生を抑えることや、幅が1000mm以上の幅広の発泡シートが容易に製造することができる利点がある。
【0057】
上記(ii)の環状ダイを用いて共押出しする場合、図2に例示するように、まず、熱可塑性エラストマー(A)及び高分子型帯電防止剤(B)等の添加剤を第1の押出機11に供給し、加熱溶融し混練した後、揮発性可塑剤(C)を添加し溶融混練して熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)とする。同時に、ポリオレフィン系樹脂(E)と必要に応じて気泡調節剤等を第2の押出機12に供給し、加熱溶融し混練してから物理発泡剤(F)を圧入して、さらに混練してポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とする。
次に、上記ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)と熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物(D)とを、それぞれ適正温度に調整してから、一つの環状ダイ13に導入して、該環状ダイ13から筒状積層発泡体として共押出しする。次に、該筒状積層発泡体の内面を、円柱状冷却装置上を通過させて冷却してから、筒状積層発泡体を切開くことにより、積層発泡シート(ハ)を形成することができる。
前記環状ダイ、押出機、円柱状冷却装置、筒状積層発泡体を切開く装置等は、従来から押出発泡の分野で用いられてきた公知のものを用いることができる。
かくして上記共押出成形により、密度が0.018〜0.18g/cmのポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)が得られる。
【0058】
また、前述の方法により得られる積層発泡シート(ハ)においては、熱可塑性エラストマー層(イ)表面のJIS K7125(1999年)に基づく静止摩擦係数が4〜15であり、本発明における第1の態様と同様の熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されている。
【実施例】
【0059】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。但し、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
本実施例、比較例で使用した原材料等を以下に記載する。
尚、各実施例、比較例で使用した下記原材料とその物性を表1にまとめて示す。
(1)ポリオレフィン系樹脂
使用したポリオレフィン系樹脂を以下の(i)〜(iv)に示す。尚、各グレードにはそれぞれ(a)〜(d)の記号を付した。
(i)LDPE(a):低密度ポリエチレン(住友化学(株)製、商品名:F102、密度922g/L、溶融粘度1440Pa・s(190℃、100sec−1での溶融粘度である。以下、測定条件は同じである。)、結晶化温度96.2℃)
(ii)PP(b):ポリプロピレン(サンアロマー(株)製、商品名:PF814、溶融粘度700Pa・s、結晶化温度131.1℃)
(iii)LDPE(c):低密度ポリエチレン(日本ユニカー(株)製、商品名:NUC8008、密度917g/L、溶融粘度640Pa・s、結晶化温度93.1℃)
(iv)既発泡LDPE(d):既発泡低密度ポリエチレン((株)ジェイエスピー製 商品名:ミラマット(登録商標)#010)
【0060】
(2)熱可塑性エラストマー
使用した熱可塑性エラストマーを(i)〜(v)に示す。尚、各グレードにはそれぞれ(e)〜(h)の記号を付した。尚、LDPE(c)は上記ポリオレフィン系樹脂で示したものと同じグレードである。
(i)熱可塑性エラストマー(e):JSR(株)製、水添SBR(商品名:1321P)、
(ii)熱可塑性エラストマー(f):旭化成ケミカルズ(株)製、水添SEBS(商品名:タフテック(登録商標)H1041)、
(iii)熱可塑性エラストマー(g):三井化学(株)製、オレフィン系エラストマー(商品名:タフマーXM−7070)、
(iv)熱可塑性エラストマー(h):旭化成ケミカルズ(株)製、水添SEBS(商品名:タフテック(登録商標)H1221)、
(v)LDPE(c):低密度ポリエチレン((株)日本ユニカー製、商品名:NUC8008、密度917g/L、溶融粘度640Pa・s、結晶化温度93.1℃)
【0061】
(3)物理発泡剤
イソブタン30重量%とノルマルブタン70重量%との混合ブタン
(4)揮発性可塑剤
イソブタン30重量%とノルマルブタン70重量%との混合ブタン
(5)高分子型帯電防止剤
三洋化成工業(株)製、高分子型帯電防止剤(商品名「ペレスタット300」、溶融粘度270Pa・s、融点136℃、結晶化温度90℃、密度990g/L)
(6)気泡調整剤
実施例1〜11、比較例3〜12において気泡調整剤は、低密度ポリエチレン100重量部に対してタルク(松村産業(株)製、商品名「ハイフィラー#12」)を11.8重量部、クエン酸ナトリウムを5.9重量部配合してなる気泡調整剤マスターバッチにて添加した。
【0062】
実施例における評価方法等を以下に記載する。
(1)熱可塑性エラストマーの溶融粘度(Pa・s)
熱可塑性エラストマーの溶融粘度は、190℃、100sec−1の測定条件における溶融粘度(Pa・s)である。
(2)熱可塑性エラストマーの硬度
熱可塑性エラストマーの硬度は、JIS K6253(1993年)に基づく硬度(デュロメタータイプA)である。熱可塑性エラストマーペレットを適量型枠に入れ、温度200℃、圧力10kg/cmの条件にてヒートプレスにより直径60mm、厚み10mmの円筒状試験片を作製し、該試験片の円中央部の硬度を測定した。
(3)熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚み測定
熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚みの測定は、積層発泡シートを押出方向に直行する方向に垂直に切断し、該切断面の厚みを顕微鏡により等間隔に幅方向に10点撮影を行い、撮影した各点における熱可塑性エラストマー層、と積層発泡シートの厚みを測定し、得られた値のそれぞれの算術平均値を各々熱可塑性エラストマー層の平均厚み、積層発泡シートの平均厚みとした。
(4)ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの密度
上記した方法により、積層発泡シートの厚みを予め測定する。次に積層発泡シートの坪量を行う。積層発泡シートの坪量は、縦25mm×横25mm×発泡シートの厚みの試験片を切り出し、試験片の重量(g)を測定した後、その重量に1600倍し、単位換算することで得られる(g/m)。積層発泡シートの密度は、前記積層発泡シートの坪量(g/m)を積層発泡シートの厚み(mm)で除した値を単位換算し、積層発泡シートの密度(g/cm)とする。
【0063】
(5)凹みの数
ポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの熱可塑性エラストマー層表面を電子顕微鏡(拡大倍率500倍)にて写真撮影する。次に、撮影した写真上に一辺が50μmの正方形を書き、前記正方形内に存在する面積が1〜2500μmの範囲内の凹みの数を数える(但し、該正方形の上辺や右辺と交わる凹みは凹みの数として数えることとし、下辺や左辺と交わる凹みは凹みの数として数えないこととする)。前記操作は、積層発泡シートを幅方向に5等分して得られる各々の試料の中央部において行い、得られた各試料の凹みの数(個/2500μm)の算術平均値(5箇所の算出平均値)を熱可塑性エラストマー層表面の凹みの数(個/2500μm)とした。
(6)静止摩擦係数
静止摩擦係数は、JIS Z0237(1991年)の8.2.2に示されるSUS304を試験板として用いてJIS K7125(1999年)に基づいて測定した。
【0064】
(7)表面抵抗率
積層発泡シートから切り出した試験片(縦100mm×横100mm×厚み:試験片厚み)を温度30℃、相対湿度30%の雰囲気下に36時間放置して状態調整を行ったものをサンプルとした。JIS K6271(2001年)の方法に準じて印加電圧500Vで印加してから1分後の電流値を採用し、得られた測定値の平均値から表面抵抗率を求めた。測定装置はタケダ理研工業(株)製、型式:TR8601を用いた。
(8)発泡成形性の評価
○:熱可塑性エラストマー層とポリオレフィン系樹脂発泡体層との接着性、外観、発泡体層の発泡性のいずれも良好
△:樹脂層に亀裂が発生し、表面外観不良
×:押出成形が不可能
(9)緩衝性の評価
発泡体シートの柔軟性、圧縮時の感触を手触りにて緩衝性を評価し、評価対象の発泡シートと同密度で同厚みの従来の単層のポリエチレン樹脂発泡体シート(発泡体シートの密度と厚みを前記の通りに調整した比較例1のもの)と対比して、従来の該発泡体シートと同等のものを○、従来の該発泡体シートよりも劣っているものを×とした。
(10)非粘着性の評価
JIS Z0237(1991年)、8.3.2(1)試験板に対する90度引きはがし粘着力の測定を行い剥離強度を求め以下の基準にて評価した。
○:剥離強度が0.1N/cm以下
△:剥離強度が0.1N/cm超、0.5N/cm以下
×:剥離強度が0.5N/cm超
【0065】
[実施例1〜6]
ポリオレフィン系樹脂積層発泡体層を形成するための押出機として、直径90mmと120mmの押出機からなるタンデム押出機を使用し、熱可塑性エラストマー層を形成するための押出機として直径50mm、L/D=46の押出機を使用した。また発泡シートの共押出しの為に直径94mmの環状ダイを用いた。
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成のために、低密度ポリエチレン(a)100重量部に対して、気泡調整剤マスターバッチを3重量部配合して、直径90mmの押出機の原料投入口に供給し、加熱混練し、約200℃に調整された、溶融樹脂混合物とした。
該溶融樹脂混合物に、ノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%のブタン混合発泡剤を、前記低密度ポリエチレン100重量部に対して23重量部(但し、実施例3においては11重量部、実施例6については5.5重量部)となるように圧入し、次いで前記直径90mmの押出機の下流側に連結された直径120mmの押出機に供給して、111℃、のポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物を得た。
【0066】
一方、揮発性可塑剤を含有する熱可塑性エラストマー層形成のために、熱可塑性エラストマー(e)を直径50mmの押出機の原料投入口に供給し、加熱溶融して約230℃に調整された溶融物とし、該溶融物に揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対して17重量部となるように圧入し、その後樹脂温度を110℃に調整して揮発性可塑剤を含有する熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物を得た。
得られた熱可塑性エラストマー層形成用溶融物及びポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物を合流ダイ中へ供給し、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物が表層になるように積層合流させて環状ダイから共押出し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表1に示す平均厚みとなるように、目的とする積層発泡シートの幅と各層の樹脂密度を勘案し、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整した。外側から熱可塑性エラストマー層/ポリエチレン発泡体層の順に積層された筒状積層発泡体を形成した。押出された筒状積層発泡体を冷却された円筒に沿わせて引き取りながら該筒状積層発泡体を切開いて、目的の積層発泡シートを得た。
得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
また、実施例1にて得られた積層発泡シートの熱可塑性エラストマー層外表面の電子顕微鏡写真(拡大倍率:500倍)を図1に示す。
【0067】
[実施例7、8]
実施例7、8において、揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対してそれぞれ23重量部、12重量部となるように圧入し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
【0068】
[実施例9]
揮発性可塑剤と高分子型帯電防止剤を含有する熱可塑性エラストマー層形成のために、熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対し、高分子型帯電防止剤20重量部を直径50mmの押出機の原料投入口に供給し、加熱溶融して約230℃に調整された溶融樹脂混合物とし、該溶融樹脂混合物に揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対して23重量部にて圧入し、その後樹脂温度を110℃に調整して可塑性エラストマー層形成用溶融物を得、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
【0069】
[実施例10]
熱可塑性エラストマーとして、熱可塑性エラストマー(h)を使用し、揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対して23重量部となるように圧入し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表2に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
【0070】
[実施例11]
ポリオレフィン系樹脂積層発泡体層を形成する為の押出機として、直径90mmと120mmの押出機からなるタンデム押出機を使用し、熱可塑性エラストマー層を形成する為の押出機として直径50mm、L/D=46の押出機を使用した。また、発泡シートの共押出しの為に直径94mmの環状ダイを用いた。
ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成のために、ポリプロピレン(b)100重量部に対して気泡調整剤マスターバッチを1重量部配合して、直径90mmの押出機の原料投入口に供給し、加熱混練し、約200℃に調整された溶融樹脂混合物とした。
該溶融樹脂混合物100重量部に対してイソブタンを20重量部となるように圧入し、次いで前記直径90mmの押出機の下流側に連結された直径120mmの押出機に供給して160℃のポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物を得た。
一方、揮発性可塑剤を含有する熱可塑性エラストマー層形成の為に、熱可塑性エラストマー(e)を直径50mmの押出機の原料投入口に供給し、加熱溶融して約230℃に調整された溶融物とし、該溶融物に揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対して17重量部となるように圧入し、その後樹脂温度を160℃に調整して揮発性可塑剤を含有する熱可塑性エラストマー形成用樹脂溶融物を得た。
得られた熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物及びポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物を合流ダイ中へ供給し、熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物が表層になるように積層合流させて環状ダイから共押出し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表1に示す平均厚みとなるように、樹脂密度を勘案し各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整した。外側から熱可塑性エラストマー層/ポリオレフィン系樹脂発泡体層の順に積層された筒状積層発泡体を形成した。押出された筒状積層発泡体を冷却された円筒に沿わせて引き取りながら該筒状積層発泡体を切り開いて目的の積層発泡シートを得た
得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
[実施例12]
ポリオレフィン系樹脂発泡体形成層に帯電防止性能を付与する為、ポリオレフィン系樹脂発泡体層に低密度ポリエチレン(a)100重量部に対して高分子型帯電防止剤8重量部を配合する以外は実施例9と同様にして積層発泡シートを得た。得られた積層発泡シートのポリオレフィン系樹脂発泡体形成層の表面固有抵抗率は6×1012Ωと十分な帯電防止性能を示していた。その他の物性については表2に示される実施例9と同様であった。
【0071】
[比較例1、2]
比較例1、2において、熱可塑性エラストマー(e)を直径65mm、L/D=34の押出機に投入し、溶融して240℃の熱可塑性エラストマー層形成用樹脂溶融物を得た。
該溶融樹脂物をTダイへ導きシート状の溶融物として40℃に冷却された二本の引取ピンチロール間に押出し、該引取ピンチロールにて、ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用として用いた既発泡LDPE(d)(密度:0.025g/cmの無架橋低密度ポリエチレン発泡シート)と熱貼合した。
熱可塑性エラストマー層の厚みが表1に示す平均厚みとなるように、樹脂密度を勘案しつつそれぞれ押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整した。
比較例1の条件では表1の通り積層したものが得られたが、比較例2の条件ではTダイから供給されたシート状の熱可塑性エラストマー樹脂溶融物は切断しやすく安定して製造出来ず、また得られた積層発泡シートは熱可塑性エラストマー層と既発泡LDPEが粘着しているのみで熱貼合されておらず、熱可塑性エラストマー層と既発泡LDPEとが剥離しやすいものであった。
【0072】
[比較例3〜5]
比較例3、4、5において、揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対してそれぞれ0重量部、3重量部、60重量部となるように圧入し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にしたが積層発泡シートを得られなかった。
【0073】
[比較例6、7]
比較例6、7において、熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
【0074】
[比較例8]
比較例8において、積層発泡シートの発泡倍率が表1に示す密度となるように、物理発泡剤の使用量を低密度ポリエチレン(a)100重量部に対して40重量部とすると共に、押出ダイへの樹脂溶融物の供給量を制御し、熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
【0075】
[比較例9]
比較例9において、積層発泡シートの発泡倍率が表1に示す密度となるように、物理発泡剤の使用量を低密度ポリエチレン(c)100重量部に対して0.9重量部とすると共に、押出ダイへの樹脂溶融物の供給量を制御し、熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
【0076】
[比較例10]
比較例10において、熱可塑性エラストマー層形成用溶融物に、エラストマーを使用しないで、低密度ポリエチレン(a)を使用し、熱可塑性エラストマー層、積層発泡シートの平均厚みが表1に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例1と同様にして、積層発泡シートを得た。
【0077】
[比較例11、12]
比較例11、12において、熱可塑性エラストマーとして、熱可塑性エラストマー(f)、熱可塑性エラストマー(g)をそれぞれ使用し、揮発性可塑剤としてノルマルブタン70重量%とイソブタン30重量%からなる混合物を熱可塑性エラストマー(e)100重量部に対して比較例11では33重量部、比較例12では23重量部となるように押出機中に圧入し、熱可塑性エラストマー層及び積層発泡シートの厚みが表2に示す平均厚みとなるように、各層押出機の吐出、及びシートの引取速度を調整する以外は、実施例6と同様にして、積層発泡シートを得た。
上記比較例1〜12で得られた積層発泡シートについて、評価した結果を表2にまとめて示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】


上記表1、2中で不要の項目及び測定不可能の箇所は「―」で示し、低密度ポリエチレンは略してLDPEと表記した。
【0080】
[実施例と比較例のまとめ]
実施例1において得られた積層発泡シートは、図1に示すように熱可塑性エラストマー層外表面の全面に、多数の凹みが観察された。また、実施例2〜11および比較例9、11、12にて得られた積層発泡シートの熱可塑性エラストマー層外表面の全面においても、実施例1で観察されたと同様の多数の凹みが観察された。
(1)実施例1〜6は、揮発性可塑剤の添加量を一定にして主に積層発泡体層の厚みを0.5mmから10.0mmに徐々に大きくなるように制御した実施例である。熱可塑性エラストマー層の厚みは、1.2〜5.2μmの範囲になるように制御したが、いずれも安定して共押出成形をでき、静止摩擦係数が4以上で防滑性に優れ、更に、緩衝性と非粘着性にも優れる積層発泡シートが得られた。
(2)実施例7、8は、揮発性可塑剤の添加量を実施例1〜6と比較して、多い条件と少ない条件を選択した実施例である。いずれの場合も静止摩擦係数が4以上で防滑性に優れ、更に、緩衝性と非粘着性にも優れる積層発泡シートが得られた。
(3)実施例9は、熱可塑性エラストマー層に帯電防止剤を添加した例である。
他の実施例と比較して、熱可塑性エラストマー層の表面抵抗率が大幅に低下した結果が得られた。
(4)実施例10、比較例11、12は、他の実施例で使用した熱可塑性エラストマーとは異なる硬度のより高いものと、より低いものを使用した例である。比較例11、12に示す通り硬度のより高い熱可塑性エラストマーを使用した場合には静止摩擦係数が低下した結果が得られた。
(5)実施例11は、ポリオレフィン系発泡体層にポリプロピレンを使用した例である。
静止摩擦係数が4以上で防滑性に優れ、更に、緩衝性と非粘着性にも優れる積層発泡シートが得られた。
【0081】
(6)比較例1、2は、既発泡シート上に熱可塑性エラストマー形成層を押出ラミネートした例である。比較例1では安定した押出成形が可能であったが粘着性を発現し、比較例2では熱可塑性エラストマー層に亀裂が発生し、接着不良が発生して積層発泡シートを製造することが出来なかった。
(7)比較例3〜5は、揮発性可塑剤の添加量を本発明で特定する範囲の下限未満の例(比較例3、4)と、上限を超える例(比較例5)である。いずれも安定した共押出は不可能であった。
(8)比較例6、7は、熱可塑性エラストマー層の厚みを本発明で特定する範囲の下限未満の例(比較例7)と、上限を超える例(比較例6)である。比較例7では安定した共押出は不可能であった。また、比較例6では、緩衝性が顕著に低下した。
(9)比較例8、9は、積層発泡体シートの密度を本発明で特定する範囲の下限未満の例(比較例8)と、上限を超える例(比較例9)である。比較例8では安定した共押出は不可能であった。また、比較例9では、緩衝性が顕著に低下した。
(10)比較例10は、熱可塑性エラストマー層の代わりに、低密度ポリエチレンを使用した例である。静止摩擦係数が顕著に低下して、熱可塑性エラストマー層外表面に凹みは観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明実施例1で得られた積層発泡シートの熱可塑性エラストマー層外表面のの電子顕微鏡写真(拡大倍率:500倍)である。
【図2】本発明の積層発泡シートの製造方法の1例を示す説明図である。
【図3】本発明の積層発泡シートの1例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
11 第1の押出機
12 第2の押出機
13 環状ダイ
A 熱可塑性エラストマー
B 高分子型帯電防止剤
C 揮発性可塑剤
D 熱可塑性エラストマー層形成用溶融物
E ポリオレフィン系樹脂
F 物理発泡剤
G ポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物
イ 熱可塑性エラストマー層
ロ ポリオレフィン系樹脂発泡体層
ハ 積層発泡シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として熱可塑性エラストマー層(イ)が積層接着されている、厚みが0.3〜30mmで密度が0.018〜0.18g/cmのポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)であって、
(i)前記熱可塑性エラストマー層(イ)の平均厚みが10μm未満であり、
(ii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に微細な不定形の凹みが多数形成されており、
(iii)前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS K7125に基づく静止摩擦係数が4〜15である
ことを特徴とするポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂積層発泡シート(ハ)における熱可塑性エラストマー層(イ)外表面のJIS Z0237に基づく剥離強度が0.5N/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマー層(イ)外表面に面積が1〜500μmの範囲内の凹みが10〜100個/2500μm形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、JIS K6253に基づく硬度(デュロ硬度A)が25〜50であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合部分を60重量%以上含有する重合体であることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー層(イ)の基材樹脂が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合部分を60重量%以上含有する重合体であり、該重合体の共役ジエン化合物の二重結合部分の80%以上が水素化された水添ジエン系重合体であることを特徴とする、請求項5に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマー層(イ)に高分子型帯電防止剤(B)が該熱可塑性エラストマー(A)100重量部に対し10〜30重量部添加されていることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シート。
【請求項8】
熱可塑性エラストマー(A)100重量部と揮発性可塑剤(C)5〜50重量部とを押出機中にて混練した熱可塑性エラストマー層形成用溶融物(D)と、ポリオレフィン系樹脂(E)と物理発泡剤(F)とを他の押出機中にて混練したポリオレフィン系樹脂発泡体層形成用樹脂溶融物(G)とを共押出することにより、ポリオレフィン系樹脂発泡体層(ロ)の少なくとも片面側の最外層として、熱可塑性エラストマー層(イ)を積層接着させることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂積層発泡シートの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−184181(P2009−184181A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24973(P2008−24973)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】