説明

ポリカーボネート樹脂積層体

【解決手段】ポリカーボネート樹脂(1−i)基体の少なくとも一方の面に、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層を積層した基材(1)において、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層の表面上に、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜(2)を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、該積層体のヘイズが2%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂積層体。
【効果】本発明によれば、透明性を維持しながら耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更に長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂積層体を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂基体に、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂層を積層した基材上に、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、耐擦傷性と共に、塗膜の可視光透明性、紫外線遮蔽性を兼ね備え、長期耐候性に優れる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐衝撃性、及び、高い熱変形温度を有し、寸法安定性、加工性、及び自己消火性に優れることから光学材料として多くの用途で使用されている。しかしながら、表面硬度が低く、耐摩耗性に劣るため、透明材料として最も重要な透明性が損なわれやすいという問題点を有している。
【0003】
高硬度、耐擦傷性の付与を目的とした表面保護塗膜を形成するコーティング剤として、ポリカーボネート基材の表面に、加水分解性オルガノシランを加水分解もしくは部分加水分解して得られる組成物からなるコーティング剤、あるいは該組成物にコロイダルシリカを混合したコーティング剤、又は放射線硬化型アクリルコーティング剤、あるいは該組成物にコロイダルシリカを混合したコーティング剤を用いることが知られている。
一方、ポリカーボネート樹脂は、耐候性に劣るため直射日光に曝される屋外用途の場合には、耐衝撃性の低下や黄色変化するという問題点を有している。この問題点を改善する方法として、プライマー層に紫外線吸収剤を添加する方法、及びプライマーを構成する有機樹脂中に、紫外線吸収性の有機置換基を化学結合を介して導入する方法が提案されている。ここでいう紫外線吸収剤及び紫外線吸収性の有機置換基とは、例えばベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、トリアジン等の置換基、及びそれらを含有する有機化合物のことを指す(特許文献1:特開平4−106161号公報、特許文献2:特許第3102696号公報、特許文献3:特開2001−47574号公報、特許文献4:特許第3841141号公報参照)。
しかしながら、これらの例では、紫外線吸収剤成分を含むプライマー組成物を別途製造しなければならず、かつプライマー塗装工程において、ゴミ、埃、塵埃の混入を防止する塗装環境も必要となってしまい、工程が複雑かつ多段で、経済性に劣る欠点を有している。
【0004】
これらの問題点、特に工程の簡略化と経済性を改善する方法として、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とを共押し出し又は熱圧着により製造する方法が提案されている(特許文献5:特開昭58−107316号公報、特許文献6:特開昭55−59929号公報、特許文献7:特開2004−175094号公報、特許文献8:特開2003−201400号公報、特許文献9:特開2002−370324号公報、特許文献10:特開2003−62952号公報、特許文献11:特開2004−1393号公報参照)。これらの方法において、アクリル樹脂層に紫外線吸収剤を添加することで、ある程度の耐候性を付与することが可能であるが、紫外線吸収剤のブリードアウトによって、アクリル樹脂層と耐擦傷性コーティング被膜層との界面で白化したり、あるいはこれらの層間での密着が低下して剥離が発生したりする問題があり、未だ十分ではない。
【0005】
一方では、耐擦傷性コーティング被膜層にも有機紫外線吸収剤を添加する方法も以前から行われてきた。しかしながら、これらの化合物をコーティング組成物に単純に添加しただけでは、塗膜とした後の耐久性、即ち長期曝露後の紫外線吸収剤の表面からのブリード、流出が発生し、持続性に乏しく、また肝心な耐擦傷性の低下が著しい。
【0006】
以上のように、ポリカーボネート樹脂に耐候性及び耐擦傷性を付与する方法について様々な試みがなされてきたが、製造工程的に有利でありながら、ポリカーボネート樹脂の本来の可視光の透明性、耐衝撃性を維持し、かつ耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更に長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を全て満たしたポリカーボネート樹脂積層体は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−106161号公報
【特許文献2】特許第3102696号公報
【特許文献3】特開2001−47574号公報
【特許文献4】特許第3841141号公報
【特許文献5】特開昭58−107316号公報
【特許文献6】特開昭55−59929号公報
【特許文献7】特開2004−175094号公報
【特許文献8】特開2003−201400号公報
【特許文献9】特開2002−370324号公報
【特許文献10】特開2003−62952号公報
【特許文献11】特開2004−1393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、製造工程的に有利でありながら、透明性を維持し、耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更に長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリカーボネート樹脂基体の表面に紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層を積層した基材(1)を用い、かつ(メタ)アクリル樹脂層の表面に紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜(2)を積層することにより、該積層体が透明性を維持しながら耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更にこれまで実現し得なかった屋外暴露における長期間の耐候性が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、下記のポリカーボネート樹脂積層体を提供する。
〔1〕ポリカーボネート樹脂(1−i)基体の少なくとも一方の面に、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層を積層した基材(1)において、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層の表面上に、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜(2)を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、該積層体のヘイズが2%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂積層体。
〔2〕積層体のヘイズが1%以下である〔1〕記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔3〕紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)は、下記(1−ii−a)及び(1−ii−b)の単量体を共重合した重合体からなる(メタ)アクリル樹脂であって、該(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が90℃以上である〔1〕又は〔2〕記載のポリカーボネート樹脂積層体。
(1−ii−a)有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル単量体
(1−ii−b)共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体
〔4〕共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体(1−ii−b)の一部として、少なくとも(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含む〔3〕記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔5〕基材(1)は、ポリカーボネート樹脂(1−i)及び紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)とを共押し出し法により同時に成形されたものであり、該熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)の膜厚が1〜100μmである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔6〕基材(1)は、ポリカーボネート樹脂(1−i)基体に、膜厚が1〜100μmの紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)フィルムがラミネート法により成形されたものである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔7〕硬化被膜(2)は、少なくとも、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)、シリカ微粒子(2−ii)、シリコーンレジン(2−iii)、及び硬化触媒(2−iv)を含むシリコーンコーティング組成物を加熱硬化させた被膜である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔8〕硬化被膜(2)は、少なくとも、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)、シリカ微粒子(2−ii)、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(2−v)、光重合開始剤(2−vi)を含む(メタ)アクリルコーティング組成物を光照射して硬化させた被膜である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔9〕紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムの群から選択される1種以上の金属酸化物微粒子及び/又はトリアジン系紫外線吸収剤である〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
〔10〕紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)は、酸化亜鉛の表面をAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理した複合酸化亜鉛微粒子を、分散媒体中に分散させた複合酸化亜鉛微粒子分散体であって、メチレンブルー溶液に該複合酸化亜鉛微粒子分散体を投入し、ブラックライト照射前後で653nmの吸光度を測定した際の653nmでの吸光度変化から下記式で算出される光触媒分解性評価において、ブラックライト照射12時間後の光触媒分解性が25%以下である複合酸化亜鉛微粒子分散体である〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
光触媒分解性(%)=[(A0−A)/A0]×100
(式中、A0は初期吸光度を表し、Aは光照射後の吸光度を表す。)
〔11〕積層体のスーパーUVテスターでの耐候性試験で100時間後において塗膜クラック、剥離、又は黄変が発生しない〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性を維持しながら耐擦傷性、紫外線遮蔽性を発現し、更に長期の屋外暴露に耐えうる耐候性、耐久性を兼ね備えたポリカーボネート樹脂積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明のポリカーボネート樹脂積層体を詳細に説明する。
(1−i)ポリカーボネート樹脂
本発明における基材(1)の一方を構成するポリカーボネート樹脂(1−i)は、特に制限されず、例えば二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法又は溶融法等で反応させて得られるポリカーボネート樹脂である。二価フェノールの代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。これらの二価フェノールは1種単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0013】
ポリカーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステル又はハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0014】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重縮合法又は溶融法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族又は脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0015】
ホスゲンを使用する界面重縮合法は、酸結合剤及び有機溶媒の存在下で反応させる。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が用いられ、溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第3級アミン又は第4級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。また、ジフェニルカーボネートを用いる溶融法は、不活性ガス雰囲気下所定割合の二価フェノール成分とジフェニルカーボネートとを加熱しながら撹拌して、生成するアルコール又はフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコール又はフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコール又はフェノール類を留出させながら完結させる。また、反応を促進するために通常のエステル交換反応用触媒を使用することもできる。
【0016】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、特に限定されないが、通常の押し出し成形によりシート、ボード、プレートを製造できることが必要で、粘度平均分子量(M)で10,000〜50,000が好ましく、15,000〜35,000がより好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり好ましい。本発明でいう粘度平均分子量は塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0017】
このポリカーボネート樹脂を製造する際には、必要に応じて亜燐酸エステル、燐酸エステル、ホスホン酸エステル等の安定剤、テトラブロムビスフェノールA、テトラブロムビスフェノールAの低分子量ポリカーボネート、デカブロモジフェノール等の難燃剤、着色剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤等を添加することができる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂層(基体)の厚さとしては特に制限はないが、グレージング材料、光学材料用途として、0.1〜30mm、好ましくは0.3〜15mmが採用される場合が多い。
【0019】
(1−ii)紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂
本発明における基材(1)の他方を構成する(メタ)アクリル樹脂(1−ii)は、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂である。この(メタ)アクリル樹脂は、(1−ii−a)有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル単量体及び(1−ii−b)共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体を共重合した重合体からなる。
このうち、有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル単量体(1−ii−a)としては、分子内に有機系紫外線吸収性基と(メタ)アクリル重合性基を含有していれば、如何なるものでも使用することができる。
本発明の有利な点として、上記(メタ)アクリル樹脂(1−ii)を用いることで、従来必要であった煩雑なプライマー塗装工程を省略しながらも、高い紫外線吸収能を有する積層体が得られることが挙げられる。この場合、本発明の(メタ)アクリル樹脂層(1−ii)は、紫外線吸収性基が固定化されているので、従来の紫外線吸収剤を添加したプライマー被膜又は共押し出し法で成形した(メタ)アクリル樹脂層に比べ、紫外線吸収剤のブリードが抑制される。従って、基材の(メタ)アクリル樹脂表面と、後述する耐擦傷性コーティング硬化被膜との間で紫外線吸収剤の析出や白化がなく、更に密着性も向上する。
【0020】
上記した有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、分子内に紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル系単量体が示され、下記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物、及び下記一般式(4)で表されるベンゾフェノン系化合物を挙げることができる。
【0021】
【化1】


(式中、Xは水素原子又は塩素原子を示す。R1は水素原子、メチル基、又は炭素数4〜8の第3級アルキル基を示す。R2は直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R3は水素原子又はメチル基を示す。nは0又は1を示す。)
【0022】
【化2】


(式中、R3は上記と同じ意味を示す。R4は置換又は非置換の直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基を示す。R5は水素原子又は水酸基を示す。R6は水素原子、水酸基、又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。)
【0023】
上記一般式(3)において、R1で示される炭素数4〜8の第3級アルキル基としては、tert−ブチル基、tert−ペンチル基、tert−ヘキシル基、tert−ヘプチル基、tert−オクチル基、ジtert−オクチル基等を挙げることができる。
2で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、ブチレン基、オクチレン基、デシレン基等を挙げることができる。
【0024】
また、上記一般式(4)において、R4で示される直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜10のアルキレン基としては、上記R2で例示したものと同様のもの、あるいはこれらの水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基等を挙げることができる。R6で示されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等を挙げることができる。
【0025】
上記一般式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(メタ)アクリロキシメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。
【0026】
上記一般式(4)で表されるベンゾフェノン系化合物の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0027】
上記紫外線吸収性(メタ)アクリル単量体としては、式(3)で表されるベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、中でも2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールが好適に使用される。
更に、上記紫外線吸収性ビニル系単量体は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル単量体(1−ii−a)の使用量は、共重合組成で1〜40質量%、特に3〜25質量%が好ましい。1質量%未満では良好な耐候性が得られず、また、40質量%を超えると(メタ)アクリル樹脂(1−ii)のガラス転移温度が90℃未満になり、該表面の耐擦傷性コーティング被膜でのクラックが発生し易くなったり、密着性が低下したり、白化等の積層体外観不良を引き起こしたりする場合がある。
【0029】
(1−ii−b)共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体の例としては、(1−ii−a)を除く(メタ)アクリル重合性基を含む化合物であればよい。好ましい例としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、前記単量体を1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
この場合、この共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体(1−ii−b)の一部として、少なくとも(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含むことが、耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜との密着性の点から好ましい。(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランの使用量は、上記他の(メタ)アクリル単量体(1−ii−b)全量の0.1〜20質量%、特に0.3〜5質量%であることが、上記効果を発揮させることから好ましい。
【0031】
共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体(1−ii−b)の使用量は、共重合組成で60〜99質量%、好ましくは75〜97質量%の範囲であればよい。中でも好ましくは、メチルメタクリレート単独(60〜99質量%)、もしくはメチルメタクリレートを主として(40〜98.9質量%)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、及び/又はメタクリロキシプロピルアルコキシシランを0.1〜20質量%とするのが好ましい。
【0032】
紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量で3〜30万程度であるが、これらだけに制限されるものではない。(メタ)アクリル樹脂の耐熱性が劣ると、成形時に焼けこげ等の問題を起こすため、ガラス転移温度は90℃以上がよく、好ましくは93℃以上が、更に好ましくは95℃以上がよい。なお、その上限は特に限定されないが、通常105℃以下である。
【0033】
紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)の製造方法は、一般的に、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、連続重合法があるが、これらだけに制限されるものではない。本発明に使用される(メタ)アクリル樹脂としては連続重合法により製造された樹脂が好ましく使用される。更に、連続製造法には連続塊状重合法と連続溶液重合法とに分けられるが、本発明においてはどちらの製法で得られた(メタ)アクリル樹脂でも用いることができる。
【0034】
連続塊状重合法又は連続溶液重合法は、乳化剤及び懸濁分散剤のような添加剤は一切使用されておらず、ただ単に、重合を開始するための重合開始剤、及び分子量を調節するための連鎖移動剤が添加されているに過ぎない。連続溶液重合法では、溶媒としてトルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、重合反応をより有効に実施でき、得られた(メタ)アクリル樹脂中に残存することがなければよい。
【0035】
重合開始剤としては、一般的なアゾ系重合開始剤、又はパーオキサイド系重合開始剤を選択することが有効である。日油(株)、和光純薬工業(株)、化薬アクゾ(株)等のカタログに記載の各種重合開始剤の使用が可能である。例えばアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等が、パーオキサイド系重合開始剤としてはベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−アミルパーオキサイド等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。連鎖移動剤としては、メルカプタン類の使用が一般的であり、花王(株)、日油(株)等のカタログに記載の各種メルカプタン類を使用することができる。メルカプタン類としては、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。これらの重合開始剤、連鎖移動剤は(メタ)アクリル系ポリマーの末端に存在するため、ブツ、スジ等の問題を起こさない。ポリマー末端に結合しなかった重合開始剤の分解物は(メタ)アクリル系ポリマーに溶け込むために上記問題を起こさない。未反応のメルカプタン類は、未反応モノマーや溶剤を脱揮する工程でほぼ完全に除去されるが、極僅かに残存したメルカプタン類は、(メタ)アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂に対して完全に溶解するため上記問題を引き起こすことはない。
【0036】
この(メタ)アクリル樹脂中に、弊害を及ぼさない範囲で、各種添加剤を加えてもよい。添加剤の例としては、例えば、耐候性をより高める目的のもと、有機系の紫外線吸収剤又は光安定剤を挙げることができる。有機紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニルエステル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0037】
基材(1)を構成する(メタ)アクリル樹脂層(1−ii)の膜厚は、1〜100μmがよく、好ましくは3〜80μm、更に好ましくは5〜50μmである。1μm未満ではその効果が発揮されず、100μmを超えるとポリカーボネート樹脂の耐衝撃性を著しく低下させる場合があり、更には経済性においても不利である。
【0038】
ポリカーボネート樹脂(1−i)基体の少なくとも一方の面に、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層を積層した基材(1)を得る方法としては、共押し出し法及びラミネート法を採用することができる。
即ち、基材(1)として、ポリカーボネート樹脂(1−i)及び紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)とを共押し出し法により同時に成形されたものを用いることができ、この場合、該熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)の膜厚を1〜100μmにしたものを使用することができる。
【0039】
基材(1)の共押し出し法による製造工程の具体例を以下に示す。但し、本発明はこれによって限定されるものではない。基材(1)の製造に用いられる押し出し装置としては、一般に基板層を構成するポリカーボネート樹脂を押し出す一つのメイン押し出し機と、被覆層を構成する(メタ)アクリル樹脂を押し出す1又は2以上のサブ押し出し機により構成され、通常サブ押し出し機はメイン押し出し機より小型のものが採用される。メイン押し出し機の温度条件は、通常230〜290℃、好ましくは240〜280℃であり、またサブ押し出し機の温度条件は通常220〜270℃、好ましくは230〜260℃である。2種以上の溶融樹脂を被覆する方法としては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式等の公知の方法を用いることができる。フィードブロック方式の場合、フィードブロックで積層された溶融樹脂はTダイ等のシート成形ダイに導かれ、シート状に成形された後、表面を鏡面処理された成形ロール(ポリッシングロール)に流入して、バンクを形成する。このシート状成形物は、成形ロール通過中に鏡面仕上げと冷却が行われ、積層基材が形成される。また、マルチマニホールド方式の場合は、該ダイ内で積層された溶融樹脂は同様にダイ内部でシート状に成形された後、成形ロールにて表面仕上げ及び冷却が行われ、積層基材が形成される。ダイの温度としては、通常220〜280℃、好ましくは230〜270℃であり、成形ロール温度としては、通常100〜190℃、好ましくは110〜180℃である。ロールは縦型ロール又は、横型ロールを適宜使用することができる。
【0040】
また、基材(1)として、ポリカーボネート樹脂(1−i)基体に、膜厚が1〜100μmの紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)フィルムがラミネート法により成形されたものを用いることができる。
このラミネート法としては、公知の方法でよく、押し出しラミネート法、接着剤や接着剤を用いたラミネート法等が用いられる。具体的には、例えば、予め成形してあるポリカーボネート樹脂(1−i)に、予め成形してある紫外線吸水性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)フィルムを公知の方法でラミネートすればよい。
【0041】
(2)紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜
本発明に用いられ、上記基材の熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)上に積層される耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜(2)は、紫外線吸収性を示す耐擦傷性のあるコーティング被膜であればよい。中でも無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)、シリカ微粒子(2−ii)、シリコーンレジン(2−iii)、及び硬化触媒(2−iv)からなる熱硬化型のシリコーンコーティング組成物、もしくは(2−i)成分、(2−ii)成分、1分子中2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(2−v)、及び光重合開始剤(2−vi)からなる放射線硬化型の(メタ)アクリルコーティング組成物の硬化被膜が、優れた耐擦傷性の被膜が得られるので好ましい。
【0042】
(2−i)無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤の例としては、無機酸化物微粒子では、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、アンチモン含有酸化スズ、スズ含有酸化インジウム、酸化鉄、シリカ、アルミナ等の単一もしくはこれらの複合金属酸化物微粒子、及びこれらの混合物、もしくはこれらの分散体が挙げられる。これらのうち、金属酸化物微粒子としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムが好ましい。中でも光触媒活性が低いものが好適であり、具体的には、酸化亜鉛微粒子の表面をAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理した複合酸化亜鉛微粒子を、分散媒体中に分散させた複合酸化亜鉛微粒子分散体であって、メチレンブルー溶液に該複合酸化亜鉛微粒子分散体を投入し、ブラックライト照射前後で653nmの吸光度を測定した際の653nmでの吸光度変化から下記式で算出される光触媒分解性評価において、ブラックライト照射12時間後の光触媒分解性が25%以下である複合酸化亜鉛微粒子分散体である。
光触媒分解性(%)=[(A0−A)/A0]×100
(式中、A0は初期吸光度を表し、Aは光照射後の吸光度を表す。)
【0043】
より好ましくは、亜鉛原料を直流アークプラズマ法によって加熱、気化させ、その亜鉛蒸気を酸化、冷却することにより得られ、更にその表面をAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理した複合酸化亜鉛微粒子を、分散媒体中に分散させた複合酸化亜鉛微粒子分散体である。
【0044】
これら(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子における光触媒活性は十分に低いことが特徴である。一般的な酸化亜鉛微粒子は紫外線遮蔽作用を有すると同時に光触媒としても機能する。このような酸化亜鉛微粒子を紫外線遮蔽剤として耐擦傷性コーティング組成物に使用した場合、光触媒によるバインダーの劣化に伴うクラックが発生するが、これらの(表面被覆)酸化亜鉛微粒子は、光触媒活性が十分に低いのでクラック発生が抑制される。これらの(表面被覆)酸化亜鉛微粒子は、酸化亜鉛微粒子の表面をシリカ等の酸化物もしくは水酸化物で被覆し、好ましくは更に加水分解性シランにより表面処理されているので、光触媒活性を十分に低くすることができる。
【0045】
ここで、光触媒活性はメチレンブルーの光分解による吸光度変化を測定することで評価できる。濃度0.01mmol/Lのメチレンブルーの水メタノール(1:1質量比)溶液20gに、本発明の(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子分散体を(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子の固形分が0.15gになる量で投入し、30分間暗所にて撹拌した後に、15Wのブラックライトにより12時間光照射する。その後、3,000rpm、15分の遠心分離を行い、上澄みの653nmのメチレンブルーの吸光度を紫外可視分光光度計にて測定し、下記式により光触媒分解性を算出する。
光触媒分解性(%)=[(A0−A)/A0]×100
(式中、A0は初期吸光度を表し、Aは光照射後の吸光度を表す。)
この光触媒分解性が25%以下である(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子であればよく、23%以下がより好ましい。
【0046】
なお、このように光触媒分解性を25%以下にするには、酸化亜鉛微粒子の表面を後述する方法、即ちAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理する、又は更に加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種で表面処理すればよい。
【0047】
酸化亜鉛微粒子の製造方法としては、直流アークプラズマ法、プラズマジェット法、高周波プラズマ法等のプラズマ法が挙げられるが、直流アークプラズマ法が生産性等の点から最も好ましい。このプラズマ法で製造した酸化亜鉛微粒子は、表面の結晶状態がよいためか極めて吸着性が強く、分散剤のアミノ基、イミノ基、第4級アンモニウム塩基等の官能基を強く吸着するので、微粒子同士が吸着することなく、分散性が良好になる。その結果、前記プラズマ法で製造された酸化亜鉛微粒子を配合した塗料を被膜化した際には、濁りがなく、透明性の高い被膜となるので、(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子を分散媒に分散させる際には分散剤を使用したほうが好ましい。
【0048】
本発明において使用する直流アークプラズマ法は、金属亜鉛等の亜鉛原料を消費アノード電極とし、カソード電極からアルゴンガスのプラズマフレームを発生させ、前記亜鉛原料を加熱、蒸発させ、その金属亜鉛蒸気を酸化、冷却するものである。この方法は、光散乱法で測定した平均粒子径(体積平均粒子径D50)が10〜200nmの範囲である酸化亜鉛微粒子を製造することができる。平均粒子径が10nm未満のものは製造の効率が悪くなり、200nmを超えるものは粗大粒子が生成する可能性が大きくなるおそれがある。
【0049】
次いで、得られた酸化亜鉛微粒子の表面をAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理し、複合酸化亜鉛微粒子とする。この複合酸化亜鉛微粒子としては、例えばAl、Si、ZrあるいはSnのアルコキシドを用い、これを加水分解することで酸化物被覆を施したもの、又は、珪酸ナトリウム水溶液等を用い、中和させることにより表面に酸化物や水酸化物を析出させたもの、更には析出した酸化物や水酸化物を加熱して結晶性を高めたもの等を例示することができる。
【0050】
前記複合酸化亜鉛微粒子中における前記酸化物及び/又は水酸化物の被覆量は、0.1〜20質量%、より好適には1〜10質量%であることが好ましい。前記の被覆量が0.1質量%を下回ると、被覆によって光触媒活性を抑制する効果がなく、酸化亜鉛の耐薬品性を向上させることは難しい。一方、被覆量が20質量%を超えると、酸化亜鉛の量が80質量%未満となり、単位量あたりの紫外線遮蔽効率が低下する場合がある。
【0051】
更に、本発明の複合酸化亜鉛微粒子の表面が下記式(i):
(R01x(R02ySi(X’)4-x-y (i)
(式中、R01及びR02は、各々独立に、水素原子、又は非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、X’は、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のアシルオキシ基又はイソシアネート基であり、xは、0又は1であり、yは、0,1又は2であり、かつx+yは、0,1,2又は3である。)
で表される加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種で表面処理されている表面被覆複合酸化亜鉛微粒子であることが好ましい。
【0052】
具体的に上記の表面処理は、複合酸化亜鉛微粒子を、水及び塩基性有機化合物の存在下、式(i)で表される加水分解性シランを加水分解させ、その加水分解物のシラノール縮合反応、所謂、ゾル−ゲル法により形成される。
【0053】
式(i)中、R01及びR02は、各々独立に、水素原子、又は非置換もしくは置換の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に1〜8のものが好ましく、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。また、置換一価炭化水素基の置換基としては、塩素、フッ素等のハロゲン原子、アミノ基、エポキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシ基等が挙げられる。X’はハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のアシルオキシ基又はイソシアネート基であり、xは、0又は1であり、yは、0,1又は2であり、かつx+yは、0,1,2又は3である。
【0054】
上記の加水分解性シランの具体例として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン等の4官能シラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、4−ブチルフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−カルボキシプロピルトリメトキシシラン、(3,3’,3’’−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3’,3’’−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等の3官能シラン類、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジドデシルジメトキシシラン、メチルオクチルジメトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の2官能シラン類、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、ジフェニルメチルエトキシシラン等の1官能シラン類が挙げられる。
【0055】
また、これらの加水分解性シランの部分加水分解縮合物としては、例えば、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学工業(株)製、商品名「MSI51」コルコート(株)製、商品名「MS51」,「MS56」三菱化学(株)製)、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」,「シリケート45」多摩化学工業(株)製、商品名「ESI40」,「ESI48」コルコート(株)製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学工業(株)製、商品名「EMSi48」コルコート(株)製)等を使用してもよい。
【0056】
これらの中で、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、及びジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、ドデシルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、及びそれらの部分加水分解縮合物が好ましい。
【0057】
また、アルコキシシラン類として、(3,3’,3’’−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、(3,3’,3’’−トリフルオロプロピル)トリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン等のフッ化アルキル基やフッ化アリール基を有するアルコキシシラン類を単独使用もしくは併用することにより、形成される表面処理層に優れた耐水性、耐湿性、耐汚染性等を付与することができる。
【0058】
これらの加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物は、1種を用いることとしても、複数種を用いることとしてもよい。但し、複合酸化亜鉛微粒子における表面処理層の形成性の点で、1官能シラン類の使用量は、全シラン類の70モル%以下となるようにすることが望ましい。また、3官能及び4官能シラン類の使用量を、全シラン類の1〜90モル%とするのが好ましい。なお、表面処理層の緻密性を向上させ、耐水性、耐酸性、耐亜鉛溶出性、光触媒作用の封鎖能等を向上させるなどの点から、その上限値は、80モル%以下とするのが更に好ましく、70モル%以下とするのが特に好ましく、その下限値は、5モル%以上とするのが更に好ましく、10モル%以上とするのが特に好ましい。
【0059】
これらの加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物の使用量は、複合酸化亜鉛微粒子中の全金属原子のモル数(即ち母核の亜鉛原子及び表面被覆された酸化物あるいは水酸化物の金属原子との総和)に対する加水分解性シラン中のケイ素原子のモル数比として、0.1〜100倍モルとするのが好ましい。なお、その上限値は、単位量あたりの酸化亜鉛の含有量を大きくできるなどの点から、70倍モル以下とするのが更に好ましく、50倍モル以下とするのが特に好ましい。一方、その下限値は、複合酸化亜鉛微粒子に対する非凝集性付与などの点から、0.5倍モル以上とするのが好ましく、1倍モル以上とするのが特に好ましい。
【0060】
本発明において複合酸化亜鉛微粒子の表面処理に用いられる塩基性有機化合物は、加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物の加水分解、及び相当するシラノール縮合反応の触媒として作用するものであり、具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリフェニルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン等の3級アミン類、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、トリメチルピリジン、キノリン等の含窒素複素環類などが挙げられ、中でも、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン等の炭素数6〜12の3級アミン類が好ましい。
【0061】
これらの塩基性有機化合物の使用量は、加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物に対して、0.001〜10質量%とするのが好ましい。なお、その上限値は、反応の制御性、及び複合酸化亜鉛微粒子に対する非凝集性付与などの点から、8質量%以下とするのが更に好ましく、5質量%以下とするのが特に好ましく、一方、その下限値は、反応速度などの点から、0.002質量%以上とするのが更に好ましく、0.005質量%以上とするのが特に好ましい。
【0062】
また、前記加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物を加水分解させるための水の使用量は、加水分解性シラン中の加水分解性基のモル数に対して、0.1〜10倍モルとするのが好ましい。なお、その上限値は、加水分解性シランの加水分解、シラノール縮合反応の制御性などの点から、7倍モル以下とするのが更に好ましく、5倍モル以下とするのが特に好ましい。一方、その下限値は、加水分解、及びシラノール縮合反応性などの点から、0.3倍モル以上とするのが更に好ましく、0.5倍モル以上とするのが特に好ましい。
【0063】
複合酸化亜鉛微粒子の表面処理の方法において、前記加水分解性シラン及びその部分加水分解縮合物、前記塩基性有機化合物、及び水の添加方法や順序に特に制限はなく、例えば、前記複合酸化亜鉛微粒子を含む液相中に、先ず加水分解性シラン類を加え、次いで塩基性有機化合物と水を逐次にあるいは同時に加える方法、先ず塩基性有機化合物を加え、次いで加水分解性シラン類と水を逐次にあるいは同時に加える方法、加水分解性シラン類と塩基性有機化合物と水を予め混合しておき、加える方法等が可能である。これらの中で、水を最後に加える方法が反応の制御性の点で好ましく、先ず加水分解性シラン類を加え、次いで塩基性有機化合物を加え、最後に水を加える方法が最も好ましい。
【0064】
本発明における(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子分散体の分散安定性の観点から、分散剤を添加してもよい。分散剤は、無機粉体表面に吸着配向するような有機官能基を有しており、微細化した微粒子を保護する役割を担うため、分散安定性の高い分散体を調製する際には必須である。有機官能基としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、イミノ基、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基、及びこれらの塩、アミド基、アセチルアセトナート基が挙げられる。特にカルボキシル基、リン酸基、及びこれらのナトリウム塩、アンモニウム塩基が好ましい。このような官能基を有する化合物であって、より分散性向上に貢献するものとして、これら官能基を側鎖に有する有機重合体であることが好ましい。より具体的には、(メタ)アクリル酸、リン酸基含有(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、スルホン酸基含有スチレン等の官能性モノマーを少なくとも1種以上含有する有機重合体であって、より好適には、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、リン酸基含有(メタ)アクリレートを含むポリアクリレート類、ポリエステルアミン類、脂肪酸アミン類、スルホン酸アミド類、カプロラクトン類、第4級アンモニウム塩等のイオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン、多価アルコールエステル等の非イオン性界面活性剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性高分子、ポリシロキサンなどが好ましい。具体的な商品名としては、ポイス520、521、532A、2100(以上、花王(株)製)、Disperbyk102、161、162、163、164、180、190(BYK製)、アロンT−40(東亞合成(株)製)、ソルスパース3000、9000、17000、20000、24000(以上、ゼネカ(株)製)等が使用可能であり、これらを単独もしくは適宜混合して用いることができる。
【0065】
分散剤の使用量は、(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子固形分100質量部に対して、分散剤有効成分で0〜30質量部、好ましくは0.5〜20質量部、特に1〜20質量部が好ましい。30質量部よりも多いと過剰な分散剤が塗膜の耐擦傷性、耐候性の低下をもたらすため不適である。
【0066】
(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子分散体は、前述の(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子を各種の分散媒体に分散させたものである。分散媒体としては、特に制限されるものではなく、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール等のアルコール類、トルエンやキシレンのような芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールエーテル類、n−ヘキサン等の飽和炭化水素類など、及びそれらの混合物を例示することができる。
【0067】
(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子の分散量は、特に制限されるものではなく、分散性を損なわない範囲内で可能な限り高濃度であることが好ましく、通常、分散体中に5〜80質量%、より好適には10〜60質量%含有される。分散量が5質量%未満では分散媒体の割合が高くなりすぎ、ビニル系共重合体を加えた後の全固形分濃度が小さすぎて、適当な膜厚の塗膜が得られない場合がある。一方、80質量%を超えると分散安定性を損なったり、高粘度化する等のハンドリング上の不便が生じやすい場合がある。
【0068】
機械的な粉砕分散装置としては、ビーズミル、ジェットミル、アトライター、サンドミル、超音波ミル、ディスクミル等公知なものが使用可能であるが、特に、ビーズを用いたビーズミルを使用した場合、短時間で得られやすく、好ましい。ビーズミルの具体例としては、アシザワファインテック(株)製ミニゼータ、ラボスター、スターミルLMZ、スターミルZRS、寿工業(株)製ウルトラアペックスミル、アイメックス(株)製マックスビスコミル等が使用可能である。分散時間は、使用されるビーズ径、ビーズ材質、ビーズミルの周速等により変わるが、一般に0.03〜0.5mm程度のビーズ径で、アルミナ、ジルコニア等のセラミックビーズの使用が適する。ビーズミルでの粉砕時間は20分〜5時間程度、より好ましくは30分〜3時間程度が好ましい。
【0069】
前述の分散剤を使用する場合は、(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子と分散媒体を前述の装置を用いて機械的に粉砕分散する際に共存させるのが好ましい。(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子と分散媒体だけで機械的粉砕分散した後、分散剤を添加した場合、目標とする分散体の平均粒子径まで凝集が解けにくいことがある。
【0070】
前述の分散体は、光散乱法で測定した平均粒子径(体積平均粒子径D50)が10〜200nmの範囲にあるものが好ましい。200nmを超えると、塗膜の可視光透過性が低下するおそれがある。より好ましくは、体積平均粒子径D50で150nm以下がよい。また、体積平均粒子径D50が10nm未満の場合、ハンドリングの点で好ましくない場合が生じる。これら分布は測定装置に依存しないが、ここではナノトラックUPA−EX150(日機装(株)製)、あるいはLA−910(堀場製作所(株)製)にて測定した値で規定することとする。
【0071】
具体的には、市販品を使用することができ、例えばシーアイ化成(株)製ZNTAB15WT%−E16、同E15、同E16−(1)、同E16−(2)、同E34等を使用することができる。
【0072】
(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子の配合量は、耐擦傷性コーティング組成物中の固形分に対し、(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子固形分で0〜50質量%、より好ましくは3〜35質量%となる量を添加することが好ましい。(表面被覆)複合酸化亜鉛微粒子固形分が50質量%より多いと塗膜の可視光透明性及び耐擦傷性を保つのが困難になる場合が生じる。
【0073】
次に、有機紫外線吸収剤について説明する。有機紫外線吸収剤としては、主骨格がヒドロキシベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系である化合物誘導体、側鎖にこれら紫外線吸収剤を含有するビニルポリマー等の(共)重合体などを挙げることができる。具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジエトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジプロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジブトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−プロポキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−4’−ブトキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−t−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン、2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノンの(共)重合体、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの(共)重合体、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの反応物、これらの(部分)加水分解物等が挙げられる。特に長期耐候性の観点から、2−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−4,6−ジフェニルトリアジン等のトリアジン系が好適である。これらの有機紫外線吸収剤は2種以上を併用してもよい。
【0074】
有機紫外線吸収剤は、(2−i)成分として使用される場合の配合量としては、耐擦傷性コーティング組成物の固形分に対して0〜30質量%がよく、好ましくは0.3〜25質量%、特に0.5〜20質量%である。有機紫外線吸収剤が30質量%より多いと塗膜の耐擦傷性及び基材(1)との密着性を保つのが困難になる場合が生じる。
【0075】
次に、(2−ii)シリカ微粒子について説明する。シリカ微粒子(2−ii)は、直径5〜200nm、好ましくは5〜40nmのシリカ微粒子が、水、有機溶媒、又は(メタ)アクリル系単量体中に分散されたものである。該シリカ微粒子は、水分散型、有機溶媒分散型、又は(メタ)アクリル系単量体分散型のいずれかを使用できるが、耐擦傷性コーティング被膜のバインダーとして、(2−iii)シリコーンレジンを用いる場合には、水分散型のものを用いるのが好ましい。水分散型のシリカ微粒子の場合、シリカ微粒子の表面に多数の水酸基が存在し、これがシリコーンレジン中のシラノールと強固に結合するため、より耐擦傷性に優れたプラスチック積層体が得られるためである。
【0076】
また、水分散型シリカ微粒子は、更に酸性水溶液分散型と塩基性水溶液分散型に分かれる。該水分散型シリカ微粒子は酸性水溶液分散型と塩基性水溶液分散型のどちらでも使用できるが、硬化触媒選択の多様性、後述するアルコキシシランの適切な加水分解、縮合状態の実現の観点から、酸性水溶液分散型シリカ微粒子が好ましく使用される。
【0077】
かかるシリカ微粒子として、具体的には、酸性水溶液中で分散させた商品として日産化学工業(株)のスノーテックスO、触媒化成工業(株)のカタロイドSN、塩基性水溶液中で分散させた商品として日産化学工業(株)のスノーテックス30、スノーテックス40、触媒化成工業(株)のカタロイドS30、カタロイドS40等が挙げられる。
【0078】
また、耐擦傷性コーティング被膜のバインダーとして、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(2−v)を用いる場合には、有機溶剤に分散させたシリカ微粒子を使用するのが好ましい。更にバインダーとの強固な結合を形成することを考えると、有機溶剤分散シリカ微粒子の表面をメタクリロキシプロピルトリメトキシシランやアクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル官能性シランで処理したものが好ましい。
【0079】
有機溶剤に分散させた商品として、日産化学工業(株)のMA−ST、IPA−ST、NBA−ST、IBA−ST、EG−ST、XBA−ST、NPC−ST、DMAC−ST、触媒化成工業(株)のOSCAL1132、OSCAL1232、OSCAL1332、OSCAL1432、OSCAL1532、OSCAL1632、OSCAL1732等が挙げられる。
【0080】
また、(2−ii)シリカ微粒子を、(メタ)アクリル系単量体又は後述する1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(2−v)に分散したものを使用してもよい。この場合、分散方法としては、シリカ微粒子を(メタ)アクリル基含有化合物中に、分散剤や分散機器を用い、物理的に分散する方法等の公知の方法がある。
シリカ微粒子(2−ii)の配合量は、耐擦傷性コーティング組成物中の固形分に対し、1〜100質量%、好ましくは5〜100質量%、特に5〜50質量%がよい。
【0081】
本発明に用いられる(2−iii)シリコーンレジンは、下記一般式(5)
(R7m(R8nSi(OR94-m-n (5)
(式中、R7及びR8は、各々独立に、水素原子、又は置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、置換基同士が相互に結合していてもよく、R9は、炭素数1〜3のアルキル基であり、m,nは、各々独立に、0又は1であり、かつm+nは、0,1又は2である。)
で表されるアルコキシシラン及びその部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種を(共)加水分解・縮合することにより得られたシリコーンレジンである。
【0082】
上記式中、R7及びR8は、水素原子、又は置換もしくは非置換の好ましくは炭素数1〜12、特に1〜8の一価炭化水素基であり、例えば、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3’,3’’−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−メルカプトプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基等の(メタ)アクリロキシ、エポキシ、メルカプト、アミノ、イソシアネート基置換炭化水素基等を例示することができる。また、複数のイソシアネート基置換炭化水素基同士が結合したイソシアヌレート基も例示することができる。これらの中でも、特に耐擦傷性や耐候性が要求される用途に使用する場合にはアルキル基が好ましく、靭性や染色性が要求される場合にはエポキシ、(メタ)アクリロキシ、イソシアヌレート置換炭化水素基が好ましい。
【0083】
また、R9は、炭素数1〜3のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基を例示することができる。これらの中でも、加水分解縮合の反応性が高いこと、及び生成するアルコールR3OHの蒸気圧が高く、留去のし易さ等を考慮すると、メチル基、エチル基が好ましい。
【0084】
上記式の例としては、m=0、n=0の場合、一般式:Si(OR94で表されるテトラアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(2−iii−a)である。このようなテトラアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「Mシリケート51」多摩化学工業(株)製、商品名「MSI51」コルコート(株)製、商品名「MS51」、「MS56」三菱化学(株)製)、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「シリケート35」、「シリケート45」多摩化学工業(株)製、商品名「ESI40」、「ESI48」コルコート(株)製)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(商品名「FR−3」多摩化学工業(株)製、商品名「EMSi48」コルコート(株)製)等を挙げることができる。
【0085】
また、m=1、n=0あるいはm=0、n=1の場合、一般式:R7Si(OR93あるいはR8Si(OR93で表されるトリアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(2−iii−b)である。このようなトリアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、ハイドロジェントリメトキシシラン、ハイドロジェントリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イソシアネート基同士が結合したトリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「KC−89S」、「X−40−9220」信越化学工業(株)製)、メチルトリメトキシシランとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物(商品名「X−41−1056」信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0086】
m=1、n=1の場合、一般式:(R7)(R8)Si(OR92で表されるジアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物(2−iii−c)である。このようなジアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物の具体例としては、メチルハイドロジェンジメトキシシラン、メチルハイドロジェンジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0087】
(2−iii)シリコーンレジンは、前記のアルコキシシラン(2−iii−a、b、c)を任意の割合で使用して調製すればよいが、更に保存安定性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させるには、アルコキシシラン(2−iii−a)、(2−iii−b)、(2−iii−c)の合計100Siモル%に対して、(2−iii−a)を0〜50Siモル%、(2−iii−b)を50〜100Siモル%、(2−iii−c)を0〜10Siモル%の割合で使用することが好ましく、更には(2−iii−a)を0〜30Siモル%、(2−iii−b)を70〜100Siモル%、(2−iii−c)を0〜10Siモル%の割合で使用することが好ましい。この際、主成分となる(2−iii−b)が50Siモル%未満では、樹脂の架橋密度が小さくなるために硬化性が低く、また硬化膜の硬度が低くなる傾向がある。一方、(2−iii−a)が50Siモル%より過剰に用いられると、樹脂の架橋密度が高くなりすぎ、靭性が低下してクラックを回避しにくくなる場合がある。
【0088】
なお、Siモル%は全Siモル中の割合であり、Siモルとは、モノマーであればその分子量が1モルであり、2量体であればその平均分子量を2で割った数が1モルである。
【0089】
(2−iii)シリコーンレジンを製造するに際しては、(2−iii−a、b、c)を公知の方法で(共)加水分解・縮合させればよい。例えば、(2−iii−a、b、c)のアルコキシシランもしくはその部分加水分解縮合物の単独又は混合物を、pHが1〜7.5、好ましくは2〜7の水で(共)加水分解させる。この際、水中にシリカ微粒子等の金属酸化物微粒子が分散されたものを使用してもよい。このpH領域に調整するため及び加水分解を促進するために、フッ化水素、塩酸、硝酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、安息香酸、マロン酸、グルタール酸、グリコール酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸及び無機酸、もしくは表面にカルボン酸基やスルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂等の固体酸触媒、あるいは酸性の水分散シリカ微粒子等の水分散金属酸化物微粒子を触媒に用いてもよい。また加水分解時にシリカ微粒子等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものを共存させてもよい。
【0090】
この加水分解において、水の使用量は(2−iii−a、b、c)のアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解縮合物の合計100質量部に対して水20〜3,000質量部の範囲であればよいが、過剰の水の使用は、装置効率の低下ばかりでなく、最終的な組成物とした場合、残存する水の影響による塗工性、乾燥性の低下をも引き起こすおそれがある。更に保存安定性、耐擦傷性、耐クラック性を向上させるためには、50質量部以上150質量部以下とすることが好ましい。水が少ないと、得られるシリコーンレジンのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量が後述する最適領域にまで大きくならないことがあり、多すぎると、得られるシリコーンレジンに含まれる原料(2−iii−b)に由来する単位式:R’SiO(3-p)/2(OX)p(但し、R’はR7又はR8であり、Xは水素原子又はR9であり、R7、R8、R9は前記と同じであり、pは0〜3の整数である。)で表される単位中のR’SiO3/2(但し、R’は前記と同じ)で表される単位が、塗膜の耐クラック性を維持するための最適範囲にまで達しないことがある。
【0091】
加水分解は、アルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物中に水を滴下又は投入したり、逆に水中にアルコキシシラン、もしくはその部分加水分解縮合物を滴下又は投入したりしてもよい。この場合、有機溶剤を含有してもよいが、有機溶剤を含有しないほうが好ましい。これは有機溶剤を含有するほど、得られるシリコーンレジンのGPC分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量が小さくなる傾向があるためである。
【0092】
(2−iii)シリコーンレジンを得るには、前記の加水分解に続いて、縮合させることが必要である。縮合は、加水分解に続いて連続的に行えばよく、通常、液温が常温又は100℃以下の加熱下で行われる。100℃より高い温度ではゲル化する場合がある。更に80℃以上、常圧又は減圧下にて、加水分解で生成したアルコールを留去することにより、縮合を促進させることができる。更に、縮合を促進させる目的で、塩基性化合物、酸性化合物、金属キレート化合物等の縮合触媒を添加してもよい。縮合工程の前又は最中に、縮合の進行度及び濃度を調整する目的で有機溶剤を添加してもよく、またシリカ微粒子等の金属酸化物微粒子を水もしくは有機溶剤中に分散させたものを添加してもよい。一般的にシリコーンレジンは縮合が進行すると共に、高分子量化し、水や生成アルコールへの溶解性が低下していくため、添加する有機溶剤としては、シリコーンレジンをよく溶解し、沸点が80℃以上の比較的極性の高い有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤の具体例としてはイソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類等を挙げることができる。
【0093】
この縮合により得られたシリコーンレジンのGPC分析におけるポリスチレン換算重量平均分子量は、1,500以上であることが好ましく、1,500〜50,000であることがより好ましく、2,000〜20,000であることが更に好ましい。分子量がこの範囲より低いと、塗膜の靱性が低く、クラックが発生しやすくなる傾向があり、一方、分子量が高すぎると、硬度が低くなる傾向があり、また塗膜中の樹脂が相分離するために塗膜白化を引き起こす場合がある。
【0094】
(2−iv)は、通常、シリコーンコーティング組成物に用いられる硬化触媒が使用できる。具体的には、シリコーンレジン(2−iii)中に含まれる、シラノール基、アルコキシ基等の縮合可能基が縮合する反応を促進する硬化触媒であり、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n−ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p−トルエンスルホン酸、トリクロロ酢酸等の酸性化合物類等が挙げられる。この中で特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウムが好ましい。
【0095】
更に、硬化性、耐クラック性に加え、コーティング組成物の保存安定性を維持するためにより適した硬化触媒として、以下のものが使用可能である。
下記一般式(6)
〔(R10)(R11)(R12)(R13)M〕+・X- (6)
(式中、R10,R11,R12,R13は、各々独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜18のアルキル基であって、R10,R11,R12,R13における各々のTaft−Duboisの置換基立体効果定数Esの合計が−0.5以下であり、Mは、アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンであり、X-は、ハロゲンアニオン、ヒドロキシドアニオン、又は炭素数1〜4のカルボキシレートアニオンである。)
で表される分子中に芳香族基を含まない化合物である。
【0096】
ここで、Taft−Duboisの置換基立体効果定数Esとは、置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度におけるメチル基CH3を基準にした相対速度であり、下記式で表される(J.Org.Chem.45,1164(1980)、J.Org.Chem.64,7707(1999)参照)。
Es=log(k/k0)
(式中、kは、特定条件下での置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度であり、k0は、同一条件下でのメチル基置換カルボン酸の酸性下エステル化反応速度である。)
【0097】
このTaft−Duboisの置換基立体効果定数Esは、置換基の立体的嵩高さを表す一般的な指標であり、例えば、メチル基:0.00、エチル基:−0.08、n−プロピル基:−0.31、n−ブチル基:−0.31となっており、Esが小さいほど立体的に嵩高いことを示している。
【0098】
本発明においては、式(6)中のR10,R11,R12,R13におけるEsの合計が−0.5以下であることが好ましい。Esの合計が−0.5より大きいと、コーティング組成物としての保存安定性が低下したり、塗膜化した際や耐水試験後にクラックや白化が発生したり、密着性、特に耐水密着性、煮沸密着性が低下するおそれがある。これはEsの合計が−0.5より大きい場合(例えばR10,R11,R12,R13がメチル基)、相当する式(6)で表される硬化触媒は触媒活性が強くなるものの、コーティング組成物の保存安定性は低下する傾向があり、またその塗膜は非常に吸湿し易くなり、耐水試験後の塗膜異常を引き起こす場合がある。なお、R10,R11,R12,R13におけるEsの合計は、通常、−3.2以上、特に−2.8以上であることが好ましい。
【0099】
上記式中、R10,R11,R12,R13のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;クロロメチル基、γ−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基などが挙げられる。
【0100】
また、Mはアンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンであり、X-はハロゲンアニオン、ヒドロキシドアニオン又は炭素数1〜4のカルボキシレートアニオンであり、ヒドロキシドアニオン又はアセテートアニオンであることが好ましい。
【0101】
このような硬化触媒の具体例としては、例えば、テトラn−プロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフルオロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフルオロメチル)アンモニウムヒドロキシド、トリメチルt−ブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラn−プロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ペンチルホスホニウムヒドロキシド、テトラn−ヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、テトラキス(トリフルオロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルシクロヘキシルホスホニウムヒドロキシド、トリメチル(トリフルオロメチル)ホスホニウムヒドロキシド、トリメチルt−ブチルホスホニウムヒドロキシド等のヒドロキシド類、これらヒドロキシド類とハロゲン酸との塩、及び炭素数1〜4のカルボン酸との塩を挙げることができる。これらの中でも、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムアセテートが好ましい。これらは1種単独で使用しても2種以上を併用してもよく、更には前述の公知の硬化触媒と併用してもよい。
【0102】
硬化触媒(2−iv)の配合量は、シリコーンレジン(2−iii)を硬化させるのに有効な量であればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、シリコーンコーティング組成物中の固形分に対し、0.0001〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001〜10質量%である。0.0001質量%未満であると硬化が不十分となり、硬度が低下する場合があり、30質量%より多いと塗膜にクラックが発生しやすくなる場合や、耐水性が低下する場合がある。
【0103】
次に、(2)耐擦傷性コーティング被膜として、放射線硬化型(メタ)アクリルコーティング組成物に用いられる(2−i)、(2−ii)、(2−v)、及び(2−vi)について説明する。(2−i)及び(2−ii)は上述しているので省略する。
【0104】
(2−v)である1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を含有していればよく、例えば、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。これらの化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この(2−v)は、(メタ)アクリルコーティング組成物の硬化性成分の主成分となるものであり、硬化後に得られる被膜のマトリックスを形成するものである。
【0105】
光重合開始剤(2−vi)としては、ラジカル系光重合開始剤が好ましく使用される。ラジカル系光重合開始剤としては、アセトフェノン系、ベンゾイン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の通常のものから選択することができる。ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、チオキサントン誘導体、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、アシルフォスフィンオキサイド誘導体、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルファイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ヒドロキシジメチルアセトフェノン、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルフォリノプロパン−1−オン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルファイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンが、表面硬化性が良好である点から好ましい。
【0106】
光重合開始剤(2−vi)の配合量は、(メタ)アクリルコーティング組成物中の固形分に対して0.1〜20質量%である。好ましい配合量は0.5〜10質量%であり、0.1質量%より少ないと硬化性が悪化し、20質量%より多いと表面の硬度が低下する。
【0107】
本発明で使用する耐擦傷性コーティング被膜を形成する組成物には、上記の各成分を溶解する又は分散する溶剤を用いることが好ましい。特に限定されるものではないが、極性の高い有機溶剤が主溶剤であることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシル等のエステル類等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれた1種もしくは2種以上の混合物を使用することができる。
【0108】
本発明に使用される耐擦傷性コーティング組成物は、必要に応じて、pH調整剤、レベリング剤、増粘剤、顔料、染料、金属酸化物微粒子、金属粉、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、熱線反射・吸収性付与剤、可撓性付与剤、帯電防止剤、防汚性付与剤、撥水性付与剤等を本発明の効果に悪影響を与えない範囲内で添加することができる。
【0109】
本発明で使用される耐擦傷性コーティング組成物は、上記各成分の所定量を常法に準じて混合することにより得ることができる。
【0110】
このようにして得られた耐擦傷性コーティング組成物は、積層基材(1)の熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)表面に、直接塗布、硬化することにより被膜を形成した被覆物品を得ることができる。
【0111】
ここで、耐擦傷性コーティング組成物の塗布方法としては、通常の塗布方法で基材にコーティングすることができ、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、バーコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を選択することができる。
【0112】
耐擦傷性コーティング組成物として、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物を塗布した後に硬化させる場合には、空気中に放置して風乾させてもよいし、加熱してもよい。硬化温度、硬化時間は限定されるものではないが、基材の耐熱温度以下で10分〜2時間加熱するのが好ましい。具体的には80〜135℃で30分〜2時間加熱するのがより好ましい。
【0113】
また耐擦傷性コーティング組成物として、光硬化型(メタ)アクリルコーティング組成物の場合には、光照射することで硬化させる。硬化させるための光源としては、通常、200〜450nmの範囲の波長の光を含む光源、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯等を使用することができる。照射量は特に制限されないが、10〜5,000mJ/cm2、特に20〜1,000mJ/cm2であることが好ましい。硬化時間は、通常0.5秒〜2分、好ましくは1秒〜1分である。
【0114】
耐擦傷性コーティング硬化被膜(2)の厚みは特に制限はなく、使用用途により適宜選択すればよいが、0.1〜50μmであることが好ましく、塗膜の硬さ、耐擦傷性、長期的に安定な密着性、及びクラックが発生しないことを満たすためには、特に1〜30μmが好ましい。
【0115】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、可視光透過性が特徴のひとつである。その指標として、積層体のヘイズ(Haze)の値の上限を定めることができる。ヘイズは一般に膜厚が大きいほど大きくなるが、ヘイズが2%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1%以下を満たすものが好ましい。塗膜のヘイズは、濁度計NDH2000(日本電色工業(株)製)で測定した値とする。
【0116】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、積層体としての耐擦傷性がもうひとつの特徴である。その指標として、耐擦傷性コーティングの表面側の耐擦傷性ΔHzで上限を定めることができる。ΔHzはASTM1044に準じ、テーバー摩耗試験にて摩耗輪SC−10Fを装着、荷重500gの下での500回転後のヘイズを測定、試験前後のヘイズ差(ΔHz)である。ΔHzが15.0以下、好ましくは13.0以下、より好ましくは10.0以下を満たすものが好ましい。
【0117】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、耐候性がもうひとつの特徴である。その指標として、積層体の耐候性試験での黄変度変化ΔYIあるいはクラック発生時間で上限を定めることができる。耐候性試験でのΔYI及びクラック発生の有無は、岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、[ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度50mW/cm2、降雨10秒/1時間で5時間]→[ブラックパネル温度30℃、湿度95%RHで1時間]を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す条件で、100時間、好ましくは200時間、より好ましくは300時間でΔYIが3以下、及びクラックの発生がないものが好ましい。なおΔYIは、オプティカルセンサーZ−300A(日本電色工業(株)製)、クラックは目視にて観察する。
【0118】
本発明のポリカーボネート樹脂積層体は、その表面に、直接又は必要に応じて紫外線吸収層、印刷層、記録層、熱線遮蔽層、粘着層、無機蒸着膜層等を介することもできる。
【実施例】
【0119】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は質量%、部は質量部を示す。また、粘度はJIS Z8803に基づいて測定した25℃での値であり、重量平均分子量は、標準ポリスチレンを基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
【0120】
<製造例1(熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の製造)>
メチルメタクリレート82部、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(2−メタクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール(RUVA−93、大塚化学(株)製)10部、メタノール8部、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.032部(2×10-3モル/L)及びn−ドデシルメルカプタン0.21部(10×10-3モル/L)を混合した後、窒素吹き込みによって溶存酸素を除去し、原料液を調製した。熱媒を循環するジャケットとヘリカルリボン撹拌翼を備えた内容積6Lの重合槽に予めこの原料液5kgを添加して密閉し、十分撹拌して均一混合状態を保ちながら、150℃に昇温して単量体転化率75%及び重合体濃度69%に到達するまで重合させた後、この原料液を1kg/hの割合で重合槽に連続的に供給した。
【0121】
重合温度を150℃及び平均滞留時間を約5時間に維持したところ、重合液の粘度は50Pa・s、単量体転化率は75%及び重合体濃度は70%で安定に保たれた。この重合液を1kg/hの流量で抜き出し、250℃まで加熱した後、減圧下にある脱揮タンク内にフラッシュした。脱揮された重合体は脱揮タンク底部より溶融状態で抜き出し、ダイスによりストランド状に取り出され、水冷後ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットは残存揮発成分としてメチルメタクリレート0.27%で、重合開始剤及び連鎖移動剤のn−ドデシルメルカプタンはGC分析では観察されなかった。得られたペレットの外観は無色透明で良好であった。GPC測定より重量平均分子量(Mw)10.3万で、ガラス転移温度は101℃であった。
【0122】
<製造例2(実施例で使用した共押し出しシート基材の製造)>
ポリカーボネート樹脂(E−2000U、三菱ガス化学(株)製、重量平均分子量:63,000)を押し出す押し出し機として、バレル直径65mm、スクリュウのL/D=35、シリンダー温度270℃とした。また、被覆層を形成する熱可塑性(メタ)アクリル樹脂は、上記製造例1で製造した(メタ)アクリル樹脂に、酸化防止剤としてスミライザーBHT(住友化学工業社製)0.1%及びアデガスタブPEP−36(旭電化工業社製)0.05%添加した樹脂を使用し、押し出し機は、バレル直径32mm、スクリュウのL/D=32、シリンダー温度250℃に設定した。2種類の樹脂を同時に溶融押し出し、積層する際にはフィードブロック(幅500mm)を使用し、ポリカーボネート樹脂の片面に(メタ)アクリル樹脂を積層した。ダイヘッド内温度は260℃とし、ダイ内で積層一体化された樹脂は、鏡面仕上げされた3本のポリッシングロールに導かれ、1番ロール温度110℃、2番ロール温度180℃、3番ロール温度180℃に設定した。最初に流入するロール間隔にて、バンクを形成した後、2番、3番ロールを通過させた。引き取り速度は1.2m/分、引き取り用ピンチロール速度1.6m/分とした。得られたシート基材(SUB−1)は、厚さ0.9mm、(メタ)アクリル樹脂の被覆層は20μmであった。得られたシートの外観はブツ、スジ等はほとんど観察されることがなく優れた品質であった。
【0123】
<製造例3(比較例で使用した共押し出しシート基材の製造)>
製造例2と同様な装置、製造条件にて、シートを製造した。ここで使用した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂は連続溶液重合法で製造されたアトフィナ社製アトグラスV020に、紫外線吸収剤としてチヌビン1577(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)3%と、酸化防止剤としてスミライザーBHT(住友化学工業社製)0.1%及びアデガスタブPEP−36(旭電化工業社製)0.05%添加した樹脂を使用した。得られたシート基材(SUB−2)の外観はブツ、スジ等はほとんど観察されることがなく優れた品質であった。
【0124】
<(2−i)成分の表面被覆複合酸化亜鉛微粒子分散体及び有機紫外線吸収剤>
2−i−A:シーアイ化成(株)製 ZNTAB15WT%−E16(2)(直流アークプラズマ法で製造した酸化亜鉛微粒子をシリカ被覆した後、メチルトリメトキシシランで表面処理してから、分散剤を用いて、混合アルコールに分散した分散体、固形分濃度15%、平均粒子径(体積平均粒子径D50)105nm)。
2−i−B:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製TINUVIN400(ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)
F−1:酸化チタン微粒子分散体(オプトレイク1120Z(11RU−7・A8)、固形分濃度20%、日揮触媒化成(株)製)
【0125】
<(2−i)成分の表面被覆複合酸化亜鉛微粒子分散体の光触媒活性の測定>
濃度0.01mmol/Lのメチレンブルーの水メタノール(1:1質量比)溶液20gに、表面被覆複合酸化亜鉛微粒子分散体(2−i−A)又は酸化チタン微粒子分散体(F−1、オプトレイク1120Z(11RU−7・A8)、固形分濃度20%、日揮触媒化成(株)製)を酸化物微粒子の固形分が0.15gになる量を投入し、30分間暗所にて撹拌した後に、15Wのブラックライトにより12時間光照射した。その後、3,000rpm、15分遠心分離し、上澄みの653nmのメチレンブルーの吸光度を紫外可視分光光度計にて測定し、下記式により光触媒分解性を算出し、その結果を表1に示す。
光触媒分解性(%)=[(A0−A)/A0]×100
ここで、A0は初期吸光度を表し、Aは光照射後の吸光度を表す。
【0126】
<加熱硬化型シリコーンコーティング組成物の合成>
[合成例1]
2Lのフラスコに、メチルトリメトキシシラン287g(2.11Siモル)を仕込み、液温が約10℃になるよう冷却後、スノーテックスO(日産化学工業(株)製:水分散シリカ微粒子、平均粒子径15〜20nm、SiO2 20%含有品)211g、0.25Nの酢酸水溶液93gを滴下し、内温が40℃を超えないように冷却しながら加水分解を行った。滴下終了後、40℃以下で1時間、次いで、60℃にて3時間撹拌し、加水分解を完結させた。
その後、シクロヘキサノン300gを投入し、加水分解で生成したメタノールを、常圧にて液温が92℃になるまで加熱留去すると共に、縮合させた後、希釈剤としてイソプロパノール400g、レベリング剤としてKP−341(信越化学工業(株)製)0.5g、酢酸1.6g、及び25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液1.6gを加え、撹拌した後、濾紙濾過を行い、不揮発分濃度19.2%、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析による重量平均分子量2,510、分散度1.84の無色透明のシリコーンレジン溶液を得た。このシリコーンレジン溶液100部に上記(2−i−A)表面被覆複合酸化亜鉛微粒子分散体30部(有姿)を添加、混合することにより、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−1)を得た。
【0127】
[合成例2]
合成例1のシリコーンレジン溶液100部に上記(2−i−A)表面被覆複合酸化亜鉛微粒子分散体30部(有姿)及び(2−i−B)有機紫外線吸収剤5部を添加、混合することにより、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−2)を得た。
【0128】
[合成例3]
合成例1のシリコーンレジン溶液100部に上記(F−1)酸化チタン微粒子分散体15部(有姿)を添加、混合することにより、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−3)を得た。
【0129】
<光硬化型(メタ)アクリルコーティング組成物の合成>
[合成例4]
1Lの遮光フラスコに、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン処理されたシリカ微粒子が分散されたエトキシレートペンタエリスリトールテトラアクリレート(S−PETTA、シリカ濃度50%、平均粒子径30nm)80部、ヘキサンジオールジアクリレート20部、光重合開始剤であるダロキュアー1173(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を3部、及び有機紫外線吸収剤として(2−i−B)TINUVIN400(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を5部仕込み、室温で1時間撹拌した。その後、メッシュ濾過を行い、粘度180mPa・sの光硬化型(メタ)アクリルコーティング組成物(UV−1)を得た。
【0130】
<ポリカーボネート積層体の作製及び評価>
[実施例1]
合成例1で得られた加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−1)を、製造例2で得られたシート基材(SUB−1)を清浄化した(メタ)アクリル樹脂被覆表面に、硬化塗膜として約5μmになるようにフローコートし、130℃にて60分加熱硬化させた。このようにして得られたポリカーボネート樹脂積層体を試験片とし、下記の物性評価の結果を表2に示す。
【0131】
[実施例2]
実施例1と同様の操作で、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−1)の代りに合成例2で得られた加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−2)を用いて、ポリカーボネート樹脂積層体を得た。下記の物性評価の結果を表2に示す。
【0132】
[実施例3]
合成例4で得られた光硬化型(メタ)アクリルコーティング組成物(UV−1)を、製造例2で得られたシート基材(SUB−1)を清浄化した(メタ)アクリル樹脂被覆表面に、硬化塗膜として約20μmになるようにバーコートし、80W高圧水銀灯により3秒間光照射(積算照射量300mJ/cm2)した。このようにして得られたポリカーボネート樹脂積層体を試験片とし、下記の物性評価の結果を表2に示す。
【0133】
[比較例1,2]
実施例1及び実施例3と同様な操作及び組成物で、製造例2で得られたシート基材(SUB−1)の代りに製造例3で得られたシート基材(SUB−2)を用いて、ポリカーボネート樹脂積層体を得た。下記の物性評価の結果を表3に示す。
【0134】
[比較例3]
比較例1と同様の操作で、加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−1)の代りに合成例3で得られた加熱硬化型シリコーンコーティング組成物(Si−3)を用いて、ポリカーボネート積層体を得た。下記の物性評価の結果を表2に示す。
【0135】
ポリカーボネート樹脂積層体の評価方法
<透明性>
積層体のヘイズをヘイズメーター(NDH2000:日本電色工業(株))にて測定した。
【0136】
<耐擦傷性>
ASTM1044に準じ、テーバー摩耗試験機にて摩耗輪CS−10Fを装着、荷重500g下での500回転後のヘイズを測定し、試験後と試験前のヘイズ差(ΔHz)を測定した。
【0137】
<初期密着性>
JIS K5400に準じ、カミソリ刃を用いて、塗膜に2mm間隔で縦、横6本ずつ切れ目を入れて25個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標、ニチバン(株)製)をよく付着させた後、90°手前方向に急激に剥がした時、塗膜が剥離せずに残存したマス目数(X)を、X/25で表示した。
【0138】
<耐水性外観及び耐水密着性>
試験片を沸騰水中に2時間浸漬した後に、目視にて外観観察、及び前記初期密着性と同様にして密着性試験を行った。
【0139】
<耐候性試験>
岩崎電気(株)製アイスーパーUVテスターW−151を使用し、[ブラックパネル温度63℃、湿度50%RH、照度50mW/cm2、降雨10秒/1時間で5時間]→[ブラックパネル温度30℃、湿度95%RHで1時間]を1サイクルとして、このサイクルを繰り返す条件で100時間、200時間の試験を行った。耐候性試験前後に、JIS K7103に準拠し、黄変度を、また耐候塗膜クラック性、耐候塗膜剥離の状態を下記評価基準にて目視又は顕微鏡(倍率250倍)にて観察した。
【0140】
<黄変度>
オプティカルセンサーZ−300A(日本電色工業(株)製)にて測定し、耐候性試験後と試験前の黄変度差(ΔYI)を測定した。
<耐候クラック性>
耐候性試験後の外観(クラックの有無)を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:僅かにクラックあり
×:塗膜全体にクラックあり
【0141】
<耐候剥離>
耐候性試験後の外観(剥離の有無)を下記の基準で評価した。
○:異常なし
△:一部剥離あり
×:全面剥離
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(1−i)基体の少なくとも一方の面に、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層を積層した基材(1)において、紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)層の表面上に、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤を含む耐擦傷性コーティング組成物の硬化被膜(2)を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、該積層体のヘイズが2%以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項2】
積層体のヘイズが1%以下である請求項1記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項3】
紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性(メタ)アクリル樹脂(1−ii)は、下記(1−ii−a)及び(1−ii−b)の単量体を共重合した重合体からなる(メタ)アクリル樹脂であって、該(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が90℃以上である請求項1又は2記載のポリカーボネート樹脂積層体。
(1−ii−a)有機系紫外線吸収性基を有する(メタ)アクリル単量体
(1−ii−b)共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体
【請求項4】
共重合可能な他の(メタ)アクリル単量体(1−ii−b)の一部として、少なくとも(メタ)アクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含む請求項3記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項5】
基材(1)は、ポリカーボネート樹脂(1−i)及び紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)とを共押し出し法により同時に成形されたものであり、該熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)の膜厚が1〜100μmである請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項6】
基材(1)は、ポリカーボネート樹脂(1−i)基体に、膜厚が1〜100μmの紫外線吸収性基を固定化した熱可塑性アクリル樹脂(1−ii)フィルムがラミネート法により成形されたものである請求項1乃至4のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項7】
硬化被膜(2)は、少なくとも、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)、シリカ微粒子(2−ii)、シリコーンレジン(2−iii)、及び硬化触媒(2−iv)を含むシリコーンコーティング組成物を加熱硬化させた被膜である請求項1乃至6のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項8】
硬化被膜(2)は、少なくとも、紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)、シリカ微粒子(2−ii)、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリル基を有する化合物(2−v)、光重合開始剤(2−vi)を含む(メタ)アクリルコーティング組成物を光照射して硬化させた被膜である請求項1乃至6のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項9】
紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウムの群から選択される1種以上の金属酸化物微粒子及び/又はトリアジン系紫外線吸収剤である請求項1乃至8のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項10】
紫外線吸収性の無機酸化物微粒子及び/又は有機紫外線吸収剤(2−i)は、酸化亜鉛の表面をAl、Si、Zr並びにSnの酸化物及び水酸化物から選ばれる少なくとも1種で被覆処理した複合酸化亜鉛微粒子を、分散媒体中に分散させた複合酸化亜鉛微粒子分散体であって、メチレンブルー溶液に該複合酸化亜鉛微粒子分散体を投入し、ブラックライト照射前後で653nmの吸光度を測定した際の653nmでの吸光度変化から下記式で算出される光触媒分解性評価において、ブラックライト照射12時間後の光触媒分解性が25%以下である複合酸化亜鉛微粒子分散体である請求項1乃至8のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。
光触媒分解性(%)=[(A0−A)/A0]×100
(式中、A0は初期吸光度を表し、Aは光照射後の吸光度を表す。)
【請求項11】
積層体のスーパーUVテスターでの耐候性試験で100時間後において塗膜クラック、剥離、又は黄変が発生しない請求項1乃至10のいずれか1項記載のポリカーボネート樹脂積層体。

【公開番号】特開2011−183758(P2011−183758A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54044(P2010−54044)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】