説明

ポリシラン類の製造方法

【課題】 電極材料の種類に拘わらず、流通系であっても、反応温度及び分子量を容易に制御しつつ、ポリシランを効率よく製造する。
【解決手段】 本発明では、ハロシラン化合物を電極反応に供することによりポリシランを製造する方法において、前記ハロシラン化合物、マグネシウムイオン(マグネシウムハライドなどとして)、支持電解質としての過塩素酸塩(過塩素酸アルカリ金属塩など)、及び非プロトン性溶媒を含む混合物を、流通式のマイクロリアクターに連続的に供給し、前記混合物に直流電流を通じさせる。前記電極反応において、少なくとも陽極材料として、通電により非溶出性の材料(炭素材料など)を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流通系(特にマイクロリアクターを用いた流通系)において、電極反応により効率よくポリシランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシランは、セラミックス前駆体、光電子材料(例えば、フォトレジスト、有機感光体などの光電子写真材料、光導波路などの光伝送材料、光メモリなどの光記録材料、エレクトロルミネッセンス素子用材料など)などとして注目されている。
【0003】
ポリシランの製造方法としては、金属ナトリウムなどのアルカリ金属を還元剤として用いて、トルエン溶媒中、100℃以上の温度及び強力な撹拌下で、ジアルキルジハロシラン又はジハロテトラアルキルジシランを還元的にカップリングさせる方法が知られている[J.Am.Chem.Soc.,103(1981年)、7352頁(非特許文献1)]。しかし、上記方法では、空気中で発火するアルカリ金属を加熱し、強力に攪拌・分散させる必要があるため、工業的規模での生産に際しては安全性に大きな問題がある。また、分子量分布が多峰性になるなど品質に関しても問題がある。
【0004】
これらの諸問題を解決すべく、電極反応を利用して、ポリシランを製造する方法が提案されている。例えば、特許第3291564号公報(特許文献1)には、支持電解質としての過塩素酸塩及び非プロトン性溶媒を用い、一方の極にMg,Cu又はAl、他方の極に前記一方の極と同種又は異種の導電材料を用いて、ジハロシラン、トリハロシラン及びテトラハロシランのうち2種のハロシランを電極反応に供し、1〜20秒の間隔で電極の極性を切り替えることにより網目状ポリシランを製造する方法が開示されている。また、特許第3106205号公報(特許文献2)には、支持電解質としての過塩素酸テトラアルキルアンモニウム及び非プロトン性溶媒を用い、Mgを陽極とする電極反応に、ジハロシランを供し、ポリシランを製造する方法が開示されている。しかし、上記電極反応では、通電に伴って多量のジュール熱が発生し、ジュール熱を除去する必要が生じる。しかし、バッチ式では、反応温度の制御が難しく、ポリシランの分子量を制御するのが困難である。
【特許文献1】特許第3291564号公報(請求項1〜4)
【特許文献2】特許第3106205号公報(請求項1)
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,103(1981年)、7352頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、電極材料の種類に拘わらず、流通系であってもポリシランを効率よく製造できる方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、反応温度の制御が容易で、分子量の調節が容易なポリシランの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、電極反応に供する混合物にMgイオンを含有させると、電極材料の種類によらず、流通系であっても効率よく反応できること、及び流通系で反応させることにより反応温度を容易に制御でき、ポリシランの分子量の制御が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のポリシランの製造方法は、ハロシラン化合物を電極反応に供することによりポリシランを製造する方法であって、前記ハロシラン化合物、マグネシウムイオン、支持電解質としての過塩素酸塩、及び非プロトン性溶媒を含む混合物を、流通式のマイクロリアクターに連続的に供給し、前記混合物に直流電流を通じさせる。
【0009】
前記ハロシラン化合物は、下記式(1)で表されるモノハロシラン化合物、下記式(2)で表されるジハロシラン化合物、下記式(3)で表されるトリハロシラン化合物及び下記式(4)で表されるテトラハロシラン化合物から選択された少なくとも一種であってもよい。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、X1〜X4は同一又は異なってハロゲン原子を示し、R1〜R3は同一又は異なって、水素原子、有機基又はシリル基を示す)
前記ハロシラン化合物は、モノ乃至トリハロシラン化合物(例えば、ジアルキルモノアリールモノハロシラン、モノアルキルモノアリールジハロシラン、モノアリールトリハロシランなど)などであってもよい。
【0012】
前記支持電解質としては、過塩素酸アルカリ金属塩などが使用でき、マグネシウムイオン源としてマグネシウムハライドなどが使用できる。また、前記非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテルなどの非プロトン性極性溶媒であってもよい。前記電極反応において、少なくとも陽極材料として、通電により非溶出性の材料を用いてもよい。例えば、陽陰極が、炭素電極(微細炭素電極など)であってもよい。また、前記混合物を、空間速度1〜10h-1程度で反応器に流通させてもよい。
【0013】
なお、本明細書中、用語「ポリシラン」は、ジシランなどのオリゴシランも含む意味で用いる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電極反応に供する基質混合物に、Mgイオンを含有させるので、電極材料の種類に拘わらず、流通系であってもポリシランを効率よく製造することができる。また、電極反応を流通系で行うことができるので、反応温度を容易に制御することができ、その結果、分子量を容易に制御することができ、高品質のポリシランを製造できる。さらに、少なくとも陽極材料として、通電により非溶出性又は非消耗性の材料(例えば、炭素材料など)を用いると、電極を交換する必要がなく、安定して連続的にポリシランを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、ハロシラン化合物、マグネシウムイオン、支持電解質としての過塩素酸塩、及び非プロトン性溶媒を含む混合物(基質混合物又は原料混合物)を、流通式のマイクロリアクターに連続的に供給し、前記混合物に直流電流を通じさせて、ポリシランを製造する。
【0016】
(ハロシラン化合物)
電極反応に供するハロシラン化合物としては、モノ乃至テトラハロシラン化合物が使用できる。モノ乃至テトラハロシラン化合物としては、例えば、前記式(1)〜(4)で表される化合物が例示できる。
【0017】
前記式(1)、(2)及び(3)において、R1〜R3で表される有機基としては、アルキル基[メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル及びt−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基(好ましくはC1-6アルキル基、特にC1-4アルキル基など)など]、シクロアルキル基(シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、特にC5-6シクロアルキル基など)、アリール基(フェニル、ナフチル基などのC6-10アリール基など)、アラルキル基[ベンジル、フェネチル基などのC6-10アリール−C1-6アルキル基(C6-10アリール−C1-4アルキル基など)など]などの炭化水素基の他、アルコキシ基[メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ及びt−ブトキシ基などのC1-10アルコキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基、特にC1-4アルコキシ基)など]、アミノ基、及びN−置換アミノ基(前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基などで置換されたN−モノ又はジ置換アミノ基など)などが挙げられる。
【0018】
前記アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を構成するアリール基などは、置換基を有していてもよい。このような置換基としては、前記例示のアルキル基(特にC1-6アルキル基など)、前記例示のアルコキシ基などが挙げられる。置換基の個数は、特に制限されず、1つであってもよく、複数(例えば、2〜4個)であってもよい。このような置換基を有する有機基としては、例えば、トリル、キシレニル、エチルフェニル、メチルナフチル基などのC1-6アルキルC6-10アリール基(好ましくはモノ乃至トリC1-4アルキルC6-10アリール基、特にモノ又はジC1-4アルキルフェニル基など);メトキシフェニル、エトキシフェニル、メトキシナフチル基などのC1-10アルコキシC6-10アリール基(好ましくはC1-6アルコキシC6-10アリール基、特にC1-4アルコキシフェニル基など)などが挙げられる。
【0019】
1〜R3で表されるシリル基は、前記例示のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及び/又はアルコキシ基などで置換された置換シリル基であってもよい。
【0020】
これらの基のうち、水素原子又は炭化水素基、特に、炭化水素基(アルキル基、アリール基、アラルキル基など)が好ましい。
【0021】
前記式(1)〜(4)において、X1〜X4で表されるハロゲン原子には、F、Cl、Br、I原子が含まれる。これらのハロゲン原子のうち、特に、Cl及びBr(特にCl)原子が好ましい。
【0022】
(1)モノハロシラン化合物
前記式(1)のモノハロシラン化合物において、基R1〜R3としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基が好ましい。
【0023】
モノハロシラン化合物の具体例としては、例えば、トリアルキルモノハロシラン(トリメチルクロロシランなどのトリC1-6アルキルモノハロシランなど)、ジアルキルモノアリールモノハロシラン(ジメチルフェニルクロロシランなどのジC1-6アルキルモノC6-10アリールモノハロシランなど)、モノアルキルジアリールモノハロシラン(メチルジフェニルクロロシランなどのモノC1-6アルキルジC6-10アリールモノハロシランなど)、トリアリールモノハロシラン(トリフェニルクロロシランなどのトリC6-10アリールハロシランなど)などが例示できる。モノハロシラン化合物は、単独で又は二種以上組合せて使用できる。
【0024】
(2)ジハロシラン化合物
前記式(2)のジハロシラン化合物において、基R1及びR2としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基が好ましい。
【0025】
ジハロシラン化合物の具体例としては、例えば、ジアルキルジハロシラン(ジメチルジクロロシランなどのジC1-4アルキルジハロシランなど)、モノアルキルモノアリールジハロシラン(メチルフェニルジクロロシランなどのモノC1-4アルキルモノC6-10アリールジハロシランなど)、ジアリールジハロシラン(ジフェニルジクロロシランなどのジC6-10アリールジハロシランなど)などが挙げられる。ジハロシラン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
(3)トリハロシラン化合物
式(3)で表されるトリハロシラン化合物において、R1としては、通常、アルキル基、シクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、アラルキル基などの炭化水素基が好ましい。
【0027】
トリハロシラン化合物の具体例としては、モノアルキルトリハロシラン(メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、t−ブチルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシランなどのモノC1-6アルキルトリハロシランなど)、モノシクロアルキルトリハロシラン(シクロヘキシルトリハロシランなどのモノC6-10シクロアルキルトリハロシランなど)、モノアリールトリハロシラン(フェニルトリクロロシラン、トリルジクロロシラン、キシリルトリクロロシランなどのモノC6-10アリールトリハロシランなど)などが例示できる。トリハロシラン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0028】
(4)テトラハロシラン化合物
テトラハロシラン化合物の具体例としては、例えば、テトラクロロシラン、ジブロモジクロロシラン、テトラブロモシランなどが挙げられる。
【0029】
これらのハロシラン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記ハロシラン化合物のうち、特に、モノ乃至トリハロシラン化合物(例えば、ジアルキルモノアリールモノハロシラン、モノアルキルモノアリールジハロシラン、モノアリールトリハロシランなど)が好ましい。なお、二種以上のハロシラン化合物を組み合わせて用いる場合、それぞれの化合物の混合割合は特に制限されない。
【0030】
なお、ハロシラン化合物は、高純度であるのが好ましく、例えば、使用前に蒸留して使用してもよい。
【0031】
(支持電解質)
支持電解質としては、通常、過塩素酸塩、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウムなどの過塩素酸アルカリ金属;過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウムなどの過塩素酸テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる。これらの過塩素酸塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。前記過塩素酸塩のうち、過塩素酸アルカリ金属(特に、過塩素酸リチウム)及び過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウムが好ましい。なお、電極反応を阻害しない範囲で、慣用の支持電解質を併用してもよい。
【0032】
(マグネシウムイオン源)
前記電極反応において、マグネシウムイオンは、反応触媒として機能する。マグネシウムイオン源としては、非プロトン性溶媒(特に非プロトン性極性溶媒)に溶解して、マグネシウムイオンを生成可能な化合物であれば特に制限されず、例えば、塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのマグネシウムハライド、マグネシウム塩(例えば、硫酸マグネシウム、リン酸マグネシウムなどの酸素酸塩など)などが挙げられる。これらのマグネシウムイオン源は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
(非プロトン性溶媒)
反応溶媒としては、非プロトン性溶媒が広く使用でき、例えば、エーテル類(1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテルなどの環状又は鎖状C4-6エーテル)、カーボネート類(プロピレンカーボネートなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ハロゲン含有化合物(塩化メチレン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどのハロゲン化炭化水素など)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、シクロオクタンなどの鎖状又は環状炭化水素類)などが挙げられる。これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組合わせて混合溶媒として使用できる。これらの溶媒のうち、極性溶媒(テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンなど)を単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよく、極性溶媒と非極性溶媒とを組み合わせてもよい。
【0034】
これらの非プロトン性溶媒のうち、エーテル類(テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,4−ジオキサンなど(特に、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン))を単独で又は二種以上組み合わせて、或いは他の溶媒と混合して用いるのが好ましい。
【0035】
なお、本発明では、通常、基質のハロシラン化合物(支持電解質及びMgイオン源)をこれらの非プロトン性溶媒に溶解して電極反応に供する。また、ハロシラン化合物は、水と速やかに反応するため、使用する原料(すなわち、支持電解質、Mgイオン源、非プロトン性溶媒など)は、予め乾燥して使用するのが好ましい。
【0036】
(各成分の割合)
原料混合物(反応液)中のハロシラン化合物の濃度(基質濃度)は、通常、0.05〜20mol/l程度、好ましくは0.1〜15mol/l程度、さらに好ましくは0.2〜5mol/l程度である。基質濃度が低すぎると、電流効率が低下する虞があり、高すぎると支持電解質が溶解しない虞がある。
【0037】
反応液中の支持電解質の濃度は、通常、0.05〜4mol/l程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜3mol/l程度、さらに好ましくは0.15〜1mol/l程度である。支持電解質の濃度が低すぎると、原料混合物に供与できるイオン導電性が低すぎて、反応が十分に進行しなくなる虞がある。また、前記濃度が高すぎると、反応液中で支持電解質が結晶化し、析出する虞がある。
【0038】
反応液中のMg源の濃度は、通常、0.001〜0.5mol/l程度、好ましくは0.01〜0.3mol/l程度、さらに好ましくは0.05〜0.2mol/l程度である。なお、反応液中のMg源(Mgイオン)の濃度が低すぎると、反応の進行が著しく遅くなる虞があり、高すぎると反応液中で結晶化し、析出する虞がある。なお、Mgイオンの割合は、ハロシラン化合物のハロゲンに対して、例えば、1〜10当量、好ましくは1〜5当量、さらに好ましくは1〜3当量程度であってもよい。
【0039】
(電極)
電極反応における陰陽極材料としては、特に制限されず、種々の導電性の電極材料、例えば、金属材料(SUS(クロム鋼)、Fe、Ni、Co、Pt、Mg、Cu、Al、Zn、Snなどの金属又は合金など)、炭素材料などが使用できる。これらの材料から、適宜選択して、陰極材料と陽極材料とを決定できる。これらの材料のうち、少なくとも陽極材料として、通電により非消耗性又は非溶出性の材料(SUS、Ptなどの金属材料;炭素材料など)を用いるのが好ましい。陽極及び陰極は、同種の材料で形成してもよく、異種の材料で形成してもよい。陽極材料と陰極材料との組合せとしては、例えば、(i)Mg(陽極)と、Mg、Cu、Zn、Sn、Al、Ni、Co又は炭素材料(陰極)との組合せ、(ii)Cu又はAl(陽極)と、Mg、Cu、Al、Ni、Co又はPt(陰極)との組合せ、(iii)SUS同士の組合せ、(iv)炭素材料同士の組合せ、(v)Pt同士の組合せなどが挙げられる。炭素電極としては、人造黒鉛電極、天然黒鉛電極、自焼成電極及び炭素質電極などが使用できるが、通常、黒鉛電極を使用する場合が多い。
【0040】
特に、電極表面積が大きい点で、多孔質の炭素材料を用いた炭素電極(特に針状、繊維状などの形態の微細炭素電極)を少なくとも陽極(通常、陽陰極の双方)として用いてもよい。
【0041】
陽極材料としては、従来、Mg又はMg合金などの酸化され易い材料を使用する必要があったが、本発明では、Mgイオンを反応液に含有させることにより、陽極の選択の幅を広げることができる。また、通電により非消耗性の陽極を用いることもできるため、流通系であっても、電極反応を効率よく行うことができ、ポリシランを製造できる。
【0042】
本発明において、電極の形状は、特に制限されず、棒状、板状(円盤状、方盤状など)、薄膜状、筒状、コイル状、針状、又は繊維状などの形状であってもよい。
【0043】
なお、酸化被膜が形成されやすい電極では、材料に適した除去方法などにより、通常、酸化被膜を除去してから電極反応に使用する。金属材料で形成された電極では、酸化被膜の除去は、例えば、酸を用いて電極を洗浄及び乾燥する方法、不活性ガス雰囲気下で電極を研磨する方法、又はこれらを組み合わせた方法などにより行うことができる。
【0044】
(反応器)
本発明では、流通式の反応器を用いて、連続的に電極反応を行うことにより、ポリシランを製造できる。そのため、通電によりジュール熱が発生しても、効率よく除去して、反応温度を容易に制御することができ、分子量分布にバラツキの少ないポリシランを得ることができる。
【0045】
なお、ハロシランからポリシランへの反応は、電極上で進行する。そのため、反応効率の点から、本発明では、通常、流通式のマイクロリアクターを用いる。
【0046】
マイクロリアクターの流路の形状は、特に制限されず、直管状であってもよく、少なくとも一部が湾曲した管状であってもよい。流路は、蛇行していてもよい。また、流路の断面形状は、円形、楕円形、方形などの多角形状のいずれであってもよい。反応液を電極に対して効率よく接触させるため、マイクロリアクターでは、通常、断面方形状の管状流路を陽極と陰極との間に挟持させる場合が多い。そして、反応液と電極との接触効率の点で、前記流路は、マイクロリアクター内で電極と接触した状態で蛇行している場合が多い。
【0047】
流路の平均内径は、特に制限されず、例えば、1〜10mm、好ましくは1.2〜5mm、さらに好ましくは1.5〜3mm程度である。
【0048】
電極反応は、マイクロリアクターの電極間に、反応液(原料混合物)を一定の空間速度(SV)で流通しつつ、直流電流を通電することにより行う。空間速度は、1〜10h-1程度、好ましくは2〜8h-1程度、さらに好ましくは3〜7h-1程度であってもよい。なお、反応液流通の空間速度(SV)が遅すぎると、電極反応の進行に比して原料の供給が不足し、生産量が低下する虞があり、速すぎると反応収率が低下する虞がある。
【0049】
通電量は、原料中のハロゲン原子1モルに対して、例えば、0.1〜5F程度、好ましくは0.5〜3F程度であってもよく、通常、1F以上であればよい。なお、通電量を調整することによりポリシランの分子量を制御することができる。
【0050】
なお、必要により、電極の極性を適宜切り替えてもよい。切り替えは、一定時間毎に定期的に行ってもよく、不定期に行ってもよい。電極の極性を切り替えることにより、通電により電極表面に被膜が生じて電気抵抗が大きくなるのを防止又は軽減することもできる。
【0051】
反応温度は、使用する非プロトン性溶媒の沸点以下であれば特に制限されず、例えば、0〜150℃、好ましくは5〜100℃、さらに好ましくは10〜80℃程度であってもよい。なお、反応温度によって、ポリシランの分子量が変化するため、反応中の温度変化を小さく(例えば、±5℃以内に)するのが好ましい。反応温度の調節は、例えば、原料混合物の温度及び供給量、供給速度、生成物を含む反応液の流出速度などを調整することにより行ってもよく、必要により、反応器内の反応液を冷却することにより行ってもよい。なお、フロー式マイクロリアクターを用いると、電極間の距離が通常の電解槽に比較して狭く、ジュール熱の発生が抑制されるため、効率よく冷却することが可能であり、温度制御が容易である。
【0052】
反応は、通常、不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)雰囲気下で行う場合が多い。また、反応は乾燥雰囲気で行うのが好ましい。反応は、加圧又は減圧下で行ってもよいが、通常、常圧で行う。
【0053】
なお、反応を促進するため、反応器中の反応液を適宜撹拌してもよい。撹拌は、機械的な撹拌手段などにより行ってもよく、超音波などにより行ってもよい。
【0054】
(ポリシラン)
本発明の製造方法により得られるポリシランの重合形態は、特に限定されず、ランダム又はブロックコポリマーであってもよい。ブロックコポリマーは、例えば、ジハロシラン化合物(2)のオリゴマー又は重合体(特に、ジハロシラン単位の繰り返し数が多いオリゴマー又は重合体)を用いることにより得ることができる。また、ジハロシラン化合物(2)をモノマーとして用いるか、またはジハロシラン単位の繰り返し数が小さなオリゴマーなどを用いると、ランダムコポリマーを得ることができる。さらに、ハロシラン化合物(3)及び/又はハロシラン化合物(4)を用いると、架橋構造を有するポリシランを得ることができる。また、モノハロシラン化合物(1)同士を反応させると、ジシランを得ることができる。
【0055】
ポリシランの重合度又は平均重合度は、例えば、2〜1000、好ましくは5〜500、さらに好ましくは10〜300程度であってもよい。
【0056】
ポリシランは、例えば、500〜20,000、好ましくは500〜15,000(例えば、1,000〜10,000)、さらに好ましくは2,000〜8,000(例えば、3,000〜7,000)程度の重量平均分子量を有していてもよい。また、ポリシランの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比は、Mw/Mn=1〜2、好ましくは1.1〜1.8、さらに好ましくは1.1〜1.7程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の方法により得られるポリシランは、分子量分布にバラツキが少なく、高品質であるため、種々の用途、例えば、セラミックス前駆体、光電子材料(例えば、フォトレジスト、有機感光体などの光電子写真材料、光導波路などの光伝送材料、光メモリなどの光記録材料、エレクトロルミネッセンス素子用材料など)の他、難燃剤、撥水剤、離型剤などとしても利用できる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0059】
実施例1
陽極としてMg電極、陰極として炭素繊維電極を取り付けたマイクロフローセル(セル容量0.2ml)に、乾燥窒素ガス雰囲気下、過塩素酸リチウム1g、塩化マグネシウム0.06g、メチルフェニルジクロロシラン0.96g、及び乾燥テトラヒドロフラン(THF)10mlの混合溶液を、1ml/hの流速で流通させるとともに、温度25℃及び大気圧にて、陰陽極間に50mAの直流電流を通電することによりポリシランを合成した。
【0060】
マイクロフローセルから排出された反応液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で分析したところ、重量平均分子量Mw8500のポリシランが転化率95%で得られた。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比は、Mw/Mn=1.6であった。
【0061】
実施例2
メチルフェニルジクロロシラン0.96gに代えて、メチルフェニルジクロロシラン0.48g及びフェニルトリクロロシラン0.35gの混合物を用いる以外は、実施例1と同様にポリシランを合成し、反応液の分析を行った。その結果、重量平均分子量4300のポリシランが転化率83%で得られた。
【0062】
実施例3
メチルフェニルジクロロシラン0.96gに代えて、クロロジメチルフェニルシラン1.71gを用いる以外は、実施例1と同様にポリシランを合成し、反応液の分析を行った。その結果、1,2−ジフェニル−1,1,2,2−テトラメチルジシランが転化率85%で得られた。
【0063】
実施例4
陰陽極ともに炭素繊維電極を用い、塩化マグネシウムを0.6g使用する以外は、実施例1と同様にポリシランを合成し、反応液の分析を行った。その結果、重合平均分子量4800のポリシランが転化率90%で得られた。
【0064】
比較例1
三方コック及びMg電極(1cm×1cm×5cm;希硫酸で洗浄後、エタノール及びエーテルで洗浄し、減圧乾燥し、窒素雰囲気下で研磨することにより、表面の酸化被膜を除去した)2個を装着した内容積30mlの三ツ口フラスコ(反応器)に無水過塩素酸リチウム0.64gを収容し、加熱減圧して、50℃、1mmHg(133.3Pa)で6時間保持し、過塩素酸リチウムを乾燥させた。脱酸素した乾燥窒素を反応器内に導入し、予めナトリウム−ベンゾフェノンケチルで乾燥したテトラヒドロフラン15mlを加えた。この混合物に、予め水素化カルシウムにより乾燥し、蒸留したメチルフェニルジクロロシラン0.97mlをシリンジで加え、反応器を水浴上で室温に保持しつつ、定電圧電源により通電した。通電は、コミュテーターを用いて、2つの電極の極性を1分毎に変換しつつ、メチルフェニルジクロロシラン中の塩素を基準として5.4F/molの通電量となるように約96時間かけて行った。
【0065】
反応終了後、反応溶液に1N(1mol/l)塩酸150mlを加えた後、エーテルで抽出し、貧溶媒2−プロパノール及び良溶媒テトラヒドロフランで生成物を再沈させたところ、重量平均分子量Mw5540のポリシランが得られた。また、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比は、Mw/Mn=2.5であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロシラン化合物を電極反応に供することによりポリシランを製造する方法であって、前記ハロシラン化合物、マグネシウムイオン、支持電解質としての過塩素酸塩、及び非プロトン性溶媒を含む混合物を、流通式のマイクロリアクターに連続的に供給し、前記混合物に直流電流を通じさせて、ポリシランを製造する方法。
【請求項2】
ハロシラン化合物が、下記式(1)で表されるモノハロシラン化合物、下記式(2)で表されるジハロシラン化合物、下記式(3)で表されるトリハロシラン化合物及び下記式(4)で表されるテトラハロシラン化合物から選択された少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
【化1】

(式中、X1〜X4は同一又は異なってハロゲン原子を示し、R1〜R3は同一又は異なって、水素原子、有機基又はシリル基を示す)
【請求項3】
ハロシラン化合物として、ジアルキルモノアリールモノハロシラン、モノアルキルモノアリールジハロシラン及びモノアリールトリハロシランから選択された少なくとも一種を用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
ハロシラン化合物と、支持電解質としての過塩素酸アルカリ金属塩と、マグネシウムイオン源としてマグネシウムハライドと、テトラヒドロフラン及び1,2−ジメトキシエタンから選択された少なくとも一種の非プロトン性溶媒とを含む混合物をマイクロリアクターに供給する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
少なくとも陽極材料として、通電により非溶出性の材料を用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
陽陰極が、炭素電極である請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
空間速度1〜10h-1で混合物をマイクロリアクターに流通させる請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−188620(P2006−188620A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2332(P2005−2332)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】