説明

ポリフェニレンエーテル系シート及びその製造方法

【課題】耐熱性を下げることなく、耐衝撃性、及び生産性に優れた、ポリフェニレンエーテル系樹脂層を有するシート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】下記条件(A)を満たす特定のポリフェニレンエーテル系樹脂層[(I)層]と特定の高密度ポリエチレン系樹脂層[(II)層]とを、前記(II)層が口金と接する面に存在するように共押出する、積層ポリフェニレンエーテル系シートの製造方法。条件(A):300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における(I)層と(II)層の見かけ剪断粘度の比[(I)層/(II)層]が、1.0以上10.0以下の範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフェニレンエーテル系樹脂層を有するシート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテルは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、絶縁性等の優れた特性を有する為、家電製品の筐体や太陽電池用端子箱等の成形品として広く用いられている。
【0003】
一方、ポリフェニレンエーテルは、一般的に高溶融粘度であり薄膜成形が困難であることが知られる他、その分子構造に起因して溶融成形時に熱劣化物を生じ、熱劣化物が加工時に系外に弾き出され(プレートアウトし)、口金リップ部にメヤニとして堆積し易いという課題を抱えている。
こうした課題を解決するために、ポリフェニレンエーテルにスチレン系樹脂を加え、それによる難燃性の低下を補うために、さらにリン系難燃剤を含有させることは広く知られている。このようなポリフェニレンエーテル系樹脂は難燃成形品として用いられているが、フィルムとして用いられている例は少ない。
【0004】
例えば、特許文献1にはポリ(アリーレンエーテル)、すなわちポリフェニレンエーテルに特定のスチレン系樹脂と難燃剤を添加した難燃性の電気絶縁フィルムが開示されているが、成形方法には特段の記載がなく、実際にはメヤニの生成によって成形性が劣り、また、メヤニによってダイスジを生じ外観不良が発生することが懸念される。
これに対し、スチレン系樹脂や難燃剤を多量に添加することで粘度を下げ、低温で加工することでメヤニの発生を抑制し、薄膜成形する方法が知られているが、この方法では得られたフィルムの耐熱性が犠牲になる。
そこで、耐熱性を犠牲にせずに加工する方法として、例えば特許文献2には、ポリフェニレンエーテル系樹脂又は樹脂組成物を溶融押出してフィルムを製造する際に、口金のダイス面に貴金属等でコーティングをする方法が開示されている。また特許文献3には、ポリフェニレンエーテル樹脂を溶融押出してフィルムを製造する際に、剥離可能な樹脂を共押出して剥離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−519389号公報
【特許文献2】特開2007−145016号公報
【特許文献3】特開平2−269021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の方法では、設備が高価になり、またメンテナンスが難しくなる等、実用化する上では課題を抱えていた。
また、特許文献3においては、ポリフェニレンエーテル系樹脂に対し、剥離する樹脂については「溶融接着しない熱可塑性樹脂」であれば良いとされポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が例示されているのみであり、良好な剥離性(生産性)を発現させつつ、耐衝撃特性等の物性が優れたポリフェニレンエーテル系樹脂シートを得るための製造方法としては未だ不十分であった。
【0007】
上記従来技術の課題に鑑みて、本発明は、耐熱性を下げることなく、耐衝撃性、及び生産性に優れ、表面外観にも優れた、ポリフェニレンエーテル系樹脂層を有するシート及びその製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定のポリフェニレンエーテル系樹脂層と特定の高密度ポリエチレン系樹脂層とを共押出して積層ポリフェニレンエーテル系シートを製造する方法、及びその方法により製造された積層ポリフェニレンエーテル系シートが、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記条件(A)を満たす下記(I)層と下記(II)層とを、下記(II)層が口金と接する面に存在するように共押出することを特徴とする、(I)層と(II)層とが剥離可能な積層ポリフェニレンエーテル系シートの製造方法である。
(I)層:ポリフェニレンエーテル(a)、及びビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体及び/又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体(b)を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂層
(II)層:300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における見かけ剪断粘度が1.0×103Pa・s以下である高密度ポリエチレン系樹脂層
条件(A):300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における(I)層と(II)層の見かけ剪断粘度の比[(I)層/(II)層]が、1.0以上10.0以下である
【0009】
さらに本発明の要旨は、本発明の方法により製造された積層ポリフェニレンエーテル系シートから前記(II)層を少なくとも1層剥離したポリフェニレンエーテル系シート、このシートを用いて作製された太陽電池用シート及び太陽電池モジュールにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性を下げることなく、耐衝撃性、及び生産性に優れたポリフェニレンエーテル系シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての積層ポリフェニレンエーテル系シートの製造方法、及び前記方法により製造される積層ポリフェニレンエーテル系シートについて説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
なお、本明細書において、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(JIS K6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0014】
<(I)層>
本発明における(I)層は、ポリフェニレンエーテル(a)(以下、(a)成分と略することがある)、及びビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体及び/又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体(b)(以下、(b)成分と略することがある)を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂層である。
(I)層においては、(a)成分を主成分とする。ここで「主成分」とは、前記(I)層を構成する樹脂組成物のうち最大の割合を占めることを表し、下限値は特に決められないが、(a)成分が50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であれば、前記(I)層の耐熱性を下げることなく、優れた剥離性、即ちポリフェニレンエーテル系シートの優れた生産性を達成することができる。
【0015】
[ポリフェニレンエーテル(a)]
本発明において使用するポリフェニレンエーテルの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメトキシ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジクロロメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジブロモメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジトリル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジベンジル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,5−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。中でも、工業的に入手しやすいことからポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが好適に使用される。
【0016】
また、ポリフェニレンエーテルに、スチレン系化合物がグラフトした共重合体であってもよい。スチレン系化合物がグラフト化したポリフェニレンエーテルとしては、上記ポリフェニレンエーテルにスチレン系化合物として、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどをグラフト重合して得られる共重合体が挙げられる。
【0017】
さらに、ポリフェニレンエーテルは、本発明の効果を損なわない範囲で極性基を有する化合物により変性されていてもかまわない。そのような極性基を有する化合物の例としては、カルボニル基含有化合物、スルフォン基含有化合物、ニトリル基含有化合物、シアノ基含有化合物、イミド基含有化合物、水酸基含有化合物、エポキシ基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、チオール基含有化合物、アミノ基含有化合物、アジ基含有化合物、酸ハライド、酸無水物、カルボン酸エステル、イソシアン酸エステル等が挙げられる。
【0018】
本発明において使用するポリフェニレンエーテルとして好ましい分子量の範囲は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)によるポリスチレン換算で測定された重量平均分子量に関して、通常、下限値として好ましくは30000以上、より好ましくは40000以上、さらに好ましくは50000以上であり、また上限値として好ましくは100000以下、より好ましくは90000以下、さらに好ましくは80000以下であり、分子量がこの範囲であれば押出成形性と機械物性、難燃性などのバランスを取ることが出来る。
【0019】
本発明において使用するポリフェニレンエーテルは、30℃のクロロホルム中で測定した粘度から求めた極限粘度の下限値が0.2dl/g以上であることが好ましく、0.3dl/g以上がより好ましく、0.4dl/g以上であることがさらに好ましい。極限粘度の値が0.2dl/g以上であれば、耐熱性、難燃性、機械強度に劣るなどの不具合を生じがたい。また、上限値は0.8dl/g以下であることが好ましく、0.7dl/g以下がより好ましく、0.6dl/g以下がさらに好ましい。極限粘度の値が0.8dl/g以下であれば、剪断粘度が高くなりすぎ生産性に劣る等の不具合を生じがたい。
また、成形性を改良するなどの目的で、異なる極限粘度を持つポリフェニレンエーテルを組み合わせて用いても構わない。
【0020】
商業的に入手可能なポリフェニレンエーテルとしては、SABICイノベーティブプラスチックジャパン合同会社より商品名「PPO646」「PPO640」「PPO630」として、旭化成ケミカルズ(株)社より商品名「S201A」「S202」として、それぞれ販売されており入手可能である。
【0021】
[ビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体(b)]
本発明における(I)層は、前述の(a)成分以外に、押出成形性や耐衝撃性、耐熱性、難燃性、接着性等の物性を向上させる目的でビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体(b)を含有することが重要である。
【0022】
本発明に使用する(b)成分は、ビニル芳香族化合物(b1)(以下、(b1)成分と略することがある)、及び共役ジエン化合物(b2)(以下、(b2)成分と略することがある)から構成される共重合体又はその水素添加誘導体である。この時、(b)成分中の(b1)成分と(b2)成分の含有質量%比[(b1)/(b2)]は80/20〜20/80であることが好ましく、60/40〜40/60であることが特に好ましい。
前記(b1)の比率が20質量%以上であることによって、(a)成分との相溶性が良好となるため面荒れ等が生じず、かつ後述する(II)層との剥離性も十分となる。また、前記(b2)の比率が20質量%以上であることによって、(I)層の耐衝撃性が十分となる。
【0023】
上記(b1)成分の具体例としては、例えば、スチレン、p−、m−又はo−メチルスチレン、2,4−、2,5−、3,4−又は3,5−ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等のアルキルスチレン;o−、m−又はp− クロロスチレン、o−、m−又はp−ブロモスチレン、o−、m−又はp−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレン等のハロゲン化スチレン;o−、m−又はp−クロロメチルスチレン等のハロゲン化置換アルキルスチレン;p−、m−又はo−メトキシスチレン、o−、m−又はp−エトキシスチレン等のアルコキシスチレン;o−、m−、又はp−カルボキシメチルスチレン等のカルボキシアルキルスチレン;p−ビニルベンジルプロピルエーテル等のアルキルエーテルスチレン;p−トリメチルシリルスチレン等のアルキルシリルスチレン;さらにはビニルベンジルジメトキシホスファイド等が挙げられる。この中で、工業的入手の容易さと、(a)成分に対する相溶性等の観点から、スチレンが好ましい。(b1)成分は、これらを単独で又は2種以上で構成されていてもよい。
【0024】
上記(b2)成分の内、共役ジエン化合物の具体例としては、共役結合を有する炭化水素であれば特に制限はなく、例えば、ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1, 3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1, 3−ヘキサジエン等の鎖状又は環状共役ジエンが挙げられる。(b2)成分は、これらの単独又は2種以上で構成されていてもよい。
【0025】
(b)成分における(b1)成分と(b2)成分との共重合の形態は特に限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体、およびテーパーブロック構造を有する共重合体のいずれの態様であってもよいが、(a)成分に対する相溶性を発現する為には、ブロック共重合体であることが好ましい。又、共重合体への水素添加の有無および水素添加率は、目的とする効果によって調節することが望ましい。
【0026】
本発明に使用する(b)成分としては、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、SEBS(水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、SEPS(水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)等が好ましく例示される。このうち、SEBSやSEPSなどの水素添加誘導体を用いた場合には、押出工程などで加熱されたときに、ジエン部分同士が架橋反応を起こすことが少なく、生産時にゲルやブツなどの熱劣化物の発生を抑制でき、得られたシートの外観を損ねる等の不具合を生じ難いため好ましい。
また、これらの(b)成分は1種のみを含有してもよいが、2種以上を含有することもできる。
【0027】
前記(I)層において、(a)成分と(b)成分の合計含有量を100質量部としたときの前記(b)成分の含有量は、5質量部以上であることが好ましい。より好ましくは7質量部以上、特に好ましくは9質量部以上である。また20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは18質量部以下、特に好ましくは16質量部以下である。
前記(b)成分が5質量部以上であれば、(I)層の耐衝撃性が十分となり、フィルムの巻き出し時などの工程中に破断する等の不具合を生じ難く好ましい。また、前記(b)成分が20質量部以下であれば、後述する(II)層との剥離強度が強くなりすぎて剥離工程時にフィルムが破断する等の不具合を生じ難く、また、(I)層の耐熱性や難燃性に劣る等の不具合を生じ難い為、好ましい。
【0028】
本発明において耐熱性とは、動的粘弾性測定における振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分の条件でシートの流れ方向(縦方向)に測定した際の、損失弾性率(E”)のピーク温度で評価されるガラス転移温度によって評価される。なお、損失弾性率(E”)のピーク温度が複数ある場合には、最も高い温度をガラス転移温度とした。
一般的にポリフェニレンエーテルと、ビニル芳香族化合物であるポリスチレンとの2成分ブレンド系では、配合比率によってガラス転移温度が線形に推移することが知られている。すなわち、ポリフェニレンエーテルが100%から0%までの間で、動的粘弾性測定によって測定されるガラス転移温度は約215℃から約100℃まで線形に変化する。従って本発明において、耐熱性を向上させるためには、(a)成分の含有量を上げることが有効であり、具体的な比率は、(b1)成分と(b2)成分の比率や、難燃剤や可塑剤等の添加量によっても異なるが、耐衝撃性を損なわない範囲で、上述の範囲で調整すれば良い。また、ガラス転移温度を低下させる難燃剤や可塑剤等の添加量を下げたり、ポリフェニレンサルファイドやポリアミド等の高耐熱性樹脂をブレンドしたり、無機充填材を配合したりすることも有効である。
好ましい耐熱性の範囲は、用いられる用途によって異なるが、例えば、太陽電池用シートとして用いる際の目安としては、一般的な封止樹脂である架橋EVAが、架橋工程が150℃程度で、30分ほどである為、太陽電池モジュール形成工程においてトラブルを回避するためには、耐熱性を有し、寸法変化が小さいことが必要となる。この耐熱性を発現するためには、ガラス転移温度が140℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがさらに好ましく、180℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が140℃以上であれば耐熱性が不足し寸法変化が大きくなる等の不具合を生じがたく、また、上限値は特に定められていないが、215℃以下であることが好ましく、210℃以下であることがより好ましく、205℃以下であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が215℃以下であれば後述する剪断粘度が高くなりすぎ生産性に劣る等の不具合を生じ難い。
【0029】
商業的に入手可能なビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体の例としては、旭化成ケミカルズ(株)より商品名「タフプレン」「アサプレンT」「タフテック」「アサフレックス」として、JSR(株)より商品名「ダイナロン」として、(株)クラレより商品名「セプトン」「ハイブラー」として、クレイトンポリマージャパン(株)より「クレイトン」として、それぞれ販売されており入手可能である。
【0030】
[その他の成分]
本発明における(I)層には、前述の(a)成分、及び(b)成分以外に、押出成形性や耐衝撃性、耐熱性、難燃性、接着性等の物性を向上させる目的でその他の成分として、その他の樹脂や、難燃剤をさらに含有することができる。
【0031】
前記その他の樹脂としては、GPPS(汎用ポリスチレン)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)等のスチレン系樹脂、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体及びエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体等のエチレン系樹脂、ポリエステルポリエーテルエラストマー、ポリエステルポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が好ましく例示される。このようなその他の樹脂の含有量は、本発明の特徴を損なわない範囲であれば特に限定されないが、(a)成分と(b)成分の合計含有量を100質量部としたとき、例えば、スチレン系樹脂とエチレン系樹脂は好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、特に好ましくは5質量部以上であり、1質量部以上の添加とすることにより溶融加工性、耐衝撃性を向上させることができ、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、特に好ましくは10質量部以下であり、20質量部以下の添加であれば耐熱性を低下しすぎたり、難燃性を阻害したりするなどの不具合が生じ難い為、好ましい。
【0032】
前記難燃剤としては特に限定されないが、(a)成分、及び(b)成分への相溶性や難燃効果を考慮すると、リン系難燃剤が特に好適に選択できる。
リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリエチルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、ジメチルメチルホスフェート、トリアリルホスフェートなどのリン酸エステル系難燃剤、芳香族縮合リン酸エステル等の縮合リン酸エステル系難燃剤、ホスホニトリル酸フェニルエステル等のホスファゼン化合物、赤リン等が好ましく使用される。また、後述する押出温度を考慮すると、沸点や熱分解温度が400℃程度以上の難燃剤が好ましく、工業的に入手が容易で安価なトリフェニルホスフェート、工業的に入手が容易で熱分解温度が高い縮合リン酸エステル、ホスファゼン系難燃剤などが好適である。
(a)成分と(b)成分の合計含有量を100質量部としたとき、これら難燃剤は30質量部以下で添加されることが好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、特に好ましくは15質量部以下である。30質量部以下であれば、難燃剤を添加することによって耐熱性が低下しすぎることや、溶融加工中に揮発ガスとして環境を汚染することがなく好適である。また、添加部数の下限値として好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは1.0質量部以上であり、特に好ましくは3.0質量部以上である。0.1質量部以上であれば、難燃性を向上させる効果が得られるため好適である。
【0033】
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を押出成形する場合、比較的高温(260℃〜320℃)で押出成形をすることから、添加する成分にも耐熱性が要求される場合がある。耐熱性の指標としては熱重量分析による重量減少温度が挙げられる。上述したリン系難燃剤については、不活性ガス雰囲気下、昇温速度10℃/分で常温から400℃まで加熱した時の5%重量減少温度が、好ましくは150℃以上であり、さらに好ましくは200℃以上であり、より好ましくは250℃以上であり、特に好ましくは275℃以上である。上記値であれば、成形加工中にリン系難燃剤が揮発して作業環境を悪化させたり、成形後のシートの難燃性を低下させたり、押出成形中に基材と反応を促進させシート外観を悪化させるなどの不具合を生じがたい。また、上限値は特に制限がなく、押出成形温度以上であれば好ましい。
【0034】
商業的に入手可能なリン系難燃剤の例としては、大八化学工業(株)より商品名「TPP(5%重量減少温度:174℃)」「CR733S(5%重量減少温度:270℃)」「CR741(5%重量減少温度:280℃)」「PX200(5%重量減少温度:261℃)」「PX202(5%重量減少温度:312℃)」として、(株)伏見製薬所より商品名「ラビトルFP110(5%重量減少温度:301℃)」として、それぞれ販売されており入手可能である。
【0035】
上記の成分の他に、本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、耐熱性や機械強度の向上ため、カーボンフィラー、ガラスフィラー、タルク、マイカ等の無機充填材、押出成形性向上のため、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、滑剤、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、造核剤及び各種着色剤を添加してもかまわない。
【0036】
本発明における(I)層を構成するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、(a)成分に前記(b)成分や上述のその他の成分を加えて形成されるが、あらかじめ混合されている市販品を購入して使用しても構わない。
商業的に入手可能なポリフェニレンエーテル系樹脂組成物としては、SABICイノベーティブプラスチックジャパン合同会社より商品名「ノリル」として、旭化成ケミカルズ(株)社より商品名「ザイロン」として、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社より商品名「ユピエース」「レマロイ」として、それぞれ販売されており入手可能である。
【0037】
本発明における(I)層について、押出成形をおこなうためには、高化式フローテスターによって測定される見かけ剪断粘度が、物性が劣りすぎる等の不具合を生じさせない観点から、300℃における見かけ剪断速度100sec-1のときに1.0×102Pa・s(1.0×103poise)以上が好ましく、3.0×102Pa・s(3.0×103poise)以上がより好ましく、5.0×102Pa・s(5.0×103poise)以上がさらに好ましい。また、押出性に欠け、成形機に負荷がかかりすぎることがなく、良好な生産性を得る観点から見かけ剪断粘度は、5.0×103Pa・s(5.0×104poise)以下が好ましく、3.5×103Pa・s(3.5×104poise)以下がより好ましく、2.0×103Pa・s(2.0×104poise)以下がさらに好ましい。
見かけ剪断粘度を上述の値に調整するためには、前記(a)成分の分子量又は極限粘度を調整する、前記(b)成分やその他の樹脂の成分比率を調整する、難燃剤の種類と添加量を調整する、その他可塑剤等を添加する手法がある。
【0038】
また、(I)層の前記見かけ剪断粘度と、後述する(II)層の見かけ剪断粘度との比[(I)層/(II)層]が、1.0以上であることが重要であり、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上である。また、見かけ剪断粘度の比が、10.0以下であることが重要であり、好ましくは9.5以下であり、より好ましくは9.0以下である。
見かけ剪断粘度の比が1.0以上であれば、共押出する際の成形機内での圧力損失を低減でき、成形機内での樹脂温度が高くなる等の不具合を生じ難く、また(II)層と隣接する層との層間の剥離強度が大きくなる等の不具合を生じ難いため、好ましい。粘度の比が10.0以下であれば、得られる積層シートの各層における厚み分布が悪くなる等の不具合が生じ難く、また流れムラが発生しフィルム外観を損ねる等の不具合を生じ難いため、好ましい。
【0039】
本発明における(I)層は、ポリフェニレンエーテル系樹脂層であれば単層でも良いし、複数の層から形成されても良い。複数の層からなる場合、例えば、(II)層に接する層に含有する(b)成分の含有量を本明細書に記載の範囲において少なくすることで、(II)層との剥離性をより好適にすることができる。
【0040】
<(II)層>
本発明における(II)層は、高密度ポリエチレンを主成分とした高密度ポリエチレン系樹脂層であって、300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における見かけ剪断粘度が1.0×103Pa・s(1.0×104Poise)以下であることが必要である。
ここで「主成分」とは、前記(II)層を構成する樹脂組成物のうち最大の割合を占めることを表し、下限値は特に決められないが、高密度ポリエチレンが50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。50質量%以上であれば、積層シートの製造時にメヤニが発生するなどの不具合を生じ難く、また、(I)層との間の良好な剥離性を達成することができる。
【0041】
一般的に各種オレフィン系樹脂であれば、前記(I)層に対しての剥離性は発現できるが、高密度ポリエチレンは成形加工時の熱安定性に優れる為、本発明の方法のように高温で加工する場合には特に好適である。例えば、ポリプロピレンは、その分子構造中に3級炭素を有するため、高温で加工すると炭素ラジカルが生成し易く、分子鎖の切断等が生じ、剥離時にシートが劣化して安定して剥離が出来ないという不具合が生じる懸念がある。
【0042】
[高密度ポリエチレン]
本発明において使用する高密度ポリエチレンとしては、前記の値の見かけ剪断粘度を達成し得るものであれば特に限定されるものではない。
【0043】
前記高密度ポリエチレン樹脂の密度は、0.940〜0.970g/cm3であることが好ましく、0.945〜0.970g/cm3であることがより好ましく、0.950〜0.970g/cm3であることが更に好ましい。密度の測定は密度勾配管法を用いてJIS K7112に準じて測定することができる。
密度がかかる範囲にあることによって押出成形時に分子鎖の切断等が生じず、剥離工程で破断等の不具合を生じ難いため、好ましい。
【0044】
また、前記高密度ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常MFRは0.03〜15g/10分であることが好ましく、0.3〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.03g/10分以上であれば成形加工時の樹脂の見かけ剪断粘度が十分に低いため生産性に優れ好ましい。一方、15g/10分以下であれば、物性が劣りすぎる等の不具合を生じ難く、好ましい。
なお、MFRはJIS K7210に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件で測定している。
【0045】
なお、前記高密度ポリエチレンの製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0046】
(II)層には、本発明の特徴を損なわない範囲で、必要に応じて他の附加的成分、例えば、耐熱性や機械強度の向上ため、カーボンフィラー、ガラスフィラー、タルク、マイカ等の無機充填材、押出成形性向上のため、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤(オイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、滑剤、難燃剤、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、造核剤及び各種着色剤を添加してもかまわない。特に、低分子量ポリエチレンなどのポリエチレン系滑剤を加えることで、(I)層からの剥離が容易になる。添加量は特に規定されないが、(II)層を構成する樹脂組成物100質量部に対し、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下が特に好ましい。添加量が上記の値であれば、押出成形時に、スクリュー表面で原料が滑り、押出性を不安定にさせたり、冷却固化後の表面にブリードアウトしたりするなどの不具合を生じ難く、好ましい。
【0047】
300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における(II)層の見かけ剪断粘度は、1.0×103Pa・s(1.0×104Poise)以下であることが必要であり、好ましくは7.5×102Pa・s(7.5×103Poise)以下、より好ましくは5.0×102Pa・s(5.0×103Poise)以下であれば良い。見かけ剪断粘度が1.0×103Pa・s(1.0×104Poise)を超えると押出性に欠け、成形機に負荷がかかりすぎることとなり、生産性の観点から好ましくない。また、下限値は特に規定されないが、1.0×102Pa・s(1.0×103poise)以上であることが好ましく、1.5×102Pa・s(1.5×103poise)以上がより好ましく、2.0×102Pa・s(2.0×103poise)以上がさらに好ましい。見かけ剪断粘度がかかる範囲であれば物性が劣りすぎる等の不具合を生じ難く、好ましい。
さらに、前述した通り、(I)層の見かけ剪断粘度と、(II)層の見かけ剪断粘度との比[(I)層/(II)層]が、1.0以上、10.0以下の範囲にあることが必要である。
(II)層の見かけ剪断粘度がかかる範囲にあることで、共押出する際の成形機内での圧力を低下させ、(I)層と(II)層との界面の接着力を低下させることができるため、冷却固化後の剥離が容易になる。
【0048】
商業的に入手可能な高密度ポリエチレンの例としては、(株)プライムポリマー社より商品名「ハイゼックス」として、日本ポリエチレン(株)社より商品名「ノバテックHD」として、それぞれ販売されており入手可能である。
【0049】
<積層シートの製造方法>
本発明においては、前記(I)層と前記(II)層とを、前記(II)層が口金と接する面に存在するように共押出して積層シートを製造することが重要である。このように低い見かけ剪断粘度を有し、かつ金属との滑り性に優れた(II)層が口金と接するように押出することで、押出機内での圧力損失を低減でき、樹脂温度の上昇を抑制することで、(I)層のポリフェニレンエーテルの熱劣化が進行し難くなる。また、(I)層が直接口金に接していない為、仮に熱劣化物が生成しても口金リップ部に堆積することがなく、メヤニを生じ難いため、短時間でメヤニ等を生じて加工困難であるような樹脂層を単体で押出する時に比べて、本発明の積層ポリフェニレンエーテル系シート、さらには後述するポリフェニレンエーテル系シートの生産性を向上し、又、ダイスジ等の外観不良を抑制することができる。
さらに、高い見かけ剪断粘度を持つため、単体では薄膜(例えば、厚み0.1mm以下)シート成形時にフィルムの破断等により困難な薄膜成形性を向上させることもできる。
【0050】
本発明の製造方法においては、(I)層と(II)層の各々を構成する樹脂組成物について、樹脂や添加剤の混合は、V型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機により混合する方法、又は押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、ニーダなどの混練機により混練する方法、あるいは混合機と混練機を組み合わせる方法や、あらかじめ混合せずに直接原料を押出機に投入して混練と押出を同時におこなう方法が挙げられる。押出方法は、スクリュー押出機、プランジャ押出機等の公知な押出方法を挙げられる。
【0051】
本発明の製造方法においては、共押出製造方法での積層方法は、フィードブロック方法、マルチマニフォールド方法、スタックプレート方法等の公知な方法を取ることができる。この中で、特に層間の剥離強度の低減が要求される場合においてはマルチマニフォールド方法が各層の樹脂が合流してから口金から吐出するまでの時間が短い為、剥離強度が低くなりやすく、好ましい。また、押出時の圧力損失を抑制し、発熱を低減させる場合においてはフィードブロック方法が、各層が合流してから口金から吐出するまでの時間が長い為、圧力損失を低減させやすく、好ましい。
各層の押出機において、押出温度は用いる樹脂組成物の見かけ剪断粘度や成形機の負荷等により任意に設定すればよいが、一般には(I)層の場合260〜320℃程度であり、(II)層の場合は200〜260℃程度である。
【0052】
溶融押出された樹脂組成物は、用途に応じてフラットダイやサーキュラーダイ、異型ダイ等の押出ダイにより賦形され、冷却ロール、水、空気等で冷却固化される。さらに、用途に応じて後工程として引取、サイジング、プレス、延伸等の工程をおこなうことも可能である。
また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、防曇性、帯電防止性、粘着性等を付与、促進させる目的で、コロナ処理や熟成等の処理、更には、印刷、コーティング等の表面処理や表面加工を行っても良いし、ドライラミネーション、溶剤ラミネーション、プレス、押出ラミネーション等の公知の手段により、さらに他の層を追加しても良い。
【0053】
本発明の製造方法により製造された積層シートは、(I)層と(II)層の剥離性が良好であって、層間における剥離強度が、好ましくは3.0N/25mm巾以下、より好ましくは2.0N/25mm巾以下となる。剥離強度がかかる値となるためには、(I)層や(II)層の組成、見かけ剪断粘度等を、本明細書に記載の範囲において調整する方法が挙げられる。但し、上記方法に限定されるものではない。
剥離強度がかかる値であれば、後述する剥離工程において剥離強度が高すぎないため、(II)層が伸びて安定に破断できずに(II)層に隣接する面が凝集破壊を生じて外観や物性に劣るなどの不具合を生じ難いため、好ましい。下限値は特に規定されないが、積層シートの製造中に浮きや剥がれが生じるとトラブルの原因になるため、0.1N/25mm巾以上あると好ましい。
【0054】
本発明の積層シートは、前述の通り(II)層が口金と接する面に存在すればその層構成は特に限定されるものではないが、一般的に「口金と接する面」とは両表層を意味することから、例えば(II)/(I)/(II)のような構成が好ましく例示される。また、後述するように(II)層を剥離する場合、剥離した(II)層は公知の再生方法によって再ペレタイズ等を実施し、再利用することも可能である。通常、熱履歴を経た高密度ポリエチレンは着色したり、フィッシュアイが生成するなど外観を損ねる場合があるが、(II)層を剥離する場合であれば使用上の制約を受けない為、繰り返し使用することが可能であり、必要に応じて再生した樹脂を用いた(II)’層を最表面に配置した(II)’/(II)/(I)/(II)/(II)’のような5層構成も好ましく例示される。
【0055】
<ポリフェニレンエーテル系シート>
本発明の製造方法によって共押出し、冷却固化して本発明の積層ポリフェニレンエーテル系シートを作製した後、(II)層を少なくとも1層剥離して、本発明のポリフェニレンエーテル系シートを作製することができる。(II)層は、その用途に応じて片面だけ剥離してもよく、両表層を剥離することもできる。
【0056】
ここで、剥離方法は生産性や作業性などを考慮し、公知の方法を採用すれば良いが、例えば、得られた積層シートを巻き出しながら、複数の巻き取り機を用い、剥離する(II)層とそれ以外の層とを各々独立して巻き取る方法などが例示できる。
【0057】
前記ポリフェニレンエーテル系シートについて、(II)層が一方の表層に残存している場合は、その(II)層を全て剥離した後で、JIS K7127に準じて、温度23℃、試験速度50mm/minの条件で測定したシートの流れ(引取)方向の引張破断伸度は、シートの耐衝撃性、即ちシート製造時や巻き出し時の工程中でシートが破断するなどの不具合を生じさせない観点より、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、特に好ましくは100%以上である。また、上限値は特に規定されないが、一般的には200%以上あれば通常の工程内での耐衝撃性は十分である。
引張破断伸度がかかる値となるためには、前記(I)層の(a)成分の分子量や、(b)成分の添加量を、本明細書に記載の範囲において増加させる方法が挙げられる。但し、上記方法に限定されるものではない。
【0058】
<太陽電池用シート>
本発明の積層ポリフェニレンエーテル系シート、又はポリフェニレンエーテル系シートは、耐熱性を下げることなく、耐衝撃性や生産性に優れ、さらには耐候性や難燃性も有することから、これを用いて太陽電池用シートを好適に作製することができる。
【0059】
本発明の太陽電池用シートは、本発明の積層ポリフェニレンエーテル系シート、又はポリフェニレンエーテル系シートのみで構成されていても良いが、これに他の層を積層して太陽電池用シートとすることもできる。積層することが可能な層としては特に限定されるものではないが、具体的には防湿性等を有するガスバリア性層や、柔軟性を有するクッション層、着色剤を含有する着色層、さらには太陽電池セルを封止するための封止樹脂層などを好ましく例示することができる。
これらの層を積層する方法としては、特に限定されることはなく、加熱ラミネート法、ドライラミネート法、押出ラミネート法、カレンダリング法などの公知の積層方法を採用することができる。
本発明の太陽電池用シートは、特に太陽電池モジュールにおける下部保護材(バックシート)として、好適に利用することができる。
【0060】
<太陽電池モジュール>
さらに、本発明の太陽電池用シート(以下、本シートともいう)を用い、太陽電池素子を上部の保護材である透明基板(フロントシート)及び封止樹脂層、下部を必要に応じて封止樹脂層と、本シートで固定することにより本発明の太陽電池モジュールを作製することができる。このような太陽電池モジュールとしては、種々のタイプのものを例示することができる。
具体的な例としては、図1に示すように、太陽光受光側から順に、透明基板10、封止
樹脂層12A、太陽電池素子14A,14B、封止樹脂層12B、本シート16が積層されてなり、さらに本シート16の下面にジャンクションボックス18(太陽電池素子から発電した電気を外部へ取り出すための配線を接続する端子ボックス)が接着されてなる。太陽電池素子14A及び14Bは、発電電流を外部へ電導するために配線20により連結されている。配線20は、本シート16に設けられた貫通孔(不図示)を通じて外部へ取り出され、ジャンクションボックス18に接続されている。
太陽電池モジュールは内部へ水分が浸入すると劣化が生じるため、ジャンクションボックスのような付属品を取り付ける際には、太陽電池モジュールの内部に外気が侵入することのないよう、シール性を十分に確保する必要があるが、本発明の太陽電池用シートによれば、加熱処理だけで接着できるため、容易で確実に外気の浸入を防ぐことが可能となる。
【0061】
前記透明基板としては、ガラス、又はアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂などの単層もしくは多層のプラスチックシートが使用される。プラスチックの場合は、ガスバリア性を付与する目的で、これに無機薄膜を形成したり、耐熱性、耐候性、機械強度、帯電性、寸法安定性などを改良する目的で、架橋剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、強化繊維、難燃剤、防腐剤などを添加したり、また、これに各種シートを積層することができる。透明基板の厚みは、強度、ガスバリア性、耐久性などの点から適宜設定できる。
【0062】
前記封止樹脂層には、透光性、衝撃吸収性や、透明基板、太陽電池素子、太陽電池用シートとの接着性を兼ね備える各種樹脂が使用される。例えば、ポリオレフィン系樹脂(1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテンのようなα−オレフィンなどの1種又は2種以上の共重合成分とエチレンの共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/1−ブテン共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸グリシジル共重合体及びエチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体等のエチレン系樹脂)、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、アイオノマー樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリオレフィン系樹脂及びエチレン−酢酸ビニル系樹脂が好ましい。なお、封止樹脂層の厚みは50μm〜600μmのものが一般に用いられている。
また、封止樹脂層には、ラジカル発生剤、架橋剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて適宜添加することができる。
【0063】
太陽電池素子は、封止樹脂層間に配置され配線される。例えば、単結晶シリコーン型、多結晶シリコーン型、アモルファスシリコーン型、各種化合物半導体型、色素増感型、有機薄膜型などが挙げられる。
【0064】
本発明の太陽電池用シートをバックシートとして用いた場合の太陽電池モジュールの製造方法としては、特に限定されないが、一般的に、透明基板、封止樹脂層、太陽電池素子、封止樹脂層、本シートの順に積層し、位置合わせを行う工程と、それらを真空吸引し加熱圧着する工程、及びはみ出した封止樹脂などを所定の寸法にトリミングする工程を有する。
【0065】
本発明の太陽電池モジュールは、本シートの優れた耐久性、難燃性、寸法安定性及び高い機械強度により、小型、大型や屋内、屋外に関わらず各種用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0066】
以下に、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下に記載した態様に限定されるものではない。なお、実施例では、積層シートの流れ(引取)方向を「縦」方向、その直角方向を「横」方向と記載する。
【0067】
(構成材料)
以下に本発明の積層シートを作製する際に用いた構成材料を例示する。
(I)層用の樹脂組成物としては、下記に示す原料を用いた。
(a)成分
・SABICイノベーティブプラスチックジャパン合同会社製 商品名「PPO640(極限粘度=0.40dl/g)」
(b)成分
・旭化成ケミカルズ(株)社製 商品名「タフテックH1051[(b1)/(b2)=42/58(質量%比)]」
その他の成分(縮合リン酸エステル系難燃剤)
・大八化学工業(株)社製 商品名「PX−200」
【0068】
(II)層用の樹脂組成物としては、下記に示す原料を用いた。
・HDPE1:日本ポリエチレン(株)社製 商品名「ノバテックHD HY540(MFR=1.0g/分、比重=0.960g/cm3)」
・HDPE2:日本ポリエチレン(株)社製 商品名「ノバテックHD HJ580(MFR=12.0g/分、比重=0.960g/cm3)」
・HDPE3:日本ポリエチレン(株)社製 商品名「ノバテックHD HY420(MFR=0.4g/分、比重=0.956g/cm3)」
・PP1:日本ポリプロ(株)社製 商品名「ノバテックPP FY6H(MFR=1.9g/分、比重=0.90g/cm3)」
なお、MFRの測定は、HDPE1〜3については温度190℃、荷重21.18Nの条件で、PP1については温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定している。
【0069】
(実施例1〜5、比較例1〜4)
上記(a)成分および(b)成分を、表1に記載の比率で配合し、65mmφ同方向二軸押出機を用い、設定温度280℃で溶融混練しながら、水分や揮発成分をベント口よりトラップ付き真空ポンプを用いて脱気し、ストランド形状に押出した後、水槽を通じて冷却固化させた後、連続的に切断し(I)層の樹脂組成物ペレットを作成した。
【0070】
得られた(I)層、(II)層用の樹脂組成物をそれぞれφ75mm単軸押出機、φ55mm単軸押出機に投入し、(I)層、(II)層をそれぞれ260〜300℃、220〜260℃のバレル設定温度にて溶融混練し、(I)層、(II)層をそれぞれ75kg/hr、40kg/hrの吐出量にて、巾1350mm、リップギャップ1.5mmのマルチマニフォールド口金(設定温度280℃)から共押出したのち、60℃に温調されたキャストロールにて巻き取り、両端部をカットして(II)/(I)/(II)の構成の積層シート((I)層厚み0.05mm、(II)層厚み各0.015mm、巾1200mm)を作製した。
【0071】
上記シートを用いて下記の評価を行った。その結果を表1に示す。
(1)見かけ剪断粘度
表1に示す樹脂組成物を、高化式フローテスター(島津製作所(株)社製キャピラリレオメータCFT−500C:キャピラリ径1.0mm/キャピラリ長10mm)にて、5分間予熱後に所定の加重を印加し、温度300℃における剪断粘度を剪断速度約5〜4000sec-1の範囲で4〜7点測定し、得られた粘度カーブから剪断速度100sec-1における見かけ剪断粘度を読みとった。
【0072】
(2)耐衝撃性
上記積層シートから両表面の(II)層を剥離し、得られたシートを縦100mm、横15mm短冊状に切り出し、JISK7127に準じて、温度23℃、試験速度50mm/minの条件でシートの縦方向について引張破断伸度を測定し、以下の数値で評価した。
◎:引張破断伸度100%以上
○:引張破断伸度が50%以上100%未満
×:引張破断伸度が50%未満
【0073】
(3)耐熱性
上記積層シートから両表面の(II)層を剥離し、得られたシートを縦60mm、横4mmの短冊状に切り出し、アイティ計測(株)製の粘弾性測定装置、商品名「粘弾性スペクトロメーターDVA−200」を用いて、振動周波数10Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、チャック間25mmで、−150℃から試料が融解して測定が不可になるまで動的粘弾性を測定し、得られたデータから損失弾性率(E”)のピーク温度を求めガラス転移温度を求め、耐熱性の指標とした。
なお、損失弾性率(E”)のピーク温度が複数ある場合には、最も高い温度をガラス転移温度とした。
【0074】
生産性として、下記に示す(4)〜(6)の評価を行い、いずれか一つでも×があるものを生産性に劣ると判断した。
【0075】
(4)押出成形性
上記積層シートの作製において、口金リップ部に堆積されるメヤニ(褐色〜黒色の異物)を観察することにより、以下の判断基準に基づいて評価した。
○:3時間以上連続成形しても、メヤニが全く観察されなかった。
×:3時間経たないうちに、メヤニが観察された。
【0076】
(5)外観
上記積層シートから両表面の(II)層を剥離し、得られたシートの表面状態を目視で観察することにより、以下の判断基準に基づいて判断した。
○:ダイスジや面荒れがなく、表面が平滑である。
×:ダイスジや面荒れがあり、表面が平滑でない。
【0077】
(6)剥離強度
上記積層シートから、縦150mm、横25mmのサンプルを切り出し、試験速度50mm/minにて180°剥離強度を測定した結果を、以下の判断基準に基づいて評価した。
◎:剥離強度が1.0N/25mm巾未満
○:剥離強度が1.0N/25mm巾以上、3.0N/25mm巾以下
×:剥離強度が3.0N/25mm巾より大、又は剥離時に(II)層が破断する
【0078】
【表1】

【0079】
表1より明らかであるように実施例1〜5では積層シートの生産性、耐衝撃性、耐熱性ともに良好であった。一方、(II)層の見かけ剪断粘度が本発明の範囲よりも高いものでは、剥離強度が高くなり過ぎていた(比較例1)。(I)層が(b)成分を含有しないものは、生産性は十分だが耐衝撃性に劣っていた(比較例2)。同様に、(I)層と(II)層の見かけ剪断粘度比が本発明の範囲を下回るものでは、剥離が困難であった(比較例3)。また、(II)層として、高密度ポリエチレンに替えてポリプロピレンを用いたものでは、剥離が困難であった(比較例4)。
【符号の説明】
【0080】
10・・・透明基板
12A,12B・・・封止樹脂層
14A,14B・・・太陽電池素子
16・・・バックシート(本シート)
18・・・ジャンクションボックス
20・・・配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(A)を満たす下記(I)層と下記(II)層とを、下記(II)層が口金と接する面に存在するように共押出することを特徴とする、(I)層と(II)層とが剥離可能な積層ポリフェニレンエーテル系シートの製造方法。
(I)層:ポリフェニレンエーテル(a)、及びビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体及び/又はビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体の水素添加誘導体(b)を含有するポリフェニレンエーテル系樹脂層
(II)層:300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における見かけ剪断粘度が1.0×103Pa・s以下である高密度ポリエチレン系樹脂層
条件(A):300℃で測定した高化式フローテスターの100sec-1における(I)層と(II)層の見かけ剪断粘度の比[(I)層/(II)層]が、1.0以上10.0以下である
【請求項2】
前記(I)層において、前記(a)と前記(b)の合計含有量を100質量部としたときの前記(b)の割合が5質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記(b)を構成するビニル芳香族化合物(b1)、及び共役ジエン化合物(b2)の含有質量%比[(b1)/(b2)]が、80/20〜20/80である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造された積層ポリフェニレンエーテル系シート。
【請求項5】
前記(I)層と前記(II)層との層間における剥離強度が3.0N/25mm巾以下である、請求項4に記載の積層ポリフェニレンエーテル系シート。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の積層ポリフェニレンエーテル系シートから、前記(II)層を少なくとも1層剥離してなるポリフェニレンエーテル系シート。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の積層ポリフェニレンエーテル系シート、又は請求項6に記載のポリフェニレンエーテル系シートを用いて作製された太陽電池用シート。
【請求項8】
請求項7に記載の太陽電池用シートが設けられてなる太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2012−71482(P2012−71482A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217587(P2010−217587)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】