説明

ポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法

【課題】優れた製品品質を備えた高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造する方法を提供。
【解決手段】反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する気相重合法プロセスによって、下記の重合体成分(a)及び重合体成分(b)を10:90〜84:16び質量比で含むポリプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法であって、チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)と、ビニルシラン化合物(A2)と、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3)とを接触処理してなる固体触媒成分(A)を用いるものとする。重合体成分(a):コモノマー単位の含量が5質量%以下、かつ230℃、21.18Nで測定したMFRが50g/10分以上のもの 重合体成分(b):プロピレン単位の含量が20質量%以上80質量%以下であるもの

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法に関し、更に詳しくは、優れた製品品質を備えた高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、剛性や耐熱性などの機械的物性が良好であり、比較的安価に製造することが可能なことから広い用途に適用されている。ポリプロピレンは単独重合体としてだけではなく、エチレンやブテンなどのコモノマーとの共重合体としても広く用いられている。中でも、剛性と耐衝撃強度の両方を求められる用途には、ブロック共重合体を用いることが多い。ポリプロピレン系ブロック共重合体とは、主としてプロピレンからなる重合体成分と、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分とのブレンドを意味し、一般的にはそれぞれの成分に対応する条件で順次重合を行うことにより、反応器中でそれぞれの成分をブレンドする手法を用いて製造される。
プロピレン系ブロック共重合体の代表的な用途の一つとして、自動車のバンパーなどの射出成形用途が挙げられるが、近年、射出成形工程の生産性を向上させるためにポリプロピレン系ブロック共重合体のMFRを高くすることが望まれてきている。プロピレン系ブロック共重合体のMFRは、主としてプロピレンからなる重合体成分のMFR、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分のMFR、及び、ブロック共重合体中のランダム共重合体成分単位の含量、の3つで一意的に決まるものである。ブロック共重合体の品質、特に耐衝撃強度を高めるためには、ランダム共重合体成分のMFR及びランダム共重合体成分単位の含量をある一定の範囲内とすることが必要であり、高い品質を維持した上でブロック共重合体のMFRを高めるためには、主としてプロピレンからなる重合体成分のMFRを一層高くすることが望まれている。
【0003】
一方、ポリプロピレンの製造プロセスに関しては、工程の簡略化と生産コストの低減及び生産性の向上などの観点で技術改良が続けられてきた。ポリプロピレンが工業的に製造され始めた当時は触媒の性能が低く、得られたポリプロピレンから触媒残さやアタクチックポリマーを除去する工程が必要であり、溶媒を用いたスラリー法などのプロセスが主体であった。その後触媒性能が格段に進歩するにつれ、現在では気相重合法プロセスが主流となっている。各種気相重合法プロセスの中でも液化プロピレンの潜熱を利用して重合熱を除去する方法は、小さな設備で大きな除熱能力を持つことができる点で優位性のあるものである。
液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して重合熱を除去する形式のオレフィンの気相重合槽として、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器が知られている。
一般的に、重合反応により触媒粒子はポリマー粒子へと徐々に成長していく。横型反応器で重合を行う場合、重合によるポリプロピレンの生成と機械的な撹拌の2つの力により、これらの粒子は徐々に成長しながら反応器の軸方向に沿って進んでいく。そのため、反応器の上流から下流に向かって、成長度すなわち滞留時間のそろった粒子が経時的に並ぶことになる。すなわち、横型反応器ではフローパターンがピストンフロー型となり、完全混合槽を数台直列に並べた場合と同程度に滞留時間分布を狭くする効果がある。これは、その他の重合反応器には見られない優れた特徴であり、単一の反応器で2個、3個又はそれ以上の反応器と同等な固体混合度を容易に達成することができる点で経済的に有利である。
ポリプロピレンの製造を行う際に、液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して重合熱の除去を行い、かつ、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型筒状反応器を用いる手法は、上記のような優れた特徴を有している。
ポリプロピレン系ブロック共重合体の製造を行う際には、第一重合工程で主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を製造し、第二重合工程でプロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を製造することが一般的である。この際、第一重合工程を出て第二重合工程に入るポリマー粒子の滞留時間分布が広いと、第二重合工程を行う反応器でファウリングが生じたり、製品であるブロック共重合体の面衝撃強度が低下したりする問題が発生しやすい。これは、滞留時間分布の広さに起因して、第二重合工程に入ってくるポリマー粒子の持つ活性のばらつきが大きくなり、第二重合工程で過度にランダム共重合体成分を製造してしまう粒子が増加するためであると考えられている。
それ故に、ポリプロピレン系ブロック共重合体を製造する場合には、滞留時間分布の狭い製造方法を用いるのが望ましく、この観点からも、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型筒状反応器を用いる手法はその他の方法に比し高い優位性を有していると言える。
【0004】
このように、液化プロピレンの潜熱を利用した気相重合法プロセスは、優れた特徴を有しているが、近年望まれているMFRの高いポリプロピレンを製造する場合には生産性の面で解決すべき課題を抱えている。液化プロピレンの潜熱を利用する場合、重合槽からガスを抜き出し、熱交換器で冷却することにより液化させ、再び重合槽へ戻すのが一般的な方法である。ガスが液化する温度(露点)は圧力およびガスの組成に依存するため、プロピレン単独の露点に対して、プロピレンに水素やエチレンなどの露点の低いガス成分を混合していくと、混合量の増加に従って露点が低下する。熱交換器の冷却能力は設備によって決まるものであり、同一設備を使用する場合にはガス成分の露点が低くなるほどガスを液化させる能力が低下、すなわち、除熱能力が低下してしまう。一方で、ポリプロピレンを製造する場合には、連鎖移動反応を起こす能力のある水素を分子量調節剤として用いるのが一般的である。よりMFRの高い、すなわち、より分子量の低いポリプロピレンを製造するためには、より高濃度の水素を用いる必要がある。故に、液化プロピレンの潜熱を利用する気相重合法プロセスでは、高MFRのポリプロピレンを製造しようとすると、除熱の問題から生産性が落ちてしまう問題が発生し、これは、前記した通り、高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体の製造を行う場合、第一重合工程において更に問題が大きくなる。
そこで、触媒を改良することにより、この課題を解決する方法が幾つか提案されている。例えば、助触媒として有機アルミニウム成分とアルモキサンを併用する方法(例えば、特許文献1参照。)、助触媒として有機アルミニウム成分と有機亜鉛成分を併用する方法(例えば、特許文献2参照。)、ハロゲン含有成分を固体触媒に担持する方法(例えば、特許文献3参照。)、アミノ基を有する有機ケイ素化合物を用いる方法(例えば、特許文献4、5、6参照。)、分岐又は脂環式炭化水素基とアミノ基を併せ持つ特定の有機ケイ素化合物を使用する方法(例えば、特許文献7、8参照。)等が提案されている。
しかしながら、こうした方法は、得られるポリプロピレンの物性の面では満足し得るものではあるが、依然として、高MFRのポリプロピレンの生産性という意味では、未だ充分な性能を示すものはなく、更なる改良技術の開発が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−25927号公報
【特許文献2】特開平8−66710号公報
【特許文献3】特開2000−7725号公報
【特許文献4】特開平8−3215号公報
【特許文献5】特開2004−315742号公報
【特許文献6】特開2005−48045号公報
【特許文献7】特開平8−100019号公報
【特許文献8】特開平8−157519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の状況において、優れた製品品質を備えた高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、構成成分の1つに特定のビニルシラン化合物を用いたプロピレン向けの改良固体触媒成分を開発し、それを各種重合プロセスに応用する手法について鋭意検討した結果、この改良固体触媒成分を、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う気相重合法プロセスと組み合わせると、高MFRのプロピレン系ブロック共重合体の生産性を著しく高め、加えて、プロピレン系ブロック共重合体の製造可能範囲を拡大することができることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する気相重合法プロセスによって、下記の重合体成分(a)及び重合体成分(b)を10:90〜84:16の質量比で含むポリプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法であって、
チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)(以下、「固体成分(A1)」と略称する場合もある。)と、ビニルシラン化合物(A2)(以下、「成分(A2)」と略称する場合もある。)と、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3)(以下、前者を「成分(A3a)」、後者を「成分(A3b)」、またこれらを総称して「成分(A3)」と略称する場合もある。)とを接触処理してなる固体触媒成分(A)を用いることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
重合体成分(a):プロピレンの単独重合体、若しくは、プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとのランダム共重合体であって、コモノマー単位の含量が5質量%以下、かつ230℃、21.18Nで測定したMFRが50g/10分以上のもの
重合体成分(b):プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとのランダム共重合体であって、プロピレン単位の含量が20質量%以上80質量%以下であるもの
【0009】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、上記気相重合法プロセスが、2段気相重合法プロセスであって、上記固体触媒成分(A)を用い、先ず第1段階で、プロピレンを単独で重合させるか、或いはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させ、次いで第2段階で、プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させるものであることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、ビニルシラン化合物(A2)が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
[CH=CH−]SiX(OR …(1)
(式中、Xはハロゲン、Rは水素又は炭化水素基、Rは水素、炭化水素基又は有機ケイ素基を表し、m≧1、0≦n≦3、0≦j≦3、0≦k≦2、m+n+j+k=4である。)
【0011】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
Si(OR …(2)
(式中、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基、Rは水素、ハロゲン、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれるいずれかの遊離基、Rは炭化水素基を表し、0≦a≦2、1≦b≦3、a+b=3である。)
【0012】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)が、下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
O−C(R−C(R−C(R−OR …(3)
(式中、R及びRは水素、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれるいずれかの遊離基、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。)
【0013】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、重合体成分(b)が、0.5〜5.0g/10分の範囲のMFRを有するランダム共重合体であることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造法が提供される。
【0014】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、固体触媒成分(A)が予備重合されていることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、触媒活性が、30,000gPP/g触媒以上であることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、気相重合法プロセスが、攪拌機を有する反応器内で行われることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、気相重合法プロセスが、内部に水平軸周りに回転する攪拌機を有する横型反応器内で行なわれることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10のいずれかの発明において、パーオキサイドを用いないことを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造法によれば、高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造することができ、また、触媒活性が非常に高いので、製造コストも低減することが可能であり、さらに加えて、得られるポリプロピレンの立体規則性が高いので、剛性と耐衝撃強度のバランスに優れた高品質な製品を得ることができる。こうして得られたポリプロピレン系ブロック共重合体は、特に自動車部品や家電部品に代表される射出成形品等の用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を、以下に、触媒、製造プロセス及び条件、ポリプロピレン系ブロック共重合体、ポリプロピレン系ブロック共重合体の用途について、具体的かつ詳細に説明する。
【0021】
[I]触媒
本発明においては、ポリプロピレン系ブロック共重合体用の触媒として、(A1)チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分、(A2)ビニルシラン化合物及び(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)を接触させてなる固体触媒成分(A)を用いることを特徴とする。この際、本発明の効果を損なわない範囲で、有機アルミニウム化合物(B)、有機ケイ素化合物(C)、及び、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、などの任意成分を用いることができる。
【0022】
1.固体触媒成分(A)
本発明で用いる固体触媒成分(A)は、以下の(A1)〜(A3)を接触させてなるものである。この際本発明の効果を損なわない範囲で、有機アルミニウム化合物(A4)のような他の任意成分を任意の方法で接触させてもよい。以下に各構成成分を詳述する。
【0023】
(1)固体成分(A1)
本発明において、固体成分(A1)は、チタン(A1a)、マグネシウム(A1b)、ハロゲン(A1c)を必須成分として含有し、任意成分として電子供与体(A1d)を含有していてもよい。。ここで、「必須成分として含有する」ということは、必須の三成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の成分を任意の形態で含んでもよいということを示すものである。チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分自体は公知のものであり、以下に詳述する。
【0024】
(A1a)チタン
チタン源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価のうち任意のものであればよいが、好ましくは4価および3価のもの、さらに好ましくは4価のものである。
【0025】
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)Ti−O−Ti(OBu)に代表されるTi−O−Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機金属チタン化合物類、などを挙げることができる。これらの中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい。
3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型、など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。また、上記チタン化合物類の混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Ti(OBu)Cl4−m;0<m<4などの化合物)、また、フタル酸エステル等のその他の化合物との錯化物(例えば、Ph(COBu)・TiClなどの化合物)、などを用いることができる。
【0026】
(A1b)マグネシウム
マグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルエチルマグネシウムに代表される有機金属マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)Cl2−m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。これらの中で特に好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0027】
(A1c)ハロゲン
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、及びそれらの混合物を用いることができる。これらの中で塩素が特に好ましい。
ハロゲンは上記のチタン化合物類及び/又はマグネシウム化合物から供給されるのが一般的であるが、その他の化合物より供給することもできる。代表的な例としては、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素化合物類、塩化アルミニウムに代表されるハロゲン化アルミニウム化合物類、1,2−ジクロロエタンやベンジルクロライドに代表されるハロゲン化有機化合物類、トリクロロボランに代表されるハロゲン化ボラン化合物類、五塩化リンに代表されるハロゲン化リン化合物類、六塩化タングステンに代表されるハロゲン化タングステン化合物類、五塩化モリブデンに代表されるハロゲン化モリブデン化合物類、などを挙げることができる。これらの化合物は単独で用いるだけでなく、併用することも可能である。これらの中で、四塩化ケイ素が特に好ましい。
【0028】
(A1d)電子供与体
固体成分(A1)は、任意成分として電子供与体を含有してもよい。電子供与体(A1d)の代表的な例としては、特開2004−124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物類、エーテル化合物類、ケトン化合物類、アルデヒド化合物類、アルコール化合物類、アミン化合物類、などを用いるのが望ましい。
【0029】
電子供与体として用いられる有機酸化合物としては、フタル酸に代表される芳香族多価カルボン酸化合物類、安息香酸に代表される芳香族カルボン酸化合物類、2−n−ブチル−マロン酸のような2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸や2−n−ブチル−コハク酸のような2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸に代表される脂肪族多価カルボン酸化合物類、プロピオン酸に代表される脂肪族カルボン酸化合物類、ベンゼンスルホン酸やメタンスルホン酸に代表される芳香族及び脂肪族のスルホン酸化合物類、などを例示することができる。これらのカルボン酸化合物類及びスルホン酸化合物類は、芳香族・脂肪族に関わらず、マレイン酸のように分子中の任意の場所に任意の数だけ不飽和結合を有してもよい。
【0030】
電子供与体として用いられる有機酸の誘導体化合物としては、上記有機酸のエステル、酸無水物、酸ハライド、アミド、などを例示することができる。
エステルの構成要素であるアルコールとしては、脂肪族及び芳香族アルコールを用いることができる。これらのアルコールの中でも、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基、等の炭素数1から20の脂肪族の遊離基からなるアルコールが好ましい。更に好ましくは炭素数2から12の脂肪族の遊離基からなるアルコールが望ましい。また、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、等の脂環式の遊離基からなるアルコールを用いることもできる。
【0031】
酸ハライドの構成要素であるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、等を用いることができる。中でも、塩素が最も好ましい。多価有機酸のポリハライドの場合は複数のハロゲンが同一であっても異なっていてもよい。
アミドの構成要素であるアミンとしては、脂肪族及び芳香族アミンを用いることができる。これらのアミンの中でも、アンモニア、エチルアミンやジブチルアミンに代表される脂肪族アミン、アニリンやベンジルアミンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有するアミン、などを好ましい化合物として例示することができる。
【0032】
電子供与体として用いられる無機酸化合物としては、炭酸、リン酸、ケイ酸、硫酸、硝酸、などを例示することができる。これらの無機酸の誘導体化合物としては、エステルを用いるのが望ましい。テトラエトキシシラン(ケイ酸エチル)、テトラブトキシシラン(ケイ酸ブチル)、などを具体例として挙げることができる。
【0033】
電子供与体として用いられるエーテル化合物としては、ジブチルエーテルに代表される脂肪族エーテル化合物類、ジフェニルエーテルに代表される芳香族エーテル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンのような2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、に代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類、などを例示することができる。多価エーテル化合物類の好ましい例は、本明細書中の少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)の例示から選ぶことができる。
【0034】
電子供与体として用いられるケトン化合物としては、メチルエチルケトンに代表される脂肪族ケトン化合物類、アセトフェノンに代表される芳香族ケトン化合物類、2,2,4,6,6−ペンタメチル−3,5−ヘプタンジオンに代表される多価ケトン化合物類、などを例示することができる。
電子供与体として用いられるアルデヒド化合物としては、プロピオンアルデヒドに代表される脂肪族アルデヒド化合物類、ベンズアルデヒドに代表される芳香族アルデヒド化合物類、などを例示することができる。
【0035】
電子供与体として用いられるアルコール化合物としては、ブタノールや2−エチルヘキサノールに代表される脂肪族アルコール化合物類、フェノール、クレゾールに代表されるフェノール誘導体化合物類、グリセリンや1,1’−ビ−2−ナフトールに代表される脂肪族又は芳香族の多価アルコール化合物類、などを例示することができる。
【0036】
電子供与体として用いられるアミン化合物としては、ジエチルアミンに代表される脂肪族アミン化合物類、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジンに代表される窒素含有脂環式化合物類、アニリンに代表される芳香族アミン化合物類、ピリジンに代表される窒素原子含有芳香族化合物類、1,3−ビス(ジメチルアミノ)−2,2−ジメチルプロパンに代表される多価アミン化合物類、などを例示することができる。
【0037】
また、電子供与体として用いられる化合物として、上記の複数の官能基を同一分子内に含有する化合物を挙げることもできる。そのような化合物の例として、酢酸−(2−エトキシエチル)や3−エトキシ−2−t−ブチルプロピオン酸エチルに代表されるアルコシ基を分子内に有するエステル化合物類、2−ベンゾイル−安息香酸エチルに代表されるケトエステル化合物類、(1−t−ブチル−2−メトキシエチル)メチルケトンに代表されるケトエーテル化合物類、N,N−ジメチル−2,2−ジメチル−3−メトキシプロピルアミンに代表されるアミノエーテル化合物類、エポキシクロロプロパンに代表されるハロゲノエーテル化合物類、などを挙げることができる。
【0038】
これらの電子供与体は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。これらの中で好ましいのは、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸エステル化合物類、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ハライド化合物類、2−n−ブチル−マロン酸ジエチルのような2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物類、2−n−ブチル−コハク酸ジエチルのような2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンのような2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類、などである。
【0039】
本発明における固体成分(A1)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
チタン化合物類の使用量は、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対してモル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01から10の範囲内が望ましい。マグネシウム化合物類及びチタン化合物類以外にハロゲン源となる化合物を使用する場合は、その使用量はマグネシウム化合物類及びチタン化合物類の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対してモル比(ハロゲン源となる化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1から100の範囲内が望ましい。
固体成分(A1)を調製する際に任意成分として電子供与体を用いる場合は、その使用量は、使用するマグネシウム化合物の量に対してモル比(電子供与体のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001から10の範囲内であり、特に好ましくは0.01から5の範囲内が望ましい。
【0040】
本発明における固体成分(A1)は、それを構成する上記各成分を上記の量比で接触して得られる。各成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、−50から200℃程度、好ましくは0から100℃である。接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、並びに、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0041】
固体成分(A1)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行ってもよい。好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、及び、1,2−ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素、などを例示することができる。
【0042】
本発明における固体成分(A1)の調製方法としては任意の方法を用いることができる。具体的には、下記の特許に開示された方法を例示することができる。なお、本発明は下記例示により何ら制限されるものではない。
【0043】
(i)塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物類にチタン含有化合物類を接触させる方法。
必要に応じて電子供与体やハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はチタン含有化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0044】
(ii)塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物類をアルコール化合物類、エポキシ化合物類、又は、リン酸エステル化合物類等を用いて溶解し、四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類と接触させる方法。
ハロゲンを含有するチタン化合物類と接触させる前に、スプレードライや冷却した炭化水素溶媒等の貧溶媒へ滴下する方法などを用いて粒子形成を行ってもよい。また、必要に応じて電子供与体やハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はハロゲンを含有するチタン化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0045】
(iii)塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物類とテトラブトキシチタンに代表されるアルコキシ基含有チタン化合物類及び特定のポリマーケイ素化合物類を接触させて得られる固体成分に、四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類及び/又は四塩化ケイ素に代表されるハロゲンを含有するケイ素化合物類を接触させる方法。
このポリマーケイ素化合物類としては、下記一般式(4)で示されるものが適当である。
[−Si(H)(R)−O−]q …(4)
(ここで、Rは炭素数1から10の炭化水素基であり、qはこのポリマーケイ素化合物類の粘度が1から100センチストークスとなるような重合度を示す。)
具体的な化合物の例としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、フェニルハイドロジェンポリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、等を挙げることができる。また、必要に応じて電子供与体等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はハロゲンを含有するチタン化合物類及び/又はハロゲンを含有するケイ素化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0046】
(iv)ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシ基含有マグネシウム化合物類をテトラブトキシチタンに代表されるアルコキシ基含有チタン化合物類と接触させた後、ハロゲン化剤又は四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類と接触させる方法。
必要に応じて電子供与体等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はハロゲン化剤又はハロゲンを含有するチタン化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0047】
(v)ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシ基含有マグネシウム化合物類に四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類と接触させる方法。
必要に応じて電子供与体やハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はハロゲンを含有するチタン化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0048】
(vi)金属マグネシウムにアルコール及び必要に応じて沃素に代表される沃素含有化合物類を接触させた後、四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類と接触させる方法。
必要に応じて電子供与体やハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はハロゲンを含有するチタン化合物類と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0049】
(vii)ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャー試薬等の有機マグネシウム化合物類とチタン含有化合物類を接触させる方法。
チタン含有化合物類としては、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシ基含有チタン化合物類や四塩化チタンに代表されるハロゲンを含有するチタン化合物類などを用いることができる。必要に応じて電子供与体、テトラエトキシシランに代表されるアルコキシ基含有ケイ素化合物、及び、ハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を接触させてもよい。この際、任意成分はチタン含有化合物と同時に接触させてもよいし、別々に接触させてもよい。
【0050】
(2)ビニルシラン化合物(A2)
本発明に用いられるビニルシラン化合物(A2)としては、特開平2−34707号公報及び特開2003−292522号公報に開示された化合物等を用いることができる。これらのビニルシラン化合物はモノシラン(SiH)の水素原子の少なくとも一つがビニル基類で置換され、残りの水素原子の一部ないし全部がその他の遊離基に置き換えられた構造を持つ化合物であり、下記一般式(1)で表すことができる。
[CH=CH−]SiX(OR …(1)
(式中、Xはハロゲン、Rは水素又は炭化水素基、Rは水素、炭化水素基又は有機ケイ素基を表し、m≧1、0≦n≦3、0≦j≦3、0≦k≦2、m+n+j+k=4である。)
【0051】
一般式(1)中、mはビニル基の数を表し、1以上4以下の値を取る。より好ましくは、mの値は1又は2であるのが望ましく、特に好ましくは2である。
一般式(1)中、Xはハロゲンを表し、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。複数存在する場合は互いに同一であっても異なってもよい。これらの中で、塩素が特に好ましい。nはハロゲンの数を表し、0以上3以下の値を取る。より好ましくは、nの値は0以上2以下であるのが望ましく、特に好ましくは0である。
一般式(1)中、Rは水素又は炭化水素基を表し、好ましくは水素又は炭素数1から20の炭化水素基、より好ましくは水素又は炭素数1から12の炭化水素基からなる群から選ばれる遊離基を表す。好ましいRの例としては、水素、メチル基やブチル基に代表されるアルキル基、シクロヘキシル基に代表されるシクロアルキル基、フェニル基に代表されるアリール基、などを挙げることができる。特に好ましいRの例としては、水素、メチル基、エチル基、フェニル基、などを挙げることができる。jはRの数を表し、0以上3以下の値を取る。より好ましくは、jの値は1以上3以下であるのが望ましく、更に好ましくは2以上3以下であり、特に好ましくは2である。jが2以上である場合、複数存在するRは互いに同一であっても異なってもよい。
【0052】
一般式(1)中、Rは水素、炭化水素基又は有機ケイ素基を表す。Rが炭化水素基である場合は、Rと同一の化合物群から選択することができる。Rが有機ケイ素基である場合は、炭素数1から20の炭化水素基を有する有機ケイ素基であることが好ましい。Rとして用いられる有機ケイ素基の具体的な例としては、トリメチルシリル基に代表されるアルキル基含有ケイ素基、ジメチルフェニルシリル基に代表されるアリール基含有ケイ素基、ジメチルビニルシリル基に代表されるビニル基含有ケイ素基、およびプロピルフェニルビニルシリル基のようなそれらを組み合わせてなるケイ素基、などを挙げることができる。kはRの数を表し、0以上2以下の値を取る。ビニルトリエトキシシランのようにkの値が3に相当する化合物の場合では、本発明におけるビニルシラン化合物(A2)としての性能は発現せず、本発明におけるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3c)としての性能を発現するため好ましくない。これは、構造的に近いt−ブチルトリエトキシシランと同じように振る舞うためと考えられる(後述する通り、このt−ブチルトリエトキシシランは本発明におけるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3c)として有効である)。より好ましくは、kの値は0以上1以下であるのが望ましく、特に好ましくは0である。kの値が2である場合、二つのRは互いに同一であっても異なってもよい。また、kの値に関わらず、RとRは同一であっても異なってもよい。
【0053】
これらのビニルシラン化合物類は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。好ましい化合物の例としては、CH=CH−SiMe、[CH=CH−]SiMe、CH=CH−Si(Cl)Me、CH=CH−Si(Cl)Me、CH=CH−SiCl、[CH=CH−]Si(Cl)Me、[CH=CH−]SiCl、CH=CH−Si(Ph)Me、CH=CH−Si(Ph)Me、CH=CH−SiPh、[CH=CH−]Si(Ph)Me、[CH=CH−]SiPh、CH=CH−Si(H)Me、CH=CH−Si(H)Me、CH=CH−SiH、[CH=CH−]Si(H)Me、[CH=CH−]SiH、CH=CH−SiEt、CH=CH−SiBu、CH=CH−Si(Ph)(H)Me、CH=CH−Si(Cl)(H)Me、 CH=CH−Si(Me)(OMe)、CH=CH−Si(Me)(OSiMe)、CH=CH−Si(Me)−O−Si(Me)−CH=CH、などを挙げることができる。これらの中でも、CH=CH−SiMe、[CH=CH−]SiMe、がより好ましく、[CH=CH−]SiMeが最も好ましい。
【0054】
(3)(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)
(A3a)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物
本発明で用いられるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(2)にて表される化合物を用いるのが望ましい。
Si(OR …(2)
(式中、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基、Rは水素、ハロゲン、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる遊離基、Rは炭化水素基を表し、0≦a≦2、1≦b≦3、a+b=3である。)
【0055】
一般式(2)中、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。
として用いられる炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数3から10のものである。Rとして用いられる炭化水素基の具体的な例としては、n−プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、Rとして分岐状脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基を用いるのが望ましく、とりわけ、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基、i−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いるのが望ましい。
がヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リン及びケイ素からなる群から選ばれるのが望ましく、とりわけ、窒素又は酸素であるのが望ましい。Rのヘテロ原子含有炭化水素基の骨格構造としては、Rが炭化水素基である場合の例示から選ぶのが望ましい。とりわけ、N,N−ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
【0056】
一般式(2)中、Rは水素、ハロゲン、炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。
として用いられるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。Rが炭化水素基である場合は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10のものである。Rとして用いられる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いるのが望ましい。
がヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、Rがヘテロ原子含有炭化水素基である場合の例示から選ぶのが望ましい。とりわけ、N,N−ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
aの値が2の場合、二つあるRは同一であっても異なってもよい。また、aの値に関わらず、RはRと同一であっても異なってもよい。
【0057】
一般式(2)中、Rは炭化水素基を表す。Rとして用いられる炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5のものである。Rとして用いられる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基とエチル基が最も好ましい。bの値が2以上である場合、複数存在するRは同一であっても異なってもよい。
【0058】
本発明で用いられるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)の好ましい例としては、t−Bu(Me)Si(OMe)、t−Bu(Me)Si(OEt)、t−Bu(Et)Si(OMe)、t−Bu(n−Pr)Si(OMe)、c−Hex(Me)Si(OMe)、c−Hex(Et)Si(OMe)、c−PenSi(OMe)、 i−PrSi(OMe)、i−BuSi(OMe)、i−Pr(i−Bu)Si(OMe)、n−Pr(Me)Si(OMe)、t−BuSi(OEt)、(EtN)Si(OMe)、EtN−Si(OEt)
【0059】
【化1】

【0060】
などを挙げることができる。
これらの有機ケイ素化合物類は単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0061】
(A3b)少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物
本発明で用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)としては、特開平3−294302号公報および特開平8−333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(3)で表される化合物を用いるのが望ましい。
O−C(R−C(R−C(R−OR …(3)
(式中、R及びRは水素、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる遊離基、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。)
【0062】
一般式(3)中、Rは水素、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる遊離基を表す。
として用いられる炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10のものである。Rとして用いられる炭化水素基の具体的な例としては、n−プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、Rとして分岐状脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基を用いるのが望ましく、とりわけ、i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いるのが望ましい。
二つのRは結合して一つ以上の環を形成してもよい。この際、環構造中に2個又は3個の不飽和結合を含むシクロポリエン系構造を取ることもできる。また、他の環式構造と縮合していてもよい。単環式、複環式、縮合の有無に関わらず、環上に炭化水素基を置換基として1つ以上有していてもよい。環上の置換基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10のものである。具体的な例としては、n−プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。
【0063】
一般式(3)中、Rは水素、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれる遊離基を表す。具体的には、RはRの例示から選ぶことができる。好ましくは水素である。
一般式(3)中、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。具体的には、RはRが炭化水素基である場合の例示から選ぶことができる。好ましくは、炭素数1から6の炭化水素基であるのが望ましく、更に好ましくはアルキル基であるのが望ましい。最も好ましくはメチル基である。
からRがヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素からなる群から選ばれるのが望ましい。また、RからRが炭化水素基であるかヘテロ原子含有炭化水素基であるかに関わらず、任意にハロゲンを含んでいてもよい。RからRがヘテロ原子及び/又はハロゲンを含む場合、その骨格構造は炭化水素基である場合の例示からなる群から選ばれるのが望ましい。また、RからRの八個の置換基は互いに同一であっても異なってもよい。
【0064】
本発明で用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)の好ましい例としては、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジエトキシプロパン、2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−tert−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−メチル−2−フェニル−1,3−ジメトキシプロパン、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(メトキシメチル)−1,8−ジクロロフルオレン、9,9−ビス(メトキシメチル)−2,7−ジシクロペンチルフルオレン、9,9−ビス(メトキシメチル)−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレン、1,1−ビス(1’−ブトキシエチル)シクロペンタジエン、1,1−ビス(α‐メトキシベンジル)インデン、1,1−ビス(フェノキシメチル)−3,6−ジシクロヘキシルインデン、1,1−ビス(メトキシメチル)ベンゾナフテン、7,7−ビス(メトキシメチル)−2,5−ノボルナジネン、などを挙げることができる。中でも、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、が特に好ましい。
これらの少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)は単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。また、固体成分(A1)中の任意成分(A1d)として用いられる多価エーテル化合物と同一であっても異なってもよい。
【0065】
(4)(A4)有機アルミニウム化合物
本発明における固体触媒成分(A)は、固体成分(A1)、ビニルシラン化合物(A2)、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させてなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で他の任意成分を任意の方法で接触させてもよい。このような任意成分の例として、有機アルミニウム化合物(A4)を挙げることができる。
本発明において固体触媒成分(A)を調製する際の任意成分として用いられる有機アルミニウム化合物(A4)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(5)にて表される化合物を用いるのが望ましい。
AlX(OR10 …(5)
(式中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン又は水素、R10は炭化水素基又はAlによる架橋基を表し、c≧1、0≦d≦2、0≦e≦2、c+d+e=3である。)
【0066】
一般式(5)中、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から8、特に好ましくは炭素数1から6、のものを用いるのが望ましい。Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、などを挙げることができる。これらの中で、メチル基、エチル基、イソブチル基、が最も好ましい。
一般式(5)中、Xはハロゲン又は水素である。Xとして用いられるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。これらの中で、塩素が特に好ましい。
一般式(5)中、R10は炭化水素基又はAlによる架橋基である。R10が炭化水素基である場合には、Rの炭化水素基の例示と同じ群からRを選択することができる。また、有機アルミニウム化合物(E’)としてメチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能であり、その場合RはAlによる架橋基を表す。
【0067】
有機アルミニウム化合物(A4)として用いられる化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物(A4)は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0068】
2.固体触媒成分(A)の調製方法
本発明における固体触媒成分(A)は、(A1)固体成分、(A2)ビニルシラン化合物、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させてなるものである。この際、本発明の効果を損なわない範囲で(A4)有機アルミニウム化合物等の他の任意成分を任意の方法で接触させてもよい。固体触媒成分(A)の各構成成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
【0069】
接触温度は、−50から200℃程度、好ましくは−10から100℃、更に好ましくは0から70℃、とりわけ好ましくは10℃から60℃である。接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、並びに、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。好ましくは、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法を用いるのが望ましい。
【0070】
本発明における固体触媒成分(A)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
ビニルシラン化合物(A2)の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分に対するモル比(ビニルシラン化合物(A2)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.001から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01から100の範囲内が望ましい。
アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)を用いる場合の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分に対するモル比で(アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1から100の範囲内が望ましい。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3d)を用いる場合は、その使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分に対するモル比(少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3d)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1から100の範囲内が望ましい。
任意成分として有機アルミニウム化合物(A4)を用いる場合の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分に対するモル比(有機アルミニウム化合物(A4)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.1から100の範囲内であり、特に好ましくは1から50の範囲内が望ましい。
【0071】
(A1)固体成分、(A2)ビニルシラン化合物、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。具体的な例としては、下記の手順(i)〜手順(iii)が挙げられる。
【0072】
手順(i):(A1)固体成分に(A2)ビニルシラン化合物を接触させた後、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させる方法
手順(ii):(A1)固体成分に(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させた後、(A2)ビニルシラン化合物を接触させる方法
手順(iii):全ての化合物を同時に接触させる方法
などを例示することができる。これらの中でも、手順(i)及び手順(iii)が好ましい。
【0073】
また、(A1)固体成分に対して、(A2)ビニルシラン化合物、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物、のいずれも任意の回数接触させることもできる。この際、(A2)ビニルシラン化合物、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物、のいずれも複数回の接触で用いる化合物が互いに同一であっても異なってもよい。任意成分として有機アルミニウム化合物(A4)を用いる場合も、上記と同様に任意の順序で接触させることができる。この中でも、下記の手順(iv)〜手順(vi)が挙げられる。
【0074】
手順(iv):(A1)固体成分に(A2)ビニルシラン化合物を接触させた後、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させ、更に(A4)有機アルミニウム化合物を接触させる方法
手順(v):(A1)固体成分に(A2)ビニルシラン化合物、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させ、その後に(A4)有機アルミニウム化合物を接触させる方法
手順(vi):全ての化合物を同時に接触させる方法
などが好ましい。(A4)有機アルミニウム化合物についても上記と同様に複数回接触させることができる。この際、複数回用いる(A4)有機アルミニウム化合物が互いに同一であっても異なってもよい。
【0075】
固体触媒成分(A)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行ってもよい。好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、及び、1,2−ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素、などを例示することができる。
【0076】
3.触媒におけるその他の任意成分
本発明においては触媒として固体触媒成分(A)を用いることが必須要件であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、下記に説明する有機アルミニウム化合物(B)、有機ケイ素化合物(C)、及び、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、などの任意成分を用いることができる。
【0077】
(B)有機アルミニウム化合物
本発明の触媒において任意成分として用いられる有機アルミニウム化合物(B)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の任意成分である有機アルミニウム化合物(A4)における例示と同じ群から選択することができる。この際、有機アルミニウム化合物(B)と有機アルミニウム化合物(A4)が同一であっても異なってもよい。
有機アルミニウム化合物(B)は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0078】
(C)有機ケイ素化合物
本発明の触媒において任意成分として用いられる有機ケイ素化合物(C)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)において用いられるアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)における例示と同じ群から選択することができる。この際、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)と任意成分として用いられる有機ケイ素化合物(C)が同一であっても異なってもよい。
有機ケイ素化合物(C)は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0079】
(D)少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物
本発明の触媒において任意成分として用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)としては、特開平3−294302号公報および特開平8−333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)において用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)における例示と同じ群から選択することができる。この際、固体触媒成分(A)を調製する際に用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)と触媒の任意成分として用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)が同一であっても異なってもよい。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)は単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0080】
(E)その他の化合物
本発明の効果を損なわない限り、上記有機アルミニウム化合物(B)、有機ケイ素化合物(C)、及び、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)以外の成分を触媒の任意成分として用いることができる。例えば、特開2004−124090号公報に開示されたように、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)を用いることにより、CXS(冷キシレン可溶分)のような非晶性成分の生成を抑制することができる。この化合物には、テトラメチルウレア、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1−エチル−2−ピロリジノン、などを好ましい例として挙げることができる。また、ジエチル亜鉛のようなAl以外の金属原子を持つ有機金属化合物を用いることもできる。
【0081】
4.任意成分の使用量
発明の触媒における任意成分の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(B)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(有機アルミニウム化合物(B)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは1から1,000の範囲内であり、特に好ましくは10から500の範囲内が望ましい。
有機ケイ素化合物(C)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(有機ケイ素化合物(C)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01から10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5から500の範囲内が望ましい。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01から10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5から500の範囲内が望ましい。
分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分に対するモル比(分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.001から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.05から500の範囲内が望ましい。
【0082】
5.予備重合
本発明における固体触媒成分(A)は、本重合で使用する前に予備重合されていてもよい。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
予備重合におけるモノマーとしては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。具体的な化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、などに代表されるオレフィン類、スチレン、α‐メチルスチレン、アリルベンゼン、クロロスチレン、などに代表されるスチレン類似化合物、及び、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,6−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,9−デカジエン、ジビニルベンゼン類、などに代表されるジエン化合物類、などを挙げることができる。中でも、エチレン、プロピレン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン類、などが特に好ましい。
【0083】
固体触媒成分(A)として予備重合されたものを用いる場合には、固体触媒成分(A)の調製手順において任意の手順で予備重合を行うことができる。例えば、(A1)固体成分に予備重合を施した後に、(A2)ビニルシラン化合物、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させることができる。また、(A1)固体成分、(A2)ビニルシラン化合物、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させた後に予備重合を行うこともできる。更に、(A1)固体成分、(A2)ビニルシラン化合物、並びに、(A3)アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物及び/又は少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物を接触させる際に同時に予備重合を行ってもよい。
【0084】
固体触媒成分(A)又は固体成分(A1)と上記のモノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内が好ましい。
固体触媒成分(A)又は固体成分(A1)1グラムあたりの基準で、予備重合量は0.001から100gの範囲内であり、好ましくは0.1から50g、更に好ましくは0.5から10gの範囲内が望ましい。予備重合時の反応温度は−150から150℃、好ましくは0から100℃である。そして、予備重合時の反応温度は本重合のときの重合温度よりも低くするのが望ましい。反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は複数回行っても良く、この際用いるモノマーは同一であっても異なってもよい。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
【0085】
[II]製造プロセス及び重合条件
ポリプロピレン系ブロック共重合体の製造プロセスとしては、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う気相重合法プロセスである限り任意のプロセスを用いることができる。
本発明において、気相重合法とは液が全く存在しないことを意味しない。重合を行う相が実質的に気相であれば良く、本発明の効果を阻害しない範囲で液が存在してもよい。この液としては、除熱のための液化プロピレンだけでなく、ヘキサンなどの不活性炭化水素成分を例示することができる。
気相重合法プロセスとしては、2段気相重合法プロセスが好ましく、2段気相重合法プロセスは、前記した固体触媒成分(A)を用い、、先ず第1段階で、プロピレンを単独で重合させるか、或いはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させ、次いで第2段階で、プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させるものである。
【0086】
混合様式としては、流動床を用いる方法、攪拌機を用いる方法、のどちらを用いてもよい。攪拌機を用いる場合には、攪拌機を備えた流動床を用いることもできる。攪拌機は攪拌軸が鉛直方向を向いていても、水平方向を向いていてもよい。攪拌翼の形状としては、パドル、ヘリカル、ゲート、など任意のものを用いることができる。このうち、攪拌軸を水平方向に向けて、パドル翼又はゲート翼を用いる方法が最も好ましい。
【0087】
重合反応器の並び方については、本発明の効果を阻害しない限り任意の方法を用いることができる。反応器の数に関しては特に制限がないが、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を製造する第一重合工程を行う反応器と、プロピレンとその他のモノマー(コモノマーともいう)とのランダム共重合体成分(b)を製造する第二重合工程を行う反応器と、各々1個以上の反応器が必要である。第一重合工程及び/又は第二重合工程において、複数の反応器を用いる場合には、それぞれ直列に繋いでもよいし、並列に繋いでもよい。この際、第一重合工程を行う少なくとも1個の反応器と、第二重合工程を行う少なくとも1個の反応器が、直列に繋がった並び方にするのが望ましい。
また、第一重合工程及び/又は第二重合工程において、槽数を増やすことなく滞留時間分布を更に狭くする方法として、重合槽の中にパウダーの移動を制限する堰を設けることもできる。堰の形態としては、重合槽に固定された固定堰を用いてもよいし、回転軸に固定された回転堰を用いてもよい。
【0088】
重合方法としては、バッチ法と連続法のどちらを用いてもよいが、生産性の観点から連続法を用いるのが望ましい。特に好ましい例としては、2〜4個の重合槽を直列に繋いで連続法で重合する方法を例示することができる。
【0089】
液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う方法としては任意の方法を用いることができる。液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行うためには、実質的に液の状態にあるプロピレンを重合槽に供給すればよい。フレッシュな液化プロピレンを重合槽に供給することもできるが、一般的にはリサイクルプロピレンを用いるのが望ましい。リサイクルプロピレンを用いる一般的な手順は以下に例示される。重合槽からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を重合槽に供給する。この際、液化する成分はプロピレンを含む必要があるが、ブテンに代表されるコモノマー成分やイソブタンに代表される不活性炭化水素成分を含んでいてもよい。
【0090】
液化プロピレンの供給方法は、実質的に液の状態にあるプロピレンを重合槽に供給するものである限り任意の方法を用いることができる。ポリプロピレン粒子のベッドに供給してもよいし、気相部に供給してもよい。気相部に供給する場合は、重合槽内部の気相部に供給してもよいし、リサイクルガスラインに供給してもよい。特に、攪拌軸を水平方向に向ける攪拌混合槽の場合には、重合槽内部の気相部に供給するのが望ましい。
本発明において、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行うということは、液化プロピレンの潜熱だけを用いて除熱を行うことを意味しない。本発明の効果を阻害しない限り、他の除熱方法を併用することができる。具体的には、重合槽に備え付けたジャケットを用いて除熱する方法、重合槽からガスの一部を抜き出して熱交換器により冷却し再びガスを重合槽に戻す方法、などを例示することができる。ただし、本願発明においては、液化プロピレンの潜熱を用いた除熱が主体である必要がある。具体的には、少なくとも一つの重合槽において、除熱量の少なくとも半分を液化プロピレンの潜熱を用いて除熱する必要がある。
【0091】
温度や圧力のような重合条件は、本発明の効果を阻害しない限り任意に設定することができる。具体的には、重合温度は、好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。重合圧力は好ましくは1200kPa以上、更に好ましくは1400kPa以上、特に好ましくは1600kPa以上であり、好ましくは4200kPa以下、更に好ましくは3500kPa以下、特に好ましくは3000kPa以下である。ただし、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸気圧より低く設定するべきではない。
滞留時間は重合槽の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整することができる。一般的には、30分から5時間の範囲内で設定される。
触媒活性は、温度、圧力、滞留時間などの重合条件により変化するが、30,000gPP/g触媒以上であるのが望ましい。好ましくは、触媒活性が30,000gPP/g触媒以上500,000gPP/g触媒以下の範囲内、更に好ましくは35,000gPP/g触媒以上200,000gPP/g触媒以下の範囲内、最も好ましくは40,000gPP/g触媒以上100,000gPP/g触媒以下の範囲内、である。触媒活性が上記の範囲より低いと、触媒残渣が多くなり中和剤等の添加剤を沢山使用する必要があり経済的でなく好ましくない。触媒活性が上記の範囲より高いと、触媒フィード部の局所的な除熱が難しくなり、塊等の異物ができやすく好ましくない。
【0092】
固体触媒成分やその他の任意成分は、公知の方法を用いて重合槽に供給することができる。固体触媒成分についてはそのまま粉末状で重合槽に供給してもよいが、ヘキサンやミネラルオイル等の不活性溶媒を用いて希釈した上で供給してもよい。
固体触媒成分は非常に活性が高いので、希釈した上で重合槽へ供給する方が好ましい。特に、主としてプロピレン単位からなる重合体成分(a)として、エチレンプロピレンランダム共重合体等を製造する際には極めて活性が高くなり、希釈が不充分だとファウリング等のトラブルを起こす可能性がある。このような場合には、任意成分である有機ケイ素化合物(C)、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、及び、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)からなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種を用いることが有効である。固体触媒成分を重合槽に供給する前にこれらの任意成分を接触させると、ファウリング防止効果が更に高くなり好ましい。この際、両成分の接触方法は任意であるが、固体触媒成分を重合槽へ供給するラインへ任意成分を供給するか、又は、固体触媒成分を不活性溶媒により希釈した所へ任意成分を添加することが好ましい。
【0093】
ランダム共重合体成分(b)を製造する第二重合工程では任意成分として活性抑制剤を用いることができる。活性抑制剤を添加すると、反応器のファウリングを低減することができる。また、面衝撃強度などの品質を向上させる効果も期待できる。反応器に添加することにより、第二重合工程における活性を添加しない場合の活性より低くすることができる限り、活性抑制剤としては任意の化合物を用いることができる。このような活性抑制剤の例として、アルコールやアミンなどの活性水素基を有する化合物、酸素、エーテル、ケトンなどの酸素原子を含む化合物、等を例示することができる。いずれの場合も官能基は1つ以上であってもよい(ポリアルコール、ポリエーテル、ポリケトン、アルコキシ基を有するアルコール、などでもよい)。好ましくは、アルコール、酸素、ケトン、エーテルである。
これらの中で最も好ましいのは、酸素である。酸素を用いる場合、窒素やプロピレン等のその他のガスと混合して希釈して用いてもよい。酸素の添加量は本発明の効果を阻害しない限り任意であるが、固体触媒成分(A)に含まれるTi原子に対する酸素のモル比の値として、1以上1000以下であるのが好ましい。更に好ましくは5以上500以下、最も好ましくは10以上100以下である。酸素の添加量がこの範囲より少ないと、ファウリング抑制効果が低下して好ましくない。酸素の添加量がこの範囲より多いと、活性が低くなりすぎて重合体成分(b)を必要なだけ重合することができなくなり好ましくない。
同一インデックスのポリプロピレン系ブロック共重合体を製造する場合、活性抑制剤をより多く添加する方がファウリング防止や製品品質の観点で望ましい。ランダム共重合体成分(b)を製造する第二重合工程における活性が高い程、より多くの活性抑制剤を添加することができるので好ましい。本願発明の触媒系を用いることにより、第一重合工程と第二重合工程を合わせた全体の活性だけでなく、第二重合工程における活性も一層高めることができるため、活性抑制剤をより多く添加することができる。また、ファウリングを防止するために最低限必要な量の活性抑制剤を添加した場合で比較すると、従来の触媒よりも第二重合工程の活性が高くなり、それ故に、より多量のランダム共重合体成分(b)を製造することができる。すなわち、従来の触媒系と比較して、ランダム共重合体成分(b)の含量が高いポリプロピレン系ブロック共重合体を安定に製造することが可能になる。
活性抑制剤の添加方法としては、本発明の効果を阻害しない限り任意の方法を用いることができる。酸素を用いる場合は、リサイクルガスラインに添加するのが望ましい。
【0094】
[III]ポリプロピレン系ブロック共重合体
本発明方法により得られるポリプロピレン系ブロック共重合体は、製造コストが低く、成形性と品質に優れ、特に高いMFRを有するものである。
また、本発明方法により得られるポリプロピレン系ブロック共重合体は、例えば前記2段気相重合法プロセスによる場合、第一重合工程で製造される主としてプロピレンからなる重合体成分(a)中の冷キシレン可溶分(CXS)等の指標により表される非晶性成分が少ないため、発煙、目やに、型汚れ、樹脂焼けなどの成形トラブルを起こしにくい特徴がある。非晶性成分が少ないことにより成形品の結晶性も高く、剛性に優れている。更に、高い融点も示し、耐熱性にも優れている。以下各重合体成分について詳細に説明する。
【0095】
(i)重合体成分(a)
本発明のブロック共重合体における重合体成分(a)は、MFRが50g/10分以上であるのが好ましく、より好ましくはMFRが50g/10分以上1,000g/10分以下、更に好ましくは60g/10分以上800g/10分以下、最も好ましくは100g/10分以上500g/10分以下である。CXSは、3質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上2.5質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以上2.0質量%以下、最も好ましくは0.3質量%以上1.8質量%以下である。
ここでCXSは、以下の手法で測定された値として定義される。
試料(約5g)を140℃のp−キシレン(300ml)中に一度完全に溶解させる。その後23℃まで冷却し、23℃で12時間ポリマーを析出させる。析出したポリマーを濾別した後、濾液からp−キシレンを蒸発させる。p−キシレンを蒸発させた後に残ったポリマーを100℃で2時間減圧乾燥する。乾燥後のポリマーを秤量し、試料に対する質量%としてCXSの値を得る。
MFRを調整するためには、連鎖移動剤である水素の重合槽における濃度を調整すればよい。水素濃度を高くすれば主としてプロピレンからなる重合体成分(a)のMFRが高くなり、逆も又同様である。本発明の触媒を用いると、比較的水素濃度の低い条件でMFRを高くすることができるだけでなく、高MFRでも立体規則性が高くCXSの低いポリプロピレンを製造することができる特徴がある。本発明で規定した範囲内で更にCXSを下げるためには、任意成分である有機ケイ素化合物(C)、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、及び、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(E)からなる群から選ばれる化合物の少なくとも1種を用いることが有効である。これらの任意成分の使用量が多いほど、CXSの低い主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を得ることができる。
【0096】
ポリプロピレン系ブロック共重合体の剛性を高めるためには、重合体成分(a)はプロピレン単独重合体であるのが望ましい。ただし、ヒンジ特性や成形性等を改良する目的で、少量のコモノマーとの共重合体とすることができる。具体的には、重合体成分(a)はエチレン及び炭素数4から8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーに相応するコモノマー単位を5質量%以下単位の含量で含むことができる。好ましくは、コモノマーはエチレン及び/又は1−ブテンであるのが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα‐オレフィンをコモノマーに用いると、触媒活性が著しく低下して好ましくない。また、重合体成分(a)中のコモノマー単位の含量が5質量%を越えると剛性が著しく低下して好ましくない。
ここで、コモノマー単位の含量は任意の分析手法により求めることができる。具体的な例としては、赤外分光分析法(IR)、核磁気共鳴分析法(NMR)、などを挙げることができる。
【0097】
(ii)重合体成分(b)
本発明のブロック共重合体における重合体成分(b)は、プロピレンと、エチレン及び炭素数4から8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとのランダム共重合体である。好ましくは、コモノマーはエチレン及び/又は1−ブテンであるのが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα‐オレフィンをコモノマーに用いると、触媒活性が著しく低下して好ましくない。重合体成分(b)中のプロピレン単位の含量は20質量%以上80質量%以下である。プロピレン単位の含量がこの範囲を外れると、ランダム共重合体成分(b)が硬くなりすぎてしまうために耐衝撃強度が著しく低下して好ましくない。より好ましくは、プロピレン単位の含量が25質量%以上75質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以上70質量%以下であるのが望ましい。最も好ましくは、プロピレン単位の含量が35質量%以上65質量%以下である。
重合体成分(b)中のプロピレン単位の含量を調節するためには、重合体成分(b)の重合を行う反応器における各モノマーの濃度を変えればよい。重合体成分(b)中のプロピレン単位の含量は重合体成分(a)中のコモノマー単位の含量と同様の手法により分析することができる。
【0098】
重合体成分(b)のMFRは任意の値とすることができるが、好ましくは0.001g/10分以上100g/10分以下、より好ましくは0.01g/10分以上50g/10分以下、更に好ましくは0.1g/10分以上10g/10分以下、最も好ましくは0.5g/10分以上5g/10分以下である。重合体成分(b)のMFRが上記の範囲より高すぎるとブロック共重合体がべたつくようになり好ましくない。重合体成分(b)のMFRが上記の範囲より低すぎると分散が悪くなるためにゲルが増加し、ブロック共重合体を成形した際の外観が著しく悪化して好ましくない。
重合体成分(b)のMFRは重合体成分(a)のMFRと同様の手法により調整することができる。
【0099】
本発明におけるポリプロピレン系ブロック共重合体は、重合体成分(a)と重合体成分(b)を10:90から84:16の質量比で含む。重合体成分(b)の含量が16質量%より少ないと耐衝撃強度が低くなって好ましくない。重合体成分(b)の含量が90質量%より多いと剛性が低くなって好ましくない。好ましくは、重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比が30:70から83:17の質量比の範囲内、更に好ましくは重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比が50:50から82:18の質量比の範囲内、とりわけ好ましくは重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比が60:40から81:19の質量比の範囲内、最も好ましくは重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比が65:35から80:20の質量比の範囲内である。
重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比を調節するためには、重合体成分(a)を製造する第一重合工程と重合体成分(b)を製造する第二重合工程の製造量比を制御すればよい。重合温度や滞留時間を変化させることにより両者の製造量比を制御できることは、当該事業者には良く知られたことである。
重合体成分(a)と重合体成分(b)の質量比は、任意の公知の方法により求めることができる。具体的には、第一重合工程と第二重合工程の生産量の割合から求めることができる。また、重合体成分(a)と重合体成分(b)の結晶性の差を利用して、TREF(昇温溶出分別法)により分析することもできる。
【0100】
ポリプロピレン系ブロック共重合体のMFRは任意の値とすることができるが、好ましくは10g/10分以上1,000g/10分以下、より好ましくはMFRが20g/10分以上500g/10分以下、更により好ましくは25g/10分以上100g/10分以下、特に好ましくは30g/10分以上60g/10分以下である。MFRが低すぎると射出成形性などが劣り、高すぎると衝撃強度などの物性に悪影響を与える。
ポリプロピレン系ブロック共重合体のMFRは、重合体成分(a)のMFR、重合体成分(b)のMFR、重合体成分(a)と重合体成分(b)の量比、の3つの因子により一義的に決まる。従って、ブロック共重合体のMFRはこの3つの因子を調整することにより制御することができる。品質と成形性とのバランスを良くするには、このうち重合体成分(a)のMFRを高くすることによりブロック共重合体のMFRを高くするのが望ましい。
【0101】
なお、本発明により高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造することができるため、本発明におけるポリプロピレン系ブロック共重合体は、CR処理しなくてもよい点で従来法より優れている。従来の製造方法では高MFRのブロック共重合体を高い生産性で製造することが困難であるため、低いMFRのブロック共重合体を(高い生産性で)製造し、この低いMFRのブロック共重合体を造粒工程などにおいて過酸化物などのラジカル発生剤で処理することによりMFRを高くする手法が一般に用いられている。通常この過酸化物などによる処理をCR処理と呼ぶ。このCR処理を行うとブロック共重合体のMFRを高くすることができるが、過酸化物などの分解物が副生するため臭い・色相・味などの点でブロック共重合体の品質が低下する点に問題がある。また、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)が架橋してゲルを生成しやすい点も問題である。故に、CR処理を行うことなく高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造することができる本発明は、従来技術に比して高い優位性を示すものである。
【0102】
また、本発明により得られる共重合体は、優れた粒子性状を示す。
すなわち、この共重合体は、一般的に、ポリマー粒子の粒子性状は、ポリマー嵩密度、粒径分布、粒子外観などにより評価されるところ、本発明により得られる共重合体は、ポリマー嵩密度が、0.35から0.55g/mlの範囲内、好ましくは、0.40から0.50g/mlの範囲内であるので、ポリマー粒子として適度のものである。また、ポリマー粒子の大きさは、任意の値を取ることができるが、平均粒径が、好ましくは1,000から3,000μmの範囲内、特に好ましくは1,100から2,000μmであるのが望ましい。
【0103】
[IV]用途
本発明により得られるポリプロピレン系ブロック共重合体は、任意の用途に用いることができる。中でも、高MFRのポリプロピレン系ブロック共重合体が望ましい分野に対して好適に用いることができる。特に好ましい例としては、射出成形、射出圧縮成形、などの成形分野を挙げることができる。
より具体的な用途としては、雑貨品に代表される一般射出用材料、バンパーやインストルメンタルパネル等に代表される自動車用材料、冷蔵庫や掃除機の筐体等に代表される家電用材料、ヨーグルト容器等に代表される耐衝撃性食品包装材料、カップ麺容器等に代表される耐熱食品包装材料、衛生製品用不織布等に代表される繊維用材料、サポーター等に代表される伸縮性繊維用材料、などに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
(1)MFR:タカラ社製メルトインデクサーを用い、JIS−K6921に基づき、230℃、21.18Nの条件で評価した。
(2)ポリマー嵩密度:パウダー試料の嵩密度をASTM D1895−69に準ずる装置を使用し測定した。
(3)ポリマー平均粒径
パウダー試料の粒径分布をJIS−Z8801に準拠して篩い分け法により測定した。得られた粒径分布において、質量基準で積算50質量%となる粒径を平均粒径とした。
(4)CXS:試料(約5g)を140℃のp−キシレン(300ml)に完全に溶解させた後、23℃まで冷却し、23℃で12時間ポリマーを析出させ、次いで、析出したポリマーを濾別した後、濾液からp−キシレンを蒸発させ、蒸発させた後に残ったポリマーを100℃で2時間減圧乾燥し、乾燥後のポリマーを秤量し、試料に対する質量%としてCXSの値を得た。
(5)エチレン含量の定量:共重合体中の平均エチレン含量については、下記の手順に従って赤外分光光度計を用いて測定した。
(i)サンプルの調製
試料を加熱加圧プレスにより厚さ500μのシートに成形した。プレス条件は、温度190℃、予熱時間2分、加圧圧力50MPa、加圧時間2分とした。
(ii)赤外分光光度計による吸光度の測定
上記成形で得られたシートを用い、以下の条件で吸収量を測定した。
装置:島津FTIR−8300
分解能:4.0cm−1
測定範囲:4,000〜400cm−1
吸光度ピーク面積算出範囲:700〜760cm−1
(iii)エチレン含量の計算
予めNMRでエチレン含量の定量されているサンプルを用いて検量線を作成し、この検量線に基づいてエチレン含量を計算した。
(6)プロピレンエチレンブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量の計算
プロピレン単独重合体成分を製造する第1重合工程と、プロピレンエチレンランダム共重合体成分を製造する第2重合工程の生産量の値から計算して、質量%として値を得た。
(7)プロピレンエチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量の計算
プロピレンエチレンブロック共重合体中のエチレン含量、及び、プロピレンエチレンブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量の値から計算して、値を得た。
(8)プロピレンエチレンランダム共重合体成分のMFRの計算
プロピレン単独重合体のMFR、プロピレンエチレンブロック共重合体のMFR、及び、プロピレンエチレンブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量の値を用いて、下記に示す粘度の混合則に基づき計算した。
100×LN(ブロック共重合体のMFR)
=(プロピレン単独重合体単位の含量)×LN(プロピレン単独重合体のMFR)
+(ランダム共重合体成分単位の含量)×LN(ランダム共重合体のMFR)
(9)Ti含量:試料を精確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた質量を用いて含量を計算した。
(10)ケイ素化合物含量:試料を精確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較することにより、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の質量から、試料に含まれるケイ素化合物単位の含量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた質量を用いて含量を計算した。
【0105】
(実施例1)
(1)固体成分の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)を200g、TiClを1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸ジ−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体成分(A1)のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分(A1)のTi含量は2.7質量%であった。
次に、撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体成分(A1)のスラリーを固体成分(A1)として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分(A1)の濃度が25g/Lとなるように調整した。SiCl50mlを加え、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
その後、精製したn−ヘプタンを導入して液レベルを4Lに調整した。ここに、ジメチルジビニルシランを30ml、(i−Pr)Si(OMe)を30ml、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして80g添加し、40℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、得られたスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分にはTiが1.2質量%、(i−Pr)Si(OMe)が8.8質量%含まれていた。
【0106】
(2)予備重合
上記で得られた固体成分を用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/Lとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(A)を得た。この固体触媒成分(A)は、固体成分1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.0質量%、(i−Pr)Si(OMe)が8.2質量%含まれていた。
【0107】
(3)プロピレンの重合
添付した図1に示したフローシートによって説明する。2台の重合槽を用いる気相重合反応器を用いた。2台の重合器1及び10は、内径D:340mm、長さL:1260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110dmの攪拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。
重合器1内を置換後、500μm以下の重合体粒子を除去したポリプロピレン粉末(平均粒径1500μm)を25kg導入し、上記で得られた固体触媒成分(A)をn−ヘキサンスラリーとして重合器1内に連続的に供給した。固体触媒成分(A)の供給速度は、ポリプロピレンの生産レートが一定の値となるように調節した。またトリエチルアルミニウムの15質量%n−ヘキサン溶液を触媒成分(A)中のTi原子1モルに対し、モル比が100となるように連続的に供給した。また、重合器1内の水素濃度のプロピレン濃度に対するモル比が0.08となるように水素を、重合器1内の圧力が2.2MPa、温度が65℃を保つようにプロピレンモノマーをそれぞれ重合器1内に供給した。重合器1から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管4を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて液化プロピレンと混合ガスに分離した。混合ガスはリサイクルガス配管2を通して重合器1に戻した。また、プロピレン重合体の分子量を調節するための水素ガスも配管2より供給した。反応器系外で凝縮させた液化プロピレンは、フレッシュな原料プロピレンと一緒に原料混合ガス供給配管3から供給した。重合熱は、この配管3から供給する液化プロピレンの気化熱により除去した。
重合器1内で生成したポリプロピレンは、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となるように重合体抜き出し配管5を通して重合器1から連続的に抜き出し、第2重合工程の重合器10に供給した。
重合器10内に、第1重合工程からの重合体、プロピレンガスを連続的に供給し、プロピレンエチレンランダム共重合を行った。反応条件は、温度60℃、圧力2.0MPaとした。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管8を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて液化プロピレンと混合ガスに分離した。混合ガスはリサイクルガス配管7を通して重合器10に戻した。また、エチレンガスと水素ガスも配管7より供給し、重合器10内のエチレン濃度のプロピレン濃度に対するモル比が0.32、水素濃度のエチレン濃度に対するモル比が0.1、となるように調節した。反応器系外で凝縮させた液化プロピレンは、フレッシュな原料プロピレンと一緒に原料混合ガス供給配管6から供給した。重合熱は、この配管6から供給する液化プロピレンの気化熱により除去した。更に、重合器1に供給する固体触媒成分(A)に含まれるTi原子に対して、モル比が30となるように、活性抑制剤として酸素を、配管7に連結させた活性抑制剤添加用配管11より供給した。
第2重合工程で生成したプロピレン系ブロック共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となるように重合体抜き出し配管9を通して重合器10から連続的に抜き出した。抜き出したパウダーは、ガス回収機12でガス類を分離し、パウダー部は回収系に抜き出した。
ポリプロピレン系ブロック共重合体の生産レートは15kg/hr、重合器1内の平均滞留時間は1.6hr、重合器10内の平均滞留時間は1.0hrであった。生産レートを固体触媒成分(A)の供給速度(ただし予備重合ポリマーは除く)で割った値として活性を求めた所、50,000g−PP/g−触媒であった。
重合器1から一部取り出したサンプルを分析した所、MFRは120g/10min、CXSは1.6質量%であった。最終的に得られたポリプロピレン系ブロック共重合体を分析した所、MFRは32g/10minであった。また、ポリプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量は25質量%、プロピレンエチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量は40質量%、プロピレンエチレンランダム共重合体成分のMFRは0.6g/10分、であった。ポリプロピレン粒子はさらさらとしており、ポリマー嵩密度(BD)は0.45g/ml、平均粒径は1,220μmであった。
【0108】
(実施例2〜5)
実施例1の固体触媒成分(A)を用いて、表1に示す重合条件を用いた以外は実施例1と同様にして重合を行った。この際、実施例5については、重合器1内に表中に記載したケイ素化合物を連続的に供給した。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例1)
(1)固体触媒成分の調製
実施例1の固体成分(A1)を用いて、以下の手順により予備重合を行った。撹拌装置を備えた容量20Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、実施例1の固体成分(A1)のスラリーを固体成分(A1)として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分(A1)の濃度が20g/Lとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして10g添加し、280gのプロピレンを4hrかけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30min反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(A)を得た。この固体触媒成分(A)は、固体成分1gあたり2.4gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが2.2質量%含まれていた。
(2)プロピレンの重合
上記の固体触媒成分(A)を用いて、表2に示す重合条件を用いた以外は実施例1と同様にして重合を行った。得られたポリプロピレン粒子は、かなりべたつきがあった。結果を表2に示す。
【0110】
(比較例2及び3)
表2に示す重合条件を用いた以外は比較例1と同様にして重合を行った。結果を表2に示す。
【0111】
(比較例4)
活性抑制剤としての酸素の供給量を、固体触媒成分(A)に含まれるTi原子に対して、モル比で1となるように調節した以外は比較例1と同様にして重合を行った。重合器10におけるファウリングが酷く、安定に運転できなかった。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜5及び比較例1〜3を対照検討すると、本発明では、低い水素濃度でありながら、高MFRのプロピレンエチレンブロック共重合体が得られていることが明白である。触媒活性も高く、得られたポリマー粒子の性状も良好である。更にプロピレン単独重合体の立体規則性も高い。
具体的には、実施例1は比較例1と比較して、低い水素濃度で同一MFRのプロピレンエチレンブロック共重合体を製造することができている。また、触媒活性も高く、プロピレンエチレンランダム共重合体成分の製造の際に添加できる活性抑制剤の量も多い。これに起因して、得られたポリマー粒子の性状は非常に良好であることが分かる。また、プロピレン単独重合体のCXSも低く、立体規則性が高い。
比較例2は実施例1と同様の条件でプロピレン単独重合体を製造しているが、プロピレン単独重合体のMFRが低く、そのため得られたブロック共重合体のMFRが低い点で劣る。比較例3はポリマー粒子の性状を改善するために実施例1と同じ量の活性抑制剤を供給しているが、プロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量が極めて低く好ましくない。比較例4はロピレンエチレンランダム共重合体成分単位の含量を高くするために活性抑制剤の供給量を低くしているが、ポリマー粒子の性状が極端に悪くなりファウリングが激しく安定に運転できない。
これに対し、実施例1〜4に示す通り、種々のプロピレンエチレンランダム共重合体成分の設定に対して、本発明が適用できることは明らかである。
また、実施例5では任意成分として有機ケイ素化合物(C)を用いているが、実施例1と同等の性能が得られている。
従って、実施例は高MFRのプロピレンエチレンブロック共重合体の製造という観点で、生産性、触媒活性、立体規則性、粒子性状、の触媒性能の全般にわたり、比較例に比して優れた結果が得られていると言える。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明を用いて製造されたポリプロピレン系ブロック共重合体は、MFRが高いので、射出成形、射出圧縮成形、などの成形分野に用いることができ、特に、雑貨等の一般射出用材料、バンパーやインストルメンタルパネル等の自動車用材料、冷蔵庫や掃除機の筐体等の家電用材料、ヨーグルト容器等の耐衝撃性食品包装材料、カップ麺容器等の耐熱食品包装材料、衛生製品用不織布等の繊維用材料、サポーター等の伸縮性繊維用材料などに好ましく用いることができる。また、低い水素濃度で高いMFRのポリプロピレン系ブロック共重合体を製造できるので、生産性が高く安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例および比較例で用いたポリプロピレンの製造プロセスを表す概略図である。
【符号の説明】
【0117】
1 重合器(第1重合工程)
2 リサイクルガス配管
3 原料混合ガス供給配管
4 未反応ガス抜き出し配管
5 重合体抜き出し配管
6 原料混合ガス供給配管
7 リサイクルガス配管
8 未反応ガス抜き出し配管
9 重合体抜き出し配管
10 重合器(第2重合工程)
11 活性抑制剤添加用配管
12 ガス回収機
13 バグフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応熱を主として液化プロピレンの気化熱により除去する気相重合法プロセスによって、下記の重合体成分(a)及び重合体成分(b)を10:90〜84:16の質量比で含むポリプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法であって、
チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)と、ビニルシラン化合物(A2)と、アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、及び/又は、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3)とを接触処理してなる固体触媒成分(A)を用いることを特徴とするポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
重合体成分(a):プロピレンの単独重合体、若しくは、プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとのランダム共重合体であって、コモノマー単位の含量が5質量%以下、かつ230℃、21.18Nで測定したMFRが50g/10分以上のもの
重合体成分(b):プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとのランダム共重合体であって、プロピレン単位の含量が20質量%以上80質量%以下であるもの
【請求項2】
気相重合法プロセスが、2段気相重合法プロセスであって、上記固体触媒成分(A)を用い、先ず第1段階で、プロピレンを単独で重合させるか、或いはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させ、次いで第2段階で、プロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα‐オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合させるものであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
ビニルシラン化合物(A2)が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
[CH=CH−]SiX(OR …(1)
(式中、Xはハロゲン、Rは水素又は炭化水素基、Rは水素、炭化水素基又は有機ケイ素基を表し、m≧1、0≦n≦3、0≦j≦3、0≦k≦2、m+n+j+k=4である。)
【請求項4】
アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物(A3a)が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
Si(OR …(2)
(式中、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基、Rは水素、ハロゲン、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれるいずれかの遊離基、Rは炭化水素基を表し、0≦a≦2、1≦b≦3、a+b=3である。)
【請求項5】
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A3b)が、下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
O−C(R−C(R−C(R−OR …(3)
(式中、R及びRは水素、炭化水素基及びヘテロ原子含有炭化水素基からなる群から選ばれるいずれかの遊離基、Rは炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基を表す。)
【請求項6】
重合体成分(b)が、0.5〜5.0g/10分の範囲のMFRを有するランダム共重合体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造法。
【請求項7】
固体触媒成分(A)が予備重合されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項8】
触媒活性が、30,000gPP/g触媒以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項9】
気相重合法プロセスが、攪拌機を有する反応器内で行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項10】
気相重合法プロセスが、内部に水平軸周りに回転する攪拌機を有する横型反応器内で行なわれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項11】
パーオキサイドを用いないことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−321136(P2007−321136A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−156536(P2006−156536)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】