説明

ポリマーゲル製剤

少なくともいくつかの実施形態において、架橋ひまし油成分と分岐ひまし油成分の両方を含有することを特徴とし、ひまし油の代わりにリシノール酸を使用してもよいポリマーゲルを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーゲル製剤に関し、特に、分岐ポリマーと架橋ポリマーの両方を含有することを特徴とするポリマーゲル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糊状または液状の高分子物質をゲルという。
これまで種々の材料を用いてこのようなゲルが形成されており、例えば、ヒドロキシ脂肪酸、アクリル酸ポリマー、セルロース誘導体、キトサンなどを使用したゲルがある。
ひまし油および/またはその構成成分を架橋結合させることによってゲルが形成されることはこれまで報告されている。例えば、米国特許第5387658号には、ひまし油および/またはその誘導体(例えば、リシノール酸)を架橋結合させることにより、例えば潤滑剤、化粧品または食品に用いる液状の増粘剤または乳化剤として有用なゲルが形成されることが記載されている。しかし、この特許は分岐ポリマーと架橋ポリマーとを組み合わせることに関するものではなく、軟組織の修復または増大などの医薬用途についても検討されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
架橋成分と分岐成分とを併用したゲルを形成する組成物であって、生分解性およびインプラントとしての安全性を有し、かつ医薬用途ならびに軟組織の修復および増大に有用である組成物は先行技術に教示も示唆もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、先行技術の限界を乗り越えるために、少なくともいくつかの実施形態において、架橋ポリマーと分岐ポリマーの両方を含有することを特徴とするポリマーゲルを提供する。このポリマーゲルは、ひまし油、リシノール酸および/またはヒドロキシステアリン酸から選択される1以上をベースとして使用して調製されることが好ましい。以下の説明はひまし油が中心となるが、リシノール酸もまた、以下に記載するすべての組成物および方法において任意に使用することができ、本発明に包含されるものと理解される。以下により詳しく記載するが、本発明のポリマーゲルは複数の成分を含み、少なくとも、架橋ひまし油を含む第1の成分と、分岐ひまし油を含む第2の成分とを含む。分岐ひまし油はさらにポリエステルを含んでいてもよく、該ポリエステルは分岐形成したひまし油成分を調製した後に付加されることが好ましい。
【0005】
本発明における架橋材料は架橋剤を含むことが好ましく、該架橋剤は、架橋形成の誘導に適した量の、カルボキシル基またはアルコール基を3つ以上有する任意の酸を含んでいてもよく、該任意の酸として、例えば、クエン酸、ムチン酸、酒石酸およびこれらの組み合わせから選択される1以上の酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、架橋剤はクエン酸および/またはムチン酸を含む。「架橋剤」とは、自体以外の3つの分子それぞれとの間で任意の種類の共有結合の形成を誘導できる任意の分子を意味する。架橋結合は、アルコール基またはカルボン酸基を3つ以上有する分子により形成され、該分子としては、例えばひまし油、ペンタエリスリトール、マンニトール、ブドウ糖およびショ糖などのアルコール基を3つ以上有する糖分子、ムチン酸、酒石酸ならびにニトリロトリ酢酸などが挙げられる。しかし、エステル基の形成には、カルボン酸基を2つ以上有するカルボン酸が必要である。
【0006】
ひまし油を用いる場合、架橋剤は、カルボキシル基を2つ以上有する任意の酸を含んでいてもよく、該任意の酸として、例えば、上述した架橋剤および/またはセバシン酸もしくはコハク酸ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される1以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0007】
ひまし油に対するクエン酸の含有量は、好ましくは少なくとも7%w/w、より好ましくは約7〜20%、最も好ましくは約7.5〜10%w/wである。
【0008】
本発明における分岐ひまし油は分岐剤を含むことが好ましく、該分岐剤は分岐形成の誘導に適した量のクエン酸を含んでいてもよい。クエン酸の含有量は、ひまし油に対して、好ましくは少なくとも0.1%w/w、より好ましくは約0.1〜7%、最も好ましくは約4〜7%である。
【0009】
本発明における分岐ひまし油は、リシノール酸、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシ酸で構成される鎖状のポリエステルを含んでいてもよい。ポリエステルは、好ましくは分岐形成したひまし油を調製した後に付加され、より好ましくはラクトンとの反応により付加されるが、ヒドロキシ酸との直接縮合によって付加されてもよい。ラクトンは、任意の種類のカプロラクトンおよび/またはラクチド、例えばD−ラクチド、L−ラクチド、DL−ラクチド、ε−カプロラクトンまたはこれらの組み合わせなどを含んでもよい。ポリエステルは、例えば触媒として亜鉛ラクチドを用いてラクチドまたはその他の適当なラクトンと反応させるといった開環重合によって付加されてもよく、上述したような直接縮合によって付加されてもよい。
【0010】
架橋成分および分岐成分を調製した後、ポリマーゲルを形成させるために、これらの成分を混合することが好ましい。これらの成分の混合においては、例えば、両方の成分が共に粉末状であってもよく、あるいは一方の成分が粉末状、他方の成分が糊状または液状であってもよい。架橋成分を、好ましくは粉末、より好ましくは粉砕末として調製し、好ましくは液状または糊状に調製した分岐成分と混合する。
【0011】
本発明者は、意外にも、上述したポリマーゲルが多くの有用な特性を有することを見出した。例えば、任意の間隙の容積を満たすことおよび/または任意の軟組織を増大させることを目的として、成形したり、調整したりして使用できるように、本発明のポリマーゲルは、体内に挿置する前に既にゲル状になっていることが好ましい。
【0012】
上述した通り、米国特許第5387658号には、ひまし油を架橋結合させることが記載されているが、使用される架橋剤の量は本発明よりはるかに多い。さらに、この特許においては、ひまし油は部分的にまたは完全に水素化されていることが好ましいと記載されているが、本発明のひまし油は水素化されていないことが好ましい。さらにこの特許では、架橋ひまし油と分岐ひまし油とを組み合わせることについての教示も示唆もないが、この組み合わせは、驚くべきことに、インプラント、医薬用途ならびに軟組織の補充および/または増大に適したゲルの形成に効果的であることが、本発明より明らかになった。さらに、本発明を何ら限定する意図はないが、この組み合わせは、所望の効果を長期間、移植後数年間にもわたって安定して持続させるものであり、生体適合性を有し、移植材の付近の組織に外部(皮膚の上)から触れた際に自然な脂肪の感触を与えるものである。
【0013】
本発明を何ら限定する意図はないが、本発明の少なくともいくつかの実施形態において、本明細書に記載のゲル組成物は、溶媒を添加しない単純な溶融縮合法によって調製してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明について、単なる例示としての添付図面を参照しながら説明する。添付図面の詳細を具体的に参照するに当たって、図中の詳細部分はほんの一例であり、本発明の好ましい実施形態を例示的に説明するために記載しているに過ぎず、本発明の本質および概念的な態様を捉える上で最も有用でありかつ理解しやすいと思われる説明を提供するために提示していることを強調しておく。この点に関して、本発明の構造的な詳細部分を、本発明の基本的な理解に必要な程度を越えて詳細に示すつもりはないが、添付図面および説明から、複数示した本発明の形態をどのように具体化して実施するかは当業者には明らかであろう。
【0015】
【図1】実施例3の第1〜4群の動物における注射部位を示した図である。
【図2】実施例3の第5群の動物における注射部位を示した図である。
【図3】1ヶ月後および3ヶ月後のインプラントの重量(乾燥重量および湿重量)を示した図である。
【図4】皮下移植後のラットの平均体重を示した図である。
【図5】1ヶ月後、3ヶ月後および6ヶ月後のインプラントの重量%を示した図である。
【図6】6ヶ月後の評価時の組織(標本5、9、12、14)の写真である。
【図7】6ヶ月後の評価時の組織(標本5、9、12、14)の写真である。
【図8】6ヶ月後の評価時の組織(標本5、8、13、17)の写真である。
【図9】6ヶ月後の評価時の組織(標本5、8、13、17)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、少なくともいくつかの実施形態において、架橋ポリマーと分岐ポリマーの両方を含有することを特徴とするポリマーゲルを提供する。このポリマーゲルは、ひまし油、リシノール酸および/またはヒドロキシステアリン酸から選択される1以上をベースとして使用し、さらに、カルボン酸基を少なくとも2つ有する三官能性分子を使用して調製されることが好ましい。
【0017】
ひまし油、リシノール酸および/またはヒドロキシステアリン酸から選択される1以上をベースとして使用して調製される2種類のポリマーとして、分岐および架橋の程度が様々に異なる分岐ポリマーと架橋ポリマーを組み合わせて混合し、ゲルを形成することによって、種々の脂肪族ポリマーゲルを作製し、最適化することもできる。
【0018】
少なくともいくつかの実施形態において、ひまし油の代わりに、すべてまたは一部においてリシノール酸またはヒドロキシステアリン酸を使用してもよい。
【0019】
本発明の別の実施形態においては、ひまし油をベースとして使用して調製される2種類のポリマーとして、分岐および架橋の程度が様々に異なる、ひまし油由来の分岐ポリマーとひまし油由来の架橋ポリマーを組み合わせて混合し、ゲルを形成することによって、種々の脂肪族ポリマーゲルを作製し、最適化することもできる。
【0020】
少なくともいくつかの実施形態において、例として分岐ひまし油を含むがこれに限定されない本発明の分岐ポリマーは、リシノール酸、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシ酸で構成される鎖状のポリエステルを、ベースであるひまし油またはリシノール酸に結合した形で含んでいてもよい。
【0021】
本発明を何ら限定する意図はないが、本発明の少なくともいくつかの実施形態において、本明細書に記載のゲル組成物は、溶媒を添加しない単純な溶融縮合法によって調製してもよい。
【0022】
上記の材料および任意の実施形態のそれぞれについて以下により詳しく説明するが、それらは例示的に説明したものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。各見出しは、本発明を明確にするために設けられているものに過ぎず、本発明を何ら限定するものではない。
【0023】
架橋ポリマー
本発明における架橋ポリマーは架橋剤を含むことが好ましく、該架橋剤は、架橋形成の誘導に適した量の、カルボキシル基またはアルコール基を3つ以上有する任意の酸を含んでいてもよく、任意の酸として、例えば、クエン酸、ムチン酸、酒石酸およびこれらの組み合わせから選択される1以上の酸が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、架橋剤はクエン酸および/またはムチン酸を含む。「架橋剤」とは、自体以外の3つの分子それぞれとの間で任意の種類の共有結合の形成を誘導できる任意の分子を意味する。架橋結合は、アルコール基またはカルボン酸基を3つ以上有する分子により形成され、該分子としては、例えばひまし油、ペンタエリスリトール、マンニトール、ブドウ糖およびショ糖などのアルコール基を3つ以上有する糖分子、ムチン酸、酒石酸ならびにニトリロトリ酢酸などが挙げられる。しかし、エステル基の形成には、カルボン酸基を2つ以上有するカルボン酸が必要である。
【0024】
ひまし油を用いる場合、架橋剤は、カルボキシル基を2つ以上有する任意の酸を含んでいてもよく、該任意の酸として、例えば、上述した架橋剤および/またはセバシン酸もしくはコハク酸ならびにこれらの任意の組み合わせから選択される1以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
ひまし油に対するクエン酸の含有量は、好ましくは少なくとも7%w/w、より好ましくは約7〜20%、最も好ましくは約7.5〜10%w/wである。
【0026】
架橋ポリマーの調製は以下のように行ってもよい(ひまし油に関しては単に例示目的で記載したものであり、限定を意図するものではない)。ひまし油および7.5%w/wのクエン酸を磁気撹拌子の入ったフラスコに加える。必須条件ではないが好ましくは、クエン酸の使用量は10%以下である。ただし、クエン酸の割合が高くなるにつれて、架橋ポリマーはより硬くなり、膨張しにくくなるかあるいは全く膨張しなくなる傾向がある。窒素雰囲気下、使用する酸の融点以上の温度(クエン酸の場合130〜155℃)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させる。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、反応液に弾性が生じるまで、真空下で適当な期間、例えば2〜7日反応させる。反応液に弾性が生じると、液内の磁気撹拌子またはその他の撹拌手段は回転が停止するか、あるいは回転速度が低下する。架橋結合が形成されると、反応液は流動性を失うか、あるいは流動性が著しく低下する。
【0027】
次いで、得られた架橋ポリマーを、例えば平型ガラス容器などの適当な容器に移し、真空オーブンに入れる。適切な温度および圧力としては、例えば140℃、5〜25mbarが挙げられるが、これに限定されない。この温度と圧力を適当な期間、例えば数時間維持することが好ましい。
【0028】
分岐ポリマー
本発明における分岐ポリマーは分岐剤を含むことが好ましく、該分岐剤は分岐形成の誘導に適した量のクエン酸を含んでいてもよい。クエン酸の含有量は、ひまし油に対して、好ましくは少なくとも0.1%w/w、より好ましくは約0.1〜7%、最も好ましくは約4〜7%である。
【0029】
少なくともいくつかの実施形態において、例として分岐ひまし油を含むがこれに限定されない本発明の分岐ポリマーは、リシノール酸、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシ酸で構成される鎖状のポリエステルを含んでいてもよい。ポリエステルは、好ましくは分岐形成したポリマーを調製した後に付加され、より好ましくはラクトンとの反応により付加されるが、ヒドロキシ酸との直接縮合によって付加されてもよい。ラクトンは、任意の種類のカプロラクトンおよび/またはラクチド、例えばD−ラクチド、L−ラクチド、DL−ラクチド、ε−カプロラクトンまたはこれらの組み合わせなどを含んでもよい。ポリエステルは、例えば触媒として亜鉛ラクチドを用いてラクチドまたはその他の適当なラクトンと反応させるといった開環重合によって付加されてもよく、直接縮合によって付加されてもよい。
【0030】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐ポリマーおよび該ポリエステル鎖を含有しない分岐ポリマーそれぞれの調製方法の例をこれより説明する。
【0031】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有しない分岐ポリマーの調製は下記の方法で行ってもよい。
【0032】
磁気撹拌子などを用いて撹拌しながら、ひまし油および4〜7%w/wのクエン酸をフラスコに加える。クエン酸の使用量が増えるにつれてポリマーの粘性は高くなる。
【0033】
窒素雰囲気下、使用する酸の融点温度(クエン酸の場合、155℃である。ただし、上述した架橋形成に適した温度範囲を採用してもよい)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させる。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、真空下で適当な期間、例えば3日反応させる。当技術分野で公知の特定の分子量基準物質を用いて、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)などの適当な方法で、この反応をモニターする。反応産物である分岐物質の分子量が一定になったところで反応が完了したと見なし、反応を停止させてもよい。
【0034】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐ポリマーの調製は下記の方法で行ってもよい。
【0035】
分岐ポリマーへのポリエステルの付加は、分岐ポリマー上でのラクトン(カプロラクトンおよび/またはラクチド)の開環重合(ROP)により行ってもよい。開環重合は触媒(Zn−ラクチド)の存在下で起こり、該触媒の添加量は、例えば、ラクトンに対して0.1モル%である。ラクトン、分岐ポリマーおよび触媒を磁気撹拌子の入ったフラスコに加え、アルゴン雰囲気下、140℃で3日間撹拌して反応させる。この反応をGPCでモニターし、分子量が一定になったところで反応が完了したと見なして反応を停止する。カプロラクトンの使用量としては、25〜50%w/wの範囲が挙げられる。
【0036】
ポリマーゲル組成物およびその調製方法
架橋成分および分岐成分を調製した後、ポリマーゲルを形成させるために、これらの成分を混合することが好ましい。これらの成分の混合においては、例えば、両方の成分が共に粉末状であってもよく、あるいは一方の成分が粉末、他方の成分が溶液であってもよい。架橋成分を、好ましくは粉末、より好ましくは粉砕末として調製し、好ましくは液状または糊状に調製した分岐成分と混合する。
【0037】
分岐ポリマーはさらにポリエステルを含んでいてもよく、該ポリエステルは、上記した通り、分岐形成したポリマー成分を調製した後付加されることが好ましい。
【0038】
2つの成分を混合する前に、架橋ポリマー成分を粉砕して、より好ましくは液体窒素中で粉砕して調製し、次いで、例えば10〜20メッシュの篩を用いて篩過する。得られた粉砕末の架橋ポリマー成分を、液体である分岐ポリマーの入ったフラスコに加える。架橋ポリマー成分は全質量の10〜50%であることがより好ましい。窒素雰囲気下、適切な温度でポリマー混合物を撹拌する。より効果的なゲル形成には、選択した温度が2つの成分の膨張および相互浸透を可能にするものであることが好ましい。次いで、得られた混合物が室温に戻るまで、窒素雰囲気下で放冷する。得られたポリマーゲルは、例えば注射用シリンジへの充填により、即時投与可能な状態になる。
【0039】
得られたゲル組成物の粘度は、ヒドロキシ酸モノマーとひまし油との割合およびヒドロキシ酸で構成される鎖の分子量によって異なるが、(低せん断速度において)約10〜10cPの範囲であることが好ましい。ヒドロキシ酸鎖が長いほど、この粘度は高くなる。
【0040】
少なくともいくつかの実施形態において、ゲル組成物を用いた、押出成形、射出成形、圧縮成形、微粒子浸出および溶液流延から選択される1以上の手法による製造方法が提供される。
【0041】
化粧用途および医療用途
少なくともいくつかの実施形態において、本発明は、例として再建法を含むがこれに限定されない化粧用途および医療用途に用いるポリマーベースの化粧用および医療用成形可能ゲル組成物またはゲル様組成物に関する。本発明を何ら限定する意図はないが、このような用途において、本発明の組成物は、侵襲性の外科的処置も全身麻酔も行うことなく、必要とされる形状に合ったオーダーメイドの充填材またはインプラントを生体内原位置(in situ)で形成できるため有利である。
【0042】
以下、「治療」は、病状の発生前に行う前治療、および病状の発生後に行う治療のいずれも包含する。「治療する」は、病状の発生後に対象に治療を施すこと、および発症を阻止することのいずれも包含する。
【0043】
少なくともいくつかの実施形態において、本発明のゲル組成物は、生物医学的用途のために、制御された生物医学的分解性を有することを特徴としてもよい。
【0044】
少なくともいくつかの実施形態において、本発明のゲル組成物は、例えば粘度、機械強度、弾性および/または生分解速度などの(これらに限定されない)ゲルの物理的性質を最適化することにより、組織工学および薬物送達を利用した治療の一部として使用してもよい。
【0045】
少なくともいくつかの実施形態において、化学、食品、化粧品または医薬品の各産業で安定化剤または増粘剤として使用されるゲル組成物が提供される。
【0046】
ある実施形態において、本発明は、顔面の審美的な用途のための組成物およびその使用方法を提供する。顔面の審美的な用途としては、例えば、ほうれい線を伸ばす(埋める)、頬骨を高くする、口唇を厚くする、オトガイ唇溝を伸ばす(埋める)、あごを補強するおよび/または鼻梁を高くするという用途のうち1以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
ある実施形態において、本発明は、女性の尿失禁を治療するための尿道膨張性薬剤としての組成物を提供する。
【0048】
ある実施形態において、本発明は、例えば関節内注射(これに限定されない)に用いる、弾性、粘度および安定性が独自の組み合わせとなっている注射可能なホモポリマーのための組成物を提供する。
【0049】
本発明のゲル組成物は、治療にも予防にも使用することが可能であり、対象、好ましくはヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ブタ、ウシおよびヒツジなどの哺乳動物における、種々の医薬用途、インプラントならびに軟組織の修復手術および増大手術に使用することができる。例えば、本発明のゲル組成物は、顔面の組織修復または組織増大に使用することができる。顔面の組織修復または組織増大の例として、瘢痕を隠すこと、陥凹部を埋めること、凹凸を平らにすること、顔面片側萎縮、第2鰓弓症候群および顔面リポジストロフィーによる非対称を補正すること、加齢によるしわを隠すこと、ならびに顔面突起(口唇、眉毛など)を大きくすることなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに本発明のゲル組成物は、腹圧性尿失禁の治療などを目的とした、括約筋機能の回復または改善に使用することができる。本発明のゲル組成物の他の用途として、尿管下注射による膀胱尿管逆流症(小児における尿管口の機能異常)の治療、およびヒトの体内で用いる汎用充填材としての用途も挙げられる。
【0050】
本発明のゲル組成物の外科的用途としては、例えば、顔面の輪郭矯正術(例えば、眉間のしわ、にきび瘢痕、頬の凹み、口唇周辺の縦しわ、マリオネットライン(口角にできるしわ)、額のしわ、目尻のしわ、ほうれい線(深い笑いじわ)、笑いじわ、顔面の瘢痕、口唇など);尿道に沿って尿道膀胱接合部またはその周辺部から外括約筋までの尿道粘膜下への注射を含む尿道周囲への注射;尿の逆流防止を目的とした尿管への注射;逆流防止のための組織膨張を目的とした消化管組織への注射;内括約筋または外括約筋の収縮の補助、および弛緩した管腔の収縮の補助;硝子体液の補充または網膜剥離における眼内圧の保持を目的とした眼内への注射;逆流または感染拡大を防止するための排出口の一時的な閉塞を目的とした、解剖学上の管とされる部位への注射;手術後または萎縮した後の喉頭再建;ならびに化粧的または治療的効果を目的としたその他の軟組織の増大などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
別の用途の例として、変形性関節症を制御するための関節注射に関するものが挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
最終的に投与される組成物中の上記ゲルの濃度は、適応症、患者の身長、体重および/または年齢、ならびに当該材料が所定の位置に留置されるべき期間に基づいて、主治医が容易に決定できるものである。本発明の組成物中のポリマーの濃度としては、約20〜100重量%の範囲が挙げられる。
【0053】
少なくともいくつかの実施形態において、本発明のゲル組成物は、縫合糸および吸収性インプラントに使用してもよく、さらに薬物のカプセル充填および薬物送達のための用途(後者については以下により詳しく記載する)に使用してもよい。
【0054】
本発明のゲル組成物は、医療用具に使用したり、薬物放出制御の用途に使用する(これも以下により詳しく記載する)ことを目的として、(生体適合性のポリマー、架橋剤および分岐剤の使用により)生体適合性を有しているが、それ以外にも、生体用材料として加工可能であること、滅菌可能であること、および生物学的な条件に応じて安定性または分解性を制御できることといった基準を満たすことが好ましい。
【0055】
薬物送達組成物
少なくともいくつかの実施形態において、本発明は、生分解性ポリマーと生理活性物質とを含有する薬物送達製剤、およびその製造方法に関する。本発明のポリマーゲル組成物は、医療用具および薬物送達用具の作製、またはこれら以外の医療用具のコーティングに使用してもよい。さらに本発明の薬物送達組成物は、上述した治療用途、化粧用途、および治療・化粧用途のいずれにも応用することが可能である。
【0056】
少なくともいくつかの実施形態において、本明細書に記載のゲルは、1種以上の治療薬、予防薬、診断薬またはこれらの組み合わせをさらに含有してもよい。適切な活性物質の種類としては、例えば、抗炎症薬;局所麻酔薬;鎮痛薬;抗生物質;抗がん薬;塞いだ間隙内の組織の増殖を誘導および/もしくは促進する、またはある種のコラーゲンなど特定の種類の組織の増殖を制御する成長因子ならびに成長促進薬;ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
局所麻酔薬の例としては、リドカインおよびブピバカインなどが挙げられるが、これらに限定されない。抗炎症薬の例としては、トリアムシノロン、デキサメサゾン、イブプロフェンおよびインドメタシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。抗生物質の例としては、ゲンタマイシンおよびトブラマイシンなどが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のゲル組成物中の上記活性物質の濃度は、一般には約0.1〜50重量%、好ましくは約0.1〜20重量%、最も好ましくは約1〜20重量%である。
【0058】
本発明の組成物への1種以上の治療薬の配合方法として、本発明の少なくともいくつかの実施形態においては、溶媒を使用せず、薬物、好ましくは微粉末形状の薬物と本発明のポリマー物質とを研和により混合する方法が挙げられる。この方法においては、まず、粒径の小さい、好ましくは約0.1〜20ミクロンの薬物の乾燥粉末を同量のゲル組成物と混合し、次いで得られた混合物を同量のゲル組成物と混合することを同様に繰り返して、均一な組成物を得る。
【0059】
あるいは、本発明の少なくともいくつかの別の実施形態においては、架橋形成したゲルを、分岐ポリマーと混合する前に薬物の濃縮溶液に浸漬してもよい。薬物を吸収させた後、粒子を分離して、連続的に分岐状または直鎖状ポリマーと混合することが好ましく、これにより薬物が封入された注射可能なゲルが得られる。以下の1つの仮説に限定されるものではないが、この調製法では、薬物放出量が少なく、放出速度の遅い組成物を得ることが可能である。これは薬物の放出が粒子封入の影響を受けるためである。
【0060】
本発明の少なくともいくつかの実施形態において、上記薬物は、局所的な薬物治療として腫瘍内に注射することが可能なパクリタキセルおよびシスプラチンなどの1種以上の抗がん薬を含む。同様に、ブピバカインを上記のゲルに封入して得られた組成物を、薬物送達を局所制御するための、即時使用可能なシリンジ入り製剤としてもよい。さらに、使用前にゲンタマイシンをポリマーペーストと混合して、感染症治療のための抗生剤を調製してもよい。全身に送達されることが好ましいタンパク性薬物も、ポリマーペーストに封入して体内に注射することにより、徐放性を実現させてもよい。
【0061】
本発明のゲル組成物には、使用性能の追跡および漏出の可能性の即時検知を目的として放射線不透物質を含有させることもできる。放射線不透物質は有機物質でも無機物質でもよく、例えば硫酸バリウム(BaSO)および酸化ジルコニウム(ZrO)などが挙げられる。
【0062】
別の好ましい実施形態において、本発明の生体用材料に、約250〜600μm、好ましくは500μmの平均直径を有する放射線不透過性粒子が配合される。好ましい放射線不透過性粒子材料は金またはチタンである。
【0063】
本発明のゲル組成物は、1種以上の薬学的に許容される添加剤または賦形剤をさらに含有してもよい。添加剤は、本発明のポリマー組成物の1以上の物理的および/または機械的性質を変化させるか、該性質に影響を与える可能性のあるものである。例えば、本発明のポリマー組成物は、組織充填および持続期間を良好に制御できるように、生分解性ポリマー、セラミックス、吸収可能な無機物もしくはこれらの組み合わせを用いて調製されるまたはそれらを含むナノ粒子および微粒子を含有してもよい。
【0064】
本発明のゲル組成物中の上記添加剤および上記賦形剤の濃度は、一般には約0.01〜60重量%、好ましくは約0.1〜30重量%、より好ましくは約0.1〜10重量%である。
【0065】
ポリマーゲルの投与方法
本発明の種々の実施形態に記載のポリマーゲルは、当技術分野において周知の多様な方法で対象に投与することができる。以下、「対象」とは、ゲルが投与されたヒトまたはそれよりも下等な動物を表す。投与は注射または挿入により行われることが好ましい。注射は針とシリンジを使って行ってもよく、挿入はカテーテルを使って行ってもよい。
【0066】
本明細書において「針」とは、組織の修復および/または増大を目的として、本発明のゲル組成物を投与、送達、注射などにより対象の体内へ導入するのに使用することができる用具を表す。従って、本明細書の定義における「針」には、針およびあらゆる針状の用具が含まれ、これら以外にも、細管類などのあらゆる環状の導入用具が包含される。具体的には、臨床上、外科上、医療上、手術上、医療上の目的で使用される針、皮下注射針、縫合針、点滴針、カテーテル、套管針、カニューレ、チューブおよび細管類などが挙げられる。本発明の一実施形態において、本発明のゲル組成物は、例えばシリンジを用いて、注射により投与される。体の深部へ移植する場合は、シリンジをその出口のサイズに合ったチューブまたはカテーテルに接続し、これを用いて本発明の液状ポリマーを体内の標的部位に投与してもよい。本発明のゲル組成物の注射を良好に制御するために、自動注射器を使用してもよい。
【0067】
別の投与方法として、医療用具と組み合わせた方法も挙げられる。本発明の少なくともいくつかの実施形態において、本発明のゲル組成物は、医療用具のコーティングに使用されるか、移植用の医療用具および/または骨充填材と共に使用される。このような投与方法は、骨癒合の促進、止血の制御、疼痛の制御、感染症を予防する抗菌因子の提供、および/または抗腫瘍因子の提供を目的とする場合に採用することができるが、目的はこれらに限定されない。
【0068】
分解性用途および非分解性用途
少なくともいくつかの実施形態において、本発明のゲル組成物は、環境分解型および/または生分解型の組成物として提供され、このような組成物の分解速度は、極めて遅い速度に制御されていてもよい。このような材料の用途として、生物医学的用途、医薬用途、農業用途および包装用途などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
さらなる用途として、食器、カトラリー、ポット、ボウル、ストロー、有機性廃棄物用ゴミ袋といった包装および配膳などに使用する使い捨て製品用のバイオプラスチックが挙げられ、このような製品は食品や植物性廃棄物と共に堆肥にすることができる。果物、野菜、卵および肉用のトレーおよび容器、ソフトドリンクおよび乳製品用のボトル、ならびに果物および野菜用のブリスターホイルなどの一部はバイオプラスチックで作られている。
【0070】
使い捨てではない用途においては、環境分解速度が遅いことが好ましく、このような用途の例として、携帯電話ケーシング、カーペット繊維、ならびに車内装飾品、燃料パイプおよびプラスチックパイプなどの用途が挙げられるが、これらに限定されず、さらに電流の伝導に使用することができる新たな電気活性バイオプラスチックが現在開発中である。これらの分野における最終目標は、生分解性を達成することではなく、持続可能な資源から製品を作ることである。
【0071】
少なくともいくつかの実施形態において、圧力コントロールセンサーと共に使用するためのゲル組成物ならびに/または生分解性センサーおよび生物学的センサー用のゲル組成物が提供される。
【実施例】
【0072】
下記の例示的な実施例の参照により、本発明をより容易に理解できるであろう。
下記の具体的な実施例は、本発明の種々の態様を説明するものであるが、本発明を何ら限定するものではない。
【0073】
<実施例1>
以下の実施例は、架橋ひまし油および分岐ひまし油(いずれもクエン酸を用いて調製される)を含有する組成物に関するが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
架橋ポリマーの合成
92.5gのひまし油および7.5gのクエン酸を、密閉栓、ガスパージ用の吸気アダプターと排気アダプター、および磁気撹拌子を備える丸底フラスコに加えた。窒素気流下、反応液を磁気撹拌子で撹拌しながら155℃まで加熱し、透明で均一な溶融液になるまで撹拌を続けた。次いで、得られたプレポリマーを真空下(8mbar以下)、155℃で反応させ、反応溶融液に弾性が生じて磁気撹拌子の回転が止まるゲル化点に達するまで後重合反応を行った。次いで、得られた架橋ポリマーを平型ガラス容器に移し、140℃、25mbarの真空オーブンに2日間入れてポリマーを硬化させた。
【0075】
分岐ポリマーの合成
93.5gのひまし油および6.5gのクエン酸を、密閉栓、ガスパージ用の吸気アダプターと排気アダプター、および磁気撹拌子を備える丸底フラスコに加えた。窒素気流下、反応液を磁気撹拌子で撹拌しながら155℃まで加熱し、透明で均一な溶融液になるまで撹拌を続けた。次いで、得られたプレポリマーを真空下(8mbar以下)、155℃で反応させ、3日間後重合反応を行った。反応の進行具合はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)でモニターし、分子量が一定となったところで反応を停止した。
【0076】
製剤の調製
下記のように、調製した分岐ポリマーおよび架橋ポリマーを混合して組成物を調製した。
架橋ポリマーを液体窒素中で粉砕し、凍結したまま10〜20メッシュの篩で篩過した。得られた架橋ポリマー粒子と上記分岐ポリマーとを33:67(重量比)の比率で丸底フラスコに加え、窒素雰囲気下、120℃で2時間撹拌しながら混合した。次いで、加熱装置を取り外し、得られたゲルが室温になるまで、窒素雰囲気下で放冷した。最後に、調製したゲル製剤を広口瓶に無菌条件下で充填し、遮光性の密閉容器内に保存した。
【0077】
<実施例2>
この実施例はポリエステルを含有することを特徴とする組成物の調製に関する。
【0078】
架橋ポリマーの合成
ひまし油および7.5%w/wのクエン酸を磁気撹拌子の入ったフラスコに加え、窒素雰囲気下、使用する酸の融点以上の温度(この実施例では155℃とした)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させた。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、反応液に弾性が生じるまで真空下で3日間反応させた。次いで、得られた架橋ポリマーを平型ガラス容器に移し、140℃、25mbarの真空オーブンに入れて2日間静置した。
【0079】
分岐ポリマーの合成
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態における好ましい分岐成分の一例、およびその調製方法の一例について記載する。以下の記載は、ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐成分、および該ポリエステル鎖を含有しない分岐成分に関する。
【0080】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有しない分岐ポリマー
磁気撹拌子で撹拌しながら、ひまし油および6.5%w/wのクエン酸をフラスコに加え、窒素雰囲気下、使用する酸の融点温度(クエン酸の場合、155℃である)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させた。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、真空下で3日間反応させた。この反応を特定の分子量基準物質を用いてGPCでモニターし、反応産物である分岐物質の分子量が一定になったところで反応が完了したと見なして反応を停止した。
【0081】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐ポリマー
得られた分岐ポリマーへのポリエステルの付加は、分岐ポリマー上でのカプロラクトンの開環重合(ROP)により行った。開環重合は、カプロラクトン1モル当たり0.1モル%の触媒(Zn−ラクチド)の存在下で行った。分岐ポリマーの重量に対して、40%w/wのカプロラクトンを使用した。カプロラクトン、調製した分岐ポリマーおよび触媒を磁気撹拌子の入ったフラスコに加え、アルゴン雰囲気下、140℃で3日間撹拌して反応させた。この反応をGPCでモニターし、分子量が一定になったところで反応が完了したと見なして反応を停止した。
【0082】
混合物の調製
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態における好ましい混合物の一例、およびその調製方法の一例について記載する。
【0083】
この実施例のポリマーゲルは、先に調製した架橋ポリマーと先に調製した分岐ポリマーとの混合物を含み、該分岐ポリマーはポリエステル鎖を含有することを特徴とするものであった。
架橋ポリマー成分を液体窒素中で粉砕して調製し、次いで、15メッシュの篩を用いて篩過した。得られた粉砕末の架橋ポリマー成分を、液体である分岐ポリマーの入ったフラスコに加えた。架橋ポリマー成分は全質量の33%であった。窒素雰囲気下、120℃でポリマー混合物を2時間撹拌した。次いで、得られた混合物が室温に戻るまで、窒素雰囲気下で放冷した。得られたポリマーゲルは、例えば注射用シリンジへの充填により、即時投与可能な状態にした。
【0084】
<実施例3>
ゲルの生体内試験
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態に記載の組成物を用いた試験について記載する。この組成物は本明細書に記載の用途においてはゲル状であることが好ましいため、ここでは「ゲル」と記載する。以下の試験において、上記組成物の持続性(すなわち特定の組織部位における安定性および保持性)ならびに生体組織適合性を評価した。
【0085】
方法
動物:30匹の純系Sprague−Dawley(SD)雌性ラット(Harlan Laboratories社、Ein Kerem飼育場、エルサレム)を使用した。試験開始時点での年齢/体重は200〜240gであった。これらのラットは健康で、妊娠中・授乳中のいずれでもなかった。
試験開始前に4〜5日間の馴化期間を設けた。飼育は、無菌環境のもと、標準的な12時間ごとの明暗サイクルの条件下で行った。食餌(げっ歯類用固形飼料)および水は自由摂取とした。
本発明の組成物の投与にあたっては、まず85%ケタミン塩酸塩(Ketaset(登録商標)、100mg/mL、フォートドッジ)/15%キシラジン塩酸塩(20mg/mL、Biob、フランス)で麻酔を行い、次いで、当該組成物を120μL/100g体重で腹腔内投与した。
実験終了時に、ペントバルビタールナトリウム200mg/mL(ペンタール、CTS社、イスラエル)を用いてラットを安楽死させた。
下表は本発明による試験組成物を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
DF−1は例示的な対照組成物であり、分岐物質のみを含む。この組成物に関する表の簡略的な記載は下記の通りである。この組成物は、ひまし油を93.5%、クエン酸を6.5%の割合(重量比)で使用して得られた、クエン酸で分岐させたひまし油を含有し、該ひまし油にヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖が付加されていることを特徴とする。実施例2に記載の通りに、分岐材料を60%、カプロラクトンを40%の割合で使用して、分岐材料をカプロラクトンと反応させた。以下により詳しく記載するが、この分岐物質のみでは体内に保持されず、よって本明細書に記載の用途の種々の例示的な実施形態において効果的でないことが分かった。一方、効果を示した本発明の種々の実施形態に記載の組成物は、架橋材料と分岐材料とが混合されていることを特徴とするものであった。
【0088】
DF−2は本発明の少なくともいくつかの実施形態における例示的な組成物である。この組成物に関する表の簡略的な記載は下記の通りである。この組成物は、ひまし油を92.5%、クエン酸を7.5%の割合(重量比)で使用して得られた、クエン酸で架橋したひまし油と、ひまし油を93.5%、クエン酸を6.5%の割合(重量比)で使用して得られた、クエン酸で分岐させたひまし油との混合物を含有し、該混合物における分岐材料と架橋材料との割合が2:1であることを特徴とする。この組成物を実施例1の記載の通りに調製した。
【0089】
DF−3は本発明の少なくともいくつかの実施形態における例示的な組成物である。この組成物に関する表の簡略的な記載は下記の通りである。この組成物は、DF−1で記載されたヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐ひまし油、およびDF−2で記載された架橋ひまし油を含有し、この分岐材料と架橋材料との割合が2:1であることを特徴とする。この組成物を実施例2の「混合物の調製」の記載の通りに調製した。
【0090】
マクロレーン(登録商標)VRF(本明細書において「マクロレーン」と表記する。製造元:Q−Med社、スウェーデン)は、安定化ヒアルロン酸を含有することを特徴とする軟組織増量材であり、ヨーロッパにおいてヒトでの使用が承認されている。これを対照標準として使用した。
【0091】
実験プロトコール
動物
動物:30匹の純系Sprague−Dawley(SD)雌性ラット(Harlan Laboratories社、Ein Kerem飼育場、エルサレム)を使用した。試験開始時点での年齢/体重は200〜240gであった。これらのラットは健康で、妊娠中・授乳中のいずれでもなかった。
試験開始前に4〜5日間の馴化期間を設けた。飼育は、無菌環境のもと、標準的な12時間ごとの明暗サイクルの条件下で行った。食餌(げっ歯類用固形飼料)および水は自由摂取とした。
本発明の組成物の投与にあたっては、まず85%ケタミン塩酸塩(Ketaset(登録商標)、100mg/mL、フォートドッジ)/15%キシラジン塩酸塩(20mg/mL、Biob、フランス)で麻酔を行い、次いで、当該組成物を120μL/100g体重で腹腔内投与した。
実験終了時に、ペントバルビタールナトリウム200mg/mL(ペンタール、CTS社、イスラエル)を用いてラットを安楽死させた。
ラットは無作為に5群に分けた。各群について下記の2つの表および添付の図面に記載した。
実験群1〜4の説明を表2および図1に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
実験群1〜4のラットに、それぞれ各群の試験材を0.4mlずつ2箇所に注射した(図1は、第1〜4群の注射部位を示す)。
第5群:各ラットに、3つの異なる組成物(DF)を図の通りに注射した。
【0094】
【表3】

【0095】
実験群5のラットに、それぞれDF2〜4を0.4mlずつ3箇所に注射した(図2を参照のこと)。
【0096】
結果
インプラントの持続性分析はインプラントの巨視的評価を含むものであった。インプラントを組織から慎重に分離してその湿重量を測定した後、2日間凍結乾燥させて乾燥重量を測定した。
【0097】
DF−1は1ヶ月後の時点で保持されていなかった。これは、1ヶ月後に分析した3匹のラットにおいて注射した試験材はほぼ跡形もない状態であったことを意味する。この試験材を用いた実験はここで終了し、移植部位の病理組織評価は行わなかった。
【0098】
1ヶ月後および3ヶ月後のインプラント重量(乾燥重量および湿重量)を図3に示す。この結果から、本発明による試験組成物は、先行技術の標準的な組成物より持続性が高く、重量の減少も小さいことが示された。
【0099】
従って、分岐物質のみを含有することを特徴とするDF−1は体内に保持されず、よって本明細書に記載の用途の種々の例示的な実施形態においてDF−1は効果的でないことが分かった。一方、効果を示した本発明の種々の実施形態に記載の組成物は、本発明の種々の実施形態に記載の種々の例示的な組成物において記載されているように、架橋材料と分岐材料とが混合されていることを特徴とするものであった。
【0100】
重量減少
この実験は、特に、生体適合性および注射適性を評価し、巨視的なインプラント持続性を推定するために設計されたものである。重量の分析により、DF−2およびDF−3は、移植後1ヶ月と3ヶ月の測定ポイントの間で重量(乾燥重量および湿重量)が約10%減少していることが示された。マクロレーンは、同期間に重量が約18%減少した。最初の注射量が同じであったにもかかわらず、1ヶ月および3ヶ月の時点のいずれにおいてもマクロレーンの重量は他よりも重かったが、これはおそらく、マクロレーンの密度が本発明の少なくともいくつかの実施形態に記載の当該試験組成物よりも高かったことに原因があると考えられる。
これらの結果は、表4に示す持続性実験から得られる初期データと十分に相関している。
【0101】
【表4】

インプラント残存量は、初めに移植した量に対する重量%(%w/w)で示す。
【0102】
臨床観察
いずれの動物も3ヶ月の実験期間中生存しており、体重増加量も対照群(マクロレーン)と同様であった(図4)。全身毒性の兆候は認められなかった。具体的には、ストレスの兆候を含む神経障害や行動変化は一切認められなかった。体腔および臓器の巨視的観察においても、使用したポリマーに関連した病変や異常は一切見られなかった。
【0103】
病理組織評価
検査目的
この検査では、移植後の局所的な組織反応を評価し、局所性反応の程度を異なるインプラント試験材間で比較した。
【0104】
臓器/組織の回収および固定
組織はそれぞれの予定の剖検時間内に回収し、10%中性緩衝ホルマリン(約4%のホルムアルデヒド溶液)で少なくとも48時間固定した後、Patho−lab社(イスラエル)に送付した。
【0105】
スライド作製および病理組織検査
スライド作製はPatho−lab社で行った。組織はトリミングしてパラフィンに包埋し、約5ミクロンの厚さの切片にしてヘマトキシリン&エオジン(H&E)で染色した。組織学的評価は、毒性病理学の専門家であるAbraham Nyska博士(獣医師(DVM)、欧州獣医病理学専門家協会認定医(Dipl.ECVP))が行った。
【0106】
病理組織学的な変化を下記の評価システムに基づいて評価した。
【0107】
【表5】

【0108】
忍容性の評価基準は以下の通りである。
−炎症細胞の浸潤が高度である場合(すなわち広範囲に集積している−グレード4)、忍容性は低いと評価した。
−炎症細胞の浸潤が中等度である場合(すなわち多数の細胞が密に浸潤している−グレード3)、忍容性は中程度と評価した。
−炎症細胞の浸潤が軽度である場合(グレード2)、忍容性は良好と評価した。
−炎症細胞の浸潤が軽微である場合(グレード1)、忍容性は優良と評価した。
【0109】
病理組織学的所見および評価
DF−2:間隙の周囲に被膜形成が見られるが、いずれの切片にも試験組成物の存在を示すものは確認されなかった。組織球およびリンパ球による軽度の反応が確認され、初期(1日目)の炎症反応は1ヶ月ではごく一部しか治まらなかった。移植後1ヶ月までの忍容性は良好であると考えられる。移植後3ヶ月間で、皮下移植に対する反応として、間隙の周囲に高度に成熟した線維性被膜が形成されていた。進行中の炎症反応が確認され、この炎症反応では、単核細胞の軽微〜軽度の浸潤(グレード1〜2)および多核巨細胞の軽微な浸潤(グレード1)と共に、グレード1〜2のマクロファージおよびグレード1〜2の多核白血球が見られた。
【0110】
DF−3:間隙の周囲に被膜形成が見られるが、いずれの切片にも充填材の存在を示すものは確認されなかった。組織球による軽度の反応および多核巨細胞による軽微な反応が確認され、初期(1日目)の炎症反応は1ヶ月ではごく一部しか治まらなかった。単核球(リンパ球)による反応は経時的な増強(グレード1〜2)が見られた。移植後1ヶ月までの忍容性は良好であると考えられる。移植後3ヶ月間で、皮下移植に対する反応として、間隙の周囲に高度に成熟した線維性被膜が形成されていた。進行中の炎症反応が確認され、この炎症反応では、単核細胞の軽微〜軽度の浸潤(グレード1〜2)ならびに多核巨細胞および好酸球の軽微な浸潤(グレード1)と共に、グレード1〜2のマクロファージが見られた。
【0111】
DF−4(マクロレーン):移植材に対するラットの反応に関しては、この物質は上記試験材と同様の結果を示した。間隙の周囲に充填材を含む被膜形成が見られた(充填材はすべての切片で確認された)。多核巨細胞による反応は確認されず、初期(1日目)の炎症反応は1ヶ月で完全に治まっていた。移植後1ヶ月までの忍容性は優良と考えられる。移植後3ヶ月間で、皮下移植に対する反応として、間隙の周囲に高度に成熟した線維性被膜が形成されていた。進行中の炎症反応は確認されなかった。多核巨細胞による反応は認められなかった。
【0112】
<実施例4>
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態における好ましいゲルの一例、およびその調製方法の一例について記載する。これらのパラメーターに従って調製した試験材の具体例を以下により詳しく記載する。
【0113】
一般的な材料および合成
架橋ポリマーの合成
90〜92.5%のひまし油および7.5〜10%w/wのクエン酸を磁気撹拌子の入ったフラスコに加え、窒素雰囲気下、使用する酸の融点以上の温度(130〜155℃)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させる。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、反応液に弾性が生じるまで真空下で1〜10日間反応させる。次いで、得られた架橋ポリマーを平型ガラス容器に移し、120〜160℃、5〜30mbarの真空オーブンに入れて1〜4日間静置する。
【0114】
分岐ポリマーの合成
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態における好ましい分岐成分の一例、およびその調製方法の一例について記載する。以下の記載は、ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐成分、および該ポリエステル鎖を含有しない分岐成分に関する。
【0115】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有しない分岐ポリマー
磁気撹拌子で撹拌しながら、93〜96%w/wのひまし油および4〜7%w/wのクエン酸またはセバシン酸をフラスコに加える。窒素雰囲気下、使用する酸の融点温度(クエン酸の場合155℃、セバシン酸の場合180℃である)で、均一な溶液になるまで撹拌して反応させる。固体であった酸が融解したところで窒素を除去して、真空下で1〜5日間反応させる。この反応を特定の分子量基準物質を用いてGPCでモニターし、反応産物である分岐物質の分子量が一定になったところで反応が完了したと見なして反応を停止する。
【0116】
ヒドロキシ酸で構成されるポリエステル鎖を含有する分岐ポリマー
得られた分岐ポリマーへのポリエステルの付加は、分岐ポリマー上でのカプロラクトンまたはラクチドの開環重合(ROP)により行う。開環重合は、カプロラクトンまたはラクチド1モル当たり0.1モル%の触媒(Zn−ラクチド)の存在下で起こる。分岐ポリマーの重量に対して、40%w/wのカプロラクトンを使用する。カプロラクトンまたはラクチド、調製した分岐ポリマーおよび触媒を磁気撹拌子の入ったフラスコに加え、アルゴン雰囲気下、140℃で2〜4日間撹拌して反応させる。この反応をGPCでモニターし、分子量が一定になったところで反応が完了したと見なして反応を停止する。
【0117】
混合物の調製
この実施例では、本発明の少なくともいくつかの実施形態における好ましい混合物の一例、およびその調製方法の一例について記載する。
この実施例のポリマーゲルは、先に調製した架橋ポリマーと先に調製した分岐ポリマーとの混合物を含み、該分岐ポリマー成分は、ポリエステルを含有することを特徴とするものであっても、該ポリエステルを含有しないことを特徴とするものであってもよい。
架橋ポリマー成分を液体窒素中で粉砕して調製し、次いで、10〜20メッシュの篩を用いて篩過する。得られた粉砕末の架橋ポリマー成分を、液体である分岐ポリマーの入ったフラスコに加える。架橋ポリマー成分は全質量の10〜50%w/wである。窒素雰囲気下、100〜150℃ 120℃でポリマー混合物を1〜10時間撹拌する。次いで、得られたゲルが室温に戻るまで、窒素雰囲気下で放冷する。このようにして、即時使用可能な状態のポリマーゲルが得られる。
得られたゲルの粘度は、ヒドロキシ酸モノマーとひまし油との割合およびヒドロキシ酸で構成される鎖の分子量によって異なるが、(低せん断速度において)約10〜10cPの範囲であることが好ましい。ヒドロキシ酸鎖が長いほど、この粘度は高くなる。
【0118】
試験材の具体例
上記の方法と同様にして、下記の試験材を合成した。使用した試験材を以下に示す。
【0119】
【表6】

【0120】
【表7】

【0121】
【表8】

【0122】
<実施例5>
この実施例では、実施例4の組成物MY044およびMY045を用いた試験について記載する。この試験では、実施例3に詳述した方法と同様にして、移植後6ヶ月の時点での上記組成物の持続性(すなわち特定の組織部位における安定性および保持性)ならびに生体組織適合性を評価した。持続性に関する試験結果を表9および図5にまとめて示す。
【0123】
【表9】

【0124】
病理組織学的所見および評価
個々の所見は下表に示す通りである。各群の標本を撮影した。
【0125】
【表10】

【0126】
MY044:
6ヶ月後の評価(標本5、9、12、14)
皮下移植に対する反応として、間隙の周囲に高度に成熟した線維性被膜が形成されていた。単核リンパ球の浸潤は全く見られないか、あっても軽微であった(グレード0〜1)。
多核巨細胞による反応は認められなかった。
【0127】
忍容性グレードの全般的な評価−優良
代表的な病理組織反応を図6〜7の写真に示し、以下にさらに説明する。
【0128】
標本12:(結果は図6に示す)
この写真は被膜形成を示す20倍の拡大画像である。
Ca−間隙
単核細胞の軽微の浸潤(グレード1)と共に、経時的に高度に成熟した被膜(矢印)が認められる。
【0129】
標本9:(結果は図7に示す)
この写真は被膜形成を示す20倍の拡大画像である。
Ca−間隙
単核細胞の浸潤は認められず(グレード0)、経時的に高度に成熟した被膜(矢印)が認められる。
【0130】
充填材MY045:
6ヶ月後の評価(標本5、8、13、17)
皮下移植に対する反応として、間隙の周囲に高度に成熟した線維性被膜が形成されていた。単核リンパ球の浸潤は全く見られないか、あっても軽微であった(グレード0〜1)。
多核巨細胞による反応は認められなかった。
【0131】
忍容性グレードの全般的な評価−優良
代表的な病理組織反応を図8〜9の写真に示し、以下にさらに説明する。
【0132】
標本17:(結果は図8に示す)
この写真は被膜形成を示す20倍の拡大画像である。
Ca−間隙
単核細胞の軽微の浸潤(グレード1)と共に、経時的に高度に成熟した被膜(矢印)が認められる。
【0133】
標本8:(結果は図9に示す)
この写真は被膜形成を示す20倍の拡大画像である。
Ca−間隙
単核細胞の軽微の浸潤(グレード1)と共に、経時的に高度に成熟した被膜(矢印)が認められる。
【0134】
明確性を期して別個の実施形態にそれぞれ記載された本発明の特徴を、一つの実施形態において組み合わせて提供してもよいことは十分に理解されるであろう。逆に、簡潔性を期して一つの実施形態に記載された本発明の複数の特徴を、別々にまたは任意で一部を適切に組み合わせて提供してもよい。
【0135】
本発明を複数の具体的な実施形態と共に説明したが、多くの代替物、修正物および変更物は当業者には当然明らかであろう。従って、本発明は、添付の請求項が示す精神および広い範囲に入るすべての代替物、修正物および変更物を包含するものとする。本明細書に記載されたすべての刊行物、特許および特許出願は、それぞれの刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み込まれるよう具体的かつ個別に指示されているのと同じ程度に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。また、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定も、該参考文献が本発明の先行技術として入手可能であることを認めたものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの架橋ポリマーおよび少なくとも1つの分岐ポリマーを含み、該架橋ポリマーおよび該分岐ポリマーのいずれもがひまし油、リシノール酸および/またはヒドロキシステアリン酸から選択される1以上をベースとして含むことを特徴とする生物学的に許容されるゲル。
【請求項2】
前記分岐ポリマーがポリエステルを含有する請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
前記架橋材料が架橋剤を含み、該架橋剤がカルボキシル基またはアルコール基を3つ以上有する酸を含む、請求項1または2に記載のゲル。
【請求項4】
前記酸が、架橋形成の誘導に適した量の、クエン酸、ムチン酸、酒石酸およびこれらの組み合わせから選択される1以上の酸を含む、請求項3に記載のゲル。
【請求項5】
前記架橋ポリマーがベースとしてのひまし油、および架橋剤を含み、該架橋剤がカルボキシル基またはアルコール基を2つ以上有する酸を含む、請求項1または2に記載のゲル。
【請求項6】
前記酸が、架橋形成の誘導に適した量の、クエン酸、ムチン酸、酒石酸、セバシン酸、コハク酸およびこれらの組み合わせから選択される1以上の酸を含む、請求項5に記載のゲル。
【請求項7】
前記架橋剤が、前記ベースに対して少なくとも7%w/wのクエン酸を含む、請求項3〜5のいずれかに記載のゲル。
【請求項8】
前記クエン酸の含有量が約7〜20%である請求項7に記載のゲル。
【請求項9】
前記クエン酸の含有量が約7.5〜10%w/wである請求項8に記載のゲル。
【請求項10】
前記ベースがひまし油を含む、請求項7〜9のいずれかに記載のゲル。
【請求項11】
前記架橋剤が、前記ひまし油に対して少なくとも16%w/wのセバシン酸を含む、請求項5または6に記載のゲル。
【請求項12】
前記セバシン酸の含有量が約16〜22%である請求項11に記載のゲル。
【請求項13】
前記セバシン酸の含有量が約19〜20%である請求項12に記載のゲル。
【請求項14】
前記分岐ポリマーが分岐剤を含む、請求項1〜13のいずれかに記載のゲル。
【請求項15】
前記分岐剤が分岐形成の誘導に適した量のクエン酸を含む請求項14に記載のゲル。
【請求項16】
前記クエン酸の含有量が、前記ベース材料に対して少なくとも0.1%w/wである、請求項15に記載のゲル。
【請求項17】
前記クエン酸の含有量が約0.1〜7%である請求項16に記載のゲル。
【請求項18】
前記クエン酸の含有量が約4〜7%である請求項16に記載のゲル。
【請求項19】
前記ベース材料がひまし油を含む、請求項14〜18のいずれかに記載のゲル。
【請求項20】
前記分岐ひまし油が、リシノール酸、乳酸、グリコール酸およびヒドロキシカプロン酸から選択される1以上を含むヒドロキシ酸で構成される鎖状のポリエステルを含む、請求項19に記載のゲル。
【請求項21】
前記ポリエステルが、分岐形成後の前記分岐ひまし油に付加される請求項20に記載のゲル。
【請求項22】
前記ポリエステルが、ラクトンとの反応により付加される請求項21に記載のゲル。
【請求項23】
前記ラクトンがカプロラクトンおよび/またはラクチドを含む請求項22に記載のゲル。
【請求項24】
前記ポリエステルが、前記ヒドロキシ酸との直接縮合により付加される請求項21に記載のゲル。
【請求項25】
前記架橋ポリマーと前記分岐ポリマーとの混合により形成される、先行する請求項のいずれかに記載のゲル。
【請求項26】
前記架橋ポリマーの含有量が、前記ゲルの重量に対して10〜50重量%である、先行する請求項のいずれかに記載のゲル。
【請求項27】
生分解速度が制御されている、先行する請求項のいずれかに記載のゲル。
【請求項28】
体内への留置を目的とした、先行する請求項のいずれかに記載のゲルの使用。
【請求項29】
任意の間隙の容積を満たすことおよび/または任意の軟組織を増大させることからなる群より選択される、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
ほうれい線を伸ばす(埋める)こと、頬骨を高くすること、口唇を厚くすること、オトガイ唇溝を伸ばす(埋める)こと、あごを補強すること、鼻梁を高くすること、瘢痕を隠すこと、陥凹部を埋めること、凹凸を平らにすること、顔面片側萎縮、第2鰓弓症候群および顔面リポジストロフィーによる非対称を補正すること、ならびに加齢によるしわを隠すことからなる群より選択される、請求項29に記載の使用。
【請求項31】
女性の尿失禁を治療するための尿道膨張性薬剤、関節内注射、括約筋機能の回復または改善、膀胱尿管逆流症の治療、腹圧性尿失禁の治療、尿道周囲への注射、尿管への注射、逆流防止のための組織膨張を目的とした消化管組織への注射;内括約筋または外括約筋の収縮の補助、および弛緩した管腔の収縮の補助;硝子体液の補充または網膜剥離における眼内圧の保持を目的とした眼内への注射;逆流または感染拡大を防止するための排出口の一時的な閉塞を目的とした、解剖学上の管とされる部位への注射;変形性関節症を制御するための関節注射;ならびに手術後または萎縮した後の喉頭再建からなる群より選択される、請求項29に記載の使用。
【請求項32】
体内に移植した際に自然な脂肪の感触を与えるための、先行する請求項のいずれかに記載のゲルの使用。
【請求項33】
針を用いた投与および/または医療用具の付属物としての投与のための、先行する請求項のいずれかに記載のゲルの使用。
【請求項34】
粘度、機械強度、弾性および生分解速度から選択される1以上を含むゲルの物理的性質の1以上の最適化に適した先行する請求項のいずれかに記載のゲルの、組織工学および/または薬物送達を利用した治療のための使用。
【請求項35】
化学、食品、化粧品または医薬品の各産業における安定化剤または増粘剤としての、先行する請求項のいずれかに記載のゲルの使用。
【請求項36】
前記分岐ポリマーおよび前記架橋ポリマーを別々に調製すること;該分岐ポリマーと該架橋ポリマーとを混和してポリマー混合物とすること;および溶媒を添加しない溶融縮合法により該混合物を調製することを含む、先行する請求項のいずれかに記載のゲルの調製方法。
【請求項37】
前記分岐ポリマーおよび前記架橋ポリマーの各調製が、前記分岐剤または前記架橋剤として酸を使用し、これを前記ベースと混合して液状物とすること;および該液状物に弾性が生じるまで真空下で反応させることを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記酸が固体の酸を含み、前記酸と前記ベースの混合が該固体の酸の融点以上の温度で行われる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記架橋ポリマーの調製が粉末状の該架橋ポリマーを形成させることをさらに含み、前記分岐ポリマーの調製が液状または糊状の該分岐ポリマーを形成させることをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記混合物を、押出成形、射出成形、圧縮成形、微粒子浸出および溶液流延から選択される1以上を含む工程に供することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
少なくとも1つの生物学的に許容される架橋ポリマーおよび少なくとも1つの生物学的に許容される分岐ポリマーを含む生物学的に許容されるゲルの、組織へ移植または挿入するための使用。
【請求項42】
少なくとも1つの架橋ポリマーおよび少なくとも1つの分岐ポリマーを含み、該架橋ポリマーおよび該分岐ポリマーのいずれもがひまし油、リシノール酸および/またはヒドロキシステアリン酸から選択される1以上をベースとして含むことを特徴とするゲルの、環境分解制御または生分解制御を達成するための使用。
【請求項43】
使い捨て製品を製造するための、請求項42に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−518095(P2013−518095A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550550(P2012−550550)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050384
【国際公開番号】WO2011/092653
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512196781)ジュブニス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】